【壊密】弔いの鉄槌

革酎

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シナリオID:1582

オープニング

●少女との約束
 リーンエス王国メルゲンガー伯爵領都アジェルマハーの冒険者ギルド支部。
 その受付カウンターで、受付嬢ティマニ・エレザンは思わず息を呑んだ。
 目の前に、ひとりの少女が立っている。年齢は恐らく七歳か、それぐらいだろう。決して上等とはいえない生地のワンピースが、半ば黒っぽく変色した大量の血で染まっている。
 一体、何があったのか。ティマニは慌てて受付カウンターの裏から飛び出し、少女の前にしゃがみ込んだ。
「ねぇ大丈夫? どこか痛いところは無い? お父さんとお母さんは?」
 問いかける間も、ティマニの両手は少女の全身を隈なく探り、傷らしい傷が無いことを調べ上げた。
 少女は、小さな革袋を握り締めていた。その革袋をティマニにぐいっと押し付ける。何事かと驚きつつ、ティマニは受け取った革袋の中身を覗き込んだ。中には、僅かながら金銭が詰まっていた。
「えっとね、これでね、お母さんの仇を討って欲しいんだけど……」
 やっとの思いでそこまでいい切ると、少女の目に大粒の涙が溢れた。

 少女の名はパメリア・セルゾ。アジェルマハーの下町で母クラリエとふたりで住んでいる筈だということを、メルゲンガー伯爵私設兵団の長リオル・フーベルが調べ上げた。
 リオルがそのクラリエ宅を訪ねると、そこで血の海に沈む女性の遺体を発見した。近隣での聞き込みで得た外見情報から、リオルはその女性遺体こそがクラリエであると断定した。
 何故クラリエが殺されなければならなかったのか。リオルは然程の時間を要さずに、手がかりを探り当てた。クラリエ宅から、二種類の紋具が複数、発見された。ひとつは噴霧用紋具、もうひとつは着火用紋具。
 先般アジェルマハーで生じた放火殺人の現場で発見されたものと同種の品だった。
 リオルは、ティマニの世話で身なりを小綺麗に整えたパメリアから、事情を聞くことにした。

 冒険者ギルド受付ロビー脇の休憩スペースで、パメリアは半ば放心した状態ながらも、リオルからの問いに対しては比較的明瞭な言葉で応じた。
 クラリエは妙な連中から、二種類の紋具を預かっていたらしい。それらを預かるだけで、結構な大金を謝礼として受け取っていたことが伺えた。
 母ひとりの手で娘を育てるのは何かと苦労が多い。夫は暴力癖が酷いらしく、彼女はパメリアを連れてアジェルマハーまで逃げて来たという噂が立っていた。そんなクラリエを、テロリスト『黒熱砂』は簡単に利用出来ると踏んだのだろう。
 だがここでティマニが怪訝な表情を見せた。領主マグラウリー・メルゲンガー伯爵は経済的或いは社会的弱者に対しては、手厚い保護で救済しようとする人物だ。クラリエの様な家庭環境はまさに、メルゲンガー伯爵の施策では真っ先に保護対象となるべき筈である。
 にも関わらず、何故クラリエは黒熱砂からの報酬を当てにしなければならなかったのか。
「その点についても調べました。恥ずかしながら、どうやら前家士長クアンクル・モレバーが一枚噛んでいた模様です」
 リオル曰く、黒熱砂のスパイとしてメルゲンガー邸内に潜入していたクアンクルが、一部の生活困窮者情報をメルゲンガー伯爵の目から隠し通していたらしい。目的は当然、報酬や脅迫等で生活困窮者へと迫り、黒熱砂の手足として利用する為であろう。
 クラリエとパメリア母子は、クアンクルの黒熱砂への忠誠心の犠牲となった訳だ。
 そして今回――黒熱砂は最後の始末として、彼らと接触のあったクラリエを消したのだろう。
「そんな非道な連中……放っておいて良いんですか?」
 ティマニの目が据わっている。今にも憤怒の雄叫びを上げそうな勢いだった。
 リオルは静かな口調で、ひとり残らず討伐すると返した。
「クラリエ宅内から、この辺では生えていない植物の葉が見つかりました。恐らく西の湖沼地に連中の隠れ家があるのでしょう」
 すぐに冒険者を雇い、討伐隊を編成したいとリオルが告げると、ティマニは気合の漲った顔つきで受付カウンターの裏側へと走り込んでいった。
 その間、リオルはティマニから預かっていた革袋をパメリアの小さな手に握らせた。
「申し訳ないが、このお金は貰えない。君のお母さんを酷い目に遭わせた奴らは、メルゲンガー伯爵私設兵団の正式任務としてやっつけなきゃいけないからね」
「うん、良いよ……でもちゃんと、お母さんの仇は……討ってね」
 勿論だよ、とリオルは幾分大袈裟な仕草で胸を張った。

●素人が下手を打つ
 アジェルマハーに程近い西の湖沼地。
 水辺に佇むボート小屋周辺に、幾つもの人影が屯している。黒熱砂に所属するテロリスト達だ。
 大半が鍛えられ、武装に身を固めた戦闘員だったが、そのうちのひとりだけは妙に場違いな雰囲気を漂わせている。先日までメルゲンガー邸で家士長を務めていた老人クアンクルだ。
「始末をつけてきたか?」
「えぇ、えぇ、それは勿論」
 黒熱砂戦闘員のリーダーと思しき男に問いかけられ、クアンクルは揉み手で下卑た笑みを返した。
「あの女、必死にすがりついてきましたよ。娘を残して死ぬ訳にはいかないとか何とか……そんなことは、私の知ったことじゃあございません。今までの謝礼も込めて、たっぷりと楽しませて貰った上で息の根を止めてやりましたとも」
 甲高く裏返った声で笑うクアンクル。若干サイコパス気味な性格なのかも知れない。
 だがその時、ここに居揃っている全てのテロリスト共が一斉に緊張の色を見せ、直立不動の姿勢を取った。
 不意に、怪奇なる魔人の姿が水辺のほとりに佇んでいたのである。壊密宗の首領ジュラッツァ・ゲ・ラカンカの不気味な巨躯が、のっそりとした歩調で距離を詰めてきた。
「こ、これは邪導師殿……何か問題でも?」
「マレコ、下手を打ったな」
 目も鼻も無い異様な容貌の中でひと際目立つ乱杭歯だらけの大きな口から、擦れた声が絞り出された。
 マレコと呼ばれたリーダー格の男は脂汗を浮かべて、ごくりと喉を鳴らした。
「メルゲンガー伯爵私設兵団が冒険者を連れて迫ってきておるぞ」
 そんな筈は、と反論しかかったマレコだが、不意に思い当たる節が脳裏に浮かび、クアンクルの引きつった面に視線を飛ばした。
 クアンクルは戦闘や隠密行動にはまるで不慣れな老人だ。クラリエ抹殺の際に、この臨時拠点を特定されてしまう痕跡を残してきたとしても、不思議は無い。
 ジュラッツァは、クアンクルなどに後始末を任せたマレコの不手際を糾弾した。
「己の手で始末をつけよ……我らを必要以上に巻き込むことは断じて許さぬ」
 後は高みの見物だとばかりに、ジュラッツァは脅威的な跳躍力で樹上へと姿を消したが、入れ替わる様に別の魔人がのっそりと姿を現した。体型は頑健な成人男性ながら、首から上が以上に長く、牙だらけの口が十字に割れている。
「邪弟夫クロスマウスを支援につけてやる。だが無様な姿を見せる様ならば、冒険者ではなく、そやつが貴様らの始末をつけると思え」
 頭上から降ってくるジュラッツァの声を受けて、リーダー格の男マレコ・ルキは鬼の形相でクアンクルを睨みつけた。
「……迎撃するぞ。貴様も逃げることは許さん。分かったな?」
 マレコの殺気に満ちた視線に、クアンクルはか細い悲鳴の様な声を喉の奥から漏らしていた。

解説

状況:  PCの皆様はアジェルマハーの冒険者ギルドでリオルからの依頼を受け、メルゲンガー伯爵私設兵団の討伐部隊と共に湖沼地を目指しているところからスタートして頂きます。  敵の所在地は既に調査済みですので、後はひたすらテロリスト共を徹底的に叩くのみです。  敵の数はメルゲンガー伯爵私設兵団の討伐部隊より若干多い程度です。 敵:  黒熱砂戦闘員リーダーのマレコ・ルキ、前メルゲンガー邸家士長クアンクル・モレバー、壊密宗の魔人クロスマウス、そして黒熱砂の戦闘員達です。  強敵はマレコとクロスマウスで、特にクロスマウスは今回が初登場でその能力は未知数です。  ジュラッツァ・ゲ・ラカンカは余程のことが無い限り戦闘には参加しませんが、多少顔を見せる程度のことはあるかも知れません。 NPC:  メルゲンガー伯爵私設兵団の長リオル・フーベル、冒険者ギルド受付嬢ティマニ・エレザン、少女パメリア・セルゾといった辺りが主な登場NPCです。もしかするとマグラウリー・メルゲンガー伯爵も顔を出すかも知れません。

マスターより

 皆様、こんにちは。  個人連作【壊密】のシナリオをご提供致します。  前回の『忍び寄る熱砂』からの続編という位置づけですが、必ずしも前回のシナリオに関わっている必要はございません。兎に角悪い奴らを一網打尽にしてやろうぜ的な勢いで討伐戦に臨んで頂ければと存じます。  最愛の母を奪われた少女の恨みを晴らしてあげて下さい。  それでは、もしご縁があればご参加のご検討宜しくお願い致します。

リプレイ

●必倒必殺の決意
 リーンエス王国メルゲンガー伯爵領都アジェルマハーを出て西へ向かうこと、凡そ一時間。
 リオル・フーベル率いる私設兵団強襲隊は数名の冒険者達と共に、背の高い水草や葦が生い茂る西の湖沼地近辺へと到達していた。
 時刻は夕刻。西陽が斜めに、オレンジ色の輝きを伴って鋭く射し込んでくる。位置によっては一瞬、視界が陽光で遮られることもあるだろう。意外と戦いには不向きな時間帯だ。
 狙う敵はテロリスト黒熱砂の戦闘員、及び元メルゲンガー邸家士長クアンクル・モレバー。
 特に老齢のクアンクルは、非道にも幼い少女パメリア・セルゾの母クラリエの命を奪った卑劣漢だ。確実に仕留めたいという思いが、誰の胸中にも静かに渦巻いている。
 強襲隊と冒険者達は周囲に目隠しとなる葦の群生地が広がっているところで、進軍の歩を止めた。斥候に出ているヴァン・ローラントとセリオス・オーガストの帰着を待つ為だ。
 リオルが持参した周辺地図を地面に広げて現在地と地形情報を冒険者達に説明していると、ヴァンとセリオスが葦の間を音も無く滑る様にして駆けてきた。
「大体の人数と配置は見てきた」
 ヴァンの第一声と共に、セリオスが地図脇にしゃがみ込み、リオルから借りた筆記具で地図上の数カ所に次々と印を書き込んでゆく。
「連中は特に何かを守っている様子も無く、普通に警戒線を張っているだけだ。一カ所を崩せば、簡単に裏側へ抜けられる」
 するとリディリディ・トゥラ・イェレミースが横合いから白くてしなやかな指先をそっと差し出し、セリオスが書き込んだ印を一カ所ずつなぞってゆく。
「人数の多いところは、どこでしょう?」
 今回リディリディは支援系の魔術に徹する腹積もりだ。自身は火力担当ではなく、敵を確実に殲滅する為の、いわば縁の下の力持ち的な役割を全うすることで、仲間の戦術を円滑に進めさせようという訳だ。
 敵はひとりとして逃がさぬという強い意志が、穏やかな表情の裏に垣間見えた。
「手強そうな奴は、居た?」
 アルマ・ヴァレンタインがちらりとヴァンに視線を流した。ヴァンは渋い表情で頷き返す。
 リーダー格らしき男の他に、頭からフードを被ったローブ姿の長身が居た、とヴァンは語る。その佇まいから妙な迫力を感じた。
「腕をちらっと見たが、妙な亀裂らしき筋が入っていた」
 指先から肘の辺りまで四本の筋が見えたというヴァンの報告に、アルマはふと嫌な予感を覚えた。
「黒熱砂に関わってて、且つそういう奇妙な外観の奴って、大体壊密宗なんだよね……」
 だが、負ける気は無い。今回こそはひと泡吹かせてやろうと、アルマは気合十分だった。しかしクアンクルだけは簡単に死なせるつもりは無い。今回アルマは捕縛したクアンクルを護送する為に、わざわざ黒汗馬と荷馬車まで用意していた。
「そのクアンクルだけど、メルゲンガー邸でも妙な動きをしていたみたいだね」
 事前にメルゲンガー邸を訪れ、マグラウリー・メルゲンガー伯爵と面会を果たしていたルチル・プルメリア・グレイハーツが、トレードマークたる頭蓋面の奥で何ともいえぬ渋い表情を浮かべた。
 メルゲンガー伯爵が家士に命じてクアンクルの個室を調べさせたところ、妙な書類や記録が次々に発見されたのだという。
 いずれもヘルマス・ジーロー伯爵領からシラー砂漠東端付近に達するエリアの調査結果で、特に数年前に滅んだといわれるシラー砂漠の部族エジュラに関する内容のものが多かった。
 メルゲンガー伯爵はジーロー伯爵とも昵懇で、ジーロー伯爵領を起点とする中小の商会にも支援金を拠出していた。
「何を調べていたのかは、この際どうでも良い……ここは禍根を残させない為にも、連中をひとり残らず斃すのみだ」
 それまで無言を貫いていたアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトが、不機嫌そうに呟いた。いつもは笑顔を絶やさぬ好青年だが、今回ばかりはまるで別人の様に怒りの念が表情一杯に滲み出ている。
 パメリアの身に起きた悲劇を想うと、とてもではないが笑みを浮かべる気分にはなれなかった。今の彼には戦いの高揚も無ければ、強敵とまみえる愉悦も無い。少女の悲しみに僅かでも報いる為に、確実に全てのテロリストを仕留める――それ以外の発想は、欠片にも生まれてこなかった。

●水辺の掃討戦
 戦いは、静かに始まった。
 ルチルとヴァンの放つ矢が、南側の警戒線に立っている敵戦闘員をひとり、またひとりと瞬く間に仕留めてゆく。ルチルに狙撃された者は声も無くその場に崩れ落ち、ヴァンの矢を受けた者は苦悶の声や警鐘の叫びをあげる前に私設兵団員が足早に接近して、口元を押さえて素早く止めを刺す。
 だが、この隠密裏の奇襲もすぐに敵の知るところとなった。仲間が草むらの中に昏倒する姿を、別の警戒線の戦闘員が目撃したらしい。大声で南側に敵襲ありを叫ぶ。
 こちらの存在が知れ渡った以上、こそこそと隠れる必要は無くなった。アルベルトは得物を携え、堂々と敵の拠点たるボート小屋めがけて、大股に歩を寄せていった。
 最初は雑魚の戦闘員が群がり来るかと思ったが、意外にも、件のローブ姿がいきなりアルベルトの前に立ち塞がった。
 鉄壁の守りと凄まじく重い一撃を誇るアルベルトだが、正体不明の相手に対しては流石に警戒せざる得ない。アルマとセリオスが素早く彼の後方に走り込み、支援態勢を取った。
「アルベルトさん、堅甲ばっちり発動中だよ! 遠慮無くやっちゃって!」
 アルマの宣言通り、アルベルトの鎧は淡い光に包まれている。少々のことではかすり傷ひとつ負うことも無いだろう。
 一方セリオスはアルベルトが接敵する前に先手必勝とばかりの鋭い射撃を叩き込んだ。敵はローブをさっと脱ぎ去り、迫り来る矢を横薙ぎに払おうとしたが、セリオスの攻撃は布一枚で防ぎ切れる様なものではない。
 しかし驚きの声を漏らしたのは敵ではなく、先制の打撃を加えることに成功したセリオスの方だった。
「ほう……あの一撃を喰らって尚、立ち続けられるのか」
 ローブを脱ぎ去った上半身裸の長身男は、セリオスが放つ矢を立て続けに喰らったが、それでも倒れない。一見すると貧相な外観の中年男だが、死んだ魚の様な眼差しと毛が全くないつるつるの表皮が不気味だ。
 突如、男の肉体に異常が生じた。両手の指先から肘までが縦に裂け、十字の長い顎を持つ口と化した。更に異様な程に長い首を持つ頭部も四つに裂け、こちらも同様に十字口へと変貌する。両腕、頭部と合計三カ所が十字口の怪物が目の前に現れた。
「成程、貴様は壊密宗の魔人か! ならば、斬る!」
 アルベルト愛用の大太刀が、夕闇迫る水辺の薄暗い空気の中で一気に煌めいた。

 一方、黒熱砂の雑魚戦闘員共を相手に廻していたヴァン、ルチル、リディリディ達は、リーダー格らしき男とクアンクルの姿を視界内に捉えた。
 ヴァンとリディリディで下っ端共の足止めと討伐に廻り、ルチルがリーダー格の対処に当たる。
「伯爵邸の襲撃は周到に用意した割に、後始末は随分お粗末じゃないか。子供のお使いもまともにできないような協力者を引き込んだばかりに」
 ルチルの嘲る様な嗤いに、リーダー格の男は明らかに苛立った表情を見せたが、しかしその身体能力は決して侮れない。勿論ルチルも手を抜く様な真似はせず、弱体化効果を付与した射撃でリーダー格の動きを封じ込めにかかった。
 雑魚戦闘員に対してはリディリディの強力な足止め魔術と、ヴァンの放つ精度の高い矢で片っ端から無力化してゆく。動けなくなった敵はリオルと私設兵団員が手際良く制圧していった。
 そしていよいよ、クアンクル捕縛の瞬間だ。クアンクルは恐怖に歪んだ顔で長剣を構えている。が、そのへっぴり腰では到底ヴァンもリディリディも傷つけることは出来ないだろう。
「前回の事件の時にアンタを逮捕出来ていれば、少女の悲劇は起こらなかった……今回は逃がさないぞ、クアンクル」
 クアンクルの逃げ道を塞ぐ様に仁王立ちとなるヴァン。リディリディはヴァンの支援に廻る直前に、リーダー格に対して魔力の糸を絡ませておいた。その直後に、ルチルの矢がリーダー格の男の頭部と心臓に致命傷を叩き込んだ。
 頼りにしていた筈の男が目の前で斃されたことで、クアンクルは恐慌に陥った。だがリディリディの魔術とヴァンの捕縛術であっさりと組み敷かれ、敢え無く制圧された。
 猿轡を噛ませて縄で縛り上げたクアンクルを、リオルと私兵団員が荷車の荷台へと放り込む。その間にリディリディとヴァン、そしてルチルの三人も壊密宗の魔人対処と、残敵掃討へと動いた。

 アルベルトと対峙する十字口の魔人は、細身の肉体からは想像も出来ない程の怪力を見せた。更に両腕と頭部の十字口から伸びる牙だらけの長い顎は思いの外に強靭で、アルベルトの放つ剣戟と比較しても決して遜色の無い攻撃力を発揮していた。
「……見た目の化け物ぶりに誤魔化されがちだが、その体捌き、歩法……相当に訓練を受けているな」
 アルマからのまた聞きでは、壊密宗は混沌魔術と武術を融合させた体系の戦闘集団だということらしい。であるならば、この魔人の超人的な格闘戦技術も頷けるというものであろう。
 だが流石に今回は、アルベルトの支援に廻っている冒険者の数が多い。弱体効果を持つ支援魔術や矢撃で、徐々に防御力や機動力を蝕んでゆく。魔人は次第に劣勢へと追い込まれ始めていた。
「あの動き、何だか見覚えが……」
 支援魔術で魔人の戦闘力を削ぎ落しつつ、リディリディは内心で小首を傾げた。それからややあって、ある人物の名を思い出した。
「そうです、あの点穴使いのちょび髭さん……チェイ・ツァンウさんの格闘術に、似ていたんですね」
 痩せた体型と、柔軟性の高い身体能力、そして独特の蹴りや体捌き――どれをとっても酷似している。流石に暗器の類は使用していない様子だが、蹴り技で点穴打術を駆使してこないとも限らない。
 リディリディの警告を受けて、アルマは治癒術の為に接近しながらアルベルトに警告を発した。
「そいつ、蹴り足で変なところを狙って来たら要注意だよ! 点穴で一瞬でも体の自由を奪われたら厄介だから気を付けてね!」
 リディリディの分析とアルマの警告でアルベルトは戦術を変えた。徹底的に防御を固め、火力はセリオスとルチルの矢に委ねることにしたのである。
 この戦術転換は功を奏した。接近戦に強い魔人は、遠隔から一方的に矢を撃ち込まれる状況にはまるで対応出来なかった。対応しようにも、アルベルトの剣戟が邪魔で、矢を躱すことが出来なかったのだ。
 やがて、魔人は敗北を悟ったのかも知れない。不意に動きを止めたかと思うと、突然腹が異常な速度で膨れ上がり始めたのだ。
「いかん……伏せろ!」
 最初に危険を察知したセリオスが鋭く吠えた。その声を受けて冒険者達とリオル、私設兵団員達は咄嗟に身を屈めた。
 しかし捕縛されて手近の樹々に縄で繋がれていた生き残りの黒熱砂戦闘員達は、訳も分からずに佇んでいるだけだった。
 魔人の腹部が炸裂し、水平方向に酸弾がばら撒かれた。セリオスの叫びに従って身を伏せた冒険者達、或いは私設兵団員やリオル達は無事だったが、黒熱砂戦闘員達は酸弾を頭部に浴び、全員が命を落とした。
 当然、魔人自身もその場に崩れ落ちた。

●想定外の情報
 アジェルマハーとその近郊で活動していた黒熱砂は、クアンクルを除いては全滅したと見て良い。
 冒険者達は捕縛したクアンクルを護送し、リオルと私設兵団共々アジェルマハーへと凱旋した。
 夜になって冒険者ギルドを覗くと、そこには家士を率いたメルゲンガー伯爵と、冒険者達の帰りを待っていた少女パメリアの姿があった。
「成功したんですね」
 冒険者ギルド受付嬢ティマニ・エレザンが晴れ晴れとした笑顔で出迎えてくれたが、母を失ったパメリアは一瞬だけ笑みを浮かべたものの、その表情は相変わらず暗いままだった。
 ティマニの説明によれば、パメリアはメルゲンガー伯爵が養女として引き取ることになったらしい。母を失った悲しみはまだしばらくは拭い去れないだろうが、それも時間が解決してくれるだろう。
 一方、クアンクルは冒険者ギルドの裏手にある空き家へと連行されていった。アルマが強硬に主張してやまない拷問は、クアンクルの体力が持たないということでやや抑え気味の内容で実施されることになったが、それでもこの男から諸々の情報を引き出すことが出来れば、本当の意味でパメリアの母の仇を討つことに繋がる。
 少なくともリディリディは、それで良いと考えていた。
「処刑人が必要となったら呼んでくれ。奴にはその罪に相応しい惨たらしい最期をくれてやる」
 未だに笑顔が戻らないアルベルト。パメリアの受けた心の傷を想えば、アルベルト自身まだまだ気分が晴れないというのが正直なところであった。

 クアンクルへの尋問(という名を借りた拷問)はリオルと私設兵団員が直接担当し、尋問内容についてはアルマやヴァン、リディリディ、ルチルといった面々が考案する運びとなった。
 だがクアンクルは結局のところはただの下っ端であり、黒熱砂の組織中枢に繋がる様な根幹部分の情報は、ほとんど持ち合わせていなかった。
 但しシラー砂漠の滅亡部族エジュラに関しては、若干の裏が取れた。
「集団部族自決……? そんなことがあったんですか?」
 リディリディは思わず声を失った。エジュラなる部族は強力なリーダーシップを誇る族長の不慮の死を悲しむ余り、その後を追う為にと部族全体が集団自決に及んだというのである。
 この事実は周辺部族によって伏せられていた為、当然ながらリーンエス王国にも情報としては流れて来ていない。
 エジュラ周辺の七つの部族は、狂信的な族長崇拝に傾いていたエジュラ民が死後、自然発生的にアンデッドとなることを恐れた。生前に強烈な程の妄信に囚われていた者は異常なる死を遂げた後で、アンデッドとして蘇ると信じられていたのである。同時に、不埒な死霊術師によるアンデッド作製も阻止しなければならない。そこでこれら七つの部族はエジュラ民の千数百にも及ぶ遺体を、赤岩落の峡谷と呼ばれる地に封印したのだという。
 黒熱砂ジャハル派が、このエジュラ民千数百の封印された遺体に目を付けた、というのがクアンクルの吐いた情報だった。
 ジャハル派にはアリバ・ジャハール・カサドという一風変わった死霊術師が居る。このアリバが封印によって保存状態が良好に保たれたエジュラ民千数百の遺体を入手しようと画策した、というのである。
 そしてまた、同時に別の事実も浮上した。
 エジュラ民の遺体を赤岩落の峡谷に封印した七つの部族は、リーンエス王国のとある商会が取引先として懇意にしているらしい。
 その商会の名は、ケルディント商会だった。

マスターコメント

 討伐戦お疲れ様でした。  クアンクル爺さんについては、皆さん意外と生け捕りにしろという意見が多く、情報源として捕縛されましたが、その結果、色んなことが分かりました。  これだけ白状しまくったら、後々黒熱砂の暗殺者に狙われることになるでしょうが。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年11月15日 11時01分25秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 今回俺は、クロスマウスに向かうつもりだぜ

  2. アルマ・ヴァレンタイン

    ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー。 今回はしんぷる(しんぷる?)な討伐戦でよかったー ふつうに支援して回復してー…場合によっては光縛封を使うかもくらい

  3. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む クアンクルあたりは元家士長なら詳しい情報とかは残ってそうだから能力はある程度丸裸にできそうだな

  4. ヴァン・ローラント

    探偵をやっているヴァンだ、クラスとしてはシューターだな。 俺は家士長をやってたクアンクルを捕らえに行きたい。 前回、黒熱砂と繋がってる事は見抜けたが逃げられた。そのリベンジだな。

  5. No.5

    あの・・・、キャスターのリディリディです。 えっと、よろしくお願いします。 今回は敵の数はそれほど多いということではなさそうですし、 範囲攻撃魔法は用意せず、BS付与を主体に動こうと思っています。 此方側は物理攻撃主体のようですし、物理防御低下の付与などを考えています。

  6. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。クラスはシューター、よろしく。 今回は裏のない戦闘依頼…のようか? クロスマウスの能力は不明だが、全体的に敵側の攻撃も物理主体かね。 ウォーリアはアルベルト一人だが、ヒーラーのアルマがいるから早々落ちる心配はなさそうか。 こちらの動きとしては後方からの攻撃・妨害となる予定だ。 不意打ちや援軍の動きがないなら探査系の特性スキルは切ってもよさそうかね。 クアンクルの生け捕りを狙うなら口封じに黒熱砂や壊密衆による口封じ、自害の可能性は警戒しないといけないだろう。 多少前に出る覚悟は必要になるな。

  7. アルマ・ヴァレンタイン

    くろすまうすは初見だし今回は取り逃がすかもだけど手の内はみておきたいねー 相手をするアルベルトさんを堅甲と回復と解呪でばっくあっぷに入るね クアンクルさんは成☆敗じゃなく生け捕りー…でいいのかな? 口封じはありそうー、と思ってたけど自害の可能性もあるんだ… 光縛封じゃ防げないしダメージを移し替えるスケープセイントを準備していくね 身柄の確保までは手が回らない(と思う)ので他のひとにおまかせにー…

  8. ヴァン・ローラント

    >クアンクルの処遇 俺は生け捕りにして、然るべき罰を受けさせられれば良いと思っている。 あー、口封じや自殺の可能性もあるのか…。無力化したらすぐに捕縛した方が良いな。

  9. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    >アルマさん バックアップありがとうございます!! 頑張らせていただきます!!

  10. アルマ・ヴァレンタイン

    >アルベルトさん おまかせあれー それじゃあ出発まで1日ちょっとになったので、 これまで書いた感じのでプレイングだしてきたよー ときどき確認はするので変更があれば合わせるようにするねー

  11. セリオス・オーガスト

    ふむ、とりあえず俺もクロスマウスの相手をするか 一応能力不明なのでもし遠距離範囲攻撃とかがあるなら濃煙で視界を遮って妨害する予定だ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0