【竜盤】匠王の完璧刀鍛冶教室
九蓮宝燈
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シナリオID:1746
オープニング
『匠王』シグルラン。
匠王――ドワーフ王の座は鍛冶の腕で決まる。
シグルランは生まれつきチャラい性格であるため、そうは見えないが、ものすごいつよつよ鍛冶師である。
シャルガネでなんやかんやと修行し、見事失われた刀の製法を蘇らせた才媛である。
シグルランは、何度目かになる邪竜バイアーディスとの戦いの戦勝祝いの席で人垣に囲まれていた。
シグルランは長椅子に円座を敷き、火酒を飲んでいる。
つまみはじゃがいもとソーセージが、ハーブやチーズと一緒に同じスキレットで焼かれたような荒っぽいものだ。
酒はいつだってどんなだって美味いが、つまみは飽きたものだった。目新しいものがほしい。都市同盟あたりでは、今は何が流行っているのだろうかと気になっている。
「ぜひご教示いただきたい。刀の神髄を」
シグルランの思考をヒゲ面の男が中断させる。
鍛冶の知識を教えてほしい。そう言う鍛冶師は後をたたない。
どんな席だろうと、シグルランがいれば一人二人は必ずその話題を持ちかけてくるものだ。
しかし……。
「何度も言ってるっしょ〜? ガッとしてじゅわーってしてキンッってやるのよ〜」
シグルランはノリで生きるギャルである。
説明しようとするとどうしてもいつもこんな感じになってしまうのだ。
「頭で理解しようとすんなよ〜! 心で感じろよな〜!」
シグルランはわからないほうが馬鹿なのだと言わんばかりの態度である。
こんな調子であるが、玉鋼を炉に入れた瞬間、彼女は神を降ろしたかの如く透徹した職人の顔になる。
それを知っている鍛冶師たちは、訊き方を変えればあるいは……という希望にすがって食い下がる。
「しょうがないな〜、じゃ、講習会してあげるよ」
ヒゲに囲まれるのに疲れたシグルランがそう約束した。
質問責めしていた鍛冶師たちがざわめく。
「そーだ! 冒険者のヒトたちも呼ぼ! こないだの件でお世話になったし〜」
そう言ってシグルランは場所と日時を指定し、冒険者ギルドへ依頼を出せと命令した。
「ついでにバエるスイーツと気の利いたお酒も用意しといてね〜。教えてアゲルんだからそれくらいトーゼンでしょ? じゃ、ヨ・ロ・シ・ク♪」
鍛冶師たちにちゃっかり貢ぎ物を要求し、シグルランは円座の上にあぐらをかいた。
解説
マスターより
リプレイ
ドワーフ王国のとある鍛冶場で、匠王シグルランは幾人かのドワーフに囲まれていた。匠王自ら希望者に刀鍛冶を教える講習会をしているのだ。
いくつかのグループに時間差をつけつつ、順番に教わる仕組み。
そして、次のグループの順番が来る。
「にゃ! シグシグだー!」
「サフィ~! 元気だった~?」
ギャル友であるサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとシグルランは抱きあって再会を祝した。
「シグちゃんも無事なようでよかったです。大分危なかったようなので」
「ミーナも来てくれたんだ~! 今日は楽しくなりそう~」
シグルランはヴィルヘルミナにハイタッチを求めた。
ヴィルヘルミナはシグルランに挨拶しつつ、周囲のドワーフ鍛冶師の視線を気にした。
鋭いものはあるが、とがめるよりはうらやましいようだ。
「バイアーディスに襲われたって聞いたときはビックリしたよー! でも、無事に帰って来てくれてよかったぁ!」
サフィラが言う。先日の決戦でシグルランは結構ピンチだったのだ。
「ヤバかった~! ほんのり護衛を気にしてくれてる人はわりかしいたみたいなんだけど! ガッツリ気にしてくれてるコいてよかったぁ~~!」
シグルランは二の腕を抱えた。
そして冒険者の中にアルマ・ヴァレンタインの姿を見つけた。
「アルマもひさしぶりだね~!」
アルマは以前シグルランにスタイルの秘訣を聞いて「鍛冶への想い」という答えを得ていた。
「鍛冶頑張ってみたけど、おもちがおっきくならないよーっ!?」
抗議するアルマの体の前面はすとんっとしていた。
「おっかし~な~~。みんなそうなのに~」
シグルランはいぶかしんだ。ドワーフの鍛冶師たちはもれなく切り餅のごとき盛りっとした大胸筋をしていたからだ。
アスカ・タチカゼは震えていた。
幼少期にシグルランが打った刀を見て以来、刀と東方文化に傾倒。シグルランに対しては憧れというのも生ぬるいほどの巨大感情を向けている。
この講習会には枠以上の希望者がいて、アスカは当選の知らせを受け取ったとき「明日死ぬかも」とすら思ったのだ。
シグルランの姿を見るや否や、両膝をついて正座の姿勢から上半身を折り曲げた。
「ふぇっ!? どうしたのこのコ!」
「これが東方式の最大限の敬意と誠意を表す所作と聞いたことが!」
アスカは驚くシグルランに精一杯の貢ぎ物を捧げた。
「お初にお目にかかります、アスカ・タチカゼと申します。と……刀匠! です!」
「へぇーアスカね! アタシはシグルランよ~よろ! 刀打ってるヤツはだいたい友達だしぃ? 気楽にしてね!」
お互い名乗りあい、アスカはようやく顔を上げたがまたしてもシグルランは驚いた。アスカがボロ泣きしていたからである。
「ありゃ、よしよし、顔拭いて」
シグルランはハンカチをアスカに渡した。
「それアスカのにしていいからね! みんなは、アスカが落ち着くまで流れの説明とかしようか~」
シグルランがそう言うとアルマはサッと動いてアスカに椅子をすすめ、机の上を片付けた。
貢ぎ物持参で入ってきたサイラスの姿を見て、ドワーフ鍛冶師たちにざわめきが走る。
邪竜種から被害を受けてきた歴史があるドワーフ王国では、リザードマンまでにもその恨みを向ける者がいる。サイラスへの風当たりは強かった。
サイラスは自分が彼らの立場だったらやりづらいだろうと思ったし、また、彼らは匠王近くに侍っているのだからおそらく自分より技量が上の鍛冶師であろうと考えたため、匠王の技術を得るチャンスだと割り切って反発しないようにした。
「こらー! この人はウチのピンチを助けてくれた冒険者なんだから! 失礼なことすんなよな!」
しかしシグルランが気づいて鍛冶師たちに注意したのだが。
その騒動の間、悠人・ラドルファスは前のグループの作業を見ていた。
手の遅い者はちょうど焼き入れの作業をしているところだった。
いくつかの刀がそれぞれの曲がり方で反っていくのを見送ったあと、悠人は冒険者たちが集まっているほうへ移動した。
●
冒険者たちはシグルランに貢ぎ物を持ってきてくれていた。
流行の発信地都市同盟、その中でも最も存在感のある有力都市リブラネスタを拠点とする冒険者たちのオススメスイーツと酒は、ドワーフ王国では入手しにくいもの。
シグルランはほんの少しでもあればいいなと期待していたが、思った以上にあったので大変喜んだ。
「すっごぉ~~い! これそんなに流行ってるの~~?」
同じラベルのワインがいくつもあるのにシグルランは気づいた。
「ファーツの特産ワインだよー。こっちじゃ珍しいと思って~」
「へぇ~! これだけあれば十分味がわかるね~!」
「これ、軽くつまんでいただければと」
ヴィルヘルミナはマカロンを持ってきていた。
中身はチョコクリームやジャムなど、数種類あるようだ。
「この包みはお店のじゃないよね? もしかしてミーナが作ったの?」
シグルランの問いをヴィルヘルミナが肯定した。
「すごい女子力~!」
「まぁ、趣味程度ですが」
ヴィルヘルミナは謙遜するが、シグルランは大変気に入ったようだ。
「教わるにあたって土産なのだ」
ストレガ・L・リベルガストラが机の上に籠を置いた。
中はチョコパイ。つまみ食いしたシグルランは、ほんのり酒の香りがすることに気づいた。
「何これっ!? 酒がいくらでも飲めそう!」
シグルランにとって酒精入りの菓子はチェイサーのようだ。
「生地にシャルガネ産の清酒を混ぜ込んであるのだ。甘みはとっておきの砂糖」
「へぇ~どーりで! 蜂蜜を使うと匂いがするもんね」
「シャルガネは酒も美味しいのだ」
そう言いながらストレガは荷物をごそごそし、次のお土産を出す。
「へぇ、お茶? ゴールディのアレ?」
「ベールコート産百合茶なのだ。シグちゃん殿はキレーになってほしいのだー」
「健全なヤツじゃーん! これから刀打つんだし、これはちょうどいいね! 早速淹れてい~い?」
シグルランが指示を飛ばすと、気の利いたドワーフ鍛冶師が鉄瓶を火にかけた。
「あたしからはこれっ!」
サフィラが蒼の洞から一つの包みを取り出した。中身はよく冷えた小ぶりの樽と、人数分の皿に載った菓子。
「マリトッツォのタピオカミルクティー味だよっ!」
「すごーい! アタシの好きなもののハイブリッド~!!」
クリームがミルクティー味で、中にタピオカが混ぜ込んである。タピオカからは強いアルコールの香りがした。
「今お酒は飲まないのなら、これは氷室に入れといてっ!」
「こっちは?」
「柑橘類のリキュールだよ!」
オレンジ、レモン、ライムの三種の柑橘類を搾って火酒に漬け込んで作った、アルコール度数とフルーツの香りと酸味を両立した特製の酒である。
「こっちも美味しそー! サフィ、やるぅ♪」
ギャルっぽい感性をもつサフィラのチョイスはシグルランの好みにもよくあったようだ。
間を見計らってサマエラ=フォリウムが紙を折った箱を差し出した。
「簡単なものではあるが、こちらは差し入れだ」
「サマエラも? ありがとーっ」
シグルランがウキウキしながら箱を持ち上げると、軽く、何かが転がる感触がした。中を見ると、白黒の丸い菓子だった。
「スノーボール……冬なので、雪の塊のようなクッキーを」
「へぇー、風情があるね!」
このクッキー、何気に甘みづけはカロリーの低い甘露アリの蜜で、粉糖やココアパウダーはまぶしている分だけ。
刹那的快楽主義で、生活習慣病のために天寿を全うできない者が多いドワーフに対しての奥ゆかしい気遣いがなされた一品である。
続いて出てきたアルマのお土産はギャラリーをどよめかせた。
「ボクからは干物詰め合わせセットー」
「塩っぱいのきたーっ! 鍛冶してると汗かくから、こういうの欲しくなるんだよね~」
「お肉には飽きてると思ってー」
「そうなんだよねー。ココ山だからさー」
シグルランは大量の干物を一つずつ見ていちいちへぇー、へぇーと感嘆している。
「スイーツも作りたいから、厨房貸してくれるー?」
「できたて食べられるの!? 楽しみ~! もちろんいいよ~」
シグルランはウキウキでおつきのドワーフにアルマを厨房まで案内させた。
アルマは腕いっぱいにいくつものフルーツを抱えてドワーフのあとをついて行く。
●
「じゃ、まずは、軽~く説明するね!」
そう言いながらシグルランがお手本として取り出したのは赤い刀。サマエラやアルマが入手してきた、緋緋色姫のドロップ品の玉鋼から打ち出したものである。
「これはバエるように作ってみたんだ~」
赤い刀身を皆に見せて、ここが刃文、ここが肌と用語を説明していく。
共通認識ができたところで、シグルランは冒険者たちに問う。
「どんな刀を作りたい?」
サイラスはいろいろ迷った挙げ句「普通ので」と言った。
表出したことだけを見ればやる気がなさそうに見えるものの、内心では両刃・直刀などパターンを考慮した上で、技術を学ぶには凝らないほうがいいと結論づけたのだ。
鍛冶をよくするドワーフであり、鍛冶も武も十全であってこそ一人前という部族の出のヴィルヘルミナは基礎的なことは十分わかっているようだった。
「せっかくですから刀身は青で、それと皆焼に挑戦してみたいです」
皆焼とは本来刃の部分だけに入れる焼きを刀全体に入れること。普通、棟を焼かないのは刀を折れにくくするための弾性を保持するためで、それをせずに丈夫な刀を作るにはよい鋼を丹念に鍛えて補うという上級テクニックだ。
「おっ渋いね! やろうやろう」
「私は包丁のように身を綺麗に切り裂く短刀だな……それと、メモをとらせてもらってよいのだ?」
ストレガは指南書を作りたいと言った。
何度も尋ねられるのはシグルランが疲れるから。心で理解する知識はストレガもわかるし、大事にしたいと思うが、それはそれとして頭で理解する部分だけでも本に頼れば教える手間も軽減できるというもの。
「門外不出と言うならシグちゃん殿にだけ寄贈するのだ」
「焼刃土の配分だけはNGだけど、他は書いていいよ~」
刀匠が増えるのはシグルラン的には歓迎らしい。
ストレガはメモに注意書きを書き込んだ。
作刀も記述も真剣だけに真剣に取り組むつもりだ。
「キャンプ用のサバイバルナイフ、刃の色は青色とかできるっ?」
秘境探索を生きがいとしているサフィラは武器と言うより道具のようなものを希望。
「おっけー。せっかくだから鋳造じゃなくて鍛造にしよ! ねーっとり教えてあげる♪」
青い玉鋼をシグルランに渡されてサフィラは驚いた。
「にゃ! あたしが打つのっ?」
「大丈夫! イケるイケる」
サフィラはシグルランに打ってもらうつもりであったがシグルランはサフィラを鍛冶沼に引き込む気満々であった。
サマエラは見本を見て気に入る刃文があったようだ。
「色は朱殷……刃文はのたれ刃で」
サマエラの現在の愛刀も朱殷である。新しいのもその色は据え置きで。そして、ゆったり波打つ刃文の穏やかさを盛り込みたいと言う。
霊刀として用いたいので、自身の信仰する神性との親和性を考えてのことだ。
「おっけ! じゃ鋼はこれかな?」
シグルランは熟れた桑の実のような玉鋼を取り出す。これは赤いだけでなく、色の濃淡が強く出るという。
「芸術性などなくていい。長く使えてよく斬れて、欠けても修復しやすいものがいい」
悠人はこれから続く長い戦いに向けて、より多くを斬れる刀を望んだ。
「黒い刀なら夜で刀身見えづらくなる?」
「明るい色よりはそうかもね!」
シグルランにその他の部分も見繕ってもらいつつ、悠人は見本の刀をいくつか抱えた。
「これ、試し斬りしてきていい?」
「いいよ!」
悠人は鍛冶場の外で藁束を斬っては刀の特徴に見入っていた。
休憩して落ち着いたアスカは。
「芸術性より性能重視で、色は薄くでも桃色がかったのか、橙で……」
シグルランの三つ編みをチラチラ見ながら言った。
「ピンク? いいね、かわいい刀になりそう!」
シグルランはやや赤みのある玉鋼を選定。
●
生ける書庫たるストレガが筆記具を手に観察する中、鍛冶教室が始まった。
鍛冶場は火を使うためとても暑い。
「ときどき休憩して水分をとってねー」
過酷な作業場を覗いてアルマは差し入れに必要なものを思い浮かべる。
アルマは自分の役割は皆にやる気を出してもらうためのサポートだと考えていた。
「じゃ、まずは水減し! 小割!」
玉鋼を熱して叩き、五ミリほどの厚さにして水に入れるのが水減し。それを三センチ角に割って選別するのが小割。硬いところは皮鉄に、柔らかいところは心鉄に使う。
その次は積沸し。割った鋼を熱して台の上に積み重ね、紙で包み藁灰と泥汁をまぶして火に入れ、融かしてそれぞれ一つの塊にする。
アスカは作業中のシグルランに触っていいか尋ね、危なくない範囲ならOKという返事を得た。ということで作業の合間にお触りタイムがもうけられた。
「これがシグルラン様の感覚……すごい」
アスカの中にシグルランのキモチが流れ込んでくる。
「何よりシグルラン様に触ってるのがヤバいヤバいヤバい!」
ストレガとサイラスは感極まって泣きじゃくるアスカから読み取った情報を聞き出した。
「じゃ、お待ちかねの鍛錬だよ~♪」
鍛錬はとても刀鍛冶らしい作業である。
平たく熱した鉄の塊に切れ目を入れ、そこを折れ線として畳み、叩いて伸ばす。それを繰り返し、何度も鍛えるのだ。
「横座はシグちゃんがやってくれるんですか?」
このときの折る方向で肌模様が決まるのであるが、ヴィルヘルミナは同じ方向にひたすら折ることにした。
サイラスは彼女たちの仕事を目と耳でよく観察していた。
次はサイラスが教わる番。
たかが蜥蜴に何ができるのかと見くびっていたドワーフたちだったが、サイラスが槌を振るいだすと空気が変わった。あいつはなかなかやるじゃないかと、素直に感嘆する者が徐々に増えていく。
「うんうん、鋼の叩かれたがってるところ、よくわかってるね!」
サイラスの横座についたシグルランはえらそうにコメントした。
(不純物を、取り除く過程……)
サマエラの目に飛び散る火花が映る。火花の正体は鉱滓である。
鋼の純度を祈りの純度になぞらえ、神への想いを注いで、丁寧に延ばしていく。
(……あなたの助けで命を拾ったことが、何度あったことか。この信仰で以て、返せる恩であれば、良いのだが)
サマエラが旅の途中で出会い、唯一の信徒となった、誰にも読めない文字で名を残された女神への祈りを籠めて、一打一打、迷いなく大槌を下ろしていく。
折り返す回数は心鉄は五、皮鉄は十五が目安である。
「これを普通の倍やりこんだら心鉄って強くなるもんなの?」
「やりすぎると逆に脆くなるんだよネ~。叩いて散らすと鋼もどんどん減っちゃうし。強くしたいのなら、四方詰めしてみる?」
悠人の質問に対し、シグルランは別解を提示。
普通の刀はマリトッツォだが、四方詰めは心鉄の四方を四つの皮鉄で包む方法。単純に工程が増えるのでその分難易度は上がるが、切れ味も上がる手法だ。
懲り性なところがある悠人は首肯し、他の者より多くの時間と手間を費やす。
「じゃ、この流れで造り込んでいこうか!」
鉄を棒状にする素延べ、小槌とヤスリで刀の形に整えていく火造りの作業。
「これを水に浸けるとギューッてなるから今はシャッってしておくこと!」
シグルランの助言はこんなものであるが、悠人はすでに十分な観察を終えていた。
斬れ味に直結する反りには悠人はとことんまでこだわるつもりのようだ。完成を思い浮かべて最適を目指していく。
鍛冶場の隅のほうで一人静かに作業していたサイラスの刀を一目見てシグルランは親指を立てた。
「これからも励めよ!」
サイラスは素の技量もさることながら、群れこそしなかったものの、真剣に貪欲に学ぼうとしていた。
シグルランにはその結果が見えたようだ。
焼き入れの前に土を置く作業。
ヴィルヘルミナは宣言通りの皆焼。刃の全体に均等に焼刃土を置いていく。
赤熱した刀を一気に湯に入れると一瞬刃側に曲がるが、すぐに反対へと反り返る。しかし土の濃淡がない皆焼の場合その反りは控えめ。
棟に入った湯走りは、折れやすくなるという説があることを呑んで、引き換えに切れ味を増した証である。
最後は、鍛冶押し・茎仕立ての作業。粗さの違う砥石と鉄粉で表面を整え、茎に銘を入れる。
(銘はそうだな、神に捧ぐという意味で無銘でもいいが……)
サマエラは切り開く意、『開』の銘を入れた。これは現在の刀を引き継いだものである。
(私の名……は、要らないな)
銘だけを掘って鏨を置いた。
サイラスは鏨を持たなかった。
「銘入れないの?」
「作るまでが俺の仕事、以降は使う人の仕事だし……」
シグルランが尋ねると、サイラスは目を逸らしてごまかした。
ストレガはメモに『実際にやってみなければ真に鍛冶を理解することはできない』と書き入れ、シグルランに尋ねた。
「で、手入れはどうすればよいのだ?」
「とにかく錆は大敵! 丁字油をちょくちょく塗り直すんだよ。柄を抜いて茎までね!」
古い丁字油は打ち粉を振ってから拭うと落ちる。油は紙につけて塗り、茎までしっかり均一に、ということだ。
●
サイラスの刀は基本に忠実な、平凡なだけに制作者の技量があからさまに出る仕上がりになった。
刀身は平均より長寸で肉厚、サイラスの大柄な体にあわせたサイズ感である。反りは大きめで鍔元が広く切先の幅が狭い。
刃文は直刃だが、一部ほんの少し崩れがあるのは愛嬌。光を当てると強く輝き、これは刀匠の腕のよさを示す証拠である。
肌は如鱗杢。
遠目に一見すると地味で無骨ながら、よく見ると繊細さや几帳面さが見える。
ヴィルヘルミナの身長で扱いやすい、七十センチ超ほどの刀。
摩擦抵抗の少ない狭めの身幅。
刀身はうっすらと青みがかっており、小沸には星のような煌めく粒が散っている。
水面のごとき皆焼、川の流れのような柾目肌も相まって、明鏡止水とも言うべき刀匠の風情を感じさせる。
ストレガの刀は筍反りの短刀である。
全体に身幅は狭めで、特に元幅に対して先幅が細い。鋭い形状は肉の切り口を美しくするための工夫である。
切先は大きくふくら張る。
峰は包丁のように手を添えて押し込みやすい三つ棟。
切れ味重視のため重ねは薄め。
肌はダマスカスに似た板目。
刃文は広直刃で、これも強度より切れ味を重視した結果である。
「なんとかできたかなっ!」
銘を入れ終わったサフィラが額を拭う。
できあがったのは、使い続けても疲労しにくい薄型軽量、柔らかめの鋼を使った山刀風の和式鍛造ナイフである。
野外で道なき道を藪や竹を斬り拓いて進んだり、細い枝を払ったりするための道具であるため、折れにくさを重視している。
色は夜天のような蒼。
せっかくなので刀の製法で作り、焼き入れも行ったため、刀と同じに刃文がある。銀河のような板目肌に星屑のような沸が散り、星雲のような湯走りがある。
サマエラはできあがった肌目を凝視していた。
偶然浮かび上がった肌目は杢目肌であるが、紡錘形の模様がどこか眼のように見える。
色は凄惨な朱殷。棟側は夜闇色で刃に向かうにつれて徐々に血の色に変わっていく。刃にはノイズのような金筋が入る。
刃文はのったりと波打つのたれ刃。全体におどろおどろしい雰囲気があるが、そこだけはなぜかとても穏やかである。
そして冴えた匂口がどこか亮かである。
「如輪杢ならぬ、如眼杢ってカンジ?」
不思議な肌目を見てシグルランが言った。
悠人の刀は実用一本の無骨なものであった。
折れず、曲がらず、よく斬れる、四方詰めの肉厚の大太刀。甲冑を断ち斬る大きな切先。切先は全体が焼刃となった一枚帽子で、これは最も損傷しやすい部位である切先の研ぎ直しを前提としたものだ。
反りは雄々しく豪快な中反り。
肌は鍛錬時に折り返し回数を多めにしたため、一見すると鏡肌にも見えるほどの、ごくごく細かい梨地。
刃文は細め直刃で、中程よりやや茎側に新月のようなの打ちのけ。
黒い玉鋼を使ったこともあって全体的に色の濃い印象に仕上がっている。
「……道具揃えれば俺も自分の家でできるかな、こういうの」
アスカの刀は体格にあわせた大脇差。先端の反りが最も大きな先反りで、こういった刀は素早く抜刀できるという性質をもつ。
全体はほんのりと黄みがかった桃色に色づき、橙色の沸が散っている。
刃文は簾刃。葉の飛ぶところがあり、沸はやや崩れて、和紙に筆で線を引いたように刃文が滲んでいるように見えるところがある。沸の崩れは美術品としての刀であれば減点の理由となるが、荒波のような力強さと生命力を感じさせ、アスカの雰囲気によく似合っていた。
ある程度は作業を見学していたが途中退室し厨房に籠もっていたアルマが皆を呼びに来た。
「みんなー、シブーストが焼き上がったよー」
休憩用のおやつは蜂蜜を使い生地もハニカム型に成形した、林檎を始めとする数種類のシブースト。カラメルソースの香ばしい匂いが鍛冶場の空気に混じる。
「いいのできたー?」
「うん! アルマもなんか鍛冶のことで何かあったらいつでも言ってね~」
アルマの分の刀がないのでシグルランはそう言った。
「原型はできたのだ」
ストレガは用紙をまとめて汗を拭った。インクが落ちた汗で滲んでいるのはストレガの実践の証である。
記されているのは、一に聞いたこと、二に見たこと、三にやったこと。
三で掴んだことや他の参加者から聞いた感想で一が補強されている。
これにさらに詳しい解説と推敲、挿絵を描き足しわかりやすくしていくと指南書になる。
しかしすべての技術が師に教わっただけで全く同じにできるかと言えば、そうでないケースのほうが多いであろう。
(見ただけではわからぬ。研鑽とはやってみせてこそなのだ)
シブーストにフォークを入れながら燃え尽きたアスカがしみじみと言った。
「はー……人生もう終わってもいいかもしんない……いい人生だったなぁ」
講習会はこの先何度も来るであろう、アスカの人生における最良の日の一つであった。シグルランへの憧憬が更に深まったようだ。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:少ない8 / 6〜8人
2021年12月29日 11時05分51秒 公開
相談掲示板
No.1
サイラスだ、よろしくなー まあ内容的に相談する事ほぼ無い気もするけども。 宣言や誰かと一緒に動くつもりだとか、カスタム被り嫌ならここで擦り合わせるとか? 個人としては鍛冶スキル持ち込みで刀打とうかと 他の汎用は見た目意識するならおしゃれさんや鞘の素材にする物の加工スキルとか辺りにしようかと。 対人関係は避けると思うので、NPCとの描写関連で他のPCとのトラブルは無いと思いたい。 後はOPから考えてお酒と菓子持ち込んでおくつもり 後はカスタマイズするなら工程5、6あたり描写希望が人気になりそうだなぁとか思いつつ、工程3と何処か描写希望のカスタマイズは考え中なので、そこ友達と希望するけど俺と被るの嫌とかあるなら早めに言ってなー。
ヴィルヘルミナです。よろしくお願いしますね。 私は最初にお菓子の差し入れ持ってくるくらいで、あとは刀打っていると思います。 既に持っている得物が自身で打った物なので、その設定の補強か新しく打つかかな・・くらいかと。 私は特に被りとかは気にしませんが、何かあるなら言ってくだされば。
アスカだよーよろしく! あたしもとりあえず一振り打ちたいかなって思う。 思うんだけどそれよりも何よりもシグルラン様と対面って事で情緒不安定で最初っから泣いてる。 シグルラン様とのやりとりメインでいこうと思うけど……問題ありそうなら言ってもらえたら!
サフィラだよっ!よろしくね! あたしはシグシグに差し入れとおつまみ作りながら刀作るところ見学しよっかなぁ あとは刀打つ子たちにも何か作るよっ!
ストレガなのだ。よろしくなのだ。 包丁研いだりするし研鑽のひとつとして。 スイーツを所望だし何か作ってくるのだ。
ゴブリン、サマエラだ。 よろしく頼む。 こちらも刀を打ってみる予定だ。 工程被りは気にしないが、とりあえず7と他どこか、で考えているので、 もし何かあれば、私も言ってもらえたらと思う。 菓子もそうだな、簡単なものになるが、何か持参しよう。
アルマだよ、どーぞよろしくねー。 お酒やおつまみ、スイーツ作りがメインになるかなと 字数に余裕があれば刀作りの見学か基礎工程の1~2をかじらせてもらうかも? あとちょっとだけお話をする予定だよ