【奇貨】奇貨の同胞達
真柄 葉
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シナリオID:1988
オープニング
開祖『王・華江』の名を冠したこの街は、開祖が東方の出身であった影響から、その故郷の姿を色濃く反映していると言われ、シャルガネとはまた違った東方風の街並みが特徴的な街である。
街を縫うように流れる運河には沢山の小舟が浮かび、朱を基調とした絢爛な木造建築が街を彩る。街往く人々には活気があふれ、沢山の提灯に照らされた店々が鎬を削っていた。
そんな独特の発展を遂げてきた『華江』の一角――。
「ふぅ、綺麗になったわい」
すっかり荷の無くなった倉庫を眺め、老人は汗を拭った。
何もないとこんなにも広かったのかと改めて思う。
生まれてから毎日、この場所を遊び場にわき目も降らず走り回ってきた。
しかし、それも今日まで――。
「ミクニさん、商品の積み込み終わりました」
と、哀愁に浸っていたら、入口の方から声をかけられた。
「うむ、お疲れ様」
振り向き声の主と顔を合わせる。
しっかりと櫛の通された茶髪に、丁寧に整えられた顎髭。年の頃は20代後半の青年だ。
見た目もモノを言うこの世界の事を十分に理解している姿に、老人――ドウセツ=ミクニは深いしわが刻まれた笑顔を向けた。
「なぁ、ロニスクさんや」
「はい?」
「少し頼まれ事を引き受けてくれんだろうか」
「頼まれ事、ですか……。恩のあるミクニさんの頼みです。無下にするつもりはありませんが、内容次第とお答えしてもよろしいですか?」
シーガルはドウセツの笑顔の奥に潜む思惑を見透かそうと、その瞳を凝視した。
しわがれた顔に輝く瞳は、濁るどころか爛々と輝いて見える。
これが自分の店を畳もうとしている人物の眼かと、シーガルは身構えた。
「ほっほっ、そう身構えんでもええ。悪い話ではないからのぉ」
「……なるほど、双方に益がある話であると。でしたらお伺いしましょう。お受けするかどうかは確約できかねますが」
「うむうむ、それでいい。商人はそれぐらい慎重でなくてはな」
ドウセツはシーガルの反応に満足したのか、笑顔のまま何度か頷き、そして口を開く。
「この商会をくれてやると言ったら、どうする?」
皺で瞳を隠し、笑顔を向けてくるドウセツ。
あまりに突拍子もない話に、シーガルは思わず目を剥いた。
「……言っておられる意味が分かりません。このミクニ商会はドウセツさんの代で終えるとお伺いしました。その為に、最後の荷を引き取って欲しいと言われたのが、今回の取引だったはずですが」
「うむうむ、まさにその通りじゃ。在庫の処分に付き合ってもらって悪かったのぉ」
「いえ、質の良い品を格安でご提供いただけたのは感謝しております。あの品質であの値段であれば、隣街へ運ぶだけでかなりの利益が出る。――いえ、そんな事より、商会をくれてやるとは一体どういう意味なのですか」
「どうもこうも、そのままの意味じゃ。後先短い老いぼれが残していく店を使わんかと言っておるのじゃ」
シーガルはじっとドウセツを見つめる。
確かに自分の目標は店を持つこと。そして、店を発展させて商会を持つことだ。
商売の世界に身を投じたからには当然の目標であり、商人の大半が同じ目標に向かって日々邁進している――と思う。
「……大変魅力的なお話ではあります。ありますが、それ故に疑ってしまいます。仮に店を譲るご意思があるとして、なぜ私なのでしょうか。確かにミクニ商会さんとは懇意にさせていただいていました。しかし、私などより付き合いも古く、取引額も大きい商人など山ほどいるでしょう。そんな先達を置いて、若輩の私を選ばれた理由がわかりません」
「直感じゃ。といっても納得せんかの?」
「しませんね。そんな不確かなものが信用に値しないのは、商人である貴方ならばよくわかっているはずです」
「ほっほっ、若いのぉ。まぁ、だからこそ選んだんじゃがな。どれ、ちょっと待っておってくれるかの」
そう言い残し、ドウセツは倉庫の二階に構えた事務所へを上がっていった――。
●遡る事、一月前――。
「はて、誰じゃったかの?」
「なんだい、見てくれと一緒に頭の方までもうろくしたのかい?」
「ほっほっ、随分と毒舌かましてくれおるのぉ。しかし、おかげで誰かわかったわい。それにしても久しぶりじゃのぉ。20年、いや30年ぶりか?」
「もうそんなになるかね」
「前会ったのはお前さんがこーんなに小さくて可愛らしい少女の頃じゃったからのぉ」
「よしとくれ、そんな時代はアタシには無いんだからね」
「ほっほっ、そうかわしの勘違いじゃったか。――それで飛ぶ鳥落とす勢いのお前さんが、こんなくたびれた爺の所に何の用じゃ。悪いが金ならないぞ?」
「そんなことわかっているさね。アンタみたいな出涸らしから搾り取る程、アタシも人でなしじゃぁないよ」
「ほっほっ、どの口が言うのか。では、どういう用件じゃ。まさか、爺の死に際を見に来たわけではあるまい?」
「それこそ1Gの価値もない。アタシが来た理由は、『商談』さね」
「ふむ、今まさに取り潰そうとしている商会に対して商談とはのぉ。一体どれほどのものを腹の内を抱えておるのやら」
「聞く気がないのなら喋らないさね」
「いいや、聞かせてもらおう。お前さんの真っ黒な腹の内をのぉ」
●
――ドンッ!
「こ、これは……?」
机の上に置かれた子供の頭ほどもある革袋。
「なんじゃ、わからんのか?」
「……わかります。わかりますが、これの意味する所は何かと聞いているのです」
そうだ、商人であればこれが何なのかわからない訳はない。
この質感、質量、そして――音。
この革袋の中身は『硬貨』。それも、おそらく金貨だろう。
「100万Gある」
「ひゃ、100万……!?」
何とか装ってきた平静も、その衝撃に崩れ去った。
100万Gなど、今まで見た事もない。いや、王侯貴族か大商人、はたまた金貸しでもなければ、そもそも一生見る機会もないだろう。
商人は『信用』で取引する事も多い。小さな取引ならいざ知らず、大きな取引で金貨を積むなど非効率な事を商人はしない。金貨など持って出歩けば、重い上にかさばるし、賊からしたらいい的でしかないからだ。
なのに今、その100万Gが目の前に置かれている。
シーガルは慌てて倉庫内を見渡した。
「ほっほっ、心配いらん、賊など入って来やせんわい。どうじゃ、ロニスクさん、この店と金を使って、商売を始める気はないか?」
ようやく年相応の同様を見せたシーガルに、ドウセツはかっかと喉を揺らす。
「…………降参です。私には貴方の意図が読めません」
一方、シーガルは降参だと諸手を上げた。
「ほっほっ、素直でよろしい。なに、別に特別ややこしい事でもない。ちょっとした『実験』をしたくての」
「実験、ですか」
「そう、『実験』じゃ。お前さんは冒険者じゃろう?」
「ええ、一応は登録していますが……それが何か」
シーガルはどのような解がきても対応できるよう、頭の中で返答を組み立てる。
「わしはな、見て見たくなったんじゃ。冒険者達が商会を運営した時、この商売の世界にどんな風が吹くかを」
「ぼ、冒険者が商売の世界に風を吹かせる……? 一体何を言って――」
「どうじゃ、実に夢と野心、商機に満ち溢れた試みじゃろう?」
ぽかんと口を開けるシーガルに、ドウセツは商人特有の読めない笑顔を向けたのだった――。
解説
マスターより
リプレイ
『冒険者求む! ※飲み食い自由』
と書かれた小さな立て看板が置かれた一席があった。
「――話は分かった。しかし、漠然とした話だな」
ベルク・オスマットは聞いた話の内容に、呆れたように呟く。
「ええ、話していて私もそう思います」
ベルクの向かいに座る男。シーガル=ロニスクも苦笑を浮かべ応えた。
「何はともあれ、まずは『何をするか』、そして『誰を相手にするか』を決めねばならないなのではないか?」
「はい、その辺りも含めてご意見を頂ければと思っています」
「意見か。まぁ、吐いた言葉に責任を負わなくても良いのであれば、いくらでも意見しよう」
「構いません。そこからヒントを見つけるのは私の役目でしょうから」
「うむ。それなら話しは早い。では――」
と、ベルクはシーガルの言質を取り、自らの意見を話し始めた。
ロスガリア大陸に数多ある商会の中で特色を出すのは容易ではない。
何を以て商いとするのか、誰を相手に金を稼ぐのか。
一介の行商人だったシーガルが、引き継ぐ形とはいえ商会を持つ。商人であれば願ったり叶ったりのチャンスなのだろうが、この話にはとある『条件』があった。
「とはいえ、条件があるのだ、なにか『メリット』の様なものが欲しいな」
「……んー、冒険者が商会をやるメリットねぇ」
そんなベルクの呟きに、同席者であるナハシュが、高級エールで白髭を作りつつ口を開く。
「まぁ、俺も適当に話すから、使えるアイデアだと思ったら勝手に使ってくれ」
ナハシュはそう前置きすると話し始めた。
「冒険者はその中立性が最大の特徴なんじゃねぇかと思う。どこの傘の下にも入ってないってのは、結構な強みになると思うぜ」
自身も小さいながら店を営んでいる身である。規模は違えど何かヒントになる話ができるかもと、酔いで饒舌になった口で語り掛ける。
「もちろん、頼れる大商会がいないってデメリットはあるが、冒険者には独自のコネが色々あるからな。それこそ、そこらの商人達じゃいくら金を積んでも得られない様なでっかいコネがな」
「コネ、ですか」
「シーガル。お前、帝国の皇子と同じ釜の飯食った事あるか?」
「い、いえ、ありません」
「そういうコネがある奴がゴロゴロいるってことだ」
そう言って、ナハシュは焼き鳥に齧り付いているベルクを見た。
「何やら楽し気な話をしていますね」
と、二人が座る机にレイヤ・ダライ=カホールが現れる。
「こちらでケーキ食べ放だ……もとい、冒険者の話を聞きたがっている商人がいると伺ったんですが、あなたで間違いないですか?」
レイヤは机に座ると同時に、流れるようにケーキを注文すると、シーガルに問いかけた。
「はい、私です。よければ、お話を伺えますか?」
そんなレイヤに笑顔を向けたシーガルは、自らの計画を説明した。
「……なるほどなるほど。面白い企みですね。とはいえ、冒険者の商会ですか。うーん」
シーガルの話を聞きレイヤは考え込む。レイヤ自身は商人という訳ではないが、商人を相手にする事も多い部族の出身である。
「何をするにしてもそうですが、やはり強みを持ってこその商売だと思うんです。例えばわたしの出身部族は水運で名を成しています。カホールの水運と言えばそれなりに有名なんですよ?」
「おぉ、そのお名前は聞いたことがあります」
「本当ですか! ふふ、そうですか。聞いたことがありますか」
と、シーガルの反応にレイヤは鼻高々。
「とまぁ、そういう強みをどうやって持たせるか……そうですね、例えば冒険者でこそ手に入れられる品々を取り扱うとか」
レイヤは運ばれてきたケーキにフォークを突き刺しつつ続けた。
「後は依頼で大陸中を飛び回りますから、各地のちょっとしたウワサを扱う、なんてのも面白いかもしれません。これは一般客向けというより、同業者向けでしょうか?」
冒険者の噂ほど新鮮なものはそうそうないだろうと、レイヤは付け加える。
「くふふ、それは高く売れそうじゃ」
と、空いていた席にはいつの間にか夕霧が陣取っていた。
「面白そうな話じゃの。わらわも一口噛ませて欲しいのである」
夕霧は艶めかしい視線をシーガルに向ける。
「おほんっ! ありがとうございます、もちろん大歓迎ですよ。どうやら、先ほどから話は聞かれていた様子。何かご意見があればお願いします」
と、咳払いして再び商人の仮面をかぶり直したシーガルが、夕霧に問いかけた。
「ほう……『目』は悪くないようじゃの」
そんなシーガルに俄然興味が湧いたのか、夕霧は更に熱い視線を送る。
「褒め言葉として受け取っておきます。それで、話を聞いて何か思う所はありましたか?」
「ふむ、そうじゃの……どのような体制で事を成すつもりかはわからんが、商材を持ってこその商会。それが世間一般の常識であろうな」
誘惑を商人の笑顔で跳ねのけたシーガルに不敵な笑みを向け、夕霧は考えを纏めるように呟きだした。
「しかし、それでは他の商会と何ら違いが無い。折角冒険者が商会を運営するのじゃ、冒険者『らしさ』で差を出すのはどうじゃ?」
冒険者が作る商会。言葉で言えば簡単な事だが、その実、海千山千の商人達が幅を利かせる戦場において、冒険者であるという強みを活かす術はほとんどない。商才こそが全てであり、冒険者としての『力』はそのほとんどが運営に寄与しない。
「カホール殿のいう様に、ウワサを取り扱うのは面白いかもしれん」
そう言って、次のケーキは何にしようかとメニューを眺めていたレイヤを見る。
「ウワサを仕入れるコネも豊富じゃしの」
そして、空ジョッキでタワーを作って遊んでいたナハシュに視線を向けた。
「扱う『モノ』には注意は必要だろうが、悪くねぇんじゃないか」
「ですね、虎の尾を踏む様なことは避けるべきでしょうし」
「うむ、二人の言う通りじゃ。『噂話』を飯の種にするにしても、それだけではやっていけんじゃろうし、もう少し具体性のあるものがあればよいが……ふむ」
夕霧の言葉を聞いていた二人の言葉に、彼女は深く考え込む。
「『噂話』はすなわち叡智の種。ならば、芽吹いた花を売るのもまた良いのではないか?」
と、隣の席に座っていたストレガ・L・リベルガストラが立ち上がり、こちらに席を移してきた。
「私も混ぜてもらってもいいのだ?」
「ええ、もちろんです。それよりも『芽吹いた花』とはどういう事でしょう」
シーガルはストレガに席を勧めると、先ほど彼女が口にした言葉の意味を問う。
「全ての叡智を一人で追い求めるには限界があるのだ。ならば、それを集められる者達が協力すればいい。そうは思わないのだ?」
「協力、ですか」
ストレガの独特の言い回しに、シーガルは困惑しつつもそれが何を指すのか考え始めた。
黙考するシーガルを興味深げに眺めつつ、ストレガは卵料理を注文する。
「……『噂話』を手に入れる為に『網』を広げろ。そしてそれを纏めて一つにしろ。そう言う事でしょうか」
考えた末にたどり着いた答えを、ストレガに倣った言い回しで口にするシーガル。
「君がわざわざここに来たという事は、アドバイスを貰う事はもちろん、スカウトの為なのだろう?」
「ご明察です。私も冒険者ですが一人で商会は運営できません。ですので、ここに運営に参画していただける方を探しています」
ストレガに答えつつ、シーガルは同席者を見渡す。
「君が必要としている人材は冒険者なのだから、当然ギルドの依頼も並行してこなすと思うのだ。いわば二足の草鞋、それをデメリットにせずメリットにできるアイデアが欲しい所なのだ。例えば――――」
誰に問うでもなく話を続けるストレガに、席を囲む皆の表情は真剣身を帯びてきた。
●
「なんかあの席で『噂話』とか何とか言ってますけど、アドルフさんのお知り合いですか?」
意見交換に熱を帯びてきたシーガル達の席の後ろ。
『噂話』というワードを小耳に挟んだカミンル・マオが、友人のアドルフ・ジーノにこっそりと耳打ちした。
「え? いや、僕は知らないけど……あ、このローストビーフ美味しいね」
「でしょ! この間、ここで女子会した時に食べて気に入ったんですよ! お二人ならきっとわかってもらえると思って、オススメしてみました!」
「……美味しいですね。流石、リブラネスタでも一番名の知れたお店の料理です。参考になるなぁ」
カミンルにお勧めされた料理を上品に口にしながら、キリアン・フィッツジェラルドはその製法や味に想いを馳せる。
「お肉は確かに美味しいんだけど、この料理はなんなの……?」
と、肉料理と同時に運ばれてきた一皿に、アドルフは首をかしげた。
「ふふ、情報通のアドルフさんも知らないとは、僕、もしかしていい仕事しました!?」
情報通に新しい情報を提供できるなんてと、カミンルは胸を張る。
「ふむ……一見すると揚げ芋のようですが、中に何か詰められています?」
「おぉっ! 流石キリアンさん! そうなんです、これは『踊る小熊亭』秘密メニューなのです!」
どういう料理か一目で見破ったキリアンでさえ、その中に何が入っているのかまでは見破れなかった事に、カミンルは更に鼻を高くした。
「なんとこちらの料理……『ロシアン揚げ芋』なのです!!! さぁ、春一番の運試しをしましょう!」
不穏な空気に首をかしげる二人に向け、カミンルがどうぞと両手を広げる。
「どうぞと言われても……これ、明らかに地雷だよね?」
「美味しい料理が食べたいです」
しかし、二人の反応は冷めたもの。明らかに敬遠しつつ、他の料理に手を伸ばした。
「……なるほど、わかりました! いきなりどうぞでは食べにくいですよね! では、『あーん』食べさせ合うというのはどうでしょう!」
そんな二人の気持ちをわかってかわからいでか、カミンルは鼻息荒く二人に提案する。
すると二人はきょとんと視線を交えた。
「あーん、ですか……?」
「そうです! 男女であればちょっとこっぱずかしい雰囲気にもなろうものですが、僕達はなんと全員が男じゃないですか! 何も恥ずかしがることはありません!」
キリアンにそう答え、無い胸を張るカミンル。
一見すれば女子会を行っている様にも見える見目麗しきテーブルだが、その実は全員男。バリバリの男子会だった。
「えっと、カミンルさんがそれでいいというのなら」
「そうだね、マオお兄さんがそう望むなら」
と、二人はそれぞれ揚げ芋をフォークに刺すと――。
「え?」
「「え?」」
突き付けられた二つのフォークに、三人は同時に頭の上に「?」を浮かべる。
「あーん、ですよね……? どうぞ?」
かくりと可愛らしく首をかしげるキリアン。
「早く食べてくれるかな。流石にちょっと恥ずかしい」
照れたように視線を逸らすアドルフ。
「あ、えっと……え? 僕が二つですか……?」
3つあるのだから当然一人一個だと思っていたカミンルが一番困惑していた。
「「はい、あーん」」
しかし、揚げ芋フォークは容赦なくカミンルの口へと近づく。
「んぐっ!?」
意外と大きな二玉を一気に口に放り込まれたカミンルは、若干涙目になりながらもゆっくりと口を動かし――――。
「っ!? はえあえぇぇっ!?」
見事にあたりを引いた。
あまりの辛さに悶絶するカミンル。吹き出さなかったのは褒めてあげたい。
「だ、大丈夫、マオお兄さん! お水だよ!」
のたうち回るカミンルに、アドルフが急いで水を差し出す。
「す、すごい……これもお料理の楽しみ方なんですね」
悶絶するカミンルを見て、キリアンは改めて料理の奥深さを知ったとか知らなかったとか――――。
●
「王国南部にあるとある領地では、最近冒険者の手を受けて開発が進んでいまして、以前は枯れた大地が広がる所だったのですけど、今では――」
後ろの席で繰り広げられる女子会の喧騒を聞きながら、レイヤは鞄から『工芸品』を取り出した。
「褪野切子『彩』といって、今では名産品として売り出しているんです。それに、シグモル火山帯にいる亀さん魔獣からは――」
再び鞄に手を突っ込んだレイヤが次に取り出したのは、綺麗な石だった。
「星の雫っていうんです。どうです、綺麗でしょう?」
そう言ってレイヤは、二つの品をシーガルの前に差し出す。
「なるほど、どちらも話には聞いていましたが……確かに綺麗ですね。これなら価値が付きそうだ」
「はい、それなりの価格で取引されているはずです。ただ――」
「すでに販路が出来上がってしまっているので、旨味があまりないと。そう言いたいのですね」
「仰る通りです。やっぱり商人さん達はこういう目新しい物には飛びつくのでしょうね。もう、リブラネスタでも特別珍しいものではなくなっています。でも、こういった新名物や新特産品をいち早く知ることができるのが冒険者です。なにせ、開発や採掘自体に関わってたりしますから。ほら、儲かりそうな香りがしませんか?」
「……確かに、名物となりそうなものの情報をいち早く察知できれば、それは大きな優位性になる。ただ……」
「随分な博打になる、だよな」
と、考え込んだシーガルに、ナハシュが声をかけた。
「そうです。誰も取り扱った事のない商品であれば、その値付けから参入する事が出来ます。しかし、まったく新しいものにどの程度の価値を付与するべきなのか、そのバランスがとても難しい」
新規の商材は当たれば儲けは絶大だ。しかし、その目論見が外れた時は?
その商品にかける比重にもよるが、下手を打てば一夜で破産の憂き目にあう。
「ならば、手堅い所で貿易というのはどうだ?」
と、そんなシーガルの懸念を悟ったのか、今度はベルクが手を上げた。
「元商会主の爺様がドワーフ王国とのコネがあると言っていたな。ならば、それを使わない手はないだろう。そこで提案するのが、帝国とドワーフ王国間の貿易だ」
ベルクが上げた案に、シーガルは興味深く耳を傾ける。
「仕入れた鉄製道具を帝国ヴィントへ運び、代わりにダンジョンで産出される海産物をドワーフ達の元へ運ぶ。今ならレイウェスト殿下も貿易の為に手を尽くしている所だから、新規の商人は歓迎してくださると思うぞ」
「殿下へのコネもあるしな?」
と、話し終えたベルクに、ナハシュは試すような笑みを向けた。
「……言っておくが、我は経営や運営に参画するつもりはない。そのような暇はないからな。こうやって、時折口を挟むのが関の山だと思ってくれ」
そんなナハシュから視線を逸らし、ベルクは肩を竦める。
「とても魅力的なお話です……ですが、いきなり貿易に手を出せる程の『力』は私にはありません。が、ゆくゆくは手を出していきたい分野ではありますね」
「うむ。将来の展望を持つのもまた、商人には必要な事だろう」
「仰る通りで」
少女にしか見えないベルクにそう諭され、シーガルは苦笑しながら答えた。
その後も冒険者達は自分達の強みは何か、自分達にしかできない商売とは何かと、議論を白熱させる。
「商会を立ち上げたばかりで大量の商品を抱えるのは、愚行じゃろう。やはり無在庫で行えるものを取り扱う商売を成すのが有効だと思うのである」
「それなら冒険者のスキルを売りにすればいいんじゃねぇか? 念写とか便利だし、マジカルポケットとかも使えそうだ」
夕霧がぽつりと呟くと、ナハシュが反応した。
「ふむ……確かに便利じゃが、そういうものが必要な時は普通にギルドに頼む方がいいのではないか?」
「んー、そうか? 自前で持ってる強みってのはあると思うが。後はやっぱ『噂話』、いや『情報』かねぇ」
「そうじゃな、我々冒険者の強みとしてそのフットワークの軽さがある。情報を扱い広める上でこれは大きなアドバンテージになるのである」
夕霧やナハシュ、それに他の者もアイデアを出し合い、冒険者という『ブランド』を最も活かせる商売は何かと、議論を重ねていく。
「そも商会という位だから、ゆくゆくは支店や店舗を持つつもりなのだとは思うのだが、それも冒険者に任せるつもりなのだ?」
と、ストレガが改めてシーガルに問いかける。
商会を拡大していく中で、必ず必要になってくるのが各都市における支店や実店舗の存在だろう。
「そうですね。そのつもりでいます」
「であれば、しっかりとギルドとの連携を取るべきなのだ。冒険者とはいえ、夢を持つ者は多いのだ。そういうやる気のある人材をギルドを介して見つけ出し、ある程度の金銭的な支援をしてやることで、お互い相互利益が得られるのだ」
「なるほど……それも『網』。商売網の構築という訳ですか」
顎髭を弄りながら深慮するシーガルに、ストレガはこくりと頷く。
「あの……その話、僕達も混ぜてもらってもいいですか?」
と、二人が話していたら、後ろの席から声がかかった。
シーガルが振り向くと、キリアン達がこちらを伺っている。
「ええ、もちろんです。よろしければ話を聞かせてください」
シーガルは立ち上がると机を寄せ二つ繋にすると、改めて隣席の三人に名乗った。
「先ほど店舗がどうとか聞こえたんですが、冒険者の方がお店を出されるんですか?」
「いえ、そういう訳ではないのです。実は私が商会を立ち上げるのでその協力者を探しているのです」
シーガルは新たに加わった三人に、改めて集まりの趣旨を伝える。
「……なるほど、そういう話だったんだ。えっと、僕からも提案させてもらってもいいのかな?」
「ええ、もちろんです。お願いします」
そう聞いてきたアドルフに、シーガルは商人らしい笑顔を浮かべた。
「それじゃ。さっき情報がどうとかいう話も聞こえたけど、冒険者相手に情報屋のような事をする予定なの?」
「そうですね、それも有力な『商材』だと考えています」
アドルフの問いかけに、シーガルは先ほどまで出た『商材』のアイデアを伝える。
「それじゃさ、『情報』や『噂話』を記録してみるのはどうかな。本――はちょっとお値段が張るかもしれないけど、簡単な書類とかを作って、必要な場所に売り込むとか」
「店舗を持つって話が将来的に実現できるのなら、冒険者が自分で狩ったり採ったりした食材を持ち込めば、調理してもらえるお店とかいかがでしょうか。ジビエ的なものでしたら、一般の方ならあまり食べ慣れていないと思うので、流行ると思います」
シーガルの話を聞き、キリアンやアドルフも積極的にアイデアを出していく。
「折角素敵なアイデアがいっぱい出たんですから、どれか一つに絞るのはもったいなくないですか!? いっそ、まるっと全部やっちゃうのはどうでしょう!」
と、皆の話をじっと聞いていたカミンルが声を上げた。
「例えばですが、『噂話』や『情報』を提供できる店舗を持つんです。もちろん、そこでは各国の美味しい料理なんかも提供していきます。持ち込み歓迎で! 食事ができるお店なら入店してくるのに敷居は低いと思うんですよね。で、とりあえず入ってみたら、何だか面白い話も聞けるぞって」
カミンルは皆を見渡しながら話を組み立てていく。
「それで、何だか話を聞いたらすごい話がいっぱいあるぞ!? ここ料理も美味いけど、情報もうまくないか!? 的な事になればいいなと思うんです!」
「ふむ……店舗で情報を提供する『噂話カフェ』とでもいうのか?」
「へぇ『噂話カフェ』ですか。それ面白そうですね」
カミンルの話を聞き、ベルクやレイヤも興味を持った。
「そうです! ズバリ! 気になるあの子の好きなものの調査からあなたが求める美味しい食べ物まで! 楽しさいっぱい夢いっぱい! あなたの身近に冒険者商会! どうですか!?」
そんな二人の反応に手ごたえを感じたのか、カミンルはぐっと拳を握り熱く語る。
「えっと、マオお兄さん、それって『冒険者ギルド』っていうんじゃ?」
「え……? あれ、そうでしたっけ?」
と、アドルフの苦笑に答えたカミンルが首をかしげると、他の参加者から笑いが巻き起った。
「しかし、カフェのアイデアはいいとしても、集まる情報をただ口伝だけで伝えるのももったいないのである。編纂して資料と出来ればよいが……」
「念写しとくか? あ、紙がねぇか」
「紙もそうじゃが、どれだけ膨大になるのじゃ。本一冊作る前に干からびるのである」
自らツッコミ笑い声をあげるナハシュに、夕霧は嘆息する。
「それで、新進気鋭の商会主殿は私達の話を聞きどのような結論を出すのだ?」
ストレガが改めてシーガルに問いかけた。
「そうですね……商材は『情報』を。それも飛び切り新鮮なものを取り扱えればと思います。そして、それを提供するための店舗を開きたい。幸い『箱』はありますので、そこで実施できたらと思っています。後は情報に長けた方と、料理の腕が確かな方の協力が得られれば、という所ですが」
そう結論付けたシーガルは、改めてテーブルを囲む冒険者達を見る。
「以後も協力するかどうかは、各々次第ではないか? それぞれ抱えているものもあるだろう」
と、ベルクが自分は参加しないと首を振った。
「人材の確保も重要なのだが、一先ず具体的な方針が決まったのは重畳なのだ」
「そうですね。大変なのはここからですけど、目指すべきものが無いと『路頭』に迷いますし」
ストレガとレイヤは成果はあったと納得し。
「俺は一口噛むぜ。なんか面白そーだしな!」
「わらわも最初に言った手前、参画させてもらうのである」
ナハシュと夕霧はシーガルの計画に乗ることを決める。
「僕もアイデアを取り入れてもらったので、働いてみたいです。お店をやれば色々な事が経験できそうですし。お二人はどうします?」
そして、キリアンも参加を表明すると、友人二人に問いかけた。
「僕はそうだなぁ……ちょっと考えたいなとは思うかな」
「楽しそうではありますよね! 僕も前向きに考えてみますね!」
アドルフとカミンルは共に保留としながらも、完全に否定はしない。
「皆さん、ありがとうございます。おかげで光明を見出せそうです。お礼といっては何ですが、この後は心行くまで料理とお酒を楽しんでください。もちろん、費用は私が持ちます。『情報』に対して心ばかりの『対価』だと思っていただければと思います」
そう言ってシーガルは集ってくれた冒険者の為に、給仕娘を呼んだのだった――。
マスターコメント
ミドルシナリオ易しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年03月16日 16時35分49秒 公開
相談掲示板
ウォーリアのカミンル・マオです! カミンルでもマオでもかみるんでも好きに呼んでくださいね! 皆さんよろしくお願いします。 飲み食いだけじゃなくて、商会についてもきちんと語り合うつもりです!
どうも、シューターのキリアン・フィッツジェラルドと申します。 商会に関してですが、無難なところでは飲食店あたりでしょうか?(飲食店経営 帝国方面には「スヴァーノ」という非軍属の立場としたうえで、2年間の自由放牧が認められる権利が云々……
シーフのベルクだ、よろしく頼む。 >商会 何をやるかも重要だが主な顧客層の想定も必要だろうな。 ご隠居の時の路線を引き継ぐのか(主に街中等)、それとも一から新規に顧客層の開拓をしていくのか。 一番やり易いのは冒険者を顧客層にすることか? ペーパーとはいえ彼も冒険者だ、何を求めているかの情報も集めやすいだろう。
ヒーラーのアドルフ・ジーノだよ。 よろしくおねがいします! 何をやるかは、狙うお客さんをどこにするかで決まっていきそうな気がするね。 ただ冒険者となると、もう少し具体的なイメージがほしいかも? 一口に冒険者といってもいろんな人がいるからさ、冒険者全員のお願いを聞いてまわってたら日が暮れちゃいそうだよ。
レイヤ・ダライ=カホールです。よろしくお願いしますね。 今回はまた、難しそうで、楽しそうなお話ですね。 こうやってみんなで悩んでいろいろが動くのをドウセツさんは楽しみにしてるに違いありません。 せっかくわたしたち冒険者で紹介をやるなら、こう、強味みたいなのを出していかないとかもですね。 たとえばこのあたりで手に入らないものが手に入るとか。 よその地域の食べ物が食べられるとか。 店員さんと世間話すると各地のウワサがちょっと聞けちゃう、とか?
話聞くだけでタダ飯が食えると聞いて!!ナハシュだ。今回はよろしく。 同じく冒険者が経営している、という強みが何か一つは欲しいよな。 他所の地域の食べ物が食べられる、他所の地域のもんが比較的入手しやすいってのは利点な気がする。冒険者向けってなると、情報か。回覧板みたいな雑誌があっても面白いのかもな。 あとは爺さん(ドウセツさん)の地盤が継げるなら、受け継ぐかどうかってのもある気がするぜ。 ドワーフの職人がいるってことは、そこそこクオリティの高いモンやオリジナルの何かを作ることも可能なんだろ。 それこそトークン系のアイテムとかよ、俺らは何かしらで得ることができても一般には出回りにくいものを、この商会を通して広めることもできそうな気はする‥か?お試し商品とかで。
情報> なんとなくだけど、基本的なことはギルドで教えてくれそうだよね。あと、依頼関係の情報とかも…。そうなると、より専門性があってギルドが扱わない情報ってなってくるね。 人がたくさんあつまる場所だから、それぞれの場所にあった寓話や異聞とかをまとめて本にするのってどうかな?学術都市とかに話持ち込んだら興味持ってくれるかも。 Q:ギルドが提供してくれる情報はどんなものがありますか? また、ジャンルに偏りはありますか?
ご質問ですね、お答えします! Q:ギルドが提供してくれる情報はどんなものがありますか? また、ジャンルに偏りはありますか? A:どのような情報を望まれているのかわからない為、お答えになっているかわかりませんが、冒険者の皆さんであれば過去の依頼報告書は自由に閲覧していただくことは可能です。 一方、依頼者の個人情報や守秘義務のある情報などはご提供いたしかねますね。