【魂禍】手を伸ばせ、悲しき亡者の群れを越え
菊華 伴
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シナリオID:1837
オープニング
「どいつもこいつもつかえねーなぁ、おいぃ……」
そんなことを言いながら、エルフの男が子供の首を掻っ切り、赤い飛沫が上がる。鈍い音を立てて落ちる身体を、ハーフリングの少年が興味深そうに手にする。
「これがホムンクルスか……。で、何で始末してんだ?」
「コイツら皆失敗作。でもよぉ、『ゾンビに再利用するのも面白いんじゃね?』って考えたってワケよ」
エルフの男はそう言いながら逃げようとする子供を引っつかまえて喉笛にナイフを突き立ててねじ込み、体が動かなくなるのを見てから引き抜く。ケラケラ笑いながら始末を行う彼の姿を、少年はどこか冷めた目で見つめる。
「まっ、死体さえあればオレはいいからな」
少年は男の言い分には興味がないとでもいうような声色で、机に腰掛け、長杖を弄ぶ。そして、僅かに瞳を細めた。
「本当はスケルトンの方がディテール的に好きなんだけど……。はぁ、背に腹は代えられないか……」
それを見ていた小柄な少年は、唇を震わせながらも足音を忍ばせ静かにその場を去る。そして……別の場所へと目を向ける。そこには、自分と同じ存在がまだ数名生きているのだ。
(殺される、殺される。このままじゃみんな殺される)
道の途中にもごろごろと死体が転がっている。皆、エルフの男……アルルカンによって気まぐれなどで殺された仲間達だ。
(助けて……誰か……!!)
無我夢中で逃げるその少年は、突然光を浴びあまりの眩しさに目を閉ざす。そして……。
「大丈夫か?!」
という声を聴いた途端意識を失った。
●『フラスコ』の奥底へ
「たすけてくれ、お願いだ」
と、冒険者に頼み込んだのは旅の途中である狼系ハーフビーストのバラク。彼は記憶を求め帝国を回っていたが、道に迷ってシグモル火山帯を訪れていた。そこでボロボロの少年を保護し、冒険者と出くわしたのである。
その少年の話を冒険者ギルドに通すとその少年が件のホムンクルスである事が判明、彼の仲間を保護する依頼が出されたのである。
「この子をここへ連れて行く直前、その周辺にゾンビっぽいのが出現し始めたんだ。この子の仲間が大変なことになっているかもしれない。だから、気を付けて向かって欲しい」
バラクはそういい、頭を下げる。現場には彼も出向くものの、さすがに授恵者ではない為馬車の中での待機になるらしい。冒険者たちは顔を見合わせどうするか話し合い始める。
逃げ出した少年、ユィット曰く、「作り主にとっての失敗作故に仲間が殺される」らしい。このままでは仲間の命が危ない為、早く助けて欲しい、と。故に冒険者たちは速やかに現場へ急行する事にした。
冒険者たちが現場に到着すると、現場周辺に人影がちらほらと見えた。だがその動きは酷く緩慢だ。それを見たユィット曰くどうやら、ゾンビとなったホムンクルスのようだ。
彼の話によると、この『フラスコ』には30体ほどのホムンクルスがいたらしいが、果たしてどれだけのホムンクルスが生き残っているだろうか?
ともかく、急がなければならない。
解説
マスターより
リプレイ
冒険者達が馬車の中から外を見ると、確かにゆったりと6、7体の元ホムンクルスだろうゾンビが動き回っていた。その様子に、ユィットが顔を強張らせる。生き残った仲間の安否を心配しているのだろう。
道中、ユィットから内部構造や状況をどうにか話してもらったナハシュとフリューリングスルフト=ティエラは、(以下フリューと表記)は深いため息を吐いた。
「最深部までは一直線。ただ、途中にある分かれ道を西に行くと倉庫……。直進すると研究施設、だったな。仲間たちは?」
「倉庫に、逃げたのを見た。けど……そこからは……」
ユィットは研究施設で逃げ損ねた仲間が殺されるのを見ていた。思い出したのだろうか、心なしか顔色が悪い。
「ユィットさん。あなたが見たアルルカンという人ともう一人、ネクロマンサーはどこにいましたか?」
「僕が見たのは、研究施設の中で……。でも、今もいるかはわからない」
エルナ・クルプファルツの言葉に、ユィットは不安げに言う。自分が齎す情報次第では冒険者達が危険な目に遭うと理解している為だろうか。ナハシュは「誰かが研究施設の中を見てくる必要があるかもしれないな」と呟いた。
「ん。助けてくるさぁ」
フリューが優しくユィットの頭を撫でてあげると、少年は少しだけ表情を緩める。傍らのバラクは、狼の耳をぴんっ、と跳ね上げながら表情を引き締めた。
「ゾンビの声が近づいてる気がする。ここがバレたかはわからないけれど……」
「やはり、お二人は馬車の中で身を隠していた方がよいでしょう」
レティシア・レインフィールもまたバラクと同じ方向を見ながら提案した。そして、エルナと頷き合うとコハクを見る。彼女はそっと隙間から外の様子を見、馬車がバレていないようだ、と頷いた。
「ホムンクルスでゾンビねぇ。ふーん、命に失敗作とかいっちゃうのは感心しないわね」
ま、とりあえず助けに行かないと……と、フセイン ラファは気合を入れる。彼女の言葉に頷いたヴェイグ=ベーリングは、ユィットの頭を撫で「友人たちは必ず助ける故な、安心するが良い!」と優しくも勇ましい言葉をかける。そして、少年に向けた優しい笑顔から一転、真剣な表情で一同に向き直る。
「ユィット殿の話から考えるに時間が無いか。これは速さ勝負やもしれんな」
「そうね。それに、この馬車もいつ見つかるか解らない」
カメリア・ローレンスがヴェイグに同意し頷くといよいよ作戦開始である。
「大丈夫、かな……」
「あぁ、冒険者達は強いからな」
心配そうなユィットに、バラクは優しく微笑んで頷いた。
●作戦開始
ナハシュ達がユィットから話を聞くことができた為、冒険者達は移動中にある程度の作戦をたてることができた。
馬車近くで2人を守る者、突入する者、情報にあった研究施設へ向かう者。この分担が、後に彼らへ光明を齎すと誰が予想しようか。
エルナは相棒たるリスをカメリアの肩に乗せると、突入組へ「武運がありますように」と呟いた。
「いこっか」
フリューの言葉に、一同が頷くと突入組がそっと馬車を出る。そして静かに……徐々に速度を持って突入を開始した。
ゾンビ達が、突入組に向かっていく。だが、その速度は遅く到底追いつけそうもない。馬車近くに残ったエルナとレティシアは丁度良い岩陰に隠れゾンビ達の様子を伺う。
隙間は障害物などで遮られている。ゾンビ達が馬車に近づくには、エルナとレティシアの間を通るしかない。
(数は、増えていないようですね)
聞こえてくるゾンビだろう足音の数から確認したレティシアは、いつでも敵が来てもいい様に『誓銀の月』を手に警戒する。
エルナはレティシアと頷き合うと警戒を彼女に頼み馬車の中へ。すると、毛布に包まりバラクにしがみついていたユィットが顔を上げた。
「どうしたの?」
「いえ、道中で聞いた事以外に思い出した事があれば仲間に伝えられるのではないか、と思いまして」
エルナが穏やかにそういうと、ユィットは少し焦ったように言った。
「多分だけど、通路に倒れていたホムンクルスもゾンビにされていると思うの。だから、注意して欲しい」
エルナは1つ頷くとリスを通じて仲間に情報を伝える事にした。
●振り払い進め、悲しき影
突入班が最初に見たのは、喉あたりに生々しい傷を持つゾンビ。彼らは皆、元はホムンクルスだったのだろう。その様子に一同は表情を険しくする。
(予想通りというか……)
ナハシュはゾンビの攻撃を軽々とかわしながら辺りを見渡した。そこまで広くない通路に、子どもの背丈ぐらいのゾンビが何体もいるのだ。
「それにしても……」
疾風のように駆けるフリューが思い出してしまったのは、ユィットが道中で語った「失敗作だから処分された」という言葉。
(これが、処分方法……?)
『失敗作だから殺された』現実に、ざわりと心の奥底で嫌な揺らぎを覚える。
傍らのコハクは露払いとしてゾンビを捌いていく。ここのゾンビは特に強いという事もなく、どちらかと行けば弱い部類だろうか?
「それでも……この数はちょっと酷かもね」
ラファが〈毒撃〉を放ちながらぽつりと呟く。狭い範囲にぞろぞろといるゾンビたちは邪魔でしかない。中には道の途中に倒れ、近づいた途端襲い掛かってきたゾンビもいる。
「とにかく今は進め! 進路の邪魔になるゾンビだけ打ち取ろう」
最後方のヴェイグが先に行く面々へとアドバイスし、一同はどんどん奥へと走っていく。最前列……エルナのリスを肩にのせたカメリアが案内を元に突き進んでいく。説明を受けた限りそこまで遠くない距離。だというのに、今のカメリアには件の倉庫までが遠く思えた。
中はほの暗いものの〈暗視〉が必要なほどではなく、慣れてしまえばそこそこ戦えた。ナハシュはゾンビ達が思いのほか手ごたえのない様も合わせて口の中が苦い物で満たされるような気がしていた。
カメリアとフリューの2人が最前列を行っていたがやがてフリューが頭一個分先に出る。自分の持ちうる技術を集めに集め、索敵と速度を高水準で両立して現場を駆けていたフリューは、その耳が僅かに子供の声を拾ったような気がした。
(件の倉庫まであと少しある気がするんだけど……)
その正体が自分に縋りつこうとしたゾンビと知った彼女は寸での所で攻撃を躱す。
立ち込める血の臭いに僅かに生唾がわく。もし〈超嗅覚〉のスキルを持っている者がいたら大変苦しい状態になっていたかもしれない。
(これでちょっとでも進みやすくなれば……)
ラファが軽く詠唱し掌を前方へ向ければ、氷の矢が出現する。風を切って飛んだそれは、先頭を行く2人へ襲い掛かろうとしたゾンビに命中。すぐに炸裂し、冷気と共に動きを阻害する。だが、胸を撫でおろしている場合ではない。時間がないのだ。
冒険者達は突き進む。まだ生きるホムンクルスたちを助けるために。たとえ阻む影の数が多くとも。
だが、ここにきて……ヴェイグは少しゾンビの流れが変わった気がした。しかも……己が通り過ぎたゾンビ達が……。
(まさか、外に……?!)
冷たい汗が、ヴェイグの背中を流れた。
その前方でも異変が起こる。道案内をしていたエルナのリスの様子が少しおかしい。
(まさか、ゾンビが馬車に気付いた……?)
カメリアは、嫌な予感を覚えながらも道を急ぐことにした。
●その頃、馬車周辺では……。
リスを通じて道案内に徹していたエルナであったが、ここで彼女の耳が不穏な音を察知する。彼女は小さくため息を吐いた。
「どうしたのですか?」
ユィットが緊張した面持ちで彼女を見、何かを察したバラクが毛布ごとユィットを自分の方に寄せる。エルナは音の方を向いたままバラクへ告げる。
「ユィットさんをお願いしますね」
「心得た」
バラクは1つ力強く頷いた。
弓を手にしたエルナは身を隠し、強く念じた後1体のゾンビに目を付けた。迷いのない足取りで馬車へ向かっているのが〈超視覚〉により見えたのだ。彼女は死神が振るう鎌の如き一矢を放ち、ゾンビを仕留める。
しかし、ゾンビはまた1体、また1体とゆっくり馬車の方へと歩きはじめていた。もしかしたら見つかってしまったのかもしれない。そう判断した彼女は速やかに馬車を出、ちらりと辺りを見渡す。と、レティシアが祈りを捧げていた。彼女もまた、嫌な音を聞き取っていたらしい。
(ゾンビがこっちに向かってきている)
ゾンビが完全に馬車に気付いたか否かはわからない。だが、ゆっくりと馬車のある方向へ来ているのは確かだ。しかし、レティシアは慌てなかった。
「……一番辛いのは彼らなのですから」
零れた言葉の後、ゾンビ達の周辺に霧が立ち込め……刹那の間、雷が轟き暴れる。その後に残ったのは、2,3体のゾンビであった。
「うち漏らしは、任せてください」
エルナは呼吸を整え〈炸裂矢〉を放った。ゾンビ達はうめき声をあげて倒れていく。そのあっけなさに、2人は僅かながら後ろめたさを覚える。
何はともあれ2人の授恵者によって、6,7体のゾンビは完全に倒された。二人は念のため周辺を見渡し、洞からの新手や他の襲撃者がいないか探るもその姿はない。
「念のため、洞から出たゾンビがいたら、打ちましょう」
「そうですね」
レティシアの言葉に、エルナが頷く。まだ、安心できそうもないと2人の乙女は気を引き締めて警戒した。
たしかに〈超聴覚〉のお陰で複数の音が洞から近づいてくるのが聞こえる。それが味方か敵なのか解らない。
(どうか、無事で……)
レティシアは、救出に向かった6人の無事を祈った。
●まずは、その手を離さない
移動に集中した為か、思いのほか早く分かれ道へ到達できた6人。ナハシュは手で研究施設方面を示すと、他5名は倉庫の方へと曲がっていった。
「ナハシュ殿、気を付けてな。間違ってもゾンビにはならんようにな!」
豪快な笑い声と共に放たれたヴェイグの言葉に、彼は「勿論」と軽口で答えながら道を行く。
研究施設と思わしき場所へ到達したナハシュは、僅かにドアが開いている事に気が付いた。
(そこから見えるか?)
そっと覗き見ると……めちゃくちゃに荒らされ、散乱する資料らしき物と、うまく起き上がれず痙攣するだけのゾンビ3,4体。そして……僅かに長杖のようなものが見えた。
(ここじゃないのは解ったが、どういう……事だ?)
長杖は、ただ立てかけられている物なのだろうか? それとも持ち主がそこに隠れているのだろうか? だが、今はそれどころではない。そして、研究施設にいるゾンビは敵を襲うどころではなさそうだ。
(ここは、放置していても大丈夫かもしれないな。ネクロマンサーまで相手している暇はない)
彼は速やかに天井を駆けて倉庫へ向かった面々の方へ向かった。
倉庫前まで来た5人は、頷き合った。
ヴェイグが振り返り、5人へとついてきたゾンビを切り払う。救出中にゾンビがこちらへ来れば、彼が対応してくれることになっている。
「鎧は脱いで来たがな、俺の肉体が鎧代わりよ!」
と頑健な笑い声を上げる様は勇ましい。また、彼が抜かされたとしても、後ろにコハクが控えている。守りは万全だ。
ラファが倉庫の戸に手をかけると僅かな悲鳴が聞こえる。フリューは「大丈夫」と言ったうえで、そっと声をかけた。
「ユィットさんから話を聞いたんよ。うちらは助けにきた冒険者やからね」
「大丈夫よ、お姉さんたちが助けに来たわ」
ラファもそっと声をかけると、中から4、5名のホムンクルスと思わしき子供たちが顔を覗かせる。だが、戸惑っているようにも見えた。
「……信じられないかしら? 勇敢なお友達、ユィットの紹介ってなだけじゃ物足りない?」
その言い方が興味深かったのか。それともユィットを信じているのか。恐る恐るといった様子で冒険者達を見ていたが、やがてラファとフリューの方へと歩み寄った。
話を聞くと、ユィットがここに隠れるように言ったらしい。冒険者達はその後研究施設の惨劇を目撃し、飛び出したのだろうと推測した。
「ゾンビは来ている?」
「今のところ、ゾンビはヴェイグさんが防いでくれているわ」
フリューの問いに、後ろに控えていたカメリアがちらりと通路の方を見て言った。よく見れば研究施設の方へ行っていたナハシュもまた襲い掛かってくるゾンビの対処をしてくれている。
ラファは〈エリアサイレンス〉を使用した上でカメリアにホムンクルス達へとマントなどをかけてもらい、少しでも姿を隠そうと試みる。フリューがその様子を見てから後ろを振り返ると、コハクがヴェイグの横を抜けたゾンビを切り払うのが見えた。
「救出は?」
「うまくいったわ。後は脱出するだけよ」
ナハシュの声に、カメリアが答える。ヴェイグは撤収しようと一同へ声をかけた。
上手く分担した事によってタイムロスを減らすことのできた一同。もし別れず行動していた場合、入り口付近のゾンビ討伐などに手間取って間に合わなかったり、洞のゾンビが外へ出ないように気を付けなければならなかったかもしれない。それを思うと作戦は大事なのだな、と改めてカメリアは思った。
往路は進路を邪魔するゾンビだけ払っていた為、まだ多くのゾンビが残っている。ざっと見た限りでは17、8体はいるだろう。だが、そこにいるのは場数を踏んだ冒険者達である。
(疾く疾く駆けろ。風より疾く、陽よりも鮮烈に……焼き尽くせっ)
フリューが疾風の如き動きで三連撃を放ち、襲い掛かるゾンビを切り払う。ラファが暗針で毒を与える攻撃を行えば、ナハシュが綺麗に仕留める。
「みんな、大丈夫か?」
「負傷者は今のところ居ないわ」
カメリアが華麗な二連撃を叩き込みながら返し、殿のヴェイグが、うち漏らしただろうゾンビの数を確認。呼吸を整えて細剣を握る。すると、巨大な光塊を纏う。
「おりゃああっ!」
強く振り下ろされる細剣。巨大な光塊に巻き込まれゾンビが倒される。だが、そうしながらもヴェイグは気を抜かず周囲を見る。
(手ごたえが弱いが……)
それは他の面々も思った事だ。このゾンビ達は、どちらかと言えば倒しやすい類だった。そこで再び思い出す『始末』という言葉。
(やっぱり、嫌なものね)
ラファの口の中に、苦い何かが広がる。だが、それはフリュー達も同じである。
「けれど、この子達を助けるためにはやらんとね」
フリューが絞り出すように言いながら三連撃を放ち、そっと「おやすみさぁ……」とゾンビへと囁く。
(もう少しの辛抱だからもうちょっと我慢してね)
ラファは怯えた様子のホムンクルス達に内心で囁きつつ、敵へ暗針を刺して毒を与える。コハクはそのゾンビを一気に切捨て、ナハシュはあたりを見渡した。
「ゾンビはそれで最後……じゃねぇな……」
ちょうど出入口付近に、3体のゾンビが立っていた。ゾンビ達は少しずつ冒険者たちに迫っている。
冒険者達は、顔を見合わせるとゾンビが背を向ける光に向かって突き進んだ。
「ごめんね」
ラファがその三体を指させば、そこで光輝くエーテルが高速で収束し、炸裂。強い風の流れに苛まれる。そして通り過ぎるその中でナハシュが、カメリアが、ヴェイグが一撃を加え……ゾンビは地に伏した。
一同を出迎えたエルナとレティシアは、安堵の息を漏らす。そして、馬車の中からバラクに手を引かれ、ユィットが姿を現すと……彼は目に涙をためて「ありがとうございます!」と頭を下げた。
●悲しき命を、弔う
倉庫から助け出されたホムンクルスは、5人。彼らはユィットをみるや、泣きながら駆け寄り抱き着いた。
あのフラスコと呼ばれる施設で自分達の知っている所にいたホムンクルスは全部で30人ほど、とユィットが話していたが……殆どがゾンビにされたのだ。
「これが、あ奴らのやり方なのか……」
ヴェイグは鼻を鳴らして僅かに顔を顰めた。
「ゾンビさん達は清めて埋葬しましょう。……適切な墓地は無いので近くに埋める形になりそうですけど……」
辺りを見てきたエルナが少し悲し気に言う。だが、埋葬に関しては全員賛成し、手分けして警戒しつつも施設内から倒したゾンビを運び出し、清めていく。
レティシアがユィットに希望を問うと丁度近くに花が咲く場所を指さした。そこを埋葬場所にすると墓石代わりの岩を置く事に。
(研究施設内のゾンビも、終わらせないとな)
ナハシュが再び研究施設へと入ると、そこで動けずにいたゾンビたちは既に元の死体へと戻っていた。小柄な身体を抱え、その冷たさに何故か涙か込み上げてきそうになる。
そして、長杖の先が見えたような場所を見ると……何もなかった。恐らくあれは例のネクロマンサーだったのだろう。
のちにレティシアが〈残留思念感応〉を試みると、「流石にたくさんのゾンビは扱いづらい」と悩む少年の悔しさと、誰かに対する「寂しさ」を仄かに感じ取った。
(未熟なネクロマンサーなのでしょうか……? そして、この寂しさは……)
何故だろう、彼女にはそれが母を想う寂しさのように感じ取れた。
「いい夢みるさぁ」
「そうね……。花に囲まれたら、いい夢が見られるかもね」
黄色い花の下に眠る子らを思い、フリューとカメリアは頷き合う。
花畑を元に戻し、岩を置くと全員で祈りを捧げる。もちろん、ユィットをはじめとするホムンクルス達とバラクも一緒に。
「安らかに、迷いなくマトリクス界に至れますように……」
エルナがそっと祈りを呟く。それは恐らくその場にいる者すべての想いだろう。
すべてのゾンビ化したホムンクルスたちを埋葬し終えると、シーフたちは念のためうち漏らしがないか、新手が来ないか確認する。
その間に撤収準備を行う傍ら、レティシアはチョコレートをユィットたちホムンクルス達へと配っていた。
「皆様、……今までよく、頑張りましたね」
レティシアが優しく声をかける。ホムンクルス達は優しい声に表情を緩ませるもチョコレートを知らなかったのか、不思議そうにしていた。
「こいつはな、甘いお菓子だ。口に入れてみろ、蕩けて美味いぞ」
バラクが説明すると、ユィットが恐る恐るチョコレートを口にする。と……、目を真ん丸くして、「甘い!」と口元を綻ばせた。それで安心したのか他のホムンクルスたちもチョコレートを口にし、美味しい、と口々に言って表情を緩める。
その様子を優しい眼差しでレティシアは見守っていたが、一人のホムンクルスが彼女に声をかけた。
「ねぇ、お姉さん。これ、みんなにもあげていい?」
「えぇ……」
レティシアは、その子の視線の先に花畑を見、1つ頷く。そして、岩の前に置くといいですよ、と言い添える。
綺麗に半分に割ったチョコレートを岩の前に置くと、先ほど冒険者達がやってみせたように祈りを捧げた。
「今度は、平和にチョコを食べられるといいな」
バラクの言葉に、冒険者達もまたしみじみとした思いになったのだった。
その様子を、少し離れた場所で見ていた者がいた。ネクロマンサーのエクレール・カインである。
(さすがに、20以上の死者を操作するのはキツいなぁ……。身体がフラフラだよ……)
そう思いながらも、冒険者たちに保護されたホムンクルス達を見つめる。その眼差しはどこか懐かしさと羨望が滲んでいる。
「あーあ。ちょっと前までは僕も兄貴たちと一緒にわいわいやっていたんだけどな。……それも昔の話だね」
そうしながらも、僅かに瞳を細め舌打ちをする。
「お袋も死んじまって、兄貴は『メドゥの指先』を裏切って……。オレはどうするかな……」
そう言いながら、彼は冒険者達が馬車に乗り込むのを見るとよろけた足取りで墓に近づく。彼は岩の前に座り込むと、チョコレートをバクバクと食べ始めた。
「これ食ったら、どうすっかな……」
当分は身を潜めようか、とか考えながらカインはチョコレートを平らげるのだった。
(誰かがお墓の前にいたような……)
馬車が走り出そうとした時、隙間から見えた光景に、カメリアが首を傾げる。だが、気のせいだろうと思い視線を内部に戻した。
はじめは馬車に乗るのが初めてなのか、ホムンクルス達がおっかなびっくりな様子だった為レティシアをはじめとする数名が色々と教えていた。しかし暫くすると安心したのだろう、ユィット共々うとうとと眠り始める。
様子を見ていたナハシュは「洗脳が早く解けるといいな」と呟きながら毛布をかけてあげた。
「まずは、一安心だな」
「無事に助け出せてよかったさぁ」
ヴェイグとフリューが顔を見合わせて喜びあっていると、コハクが静かにするようにと窘める。その傍らで、ラファが毛布をかけなおしてあげていた。
「ネクロマンサーの事は気がかりだけど……、今回は手を出さなくてよかったのかもしれないわね」
ラファが何気なくそう言えば、エルナも頷いた。
「あくまでも、今回は救出が任務でしたから……」
何故か気がかりな事があるエルナであったが、首を振ってホムンクルス達を見つめるのだった。
こうして、救出作戦は幕を閉じた。
(終)
マスターコメント
ミドルシナリオ難しい 報酬:標準8 / 6〜8人
2022年02月12日 12時08分59秒 公開
相談掲示板
成立したさぁね! シーフのフリューリングスルフト、長いからフリューって呼んでさぁ。 よろしくね! さて、と。らうんど制限があるらしいさぁ ひとまず前準備の提案として、可能な限り逃げ出してきた少年、ユィットにフラスコの内部構造、生き残ったホムンクルスたちがいる方向とか聞けたらいいなぁと思うさぁ あとは馬車に残った二人の為の何か、かな。 先に部屋に向かう人たちと、周辺の敵を倒してから向かう人たちとって分けた方がええかな?
エルヴンシューターのエルナです!皆さまよろしくおねがいしますね! 守る必要があるのは馬車と洞内奥のホムンクルスさんの二箇所! 馬車近くのゾンビさんを倒して馬車を守る人と 洞内のゾンビさんを倒して奥のホムンクルスさん達を救出する人に別れた方が良さそうですね! フリューさんの言うようにユィットさんに内部構造のお話を聞けると良さそうですね! 馬車にリスさんを残して、私は奥に向かいましょうか! それならリアルタイム道案内ができる気がします!
もし部屋の構造が聞けなかった場合は、聞いても一応やるのだけど()双波で索敵、構造把握、超視覚や超聴力も組み合わせたら部屋位置特定出来るかな? あと、片道4ラウンドほどとあるけど、これ、疾風足とかメインアクションで移動したらもっと早く着けたりする、のかな? 計算間違うてたり、ルール違ってたらごめんさぁ!
リスさん馬車にお願い、するのは良いと思うさぁ 道案内もだし、もしトラブルや状況不利になったら連携とか取れる思う
シーフのカメリアよ。よろしくお願いするわ。 >片道4ラウンドほど フリューさんの言う通りスキルやメインアクション分も移動すればもっと早く到着しそうな感じはするわね。 現場周辺のゾンビや徘徊しているゾンビの事も考慮しなければいけないと思うけれども。 逃亡の可能性があるし、隠れているネクロマンサーをどう対処するかを決めて置いたほうが良さそうかしら。
シーフのナハシュだ。今回はよろしく。 とりあえず馬車と救出にわかれんのや事前に話を聞いておく他、出ている内容には賛成だ。 多少でも構図や分かれ道の情報があればだいぶ楽だろうしな。 >施設 普通に進んで片道4Rなら、言われてる通り移動系ので補強すれば少しは早くつくかもしれねえ。ただ進むだけでいいなら、隠蔽しつつ壁歩きで天井歩いちまえばゾンビならスキップできる気もする。今回シーフが多めだから、内部での戦闘などで手間取りそうならそれで発見しつつ、ゾンビが来たら持ちこたえるでもいいかもしんねえか? 場所さえわかれば、後はそこの扉が破壊されねえようにしながらそっち側のゾンビ片づけりゃいいもんな。 >ネクロマンサー OPの位置から移動してなければ、研究室の方にいそうな感じはするが……仕事内容には含まれてねえし、人数も万全じゃねえから俺は逃げても構わねえ。対峙するなら分かれ道か出口で張っとく奴はいるんじゃねえの。
火力の名のもとにシーフの皮を被ったウォーリア擬きのコハクよ、よろしく。 ナハシュとも被るけど事前の相談であった内容には私も賛成よ、特段異論はないわ。 現状の六人で行くのであればシーフ四人にシューターとキャスターだから…馬車にルナ母さんとラファ、残りで速攻戦を仕掛けるかもしくは三人パーティで分けるか。 どちらにしても突撃班はシーフで固めた方がよさそう。 ただどの流れになったとしても我儘をいってよければ、フラスコ内のゾンビは私で狩りたいわ。 ネクロマンサーに関しては今回の依頼ではもう無視した方が良いかなと。 PL情報だけど今回はあまり来ないようだし。 本当は塵殺したいけど。生きたまま地獄をあじあわせたいけど。徹底的に嬲り殺したいけど。
確かにスキル移動を駆使して進むなら、突撃班はシーフの方で固めた方が良さそうですね! 私が馬車で、突撃班の方の肩にリスさんを乗せてもらって、ユィットさんに聞いた情報を元にリスさんに道を示させる感じでいけば迷わず行けそうでしょうか! 馬車の防衛を考えると、三人ずつで分かれるのが良さそうな気もしますね!
ウォーリアのヴェイグという、飛び入りになるがよろしく頼む! 事前に施設の情報を聞き出すのも、馬車の守りと突入組に別れるのも賛成だ。特に異論はない! 分担という事であれば俺は馬車の護りにつくのが適任のようだ。 重装備で足が遅いでな。話に出て居る通り、移動力を活かす等の工夫があれば4Rより早くつける可能性がある、とあれば足手まといになりかねん故な。 必要であれば脱ぐがな!ふんどしのみでも良いわ!わはは! 施設は奥が2つに分かれているのだな。 内部構造はユィット殿の情報でわかるかもしれんが、ホムンクルス達が今どの部屋に居るのか、は実際に確認する必要があろうからなぁ。 速さ重視であれば、突入組も内部では二手に別れる必要があるやもしれんな。 即ち【馬車護衛】【研究施設側】【倉庫側】の3分担だな! >ネクロマンサー うむ、俺もあまり優先はせぬな。ホムンクルスの保護を第一としたい所だ。 勿論倒せるなら倒してしまいたいが、倒す為にわざわざ手を回しはせん、というところか。
コハクちゃんに呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん、ラファよ あ、ちなみにキャスターだけどキャスター感0だから劣化シーフとして見てくれたほうがいいかも( ちなみに資金は底付きたわ() とりあえずホムンクルスの保護に向かう感じ?で動く予定ね私は
ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 飛び入りの参加となりますけれど、皆様よろしくお願い致します。 >作戦 現時点までに挙げられている作戦に異論はございません。 分担に関してはヴェイグ様の仰る通り 三班に分かれる形がよろしいかもしれません。 私は馬車の護衛班として行動させて頂くのがよろしいでしょうか。 有事の際は光縛封でユイット様とバラク様をお守りし 回復しつつ持ち堪える形となりますでしょうか。 >ネクロマンサー 今回は護衛対象の方もいらっしゃいますし 私も無理に撃破や追撃を行う必要は無いかと存じます。
>分け方について OP的にユィットは別の場所を見てそこに仲間がいる、と確信した上で逃走を図っていることから、そもそも隠れている仲間の場所を知っていると思うんだよな。 少なくとも机がある所で殺してんのは見ているわけだから、事前に話を聞けるなら奴らが殺してたのが研究室、生きた仲間がいるのはもう一方の方、くらいの推測は立つんじゃねえか? というのも突入も二手に分けるってこたぁ当然戦力も分割することになるから、内部にゾンビがどれだけいるか知らねえ以上合流まで手間取ればそれはそれで押される可能性があるんじゃねえかなと。だからネクロマンサーをたたかねえなら事前に内部構造とともに推測を立てて片方に寄せてもいいし、もしくは【研究施設側】をシーフ一人に絞り、残りを【倉庫側】に割り振っちまってもいいんじゃねえかな…。 後者で行くなら俺が研究施設側に行ってもいい。ばっとみてばッと戻ってくるだけの簡単な仕事だ。
3つに分担異議なしさぁ! ネクロマンサーに関しては戦闘中にゾンビの様子の違いから、いるのかも?と察する事は出来そうかな? でも深追いや直接相手にするのは、うちもやめたほうがいいかなって思うさぁ 向こうが逃亡するくらい追い詰めるのは良しやけど。 >分け方 んむ。ナハシュさんの意見、なるほど思うさぁ。 思うんやけど、うちは保険を兼ねておきたいかなぁ。 「無我夢中で」って部分がちょっとこわいんやよね。恐怖過ぎてうまく思い出せない。 よく覚えていないなど。ので、推測も立てる。立てたうえで、索敵も怠らない。 扉を壊すのをまず阻止、時間が稼げれば合流は難しくはないんじゃないかなと思う。ばっと見てばっと戻る。ナハシュさんの言うように。 研究施設側でコハクさんの様に用がある方は残ってしていいと思うさぁ。んー、まぁ、ひとりだけ残すのはちょい怖いけど。 ひとまず!発言等から希望分担先をまとめてみたさぁ 間違えてたり、見落としていたらごめんねっ うちは倉庫側を希望 でも移動はだいじょうぶなので、どうしてもって事があれば遠慮せずに言うてさぁ! 【馬車護衛】 レティシア ヴェイグ エルナ 【研究施設側】 コハク ナハシュ 【倉庫側】 ラファ エルナ(リス) フリュー
は!言葉足りんかった! 施設内の大まかな構造はユィットさんに聞くの意味あると思うし、参考になる。やけどどこまできちんと情報貰えるかわからんので、うちは最初「可能な限り」としたさぁ。分かりづらくてごめんさぁ!
私も【倉庫側】の基準で問題ないわ。 有難い話で参加者が増えてくれたから突撃側の面子もかなり多めになるはずだし皆がホムンクルス達を救出しやすいよう少し暴れる位だから。 発見後も殿を務めるつもり。 【馬車護衛】 レティシア ヴェイグ エルナ 【研究施設側】 ナハシュ 【倉庫側】 ラファ エルナ(リス) フリュー コハク
私も三つに分担で異存はないわ。 移動力で言えば研究施設側でも倉庫側でもついて行けないという事はないから、ナハシュさんの言う通り研究施設側を一人に絞るなり、念のため二人で行くなりというところかしら。一人の方が動きやすそう、だとかなら私も倉庫側になるけれども。
うむ、三分担はナハシュ殿の言う通り戦力分散のデメリットが大きい、同時にティエラ殿の話の通り保険を掛けておきたい所でもある…。 なるほど、ゾンビの数次第ではあるな。 ホムンクルスは30体、うち25体がゾンビになっていると仮定しよう。外には6、7体ある故、中には18、19体か? ざっと外1:中4の比率だな。 多めで見たが確かに戦力分散は恐い数よ。 となれば研究施設側へは偵察に留めるのは賛成だ!ナハシュ殿に動いて貰えるのもありがたい。 加えてだが、クルプファルツ殿とレインフィールド殿が馬車護衛に当たってくれるのであれば、俺は突入で動くとしよう。中のゾンビが多そう故な! 鎧を脱いで移動力は確保する。武器だけで良いわ。 それで倉庫側3名、研究施設側2名でも良いと思うがどうか? うむ、やはり単独となると不測の事態が心配でな。勿論、単独でしか出来んこともある故、それなら邪魔はしとうない。ローレンス殿と同じく倉庫側でも構わん!
三分担も割り振り内容もオッケーよ。 私は戦力的にはいまいちだからもし施設側に移るとしても私じゃ2人分の活躍になりそうもないからちょっとパスね~
オーケー、なら3班で施設の方を絞る感じだな! 個人的には施設は単独だと助かる。 ハイディング、真・壁歩き、透視と暗視あたりでパッと見て合流するだけなら正直一人の方がやりやすい。もうちょいしっかり調べろってことなら、2人体制でも異論ないぜ!
私は問題ないと思うから、特に危惧することが無ければ倉庫側に回るわ。 そうすると下記な振り分けになるかしら。 【馬車護衛】 レティシア エルナ 【研究施設側】 ナハシュ 【倉庫側】 ラファ エルナ(リス) フリュー コハク ヴェイグ カメリア
いえ「倉庫側でも」であって、移ることは確定ではないのかしら。申し訳ないわ。その場合は下記ね。 【馬車護衛】 レティシア ヴェイグ エルナ 【研究施設側】 ナハシュ 【倉庫側】 ラファ エルナ(リス) フリュー コハク カメリア
ナハシュ殿、承知した!では俺は倉庫側へ行くとしよう。 ローレンス殿、気遣いかたじけない!倉庫側で問題ないと思うておる。 もしも馬車護衛が不安という者が居ればすぐ切り替える故、遠慮なく言ってくれ! 馬車護衛のプレイングが昨日書いていたのでな、戻すのは容易よ!わはは! 【馬車護衛】 レティシア エルナ 【研究施設側】 ナハシュ 【倉庫側】 ラファ エルナ(リス) フリュー コハク ヴェイグ カメリア