【暗輸】かえられぬもの【求和】
崎田航輝
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シナリオID:1995
オープニング
街の商館にて、モクトル・モハは冒険者達へ礼を述べていた。
それは犯罪組織“商会”の打倒がなされた事についてだ。
“商会”は消え、現在ターブは復興を協議中。細かな事柄については、これから決まっていくだろうという事だった。
同時に――事件は終わったわけではないとも言う。
「“商会”の裏に黒幕がいたようですね」
それは冒険者達が“商会”の首魁ビレゴーから聞き出した情報の事。
ビレゴーは確かに“商会”を総べていた。だがあくまで傀儡で……利益の大部分を吸い上げていた別の存在がいた。
それこそ、一連の事件の諸悪の根源だ。
「その者は“商人”と名乗る人物だと言いますが――」
そこで、モクトルは別の資料を取り出す。
「実はこれについて、冒険者ギルドから共有された情報があるんです」
それはリーンエス王国は西部、レッドラントという伯爵領で起こっていた――内乱の計画に関わるものなのだという。
●賢人会
この情報を齎したのは、レッドラントを治めるヒゼンベルク・メルべ伯爵だ。
彼に力を貸す冒険者達によって、詳らかになった事には――
「伯爵の弟、クロックワード・メルべ氏による意図的な紛争の計画があった、と」
曰く、兄を陥れ、自身が一帯の管轄権を手に入れようという謀略だったらしい。
それ自体は、解決にあたっていた冒険者達によって未然に防がれたのだが――
「クロックワード氏は操られていただけで、裏に糸を引いていた人物がいたのです」
その人物は“賢人”を自称する男だという。
クロックワードをマインドコントロール下に置き、計画を主導させていた――言わばヒゼンベルク達にとっての真の敵だろう。
そして、と。
「ここに私達が目指す“商人”も関わっているらしいのです」
「この辺りの情報は、内乱阻止の戦いで捕縛された鍛冶師らも証言しています。敵の内情を知る者達らしく、信頼出来る情報のようです」
曰く“賢人”とは――メドゥの指先の構成員らしい。
「単独ではなく、二人の構成員仲間と共に“賢人会”というチームを作り活動をしていたと言います」
残る二人はそれぞれ“武人”と“商人”。
「“賢人”が頭脳となり、“武人”と“商人”が中心戦力や物資の調達などを分担して動く……そんな連中のようですね」
そしてその“商人”こそが、こちらが目指すべき黒幕に他ならない、と。
「というのも、皆さんが聞き出した“商人”の居場所――王国南西の一角が、“賢人会”における“商人”の拠点と一致したのです」
即ち――“商人”は“商会”経由で吸い上げた莫大な金を、レッドラント内乱計画の活動資金にあてていたのだ。
「エルムポートや、近隣の街から不法行為によって掠め取られていた利益は……王国での領地転覆計画に使われていたという訳です」
これを許す事は出来ないと、モクトルは語る。
「ただでさえ、貸しの全てを返して貰った訳ではありませんから」
“商会”こそ潰えたものの、“商人”に奪われた利益の大きさは計り知れない。
「いち商人としても、看過することは出来ません」
借りは返す。貸しは返してもらう。
その思いに変わりはない、と。
「ですから、最後に――“商人”の打倒を依頼させて頂きたいのです」
商人は今、王国南西で内乱に使う予定だった勢力と共にいるはずだという。
「ただ、内乱が失敗に終わった以上、動きは予想出来ません」
少なくとも居場所が知れた以上、南西からは逃走する可能性もある。
「そうなる前に、強襲する形で捕らえて下さい」
とはいえ、相手はメドゥの指先。警戒をもってあたる必要があるだろう。
何より、南西に集まった勢力は多勢だという。
「戦力を集める働き自体は、ゴールディのマフィアがやっていたようです。そのマフィアは各地を動いているようですから、今現在、勢力の全てが拠点に居るわけではないでしょうが――」
それでも“商人”が守りを薄くしているとは思えない。
「金にものを言わせて、あらゆる事をやってきたような人間なのでしょう。勢力を盾に使うくらいの事はするはずです」
ただ、こちらも引き続き、街で集めた傭兵らを同行させる事が出来る。
「敵の雑兵は彼らに任せて、皆さんは“商人”を目指して下さい」
内乱計画の根絶、被害拡大の阻止。
ひいては全ての健全な取引を行う商人達の為にも、と。
●商人
「内乱計画は失敗、か」
早馬からの連絡を受け、“商人”は呟きを零す。
無駄な消費をしたな、と。
見回すそこは――王国南西の荒野に作られた集落だった。
即席の村のような環境に、内乱に使う予定だった賊らが泊まる建物や、武器庫が幾つも並んでいる。
ここにいる勢力だけで百人以上。
“賢人”からの連絡を受ければ、マフィアに管理を頼んでいる勢力の残りと合流し、いつでも出立出来る――そんな臨戦態勢の拠点であった。
尤も、内乱が阻止されたならここに意味はない。
それが判っているから、“商人”はため息をつく。
敗北よりも、費やしてきた資金が無為になる事を危惧しているのだ。
「――誰のおかげで作戦が実行に移せたと思っているのだか」
そう呟く相貌は、頬がこけており痩せている。
長い髪で隠れた目許だけが鋭く……周囲を窺う眼光には、抜け目のなさと共に、誰にも信頼を置かぬ暗さが滲んでいた。
“賢人会”は、メドゥの指先の構成員三人による小組織だ。
役割分担は単純で、“賢人”が策を弄し、“武人”が中心戦力を揃えて動く。
それによって多くの成果を挙げてきたのだが――計画を実行に移す際、必要になる金銭や物資の全てを手配するのが“商人”の役目だった。
つまりは三人の中でも一番、裏方役である。
だが、それは力の弱さを意味しないと“商人”は自負していた。
――人も物も、動かすには金が要る。
元手がなければ戦力は力を発揮出来ない。作戦も机上の空論に過ぎない。
即ち金は全ての原動力でありエネルギーで――自身こそがそれを担っているのだ、と。
“賢人”の頭脳も、“武人”の手腕も、金がなければ全く意味をなさない。
“賢人会”が成り立っているのは、ひとえに自分があらゆるものを準備する事が出来るからなのだ、と。
「一番偉いのは、金を持ってる人間だというのに」
“商人”は常々、それを実感している。
賊なら、少額の金でも人の命を奪う。
頭のいい人間だって、札束を積まれれば意志が揺らぐ。
人間には優劣あるが、等しく金には弱いのだ。
つまり、金を自在に扱える人間がいればそれが最強だ。“商人”は自分がそうなのだという経験に基づいた自信があった。
街を買った。人を買った。勢力を買った。
だから“商人”は、金というものが好きだった。
内乱の失敗でそれも無駄に終わる可能性があるが――
「まあいい」
“商人”は落胆しない。
計画は行き倒れればそれまでだが、集めた資産は消える訳ではない。
今の勢力と資金があれば、逃げる事も、“賢人”らとの合流も……そしてそこから計画を練り直す事も出来るだろう。
「ひとまずは、撤退だな」
それから“商人”は、豪奢な屋敷にも見える仮住まいで――陶磁のカップを手に取る。
ここでは一度退くけれど。
「……何でも買えるんだよ」
そう、どんな勝利でさえも。
だから“商人”は焦らずに。成功の味を先に噛みしめるように、高級な茶を味わった。
解説
マスターより
リプレイ
砂丘と砂風に隠れた先に、その場所はあった。
「やっと黒幕が手に届くとこまで来たな」
荒野に忽然と現れた“商人”の拠点を――ハヤト=ガラン=ヴォルファングは遠目に望んでいる。
建物に、櫓。守りは固く……多くの手勢がいる事も窺えた。
それでもララベル・サン・ディーベルは怯まない。
「もう、こんな事件を起こさせるわけにはいかないからね」
「ああ」
ルチル・プルメリア・グレイハーツも頷く。
クロックワードの反乱未遂がここに繋がった。故にこそ、事は同盟の平和だけに留まらないのだから。
「確実に捕らえるよ」
皆も頷いて、進軍し始める。
堅固な拠点に対し――冒険者達がとった策は二手に分かれる事だった。
その東側。
傭兵と共に前進しながら……セリオス・オーガストは既に弓を握っている。
視覚を研ぎ澄ませて見据えるのは、櫓だ。
「あれなら、狙えるか」
櫓には見張りが一人。
周囲には雑兵がいるが、射線は塞がれていない。
「落とすなら今ですね」
オゴスがそう語るのは、敵がこちらに気づいていないからだ。
距離だけが理由ではない。冒険者も傭兵も……皆が砂色のマントで景色に紛れているのだ。
無論見つかるのは時間の問題。だが、一瞬でも早く行動出来る事に意味がある。
直後、セリオスは弓弦を引き絞って射撃。矢で白銀の軌跡を宙に描き――櫓上の見張りを穿ってみせた。
見張りは痛みと驚愕に大きくよろけながらも、倒れはしない、が。
とっさに弓を引こうとするその直前、その視界が光に飲み込まれる。ヴィナスが閃光塗弾を投擲していたのだ。
「……っ!」
見張りが目を押さえてふらつくと、その間隙にヴィナスは櫓を登攀。相手が動けぬ内に弓弦を切断し、拠点の外へ蹴り落としていた。
これで後は味方に任せられるだろう。
「ここからは時間勝負だね」
見下ろせば、櫓の傍の雑兵が騒々しい声を上げて迎撃態勢に移っている。
ただ、それでもルチルは焦らずに。
「まずは挟撃だね」
味方の傭兵を上手く動かし、その雑兵を挟む形で進軍させて優位を取る。
それからルチルは栗鼠のラトを西に送り、状況を把握しながら……自身は拠点内部を素早く観察した。
「奥からも大勢出てくるよ」
「俺が上から見ます」
と、櫓へ登るのはオゴス。降りるヴィナスと入れ替わる形で屋根に陣取った。
拠点内を見渡すと、確かに雑兵が建物から出てきている。
ただ、全員がこちらに向かってきているのは狙い通りでもある。現状では、敵の中に強者の姿も見えないから。
「となれば、まずは櫓ですね」
南北を見れば、その櫓にも無論見張りがいる。こちらが内側まで進軍すれば、容赦なく挟み撃ちで射掛けてくるつもりだろう。
ただ――そちらに既に走っている影があった。
ララベルだ。怒号と争いに紛れ、その間をすり抜けて……南の櫓まで辿り着いている。
見張りも気づいてはっとする、が。
「遅いよ!」
ララベルは跳躍。壁を蹴り上がり、見張りの眼前にまで到達して。
「喰らえ、烈風三連突き!!」
神速の刺突。鮮やかなまでの連撃で腕、腹部、胸部を抉り……見張りを弱らせていった。
北側へは、ヴィナスが向かっている。
気づいた見張りは矢を放つが、ヴィナスは身を躱して回避。建物の屋根から屋根へ走り……その櫓へ辿り着いていた。
「もう撃たせないよ」
そのまま刃を奔らせ、見張りの膚を斬り裂いてゆく。
敵の雑兵の一部は、東の櫓を落とそうともしている。が、オゴスは抜け目なくそこへ魔力を放って沈めていた。
同時に敵勢の中に、動きの違う者を発見して声を投げる。
「雑兵のリーダー格が現れましたよ」
その尖兵は、観察すれば比較的厚い装備をしており判別はしやすい。
ルチルもまたラトの分身を櫓に上げており、共有した視界からその姿と距離感をしかと把握している。
そのまま射線が通る位置へ動いたルチルは……鋼弦へ光の矢を番え、射撃。宙で矢を爆裂させて周りの雑兵も共に巻き込んだ。
尖兵は流石に一撃では倒れないが――
「倒れるまで撃つだけだ」
敵が反撃に入るより先に、矢を放つのはセリオス。
正確な軌道を描いたそれが尖兵に突き刺さると――オゴスも丁度よいタイミングで櫓を捨てて拠点内の建物上へ。
そのまま光球を雨と降らせ、雑兵の数も減らしながら尖兵を気絶させた。
ルチルは油断なく戦況を見渡しつつ、西の状況もつぶさに把握する。
「さて、向こうは――」
「上手く行ってるみたいだな」
東の戦闘が始まった音を聞いて……海神・江流が呟く。
西側、別働隊。
こちらは少数で隠密するという方策通り、砂丘に隠れて拠点西端に迫っていた。
東側が騒がしくなり、ほぼ全ての敵がそちらに向かうと――それこそこちらが仕掛けるタイミング。
「それじゃ、行こうか」
キオルティスが言うと、ハヤトも「ああ」と頷いて走り出す。
西にも櫓はある。だがその見張りの注意も東に向いており……その好機にハヤトは壁を蹴り上がって櫓の上へ。
「うるぁ!」
強烈な蹴りで見張りの体をくの字に曲げさせると……踵落としで脳天へ二撃目。続く拳打で櫓から落とし、一瞬で意識を奪っていた。
周囲には雑兵もいるが、数の面でもキオルティス達にとって強敵ではなく。
「構わず行くよ」
キオルティスが火の粉を払うように、邪魔な相手だけ剣でなぎ倒してゆくと――
「了解」
応えた江流も追随。立ちふさがる敵を砂丘の谷へと突き飛ばし、前進を優先。“商人”がいるであろう建物に辿り着くと――小さな窓を見つけて中へ視線を注ぐ。
逃亡するなら、必ず中で移動をするはずだ。江流は視覚を研ぎ澄ませてそれを探り……回廊を進む男を見つけていた。
その男は金らしきものが入った袋を持っており――
「“商人”に間違いなさそうだ」
「裏口が二箇所あったよ」
と、キオルティスも南北に近い位置にある扉を見つけている。
二人は頷き合うと、そのまま双方に分かれて突入し――脱出を図ろうとしていた男、“商人”を前後から捉えていた。
「……!」
はっとした“商人”は、すぐに事態を察知したろう。即座に私兵を呼び自身を守らせた。
が、それはこちらも予想済み。
江流は敵を挟んでキオルティスと合図を出すと――閃光塗弾を投擲。光で“商人”と私兵全員の視界を奪う。
敵が呻くその一瞬に、キオルティスは疾駆。刃を踊らせて私兵の一人を斬り裂いた。
守りは弱かったのだろう、その私兵は崩折れて倒れる。
数瞬後には敵の視界も回復するが……その頃には江流も攻勢。二振りの刀を奔らせて自身の側の私兵を気絶させた。
残る私兵は魔矢を放ち、“商人”もその隙に突破を狙う。だがキオルティスも江流も耐え抜き――立ち位置も崩さず。
「やられはしないよ」
キオルティスが私兵を斬り伏せれば、江流もまた頷いて残る一人を打倒。
「こっちにはまだ仲間もいるからな」
そして江流の言葉通り――直後にはハヤトも合流。
こちらもまた閃光塗弾を放って“商人”を怯ませると、跳躍して肉迫。
「“商人”だな。ここで落とさせてもらうぜ!」
挨拶代わりに、痛烈な蹴撃を叩き込んでみせた。
●決着
(“商人”が見つかったようだね)
ラトの視界からそれを見ていたルチルは、改めて東側を見回す。
こちらは味方勢力が拠点の只中まで侵攻し、徐々に優勢に傾き始めていた。
ただ、ルチルは即断はしない。視線の先、離れた位置に三人の尖兵がいて……その対処如何で戦況はいくらでも変わると判っているからだ。
西にはヴィナスも向かっている。故にこちらが今やるべき事は、冷静さを保って――
「あの三人を叩くよ」
「うん!」
応えたララベルも即行動。
櫓から近場の尖兵へ向けてひらりと飛び降り、そのまま刺突を見舞って。
「ほら、こっちに来ないと僕がお前達のボスの所に、一気に向かってしまうよ!」
言いながら間合いを取り、相手を引きつけてゆく。
その間、前進してくるもう一人の尖兵にも――建物上からオゴスが狙いをつけていた。
「行かせませんよ」
瞬間、顕現した光弾を無数に注がせ、雑兵も巻き込んでダメージを与えてゆく。
残る尖兵は、敷地の端を通ってこちらの不意を突こうとしていたが……ルチルがそれを見逃すはずもなく。
「仕留めるよ」
「ああ」
応えるセリオスも射線を確保して、弓を構えていた。
尖兵もそれに気づいて接近を急ぐ。が、セリオスの射撃が早い。
明滅するエーテルを棚引かせながら飛翔した矢は、吸い込まるように豪速で突き刺さり――血潮を噴出させながら尖兵をよろめかせた。
それでも踏みとどまってはいたが――
「終わりにしようか」
と、ルチルも射撃態勢。精確に、そして鋭い矢撃を装甲の隙間に突き刺して……その一人を倒していた。
ララベルの方には、周りの雑兵も攻めてきているが――ララベルには想定済み。
「薙ぎ倒させてもらうよ」
言葉と共に細剣を掲げると、鮮やかなまでのエーテルを輝かせて。
「唸れ光塊圧殺!」
刹那、一撃。巨大な光の塊を叩きつけ、雑兵もろとも尖兵を気絶させた。
「こっちは倒したよ!」
「では、こちらも」
と、オゴスも自身を追ってきた尖兵へ魔力の塊を投射し、地に沈めていた。
「強敵はもういないね」
戦況を見取ったルチルが言うと、セリオスが皆へ向く。
「雑兵はこちらでやっておく」
「では俺達は西へ」
オゴスの言葉に、ルチルも頷いて走り出す。
「……冒険者か」
数歩後退しながら、“商人”はこちらへ視線を奔らせていた。
その声音には憤怒の色がある。ただ、あくまで逃亡を第一に狙っている冷静さもあるようで――
「――通さないさ」
江流にもそれが判るから、“商人”が動こうとした瞬間に距離を詰めて連閃。短刀を持つ腕先、そして上半身を斬り抉る。
“商人”は下がりながら、それでもまだ体力を保っていはいるようだった。
(帷子か)
流血の少なさに、観察していたキオルティスは素早くそれを見て取る。
単純に、生命力も高いのだろう。
(それでも、隙はある)
“商人”が背を見せているその一瞬に、キオルティスは肉迫。勢いのままに斬撃を繰り出して――守りの薄い足元を斬り捌いて動きを鈍らせる。
「今だよ」
「ああ!」
そこで応えたハヤトが高く跳ぶ。そのまま頭上から仕掛けるようにして……まずは強烈な蹴り落とし。
相手の体が揺らぐと、更に回し蹴りと打突を喰らわせて壁へ叩きつけた。
ただ、“商人”はそれも体勢を直して江流へと刃を振るう。素早い連撃は容易に回避出来ず、江流はその鋭さにも僅かに眉根を寄せた。
(そう長く対峙出来る相手じゃないな)
だがそれも一対一であればの話。
仲間がいるならば……この状況に持ち込めた段階で、退路さえ塞げれば勝ちは近いという確信もあった。
故に、江流は反撃をすると焦らず一歩下がり、逃げ道を封じる事を優先した。
こうやって戦況を守っていれば――仲間もやってくる。
「加勢するよ」
直後、扉を破って東側から飛び込んだのがヴィナス。
“商人”が防御態勢を取る暇もなく、零距離へ迫って刃を大腿へと突き刺した。
「……っ!」
苦悶に“商人”がよろめくと、キオルティスも攻勢。帷子の造りを読み取って――その切れ目へと鋭い斬撃を加えた。
血潮を零して“商人”が膝をつく。
その間に江流が自身を癒して万全の体勢を整えたところで、ヴィナスは皆を見回す。
「無事かい」
「ああ」
ハヤトが応えれば、二人も頷きを返す。
“商人”は僅かに歯噛みをしていた。敗北の可能性が、脳裏にちらついているのだ。
故にこそ逃亡を目論むが――四人が相手では思うようには運ばない。キオルティスと江流の挟撃、ハヤトの猛攻とヴィナスの支援で、形勢がこちらへ傾き始めていた。
倒れ込む“商人”は、這ってでも外を目指そうとする。
が、その腕に飛来した矢が穿たれる。
合流したルチルが放ったものだ。
「諦めたほうが懸命だよ」
「ええ」
言って、オゴスもまた歩んでくる。
オゴスは建物の内装を見回した。
「荒野のアジトにしては、豪勢なもんですね。これを捨てでも逃げたいと?」
「……こんなもの、何でもない。それこそ、金があればいくらでも造れる。金こそが、力なのだからな」
商人は嘯きながら抵抗姿勢で立ち上がる。
故にオゴスは魔導書を翳していた。
「金こそ力、ですか。ゴールディの民としちゃあ一部理解できる面もありますが、完全な賛同は出来兼ねます」
どれだけ金を持っていても“終わり”は訪れるのだから、と。
瞬間、放った魔力で商人を転倒させる。
江流がその体を押さえつけて。
「後は頼むよ」
「うん」
キオルティスが最後に一撃を加えて気絶させ……そのまま捕縛した。
「はっ!」
ララベルは傭兵達を先導しながら、刃を振るう。その一撃で雑兵が倒れると――同時にセリオスも矢を放って敵を打ち倒していた。
それが最後の一人。
「終わったな」
「うん」
言って二人で見回すと――そこには倒れた雑兵達の姿。
味方の傭兵は負傷者も少なく……欠員の無い形で勝利を迎えていた。
その皆が勝利に喜びの声を上げていると、丁度“商人”を捕らえた面々も西から合流してきた。
ララベルはそちらへ目を向ける。
「皆、無事?」
「その男が“商人”か」
セリオスも歩んでゆくと、ヴィナスは頷いて“商人”を座らせた。
「後は、必要な事を聞くだけだよ」
「何も判っていない奴らめ――」
と、意識の回復している“商人”は、ここに及んでも憎まれ口を叩いている。
ヴィナスは息をつくと“商人”をひん剥いて……閃光塗弾の塗料を下着の中に注いだ。
「価値を失ったご自身が金みたいに光ってるといいよ」
「やめろっ――!」
“商人”が藻掻くから、ヴィナスは「判ってないのはそっちだよ」と見下ろす。
「時勢を見、社会全体の為に経済を回し、時には支援して新たな客を生んでこそ真の商人……。紛い物は商売の邪魔だよ」
「……」
「商人名乗ってやってた数々、穏便に言っても腹立ってるからね?」
その言葉に“商人”は俯く。どちらにしろ、抵抗は無為と悟ったろう。
ハヤトはそこへ目線を合わせる。
「話す事を話すんなら、命ぐらいは助けてやるさ」
「……」
すると観念したように――“商人”は“賢人会”と企てについて話し始めた。
それを聞いて江流は息を吐く。
「やっぱり、ここの勢力をぶつけて内乱にする予定だったか」
「その活動費用を稼ぐのが仕事だった、という訳だね」
キオルティスも呟く。
その“商人”の思惑も、ここで潰えた。
「ご丁寧に、取引の記録もあったよ」
と、ルチルは書類の束を持ってくる。行動を裏付ける証拠となるだろう。
同盟に留まらず、国を跨いで商業に仇なした非道。その全てが詳らかになってゆくはずだ。
「じゃ、撤収を始めっか」
必要な情報も聞き出すと、ハヤトの言葉に皆は頷いて。爽やかになってきた風の中――拠点の収拾と、帰路へつく準備を始めた。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:多い8 / 4〜8人
2022年03月26日 00時11分57秒 公開
相談掲示板
情報屋のルチルだ。 こちらも大詰めってとこだな。最後まで気を抜かないように行こう、よろしく。 現場周辺は隠れる所がなく、此方の接近は筒抜けと見るべきか。 “商人”の仮住まいは最も奥まった場所にあるから、手勢に足止めを食らっていると十分逃げられる時間を稼がれちまうね。 手勢の鎮圧をする傍ら、本丸を抑えに行く別動隊を用意しておいた方が確実に捕らえられるかね。 またこれまでのように傭兵達が味方戦力にいるが、見張りや尖兵が援軍を呼んで…と感じで動かれたら確かに数の優位を崩されてしまう。 とりあえず優先すべきは哨戒担当であり遠距離攻撃を使う見張りと見て、援軍が来る前にささっと倒していく手際の良さも必要になりそうだね。
シーフの海神江流だよ。今回は宜しくね。 櫓の上に居る見張りは、シーフが壁歩きとかホライゾナルで当たれば手早く排除できたりするかな? 今の時点で既にシーフ4人だから展開力は高そうだし、ある程度強敵を抑え込めれば、多少強引に突破していくやり方も有りかもしれないね。 とはいえ、敵の雑兵の数が多いし、味方の戦力を置き去りには出来ないから、短縮的な動きにならないようには気を付けないと、かな?
シーフのオゴスと申します。どうぞよろしくお願い致します。 これから二名参加者が増える可能性もありますが、シーフの冒険者が多いようですね。 俺は魔法を扱うのも好きなので、魔導書か祭刀で回復や魔法攻撃を行いましょう。 壁歩きは敷地内での戦いで便利に活用できそうですね。 商人はシーフでしょうか。逃げ足が速そうです。退避したところを追って仕留めるのにも役立ちそうです。 別動隊の案に賛成です。 もっとも俺は扱う武器の都合でシーフにしちゃあ足が遅い。別動隊の役は不向きそうです。
シーフのヴィナス。よろしくね。 別働隊は賛成。 移動手段も多彩だし、雑兵の数に物を合わせた壁にも対応できるかなと思う。 別働隊がいる可能性は相手も読んでいると思うし、慎重、けれど逃げる時間を与えずにいきたいね。 どの方角から攻めるかも重要そうだ。 まあ、味方戦力は西に不向きだと思うけど。
定員まで人数が揃ったようだね。 8人中6人がシーフだから現実的な規模で別動隊が動かせそうだ。 アタイも機動力はないし、オゴス共々味方NPCの指揮と援護に回った方がよさそうかね。 できるなら、大きな物音を立てるなりして味方NPC側の方へ目を引いておきたい所だね。 >方針 一先ず、序盤の動きとしては見張りの排除と別動隊の展開か。 今回の面子はシーフとシューターのみだから、遠距離攻撃で櫓を狙う事もできるね。 ヴィナスの言う通り、味方NPCの攻め入る方向としては東側以外は現実的ではない。 西側に近い櫓は壁走りで一気に登ったシーフで落とすのが得策だな。 櫓を落としに行くとその分商人の方へ向かう手が遅れるから、櫓を落とすのを優先する者と商人達を抑える者で分担しておきたい所だ。
>序盤の動き 東には『尖兵』×4とその雑兵も多数いるので激戦になりそうですね。 高所をとれば有利に戦えます。敵排除後は有効活用させてもらいましょうか。 希望があれば壁歩きで登った後にロープを結ぶのもありかと。 敵が登ってこないよう注意も必要ですね。 >東と西 東が味方NPCとそれに同行する冒険者、西から別動隊という形になるでしょうか。 東の敵数が多いことと、少数の方が隠密行動に適していることから、冒険者は東5~6名と西2~3名に分かれるとバランスが良いように思いましたがいかがでしょうか?
見直したら櫓とロープの件で自分の発言につっこみどころ見つけたので訂正致します……。お恥ずかしい。 櫓には登るための設備がありそうですし、ロープ懸垂よりもそちらの方がはるかに楽ですよね。 敵が梯子などを壊してしまった際の予備的な手段程度に思ってくだされば……。
・・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む ずいぶん偏りのある構成のようだが今回は問題なさそうか とりあえず方針は今出てるのでいいと思う。 シーフだけなら忍び込んでの別働とかもやりやすいだろうしな ルチルの言う通り外で目立って注意を引き付ければそれだけ別動隊もやりやすくなるだろう。 とりあえず俺は外でまずは見張りの排除だな
味方勢力を含めた戦力で東から敵の目を引いて、別働隊が西からって流れかな。 いいと思うよ。異論を挟む余地もないと思う。 戦力の割り振りはオゴスさんの言う感じでいいんじゃないかな。 商人には私兵4人がついてる事を思うと東5:西3がいいかなと。 撤退を優先する商人の退路を塞ぐ意味では、疾風足やホライゾナルジャンプが有用そうかな? 魔法攻撃主体の私兵には魔乱印なんかも有用そうだけど、そこまで悠長にやってる余裕はないかもかな。
すっかり顔出しが遅れてしまってすまない。 シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回も宜しくね! とりあえず、別動隊を作る案に関しては、異論無し! 戦力割振りはオゴスさんが言う感じで良いと思う。 商人に関しては…そうだね、出来る限りと言うか… 最初から全速力で向かった方が良さそうだね。 特性スキルは書いてあっても、アクションスキルに 何を付けてるか分かったもんじゃないし…。 なるべく移動力が高い面子で江流さんが言ってるように 疾風足やホライゾナルジャンプを持ってくのが こっちに出来る最大の商人対策かな、と。 見張りと尖兵に関しては、見張りを優先的に排除の後、 見張りに付いてた雑兵は誰かが指示を出しつつ 味方勢力と残って掃除。 その他の面子は尖兵に…って言う形が良い…のかな?
攻め入る時間帯は特に指定がないようですね。 非授恵者の傭兵50人のことを考えると、夜間よりも少し陽光が出ている時間帯の方が動きやすいかもしれません。 日の出の前後はどうでしょうか? 東方面は平坦な砂地で警戒する敵からの見通しが良さそうです。 砂色のマントなど頭から被れば発見されるのを少しは遅らせることができるでしょうか。 都合良く風が吹くとは限りませんが、砂埃が舞うほどの風が吹いた場合は進攻に利用したいですね。 東西の戦力の割り振りは、江流さんのおっしゃるように東5:西3が隙がなく手堅そうですね。 発言から行き先を記入しました。見落としなどのミスがないと良いのですが。敬称略です。 ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ・西班(別動隊)
>戦力の割り振り 俺もオゴスの案に賛成。 >時間帯 OP時点で商人が撤退を明言してるから、作戦の時間帯を選べるかどうかちょっと分からない気がする。 ターブ侵攻戦の時は勿論、味方勢力の存在はないけど、【求和】の【誇剣】2回目も現地到着と同時に状況開始だったみたいだし。 時間帯についてははっきり触れないでおくか、触れてもその時間帯に動けなかった時のことも保険に盛り込んだ方がいいかも。 俺は東側から櫓の見張りを排除しに行くよ。 頭上から矢は落ち着かないし、拠点内部を速やかに進む為にも目となる存在が邪魔だし。 ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ヴィナス ・西班(別動隊)
>役割分担 反応ありがとうございます。 参加者全員の御挨拶や意見を聞く前に決めてしまったことで、何か不都合がないと良いのですが……。 出発前までに上手く連携できれば幸いです。よろしくお願い致します。 >時間帯 ヴィナスさんの指摘ももっともですね。 突入時間帯を見計らう表現は避け、到着時間が日中でも夜間でも対応できるプレイングにしてみます。 >南北の見張り 東から攻める組が西に行くのに石壁を超える必要がありますね。 南北の見張りがここの警戒を怠っているとは思いにくいので、こちらも用心して進みましょうか。 双波を使い、壁の裏に南北櫓の雑兵が待ち構えていないかなどを調べたいと思います。
誰も居ないってのもアレなんで、とりあえず西班(別動隊)で 手を挙げておくね。 疾風足×2、ホライゾナルジャンプは持っていくつもり。 あとはハイディングとかせめて隠蔽とかが有ればベストかな? なるべく東班で対応して貰う敵は手を掛けずに、邪魔なモノだけ 排除して最速で西を目指すつもり。 ああ敵の退避用の抜け道が有るなら、双波や探波を持ってくのも 良いかもしれないね。
ごめん、貼り忘れてた! ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ヴィナス ・西班(別動隊) キオルティス
んじゃ、俺は西側から入る感じにするね。 時間帯についてもどっちでも行けるように意識しておこうかな。 ホライゾナルと壁歩き両方持っていくのはきついから、逃走阻止を考えてホライゾナルの方を選ぶつもりだけど、そうすると櫓の敵の排除には温存したい気もしなくもない。 トリプルファングは倒し切る事を考えたら外したくないところだしね。 ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ・西班(別動隊) キオルティス 海神
おーっす! ギリギリになっちまってすまねぇ! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 作戦は諸々了解したぜ! んじゃ、俺は西側から別働隊として商人をとっ捕まえる方で動くな。 スキルについてはトリプルファングは外せねぇから壁歩きかホライゾナルジャンプのどっちかになっちまうもんな。 キオルティスと江流がホライゾナルジャンプで行くなら俺は壁歩きにして先に櫓の見張りを俺が仕留めに行くぜ! そうすりゃホライゾナルジャンプも温存しとけんだろ。 ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ・西班(別動隊) キオルティス 海神 ハヤト
お、ハヤトさんも来てくれたし、何とか形になりそうかな?>別動隊 ところで江流さんもハヤトさんも櫓の敵は侵攻しながら淘汰するのかな。 そこん所の意志の疎通が俺的に出来てなくて。 櫓の敵は東班に任せちゃいけないのかな? 俺たちは極力隠密に素早く動いて、商人を倒すのが第一の存在理由だと 俺は思ってたんだけれど…その辺りはどう言う認識なのかな…って。 隠密裏に行動するなら、侵攻先に櫓が有っても大丈夫だと思うし…。 あとね、無理に櫓上の見張りを倒さなくとも、櫓自体のバランスを 崩して櫓が見張り用の建造物として機能出来なくするのも良いかな、とか。 恐らくメインの支柱とか有るだろうし、それを攻撃してやれば 櫓としての機能は落ちる≒巧く行けば櫓自体を使い物じゃ無くす って感じに出来ないかな、と。 あくまで商人を捕縛なり倒すなりするのが別動隊の仕事なら、って 思ったので、少し2人の意見だけでなく、他の面子の意見も聞きたくて 恥ずかしながら書き込ませて貰ったよ。 1人だけで早合点してたらごめんね。
>櫓 西は侵入時に何か対応しないと多分厳しいと思う。 高さがある分下の動きは見やすいし、上から動きを見られて伝えられる可能性があるし。 俺は東から櫓対処した後、距離が近い北か南に行くけど、西は多分最も時間かかる。 今の状況ね ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ヴィナス ・西班(別動隊) キオルティス 海神 ハヤト 強制はしないけど、ララベルも櫓対応に回ってくれると助かるな。
真反対の東から来る皆さんに西の櫓まで対処させてから動くんじゃ、初動遅すぎると思うし、かといって櫓をパスして進むってなると、ハイディングで潜っていかない限りは無理じゃないかと思ってたんで、西の櫓の対処は東で動いて浮足立ってるうちに西からの俺らが自分で処理する必要があると思ってた。 ただ、速度は優先させるべきなので見張りさえどうにかしてしまえば雑兵はパスしてもいいのかもしれないね。
(書き洩らしがあったので修正) 人数分担に異論はないよ。 人数的に不利な別動隊には負担が多そうだが…機動力に優れたシーフの仕事を信じるしかないか。 雑兵と尖兵達との戦いが安定したら、東側にいるシーフが駆け付けた方がいいかもね。 >西側の櫓 セリオスがどの櫓を落とすつもりか、までは明言してなかったから一旦考慮に外すとして。 西側の櫓は別動隊の中でも一人、見張りの排除に優先して動いてもらうつもりで案を出していた。 これなら時間ロスを減らして商人を狙いに行く事ができるだろうし、二人なら生存性も上がるだろうしね。 >時間帯 解説の方に記述がなかったから、こちらから指定できないもしくは考慮に入れなくていいものと考えていた。 一応、夜間戦闘になった場合に備えて照明を用意する手筈はつけておくよ。
ギリギリでごめんね。 僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 皆、宜しくね。 えっと、配分的に僕は東側に回ればいいかな。 櫓の対応にも回らせて貰うね。 ・東班(NPC戦力と行動) ルチル オゴス セリオス ヴィナス ララベル ・西班(別動隊) キオルティス 海神 ハヤト
>西側の櫓 あ、そう言うことだったんだね。了解したよ。 気が回らなくて申し訳ない。 ヴィナスさんも江流さんもルチルさんも教えてくれて有難う。
>西側櫓 んじゃ、壁歩き持ってく俺が見張りは片付けるぜ! その間にキオルティスと江流に先行して商人を押さえに行ってもらえばいいんじゃねーか?