【学騒】天使と悪魔の戦い
おおくまねこ
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シナリオID:2057
オープニング
「あら、そこにいるのは第三演劇部の部長さんじゃありませんこと?」
「ごきげんよう、アイオーラ先輩」
廊下で二学年上の上級生パーシア・アイオーラに挨拶され、ラティオ・アルグレーアは愛想笑いを浮かべた。
「少しお話ししません? 貴女とは一度お話をしたいと思っておりましたの」
「……光栄ですけど、部員を待たせているので今はちょっと……すみません」
ラティオは会釈し、彼女の前を通り過ぎようとした。しかし、パーシアの取り巻きに通せんぼされ、ラティオはその場からの離脱を阻まれた。パーシアはニコリと笑い、ラティオの耳元で囁く。
「随分つれねえじゃねえか。この第二演劇部の部長にして、アイオーラ伯爵家の長女、パーシア様の誘いを断るつもりか?」
(めんどくさい先輩に絡まれたなー。あんまり貴族と揉めたくないんだけど)
ラティオは溜息を吐き、パーシア一味と共に食堂に移動した。
……。
(うわーうぜえ)
パーシアの話を要約すると、「最近第三演劇部調子乗ってるよね? 学園長やウィリアム王子に目をかけられてるからって調子に乗るなよ? 平民と下級貴族の集まりの癖に」というような内容だった。あと、去年の選挙直前に保守派から革新派に鞍替えした件についても嫌味を言われた。
(この腐れ縦ロールが! 頭に行く分の栄養もみんなその無駄にデカい胸にいってるんじゃないの!?)
ラティオは内心の怒りを心の内側に隠し、見事な笑いの仮面で適当に相槌を打っていた。が、パーシアの放ったある一言が、ついに彼女の逆鱗に触れた。
「まったく、ウィリアム王子もなぜこんなお遊戯クラブの劇なんて見にいらしたのかしら。観劇されるなら、第二演劇部の伝統的な演目の方がよほど見応えがあるでしょうに」
(――今の言葉は流せない)
生まれがどうとかは別にいい。元々、そこまで立派な家柄じゃないし。選挙の時期に派閥を渡り歩いた件についても、聞き流してやっていい。事実だし。でも、私達の劇への侮辱だけは看過できない。
「――」
ラティオは立ち上がり、すう、と息を吸い込む。
もしラティオ貴族の子女なら、左手の手袋を叩きつけていただろう。だが、あいにくラティオは商家の子なので手袋を常備はしていない。そもそも、決闘は同格の身分でなければ成立しない。だから、ラティオは代わりにこう口にした。
「――そこまでおっしゃるなら、勝負しませんか? 私達第三演劇部の創作劇と貴方達第二演劇部の格調高い伝統的な演劇――どちらが優れているのか、新人歓迎会の時に白黒ハッキリ付けようじゃありませんか」
その言葉に、パーシアは目を丸くし。
「あははははは! 面白え! お前、面白いな! いいぜ、格の違いを教えてやるよ!」
●貴族の流儀
「分かりました。そういう事情ならば、予算をフル投入しましょう! でも部員達にはちゃんとラティオちゃんから事情を説明して下さいませ」
「ありがとう、マリリン! 愛してる!」
「こら、急に抱きつかないで下さいませ! 眼鏡がズレちゃいます! 浮気だってリオン君に言いつけちゃいますわよ!」
基本ケチで倹約家であるマリリン会計だが、今回はあっさりラティオの冒険者の大量雇用の申し出を了承した。今回の一件は温厚な彼女も流石にカチンと来たらしい。
「でも、冒険者さんをいっぱい劇に呼んでも本当に大丈夫でしょうか? あとでズルだとか言われません?」
「それは大丈夫。私達を素人の寄せ集めだってこき下ろした以上、多少冒険者を雇っても文句は言わないでしょ。向こうは『幼少の頃から研鑽を積んだ者達だけに為し得る、洗練された、伝統的な演劇』を売りにしてるんだから」
「確かにそうですわね」
「敵は貴族よ。第三演劇部は商人の子の割合が多いクラブだけど、ここはあえて私達もお貴族様の流儀でお相手しましょう。分かるわね、マリリン」
「ええ。もちろんですわ。つまり――ナメられたら殺す、ですわね」
●臨時演劇部員、大募集!
かくして、冒険者ギルドに通算五度目の第三演劇部からの依頼が出された。内容は王党派貴族アイオーラ伯爵家への討ち入り――ではなく、去年と同じく演劇のゲスト出演の依頼である。
「今回の演目は『天使と悪魔の戦い~混沌のロスガリア』。部長さんの創作劇だよ。神話の時代の架空戦記ものみたいだね」
冒険者の店のマスター、クママンは鼻息を荒くして依頼の手続きをしに来た少女の様子を思い出して苦笑しながら、冒険者達に笹茶を淹れた。
劇の内容をもう少し詳しく説明すると、創生神話の時代の善神と悪神の抗争がメインテーマの物語のようだ。冒険者達に頼みたいのは、主に天使と悪魔の役。通常なら演劇熟練者でも細心の注意を払って行う殺陣のシーンを、「授恵者ならちょっとぐらい武器が当たっても大丈夫」という豪快な理論で乗り越え、派手なバトルシーンと笑いあり、涙ありを売りにした劇を作るつもりらしい。
また、芝居の大筋は決まっているものの、キャラクターの個性についてはあえてまだ細部を詰めていないので、台本には冒険者の意向をある程度反映してくれるそうだ。
「今回の依頼はまだまだ荒くれ者のイメージが根強い冒険者のイメージアップにもちょうどいいんじゃないかな。もしパンダが必要なら、僕も参加してみようかな?」
そう言いながら獣人のマスターが机の上に置いた依頼書の最後にはこう書かれていた。
「これは第三演劇部と第二演劇部の名誉を賭けた戦いです。どうか、私達第三演劇部に力を貸して下さい」
解説
マスターより
リプレイ
「あの、入部したいんですけど。第三演劇部ってここで合ってますか?」
「やったー! 新入部員一人確保! ようこそ新人さん! あなた一年生?」
「はい、ウォーゼルといいます」
歓迎の雰囲気にウォーゼルの表情が綻んだ。学園ではハーフビーストなどの異種族差別はえげつないと聞いていたが、ここは大丈夫そうだ。むしろ、冒険者であることに過剰に期待されていないかの方が気になるぐらいだ。
「俺で務まればいいのですが……演劇は初めてなので……」
ウォーゼルはぽりぽりと頬を掻いた。
「今回は夜のマナズィール方面じゃなく『天使と悪魔の戦い~混沌のロスガリア』? ラティオさんとマリリンさんからも殺意のエーテルを感じるし一体なにが……!?」
「こんにちは、アルマさん。ところで夜のナントカは第三演劇部のネタではなくレヴェリア個人の持ちネタですからね?」
アルマ・ヴァレンタインがいつもと違う第三演劇部の雰囲気に戸惑っていると、ほの暗いオーラを発しながら笑顔でラティオとマリリンが詰め寄ってきた。ちょっと怖い。
「……なるほど、正統派っぽい第二演劇部と対バン……対演? どことなく至高VS究極みを感じるー」
アルマはおおよその事情を理解した。
「パーシアさんと取巻きは貴族ですよね?……貴族は品性が有るものと思ってました」
第二演劇部と勝負することになった経緯を聞いたエヴァン・ピオネロはそんな感想を漏らした。
「マリリンさん、そんな人達に負けるわけには行きませんね」
「ええ、もちろんです! あんなチンピラが率いるクラブに負けるわけには行きません!」
眼鏡がズレそうな勢いで拳を天へと突きあげるマリリン。
「僕はナレーションと効果音とBGMを担当するとして……劇に毅然とした動きと美しさを取り入れませんか?」
「と、申しますと?」
「こんな感じです。お願い、アルマ」
「りょうかい~」
エヴァンが放ったメテオライトの光に照らされたアルマは、部室の真ん中に移動する。そしてアルマは、エヴァンの奏でる重厚な低音に合わせ、キレキレのダンスを踊り出した。
特に踊りのスキルは装備していないアルマだったが、冒険者稼業で鍛えた体幹から繰り出される華麗な動きは、その辺のダンサーにも引けを取らない。
「なるほど、シーンの合間に冒険者さんのダンスを入れてみましょう!」
「お堅そうな客層だし今回もボクはメイクとか衣装の準備を頑張るね」
「本番で踊るのは別の人なんだ!?」
●
「本来なら部活同士での対立は好ましい事ではないでしょうけれど、第三演劇部の劇を侮辱されたとあっては捨て置けません。第三演劇部名誉大道具係として、微力ながらお手伝いいたします」
スィーリーンは立腹していた。彼女は大道具係として第三演劇部が少人数の泡沫クラブだった頃から支えてきた。そんな彼女達の努力を、作品を侮辱されたとあっては、黙っていられない。
「ありがとうございます! スィーリーンさんにぜひお願いしたいお仕事があるんです! 天使と悪魔の翼! ぶっちゃけ部員全員分と、冒険者で出演してくれる人数分必要です!」
かなりの無茶ぶりであった。しかも納期は約二週間。王都の職人もビビるレベルである。だが、スーパー手細工職人スィーリーンはニッコリと微笑んだ。
「魂は細部に宿るもの。ええ、第二演劇部の方々も文句のつけようが無いくらいに。平民も侮れないとしっかり教えて差し上げましょう」
●
「ふ、ふひ……中々良い、いや、良すぎる設定では?」
ルブラ・ソンジュは渡された台本の原案をペラペラめくりながらニヤニヤしていた。
「妖艶な悪魔に誘惑される生真面目な天使……自身が仕える神の為に動いていた二人はやがて恋の為に生きることを決意し、二人ぼっちの逃避行を……ふひひ」
美少女天使二人を頭に思い描き、妄想にふけるルブラ。そして、どの子がリオンだろうかと演劇部員達をじろじろ見る。
「ルブラさん、百合展開をご期待の所悪いのですが、誘惑される天使役の予定のリオン君は男子ですわ」
「そ、そんな」
マリリンに突っ込まれたルブラは、王家からお家取り潰し宣言を受けた貴族の顔になった。百合だと思っていたら普通のカップルだったなんて!
「その代わり、ラティオちゃんとリオン君はリアルにカップルです。付き合ってまだ1か月のできたてホヤホヤカップルなのです。しかもこの学園では珍しい自由恋愛です」(ごにょごにょ)
「ほう、それはそれは。爆発するべきでは?」
そんな小粋なやり取りで顔見知りであるルブラと旧交を温めた後、マリリンは本題に入る。
「……それで、ルブラさんはどんな役をご希望ですか?」
「……せ、拙者、舞台に上がるのは、正直恥ずかしいですし……出来ることは大道具の彩色と、絵を描いて宣伝することですかね。絵の方は、良ければ誰かモデルになっていただけると助かります。想像で描くよりは、良いと思うので……」
……。
「こんな感じでいいですか?」
「よきかなよきかな! ふひひ」
ルブラの絵画のモデルに選ばれたのはマリリン(眼鏡なし)であった。スィーリーンが制作した試作型エンジェルウィングを装備し、ゴシックな服を着てポーズをとっている。劇の宣伝用のイラストに使用されるらしい。
「よろしければ他の方々にもご協力いただきたいです……印象深いシーンをイラスト化いたしますので、なにとぞ……」
次にリブラがモデルに指名したのはルアンナとクローリカであった。さらにエフィルミアとシルヴィアの二人も所望した。
「女性の二人組ばかりですわね」
「何をおっしゃりますマリリン氏、気のせいです」
「ねえ、マリリン。これホントにやらないとダメ? マジで?」
ラティオは渋い顔をしていた。マリリンに渡された台本には、「天使リオンを誘惑し、堕天使に堕とさんとする女性悪魔。上乗りになって頬を手で挟む」と書かれていたのである。幾ら付き合っている相手とはいえ、かなり恥ずかしい役であった。
「勝つためにはなんだってやらないとダメですよ、ラティオちゃん! お色気シーンで男子生徒のハートを掴むんです!」
「うーん……ねえ、リオンはどう思う?」
チラリとリオンの方を見るラティオ。部長であり、第二演劇部に喧嘩を売った張本人という立場上ラティオからは「恥ずかしいから嫌です」とは言いづらい。ラティオはリオンが断ってくれることを期待していた。
(さあ、どう出るんだリオン……)
その様子を厳しい視線で見守るロイ・アウレア。リオンとラティオはロイの推しカプなのであった。
「ええと……僕はやっても――」
「あ、じゃあその悪魔の役、私がやってみたい!」
「!?」
明るいお姉さんの声。堕天使役に名乗りを上げたのはエルフ娘のベアトリーチェ・カロッサであった。まだ14才の小娘であるラティオよりは遥かに色っぽい。14才の少年を誘惑する3●才……ちょっと犯罪チックな絵面だが、その方が学生ウケはいいかもしれない。
「じゃあよろしくね、リオン君」
「は、はい、よろしくお願いします……」
ベアトリーチェに笑いかけられ、カチンコチンに緊張するリオン。だが割と嬉しそうな顔だ。
「良かった、適任の人が見つかって。でもあのお姉さんがリオンを誘惑するのか……ほっとしたような……不安なような……」
ラティオは複雑な表情で二人を見ていた。
「むう……見損なったぞ、リオン。あんなにデレデレして……あとで説教だな」
●
「今回もおれは背景やるわ」
歩く演劇設備・サイラスはそう宣言した。彼は第三演劇部の常連だが、王族の親戚やら上級貴族やらがウロウロしている学園で悪目立ちすることは望んでいない。というわけで、今回も裏方を担当するのであった。
「こんな感じで色々できるよ」
サイラスがパンと手を叩くと、突然第三演劇部の部室の真ん中に魔法少女フォルトゥナが出現した。もう一度サイラスが手を叩くとフォルトゥナは消えた。さらにサイラスはエーテルが通った鎖を握りしめる。すると、今度は小型のワイバーンが召喚された。
「あとは声真似もできる。『我が名はフォルトゥナ。学園生達よ、頭を垂れよ』。どう?」
「学園長の声だー! 学園長そんなこと言わないけど!」
「ま……ますます芸に磨きがかかっていますね。冒険者しなくてもでご飯食べていけそう……まさに一家に一台サイラス……」
サイラスの多芸っぷりにラティオは冷や汗をかいていた。
「第二演劇部か。演出やイメージとかそういうまやかしの領分なら鍛治と同じく簡単に負けて差し上げるつもりはないよ?」
●
「いい部だよね。熱意に溢れて学園らしい」
ロイと共に部室を訪れたテス・クラルスは思わず微笑んだ。
「私は劇の設定の厚みが増えるよう、歴史の観点から補強するよ」
テスは挨拶を終えた後、学園の教授たちを訪問することにした。今回の物語は創作だが題材は歴史だ。当時の時代考証を伺うことで設定にリアリティが出るだろうと考えての事だ。
「俺は学園生受けしやすそうな古典について調べておこう」
「よろしく、ロイ」
「僅かしか反映はできないけど、これを機に少しでもご教授頂きたく」
「ふむ……そういうことならば、協力しましょう。かの神話は大陸では異端とされるものなのですがね、ここは大陸最高峰の学び舎、パンクリアース学園です。資料もございますよ」
テスが丁寧に頼み込むと、歴史や神話を研究している教授が快く色々話してくれた。
「第三演劇部として感謝致します」
「うむ、せっかくだ、私もその劇を見せてもらいに行くとしよう」
テスは丁寧にお礼をし、部室へと引き返していった。
「よし、このメモの内容を服飾や装飾に可能なだけ反映してもらおう。時代考証に配慮した上で閃光塗弾の粉で剣を光らせ、マントに古代模様を描けば幻想的にもなるだろうし」
●
「どうかな、ナキル君」
「ああ、よく似合ってるよ、ミア」
堕天使の衣装に身を包んだエフィルミアがゆっくりターンすると、ナキルは照れながらそう返答した。エフィルミアは今回の劇でかなり重要な役回りをするらしい。そんなわけで、ナキルは衣装のチェックも入念に行った。ナキルの方はと言うと、木工技術による小道具製作と、記憶力を活かした練習のサポートが担当である。
●演劇、開幕
そして、公演当日。第三演劇部の創作劇、『天魔大戦~混沌のロスガリア』の上映が始まった。ちなみに会場は第二演劇部と同じで、順番は第二演劇部の後だった。
(さて、一応私も見といてやるか。まあやる前から結果は分かり切ってるが……)
第二演劇部の部長パーシア・アイオーラも目立たぬ席を確保し、敵情視察に来ていた。ちなみにパーシアが第三演劇部の劇を見るのは今回が二度目。前に見たのは部長がラティオになる前の頃である。
「皆様、長らくお待たせいたしました。これより、第三演劇部の創作劇、『天魔大戦~混沌のロスガリア』が始まります……」
エヴァンがそう挨拶すると、テスの奏でる古代風のメロディが鳴り響き、舞台の幕が上がった。
●
ゴロゴロゴロゴロ……。舞台の上空に暗雲が立ち込め、雷鳴が鳴った。急激な天候の悪化に水の天使スィーリーンは嫌な物を感じ取り、立ち上がった。
「邪悪な者達が近づいてくる……」
カッ! その瞬間、舞台に稲妻が落下する。もちろんこれらの演出もろもろはサイラスの幻影によるものである。
「去りなさい、悪魔達よ。何度来てもこの城は渡しませんよ」
スィーリーンは宝石の杖を天へと向けた。
「ふふ、そうはいかないわ。この国は私達悪魔が頂く。そしてこの国は真の闇の世界になるのよ!」
女の声がした。スィーリーンが天を仰ぐと、なんと天井に露出度高めの妖艶な姿をした悪魔が逆さに立っていた。ベアトリーチェである。ベアトリーチェは重力に逆らい、逆さになったままゆっくりと数歩歩いた後、優雅に着地した。
「おい、あれどうやって天井に固定してるんだ?」
「ものすごい足の指の握力で天井の梁にしがみついてたんじゃない?」
「いやいや、吸盤が靴についてるんだろ」
ベアトリーチェの異様な登場の仕方に、観客達がざわめいた。
(『壁歩き』だよ、阿呆ども)
パーシアは溜息をついた。
「お、お前は色欲の悪魔ベアトリーチェ! 一人で乗り込んでくるとは見上げた度胸ね!」
女王役のラティオが怒鳴る。すると、ベアトリーチェはくすりと笑った。
「私だけじゃないわよ? あれを見なさい」
ベアトリーチェがパチンと指を鳴らすと、舞台袖から一人の少年悪魔が現れた。
「ごめんね、ラティオ様」
「リオン……? あなた、いつの間に堕天使に……」
「あっはははは! あなたの守護天使は私がもらったわ! くやしい!?」
顔面蒼白になったラティオの前で、ベアトリーチェは高笑いした。
「ラティオ様を裏切るか、堕ちたモノは悪魔と変わらんな」
眩い閃光と共に現れたのはロイだ。全身と装備に蛍光塗料がたっぷりと塗られたピカピカの天使である。
「くっ……」
強烈な一撃を受けたリオンはふらふらと舞台袖へと引っ込んでいった。
●
序章が終わり、演劇の舞台は天使と悪魔の軍勢の激突のシーンへと移っていく。
(よくもまあ、半月やそこらであれだけの数の翼を用意できたな……白鳥と鴉からもぎ取ってきたのか?)
パーシアは呆れていた。10名ずつほどいる天使と悪魔の軍勢の役は第三演劇部員達が務めているのだが、全員が立派な白か黒の翼を備えていたのだ。もちろん翼のクオリティは高く、本物の鳥と見間違うほど精巧な出来栄えだ。スーパー大道具係、スィーリーンの渾身の力作である。
「天使達よ。悪に屈してはなりません」
涼やかな歌声が響く。風の天使レティシア(レティシア・レインフィール)の癒しの歌声だ。壇上のレティシアからは実際に癒しのエーテルが放出され、観客の一部は捻挫や擦り傷、が治った。
「OGのレティシアさんだ!」
「美しい……。それになんと大胆な衣装なんだ!」
「白百合の君があんなセクシーな衣装を……!」
学生達(主に男子生徒)は感動していた。天使役であるレティシアの衣装は肩と谷間が露出した大胆な黒ドレス。友人には「凶悪」とまで評されるレティシアの豊満なボディに、紳士たちの視線は釘付けだった。
「計画通りですわ。やはり男子は美人と露出に弱い……!」
舞台袖でスタンバイしつつ、レティシアの雄姿を見守っていたマリリンの眼鏡が光った。
●
「ルアンナ様、敵の増援が近づいてきています。状況はかなり不利ですね」
「この橋を落とされるわけにはいかないわ、がんばろう、クローリカ」
火の中級天使ルアンナは従者である天使クロウと共に悪魔の軍勢と戦っていた。ルアンナが太陽の杖を振るたび、太陽光のような閃光が発射され、悪魔達が撃破されていく。クローリカは四方八方から押し寄せてくる悪魔達を、見事な剣技で切り払っていた。だが、悪魔の軍勢の中に見覚えのある者がいたことに気付き、クローリカが叫んだ。
「あなたは……! ルイド! なぜ我々を裏切ったのですか!」
「行儀のいい戦い方には飽き飽きでね」
「そんな理由で……! 誇りはないのか!」
堕天使ルイドは不敵に笑った。彼は優れた戦闘力を持つ歴戦の戦天使だったが、我欲に負けて自ら堕天使となったのだ。
「元同僚だからといって遠慮はいらねえぜ! 殺す気で来い!」
「もちろん、そのつもりよ!」
闇に堕ちた彼の心を象徴するように、ルイドは闇色の剣を使っていた。だが、何を思ったのか、ルイドは突然剣を鞘に納めてしまった。
「油断したな! そらよっ!」
だが、ルイドの鞘は副武器としても使用できる特殊な鞘なのだ。これは芝居の設定とかではなく、本当にそういう効果を持った品である。ルイドが仄かに光を放った灰色の鞘を振りかぶると、エーテルの弾丸が雨あられと天使達に放たれた。
「ぎゃー!」
「ぐあー!」
バタバタと倒れる天使役の演劇部員達。だが案ずることはない。彼が放ったエーテルの弾丸は、彼が害意を持っていない者は傷つけない。
「ルアンナ様、危ない!」
そして、その一撃が天使クロウへの致命傷となった。ルイドのメテオライトは、ルアンナを庇おうとしたクロウの心臓を貫いたのだ。
「貴女さえ無事であれば良い、この戦いをどうか導いて下さい」
クロウはどさりと地面に倒れた。ルアンナは必死にクロウを揺さぶるが、クロウの瞳が開かれることはなかった。
「クロウはいい子だった! よくも!」
ギャイーン! ドラゴンの咆哮のようなサウンドエフェクトと共にルアンナの全身が黄金のオーラに包まれる。ルアンナは穏やかな心を持った天使だったが、クロウを失った悲しみと激しい怒りにより、激おこモードに突入した。
「喰らえー!」
太陽の杖を手にし、ノコギリ鉈を手にしたルアンナは怒りに身を任せ、ルイドへと斬りかかった。
「ぐっ……! ここまでか……」
ルアンナの一撃を頭で受け、ばたりと倒れるルイド。
バサバサバサバサ。
だが、クロウの仇を討った後も悪魔は際限なくやってくる。もはや己が逃げ切れないことを悟ったルアンナは穏やかな笑みを浮かべると、再び太陽の杖を手に取った。
「クロウ、今私も側に行くから。これが火の天使ルアンナの最終魔法よ!」
直後、超新星爆発のような大爆発が舞台に炸裂した。そして煙幕が収まった後には、もはや何も残されていなかった……。
●
「ラティオ様、バフをかけるね」
使い魔マールを演じるアルマはハウリング・オブ・ブルーフレアを使い、ラティオを強キャラっぽく演出した。
「ありがとう、マール。これで私も戦える」
微笑むラティオは細剣を抜き、悪魔の軍勢へと飛び込んでいく。
「俺の獲物は女王か。相手にとって不足はないな」
「おっと、悪魔だね! あなたの相手はボクがするよ!」
マールと対峙するのは入部したばかりの一年生、ウォーゼルだ。殺陣中心で台詞は少ない役なのだが、大勢の前で演劇などするのは初めてなので、内心ではかなり緊張していた。
ウォーゼルは一撃離脱を基本とした高速戦闘を展開し、時には空中を疾走することで観客の目を引く派手な立ち回りを演じた。
「とりゃー! 光縛封!」
ガギギギン!
マールはウォーゼルの高速三連撃を光の壁で派手に防いだ。その後、こっそりと自身に輝甲をかける。
「殺った!」
「使い魔マールふっ飛ばされた~~~~!」
マールはコミカルな台詞と共にウォーゼルの一撃をわざと受け、派手に吹き飛んで舞台から退場した。
「く……俺もこれ以上は厳しいか……女王よ、命拾いしたな」
ウォーゼルは最後の台詞を言った後急いで舞台袖に引っ込み、アルマにヒールをかけた。
「小さいのが飛ば……っ、思わず追いそうになりました……ぼくより丈夫と判ってても慣れませんね。お疲れさま、アルマ」
アルマに天然水とタオルを差し出しながら、エヴァンはぼそりと呟いた。
●
女王の戦いのシーンが終わり、いよいよ舞台はクライマックスだ。
「何で帰ってきちゃったんですか……姉様」
鮮血に濡れながら、堕天使エフィルミアは視線を落とした。堕天使エフィルミアはかつて芽吹きを司っていた春の天使だ。だが、彼女が堕天した為、地上の冬は終わらなくなった。そして、彼女を倒しにやってきた秋の天使シルヴィアの妹でもある。
「親族の不始末は自身でつける。それが天使の掟だから」
秋の天使シルヴィア(シルヴィア・A・カペル)は決然とそう口にした。
――かつて、四季を司る天使である「先生」には四人の弟子がいた。春夏秋冬を司る四人の天使だ。しかし、その地位を羨み、四季の支配を目論んだ夏と冬の天使は共謀し、先生を謀殺してしまった。絶望した春の天使――エフィルミアは堕天し、夏と冬の天使を殺害。堕天使と化して天の国を出奔した。
「私が里帰りなどしていなければ……」
残された秋の天使シルヴィアは先生の死と妹の堕天を知らなかった。冬へ季節を変えるため凩の精霊を訪ねていて不在だったのだ。
「何で帰ってきちゃったんですか……姉様。堕天使となってしまった私は…もう天使を殺さずにはいられないのに。姉様は殺したくなかったのに!」
エフィルミアは絶叫し、槍を振り上げて姉へと襲い掛かった。エフィルミアは目にも映らぬ速さでシルヴィアに詰め寄り、刺突を放つ。シルヴィアは剣で弾き、エフィルミアの突きの軌道をかろうじて反らすと、光の結界の中にエフィルミアを封印した。しかし、エフィルミアは全身からエーテルの光弾を撃ちまくり、光壁を強引に破壊して脱出した。その後はお互いが舞台を所狭しと駆け抜けながら、剣と槍、妨害魔法と解呪を激しく打ち合った。
(イカレてんな、生徒会長と副会長。あいつら本気で殺し合ってないか? 他の連中もだけどよ。顔に怪我でもしたらどうするつもりだ)
あの二人は授恵者のスキルを使用して戦っている。自身も授恵者であり、ある程度戦いの心得があるパーシアはそのことに気付いて冷や汗を掻いていた。
(くそ。見ているこっちがハラハラする。あの二人の恋人や婚約者は止めなかったのか?)
エフィルミアと二人は激しく戦ったが、やがてシルヴィアの袈裟切りが槍を弾き飛ばし、すかさず放たれた突きがエフィルミアの胸を貫いた(フリである)。
「やっぱり姉様は強くて……綺麗で……私じゃ敵わなかったね」
胸から血糊を零しながら、エフィルミアは仰向けに倒れた。
「私も……姉様みたいに強かったら……他の道を歩めていたのかな? ごめんなさい、姉様……」
エフィがこと切れた後、しばらくシルヴィアは彼女の亡骸を抱いていたが、やがて、意を決したように剣を構えた。
「エフィを一人にはしないよ」
シルヴィアはそう零した後、自ら胸を剣で突き、地面に倒れた。
「こうして、悪に染まった堕天使たちは滅び、王国には束の間の平和が訪れたのです……」
ナレーション担当のエヴァンがそう告げると、照明が暗くなり、舞台の幕が下りた。
●
(ちっ……思わず見入っちまった)
その日の夕方。パーシアは一人訓練場で剣を振っていた。活動的な彼女は何かモヤモヤした時は、ここで剣を振り、破壊の限りを尽くすことでストレス解消していた。授恵者である彼女が夢中で剣を振っている様はかなり近づきがたいのだが、今日はそんな彼女に声をかけてくる者がいた。シルヴィアとレティシアである。
「これはこれは。副生徒会長様に白百合の君ではありませんか」
パーシアは訓練着のスカートを掴み上げ、優雅に礼をした。
……。
「パーシア様、よろしいでしょうか」
パーシアが着替えを済ませ、簡単な挨拶と社交辞令を交わした後、レティシアはおもむろに本題に入った。
「私は在学中、第二演劇部の公演を拝見したことがあります。貴方達の公園も、第三演劇部の劇もどちらも素晴らしいものでした。私が思うに、伝統劇も創作劇もどちらも芸術であり、ウォーリアの武力とキャスターの魔法のようにどちらが優れているのか比べるようなものではないのでは?」
「君も彼女達の劇を見たのだろう? ……君達と同じように第三演劇部も本気で劇を作っている。どうか遊戯という言葉は撤回して欲しい」
やんわり諭すレティシアと、第三演劇部への侮辱の撤回を求めるシルヴィア。そんな二人に対し、パーシアはこう答えた。
「ええ。私も少し大人げなかったかもしれませんわね。それに、貴方達の劇に私が芸術性を見出してしまったことも事実。児戯扱いしたことは撤回いたしましょう」
「ありがとう。ラティオさんにもそう伝えてもらえると助かるよ」
「それに殿下なら淑女同士が争うよりも笑顔で共に演劇を楽しまれている姿の方がきっと好まれますよ」
レティシアはパーシアがファンであるというウィリアム王子についても言及した。
「む……それは確かに。あの方は心優しい方ですから」
(そうかなあ……あの王子は案外面白がって見学するような気もするんだけど)
シルヴィアは訝しんだが、口にすると話がこじれるだけなので黙っていた。
「では御機嫌よう。麗しい先輩方」
パーシアは優雅に微笑み、その場を立ち去った。
●勝負の行方
そして第二演劇部と第三演劇部の勝敗が発表された。結果は僅差ではあったが、第二演劇部の勝利だった。ちなみに第三演劇部に投票した学生はどういうわけか7割が男子だったらしい。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!! くそー! 勝てると思ったのに~! 冒険者の皆さん、ごめんなさい~!」
ラティオは悶絶していた。
「せっかく力を貸して貰えたのに勝てませんでしたわ……学園ではなく王都で公演するルールにしておけば良かったですわね……」
マリリンもしょんぼりしている。客層を考慮すれば相当に不利だった中、互角に渡り合えたのだけでもかなりの大健闘ではあったのだが、やはり勝てなかったのがくやしいようだ。
部室で第三演劇部員達が冒険者に慰められたり、一緒にくやしがったりしていると、不意にノックの音が聞こえた。
「お久しぶりですわね、ラティオさん。それに、第三演劇部の皆さん、冒険者の皆様もごきげんよう」
やってきたのは第二演劇部の部長パーシアだった。取り巻きは連れておらず、今日は一人らしい。『敵』の登場に一瞬で場の空気が緊迫し、パーシアにその場にいた者達の視線が集まる。
「アイオーラ先輩……何しにここに? 六票差で負けて格の違いを見せつけられた私達を笑いに来たんですか?」
「ぐっ……! このクソガキ……!」
ラティオが皮肉を交えながら問いかけると、パーシアは額に青筋を立てた。
「……いいえ、私はあなたと仲直りをしにきたのです。あなたたちの劇は私が考えていたよりも遥かによくできていましたから。以前お遊戯と言ったのは取り消しましょう」
そう言って、パーシアは淑女っぽい笑顔を浮かべ、ラティオに右手を差し出した。
(めんどくさそうな先輩方にも釘を刺されたしな。冒険者の力が大きいとはいえ、後輩共相手にここまで食い下がられたのはこっちも大いに不満なんだが)
「……」
今度はラティオに視線が集まる。今日、この場においてパーシアは何も問題発言はしていないのだが(本音はともかく)、勝者からの和平の申し出に腹が立つのは自然の摂理であるので、ラティオはパーシアとの握手を逡巡した。
「大衆向けの創作劇も伝統的な劇もそれぞれ良い所があるし、二人共そろそろ仲直りしよう?」
ルアンナは苦笑いし、ラティオとパーシアの顔を交互に覗き込む。
(……いつまでも第二と揉めてると今年度の活動にも支障が出ちゃうし、仕方ないか……ぬぐぐぐ)
結局、ラティオはパーシアが差し出した手を握り返した。第三演劇部と第二演劇部の和解成立である。
「ラティオちゃん、ちょっと握力が強すぎませんこと? ゴリラに弟子入りでもされたのかしら」
「あら、アイオーラ先輩こそ馬鹿力ですね。先輩のクラスってバーバリアンでしたっけ?」
「そんなクラスはありませんわ。ドゥジンシの読み過ぎではありませんこと?」
パーシアとラティオはぎこちない笑顔を浮かべ、固く握手を交わした。お互い妙に力が入っているようなのはきっと気のせいだ。リオンはそんな二人をおろおろしながら見ていた。
「戦いの後に芽生える令嬢同志の友情! イイですね、ふひひ」
ルブラは笑顔で握手する二人を一心不乱にスケッチしていた。琴線に触れるものがあったらしい。
「こいつら、またそのうち揉めそうだな……」(ぼそぼそ)
「ですね。あの方からはドス黒いものを感じます……」(ごにょごにょ)
その微笑ましい(?)光景を遠巻きに眺め、ナキルとエヴァンは頷き合ったのであった。
マスターコメント
イベントシナリオ(50人)普通 報酬:多い16 / 8〜50人
2022年05月09日 00時53分23秒 公開
参加者
相談掲示板
ルブラです。えっと、大道具の準備とかで参加させていただこうかと……あと、宣伝用に、誰かをモデルに絵を描かせてもらえれば……ふひひ。
第三演劇部名誉大道具係、スィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 第三演劇部の劇を侮辱されたとあっては捨て置けません。 微力ながらお手伝いいたします。 主に大道具……衣装や装飾等を担当しようと思っていますが、 人数によっては端役での参加も可能です。
No.3
サイラスだ、よろしくなー これ系で前回あったやつだと幻影でやったし、今回も背景とかやろうかと。端役とか演出できる物少し増えたので
エヴァンです。よろしくお願いします。 ぼくも前回お手伝いさせて頂いたナレーションや効果音をと思ってます。 必要あれば他のお手伝いもで、舞台を盛り上げる様に頑張りますね…!
ルアンナです、よろしくお願いします♪ 今回はクローリカと2人で天使の演者役になる予定です!
アルマだよ、どーぞよろしくねー この前のときみたくメイクとかのお手伝いや 悪魔側のチョイ役で顔を出そうかなーと思ってるよ
ちょっと勘違いしてたぜ。 裏方やる!
ウォーゼルと言います、よろしくお願いしますね。 演者としてお手伝いを…という事で、役は指定せずに不足しているところを補えるように動こうかなと考えています。
ロイです。宜しくお願いしますー。 客(票持ち)のニーズに合せ 古典の流れを汲みつつも派手やかな殺陣劇(勧善懲悪)を提案させて貰うね。 実際の物語はMS一任のつもりなので、皆さんの提案と混ぜて貰えたら面白いかな?と。 オレはリオンと剣を交えさせて貰う予定です。(物語の流れ次第) 授恵者同士の戦いだから華やか、尚且つ本気も交えて盛り上げたいな。
こんにちはテス・クラルスだよ 裏方での暗躍が可能…との事だから ちょっと得票しやすいように根回ししようかなって思うよ 教授方に当時の時代考証を伺って 衣装や演出に組み込めないかやってみるね 当日は裏方で盛り上げる為の演奏をお手伝いしようと思うよ よろしくね
いよいよ明日の朝8時出発ですわ。皆様、よろしくお願いいたします。