ちょっと危ない貝と潮干狩り
広大野人
コメント 3
シナリオID:2119
オープニング
●
シャルガネ居住区の端に、コゴウジ姓を中心とする小さな集落がある。
過去に色々とあって集落は貧しい日々を過ごしていたのだが、先日、冒険者達の活躍により、過去の呪縛から解放され、集落は少しずつ生活レベルが上がって来ている。
『眠り姫』ことリィミア・コゴウジは、新しい集落の在り方を模索していた。
「――という事で、ゲンナイの発明でなんとかならんでござるか?」
サイドテールの黒髪。そして、一族の特徴である桃色の瞳が真っ直ぐ、絡繰り師ゲンナイへと向いていた。
ゲンナイは大袈裟な手ぶりでそれに応える。
「絡繰りは精密なんだZE。細かい砂で動きが止まっちまう……まぁ、採取以外なら何か出来るかもしれないけど……オレ、詳しくないし」
「参ったな……リィミア一人では……ちょっと手に負えないでござるよ」
問題が発生したのは最近の事。
集落に面している砂浜に大量の貝が漂着したのだ。
普段は海洋を漂うアサリによく似た二枚貝なのだが、海流の流れか何かで流れ着いたのだろう。
「オレは遠くから見ているZE!」
「ゲンナイもヌルヌルドロドロする謎の貝液まみれになってもいいのでござるよ」
「全力で嫌です!」
ただの貝であれば何の問題はなかった。幸いとばかりにバケツ一杯に獲ってきて美味しく頂けるだけなのだから。
まさか、危険を察知すると怪しい貝液を射出するとは……常識外れも良い所だ。
「味は良いのだがな……」
「干物にすると美味だとばっちゃんが言ってたZE」
本来は漁に出た時にごくまれに獲れる程度であり、希少な食材だ。干物にすると味がギュっと締まって驚く程旨い。
「大量に漂着しているのだから採取して干物にすれば売れないだろうか?」
「それは無理って奴だZE。なんせ、今、田植えで集落は忙しいし。人手が足りない」
そもそも、貝液まみれになる人間がリィミア一人では獲れる量も少ないだろう。
少し悩んだ末、リィミアはポンと手を叩いた。
「そうだ! 冒険者達に頼むでござるよ!」
「マジですか……」
「どんな汚れ仕事もするのが、冒険者というもの。例え、謎の貝液まみれになろうとも、依頼は完遂してくれるでござろう!」
そんな訳で冒険者ギルドに潮干狩りの依頼が出されるのであった。
●
火山灰の影響かそれとも周囲の地形の影響か、やや黒い砂浜が広がっていた。
依頼を受けた女性冒険者の一人が空を見上げる。雲一つない晴天であり、春にしては初夏と思える程暖かいのは、潮干狩りにはありがたい。
「アサリに似た貝を獲れるだけ獲れば良いって話だけど……」
砂浜に表出している貝も多い。
依頼主の話によると砂浜にいるほとんどの貝は、目標となる貝なので片っ端から獲っていいらしい。
スッと手を伸ばした矢先だった……貝が危険を察知して謎の貝液を放つ。
「な、なにこれ!」
ヌルっとしてかつ、ドロっとする液体が腕に掛かった。
反射的に反対側の手で払い落とそうとしたが、その手も貝液まみれになる。
「こんなんじゃ!」
海水で洗い流そうとしたが、それが更に良くなかった。
ジワリと溶けるように広がった貝液が足元をヌルヌルとさせたのだ。
バランスを崩しそうになり慌てる女性冒険者に追撃とばかり、新たな貝液が飛んでくる。砂中に潜んでいた別の貝共も次々に現れる。
「い、いやぁぁぁぁぁ!」
貝液まみれになった冒険者は見事に転倒。
新たな隠れ場が出来たと勘違いした貝が殺到する。
「ちょっと! 服の中に、だ、だれか、たすけてー!!」
藻掻く冒険者の悲鳴が砂浜に響いた。
一方、絡繰り師ゲンナイは頭を悩ませていた。
彼は絡繰り一筋……という訳ではないが、人生のそれなりを絡繰りに費やして生きて来た男だ。
干物担当を任されたのだが、最大の問題として……。
「干物の作り方が分からないZE」
リィミアが言うには、絡繰りを使えれば何か凄い事が出来そうというのだが。
どうしたものかと工房内を行ったり来たりする。
「あー。そうだ。冒険者に頼もう」
きっと、潮干狩りをしたくない冒険者もいるだろう。
広義で言えば、獲ったものをどうするかも潮干狩りの範疇とも言える。ならば、干物作りを手伝って貰うのも依頼の内だ。
「そうと決まれば、早速、声を掛けて来るんだZE!」
砂浜から聞こえて来る喧噪を無視してゲンナイは走り出すのであった。
シャルガネ居住区の端に、コゴウジ姓を中心とする小さな集落がある。
過去に色々とあって集落は貧しい日々を過ごしていたのだが、先日、冒険者達の活躍により、過去の呪縛から解放され、集落は少しずつ生活レベルが上がって来ている。
『眠り姫』ことリィミア・コゴウジは、新しい集落の在り方を模索していた。
「――という事で、ゲンナイの発明でなんとかならんでござるか?」
サイドテールの黒髪。そして、一族の特徴である桃色の瞳が真っ直ぐ、絡繰り師ゲンナイへと向いていた。
ゲンナイは大袈裟な手ぶりでそれに応える。
「絡繰りは精密なんだZE。細かい砂で動きが止まっちまう……まぁ、採取以外なら何か出来るかもしれないけど……オレ、詳しくないし」
「参ったな……リィミア一人では……ちょっと手に負えないでござるよ」
問題が発生したのは最近の事。
集落に面している砂浜に大量の貝が漂着したのだ。
普段は海洋を漂うアサリによく似た二枚貝なのだが、海流の流れか何かで流れ着いたのだろう。
「オレは遠くから見ているZE!」
「ゲンナイもヌルヌルドロドロする謎の貝液まみれになってもいいのでござるよ」
「全力で嫌です!」
ただの貝であれば何の問題はなかった。幸いとばかりにバケツ一杯に獲ってきて美味しく頂けるだけなのだから。
まさか、危険を察知すると怪しい貝液を射出するとは……常識外れも良い所だ。
「味は良いのだがな……」
「干物にすると美味だとばっちゃんが言ってたZE」
本来は漁に出た時にごくまれに獲れる程度であり、希少な食材だ。干物にすると味がギュっと締まって驚く程旨い。
「大量に漂着しているのだから採取して干物にすれば売れないだろうか?」
「それは無理って奴だZE。なんせ、今、田植えで集落は忙しいし。人手が足りない」
そもそも、貝液まみれになる人間がリィミア一人では獲れる量も少ないだろう。
少し悩んだ末、リィミアはポンと手を叩いた。
「そうだ! 冒険者達に頼むでござるよ!」
「マジですか……」
「どんな汚れ仕事もするのが、冒険者というもの。例え、謎の貝液まみれになろうとも、依頼は完遂してくれるでござろう!」
そんな訳で冒険者ギルドに潮干狩りの依頼が出されるのであった。
●
火山灰の影響かそれとも周囲の地形の影響か、やや黒い砂浜が広がっていた。
依頼を受けた女性冒険者の一人が空を見上げる。雲一つない晴天であり、春にしては初夏と思える程暖かいのは、潮干狩りにはありがたい。
「アサリに似た貝を獲れるだけ獲れば良いって話だけど……」
砂浜に表出している貝も多い。
依頼主の話によると砂浜にいるほとんどの貝は、目標となる貝なので片っ端から獲っていいらしい。
スッと手を伸ばした矢先だった……貝が危険を察知して謎の貝液を放つ。
「な、なにこれ!」
ヌルっとしてかつ、ドロっとする液体が腕に掛かった。
反射的に反対側の手で払い落とそうとしたが、その手も貝液まみれになる。
「こんなんじゃ!」
海水で洗い流そうとしたが、それが更に良くなかった。
ジワリと溶けるように広がった貝液が足元をヌルヌルとさせたのだ。
バランスを崩しそうになり慌てる女性冒険者に追撃とばかり、新たな貝液が飛んでくる。砂中に潜んでいた別の貝共も次々に現れる。
「い、いやぁぁぁぁぁ!」
貝液まみれになった冒険者は見事に転倒。
新たな隠れ場が出来たと勘違いした貝が殺到する。
「ちょっと! 服の中に、だ、だれか、たすけてー!!」
藻掻く冒険者の悲鳴が砂浜に響いた。
一方、絡繰り師ゲンナイは頭を悩ませていた。
彼は絡繰り一筋……という訳ではないが、人生のそれなりを絡繰りに費やして生きて来た男だ。
干物担当を任されたのだが、最大の問題として……。
「干物の作り方が分からないZE」
リィミアが言うには、絡繰りを使えれば何か凄い事が出来そうというのだが。
どうしたものかと工房内を行ったり来たりする。
「あー。そうだ。冒険者に頼もう」
きっと、潮干狩りをしたくない冒険者もいるだろう。
広義で言えば、獲ったものをどうするかも潮干狩りの範疇とも言える。ならば、干物作りを手伝って貰うのも依頼の内だ。
「そうと決まれば、早速、声を掛けて来るんだZE!」
砂浜から聞こえて来る喧噪を無視してゲンナイは走り出すのであった。
解説
●目的
潮干狩り
●内容
出来るだけ貝を採取する。
あるいは、干物を作る為の処理を手伝う。
●貝
アサリによく似た貝。海洋を漂っているが、何かの拍子で大量に漂着している。
危険を察知すると白灰色の貝液を射液してくる。ヌルヌルドロドロしており簡単には洗い落せない。
移動可能な海中内で隙間があると好んで潜りたがる性質がある。
生で食べる事も焼いて食べる事も出来る。程よい弾力が効いていて美味。
シャルガネ独自の調味料類も提供される。
●NPC
リィミア・コゴウジ
『眠り姫』と呼ばれる女性武士。水着着用で潮干狩りに参戦。
ゲンナイ
絡繰り師の青年。干物作成担当だが、干物作りは未経験。
★注意★
貝を採取しようとする際、『色々なアクシデント』が発生しても、それを許容できる冒険者に方に限っての参加を推奨致します。
そういうのはちょっと……という場合は、干物作りの方をお手伝い下さい。
アドリブ対応多めになる可能性もありますのでご了承下さい。
●地形
砂浜と干潟が広がっている。結構な広さがあり、沖の方に近づく程、大量に貝が生息している。
干物会場は砂浜の隣。臨時、海の家も開いており、獲って来た貝や他の魚介類の料理も楽しめる。
ゲンナイの工房も干物会場内にあるものとします。
●貝採取判定
プレイングやスキルなどを考慮した上で一般判定を行います。
判定回数は、コストが影響します。コストが高ければ高い程、判定回数が少なくなります。
依頼に参加した冒険者の数に応じて、必要な成功回数を設定しております。
また、判定は行いますが、別の出来事を描写する可能性もあります。
●同行者がいる場合
プレイングで『互いに相手を明記』するか『【タグ】で統一』するようにお願い致します。
抜けていた場合、迷子になる可能性があります。
マスターより
おはようございます。当依頼にて42作目となった広大野人です。
そろそろ潮干狩りの時期でしょうか? という事で、怪しい貝を獲るイベシナとなっております。
『色々なアクシデント』を許容できる冒険者に方に限っての参加を推奨……という形ですが、干物作りに参加されても大丈夫です。
(判定は判定で行い、描写は干物作りになるなど)
ちょっと夏には早いですが、一足先に水着になりたい! とか、今年の水着どうしようかな……とか悩まれている人も、私の独特のセンスでよろしければ独断と偏見で水着を着させます!(その際は水着内容に不満があってもご了承下さい)。
ゲンナイは干物作りを知らんので優しくレクチャーしてくれる方も歓迎です!
リプレイ
●ふしぎ亭のシオヒガリ
初夏にしては強い日差しの中、太陽の光を反射する白波を蹴って進むヒロ・テスタロッサ。
赤いアクセントが特徴的な黒ビキニ姿の彼女は【ふしぎ亭】の仲間達に振り返った。
「シオヒガリなんて初めて! そして、一足早い水着―♪」
まだ見ぬ初体験に嬉しさが隠せない様子で声を張り上げる。
微笑を浮かべながら、同じように楽しみな気分でルーシカは手に持った籠を掲げた。
「食材が豊富に採れるみたいだね」
かなりの美味と聞くから料理にするのが今から待ち遠しい。
深碧色のオフショルダーの水着姿なので、万が一、濡れてしまっても大丈夫だ。
一方、際どいスリングタイプの水着で惜しげもなく躰を魅せつけたテュリン・ヴィングは沖の方を見ながら先の二人に追いつく。
「貝というからには海に近い方に居そうだろうが……この辺でいいだろうか」
泳ぎ続けるよりかは足がついていた方が体力の消費も少ないだろう。
何より、仲間達全員がはぐれにくいという利点もある。
やや遅れてアリエッタが並ぶ。緑基調のセパレートの水着姿は可愛らしさを演出していた。
「ララベルどう?」
すっと両手を挙げ、頭のあたりで組み、ポーズを取ってみせた。
それを見て、ヒロが真似るように別のポーズを取ると、ルーシカとテュリンも姿勢をわざとらしく崩す。
そんな彼女らの姿に、考え事をしていたララベル・サン・ディーベルが慌てた。
「皆……ま、眩しくて綺麗だね……」
やや早いけど夏を楽しむにも良いのだが、皆の水着姿を直視するのが少し恥ずかしくて、つい、視線が泳ぐ。
そんなララベルの仕草にアリエッタも今更ながら恥ずかしくなってくる。
「ちょっと、大胆過ぎ……って、きゃぁ!?」
モジモジっと無意識なうちに身体を動かした瞬間だった。
足元の砂が一斉に逃げるように散った。どうやら、例の貝が溜まっていたようだ。
バランスを崩して転倒すると派手に水飛沫をあげる。
やれやれといった様相でテュリンが手を伸ばした。
「……って、この貝が吐き出す貝液。やたらとヌルヌルドロドロしてるじゃない!?」
アリエッタの手を確かに掴んだはずなのにすっぽ抜けた。
それだけならまだしも、周囲に隠れ潜んでいた貝共が一斉に貝液を放って来たのだ。
ルーシカがテュリンの手に残った貝液を見て呟く。
「これは本当に凄い粘り気だね……浴び続けたら苦労しそうだよ」
どうやら海水と反応して更に粘性が増すようだ。
真水で洗い流すのが良いだろうが、貝液を浴びる度に陸に上がるのも面倒である。
その間にも、アリエッタは起き上がれなくて藻掻いており、その惨状にヒロが手を叩く。
「シオヒガリって、こんな感じなんだー?」
「かなり違うような……というか、こんな貝だなんて……わわわわ……今、拭いてあげるから……」
首に掛けていた手拭を手にララベルが慌てた様子で彼女らに駆け寄る。
貝液に汚された美しい女性達に『夜翔の流星』ララベル・サン・ディーベルが不用意に近づけば、何が起こるか――それは古来より決まっている。
ハプニングだ。
「きゃー。こわーい。助けてー♪」
ビュビュっと勢いよく飛んできた貝液を華麗に避けつつモロ棒読みのヒロ。
が、避けた後、流れ弾となった液体がララベルの顔に直撃した。
急に視界を奪われ、慌てた彼が手を伸ばした先はルーシカの身体だった。
「ン……貧相な身体で申し訳ないな」
「い、いや、そうじゃなくて!」
声から誰に掴んだのか分かったララベルが顔を真っ赤にして手を放すがバランスを保てず、くるりと回る。喜劇役者もここまではできないという見事な動き。
だが、踏み込もうとした足は、既に転がっていたアリエッタの柔らかくすべすべとした体に躓いた。
「あわわわ!」
ララベルは立っていられず海にダイブする……テュリンを押し倒す形で。
咄嗟についた手が貝ではなく柔らかい山のような何かを掴んでいる気がする。いや、掴んでいる。
まるで、幾らでも掴んでいられる飽きない感触……。
「……って、ご、ごめ……」
謝ろうとしたララベルの口に中に次々に放り込まれる貝液。
それはテュリンも同様だったようだ。
「身体中もだけど、顔や髪の毛がべとべとだし、口の中にまで入っちゃったわよ……おまけにベルからのお約束まで追加ね」
口元から貝液が漏れ出しつつ、テュリンはララベルの頭を撫でる。
まぁ、彼の全身もべとべとぬるぬるしている訳だが。
「ふぇ……大変な事に……」
自力で何とか立ち上がったアリエッタ。
ふと視線を横に向けると、ルーシカが持って来た籠に幾つもの貝が入っているのが見える。
「もう、こんなに?」
「あぁ。落とした途端、自分から入って来たからね」
ルーシカはそう言って、ニヤリと口元を緩めた。
色々な食べ方を試す事が出来るだろうか。
「まずは刺身かな。あとは焼いたり煮たり、他の魚介と共に鍋で米と一緒に炊くのもいいかもしれない」
貝は多めに食感と旨味が活きるような調理が良いはずだ。
旨そうな話にヒロが相槌を打った。
「そうと決まれば、もっと沢山取らないと」
「結構、大変そうだけど……」
やや引き気味のアリエッタは、ララベルとテュリンが立ち上がろうとするのを手伝うように手を差し出していた。
いつまた飛んでくるかもしれない貝液に警戒して思わず腰も引ける。
対して自信満々のヒロが大きく胸を張った。
「こんなの、多少慣れれば避けるのも簡単だよね♪」
「ヒロ……その台詞は……」
フラグ――と続くはずだったララベルの言葉は途中で遮られた。
またしても周囲から大量の貝液が放たれたのだ。今度は避けるのも難しいほどの全周囲攻撃。
「ひゃぁぁぁ!」
誰かの悲鳴と共にヒロとアリエッタがルーシカに倒れ込み、受け止める事が出来ず、そのまま、ようやく起き上がろうとしていたララベルとテュリンを巻き込んで全員仲良く海に転がるのであった。
おまけに貝液のせいで手が滑って混乱がさらに大きくなる。
水着が外れかかったり、ララベルが柔らかい何かに頭から突っ込んだりと大惨事を引き起こす。
「シオヒガリって凄いんだね」
「ぬるぬるがしつこいよね」
「これはこれで大漁だな」
「水着の中に……」
彼女らに埋まっていたララベルが何とか顔を出す事が出来た。
とりあえず、最優先は何だろうか、抜け出すのが先か貝を排除する方が先か。
「うぅ……先に貝を……取るよ」
ララベルは真っ赤に染まった顔で恥ずかしそうに告げると、ゆっくりと手を伸ばす。
何かの拍子で水着が外れてしまったら、もっと酷い事になると思うとより緊張する。
「ベルの水着の中にも入り込んでいるな」
「本当だよ、いっぱい!」
「こんなに水着を大きくして……」
その言葉にようやくララベルは自身の水着の状態に気が付いた。
どおりで、水着の中がもあもあとした違和感に包まれていた訳だ。
「こ、これは、大丈夫! 僕が自分で取るから!」
「嗚呼、ちょっとベル。貝を取るから動かないでよ」
静止の声掛けよりも早く、テュリンがララベルの身体を押さえつける。
その様子に他の女性陣達もまるで稲妻に打たれたかのようにハッとした。
いつも身体を張って、皆を率先するララベルに恩を返せる時が、今、訪れたのだと。
「シオヒガリー!」
「水着の中も大漁だ!」
「が、頑張って、取ります!」
「この貝、やたらと奇妙な動きするのね」
彼女らの手が一斉にララベルの水着の中へと入ってまさぐる。
逃げ出す貝と大量に散らかる貝液。身動きすらも叶わず、ララベルは両手で顔を覆った。
こうなったら、全ての貝が取り出されるまで我慢するしかないだろう……と思った矢先だった。彼女らのうちの誰かが何かを掴んだ。
「貝じゃない硬さ……」
「なあぁぁぁ!!!」
どこから声が出たのかと思うほど、ララベルの可愛らしい悲鳴が響き渡るのであった。
●単なる潮干狩りでは終わらない
「こりゃ、単なる潮干狩りで終わりそうにねえな……」
砂浜のあちらこちらから聞こえてくる騒ぎにアリッグ・レイダーは気を引き締める。
たかが貝ではあるが依頼である以上、手を抜く事はしない。
「砂の中や波間に隠れても」
足元の不自然な膨らみに手を突っ込むと見事、貝を掴む。
幸先は良い。この調子ならどんどん獲れるだろうか。
そんな訳で同行しているシルク・メイプルリーフに視線を向けた。
布地面積が心配になるほど小さい白色のビキニタイプの水着が、白灰色の貝液で覆われている。
「ほら、アリッグさん大漁ですよ! 早く早く」
あっけなく海の中に転倒したシルクであったが、水着や胸に存在する巨大な谷間に貝自らが潜り込んでくる生態に着目。
両腕で豊満な胸を押さえて貝の逃がさないようにするが、手が塞がっている以上、一人では獲れない。
……という訳でアリッグの所へとやって来た訳だ。
つまり、シルクが体を張って貝を集め、それをアリッグが獲りまくれば大漁間違いなしだ。
「って、いや、谷間に手を入れるのは、まずいだろ!!」
主に社会的なという意味で……。
だが、そんな事情を貝が考慮する訳がない。現に今、目の前に貝はあるのだ。
ゆっくりと手を伸ばし谷間の上の方にいる貝へと手を伸ばすアリッグ。
「もっと、奥まで、入れてください。もう……少し、なんです」
貝液でぬるぬるしているからか両腕の抑えが難しい中、シルクが悶えるように告げる。
「これは……絵面は酷いけど、抜き易いかもな」
谷間の中が貝液で満たされたせいで押し出されるように、貝が浮いてくる事にアリッグは気が付いたのだ。
柔らかい隙間に入り込んでいる故に、貝自身が隠れられなくなっているようだ。
「もう、出なくなるまで胸の中で絞ってしまいましょうか?」
「他人が聞いたら誤解しそうだな……」
真っ昼間から、しかも、公衆の面前での仕草と台詞にそのような危機感を覚えるアリッグ。
その時、必殺谷間絞りを繰り出そうとしたシルクが躰を伝って落ちた貝液に足を取られ、アリッグに向かって盛大に飛んだ。
巨大な谷間がまるで宙を飛ぶ――などと思いもする前にシルクに押し倒されるような形で砂浜に転がる。
「くそ、何でこうなるんだよ……あれ?」
「大丈夫ですか?」
倒れる瞬間、シルクが身を挺して抱きかかえたようだった。
急いで脱しようとしたが、貝液まみれの為、手が滑って力が入らない。
というか、幾つかの貝がアリッグの水着の中へと侵入したようだ。
「この硬いのは……アリッグさんの水着に貝が!?」
目を輝かせるシルクが貝液だらけの手をワキワキと動かす。
「抵抗しないでくださいね。獲ってあげますから!」
「他人が見たら誤解しそうだから――」
待てという言葉が続くよりも早く、ズボっと手を突っ込むシルク。貝を逃すよりも先手必勝だ。
水着の中をまさぐるシルクの手が獲物をガシっと掴んだ。
「ほら、こんなに出ましたよ」
得意気な顔をする同行者の無邪気な表情にアリッグは思わず顔を背け周囲を確認した。
大丈夫……砂浜はどこも皆、同じような惨状だから……とりあえず、社会的な死は回避したようだ。
●ここは干物教室!
絡繰り師ゲンナイの所には冒険者達が集めた不届きものな貝がどんどん積まれていた。
活きが良いのか、最後の悪足搔きか、貝液を飛ばしてくる個体もいるが、ほぼ全てが弱っている。
「水着、暑いので着てきましたが……ぬるぬるになるのは嫌なのです……」
ミア=リゼルが露出している肌を隠すようにタオルで覆いながら呟いた。
建物脇から妙な視線を感じ、そちらに向くと怖いものを見るような雰囲気のゲンナイと目が合う。
「あ、ゲンナイさん。今日はどんなカラクリを……」
「絡繰りじゃねぇ、そいつ等の干物作りだ」
「え? 干物? では、私も干物づくりをお手伝いします」
と言っても、天日干しするくらいしか知らないのだが。
なので、保存食を作る応用でと思い、適当なバケツに、これまた適当な数の貝を、音を立てて入れる。
それを見たゲンナイが変な悲鳴を発した。
「生きてる所見たら、なんか作業する気もよ……で、どうするんだ?」
「えっと……塩で揉んで……よく洗った後に、茹でた後、干すかと?」
「残酷だZE☆」
両肩を竦めたところで、干物作りを手伝いに来たストレガ・L・リベルガストラが諭すように告げる。
「食は万世共通の幸福なれば。生きる事は食らう事なのだ」
「おぉう。なんか、もっともな事だがよ……造り方が、な……」
ポリポリと後頭部を掻くゲンナイに向かってストレガは指先を向けた。
「多少面倒だが、工程は口で言うのは簡単。教えるからやってみるといいのだ」
長い丈のコートを揺らしてからストレガは適当な角材を手に取ると、説明しながら地面に絵を描きだした。
それは『ストレガ』の片鱗。食べる事の幸福を追求し、かつ、それに至る為の研鑽とこれから喰らう事になる命を無駄にしない技術だ。
「砂抜きの必要はなさそうなのだ。洗って貝液を溶かし、隙間に刃を入れて開き、貝柱を切って剥くのだ」
「なるほどな。細かい作業は得意だZE」
「だったら、私はひらすら洗いますね」
二人の意気込みに、ストレガは頷くと、更に説明を続ける。
まるで地面を黒板代わりに工程を記して。
「身を塩水で濯いだら水管を串で数個貫き、後は風通し良い場所に干して、虫や鳥よけの網を掛けるのだ」
「なるほど! すげぇな、あんた! 惚れちまうZE」
尊敬の念を向けるゲンナイ。
優れた絡繰り師である彼から見て、彼女の理に適った説明はそれほど衝撃的だったのだろう。
ストレガは自信満々、誇らしげに胸を張る。
「詰め込んだ叡智をただ垂れ流すことでは真なる理解と言えぬ。万人に解るように伝える事は賢者の務めであるのだ」
「よっしゃ! それじゃ、工程も分かったわけだし、やってやるZE!」
俄然、やる気を見せたゲンナイが早速、ナイフを手にしてクルクルと回した。
絡繰り師だけあって手先の器用さには自信があるようだ。
大量の串を用意する為に倉庫に向かったストレガを見届けつつ、ミアがゲンナイの袖を引っ張った。
「捌くのは譲らねぇぞ。そっちは水着だし、洗うのは大丈夫だろ」
「いえ……そうではなくて。その……ゲンナイさん、さっき、惚れてしまうって言ったじゃないですか! そ、それってどんな気持ちなんですか!?」
思いもしない少女の質問にクルクルと回していたナイフが危うく指突き刺さりそうになる。
「深い意味はねぇぞ。単に、すげぇーって意味だZE」
「……そう、なんですか……あ。大丈夫です。貝洗ってきます」
惚れると胸の高鳴りがどう違うか確かめたかったがゲンナイでは役に立たなかったようだ。
「え? 何? なんで気持ち沈んでるワケー!?」
「そうだ、ゲンナイさん。乾燥時間を短くできるように風を送る絡繰りとかって出来ますか?」
「お、おう! 誰にモノの言ってるんだよ。そんなもの、ちょちょいのちょいよ!」
少女の質問と期待に次こそ応えるゲンナイであった。
●ちょっと危ない貝を喰らう者達
ふわふわっとしたフリルが多めな青花柄ワンピースタイプの水着姿のトーラが浜辺で涎を垂らしていた。
「この時期、アサリやハマグリなどの二枚貝は美味しいですよね」
初夏らしい旬の食べ物と言うべき食材の香りと出汁を思い浮かべる。
しかも、依頼に出されている貝は、かなりの美味という情報。これは期待が膨らむしかない。
そんなトーラ同様に、食するのを目当てにしていたエミリア・シバが申し合わせた訳でもないのに並ぶ。
「お酒のおつまみにもよさそうだし。火酒もあるから、海の家とかで酒蒸しとかも頼めたりしないかしら?」
「さ・け・む・し!」
具体的な料理名を聞き、フリルを可愛げに揺らしながらトーラが目を輝かせる。
酒と共に蒸しただけの簡単な調理法だが旨味が凝縮された身と出汁は、表現すべき言葉が見つからないほどに美味い。
「やる気が出ているのはトーラちゃんだけではなさそうね」
日差しを防ぐように手を翳したエミリアの視線は、黒の布地の晒しと褌で気合十分な姿を魅せるベルク・オスマットに向けられていた。
真剣な赤い瞳が獲物を一匹たりとも逃さぬと語っているようにも見える。
「貝を掘ればいいのであろう? 楽勝だな!」
ちょっと怪しい貝と言っても所詮は貝。授恵者である冒険者の敵ではない。
依頼が大成功した暁には、報酬も増えるかもしれない。獲ったものを喰ってもいいとの事だから、獲れれば獲れるだけ、利益があるというもの。
「余裕そうね、ベルクちゃんは」
「双波で探れば探すのは楽勝! 収穫量一位は我で決まりだな♪」
この勝負、既に勝ったといわんばかりに胸を張るベルク。
そこへ『虎』文字が刺繍された立派な褌パンツ型の水着を履いたロイ・アウレアと艶やかなボクサー水着姿のダムド・フィリスが合流する。
「巻貝には粘るのがあってそれが旨さに繋がると聞いたが、二枚貝でもそうなのかな?」
「食い扶持を稼ぐ事ができれば、自分はなんでもいいけどな」
二人ともあまり危機感はないようだ。
ロイは自作した貝取籠棒を担ぎ、一列に並んだ仲間達から一歩進んだ。
「これだけの人数がいれば、そこそこの収穫は見込めるだろうか」
「そうね、他にも冒険者もいる事だし……ちょっと厄介そうだけど」
周囲からの悲鳴にエミリアは無意識に服の隙間を押さえた。
くすぐったいのには……あまり自信がないし、触れられるような踊り子ではないつもりだ。それが人であっても貝であっても。
「まぁ、俺に任して下さい」
そんなフラグにも似た台詞を言い残し、ロイが波打ち際へと進むと……意識を集中させた。
次の瞬間、貝取籠棒でサッと掬う――見事な腕前。確かに棒の先端に取り付けられた籠の中に目当ての貝が入っている。
「なるほど。思ったよりも結構簡単に取れるようだ」
「だとしたら、遅れを取る訳にはいかないか」
ベルクが籠を手に海へと入る。
ふわっと逃げるような海中の貝の動きに対し、神経を研ぎ澄ませてスラっとした初夏によく似合う脚を蹴り上げた。
その勢いで飛び出た貝をすかさず、籠でキャッチ。
こちらも見事なベルクの動きにトーラも意気込む。
「わ、わたしも頑張ります!」
バケツを構えたまま砂浜を進み、目標の存在を確認する。
静かに近づくと、貝液が出されるよりも早くバケツを覆いかぶせるように振り落とした。
渾身の一撃の方が僅かに早く、射出された貝液がバケツを鳴らした。
エミリアも麻袋を手にスキルを活かして貝の場所を探る。特に透視は砂の中に隠れた奴らを見つけ出すのに最適だった。
「素早く動けば、貝液の射程から外れるはずね」
シーフ特有の素早さを生かした狩りは、ハプニングを寄せ付けない。
仲間達が授恵者としての力を使いながらの採取の中、ダムドだけは麻袋を適当な所に沈めていた。
「……というか、隙間に入ってくるって話だったら、これだけでも獲れるんじゃ?」
どれだけ効果があるか分からない事であるが、貝液まみれにならずに済む方法でもある。
もっとも、それをすると、ただ麻袋や罠を仕掛けるだけの依頼になってしまう訳で……。
順調に思えた潮干狩りだったが、いつまでも貝液を避けるというのも難しくなってきた。
「さっきから変な液飛ばしてきて!」
足元が海水に浸かっている事もあり、ベルクが飛沫を散らしつつ、ステップを踏んで貝液をやり過ごす。
けれど、ほぼ全周囲から一斉に飛ばされると、限界がある。
「一発なら兎も角……って数が多いぃぃぃ!?」
ベルクにしては珍しい悲鳴にも似た声が響く。
次の瞬間、貝液を頭の先から足元まで浴びてしまった。ぬるぬるどろどろっとした液体がベルクの頬をゆっくりと垂れ落ちる。
特徴的な狐っぽい耳が液体の重みでしょんぼりとする姿は、きっと一部の酔狂には大変喜ばれるだろう。
全身貝液だらけという意味では、トーラも既に同様だった。
「うぅぅ……気持ち悪いです……」
大き目な波のせいでバランスを崩した際、貝の入ったバケツを庇ったせいで尻もちをついてしまった。
いつもは人前に滅多に出さない健康的な太ももが海水で濡れて太陽の光を反射している。慌てて裾を伸ばそうとしたが、貝液のせいで上手くできなくて手間取ってしまう。
そんな状態のトーラを見逃す貝共ではない。そのままフトモモを出したままでいいんだぞと言う貝共のお気持ちか、あるいは、好機到来と思ったかどうか定かではないが、周囲の貝が一斉に貝液を噴き出したのだ。
太ももに付着した貝液を手で払おうにもヌルベトとしていて外れない。その仕草が余計にそそるわけだが……。
「こ、こうなったら、仕方ないです!」
「トーラさん、大丈夫ですか?」
身震いして貝液を弾き飛ばす所でロイが声を掛けたのは不幸の偶然としか言いようがない。
一部の貝液がロイの目元に飛び、バランスを崩す――が、ここは帯妻者になる予定の男。トーラや近くで悶絶しているベルクに覆いかぶさるようなハプニングは起こさず、見事としかいえない弧を描き、二人を飛び越えて海へとダイブした。
凄まじい飛沫にエミリアが微笑を浮かべながら砂浜に上がっていた。
「ロイさんが、ベルクちゃんやトーラちゃんに絡んだら、間違いなく社会的な死よね」
「幼女を襲っている絵にしか見えなそうだ……で、エミリアは無傷なのか?」
あちらこちらの惨状を見て、早々にお湯を沸かしていたダムドが訊ねる。
海水で濡れた様子はあるがエミリアは貝液で汚されたようには見えなかったのだ。
「……触れられないようにするのも、踊り子の素質……かしら」
貝液で全身がヌルベトとしたエミリアも、それはそれで色気があるだろうが、貝共に囲まれた際に、気配を強引に消して奴らの襲撃を避けたのだ。
おのれ小癪な……と言わんばかりに貝が水管を向けている気がする。あれは油断しているとタイミングを計って貝液を飛ばしてくる輩だと感じ、そっと蓋替わりに麻袋を掛けた。
「せっかく、火を起こしてるのだから、焼いたり煮たりしたいわね」
「確かにな。おーい、さっさと上がって来い!」
ポンと手を叩いたダムドがベルク達を呼ぶ。
たぶん、それなりの数は獲れたはずだから、ここらで一休憩もいいかもしれない。
「な、なんだったんじゃ……あの貝共は……」
「裾が変に引っ張られたままで、太ももが丸見えです……」
「寒っ……水着には早かったか……」
ちょっと危ない貝共にしてやられ、トボトボとした足取りで砂浜へと向かってくる、三人の姿に、集落から用意された酒瓶の蓋を、エミリアは音を立てて開け、大きく掲げる。
これはもう、やけ酒でもしないと、きっとやってられないだろうから。
●『優男×令嬢』
薔薇色のビキニ水着が真っ青な海に映えている事は、ローザリカ・L・ディオールの想定していた通りだった。
商売として大事な要素の一つ、見栄え……それは売り物だけではなく自身の容姿についても同じと言える。
(落ち着かない……)
そんな弱音を口にする事は絶対にしたくないが、自然と手が腹回りに伸びる。
いつもはコルセットで押さえつけているその部位が、今や無防備だ……見栄えが心配になるのは当然の事。
という事で、ジュスト・ヴェルジーからの、ありがたい忠告が右から左へと抜けていた。
「儲け話としても美味しそうな貝が目の前にあるのだ。見逃す訳にはいかないというものだ」
「忠告はしたからな」
ドヤ顔のローザリカが言い放った台詞に、華やかな洒落た水着姿のジュストは淡々と言い返す。
珍しい貝な上に美味という。商売に上手く乗せられればという考えは分からなくもない。
(俺だけにやらせていればいいのにな)
もっとも、素直に頼んでこない彼女だとも知ってはいるけれど。
気づかれないように視線を向けられているとも知らず、ローザリカは意気揚々と波打ち際へと進んだ。
ピシャっと何かが跳ねて無防備な横腹を直撃。
「……!?」
反射的に手で抑えたのが悪かった。
不快感しかないヌルヌルとした感触。喉を通り過ぎそうになる声を、息を止めて押し殺した。
ローザリカはチラリと彼を盗み見る……大丈夫。気が付いている様子はない。
ホッとしたのも束の間、踏ん張っていた足元が突然、氷の上のようにつるりと滑った。
「~~ッ!」
踏ん張り方は不格好だけど、なんとか転ばずに済む……羞恥心から眼尻に涙が溜まった事も悔しい。
ところが、ローザリカの頑張りはここまでだった。
次の瞬間バランスを崩して尻もちをつくように倒れたからだ。
飛んで火にいる夏の虫。ツンデレ女子がやってきたぞと、貝どもが貝液をまき散らして、水着の中へと潜り込んで来た。
意味不明な貝に、ローザリカは小さく震えて声も出ない。
このままただ貝に蹂躙されるだけ……
「『君は止めた方が良いよ』と言ったんだけどね」
ジュストの声と共に緩やかに掛けられるブランケット。
見上げるといつもと同じような表情だけれども、真剣な眼差しだった。
「少し我慢してくれよ?」
取り出した酒をローザリカの首筋からかける。
アルコールでヌメリが落ちる事を期待してだ。そして、まるで医者が患者を診るように躊躇もなくローザリカの谷間へと手を入れると、不遜な貝共を次から次に袋へと詰めていく。
「……ぁ」
小さくローザリカの声が漏れる。谷間を探る彼の手の感触よりもジュストの瞳に、だ。
それは怒りとも殺気とも人は呼ぶ。貝如きにではない……別の男に彼女が穢されたような姿が許せなかったのだ。
「行くよ」
谷間や水着の間に入り込んだ貝を全て排除し、ジュストはブランケットに包まれた彼女を抱きあげる。
海水に濡れて冷たくなった彼女の肌が密着すると、暖を求められているのか、ギュッとローザリカが抱きついてきた。
彼女から密着されるのは悪い気はしないが……この状況では手放しに喜べないもの。
「……ちゃんと呼んでほしいな」
次は君が泣く前に助けに行くから……と耳元で呟く。
ローザリカは小さく頷くと、返事の代わりに腕に力を入れた。
「……」
助けを呼んでもいなかったのに、それでもすぐに助けに来てくれた事。ただ、その事実が嬉しかったローザリカだった。
●スーパースイマー
幾つもの手製の罠と共にサイラスは砂浜ではなく、海の中へと繰り出していた。
陸の方から冒険者達の悲鳴が聞こえてくる……が、サイラスにとっては特に興味がある話ではなかった。
顔見知りがいれば貝液まみれの姿を茶化すのも、一興かもしれないが、特に知り合いもいないし――。
「それで、一人で沖に出ているのでござるか?」
「……あ?」
声の主が誰かと振り返ると、そこにはリィミア・コゴウジの姿があった。
そういえば『夢想の宝玉』の依頼主でもあったかと思い出す。
「見ての通りだ」
そう言って罠の一つを引き上げた。
隙間に侵入する習性を逆手に取った貝漁は今の所、極めて順調だ。一部の貝共が黒褌の隙間に入り込んだが気にもしていないし。
「なるほど。そうやって獲れば良かったのか。真似させてもらうでござるよ」
「好きにしろ……で、なんでおれについてくるんだ?」
会話している暇はないので、泳ぎ続けるが、何故かリィミアは後をつけてくるのだ。
「いやー。実は……水着が流されちゃったのでござるよ」
「……は?」
通りで胸元を腕で隠しながら立ち泳ぎしている訳だ。
「そんな訳で、ついでに、リィミアの水着も探してでござるよ」
「いやいや、何でおれに頼むんだ? 貝殻でもつけとけ」
「リザードマンならヒューマンの身体に興味は無いかなって思って」
それは人……いや、リザードマンによる話だろうが、彼女の頭の中ではリザードマンは爬虫類な感覚なのかもしれない。
「……知らん。自分で探せ」
スーと離れていくサイラスにリィミアが慌てて追う。
「ま、待つのでござる! ほ、ほら、リィミアは婆の歳だが、身体は、まだ若いままだから!」
「だからと言って引っ付くな!!」
結局、貝漁をしつつ、リィミアの水着を探す手伝いをさせられたサイラスであった。
初夏にしては強い日差しの中、太陽の光を反射する白波を蹴って進むヒロ・テスタロッサ。
赤いアクセントが特徴的な黒ビキニ姿の彼女は【ふしぎ亭】の仲間達に振り返った。
「シオヒガリなんて初めて! そして、一足早い水着―♪」
まだ見ぬ初体験に嬉しさが隠せない様子で声を張り上げる。
微笑を浮かべながら、同じように楽しみな気分でルーシカは手に持った籠を掲げた。
「食材が豊富に採れるみたいだね」
かなりの美味と聞くから料理にするのが今から待ち遠しい。
深碧色のオフショルダーの水着姿なので、万が一、濡れてしまっても大丈夫だ。
一方、際どいスリングタイプの水着で惜しげもなく躰を魅せつけたテュリン・ヴィングは沖の方を見ながら先の二人に追いつく。
「貝というからには海に近い方に居そうだろうが……この辺でいいだろうか」
泳ぎ続けるよりかは足がついていた方が体力の消費も少ないだろう。
何より、仲間達全員がはぐれにくいという利点もある。
やや遅れてアリエッタが並ぶ。緑基調のセパレートの水着姿は可愛らしさを演出していた。
「ララベルどう?」
すっと両手を挙げ、頭のあたりで組み、ポーズを取ってみせた。
それを見て、ヒロが真似るように別のポーズを取ると、ルーシカとテュリンも姿勢をわざとらしく崩す。
そんな彼女らの姿に、考え事をしていたララベル・サン・ディーベルが慌てた。
「皆……ま、眩しくて綺麗だね……」
やや早いけど夏を楽しむにも良いのだが、皆の水着姿を直視するのが少し恥ずかしくて、つい、視線が泳ぐ。
そんなララベルの仕草にアリエッタも今更ながら恥ずかしくなってくる。
「ちょっと、大胆過ぎ……って、きゃぁ!?」
モジモジっと無意識なうちに身体を動かした瞬間だった。
足元の砂が一斉に逃げるように散った。どうやら、例の貝が溜まっていたようだ。
バランスを崩して転倒すると派手に水飛沫をあげる。
やれやれといった様相でテュリンが手を伸ばした。
「……って、この貝が吐き出す貝液。やたらとヌルヌルドロドロしてるじゃない!?」
アリエッタの手を確かに掴んだはずなのにすっぽ抜けた。
それだけならまだしも、周囲に隠れ潜んでいた貝共が一斉に貝液を放って来たのだ。
ルーシカがテュリンの手に残った貝液を見て呟く。
「これは本当に凄い粘り気だね……浴び続けたら苦労しそうだよ」
どうやら海水と反応して更に粘性が増すようだ。
真水で洗い流すのが良いだろうが、貝液を浴びる度に陸に上がるのも面倒である。
その間にも、アリエッタは起き上がれなくて藻掻いており、その惨状にヒロが手を叩く。
「シオヒガリって、こんな感じなんだー?」
「かなり違うような……というか、こんな貝だなんて……わわわわ……今、拭いてあげるから……」
首に掛けていた手拭を手にララベルが慌てた様子で彼女らに駆け寄る。
貝液に汚された美しい女性達に『夜翔の流星』ララベル・サン・ディーベルが不用意に近づけば、何が起こるか――それは古来より決まっている。
ハプニングだ。
「きゃー。こわーい。助けてー♪」
ビュビュっと勢いよく飛んできた貝液を華麗に避けつつモロ棒読みのヒロ。
が、避けた後、流れ弾となった液体がララベルの顔に直撃した。
急に視界を奪われ、慌てた彼が手を伸ばした先はルーシカの身体だった。
「ン……貧相な身体で申し訳ないな」
「い、いや、そうじゃなくて!」
声から誰に掴んだのか分かったララベルが顔を真っ赤にして手を放すがバランスを保てず、くるりと回る。喜劇役者もここまではできないという見事な動き。
だが、踏み込もうとした足は、既に転がっていたアリエッタの柔らかくすべすべとした体に躓いた。
「あわわわ!」
ララベルは立っていられず海にダイブする……テュリンを押し倒す形で。
咄嗟についた手が貝ではなく柔らかい山のような何かを掴んでいる気がする。いや、掴んでいる。
まるで、幾らでも掴んでいられる飽きない感触……。
「……って、ご、ごめ……」
謝ろうとしたララベルの口に中に次々に放り込まれる貝液。
それはテュリンも同様だったようだ。
「身体中もだけど、顔や髪の毛がべとべとだし、口の中にまで入っちゃったわよ……おまけにベルからのお約束まで追加ね」
口元から貝液が漏れ出しつつ、テュリンはララベルの頭を撫でる。
まぁ、彼の全身もべとべとぬるぬるしている訳だが。
「ふぇ……大変な事に……」
自力で何とか立ち上がったアリエッタ。
ふと視線を横に向けると、ルーシカが持って来た籠に幾つもの貝が入っているのが見える。
「もう、こんなに?」
「あぁ。落とした途端、自分から入って来たからね」
ルーシカはそう言って、ニヤリと口元を緩めた。
色々な食べ方を試す事が出来るだろうか。
「まずは刺身かな。あとは焼いたり煮たり、他の魚介と共に鍋で米と一緒に炊くのもいいかもしれない」
貝は多めに食感と旨味が活きるような調理が良いはずだ。
旨そうな話にヒロが相槌を打った。
「そうと決まれば、もっと沢山取らないと」
「結構、大変そうだけど……」
やや引き気味のアリエッタは、ララベルとテュリンが立ち上がろうとするのを手伝うように手を差し出していた。
いつまた飛んでくるかもしれない貝液に警戒して思わず腰も引ける。
対して自信満々のヒロが大きく胸を張った。
「こんなの、多少慣れれば避けるのも簡単だよね♪」
「ヒロ……その台詞は……」
フラグ――と続くはずだったララベルの言葉は途中で遮られた。
またしても周囲から大量の貝液が放たれたのだ。今度は避けるのも難しいほどの全周囲攻撃。
「ひゃぁぁぁ!」
誰かの悲鳴と共にヒロとアリエッタがルーシカに倒れ込み、受け止める事が出来ず、そのまま、ようやく起き上がろうとしていたララベルとテュリンを巻き込んで全員仲良く海に転がるのであった。
おまけに貝液のせいで手が滑って混乱がさらに大きくなる。
水着が外れかかったり、ララベルが柔らかい何かに頭から突っ込んだりと大惨事を引き起こす。
「シオヒガリって凄いんだね」
「ぬるぬるがしつこいよね」
「これはこれで大漁だな」
「水着の中に……」
彼女らに埋まっていたララベルが何とか顔を出す事が出来た。
とりあえず、最優先は何だろうか、抜け出すのが先か貝を排除する方が先か。
「うぅ……先に貝を……取るよ」
ララベルは真っ赤に染まった顔で恥ずかしそうに告げると、ゆっくりと手を伸ばす。
何かの拍子で水着が外れてしまったら、もっと酷い事になると思うとより緊張する。
「ベルの水着の中にも入り込んでいるな」
「本当だよ、いっぱい!」
「こんなに水着を大きくして……」
その言葉にようやくララベルは自身の水着の状態に気が付いた。
どおりで、水着の中がもあもあとした違和感に包まれていた訳だ。
「こ、これは、大丈夫! 僕が自分で取るから!」
「嗚呼、ちょっとベル。貝を取るから動かないでよ」
静止の声掛けよりも早く、テュリンがララベルの身体を押さえつける。
その様子に他の女性陣達もまるで稲妻に打たれたかのようにハッとした。
いつも身体を張って、皆を率先するララベルに恩を返せる時が、今、訪れたのだと。
「シオヒガリー!」
「水着の中も大漁だ!」
「が、頑張って、取ります!」
「この貝、やたらと奇妙な動きするのね」
彼女らの手が一斉にララベルの水着の中へと入ってまさぐる。
逃げ出す貝と大量に散らかる貝液。身動きすらも叶わず、ララベルは両手で顔を覆った。
こうなったら、全ての貝が取り出されるまで我慢するしかないだろう……と思った矢先だった。彼女らのうちの誰かが何かを掴んだ。
「貝じゃない硬さ……」
「なあぁぁぁ!!!」
どこから声が出たのかと思うほど、ララベルの可愛らしい悲鳴が響き渡るのであった。
●単なる潮干狩りでは終わらない
「こりゃ、単なる潮干狩りで終わりそうにねえな……」
砂浜のあちらこちらから聞こえてくる騒ぎにアリッグ・レイダーは気を引き締める。
たかが貝ではあるが依頼である以上、手を抜く事はしない。
「砂の中や波間に隠れても」
足元の不自然な膨らみに手を突っ込むと見事、貝を掴む。
幸先は良い。この調子ならどんどん獲れるだろうか。
そんな訳で同行しているシルク・メイプルリーフに視線を向けた。
布地面積が心配になるほど小さい白色のビキニタイプの水着が、白灰色の貝液で覆われている。
「ほら、アリッグさん大漁ですよ! 早く早く」
あっけなく海の中に転倒したシルクであったが、水着や胸に存在する巨大な谷間に貝自らが潜り込んでくる生態に着目。
両腕で豊満な胸を押さえて貝の逃がさないようにするが、手が塞がっている以上、一人では獲れない。
……という訳でアリッグの所へとやって来た訳だ。
つまり、シルクが体を張って貝を集め、それをアリッグが獲りまくれば大漁間違いなしだ。
「って、いや、谷間に手を入れるのは、まずいだろ!!」
主に社会的なという意味で……。
だが、そんな事情を貝が考慮する訳がない。現に今、目の前に貝はあるのだ。
ゆっくりと手を伸ばし谷間の上の方にいる貝へと手を伸ばすアリッグ。
「もっと、奥まで、入れてください。もう……少し、なんです」
貝液でぬるぬるしているからか両腕の抑えが難しい中、シルクが悶えるように告げる。
「これは……絵面は酷いけど、抜き易いかもな」
谷間の中が貝液で満たされたせいで押し出されるように、貝が浮いてくる事にアリッグは気が付いたのだ。
柔らかい隙間に入り込んでいる故に、貝自身が隠れられなくなっているようだ。
「もう、出なくなるまで胸の中で絞ってしまいましょうか?」
「他人が聞いたら誤解しそうだな……」
真っ昼間から、しかも、公衆の面前での仕草と台詞にそのような危機感を覚えるアリッグ。
その時、必殺谷間絞りを繰り出そうとしたシルクが躰を伝って落ちた貝液に足を取られ、アリッグに向かって盛大に飛んだ。
巨大な谷間がまるで宙を飛ぶ――などと思いもする前にシルクに押し倒されるような形で砂浜に転がる。
「くそ、何でこうなるんだよ……あれ?」
「大丈夫ですか?」
倒れる瞬間、シルクが身を挺して抱きかかえたようだった。
急いで脱しようとしたが、貝液まみれの為、手が滑って力が入らない。
というか、幾つかの貝がアリッグの水着の中へと侵入したようだ。
「この硬いのは……アリッグさんの水着に貝が!?」
目を輝かせるシルクが貝液だらけの手をワキワキと動かす。
「抵抗しないでくださいね。獲ってあげますから!」
「他人が見たら誤解しそうだから――」
待てという言葉が続くよりも早く、ズボっと手を突っ込むシルク。貝を逃すよりも先手必勝だ。
水着の中をまさぐるシルクの手が獲物をガシっと掴んだ。
「ほら、こんなに出ましたよ」
得意気な顔をする同行者の無邪気な表情にアリッグは思わず顔を背け周囲を確認した。
大丈夫……砂浜はどこも皆、同じような惨状だから……とりあえず、社会的な死は回避したようだ。
●ここは干物教室!
絡繰り師ゲンナイの所には冒険者達が集めた不届きものな貝がどんどん積まれていた。
活きが良いのか、最後の悪足搔きか、貝液を飛ばしてくる個体もいるが、ほぼ全てが弱っている。
「水着、暑いので着てきましたが……ぬるぬるになるのは嫌なのです……」
ミア=リゼルが露出している肌を隠すようにタオルで覆いながら呟いた。
建物脇から妙な視線を感じ、そちらに向くと怖いものを見るような雰囲気のゲンナイと目が合う。
「あ、ゲンナイさん。今日はどんなカラクリを……」
「絡繰りじゃねぇ、そいつ等の干物作りだ」
「え? 干物? では、私も干物づくりをお手伝いします」
と言っても、天日干しするくらいしか知らないのだが。
なので、保存食を作る応用でと思い、適当なバケツに、これまた適当な数の貝を、音を立てて入れる。
それを見たゲンナイが変な悲鳴を発した。
「生きてる所見たら、なんか作業する気もよ……で、どうするんだ?」
「えっと……塩で揉んで……よく洗った後に、茹でた後、干すかと?」
「残酷だZE☆」
両肩を竦めたところで、干物作りを手伝いに来たストレガ・L・リベルガストラが諭すように告げる。
「食は万世共通の幸福なれば。生きる事は食らう事なのだ」
「おぉう。なんか、もっともな事だがよ……造り方が、な……」
ポリポリと後頭部を掻くゲンナイに向かってストレガは指先を向けた。
「多少面倒だが、工程は口で言うのは簡単。教えるからやってみるといいのだ」
長い丈のコートを揺らしてからストレガは適当な角材を手に取ると、説明しながら地面に絵を描きだした。
それは『ストレガ』の片鱗。食べる事の幸福を追求し、かつ、それに至る為の研鑽とこれから喰らう事になる命を無駄にしない技術だ。
「砂抜きの必要はなさそうなのだ。洗って貝液を溶かし、隙間に刃を入れて開き、貝柱を切って剥くのだ」
「なるほどな。細かい作業は得意だZE」
「だったら、私はひらすら洗いますね」
二人の意気込みに、ストレガは頷くと、更に説明を続ける。
まるで地面を黒板代わりに工程を記して。
「身を塩水で濯いだら水管を串で数個貫き、後は風通し良い場所に干して、虫や鳥よけの網を掛けるのだ」
「なるほど! すげぇな、あんた! 惚れちまうZE」
尊敬の念を向けるゲンナイ。
優れた絡繰り師である彼から見て、彼女の理に適った説明はそれほど衝撃的だったのだろう。
ストレガは自信満々、誇らしげに胸を張る。
「詰め込んだ叡智をただ垂れ流すことでは真なる理解と言えぬ。万人に解るように伝える事は賢者の務めであるのだ」
「よっしゃ! それじゃ、工程も分かったわけだし、やってやるZE!」
俄然、やる気を見せたゲンナイが早速、ナイフを手にしてクルクルと回した。
絡繰り師だけあって手先の器用さには自信があるようだ。
大量の串を用意する為に倉庫に向かったストレガを見届けつつ、ミアがゲンナイの袖を引っ張った。
「捌くのは譲らねぇぞ。そっちは水着だし、洗うのは大丈夫だろ」
「いえ……そうではなくて。その……ゲンナイさん、さっき、惚れてしまうって言ったじゃないですか! そ、それってどんな気持ちなんですか!?」
思いもしない少女の質問にクルクルと回していたナイフが危うく指突き刺さりそうになる。
「深い意味はねぇぞ。単に、すげぇーって意味だZE」
「……そう、なんですか……あ。大丈夫です。貝洗ってきます」
惚れると胸の高鳴りがどう違うか確かめたかったがゲンナイでは役に立たなかったようだ。
「え? 何? なんで気持ち沈んでるワケー!?」
「そうだ、ゲンナイさん。乾燥時間を短くできるように風を送る絡繰りとかって出来ますか?」
「お、おう! 誰にモノの言ってるんだよ。そんなもの、ちょちょいのちょいよ!」
少女の質問と期待に次こそ応えるゲンナイであった。
●ちょっと危ない貝を喰らう者達
ふわふわっとしたフリルが多めな青花柄ワンピースタイプの水着姿のトーラが浜辺で涎を垂らしていた。
「この時期、アサリやハマグリなどの二枚貝は美味しいですよね」
初夏らしい旬の食べ物と言うべき食材の香りと出汁を思い浮かべる。
しかも、依頼に出されている貝は、かなりの美味という情報。これは期待が膨らむしかない。
そんなトーラ同様に、食するのを目当てにしていたエミリア・シバが申し合わせた訳でもないのに並ぶ。
「お酒のおつまみにもよさそうだし。火酒もあるから、海の家とかで酒蒸しとかも頼めたりしないかしら?」
「さ・け・む・し!」
具体的な料理名を聞き、フリルを可愛げに揺らしながらトーラが目を輝かせる。
酒と共に蒸しただけの簡単な調理法だが旨味が凝縮された身と出汁は、表現すべき言葉が見つからないほどに美味い。
「やる気が出ているのはトーラちゃんだけではなさそうね」
日差しを防ぐように手を翳したエミリアの視線は、黒の布地の晒しと褌で気合十分な姿を魅せるベルク・オスマットに向けられていた。
真剣な赤い瞳が獲物を一匹たりとも逃さぬと語っているようにも見える。
「貝を掘ればいいのであろう? 楽勝だな!」
ちょっと怪しい貝と言っても所詮は貝。授恵者である冒険者の敵ではない。
依頼が大成功した暁には、報酬も増えるかもしれない。獲ったものを喰ってもいいとの事だから、獲れれば獲れるだけ、利益があるというもの。
「余裕そうね、ベルクちゃんは」
「双波で探れば探すのは楽勝! 収穫量一位は我で決まりだな♪」
この勝負、既に勝ったといわんばかりに胸を張るベルク。
そこへ『虎』文字が刺繍された立派な褌パンツ型の水着を履いたロイ・アウレアと艶やかなボクサー水着姿のダムド・フィリスが合流する。
「巻貝には粘るのがあってそれが旨さに繋がると聞いたが、二枚貝でもそうなのかな?」
「食い扶持を稼ぐ事ができれば、自分はなんでもいいけどな」
二人ともあまり危機感はないようだ。
ロイは自作した貝取籠棒を担ぎ、一列に並んだ仲間達から一歩進んだ。
「これだけの人数がいれば、そこそこの収穫は見込めるだろうか」
「そうね、他にも冒険者もいる事だし……ちょっと厄介そうだけど」
周囲からの悲鳴にエミリアは無意識に服の隙間を押さえた。
くすぐったいのには……あまり自信がないし、触れられるような踊り子ではないつもりだ。それが人であっても貝であっても。
「まぁ、俺に任して下さい」
そんなフラグにも似た台詞を言い残し、ロイが波打ち際へと進むと……意識を集中させた。
次の瞬間、貝取籠棒でサッと掬う――見事な腕前。確かに棒の先端に取り付けられた籠の中に目当ての貝が入っている。
「なるほど。思ったよりも結構簡単に取れるようだ」
「だとしたら、遅れを取る訳にはいかないか」
ベルクが籠を手に海へと入る。
ふわっと逃げるような海中の貝の動きに対し、神経を研ぎ澄ませてスラっとした初夏によく似合う脚を蹴り上げた。
その勢いで飛び出た貝をすかさず、籠でキャッチ。
こちらも見事なベルクの動きにトーラも意気込む。
「わ、わたしも頑張ります!」
バケツを構えたまま砂浜を進み、目標の存在を確認する。
静かに近づくと、貝液が出されるよりも早くバケツを覆いかぶせるように振り落とした。
渾身の一撃の方が僅かに早く、射出された貝液がバケツを鳴らした。
エミリアも麻袋を手にスキルを活かして貝の場所を探る。特に透視は砂の中に隠れた奴らを見つけ出すのに最適だった。
「素早く動けば、貝液の射程から外れるはずね」
シーフ特有の素早さを生かした狩りは、ハプニングを寄せ付けない。
仲間達が授恵者としての力を使いながらの採取の中、ダムドだけは麻袋を適当な所に沈めていた。
「……というか、隙間に入ってくるって話だったら、これだけでも獲れるんじゃ?」
どれだけ効果があるか分からない事であるが、貝液まみれにならずに済む方法でもある。
もっとも、それをすると、ただ麻袋や罠を仕掛けるだけの依頼になってしまう訳で……。
順調に思えた潮干狩りだったが、いつまでも貝液を避けるというのも難しくなってきた。
「さっきから変な液飛ばしてきて!」
足元が海水に浸かっている事もあり、ベルクが飛沫を散らしつつ、ステップを踏んで貝液をやり過ごす。
けれど、ほぼ全周囲から一斉に飛ばされると、限界がある。
「一発なら兎も角……って数が多いぃぃぃ!?」
ベルクにしては珍しい悲鳴にも似た声が響く。
次の瞬間、貝液を頭の先から足元まで浴びてしまった。ぬるぬるどろどろっとした液体がベルクの頬をゆっくりと垂れ落ちる。
特徴的な狐っぽい耳が液体の重みでしょんぼりとする姿は、きっと一部の酔狂には大変喜ばれるだろう。
全身貝液だらけという意味では、トーラも既に同様だった。
「うぅぅ……気持ち悪いです……」
大き目な波のせいでバランスを崩した際、貝の入ったバケツを庇ったせいで尻もちをついてしまった。
いつもは人前に滅多に出さない健康的な太ももが海水で濡れて太陽の光を反射している。慌てて裾を伸ばそうとしたが、貝液のせいで上手くできなくて手間取ってしまう。
そんな状態のトーラを見逃す貝共ではない。そのままフトモモを出したままでいいんだぞと言う貝共のお気持ちか、あるいは、好機到来と思ったかどうか定かではないが、周囲の貝が一斉に貝液を噴き出したのだ。
太ももに付着した貝液を手で払おうにもヌルベトとしていて外れない。その仕草が余計にそそるわけだが……。
「こ、こうなったら、仕方ないです!」
「トーラさん、大丈夫ですか?」
身震いして貝液を弾き飛ばす所でロイが声を掛けたのは不幸の偶然としか言いようがない。
一部の貝液がロイの目元に飛び、バランスを崩す――が、ここは帯妻者になる予定の男。トーラや近くで悶絶しているベルクに覆いかぶさるようなハプニングは起こさず、見事としかいえない弧を描き、二人を飛び越えて海へとダイブした。
凄まじい飛沫にエミリアが微笑を浮かべながら砂浜に上がっていた。
「ロイさんが、ベルクちゃんやトーラちゃんに絡んだら、間違いなく社会的な死よね」
「幼女を襲っている絵にしか見えなそうだ……で、エミリアは無傷なのか?」
あちらこちらの惨状を見て、早々にお湯を沸かしていたダムドが訊ねる。
海水で濡れた様子はあるがエミリアは貝液で汚されたようには見えなかったのだ。
「……触れられないようにするのも、踊り子の素質……かしら」
貝液で全身がヌルベトとしたエミリアも、それはそれで色気があるだろうが、貝共に囲まれた際に、気配を強引に消して奴らの襲撃を避けたのだ。
おのれ小癪な……と言わんばかりに貝が水管を向けている気がする。あれは油断しているとタイミングを計って貝液を飛ばしてくる輩だと感じ、そっと蓋替わりに麻袋を掛けた。
「せっかく、火を起こしてるのだから、焼いたり煮たりしたいわね」
「確かにな。おーい、さっさと上がって来い!」
ポンと手を叩いたダムドがベルク達を呼ぶ。
たぶん、それなりの数は獲れたはずだから、ここらで一休憩もいいかもしれない。
「な、なんだったんじゃ……あの貝共は……」
「裾が変に引っ張られたままで、太ももが丸見えです……」
「寒っ……水着には早かったか……」
ちょっと危ない貝共にしてやられ、トボトボとした足取りで砂浜へと向かってくる、三人の姿に、集落から用意された酒瓶の蓋を、エミリアは音を立てて開け、大きく掲げる。
これはもう、やけ酒でもしないと、きっとやってられないだろうから。
●『優男×令嬢』
薔薇色のビキニ水着が真っ青な海に映えている事は、ローザリカ・L・ディオールの想定していた通りだった。
商売として大事な要素の一つ、見栄え……それは売り物だけではなく自身の容姿についても同じと言える。
(落ち着かない……)
そんな弱音を口にする事は絶対にしたくないが、自然と手が腹回りに伸びる。
いつもはコルセットで押さえつけているその部位が、今や無防備だ……見栄えが心配になるのは当然の事。
という事で、ジュスト・ヴェルジーからの、ありがたい忠告が右から左へと抜けていた。
「儲け話としても美味しそうな貝が目の前にあるのだ。見逃す訳にはいかないというものだ」
「忠告はしたからな」
ドヤ顔のローザリカが言い放った台詞に、華やかな洒落た水着姿のジュストは淡々と言い返す。
珍しい貝な上に美味という。商売に上手く乗せられればという考えは分からなくもない。
(俺だけにやらせていればいいのにな)
もっとも、素直に頼んでこない彼女だとも知ってはいるけれど。
気づかれないように視線を向けられているとも知らず、ローザリカは意気揚々と波打ち際へと進んだ。
ピシャっと何かが跳ねて無防備な横腹を直撃。
「……!?」
反射的に手で抑えたのが悪かった。
不快感しかないヌルヌルとした感触。喉を通り過ぎそうになる声を、息を止めて押し殺した。
ローザリカはチラリと彼を盗み見る……大丈夫。気が付いている様子はない。
ホッとしたのも束の間、踏ん張っていた足元が突然、氷の上のようにつるりと滑った。
「~~ッ!」
踏ん張り方は不格好だけど、なんとか転ばずに済む……羞恥心から眼尻に涙が溜まった事も悔しい。
ところが、ローザリカの頑張りはここまでだった。
次の瞬間バランスを崩して尻もちをつくように倒れたからだ。
飛んで火にいる夏の虫。ツンデレ女子がやってきたぞと、貝どもが貝液をまき散らして、水着の中へと潜り込んで来た。
意味不明な貝に、ローザリカは小さく震えて声も出ない。
このままただ貝に蹂躙されるだけ……
「『君は止めた方が良いよ』と言ったんだけどね」
ジュストの声と共に緩やかに掛けられるブランケット。
見上げるといつもと同じような表情だけれども、真剣な眼差しだった。
「少し我慢してくれよ?」
取り出した酒をローザリカの首筋からかける。
アルコールでヌメリが落ちる事を期待してだ。そして、まるで医者が患者を診るように躊躇もなくローザリカの谷間へと手を入れると、不遜な貝共を次から次に袋へと詰めていく。
「……ぁ」
小さくローザリカの声が漏れる。谷間を探る彼の手の感触よりもジュストの瞳に、だ。
それは怒りとも殺気とも人は呼ぶ。貝如きにではない……別の男に彼女が穢されたような姿が許せなかったのだ。
「行くよ」
谷間や水着の間に入り込んだ貝を全て排除し、ジュストはブランケットに包まれた彼女を抱きあげる。
海水に濡れて冷たくなった彼女の肌が密着すると、暖を求められているのか、ギュッとローザリカが抱きついてきた。
彼女から密着されるのは悪い気はしないが……この状況では手放しに喜べないもの。
「……ちゃんと呼んでほしいな」
次は君が泣く前に助けに行くから……と耳元で呟く。
ローザリカは小さく頷くと、返事の代わりに腕に力を入れた。
「……」
助けを呼んでもいなかったのに、それでもすぐに助けに来てくれた事。ただ、その事実が嬉しかったローザリカだった。
●スーパースイマー
幾つもの手製の罠と共にサイラスは砂浜ではなく、海の中へと繰り出していた。
陸の方から冒険者達の悲鳴が聞こえてくる……が、サイラスにとっては特に興味がある話ではなかった。
顔見知りがいれば貝液まみれの姿を茶化すのも、一興かもしれないが、特に知り合いもいないし――。
「それで、一人で沖に出ているのでござるか?」
「……あ?」
声の主が誰かと振り返ると、そこにはリィミア・コゴウジの姿があった。
そういえば『夢想の宝玉』の依頼主でもあったかと思い出す。
「見ての通りだ」
そう言って罠の一つを引き上げた。
隙間に侵入する習性を逆手に取った貝漁は今の所、極めて順調だ。一部の貝共が黒褌の隙間に入り込んだが気にもしていないし。
「なるほど。そうやって獲れば良かったのか。真似させてもらうでござるよ」
「好きにしろ……で、なんでおれについてくるんだ?」
会話している暇はないので、泳ぎ続けるが、何故かリィミアは後をつけてくるのだ。
「いやー。実は……水着が流されちゃったのでござるよ」
「……は?」
通りで胸元を腕で隠しながら立ち泳ぎしている訳だ。
「そんな訳で、ついでに、リィミアの水着も探してでござるよ」
「いやいや、何でおれに頼むんだ? 貝殻でもつけとけ」
「リザードマンならヒューマンの身体に興味は無いかなって思って」
それは人……いや、リザードマンによる話だろうが、彼女の頭の中ではリザードマンは爬虫類な感覚なのかもしれない。
「……知らん。自分で探せ」
スーと離れていくサイラスにリィミアが慌てて追う。
「ま、待つのでござる! ほ、ほら、リィミアは婆の歳だが、身体は、まだ若いままだから!」
「だからと言って引っ付くな!!」
結局、貝漁をしつつ、リィミアの水着を探す手伝いをさせられたサイラスであった。
マスターコメント
お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。
判定上、貝の採取は目標としていた数を大きく上回り、大成功の上の大成功でしたと、一応、報告しておきますね(描写上はいきなり貝液まみれの方もいらっしゃったので、ちゃんと成果はあったと補足です)。
その上で、気の知れた仲間達と過ごした方、いちゃらぶなカップルでの参加から干物作りを手伝ってくれた方、即席で絡んだ方などなど、色々と描かせていただきました。脳内でピンナップになったらどんな絵になるかなとか想像しながら……みんな、絵になる(
それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
イベントシナリオ易しい 報酬:標準17 / 4〜25人
2022年05月12日 17時11分55秒 公開
大成功