【聖祭】甘くて蕩けるもの、なーんだ
奇古譚
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シナリオID:1792
オープニング
●
蜜蝋。
ハチたちが己の巣をつくる時に使うもの。
恐らくキャンドルとしての使用法が、一番有名かもしれないが――
実は色々なものに使われている。
例えばリップクリーム。肌によい成分が入っているから、乾いた唇を潤すには最適。
例えば木製品に。蝋の成分が艶を出してくれる。
其れ以外にも、画具や接着剤、お菓子の材料に薬。
数え上げればいとまはない。蜜蝋は以外にも、人々の生活の深くまで根付いたものなのである。
其の蜜蝋の商品を集めた「みつろういち」が、アキュアリスタにて開かれる。
辺境都市群に居を構える商人や、果ては王国北部から。色々な場所から商人職人が集まって、蜜蝋で作った商品を売りさばく。
ハンドクリームやリップクリーム、ボディバター。化粧品やお菓子は女子に受けるだろう。また、定番のキャンドルは今回提供されたテラリウムの灯りとは一風違う、甘い香りを漂わせてくれる筈だ。
木工に興味があるなら艶出しの蜜蝋商品を見てはどうだろう。四角く切られて持ちやすい艶出し材は、樹を美しく引き立ててくれる筈。
其れ以外にも、蜂蜜そのものを使ったドリンクやお菓子がある。温かいハニーレモンティ、蜂蜜キャンディ。
不作に見舞われた今年だから、職人たちは格安な値段で楽しみを提供してくれる。特に食品類はお安めだ。
此処で買い物をすることは、少なくとも経済を動かす事になる。
動いた歯車は別の歯車を動かし、きっと経済復興への手助けとなってくれるだろう。
なんとなく甘い蜜の香りが漂う其の市場。是非足を運んでみてはいかがだろうか。
蜜蝋。
ハチたちが己の巣をつくる時に使うもの。
恐らくキャンドルとしての使用法が、一番有名かもしれないが――
実は色々なものに使われている。
例えばリップクリーム。肌によい成分が入っているから、乾いた唇を潤すには最適。
例えば木製品に。蝋の成分が艶を出してくれる。
其れ以外にも、画具や接着剤、お菓子の材料に薬。
数え上げればいとまはない。蜜蝋は以外にも、人々の生活の深くまで根付いたものなのである。
其の蜜蝋の商品を集めた「みつろういち」が、アキュアリスタにて開かれる。
辺境都市群に居を構える商人や、果ては王国北部から。色々な場所から商人職人が集まって、蜜蝋で作った商品を売りさばく。
ハンドクリームやリップクリーム、ボディバター。化粧品やお菓子は女子に受けるだろう。また、定番のキャンドルは今回提供されたテラリウムの灯りとは一風違う、甘い香りを漂わせてくれる筈だ。
木工に興味があるなら艶出しの蜜蝋商品を見てはどうだろう。四角く切られて持ちやすい艶出し材は、樹を美しく引き立ててくれる筈。
其れ以外にも、蜂蜜そのものを使ったドリンクやお菓子がある。温かいハニーレモンティ、蜂蜜キャンディ。
不作に見舞われた今年だから、職人たちは格安な値段で楽しみを提供してくれる。特に食品類はお安めだ。
此処で買い物をすることは、少なくとも経済を動かす事になる。
動いた歯車は別の歯車を動かし、きっと経済復興への手助けとなってくれるだろう。
なんとなく甘い蜜の香りが漂う其の市場。是非足を運んでみてはいかがだろうか。
解説
●目的
蜜蝋市を楽しもう
●立地
アキュアリスタの隅っこで、小さな市場「みつろういち」が開かれています。
蜜蝋を用いたリップクリームなど、甘い香りと共に売られているのは蜜蝋で造られた品々です。
ハンドクリームにキャンディなど様々なものに加工されていますが、「コムハニー」として蜜蝋をそのまま食べられる商品もあるようです。
他にも便乗して蜂蜜を売っている出店があります。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
マスターより
こんにちは、奇古譚です。
年越しのシナリオはお買い物。みつろういち、です。
お値段はお手頃、プレゼントや自分用にいかがでしょうか。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってイベントを楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
リプレイ
●
サイラスは蜜蝋と聞いて、いてもたってもいられなかった。鍛冶屋を自称してはいるが、ある意味やっている事は何でも屋のような感じで。木製品の艶出しに蜜蝋は欠かせないだろう。蜜蝋の固形品を売っている店に立ち寄って、長方形の固形蝋を買う。
次は蜂蜜。カヌレを作るのに使うのだ。更に化粧品。女性客を相手にしたときに、防具などの引き渡しの際に化粧品をサービスでつけて置くと喜ばれる。この時期はハンドクリームやリップクリームが喜ばれるだろう。女性相手なら、お菓子でも良いかもしれない。
蜂蜜は数種類、種類の違うものを買う。蜂蜜酒を色々作ってみたい。コムハニーも欲しい。――この調子だと、屋台を全部回らなければいけないのでは?
マジカルポケットに蜂蜜の瓶を一つ突っ込みながら、何を買ったのかをサイラスは手帳にメモする。書いておかないと、同じものを二つ買ってしまいそうだから。
「みつろういち……」
蜂蜜もあるのでしょうか、とミアは心なしか甘い香りのする屋台の間を歩く。
蜂蜜は薬にもなるし、料理にも使える。特にお菓子作りにはもってこいだろう。はちみつレモネード、はちみつレモンの飴……
捜せば直ぐにあった。蜂蜜を用いた菓子の店。袋に入っているから、学園の先輩方への土産に良さそうだ。袋物のお土産は「お取りください」って書いておけば大丈夫だから。
それから大切な友人には、リップクリームも良いかもしれない。菓子を買い、屋台の店主に聞いた化粧品の屋台へと歩む。その途中でそういえば、とミアはきょろきょろ周囲を見回した。ある地域ではミツバチはてんとうむしと並んで幸運の証と言われているらしいのだ。なら、ミツバチを象った御守などあるのではないか?
どうせなら消え物じゃなくて、形に残るものも買って帰りたい。
ミアはミツバチのお守りを捜して周辺を彷徨い、いよいよ最後には屋台で売っている場所を聞いて、ようやく辿り着くのだった。
だわは屋台の隅っこに置かれている蜂蜜を見て、ああ、と得心して頷いた。
蜂蜜があるのなら買っておきたい。栄養価の高いものはないだろうか、店主。
蜂蜜は煮詰めれば飴になる。――俺は普段一人旅をしていてな。一人旅というものはなかなかに不便なもので、無限に荷物を持ち運べる訳ではない。食料などは旅程から計算した分だけを持つ事になる。もちろんある程度余裕を持たせて準備したり、足りなければ野草を採取したり狩猟で凌いだりもするが、其れでも道に迷ったり冬場であれば食糧問題が浮上してくる。避けようのない問題だ。
そういう時の為に蜂蜜飴がある。栄養価が高く長持ちするし、余り場所を取らない。有事の際の生命線としては優秀なんだ。
この辺りにも飴は売っているだろうが、娯楽品としての価値が高いだろう。だから蜂蜜を煮て――包んでくる? ああ、頼む。
……。
“普段は寡黙だが、旅と飯と防衛を語る時だけは饒舌”。誰に言われた言葉だったか。そうなんだろうか?
シルヴィアは屋台の間に用意された休憩席に座って、ハニーレモンティを飲んでいた。レモンティに少し濃いめに蜂蜜を垂らしたもので、甘酸っぱい中に甘みがあってとても良い。
人々が楽しそうにしている様子を見るのが好きだ。商人・職人たちに話を聞くのは勉強になるし、とても興味深い。故郷の蜂蜜とこちらの蜂蜜、何か違う所はあるのだろうか。
さて、と空になったカップを置いて――置いておけば片付けてくれる、と紙が立ててあるので――目を付けていた店に歩む。化粧品を置いている店だ。先程から女性客の絶えない其の店に立ち寄り、目についたのはリップクリーム。こういうクリームものは好みが判れるけれど、いつか気が向いたときに使って貰えたら其れで良いだろう。シルヴィアはリップを二つとって、これを、と商人に差し出した。
「ご友人にですか?」
「恋人にね。この季節、唇はよく乾燥するからね。おまけに切れると痛い」
「そうですねえ。治るまでに時間もかかる。このリップクリームは口紅の下地としても使えますから」
「成る程」
会計を終えると、今度は蜂蜜キャンディを専門とする店へ。あちらは薄め、こちらは濃いめ。サンプルを食べ比べて甘みを確かめる。ふむ、ローズマリーのものが美味しい。ベリーを混ぜたものも甘酸っぱくて美味しそうだ。
「あ、シルヴィアさん!」
「? ……やあ」
仲睦まじい兄弟を目に留めると、君たちは本当に仲が良いね、とシルヴィアは微笑むのだった。
「ヴィン、ここにうちや取引先の可能性は?」
ヴィナスはそっとルーンスの本名を囁き、問う。大丈夫、とルーンスは笑ってみせる。
「取引先からの情報提供でヴィンスの異母兄ルースを知る商人職人の出入りはないね。アレらは情報止めてるから催しの存在すら知らないよ」
アレ、というのは両親の事だ。そう呼んでいる時点で彼らと親との関係は推して知るべし、であろう。
俺の弟は可愛いうえに頼もしい。ヴィナスは頭を撫でて異母弟を愛でる。嬉しそうにするこの弟が本当に可愛いと思う。おまけに有能だ。本当に、目に入れても痛くない。
二人が巡るのはコムハニー、蜂蜜のエリア。蜂蜜というのは二種類あって、百花蜜と単花蜜に分類する事が出来る。単花蜜というのは一つの花から取れた蜂蜜の事で、其の花の風味や香りを楽しむ事が出来るのだ。
「珍しい単花のコムハニーがあるのが理想だけど、質の良いものを見付けられると良いな」
「そうだな。単花ならアカシアやクローバーだけど……やっぱり百花が多いね」
ぱっと二人が見回す限り、百花蜜の方が多めに感じる。矢張り単花蜜は難しいのだろうか。取り敢えずアカシアとクローバーのコムハニーで、質の良いものを購入する。ヴィナスはどうやらハーブや果樹の蜜に興味があるようなので、そっとルーンスもそちらへ向かう。ルーンスは栗やトチの蜜にも興味があるけれど、兄弟揃って気になっているのは甘露蜜だ。
「……喉が渇いたな。レモンティがある。飲むかい?」
「うん」
二人でハニーレモンティを買う。トチの蜜を用いているという其の紅茶は甘ったるくなく、けれど程よく甘ずっぱい。レモンの風味に蜂蜜がよく合う。
ルーンスは途中で見止めた店に後から商談を持ちかけにいくのだろう、幾つかメモをしていた。
穏やかで甘い時間も、商人にかかれば気の抜けない偵察に変わる。小規模でも特化しているからこそ、掘り出しものがある可能性もある。
ああ、そうだ。さっきシルヴィアに聞いた蜂蜜キャンディの店にもいかなくては。単花蜜を用いたキャンディがあるそうだから。
「こちらはさらりとしておりますね。クリーム特有のべたつきがありません」
「成る程」
ウォルナとエイミーは共に化粧品エリアを回っていた。主にエイミーがハンドクリームやリップバームの使い心地をレビューして、ウォルナが其れをメモしていく。
ウォルナは魔女だ。だが、造れる薬のバリエーションはまだ多くない。蜜蝋による化粧品というジャンルは其の点では身近で目新しく、研究には適していると言えた。
エイミーは其れを補助する形となる。己も接着剤などの事務用品を購入したが、何分メイドという仕事は手先を使う。同じハンドクリームでも、体質との相性やあかぎれの予防具合は異なって来る。ウォルナにレビューをしながら己でも品定めをする。
「店主さん、他には何かある?」
「そうだねえ、化粧品に興味があるなら化粧水もあるよ」
「じゃあ、それも見せて貰っていいかしら」
「ええ、勿論。少し出してみましょうかね」
「こちらはどちらのメーカーから卸したものなのでしょう?」
「ああ、卸しではないんだよ。うちは養蜂が生業でね、ついでにこうして蜜蝋を使った化粧品を作っているんだ」
多分此処に出している殆どの人がそうさ。うちは蜂蜜も売っているよ、と、屋台の主である老婦人は屋台の隅っこに積んである蜂蜜の瓶を指差す。
それからこちらが化粧水だ、と、小さな器に透明な液体を満たして出してくれる。
エイミーは迷いなく其れを指に付けて、手の甲に塗る。じわり、と冷たい感覚が肌を撫でて、直ぐに染み込んでいく。
「良く染み込みますね」
「じゃあクリームと化粧水を貰おうかしら。自分でも試してみたいし」
「はいよ」
「では私はリップバームと蜂蜜を」
「エイミーさんは他に何か買うものある?」
「そうですね……」
興味があるものは山ほどにある。コムハニーなどの飲食物も気になるし、木工用のツヤ出しも気になる。
エイミーは店主が品を出すまでに其れ等の候補の中から選び抜かねばならなかった。
――しまった、と思った。
ローザリカはぱっとジュストから身を引いて、明らかに動揺する。
ジュストは何の気なく触れたつもりだった。妹に土産を買っていこうと訪れたみつろういち、其処で見付けた見慣れた姿。そうだね、こういう場所ならいるだろうね。半ば諦念にも似た感情ながらも、同じ店に用があったのは血の繋がり故か。
並んだジュストの姿をローザリカが見止めて、嫌そうな顔をする。其の唇に傷がついているのを見逃すほど、ジュストはローザリカを見ていない訳ではなかった。
先程購入したリップバーム。指で掬って、ロゼ、と名を呼ぶと、其の唇に線を引くようにバームを一塗りして――がぶりと噛まれた。
ぱっと身を引くローザリカ。平然としているジュスト。指を見れば蜜蝋に偶然に守られながらも滲む血が赤く見える。
似て非なる赤を纏った従姉は何かを迷うような仕草をした後、いつものように、
「失敬。そう骨ばったものを出されたものだから」
動揺が相手に伝わっているのは承知の上。滑稽だろうと平常心で振舞う。振舞わねばならぬ。この癖は知られてはならないものだから。
何かに耐える時。踏み込んでくれるなと言外に訴える時。ローザリカは薔薇色の唇を噛み締める。――いつからだろう。きっかけは実の兄であると判るのに、いつからかはもう判らなくなっていた。
「……」
ジュストは血の滲んだ指をわざとらしく一舐めして、ハンカチで拭う。甘ったるい、何もかも覆い隠すような味がした。
「……唇より噛み甲斐はあるだろう?」
強がりめ。まるで吠える子犬のようじゃないか。
サイラスは蜜蝋と聞いて、いてもたってもいられなかった。鍛冶屋を自称してはいるが、ある意味やっている事は何でも屋のような感じで。木製品の艶出しに蜜蝋は欠かせないだろう。蜜蝋の固形品を売っている店に立ち寄って、長方形の固形蝋を買う。
次は蜂蜜。カヌレを作るのに使うのだ。更に化粧品。女性客を相手にしたときに、防具などの引き渡しの際に化粧品をサービスでつけて置くと喜ばれる。この時期はハンドクリームやリップクリームが喜ばれるだろう。女性相手なら、お菓子でも良いかもしれない。
蜂蜜は数種類、種類の違うものを買う。蜂蜜酒を色々作ってみたい。コムハニーも欲しい。――この調子だと、屋台を全部回らなければいけないのでは?
マジカルポケットに蜂蜜の瓶を一つ突っ込みながら、何を買ったのかをサイラスは手帳にメモする。書いておかないと、同じものを二つ買ってしまいそうだから。
「みつろういち……」
蜂蜜もあるのでしょうか、とミアは心なしか甘い香りのする屋台の間を歩く。
蜂蜜は薬にもなるし、料理にも使える。特にお菓子作りにはもってこいだろう。はちみつレモネード、はちみつレモンの飴……
捜せば直ぐにあった。蜂蜜を用いた菓子の店。袋に入っているから、学園の先輩方への土産に良さそうだ。袋物のお土産は「お取りください」って書いておけば大丈夫だから。
それから大切な友人には、リップクリームも良いかもしれない。菓子を買い、屋台の店主に聞いた化粧品の屋台へと歩む。その途中でそういえば、とミアはきょろきょろ周囲を見回した。ある地域ではミツバチはてんとうむしと並んで幸運の証と言われているらしいのだ。なら、ミツバチを象った御守などあるのではないか?
どうせなら消え物じゃなくて、形に残るものも買って帰りたい。
ミアはミツバチのお守りを捜して周辺を彷徨い、いよいよ最後には屋台で売っている場所を聞いて、ようやく辿り着くのだった。
だわは屋台の隅っこに置かれている蜂蜜を見て、ああ、と得心して頷いた。
蜂蜜があるのなら買っておきたい。栄養価の高いものはないだろうか、店主。
蜂蜜は煮詰めれば飴になる。――俺は普段一人旅をしていてな。一人旅というものはなかなかに不便なもので、無限に荷物を持ち運べる訳ではない。食料などは旅程から計算した分だけを持つ事になる。もちろんある程度余裕を持たせて準備したり、足りなければ野草を採取したり狩猟で凌いだりもするが、其れでも道に迷ったり冬場であれば食糧問題が浮上してくる。避けようのない問題だ。
そういう時の為に蜂蜜飴がある。栄養価が高く長持ちするし、余り場所を取らない。有事の際の生命線としては優秀なんだ。
この辺りにも飴は売っているだろうが、娯楽品としての価値が高いだろう。だから蜂蜜を煮て――包んでくる? ああ、頼む。
……。
“普段は寡黙だが、旅と飯と防衛を語る時だけは饒舌”。誰に言われた言葉だったか。そうなんだろうか?
シルヴィアは屋台の間に用意された休憩席に座って、ハニーレモンティを飲んでいた。レモンティに少し濃いめに蜂蜜を垂らしたもので、甘酸っぱい中に甘みがあってとても良い。
人々が楽しそうにしている様子を見るのが好きだ。商人・職人たちに話を聞くのは勉強になるし、とても興味深い。故郷の蜂蜜とこちらの蜂蜜、何か違う所はあるのだろうか。
さて、と空になったカップを置いて――置いておけば片付けてくれる、と紙が立ててあるので――目を付けていた店に歩む。化粧品を置いている店だ。先程から女性客の絶えない其の店に立ち寄り、目についたのはリップクリーム。こういうクリームものは好みが判れるけれど、いつか気が向いたときに使って貰えたら其れで良いだろう。シルヴィアはリップを二つとって、これを、と商人に差し出した。
「ご友人にですか?」
「恋人にね。この季節、唇はよく乾燥するからね。おまけに切れると痛い」
「そうですねえ。治るまでに時間もかかる。このリップクリームは口紅の下地としても使えますから」
「成る程」
会計を終えると、今度は蜂蜜キャンディを専門とする店へ。あちらは薄め、こちらは濃いめ。サンプルを食べ比べて甘みを確かめる。ふむ、ローズマリーのものが美味しい。ベリーを混ぜたものも甘酸っぱくて美味しそうだ。
「あ、シルヴィアさん!」
「? ……やあ」
仲睦まじい兄弟を目に留めると、君たちは本当に仲が良いね、とシルヴィアは微笑むのだった。
「ヴィン、ここにうちや取引先の可能性は?」
ヴィナスはそっとルーンスの本名を囁き、問う。大丈夫、とルーンスは笑ってみせる。
「取引先からの情報提供でヴィンスの異母兄ルースを知る商人職人の出入りはないね。アレらは情報止めてるから催しの存在すら知らないよ」
アレ、というのは両親の事だ。そう呼んでいる時点で彼らと親との関係は推して知るべし、であろう。
俺の弟は可愛いうえに頼もしい。ヴィナスは頭を撫でて異母弟を愛でる。嬉しそうにするこの弟が本当に可愛いと思う。おまけに有能だ。本当に、目に入れても痛くない。
二人が巡るのはコムハニー、蜂蜜のエリア。蜂蜜というのは二種類あって、百花蜜と単花蜜に分類する事が出来る。単花蜜というのは一つの花から取れた蜂蜜の事で、其の花の風味や香りを楽しむ事が出来るのだ。
「珍しい単花のコムハニーがあるのが理想だけど、質の良いものを見付けられると良いな」
「そうだな。単花ならアカシアやクローバーだけど……やっぱり百花が多いね」
ぱっと二人が見回す限り、百花蜜の方が多めに感じる。矢張り単花蜜は難しいのだろうか。取り敢えずアカシアとクローバーのコムハニーで、質の良いものを購入する。ヴィナスはどうやらハーブや果樹の蜜に興味があるようなので、そっとルーンスもそちらへ向かう。ルーンスは栗やトチの蜜にも興味があるけれど、兄弟揃って気になっているのは甘露蜜だ。
「……喉が渇いたな。レモンティがある。飲むかい?」
「うん」
二人でハニーレモンティを買う。トチの蜜を用いているという其の紅茶は甘ったるくなく、けれど程よく甘ずっぱい。レモンの風味に蜂蜜がよく合う。
ルーンスは途中で見止めた店に後から商談を持ちかけにいくのだろう、幾つかメモをしていた。
穏やかで甘い時間も、商人にかかれば気の抜けない偵察に変わる。小規模でも特化しているからこそ、掘り出しものがある可能性もある。
ああ、そうだ。さっきシルヴィアに聞いた蜂蜜キャンディの店にもいかなくては。単花蜜を用いたキャンディがあるそうだから。
「こちらはさらりとしておりますね。クリーム特有のべたつきがありません」
「成る程」
ウォルナとエイミーは共に化粧品エリアを回っていた。主にエイミーがハンドクリームやリップバームの使い心地をレビューして、ウォルナが其れをメモしていく。
ウォルナは魔女だ。だが、造れる薬のバリエーションはまだ多くない。蜜蝋による化粧品というジャンルは其の点では身近で目新しく、研究には適していると言えた。
エイミーは其れを補助する形となる。己も接着剤などの事務用品を購入したが、何分メイドという仕事は手先を使う。同じハンドクリームでも、体質との相性やあかぎれの予防具合は異なって来る。ウォルナにレビューをしながら己でも品定めをする。
「店主さん、他には何かある?」
「そうだねえ、化粧品に興味があるなら化粧水もあるよ」
「じゃあ、それも見せて貰っていいかしら」
「ええ、勿論。少し出してみましょうかね」
「こちらはどちらのメーカーから卸したものなのでしょう?」
「ああ、卸しではないんだよ。うちは養蜂が生業でね、ついでにこうして蜜蝋を使った化粧品を作っているんだ」
多分此処に出している殆どの人がそうさ。うちは蜂蜜も売っているよ、と、屋台の主である老婦人は屋台の隅っこに積んである蜂蜜の瓶を指差す。
それからこちらが化粧水だ、と、小さな器に透明な液体を満たして出してくれる。
エイミーは迷いなく其れを指に付けて、手の甲に塗る。じわり、と冷たい感覚が肌を撫でて、直ぐに染み込んでいく。
「良く染み込みますね」
「じゃあクリームと化粧水を貰おうかしら。自分でも試してみたいし」
「はいよ」
「では私はリップバームと蜂蜜を」
「エイミーさんは他に何か買うものある?」
「そうですね……」
興味があるものは山ほどにある。コムハニーなどの飲食物も気になるし、木工用のツヤ出しも気になる。
エイミーは店主が品を出すまでに其れ等の候補の中から選び抜かねばならなかった。
――しまった、と思った。
ローザリカはぱっとジュストから身を引いて、明らかに動揺する。
ジュストは何の気なく触れたつもりだった。妹に土産を買っていこうと訪れたみつろういち、其処で見付けた見慣れた姿。そうだね、こういう場所ならいるだろうね。半ば諦念にも似た感情ながらも、同じ店に用があったのは血の繋がり故か。
並んだジュストの姿をローザリカが見止めて、嫌そうな顔をする。其の唇に傷がついているのを見逃すほど、ジュストはローザリカを見ていない訳ではなかった。
先程購入したリップバーム。指で掬って、ロゼ、と名を呼ぶと、其の唇に線を引くようにバームを一塗りして――がぶりと噛まれた。
ぱっと身を引くローザリカ。平然としているジュスト。指を見れば蜜蝋に偶然に守られながらも滲む血が赤く見える。
似て非なる赤を纏った従姉は何かを迷うような仕草をした後、いつものように、
「失敬。そう骨ばったものを出されたものだから」
動揺が相手に伝わっているのは承知の上。滑稽だろうと平常心で振舞う。振舞わねばならぬ。この癖は知られてはならないものだから。
何かに耐える時。踏み込んでくれるなと言外に訴える時。ローザリカは薔薇色の唇を噛み締める。――いつからだろう。きっかけは実の兄であると判るのに、いつからかはもう判らなくなっていた。
「……」
ジュストは血の滲んだ指をわざとらしく一舐めして、ハンカチで拭う。甘ったるい、何もかも覆い隠すような味がした。
「……唇より噛み甲斐はあるだろう?」
強がりめ。まるで吠える子犬のようじゃないか。
マスターコメント
お疲れ様でした。
みんな物知りだなあ…!? と、吃驚しながらリプレイを書いていました。
蜜蝋って色々なものになるし、その気になればそのままもりもり食べられるんですね。奇古譚は知らなかったよ。
大成功です! ご参加ありがとうございました!
イベントシナリオ(50人)易しい 報酬:標準10 / 4〜50人
2022年01月13日 18時26分49秒 公開
大成功
相談掲示板
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 蜂蜜キャンディ、美味しそうだね。クリームはプレゼントにも良さそうだ。当日はのんびり楽しむよ。
ウォルナよ、よろしくねー。 薬屋として化粧品の調査を中心にやる予定!
ヴィナスだよ、よろしく。 弟とコムハニーや蜂蜜を見て回るよ。 掘り出し物があればいいな。