【想石】甘味処~鉱石カフェ準備中!
七海真砂
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シナリオID:1891
オープニング
二月にはチョコレート、三月には宝石のアクセサリーを大切な人と贈り合う……そんな今年のブームは、辺境都市群の一角に位置する、このシャルガネ居住区にも影響を与えていた。
「今は使われていない屋敷を利用して、二月と三月だけの期間限定カフェを開く計画があるんです」
キサキ・アカネがにこやかに微笑む。
その為の準備を、冒険者達に手伝って貰えないだろうか――と。
「広間に囲炉裏や炬燵を用意し、様々な鉱石やアクセサリーの見本を手に取って、ゆっくり眺めていただこうという企画なんです。温かいお茶の他、カカオやチョコレートを使った甘味を準備して、おもてなしをさせて頂く予定です」
広間以外にいくつかある部屋は、個室席として使う予定だ。しかしそうなると、屋敷全体の掃除と準備が必要になる。
それには手が足りない、というわけだ。
「しばらく使っていなかった屋敷なものですから……大掃除のようなものですね」
甘味についても、方向性こそ決まっているものの、細かいメニューはまだ決まっていないのだという。
「チョコレートと苺を使ったパフェや、チョコレートソースのホットケーキなどを試作しているのですが……」
もう少しメニューを増やしたいところだ。
ロスガリアの各地域について詳しい冒険者達なら、良い意見が出るに違いない。ぜひ参考にさせて欲しいとアカネは言う。
「屋敷と厨房の準備ができたら、プレオープンをして開店に向けての課題の洗い出しも行いたいと考えています。よろしければ、その際のお客様役も引き受けて頂けると助かります」
その時は実際にカフェを利用し、試食をしたり、鉱石を眺めたりすることができる。もし気に入った物があれば、一足先に購入する事も可能だ。シャルガネ風に加工されたアクセサリーや小物も多数準備されるという。
「シャルガネ居住区の文化に触れて頂く機会にもなるかと思います。私も精一杯おもてなし役を務めますので、どうぞよろしくお願いします」
「それにしても……このイベントに名前が付いていないのは不便ですね……」
二月のカカオブームと三月の宝石ブームの時期限定の甘味処……と説明するのは、確かに正しいことは正しいのだが、長々と説明するだけになってしまってスッキリとしないし、なんだか風情に欠けてしまうように思われて。
「このイベントに、どなたかピッタリの良い名前を付けて頂けないでしょうか?」
どなたか素敵なネーミングを披露してくださると助かるのですが……とアカネは言った。
「今は使われていない屋敷を利用して、二月と三月だけの期間限定カフェを開く計画があるんです」
キサキ・アカネがにこやかに微笑む。
その為の準備を、冒険者達に手伝って貰えないだろうか――と。
「広間に囲炉裏や炬燵を用意し、様々な鉱石やアクセサリーの見本を手に取って、ゆっくり眺めていただこうという企画なんです。温かいお茶の他、カカオやチョコレートを使った甘味を準備して、おもてなしをさせて頂く予定です」
広間以外にいくつかある部屋は、個室席として使う予定だ。しかしそうなると、屋敷全体の掃除と準備が必要になる。
それには手が足りない、というわけだ。
「しばらく使っていなかった屋敷なものですから……大掃除のようなものですね」
甘味についても、方向性こそ決まっているものの、細かいメニューはまだ決まっていないのだという。
「チョコレートと苺を使ったパフェや、チョコレートソースのホットケーキなどを試作しているのですが……」
もう少しメニューを増やしたいところだ。
ロスガリアの各地域について詳しい冒険者達なら、良い意見が出るに違いない。ぜひ参考にさせて欲しいとアカネは言う。
「屋敷と厨房の準備ができたら、プレオープンをして開店に向けての課題の洗い出しも行いたいと考えています。よろしければ、その際のお客様役も引き受けて頂けると助かります」
その時は実際にカフェを利用し、試食をしたり、鉱石を眺めたりすることができる。もし気に入った物があれば、一足先に購入する事も可能だ。シャルガネ風に加工されたアクセサリーや小物も多数準備されるという。
「シャルガネ居住区の文化に触れて頂く機会にもなるかと思います。私も精一杯おもてなし役を務めますので、どうぞよろしくお願いします」
「それにしても……このイベントに名前が付いていないのは不便ですね……」
二月のカカオブームと三月の宝石ブームの時期限定の甘味処……と説明するのは、確かに正しいことは正しいのだが、長々と説明するだけになってしまってスッキリとしないし、なんだか風情に欠けてしまうように思われて。
「このイベントに、どなたかピッタリの良い名前を付けて頂けないでしょうか?」
どなたか素敵なネーミングを披露してくださると助かるのですが……とアカネは言った。
解説
シャルガネ居住区で期間限定オープンする、鉱石カフェの準備にご協力ください。
大掃除やメニューの考案、試作といった裏方のお手伝いに加えて、プレオープンのお客様役を募集しております。プレオープンのおもてなし役はアカネがいますが、アカネと一緒におもてなしをする側に回ってみるなどもOKです。
また、オープニングの最後にあるように、二月と三月のこのイベント(現代で言うバレンタインデーとホワイトデー)に名前を付けて下さる方を募集しております。【想石】のいくつかのシナリオで募集の上、イベントの名前が決まる予定です。よろしければ、ぜひぜひアイデアをお寄せください! よろしくお願いします!
マスターより
こんにちは、七海です。
今回の依頼は期間限定の甘味処、鉱石カフェの準備のお手伝い。上手くいくように皆さんのお力を貸してください。
店内には様々な鉱石がある他、鉱石を使った和風のアクセサリーや和小物も並びます。よろしければショッピングもお楽しみください。
なお、【想石】の特設ページにもあるように、参加者の方には、連動エピローグノベル公開時に記念の宝石アイテムが配布されます。
それでは、ご参加をお待ちしております。
リプレイ
「皆様、今日はありがとうございます。こちらです」
キサキ・アカネは一礼すると、集まった冒険者達を連れて小道を歩く。やがて木立の向こう側に見えてきたのは、静かに佇む一軒の屋敷だった。
そよ風に、さわさわと庭の木が揺れる。その佇まいは、無人の屋敷とは思えないほど雰囲気が良くて。
「わあ、素敵なところですね!」
「うんうん」
「ありがとうございます」
思わず声を上げたハル・チフや、その隣で頷くエルシー・サリバンの様子に、アカネは目を細めて。早速鍵を開けると、掃除に取り掛かろうとする。
「あっ、まずは僕に入らせて欲しいのです」
家の中はシーフの得意分野。どうか任せてください、と胸を張ったハルは用意した古布で床や調度品を覆っていく。
「あー、なるほど。これは良い作戦だね!」
すぐにピンと来たスフィカも一緒になって布をかけて回る。特に、囲炉裏の付近は丁寧に。その間に窓の方へ向かったハルは、大きく開け放って笑う。
「壁歩きで天井の煤払い! からの拭き掃除なのです!」
「とーう!」
はたきを持ったハルとスフィカがエーテルを巧みに操って、天井から埃を綺麗に落としていく。もちろん靴は脱いで、新品の靴下で動き回るから、新たな汚れを持ち込んでしまう心配はない。
玄関から窓まで、開け放たれた中を流れる空気に乗って落ちていった埃は、古布でくるんでしまって丸ごと撤収。使われていなかった家独特の空気が、あっという間にスッキリしていく。
「下の方はボク達に任せて! 天井をお願いするんだよ~」
「オッケー!」
職人の家事用品を抱えたアルマ・ヴァレンタインが柱の磨き掃除に取り掛かりながら上を見上げれば、頷き返したスフィカが天井を拭き始める。なるほど、これはいいですねと頷いたアカネも畳の手入れに加わって――手分けしながらの掃除は、あっという間に進んでいった。
「奥の部屋もやるですよ~」
古布を抱えたハル達が、個室として使われる部屋の掃除に向かう中、アルマは広間を眺めて考え込んでいた。
「お客さんの導線を考えると、この辺やこの辺は通路用に確保しておきたくて――すると――ここだっ!」
ててーん!
取り出したのはチョコレートファウンテンの台座だった。これをこうして……と用意しておいたチョコレートを調整しながら流して「インパクトのある内装になると思うんだけど、どうかな?」とアカネを振り返る。
「なるほど、チョコレートの泉……面白いアイデアですね」
客席が華やぎそうですね、と頷き返すアカネに、アルマは他にも店内を綺麗に見せる内装の案を出していく。
「でしたら、男性の入りやすさも意識するのはどうでしょう?」
こうした甘味処は、どうしても女性向けといった雰囲気になりがちだ。そこを上手く補えるように工夫してみてはどうだろうかとサシャ・テーリングが意見を出す。
「外から見える……あの出窓には、渋格好良い色合いの、さりげなくペアで飾れる小物を置いてみるとか?」
「あー、いいかも!」
屋敷全体の雰囲気とバランスが良さそうな物を選んでみよう、と、アルマ達は陳列予定の小物から飾る品を選び始める。
その中には、もちろん宝石を使ったアクセサリーもあって。
「アクセサリーは誰かに贈る事を考えると、サイズを測る物もあるといいだろうか?」
「そうですね、準備しておきましょう」
炬燵をセッティングしながら、そんな様子を見ていたアルバス・ロウルの提案はもっともで、アカネはすぐ手配に入る。
なら、とサシャは持ち帰り用の袋や包装紙なども、可愛い物とシックな物を用意してはどうだろうかと付け足していく。なるほど、それも用意しましょう、とアカネは頷いた。
「男性への印象……失念しないようにしなければいけませんね。厨房に何人か入って下さっていますから、メニューの方も意見を聞いて参考にしてみましょうか」
「あ、いいですね」
生の声は良い参考になるに違いない。頷いて、サシャは今度は入口の方を見た。
「あとは……店の入口は、シンプル寄りに考えるのがいいでしょうか……?」
「それなんだけどさ」
こういうのはどうだろう、と別角度からの提案を持ち込んだのはカイン・ステラだ。
「値段が分からない、あまり馴染みがない食べ物の店に入るのって結構勇気いると思うんで……お試しも兼ねて、鯛焼きの屋台を出してみるってのはどうだろう?」
中身は勿論チョコレート。甘さ控えめの物や苺チョコ、抹茶チョコなどのバリエーションを用意して、焼く香りで人寄せも兼ねる事ができたら……と。
「なるほど……入口で、というのは考えもしませんでしたけど……」
確かに『甘味処だ』ということは一発で伝わるだろうし、敷居は下がるかもしれない。
「あと、メニューに絵をつけて、店の前で見られたら、分かりやすいかなって」
「入店する前に店内のことが分かるというのも良いですね。やってみましょう」
カインが試しに描いてみたパフェの絵は、確かに実物をイメージする手助けにもなってくれそうだ。そんなアカネの言葉に「やるなら準備は手伝う」とカインはそちらの作業に取り掛かっていく。
「外で色々やるなら屋根の上も飾ろう。看板を付けるとかさ」
「そういえば、皆さんが色々なアイデアをくださったんですよね……どの名前にしましょう……」
高い所は任せておけとダムド・フィリスが胸を張れば、アカネが皆から集まった甘味処の名前を元に、しばし考え――。
「では、これでお願いします」
「よしきた!」
最終的に決定した店名のメモを受け取ったダムドは、看板製作用の木材の調達に向かった。
「甘い物かぃ。今年も旨いもんが沢山食えるかねぇ……っとと、涎が」
一方、厨房ではふんわりと甘い香りが漂っていて。パヴェル・A・サムルガチェフは思わず口元を拭った。そんな様子にくすっと笑って、アカネは「よろしければ、どうぞ」と、パフェやパンケーキの試作品を勧める。
「おっ、いいのかい?」
じゃあ……と一口運べば、広がる甘さが心地良い。チョコレートのソースの濃厚さがまた、たまらないとパヴェルは目尻を下げた。
「これに加える新メニューだけど、期間中サービスが維持できることを考えて、レシピやおもてなしは考えた方がいいと思う」
まず最初にヴィナスが着目したのは、基準となる質のラインをどのように捉えるかであった。
極上の品と、おもてなしが理想かもしれない。けれど、二ヶ月に渡って運営する店であれば、その間いつも常に同じ質を提供し続けることも考えなければならないからだ。
「料理人の腕の差が顕著にあらわれるような物は回避するか、期間限定にした方がいいと思う。おもてなしの内容もそうだ。対人だからこそ、そういう差が出やすいからね」
お客様を、できるだけおもてなししたい、という気持ちは理解できる。
しかし、だからこそ『働く者を守る』という目線でも考えなければいけないだろう――というヴィナスの言葉に「そうですね、肝に銘じましょう」とアカネは真摯な表情で頷く。
「器にはこんな感じで、花を用いてくのはどうだろ?」
そんな二人のやりとりをニコニコ見ていたルーンス・ラグネルは、その間にアレンジした器を見せる。
パフェの受け皿にはフルーツの皮を飾り切りにしたものを添えたり。
パンケーキの皿にはチョコレートソースで花と葉を描いて飾ってみたり。
「コツを覚えたらすぐにできるよ。モチーフとしては定番だけど、種類でバリエーションも出せると思うんだ」
「なるほど。指先の器用な者が多いですから、これはいけると思います」
メニューに合わせたバリエーションを考えていきましょうと頷くアカネ。一方、トゥーリはパフェの器を前に、あれこれ食材を取ったり、戻したりしながら唸っている。
「いっそデカ盛りパフェにして、シェアしてもいいよ! って感じにするとか!?」
大切な人と一緒に食べられるパフェ……うん、良さそう、と頷いて。トゥーリは大きな器を用意して貰って試作する。
柑橘類をメインに季節の果物を色々重ねながら土台を作り、クリームを重ね、そこにチョコレート……チョコレート……。
「んー、お茶要素が欲しいなあ」
「わかるー! これ使ってみる?」
呟いたトゥーリに向かって差し出されたのは、掃除の合間にアルマが試作していたチョコレートだった。抹茶や煎茶、ほうじ茶とあわせながらシャルガネ風にアレンジされたチョコレートに「おおっ」とトゥーリの目が輝く。
「いいね、いいね! 抹茶のチョコレートソースをかけて、ここに板チョコを立てて……」
ふっふっふ、と笑うトゥーリの前で、特大パフェの試作品が完成していく。
「大福の中身をチョコレート風味にしてみるとか、どうでしょうか」
シャルガネ居住区のお店だから、シャルガネ風にお菓子とチョコレートを組み合わせたメニューにしてはどうか、と考えたのは、ゲルダ・クラインもだった。
「中身がまるまるチョコレートですと、硬くて少し食べにくいかもですので……あんこに、チョコレートを混ぜる形になるでしょうか」
チョコレートと、あんこをミックスした大福なら、きっと一緒に出すシャルガネ風のお茶にも合うはずだ。ほっこりと、ひとときを楽しむお菓子になってくれるに違いない。
「それに、まるまるとした形の大福であれば、盛り付け方次第で宝石のようになるのでは?」
「宝石。なるほど」
その発想は無かったと、アカネ達が大福を用意する。
定番の白い色の大福に、チョコレート色の大福、更によもぎやフルーツを生地に練り込んだいくつかの色の大福を用意して。その上に輝くようにキラキラ粉砂糖を散らしてみれば、宝石風チョコレート大福、できあがりだ。
「大福なら予め作っておけるから、混雑してもお客様を待たせないのが良いね」
なるほど、と感心しながら、ヴィナスとルーンスも試食に混ざるのだった。
「甘い味ばかりだと酸味が欲しくなるな……そうだ、こういうタルトはどうだ?」
柑橘とバナナとキウイをカットしたサイラスは、タルト生地にチョコレートを流し込んだ上にそれを飾り付ける。
「お茶でリセットするにも限度があるからな~。こういうので味の種類を出すのもアリかな? と」
これなら用意の難しい食材は無いし、手間もそれほどかからずにいけるやろ、とサイラスが提案したのを見ていたアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが「だったら」と提案を加える。
「もっとカカオを多めにした、ビターな味わいのメニューを用意しておくのはどうだ?」
カカオは健康にも良いと聞く。
甘いものは食べたいが、健康にも気を遣いたい。そんな需要は、きっとあるはず――!
「男性向けに、ボリュームのあるビターなチョコレートケーキ、なんていうのもアリだと思うんだよな」
「ボリュームか、なるほど」
サイラスは頷いて、BIGサイズのタルトや、ビターチョコタルトの試作に取り掛かってみる。
「そうだな、ビター系の需要はあると思う」
一方で、そう頷いたのは海神・江流。
その手は今、白玉をこねて、こねて、こねまくっている。
彼が試作しようとしているのは、チョコレートぜんざいだった。
「ただのチョコ菓子よりも、シャルガネっぽくて良いんじゃないかと思って。あとはあんこにチョコレートを加えて煮詰める時に、甘さを引き締めていけばビターな物に仕上がるよ」
「冬だし、そういう甘味もアリか~」
季節柄ピッタリなスイーツに、なるほどなぁとサイラスが唸る。
「あとは、何があるといいかなぁ?」
ビター方面のアイデアは十分そうかな、と見やったルルト・アーキスは、他にどんなバリエーションがあれば喜んで貰えそうかなぁと考える。
チョコレート味のプリンに、チョコレートを詰め込んで焼いたパイなんかもいいかもしれない。
「あとはクッキーかな? お土産にもいいかも!」
「クッキーなら、宿までの食べ歩きにもちょうど良いかもしれないね」
ルルトの案にそれは確かにあると良いかもしれない、と江流が頷く。それならいっそ……と、江流は鯛焼きの生地を試作していたカインに声を掛ける。
「どうだろう? 鯛焼きの隣にぜんさいの鍋も並べて、一緒に提供するのは」
「なるほど。合いそうだ。で……」
「クッキーも一緒に手に取れるようにしておく、ってのはどうかな?」
鍋から立つ甘い匂いに、香ばしいクッキーの匂い……どうやら店頭は、かなり賑やかになりそうだ。
「鉱石に見えるチョコがあっても面白そうだと思うんだよね」
一仕事終えて厨房を覗いたスフィカが口にすると、うむうむ、とラシェルが頷く。
「鉱石に興味がある客が前提の店なら、『鉱石チョコ』はウケがええと思うぞ。お土産品としても最適じゃろうて」
シュガーコーティングでそれっぽい色の物を作って並べれば、雰囲気も出るじゃろう、とラシェルが試してみる様子に、「なるほど、お砂糖に混ぜて色を出す手があったかぁ」とスフィカが感心している。
「えっと、反対に、こういう感じはどう、かな?」
サラは中を空洞にしたチョコレートに砕いた飴を敷き詰めて、鉱石感を出したチョコレートに仕上げていく。
「なるほど、発掘気分を味わえるわけじゃな、面白い」
土の中にある宝石を探るかのように、ラシェルはカリカリとチョコレートを食べる。ならナッツを混ぜてデコボコ感を出してみようよ、とスフィカが更に手を加え……様々な色、形に、鉱石チョコのバリエーションが増えていく。
「皿は鉱物標本箱を意識したデザインというのもありか」
「確かに。箱型の器を用意できないか、相談してみるとするかの」
それを眺めていた、だわの発想に「確かに良い雰囲気になりそうじゃの」とラシェルは頷いて。いい感じのケース風の器が用意できないだろうかと相談に向かう。
その間も、サラは置かれていた材料をじっと見つめていて。
「どうした?」
「うん、あのね。ナッツなら、他にも何か、できないかな、って……。たとえば、ドライフルーツも混ぜて、鉱石パウンドケーキ、なんて、いいと思う、の」
だわの問いかけに少し考えこんで、サラは新しいアイデアを膨らませていく。パウンドケーキを母岩に、赤いドライフルーツをルビーに見立てたら、色鮮やかでこのお店らしいメニューになってくれないだろうか?
「なるほど。……岩塩を振りかけて、キラキラした感じを出しても良いかもしれないな」
「岩塩?」
お砂糖じゃないんだ、と意外そうな顔をするサラだったが、「原価とのバランスもあるからな」とだわが口にするのを聞いて「あっ」と声を上げた。
「原価……大事、なの。だわおにいちゃん、さすがだ、ね」
その視点はすっかり抜け落ちていたと、サラは視線を落とす。そんなサラに、次から考えるようにすればいいさと呟いて、「それより、試作してみるか」と材料を確認する。
「うん。……上手く、出来るか、な。細工は、自信、ある、けど……」
さっきのチョコレートは細工の応用程度だったけれど、パウンドケーキ作りとなれば話が違う。少し心配そうなサラだったが、
「……前にステンドグラスクッキーを作ってくれただろ。調理の腕の方は心配していない」
あれが作れるなら大丈夫だろ、と淡々とした口ぶりで材料を計りながらも、そう言ってくれるだわの言葉が、嬉しくて。
「……もしも怪我したら、手当てするから言ってくれ」
「うん。ありがとう」
頷いて「手伝う、よ……」と、サラもバターを取った。
「せっかくだから、二月と三月、それぞれのイメージメニューがあっても良いと思うんだよね」
そう試作に励んでいたエルシーは、二つのプレートを完成させていた。
「こっちが二月、『チョコと想いの宝石箱』だよ」
見た目はごく普通のチョコレートケーキだが、割ると中からごろごろとフルーツが溢れてくる。
それはまるで、想いが宝石となって、こぼれ落ちてくるかのようだ。
「で、こっちが三月の『赤い糸の小道』。赤い糸の伝説にあやかってみたんだ」
普通のチョコレート色のババロアと、白いチョコレートのババロアをチェス盤のように並べて。苺クリームの道で繋いだ二つのハートをフルーツなどで飾り立てた、平皿盛りのパフェだ。
「どうだろ?」
「うわぁ……どっちも頬が蕩けそうなのですよ!」
試食したハルが幸せそうに笑うのを見て、ハルがそう言ってくれたら大丈夫だね! とエルシーも笑う。
「確かに期間限定メニューの話は出ていましたね」
一緒に味見したアカネも、メニューに取り入れてみましょうと頷く。
こうして冒険者達の提案によって、充実したメニューが出来上がっていく――その時だった。
「まだ足りないものがあると思うんだよね」
ヨル・スレイマンが大真面目な様子で言った。
酒が無い、と。
「甘いものといえば酒、酒と甘い物の組み合わせは鉄板だよ」
「そういうものですか……?」
「そういうものだよ。ほら、酒まんじゅうとかあるでしょ」
シャルガネ風の甘味を挙げられると、「なるほど……?」と納得しそうになる勢いがあるから不思議なものである。
そんな訳で、メニューには茶と一緒に酒も並ぶことになった。
「あと必要なのは図解かな」
カインは、開店以降に携わるスタッフができるだけ作業手順を理解しやすいようにと、マニュアルを補うように絵を書き起こしていく。一方、メニューに目処がついた所で動き出したのは給仕を引き受けた面々だ。
「オレはウェイター、オレはウェイター、オレはウェイターだ!」
自分に暗示をかけるかのように言い聞かせながら、ダムドはトレイ片手にくるっと回る。元々の身のこなしの良さもあり、その動きはなかなか素早い。
「とと。そういやブローチ付けるんだっけ?」
「おう、良けりゃ皆でやろうぜ」
ハッと振り返ったダムドにパヴェルが応える。というのもパヴェルの提案で、給仕役のメンバーは自分の好きな色の鉱物のブローチを胸元やエプロンに付けて、皆の前に出ることになっていたからだ。
「ま、確かに良いアピールになりそうだもんなー。あんたなかなかイイこと言うな!」
制服を借りたアルフィー・リッパーは、そういうことなら……と紫の原石をひとつ選ぶ。
元々、ここへ来たついでに友人達へ……何個か買っていって、加工してやろうかな、なんて思っていた所だったのだ。そういうことなら、とイメージに合う石の一つを、アルフィーは胸に付けた。
「よし、じゃあ俺もそろそろ着替えを……ふぬぬ――ぬおうっ!」
制服を手に取ったパヴェルだったが、身長220cmな上に筋肉質な体型であるパヴェルには、それは少々窮屈で……強引にボタンを留めようとしたものの、その胸元は派手に弾け飛んでいた。
そんなパヴェルが発した叫び声と派手な炸裂音に、思わず皆が振り返る。
「……こ、こりゃぁ、俺の体をきっちり計った服をこしらえねぇと、表にゃ出れねぇな……」
あたふた赤面しながら衣装の端を引っ張り、縮こまったパヴェルは苦渋の呟きをこぼすのだった。
「? 何の騒ぎッスかね?」
そんな裏方の一騒動を遠くに聞きながら、客席となる大広間の炬燵の上で、カーテン・オルテッドンドンは広告POPを作ろうとしていた。
何度もやり直すのは資材の無駄になってしまうし、紙の汚れも気になってしまう。だから……一発勝負!
台紙となる色紙に宝石の切り絵を重ねて、この店らしいカラーを演出した上に、トゥーリが名付けたこの店の名前――克珠庵を書き入れて、更に考案したキャッチコピーを添えていく。
メニューそれぞれに添える小さなPOPや、店内に並べるアクセサリーなどに添えるPOPもサラサラサラリ。
(どのPOPにもそれぞれ、ワンポイントな意匠を組み込ませるッス。これで、シンプルに生きることの大切さと同時に、押しも押されもせぬ気品の高さを表す!)
刻まれた印に込められた願いは、それぞれのPOPに統一感をもたらしている。いずれも完成度の高いそのPOPを、皆で手分けして飾り付けて、店内の装飾も完成だ。
「こう大々的に飾ってあると、ちょっと恥ずかしいね」
「そうですか? 克己して珠となるように……いい名前ではありませんか」
ちょっと照れ恥ずかしそうな名付け親、トゥーリに向かってアカネが微笑む。
一方、イベントの名称にもいくつかの案が集まって。こちらは、ルーンス達が「想いの花を輝かせる」というコンセプトで考えた、想花日と輝花日が良いかもしれませんね、とアカネは言った。
「花って、色々な場面を彩るものだからね。恋愛だけでなく、友愛、親愛……色んな意味に取れるようにした方がいいかと思って」
その方が、イベントの売上的にもね……という言葉は笑顔の裏の方に呑み込んでおく、ちょっとしたたかなルーンス少年、十五歳である。
「花、といえば、こういうのはどうだろう」
そんなルーンスに続けて、提案するのはヴィナスだ。
「アクセサリーの中には、花をモチーフにした物もあるだろう? そういった品に、花の種をセットにしてみるとか」
たとえば鬱金香をモチーフにしたアクセサリーには鬱金香の種を添えて。
一緒に想いを育てましょう……なんて、ちょっと洒落た贈り物になるのではないだろうか、と。
「色々と注意の必要な点もあるだろうけど、そういったセットにもできる、と勧めてみるのは面白いんじゃないかと思ってね」
(ちょっと恋愛色が強いかな? でも、確かに面白い試みではあるかも)
冬が終わり春が来る、今の季節にも合っていそうだし、親子連れなどにも楽しんで貰えるかもしれない。その提案を、興味深く聞くルーンス。
「オプションでそのようなセットにもできる、という感じにしてみましょうか」
「なら新しいPOPを書くッスよ!」
アカネが言うと、早速それを告知するPOPを書き始めるカーテンだった。
「いらっしゃいませ!」
そうして始まるプレオープン。先程まで掃除や試作に関わっていた者達も、改めて入口から入ってきて、ダムドやアルフィー達に案内されながら席へついていく。
「準備お疲れさま! メニューはこちらです♪」
アルバスを案内したルルトは、にこにこ笑ってメニューを差し出す。
「ありがとう。ルルトが考えたのはどれだ?」
「ボク? ボクが作ったのはねー……」
一つずつ順番にルルトが指差すと、じゃあそれを、と全部頼むアルバスである。もちろん、お土産のクッキーも忘れない。
「エル、お待たせしましたのです!」
交代でお客様役をすることにしたハルとエルシーは、まずはハルの方がおもてなしをする側。その手が大事に運んできたスイーツに、エルシーは手を伸ばすと「うん、美味しい」と笑う。
「……ウッ」
そんな周囲を無言で見つめ、ひとりぼっちな自分の炬燵を見下ろしたアルベルトは、運ばれてきたスイーツの数々に、そっと手を伸ばした。
ぱくり。
「――何故だ? すっごく甘くて美味しいチョコレートのはずなのに、なんでしょっぱいんだ……くうっ」
これは涙じゃない、心の汗なんだ――と両目に輝く何かを拭いながら、何故か塩辛くなってしまったスイーツを口に運んでいく。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ありがとう。うう……オチャクダサイ」
おもてなし役に回ったサシャの微笑みと気遣いが、なんとも沁みるアルベルトだった。
「あんたも食べたいんじゃなかったっけ? 抜けてもいーぞ?」
と、アルフィーが振り返った先はダムドだ。スイーツを運ぶ手は足りそうだからな! と言うアルフィーは、ダムドが色々と食べたそうにしていたのを覚えていたらしい。
「いいのか? じゃ、頼むわ」
そういうことならお言葉に甘えて、と炬燵に入ったダムドは一転して、メニューをガンガン頼み始める。
「へえ、これが炬燵……」
個室席へと案内して貰った悠人・ラドルファスは、シャロン・ラ・モリエールと一緒に、さっそく炬燵の中へ入ってみる。
……ぬく~ん……。
「これいいわね~。出たくなくなるわ」
じわじわ、じっくりと体を温めてくれるぬくもりが心地良くて。思わず目を細めたシャロンは、ふと、悠人の顔をじっと見つめて。
そろぉ~……っと伸ばしたつまさきで、ちょんっ、と突いてイタズラする。
ちょんっ。
「……」
ちょいちょいっ。
「……シャロン……?」
ちょいちょんちょちょん。
「……――こら」
「あっ!?」
次第にエスカレートするシャロンのつまさきと、にんまり笑うその顔だったけれど。
悠人が、ガバッと炬燵の中に潜り込んでシャロンの足首を掴んだから、一気に形勢逆転だ。
「ひゃ! あっあっだめぇ! 足裏は弱いのぉ!」
「やっていいのは、やられる覚悟のある奴だけだ」
「ごっ、ごめん、ごめんなさい~~っ!」
ジタバタしても、個室だから迷惑をかける他のお客さんはいないし――ホコリっぽくなる事もなく。よく掃除されていることを確認する形になった二人は、上がった息を落ち着かせながら、運ばれてきたパフェを食べる。
「美味しい。でも……チョコも宝石も高価よね……」
贈るのも貰うのも、ちょっと勇気がいるかもしれない、とシャロンはこぼす。
とはいえ。
とはいえ、だ。
それはそれとして、パートナーの髪色のドレスを着たり、瞳の色の宝石を身に着けてエスコート……なんてシチュエーションに、憧れが無いと言えば嘘になる。
「……見るだけならタダだものね?」
「そうだな」
せっかくだから、いろいろ鉱石を見てみるかと言う悠人の言葉にシャロンは頷き返す。
「ふーん、色々揃ってるんだねぇ」
鉱石を自分の席で愛でられるっていうのは面白いね、と、ヨルはいくつかの石を目の前に並べながら、グラスをゆったり傾けていた。
「うむうむ。こうして陽の光に鉱石をかざしつつ、鉱石チョコを食べるというのも面白いものじゃ」
窓際の席を確保したラシェルは、窓越しの空との間に鉱石を挟んで眺めながら、楽しげに笑う。
一方、壁際には色々な小物やアクセサリーが陳列されていて。
「ルルトならどれが好きだ?」
「ん~~ボクならこれがいいな!」
キラキラした太陽みたいなシトリンをあしらった髪飾りに目がいったルルトの言葉に、ひょいっと手を伸ばしたアルバスは、それをそっとルルトの髪に添えて。
「うん、よく似合う。これにしよう」
「ふぇ……いいの? あっ、じゃあね、アルバスにはね!」
嬉しそうに笑ったルルトは、朝日や夕日のように燃える大粒のルビーが輝くブローチを手にする。
「これ!」
「俺に? ふふ、ありがとう」
背伸びして胸に当てるルルトの頭を、そっと優しく撫でるアルバスである。
「……シャロンは?」
「えっ!?」
そこにやって来た悠人は、さりげなくシャロンを振り返った。
気になるアクセサリーや好きな石があるのか、リサーチしたい悠人の内心を知ってか知らずか、ふと目が行ってしまうのは、悠人の瞳と同じ色をした琥珀で……。
「――ラピスラズリは好きよ、私の瞳と同じ青と金だもの」
琥珀をチラ見しながらも、口ではそう答えるシャロンだった。
「ん~、いいッスね~」
店内を見て回ったカーテンは、花の模様を結んだ飾り紐を手に取った。中央に埋め込まれた小さな石、ほんの少しだけ存在を主張する鉱石……それは、お値段もささやかで、記念品も兼ねてちょうど良さそうに見える。
「あ、そうか皆の分……ええと」
「プレオープンの方も一区切りつきましたし、どうぞ」
お手伝いありがとうございました、と、アカネはおもてなしを引き受けてくれた皆に礼を言う。それを聞いたアルフィーは「まだ残ってるかな~」と覗き込み、ほっとした様子で紫の鉱石をあれこれ手に取って選んだ。
こうして、皆の手で作り上げられた甘味処、克珠庵は正式なオープンを迎えると、たくさんのお客様を迎えたのだった――。
キサキ・アカネは一礼すると、集まった冒険者達を連れて小道を歩く。やがて木立の向こう側に見えてきたのは、静かに佇む一軒の屋敷だった。
そよ風に、さわさわと庭の木が揺れる。その佇まいは、無人の屋敷とは思えないほど雰囲気が良くて。
「わあ、素敵なところですね!」
「うんうん」
「ありがとうございます」
思わず声を上げたハル・チフや、その隣で頷くエルシー・サリバンの様子に、アカネは目を細めて。早速鍵を開けると、掃除に取り掛かろうとする。
「あっ、まずは僕に入らせて欲しいのです」
家の中はシーフの得意分野。どうか任せてください、と胸を張ったハルは用意した古布で床や調度品を覆っていく。
「あー、なるほど。これは良い作戦だね!」
すぐにピンと来たスフィカも一緒になって布をかけて回る。特に、囲炉裏の付近は丁寧に。その間に窓の方へ向かったハルは、大きく開け放って笑う。
「壁歩きで天井の煤払い! からの拭き掃除なのです!」
「とーう!」
はたきを持ったハルとスフィカがエーテルを巧みに操って、天井から埃を綺麗に落としていく。もちろん靴は脱いで、新品の靴下で動き回るから、新たな汚れを持ち込んでしまう心配はない。
玄関から窓まで、開け放たれた中を流れる空気に乗って落ちていった埃は、古布でくるんでしまって丸ごと撤収。使われていなかった家独特の空気が、あっという間にスッキリしていく。
「下の方はボク達に任せて! 天井をお願いするんだよ~」
「オッケー!」
職人の家事用品を抱えたアルマ・ヴァレンタインが柱の磨き掃除に取り掛かりながら上を見上げれば、頷き返したスフィカが天井を拭き始める。なるほど、これはいいですねと頷いたアカネも畳の手入れに加わって――手分けしながらの掃除は、あっという間に進んでいった。
「奥の部屋もやるですよ~」
古布を抱えたハル達が、個室として使われる部屋の掃除に向かう中、アルマは広間を眺めて考え込んでいた。
「お客さんの導線を考えると、この辺やこの辺は通路用に確保しておきたくて――すると――ここだっ!」
ててーん!
取り出したのはチョコレートファウンテンの台座だった。これをこうして……と用意しておいたチョコレートを調整しながら流して「インパクトのある内装になると思うんだけど、どうかな?」とアカネを振り返る。
「なるほど、チョコレートの泉……面白いアイデアですね」
客席が華やぎそうですね、と頷き返すアカネに、アルマは他にも店内を綺麗に見せる内装の案を出していく。
「でしたら、男性の入りやすさも意識するのはどうでしょう?」
こうした甘味処は、どうしても女性向けといった雰囲気になりがちだ。そこを上手く補えるように工夫してみてはどうだろうかとサシャ・テーリングが意見を出す。
「外から見える……あの出窓には、渋格好良い色合いの、さりげなくペアで飾れる小物を置いてみるとか?」
「あー、いいかも!」
屋敷全体の雰囲気とバランスが良さそうな物を選んでみよう、と、アルマ達は陳列予定の小物から飾る品を選び始める。
その中には、もちろん宝石を使ったアクセサリーもあって。
「アクセサリーは誰かに贈る事を考えると、サイズを測る物もあるといいだろうか?」
「そうですね、準備しておきましょう」
炬燵をセッティングしながら、そんな様子を見ていたアルバス・ロウルの提案はもっともで、アカネはすぐ手配に入る。
なら、とサシャは持ち帰り用の袋や包装紙なども、可愛い物とシックな物を用意してはどうだろうかと付け足していく。なるほど、それも用意しましょう、とアカネは頷いた。
「男性への印象……失念しないようにしなければいけませんね。厨房に何人か入って下さっていますから、メニューの方も意見を聞いて参考にしてみましょうか」
「あ、いいですね」
生の声は良い参考になるに違いない。頷いて、サシャは今度は入口の方を見た。
「あとは……店の入口は、シンプル寄りに考えるのがいいでしょうか……?」
「それなんだけどさ」
こういうのはどうだろう、と別角度からの提案を持ち込んだのはカイン・ステラだ。
「値段が分からない、あまり馴染みがない食べ物の店に入るのって結構勇気いると思うんで……お試しも兼ねて、鯛焼きの屋台を出してみるってのはどうだろう?」
中身は勿論チョコレート。甘さ控えめの物や苺チョコ、抹茶チョコなどのバリエーションを用意して、焼く香りで人寄せも兼ねる事ができたら……と。
「なるほど……入口で、というのは考えもしませんでしたけど……」
確かに『甘味処だ』ということは一発で伝わるだろうし、敷居は下がるかもしれない。
「あと、メニューに絵をつけて、店の前で見られたら、分かりやすいかなって」
「入店する前に店内のことが分かるというのも良いですね。やってみましょう」
カインが試しに描いてみたパフェの絵は、確かに実物をイメージする手助けにもなってくれそうだ。そんなアカネの言葉に「やるなら準備は手伝う」とカインはそちらの作業に取り掛かっていく。
「外で色々やるなら屋根の上も飾ろう。看板を付けるとかさ」
「そういえば、皆さんが色々なアイデアをくださったんですよね……どの名前にしましょう……」
高い所は任せておけとダムド・フィリスが胸を張れば、アカネが皆から集まった甘味処の名前を元に、しばし考え――。
「では、これでお願いします」
「よしきた!」
最終的に決定した店名のメモを受け取ったダムドは、看板製作用の木材の調達に向かった。
「甘い物かぃ。今年も旨いもんが沢山食えるかねぇ……っとと、涎が」
一方、厨房ではふんわりと甘い香りが漂っていて。パヴェル・A・サムルガチェフは思わず口元を拭った。そんな様子にくすっと笑って、アカネは「よろしければ、どうぞ」と、パフェやパンケーキの試作品を勧める。
「おっ、いいのかい?」
じゃあ……と一口運べば、広がる甘さが心地良い。チョコレートのソースの濃厚さがまた、たまらないとパヴェルは目尻を下げた。
「これに加える新メニューだけど、期間中サービスが維持できることを考えて、レシピやおもてなしは考えた方がいいと思う」
まず最初にヴィナスが着目したのは、基準となる質のラインをどのように捉えるかであった。
極上の品と、おもてなしが理想かもしれない。けれど、二ヶ月に渡って運営する店であれば、その間いつも常に同じ質を提供し続けることも考えなければならないからだ。
「料理人の腕の差が顕著にあらわれるような物は回避するか、期間限定にした方がいいと思う。おもてなしの内容もそうだ。対人だからこそ、そういう差が出やすいからね」
お客様を、できるだけおもてなししたい、という気持ちは理解できる。
しかし、だからこそ『働く者を守る』という目線でも考えなければいけないだろう――というヴィナスの言葉に「そうですね、肝に銘じましょう」とアカネは真摯な表情で頷く。
「器にはこんな感じで、花を用いてくのはどうだろ?」
そんな二人のやりとりをニコニコ見ていたルーンス・ラグネルは、その間にアレンジした器を見せる。
パフェの受け皿にはフルーツの皮を飾り切りにしたものを添えたり。
パンケーキの皿にはチョコレートソースで花と葉を描いて飾ってみたり。
「コツを覚えたらすぐにできるよ。モチーフとしては定番だけど、種類でバリエーションも出せると思うんだ」
「なるほど。指先の器用な者が多いですから、これはいけると思います」
メニューに合わせたバリエーションを考えていきましょうと頷くアカネ。一方、トゥーリはパフェの器を前に、あれこれ食材を取ったり、戻したりしながら唸っている。
「いっそデカ盛りパフェにして、シェアしてもいいよ! って感じにするとか!?」
大切な人と一緒に食べられるパフェ……うん、良さそう、と頷いて。トゥーリは大きな器を用意して貰って試作する。
柑橘類をメインに季節の果物を色々重ねながら土台を作り、クリームを重ね、そこにチョコレート……チョコレート……。
「んー、お茶要素が欲しいなあ」
「わかるー! これ使ってみる?」
呟いたトゥーリに向かって差し出されたのは、掃除の合間にアルマが試作していたチョコレートだった。抹茶や煎茶、ほうじ茶とあわせながらシャルガネ風にアレンジされたチョコレートに「おおっ」とトゥーリの目が輝く。
「いいね、いいね! 抹茶のチョコレートソースをかけて、ここに板チョコを立てて……」
ふっふっふ、と笑うトゥーリの前で、特大パフェの試作品が完成していく。
「大福の中身をチョコレート風味にしてみるとか、どうでしょうか」
シャルガネ居住区のお店だから、シャルガネ風にお菓子とチョコレートを組み合わせたメニューにしてはどうか、と考えたのは、ゲルダ・クラインもだった。
「中身がまるまるチョコレートですと、硬くて少し食べにくいかもですので……あんこに、チョコレートを混ぜる形になるでしょうか」
チョコレートと、あんこをミックスした大福なら、きっと一緒に出すシャルガネ風のお茶にも合うはずだ。ほっこりと、ひとときを楽しむお菓子になってくれるに違いない。
「それに、まるまるとした形の大福であれば、盛り付け方次第で宝石のようになるのでは?」
「宝石。なるほど」
その発想は無かったと、アカネ達が大福を用意する。
定番の白い色の大福に、チョコレート色の大福、更によもぎやフルーツを生地に練り込んだいくつかの色の大福を用意して。その上に輝くようにキラキラ粉砂糖を散らしてみれば、宝石風チョコレート大福、できあがりだ。
「大福なら予め作っておけるから、混雑してもお客様を待たせないのが良いね」
なるほど、と感心しながら、ヴィナスとルーンスも試食に混ざるのだった。
「甘い味ばかりだと酸味が欲しくなるな……そうだ、こういうタルトはどうだ?」
柑橘とバナナとキウイをカットしたサイラスは、タルト生地にチョコレートを流し込んだ上にそれを飾り付ける。
「お茶でリセットするにも限度があるからな~。こういうので味の種類を出すのもアリかな? と」
これなら用意の難しい食材は無いし、手間もそれほどかからずにいけるやろ、とサイラスが提案したのを見ていたアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが「だったら」と提案を加える。
「もっとカカオを多めにした、ビターな味わいのメニューを用意しておくのはどうだ?」
カカオは健康にも良いと聞く。
甘いものは食べたいが、健康にも気を遣いたい。そんな需要は、きっとあるはず――!
「男性向けに、ボリュームのあるビターなチョコレートケーキ、なんていうのもアリだと思うんだよな」
「ボリュームか、なるほど」
サイラスは頷いて、BIGサイズのタルトや、ビターチョコタルトの試作に取り掛かってみる。
「そうだな、ビター系の需要はあると思う」
一方で、そう頷いたのは海神・江流。
その手は今、白玉をこねて、こねて、こねまくっている。
彼が試作しようとしているのは、チョコレートぜんざいだった。
「ただのチョコ菓子よりも、シャルガネっぽくて良いんじゃないかと思って。あとはあんこにチョコレートを加えて煮詰める時に、甘さを引き締めていけばビターな物に仕上がるよ」
「冬だし、そういう甘味もアリか~」
季節柄ピッタリなスイーツに、なるほどなぁとサイラスが唸る。
「あとは、何があるといいかなぁ?」
ビター方面のアイデアは十分そうかな、と見やったルルト・アーキスは、他にどんなバリエーションがあれば喜んで貰えそうかなぁと考える。
チョコレート味のプリンに、チョコレートを詰め込んで焼いたパイなんかもいいかもしれない。
「あとはクッキーかな? お土産にもいいかも!」
「クッキーなら、宿までの食べ歩きにもちょうど良いかもしれないね」
ルルトの案にそれは確かにあると良いかもしれない、と江流が頷く。それならいっそ……と、江流は鯛焼きの生地を試作していたカインに声を掛ける。
「どうだろう? 鯛焼きの隣にぜんさいの鍋も並べて、一緒に提供するのは」
「なるほど。合いそうだ。で……」
「クッキーも一緒に手に取れるようにしておく、ってのはどうかな?」
鍋から立つ甘い匂いに、香ばしいクッキーの匂い……どうやら店頭は、かなり賑やかになりそうだ。
「鉱石に見えるチョコがあっても面白そうだと思うんだよね」
一仕事終えて厨房を覗いたスフィカが口にすると、うむうむ、とラシェルが頷く。
「鉱石に興味がある客が前提の店なら、『鉱石チョコ』はウケがええと思うぞ。お土産品としても最適じゃろうて」
シュガーコーティングでそれっぽい色の物を作って並べれば、雰囲気も出るじゃろう、とラシェルが試してみる様子に、「なるほど、お砂糖に混ぜて色を出す手があったかぁ」とスフィカが感心している。
「えっと、反対に、こういう感じはどう、かな?」
サラは中を空洞にしたチョコレートに砕いた飴を敷き詰めて、鉱石感を出したチョコレートに仕上げていく。
「なるほど、発掘気分を味わえるわけじゃな、面白い」
土の中にある宝石を探るかのように、ラシェルはカリカリとチョコレートを食べる。ならナッツを混ぜてデコボコ感を出してみようよ、とスフィカが更に手を加え……様々な色、形に、鉱石チョコのバリエーションが増えていく。
「皿は鉱物標本箱を意識したデザインというのもありか」
「確かに。箱型の器を用意できないか、相談してみるとするかの」
それを眺めていた、だわの発想に「確かに良い雰囲気になりそうじゃの」とラシェルは頷いて。いい感じのケース風の器が用意できないだろうかと相談に向かう。
その間も、サラは置かれていた材料をじっと見つめていて。
「どうした?」
「うん、あのね。ナッツなら、他にも何か、できないかな、って……。たとえば、ドライフルーツも混ぜて、鉱石パウンドケーキ、なんて、いいと思う、の」
だわの問いかけに少し考えこんで、サラは新しいアイデアを膨らませていく。パウンドケーキを母岩に、赤いドライフルーツをルビーに見立てたら、色鮮やかでこのお店らしいメニューになってくれないだろうか?
「なるほど。……岩塩を振りかけて、キラキラした感じを出しても良いかもしれないな」
「岩塩?」
お砂糖じゃないんだ、と意外そうな顔をするサラだったが、「原価とのバランスもあるからな」とだわが口にするのを聞いて「あっ」と声を上げた。
「原価……大事、なの。だわおにいちゃん、さすがだ、ね」
その視点はすっかり抜け落ちていたと、サラは視線を落とす。そんなサラに、次から考えるようにすればいいさと呟いて、「それより、試作してみるか」と材料を確認する。
「うん。……上手く、出来るか、な。細工は、自信、ある、けど……」
さっきのチョコレートは細工の応用程度だったけれど、パウンドケーキ作りとなれば話が違う。少し心配そうなサラだったが、
「……前にステンドグラスクッキーを作ってくれただろ。調理の腕の方は心配していない」
あれが作れるなら大丈夫だろ、と淡々とした口ぶりで材料を計りながらも、そう言ってくれるだわの言葉が、嬉しくて。
「……もしも怪我したら、手当てするから言ってくれ」
「うん。ありがとう」
頷いて「手伝う、よ……」と、サラもバターを取った。
「せっかくだから、二月と三月、それぞれのイメージメニューがあっても良いと思うんだよね」
そう試作に励んでいたエルシーは、二つのプレートを完成させていた。
「こっちが二月、『チョコと想いの宝石箱』だよ」
見た目はごく普通のチョコレートケーキだが、割ると中からごろごろとフルーツが溢れてくる。
それはまるで、想いが宝石となって、こぼれ落ちてくるかのようだ。
「で、こっちが三月の『赤い糸の小道』。赤い糸の伝説にあやかってみたんだ」
普通のチョコレート色のババロアと、白いチョコレートのババロアをチェス盤のように並べて。苺クリームの道で繋いだ二つのハートをフルーツなどで飾り立てた、平皿盛りのパフェだ。
「どうだろ?」
「うわぁ……どっちも頬が蕩けそうなのですよ!」
試食したハルが幸せそうに笑うのを見て、ハルがそう言ってくれたら大丈夫だね! とエルシーも笑う。
「確かに期間限定メニューの話は出ていましたね」
一緒に味見したアカネも、メニューに取り入れてみましょうと頷く。
こうして冒険者達の提案によって、充実したメニューが出来上がっていく――その時だった。
「まだ足りないものがあると思うんだよね」
ヨル・スレイマンが大真面目な様子で言った。
酒が無い、と。
「甘いものといえば酒、酒と甘い物の組み合わせは鉄板だよ」
「そういうものですか……?」
「そういうものだよ。ほら、酒まんじゅうとかあるでしょ」
シャルガネ風の甘味を挙げられると、「なるほど……?」と納得しそうになる勢いがあるから不思議なものである。
そんな訳で、メニューには茶と一緒に酒も並ぶことになった。
「あと必要なのは図解かな」
カインは、開店以降に携わるスタッフができるだけ作業手順を理解しやすいようにと、マニュアルを補うように絵を書き起こしていく。一方、メニューに目処がついた所で動き出したのは給仕を引き受けた面々だ。
「オレはウェイター、オレはウェイター、オレはウェイターだ!」
自分に暗示をかけるかのように言い聞かせながら、ダムドはトレイ片手にくるっと回る。元々の身のこなしの良さもあり、その動きはなかなか素早い。
「とと。そういやブローチ付けるんだっけ?」
「おう、良けりゃ皆でやろうぜ」
ハッと振り返ったダムドにパヴェルが応える。というのもパヴェルの提案で、給仕役のメンバーは自分の好きな色の鉱物のブローチを胸元やエプロンに付けて、皆の前に出ることになっていたからだ。
「ま、確かに良いアピールになりそうだもんなー。あんたなかなかイイこと言うな!」
制服を借りたアルフィー・リッパーは、そういうことなら……と紫の原石をひとつ選ぶ。
元々、ここへ来たついでに友人達へ……何個か買っていって、加工してやろうかな、なんて思っていた所だったのだ。そういうことなら、とイメージに合う石の一つを、アルフィーは胸に付けた。
「よし、じゃあ俺もそろそろ着替えを……ふぬぬ――ぬおうっ!」
制服を手に取ったパヴェルだったが、身長220cmな上に筋肉質な体型であるパヴェルには、それは少々窮屈で……強引にボタンを留めようとしたものの、その胸元は派手に弾け飛んでいた。
そんなパヴェルが発した叫び声と派手な炸裂音に、思わず皆が振り返る。
「……こ、こりゃぁ、俺の体をきっちり計った服をこしらえねぇと、表にゃ出れねぇな……」
あたふた赤面しながら衣装の端を引っ張り、縮こまったパヴェルは苦渋の呟きをこぼすのだった。
「? 何の騒ぎッスかね?」
そんな裏方の一騒動を遠くに聞きながら、客席となる大広間の炬燵の上で、カーテン・オルテッドンドンは広告POPを作ろうとしていた。
何度もやり直すのは資材の無駄になってしまうし、紙の汚れも気になってしまう。だから……一発勝負!
台紙となる色紙に宝石の切り絵を重ねて、この店らしいカラーを演出した上に、トゥーリが名付けたこの店の名前――克珠庵を書き入れて、更に考案したキャッチコピーを添えていく。
メニューそれぞれに添える小さなPOPや、店内に並べるアクセサリーなどに添えるPOPもサラサラサラリ。
(どのPOPにもそれぞれ、ワンポイントな意匠を組み込ませるッス。これで、シンプルに生きることの大切さと同時に、押しも押されもせぬ気品の高さを表す!)
刻まれた印に込められた願いは、それぞれのPOPに統一感をもたらしている。いずれも完成度の高いそのPOPを、皆で手分けして飾り付けて、店内の装飾も完成だ。
「こう大々的に飾ってあると、ちょっと恥ずかしいね」
「そうですか? 克己して珠となるように……いい名前ではありませんか」
ちょっと照れ恥ずかしそうな名付け親、トゥーリに向かってアカネが微笑む。
一方、イベントの名称にもいくつかの案が集まって。こちらは、ルーンス達が「想いの花を輝かせる」というコンセプトで考えた、想花日と輝花日が良いかもしれませんね、とアカネは言った。
「花って、色々な場面を彩るものだからね。恋愛だけでなく、友愛、親愛……色んな意味に取れるようにした方がいいかと思って」
その方が、イベントの売上的にもね……という言葉は笑顔の裏の方に呑み込んでおく、ちょっとしたたかなルーンス少年、十五歳である。
「花、といえば、こういうのはどうだろう」
そんなルーンスに続けて、提案するのはヴィナスだ。
「アクセサリーの中には、花をモチーフにした物もあるだろう? そういった品に、花の種をセットにしてみるとか」
たとえば鬱金香をモチーフにしたアクセサリーには鬱金香の種を添えて。
一緒に想いを育てましょう……なんて、ちょっと洒落た贈り物になるのではないだろうか、と。
「色々と注意の必要な点もあるだろうけど、そういったセットにもできる、と勧めてみるのは面白いんじゃないかと思ってね」
(ちょっと恋愛色が強いかな? でも、確かに面白い試みではあるかも)
冬が終わり春が来る、今の季節にも合っていそうだし、親子連れなどにも楽しんで貰えるかもしれない。その提案を、興味深く聞くルーンス。
「オプションでそのようなセットにもできる、という感じにしてみましょうか」
「なら新しいPOPを書くッスよ!」
アカネが言うと、早速それを告知するPOPを書き始めるカーテンだった。
「いらっしゃいませ!」
そうして始まるプレオープン。先程まで掃除や試作に関わっていた者達も、改めて入口から入ってきて、ダムドやアルフィー達に案内されながら席へついていく。
「準備お疲れさま! メニューはこちらです♪」
アルバスを案内したルルトは、にこにこ笑ってメニューを差し出す。
「ありがとう。ルルトが考えたのはどれだ?」
「ボク? ボクが作ったのはねー……」
一つずつ順番にルルトが指差すと、じゃあそれを、と全部頼むアルバスである。もちろん、お土産のクッキーも忘れない。
「エル、お待たせしましたのです!」
交代でお客様役をすることにしたハルとエルシーは、まずはハルの方がおもてなしをする側。その手が大事に運んできたスイーツに、エルシーは手を伸ばすと「うん、美味しい」と笑う。
「……ウッ」
そんな周囲を無言で見つめ、ひとりぼっちな自分の炬燵を見下ろしたアルベルトは、運ばれてきたスイーツの数々に、そっと手を伸ばした。
ぱくり。
「――何故だ? すっごく甘くて美味しいチョコレートのはずなのに、なんでしょっぱいんだ……くうっ」
これは涙じゃない、心の汗なんだ――と両目に輝く何かを拭いながら、何故か塩辛くなってしまったスイーツを口に運んでいく。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ありがとう。うう……オチャクダサイ」
おもてなし役に回ったサシャの微笑みと気遣いが、なんとも沁みるアルベルトだった。
「あんたも食べたいんじゃなかったっけ? 抜けてもいーぞ?」
と、アルフィーが振り返った先はダムドだ。スイーツを運ぶ手は足りそうだからな! と言うアルフィーは、ダムドが色々と食べたそうにしていたのを覚えていたらしい。
「いいのか? じゃ、頼むわ」
そういうことならお言葉に甘えて、と炬燵に入ったダムドは一転して、メニューをガンガン頼み始める。
「へえ、これが炬燵……」
個室席へと案内して貰った悠人・ラドルファスは、シャロン・ラ・モリエールと一緒に、さっそく炬燵の中へ入ってみる。
……ぬく~ん……。
「これいいわね~。出たくなくなるわ」
じわじわ、じっくりと体を温めてくれるぬくもりが心地良くて。思わず目を細めたシャロンは、ふと、悠人の顔をじっと見つめて。
そろぉ~……っと伸ばしたつまさきで、ちょんっ、と突いてイタズラする。
ちょんっ。
「……」
ちょいちょいっ。
「……シャロン……?」
ちょいちょんちょちょん。
「……――こら」
「あっ!?」
次第にエスカレートするシャロンのつまさきと、にんまり笑うその顔だったけれど。
悠人が、ガバッと炬燵の中に潜り込んでシャロンの足首を掴んだから、一気に形勢逆転だ。
「ひゃ! あっあっだめぇ! 足裏は弱いのぉ!」
「やっていいのは、やられる覚悟のある奴だけだ」
「ごっ、ごめん、ごめんなさい~~っ!」
ジタバタしても、個室だから迷惑をかける他のお客さんはいないし――ホコリっぽくなる事もなく。よく掃除されていることを確認する形になった二人は、上がった息を落ち着かせながら、運ばれてきたパフェを食べる。
「美味しい。でも……チョコも宝石も高価よね……」
贈るのも貰うのも、ちょっと勇気がいるかもしれない、とシャロンはこぼす。
とはいえ。
とはいえ、だ。
それはそれとして、パートナーの髪色のドレスを着たり、瞳の色の宝石を身に着けてエスコート……なんてシチュエーションに、憧れが無いと言えば嘘になる。
「……見るだけならタダだものね?」
「そうだな」
せっかくだから、いろいろ鉱石を見てみるかと言う悠人の言葉にシャロンは頷き返す。
「ふーん、色々揃ってるんだねぇ」
鉱石を自分の席で愛でられるっていうのは面白いね、と、ヨルはいくつかの石を目の前に並べながら、グラスをゆったり傾けていた。
「うむうむ。こうして陽の光に鉱石をかざしつつ、鉱石チョコを食べるというのも面白いものじゃ」
窓際の席を確保したラシェルは、窓越しの空との間に鉱石を挟んで眺めながら、楽しげに笑う。
一方、壁際には色々な小物やアクセサリーが陳列されていて。
「ルルトならどれが好きだ?」
「ん~~ボクならこれがいいな!」
キラキラした太陽みたいなシトリンをあしらった髪飾りに目がいったルルトの言葉に、ひょいっと手を伸ばしたアルバスは、それをそっとルルトの髪に添えて。
「うん、よく似合う。これにしよう」
「ふぇ……いいの? あっ、じゃあね、アルバスにはね!」
嬉しそうに笑ったルルトは、朝日や夕日のように燃える大粒のルビーが輝くブローチを手にする。
「これ!」
「俺に? ふふ、ありがとう」
背伸びして胸に当てるルルトの頭を、そっと優しく撫でるアルバスである。
「……シャロンは?」
「えっ!?」
そこにやって来た悠人は、さりげなくシャロンを振り返った。
気になるアクセサリーや好きな石があるのか、リサーチしたい悠人の内心を知ってか知らずか、ふと目が行ってしまうのは、悠人の瞳と同じ色をした琥珀で……。
「――ラピスラズリは好きよ、私の瞳と同じ青と金だもの」
琥珀をチラ見しながらも、口ではそう答えるシャロンだった。
「ん~、いいッスね~」
店内を見て回ったカーテンは、花の模様を結んだ飾り紐を手に取った。中央に埋め込まれた小さな石、ほんの少しだけ存在を主張する鉱石……それは、お値段もささやかで、記念品も兼ねてちょうど良さそうに見える。
「あ、そうか皆の分……ええと」
「プレオープンの方も一区切りつきましたし、どうぞ」
お手伝いありがとうございました、と、アカネはおもてなしを引き受けてくれた皆に礼を言う。それを聞いたアルフィーは「まだ残ってるかな~」と覗き込み、ほっとした様子で紫の鉱石をあれこれ手に取って選んだ。
こうして、皆の手で作り上げられた甘味処、克珠庵は正式なオープンを迎えると、たくさんのお客様を迎えたのだった――。
マスターコメント
皆さんのおかげで掃除は綺麗に終わり、内装にも様々な工夫が行われることになりました。また、非常にメニューの充実したカフェが出来上がりました。
ありがとうございました!
お店の名前には色々なご提案をいただきまして、甘味処『克珠庵』といたしました。
また、バレンタインデーやホワイトデーに代わる名前としていただいたアイデアは、他のマスターさんのシナリオにいただいた案もあわせまして、最終的に決定した名前が【想石】のエピローグにて発表になります。記念品の宝石アイテムが配布されるのも同じタイミングとなりますので、お待ちくださいませ!
イベントシナリオ普通 報酬:標準25 / 4〜25人
2022年02月18日 15時07分14秒 公開
大成功