【大地再甦】大地浄化のエンターティナー達
望月誠司
コメント 8
シナリオID:1778
オープニング
枯れた大地が元気になりますように。
萎れた草花が元気になりますように。
しんしんと雪が降り積もってゆく大地で、少女は祈りを捧げていた。
●
ぶかぶかの法衣に袖を通した小柄な少女が白雪の上に立っている。
アルサーラムの聖女シェリルである。長い黒髪の彼女の齢は十二。
シェリルは現在、帝国南部にある南村にて浄化の儀式を日々行っていた。
白い息を吐き出しつつ白雪を手袋を嵌めた手で掻き分けてゆくと濃緑の瑞々しい葉を持つ立派な野菜が顔を出した。
南村ではこの時期、雪菜と呼称される雪の下でも育つ越冬野菜を育てている。
シェリルが儀式を行う前は萎れていたから、この辺りには確かにエーテル浄化儀式の効果は出ているようだった。
雪をざくざくと踏み締めて移動し、同様に雪を掻き分ける。
(……こっちはまだ駄目)
別の畑の冬野菜は萎びたように元気がなかった。
●
過日『幽界樹』が起こした一連の事件により帝国の大地は力を吸われて穢され不作が巻き起こった。
そして大地が力を失った事に呼応するかのように――生物が抗体を作るかのように――穢れを払い大地の力を回復させる力を持つ授恵者が新たに生まれた。
十二歳の黒髪少女も先の秋にエーテル浄化者として覚醒した一人だった。
シェリルが浄化の儀式をアルサーラムで行った時は、広大な領域が一晩で甦った。
その為、多大な期待が寄せられていたが、しかし南村では数日かけて畑数枚が甦るといった程度の速度と範囲でしかなかった。
「――やはり、伝承の通り祭が必要、という事なのだと思います」
シェリルの護衛についているアルサーラムの町の女兵士ツェツィーリア・クラインが南村の村長へと言った。
南村では祭は行われずシェリル単独で浄化の儀式を行っている。
今回、大地が再生する速度が遅く狭いのは祭を行っていない為だと。
南村の人々が浮かべている表情には疑念が混じっている。半信半疑といった様相だ。
「祭……祓凶祭ですか」
古の伝承は語る。
大凶作は大地から実りを司る神が遠ざかってしまったが為に起きるものだと。
神を再び呼び戻す為には出し物を催すのが効果的だと。
人々が大いに楽しんでいれば、その気配を察した神が興味を惹かれ戻ってくる。
神が戻って来ると大地の力も甦ると。
どこからどこまでが本当の事なのかはわからない。
しかし伝承の通りに祭を催した上でシェリルが浄化の儀式を行ったアルサーラムの町では大地は一晩で甦った。
「では祓凶祭を行えば畑はすぐに甦りますか?」
「アルサーラムではそれで上手くいきました。ただ、まだ例の少ない事であります故、確実とはいえません」
「そうですか……情けない話ですが南村には余裕がありません。アルサーラムのように大きな祭を開く事はできない」
村長が感情を殺した表情と声音で言った。
南村は辺境の町アルサーラムよりもさらに弱小な小村である。
去年の帝国崩壊や今年の不作の影響が直撃していて、非常に苦しい経済状況にあった。
――多分、それはアルサーラムの町長が沢山シェリルの出張料金を取ったからというのも関係しているのだろうな、とシェリルは思った。
居たたまれない。
高い報酬を貰って来たのに期待通りの働きが出来ていない。
もっともツェツィーリア曰くではそれは手順通りに祓凶祭を開こうとしない南村のせいであってシェリルのせいではない、という事だったが、シェリルとしてはなんとかしたい所だった。
「聖女様のお力でどうにかできませんか? 現在の浄化速度では冬を越せない者が出てしまいます」
村長達から視線を向けられシェリルは口を開いた。
「私だけの力だと今が精一杯です……でも、少し、思うことはあります」
ツェツィが目線で「余計な事は言うな!」との意志を滲ませて来ていたが、シェリルとしては出来る限りの事をしたかった。
「思うこと、とおっしゃいますと?」
「はい、伝承が本当なら……やっぱり祓凶祭は決まった通りの形で絶対に行わなきゃいけないものじゃないと思うんです。だって『効果的』って『絶対に必要』っていう意味じゃないですよね?」
「……言葉の意味としてはそうですな」
初老の村長は十二歳の聖女に頷く。
「この伝承で大切な部分って『人々が大いに楽しんでいれば』っていう所なんじゃないかと思うんです。だから、楽しめるものだったら、そんなに費用がかからない形の催しでもなんとかなる可能性はあるんじゃないでしょうか?」
「何故、そうだと?」
「なんとなくです」
言葉では上手く言えないが、儀式を執り行っていてそんな風にシェリルは感じた。
「それで絶対に上手くいくとは言えないですけど……」
エーテル浄化に関する事はまだまだ多くの事が探り探りの状態である。
南村の人々は渋面で黙り込んだ。
沈黙の後、少し考えさせて欲しいと一旦話し合いはお開きとなり、シェリルはツェツィから「あやふやな根拠で物を言っていらぬ責任を呼び込んではいけない」と叱られた。
上手くいけば良いが、上手くいかなかったら南村の人々からシェリルが怨まれる事になるだろうと。
しかし、このままではきっと南村では餓死者や身売りする者が出る。
シェリルとしては防げる可能性があるのなら、賭けてみたかった。
●
歌を歌う。
幸せの祈り歌だ。
思うようにはいかない事が多い毎日だけれども、歌っていれば大体楽しい。
(今日も一日頑張ろう!)
黒髪少女はぶかぶかの法衣に袖を通し青硝子の耳飾りをつけ、今日も今日とて畑へと浄化の祈りを捧げていると南村の村長達がやってきた。
村長は「お疲れ様です」とシェリルへ一礼した後に言った。
「ささやかなものですが、村人を集め催しを一つ開いてみようと思います」
十二歳の小柄な娘が見上げると初老の村長は苦く笑って、
「このままではどうにもなりませんからな。聖女様の『なんとなく』に命運を賭けてみようかと……我等一同決めたのです。どうかよろしくお願いいたします」
「……はい!」
シェリルは頷いた。
「催しはどんなものを?」
「冒険者を呼ぼうかと」
「冒険者さん達を?」
驚く少女に村長は頷いたのだった――
萎れた草花が元気になりますように。
しんしんと雪が降り積もってゆく大地で、少女は祈りを捧げていた。
●
ぶかぶかの法衣に袖を通した小柄な少女が白雪の上に立っている。
アルサーラムの聖女シェリルである。長い黒髪の彼女の齢は十二。
シェリルは現在、帝国南部にある南村にて浄化の儀式を日々行っていた。
白い息を吐き出しつつ白雪を手袋を嵌めた手で掻き分けてゆくと濃緑の瑞々しい葉を持つ立派な野菜が顔を出した。
南村ではこの時期、雪菜と呼称される雪の下でも育つ越冬野菜を育てている。
シェリルが儀式を行う前は萎れていたから、この辺りには確かにエーテル浄化儀式の効果は出ているようだった。
雪をざくざくと踏み締めて移動し、同様に雪を掻き分ける。
(……こっちはまだ駄目)
別の畑の冬野菜は萎びたように元気がなかった。
●
過日『幽界樹』が起こした一連の事件により帝国の大地は力を吸われて穢され不作が巻き起こった。
そして大地が力を失った事に呼応するかのように――生物が抗体を作るかのように――穢れを払い大地の力を回復させる力を持つ授恵者が新たに生まれた。
十二歳の黒髪少女も先の秋にエーテル浄化者として覚醒した一人だった。
シェリルが浄化の儀式をアルサーラムで行った時は、広大な領域が一晩で甦った。
その為、多大な期待が寄せられていたが、しかし南村では数日かけて畑数枚が甦るといった程度の速度と範囲でしかなかった。
「――やはり、伝承の通り祭が必要、という事なのだと思います」
シェリルの護衛についているアルサーラムの町の女兵士ツェツィーリア・クラインが南村の村長へと言った。
南村では祭は行われずシェリル単独で浄化の儀式を行っている。
今回、大地が再生する速度が遅く狭いのは祭を行っていない為だと。
南村の人々が浮かべている表情には疑念が混じっている。半信半疑といった様相だ。
「祭……祓凶祭ですか」
古の伝承は語る。
大凶作は大地から実りを司る神が遠ざかってしまったが為に起きるものだと。
神を再び呼び戻す為には出し物を催すのが効果的だと。
人々が大いに楽しんでいれば、その気配を察した神が興味を惹かれ戻ってくる。
神が戻って来ると大地の力も甦ると。
どこからどこまでが本当の事なのかはわからない。
しかし伝承の通りに祭を催した上でシェリルが浄化の儀式を行ったアルサーラムの町では大地は一晩で甦った。
「では祓凶祭を行えば畑はすぐに甦りますか?」
「アルサーラムではそれで上手くいきました。ただ、まだ例の少ない事であります故、確実とはいえません」
「そうですか……情けない話ですが南村には余裕がありません。アルサーラムのように大きな祭を開く事はできない」
村長が感情を殺した表情と声音で言った。
南村は辺境の町アルサーラムよりもさらに弱小な小村である。
去年の帝国崩壊や今年の不作の影響が直撃していて、非常に苦しい経済状況にあった。
――多分、それはアルサーラムの町長が沢山シェリルの出張料金を取ったからというのも関係しているのだろうな、とシェリルは思った。
居たたまれない。
高い報酬を貰って来たのに期待通りの働きが出来ていない。
もっともツェツィーリア曰くではそれは手順通りに祓凶祭を開こうとしない南村のせいであってシェリルのせいではない、という事だったが、シェリルとしてはなんとかしたい所だった。
「聖女様のお力でどうにかできませんか? 現在の浄化速度では冬を越せない者が出てしまいます」
村長達から視線を向けられシェリルは口を開いた。
「私だけの力だと今が精一杯です……でも、少し、思うことはあります」
ツェツィが目線で「余計な事は言うな!」との意志を滲ませて来ていたが、シェリルとしては出来る限りの事をしたかった。
「思うこと、とおっしゃいますと?」
「はい、伝承が本当なら……やっぱり祓凶祭は決まった通りの形で絶対に行わなきゃいけないものじゃないと思うんです。だって『効果的』って『絶対に必要』っていう意味じゃないですよね?」
「……言葉の意味としてはそうですな」
初老の村長は十二歳の聖女に頷く。
「この伝承で大切な部分って『人々が大いに楽しんでいれば』っていう所なんじゃないかと思うんです。だから、楽しめるものだったら、そんなに費用がかからない形の催しでもなんとかなる可能性はあるんじゃないでしょうか?」
「何故、そうだと?」
「なんとなくです」
言葉では上手く言えないが、儀式を執り行っていてそんな風にシェリルは感じた。
「それで絶対に上手くいくとは言えないですけど……」
エーテル浄化に関する事はまだまだ多くの事が探り探りの状態である。
南村の人々は渋面で黙り込んだ。
沈黙の後、少し考えさせて欲しいと一旦話し合いはお開きとなり、シェリルはツェツィから「あやふやな根拠で物を言っていらぬ責任を呼び込んではいけない」と叱られた。
上手くいけば良いが、上手くいかなかったら南村の人々からシェリルが怨まれる事になるだろうと。
しかし、このままではきっと南村では餓死者や身売りする者が出る。
シェリルとしては防げる可能性があるのなら、賭けてみたかった。
●
歌を歌う。
幸せの祈り歌だ。
思うようにはいかない事が多い毎日だけれども、歌っていれば大体楽しい。
(今日も一日頑張ろう!)
黒髪少女はぶかぶかの法衣に袖を通し青硝子の耳飾りをつけ、今日も今日とて畑へと浄化の祈りを捧げていると南村の村長達がやってきた。
村長は「お疲れ様です」とシェリルへ一礼した後に言った。
「ささやかなものですが、村人を集め催しを一つ開いてみようと思います」
十二歳の小柄な娘が見上げると初老の村長は苦く笑って、
「このままではどうにもなりませんからな。聖女様の『なんとなく』に命運を賭けてみようかと……我等一同決めたのです。どうかよろしくお願いいたします」
「……はい!」
シェリルは頷いた。
「催しはどんなものを?」
「冒険者を呼ぼうかと」
「冒険者さん達を?」
驚く少女に村長は頷いたのだった――
解説
■状況
このシナリオにご参加のPCさん達は南村にエンターティナーとして雇われた冒険者達、という設定になります。
村の集会場に設けられた舞台の上で芸事を披露し観客である村人達を楽しませましょう。
PCさん達は村には催しの日の数日前に着いていて、数日練習した後に本番という形になります。
■南村の村人達の特徴
自身が楽しむ事がエーテル浄化の儀式の効力に関わる事は知らされていません(プレッシャーになって楽しめないかもしれない為)
知っているのは村長と一部の村人だけです。
娯楽に乏しい辺境の小村の民なので大多数は大抵の芸は喜んでくれます。
質素ながら南村的にはごちそうとなる食べ物を食べながらお酒を片手に舞台を見る形になります。
■集会場
数百人(南村の全人口)が入れる程度の屋根付きの大きな建物(具体的には学校の体育館くらいの広さ)
足元は土を均した土間のような形。
当日は毛織物の敷物が敷かれ、篝火が複数焚かれ光源と暖房を兼ねる。
北側に舞台がある。
舞台は他よりも高くなっている。
ちょっとした劇場の舞台と同等の広さ。
左右の端の部分は舞台袖となるように幕が降ろされて隠されている。
■出し物の例
・歌
・楽器演奏
・踊り
・漫才
・曲芸
・演劇
などなど(例にないものでも南村で実行可能そうなものならば出来ます)
一人でやるのも、複数人で打ち合わせてやるのもどちらでもOKです。
■ネームドNPC
集会場内にいて基本的に観客として催しを見ていますが、プレイングに記述すればPCの芸事の際の助手や相方、メンバーとして器用する事も可能です
●シェリル
ある日エーテル浄化能力に覚醒し聖女とされたアルサーラムの孤児、十二歳
艶やかな黒髪ロングに黒瞳、小柄
神官服の上からぶかぶかの法衣に袖通し青硝子の耳飾りをつけている
●ツェツィーリア・クライン
アルサーラムの町の兵士
金髪ショートカットの小柄な二十代前半の若い娘
小柄だがさすがにシェリルよりは背が高い
聖女シェリルのお付き&護衛をやっている。元は町の弓騎兵隊長
愛称はツェツィ
マスターより
辺境の小村のイベント会場へようこそ、望月誠司です。
このシナリオは連作【大地再甦】の第二話になります。
シェリルはアルサーラムでとても強力な浄化能力を発揮しましたが、それは祭の盛況があってこそのものでした。
シェリルの浄化能力は周囲の人々の活気に大きく左右されます。集まる活気がイマイチだと浄化の出力もイマイチになります。
その為、今回のシナリオは活気を集める為にご参加のPCさん達はエンターティナーとして村人達を楽しませる事が目的となります。
ご興味惹かれましたらご参加いただけましたら幸いです。
リプレイ
銀世界だ。
純白の雪があたり一面に積もっている。
蒼い空に白く輝く太陽が顔を出して、雪の表面が鏡の反射のように煌めいている。
「シェリル様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
瓶底の眼鏡の奥より新緑のような緑瞳が覗いていた。
柔らかな金髪を腰まで流し、華奢な身をぶかぶかのローブに包むエルフ少女だ。
ララノアは雪の南村内を行き村長宅を訪ねると暖炉の間で再会した黒髪童女にぎゅーっと抱きついた。
十二歳の少女はララノアをしばし抱き返した後、身を離すと、黒瞳でララノアを見上げ、
「はい、おかげ様で!」
と輝くような笑顔を見せた。
「お手伝いがしたくて、やって参りました。私も一緒に頑張りましね!」
十七歳のエルフ少女が気合を入れると「有難うございます。心強いです!」と黒髪少女はとても嬉しそうだった。
再会する二人の様を見て、赤髪をツインテールにしている黒服のエルフ少女が笑った。
「やーシェリル、元気そうで何より~」
かつてシルトラース帝国で代々修道女として生きてきたエルフ一族の末裔、フレイヤ・サンライズである。
「あ、フレちゃん先輩もお久しぶりです! 来てくれたんですね!」
「いやぁーそりゃねシェリルのお願いだしぃ? 協力っつーか? もうとーぜん的な?w 遠慮いらないっしょ―w」
「有難うございます! 頼りにさせていただきますね」
「オッケーw どーんと任せてーw」
一同は再会の挨拶や初対面同士の自己紹介をかわすと、催しを盛り上げる為の出し物の内容を相談してゆくのだった。
●
「ふむ、豊穣の神に祈りをささげるのか、収穫祭みたいなものだな」
身長113cm、シェリルと比べてもずっと小柄な、幼く見える狐耳の女が、主旨を説明されて呟いた。
そのくすんだ銀の長髪は少しづつ光沢を取り戻しつつある。
「まぁオスマット族だと祭りというより酒飲んで騒ぐ宴会の延長だったが」
座った三白眼の紅瞳を宙へと向けベルク・オスマットは昔日を思い返す。遠い記憶だ。左目には額から頬に達する長い斬り傷の傷跡がある。
「今回のこの村での催しもそんな感じですよ」
「ふむ、そうか……」
先日、護身術を教えた少女からの言葉を受けて、ベルクは「それでは曲芸でも見せてみるかな」と呟き、軽く準備運動を始めた。
付近では銀髪のエルフ娘マリイ・パルティスが白狼へとボールを放り投げ、コルデラは鼻先で飛来したボールを突き返している。
マリイは狼とショーという名の漫才をやる予定らしい。
「コルデラちゃんは相変わらずモフモフしててかわいくて賢いですね」
シェリルが相好を崩している。
「有難うございます。でもこの子は大丈夫ですけど、狼は本来危険な生き物ですから、他の狼には気をつけてくださいね」
マリイは返って来たボールをキャッチして白狼の頭を撫でつつシェリルへと注意を伝えると十二歳の黒髪少女は「そうなんですか? わかりました」と素直に頷いた。
サイラスは鍛冶屋らしく村の衆の農具の手入れを請け負って、今はそちらに出ていたが、催しでは裏方や手品をやるつもりのようだった。
「私はどうしましょうかね……」
悩んでいるのは豊満な肢体を持つブロンドの聖職者シルク・メイプルリーフである。
「祭の締めといったらやはりアレでしょうか……」
十六歳の少女はしばし悩んだ後、身を捻って柔軟体操を開始しつつ呟いた。
歌声が響き始めた。
ララノアの歌唱だ。
とても綺麗な、胸の暖かくなる歌だとネーヴェ・グラヌローザは思う。
(この歌と、今回の舞台なら……)
白髪のエルフ娘は銀色の瞳を閉じて歌に耳を傾ける。
すると振り付けが水の底から浮かび上がるように脳裏に浮かんできた。
「きっと、この踊りが合うはずですわ」
豊満な身を持つ女はしなやかに長い手足をすっと宙へと伸ばして、軽やかにステップする。白く長い髪を靡かせて、雪解けの水が流れるように流麗に舞ってゆく。
「すごい!」
舞うネーヴェの様を見てシェリルが目を瞠った。
「すごいですよね、ネーヴェさんの踊り、とても神秘的です……まるで神様への舞……」
陶然とするように同意してララノア。
ネーヴェはララノアが踊りで憧れている友人の一人だった。
その舞いは歌と共に心に馴染む、そんな気がララノアにはするのだ。
「有難うございます」
ネーヴェはピタリと舞いを止めると、二人へとにこっと微笑んだ。
「確かこれは……神へ捧げる踊りのひとつ、だった筈です」
それからエルフ娘は少し遠くを見るように銀色の瞳を宙へと向けた。
「ララノアさんの歌を聞いていたら……ふと、思い出しましたの」
ネーヴェには過去の記憶が無かった。
●
銀色の刃を砥石にかけ磨くように前後に動かしてゆく。独特の小気味良い音が響いていた。
「いやぁ助かりますよ」
「ま、悩みは少しでも減っていた方が楽しみやすいからね」
赤鱗のリザードマン、サイラスは鎌の研ぐ手を止めて刃に指を軽くかけ、状態を検分しつつ村人へと答える。
「そういえば皆さん儀式の一環で催しをやるんでしたか?」
「ああ、三日後にね。楽しみにしといてよ」
サイラスは飄々とした調子で出来たよ、と鎌を手渡しつつ村人へと笑いかけたのだった。
●
床は土を均しただけの土間の状態だが、屋根と壁はしっかりとついている大きな建物が村の一角にある。
いざという時の最後の砦となる事も兼ねている村の集会場だ。
その晩、集会場内には毛織物の敷物が数多く敷かれ、光源と暖房を兼ねて篝火もまた多数焚かれ、数百名の村人が集まっていた。
ベルクや村の係員達によって配られた飲み物と食べ物を手に村人達は敷物の上に座り言葉をかわしている。
また中央にはサイラスが運び込んだチョコレートファウンテンが置かれ、物珍しさや甘味の希少性から多くの村人が集まっていた。
切断されたパンの切れ端を溶け流れている褐色の液体の中に入れて絡め、口元へと運ぶと子供達は目を輝かせて「あまーい!」と歓声をあげている。
ざわざわとした人の声が響く事しばし、場内に弦楽器の音色が響いた。
サイラスが竜花琴を用いて楽曲を奏で始めたのである。アップテンポな調子の陽気な曲だ。
そして場内北側にある舞台、その端、舞台袖より赤髪の少女が現れ中央へとキビキビと歩み出て、観客達へと向き直った。フレイヤである。数百人からの視線が集まってゆく。
赤髪ツインテールのエルフ少女はへらっと笑うと、
「ご来場いただきありがとうございまーす! 私は司会進行を務めるフレイヤ・サンライズでーす! 本日はよろしくお願いしまーす!」
元気いっぱいな明るい声を張り上げた。
「さて、始まりましたアウストラリス村祓凶祭! これはーエーテル浄化儀式の一環でーす! みんなで盛り上がった方が大地の神様もきっと力を貸してくれるらしいのでー! 今晩はどうか楽しんでってねー!」
黒服に身を包む修道少女が笑顔と共に呼びかければパチパチと拍手が返って来た。
「ありがとー! ノリが良いのは素敵っしょー! アウストラリス村の人々に祝福を~! カミサマ達もご照覧あれっ! ってぇ訳でーそれじゃ早速、トップバッターいってみましょー!」
幕が降り、サイラスが奏でていた曲が鳴り止む。
しばしの静寂の後、
「ベルク・オスマットで、オスマット族剣舞!」
フレイヤの声が場内に響き渡ると共に舞台の幕が上がった。
●
闇の中に紅蓮の光を放つ無数の篝火が燃えている。
ベルクは炎に照らされていた。
数百人の村人達が舞台上に立つ己をじっと見つめているのが解る。
弦楽器の音色が響き始める。
サイラス演奏によるバックグラウンドミュージックだ。最初は比較的穏やかだが、徐々に激しさを増してゆく。
紺のエプロンドレスに身を包む童女に見える娘は、スカート下の腿ベルトから二本の短剣を抜き放った。
刃は篝火から放たれる光を浴びて橙色の輝きを放っている。
左右の剣を踊るように振るう。
二連の鋭い光が、弧を描いて宙を薙ぎ、ベルクは流麗に動き出した。
跳ね回るように舞台上をステップしてゆく。
曲がさらに激しさを増してゆく。小柄なメイド服娘は剣を振り回しながら跳躍し、独楽のようにクルクルと回転すると空中にて、左右の腕を並べられた的に向かい横に広げ、交差するようにして振るった。
二本の短剣が同時にベルクの小さな手から飛び出し、空間を一閃に貫くように閃いた。二連の刃が鋭い音を響かせながら的の真ん中に命中し突き立つ。
おおっと観客達からどよめきがあがる。
(こういった場でやるのは久しぶりだが、体が覚えていてよかった)
ベルクは舞台上に着地しつつ胸中で呟いた。
剣舞を兼ねた的当てはオスマットだと定番の宴会芸だった。昔覚え込んだ技は忘れてはいなかったようである。人生何が何処で役に立つのか分からないものだ。
ベルクは突き立った短剣を二つの的からそれぞれ引き抜くと、観客席に向かって一礼し、再び舞うように剣を振るいながらステップした。
別の的へと向かいエプロンドレスの裾を靡かせ回転しながら短剣を連続して投擲する。
刃が次々に的へと突き立ってゆく。
やがてすべての的を射抜くとベルクは舞台上で観客へと向かい礼をし、歓声と拍手と共に幕が降りていったのだった。
●
フレイヤの軽快な語りと共にサイラスの名が呼ばれ、再び幕が上がってゆく。
頭に白い体毛を持つリザードマンは布と金属のボールを手に観客席に向かい一礼する。
するとその頭部がストンと腹の位置までもげたように落ちた。
どよめきと悲鳴が起こる中、ひょいとまたサイラスの頭部が元の位置へと何事もなかったかのように戻る。
そう、サイラスが行うのは手品だった。
頭部落としで観客の度肝を抜き掴みを良くしたサイラスは、金属のボールを手放しつつ布の両端を手に持って広げた。
するとボールが薄布の上縁に沿って転がってゆく。
サイラスの手は布の端にあるから下から支えられる訳が無い。
薄い布の縁で金属のボールを支えられる訳も無い。
だから、普通だったらボールは落下する筈である。
しかし、炎光を照り返す金属球は、まるで宙に浮いているかのように左右へと移動してゆく。
観客が不思議に思い始める中、ボールは独りでに布の陰へと沈み、次の瞬間、また上へと飛び出すという動きを繰り返した。
布をボールに被せればボールは布をかぶったまま生きてでもいるかのように独りでに宙を動いてゆく。
すると意志持つボールはサイラスの意志に反して勝手に動き出したのか、布をかぶったままあちらこちらへと好き勝手に縦横無尽に動き回り、サイラスはアタフタとしながら、彼もまた球の動きに合わせてあちらこちらへと振り回される形となる。
滑稽に見えるその様に村人達から笑いがあがった。
サイラスは頃合いを見て布とボールを再び両手で掴み一礼する。
観客席から拍手が巻き起こった。
その後、サイラスはエーテルを操って光刃を出現させてのナイフ投げや、六体に分身しての剣舞等を見せてゆき、最後に背中から炎の翼を広げると口からドラゴンの吐息の如く、収束させたエーテルをド派手に吐き出し観客の度肝を抜いたのだった。
●
盛大な拍手と共に幕が降り、演者達や裏方達がその裏側で忙しく後片付けや次の配置につき始める。
腰まで流れる柔らかなブロンドのエルフ少女はワンピースに華奢な身を包んでいた。全円フレアスカートの白いワンピースだ。裾が朝顔の花のように広がる。
透かし布のショールを白い肩に羽織り、緑色の花飾りをつけヴェールをかぶり顔を隠している。
「き……緊張しましゅ」
「大丈夫ですわ」
白く長い髪のエルフ娘が銀色の瞳を細めて微笑した。
彼女もララノアと揃いの白いワンピースに豊満な肢体を包んでいる。
肩より纏う透かし布のショールも同様だったが、色は違って薄青色である。
青色の花飾りをつけていた。
「私達ならきっと上手くいきますわ」
「……はい」
心強いネーヴェの言葉にララノアは頷く。
二人はずっ友である。
やがてフレイヤの紹介と共に幕が上がる。
数百人の村人達からの視線が舞台上の二人へと集まって来る。
闇の中、炎の光に照らされながら二人のエルフ娘は息を吸い唇から歌声を紡ぎ始めた。
ララノアがソプラノで、ネーヴェがアルトだ。
音階の違う二つの澄んだ声が、共鳴し溶け合いながら場内へと響き渡ってゆく。
観客達が息を呑んだ。
ララノアは思う。
歌も、踊りも、授恵者とは違う力があるようだと。
(世界中を舞踊り、歌で満たせば……セカイに幸せを……灯せるでしょうか?)
金髪のエルフ娘のソプラノの歌声が響いてゆく。
幸せの祈り歌。
白髪のエルフ娘が宙へと白い指先を伸ばした。
心を込めて踊る。
小さく跳ねるようにステップし、円を描いて動き出す。身を弓のように反らし軽やかに回転する。
腕を振りながら身を捻って戻し、アルトの声を響かせる。心を籠めて歌う。
――どうかここにいる皆様が笑顔になりますよう。
祈りを込めて。
(さすがネーヴェ様……完璧です)
歌い、舞う雪色の髪のエルフ娘の姿を眺めララノアは胸中で称賛を呟いた。友達と歌える事が嬉しい。
そっとヴェールを外した。
金髪緑瞳のエルフ少女は素顔を晒すと自らも歌いながらステップを踏んで踊り出す。
ありのままで母の歌を歌えば、いつか歌を知る人に出会えるかと願いを籠めて。
舞台上、左より右へと向かってララノアが舞い、ネーヴェが右から左へと舞い交差する。
手を伸ばし脚を振るい身を捻ってくるくると回転し、白いワンピースの裾が花のように広がってゆく。
ソプラノとアルトが溶け合ってハーモニーを生み出し聴く者の胸に太陽に似た暖かさを呼び起こした。
二人は途中、舞台を降りた。
村人達がざわめく中、シェリルへと駆け寄り舞台上へと誘う。
「大丈夫……心の思うまま歌って踊って、楽しめば……私もネーヴェ様から教わったのです」
「ララノアさんの仰る通りですわ。何より楽しむこと、それが皆様の笑顔を引き出しますの。大丈夫、私達がフォロー致しますから」
黒髪少女は二人に手を引かれて歩き出す。
舞台上では三人の娘が歌い踊り始める。
「さ、会場の皆様もどうぞ、ご一緒に手拍子を!」
雪色髪のエルフ娘は舞台上をステップしながら誘うように客席の村人達へと向かい両手を広げ拍子を打つ。
「私達と共に歌い、踊って下さいませ。上手い下手は関係ありませんわ。このひと時をどうか、楽しんで下さいな」
ララノアもまた大きく手拍子しつつ呼びかける。
「皆様とも歌えたら……嬉しいです……共に歌いましょう!」
かくて聖女のみならず観客達をも巻きこんで場内は盛り上がってゆく。
(エーテルは……惹かれ合う?)
エーテル浄化の儀式、その特性。
(シェリル様に触れて祈れば、その存在を……感じられるのでしょうか……)
大地を流れている大きな存在。
(どうか皆の想いを……聞き届けて……)
ララノアは歌っているシェリルに触れながら胸の奥で祈りを捧げた。
●
歓声と共に幕が降りてしばし、
「――浄化ってゆーてもあれやん、お味噌汁にお水入れても微妙にしょっぱいだけのお汁になってきれいな水になりきれんだけやん」
赤髪ツインテールの黒服修道女がシャルガネ風ミソスープとエーテル浄化との関係について語っている。
次の出し物の準備時間を稼ぐ為にフレイヤが場繋ぎのトークをしているのである。
「でもちゃんと濾過すればお味噌汁だってきれいな水になるんやで。だからただ水入れるだけとちゃうで……っていやなんの話やねん! 絶対こんな話関係ないわ!!」
わはははと客席から笑い声が上がっている。
「でもさでもさ、シェリル、実際のトコどーなの?」
「えっ、実際のトコですか?!」
話を振られたシェリルは吃驚したように声をあげた。
十二歳の黒髪少女はえーとえーとと考えるように視線を彷徨させて、
「たぶん、カミサマが普通じゃないすっごいお水を地面に入れてるんだと思います!」
「君もよくしらんのかーい!」
ビシッとツッコミが入る。
「えっ、それ濾過されてんの?! それ完全には元に戻ってなくない?!」
そんな調子な会話が続けられてゆき、やがて次の出し物の準備が整うのだった。
●
幕が降りて再び上がる、続いての演者はマリイだった。
「初めまして! 私はマリイです。この可愛い子は助手のコルデラです! よろしくお願いします!」
銀髪金瞳のエルフ娘が舞台上中央に、首に大きなリボンをつけた狼と共に進み出た。一人と一匹が同時にぺこりと一礼する。
マリイは球を複数取り出すと左手で宙へと放り投げた。
一つの球が宙にあるうちにさらに左手で二つ目の球を放り投げ、最初の球を右手で受け取って左手へと投げて左手より再び放り投げ、二つ目の球を右手が掴む前にさらに三つ目となる球を追加し宙へと放り投げる。
ジャグリングである。
次々に投げる球を増やして、楕円を描きながら多数のボールが飛び続ける。
「あっ!」
しかし手元が狂ったか、マリイの唇から悲鳴が洩れると共にボールの一つがあらぬ方向へとすっとんでゆく。
ミスをした、と観客は思ったが、そこへ白狼が俊敏に風の如く回り込んだ。ボールが舞台上に落ちる前にジャンプするようにして器用に鼻先で突く。
突かれたボールは緩い放物線を描きながらマリイの位置へと正確に飛んでゆく。
エルフ娘は定位置から動かず自然な動きで手を伸ばしボールを掴み取るとジャグリングのサイクルの中に戻し、何事もなかったかのようにボールを投げ続けてゆく。
マリイはさらに次々に連続でボールを明後日の方向へと飛ばす。しかしその度にコルデラが回り込んで鼻先で見事に突き返し、ジャグリングのサイクルに戻してゆく。
観客から拍手が巻き起こった。
するとマリイが投げるボールが一つ一つ小さい物へと順に切り替わってゆく。すり替えているのである。
観客が目を瞠る中、小さくなったボールはマリイの背中を通過すると、そのまま掻き消えた。
マリイは自らの身体を両手で探り、きょろきょろと首を振ってボールがどこにいったのか探す仕草をする。
そして、見つからなくて困った! という表情を浮かべた。
しかし次の瞬間、コルデラが駆けてきて口に咥えたボールをマリイの元へと運んで来る。
マリイはボールを受け取って観客に見せ一礼する。
拍手が湧いた。
続いてマリイはトランプを使った手品を開始する。
「ご協力お願いできますか?」
にこっとした笑顔と共に前列の客席にいる村人を舞台上へと誘う。
村人は戸惑い照れながらも舞台へとあがった。他の村人から野次が飛ぶ。
村人はマリイが広げているカードから一枚を選んで引いた。
そのカードはハートのクイーンだった。
マリイは村人にマリイ自身には見えないようにカードを観客達へと見せて貰った。そしてカードの束に引いたカードを戻して貰いシャッフルする。
「あなたの選んだカードは……これですね!?」
マリイが自信満々の顔で引き出したカードは、クラブのエースだった。
「……違います」
「えっ?!」
エルフ娘が驚愕に顔を歪める中、コルデラがとてとてと歩いて来る。
そして白狼はちょいちょいと前足でマリイの足を叩いた。
「コルデラがしてくれるの? 嬉しいけど……さすがに無理じゃ――」
マリイがカードを広げると白狼はうちの一枚を前足で指した。
「――えぇと、これですか?」
マリイが村人へと見せたのはハートのクイーンだった。
「えっ……合ってます!」
「えー、合ってるーっ?!」
拍手が巻き起こった。
そんな調子でマリイが失敗してはコルデラがフォローをするという調子で幾つかの手品を一人と一匹は披露してゆく。
「もしかしてコルデラって………呪いとかで狼にされてるだけの、イケメン?」
マリイが問いかければ、くぅんと、とても困惑したような鳴き声をリボンをつけた白狼はあげた。
最後にマリイは大きな箱を用意して中に入った。
しかし、その途端に動けなくなる。
「タスケテー!」
悲鳴を聞きつけてコルデラがマリイの襟首を咥えて引きずり出す。
そしてマリイに代わってコルデラが箱の中へと飛び込んでゆく。
「コルデラ?」
マリイがひょいと箱の中を覗きこみ、次の瞬間、舞台脇に置かれていた箱が開き、コルデラが飛び出して来て、舞台上へと駆け登り戻って来る。
盛大な拍手が響き渡る中、マリイはコルデラを撫でると共に一礼をする。
「以上、コルデラと助手のマリイでした! ありがとうございまーす!」
最後に笑いと一層の拍手が巻き起こって幕が閉じていったのだった。
●
「皆さーん、お祭りの締めといえばなんでしょう?」
壇上、ブロンドの聖職者シルクが村人達へと問いかけていた。
「そう――祭りの締めといえば踊りです! というわけで皆さん私と踊りませんか?」
十六歳の少女は人懐っこい笑顔と共に呼びかける。
「踊り方がわからない? 大丈夫です、すべてを私に委ねてください」
神にささげるのに本来は作法も何もいらないのです、とスブニグ何某という豊穣神を名乗る存在を信奉する聖職者は説く。
軽快な音楽が響き始めた。ベルクが楽器を奏でているのだ。色とりどりの光が場に瞬いてゆく、こちらは場を盛り上げる為にサイラスが出現させている幻影である。
「――楽しいという感情そのままに体を動かしてください」
シルクは173cmという女性としては長身な、すらりとした、しかし起伏豊かな肢体を舞台上で躍らせる。
場が盛り上がって来ると、可愛いものにも目がなく抱き締め癖があるブロンド聖職者は舞台上から降りて、村人達の間へと降りハグして回ってゆく。
「はわわわっ」
十歳程度の黒髪少年がダイナマイツな柔らかいボディに抱き締められて顔を真っ赤にしている。その隣で同年代の少女が少年を吹雪のような眼差しで睨んでいる。
「――おいやでなければ受け入れてください。本来恵は数多の人々と分け合ってこそなのです」
我々の肉体はすべて神からの恵みであるので恥じる事も忌む事も無い、という教えを受けている女聖職者は、敬虔な笑顔で信仰を広めてゆくのだった。
●
他方、
「三人ご一緒は……とても楽しく……また一緒に歌って踊りたいです」
人々が踊っている中、ララノアはネーヴェとシェリルと話していた。
「はい! また一緒に歌って踊りましょう!」
ララノアの言葉にシェリルが笑顔で頷く。
そのうちに三人でグループなど作ってみないかという話となり、
「グループ名は【エルオンタリエ】など……」
「える、おんた、りえ……どういう意味です?」
黒髪少女が聞きなれない響きに小首を傾げる。
眼鏡少女は赤くなりつつも、
「ぇっと、母なる神へ……という意味で……」
ぼそぼそと言う。
「その、シェリル様とも、友達……仲間になれたら嬉しいです……」
すると十二歳の少女はきょとんとした表情をした。
「えっと……?」
「……わたし、もうララノアさんとはお友達のつもりでいましたっ! お友達ですよねっ?! お友達じゃないとか言われたら泣きます!」
「え、な、泣くっ?」
そんな様子にネーヴェはくすくすと微笑すると、
「エルオンタリエ、素敵な名前ですわね。私もシェリル様と仲良くなりたいですわ。どうぞお友達に……仲間になっては頂けませんか?」
「わたしでよろしければ喜んで! よろしくお願いしますネーヴェさん、ララノアさん!」
という訳で三人はグループを結成したのだった。
なおネーヴェは「宜しければ、ツェツィーリア様も」と誘ったのだがこちらは「自分は護衛でありますので、お気持ちだけで」との事だった。曰く、一緒にドレス着て踊っていたらそこに暴漢が突入してきた時など、非武装状態では満足な守りに入れないのでそれでは不味かろうから、との事だった。この女兵士は真面目な性格してるらしい。
かくてアウストラリス村の催しは終了した。
冒険者達の出し物は村人達から好評を博し、シェリルは人々の熱気の中で儀式を執り行った。
その翌朝には村の大半の畑の作物が活力を取り戻したという。
純白の雪があたり一面に積もっている。
蒼い空に白く輝く太陽が顔を出して、雪の表面が鏡の反射のように煌めいている。
「シェリル様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
瓶底の眼鏡の奥より新緑のような緑瞳が覗いていた。
柔らかな金髪を腰まで流し、華奢な身をぶかぶかのローブに包むエルフ少女だ。
ララノアは雪の南村内を行き村長宅を訪ねると暖炉の間で再会した黒髪童女にぎゅーっと抱きついた。
十二歳の少女はララノアをしばし抱き返した後、身を離すと、黒瞳でララノアを見上げ、
「はい、おかげ様で!」
と輝くような笑顔を見せた。
「お手伝いがしたくて、やって参りました。私も一緒に頑張りましね!」
十七歳のエルフ少女が気合を入れると「有難うございます。心強いです!」と黒髪少女はとても嬉しそうだった。
再会する二人の様を見て、赤髪をツインテールにしている黒服のエルフ少女が笑った。
「やーシェリル、元気そうで何より~」
かつてシルトラース帝国で代々修道女として生きてきたエルフ一族の末裔、フレイヤ・サンライズである。
「あ、フレちゃん先輩もお久しぶりです! 来てくれたんですね!」
「いやぁーそりゃねシェリルのお願いだしぃ? 協力っつーか? もうとーぜん的な?w 遠慮いらないっしょ―w」
「有難うございます! 頼りにさせていただきますね」
「オッケーw どーんと任せてーw」
一同は再会の挨拶や初対面同士の自己紹介をかわすと、催しを盛り上げる為の出し物の内容を相談してゆくのだった。
●
「ふむ、豊穣の神に祈りをささげるのか、収穫祭みたいなものだな」
身長113cm、シェリルと比べてもずっと小柄な、幼く見える狐耳の女が、主旨を説明されて呟いた。
そのくすんだ銀の長髪は少しづつ光沢を取り戻しつつある。
「まぁオスマット族だと祭りというより酒飲んで騒ぐ宴会の延長だったが」
座った三白眼の紅瞳を宙へと向けベルク・オスマットは昔日を思い返す。遠い記憶だ。左目には額から頬に達する長い斬り傷の傷跡がある。
「今回のこの村での催しもそんな感じですよ」
「ふむ、そうか……」
先日、護身術を教えた少女からの言葉を受けて、ベルクは「それでは曲芸でも見せてみるかな」と呟き、軽く準備運動を始めた。
付近では銀髪のエルフ娘マリイ・パルティスが白狼へとボールを放り投げ、コルデラは鼻先で飛来したボールを突き返している。
マリイは狼とショーという名の漫才をやる予定らしい。
「コルデラちゃんは相変わらずモフモフしててかわいくて賢いですね」
シェリルが相好を崩している。
「有難うございます。でもこの子は大丈夫ですけど、狼は本来危険な生き物ですから、他の狼には気をつけてくださいね」
マリイは返って来たボールをキャッチして白狼の頭を撫でつつシェリルへと注意を伝えると十二歳の黒髪少女は「そうなんですか? わかりました」と素直に頷いた。
サイラスは鍛冶屋らしく村の衆の農具の手入れを請け負って、今はそちらに出ていたが、催しでは裏方や手品をやるつもりのようだった。
「私はどうしましょうかね……」
悩んでいるのは豊満な肢体を持つブロンドの聖職者シルク・メイプルリーフである。
「祭の締めといったらやはりアレでしょうか……」
十六歳の少女はしばし悩んだ後、身を捻って柔軟体操を開始しつつ呟いた。
歌声が響き始めた。
ララノアの歌唱だ。
とても綺麗な、胸の暖かくなる歌だとネーヴェ・グラヌローザは思う。
(この歌と、今回の舞台なら……)
白髪のエルフ娘は銀色の瞳を閉じて歌に耳を傾ける。
すると振り付けが水の底から浮かび上がるように脳裏に浮かんできた。
「きっと、この踊りが合うはずですわ」
豊満な身を持つ女はしなやかに長い手足をすっと宙へと伸ばして、軽やかにステップする。白く長い髪を靡かせて、雪解けの水が流れるように流麗に舞ってゆく。
「すごい!」
舞うネーヴェの様を見てシェリルが目を瞠った。
「すごいですよね、ネーヴェさんの踊り、とても神秘的です……まるで神様への舞……」
陶然とするように同意してララノア。
ネーヴェはララノアが踊りで憧れている友人の一人だった。
その舞いは歌と共に心に馴染む、そんな気がララノアにはするのだ。
「有難うございます」
ネーヴェはピタリと舞いを止めると、二人へとにこっと微笑んだ。
「確かこれは……神へ捧げる踊りのひとつ、だった筈です」
それからエルフ娘は少し遠くを見るように銀色の瞳を宙へと向けた。
「ララノアさんの歌を聞いていたら……ふと、思い出しましたの」
ネーヴェには過去の記憶が無かった。
●
銀色の刃を砥石にかけ磨くように前後に動かしてゆく。独特の小気味良い音が響いていた。
「いやぁ助かりますよ」
「ま、悩みは少しでも減っていた方が楽しみやすいからね」
赤鱗のリザードマン、サイラスは鎌の研ぐ手を止めて刃に指を軽くかけ、状態を検分しつつ村人へと答える。
「そういえば皆さん儀式の一環で催しをやるんでしたか?」
「ああ、三日後にね。楽しみにしといてよ」
サイラスは飄々とした調子で出来たよ、と鎌を手渡しつつ村人へと笑いかけたのだった。
●
床は土を均しただけの土間の状態だが、屋根と壁はしっかりとついている大きな建物が村の一角にある。
いざという時の最後の砦となる事も兼ねている村の集会場だ。
その晩、集会場内には毛織物の敷物が数多く敷かれ、光源と暖房を兼ねて篝火もまた多数焚かれ、数百名の村人が集まっていた。
ベルクや村の係員達によって配られた飲み物と食べ物を手に村人達は敷物の上に座り言葉をかわしている。
また中央にはサイラスが運び込んだチョコレートファウンテンが置かれ、物珍しさや甘味の希少性から多くの村人が集まっていた。
切断されたパンの切れ端を溶け流れている褐色の液体の中に入れて絡め、口元へと運ぶと子供達は目を輝かせて「あまーい!」と歓声をあげている。
ざわざわとした人の声が響く事しばし、場内に弦楽器の音色が響いた。
サイラスが竜花琴を用いて楽曲を奏で始めたのである。アップテンポな調子の陽気な曲だ。
そして場内北側にある舞台、その端、舞台袖より赤髪の少女が現れ中央へとキビキビと歩み出て、観客達へと向き直った。フレイヤである。数百人からの視線が集まってゆく。
赤髪ツインテールのエルフ少女はへらっと笑うと、
「ご来場いただきありがとうございまーす! 私は司会進行を務めるフレイヤ・サンライズでーす! 本日はよろしくお願いしまーす!」
元気いっぱいな明るい声を張り上げた。
「さて、始まりましたアウストラリス村祓凶祭! これはーエーテル浄化儀式の一環でーす! みんなで盛り上がった方が大地の神様もきっと力を貸してくれるらしいのでー! 今晩はどうか楽しんでってねー!」
黒服に身を包む修道少女が笑顔と共に呼びかければパチパチと拍手が返って来た。
「ありがとー! ノリが良いのは素敵っしょー! アウストラリス村の人々に祝福を~! カミサマ達もご照覧あれっ! ってぇ訳でーそれじゃ早速、トップバッターいってみましょー!」
幕が降り、サイラスが奏でていた曲が鳴り止む。
しばしの静寂の後、
「ベルク・オスマットで、オスマット族剣舞!」
フレイヤの声が場内に響き渡ると共に舞台の幕が上がった。
●
闇の中に紅蓮の光を放つ無数の篝火が燃えている。
ベルクは炎に照らされていた。
数百人の村人達が舞台上に立つ己をじっと見つめているのが解る。
弦楽器の音色が響き始める。
サイラス演奏によるバックグラウンドミュージックだ。最初は比較的穏やかだが、徐々に激しさを増してゆく。
紺のエプロンドレスに身を包む童女に見える娘は、スカート下の腿ベルトから二本の短剣を抜き放った。
刃は篝火から放たれる光を浴びて橙色の輝きを放っている。
左右の剣を踊るように振るう。
二連の鋭い光が、弧を描いて宙を薙ぎ、ベルクは流麗に動き出した。
跳ね回るように舞台上をステップしてゆく。
曲がさらに激しさを増してゆく。小柄なメイド服娘は剣を振り回しながら跳躍し、独楽のようにクルクルと回転すると空中にて、左右の腕を並べられた的に向かい横に広げ、交差するようにして振るった。
二本の短剣が同時にベルクの小さな手から飛び出し、空間を一閃に貫くように閃いた。二連の刃が鋭い音を響かせながら的の真ん中に命中し突き立つ。
おおっと観客達からどよめきがあがる。
(こういった場でやるのは久しぶりだが、体が覚えていてよかった)
ベルクは舞台上に着地しつつ胸中で呟いた。
剣舞を兼ねた的当てはオスマットだと定番の宴会芸だった。昔覚え込んだ技は忘れてはいなかったようである。人生何が何処で役に立つのか分からないものだ。
ベルクは突き立った短剣を二つの的からそれぞれ引き抜くと、観客席に向かって一礼し、再び舞うように剣を振るいながらステップした。
別の的へと向かいエプロンドレスの裾を靡かせ回転しながら短剣を連続して投擲する。
刃が次々に的へと突き立ってゆく。
やがてすべての的を射抜くとベルクは舞台上で観客へと向かい礼をし、歓声と拍手と共に幕が降りていったのだった。
●
フレイヤの軽快な語りと共にサイラスの名が呼ばれ、再び幕が上がってゆく。
頭に白い体毛を持つリザードマンは布と金属のボールを手に観客席に向かい一礼する。
するとその頭部がストンと腹の位置までもげたように落ちた。
どよめきと悲鳴が起こる中、ひょいとまたサイラスの頭部が元の位置へと何事もなかったかのように戻る。
そう、サイラスが行うのは手品だった。
頭部落としで観客の度肝を抜き掴みを良くしたサイラスは、金属のボールを手放しつつ布の両端を手に持って広げた。
するとボールが薄布の上縁に沿って転がってゆく。
サイラスの手は布の端にあるから下から支えられる訳が無い。
薄い布の縁で金属のボールを支えられる訳も無い。
だから、普通だったらボールは落下する筈である。
しかし、炎光を照り返す金属球は、まるで宙に浮いているかのように左右へと移動してゆく。
観客が不思議に思い始める中、ボールは独りでに布の陰へと沈み、次の瞬間、また上へと飛び出すという動きを繰り返した。
布をボールに被せればボールは布をかぶったまま生きてでもいるかのように独りでに宙を動いてゆく。
すると意志持つボールはサイラスの意志に反して勝手に動き出したのか、布をかぶったままあちらこちらへと好き勝手に縦横無尽に動き回り、サイラスはアタフタとしながら、彼もまた球の動きに合わせてあちらこちらへと振り回される形となる。
滑稽に見えるその様に村人達から笑いがあがった。
サイラスは頃合いを見て布とボールを再び両手で掴み一礼する。
観客席から拍手が巻き起こった。
その後、サイラスはエーテルを操って光刃を出現させてのナイフ投げや、六体に分身しての剣舞等を見せてゆき、最後に背中から炎の翼を広げると口からドラゴンの吐息の如く、収束させたエーテルをド派手に吐き出し観客の度肝を抜いたのだった。
●
盛大な拍手と共に幕が降り、演者達や裏方達がその裏側で忙しく後片付けや次の配置につき始める。
腰まで流れる柔らかなブロンドのエルフ少女はワンピースに華奢な身を包んでいた。全円フレアスカートの白いワンピースだ。裾が朝顔の花のように広がる。
透かし布のショールを白い肩に羽織り、緑色の花飾りをつけヴェールをかぶり顔を隠している。
「き……緊張しましゅ」
「大丈夫ですわ」
白く長い髪のエルフ娘が銀色の瞳を細めて微笑した。
彼女もララノアと揃いの白いワンピースに豊満な肢体を包んでいる。
肩より纏う透かし布のショールも同様だったが、色は違って薄青色である。
青色の花飾りをつけていた。
「私達ならきっと上手くいきますわ」
「……はい」
心強いネーヴェの言葉にララノアは頷く。
二人はずっ友である。
やがてフレイヤの紹介と共に幕が上がる。
数百人の村人達からの視線が舞台上の二人へと集まって来る。
闇の中、炎の光に照らされながら二人のエルフ娘は息を吸い唇から歌声を紡ぎ始めた。
ララノアがソプラノで、ネーヴェがアルトだ。
音階の違う二つの澄んだ声が、共鳴し溶け合いながら場内へと響き渡ってゆく。
観客達が息を呑んだ。
ララノアは思う。
歌も、踊りも、授恵者とは違う力があるようだと。
(世界中を舞踊り、歌で満たせば……セカイに幸せを……灯せるでしょうか?)
金髪のエルフ娘のソプラノの歌声が響いてゆく。
幸せの祈り歌。
白髪のエルフ娘が宙へと白い指先を伸ばした。
心を込めて踊る。
小さく跳ねるようにステップし、円を描いて動き出す。身を弓のように反らし軽やかに回転する。
腕を振りながら身を捻って戻し、アルトの声を響かせる。心を籠めて歌う。
――どうかここにいる皆様が笑顔になりますよう。
祈りを込めて。
(さすがネーヴェ様……完璧です)
歌い、舞う雪色の髪のエルフ娘の姿を眺めララノアは胸中で称賛を呟いた。友達と歌える事が嬉しい。
そっとヴェールを外した。
金髪緑瞳のエルフ少女は素顔を晒すと自らも歌いながらステップを踏んで踊り出す。
ありのままで母の歌を歌えば、いつか歌を知る人に出会えるかと願いを籠めて。
舞台上、左より右へと向かってララノアが舞い、ネーヴェが右から左へと舞い交差する。
手を伸ばし脚を振るい身を捻ってくるくると回転し、白いワンピースの裾が花のように広がってゆく。
ソプラノとアルトが溶け合ってハーモニーを生み出し聴く者の胸に太陽に似た暖かさを呼び起こした。
二人は途中、舞台を降りた。
村人達がざわめく中、シェリルへと駆け寄り舞台上へと誘う。
「大丈夫……心の思うまま歌って踊って、楽しめば……私もネーヴェ様から教わったのです」
「ララノアさんの仰る通りですわ。何より楽しむこと、それが皆様の笑顔を引き出しますの。大丈夫、私達がフォロー致しますから」
黒髪少女は二人に手を引かれて歩き出す。
舞台上では三人の娘が歌い踊り始める。
「さ、会場の皆様もどうぞ、ご一緒に手拍子を!」
雪色髪のエルフ娘は舞台上をステップしながら誘うように客席の村人達へと向かい両手を広げ拍子を打つ。
「私達と共に歌い、踊って下さいませ。上手い下手は関係ありませんわ。このひと時をどうか、楽しんで下さいな」
ララノアもまた大きく手拍子しつつ呼びかける。
「皆様とも歌えたら……嬉しいです……共に歌いましょう!」
かくて聖女のみならず観客達をも巻きこんで場内は盛り上がってゆく。
(エーテルは……惹かれ合う?)
エーテル浄化の儀式、その特性。
(シェリル様に触れて祈れば、その存在を……感じられるのでしょうか……)
大地を流れている大きな存在。
(どうか皆の想いを……聞き届けて……)
ララノアは歌っているシェリルに触れながら胸の奥で祈りを捧げた。
●
歓声と共に幕が降りてしばし、
「――浄化ってゆーてもあれやん、お味噌汁にお水入れても微妙にしょっぱいだけのお汁になってきれいな水になりきれんだけやん」
赤髪ツインテールの黒服修道女がシャルガネ風ミソスープとエーテル浄化との関係について語っている。
次の出し物の準備時間を稼ぐ為にフレイヤが場繋ぎのトークをしているのである。
「でもちゃんと濾過すればお味噌汁だってきれいな水になるんやで。だからただ水入れるだけとちゃうで……っていやなんの話やねん! 絶対こんな話関係ないわ!!」
わはははと客席から笑い声が上がっている。
「でもさでもさ、シェリル、実際のトコどーなの?」
「えっ、実際のトコですか?!」
話を振られたシェリルは吃驚したように声をあげた。
十二歳の黒髪少女はえーとえーとと考えるように視線を彷徨させて、
「たぶん、カミサマが普通じゃないすっごいお水を地面に入れてるんだと思います!」
「君もよくしらんのかーい!」
ビシッとツッコミが入る。
「えっ、それ濾過されてんの?! それ完全には元に戻ってなくない?!」
そんな調子な会話が続けられてゆき、やがて次の出し物の準備が整うのだった。
●
幕が降りて再び上がる、続いての演者はマリイだった。
「初めまして! 私はマリイです。この可愛い子は助手のコルデラです! よろしくお願いします!」
銀髪金瞳のエルフ娘が舞台上中央に、首に大きなリボンをつけた狼と共に進み出た。一人と一匹が同時にぺこりと一礼する。
マリイは球を複数取り出すと左手で宙へと放り投げた。
一つの球が宙にあるうちにさらに左手で二つ目の球を放り投げ、最初の球を右手で受け取って左手へと投げて左手より再び放り投げ、二つ目の球を右手が掴む前にさらに三つ目となる球を追加し宙へと放り投げる。
ジャグリングである。
次々に投げる球を増やして、楕円を描きながら多数のボールが飛び続ける。
「あっ!」
しかし手元が狂ったか、マリイの唇から悲鳴が洩れると共にボールの一つがあらぬ方向へとすっとんでゆく。
ミスをした、と観客は思ったが、そこへ白狼が俊敏に風の如く回り込んだ。ボールが舞台上に落ちる前にジャンプするようにして器用に鼻先で突く。
突かれたボールは緩い放物線を描きながらマリイの位置へと正確に飛んでゆく。
エルフ娘は定位置から動かず自然な動きで手を伸ばしボールを掴み取るとジャグリングのサイクルの中に戻し、何事もなかったかのようにボールを投げ続けてゆく。
マリイはさらに次々に連続でボールを明後日の方向へと飛ばす。しかしその度にコルデラが回り込んで鼻先で見事に突き返し、ジャグリングのサイクルに戻してゆく。
観客から拍手が巻き起こった。
するとマリイが投げるボールが一つ一つ小さい物へと順に切り替わってゆく。すり替えているのである。
観客が目を瞠る中、小さくなったボールはマリイの背中を通過すると、そのまま掻き消えた。
マリイは自らの身体を両手で探り、きょろきょろと首を振ってボールがどこにいったのか探す仕草をする。
そして、見つからなくて困った! という表情を浮かべた。
しかし次の瞬間、コルデラが駆けてきて口に咥えたボールをマリイの元へと運んで来る。
マリイはボールを受け取って観客に見せ一礼する。
拍手が湧いた。
続いてマリイはトランプを使った手品を開始する。
「ご協力お願いできますか?」
にこっとした笑顔と共に前列の客席にいる村人を舞台上へと誘う。
村人は戸惑い照れながらも舞台へとあがった。他の村人から野次が飛ぶ。
村人はマリイが広げているカードから一枚を選んで引いた。
そのカードはハートのクイーンだった。
マリイは村人にマリイ自身には見えないようにカードを観客達へと見せて貰った。そしてカードの束に引いたカードを戻して貰いシャッフルする。
「あなたの選んだカードは……これですね!?」
マリイが自信満々の顔で引き出したカードは、クラブのエースだった。
「……違います」
「えっ?!」
エルフ娘が驚愕に顔を歪める中、コルデラがとてとてと歩いて来る。
そして白狼はちょいちょいと前足でマリイの足を叩いた。
「コルデラがしてくれるの? 嬉しいけど……さすがに無理じゃ――」
マリイがカードを広げると白狼はうちの一枚を前足で指した。
「――えぇと、これですか?」
マリイが村人へと見せたのはハートのクイーンだった。
「えっ……合ってます!」
「えー、合ってるーっ?!」
拍手が巻き起こった。
そんな調子でマリイが失敗してはコルデラがフォローをするという調子で幾つかの手品を一人と一匹は披露してゆく。
「もしかしてコルデラって………呪いとかで狼にされてるだけの、イケメン?」
マリイが問いかければ、くぅんと、とても困惑したような鳴き声をリボンをつけた白狼はあげた。
最後にマリイは大きな箱を用意して中に入った。
しかし、その途端に動けなくなる。
「タスケテー!」
悲鳴を聞きつけてコルデラがマリイの襟首を咥えて引きずり出す。
そしてマリイに代わってコルデラが箱の中へと飛び込んでゆく。
「コルデラ?」
マリイがひょいと箱の中を覗きこみ、次の瞬間、舞台脇に置かれていた箱が開き、コルデラが飛び出して来て、舞台上へと駆け登り戻って来る。
盛大な拍手が響き渡る中、マリイはコルデラを撫でると共に一礼をする。
「以上、コルデラと助手のマリイでした! ありがとうございまーす!」
最後に笑いと一層の拍手が巻き起こって幕が閉じていったのだった。
●
「皆さーん、お祭りの締めといえばなんでしょう?」
壇上、ブロンドの聖職者シルクが村人達へと問いかけていた。
「そう――祭りの締めといえば踊りです! というわけで皆さん私と踊りませんか?」
十六歳の少女は人懐っこい笑顔と共に呼びかける。
「踊り方がわからない? 大丈夫です、すべてを私に委ねてください」
神にささげるのに本来は作法も何もいらないのです、とスブニグ何某という豊穣神を名乗る存在を信奉する聖職者は説く。
軽快な音楽が響き始めた。ベルクが楽器を奏でているのだ。色とりどりの光が場に瞬いてゆく、こちらは場を盛り上げる為にサイラスが出現させている幻影である。
「――楽しいという感情そのままに体を動かしてください」
シルクは173cmという女性としては長身な、すらりとした、しかし起伏豊かな肢体を舞台上で躍らせる。
場が盛り上がって来ると、可愛いものにも目がなく抱き締め癖があるブロンド聖職者は舞台上から降りて、村人達の間へと降りハグして回ってゆく。
「はわわわっ」
十歳程度の黒髪少年がダイナマイツな柔らかいボディに抱き締められて顔を真っ赤にしている。その隣で同年代の少女が少年を吹雪のような眼差しで睨んでいる。
「――おいやでなければ受け入れてください。本来恵は数多の人々と分け合ってこそなのです」
我々の肉体はすべて神からの恵みであるので恥じる事も忌む事も無い、という教えを受けている女聖職者は、敬虔な笑顔で信仰を広めてゆくのだった。
●
他方、
「三人ご一緒は……とても楽しく……また一緒に歌って踊りたいです」
人々が踊っている中、ララノアはネーヴェとシェリルと話していた。
「はい! また一緒に歌って踊りましょう!」
ララノアの言葉にシェリルが笑顔で頷く。
そのうちに三人でグループなど作ってみないかという話となり、
「グループ名は【エルオンタリエ】など……」
「える、おんた、りえ……どういう意味です?」
黒髪少女が聞きなれない響きに小首を傾げる。
眼鏡少女は赤くなりつつも、
「ぇっと、母なる神へ……という意味で……」
ぼそぼそと言う。
「その、シェリル様とも、友達……仲間になれたら嬉しいです……」
すると十二歳の少女はきょとんとした表情をした。
「えっと……?」
「……わたし、もうララノアさんとはお友達のつもりでいましたっ! お友達ですよねっ?! お友達じゃないとか言われたら泣きます!」
「え、な、泣くっ?」
そんな様子にネーヴェはくすくすと微笑すると、
「エルオンタリエ、素敵な名前ですわね。私もシェリル様と仲良くなりたいですわ。どうぞお友達に……仲間になっては頂けませんか?」
「わたしでよろしければ喜んで! よろしくお願いしますネーヴェさん、ララノアさん!」
という訳で三人はグループを結成したのだった。
なおネーヴェは「宜しければ、ツェツィーリア様も」と誘ったのだがこちらは「自分は護衛でありますので、お気持ちだけで」との事だった。曰く、一緒にドレス着て踊っていたらそこに暴漢が突入してきた時など、非武装状態では満足な守りに入れないのでそれでは不味かろうから、との事だった。この女兵士は真面目な性格してるらしい。
かくてアウストラリス村の催しは終了した。
冒険者達の出し物は村人達から好評を博し、シェリルは人々の熱気の中で儀式を執り行った。
その翌朝には村の大半の畑の作物が活力を取り戻したという。
マスターコメント
この度はご参加とプレイング、誠に有難うございました。
このような結果となりました。
MVP候補四名様程いらっしゃって迷ったのですが、枠が二枠という事で今回はこうなりました。
ご満足いただける内容になっていれば幸いです。
ロングシナリオ難しい 報酬:標準7 / 6〜10人
2022年01月10日 11時19分52秒 公開
成功
参加者
- メイプルリーフ シルク
- サイラス
ベルク・オスマット
マリイ・パルティス
ララノア・グラヌローザ
ネーヴェ・グラヌローザ
フレイヤ・サンライズ
相談掲示板
ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 私自身は舞踏が得意ですので、今回は舞いを舞わせて頂こうかと存じます。 音楽か歌の出来る方がいらっしゃいましたら、是非ご一緒に組んでみたいです。
No.2
シスターシルクです 神に祈る祭の基本となればやはり踊り、踊りは全てを解決する?
No.3
サイラスだ、よろしくなー。 とりあえず個人としては手品かなーと?演奏とかもあるけどどれもレベル1だし。そうなると幻影で背景とかなんか手伝いになりそうなのろうかなと思ってもいるので途中で止まっても問題無さそうな手品に
えと、ララノアでし!よろしゅくお願いいたしまし!(がばちょー わ、私はまた…お歌で…えっと、えと、 ネーヴェ様、ネーヴェしゃま!良ければご一緒しませんか?
マリイと申し訳ます!よろしくお願いしますね。 今回も狼のコルデラとショーが出来たらなと思います!漫才強めに、前回同様に球技とか他にも手品とか、面白そうなの思いついたらしようと思います!
>ララノアさん まぁ、是非! 折角ですし私もこの機に歌を歌ってみたいですわ。 宜しければご教授頂けますか?
ベルクだ、よろしく頼む。 シーフの身体能力で曲芸でもするとしよう。
わー!ありがとうございましでっ(手ぽむ合わせてニコニコ) ではでは、一緒にお歌と、私も踊りを…ッ たくさん練習したので、前よりはずっと踊れるようになったと思うのでしっ 頑張りましょうね…えっおー!