【黎瞳】宵の徒花【黎銀】

炙りとろ左門

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シナリオID:1742

オープニング

 キサナ領主ヴィクセル=ストゥルルソンは執務室にて溜め息を吐いた。椅子の背もたれに身を預け、髪をかきあげる。
「なかなかきな臭いことになってきたな」
「何がですか?」
 ヴィクセルの言葉に、少年少女が顔を上げる。先日、冒険者によって窮地を助け出された少女ティシアと、その従者であるハールだ。
「子供に聞かせる話ではないが……いや、君たちも今後このキサナで生きていくのだから、必要なことではある、か」
 ヴィクセルは書類の束を机の上に投げ出す。
「ベイリア商会——イフリータを利用し、ティシア、君を攫おうとした商会についての報告書だ。また懲りずに君に手を出してくるかもしれないから、調べさせていた」
「何か良くないことがわかったのですか?」
 ティシアは報告書をめくり、ハールにも見えるようにする。
「レイカ……?」
 そこには小ぶりな花をつけた植物の絵と、その植物をベイリア商会が集めているということが書かれていた。
「ああ。イグノ砂漠に咲く珍しい花だ。月明かりを受けると淡く光る。その花弁や葉、根にいたるまで……薬効と強い毒性を持つ。だから禁制品とされているんだ」
「それを、ベイリア商会が集めている……」
 ハールは考え込む。そのあとを、ティシアが継いだ。
「つまり、悪いことですよね」
「ああ、そうだ。何に使うのかまではわからないが、少なくとも良いことではないだろう。そして私は……今回の事態の黒幕である彼らを徹底的に叩きたいと思っている」
 ヴィクセルの冷えた声に、ティシアとハールは背筋を伸ばした。短い付き合いながら、ヴィクセルは基本的に温厚な性格だ。それがここまで分かりやすく怒りをあらわにしている。キサナで人身売買に手をつけた者たちの処罰を決めた、その時以上だ。
「元々キサナで商売をすることを許した覚えはないが——いい機会だ。このロスガリアのどこに逃げても、二度と商売ができないようにしてやろう」

解説

皆さんはキサナ領主ヴィクセルから、とある商隊が運んでいるものの差し押さえを依頼されました。 月明かりを受けると淡く光る水色の小花、「レイカ」と呼ばれるそれは、その花弁や葉、根に薬効および強い毒性があり、非合法な薬品として利用できるために禁制品となっているものです。 差し押さえの際は取り扱いに十分ご注意ください。 成功条件:黒装束の傭兵を全て倒す、商人の確保 失敗条件:商人を取り逃す ■環境 イグノ砂漠の北西端です。 岩場がちらほらありますが、ほかに視界を遮るものはありません。 ■ベイリア商会の商隊 20人ほどの黒装束の傭兵と、荷台がふたつです。商人は一般人のようです。 ■エネミー ▶︎黒装束の傭兵×20  各クラス1名ずつの授恵者(レベル18相当)と、残りは鍛錬を積んだ傭兵(一般人)です。

マスターより

初めましての方は初めまして。こんにちは、炙りとろ左門です。 こちらは「【黎瞳】栄光をもたらす瞳」のエキシビジョンシナリオとなります。戦闘と商人の確保、わかりやすいですね! 前回の依頼に参加していなくても問題ありません。また、【黎瞳】シリーズはこれにて最後となります。 それでは皆様のご参加&プレイング、お待ちしております!

リプレイ

 リーンエス王国某所——。
 うらぶれたその小屋を、1人の少女が訪れた。
「遅かったですね」
「月明かりが弱すぎたの」
 言葉を交わす男と少女。小屋の中には他に、男を護衛している様子の人物が数名いる。
「黎瞳の民(シャヘリト)は、結局手に入れることができなかったのね」
「冒険者達に邪魔をされましてな」
「目立ちすぎたのでは?」
「それもありましょう。反省点ですな」
 少女は一旦口をつぐむ。そして、フードを目深に下ろした。
「レイカ……頼んだものは、届くのかしら?」
「ええ、今度こそ。ご期待ください、ディル——」
 少女は服の下からクロスボウを素早く取り出し、男に突きつけた。弦がぎりぎりと軋む。
「——なら、もういいわ。お疲れ様」

● 砂煙の中の戦い
 依頼を受けた冒険者一行は、砂に紛れることができるよう、同系色のマントに身を包む。冬場といえども砂漠を渡る風は厳しく、ヴィクセルの話では、もう少しすれば雪を被ることもあるのだという。
 月明かりは弱いが、視界は開けている。所々にある岩場と、連なる砂丘が身を隠せる唯一のものだ。
「ザザさん、どうでしょう」
「ん〜……」
 岩場の陰に隠れつつ、オゴスはザザ=ステルヴィナに状況を尋ねる。ザザをはじめ、オゴスやルベア・ベルニが交代で、【天眼】にて砂上に怪しい影がないかを確認していた。
「向こうもかなり警戒しているようね。近くにはいないみたいだし……足跡も風で消えちゃってるのかしらね」
 だが、だだっぴろい砂漠をむやみやたらに歩き回ることができない以上、【天眼】による索敵は良策の範疇であろう。
「それにしても。薬効と、強い毒性を持つ禁制品、ね」
 薬と毒は表裏一体である。ヴィクセルは「くれぐれも取り扱いに注意するように」と述べるにとどめたが、それについては物を確保後、話を聞かせてもらうことにしよう。
「ま、いずれにせよ——需要があるから供給されるのよね、こういうのは」
 ベイリア商会の背後に、組織か、あるいは個人か——とにかく「誰か」がいるはずだと、ザザは睨んでいた。この依頼の結果としてベイリア商会が潰れたとしても、その背後の存在の尻尾でもなんでも掴めなければ、同じことがまたどこかで起こるだろう。
「ティシアには直接関係なさそうだけれど……これまでのことを考えると、確かに碌な予感はしないわね」
 ルベアも目を眇めた。それに、スィーリーンも頷く。
「良くないことに使われる前に、防ぎませんと」
「ええ……商人の身柄は必ず確保します」
 商人の風上にも置けない輩だ、とリサ・ベイカーは鼻白む。
 リサにはひとつ、懸念があった。
 荷を抱えている商人は一体どのような立場の人物なのか。不測の事態となれば傭兵達が商人を口封じに殺すこともあり得るのではないか——と。
 他にも、荷を運ぶ者が商人だとは限らない。傭兵達の中に紛れている可能性もある。この不安定な足場において、初接触から取るべき行動は多い。
「傭兵連中をブチのめして、商人と物(ブツ)を確保しろってことだろ」
 アーテミシアが伸びをしながら、岩場の陰からそろりと顔を出して、延々と続く砂埃の向こうに目を凝らす。
「商人は五体満足で確保だけれど、傭兵は全員討伐対象だからね。授恵者であれ一般人であれ、手加減をする必要はない。こういうのは徹底的にやっておかないと意味がないし」
 ジュスト・ヴェルジーは魔法行使のためのステッキについた砂粒を落とす。別に砂まみれでも魔法の行使には問題はないが、手持ち無沙汰なのだ。
「ヴィクセルの話では、そろそろ周辺を通りかかって良い頃だが……」
 サマエラ=フォリウムが地図を広げる。目印らしい目印が少ない砂漠でのこと、歩測でなんとか周辺に張り込んでいる状況だ。だからこそザザが【天眼】で全方位を警戒しているわけだが、その知覚範囲にも限界というものがある。数kmもズレてしまえば発見できないまま終わってしまうかもしれない。
「少し場所を変えてみる……?」
 キリクがそう提案した直後、ザザがキリクを庇うように地に伏せた。
「みんな、準備して」
 ザザの言葉に、一同に緊張が走る。皆、己の武器を握りしめて姿勢を低くした。
「10時の方向、荷台を組んだ駝馬が2頭。護衛が……あの量の積荷を運ぶにはだいぶ多いわね。多分あれよ」
 ザザが【天眼】で把握した内容を共有した——その時。
 黒尽くめの集団のうち、1人がこちらに向かって矢をつがえたのだ。
「まさか、探知されたのか?」
「待って!」
 ありうる話だ。反射的に立ちあがりかけたシグルド・オルセンを、ザザが制する。一行が隠れる岩場に強射が撃ち込まれた。
「そうだとしても、作戦に変更はないわ」
 シグルドももちろん同じ思考に至っていたが、ザザは敢えて言葉にすることで乱れかけた全員の足並みを揃える。
「では、手筈通りに行きましょう」
 一同が頷くのを確認して、オゴスは隠れていた場所から飛び出していった。
 オゴスは砂を巻き上げるようにして走る。途中足がもつれそうになったがなんとかバランスを保ち、一気に距離を詰めた。それにシグルドが続き、声を上げて敵の注意を引く。
「貴様らッ……」
 駝馬を駆る男が色めき立つ。興奮した駝馬を落ち着かせようと、そばにいた男が轡を掴んだ。
 黒装束の者たちの意識が、急接近してきたオゴスとシグルドに集中する。
「動いちゃダメよ〜危ないもの」
「照らせ、踊れ、戯れよ——蝶よ、花舞え。……積荷に被害があっては困るからね」
 さらに、ザザとジュストが魔法で敵の移動を阻害した。ザザに至っては識別済みのメテオライトのお土産付きだ。
 降り注ぐエーテル塊の中、ひとりだけ難を逃れた——否、狙われなかったものがいた。シグルドとザザの【戦術眼】によって割り出された商人は、リサの懸念の通り、護衛の中に紛れていたのだ。
 リサとルベアは視線を交わして頷き、ルベアは飛び出した。
(それほどまでに庇い、隠したい人間ということね……!)
 であれば、何か重大な秘密を知っているはずだ。ルベアが跳躍した直後、リサが光縛封で周囲の人間と商人とを引き離すように隔離する。
 これだけの人数相手では光縛封もそう長くは保たないだろうが、作れば良い隙は一瞬だ。
「みなさん、投げますよ!」
 そして続けて、リサは閃光塗弾を投擲する。上空に放り投げられたそれは、強烈な光を放ちながら弾けた。
 何人か勘の良い者、あるいは戦闘慣れしている様子の者は目や顔を庇ったが、それは商人を担ぎ上げたルベアの脱出を手助けした。
「商人は捕まえたわよ」
 自陣に戻ったルベアが商人を砂の上に転がすと、キリクがさっとそれを縛り上げ、猿轡を噛ませる。自害されては困るからだ。
「こいつだけが必要なら、撤退と言えたんだけどな」
 シグルドが武器を構える。敵は、商人を取り戻そうとする者と荷物を守ろうとする者に分かれた。そして敵の1人が弓を引き絞る。
 エーテルが込められたその一矢は、シグルドとアーテミシアのいる場所に突き刺さると、周囲を重力波エーテルで包み込んだ。
「ぐっ……!」
「ま、オレらと同じことは考えるよな……!」
 2人はしかし、焦ることはしない。その後方から、サマエラが光縛封を唱え、その場から離脱しようとする駝馬を騎手ごと隔離する。そしてスィーリーンが、向かってくる敵に対しフリーズボルトを撃ち込み、間髪入れずにアーケインテンペストを展開する。
 しかし、その拘束を、敵のウォーリアは強引にチャージングで抜けてきた。不安定な足場での戦闘に慣れているのか、その動きには無駄がない。
「なかなか手強い相手のようね」
 ルベアが短剣を抜く。そして、キャスターを標的に据えた。
「ルベアさん、わたしが敵のヒーラーを牽制しますので」
「分かったわ」
 敵のキャスターが繰り出す範囲攻撃を躱しながら、ルベアは敵陣後方へと飛び込んでいく。
 斯くして、邂逅した一行は砂上で乱戦状態となった——。

── ○ ──

 床に広がる血溜まりを踏みつけて、少女は小屋を出た。ベイリア商会の頭目は始末した。これで、自分へつながる糸は断たれた。そもそもあんな少ない手勢でのこのこ出てくるほうが悪い。
 おそらく、侮られたのだろう。盲目の少女が男達に囲まれて抵抗などできるはずがない——と。捕まえて、どこかへ売り飛ばすなり、あるいは楽しむなり考えていたのではなかろうか。
 頭目はそのようなことは平気でやる下種ではあったし、少女自身もまた、そのように搾取されてきた。いつか、珍しい色味だ、魔術の触媒になると両眼を抉られ、足の腱を切られて逃げられないようにされた。少女の使い道は、眼以外にもあったから。
 昔の話だ——少女は足を引きずるように歩む。少なくともこの地での計画は達成された。ベイリア商会が用意したもの(黎花)は、この地から一掃されるだろう。その花が果たしていた真の役割とともに。
 少女の溜め息が、夜風に紛れた。

── ○ ──

「手も足も出ない、などという間抜けをするつもりはない!」
「そっちから出てきてくれんなら好都合だな!」
 サマエラの支援魔法を受け、蒼炎を纏ったシグルドとアーテミシアもまた、チャージングで敵を迎え撃つ。
「おらっ!」
 アーテミシアは戦鎚を振り回し、相手の武器を叩き落とそうとする。しかし敵も授恵者、そう簡単に得物を取り落とすことはなかった。
「そうこなくっちゃな……!」
 であれば、とアーテミシアは敵の利き腕を執拗に狙う。1回でダメなら10回だ。さながら、アーテミシアは戦風と言わんばかりの大立ち回りを演じていた。
 そんなアーテミシアを、シグルドがサポートする。シーザーロアで敵視(ヘイト)を稼ぎ、アーテミシアがその分暴れ回った。
 一方、ルベアはキリクの一射によって敵のキャスターが仰向けに倒れたのを確認してから、リサを振り返る。
「大丈夫!?」
「足止めはできていますが……!」
 リサはというと、やや苦戦を強いられていた。敵のヒーラーの耐久度が予想以上だったのだ。
 ヒーラーは、ウォーリアに次いで高い防御性能を備える。装備やスキルを工夫すれば物理にも魔法にも耐えられる盾となるのだ。敵のウォーリアが仲間のヒーラーを庇わずにひとりで突っ込んできた意味がようやく理解できた。
 加えて、リサに向かって敵のシューターが弓を引き絞り、シーフが襲い掛かろうとする。それを、ルベアとオゴスの刃が防いだ。
「シューターは私が始末するわ」
「シーフは俺にまかせてください!」
「ルベアさん、オゴスさん、ありがとうございます……!」
 リサは2人と入れ替わるように距離をとり、自身の傷を癒やす。敵の追撃が襲い来る前に、ジュストとスィーリーンの魔法が、授恵者ではない者達をまとめて地面に転がした。
「荷を確保する!」
 駝馬を囲っていた光縛封が解ける瞬間を狙い、サマエラは騎手を引き摺り下ろした。それを確認したザザは、メテオライトを唱えて敵に打撃を与えたあと、宣言する。
「降伏しなさい! 私達も無益な殺生は望む所では無いの。大人しく降伏するのなら、命までは取らないわ!」
 黒装束の男達は一瞬の間を挟み、懐から小瓶を取り出した。
「あ?」
 目を眇めたアーテミシアの横からシグルドが飛び出し、目の前の相手を捕まえて殴りつけ、気絶させる。
「……毒か?」
 見れば、自分達以外に立つものはいない。他の者たちは小瓶の中身を呷り、倒れ伏していた。サマエラとリサが回復を試みるが、幸か不幸か、息を吹き返した者はひとりだけだ。
「……徹底されているんだな」
 他に敵がいないことを確認した後、ひとりごちてキリクは武器を下ろす。積荷が無事であることにほっとしつつ、ジュストによりヒュプノシスで眠らされた商人の容態もチェックする。
「とりあえず、レイカも持ち帰るのか?」
 シグルドが気絶させた相手を縛り上げながら尋ねる。それに、スィーリーンが答えた。
「証拠になりますから。ですが、扱いには慎重に……」
「そうね。花粉は吸い込まないように。茎や葉、根にも触っちゃ駄目よ」
 ザザは鼻と口を布で覆う。その間に、キリクが駝馬を落ち着かせ、荷台に何か仕掛けがないかを調べた。
「発火装置……みたいなのはないか」
 雇った護衛を自害させる割に、荷の隠滅にはそこまで気が配られていない。
 なんだか、奪われることを前提としているようなやり方だ——とキリクは思った。とはいえ油断はできない。荷の隠滅だけではなく、取り扱う者を巻き込むような仕掛けもないかを確認した後、キリクは皆を振り返った。
「大丈夫そうだ」
「ありがと、キリクさん。ひとまとめにできそうなら、オゴスさんのマジカルポケットで運搬を頼んでもいいかしら?」
「はい。任せてください」
 ザザの頼みを快く引き受けつつ、オゴスもザザの指示に従って口と鼻を布で覆う。
「レイカ……名は綺麗な響きですが。月光のもとで淡く光る、というのがどんなものなのかは、見てみたいですね」
 オゴスが緊張を和らげようと少し笑いを含めると、ジュストも肩を竦めてみせる。
「そうだね。その美しさと薬効には大変興味がある。このあと、ヴィクセル殿からでもそこの商人殿からでも詳しい話が伺えたら嬉しいね」
 アーテミシアとルベアが見張りについている間に、一行はふたつの荷台をそれぞれ慎重に検分する。これには、サマエラの医療・薬学の知識が大いに役に立った。
 手袋、ないし布越しに取り出されたその花は、いずれも土ごと掘り返した苗木で、花の状態はまだ蕾であった。こうべを垂れるように鈴なりになったその蕾は半透明で、中に露らしきものが溜まっているのが見える。そして、月明かりに照らされると、淡い光を帯びた。
「これから咲くのか? この中の露……のようなものがこぼれないようにしたほうが良さそうだ」
 ……と、その蕾がもそりと動いた。サマエラははっとして、苗木を地面に置いて皆に離れるように指示する。
 レイカはぐぐっと背を伸ばすと、弾けるように花開いた。蕾の中の露がこぼれ、花弁に、葉に伝っていく。そして淡く輝いた。
「月明かりで開花する……のか?」
 サマエラはそう推測を立て、こぼれた露を検分する。どうやら成分は一見真水のようだ。自身がヒーラーということもあり、試しに露の溢れた葉に触れてみる。が、特にかぶれるような変化もない。
「……とはいえ、詳しいことは帰ってヴィクセル殿に聞くとしようか。ひとまず月明かりに当てないようにして、持ち帰ろう」
「では、この荷箱にできるだけ詰めた方が良さそうですね」
 スィーリーンはふたつの荷台を覗き込み、それらを改造してひとつの荷箱にすることを提案する。
「ん、手がいるか?」
 と、見張りに立っていたアーテミシアが振り返る。
「そうですね、少々力のいる作業になると思いますので」
「よし、じゃあ手伝う。暴れ足りなかったしな」
 スィーリーンが木工製作のスキルを活かして、マジカルポケットに収まる程度の大きさの、簡単な設計図を引く。それをもとにアーテミシアとシグルドが荷箱を組み立てた。出来上がった荷箱にレイカの苗を詰め、オゴスがそれをマジカルポケットに収める。
 そうして撤収の準備を終えた後、捕らえた商人と黒装束の男2人を証人として、一行はキサナへの帰路につくのだった。

● 黎花が照らす命
「戻ったか。ご苦労だった」
 ヴィクセルは冒険者一行をそのまま領主館の応接室へと通す。捕らえた商人とその護衛の尋問のため、すでに使用人たちは遠ざけられ、領主の近衛兵のみが詰めている物々しい状況だ。
「レイカはオゴス殿のマジカルポケットに……ふむ。気を遣ってくれて感謝する。あまり人目につくことは避けたかったからな。取り敢えず今はそのまましまっておいてほしい」
 ヴィクセルは椅子から立ち上がり、懐の短剣を抜くと、床に転がされた商人たちに歩み寄る。
「ヴィクセル、あまり近付くのは……」
 商人はともかく、その護衛たちは授恵者である。サマエラは忠告したが、ヴィクセルは首を横に振る。
「こういうことは、慣れている人間がするのがいい。それに、私の代わりはいるからね」
 キサナの領主として任官される王国貴族は、建前はどうあれ、実質的には「すげ替え可能な頭」だ。キサナの街は〈王なき統治(シャーマート)〉さえあれば回るし、すぐに代わりの王国貴族が任官される。
「それに、尋問は依頼には含んでいないし……ああ、目の前でするのは配慮がなかったか。すまない、気が逸っていたようだ」
 ヴィクセルははっと気づいて、短剣をしまって近衛兵に指示を出す。商人たちはそのまま別室に連れて行かれた。
「かけてくれ。さて、君達の報告を聞く前に……私からあまり良くない知らせがある」
「んん? なんだよ?」
 訝しむアーテミシアに、ヴィクセルは椅子に腰掛けて続けた。
「ベイリア商会の頭目の動向を、追わせていたんだが……死体で発見されたと先ほど報告を受けた」
 ザザは眉をひそめる。
「何のためにレイカを取り扱おうとしていたか……ベイリア商会の背後にいるかもしれない連中について、分からなくなったってことかしら」
「それはあの商人たちがどこまで知っているかによる」
 隣の部屋から大きな物音がする。冒険者たちは曲者かと腰を浮かせたが、ヴィクセルが問題ないと顔の前で手をひらひらと振った。
「いつも通りだ」
「……ゴールディとは違った慎ましさがありますね」
 思わずといった様子でこぼれたオゴスの言葉に、ヴィクセルは苦笑する。
「対象は誰かと落ち合おうとしていたのか、手勢をつれて、東の防衛ライン上の都市郊外にある小屋に向かい——そこでもろとも殺されたようだ。下手人は不明だが、返り討ちにあったという様子もなかったようでね……」
 ヴィクセルは大仰に肩を竦めてみせる。
「振り上げた拳をどこに打ち下ろせば良いのやら。ベイリア商会を潰すために色々と準備をしてきたというのに」
「でも……頭目が死んだからと安心できるわけでもないのでしょう?」
 スィーリーンの疑問に、ヴィクセルは頷く。
「あちらも混乱しているようでね。立て直されては困るし、すでに動いているよ。少なくともベイリア商会が今後ティシアを付け狙うようなことはなくなるだろう。まあ、他の『悪い人間』に関しては対策を考えなくてはならないけどね。……さ、私からはこんなところだ」
 冒険者たちはそれぞれヴィクセルに状況を報告した。そして最後に、差し押さえたレイカを確認するために広間へと移動する。
「レイカは蕾の状態、か……」
「蕾の中には露が溜まっていて、月明かりを受けると開花するようだ。露自体は真水のようだったが」
 オゴスがマジカルポケットから取り出した荷箱を解く前に、サマエラはそのように伝えた。
「そうなのか。いや、私もその植生については詳しくなくてね……わかった、ひとまず月明かりが当たらないようにしよう」
 カーテンが閉め切られた広間に、ランタンの灯りがひとつだけ灯される。一同、鼻と口を布で覆い、手袋をはめ、そうして荷箱の蓋が開けられた。
「これが、レイカ……苗の状態を生で見るのは初めてだ」
「……つまり、キサナでは研究は行われていないのですか?」
 ジュストの問いに、ヴィクセルは小さく頷く。
「禁制品だからね。そういうことは、王都の研究機関のほうが詳しいはず……と言いたいところだけど、レイカはイグノ砂漠でしか育たないらしくてね。私が知っていることは、それも含めたごく一部だ」
 曰く、薬効を持つのは「レイカが蓄えた露のみ」であり、それ以外の部位は劇薬である。「露」の特性は真水に見えて、強い殺菌と消毒効果がある、とのことだった。
「じゃあ、触って平気だったのは……」
「触ったのかい!?」
 シグルドが言いかけたところ、ヴィクセルは勢いよく顔を上げた。
「お、俺ではなくて。露を受けた葉を、サマエラが触って確かめたんだ」
「……ずいぶん危険なことを」
「私はヒーラーだからな。リサもいたし。……それに、シグルドも言ってくれたが、平気だった」
「ふむ……?」
 ヴィクセルは腕を組み、考える素振りをする。
「レイカが蓄えた露によって、レイカの毒性が和らげられる、ということかな」
「なるほどね。そのレイカの毒性だけど、どういうものなの?」
 ルベアが手袋をはめた手で蕾を突っつく。意外としっかりしていて、突いたくらいでは露はこぼれない。
「葉は、触れるとかぶれ、すぐに全身に広がり、痺れとともに呼吸が困難になる。根はそこまでではないが、やはりかぶれるなどの症状がある……と聞いている」
 ルベアはパッと手を引っ込めた。隣にいたキリクも背筋を伸ばす。
「……神経毒の類ってことか」
「あの、このレイカはどうなるんでしょう?」
 そんなに危ないものが大量に詰まっている荷箱を覗き込みつつ、リサがおずおずと尋ねる。
「とりあえず、証拠品として記録した後は中央の研究機関に引き取って貰うつもりだ。もしかしたらまた、手伝ってもらうかもしれないが……ものがものだからね。王都から派兵してもらうのも手だろうな」
 ともあれ、とヴィクセルは荷箱の蓋を閉める。
「本当にお疲れ様。君たちのおかげで、少なくとも黎瞳の民(シャヘリト)に手を出したらどうなるかは知れ渡るだろう。これがしばらくの間は抑止になるはずだ。……宿を用意しておいたから、そちらでゆっくり休んでくれ」

 翌朝、ヴィクセルによってもたらされた尋問の結果は、あまり芳しいものではなかったようだ。何も知らないというわけではなかったが、やはり頭目が誰と取引していたかまでははっきりしなかった。ただ、最近の頭目は「少女と思しき人物」について漏らすことがあったという、それだけだ。

 キサナでの黎瞳(シャヘル)をめぐる一連の事件はこのような幕引きとなったが——その裏では何かが確実に、動き始めているのだった。

マスターコメント

お疲れ様でした! 今回はエキシビジョンシナリオということで、ティシアやハールは直接関係はなかったのですが……何やら新たな動きがありそうな予感……? ともあれ、【黎瞳】シリーズはこれにて終幕です! 残された謎は、新規連作で回収していく予定です。 ご参加ありがとうございました! それではまたお会いしましょう〜
ミドルシナリオ

ミドルシナリオ難しい 報酬:標準10 / 6〜10人

2021年12月22日 14時31分29秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュストだ、よろしく頼むよ。 今回は目的がシンプルで助かるね。 授恵者は5人だけみたいだけれど、敵の総数が多い分、気になるのは戦闘中に商人が逃げ出したり、荷物に火をつけられるなどして証拠を隠滅させられる恐れがあること。 あとは戦場が砂漠ってことで足場が少し悪いかもしれないね。 見通しは良さそうだけど、岩場もあるみたいだから死角が全くないわけでもなさそうだし、その辺も気をつけたいかな。 素人の集まりでは無いようだし、取り逃したりしないようきっちり仕事を果たしたいところ。

  2. オゴス

    シーフのオゴスと申します。皆様どうぞよろしくお願い致します。 レイカは素人が迂闊に触ると危険ですかね。マジックポケットなら触れずに収納できるでしょうか。 俺は特に詳しくないんですが、薬品や植物の知識がある方がいらっしゃれば毒のある植物の安全ンな扱い方を教えてもらえると安心して作業ができます。 戦闘では命中や抵抗判定なしでこちらの動きを妨害してくる光縛封、アーケイン、殺界あたりのスキルには要注意ですね。 隙をつかれ商人を取り逃がすおそれがありますから。 動きの阻害ではありませんが、炸弾系で射線を遮られるのも地味に厄介そうです。

  3. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。宜しくな 商人は一般人だからシーザーロア使えば貼り付けられるぞ。ウォリアー二人しかいないし、商人に使う以外あンま意味ないけど。 一般人な上に目的が確保だから、うっかりブン殴ったら死んじまいそうだがその辺の棒きれでも投げつけてやれば足止めはできるかもな

  4. スィーリーン

    キャスターのスィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 敵の数が多いですけれど、荷物の事を考えると 範囲魔法の使用は注意が必要そうですね。 BS付与による移動阻害等を考えています。

  5. リサ・ベイカー

    ヒーラーのリサです。よろしくお願いしますね。 商人は…いっそのこと、シーフさんとかの機動力ある方がさらってしまうとか? もちろん、護衛を抑えつつですが。 さらった上で、縛っておく感じでしょうか。 とりあえず、商人の風上にも置けない輩な感じですので、容赦なく、です。

  6. シグルド・オルセン

    ウォーリア、シグルド・オルセンだ。よろしく頼む。 商人や商品の確保は機動力のあるシーフとかキャスターのスキルで退路を塞ぐとかかなぁ。リサの言うように商人を拐っていけたら、その方が楽か。

  7. キリク

    シューターのキリクです、よろしく。 相手のほとんどが一般人だから、あまりスキルの多用は出来ないな…。 かと言って逃がすわけにもいかないし、一般人には足を掠めるように矢を撃って行動を制限しようと思ってる。

  8. ジュスト・V・ケレス

    そうだね、積荷は慎重な取扱が求められるようだし、手をつけるのは専門の知識がある人に商人の確保と傭兵の鎮圧後にお任せしたいかな。 商人確保は足の早い人に先んじてお願い出来るのなら、そのフォローをしようと思う。 今のところ対象識別可能なメテオライトで商人確保する人を妨害する面々を相手取ろうか考えているよ。 ちなみに非授恵者でも商人以外は訓練された傭兵のようだから、攻撃スキル自体は普通に使う予定。 積極的に命を奪うつもりはないけど、優しくしてあげる必要もないよね?

  9. アーテミシア

    目的は商人の確保と傭兵の撃退だろ? そいつらの生死は問わなくてもいいンじゃね。 むしろ成功条件にレイカの確保が入ってないのが気になるね。 ただの大成功条件かもしれねえけどな。 とりあえずオレは傭兵の方に行くぜ。追いかけるのは致命的に向いてねえからな。

  10. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。 よろしく頼む。 レイカは……医療・薬学は一応取っているので、 取り扱いの際に役立てられないか、試してみよう。 マジカルポケットは、用意願えるならばありがたいな。 商人はそうだな、先んじて確保できるならば、楽になると思う。 私は光縛封を持って、拐うのが難しい場合に、一時隔離だけでもできるようにしておこうか。 問題なく拐えそうなら、その時は少し様子見しつつ、 証拠隠滅であるとか、怪しげな動きをした者がいれば、そちらを対象としよう。 傭兵への対応は…… 敢えて殺す必要は無いと思うが、無理に生かす必要も確かに無いな。 何れにしても、私は回復・支援中心で、攻撃は余裕あれば、くらいでいこうかと。 ブルーフレアやヒール、聖別あたり予定中だ。攻撃用には、魔矢を。

  11. ルベア・ベルニ

    シーフのルベアよ、宜しく。 商会の意図を問い詰める為にも、商人は生かして確保したいわね。 拐う役割はやれると思う。 ホライゾナルジャンプなら傭兵が私たちと商人との間に壁を作ってても無意味になるし。 商人が1人とは書いてないけど……まぁ、2人でも3人でもこの辺はやることはあまり変わらないわね。 壁にする、盾にすると言えば、荷台に積まれているであろうレイカを盾にするのも有り得そう。 そういう意味では、戦線は荷台から徐々に引き離していったほうがいいんじゃないかなって思ってる。

  12. オゴス

    >敵授恵者 シューターの索敵能力で先にこちらに気づかれないよう動きたいですね。 エーテルリンクやホークアイや捜波や感波で勘が良い。 対策として、商人を拐うなど目立たない方が都合の良い動きをされる方は少し離れて行動するって手もありますね。 >商人確保 ルベアさんが拐う役割ですね。よろしくお願いします。 もしルベアさんさえよろしければ俺が陽動役のシーフになるというのはどうでしょう? 潜伏や有利な位置をとったりといったルベアさんの行動を後押しできると思います。 >レイカ サマエラさんは医療・薬学での取り扱いの助言をありがとうございます。 俺はマジカルポケットを用意して慎重に収納しようと思います。 またレイカからの引き離しについても同意します。

  13. ザザ=ステルヴィナ

    キャスターのザザ=ステルヴィナよ。よろしくね。 商人さんについては、まずは機動力の高い方が身柄確保を試みる案に賛成よ。 私は商人確保を妨害してくる人達を狙ってグラビティフィールドを設置する予定。 その他は移動阻害系スキルやメテオライト、念の為に光縛呪を持って行くわね。 傭兵さん達への対応は―― 無益な殺生は好まないけれど、作戦遂行に支障をきたすレベルでの手加減はしないつもりでいるわ。

  14. リサ・ベイカー

    では、ルベアさんに商人確保を試みて頂く感じで良いでしょうかね。 不発時はサマエラさんが光縛封を、とのことなので、わたしは、戦闘側の支援よりで動きますね。 懸念のある可能性としては、口封じで、商人を殺される可能性も無いわけではないかな? と思うので、そのあたりの警戒もしておきますね。

  15. オゴス

    充分距離を詰めるまでは、砂に似た色のマントでも羽織れば少しは気づかれにくくなりますかね。 敵シューターのペットと思しき動物がこちらに気づいた素振りがあれば攻撃します。……動物を殺すのは気乗りしませんが敵のペットを生かしておくと厄介なんで……。 ペットを介してすぐに戦闘不能にしちまえば、敵シューターがこちらの情報を敵内で伝達することもできないですし。 戦闘では囮シーフとして多少目立つように行動するつもりです。連携というよりは個別でも成立する動きにしてあります。 逃走しようとする傭兵に注意し対応します。 敵のクラスがわかる状況ならキャスターかヒーラーを優先的に狙おうかと。 >口封じ なるほど。リサさんは警戒をありがとうございます。

  16. ルベア・ベルニ

    >オゴスさん 陽動ね。出来ればお願いしたいわ。 >戦闘 真っ先に商人確保に動くけど、縛るなりして逃げられない状況を作った後は傭兵たちが寄ってこないよう牽制するつもり。もちろん傭兵の逃走阻止もね。 キャスターは対象識別して狙ってきそうだし、優先的に落としたいな、とは思うけど。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0