赤翼の闇鬼
望月誠司
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シナリオID:1902
オープニング
フォルムは人に似ていた。
けれど肌の色は黒色で、闇を塗り込めたかのようだった。手足は長く、細く節くれだっていて、胴は歪な程に小さかった。一般的な人間の、半分程度しかない。
髪は雪のように白く、腰程までに伸びている。
瞳の色は夜空に浮かぶ月のような金色。口の位置には真一文字に切れ込みが入っている。
背中には鳥の翼のように赤い翼が生えていた。
剣を一本、持っていた。
細身の刀身で、長さは2m程度だろうか。
紫水晶のような色合いの、半透明な不可思議な鉱石で形成されている。
淡い紫色の輝きを纏い、振るえば宙に光の軌跡を残した。
円弧を描くように走った紫光が、裂帛の叫びと共に戦斧を振り上げ踏み込んだ戦士の胴を薙いだ。
バターに熱したナイフを差し入れたかの如くに、光刃が鮮やかに壮年男の胴を二つに切り分けてゆき、上下に断たれた戦士は赤色をぶちまけながら、突進の勢いに乗って落下しながら大地に激突した。
紫光刃の斬れ味は尋常ではなかった。
長衣を纏い長杖を手にしているエルフ娘が右手に蒼白く輝く槍を出現させ、赤翼の闇鬼へと投擲、さらに杖を翳して場に超重力の力場を発生させた。
駆ける闇鬼の動きが鈍り、さらに蒼光の槍が炸裂して光が纏わりついてゆくと、その足が完全に止まった。
すかさず青年が剣を振るって衝撃波を飛ばし、銀髪の老婆が弩を猛烈に輝かせて光の矢を飛ばす。
その瞬間、背中の赤翼から赤い光が噴出した。
闇鬼がその姿を掻き消す程に素早く加速して、衝撃波と光矢をかわし、僅かに浮かび上がりながら一瞬で60m以上の距離を詰めエルフ娘へと肉薄、紫光纏う長剣を一閃、腰から上下真っ二つに斬り分けた。
悲鳴すらあげる間も無くエルフ娘が絶命し血の海を作りながら地に落ちる。
青年が怒声を発し剣を強烈に眩く光輝かせ突撃してゆく。
闇鬼が左手をかざした。すると何かが割れる音と共に左手の先に、人の頭部サイズの、紫色に輝き激しく放電する球体が現れた。
次の瞬間、紫色の雷球が勢いよく撃ち放たれ、青年へと襲いかかる。
青年は横っ飛びに飛び退いた。だが、紫雷球はまるで意志でも持っているかのように宙で軌道を変化させ、青年へと喰らいつく。
紫雷球は轟音と共に爆ぜ、激しい電撃を空間に解き放ち、青年の身が激しい電撃の嵐にうたれて衝撃と苦痛から踊るように身悶えする。
闇鬼の赤翼が再び輝いて赤光が放出され、その姿が掻き消える。
次の瞬間、紫光が空間を竜巻の如くに薙ぎ払い、青年の首が宙に舞った。
三人の冒険者を瞬く間に斬り殺した闇鬼が周囲を見回した時、弩使いの老婆の姿は忽然と消えていた。
逃げたのだ。
闇鬼は紫色の長剣を地に突き立て、手放すと、青年の身を持ち上げ、口を上下に大きく開いて噛み付き、音を立てて貪り喰い始めたのだった。
●かくて
「依頼だよっ!!」
ゴシック式の黒ドレスに小柄ながらも起伏豊か身を包んでいる金銀妖瞳のエルフ娘が、受付窓口の台をバシバシと白い手で叩きながら叫んだ。
「リブラネスタから三日くらいにある場所の村がクリーパーに襲われてさ、被害を出しつつも生き残りの村の人達は避難したんだけれど、そのクリーパー、その村に居座ったまま動かないんだよね」
だから村人達はずっと村に戻れていないのだという。
「村を取り返す為に冒険者の一パーティが討伐に向かったんだけど、これがこのクリーパー、『赤翼の闇鬼』って名付けられたんだけど、これが滅茶苦茶強くて、返り討ちにされちゃったんだよ」
パーティーメンバーであった老婆が唯一逃走に成功して生き残り、クリーパーの戦闘能力らの情報をギルドに報告した。
「村の人達リブラネスタに避難してきているんだけれど、都市で難民として生活するのは苦しいし、出来るだけ急いで村を取り戻してあげたい、って事で村の領主様から再び討伐依頼が出されてるんだよ」
それで現在、その討伐隊のメンバーを大募集中という訳らしい。
なお先に壊滅したパーティーの老婆は「村の連中や殺されちまった皆には悪いけど、あたしゃもう二度とあんな恐ろしい化け物とは戦いたくないよ」と嘆き「もう歳だしね」と冒険者を引退して旅に出てしまったらしくこの討伐隊に参加する事はないようだ。
「相手はとても強いみたいだから、腕に自信が無い限り、あんまりお勧めは出来ないんだけど……――さん、良かったらこの討伐隊、参加してみる? 強敵相手だけに報酬は良いよ」
受付嬢は珍しくウルウル目線でなく真顔で貴方を見つめてそう言ったのだった。
解説
マスターより
リプレイ
ケン・Z・ブラッドリーは受付嬢より話を聞くとニヤリと笑った。
技もさることながらそのクリーパーが持つという刀も気になる。紫水晶のような色合いの、半透明な不可思議な鉱石で形成されているという。
一戦士としても一鍛治士としても興味深い相手だった。
「こいつは久しぶりに狩り甲斐のありそうな敵だ」
かくて討伐隊に一人の首狩り戦士が加わった。
●
「――迷わず逃げを打った方がいたからこそ手に入った情報もある」
アクティオンはそう思う。
もしも事前に何の情報もなくあたらざるをえなかったとしたら、状況は今よりもより一層厳しくなっていた事だろう。
「ならばこの先の仕事はこちらがすべきことです」
命と引き換えに情報を引き出した者、その情報を持ち帰った者、誰かが冒険者として役目を果たしたならば、己も冒険者としての役目を果たすべきだろう。この場に自分が居合わせたのも何かの縁。
「お任せを」
リザードマンの男は白金髪のエルフ娘に頷いた。
かくて討伐隊にまた一人、白鱗の射手が加わった。
●
(リリエルさんが真面目な顔を……出来たのd……する程の敵ですか……)
イヴェール・イリュジオンは胸中で言い直しつつそんな感慨を抱いた。
この受付嬢がウルウルと訴えかけて来ないのも珍しい。
それだけ今回は村人達の事情よりも、討伐に赴く冒険者達の身の安全の方こそが、リリエル的に案じられる強敵という事だろうか。
しかし、だからこそ、
「帰る場所を奪われたままは辛いですよね……」
ぽつりと呟く。
ギルドにさえ見捨てられてしまったら、村人達は辛かろう。助けてくれる筈のものが自分達は助けてくれない時、人の絶望は深い。
そして、その事を別にしても――
(野放しには出来ない相手ですね)
故に、騎士という夢を追う少女は金色の瞳でリリエルを見つめ返し言った。
「言うまでもないですが……やります」
かくて討伐隊に一人の少女戦士が加わった。
●
その後も一人、また一人と授恵者達が集い、かくて8人の討伐隊が編成され、彼等彼女等は赤翼の闇鬼に占拠された村を目指し出立した。
「それにしても、おばあさんが言っていた情報通りだとすると、冒険者をあっさり真っ二つにするってどういう攻撃力なのよ……」
討伐隊に加わった冒険者のうち一人エミリア・シバがとんでもないわね、とぼやいている。敵の剣撃は驚異的な破壊力を持っているようだ。
「おねえさんも一度の油断でそうなりえる可能性があるから、気を引き締めていかないといけないわね」
夜空を凝縮したような濃い紫色の長い髪の若い女が真顔で呟く。
それに、
「上等だ! 久々に骨のありそうな相手じゃねーか!!」
銀髪金瞳の妖鬼の青年が牙を剥いて笑った。
ハヤト=ガラン=ヴォルファングである。
ケンと同様、相手が強いと聞くとよりやる気が出るタイプのようだ。
リブラネスタより旅をすること三日目の昼。
やがて討伐隊は件の村へと到着した。
●
前回は赤翼の闇鬼は仕掛けるまで村の広場にある井戸の傍に立っていたという。
セリオス・オーガストは仲間達から一人先行し、広場の周囲に立ち並ぶ家屋の一つへと侵入した。
窓の陰より広場の中央をそっと見やる。
すると、今回も井戸の傍にソレは佇んでいた。
手足が節くれ立ち異様に長く、胴は歪な程に小さい、人に似て非なるフォルム。
闇を塗り込めたかの如き肌と、そして背から生える一対の鮮血のように真っ赤な翼。
「いるぞ」
猫科の丸み帯びた銀毛耳と尻尾を持つ半獣青年は、仲間達の元へと滑るようにしなやかに戻り報告した。
セリオスからの偵察情報を受け取った面々は、赤翼の闇鬼を討つ為の配置につく。
エミリアは密かに家屋の屋根に登った。
這うように態勢低く、屋根の縁へと進みつつ閃光塗弾のピンを引き抜く。
一、二、と胸中で秒数を数えながら保持し、三を呟く前に立ち上がりつつ振りかぶり全力で投擲する。
放物線を描いて缶が飛んでゆく。
赤翼の闇鬼は即座に反応した。
淡い紫色の輝きを纏う長大な細身の剣が一閃される。斬り払い。
紫光の刃が閃光塗弾に触れる直前、缶が破裂し眩い閃光を周囲に撒き散らした。
「KUROOOOOOOOO!」
輝きの中、奇声が響き渡る。冒険者達は一斉に動き出した。
同時、闇鬼が左手をかざした。
塗弾の光がおさまると共に、何かが割れるような音が響く。人の頭部サイズの、紫色に輝き激しく放電する球体が出現する。
紫色の雷球が勢い良く撃ち放たれた。唸りをあげて高速で広場の宙を貫き、屋根上のエミリアへと襲いかかる。
(――来る!)
金瞳の若い女は迫る紫雷球に対しぎりぎりまで引き付けた。
眼前にてエーテルを解放、その軌道を瞬間的に見定め飛び退く。
刹那、雷球が鋭く曲がった。
――避けきれない。
紫色に輝く光の球がエミリアの細身へと喰らいつき盛大に轟音と共に爆裂した。紫髪の娘の身が激しく荒れ狂う紫色の電撃の嵐にうたれてゆく。
衝撃と共に苦痛が女の全身を貫いた。
雷球の威力は低いがエミリアの装甲も薄いのでかなりのダメージだ。
(これ、は、なかなかね……)
痛みと電撃の衝撃で身体が一時的に動かなくなってゆく。
ギリギリまで引き付ける狙いは良かった。
だが、それでも今のエミリアの装備構成とスキルだと基礎的な回避力が届かなかった。今回のクリーパーは強敵だ。
さらに赤翼の闇鬼はエミリアを見上げ、その背より血のように赤い翼を広げる。
突撃する気だ。
が、それよりも速く、閃光塗弾が爆ぜると同時、イヴェールが家屋の陰より飛び出していた。
少女は銀糸の如き艶やかな長髪を宙に舞わせつつ広場を駆けると、闇鬼を金色の瞳で睨み、殺気と共にエーテルを解き放つ。シーザーロアだ。付与力が高い。
吹きつけて来る殺意のエーテルに反応し、闇鬼はその異貌の頭部をイヴェールへと向けた。
同時、アクティオンが満月の如く引き絞った短弓よりタイミングを狙い澄まして矢を撃ち放った。
唸りをあげ旋転する矢が空を貫いて飛び、鬼の黒い肩へと鋭く突き立つ。鏃より攪乱のエーテルが侵蝕してゆく。
闇鬼の姿が掻き消えた。
宙に赤い軌跡を残しながら、翼より赤光が爆発的に噴出され、イヴェールの眼前へと剣を振り上げた態勢で一瞬で到達する。
先の戦ではエルフのキャスターを一撃で腰から上下に両断した2mの長さを誇る紫水晶の細身の剣が、凶悪に禍々しい紫光を噴出しながら振り下ろされる。
一閃。
防御に精神を集中させている少女戦士は、装甲をより活かすべく竜鱗の盾を傾斜させながら眼前にかざした。
紫光剣と竜鱗盾が激突し、光粒子を散らしながら轟音と共に壮絶な衝撃が荒れ狂う。
イヴェール・イリュジオン、ちょっと尋常じゃない防御力。
しかし、相手も装甲の薄い冒険者なら一撃で両断する凶悪無比さだ。殺し切れぬ衝撃が盾越しに全身を貫いて来る。ペインキルにより痛みは感じなかったが、左の腕と肩の骨が軋む嫌な音をあげた。
(……後、一撃くらいなら耐えられますか)
金瞳の少女は無表情のままダメージを把握する。
竜鱗の盾と紫光の水晶剣が光を撒き散らす中、セリオス、銀髪の半獣青年は、竜の骨腱を用いてつくられた複合弓に矢を番え、目一杯に引き絞っていた。
銀色の瞳で闇鬼を睨み据える。
エーテルを全開に解放、命を蝕むエーテルを操作し鏃に纏わせ、勢い良く撃ち放つ。
弓弦の音を鋭く鳴り響かせながら、旋転する矢が空気を切り裂き唸りをあげ広場の宙を翔け抜ける。
次の刹那、矢は闇鬼の身に錐の如く回転しながら深々と突き刺さった。命を蝕む不可視のエーテルが浸透してゆく。インベイシブアローだ。
ケン、エルフのような顔立ちとドワーフのような筋肉質な肉体を備えた褐色肌の赤銅眼の男は、見極めるように闇鬼を見据えていた。
鬼の注意がイヴェール及びセリオスの矢に分散した瞬間、狙い澄まし大太刀を振り上げながら踏み込む。鍛え抜かれた竜鉄の刃が、ケンのエーテルに呼応し赤い光を宿してゆく。
一閃。
赤雷の如く刃が走る。
狙うは利き腕と思われし右腕。
鬼の黒肌に赤光の刃が深々と喰い込んだ。
太刀が引かれると共に斬り裂かれ、真っ赤な血が勢い良く吹き上がってゆく。
「いくぜぇっ!!」
同時、仕掛けるタイミングを見計らっていたハヤト、ケンの逆サイド、闇鬼の左側より突撃した。
赤褐色の肌の銀髪の妖鬼は、風の如く踏み込みざま、身を独楽の如く回転させ回し蹴りを放つ。
「シャオラァッ!!」
紅雷を纏う具足が鞭の如く一閃され、セリオスとケンの一撃に態勢を崩している闇鬼の脇腹に炸裂する。
さらに揺らいだ所へすかさずハヤトは踏み込み、忍刀を石火の如く振り下ろす。
闇鬼は素早く上体を後ろに反らしてこれを回避、しかしハヤトは間髪入れずに前蹴りを放って闇鬼を蹴りつけた。
衝撃が炸裂する中、赤い妖鬼は蹴りの反動を利用して宙返りしつつ後方へと飛び退き間合いを広げる。
その空いたスペースに緑髪紫瞳のドワーフ娘、ヴィルヘルミナは青い刀身を持つ玲瓏な刀より眩い光を伸ばし、目にも止まらぬ速度で振り抜いた。エーテルブレード、紫電一閃。
眩い光の刃がまさしく閃光と化し、青い軌跡を残して走り抜ける。
長大な青い光が風を切り巻いて唸りをあげ、闇鬼の左の翼を鮮やかに叩き斬って抜けた。
一撃で斬り飛ばされた翼が回転しながら宙を舞い、切断面より鮮血が噴出してゆく。天魔の如き破壊の斬撃。
サイラス、その間に闇鬼へと間合いを詰めている。
角と爪、頭に白い体毛を持つ赤鱗のリザードマンは、近距離より殺気をエーテルに乗せて撃ち放った。シーザーロアだ。
闇鬼の異貌の顔がサイラスを見た。
インベイシブのエーテルが蠢き闇鬼の命を削ってゆく。
家屋から飛び降り接近していたエミリアは、竜爪の剣を手に駆けると刃に赤光のエーテルを纏わせ踊るように一閃、闇鬼の胸を斬り裂き鮮血を噴出させた。同時、赤い光が意志を持つように闇鬼の身へと纏わりついてゆく、縛糸刃だ。
次の瞬間、光が吹き散らされるように霧散する。抵抗されたのだ。エミリアは即座に飛び退いて間合いを広げ、闇鬼がすかさず紫雷球を撃ち放つ。
着地した金瞳の娘はホーミングしつつ迫る雷球を引き付けると、エーテルを解放、軌道を見切りつつ再度地を蹴って飛んだ。
紫雷球は鋭く紫髪の女を追って曲がり――しかし、アクティオンの攪乱射撃によって精度が低下している。
間一髪、紫雷球はエミリアの脇を突き抜け明後日の方向へと飛んでゆく。かわした。
その間に逆サイドよりハヤトが踏み込み、紅雷纏う暴風の嵐の如き連撃を繰り出している。
一発蹴りが外れるも、具足と忍刀を石火の如くに叩き込んだ。
闇鬼の身が具足の紅雷撃の衝撃に揺らぎ、黒肌が刃に裂かれて鮮血が宙に散る。
さらにアクティオンが重撃射を、セリオスがバスターアローを撃ち放った。
エーテルが収束された矢と、眩く光輝く矢が、左右より唸りをあげて飛来し、闇鬼の胴に連続して突き立つ。
旋転する光矢が骨肉を抉りながら凶悪な破壊力を炸裂させ、重撃の矢より回避力を低下させるエーテルが伸び闇鬼へとまとわりついてゆく。
イヴェール、注意が己から逸れているのを見て、闇鬼の側面へと銀の長髪を靡かせながら回り込み宝剣を一閃。黒肌が裂かれて血飛沫が舞った。
闇鬼は猛攻を受けながらもサイラスを睨み、左手を向けて紫雷球を撃ち放った。さらに間髪入れず両手で紫の水晶剣を振り上げて踏み込み、紫雷の如く振り下ろす。
赤鱗のリザードマンは、紅玉と各種素材を用いて作られた盾を素早く翳した。紫雷球が盾に激突して爆ぜ、しかし展開した斥力が放電を押しのけてゆく。サイラスの装甲の前にはかすり傷だ。
だが、続く本命、より装甲を活かすべく盾を傾けて受けるも、轟音と共に壮絶な衝撃がサイラスの身を突き抜けてゆく。
盾持つ左腕から嫌な音が盛大に鳴り響いた。ペインキルにより痛覚は遮断しているが凶悪無比の衝撃力に危うく意識が遠退きかける。
(――これは、ちょっと不味いか?)
次は耐えられそうに無い。
「おいおい……俺の前で余所見すんなよ」
だが、闇鬼が仕掛けた瞬間、ケンがコマ落としの途中のコマをすっとばしたかのような予備動作を限りなく消した超高速の動きで一撃を放った。
下にあった大太刀が掻き消え、次の瞬間に上に出現する。途中にあった闇鬼の片翼が斬り裂かれ鮮血が噴出してゆく。
サイラス、回復しても焼け石に水な気配なので、速攻を目指し、刀にエーテルを収束させてゆく。
裂帛の気合と共に踏み込み一閃。
深く反りが入った長寸肉厚の刀身が唸りをあげて走り、ケンが下から上へと裂いた片翼を、上から下へと斬り裂いた。
風雷坊の一撃に赤い翼が完全に圧し折れ、闇鬼から両翼が失われる。
サイラスはすかさず後方に飛び退いて間合いを広げた。
少し離れた位置を駆けるヴィルヘルミナ、エーテルを全開に解き放つと闇鬼の利き腕、先にケンが斬り裂いた箇所を狙い、青光の刃を鋭く振り抜いた。
青い軌跡を残す長大な光の刃が、弧を描いて走り抜ける。
壮絶な破壊力を秘めた蒼光刃は、負傷しさらにサイラスの破鎧砕によって柔らかくなっていた闇鬼の右腕を完全に斬り落とした。
鬼の口から奇声が発せられ腕の断面から夥しい量の鮮血が噴出する。
インベイシブのエーテルが闇鬼の身を蝕んでゆく。
「閃光を使うよ」
サイラスが塗弾のピンを引き抜きつつ声を張り上げた。爆発まで後三秒。
一方、エミリアが踏み込み、一刹那の内に三連の剣閃を巻き起こしている。
闇鬼はかわさんとするがアクティオンの重撃射で回避力が低下している。
右手に握る竜爪の剣と、左手に握る竜爪の短剣が嵐の如く翻り、闇鬼の黒肌を斬り刻んで、既に血塗れになっている闇鬼をさらなる赤に染め上げてゆく。火力が高い。一発が重いシーフの三連撃は総合ダメージが飛躍的に跳ね上がる。
闇鬼がカウンターに紫光を纏う剣を左腕一本で振り上げ、同時、ハヤトが逆サイドから詰めている。
エミリアがバックステップして軽やかに紫光剣をかわし、銀髪赤肌のゴブリンが紅蓮の竜巻の如き連続回し蹴りから雷纏う忍刀を一閃して斬り裂く。
アクティオンが光輝く弓より烈光の矢を撃ち放ち、イヴェールがシーザーロアを放ち、セリオスがエーテルを全開に鋭く矢を撃ち放つ。
二連の矢が闇鬼の身に突き刺さって凶悪な破壊力を炸裂させ、ヴィルヘルミナが青い光を纏う水天一碧を一閃、長大な光の刃が闇鬼を深々と掻っ捌いて抜けてゆく。
大量の赤色が撒き散らされる中、異貌の闇鬼は奇声を発しながらイヴェールへと紫光纏う紫水晶の長剣を振り下ろした。
銀髪少女は軌道を見据えながらしっかりと盾を翳し受け止める。
轟音が鳴り響き、凶悪な衝撃が突き抜けて来たが、闇鬼はヴィルヘルミナに右手を斬り落とされ、左手一本の片手打ちになっていた為、威力が低下していた。これならまだまだ耐えられる。イヴェールは自身へとヒールを放って生命力を回復させてゆく。
サイラスが閃光塗弾を投擲した。
激しい光の爆裂が闇鬼の顔面付近で巻き起こる。
閃光が収まった時、ケンの姿が掻き消えていた。
エーテルを全開に解放し、瞬間的に猛加速した男が、闇鬼と交差ざまに竜鉄の大太刀を掻き消した。
雲耀すら置去りにすると伝えられる凄まじい速度の剣閃が突き抜けた。
ケンは足を止めると闇鬼へと振り返った。
「攻撃だけはなかなかだったぜお前――その首置いて、迷わず逝け」
闇鬼の身体がぐらりと傾いた。
首の上から頭部が転がり落ちて、鮮血が吹きあがっていった。
●
退治後。
「さて……この刀はどうなってるんだろうな」
「どんな材質なのでしょうね」
ケン、ヴィルヘルミナ、サイラスの三人が、残された紫水晶に似た材質でつくられた長剣を興味深げに見やっている。
今回、鍛冶師達は全員、長剣を回収したがっていた。
しかし、剣は一本である。ケーキなどと違って、三等分する訳にもいかない。割れば使い物にならなくなるからだ。素材として鉱石だけが目的ならそれでも良いが、剣そのものが目当ての人間はそうする訳にもいかない。
となるとこれを手にする事ができる者は一人のみである。
その一人をどのように決めるか。
くじなど運否天賦で決める方法もあったが、戦功順で決める事とした。
戦で最も働いた者が取る。
古来よりの戦人の流儀だ。
なおサイラスは、
「焔翼と赤翼が噴射して移動で被るんだわ訴訟」
と訴えていた。
今回セットしてきていなかったが、あのクリーパーは自分のスキルとエフェクトが似ているとの事。
「剣の方も最後の一本にする奴細身の刀剣の筈だったからきっちり被ってんだよなぁ」
そうなの?
という驚きの事実もあったらしい。
「これはもう勝訴だろ、勝訴」
ばんばんと地面を叩いて主張する。
剣に関しては確認のしようが無かったが、エフェクトはそう言われると確かに少しかぶっているかもしれない、陪審員たる他の冒険者一同はそう思った。
しかし仮に賠償金を請求できたとしても、すべき相手は赤翼の闇鬼である。
ケンとヴィルヘルミナではない。
その為、その事情は補正はつかないものとされた。
そんな訳でフラットに今回の戦いに参加した全員で戦功を論じる事にする。
効率的に強力な攻撃をし続け、闇鬼の隙を見計らい片翼を最序盤で斬り飛ばし、後には腕も斬り落としたヴィルヘルミナ。
同じく強力な攻撃を続け、最終的にトドメとなる一閃を放ち、またサイラスの片翼斬りやヴィルヘルミナの腕落としの布石となったダメージも与え続けたケン。
雷撃球とそして非常に強烈な攻撃力を誇る闇鬼の剣撃とを、その注意を惹いて一発づつ受け持ち、片翼を斬った他、ケンのトドメの一撃へと繋がる閃光塗弾を炸裂させたサイラス。
それぞれに活躍があった。
甲乙つけがたい所だったが、今回は三人の中ではヴィルヘルミナが最も戦功があった、という結論になった。
戦いは序盤での優勢が後の優劣に与える影響が大きいので、速攻で強スキルで敵の片翼を斬り飛ばし弱体化させたのは大きい、という判断だった。
かくて、紫水晶のような鉱石で作られた長剣はヴィルヘルミナの手に渡ったのだった。
●
「先に戦い生き残った老婆の方も、風の噂で無事解放された事を聞けば少しは気持ちも晴れるでしょうか?」
リブラネスタに帰って来たイヴェールはギルド窓口にて、視線を少し下げつつリリエルへと言った。
白金髪のエルフ娘は頷き、
「うん、多分、随分と晴れると思う。仲間を殺したクリーパーが今も村を占領しているのと、退治されたのじゃ随分と違う筈だよ」
それから笑顔になって、
「イヴェールさん、他の皆もだけど、有難うね。村の人達もじきに村に帰れるようになると思う」
と言った。老婆にはリリエルから無事退治されたと連絡しておくよ、との事。
「仇討ちなど、しなくて済むのが一番なのですが……犠牲になった人々と、生き残った人々の為になれたのなら、何よりです。あ、そういえばリリエルさん」
イヴェールは包みを取り出すとエルフ娘へと差し出した。
「このタイミングで渡すものか悩みましたが……少し早いですがチョコレートです」
「えっ、くれるの? わぁ、有難う!」
ぱぁぁぁっと顔を輝かせてリリエル。
銀髪少女はくすっと微笑すると、
「お返しは期待していますよ」
「えへへ、うん。後でお返しするね!」
という事で、後日顔を出した時にイヴェールはリリエルからお返しとして、愛らしいゆるキャラが描かれたラベルが張られた果物の砂糖シロップ漬けの瓶を貰った。
なんでもコッコ島という南国の島から最近売り出されている舶来品との事で、一年ほど保存が効く上に非常に美味な甘味食品、との事だった。けっこうお高いらしい。
それが今回の依頼の顛末。
さらなる後日、村にはリブラネスタに避難していた村人達が徐々に戻ってゆき、従来の平穏な姿を取り戻していったという。
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:多い8 / 6〜8人
2022年02月20日 10時59分53秒 公開
相談掲示板
No.1
サイラスだ、人数揃ったなーと。 とりあえず移動力的に補正付きで殆どどこで戦っても、殺界とかでない限りどう抑えようとしてもフツーに空から移動して後衛とか狙えそうだなぁと。 ウォーリアのシーザーロアとか狙ってみる?回避低下効果あるけど回避盾系のビルドでなければ魔法攻撃である事くらいしかサンダーボルト怖くない気もするし。 後は剣撃とカウンターが火力ありそうな感じかね そしてキャラ被ってるところある気がするんだけどこれ訴訟とかすればいいのかね?
ヴィルヘルミナです。よろしくお願いしますね。 移動力と攻撃力が高さが特徴という感じですか。防御面に関しては特に記載なしと。 剣での攻撃は防御が高い方でも長い間持ちこたえるのは難しそうなので、速攻の方が無難でしょうか? 移動を封じるのは難しそうなので、被害を減らすとなると命中を落とすのも手ではあります。雷球は難しいですが。 翼を斬り落とせるなら話は別ですけどね。逃走を図る知恵もあるようなので封じられるならそれに越した事なないですけど。 あと、提供されている情報の中にありませんが、薙ぎ払いを使っている様子がありましたね。 あまり固まって動いていると危険かもしれません。
シューターのアクティオンです、よろしく。 拘束できないのもそうですが、雷球もあるので安全圏はなし、ですね。 逆に言えば、あからさまに「守りを捨ててる後衛です」という動きを見せれば積極的に狙ってきてくれそうですか。 速攻狙いなら、敢えて食いつかせての集中攻撃もいいかもしれません。
・・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえず言われてる通り相手の移動能力で自在に動いてくるだろうから前衛後衛も安全ではないな 短期決戦を目指すなら防御能力に関しては記載ないから並みというところだろうし、BSで盛って攻め立てるという感じだろうか <訴訟 敗訴!!と書かれた紙を送りつけられそうな気が(ぁ
No.5
とりあえず ・弱体乗せて速攻 ・守りを捨ててるとか執着付与とかして攻撃の被害を集中 ・翼を切り落とす事を狙う 今んとここんな感じかな? とりま改めて、シーザーロアはあるよと。効かない可能性はそらあるし、後衛が誘う手段はあるにはあるが狙われると味方の立ち位置によっては攻撃届かないとか落ちる可能性あって怖いなと。持ち込まないなら雷神剣で火力優先になる。 仕留めて物言わなくすれば勝訴になるから(ぉぃ
>シーザーロアか後衛に誘うか 一長一短、ではありますか。 まあ後衛は距離をとっても安全ではないなら、割り切ってそんなに距離を離さなければ……となると、それはそれで相手からすれば孤立しているわけでもない後衛を狙ってもあまりうまみはない、と(ふむ BSを狙っていくつもりならば、素直にシーザーロアに頼らせてもらうのもいいのかもしれませんね。効かなくとも、かけるBSの種類によっては後衛も対応可能になるか、少なくとも即落ちしない程度にはなる可能性はある。 ……(それ、最初から訴訟の手間が余計なだけじゃないかなぁって顔)>物言わなくすれば勝訴
ウォーリアのイヴェール・イリュジオンです。 どうぞよろしくお願い致します(ぺこり >シーザーロア OP中にてキャスターと思われるエルフの方にスネアージャベリンとグラビティフィールドを受けて一時は足が完全に止まっている様子が見受けられました。 その後はスキルと思われる機動で脱出されてしまいましたが、この事から付与の数値次第ではかかる可能性は十分あると思います。 サイラスさんが訴訟(物理)するなら引き付け役は私がするので、火力で勝負して負かした方が真贋もはっきりするのではと…
狩りがいのある首があるって聞いたんで狩りに来た ウォーリアーのケンだ よろしくな 能力を見ると本当に戦いに特化したやつだな サブアクションでこちらの動きを鈍らせてメインアクションで強力な一撃を加えてくる 更にこちらの攻撃に対してのカウンターもある 加えて足場の不利なども関係ないときた 完全な飛行でないのが救いか? まだ明かされてないだけの可能性もあるがな その不安を消すために早々に翼は痛めつけて使えなくしたいところだな あと、ダメージを誰かに集中させるのも相手の戦闘力が高いだけにちと不安だな とがいえ、ダメージ分散してもヒーラーがいないから回復が追いつかなくてってなるよりはいいのか・・・・。 スキル構成はどうすべきかまだ迷っているところだ
人が揃いましたね。あとはどう事を運ぶか。 クラスの内訳としては ウォーリア:4 シーフ:2 シューター:2 ヒーラーもキャスターもいないのはある意味清々しいですね。 剣撃をいかに捌くかで負傷度合いが変わってきそうです。 赤翼機動の挙動を見極めれば仕掛けてくるタイミングはある程度測れる感じはしますが。 サブアクションが二回行えるなどの行動強化は明記されていないようなので、赤翼機動と雷球は1ラウンド中どちらか片方と考えていいでしょうか。 赤翼との併用が不可なら雷球を使わせれば足を多少緩める事は出来そうですが。 スキルは攻撃寄りにする予定ですが、破脚砕や破鎧砕などのバステ付与を入れるかどうかは考え中です。
シーフのエミリアよ、よろしくね。 さくっと、ファイターの物理火力とシーフの機動性を持ってるって感じかしらね、怖いわねぇ。 個人的にはウォーリアーさんたちが、シーザーロアで執着をつけてもらえるならそれがいいかしらって思うわね。 危険なことを押し付けてしまって申し訳ないけれど…… 回避型のシーフだと事故ったら一撃で離脱になる可能性もありそうだしね、防御力と生命的に。 執着って複数ついた場合ってどうなるのかしら? 最後につけた人? それとも付けた人平等に狙われるか感じになるのかしら? 例えば、ウォーリアーさん4人がローテーション組んで使うなどすれば、一人に集中しすぎることはないかしらね?とか少し思ったのだけれど。 現状個人としては、雷球が怖いのと保険として回避系の特性一つ。 攻撃は火力重視で行くかBS狙ってみるかは考え中。 ただ、ほかにもBS狙う方もいるかもしれないし兼ね合いかしらって思っているのだけれど。 もし持っていくなら、縛糸刃(束縛強度2)とかかしらって思ってるわね。
No.11
多分シーザーロア複数人だと射程内にあるやつ優先かなと。 執着対象に可能な限り肉薄するとあるから、隣接してるやつに攻撃orサンダーボルト放棄移動して攻撃とか。 前者なら攻撃後移動でカウンター受持つつ他の攻撃の被害を避ける、接近して攻撃 後者ならダメージ受けた人を回復しつつ行動 で前衛たらい回すとかすれば被害は減るかなと。シーザーロア担当が一人なら必要に応じて他ウォーリアのカバリングとかもありだろかなとは(失敗時に他の味方カバー可能なのが利点?) とりあえずスキルはシーザーロア持ち込むとして、後は破鎧砕、破脚砕にしよかと。火力同レベル帯だと高くない方だしデバフと回復中心にと 滅茶苦茶でも建前やっとくと後々押し切り易いよ?>訴訟要らない
本来のバッドステータスのルールなら強度の高い方が効果を発揮しますが、シーザーロアの執着にはこれがありません。 なので、既に挙げられてます通り射程内の(加えてより近い相手?)が優先されるか、最後にかけた方が優先されそうな気がしますね… 思いの外に抵抗が高く、かからない可能性もあるので複数人で用意するのも良いと思いますし、役割を分けてしまって非常時にも使えるカバリングを他の方で用意する形でもありだとは思います。 私は付与と硬さを優先するので火力は他の方にお任せする事になると思いますね…
>シーザーロア 狙いは取りやすくなるが、抵抗される可能性もあって絶対ではない、というのは結局いつでもついて回るものですし、あまり気にしすぎても仕方ありません。 負担をお願いすることになりますが、よろしくお願いします。 >BS こちらは撹乱射撃中心になりますかね。 赤翼は移動に関する阻害は無視するようですが、回避低下などは普通に通るんでしょうか、これ。 速攻狙いならばそちらもありですか。 ……まあ手続きは大事、ということで(目そらし)>建前やっとくと~
おーっす! ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! とりあえず、わかり易くガチで殴り合いになりそうな相手ってことだよな。 俺はいつも通り三撃離脱戦法なのは変わらねぇからコツコツ削ってく感じになるな。
みんな前に出ると引き付けている方への注意が逸れてしまいそうですし、私は一歩引いて攻撃していきます。 向こうの薙ぎ払いみたいな攻撃にも気を付けたいですし。 赤翼機動は発動する瞬間、光が漏れるようなのでタイミングを掴めば俊敏な方なら対応できるかもしれませんね。 加速してから剣を一閃する挙動が多いのか、剣撃は横薙ぎが多い感じでしょうか。割と大振りなのかもしれません。 その分、速度も乗って威力抜群なのでしょうけど。
サイラスちゃんとイヴェールちゃんありがとう。 アクティオンちゃんが一番厄介な命中下げてくれるみたいだから、 おねえさんは基本トリプルファングでの安定したダメージを狙おうかしらね、回数制限ないし。 個人行動としては引き付けてくれる方の邪魔にならないように、 フェザーステップでのヒット&アウェイって感じね
ごめんなさいちょっと変えるわね。 引き付けてくれるかがいるのだから、特性の一枠を回避じゃなくて縛糸刃にしてみるわ。 装備は火力重視だからきいたらまあラッキーぐらいで。