冬薔薇の木陰で綴る想い
炙りとろ左門
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シナリオID:1672
オープニング
「何か珍しいものが?」
と、背後から顔をひょっこりと覗かせたリーチェに、ルネスは思わず肩を強張らせた。
「リーチェ、君……なんだかこの間から近くないか?」
この間、とは、冒険者に影響を受けたリーチェが外を出歩くようになってからだ。それ自体は喜ばしいことなのだが、出かけた先で一体何を学んでいるのか、なんだか距離が近いように感じる。
「そう? わかった、気をつける」
リーチェは素直にルネスから半歩距離を取る。
「いや、嫌というわけではないんだけどね……?」
そもそも散々、抱えて運んで寝かしつけたり、起こしたりしている。いやしかしそれは致し方ない接触であって、非常時でなければ紳士と淑女……淑女? まあいい、年頃の娘に対して適切な距離を保って……保……うーん。
「難しい顔してる。締め切りは、ちゃんと守ってるよ?」
リーチェは月刊情報誌『ベルデリーテ』に連載を持つ、今をときめく売れっ子恋愛作家だ。現在、持っていた連載が終了したために新しい作品の展開を編集部と詰めている最中である。
「ああ、うん。これはそうじゃなくて……」
「じゃあ、これ?」
リーチェがリビングテーブルのところまで戻り、白い封筒を手にとる。
「ヨルグ伯主催のレタリング講習会」
「……僕は彼女が苦手なんだ」
良いように話が逸らせそうなので乗る。それに、リーチェが手にしているものも——〈冬薔薇〉カスター伯ルネスにとってかなり悩ましい物だ。
「君の作品のファンだというのも、どこまで本当だか」
「貴族様からの招待状……」
リーチェは興味深そうにそれを眺めていた。
白檀を焚きしめた封筒は、梳きに濁りない純白。小薔薇の乾燥花を数本挟んで、赤い封蝋に型押しされたヨルグ伯爵家の薔薇紋章は、カスター伯爵家のそれと酷似している。
というのもふたつの家は、もともとひとつの流れの中にあったのだ。ややこしい主流だの傍流だのという経緯を省いて簡潔に言えば、このふたつの家は先祖のとある「はた迷惑な大恋愛」を起因として、同じ王党派に属していながら腹を探り合う政敵同士である。
話が逸れたが、その招待状はもともとルネスのもとに届いたものである。だが、ルネス宛ではない。だからこそルネスはその場で燃やすことをせず、本来の贈り主であるリーチェのもとに、誠に不本意ながら届けたのだ。
『あなたが囲ってる作家が、あの冬薔薇の君だって聞いたのよ! 私、大ファンなの。ちょうど近日中に私の家から出す商品のお披露目会をするから、是非連れてきて欲しいわ(はぁと)』
どこから情報が漏れたか知らないが、そんなところに「投資家の青年」で通しているルネスがリーチェとともに出向いては、リーチェに正体がバレてしまう。それは絶対に避けたい。
「君を貴族の群れに放り込むようなものだ。リーチェ、これは断っていいもので——」
「レターセット」
「……リーチェ?」
ルネスは顔を上げてリーチェの様子を窺う。リーチェは招待状を開封し、中の手紙を読んでいた。
「『ティタニー商会の新製品は、便箋、封筒、封蝋、印璽、ペン、そして多色インク』……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。ティタニー商会が何を出すって?」
ルネスは慌ててリーチェの手元を覗き込む。
「『それらの試用と、レタリングの基本を学べる会とします』……大衆向けに貴族の習慣を? そもそも化粧品会社だろう、ティタニーは」
「『冬薔薇の君にも、特別なペンとインクをご用意しております。是非受け取っていただきたい』」
「見え見えの餌……!!」
まさか、とルネスは思う。あの女狐は本当にリーチェのファンで、拗らせた結果、リーチェが喜ぶようなものを作り、プレゼントする口実に新商品を展開した——という、俄には信じ難いがありそうな線が浮かんできた。
「ルネスさん、私」
「行きたいんだろう!? 分かってるよ君の次の言葉は」
「行きたい」
「その上で言う〜」
ルネスは頭を抱えた。
「大丈夫。えーと、エレーネ……様? 商工議会所の会議室を借りて、身分の垣根なく手紙を書くことを楽しめる会にしたいって」
「どこまで本当だか……」
しかし、だ。ヨルグ伯の会社は大衆向けに「レターセット」を出すと言うのだ。そのお披露目会なら、貴族で固める必要はない。
「リーチェ、念のために冒険者を誘って行ってくれ。うん、念のためだ」
● 雪薔薇伯は推しに会いたい
エレーネはそわそわと部屋の中を行ったり来たりしていた。
エレーネが『冬薔薇の木陰で』の作者である〈冬薔薇の君〉の正体を知ったのは、たまたま偶然、彼女(と幼馴染みであるカスター伯ルネス)を街で見かけたからだった。
あれがルネスのお気に入りの作家、なるほどなかなか可憐な少女だ、あとで突っついてやろう——そんな気持ちで目で追っていたのだが、彼女が掲載誌である『ベルデリーテ』を出版するメルクマン社に入って行ったのを見て、まさかと思った。
しかし確かめに出てはいけない。そう、エレーネはその時、向かいのカフェでまさに『冬薔薇』の愛蔵版を抱きしめていたからだ。
まさか、まさか。華奢な手に似合わぬペンだこ、インクの擦れ。大通りを挟んでそれを見つける視力もさることながら、冴え渡るエレーネの勘。
この作家を囲えたらと夢にまで見た憧れの人!
「推しと会える……!!」
そのためだけにティタニー商会に新たな部門を作り、職人を雇った。商会の道具を使ってもらえる。それは普段のエレーネであれば抜け目ない商取引を展開する機会ではあるのだが。
「わ、私の考案した道具を推しに使ってもらえる……かも!?」
もう推しへの想いでいろいろダメだった。
あの少女は庶民だ。知り合いの貴族を呼びつけて囲んでは萎縮させてしまうだろう。そう思って、友人たちには悪いが今回はご遠慮していただき、会場は商工議会所に設定した。レターセットも大衆向けと銘打ち、『冬薔薇』の登場人物のように恋人と手紙でやり取りをしてみないかというアピールも兼ねている。
「完璧……」
きっと、楽しい場になる筈だ。
解説
マスターより
リプレイ
シルヴィア・A・カペルはほうと息をつく。会場に設置された机にはレターセットが、その下にはそれぞれテーマに合わせた色のクロスが敷かれている。
「手紙に香水を……なるほど、ティタニー商会は化粧品が主力だから、自社のアイテムの宣伝にもしているわけだ」
ジュスト・ヴェルジーが手に取った封筒からはラベンダーの香りがする。封筒の隅にもラベンダーの絵が描かれていた。
ナキルもその横で便箋を手に取り、手触りを確かめる。
「紙ってこんな違いがあったのか……!」
冒険者向けに販売されている紙とは明らかに質が違う。繊維は細かく、表面は白く輝き滑らかで、これならペン先が引っかかるということもないだろう。
「お、ゲルダ姉ちゃん!」
と、ナキルは会場入り口に現れた影に手を振る。ゲルダ・クラインは微笑んでナキルに手を振り返した。
「他の皆様は?」
「インクのところにいるぜ」
ナキルが指し示した方には、多種多様な色のインクが展示されている。アンネエルカもそこにいた。目移りしているのか、きょろきょろと頭を動かすたびに桃色にも見える柔らかな金糸が揺れている。
「あれも素敵……これも素敵だわ!」
ベーシックな黒から、赤、青、緑。今回は現在開発中として展示のみだが、紫もある。
「使うインクの色にも、意味があったりするのかな……?」
海神・江流も、王国式はこのようなものなのかと興味深そうにそれらを眺めていた。以前手紙を書いたときは、シャルガネらしくと思い半紙に墨と筆で綴ったため、雰囲気も大きく異なる。これを機に王国式の手紙の書き方も学んでおこう——脳裏に浮かんだある少女の影に、江流は思わず小さく溜め息を漏らす。
その横で、フリューリングスルフト=ティエラが封蝋と印璽を手に首を傾げていた。
「これがフーロウ……こっちがインジ。初めて知ったさぁ」
封蝋を溶かして専用のスプーンに流し入れ、封筒の上に垂らして印璽を捺し、固める。その道具ひとつとっても、かなりの高級感があった。
禊萩はペンを手に取り、インク壺にその先をつけると、試し書き用の紙の上を滑らせる。そしてその滑らかな書き心地に目を瞬いた。
「まあ……」
禊萩が手に取ったのは、先端が細い板状になったものだ。禊萩はそれを使い、特徴的な書体で文字を美しく装飾する。
「こういうペン先で紙に引っかからないというのは、重要ですものね」
そんな冒険者たちの側で、リーチェもまた目を輝かせていた。
「すごい……」
「お褒めに与り、光栄ですわ」
感嘆の声に応えるのは、〈雪薔薇〉の名を冠する女伯爵、エレーネ=ヨルグだ。ほんのり色づいた頬を広げた扇で隠し、目を細める。
「こんなに多くの冬薔薇ファ——お客様にお越しいただき、感無量ですわ。どうぞゆっくり見て、実際にお使いになって、感想をお聞かせくださいませね」
● 想いを綴る
会議室に十分人が入り、講習会の時刻になった。シルヴィアはテーブルに集まった面々に薔薇の砂糖漬けとローズティーを振る舞う。雰囲気づくりのためだったが、これがなかなか好評だった。
「なんだかお嬢様になったみたい。そして騎士様にお手紙を出すの」
そううっとりとつぶやく娘たちに、シルヴィアは柔く微笑みかける。
「その願いを叶えるお手伝いをさせてもらうよ。よろしくね」
女性にしては低く落ち着いた声。甘やかな呼びかけに、娘たちがはっと息を呑む。
「江流とナキルも、今後のためにしっかり勉強してもらうよ」
「……ん」
「おう! よろしく、シルヴィア先生!」
江流が視線を逸らして頭を掻き、ナキルがにっと笑う。対照的な反応だが、ここでしっかり覚えて帰りたいという目的は同じだ。それは、2人が手紙を送る相手として思い浮かべる少女たちのため。
「先生と言われると少し恥ずかしいけど……んんっ。まずは『手紙を完成させること』だ。短くてもいい、とにかく形にすること」
小さな達成の積み重ねが大切だ。シルヴィアは便箋一枚にびっしり書くのではなく、真ん中に5、6行を認めることを提案する。
「空いているところに花など描いても良いですわね。そうそう、『冬薔薇の木陰で』は、私も読んだことはございます。興味深いお話でしたわ」
禊萩は、参加者が持ってきた『冬薔薇』を開くと、作中で綴られた手紙の文面を便箋の真ん中に書き写し、周囲に色インクで花を散らす。禊萩の貴婦人然とした格好も相まって、それは物語の一場面のようでもあった。加えてその手際と完成品の美しさ。娘たちは感嘆の声を上げる。
「おおー! すげぇな! でも、俺にもできるかな……?」
ナキルが抱いた不安を、娘たちもまた抱いているようだった。このような洒落た便箋に見合う美しい文字や装飾ができるものなのか。それに、禊萩は微笑みかける。
「毛筆などで描くと簡単ですわ。ええ、要は伝われば良いのですから。読み書きができなくば、絵だけ封に閉じてみても。ほら、マーガレット、チューリップ……」
禊萩は参加者が持ち込んだ安価なペンを使って、簡素な花を描いていく。
「花言葉を考えれば、色味には気をつけなくてはならないけれど……」
「ハナコトバ?」
禊萩の言葉にナキルは首を傾げる。それに、シルヴィアが解説を付した。
「地域によって様々だけれど、花の種類ごとに意味を持たせているんだ。たとえばマーガレットなら『秘めたる想い』、『真実の愛』とかね。チューリップなら……ほら」
シルヴィアは持ち込んだ花言葉辞典を開く。
「赤なら『告白』、ピンクなら『愛の芽生え』、白なら『愛の喪失』、黄色なら『叶わぬ恋』——だそうだよ」
「ふうん」
江流も横からそれを覗き込む。
「桔梗は?」
「貰ったのかい? それとも送るのかな? ふふ、桔梗はね」
シルヴィアは言葉にすることなく、該当の頁を開いて桔梗の項目を指し示す。それに、江流は動揺を隠すためにきゅっと口を引き結んだ。
「内容は、普通だった。近況報告みたいな」
「そう? では、君に合う花として選んだのかもしれないね」
桔梗の花言葉は『永遠不変の愛』以外では『誠実』である。
「絵心に自信がない場合は、乾燥花や押し花を挟んでもよろしいかと」
禊萩の言葉に、シルヴィアは頷く。
「手紙は、記した言葉だけじゃないんだ。言葉では伝えられない想いを込めるんだよ。さあ、やってみよう」
禊萩とシルヴィアが『冬薔薇』から引用しつつ文例集を作成し、そこに季節の挨拶や定型文などを加える。
「なるほど……」
ナキルはそれを目で追いながら神妙な表情でメモを取る。気持ちは言葉にして直接伝えていたが、手紙で伝えるというのも面白いかもしれない。
「……しかし、こう改まって文面を考えるとなると。どう返したら、あちら様の気持ちを汲めるのかね」
江流はしかし、難しい顔で唸っていた。作中で綴られている手紙のような、情緒のある言葉運びなどできそうにない。
「そう難しく考えることはないさ。彼女が望んでいるのは、江流の素直な——誠実な姿勢が見える言葉じゃないのかな」
「誠実、ね。そういうモノ……か」
シルヴィアの返答に、江流は頬杖をつく。
その隣では、ゲルダ、ジュスト、アンネエルカとフリューがリーチェや他の参加者とともに机を囲んでいた。
「ルネス様は、リーチェ様から手紙をいただいたら、きっと喜ぶと思うんです」
「そう……かな?」
ゲルダの隣に座るリーチェはきょとんとしたあと、ふむと小さく頷いた。
「確かに、いつもお世話になっているから……お礼のお手紙、とか。いいかもしれない」
「うんうん、それがいい」
ジュストもそれに賛成し、練習用の紙を並べる。
「俺からは見栄えする文字の書き方を教えるね」
文字を綺麗に書くということは、読みやすさにもつながる。字は人となりを表すとはよく言ったもので、短い文章でも美しい字が並んでいればそれだけでも印象に残るというものだ。
「わかりやすい教本を持ってきたよ。指でなぞってみて、まず感覚を掴んでほしい」
ジュストはそれぞれの机に1冊ずつ教本を配る。そこには基本的な字体と、装飾字体がいくつか収録されている。
「慣れてきたら、こういう遊び心を加えた字の書き方に挑戦してみてもいいね。聖霊節ももうすぐだし、カードを書くときにもこういうのは役立つよ。そうそう、インクの色を変えるだけでも印象が違う」
「まあ! 紙もインクも……選ぶだけで楽しいのに、綺麗な文字までかけたらきっと、素敵な思い出になるわ」
アンネエルカは悩んだ末、赤いインクを選んだ。赤いインクにも種類があり、ワインのような色合いの赤から、桃のような薄い赤まで。
「このインク、そういえば名前を募集しているのね」
「そのようですね」
ゲルダもインク壺をひとつずつ手に取り、試し書きしてみる。
「こちらの黒はとても濃いですね。オニキスのようです」
「宝石の名前ね! こっちの赤は……そうね、『淡く染めゆく』、なんて表現はどうかしら」
アンネエルカはインク溜まりに現れる色の揺らぎから一案を挙げる。
「では、こちらの桃色のインクは……『秘恋』なんてどうだろう。緑は『君影』」
それぞれインクの色名をああでもないこうでもないと論じる一方で、フリューはエレーネと話していた。
「この印璽って、オリジナルの作れたりする——し、ますか?」
いつもの調子で話そうとして、あわてて取り繕う。それにエレーネは優しく微笑み、「楽になさってよろしいのよ」と告げた。
「自分だけの印璽、ということ?」
「そう! そうしたら、秘密のお手紙とか、ファンレターとか送れたりして、もっと楽しくならないかなって」
いつも、花模様の封蝋で届けられる手紙。差出人は不明。けれど、文字からはいつも優しさが伝わってきて——そんな物語をフリューが紡ぐと、エレーネは「素敵ね」と手を合わせた。
「需要はあると思いますわ。けれど、そうすると方々に話をつける必要があって……急に印璽がたくさん増えると不都合も多くて、今の段階ではなんとも言えませんわね。代わりに、便箋や封筒の端などに捺す飾り判などはいかがかしら?」
「狸模様の飾り判とか?」
「そうね、狸模様の……たぬき?」
ぽんぽこぽこぽん。頭の中に浮かぶかわいいたぬきたち。フリューは慌てて笑ってそれを誤魔化す。
「な、なんでもないさぁ!」
「書けた」
2人が話している間に、リーチェが便箋からペン先を離して声を上げる。便箋の中央に女性らしい柔らかな字体で書かれた文章は、ルネスへの感謝を示すものだ。
「喜んでくれるかな」
「ええ、きっと」
リーチェを好いているルネスなら、なんのことはない手紙さえ大切に保管しそうだ。ゲルダはそれを想像し、小さく笑みをこぼす。
「ゲルダさんは何を書いてるの?」
「わたしは、『冬薔薇』の主人公が騎士様に宛てた手紙をイメージしたものを……と思いまして」
「えっ!」
ゲルダの一言に、エレーネが食いつく。
「く、詳しくお話しいただけるかしら……そう、主人公や騎士様のイメージカラーとかモチーフとか筆跡とかそれらしく仕上げたいですわよねわかりますわファンというものは作中のものを再現してみましたという系統のものに弱いんですのよ」
興奮を抑えきれない早口トークにリーチェはぱちぱちと瞬きする。
「もちろんイメージグッズというのも一定の需要がありますからそちらもお許しが出たらぜひ我が社で作らせていただきたいと思います」
「あ……う、うん。私は、皆が喜んでくれるなら、良い……と思う」
リーチェの言葉に、エレーネはガッツポーズをキメる。もちろん、実際の販売においては出版社との契約が必要になってくるだろうが。
「主人公と騎士様のイメージカラーのインクや封蝋や、彼らのモチーフを取り入れた印璽などを……そして完成品の見本として、作中で主人公が騎士様に宛てた手紙やその逆などを入れることで、商品価値が高まるのではないでしょうか」
ゲルダが挙げた具体案に、エレーネは「素晴らしいですわ!」と一言告げた後、感極まったのか、ふらりと倒れて運ばれていった。限界オタクさながらの言動であった。お大事に。
「ふふ……エレーネさん、すごかったね」
「本当に作品がお好きなのですね。そんな方もご満足いただけるようなものができたら、良いと思います」
「うん。本当に……それに、嬉しい」
そうして、皆が想いを綴った便箋を封筒に入れた後、ジュストが手を叩く。
「では、封蝋と印璽の使い方……そしてそれを綺麗に捺すコツも教えよう」
ジュストは他にも手紙に香りをつける方法を手解きしつつ、蝋燭の火で封蝋を溶かしていく。
「俺がよく使う封蝋は緑。印璽は『花を咥えた鳥』が定番かな」
封蝋も一色から多色を混ぜ合わせたものまで多種多様だ。それぞれが好みの色を選ぶ中、ナキルはふと目についた封蝋を手にした。
(……またこういう時に、さ)
ここにいない、想い人の瞳の彩。少し気恥ずかしい思いもしたが、しかし、ナキルはそれが「良い」と思ったのだ。背伸びをするのも急ぎ足になってしまうのも、その瞳のせいだ。
シルヴィアもまた、同じような理由で手に取った封蝋を溶かし、薔薇を象った印璽を捺す。これならあからさますぎず、言い訳も立つだろう。青薔薇——それはシルヴィアの故郷を思い出させるものであり、また、蒼は彼を連想させる色合いでもある。
(君の素直な言葉が欲しい……と、私もそう思っているよ)
アンネエルカは桃色の封蝋を選んだ。両親への手紙、交換日記や大好きな友人らへの贈り物につけるメッセージカード——書きたいものはたくさんある。溢れんばかりの気持ちをぎゅっと閉じ込めたあとに、カモミールの香りがふわりと広がった。
「へへ……楽しいさぁ。この手紙、ハーヴェンのあの子に送って……届くまでどれくらいかかるんやろ、すぐ届けたいな」
フリューも封をした手紙を手に、うきうきと口元を緩める。
「はっ! うちが走って届ければ一番早いかも!?」
「それ、手紙の意味が……」
手を打ったフリューに、江流が苦笑を返す。それに禊萩が「あら、良いと思います」と反応した。
「大切なのは、想いを伝えたいという気持ちなのですから」
リーチェもまた、薔薇を象った印璽で手紙に封をする。ゲルダと視線を交わして小さく笑い、「できた」とそれを掲げた。
そんなリーチェの様子に、シルヴィアはどこか親近感を覚える。
「私は子供の頃から代筆業をしていて……恋文を主に扱った。次第に書き手の心が分かるようになる。きっと、君もそうだと思う。次回作も楽しみにしてるよ」
「ありがとう。あなたの故郷にもいつか、冬薔薇を探しに行くわ」
こうして、講習会は大成功を収めた。寄せられた意見をもとに幾度か改良が重ねられ、レターセットは化粧品と並び、ティタニー商会の主力商品へと叩き上げられたのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人
2021年12月04日 10時54分25秒 公開
相談掲示板
貴族の手紙の作法ってのを教えてもらおうと思って。 海神江流だよ。今回は宜しくね。 いや、前に凄い畏まった手紙貰って、謎の圧で動けなくなったことがありましてね、はい。
「ナキルだ、よろしく頼むぜっ…と。 …紙とペン…ペン?インクか?インクっぽいな! すげぇな、色々あるんだな……へぇ…。 あ、あぁ、そうだった。コレに書いたりしていいのか? すごいな、今まで使ってた紙って紙もどきだったのか?…ほぉ…(物色)」
シルヴィアだ。今回はよろしくね。 スタッフ参加をするつもりだ。恋文代筆業をしているから『冬薔薇の木陰で』に出てくる手紙を引用しつつ文例集を作ってみようかな。仕事で使える季節の挨拶やお礼状の文例も入れてみたい。差し入れも考えてみるよ。
フリューリングスルフト=ティエラ!長いからフリューって呼んでさぁ♪ お手紙!色んな便せんやインク試せるの??わ、楽しみ! ……ふー、ろう? いんじ?(なんだろうそれって顔をする) ん、ん。そういうところも教えてもらいにきたさぁ♪ ところで、この、フーロウ? オリジナルの作れたりするんかな? たぬき模様とか! 自分だけのを作れたら、差出人は内緒の、ふぁんれたーとか送れたりするんかな?かな?
ジュスト・ヴェルジーだ、よろしくね。 今回は俺もスタッフ側として参加するよ。 美しく読みやすい字を書くコツとか、装飾文字のパターンとか紹介できたらと考えている。 印璽は今回用意されたものから選ぶ形になりそうだけれど、いずれもバリエーション豊富とあるから自分のイメージに合ったものを選べそうだね。自分だけのオンリーワンのデザインが欲しい場合はオーダーメイドの発注ができるか聞いてみても良いかもしれない。 差出人を証明するようなものだし、封筒に名前を書かなくてもその人だと受取人に伝わるから秘密のファンレターにも向いてるんじゃないかな?
「>フリュー おー、よろしくな!フーロウ?……あぁ、コレ、手紙で偶に見たことあるヤツだ… へぇ…コレフーロウって言うのか。 なんか、本当に色々あって面白いな…作れたりもすんのか…ほぉ…。 >ジュスト また知らないのが…!…字もある程度書けるようになって安心してたけど… まさか、まだ他にもあるのか…!?(そわ)…剣の道くらい奥が深い…のか… インジ…ちょっとメモ取りながら話聞こう… オンリーワン…オンリーワンかぁ…いいな! >シルヴィア あぁ、ここまで来たら。こう、自分が完全にスタッフ向きじゃないのが、こう、痛感するな。 色々勉強させてもらおうと思ってるぜ……。 コイブミダイヒツギョウ…故意踏み…?」
アンネエルカよ、アンネって呼んでくれても大丈夫。 私、不器用で。字を書くのもあんまり得意ではないのだけれど… 誰かに気持ちを伝えるためのお手紙、それを彩る文具やお作法。とっても興味があるわ…! 参加者として、いっぱい素敵なものに触れられたら嬉しいわ。
ゲルダです。よろしくお願いします。 お手紙自体には縁はある方かなと思うのですが、「趣向を凝らした手紙」を送り合うといったことは今までありませんでしたので、参加者側としていろいろとご教示いただけたらなと思います。 あとは、リーチェ様と、『冬薔薇の木陰で』の登場人物が物語の中でどのようなお手紙を送り合っていたのか、お話をしてみたいなと。 登場人物のイメージカラーとそっくりな色インクがあれば、素敵だなと思いまして。
お会いした方もおられますね。 ごきげんよう。王都の禊萩、参じましたわ。 受講者かスタッフかは検討中ですけれども、折角の催し物ですので、無事成功できますよう、努力いたしますね。 当日はどうぞよしなに。
「>アンネ お、荷物運搬の旅以来って気がするな! また、よろしく頼むぜっ オレも字は書き馴れて来たって程度だからな 頑張りながら楽しもうぜっ! >ゲルダ お、ゲルダ姉ちゃんも面白そうなコトしてるな。 そうか、その人物に合わせたインクとかイメージカラーか…それも楽しそうだっ! >禊萩 お、初めましてだな。現地ではよろしくなーっ!」
>ナキルさん ええ!またこうやってゆっくりお話し出来る機会が出来て嬉しいわ。 一生懸命、私達なりに頑張りましょうね…! 心を込めながら……教えてくださったものを自分なりに書けるように。 えいえいおー、だわ!
>ナキル君 文字は読み書きが出来れば十分なんて言う人もいるけれど、文字には人柄が滲み出るとも言われているからね。 シャルガネでは剣の道のように書の道もあると教えられているようだし。 オンリーワンの印璽もそうだけれど、ナキル君にしか書けない素敵な文字や手紙が書けるようになると良いね。
>アンネ あぁ、そうだな!アンネと話すのは楽しいし、またお互い冒険した話とかって、つい思っちまうけど。 今回は書き物だな! 心を込めて…か、形を覚えるのに意識が行ってたから、ソコ。ちょっと見落としてたぜ よし、オレも頑張るぜー(えいえいおーと) >ジュスト 自慢じゃねーけど、数カ月前は書けなかったぜ…! 人柄かぁ…最初期の文字からしたら、文字!ってカンジはしてきたけどなぁ…そうか…人柄なのか…(むむ) おぉ…シャガルネの書道だったら、前にちょっとやったぜ! そうか、アレの応用になるのか… サンキューな!ちょっとイメージ出来たぜ! 剣と一緒なら、なんとかできそーな気がする!」
>ヴェルジーさん オーダーメイド!うん!相談してみる!アドバイスありがとうさぁ♪ そうなんよ!秘密のファンレターとかやりとり出来たら、こう、こう……なんか楽しそうさぁ!(語彙が見つからなかった←) >ナキルさん フーロウ、って言うらしいんさぁ(深くうなずき)うちもここ来て初めて知ったんさぁ 作れるかもしれんから、エレーネさんに相談してみようと思う! うんうん、便箋やインクやら種類あって選べるのは楽しいよね♪ たくさん楽しもうさぁ♪
>ナキル 故意の文……成程、面白い← 私はラブレターを始めとした諸々の手紙を書く仕事をさせて貰っているんだ。文字の読み書きが出来ない人や、自分の文章に自信がない人からの依頼もある。 レタリング講習会ではナキルにもアドバイスさせて貰うね。当日はよろしく頼むよ。
「>フリュー へぇ、そっちも面白そうだな…!! あー…知れば知る程やってみてェこと増えてくな…流石に時間内で全部はできねーから… フーロウってのはまた今度かな…自作上手く行くと良いな! >シルヴィア …タブレター…手紙を書く仕事って言うのがあったのか…へぇ…いや、そうか オレも全然書けなかった勢だったモンな…なるほどな…(ぽふっ) あぁ!面白そうだから是非参加するぜっ!」