【学騒】そこは『アルテイナ魔術王国』

真柄 葉

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シナリオID:2048

オープニング

●ドゥジンの筆流出事件
「まさか、廃校舎に隠し部屋があるなんて……これ、大発見じゃね?」
「見ろよ、宝箱があるぜ! きっとお宝だ!」
 ここはパンクリアース学園・廃校舎。入寮したばかりの新入生達は寮内の仲良しメンバーを集め、廃校舎を探検していた。そしてなんと、老朽化して脆くなった壁の裏に隠し部屋を見つけてしまったのだ。新入生たちがわくわくしながら大きな木箱を開けると、中には古めかしいデザインの筆がたくさん入っていた。

「なんだ、筆かよ。伝説の剣とか魔導書とかだったら面白かったのに。それか、空飛ぶ絨毯とかさ」
「筆か……ぼく作文苦手だからなあ。ぼくはいいや。レナード君、いる?」
「ま、一本記念に貰っとくか。でもまだまだあるぜ。これ、どうする?」
「戻すのももったいないし、せっかくの戦利品よ。寮で友達とか先輩に配ればいいんじゃない?」
「そうだな。じゃあ、全部持って行こう」
 
 そんなわけで、廃校舎から発見された筆たちは学園にばらまかれることになった。だが、これらの筆は実はれっきとした神具であった。名を『ドゥジンの筆』。画才や文才を持つ者が扱えば描かれた物語(ゆめ)を一日限りだが現実にできるという、世界を塗り替える力を持つ伝説のマジックアイテムだったのだ……!

●

「あああぁ、居たあぁぁぁ!! ちょっと、一体どこに行ってたのよ! 探したんだからねっ!!!」

 閃光が去り、視界が開けたかと思うと、突然の大声が聞こえた。
 冒険者達が声のした方を振り向くと、こちらの姿を発見した人物が肩を怒らせ大股で歩み寄ってきた。
 その人物の顔に見覚えがあった一人が、訝し気に名前を呼ぶ。

「はぁ? やたらテンションが高いヒルルクがいるですって? 何言ってるのよ、わたしのテンションはいっつもこん感じよ! って、そうじゃなくて早く準備して!」

 やたら動く表情筋と眉間に刻んだ深い皺でこちらを見てくるヒルルク――――と思われる人物は、テンション高く……というよりも、切羽詰まった感じで話しかけてきた。
 冒険者達は頭の上に幾つもの「?」を浮かべ、辺りを見渡す。

 見た事もない立派で不思議な建築様式。リーンエス王国の王宮だろうか……?
 彼女が着ている服も、何だか変わった服だった。宮廷服のようにも見えるが、ロスガリアでは見た事が無い。

 考えていても解決しないと悟ったのか、冒険者の一人がヒルルク似の少女に問いかけた。

「は? ここはどこって……ちょっと、何をいきなりボケボケかましてるのよ! ここはアルテイナ魔術王国のルスキニア宮じゃない! ねぇ、ほんとに大丈夫? そんな事で戦えるの?」

 ヒルルク似の少女の口から出た言葉に、冒険者達の頭にはさらに追加の「?」が浮かぶ。

 アルテイナ魔術王国? そんな王国がロスガリアにあっただろうか。
 ルスキニア宮? 建物の名前のようだが。……いや、やはりどちらも聞いた事もない。

 とにかく、訳がわからない。
 自分達はパンクリアース学園で、校舎裏の庭掃除をしていたはずだ。
 変わった事と言えば、掃除中に突然、眩い光が見えた事くらいか……。
 光が眩しくて目を閉じて、瞳を開いてみればここにいた。一体ここはどこで、今どういう状況なんだ。
 そんな事を皆が考えていたら、仲間の一人が声を上げる。
 それは、最近学園を賑わせている『ドゥジンの筆』の話。その筆で描かれた物語や妄想が具現化し、辺りがダンジョン化して生徒達が巻き込まれる事件が何件も報告されている……らしい。

 冒険者の一人が今はとにかく情報が必要だと、ヒルルク……に似た少女に問いかける。

「戦うって何とかって? もぉそれはさっき説明したじゃない! いきなり湧いた『異界の門』から瘴気が漏れ出してるのよ! それにやられた人が何人もいるし、もぉてんやわんやよ!! それにそれに、もしかしたら邪竜の眷属が這い出してくるかもしれない! 魔術軍にも応援を要請しているけど、間に合いそうにもないのよ!!」

 早口にまくしたてるヒルルク似の少女。
 更に聞いた事のない単語が沢山飛び出してくる。もう完全に置いてけぼりだ。
 冒険者達は何とか情報を得ようとヒルルク似の少女に色々と聞いてみるが――。

「え、筆? 何で今そんなものが関係あるのよ! そんなこと言ってる場合じゃないって、さっき説明したわよね! ほら、役割分担は現場でやるから、とにかく一緒に来て! この国の運命はわたし達の手にかかってるんだから!!」

 そういうとヒルルク似の少女が冒険者の一人の手を取ってグッと引いた。
 冒険者達はヒルルク似の少女に導かれるままに、後をついて行く。

 ヒルルク似の少女から伝わる緊迫感はとても偽物とは思えない。きっと言っている事は本当で、実際に大変な事が起こっているのだろう。
 この場所の情報を得るにしても、目先の問題を解決しなくてはまともに話を聞けそうにない雰囲気だった。
 『ドゥジンの筆』の所在はわからないが、ここが筆の作り出したダンジョンなのであれば、24時間たてば消滅するはずだ。だが、その間にどれだけの人が死ぬ? 例え物語の登場人物だとしても、彼等は人間――――少なくとも目の前の彼女はそう見える。

 冒険者達は、覚悟を決める。
 俺達私達は『冒険者』だ。ここが何処だろうとも、それだけは揺るがぬ事実。
 危機があるのなら救えばいい。それは『世界』がどこだろうと変わらない。

 瞬時に頭を切り替えた冒険者達は、何時しか先頭を進むヒルルク似の少女に並び歩く。
 禍々しい気配は、すぐそこまで迫っていた――――。

解説

●目的 ヒルルク(似の少女)と共に、魔術王国の危機を救ってください! ●場所 アルテイナ魔術王国の王宮『ルスキニア宮』の中庭。 空中にぽっかりと開いた黒い穴『異界の門』から、禍々しい瘴気が漏れ出ています。 ●人物 ヒルルク アルテイナ魔術王国の宮廷魔術師である、征竜の巫女ヒルルクと瓜二つの少女。 名前も「ヒルルク」と名乗りました。 ●敵 ・瘴気 『異界の門』から漏れ出た禍々しい煙状の物質。 触れたり吸い込んだりすると体を蝕まれ、やがて死に至ります。 ・邪竜の眷属 『異界の門』の向こう側に生息する異形の集団。 人の形をしていたり、動物だったり、空想上の生物だったりと、その姿は様々です。 基本、殴る蹴る噛む引っかくしかしませんが、パワーは相当なものです。 ・『異界の門』 空中にぽっかりと口を開ける黒い亀裂。 長さは5m程もあるでしょうか。とにかく嫌な気配しかしません。 ●補足 アルテイナ魔術王国は、極度に魔術が発達した世界です。 魔術(魔法とほぼ同じもの)は広く浸透し、人々はその力によって豊かな生活を営んでいます。 やってもらう事は大きく分けて3つ。 1:漏れ出た瘴気に当てられた人々の救護。 2:門から這出てこようとする邪竜の眷属を撃退。 3:門の破壊or封印。 魔術とか戦い方とかは、捏造していただいて結構です。あまりにぶっ飛んだ(世界に影響を与えるクラス)のものはちょっとトーンダウンさせるかもしれませんが、思い思いの魔術で『異界の門』と対峙してください! 「なんか体が勝手に」とか「あるはずのない記憶がよみがえり」とか、そんな感じで魔術を使っていただけたらと思います。 ちなみに、ヒルルクは「1」を担当します。 このダンジョンから脱出する方法は「世界のどこかにあるドゥジンの筆を折る」か「24時間経過する」の二つです。 筆の存在は今のところわかっていませんが、物語の中心に『異界の門』がある事から、何か関係があるのではないか思われます。

マスターより

お世話になっております。真柄 葉と申します。 今回のシナリオはエイプリルフールイベント! 今年のエイプリルフールは天魔大戦アポカリプス・ゼロで、王立アプリーリス魔法学院は無い様なので、ちょっとだけ似たような世界観のシナリオをご提供したいと思います! 魔術が主たる世界に放り込まれた皆様は、どんな力を顕現させてどのようにこの危機に対処するのでしょうか。肉体強化系? 魔力放出系? どんなものにしてもPC様に似合った魔術を使っていただければと思います。あ、魔術詠唱なんかも大歓迎です! それではよろしくお願いいたします!

リプレイ


「はい?」

 突然、征竜の巫女に似た小女に話しかけられたエルゼリオ・レイノーラは、ぽかんと口を開けた。
「はい? じゃないでしょ! 何素っ頓狂な声上げてるのよっ! 事は急を要するんだから早く!」
「うわっ! ちょ、ちょっと待ってヒルルクさん!?」
 そんなエルゼリオは、何だかよくわからないけど切羽詰まっているヒルルクに手を引かれる。引かれる腕は抗う事が出来ない程力強い。流石の怪力だなぁ……ってそうじゃない!
「一体どういう事なの!?」
「……そうですか。なるほどなるほど、そういう! わかりました!」
 エルゼリオが改めて問いかけると答えは横から返ってきた。
「この宮廷魔術師ギーゼラ、同級生のヒルルクさんが困っているのであれば、喜んで手を貸しましょう!」
 そう断言しているのは隣を並走するギーゼラだった。
 宮廷魔術師? 同級生?
 聞き慣れない言葉を発する彼女(彼)を見れば、いつの間に着替えたのか、ヒルルクと同じような服を纏っていた。
「……なに、その服――」
「流石ギーゼラ! 頼りになるわね! でも、あんまり無茶はしないでね!」
 と、エルゼリオがギーゼラに聞こうとしたら、ヒルルクの声に阻まれる。
「ああっ! ヒルルクさんが僕の事を頼りにしてくれている! 心配してくれている……! 何たる僥倖! 何たる幸福!!」
「ちょっ! 何悦に浸ってるのよ! あなたの事じゃないわよ! 相手の事を心配しているの!」
「むむ。そうでしたか。ふむ……せっかく全力で壊して癒せると思ったのですが……そうですか。僕の心配じゃない……嫉妬してしまいますね」
「何にっ!? いい、壊すのはOK! でも治しちゃダメ! 相手は異形の軍団なのよ!!」
 エルゼリオは少しでも状況を整理しようと、二人の会話に耳を傾ける。
 異形の軍団? そういえばさっきヒルルクさんが言っていたような……。
「あの、それってどういう――」
 と、再びエルゼリオが声を上げようとしたら――――。

「なるほど……そう。そういう記憶……」

「エルナ……ママ?」
「ええ……そう、私がママよ……コハク。あなたも思い出したのね」
 後ろからエルナ・クルプファルツとコハクの声がした。
 エルゼリオは走りながらも後ろを振り返る。
 そこには見た事もない黒衣(黒い制服)を揃いでまとった二人がいた。
「二人共、何その恰好……?」
「なに……と言われても、アルテイナ魔術学院オウル寮の制服よ……」
 エルゼリオの問いに答えたエルナ。隣ではコハクが、狂犬じみた視線で『ママになんてつまらない質問してる。見てわからないのか』的なあからさまな威嚇オーラを発していた。
「本来なら……学院生が王宮に出張るのはお門違い……でも、報酬(焼きそばパン)を前払いで貰った手前……この美味に見合う働きをするのが、オウル寮生の矜持と言うもの……」
 エルナはどこからともなく取り出した『焼きそばパン』をもぐもぐ。隣のコハクにもアーンしながら、全速力で追走してくる。
 アルテイナ魔術学院……? どこそこ……。
「事態の収拾に成功したら、追加で目玉焼き乗せも用意するから頼んだわよ!」
「め、目玉焼き乗せ……なるほど、それならば仕方ありません……少し……ほんのちょっとだけ、本気を出しましょう……」
 ヒルルクの提案に、エルナの『瞳』が怪しく光る。
 エルナはポケットから極小の箒を取り出すと、文字通り息を吹き込んだ。
 箒はぽんっと小気味のいい音を響かせ本来の大きさに戻る。
「うわっ!? なに、それどうやったの!?」
 と、エルゼリオが驚く中、エルナは軽やかに箒に跨った。
「コハク……私たちは先行して、要救助者の探索に向かいますよ……ついてらっしゃい」
 そんな母の雄姿に目を爛々と輝かせていたコハクが、こくこくと何度も頭を上下させた。
「では……ヒルルクさん、私たちはお先に……」
 それだけを言い残し、エルナはコハクを連れ、空を滑っていった。

「わかるか?」
「いえ、まったく。ただ、最近学園を賑わせているダンジョン化に巻き込まれたのでは、と仮説は立てられますね」
 エルゼリオたちを追走しながらサイラスとヴィルヘルミナは置かれた状況を整理していた。
「あー、あの面倒そーな神具か。って事は、こっから出るにはその神具ぶっ壊す必要があるのか」
「まぁ、そういう事ですね。ただ、それがどこにあるかはわかりませんが」
「なくても1日たてば出られんだろ?」
「そうですが……その間、この物語をどうするかですね」
「どうするって、ほっといてもいいんじゃねーの。俺等が手を出すようなもんでもねーと思うが」
「もちろんそれも良いですが……後味悪い感じがしませんか? 放っておいたら多分あのヒルルクさん、死にますよ?」
「んー……俺は別に絡みないしなー」
「それに神具を見つければ、回収できるかもしれませんよ?」
 そう言って見上げてくるヴィルヘルミナに、サイラスはむっと考え込む。
「……しゃーねぇ、やるか」
「そうですね、少し面白そうですし」
 参戦を決めた二人は追走する速度を上げた。

●
 建物を抜けた先ではバンビが既に異形の軍団と相対していた。
 流石最速を誇るハイスピードキャスター。本の中でも最速だ。
「バンビお待たせ! 状況は!」
「芳しくありませんわね。とにかく数が多いですわ」
 ヒルルクの問いに答えつつも、極大魔術をぶっぱなしまくるバンビ。
「え、バンビさん……?」
「ほら、エルゼリオもぼーっとしてないで準備する!」
「わ、わかった!」
 エルゼリオはこくんと頷く。
 おぼろげながら状況がつかめてきた。ここは本の中の世界(ダンジョン)だ。そして、設定は魔術の世界。であれば、自分も魔術が使えるはず。
「イメージだ。イマジネーションを働かせるんだ……」
 エルゼリオは自ら言い聞かせるように呟く。そして、自分の中にある魔力に問いかけた。
「う、うわ、ほんとにでた……!」
 掌に現出した光のキューブ。
 エルゼリオが持つ光属性の魔力が凝固し顕現したのだ。
「これがボクの魔術『天創(エンジェル・ラダー)』……って、えぇ!?」
 自然と出てきたその名前に、エルゼリオ自身が驚いた。
「……いや、これでいいんだ。これがこの世界でのボクの力……。ヒルルクさん、ごめん、お待たせ。ちょっと驚いて頭が真っ白になっちゃったけど、もう大丈夫。詳しい状況を教えてくれるかな」
 『 敵を知り、己を知れば百戦危うからず 』。
 父からの薫陶を思い出す。
 ここはロスガリアとは違う世界だ。この世界に順応しろ。疑問を捨て受け入れろ。
 エルゼリオが改めてヒルルクに問いかけた。
「もちろんよ! あれが『異界の門』。そして、湧き出てくるのが邪竜の眷属。あれをどうにかしないとこの王宮が……いえ、この国が亡ぶわ!」
「……わかった。あれを何とかするんだね」
 短く答えたエルゼリオが、光の魔力を練り上げる――。

「おー、なんか覚醒してるけど、俺等もできんのか?」
「まぁ、そういう世界でしょうから可能でしょう。……イメージ、ですか」
 ヴィルヘルミナがエルゼリオに倣う様に、頭の中で魔術を練る。
 元来、剣士であるはずのヴィルヘルミナの体内を、膨大な魔力流が駆け巡るのを感じた。
「これが魔術……」
「ほー、なんか光ってんな。んじゃ、俺も」
 自らの中を駆け巡る魔力流の感覚に感動を覚えるヴィルヘルミナの横で、サイラスが瞳を閉じた。
 現実世界でも魔力の扱いを得意とする剣士であるサイラスは、そのコツをすぐにつかむ。
「あーこれをこうすんのか。なるほどなーおもしれー」
 体内を巡る魔力流をあっちへやったりこっちへやったり。
 サイラスは新鮮な感覚に驚きつつも、並行してこれで何ができるのかを見極めていく。
「私の魔術『超雷弾彗星衝(ライトニング・ストライカー)』。なるほど、遠隔魔術ですか」
 自らの中で固まっていく魔術のイメージに、ヴィルヘルミナは不思議と懐かしさを感じていた。
「俺のは『赤炎荒拳(クリムゾン・フィスト)』っていうらしい。どうも、肉体強化系みたいだな」
「肉体強化系の魔術もあるんですね」
 ぐんっと拳に力を入れて見せるサイラスに、ヴィルヘルミナも興味深そうに見つめている。
「ちょっと! 何呑気に魔術談義やってるの! 二人も急いで準備して!!」
 と、事態を把握中の二人の元にヒルルクがやってきた。
「そうですね。では、『魔術』の実力とやらを試してみましょうか」
「は? 何言ってるのよ、そんな事よりあの異形たちを――」
「わかってますよ。こっちのヒルルクさん。先日のあれとの落差で風邪ひきそうですけど」
「えっ、風邪? 大丈夫、調子悪いの……? それならあんまり無理しなくても」
「……まったく、こっちでもお人好しですね。大丈夫です、風邪じゃありません。任せてください」
 不安気に見つめてくるヒルルクに苦笑を返し、ヴィルヘルミナは異形達へ向かう。
 バンビとエルゼリオが押さえてはいるものの、次々と湧き出す異形達に押し込まれていた。
「んじゃ、俺はあっちをやるかね」
 一方、サイラスは戦場の更に奥、瘴気と異形を吐き出す『門』を見つめている。
「ちょっ! 一人で行く気!?」
「誰かがいかねーとじり貧だしなー。まぁ、ヤバそうなら諦めるわ」
「軽っ!?」
「って訳で、後よろしゅー」
 驚くヒルルクにひらひらと手を振ったサイラスは――。
「それじゃ、発動っと。
 『紅蓮障壁(スカーレット・ウォール)』
 『生命の継炎(カーネリアン・ライフ)』
 『赫龍の咆哮(クリムゾン・パワー)』。
 後ついでに『抗う赤鱗(ファイア・ペネトレイト)』」
 頭に浮かんだ数々の自己強化魔術を発動した。

●
 エルナは箒で空を滑り救護者たちが集まる場所へ向かっていた。
 10mも歩けば生まれたての子鹿のようなプルプル具合と揶揄されたのもとうの昔。今は鍛えに鍛えて、11mは余裕で歩ける。もう熾烈な購買の競争にも負けな……話が脱線した。この箒での移動方法を確立してからは、エルナの速度についてこられる者はほとんどいない。空は彼女の領域だった。そして――。

「『死神の眼(イーヴィル・アイ)』」

 エルナが力ある言葉を放つ。
 彼女の瞳が赤く染まり瞳孔が縦に裂けた。
 全ての『命』を見通す魔眼。それは彼女固有の魔術であり、生まれ持った呪いだった。
 魔眼発動に伴い襲い来る激痛にも顔色一つ変える事無く、エルナは再び口を動かし、音の無い言葉を発する。

 エルナの魔眼がコハクの左目とリンクした。


「……さぁコハク。見つけなさい」
 並走するコハクは、こくりと頷くと一気にスピードを上げる。
 コハクは右目を閉じ、エルナと視界を共有する。リンクした左目を血のように赤く染め、映し出されるのは赤薄の世界。そして、無数の白点。

「よくやったわ……コハク。さぁ始めましょう……。ふふ……逃げても無駄……私たちの『眼』からは誰も逃れられない……ふふふ……あははハハハハッ!」

 恍惚としたエルナの声にコハクが頷く。
 コハクは知っている。
 口調がちょっとイっちゃってる感じになっているが、これは魔眼を使用した副作用。普段の優しいママも大好きだけど、高笑いモードに入ったママも大好物。
 でも、ちゃんとやる事はやってる。視界に移る白点は全て『命』。エルナは真面目に要救助者を探し、見つけ、救助に向かっている。
 コハクはそれを知っているから素直に合わせる。ママと繋がれる喜びを嚙みしめながら。

●
 仲間達の力を借り、戦場は膠着状態にできた。今のうちに瘴気汚染者を治療して逃がさなければ。ヒルルクは空中庭園へと避難していた要救助者の元へ駆けつけ、早速治療に移る――――。

「ああっ! なんて腐り具合なんでしょう! まるで動く死体のようじゃないですか!!」

「本当にそう。あの瘴気のせいでこんな事に……ってギーゼラ!?」
「はい! 貴方のギーゼラですよ、ヒルルクさん!」
 突然隣でした声にヒルルクは振り向いた。
「なんでここに居るのよ!? 異形の相手はどうしたの!」
「どうしたのと言われましても、僕はヒルルクさんの為だけに働きます。国とか筆とか知ったこっちゃないので、貴方のすぐ隣で、貴方の手足となり、貴方の求められるままに力を使いますよ!」
 唖然とするヒルルクのその表情もまたギーゼラにはご褒美なのか、恍惚と答えた。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう! あなたも宮廷魔術師なんだから、仕事はきっちりやって!」
「やりますとも! 貴方の傍で、華麗に壊して癒しましょう!」
「それ、わたしの隣な必要なくない!?」
「なくない」
「なくないの!?」
 満面の笑みを浮かべるギーゼラの表情の奥に硬い決意を見て取って、ヒルルクは大きなため息をつく。
「もう、わかったわ! 被害者の皆を一刻も早く癒して、戦場に戻るわよ!」
「はいっ! 貴方とならばどこまでも!」
 再び笑顔で答えたギーゼラは、早速とヒルルクの傍で仕事を始めた。

 彼の魔術は『壊癒(ザ・リジェネレイト)』。
 全てを癒すとまで言われる絶大な彼の魔術は、その落差によって発動する。
 魔術名の通り、壊して癒す。
 極限の苦痛を味わえば味わう程、その効果は大きくなる。
 故に彼は壊す。徹底的な苦痛を味合わせ、究極の快楽を与えるために。
 それこそが、彼の魔術であり力の源(性癖)であった。

「そっちの人はもう少し熟成するまで待ちましょう! あと数十分その不快な浸食に耐えてくださいね。ははっ! 大丈夫ですよ、死なないギリギリはちゃんと見極めますから!」
 要救助者の恐怖を前に、ギーゼラは満面の笑みを返す。
「例え死の淵に居ようとも、僕の魔術をもってすれば、全てが元通り! 綺麗さっぱり治して差し上げますよ!! だーかーらー、その対価に僕に絶望をください! 飛び切りの、人生で一度しかない様な絶望を!」
 もうすでに絶望MAXな要救助者を前に、ギーゼラが高らかに要求した。

●
「む……」
 要救助者を瘴気から逃がしていたコハクが、その異変にいち早く気付いた。
 コハクは急いでエルナの元へと駆けていく。
「コハク……?」
 どうしたのかと尋ねるエルナに、コハクは何も言わずに目を閉じた。
 『死神の眼(イーヴィル・アイ)』の共有がもたらす映像(ヴィジョン)がエルナの頭に直接流れ込む。
「瘴気が……濃くなっている」
 エルナは『門』がある方を見やり、魔眼を発動させる。
 『命』を映す魔眼の視界が黒く染まった。死の気配が濃くなっている。

 エルナは共有を解除すると、上空を見つめた。
 そこにはヒルルク達が救助を行っている空中庭園がある。
「コハク……ここの人達を上(ヒルルクの元)に運ぶ……いけるね……?」
 その問いに当然だと頷いたコハクはエルナに借りた魔眼を閉じ、右目で『空』を睨み付けた。

 体の中で何か(魔力)が蠢く。でも、コハクはそれが何かを知らない。
 でも、そんなものはどうでもいい。感じる事が出来れば、それは可能なのだから。

 コハクは自慢の尻尾で要救助者を優しく抱くと、何もない場所で跳躍した。

――キーン……。

 甲高い音を響かせて、コハクが空中に立っている。
 更に上空を睨み付ける。

――キーン……。

 不可視の飛び石。
 コハクだけに見え、コハクだけが踏める、魔術の階段。

 隣ではエルナが浮遊魔法で要救助者を空に上げている。
 二人は協力し空中庭園(ヒルルクの元)へと要救助者を運んでいく――。

●
「数が多いですね。弾数に制限のある私の魔術では不利ですか」
 ヴィルヘルミナが放った雷電雷弾(ソニック・ブリッツ)は、異形達の中心へ着弾。弾丸から膨大な雷火をほとばしらせ、周囲にいた異形を焼き尽くした。
 しかし、異形の数は一向に減らない。『門』より出でるその数は増え続けていた。
「それでもここを維持しないと! サイラスさんの方へやるわけにはいかないよ!」
「そうは言いますが、多勢に無勢ですよ」
 熱く燃えるエルゼリオに、冷静に返したヴィルヘルミナはチラリとバンビを見やる。
 彼女も懸命に魔術を撃ち続けているが、この状況を打破できるとはとても思えない。
「それでも、何とかするんだ!」
 エルゼリオは体内を巡る魔力に訴えかける。

  創造こそが、我が力。奔れ、極限まで。

 現世で培った想像力(イマジネーション)を最大にし、結果をイメージする。

「シグ・ルドハース・ラム・オ・リガロッド 汝、白き魂にて我を清めたもう。天界に座す真王よ。至尊の高者、強き集いのうちに、我は旭光の衣を身に纏いたり。今新たなる契りによる光芒の力束ねん――――『極光煌牢陣(アブソリュート・クリエイション)』!!!」

 像を結んだイメージを力ある言葉と共に吐き出すと、異形達を囲むように『光の檻』が出現した。
「まだ!」
 光を凝縮させろ。
 檻のイメージをキューブへと。

「『光縮(グラスプ・プレッシャー)』!!」

 数十体の異形をその内に抱えた『光の檻』に向け、エルゼリオが再び力ある言葉を発した。
 檻は内包した異形もろともその体積を縮小していく。
 ついに『光の檻』は小さな光のキューブと変わり、コロンと大地に転がった。

「で、出来た……!」
「お見事。かなりの量を減らせましたね。これなら」
 自らの魔術の結果に驚きつつも安堵するエルゼリオに声を駆けると、ヴィルヘルミナは異形の群れへ突っ込んだ。
「えっ!? ヴィルヘルミナさん、もう魔力の残弾が……!」
 背後から聞こえるエルゼリオの声に、後ろ手で親指を立て応えながら、ヴィルヘルミナは『超雷弾彗星衝(ライトニング・ストライカー)』の真の発動条件を確認した。

 何もない所から創造(クリエイト)する。それが如何に難しいかを実感する。
 想像(イマジネーション)を創造(クリエイト)。
 エルゼリオが目の前で見せた超魔術をヒントに、それ(イマジネーション)を現実世界へ引っ張ってくる。

「なんとも、融通が利かない魔術ですね。一体誰に似たのでしょう」
 自らの魔力の我儘っぷりに呆れつつ、ヴィルヘルミナは魔力を組み変えた。

「『翠天の霹靂(ライトニング・ペンタグラム)』!」

 彼女の力ある言葉と共に雷電雷弾(ソニック・ブリッツ)の着弾点から翠の雷が奔る。大地から天上へと向けて。
 地に五芒星を刻むように昇った雷閃は、ゆっくりと鎌首をもたげ五芒の中心へ収束していった。
「さぁ、あなたはどんな姿をしているんですか? 私に見せてください」
 ヴィルヘルミナの問いかけに呼応する様に、五芒星の中心へ『残骸』が集結していく。
 『残骸』は中心で歪に絡み合い、融合し……巨大な人型(エメラルドの巨人)へとその姿を変えた。

●
「うへ、派手にやってんなー」
 『光の檻』と『翠の巨人』が異形達を蹴散らすのを横目に見つつ、サイラスは戦場を迂回し『異界の門』に肉薄していた。
「近くで見ると意外とでかいな」
 長身のサイラスをすっぽりと呑み込めそうなほど大きく口を開ける『門』は続々と異形達を吐き出している。
「どうすっかねー。とはいえ封印魔術とか閃かなかったし、やっぱぶっ壊す方向か」
 サイラスはすぐに不要な可能性を捨て、更なる魔術『停滞する焔翼(フレイム・クレッセント)』を発動した。

 焔翼を背に赤竜が空に上がる。
 上空から『異界の門』を覗き見れば、禍々しさと共に一種の神々しさを感じた。
「この感じ……神具か?」
 神々しさの正体を直感がそう告げている。
 サイラスは更に追加の魔術を発動させた。
「『邪竜の血眼(ブラッディ・アイ)』っと。さてさて、どこだ……?」
 サイラスの瞳が血の色に染まり、血の視線が禍々しい渦を睨み付ける。

●
「フフフ……苦しいですか? フフフ……辛いですか? もう少しですよ。もう少しで『完成』します」
「なーにやってんのっ!!」
 慈悲を請う要救助者を前に、恍惚の表情を浮かべていたギーゼラに、ヒルルクのツッコミが入る。
「あぁ……ヒルルクさん、無意味な暴力はいけませんね。やるなら、徹底的に壊さないと」
「だから、壊すのは異形だけにしなさいって言ったでしょう!」

「随分賑やかね……暇なら……この人たちも、お願いできる……?」

「おやおやおや? そんな所にも腐りかけが居たんですね。もちろん大歓迎ですよ!」
 ツッコまれた頭を撫で撫でしつつギーゼラが声のした方を向くと、エルナとコハクが次々と要救助者を運んできていた。
「運んでくれてありがとう。でも、なんでわざわざここまで……?」
「瘴気が……濃くなっている……早く治して……避難させて……」
 訝し気に問いかけたヒルルクに、エルナは下方を指さし答えた。
「……ほんとだ」
 確かに門の方角から濃い瘴気が押し寄せている。
「ふむ、困りましたね。これでは熟成期間が短くなって――――わかってますってば。その鈍器の一撃は流石に苦痛を楽しむ前に一撃死してしまいます」
 ヒルルクがどこからともなく取り出した鈍器(ハンマー)に苦笑しつつ、ギーゼラは要救助者を視界に入れた。
「少し早いですが仕方ありません。それでは、僕が超一流の魔術師だという事を再確認させてあげましょう!!」
 高らかに叫んだギーゼラは、庭園で苦しむ要救助者に向け有り余る癒しの魔力を爆発させた――。

●
 それは渦中の中心にあった。
「痛ってー。本の中でもちゃんと痛覚あるのね」
 最硬に強化させた腕すらも赤熱させる瘴気の威力に感心しつつ。
「もうちょい……っし、届いた」
 ようやく届いたそれを掴むと、サイラスは一気に引き抜いた。
 ドゥジンの筆。神々しさの正体は間違いなくこれだった。
「さて壊すか。欲しいのは素材だけだし」

――パキン。

 サイラスが躊躇なく筆に力を込めると、それはあっさりと折れた――――。

 世界が反転する。

「……ここは」
 瞳を開けると、そこはパンクリアース学園の校舎裏だった。
 筆が壊れ世界が元に戻った――――いや、ダンジョンが閉じたのだろう。
「戻って来たみたいですね」
「だなー。ま、神具の欠片ゲットだな」
「たぶん回収されますよ、それ」
「なぬっ!?」
 どうにか入手(ないない)できないかと思案するサイラスに、ヴィルヘルミナは苦笑する。

「はっ……あ、あれ? 私はどうしてのでしょう……」
「ルナ母さん」
「コハクさん? あれ、なんでしょう。不思議な感覚が……」
 エルナは左目を押さえ首をかしげる。
「楽しかったね」
「楽しかった……ええ、そうですね。何かとても楽しかったような気がします」
 エルナとコハクは二人でくすくすと笑い合った。

「ヒルルクさん、見てくれまし……むむ、学園?」
 ギーゼラは振り向いたまま表情を曇らせた。
 せっかく褒めてもらおうと思ったのに、どうやら世界は終わってしまったらしい。
「儚い夢でした……」
 がくりと肩を落とすギーゼラ。
「はは、確かに。でも、悪くなかったかも」
 エルゼリオはそんなギーゼラに苦笑しつつ、彼女に握られた腕を見る。
「……ヒルルクさん、そちらの世界でもどうか元気でね」

 こうして、学園を騒がせた『ドゥジンの筆』騒動の一つは、幕を閉じたのだった――。

マスターコメント

おつかれさまでした! いやー、久しぶりに厨二心全開で書かせていただきました! さて、皆さんのおおかげで無事ドゥジンの筆は破壊。ダンジョン化も解消されました。 一連の騒動の一つがここに解決したことになります。 【学騒】連動はまだまだ続きますので、引き続きお楽しみいただければと思います。 それではご参加ありがとうございました! お楽しみいただければ幸いです!
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ難しい 報酬:標準7 / 6〜8人

2022年04月12日 18時20分09秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー まあ個人行動というか個人妄想で戦うような感じで良いのかなと とりま3の門の破壊狙ってみようかなと?

  2. ヴィルヘルミナ

    ヴィルヘルミナです。よろしくお願いします。 成立まで後二人ですか。 とりあえず私は2で行ってみようかと。

  3. ギーゼラ

    ギーゼラです。よろしくお願いします。 フフフフフ、僕は魔術王国でヒルルクさんに心酔する同胞!!という記憶が蘇ってきました! ヒルルクさんが望むのであれば何でも致しましょう!! 僕が得意なのは治癒の魔法なので1を希望しておきます。 僕の魔術を持ってすれば救えない人などいませんとも!

  4. エルナ・クルプファルツ

    アルテイナ魔術学院オウル寮四年……エルナ・クルプファルツ……そういう事になってる……よろしく…… 報酬分は働くから……期待してくれていい…… 私も1で行動しようと思う……私の『眼』は要救護者の捜索に向くから……

  5. コハク

    コハクよ、皆よろしく。 今回はかあさ……エルナと一緒に回る予定

  6. エルゼリオ・レイノーラ

    エルゼリオ・レイノーラです。今回はヨロシクね! ボクは――2に行ってみようかな?

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0