【人馬】青いドラゴンと緑の悪魔

馬車猪

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シナリオID:1971

オープニング

 帝都へ向かう人々が利用していた宿も、帝都から進軍する軍が天幕を張っていた広場も、今は雑草が生える廃墟でしかない。
 既に人類の領域ではないその場所に、メドゥの指先の姿があった。
「師よ。エフレムというリザードマンは師より強いのでしょうか」
 武に魅せられてこんな所(人類の敵対勢力)まで落ちてきた若者が、どこまでも真摯に問いかける。
「んん?」
 緑髪ゴブリンが混乱する。
「君は何を言っているんだ」
 ゴブリンの口から出たのは純粋に相手の体調を思いやる言葉であった。
 彼女(ゴブーナ)は強者や強者の素質がある者にはとても甘いのだ。
「私では100度戦っても1度も勝てないよ」
 足下には10秒前まで無傷の大型クリーパーだった残骸が転がり、ハンマーの形に凹んだ傷口からどろりとした体液が垂れている。
 これほどの破壊を片手で成し遂げた化け物が、戦う前から敗北を認めていた。
「表に居続けて高みに登った強者(エフレム)と、裏に潜ってもこの程度の私(ゴブーナ)を比べるのは失礼だよ」
「それは、しかし」
 若者が途惑う。
 人類社会の闇の中で大量の血を流し、何十年も緑の中指(指先の幹部格)の地位を保つ化け物の言葉とは思えない。
 ゴブーナに従うことで強くなる機会を得て、いずれ下してさらなる高みを目指すという自身の野望も信じられなくなる。
「表側で強くなれるうちは表側で強くなった方がいい。……気にすることはない。君がいた記録も記憶も私が消しておくとも」
 淀んだ瞳には躊躇も罪悪感も存在しない。
 若者がうなずけば、この場にいるメドゥの指先構成員を皆殺しにするつもりだ。
(狂っている? 強くなれば狂ってしまうのか?)
 惑う若者を、緑の中指が不気味な光を帯びた目で見守っている。
「ですが、私は左腕様と顔をあわせています」
 緊張してそれだけを口にする。
 ゴブーナの目の光が薄れ、あー、と情けないような申し訳ないような曖昧な音を漏らした。
「左腕様は君の顔など覚えていないよ。いや、弱いからという理由ではなくね、たぶん目的に関係ない他人に興味を持っていないんだ」
「で、ですが師は顔を覚えられていたのでは」
「エーテルの濃さと質で区別しているだけだと思うよ」
 私より先に行っている強者ばかりだという言葉の響きに、諦めというには熱く熱意というには粘つきすぎた思いが混じっている。
「冒険者の戦いぶりを直接見たかったよ」
 ケンタウロスの『聖地』で行われるはずの激戦に参加できないのは、左腕の命令に従っているからだ。
 不満を抱いても逆らえないほどの圧倒的実力差が、両者の間に存在した。
(師でも逆らえない上役に、師が憧れる冒険者、か)
 若者はこれからどうすべきか考え始める。
 が、すぐに現実に引き戻された。
「ケンタウロスだ。高速の相手と戦う訓練にはなる」
 ゴブーナが命じられたのは帝都方面への警戒だ。
 だからケンタウロスを襲う必要などないのだが、見込みのある若者の経験値(戦闘経験)にするため手を貸すのも良いと考えていた。
「師よ」
「止まったな」
 ゴブーナに気付いていないはずのケンタウロスが何かと言い争っている。
 激昂しているケンタウロスとは対照的に、とても落ち着いている。
「狼……ではなくハーフビーストに見えます」
「ケンタウロスよりは強いか。やるか」
「左腕様の命令に逆らってですか?」
 部下に諭され、緑の中指が肩を落としていた。

●
「偵察依頼です」
 冒険者ギルド職員による説明は小声であった。
「ケンタウロスの『通訳』から、元帝国軍の授恵者とケンタウロスがここで遭遇したという情報が届いています」
 場所は東部の、帝都に近い地点だ。
 危険な割に何もない場所のはずだった。
「この遭遇したケンタウロスというのはおそらく『新生派』です。また、この場所に関して他の情報も届いています」
 冒険者が何度か遭遇し撃退したこともあるゴブリンだ。
 メドゥの指先という凶悪テロリスト集団の幹部であり、捕らえず殺しても賞金が出る相手でもある。
 元帝国軍とメドゥの指先。
 片方だけでも怪しいのに両方の情報が届いたのだから偵察や調査をするしかなくなった。
「場所が人馬の『聖地』と帝都の中間あたりです。元帝国軍は既にいないでしょうから、メドゥの指先が何を考えているかを調査してください」
 冒険者ギルドとしては、討伐可能なら是非討伐して欲しい。
 しかし8人で囲んでも倒しきれるかどうか分からない相手だ。護衛がいたりクリーパー等の乱入があれば冒険者が多数死ぬ惨事になりかねない。
 隠れて様子を窺ってもいい。
 堂々と近づいて戦闘ではなく会話に持ち込んでもいい。
 戦闘力と戦術に自信があるなら、殺すか捕らえるかしてもいい。
 冒険者が自由に行動できる、危険度の高い依頼であった。

●
「そうか! あの若者の親か!」
 ゴブーナはうきうきしている。
 戦ったこともあるのに名前も所属も覚えてはいない。
 見込みのある若者と少し似た気配を感じて親子関係に思い至っただけだ。
「師よ!」
 悲鳴のような呼びかけをドラゴンの怒声がかき消す。
 メドゥの指先により多くの同族を狩られた彼(ドラゴン)は、指先を1人も逃がさず殺し尽くすつもりだ。
「ドラゴンを倒せないようでは私には勝てないぞ」
 力に飢えた成れの果てが、乱入してきたドラゴンと部下達の戦いを楽しげに見物していた。

解説

●目的  ドラゴン対メドゥの指先の戦いを利用し、情報収集またはゴブーナ殺害に成功すること ●戦場  帝都へ通じる街道だった場所  宿屋などの廃墟が多数あるため、隠れる場所には困りません  敵は全て屋外にいます ●敵 ・ドラゴン  全高5メートルほどのドラゴンとしては小柄な個体です  外見は立ち上がった羽根つきトカゲで、鱗は緑がかった青色をしています  仲間を狩られて怒り狂って犯人を捜していたところ、それらしい存在(ゴブーナとその部下達)を見つけて襲いかかりました  メドゥの指先とそれ以外の人間を区別していません  回避を除く能力が高く、射程は短い(20メートル以下)ですが高威力ブレス(対単体の魔法攻撃)が可能  飛行しながらの戦闘は苦手です。冒険者が目視可能な位置に到達したときは地上で戦っています  1対1で戦った場合、ゴブーナに短時間で敗北しますが大きなダメージを与えることはできます ・ゴブーナ  強くなることに取り憑かれた授恵者です  現在は、自分以上に強くなりそうな若手を育てることに集中しているようです  物理攻撃が非常に得意。抵抗と生命が得意。移動5  冒険者に直接攻撃されない限り、部下と冒険者に声援を送ったりいろいろ解説したりします  最近ショックなこと(冒険者に徹底して無視された)ことがあったので、冒険者やドラゴンを追いかける気力が残っていません ・ゴブーナの部下  メドゥの指先構成員です  力を得るためゴブーナに従っている者もいますが、8割以上が他に行き場がなくやむを得ずこの場にいる凶悪犯です  全員授恵者で8割前後が前衛。平均レベル20、総勢13名。ドラゴン相手に必死の抗戦を行っています

マスターより

 敵は全員ぶっ殺してOKです

リプレイ

●
 トゥーリは地面の凹みに隠れて耳をすまし、敵に情報を与えず情報を集めることに集中している。
 その隠れ場所を確保し自らも隠れたサイラスは、表情は平然としていても少し疲労している。
 トゥーリの実に4割増しの身長を隠す場所を見つけてそこに静かに移動するのは大変だった。
(あれが例の)
 短い休憩をとりながら敵を観察する。
 優れた聴覚とチャンスがあれば超視覚で以てメドゥの指先とドラゴンの戦闘能力を測るのだ。
「人間の悲鳴ばっかり。ドラゴンは死にそうにないね」
 生き残りの授恵者(メドゥの指先)は10人。
 うち1人は手を貸さずに見物し、残りの大部分は負傷している。
 冒険者であれば即座に撤退する状況だ。
 パヴェル・A・サムルガチェフも2人に倣い隠れて耳を使う
「ほほぅ。青いの(ドラゴン)もやるなぁ……」
 炎のような怒りがあっても敵を屠る爪牙は乱さない。人類殺害を目指す害獣ではあっても強者であった。
「あぁ、嫌なこと」
 アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは無意識にフードを深く被る。
 ドラゴンのブレスで壊れていく大地の音が否応なく届く。
「皆まとめて燃えてしまえば良いのに……」
 あの日故郷(ネーベルベルク)が潰えたのに何故お前達(賊と害獣)が生きているのだと、殺意が熱を持ってアウレーリアの心身で蠢いていた。
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングが歯を剥き出し眉間に皺を寄せる。
 おーい、と聞き慣れたくなかった声が呼びかけてきたのだ。
「ドラゴンだぞー。竜殺しになる好機だぞー」
 サイラスは気付かれていない。
 体格は非常に優れていても、隠密に適した装備を選択しているし十分な距離までとっているからだ。
 サイラスに便乗して隠れたハヤトも隠密には向いているが、推しを探すゴブーナの執念が上回った。
「ようこそハヤト君っ」
「元帝国兵の授恵者っつーからもしかしたらワンチャンあっかと思ったらゴブーナかよ!? つくづく腐れ縁だな!」
 隠れ場所から十数メートル静かに移動してから派手に動き出す。
 もうドラゴンにもメドゥの指先構成員にも気付かれた。ならば自分(冒険者)達が有利になるよう動くしかない。
「トゥーリ君とハヤト君との縁は大事にしているとも」
 後方祖母面(孫を見守る祖母風)をするのは、控えめに表現しても気持ち悪かった。

●
 ここにフレイヤ・サンライズという授恵者がいる。
 とても明るく元気で、何より元気で、構ってくる馬鹿(ゴブーナ)に反応しないのを非常に辛く感じる性(たち)を持つ。
(えー、ゴブーナはスルーする感じ~? 私だったら全力で応援とか全然オッケーなんだけどね☆ 私界で応援とウザ絡みで私の右に出るものはいないと言われたこの私、ウザ絡みバトルには負けない自信があったのになぁ~……)
 シリアス顔の仲間の邪魔をする気はないがそれはそれ。
(って言っても……こーして黙ってるなんてっ。ちょ、きついっ。なんかあったら笑っちゃいそうっ!)
(若いうちは欲望に素直なのが一番だよ)
(ばばくさーい!)
(ばばだとも。さあ、どうする?)
「うーん、どうしよ……はっ!?」
 いつの間にか会話していたことに気付いた瞬間、無意識に大太刀を振りかぶっていた。
 うむ、とゴブーナ(メドゥの指先幹部)は満足げにうなずいているがフレイヤは満足できない。
 録音や拡声する紋具……はないのでそれっぽい形の道具を片手で持つ。
「さぁ冒険者一同(サイラス別行動中)がこの戦いに巻き込まれてしまったというわけですがねぇ、一体これがゴブーナの部下さんたちにとってどういった影響を与えるのでしょうか。えー進行は私フレイヤと」
「ゴブーナと。でいいかな?」
「はい、そして解説2人目のフレイヤでお送りしていきたいと思います」
 フレイヤは伊達眼鏡をかけて茶番(婆への接待)を継続する。
「そうですねやはりここはドラゴンと冒険者に挟まれ続けて戦うのは避けたいところでしょうか? ではここでゴブーナさんを放置して部下さんに直接話を聞きに行きたいと思います。今のお気持ちどうですか? ああっ、解説席への乱入はおやめ下さいっ」
 逃走した構成員が1人、フレイヤのフリーズボルトで足止めされて追いつけたドラゴンに踏み潰された。
 ベルク・オスマットは愛想がない(ぶっきらぼうだ)。
 人類社会にとっての害(メドゥの指先)を相手にしているのだから当然とはいえ、害を真正面から見据えてこの態度をとれるのは凄まじい。
「ヤコブといいこいつ等といい帝国に迷惑をかけるのはやめてほしいんじゃが、やるなら宿敵(極北)か天敵(ウィリアム王子)に迷惑をかけてくれ」
 混じりっけなしの本音をぶつけることが、煙に巻くことになる場合もある。
「もしや、怖くて奴等には仕掛けられんのか?」
 戦士としては非常に小柄なベルクが、淀んだ紅の瞳でゴブーナを見上げる。
 覇気がある者に対しては強烈な侮辱になるはずのその言葉は、冒険者を知るまで死んだように生きていた(害をふりまいていた)ゴブリンに痛みを与えない。
「怖いよ」
 淀みきった瞳の奥に粘ついた光が灯る。
「ようやく少しだけ強くなれたんだ。勝ち目も成長も期待できない戦いはしたくない」
 ベルクは呆れた。
「まるで駄々っ子じゃな。それで、メドゥの指先がこんな中途半端な場所で何をしておるんじゃ?」
 問われたゴブーナが瞬きする。
「帝都にも遠いし貴様らがメインで展開しておる人馬の聖地とも離れておるじゃろ? できれば帝国領を巻き込む面倒ごとは勘弁してほしいんじゃが? 新たな隣人である人馬の領域からも撤収してもらえると幸いじゃな」
 婆(ゴブーナ)は時間をかけてようやくベルクの言っていることを理解する。
「私程度鉱山の小鳥(死んで危険を知らせる)にしかならない。帝都に近付けばその役目すら果たせなくなる」
 ベルクが積み上げ、まだ強さには反映されていない業(戦闘経験)が見えているかのように、嫉妬と憧憬が不可分に混ざった感情を抱いていた。

●
「助かっ……」
 歪んだ視界で大きな人影が覗き込むのが見え、しかし視界が少しマシになった瞬間その正体に気付く。
 冒険者だ。
「下っ端以上下級幹部候補未満かな」
 少しは何か知ってるだろうという声が聞こえたと同時に急所を押さえられる。
「聞き出すまで生きてりゃいいか」
 サイラスの制圧は断じて雑ではない。
 まだ複数生きている指先構成員を威圧し心を折るために、意識して効率よく痛みを与えている。
 ゴブーナを除く指先達を地面に転がしたドラゴンが、冒険者達を次の獲物に定めた。
 ブレスと見せかけての体当たり。
 成り立ての授恵者なら即死を通り越して五体がばらばらになりかねない一撃だ。
「これ(ドラゴン)だけなら簡単なんだが」
 バイアーディスや赤竜の鱗を豪勢に使った大盾と装甲が光の膜で覆われる。
 衝撃を無効にはできなくても半減することは可能で、半減すればサイラスの体格と生命力で十分に耐えることができる。
 これで情報確保と時間稼ぎは完了だ。
「嬢ちゃん、準備はいいかぁ?」
 パヴェルが舞っている。
 体は授恵者らしく極めて頑丈なのに所作が柔らかなのは、鍛え上げられた体幹と手足の指先から脳天に至るまで制御された技のおかげだ。
 柔らかくしなやかな髪が麒麟の尾のごとくうねり、額から伸びる2本の角が蒼く強く輝く。
「敵を打ち砕く、お前さんと俺の全力!」
 一瞬だけ、パヴェルの輪郭が輝く二角馬の何かの輪郭と重なった。
 雲もないのに空で白い光が明滅。
 槍を思わせる白い光の柱が、パヴェルではなくアウレーリアに届いて吸収される。
(デメリットなしの魔力の上昇。これだけあれば)
 アウレーリアは天と地からエーテルを集める。
 パヴェルの術に比べれば魔力上昇は穏やかなものだが、この上昇は排他ではなく累積だ。
 恐るべき密度と量の魔力がアウレーリアを内側から輝かせ、怒りで理性が半ば揮発していたはずのドラゴン(青緑トカゲ)に恐怖を思い出させる。
 体から力を絞り出す。無理矢理なブレスが体に痛みをもたらし、なのにアウレーリアの術発動に間に合わない。
 地面の上を不可視の波紋が走る。
 それ自体はドラゴンの脚に当たっても傷一つつけず、しかし波による揺れが数え切れない衝撃波を生じさせる。
 まるで空間ごと壊すかのように、ドラゴンらしく魔法的にも強靱な鱗も筋も関係なく揺らして砕く。
 もとより豊富なアウレーリアの魔力が非常識な領域まで高められた結果であった。
「ドラゴンとはなっ!」
 アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが苦笑する。
 子供の頃に強敵(ドラゴン)を討ち果たす己を夢想したことはあるが、まさか実質8人未満で戦う未来があるとは思わなかった。
 この荒れ果てた土地が帝国でなければ、今でも無邪気に喜べたかもしれない。
「叩き斬ってやるぜ!!」
 防御を極限まで減らして攻撃に集中する。
 負傷してもドラゴンの強さと固さと速さは変わらず、変わらないなら帝国騎士(アルベルト)の斬撃に耐えることなど不可能だ。
 指先構成員がばらばらに攻撃して薄い傷しかつけられなかった鱗が、竜鉄の大太刀に複数まとめて切り裂かれて一部が弾け飛ぶ。
(固いがこの程度っ)
 体格、エーテル、技術が高度な領域で調和した斬撃はまだ止まらない。
 ただ固いだけでなくエーテルにも支えられた腕の肉を切り裂き骨まで届いて半ばまで埋まる。
 ドラゴンは激痛で狂乱しそうになるのを耐え、しかし腕は耐えられずに左腕がだらりと垂れた。
 パヴェルが踊りエーテルが眩しく光る。
 アウレーリアの魔力が再び強化され、炸裂した爆風と爆炎がドラゴンの鱗をひしゃげさせる。
 そこにアルベルトの追撃が届く。
 長大な刃は高い位置にある首にも届き、しかし無事な腕に防御されて激しく火花を散らす。
 一旦距離をとろうとするドラゴンを加速(チャージング)して追いかけ、重い一撃を当てた。

●
 ドラゴンに敗れた構成員達がハヤトを囲もうとする。
「足を引っ張るのだけは一人前だな」
 ハヤトは敵の脅威を正確に評価する。
 1対1でも倒すのに10秒(2ラウンド)かかる。
 つまりドラゴンが健在な状況で戦うのは論外だ。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様のお出ましだ!!」
 優れた速度(移動5)に疾風足(瞬間的に加速)を組み合わせる。
 威嚇と囲んで叩くことしか知らない授恵者達の間をすり抜けて、爆風に襲われた直後のドラゴンに襲いかかった。
「固ってぇな!」
 爪では折れかねないと判断して3連撃を掌底と蹴り主体に組み直す。
 衝撃は確かに届き、鱗の下で深刻な内出血が生じてドラゴンの息が明らかに乱れた。
 おぉ、と感極まった声が聞こえる。
 強さならずっと上のはずのゴブーナ(メドゥの指先幹部)が羨望の視線を向けていた。
(もっと気持ち悪くなってる)
 これはトゥーリの感想だ。もともと気持ち悪かったが今はとくに酷い。
 ちらり。
 何か(稽古か戦い)を期待する目が、明確にトゥーリを向く。
「今日はあまり戦いたくないんだけどなぁ」
「今日も調子がいいじゃないか。どうだい1戦。私は片手片足を使わずどうかな?」
 あまりに甘い(気持ち悪い)態度に、ゴブーナの部下のはずの授恵者が衝撃を受けている。
「用もないのに戦いたくはないかな」
 トゥーリの声は平時のように穏やかだが、山羊に近い下半身は目まぐるしく大地を蹴って細かく位置を変えている。
 不意打ち狙いのドラゴンブレスも、冒険者の足を引っ張りドラゴンと戦わせようとする構成員も、高度な回避技術と優れた身体能力に術(バフ)と戦術(回避集中)を組み合わせたトゥーリに触れることもできない。
「そこをなんとか」
「ならない!」
 漫談じみていても双方真剣だ。
(術が効いている間に戦いたい……)
(術なしだと回避に集中しても当たるかもしれないくらい腕(命中)が上がってる。あの装飾品が怪しいかな)
 トゥーリはゴブーナが身につけている腕輪に注目する。
 お洒落とは全く関係ないデザインで、血の臭いはしないのに死臭に近いものを感じる。
(倒して手に入れたらその場で破壊か鎮魂の儀式だね)
 トゥーリは正直困っている。以前は回避に優れた冒険者ならゴブーナと正面から戦えたが、今はゴブーナ(攻撃の命中)が冒険者(回避能力)を少しだけ上回っているので負ける確率と死ぬ確率が酷く上昇している。
「すまない。仕事が仕事なので外すわけにもいかなくてね」
「どんな?」
「最高に運が良くてエフレム、普通に運が良くてその召喚獣、っと今のは忘れてはくれない……かな?」
 推し(トゥーリ)に構われたのが嬉しくて、ゴブーナの口は非常に軽くなっていた。
「無理かなー」
 トゥーリが後ろ手に合図を送る。
「お前の相手はこっちだぜ!」
 速度と回避に優れた敵は非常に鬱陶しい。
 ドラゴンは一撃離脱を繰り返すハヤトに何度も攻撃を仕掛けるが一度も当たらない。
(あっても当たるときは当たるがな。巧くやれよトゥーリ!)
 ハヤトはトゥーリとゴブーナの横を駆け抜けることでドラゴンをなすりつけた。
「どうしてもやるの?」
 トゥーリがドラゴンの背後に回ってゴブーナの視線を遮る。
「ドラゴンさん、アナタのこと見てるけど」
 ゴブーナはドラゴンの仇であり、伸び代はともかく現在のエーテルはこの場の誰よりも濃い。
(こうしないと足止めにもなりそうにないからね)
 術を使って魔獣(ドラゴン)の回復と支援をするのは、はじめての経験かもしれなかった。
「思い切ったな! 私の若い頃を思い出」
 何やらうきうきしているがドラゴンには関係ないので全力で襲いかかり流血を強いる。
「やりあうなら万全の状態で死合うほうが良いのではないか? 正直妾は他のメドゥとやりあうのはウンザリじゃが貴殿との死合は楽しめそうじゃと思っておるよ」
 そんなことを言うベルクだが、ゴブーナから既に遠く離れている。
「まだ逃げてなかったのか」
 本人達の意識としては逃げる途中だった指先構成員に温度のない視線を向ける。
 それは、ゴブーナが彼等に向ける視線と非常によく似ていた。
「まぁ、強者選別の為に敢えて死地へ放り込むというのは良くある手段ね。強い者は生き残るし、生きたい者は強くなるから」
 アウレーリアは爆炎を浴びせて逃げる賊を退治する。
「そのうち準備を整えて駆除するから、楽しみにしていなさい」
「だとよゴブーナ。そっちの持ってる情報を渡すなら今度会う時にゃ派手な舞台を用意して本気で殺りあってやるぜ」
 ハヤトが挑発する。
 トゥーリの行動(ドラゴン治療)を予想もできず不意打ちをくらったゴブーナは、腹から胸に噛みつかれて口から鮮血を流している。なのに笑み崩れている。
「そこの構ってさん。特に、強くなろうとしてるやつとか見つけたら強くなれる何かでもあるの? それともお邪魔扱い?」
 サイラスが疑問をぶつける。
 まともな人格なら激怒しそうだが相手はゴブーナだ。
「尽きたはずの情熱が蘇るんだ。しかも戦いが成り立つ程度に育」
 ドラゴンの咆哮にかき消される。
(この程度じゃ殺れねぇだろうな。親父達の情報はこいつの部下からでいいか)
 自ら認めた相手(冒険者)に嘘をつくとは思えないが、変人(ゴブーナ)から得た情報が正しく正確かどうか分からない。
 ハヤトも最後尾で警戒しながら(部隊としては壊滅したから大したことはできないはずだが)撤退(安全優先)するのであった。

●
 遠くでドラゴンの末期の悲鳴が響く。
 振り返って目を凝らせば、ドラゴンの首を手にしたゴブーナが冒険者を見つけられず落胆するの見える。
 サイラスは、素材がとれなくて残念だと呟いていた。

マスターコメント

 勝利と生還おめだとうございます。
ショートシナリオR

ショートシナリオR難しい 報酬:標準8 / 6〜8人

2022年03月10日 22時02分01秒 公開

成功

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー とりま ・ドラゴンに巻き込まれるのも気にせずメドゥ狙う ・相打ちまで眺める(狙うなら弱ったメドゥを襲う) ・メドゥを構う が大枠選択肢かな?と リクシナだし発注した人の意見に合わせるかなと思うけども

  2. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 元帝国軍の狼半獣人っつーから親父の情報かと思って来てみたらメドゥの指先にドラゴンかよ!? とりあえずはメドゥの指先の奴らを可能な限り捕らえてなにをしてやがったのか聞き出すのがいいだろうな… まあ、重要な情報なんざ知らされてねぇ可能性も高ぇけどよ。 俺としては序盤は身を潜めてドラゴンとメドゥの奴等の戦いを静観、弱った所を強襲してドラゴンは撃破しメドゥの奴等は捕縛ってのを提案すんぜ! 恐らくゴブーナの奴も噛んでんだろーが、こっちに仕掛けて来ねぇなら今回も丸無視作戦でいーんじゃねーかと思ってんぜ。

  3. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 >序盤 我も静観に一票。 態々相手の消耗もない状況で3勢力混合バトルロワイヤルとかやりたくないぞ。 手下がいるなら幹部もいるのだろうな。 だが、構ってちゃんゴブリナは放置プレイでいいだろと思うぞ(さわやかな笑顔)

  4. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 俺も、「序盤は静観する」に一票かな。 ゴブーナに対しては、こちら側の消耗状況(例:ドラゴンやゴブーナの部下の消耗が予想以上で余裕で倒せた場合)次第では8人がかりで一斉攻撃を仕掛けるのもアリかもな。

  5. パヴェル・A・サムルガチェフ

    キャスターのパヴェルだ。 よろしくなぁ。 序盤は、静観で良い、か。 一応火力重視の術を使うキャスターがいたら言ってくれ。 合体魔法を試したいんで、合わせようと思う。 【職編成】 ヒーラー1 ウォーリアー2 キャスター3 シーフ2

  6. フレイヤ・サンライズ

    フレちゃんの御登場だぞ、だぞだぞっ☆ え?なになにー?放置なの?放置しちゃうの? そーゆーのよくないよー、私だったら看板掲げて全力で声援とか解説とか応援しちゃうよ☆ 大丈夫大丈夫いけるいけるってまだまだやれるお前の本気はその程度じゃないってまだ喉潰れてないよ腹に気合入れて力の限り目指せエールの甲子園!…ってな感じでね((( あ、パヴェルさんの合体魔法興味はすっごいあるけど…私はパス! だって、物理の方が火力でるもん☆(

  7. No.7

    応援とかした瞬間やる気だして下手するとウザ絡みやろなぁと。前回放置されたからそれに反応して攻撃されたりとか構ってもらえそうなら元気に暴れにきそう。 序盤静観するとして、その後はとりあえず見つかったら前回より無視が難しいは覚悟した方良さげやなと。

  8. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    顔出しが遅れてごめんなさい。 キャスター、アウレーリアです。宜しく。 まぁ、決着がついたところで横合いから叩くのが楽は楽でしょう。 この感じだと部下を攻撃したくらいでは、ゴブーナ本人は敵対しないのね。 部下は掃討後に生きてたら捕まえるとして、本人の捕縛は考えない感じかしら。 目的上は殺害も視野に入れているようだけれど、どこまで真面目に戦う? 合体魔法、使うなら合わせるわ。 範囲攻撃での掃討か、単体火力を上げてゴブーナに撃ち込むか。方針次第ね。

  9. トゥーリ

    メンテ諸々で遅くなっちゃった!ごめんね! ゴブーナさんは……うん、とりあえず横に置いておこうかな! これまでの経緯でいろいろとこっちの手の内を晒してるのもあるから、ドラゴンもその他メドゥもいる状況で手を出したくはないよね どちらか言うなら話し相手ぐらいなら積極的に話してくれそうな感じはあるから、そこから視点とか考え方のクセなんかを聞き出そうかな…… とりあえず情報収集と生存第一で!

  10. No.10

    とりあえず明日出発だけど合体魔法組は誰狙うの? ゴブーナやる気なら立ち位置考えないとなんだが

  11. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    ゴブーナに手出ししない方針なら、私は部下相手の範囲攻撃に使う心算です。 戦闘回避の方針で良いのね?足並み揃わず攻撃して、策もなく指先の相手とか私は嫌よ。 部下を目の前で焼くのだから、絶対敵対しないという保証もないのですし。 会話を試みる人は、敵対しないよう上手く丸め込むなり宥めるなりして頂戴ね。 私も何かしら言い訳は考えますから。

  12. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    そうだな、ひとまずメドゥの目論見を聞き出すのを優先してーからゴブーナにはこっちからは仕掛けねぇって方針で行こうぜ! 頃合いを見てドラゴン共を始末し手下共を極力捕まえて話を聞き出す方向でってことでよろしく頼む!! ゴブーナには俺達とやり合いてぇなら今度派手な舞台でも用意してやる的なことでも言って言いくるめりゃ意外と乗ってくるんじゃねーか?

  13. パヴェル・A・サムルガチェフ

    まぁ火力はお前さんらに任せて、俺は部下に向けて弱体と合体強化に専念するさな。 俺もあんまりあっち(=ゴブーナちゃん)との面倒にはなりたくねぇから ちょっかいは出したくねぇし……。 >合体魔法(アウレーリア氏) ありがとうなぁ。それじゃ、アウレーリアの嬢ちゃんに乗せるぜ。 部下相手に範囲攻撃で構わねぇと思う。 お前さんの詠唱の直前に乗せるが、余裕があれば合図してくれ。

  14. フレイヤ・サンライズ

    ゴブーナはスルー☆ っつーか静かに隠れるとかw 些細なことで笑える私に静観はムリーw 浜○アウトーしちゃうからw ま、それは置いといて 戦いになったらドラゴンにアシッドブリットぶつけて殴りに行きま~す☆

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0