ポップ孤児院の聖霊節
菊華 伴
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シナリオID:1760
オープニング
エラトゥーン都市同盟の海洋部にある小さな街『エレガミオ』。その外れに、『ポップ孤児院』はある。かつてこの辺りで多くの子供たちに魔法を教えていた賢者から名前を貰った、古い孤児院である。
2,3年前からユアン・イェーガーが院長として頑張っているのだが……その姿が消えてもうどれだけ経つのだろうか?
ユアンは大森林で発生した異変を解決するべく故郷『エルタニン』に戻った。その際、「解決したら帰るけど、万が一遅くなるようだったら手紙を書く」と近所の人や卒業生であるギルド職員、タバサに話していた。しかし……「もう少し帰るのが遅くなります」という手紙を最後に音沙汰がなかった。
「……ユアン先生、故郷に戻りたがらなかったけど、それと関係するのかしら?」
タバサは不安げに瞳を細め、一路孤児院へと足を進めた。
ユアンが故郷へ戻って以降、近所の人やタバサを始めとする卒業生が交代で子供達の面倒を見ていた。だが、子供達は寂しそうにしている。
「今日もユアン先生帰ってこないね」
「もう帰ってこないのかな……」
特に幼い子供達が不安を隠せないでいる姿を見るのは、胸が痛む。タバサはため息を零しつつも、そんな子供たちの頭を撫でる。
「大丈夫だよ。きっと、故郷で何か手伝いをしているのかもしれないよ。ほら、元気出して」
タバサの言葉に、子供達は少しだけ笑みを浮かべるのだった。
●ポップ孤児院の聖霊節準備、大ピンチです?
「……飾りが足りない」
「特別な料理の材料も足りないねぇ」
「プレゼントだって足りねぇ!!」
そう話すのは、薬屋の3兄弟……アスタ、コフィ、ヒューである。彼らもまた、ご近所さんという事もあり、交代で子供たちの世話をしていた。
「みんな仕事があるからね。材料はどうにかなるかもしれないけど、作る人もいないわけだし……」
タバサが頭を掻きむしりながら呟く。
一昨年からはユアンと年長の子供達、OBOG達が準備していたのだが今年は色々ありOBOGの集まりが悪い。そして、ユアンも……。年長の子供達は年少の子供達の面倒を見ている為、ここに居るのはこの4人だけである。
幸い、手が空いている者が集まり少しずつ進めてはいるが、例年に比べ進みが悪いのが現状である。
「……俺、思ったんだけどさ。冒険者たちに力を借りたらどうかと思うんだ」
そう言ったのは、アスタである。
「子供達は冒険者が大好きだし、彼らと一緒に聖霊節の準備をしたらさ、ちょっとは元気が出るかもしれねぇ」
「でも、頼っていいのでしょうか?」
アスタの提案に、タバサが不安げに首を傾げる。ポップ孤児院のOGとしては、内輪の事で頼んでいいものか悩んだようだ。だが、コフィとヒューは乗り気である。
「この辺りでは、聖霊節に親しい人へカードを送りあう風習もある。ユアン先生へのカードを皆で書いて冒険者に託すっていうのもありかもしれない」
「それに、冒険者ならばご馳走の材料集めも手伝ってくれるかも? 狩りの手伝いとか収穫の手伝いとか……」
一同は、色々話し合った結果、こんな依頼をギルドへと出すのだった。
『ポップ孤児院の聖霊節祝いを手伝ってくれる方、募集します。その後、一緒にパーティーを楽しんでくれる方大歓迎です!』
――果たして、冒険者は来てくれるだろうか?
解説
マスターより
リプレイ
「いいもの食べるためならしっかり狩るぞ」
とりあえず〈風読み〉と〈撹乱〉はあるから矢は問題ないし……と弓の調子を見ながらサイラスは言う。彼は一通り準備を終えると外套をしっかり纏って森へ足を踏み入れた。勿論生態環境の下調べを行う為である。
(……ウサギにしては大きいな、この足跡。そう言えばこの辺りは大柄なウサギ型魔獣が良く出る、とタバサが言っていたか。あとはシカの痕跡に……)
ならば、その肉がいいだろうか? それとも……と真剣に考えるサイラス。そんな彼に声をかける者が。同じように狩りに出たヘレン・ワーグナーである。彼女はどうやら別の動物の足跡などを見つけたようだ。
「この足跡は、イノシシ? この爪痕は多分……クマだとおもう。どっちも、美味しいかも」
「イノシシの方がジューシィで美味いかもしれない。クマは臭みが強いと聞くが……」
サイラスはヘレンの提案を聞き、少し考える。だがその間にヘレンが御昼寝を始め、それに面食らったサイラスが「ここで寝るな!!」とツッコみながら叩き起こすもヘレンが目を覚ますまで5分ほどかかったというトラブル(?)が発生する。
案内役として共に来たアスタは、このやり取りに対し「……え?」と困惑したような顔になっていた。
「あのさ。こんな寒いトコで寝たら風邪どころじゃすまないんだけど……。授恵者だから平気なのか?」
「気にするな、うん」
サイラスは、とりあえずアスタの肩をぽん、と叩いて慰めた。
「……俺ァ、サラと一緒に向こうの方に行くぞ。狩りすぎないようにな」
「罠とか、つかってみる、ね」
ネコ科なハーフビーストの青年、スー・ルーが傍らに立つドワーフの少女、サラと共に苦笑しつつ北の方へ向かう。サイラスは「気をつけてな」と二人を見送ると漸く起きたヘレンと共に狩りを始めるのだった。
(そういえば)
寝ぼけ眼のヘレンは、目をこすりながら出立する時の事を思い出す。
――気をつけるんだぞ。獲物、料理する準備して待ってるからな。
共に今回の手伝いにやってきたイズル・M・ヴォルゴールが、穏やかにそう言った。今回はタバサとイズルの他にも何人かの冒険者が料理の腕を振るってくれるらしい。それはとても楽しみだ。
(だから、がんばろ)
ヘレンが気合を(一見眠たそうに見えるが)入れていると、風に乗って獣の臭いを感じた。サイラスやアスタと別れて茂みに隠れ、その正体を見る。
「クマじゃねえか……。しかもとても肥えてやがる」
秋に木の実をたらふく食べたのだろう、とても丸々としている。アスタがマジマジと見ているのを知りつつ、ヘレンは顔を上げる。
「行こ」
「……まぁ、ワーグナーがそういうなら」
目を輝かせたヘレンが大太刀を握り締め仕掛ける。サイラスは「無茶すんなよ」と一言かけながら竜花琴を構え、2人の戦いが始まった。
「二人とも気を付けてくれな」
授恵者すげー、と呟きながらアスタは二人を見送り、とりあえず食べられそうなキノコを採取しておくことにした。
一方、その頃……。
「イノシシとか、捕まえられると思う、の。シカも、捕まえられるか、な?」
「たしかにな。クマは臭みがあるから気になるが調理法次第か?」
サラとスーのコンビは念入りに調査しながら獲物を定める。それと同時にサラは食べられそうな木の実や香草を採取していた。スーはその様子を不思議そうに見る。
「冬だから少なくないか?」
「うん。だけど川の近くのクコの実や、ユリ根、ノビル、は、冬にも採れる、よ」
フユイチゴもあれば……とふわりとした笑顔で語る。彼は「俺も探してみようかな」と辺りを見渡し、木の実を採取する。それでいて二人ともちゃんと罠の設置や獲物を探すことも忘れない。
「あれ……」「おっ、シカじゃないか。しかもなかなか大きい」
サラとスーはアイコンタクトで採取から狩りへとモードを切り替える。
「必要な分だけでいい。獣の数は減らしすぎないようにしないと」
「そのとおりなの」
二人は頷き合うと罠の方へとシカを追い込む作戦にでた。
追い込みながらスーは内心で首を傾げる。なんだか己の動きが鈍い気がしたのだ。
(なんとなく、狩りの腕が鈍っているような気がする)
冒険者になってからというもの、街で過ごすことも増え、狩りに出る必要が減った為だろうか? 彼は短く息を吐き捨てると意識を集中する。
彼と呼吸を合わせつつ、エーテルリンクしたフェレットのジュジュに力を借りて鹿を罠へ追い込むサラは、彼がそんなふうに考えているとは感じず、ただ獲物に集中する。
((今!))
二人と一匹は、呼吸を合わせ、鹿を罠へと追い込む。そして……。
――乾いた音を立てて矢は放たれた。
狩りで肉を求めに行く者がいれば、川へ魚を捕まえに行く者もいる。
「皆に美味しいお魚届けるために頑張るぞー」
と釣り糸を川へ垂らしたのは、スフィカである。『ポップ孤児院』を訪れたのは初めてだが、子供達の笑顔の為にがんばろうと意気込んでいるようだ。
(狩りは人手が足りてそうだし、メニューを増やすのに魚も欲しいな。丁度近くに川があってよかった)
狙うは、今が旬のトラウトである。影で魚に警戒されぬよう、ちょっと水辺から下がってから餌つきの針を投げ入れる。
(……後は運と根気!)
寒いだろうから、とタバサが貸してくれたブランケットを羽織りながら、スフィカは静かに待つ。
(さて、かかるかな?)
せせらぎに耳を澄ませている間にうとうとしそうになるも、冷たい風で目を覚ます。そんなこんなを繰り返しているうちに、やがてビンッ、と糸を引っ張る感触が釣り竿に伝わる。
「来たっ!」
スフィカが釣り竿を引くと、大きな魚が釣れていた。
「やった! この調子でいくぞー!」
寒さに負けず、スフィカはもう一度餌をつけて釣り糸を川へ垂らした。果たして、彼女は何匹魚を釣る事が出来るのだろうか?
エレガミオからほど近い場所でそれぞれが奮闘している頃。街に残った者達も奮闘している所だった。
「ん、いい出来なのだ」
市場に野菜の買い付けへやってきたストレガ・L・リベルガストラは、まるまるとしたカボチャを手に微笑んだ。傍らの子ども達も些かわくわくしているように見え、なんとなく楽しくなってくる。
「あと足りないのはカブやキャベツかな?」
イズルが確認すると、ストレガが肯く。彼は市場で得られなかった野菜を収穫することになっていたのだ。
「調味料も含め、市場で揃えられる物はこちらで購入しておくのだ。任せたのだ」
「あぁ、任された!」
ストレガの言葉に、イズルは胸をとん、と叩いて頷いた。
「という事で畑にやってきたわけだが……」
イズルが孤児院の子供たちを連れて畑へやってくると、冬が旬の野菜がすくすく育っていた。ここの畑は普段から孤児院の子供達が手伝っている為『必要な野菜は収穫OK!』との許可を持ち主から貰っている。
(よし、はじめよう)
彼は〈植物共感〉を使って美味しい野菜を選別できないか試し、良さそうなのを子供たちに教えていく。子供達の楽し気な様子に瞳を細めながらイズルも野菜の収穫をがんばるのだった。
サラの放った矢は、シカを仕留めた。ジュジュは「がんばったよ! 凄い?」と問うように冒険者2人の間を行ったり来たりして興奮していた。それを諫めつつサラは鹿の血抜きを行う。
「おおっ! なかなか腕がいいじゃないか」
スーが、毒矢の影響を受けた部分の肉を切り取りながら言う。血抜きを終え、解体を始めていたサラは、頬を朱に染め照れていた。
調理しやすいよう皮を剥いでいると、ふとスーが疑問を口にする。
「所で内臓はどうする? ガキどもァ好きじゃねぇだろ」
「うーん、念のため、調理班の人に、聞いておけばよかった、ね」
サラは少し考え、とりあえず別にしておこう、という事に。
そして同じころ、クマを仕留めたヘレンとサイラスも血抜き作業を行っていた。
「すげぇ……。こんなでかいクマを2人で仕留められるなんてさ」
アスタが驚きながら作業を手伝う。ヘレンは「クエスト達成ー」と言いながら毛皮を剥いでいる。彼女の提案でこれの他、売れる部分は売って孤児院に寄付しようという事になっていた。
当初は孤児院で解体する予定であったが、クマが思いのほか大きかった為ここで作業する事になったのだ。
「毛皮、案外ボロボロになっていないからそこそこいい値段で売れるかもしれないな」
サイラスが毛皮を見ながら呟き、とりあえず後で汚れも払おう、と考える。
のちにサラとスーの2人と合流した3人は、途中でウサギ型魔獣を捕まえつつエレガミオへと戻るのだった。
イズルが子供達と収穫した野菜を孤児院に持って帰ってきた頃にはストレガも戻って来ていた。二人はそれぞれ目的の物を準備でき、安堵する。
「おっかえりー♪ 早速お野菜洗って下ごしらえ始めちゃうわね!」
そう言ったのはタバサと共にキッチンで待機していたエミリア・シバ。彼女は先ほどまでクッキーを作る面々のサポートに回っていた。
「あ、そうそう! タバサちゃん、子供達の好き嫌いとか知っている?」
「それなら、ユアン先生からの預かりものがありますよ」
エミリアが問うと、タバサが一冊のノートを取り出した。なんでも一人一人の好き嫌いが書いてあり、中には『食べさせてはいけない物』まで書いてある。
(あんまり好き嫌いができちゃうのもダメだけど、聖霊節の時ぐらいだけでもできるだけ美味しい物を食べてもらいたいし)
エミリアはくすり、と笑いながらそう思う。
彼女が礼を言うと、タバサは「子供達のためですし」はにかんで眼鏡を正した。
ストレガとイズルも、エミリアと共に野菜の下準備を始める。そのうちに魚を釣ってきたスフィカも加わった。因みに彼女は魚の鮮度が落ちないよう〈疾風足〉で戻ってきてくれたらしい。なかなか大きい魚が釣れたため、香草焼きとムニエルにすることに。
そして、エミリアは料理に興味のある子供達と共に野菜の下ごしらえを行っていた。タバサから「包丁や火を使わせても大丈夫!」と太鼓判を押された子数名はエミリアから指導してもらいながら野菜を切ったり、鍋の火の味方を学んだり。
まだ包丁が持てない小さな子も、野菜を洗ったり、タマネギの皮むきなどを手伝う。子供達は彼女の教え方が上手いのか、少しずつ身につきそうな感じである。
「お料理って楽しいね!」
そう、同種の子に言われエミリアは「そうねぇ」と笑顔で頷いた。
狩り組が戻ってくると血抜きと解体が終わった素材を早速調理に使う。ここからは調理組の腕の見せ所だ。
「まぁ! 今回はクマとシカのお肉があるのですね! それにウサギ型魔獣の物も……」
ぽん、と手を打ちうきうきとした様子で確認するのはサシャ・テーリング。彼女は上質な材料を前に色々と考える。
「クマ肉……丸焼きはインパクト大ですのでミンチにしてミートボールや煮込み、カレーとか如何です? シカはロースト……、ウサギ型魔獣も捨てがたいですね」
「獣の丸焼きは1つ作ると宴感が高くなるのだ。それと、内臓は辛めの味付けにする。大人達が食うといいのだ」
ストレガがウサギ型魔獣の肉とシカの肉を見てふむり、と考える。また内臓については丁度サラとスーが確認したかった事なのでちょっと安堵していた。
「ロースト用の野菜やハーブは選別済み! それと、調味料の準備もできているよ」
イズルが率先してその辺り動いていた為、お肉の下準備さえ終わればすぐに作れそうだ。
「まずは、香草とお湯で臭いを取りましょうか」
「美味しくするために一手間かけるのだ」
「さぁ! 始めるわよ!」
サシャがストレガとエミリアと頷き合い作業開始。狩り組は、汚れをすすぐと厨房の手伝いに回る事にした。
●クッキーも用意しよう
――時間は遡り、狩り組が出立した頃。
孤児院の厨房では、既に飾り付け用のクッキーの準備に追われていた。飾り付け用のクッキーは普通の物より固めで、長持ちするようお酒に漬けたドライフルーツを入れるそうだ。
(これをいろんな形に切ったり、型を抜いたり……。リボンを通しやすいように穴をここに……)
(どれもこれも可愛い!)
エヴァン・ピオネロとアルマ・ヴァレンタインはタバサとコフィから教えてもらいつつ奮闘していた。勿論孤児院の子供達も一緒に、である。その他、パーティーで食べる為のクッキーも合わせて作る。
「こっちは任せて」「がんばろう!」
そちらはコハクとハルハン・ツァガーンナルも担当する。粉を振るい、材料をサクサクと混ぜ、アルマから提供された『甘露アリ』も使用するようだ。
「これは作り甲斐がありそうね」
エミリアが鉄板を用意し、くっつかないよう油を塗った後、型を抜いたクッキーを乗せ、温めたオーブンの中へ。
「大きなオーブンね……」
コハクが目を丸くして戸を開くと、ツァガーンナルとエヴァンがクッキーの乗ったプレートを入れていく。
「数が多いから、2,3回に分けて焼くそうですよ」
ツァガーンナルがそういって、次に焼く分の準備をはじめる。次第にクッキーが焼けるいい匂いがしてきて、彼女の表情がちょっと緩んだ。
「買い物班も狩り組もまだ戻らないし、ちょっと休憩しましょ?」
エミリアがそう言い、各々休憩しているとツァガーンナルがコハクへ声をかけてきた。
「コハクの淹れてくれた紅茶は、すごく美味しかったです! だから、今日はコハクに教えてもらいたいと思ったのですが、いいでしょうか?」
「いいわよ。確か、約束していたわよね」
コハクは彼女のお願いに頷き、早速紅茶を淹れ始める。その丁寧な仕草にはツァガーンナルだけでなくアルマ達も見入っていた。
(覚えるより先に見惚れてしまいそうです)
説明しつつ紅茶を入れるコハクの所作は本当に綺麗だった。淹れられた紅茶も美味しく、ほっ、とした気持ちになる。
「じゃあ、一緒にやってみましょ?」
「う、うん」
お手本が終わったことで、次はツァガーンナルの番。彼女はコハクに教えてもらいながら紅茶を淹れてみる。
コハクの教え方が上手いのか、元々彼女に素質があったのか、その紅茶も美味しかった。
「コハクの紅茶が美味しい理由も、またひとつ分かりました!」
「べた褒めしてくれると照れるわね。……言う程凄くもなくて、誰でも出来るもの」
そっけなく言ったつもりのコハクだが、嬉しいのだろう尻尾はパタパタと揺れている。そんな彼女にエヴァン達は顔を見合わせ苦笑する。
「あっ、ちょうど、焼き上がりの時間ですよ!」
ツァガーンナルの言葉に気付き、オーブンを開ければクッキー特有の甘い匂いがより濃くなる。
「焼きたてのクッキー、食べてみますか?」
「ええ、頂くわ」
クッキーを見せれば、コハクは一枚味見もかねて食べてみる。程よい甘さ軽い食感に、彼女の表情が緩んだ。
「紅茶に合うわね」
ポツリと呟いたその声は、ツァガーンナルに届いた。嬉しくて思わず耳が動くような気がする。気が付けばコハクは2、3枚……とクッキーを口にしていた。
(食べ過ぎたらどうしよう……)
はたと我に帰り、どきりとするコハク。そんな彼女に「また焼きますから」とツァガーンナルは微笑んだ。
「まだ焼いていない分もあるから、あとちょっとぐらい大丈夫かもよ?」
エミリアも次のクッキーを焼くわ、と暖かいオーブンへ鉄板を入れる。暖かい雰囲気の中、クッキー製作組の作業も穏やかに進んで行った。
●飾りつけも、カードづくりも楽しんで。
クッキーづくりもひと段落し、調理組がご馳走づくりに奮闘している頃。パーティー会場になる広間。飾り付け用のクッキーが焼きあがったエヴァンとアルマはそこで子供達と共に飾りつけを行っていた。
「そうそう、上手ですよ」
エヴァンは、子供達と一緒に飴を綺麗な紙で包み、キャンディーレイを作っていた。それだけではなく輪飾りもである。
(飾りつけ用クッキーは、もう少し冷めてから木に吊るしましょうか)
彼はバスケットに入れられたクッキーを見ながらそう考えた。
子供達は院長であるユアン・イェーガーが戻らないためか少し寂しそうに見えたが、冒険者たちと行動する事で少しは紛れているようだった。
(それにしても、ユアンさんが行方不明というか音信不通……? 気にはなるけど、今は子供達が心配しないようしっかり盛り上げないとだね!)
アルマは一瞬浮かんだ不安を胸の奥に仕舞い、笑顔で子供達と向き合う。
彼女は子供達と作った飾りの他、持参したテラリウムのランタンも飾ってくれた。アルマ自身が〈おしゃれさん〉を駆使してアドバイスしたお陰か、中々お洒落な飾りつけとなった。これにはおしゃまな年頃の子たちだけでなくお祭り好きな子たちのハートを掴んでいた。
「わぁ……! とても素敵ですね。僕だけじゃここまではいかないなぁ」
コフィが飾りつけに喜びながらクッキーにリボンを通す。その手さばきは慣れており、さすがに感心する。
「コフィさんがリボンを通してくれたから、もう飾れるよ」
「これは飾り用だから、お祝いが終わってから食べてね」
エヴァンとアルマはコフィがリボンを通したクッキーを子供達に渡し、飾りつけの仕上げとしてつけてもらう。テーブルにもクロスを敷き、後は料理が運ばれるのを待つばかりだ。
子供達とコフィの喜ぶ様子を見ながら、成功を祈る2人だった。
一方、カード作りにも手を貸す冒険者も。
「聖霊節の準備が間に合わないなんて大変です!」
と、駆け付けてくれたシェルリア・リトヴァールである。彼女はカード製作の担当をしてくれた。
(せっかくの聖霊節ですもの、子供達にも楽しく過ごしてもらいたいですもんね)
彼女は文字のお手本を見せ、子供たちにアドバイスしていく。優しいお姉さんに教えてもらい、子供達ものびのびとカードづくりに集中できた。
「せんせー、書けた!」「こっちもできたよー」
子供達は用意されたカードに練習中の字で街の人や友達へのメッセージ、そしてユアンへのメッセージを書いていく。
「先生、あのね! ベルの絵を描きたいの。お手本見せて?」
小さな少女にそう乞われ、シェルリアは「絵は得意なんです」と可愛らしい飾りのベルを描く。これに少女は大喜びだ。
「なかなかうまいんだな……」
ヒューはシェルリアの絵を感心したように見つめ、「シェルリアさんが得意というだけありますね」と少々悔しそうな様子だ。
「皆、頑張りましたね。このカードが、先生や大切な人に喜んでもらえます様に」
祈るようにシェルリアがそういうと、どこからともなく笛の音が。その正体は、ラティア・ミゼリアが持ってきた笛だった。その他にも太鼓など幾つかの楽器を持ってきていた。
(といっても、奏者は一人なんですが……)
内心苦笑するラティア。
彼女は、過去にソイージーという魔獣が絡む依頼の際ここを訪れており、その際知り合ったエルフの少年・セレセレはラティアの参加に大喜びだった。
子供達が思わず歌いだしたくなるような演奏が出来れば、と思う一方でつい「私にそんな技術なんて……」と後ろ向きなことを考えてしまう。
(って、やる前からそんなこと言ってちゃ駄目ですよね)
ため息交じりに楽器の準備をしていたラティアだったが、セレセレが楽譜をじーっと見ている事に気付く。見た事が無かったのか、彼は「これなに?」と聞いて来た。
「これは楽譜ですよ。これを見て演奏するんです」
興味ありますか? と彼女が問えば、セレセレは笑顔で頷いた。
「あっちの冒険者さんも、楽器が弾けるのがすごいよ。なんか俺もできないかな」
「ちょっと興味があるかも」
ヒューとシェルリアも楽器が気になり、ラティアは目を丸くする。
「よ、よかったらちょっと触ってみますか?」
彼女の問いかけに、二人は頷いた。
一方、プレゼント準備を手掛ける者もいた。ミア=リゼルである。相談した所、街の人が毎回子供達に内緒で準備しているのだが、今回はそれも間に合っていないらしい。
子供の数は全部で30人程。ミアはユアンの部屋を借り、タッセル付の組紐を作り始めた。幸い、材料は街の人が分けてくれた為すぐにも作り始めることができた。
(帯として使っても良いし、手首に巻いても良いし……。折角だし、いろんな色の糸を使いましょう)
優しい眼差しで組紐を編み、おまじないをかける。
「みんなが健やかに、夜はゆっくり眠れて、楽しく暮らせますように」
ミアが微笑み、出来上がった組紐を見つめていると、スーが訪ねてきた。なんでも、彼女へ紅茶とクッキーを持って行くようサシャ達に頼まれたらしい。
「かなり集中していたな。けど、休憩も大事だ」
「ありがとうございます」
ミアはミルクティーを思わせる色の髪を揺らし、ふわりとした笑顔で礼を述べる。
因みにちょっとパーティーの時間に人数分揃えられるか怪しかった為、スーにもちょっと手伝ってもらう事に。スーは「貴重な体験をした」と後に語っている。
●奮戦する厨房と、つかの間の休息と
「ケーキ、誰も作っていないようですし……」
サシャはサラが収穫したフユイチゴやクコの実、食べられる木の実を使ってケーキを作る事にした。
(少し前にパーティーのお手伝いをしたばかりですし、その時のメニューから好評だったのをお子様向けにしてみましょう)
材料は幸いにもある。これなら今から作れる、と彼女は頷いた。
クマ肉のミンチを使った肉団子の煮込みも、シカ肉のローストや丸々太ったウサギ型魔獣の丸焼きも、あと少しで完成する。今回は料理を手伝ってくれた子供達もおり、そのお陰もあって予想より早く料理は出来そうだ。
エミリアがコツを教えてくれた為か、誰も怪我せず調理をすることができた。
「先生! 僕、大きくなったら料理人になろうかな?」
「冒険者になるとしても活かせそうだよね」
子供達の楽しそうな様子に瞳を細め、嬉しそうに口元を綻ばせる。
(皆が楽しんでくれたし、準備も上手くいったし、いい事づくめね)
彼女は、子供達の頭を撫でて褒めて微笑んだ。後にご褒美のクッキーを貰い、お料理の手伝いをした子供達はちょっと羨ましがられる事となる。
セレセレに楽譜の読み方を教えながら選曲していたラティアは、顔を上げる。先ほどまで幼い子供達の相手をしていたヘレンの声が聞こえないのだ。よく見ると、幼い子供達にもみくちゃにされながらもぐっすり眠っている。
そこへラティアたちへとお茶を持ってきたイズルが現れる。
「えーっと、ラティアさん。ヘレンを見なかった?」
「ここにいますけど……」
「ふふっ、こりゃ大物だな、凄いぞ~」
ラティアの視線で場所を掴んだイズルは苦笑しつつ幼い子供たちを褒める。そしてヘレンに歩み寄ると、彼女は目が覚めたらしく小さなあくびをして体を起こした。
イズルがお茶を持ってきた、と言えばヘレンはふにゃりとほほ笑んでカップを受け取る。彼女はある事をイズルに相談すると「家賃を入れてくれればヘレンの好きにしていいよ」と笑顔で頷いた。
「なんか、物凄くほのぼのしていますね」
カード製作が終わり、ユアンに届ける分をリボンで纏めたシェルリアが優しい眼差しを向ける。
すると、外の方から楽しげな声が聞こえた。パーティーに使う大皿を洗っていたサイラスやサラ、子供達の声だ。スフィカが釣りの時の事を子供達に語る声も聞こえる。
その楽しそうな声に耳を澄ませていると、タバサが「もうすぐ料理ができるわ」と声をかけてきた。
「それじゃ、料理を運ぼうかな」
「手伝う~」
「わ、私も!!」「勿論僕もいくよー」
イズルとヘレン、ラティア、セレセレはそろって厨房へ向かった。
●さぁ、聖霊節を楽しもう!
ご馳走がテーブルに並び、各々のカップにジュースが注がれる。子供達も、集まった冒険者達も、そして手伝いに来ていたタバサたち4人も揃い、皆でテーブルを囲む。
クマの肉を使った肉団子はサイラスたち狩り組も手を貸してミンチにし、練ったもの。ストレガとサシャが野菜をじっくり煮込んで作ったソースで煮た肉団子は臭みも強くなく、味わい深い。付け合わせの焼き野菜もほっくほくである。
スフィカが新鮮なうちに運んでくれたおかげでより美味しく仕上がったトラウトの香草焼きとムニエルもふわふわして口当たりと風味がよい。シカのローストもよい焼き加減に仕上がっていて、見た目からして美味しそうだ。アスタは切り分けながら「今年のパーティーはとても豪華だな」とニコニコしていた。
ウサギ型魔獣の丸焼きには野菜が詰まっており、こちらも食感が良くて腹持ちもよさそうだし、イノシシ肉のミートパイも良い香りだ。
ご飯の後にはサシャお手製のケーキと皆で作ったクッキーもある。ただ、このクッキーはちょっとたくさん作りすぎたようで、後に冒険者にも配られることになる事をまだ知らない(後に薬屋三兄弟が冒険者ひとりひとりに袋詰めのクッキーを渡した)。
料理に関してはエミリアの手ほどきを受け手伝った子供達も奮闘している。その事を紹介すれば、揃って改めてエミリアへ感謝の言葉を贈る子供達。
またストレガは材料を無駄なく使うコツを伝授していた。
「小骨は野菜屑と共に煮込んでスープの出汁にして、殻は肥料にするといいのだ。根菜類と硬めの肉をそれでスープにするとより美味しいのだ」
寒い冬には有難い、旨味たっぷりのスープ。これも人気で作り手たちはとても嬉しそうだ。
「身体が芯から温まりますね」
「野菜が苦手な子たちも、これなら食べているみたいね」
ミアがほっ、とした笑顔でそう言えばエミリアが気付いたことを語る。柔らかいので口に入れやすいのだろうか?
幸せそうに食事をするヘレンに、イズルはお茶を勧める。ツァガーンナルが入れてくれた紅茶だ。ヘレンは二人に感謝し、「美味しい」と満面の笑みを零す。ツァガーンナルはその言葉に頬を赤くした。
サイラスは料理を適当に摘まみつつBGM係に徹しようとしていたが、途中からラティアやヒュー、シェルリアなど楽器に興味を持った者達も加わり聖霊節に合うメロディーが会場にあふれる。
「あの、これもおいしい、よ」
「おう、ありがとな」
あまり食べていないのでは? と思ったサラがサイラスにスープと肉団子の煮込みを差し入れする微笑ましい一場面も。
楽しい音楽と美味しい料理、甘いデザートが揃った聖霊節のパーティー。子供達の溢れんばかりの笑顔を見、サシャは自分も満たされるような感覚を覚えていた。
子供達の首にはエヴァンお手製のキャンディーレイ。アルマが飾ったテラリウムのランタンの光も広間を輝かせ、ムードを盛り上げる。
「ユアン先生は、忙しそうだったけど元気だよ」
エヴァンとアルマはユアンの故郷である大森林・エルタニン里で彼女と会っている。その時の事を話せる範囲で話す事で、子供達だけでなくタバサたちも少し安心したようだ。
(ユールフェス中止のお知らせ! なんて言ってたのがだいぶ昔のことに感じられるよ~)
子供達の笑顔を見、エヴァンと微笑み合いながらアルマは少し懐かしく思うのだった。
食事がひと段落すると、コハクが手品を披露してくれた。子供達はそれに大盛り上がりだ。年少の子たちは、それよりもコハクのふわふわとした尻尾に興味津々だった。中には抱き着く子もいたりして、思わず苦笑してしまった。
賑やかな中、スーは少し離れた窓辺で外を見ていた。丁度雪が降り始めたのだ。
彼は狩りでの事を思い出し、「安全で、食うものがある。いい事だが、ちょっと甘えちまってるな……」と自己反省。
(冬が明けたら、しばらく遠出でもするかな)
旅の事をイメージしていると、少しだけ身体が疼くスーだったが、子供達が彼の手を引き踊ろうと誘う。ラティアたちの演奏が楽しいらしい。
「しょうがねぇな」
少しだけだぞ? と苦笑しながら彼は子供達に誘われるがまま踊り始めた。
その裏で……ミアお手製のプレゼントをいつ子供達に渡すかの相談が。
「普段はどうしているのですか?」
「パーティーの、終わりか、な」
ミアとサラがタバサに問うと、彼女曰く毎年まちまちなのだそうな。
そこで今回はパーティーの終わりに上げることに。喜んでもらえるかドキドキしているミアに
「きっと、喜んでくれる、よ。とっても、素敵」
とサラは出来た組紐を見て微笑んだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。ご馳走はあらかた無くなり、子供達はお腹も心も満足だ。
子供達にプレゼントを渡すと、皆喜んでくれた。このような繊細な細工を貰うのは初めてなのか、珍しそうにしている。
「これの使い方を教えたらどうかな?」
「それはいいアイデアですね!」
コフィのアドバイスもあり、ミアは組紐の使い方を子供達に教える。すると、特に手先の器用な子が綺麗に結び、目を輝かせた。
パーティーの後、ヘレンは狩り組の面々と共にクマの毛皮を売ったお金を寄付したい、とタバサに相談した。彼女は暫く考え、鍵付きの箱にそのお金を入れる。
「ユアン先生、きっとびっくりするわよ」
とお茶目な笑みで感謝の意を表した。
「みんなお疲れ様」
エヴァンが皆へ声をかけると、サイラスは照れくさそうにちょっとそっぽを向きながら
「まぁ、飯も美味かったし……楽しかったからな」
と笑う。他の冒険者たちも同じような気持ちなのだろう。皆、とてもいい笑顔をしていた。
こうして、ポップ孤児院の聖霊節祝いは幕を閉じた。子供達のカードを受け取ったタバサは深々と礼をする。
「後日、改めてユアン先生へ届ける依頼を出します。その際をよろしくお願いします」
(終)
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:少ない16 / 5〜25人
2022年01月17日 11時18分07秒 公開
参加者
相談掲示板
エヴァン・ピオネロです。よろしくお願いします。 何をするかは考え中なので、挨拶だけさせて頂きました。
ミア=リゼルです。よろしくおねがいしますね。 私は子供たちにプレゼントを作ろうかと… 具体的には、タッセル付きの組紐を一緒に編んで、ブレスレットやアンクレットを。手細工や裁縫スキルが役に立つかと思います。もちろん、スキルがなくても。 もしお手伝いいただけるようでしたら、お声がけください!
シェルリア・リトヴァールといいます、 よろしくお願いします! 私は子供達と一緒にお祝いカードを作りますねっ。 絵を描いたり、文字を書くお手伝いをしようと思ってます。
No.4
サイラスだ、よろしくなー 狩猟折角あるから狩りをするわ
選択肢2で、アルマと飾り付けを頑張る事に成りました。 同じく飾り付けを考えてる方は、よろしく…お願いします!
No.6
スール、キャスターだ 俺も狩りに出る予定だぜ。 時期的にあんまりでかい獲物はいねぇかもしれねぇけどな。
アルマだよ、どーぞよろしくねー エヴァくんと一緒に2番で飾り付けをがんばる予定だよ
シューター、サラ、です。よろしくおねがい、します。 えっと、わたしも、狩り、する、ね。それと、木の実を集めたり、とか。 …もう冬だから、あんまし、無い、かも、しれない、けど…。
ヘレンだよー。 熊でも狩にいこっかな・・・。
イズルです。よろしく。 俺はまだ名乗りのない料理にでも入ろうかと思ってる。 豪華なものは作れないが、楽しい時間になるように努力する。 あと、お菓子を飾るらしいから、NPCに手伝ってもらえば出来るならクッキーも考えておく
サシャと申します。お見知りおき下さい。 【1】でお手伝いしますね