【黎瞳】栄光をもたらす瞳

炙りとろ左門

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シナリオID:1610

オープニング

 ヴィクセルのもとにその情報が上がってきたのは、晩秋の頃。
 温暖な王国の気候といえども衣を重ねる時期になってきた。羽織を新しくしようと街へ出たところで、その噂を耳にしたのである。
「黎瞳(シャヘル)の娘が現れたそうだ」
 布の質を確かめていたヴィクセルは思わず聞き耳を立てる。
(黎瞳(シャヘル)だと?)
 それは、キサナ周辺に伝わる「砂の国の御伽噺」だ。
 夜明け色の瞳とも呼ばれるそれは、青から紫へ、そして見る角度によっては金光が射すという摩訶不思議な虹彩のことを言う。精霊との契約の証であるとか、神の血を示すものであるという空想から派生したものは、栄光をもたらす、願いを叶える、その涙は万病を癒す——枚挙にいとまがない。
 わかっているのは、その一族や瞳に特別な力などないことと、彼らがその瞳を持つもの同士か、先祖返りでしか生まれないということくらいだ。
 半世紀前に隠れ里が暴かれたために絶えたと言われているが、いまだそれを騙る者も多く。
 しかし、また偽物だろうと聞き逃さなかったのは、ヴィクセルがこのキサナを預かる身であり、黎瞳の一族(シャヘリト)の秘密を知っているからだ。

(あの一家の身に何かあったのか?)
 
 夫婦と娘の3人家族。それが一族最後の世代だった。いや、正確には、ヴィクセルはより身近にその血を引くものを知っているが、現れたのは娘だというのだから違うだろう。
(一応手紙を……いや、まずは〈王なき統治(シャーマート)〉に共有しなければならないか)
 たとえ、それがただの噂であろうと、黎瞳(シャヘル)の血はいらぬ混乱をもたらす。ヴィクセルは店を出ると、足早に領主館へと戻った。

● 王なき統治
 キサナの政治は商人たちによって動かされている。王国貴族であるヴィクセルが執政権を有しているものの、キサナの基本方針は「合議制」だ。それは〈王なき統治(シャーマート)〉という商人会の名前にも表れている。最終的な裁決はヴィクセルが下すが、その実質的な内容は、商人会の意見を取りまとめてそれを承認するというものである。

「突然呼び立ててすまない」
 円卓に集う商人たちは、ヴィクセルを入れて6人。妓楼「夢一夜(フルマ・ライラ)」の楼主イフリータのみが参席していない。
(彼女はまだ床から上がれないだろうから、仕方ないか)
 イフリータは病を得ていた。しかし、何かがひっかかる。
 それは、ヴィクセルの異母弟が黎瞳(シャヘル)の血を引く妓女の子だったからか。
「黎瞳(シャヘル)の娘が現れた、という話をどれほど把握している?」
 ヴィクセルが灰色の瞳を細める。商人たちは片手を上げ、かわるがわる発言する。
「歳のころは16、7だとか」
「先日、何やら6区の裏通りで不審な男たちを見かけたと」
「同じ年頃の娘を探している獣人の少年がいるそうです」
「娘の容貌についてもっと詳しいことは?」
「桃色の髪だとか」
「こちらは金髪と聞きましたが」

 ヴィクセルは腕を組んだ。
 あの夫婦の一人娘であるティシアは、今年で16歳。確か桃色の髪(ストロベリーブロンド)だったはずだ。陽にあたれば金髪のようにも見えるから、合致している。
「本物だと思うのですか?」
 ヴィクセルは口をつぐんだ。黎瞳の一族(シャヘリト)の存在はストゥルルソンの血族にのみ共有される機密事項である。黎瞳(シャヘル)に特別な力などないと言って信じるものがいないのなら、結局隠匿することでしか彼らを守ることができない。
「偽物だろうと本物だろうと、彼らの存在は混乱を招く」
 家畜のように売られた者も、ただ子を産むために繋がれた者も、彼ら一族はその瞳に生まれついたというだけで、人間の際限ない欲望の犠牲となってきた。歳の離れた異母弟にその瞳が受け継がれなかったとわかったとき、どれほど安堵したか。もちろん弟の子に現れないとも限らないが——今はその心配をする時ではない。

「娘を探しているという獣人の少年については?」
「冒険者ギルドに捜索依頼を寄せています」
「ああ……なるほど、そこが噂の出どころか。冒険者ギルドに連絡を入れよう。少年を保護(かくほ)し、話を聞く」
「では、我らは噂の火消しですかな」
「それらしい人間を別に立てましょう。偽物がまた現れたということにして——」
 一同が話を進めるその部屋に、その時、慌てて駆け込んでくる人影がある。
「旦那様、」
 従者に耳打ちされた内容に、ヴィクセルは目を見開いた。
「オークション? 確かか」
 その単語に、商人たちもまた唖然とする。そして、気だるげな空気が一転し、怒りと緊張を伴うものとなった。
「このキサナで人身売買だと?」
 商人のひとりが憤慨する。キサナには妓楼もあるが、彼らにとって妓女も男娼も商品であって商品ではない。彼らが売るのは一夜の夢であって人間ではないのだ。たとえそれが聞こえのいいように繕った詭弁でしかないとしても、非合法の売買を排除することで、キサナという街は栄えているのである。
「そんなものが行われてはキサナの疵だ」
「であれば、早急に対処せねばなるまい」
 商人たちがやる気を出してくれたのは良いことだ。ヴィクセルは背もたれに深く寄りかかり、ため息をついた。長い銀髪が揺れる。
「まったく、やることが多いな」

● その瞳を求めて
 ティシアは震えていた。手足を鎖で繋がれ、この狭い牢屋に放り込まれて何時間——いや、何日経ったのだろう? 無力な少女はただ、祈ることしかできない。
(大丈夫。ハールがきっと助けに来てくれる。だって約束したもの)
 ある日両親が突然連れてきた獣人の少年。捨て子だったという彼は、最初こそよそよそしかったが、日々を過ごすうちに家族となった。彼はやがてティシアたちの境遇を知ると、ティシアをどんな苦痛や悲劇からも守ってみせると約束してくれた。
 だから、大丈夫だ。
 その時鉄格子が強く叩かれ、ティシアはびくりと肩を震わせた。逆光でよく見えないが、牢の前に誰か立っている。
「出な。あんたをお求めのやつらが集まってる。法外な値段をつけにね」
 声が出ない。寒さと恐怖で奥歯がうまく噛み合わずにかちかちと鳴った。

解説

皆さんはキサナの街にて行われるという闇取引会場(オークション)を押さえ、とある少女を救出するよう依頼されています。 オークションがどこで行われるかはすでに調べがついており、そこへ突入する段階です。 基本的にオークションは一般人の集まりであるため、制圧にはさほど苦労しないかと思いますが、「少女ティシア」および「楼主イフリータ」の捜索&身柄の確保が無事になされなければ、依頼失敗となります。 ■依頼人:キサナ領主ヴィクセル=ストゥルルソン  ヒューマン/男/34歳  キサナを預かる王国貴族です。元々は王国北部の生まれですが、祖父の代にキサナ領主に「任官」されました。商人会を取りまとめ、キサナというオアシスの維持、および黎瞳を持つ一族の保護に努めています。 ■同行者:ハール  ハーフビースト(うさぎ)/男/19歳  主人である少女ティシアが攫われたため、その救出を望んでいます。同行しますが、授恵者ではありません。基本的に冒険者の指示に従います。 ■救出対象:ティシア  ヒューマン/女/16歳  不思議な色合いの瞳を持つ少女であり、その瞳にまつわる噂話のために売られようとしています。 ■確保対象:楼主イフリータ  ハーフリング/女/34歳  妓楼「夢一夜」の女主人です。病床にあるはずですが、姿が見えません。オークションにいるのかは不明であり、このため街全体が捜索対象となります。 ■会場について  花街にある酒場「淡花片」の地下にあります。まだキサナ周辺に防衛拠点が少なかった頃の地下壕であるためそこそこ広く、隠し扉から地上に続く通路がいくつか伸びています。 ■キサナの街について  目抜き通りを軸に東西南北を分けると、以下のようになります。 北:領主館、議会所などの政治中枢区 東:商業区 南:居住区 西:花街(妓楼、オークション会場)

マスターより

初めましての方は初めまして。こんにちは、炙りとろ左門です。 お待たせしました、「【黎瞳】絢爛豪華な花の色街」の続編となります。 前回の依頼に参加していなくても問題ありません。字数の関係で街の雰囲気については省いているので、それを把握するのに、前回のOPや解説部分が役立つくらいです。 救出に捜索&確保になかなか忙しくなっておりますが、よろしくお願いします! それでは、皆様のプレイング、お待ちしております!

リプレイ

「君には……キサナの商人が着る服を。こっちは丈が合うかわからないんだが、使用人服だったな。使えるだろうか」
 ヴィクセルが差し出した服を受け取って、ザザ=ステルヴィナは微笑む。
「十分よ。耳を隠したいから、布帽の巻き方は教えて欲しいけれど……ハールさん、こっちに」
 ザザに呼ばれたハールは、やや戸惑い気味に使用人服に着替える。キリクと一緒に、ジュスト・ヴェルジーの付き人として客を装い、オークション会場に潜り込む予定なのだ。
「あとは、招待状を入手しないとね」
 客がどのように会場入りするかは不明だが、酒場で待つ人間もいるだろう。ザザはそういった人間から招待状を拝借するつもりでいる。無理でも、ジュストが主催側に金を握らせる予定だ。
「では個別行動の前に、段取りを確認させていただきますね」
 リサ・ベイカーが先ほど話し合った内容を復唱する。
「無事会場に潜入できましたら、ティシアさんとイフリータさんの居場所を確認。イフリータさんは会場内にいない可能性もありますが……ハーフリングとのことですから、探しやすいとは思います」
 行方が知れないという楼主イフリータは、ヴィクセルの話ではまだ街から出ていないという。彼女がどういう立場でこの問題に関わっているかは不明だが、それを明らかにするためにも、こちらも失敗できない。
「合図を出したら閃光塗弾を投げますので、その間にティシアさんを保護しましょう」
 一同は頷き、ルベア・ベルニとオゴスが会場の把握のために動き出す。制圧中にティシアを連れて隠し通路から逃げられてはたまらない。
「……絶対に助けてやらなきゃ」
 キリクが小さく呟いた。売られるという恐怖を、売られた先の運命を、キリクは知っている。ハールはキリクの色違いの瞳を見てその呟きの意味を察したのか、深く頷いた。

── ○ ──

「隠し扉からつながる通路は3本……サマエラさんに様子を見てきてもらったけれど、ひとつは出口が荷物で塞がれていたわ」
 オゴスと共に探波で会場周辺を探っていたルベアは、ジュストたちにそう報告する。
「そういうカモフラージュである可能性は?」
「なさそうよ。結構量が多くて荷物も重かったらしいから、単純に避難出口だって知らない可能性が高いわね……」
 ルベアの返答に、ジュストは遠くに視線を投げる。
「まあ、今はもう地下壕としてではなく、倉庫のように使われていたようだからね。それにしたって逃げ出した先で扉が開かないなんて嫌だな」
「……目標が連れ去られそうになったら、そっちに誘導してしまうのも手かもしれませんね」
 やや間を置いて、オゴスがそう提案する。
「出口に人を待機させておいて欲しいと、頼んできます」
 ヴィクセルに手勢の動員の許可をもらいに行くオゴスの後ろ姿を見て、キリクは首を傾げる。
「なんだか、少し様子が……?」
「……思うところは、人それぞれだからね」
 ジュストはその言葉で会話を切り上げる。2人とも、オゴスの来歴を知るわけではない。ジュストがそれでもオゴスの胸中をわずかながらにも察することができたのは、鍛えられた人間観察力によるものだろう。
 こうして窮地を救ってもらえる命は稀だ。世の中、都合よく助けがあるようなことはほとんどない。
(……彼がどうだったかはわからないけれど)
 ジュストは思考を切り替え、ザザから招待状を受け取る。
「私と貴方のぶんで2枚ね。それ以上は騒ぎになりそうだったから」
 会場近くで招待状が相次いで消えれば怪しまれる。1枚か2枚が限度だろう。
「いや、十分ですよ。キリク君とハール君は俺の付き人としてお願いします。リサ嬢はザザ殿の付き人ということで」
 準備は整った。オークションが始まる時間だ。

● 底なき欲望の渦
 会場内に潜入を果たした一行は、さりげなく隠し通路へ続く扉を確保するように位置取る。
 ジュストはイフリータのことについて情報を得るために参加客の会話に加わったが、代わりに得られた名前に目を瞬く。
(ベイリア商会……?)
 聞き覚えがあるような、ないような名前だ。しかし、主催の名前が伏せられている状況で出てくる団体名が「白」である可能性は低い。
『リサ嬢、ご存知ですか?』
『……あまりいい噂は聞きません』
 ジュストはテレパスでリサとやりとりをする。リサの生家はエスト・ポーラの商家であり、リサ自身も褪野(王国領)での商取引に関わっている。
『客の求めるものは、金さえ積めばなんでも用意する、と。そのため非合法な取引への関与も囁かれています』
『あくまで噂……と』
『はい』
 名前が出ただけで、このオークションに関わっているかは分からない。リサは歯痒さを感じつつも、鎖に繋がれた幼い子供たちが壇上に突き出されるのを注視する。と、ハールがぴくりと反応した。
「お嬢様です。右から3番目の」
「まだよ」
 今にも飛び出していきそうなハールを、ザザが押し留める。
「でも……!」
「今は堪えて。手筈通りに」
 ザザに宥められ、ハールは奥歯を噛んで引き下がる。確かにここで1人飛び出していったら、作戦が台無しになる。
「本日の目玉はこちらの少女です」
 司会者がティシアの前髪を掴んで前に突き出す。痛みに歪んだ顔が照らし出された。
「目を開けろ。お客様によく見せるんだ。……こちら、あの伝説の黎瞳(シャヘル)を持つ娘となっております! 本物ですよ」
 会場がどよめき、競りが始まる。リサはハールの様子を見て声を上げるタイミングを早めた。あらかじめ取り決めておいた合図を送り、司会者の声に合わせて競りへの参加を宣言するとともに、それを中空へ放り投げた。
 光が弾ける。一行は目を庇い、光が収まると同時に動き出した。
「い、一体何が……うわっ!?」
 駆け出したリサの手で、壇上にいた司会者が引き摺り下ろされる。そこへ、ザザがアーケインテンペスト改を唱えた。リサや子供たちを巻き込まないように位置を調整しつつ、ザザの魔法の範囲から漏れた人間はジュストのスタティックフィールドに囚われる。
「さあ、」
 ジュストに背中を押され、ハールは駆け出した。
「ハールっ!」
「お嬢様!」
 ハールを見つけて一歩踏み出し、よろめいたティシアをハールがしっかりと受け止める。
「お、お、お前たち! こんなことをしてただで済むと——」
 舞台下で立ち上がろうとする司会者の背中を、後ろからジュストが蹴り上げる。
「おっと失礼。でも、街のルールを破ったのはそちらだからね。ただでは済まないのはどちらかな」
「みんな、集まって」
 リサは子供たちを捕らえていた鎖を断つと、自分の周りに集める。そして彼らを守るように、ジュストが立った。

 キリクは通路に逃げ込んだ男を追っていた。男は閃光塗弾の投擲を予知していたかのように防御の姿勢をとり、そのまま隠し扉のほうへ向かったのだ。会場内では招待客が邪魔で射撃が難しく、そのまま後を追ってきたというわけだ。
 だがキリクは焦っていない。この通路の先、地上ではサマエラ=フォリウムが待ち伏せしているのだ。地下通路の存在を知らず塞がれていたその出口へ駆け上がったあと、男はキリクの足元に転がり落ちてきた。
「お前がどんな立場でオークションに関わってたかは知らない。でもこんな場所にいる時点で、言い逃れはできないからな」
 目を回しているその男を取り押さえる。すると、サマエラが階段を下りてきた。
「よかった。その男から詳しい話は聞けそうだろうか」

● 囚われの生
 リサらによって保護された子供たちは、酒場の付近で待機していたヴィクセルたちとその手勢によって保護された。オークションの主催者をはじめとした参加者が捕縛されるなか、リサはキリクとサマエラが捕らえた男を光縛呪で縛り上げる。そして酒場の2階の個室に運び込み、剣を抜いて男の足を剣先で撫でた。
「質問には簡潔に答えてくださいね。イフリータさんはどこにいるかご存知ですか? 彼女はこの件にどういう立場で関わっているんですか?」
「はっ、それを知ったところで——」
 リサが剣を振り上げる。その剣先が足首を貫きそうになった時、男は声を張り上げた。
「ひ、東区の商館だ! 彼女は売上を受け取る手筈なんだ」
 剣先を寸前で止め、リサは「確かですね?」と確認する。男が何度も頷くのを見て、リサは剣を収めた。スケープセイント(体を張った脅し)は使わずにすみそうだ。
「イフリータは、やはり……」
「やはり?」
 部屋の外で待機していたヴィクセルの言葉に、同じく外にいたスィーリーンは首を傾げる。
「いや、確信はなかった。イフリータは芯の強い女性で、曲がったことが嫌いだったんだ。だが彼女は病を得て……不安になったんだろう」
「……イフリータ様」
 スィーリーンは瞑目する。誰もが強い心を持ち続けることができるわけではない。しかし他人を犠牲にするやり方で生を得たとしても——いや、やめよう。今は公正を論議している場合ではないのだ。

── ○ ──

「東区の商館……っていっても、もう騒ぎを聞きつけて逃げ出しているかもしれないわね」
 ルベアは歯噛みしながらそう漏らしつつ、建物の間を飛び越える。
 リサが聞き出した情報をもとに、サマエラとルベアとオゴス、そしてスィーリーンの4人が東区へ向かって走っていた。
「イフリータ様のご病気は、心臓の病だそうです。であれば、誰かに運ばれない限りは遠くへはいけないはずです」
 スィーリーンはヴィクセルから聞いたイフリータの情報を復唱する。
「売上を受け取る手筈だったということは……」
「黒、か」
 オゴスの言葉に、サマエラは短く答えた。
「私は正面から。ルベア!」
「上から行くわ」
 サマエラの声に応え、ルベアが鐘楼から身を躍らせる。黄昏色の空にはためいた影が商館の屋上に降り立った。
「オゴス、中の把握を頼む」
「お任せください」
 サマエラが立ちはだかる守衛たちを盾で弾き倒す。その隙に、オゴスが双波で建物の構造を、続いて中の人数を把握する。
 その時、スィーリーンの瞳がイフリータと思しき影を捉えたのは、類まれなる幸運のなせるわざだったと言えよう。
「3階にいます!」
 スィーリーンが声を張り上げると同時に、ルベアがくるりと身を半回転させて、3階の窓を蹴破った。
「3階へ続く階段は!?」
「中央と東西……ルベアさんが西側に追い込んでくれています!」
「わかった、そちらへ向かう!」
 サマエラが先鋒を請け負い、階段を駆け上がる。
「妙ですね」
「オゴス様もそう思いますか?」
 オゴスとスィーリーンはそれに続きながら、奇妙な感覚を覚えていた。邪魔や追っ手を警戒していたのだが、商館には突然の騒ぎに慌てふためく一般人しか見受けられないのだ。
 3人は大した妨害も受けず、3階へと辿り着いた。通路の野次馬たちを避けながら、一行はルベアに取り押さえられたイフリータの前に進み出る。
「イフリータ様、あなたは病のために……こんなことを?」
 スィーリーンがイフリータの前に跪く。病人であることも鑑み、ルベアは少し拘束を緩めた。
「ベイリア商会のやつらに置いていかれたみたいよ」
 哀れむべき対象ではないが、ルベアの声には微かな憐憫が滲む。ゆえにそれを打ち消すように、続く言葉は鋭く厳しいものだった。
「一体なんでまた、人身売買になんて手を出したの? 商売がうまくいっていないわけでもないでしょうに」
 イフリータはキサナいちの廓の楼主だ。金が目当てなら、すぐにとはいわずとも用意できたはずだ。
 それとも、すぐに大金が必要だったのか。
 イフリータの顔色が悪くなる。それを見てとったサマエラが素早くヒールをかけた。
「心臓の病、か。もう、手の施しようもないほどの時期と見た」
 なんとか呼吸をしているイフリータを、オゴスが抱え上げる。
「これでは、もはや抵抗はできないでしょう。ひとまず依頼人(ボス)のもとへお連れしましょう」

● 翅は燃え落ちて
「……そうか、ベイリア商会が」
 領主館の応接室に集まった冒険者たちを前に、ヴィクセルは深い溜息をつく。
「彼らの悪名は知っている。ゆえにキサナでの商売は認めていない。この街でものを売ることができるのは、〈王なき統治(シャーマート)〉の承認を得た者たちだけだ。……これは、思わぬ収穫だな」
 しかし、その言葉とは裏腹に、ヴィクセルの顔色は優れない。
「イフリータと……彼女を唆したオークションの主催が証人となってくれるかどうか、だ。彼女の病は、最早寛解は見込めない。容体もいつ急変するか……いや。まずはこちらの要求を見事こなした君たち冒険者を讃えようか」
 ヴィクセルは軽く手を叩く。すると傍に控えていた従者が、机の上に報酬の入った袋を置いた。
「多少、色をつけてある。口さがない言い方をすれば、口止め料だが」
「それはありがたいけど……助けた子たちは?」
 キリクが気になっていたことを問うた。それに、ヴィクセルは心配ないと軽く手を振った。
「キサナで働き口を充てる。もちろん、本人が望めば他の街でも。その場合最後まで面倒は見てやれないが、まあ、このあたりは選ばせるつもりだ」
 それは、選択肢などほぼないに等しいということだ。だが、現状取れる選択肢で最も安全と言えるのがヴィクセルの庇護下であることは間違いない。
「ティシア嬢は……扱いが難しいが。処遇が決まるまでは私の方で預かろう。もちろん、彼女の従者であるハール君も一緒に」
 それと、とヴィクセルは机の上に並べた招待状を指先で叩く。会場で動けなくなった参加者たちから、ザザが入手したものだ。
「これも有効利用させてもらおう。実に良い働きだった。近く、また君たちを頼ることになるかもしれないな」
 灰色の瞳が、興味深そうな色を湛えて細められる。
「健闘、ご苦労だった。今宵はゆるりと、キサナの彩(いろ)を楽しんでゆかれよ」

マスターコメント

お疲れ様でした! ティシアの保護とイフリータの確保、どちらも無事成功です! 後半、イフリータの居所を敵に供述させることができましたので、それに合わせてアドリブメインとなっております。このためプレイングからの採用が……あのえっと……すみませんでした!!!!!! 今回のMVPは皆様に差し上げたいのですが、システム上できないために恒例のスーパーMVPを、皆様に称号を贈らせていただきました。お気に召しましたら幸いです。 さてさてなにやら怪しい商会の名前が出てきましたが……? それではまたお会いしましょう!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:多い8 / 4〜8人

2021年11月20日 14時17分47秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ジュスト・V・ケレス

    キャスターのジュスト・ヴェルジーだ、よろしくね。 さて、オークション会場の制圧自体はさして難しくないとされているけれど、そのまま突っ込むと制圧中に救出対象の少女が会場の外に連れ出されてしまう可能性が高そうだからちょっと考えたいところだね。 加えて楼主イフリータ殿の捜索もしなければいけないようだけれど、こちらの方が捜索に難航しそうだ。 病床にあったということは自身でどこか遠くへ行くというのは不自然だし……誘拐の線を疑った方が良いのかな?

  2. オゴス

    シーフのオゴスと申します。どうぞよろしくお願い致します。 イフリータさんに関しては確保対象という言葉の使われ方から不穏な印象を受けました。 確証もない内から敵と決めつけて行動するのは問題ですが、彼女と敵対する可能性も視野に入れる程度の警戒はしても良さそうですね。 たしかに誘拐といった線もありそうですね。色々な視点から捜索してみましょう。 俺はシーフの探波を使って、地下壕や地上への通路を探れないかとも思っています。 元の探波は射程が0なのですが双波で使う探波なら射程が20あるのです。 役割分担しティシアさん救出とイフリータさん捜索を同時進行していくという認識でいますが、皆さんと一致していますか?

  3. リサ・ベイカー

    ヒーラーのリサです。 よろしくおねがいしますね。 さて、救出のほうは、どのタイミングでどのように突入するか、ですね。 力押しでも救出自体は行けそうですけど… ぱっと思いつくのは、閃光塗弾で目眩ましして、シーフさんとかの機動力で掻っ攫う…とか。 客?への被害をどの程度許容するかにもよりますが、一部が派手に暴れて。 というのもありですね。 オゴスさんの言うように、イフリータの捜査も平行してですね。 イフリータ、敵対で隠れているのか、 何らかのトラブルで出てこれないのか… 色々想定して対応必要かなと

  4. サマエラ=フォリウム

    ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。 よろしく頼む。 既に突入段階&制圧にはさほど苦労しないとのことで、 私もここから救出と捜索同時進行、の認識でいた。 救出の方はリサの言うように、何らかの手段で多数の意識を引き付けている内に確保するのが、 手っ取り早そうかな、と思う。 確保役は隠密なり客に紛れるなりで、多少でもティシアに近付いておけば、 スムーズに進み易く、なるだろうか。 捜索の方は……これも同じく、敵対しそうな印象も確かに受けた。 実際のところは不明だが、ひとまず会場にいた場合は隠し扉から移動しようとする、として、 通路を探ってもらえるのは、ありがたいな。 病床にあるというのが事実ならだが、そう激しく動いたり動かしたりはし難い、とは思うので、 地上に出たとて、すぐさまいなくなるということも、なさそうだろうか……。

  5. キリク

    シューターのキリクだ、よろしく。 僕もこの目を持ったおかげで人攫いにあった身なんだ。必ず助け出そう。 >確保対象 確かに気になるな。誘拐とか失踪の扱いならティシアと同じく保護対象で良いはず。 何か闇オークションとの関連する情報を掴んでるのかもな。

  6. ザザ=ステルヴィナ

    キャスターのザザ=ステルヴィナよ。今回は宜しくね。 >イフリータ OP情報によると、「黎瞳の一族」について何か知っている可能性があるのよね。 その関係で攫われたか、もしくは脅されて無理矢理協力させられてる、とか…? >救出 何らかの手段で敵を陽動している隙に、ティシアを確保する方向で異論はないわ。

  7. ジュスト・V・ケレス

    俺もティシア嬢救出とイフリータ殿の捜索確保は同時進行の認識だね。 役割分担だとティシア嬢救出の方がお役に立てそうだ。 救出に関してはティシア嬢が競売にかけられる、ステージに上がったタイミングで誰かが派手に暴れて、その混乱に乗じて保護、制圧って流れがわかりやすいかな、と。 俺は客に扮して保護する役でも、魔法で派手に目を惹く役でもどちらでも。 ああ、魔法に関しては客を直接狙うつもりはないよ。多少痛い目見ても良いとは思うけどね。

  8. ザザ=ステルヴィナ

    >役割分担 それじゃ、私もティシアさんの救出の方を希望させて頂こうかしら? ティシアさんがステージに上がったら周辺の用心棒(?)と思われる連中を狙って、サブで【アーケインテンペスト改】を召喚。 用心棒達の機動力を削いで、その隙に救出できれば…って考えているわ。 >潜入 オークション会場にはお客として紛れ込もうかと思っているけれど―― 何か特別な招待状とか必要なのかしら? 招待状が無いと入れない場合、忍び込むしかないわよねぇ……。

  9. オゴス

    >役割分担 俺はイフリータさん捜索の方で動きますね。 地下通路を調べる関係で、オークション会場付近から行動を開始する予定です。 >招待状 オークション会場の外で客らしき相手から【盗み/スリ】でこっそり頂戴すると良いかもしれませんね。 陽動役の方が注目を引いている隙に何食わぬ顔で客として入り込むなんてことも。これだと事前潜入ではなくなりますが、招待状を盗む手間なしで客の立場を偽装できそうです。

  10. ルベア・ベルニ

    遅くなってごめん、シーフのルベアよ。宜しく。 >役割分担 シーフはオゴスさんと私だけみたいだし、まだ考え中。 ティシア救出なら混乱に紛れて掻っ攫う役割になるだろうし、イフリータ捜索なら地上側かしら。 どこかへ逃れる(逃れている)として、花街以外で怪しいのは商業区な感じもするし……。

  11. スィーリーン

    遅くなりまして申し訳ありません。 キャスターのスィーリーンと申します。 よろしくお願いします。 ティシア様の救出とイフリータ様の捜索は同時進行で異論ありません。 人数的に、私はイフリータ様の捜索に回ろうかと考えています。 確かに『確保』との表現が気になりますので、戦闘になった場合も考えて。

  12. キリク

    僕はティシアの救出に向かおうかな。 シーフズツールを持ってるから、檻の鍵とかもこじ開けられる。 他にも捕まってる人達もいるだろうし、戦闘が終わったら全員助ければいいよな。

  13. オゴス

    >スィーリーンさん よろしくお願い致します。 別行動と合同では、スィーリーンさんとしてはどちらが動きやすいですか? 別行動では捜索の時間短縮が期待できます。 合同で動けばイフリータさんに敵対の意志があった際に応戦しやすい。 それぞれ別の利点があり悩んでいるのですが、個人的には戦闘を想定して共に行動できたらと思っております。いかがでしょうか? >ルベアさん 速さで掻っ攫うのも捜索するのも、どちらもシーフの能力を活かしやすい状況ですからね。 シーフ同士で何か行動を調整しておくと良いことがあったら、お申しつけくださいね。

  14. ザザ=ステルヴィナ

    >招待状 >オゴスさん アドバイスをありがとう。 早速【盗み/スリ】を修得してみたわん。成功すると良いのだけれど…。 一応、会場に潜入する人数分の招待状をGET出来るように頑張ってみるわね…!

  15. リサ・ベイカー

    そろそろ、どちらに行くか決めた方が良いですね? わたしは、とりあえず救出の方に向かいます。 もしもヒーラー分けたほうが良くて、 サマエラさんが救出に、というのであれば変更は可能です。 ■救出 キリク ザザ ジュスト リサ ■捜索 オゴス スィーリーン

  16. リサ・ベイカー

    そういえば、イフリータさん、オークション会場にいる可能性もゼロではないのですよね。 その辺も考慮して動く必要はあるかもですね。

  17. サマエラ=フォリウム

    ああ、それなら人数的にも、私は捜索の方に回ろう。 リサは分担のまとめ、ありがとう。 イフリータが会場にいた場合、隠し扉から移動しようとするならば、 通常の出入り口とは別方向に向かう者を捜せば、見付け易そう……だろうか。 ひとまず私も会場に入っておいて、そちらに目を光らせてみようかと思う。 それらしき者がいれば、光縛封で隔離を。 見付からなければ、街のどこか……手が足りない方向へ、向かおう。

  18. スィーリーン

    >オゴス様 こちらこそよろしくお願いします。 そうですね、どちらにも利点があり悩む所ですけれど 仰るとおり戦闘の懸念がありますし、私は捜索関連が不得手ですので 共に行動出来ればと思います。 リサ様はまとめを有難うございます。 サマエラ様もよろしくお願いしますね。

  19. リサ・ベイカー

    サマエラさん、ありがとうございます。 救出ですが、潜入出来ていれば潜入しつつ機会を伺い、ティシアさんが出てきたところで、動きますか。 わたしは、閃光塗弾投げるつもりですが、合図あった方が良いですよね? 若しくは、可能ならテレパスで連絡取り合いたいですけど。 あと、念の為、オークション会場にイフリータが居ないかの捜索も折込みますね。 関係者に聞けば(尋問なり取引すれば)教えて貰えますかね?

  20. オゴス

    捜索の手順としてはこのようなものを想定しています。 ・オークション会場と地下通路で繋がる他の建物がないか、双波(探波)で調査 ・繋がっている建物に双波(捜波)を使い人数の確認 ・目星をつけた建物内部を【幽体離脱】で確認 ・必要があれば突入または潜入 幽体で活動中の俺が戦闘不能になった場合、その建物内に授恵者がいる可能性が高いです。 同行してくださっている方が異変に気づきましたら、敵への対応をよろしくお願いします。

  21. ジュスト・V・ケレス

    ザザ殿が招待状を調達できればその恩恵にあずかれれば幸い。 招待状の類が入手できなければ、金銭があるのをちらつかせつつ口八丁で潜り込めたらって思ってるよ。 テレパスなら用意できるので、リサ嬢と連絡を取り合えると有難いね。 イフリータ殿はこのあたりじゃ名も通ってるし、俺もティシア嬢を救出前に世間話でもする体で会場で話を聞いてみようかな。 そういえばハール君も同行するようだけれど、他に希望者がいなければ俺の使用人を装う形で同行するという形で大丈夫かい? ティシア嬢も知っている顔が助けに来れば安心できるだろうから。

  22. キリク

    ハールを使用人として潜入させるなら、僕も同じく誰かの使用人って形にしても良い? 招待状があっても、あんな場所に出入りしたら怪しまれそうで…。

  23. サマエラ=フォリウム

    ハールはそうだな、救出側に同行で良いと思う。 ティシアも混乱があるだろうから、安心感を与えられそうなのは大きいな。 あとは彼自身授恵者でないという意味でも、そちらの方が安全確保し易そうだ。 私も会場内か、その入り口あたりで窺いながらの行動開始予定なので、 タイミングや情報共有のためにも、テレパスは所持しておこう。

  24. ジュスト・V・ケレス

    出発直前の報告になってしまい申し訳ないが、一応俺の方で他にフォローする方がいなければキリク君の会場入りをフォローできるような形にしてみたよ。

  25. ルベア・ベルニ

    全然顔出せてなくてごめん…。 救出は目処が立ってるみたいだから捜索に回るわね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0