追試とドゥジンと夜の教室

馬車猪

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シナリオID:1651

オープニング

●
 典型的な貴族派学園生が夜な夜な女子達を集めて何かをしているらしい。
 そんな情報を手に入れ、義憤と少しの下心に駆られて現場に踏み込んだ男子達を迎えたのが女子達からの冷たい視線である。
(じゃま)
(あっちいけ)
(おとこのひとこわい)
 作成途中の原稿から顔を上げた女子達の視線が特に怖い。
 何の用? と目で聞いてくる貴族派学園生(セニャ・リーラント)の方がずっと優しい。
 夕陽が差し込む教室の中に、無言でペンを動かす音だけが響いていた。

●数日前
「参ったわね」
 セニャ(セニアーラ)・リーラントは平均より少し下の成績の学園生である。
 しかしそれは満点に近い実技と落第点すれすれの座学の総合結果であり、座学は毎回ぎりぎりというより追試や補講でなんとか乗り切っている状態だ。
 なお、成績を金で買ったりはしていない。
 清廉とか公正とかとは全く関係なく、己を高めるためパンクリアース学園の設備や教師陣を最大限利用しているだけである。
「それはこっちのセリフなんだがっ」
 選挙に伴うあれこれでいつも以上に疲れた教師が怒っている。
「いきなり復学して追試や補講を要求など、権力の濫用が過ぎるのではないかねっ」
「私は学園生としての権利を行使しているだけです」
「ほとんど使われない制度をコネを使って利用しているだけだろう君はっ」
 答案用紙に点数を書き込みセニャへと渡す。
 これで3回目の追試。本当にぎりぎりでの合格であった。
「次の教科の追試は明日の放課後ですね」
「……これは独り言だが、ジャマーが使える授恵者の手配はできていない」
「授恵者の手配は大変ですものね。お察しします(テレパスなんて使わないわよ。授業料と寄付の分はしっかり働いて頂戴)」
「察してくれてありがとうっ。追試や補講なしで合格してくれるともっと感謝するがねっ」
 真正面から嫌みを言ってもセニャには通じない。
 社会人でもあるので面の皮が非常に厚いのである。
「しつれいしまー……」
 教室の入り口が開いて女子が顔を出し、ぴぃ、と可愛らしい悲鳴をあげて硬直した。
 暗殺者の警戒までするセニャと気が立っている教師の視線は、授恵者ですらない学園生には刺激が強すぎた。
「ごめんなさい。追試が長引いてしまったの。今の時間、この教室は自由に使って構わないわ」
 セニャは教師に目配せする。
「うむ。私はもう立ち去るから自由にしなさい。あまり遅くならないようにな」
 疲れた息を吐いて、採点に使った道具を片付け開いたままの入り口から出ていった。
 セニャは、硬直したままの女子を静かに観察している。
 脳内にある貴族子女リストにこの学園生の顔は載っていない。
 セニャやセニャの実家のコネを求めに来たという雰囲気でもない。
(鞄で運んでいるのは画材かしら)
 高位授恵者なので非常に目が良い。
 鞄から少しだけ覗いている絵に気付いていた。
「よい絵ね」
 この時の発言をセニャは心から後悔した。
 ぱぁ、と明るい表情になった女子が、勢いよくセニャに近づき自作の絵を紹介する。
「ですよねやっぱりウィリアム様もすばらしいですけど私はレイウェスト様との……」
 とても早口だ。
 悪意もないので排除する訳にもいかず、セニャは助けを求める目を向けたが教師に無視された。
 その後、遅い時間でも明るい場所で執筆できることに気付いたドゥジン信徒が集まったり、人間関係がうまくいっていない学園生がいつの間にか居ついたり、それにドゥジンシ愛好者が布教を始めたりと独特な環境が成立した。
「よく分からないわね」
 セニャはドゥジン関係者に包囲されていることに気付かず、休学中の後れを取り戻すため一生懸命であった。

●護衛依頼
「依頼と表現するのもおかしいかもしれませんが」
 冒険者ギルドで、職員が頑張って真面目な表情を維持している。
「放課後のパンクリアース学園で勉強や課外活動する依頼……というよりお誘いですね」
 冒険者は聴講生としての資格を持っているので冒険者なら誰でも参加可能だ。
「場所は空き教室です。男子はいないそうなので、男性が参加するときは驚かさないよう気をつけてあげてください」
 ドゥジンを全く理解していない職員の説明は、ちょっとだけ要領を得ない感じだった。

解説

●依頼内容  空き教室でテスト勉強をしたり、ドゥジン活動をしたり、ドゥジン布教をしたりするだけの依頼です ●場所  紋具による照明がある教室です  夜食を作る場合は、学園内にある食堂の厨房の利用が許可されます  トイレやシャワーは、近くにある部室のものを借りることができます  時間は夕方から深夜にかけてです ●教室にいる人  全員女性です ・セニャ  ドゥジンに興味はありませんが悪感情も一切ありません。少なくとも現時点では  得意なのは戦闘系科目と社交ダンス  特に苦手なのは算術と数学です  頑張ってテスト勉強や補講に取り組んでいます  「土地面積算出は慣れているけど他は自信がないわ」 ・教師  再テストを行ったり補講をしたりするためときどき現れます  ドゥジン活動については見て見ぬふりをしようとします ・ドゥジン信徒  主にレイウェスト皇子推しの学園生達です  しかし解釈や推しカップリングが全員それぞれ違うので関係は緊張しています ・一般人  騒がないならセニャも教師も文句を言わないので、照明を目当てに集まるようになった大人しめの学園生達です  本を読んだり講義の予習復習をしています。確実にドゥジン趣味に染まりつつあります ・バイト  セニャから報酬を貰っている授恵者学園生です。ドゥジン活動とは無縁  テレパスを使ってセニャの勉強を手伝ったり質問に答えたりしつつ、論文を書いたり読んだりしています  レベルは10前後。戦闘装備は一切ありません ●他  教室を閉めた後は、セニャと授恵者学園生が他の学園生達を寮まで護衛することになっています

マスターより

 男性でも参加可能な依頼です!

リプレイ

●
「そのままで」
 ディオール伯爵家の令嬢であるローザリカ・L・ディオールが、自然体で偉そうな態度で自習室(元は空教室)に入ってくる。
 身長はセニャより高く、体つきはセニャより女性らしく、細めと太めが多い一般生徒達は我が身と比べて暗い表情になる。
「君らの所有物ではないにせよ、この場に邪魔をすることには変わりない」
 ディオール伯爵家は多数の商会のスポンサーであり直轄商会すらもつ大富豪だ。
 ローザリカも極自然に取引について深い理解を得ていた。
「やぁ、少しお邪魔させて貰うよ。ロゼもあまり脅かさないであげて」
 ジュスト・ヴェルジーが悪戯っぽく、同時に貴公子らしい隙のない所作で一般生徒に対する謝罪し腐れ縁(ローザリカ)を諫める。
 理知的な翡翠色の瞳に健康的な肌が年頃の女子の欲望を刺激する。
(異性の……身分の釣り合いのとれた……ともだち、ね。私へのあてつけかしら)
 セニャがそんな思いを抱いてしまう程度には距離が近い。
「君、無駄話をする余裕はないはずだが?」
「そうだね。余裕をもって予習を進めておかないと、授業から抜け出しにくくなりそうだ」
 婚約話が蒸し返されるかもしれないしねと、知られたらセニャの機嫌が悪化することを考えている。
「セニアーラ嬢、休学中の講義のノートや配られた資料は大丈夫かい?」
 ジュストはセニャが参考にしているノートに気付いて口を挟む。
「それは……」
 休学中の講義内容を教えるはずのバイト(一般学園生)は他の冒険者と話し込んでいる。
「お互い、学内政治を気にするような立場ではないだろう。僕からは商業や算術に関わることを提供しよう。この手先や立ち回りだけは器用なこの男も文系知識なら提供できるはずだ」
 セニャとは異なる種類の偉そうな態度だが、ローザリカの言動はセニャほど威圧的ではない。
「数字と計算に強い者を私から紹介したかったのだけど」
「僕とのコネを売り物にするな。……これは2学年前のか」
 この3人は実力で入学し実力で進級している。だから進度の差はあっても講義内容は似通っている。
「ロゼ、試験のヤマ(予想問題)を売ってくれないかい?」
「従弟殿?」
 来週提出予定の論文をお互い添削しつつ軽妙に会話をする様は非常に絵になる。
 そんな光景をじっと見るセニャを観察する目が1対。
(駄目だ駄目だ。リーラントさんを助けている余裕は僕にはない)
 参考書に視線を戻す。
 海神・江流が予習し復習する内容は、学園に入学したばかりなのにセニャのそれより高度だ。
(彼女の隣に立つのに半端な成績では居られまい。ただでさえ年齢でハンデがある。気兼ねなく学園生活を送るには出来すぎてるくらいの実績が必要だ)
 江流は33歳。
 彼女(気になる女性)は19歳。
 身分の差は年齢差よりさらに大きい。
(外してた授業の担当教師に補講が頼めりゃいいのだが、そこまで我が儘は言えまい)
 寄付金で釣るセニャとは財力も倫理観も違うのだ。
(だが追加料金を払わず勉学に専念できる場所を使えるのは良いな)
 せっせと創作活動に励む一般学園生とも意識が違った。
「セニャお嬢様、お久しぶりでございますよ」
 ハーフリング程度の体格のヨツユビハリネズミが、セニャの隣の椅子に器用に登って座る。
 野生動物とは全く違いよく手入れされた毛並みで、しかし目は知的な重労働で少し曇ってもいる。
「ワタクシ、一年生に編入できたでございます。今後は先輩後輩として、ご指導を賜りたいでございます」
 ハリーヌ・ヨツユビは新入生用の教科書と、真新しい書き込みのノートを席に広げた。
 毛がわずかだが逆立つ。
 金と紫の瞳が、殺気も敵意もないのに怖く感じる。
「そう」
 ヒューマンでないどころか獣に近い姿のハーフビーストが入学したことを書面ではなく五感で確認し、典型的な貴族の価値観を持つセニャが薄らと微笑んでいだ。
「江流様、お会いするのは編入試験以来でございましょうか。お互い二足の草鞋で大変でございますが、進級目指して頑張るでございます」
 素早く席を変更して江流を盾にする。
 人生経験豊富な江流は、セニャの放つ気配を受け流しつつハリーヌにうなずき勉強のついでに盾になってやる。
「セニャお嬢様、そういえば以前も算術を勉強しておいででございましたね。ワタクシ、算術は少し得意になったでございます。何かあればテレパスを飛ばしていただければ……一緒に考えたいでございます」
「新入生と同じと思われるのは不愉快ね」
 上品さと獰猛さは両立する。
 笑顔を維持したまま受け答えをするのに、ハリーヌは予想以上の精神力が必要になる。
 なお、商業知識が必要な問題になると、ハリーヌとセニャは同レベルであった。

●
「あ、リーラントさんもいたのか」
 アルベルト=V=シュタールシュヴェーアトは予想外の遭遇にあっても崩れない。
 騎士としての態度も武人としての実力も、付け焼き刃ではなく本当の意味で身についたものだからだ。
「……珍しいわね」
 セニャは完全に虚をつかれ、珍しく年齢相応の表情になる。
 聴講生ではあっても学園生ではないアルベルトが自習室を訪れるとは全く予想もしていなかった。
 もしかして私に会いに、などと考えるにはまだアルベルトに対する好感度が足りない。
「今日はレイウェスト殿下の『肖像画』を買いに来たんだ。ドゥジン信徒の描く『肖像画』だ。さぞ素晴らしいものなんだろうな」
 彼は軍略は通じてはいるがドゥジンシには疎い。
「あれは肖像画かしら」
 セニャは悩む。
 ドゥジン信徒から熱心に勧められたあれ(イラスト)と、セニャが抱くアルベルトのイメージが一致しない。
「ん? どうしてそんな気まずそうな表情をするんだ?」
「いえ、他人の趣味に口を出すつもりはないわ。……いいかしら」
 セニャは勉強している面々に断りを入れてから、聞き耳を立てていたドゥジン信徒の1人のもとへ向かう。
 最初に布教してきた信徒であり、一番一般受けする絵柄の創り手だ。
「失礼します。ここにレイウェスト殿下の『肖像画』を描いているドゥジン信徒がいらっしゃると聞いて来ました」
 セニャに紹介されたアルベルトが真正面から行く。
 筋肉と爽やかさと美形さと筋肉の圧がすごくて、創り手が小動物のごとく怯えた。
「ぜひともその『肖像画』を売っていただきたく」
 それなら話は別だ。
 彼女は勇敢に、1枚絵(皇子総受け)を、レイウェストに忠誠を誓う帝国騎士に売り込んだ。
「℃※%☆♂♀@!」
 声にならない悲鳴が響く。
 全年齢版でも未経験者には刺激が強すぎたようだ。
「それはレイウェスト皇子なのでございますか? ワタクシ、お会いしたことはございませんが……美しい方でございますねぇ」
 ハリーヌは冷静だ。
「誇張はあるのでしょうけど私より美人ね……演出はあっても基本は本物そのまま?」
 セニャは恐ろしいものを見た顔になった。
「カップリング? 男女問わずでございますか?」
 ハリーヌはドゥジンのネタ出し依頼に参加したことがあるためか、創り手達と対等に話せている。
 肌を露出していないだけで非常に扇情的な姿勢と組み合わせを見ても驚かない。
「なるほど……皆様はつまり、純愛主義者ということでございますね」
 そういう建前にしたい信徒達が、勢いよくうなずいていた。

●
「意外ね。そつ無くこなすと思ってたわ」
 ヴィノニスは可愛らしい少女の仮面を被ることも慈母の表情を浮かべることも忘れ、素直な感情を表に出した。
 脳味噌を酷使して少し汗をかいた伯爵令嬢が、いつも通り友好的ではないが疲れた目をヴィノニス(ハーフリング)へ向けた。
「本業ありで良い成績がとれるほど学園は甘くないわよ」
 週の半分近く実家(リーラント領)にいて、学園にいる間も貴族令嬢のサロンに顔を出しているので勉学に励む密度はともかく時間は少ない。
 同じようなスケジュールでトップクラスの成績の冒険者もいるが、冒険者(人類最高峰の才能)と比べるのは酷である。
「ここ、見落としているわよ」
 計算式のいくつかを指摘して、1学年前の教科書を渡す。
 セニャはむぅと唸り、しぶしぶではあるがしっかり声を出して礼を言う。
 貴族らしい傲慢さと力(実力)や恩(借り)への意識が両立していた。
「わたしは今のところ特定の推しはいないのだけれど」
 ヴィノニスはヒューマンではないしセニャの弟(甥っ子)とのあれこれがあるのでセニャとの相性はとても悪い。
 が、その程度で人間関係を破綻させる未熟者ではない。セニャとは人生経験の厚みが違う。
「少しだけでいいから歩み寄ってあげたら? 全く共感できない相手は怖いものよ。あなたも好みくらいあるでしょう?」
 関係を改善させると同時に、推しを推すという感覚を覚え込ませるつもりであった。
 そろそろ小腹の空く時間帯である。
 鍛錬と実戦で膨大な熱量を消費する江流は焼きそばパンにチーズを載せて食べているが、一般学園生はもちろんセニャもそんな暴挙はできない。体型と体重維持は大変なのだ。
「皆さんこんばんは。葬送童話(ブルージービリーバー)です」
 すっかり夜もふけたのにギーゼラのテンションは高い。
(フフフフフ、貴族や富豪の子女がドゥジン信仰とはすばらしい! ドゥジン信徒にとって、たくさんのお金を落としてくれるいいカモですからねぇ!)
 一般学園生の数割が悪寒を感じたが理由までは掴めない。
「僕はいくつか戦場(祭典)も経験してる熟練のドゥジン信徒なんですよぉ。絵より文章を書くタイプですけどねぇ」
 ギーゼラのドゥジン的価値はそれだけではない。
「レイウェスト皇子の中性的な美貌、中性的な声! まさに受けでしょう? 他国の支援を受ける立場というのもオイシイポイントですねぇ。どの国の重鎮から迫られても断れない立場というのは想像(妄想)が止まりません!」
 冒険者(高位授恵者)として戦場や困難な依頼に出向いて直接取材できるのだ。
 ギーゼラと組むことができればリアリティ向上間違いなしと理解して、ギーゼラの狙い通りに引き寄せられていく。
「絵が得意な子がいたら次回の本の挿絵をお願いしてもいいかもしれません」
 ざわりと空気が変わった。
「冬の祭典に向けてネタも蓄えたいですし、レイウェスト皇子が攻めか受けかで、仲良く戦争しましょう!! 解釈違い? 推しカプ違い? よろしい、ならば戦争だ! が基本でしょう?」
「戦争をする(信仰を深める)事で視野が広がる、ネタが広がる! 戦争なしに成長なしです。それもアリと相手に思わせれば勝ちですよぉ!」
 推しという概念を浅くではあるが理解してしまったセニャも聞いている。
「一番はやはり綺麗どころのウィリアム王子×レイウェスト皇子ですがドン・ゴーフル×レイウェスト皇子というのも背徳感が高まって最高じゃないですか?」
 きゃー、という歓声と、激しく動揺して咳き込むセニャがいた。
「ギーゼラちゃんそういう趣味あったんだー……へー」
 江流がもそもそとパン(炭水化物)を食べている。
「うわ、やきそばパンうめぇ」
 少しだけでいいから現実逃避したい。
 分厚い史学の本を無意識にめくる。
 シャルガネ出身者である江流にとっては馴染みが薄い、ドゥジン信仰に書いてあるページだ。
(読むのと見るのでここまで違うとは)
 勉学というのは大変だなと、頭はもちろん心でも実感する江流であった。
「なんだ、ドゥジン? 面白い話をしているじゃないか!」
 声が大きく話も長くなれば気付く者も増える。
 もっともローザリカの場合、最初から気付いていてこれだけおおっぴらなら話を持ちかけても構わないと判断した結果の行動だ。
「その熱意、実に気に入ったよ! どうかな、僕に君らの”愛”を買わせてはくれないか!」
 いかがわしい解釈が可能な言葉ではあるが、ローザリカは商品と商取引には徹底して誠実だ。
「ふむ」
 特に強烈なものに意識を向ける。
 あくまで商品として見ているので照れも赤面もせず、別方向に過激なものも順次確認していく。
「派閥があるようだし、是非討論を。より愛が深い方に制作費用や販路などの投資を……」
「ロゼ、声が大きい」
 ジュストが美麗ではある品々からローザリカを引き離す。
「令嬢が何でもすぐに買うだの投資だの言うものではないよ」
 どこから情報が漏れるか分からず、どこからどんな攻撃が来るかも予想し辛いのが貴族とその子女が属する世界なのだ。
「従弟殿」
 気心の知れた間柄だ。
 ジュストに譲歩する気がないと悟り、ローザリカはしぶしぶ席に戻り口を噤む。
(激しい争いの最中で磨かれ伸びる才もあっただろうに実に惜しい……)
 確かに、商機であった。
 ジュストは身振り手振り目配せでローザリカを宥めながら、この教室にいる者の多くが興味を持つだろう話題を選ぶ。
「最近はレイウェスト殿下も需要が高いようですね。御二人が一緒の絵も多いのですが」
 先程までの騒動を見れば分かるように、表現方法と解釈で揉めることも珍しくない。
「美術部でも熱心な信徒がいますね。『神絵師』なんて呼ばれているようで」
 新たなライバルを知った創り手達が、静かに闘志を燃やし始めた。

●
「セニャっちはたっぷり食べていいと思うよっ!」
 サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが用意したのは、食べやすいように紙に包んだ小型おにぎりだ。
 鮭、梅、おかかの3種類の具入りをそれぞれ用意。
 夜間の低い気温を考慮し、玉ねぎとじゃがいもの味噌汁まで準備している。
「ふふーん♪ 温かいうちに食べてモチベ上げようねっ」
 若く食欲旺盛な学園生が、自らの食欲に負けて寄ってくる。
「このメニューなら紅茶より普通の茶か」
 江流は、おにぎりにあう緑茶を大急ぎで準備している。
「にゃにゃ? 何してるのかなっ?」
 サフィラの対人能力は非常に高い。
 気弱で気難しくもある創り手との距離を瞬く間に詰め、不快感を与えない絶妙なボディタッチ(指で羽に触るように頬つんつん)までする。
「あの、えっと」
 絵では特濃でも声では拙い説明を、サフィラは馬鹿にせず真剣に聞く。
「あたしも『王子×皇子』のドゥジンシ読んだことがあるよっ! あっ、エフ……賢者さんとかドンとかとの組み合わせもあるんだ」
 できのよい実物があると理解が早くなる。
「ほぇぇ、ドゥジンシって奥が深いんだねぇ……」
 褒め言葉の形をした罵倒でないことに気付き、ドゥジン信徒は新刊原稿も惜しげも無く見せ始めた。
「そういやセニャっちはドゥジンシについてどう思ってるの? あたし的には文化の振興はセニャっちの様な辺境を治める貴族にとって土地を支配するための重要なファクターだと思うけどねっ」
「王都と比べればほとんどの場所が辺境よ」
 セニャ(養鶏の土地出身)の反論には勢いがない。
「そうだ! ドゥジン教徒の子たちにセニャっちの今までの活躍を書いてもらおうかなっ?」
「! いいわね」
 セニャの方が乗り気だ。
 邪心(他の狙い)が強いとよいものをつくるのは大変ですよと、どこか遠い場所から幼い子供を案じるような声が響いた気がした。

●
「今日はすごいカルチャーショックを受けたぜ……」
 教室を閉めたセニャと一緒に女子学園生達を寮まで送る帝国騎士(アルベルト)は、疲れ果てた顔をしていたらしい。

マスターコメント

 ドゥジン信徒達の準備は順調なようです。  セニャは、沼に嵌まる第一歩を踏み出してしまったかもしれません。
ショートシナリオ

ショートシナリオ易しい 報酬:無し8 / 4〜8人

2021年12月02日 18時02分43秒 公開

成功

相談掲示板

  1. 海神 江流

    シーフで第1学年第2教室所属の海神江流だよ。 今回は宜しくね。 最近、ギルドの依頼にかまけて聞き逃した授業がいくつかあるんで、テスト勉強を兼ねて自習。ってスタンスで参加させて貰うつもりだよと。 生まれはシャルガネの出なんでドゥジン信仰については疎い。 絵画の神様なんだっけ?歴史・宗教のお勉強にもなるならご教授いただくのも楽しいのかな?

  2. ギーゼラ

    ギーゼラです、と名乗りたいところですが ここはドゥジンネームで葬送童話(ブルージービリーバー)と名乗った方がいいですかねぇ? よろしくお願いします。 フフフフフ、貴族の子女がドゥジン信仰とはすばらしい! ドゥジン製作者にとって、貴族はたくさんのお金を落としてくれるいいカモですからねぇ! ここでドゥジンについて熱く語り合って制作意欲を燃やしておきたいです。 冬の祭典に向けてネタも蓄えたいですし。 レイウェスト殿下が攻めか受けかで戦争が起きそうですが、僕は受け派を譲るつもりはありませんので。仲良く戦争しましょうねぇ!!

  3. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回は『ドゥジン神を信仰している女子生徒がレイウェスト殿下の肖像画を描いている』という噂を聞いて、是非その『肖像画』を購入させていただきたいと思い参加したぜ。 俺は、ドゥジン神の事はあまりよく分からないのだが『絵画の神』というだけあってその信者の『肖像画』もさぞかし素晴らしいものなんだろうな。期待しているぜ!

  4. ハリーヌ・ヨツユビ

    ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 学園の一年生に編入したばかりでございますが、冒険者との両立は難しいでございますねぇ。 江流様はお久しぶりでございますよ。 ワタクシは自習をするつもりでございますが、ドゥジン信徒の皆さまとも親交を深めたいでございますね。 お貴族様でございましょう? ご趣味を通じてお近づきになれればと… ククッ…

  5. ヴィノニス

    ヴィノニスよ、よろしくね。 ドゥジンに……というよりは、推しという概念をセニアーラさんに知ってもらおうかと思って。 補習中のようですから勉学の邪魔にならない範囲で、ですけれど。

  6. セニャ・リーラント

    いつの間にか冒険者がいるのに気付いて困惑中よ。勉強の邪魔はしないでね?(セニャは依頼には気付いていないのです。MSより)

  7. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! よろしくねっ! んー、ドゥジンは別の依頼で『王子×皇子』のちょっとセンシティブなのを見ちゃったくらいかなぁ? せっかくだし、ドゥジン教徒の子にお話を聞きながらドゥジンの魅力に触れてみよっかな? >セニャっち あ!セニャっちテスト勉強? ダイエットとかしてなかったらお夜食作ろっか?(かくり)

  8. ジュスト・V・ケレス

    学園生のジュスト・ヴェルジーだよ、よろしく。 勉強会をする為にお邪魔させて頂く予定。 ドゥジンに関しては美術部に熱心な信徒がいるから少しは知っているけれど、詳しい活動内容は良く知らないんだよね。

  9. ローザリカ・D・ケレス

    ローザリカ、同じ生徒だ。気軽にどうとでも呼んでくれていい。 無論勉学のために訪れたわけだが…… 価値あるものへの投資は惜しまない主義でね、 夜な夜な熱意をそそぐほどのものには興味があるよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0