【帝国】いさなとり
九蓮宝燈
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シナリオID:1579
オープニング
シルトラース帝国、南部鎮守都市ヴィント。
復興の進みつつあるこの街の冒険者向けの宿屋の一室。
「んっ……」
ベッドにうつ伏せになったレイン・カミナギがくぐもった声を漏らす。
「どうだ? レイン」
ブレイブ・レオンハートがレインの様子をうかがう。シーツに顔を埋めたレインの表情は見えない。
「もうちょっと、奥……」
「わかった」
ブレイブはマットレスに指を沈ませてゆっくりと力を入れ――ベッドをズラした。
部屋の角にくっつけて配置されたベッド。
その壁とベッドの隙間にガラスペンが落ちてしまったのだ。
ベッドの上から隙間に手を入れてごそごそ探っていたレインが目的のブツを発見。
ブレイブが隙間を拡げたためレインの腕が奥まで入るようになり、ペンを拾うことができた。
「……この配置、変えさせてもらったほうがいいんじゃないの。寝にくいし」
ブレイブとレインは二人で同じベッドを共有しており、半分ずつスペースを使用して寝ている。
壁側に寝ているレインはベッドの乗り降りがやりづらい。
「でも部屋が狭いからなぁ」
普通、ダブルベッドであれば壁にくっつけず両サイドを空けるものだが、この部屋はそんなスペースがとれるほど広くはない。
こうなった理由は、空いていたツインの部屋は予算オーバーで、この部屋しか選択肢がなかったからである。
彼ら、エドゥノーグ迷宮の専門家『探索者』が、ヴィントに出現した巨大クリーパー天霧りに消ゆる幽界樹の跡地に発生した迷宮の調査のため呼び寄せられてはや四ヶ月。
急造拠点の雑魚寝生活を続けるには期間が長くなり、かといって、施設の数も少なければ、故郷に仕送りしているブレイブの資金も少ない。
そのような事情のために、ブレイブとレインは二人で一部屋借りて、宿泊費を割り勘しているのだ。
レインがプライバシーのない雑魚寝生活に疲弊していたのが理由として大きいが、レインはブレイブを置いて一人で宿をとるのも嫌だった。
ブレイブ一人で苦労しようとするな。金がないならシェアしよう、と、強固に主張したのである。
ベッドに腰掛け、レインが言った。
「それで……今日見つけたボス部屋、また潜るの?」
地形は大海原に浮かぶ小さな島。
入り口周りだけにあるわずかな陸地と、急激に水深を増す海。
そして水平線上にチラリと見えた大きな魚影。
見つけたはいいが、このような条件であれば足場なしでの挑戦は厳しいとされ、明日、小舟を運び込んでの再アタックが予定されていた。
そのメンバーに志願するのかと、レインは問うた。
「ああ、あそこは大物がとれそうだからな。ちょっとでも多く食糧がとれれば……」
そこまで言ってブレイブは言葉に詰まる。
凶作がもたらす不幸は、口に出しづらいほど深刻で、ブレイブの心の傷をえぐるもの。
「安心して冬を迎えられるよね」
レインは固まってしまったブレイブから眼鏡を奪い、言葉を引き継ぐ。
二人の距離は眼鏡なしでも十分お互いの顔が見えるほど。
「あぁ……そうだ。俺たちは、ヴィントの人たちの安心のために戦うんだ」
「うん。がんばろう」
二人は明日の武運をお互いに祈りあった。
●いざ、大海原へ
朝、身支度を調えたブレイブとレインは、迷宮前で他のパーティーメンバーと待ち合わせ。
エーテルの偏在により常夏の気候が保たれている第一層は水着姿でちょうどいい。
パーティーのキャスター、ブレイブの従妹のノーレッジ・レオンハートはホルタービキニを、ヒーラーの垂れ耳うさぎ獣人のヒルダはフリルつきのワンピースタイプの水着を着ている。
「レインは顔色がよくなったわね」
「そう?」
ノーレッジが言う。面倒見のいい彼女はレインのお世話係がすっかり板についていた。
とは言え、以前探索した『古代種の枝場』では、グロテスクなデカい虫ばかりを獲ってくるレインには涙目にされていたのだが。
「お、お弁当は、レインさんの好きそうなジャム、作ってきましたからっ」
「そう。楽しみにしてる」
ヒルダがバスケットの中を見せる。瓶に入った赤いジャムは、数種類の果物を使用したヒルダの手作り。ジャムを塗るためのマフィンもいくつか添えられている。
「ブレイブさんにも、さ、サンドイッチを……」
甘いマフィンだけでなく、塩っぽいメニューとして鱈や海老のフライと野菜のサンドイッチも用意されていた。
「おっ、美味そうだ。これは気合い入れて仕事しねぇとな」
ブレイブは嬉しそうに言った。
ヒルダは以前、ずっと前からいる自分よりもレインのほうがブレイブと打ち解けているのにもやもやする感情を抱いたりもした。
が、レインは控えめなヒルダにも気を遣って意見を聞こうとしてくれる。そのため、レインのみならずブレイブとの関係もよくなったので、今では彼がパーティーに加入してくれてよかったと思っている。
(仲良くできてるよね、たぶん、きっと……)
ヒルダはごちゃごちゃ考えごとをしながら弁当を包み直した。
今回は身内だけでなく他の冒険者も交えての仕事になるという。
人員が集まってくる前にパーティーだけで軽く打ち合わせ。
基本的に水中戦になるが、後衛のノーレッジだけは常に小舟の上から戦うことを想定。
水深が二十メートルを超える可能性に備えて、レインは水中スキルをいくつか活性化しておく。
それと、持ち込まれるという小舟の現物を確認する。
やや大きめの、手漕ぎのフィッシングボートである。どんな獲物がいるかわからないのでとりあえず用意したのがこれ、という風体だ。
「なんだか脆そうね」
ノーレッジが小舟をコンコンと叩く。
「足場を守ることもちょっとは考えたほうがよさそうだわ。ウォーターウォークと……それと、念のため救命具もいくつか用意しましょう」
ノーレッジがペンを走らせ、貸与品の申請のための書類を作成する。
「あのさ……もし、この船に乗らないような大きな魚が獲れたら、どうするの?」
レインが気になったことを口にした。
エドゥノーグ迷宮のルールと同じであれば、ボス部屋は中のボスが倒された場合、復活までの間封鎖されるからだ。
せっかく獲ったものを中に残してしまえば回収は不可能。
「その可能性は低くないのよね……。まぁ、探索支援ギルドのほうで運び出ししてくれると思うわよ」
考えるのはボスを倒すことだけでいい、とノーレッジが答えた。
「そう」
レインは顎をなで、納得した様子を見せたが、申請書に付け加えを提案した。
「一応、十分な強度と長さのあるロープも」
出入り口のある陸地に獲ったものを係留するところまでは、自分たちの手で必ずできるようにしよう、という考えらしかった。
そうして準備を進めているうちに、この依頼に志願した他の冒険者たちが集まりはじめた。
解説
マスターより
リプレイ
「もうすぐ冬が来て寒くなってくるわ。寒いだけじゃなくてひもじくもなっちゃったらとても悲しいわよね」
ルフィナ・ヴィオレットは優艶な肢体をわずかな布地で包み、白い髪を潮風にはためかせていた。
彼女の故郷は温かな場所ではあったが、貧しく、飢えと寒さに耐えた日も少なくない。
故に、苦境にあるヴィントの人々に同じ苦しみを味あわせたくないと強く想っていた。
「なんとかお腹いっぱい食べられるくらいはとりたいね」
骨兜を被った長身の男、ヨル・スレイマンが飄々と言った。
彼は水中戦に備えて水着を着ているが、体には多くの傷跡があり、彼の経歴を物語る。
「シャルガネ風の試したいお料理もいっぱいあるし頑張らないとね」
アルマ・ヴァレンタインは食通である。ただしいささかストライクゾーンは広め。
まだ食用に適するかわからないが、この上層ボスの肉にあった調理法を発見することはできるだろうか。
アルマもフリルとリボンがたっぷりついた緑色の水着で水中戦仕様だ。
悠人・ラドルファスは小舟の操作感を確かめていた。
海洋生物と小舟でやりあうのなら、少しでも慣れておきたい。
どうしても小舟はブレーキを効かせたり、止まっている状態から機敏に曲がったりすることは難しそうだ。しかし動きながら速度を変えたり、曲がったり直進したりすることは十分可能だった。
一同は今ある情報を元に軽く打ち合わせをし、連携の確認をしながら沖へ。
そして程なくして、セリオス・オーガストが大きな敵影を発見する。
「上空から確認できる魚影は一つだ」
セリオスの言葉の直後。敵は腹を上にし、大きくのけぞってジャンプした。
海面から飛び出したのは体長十五メートルの、大きな鯨だった。
「いや、でかいのの腹に小さいのがくっついていた」
セリオスが訂正する。上層ボスは変身するか取り巻きを引き連れているかのどちらかであるのがセオリーだ。今回の相手は後者であるらしい。
何十トンあるかもわからない巨体が着水し、冒険者たちが乗った小舟が大きく揺れる。
「……初めて見るけど結構でかいな。確かにあれなら、当分の食料には困らない」
頭から被った海水を手で拭い、悠人がつぶやく。
「結構どころか……思ったよりずっと……」
「重たそうー……」
レイン・カミナギの言葉の後半をアルマが引き継いだ。
アルマとレインで獲物を牽引するためのロープを用意していた。
しかし、あそこまで大きければ、ロープで引っ張る程度の運び方では岸につけることすらままならないだろう。
「倒したあと浮かんでくれたらいいけど、沈んじゃったら大変かも」
アルマが心配する。そうなった場合、海中で解体して少しずつ運び出すしかないか……?
しかし悠人は先ほど大物を引きつけるつもりだと言っていた。彼の協力があればもっとマシな手が使えるかもしれない。
「あっちに誘える?」
レインが指さしたのは、入口のある島の浜辺。
つまり、追い込み漁だ。
鯨やイルカのような大型海洋生物を、ボートで水深数十センチほどの海岸まで追い込んで捕らえる漁法である。
浜辺に上げられて身動きがとれなくなった鯨にとどめを刺し、その場で血抜きをするのだ。
もっとも、急激に水深を増すこのボス部屋の地形では、本当にトドメの最後の瞬間しか地形を利用することはできず、戦闘は事前に予想されたとおり水深三十メートルまでの水中が主戦場となるだろう。
ヨルがロープに錘をつけて、小舟から海中へ垂らす。
「最悪捕まれるものがあったら違うかもだしね」
そして小舟を足場にするというノーレッジ・レオンハートに櫂を預ける。
「小舟は戦域に置いてもらってもいいかい?」
「ええ。あなたたちがすぐに上がれるくらいの場所にキープしておくわ」
一方セリオスは命綱で自身と小舟をつないでいた。
「取り巻きが多い、な。そちらから、減らしたいと、思うが」
サマエラ=フォリウムがブレイブ・レオンハートに問いかける。
「でかいのはタフそうだからな。そうしよう」
ブレイブが了承したところで、サマエラが全員に蒼い鬼火を付与。
ヨルは自分の親指の根元を祭刀で傷つけたあと、艇尾から艇首へ助走をつけてジャンプし、鯨の背へ。
それが開戦の合図となった。
●うち靡き生ふる玉藻に
サマエラが喚びだした無数の光球が間断なく海面を叩き水柱が上がる。
打ち上げられた水滴が雨のように降り注ぐ中、ヨルの前腕を伝い肘から垂れた血が鯨の背に滴る。
滴の冠は膨れ上がってドス黒い腕へと変じ、異常を察知した鯨は暴れてヨルを海中へを振り落とした。
海中では取り巻き――体長一メートルほどの、魚としては大きいが鯨と比較すれば小さな鮫が、宿主への敵襲を察知して鯨の腹から遊離したところ。
ヨルが周囲に誘う光と血の臭いを発すると、十いる鮫のうち三匹が敵の存在を感知した。
ヨルの行動によって舟上のセリオスが射線を得、目にも止まらぬ速さで二連射。
同時に白銀の狩人の目は、鮫が向かっている方向をとらえていた。
(鮫が小舟に向かっている……そうか)
鮫は鯨を攻撃するものを標的とする性質がある。
セリオスが気づいたときにはすでに、水中のアルマが溜めを終え、極太の光波をブッ放していた。
光波は鯨を巻き込みながら、数匹の鮫の生命力を削っていく。
攻撃者に向かって凝縮された水球が三つ、高速で発射される。そのうち二つはアルマが受け、一つは射線にブレイブが割り込んで大盾で受けた。
同様に別の鮫が舟上のサマエラに接近し水の刃を飛ばし、サマエラは咄嗟に盾で防御。
サマエラを狙った鮫にレインが銛で反撃する。
「大丈夫?」
「ああ。私なら、耐えられる」
レインが気遣うが、サマエラもアルマも自分が被弾することはあると想定していたので、作戦の修正は必要ない。しかし火力要員と盾役と支援の兼任はさすがにオーバーワークとなりうるが……。
「仲間を支えるのは私に任せて。悠人のことも気にしておくから」
回復に専念するルフィナがいた。ヒルダも回復を重視して動くという。なので、サマエラは水上はルフィナたちに任せて水中へ。
ヨルからルフィナへと通信が入り、照らしあわせることで鮫の配置を冒険者全員が共有される。
(鮫は分散してしまったんだね。大丈夫、想定の範囲内だよ)
エーテルが籠められた模造銀貨が、陸上と変わらぬ挙動で鮫に直撃した。
その頃、海上では鯨が悠人の乗った小舟へ放水していた。
鯨は殺気にあてられて悠人に執着している。
悠人は狙いをつけられないようにジグザグ走行しつつ、仲間がついてこられる速度でゆっくり後退していく。
「まずは邪魔な鮫から倒していこう」
セリオスのサーマルアイが水中の魚影を捉える。
この射角からは鰓を狙うことは難しく、水による有効射程の減衰もあったが、ヨルに群がる鮫のうちの一匹を射貫くことに成功した。
多数の鮫の標的になっていたアルマ。
盾で防ぎ、ルフィナから回復をもらいつつ耐え、鮫の群れにもう一度タイダルストリーム。
鮫のうちの一匹が吸盤でアルマにくっつき、深く潜水。
アルマを引き込んだ鮫をサマエラが魔弾で撃ってひるませて吸盤をはがし、アルマはペンギンさんさながらの身のこなしで浅いところへと脱出。
(ちゃんと準備しててよかったー)
起こりうる状況に対応できるだけの手札を用意していたアルマは、多少のダメージを負いながらも危なげなく鮫の数を減らしていく。
海水は血液で濁り見通しは悪かったが、冒険者のそこそこの人数がテレパスを持ち込んでおり、ジェスチャーなどを併用して工夫を重ねていたため、戦況の共有はスムーズに行われていた。
(こっちの鮫は全部倒したよ。そっちは?)
ヨルからサマエラへ。
(こちらはあと、四……いや、三だ)
サマエラが通信している間に、アルマの魔法が一匹を撃破。
範囲攻撃を多用したためにダメージのない鮫はすでにおらず、取り巻きの排除は時間の問題。
残りの鮫の掃討はセリオスに任せ、ヨルはそろそろ合流することに決めた。
そのとき、鯨が急に攻撃を遅らせた。
悠人が小舟を動かすのを待って、小舟の進行方向に水泡の結界を張る。
「危ない!」
ルフィナが悠人に警告する。
しかし結界に進路を阻まれて避けきれず、悠人が大きく移動するまえに発射された鯨の水鉄砲が直撃し、悠人の乗った小舟が大破。
空中に放り出された悠人のフォローにブレイブが駆けつける。
「大丈夫か?」
強かに水面に打ちつけられた悠人をブレイブが心配するが、悠人の表情は戦意に満ちていた。
「今からあれを殺しに行く」
鮫があらかた片付き、他の冒険者が鯨へ標的をかえつつあるのに気づいた悠人は、その機が来たと判断した。
鯨を引きつける役目はブレイブへと交代。悠人は人手を求め、レインが応じた。
「いよいよ大詰めね」
ルフィナが悠人の銛を光で包み、武運を祈って送り出す。
●千重波寄せ五百重波寄す
鯨はアルマとサマエラが張り続けた弾幕によりかなり消耗していたが、まだ泳ぐ速さは落ちない。
ブレイブを追って陸地へと迫る鯨の背へ、武器を鯨の皮膚に突き刺しながら悠人とレインが登る。
「背中から内蔵――脳を狙う」
悠人がレインに指示する。悠人の狙いは鯨の鼻だった。
二人が背に到達する直前、鯨の背から赤い潮が噴出した。
後方を見ると、矢を放ったあとの美しい姿勢のままのセリオスが海上にいた。
「狙いは同じだったか」
セリオスのほうも二人の存在を認め、次の矢をつがえる。
「丁度いい。手間が省けた」
敵の弱点をつくのが簡単なはずもなく、かなりの工数がかかるだろうと悠人は考えていたからだ。
レインがセリオスの攻撃によってえぐれた傷に十字に切り込みを入れた。悠人の槍が燃え上がる。悠人は槍を逆手に握ると、鯨の鼻孔、十字傷の中心へ体重をかけて突き刺す。
鯨の濁った大音声のために悠人とレインが振り落とされた。
槍は悠人の手に握られたまま抜けており、鯨は傷からびゅっびゅっと赤い泡を吹いている。
「あなたたち、無茶をするわね」
ルフィナを中心に温かな光が波紋を描き、悠人とレインの傷を癒やす。
水上。
セリオスの弓は十分に引き絞られ、エーテルは矢を核として濃密に収束していた。
会、離れ。
放つ動作はあくまでも静謐でありながらも、見た目に反してその威力はすさまじい。
セリオスの矢と同じところを、アルマの放った緑色の光弾が叩く。
鯨はあえぎ、慣性に従って直進しながら沈む。そして海底の砂礫で腹をこする。停止したのは、水深五メートルほどの浅瀬だった。
●白波のい咲き廻れる
脂の多い鯨は水に浮き、浜からロープで牽引すれば陸につけることができた。
獲物は予想以上に大きかったが、アルマとサマエラがロープを供出してくれたので十分支えられた。
そしてセリオスが小舟に鮫を回収して戻ってきた。
魚皮はなめせば工芸品や装飾品などの素材になる。頑丈な大型の魚であればその質も見込めるというもの。
「……しかし、本当に大きいな」
血抜きのために浜辺を赤く染めた鯨の巨体を見てサマエラが言った。
ギルド職員がせっせと肉を運びやすい大きさに切っている。
「確かにこれが食せたら、相当に養える……保存食への加工も、必要だろうか」
サマエラは試しに脂肪の多い部位の肉を一塊取り、ソミュール液へ。味が染みたあと燻製にすればベーコンになるはずだ。
この工程には数日かかる。味見は後日のお楽しみだ。
例えばシャコのように、新鮮なうちはよくても日が経つとだめになるということもあり得る。この鯨が美味しいベーコンになればよいが、果たして……。
「長く皆のお腹を満たしてくれたらいいわね」
ルフィナが切り分けを手伝いながらにっこり笑う。
「で、でも……い、傷まないうちに加工できるでしょうか」
「するしかないわよね」
ヒルダとノーレッジは鯨を見て嬉しさ半分しんどさ半分。蟹工船の日々はまだ続きそうだ。
「余裕あればお土産に少し分けてほしいな」
「俺も一塊持って帰りたいんだけど」
ヨルと悠人が申し出る。
量が量である。加工が間にあわず傷ませるよりは持って帰ってもらったほうがいいだろうとのことで、一家族一食分程度の量が希望者に配られた。
内訳は肉五百グラムほどと、舌や皮や臓物の、普通の鯨の可食部位で人気のあるところあわせて五百グラムほどの、あわせて一キロ。
「鮫の肉も食えるだろうか」
鮫の皮を剥いでいたセリオスが、鮫の肉が上質そうな白身であることに気づいた。
「そっちも試食してみようかなー?」
アルマは鯨の赤肉と鮫の白身を刺身にし、醤油をつけて、いざ毒見。
「大丈夫そう。美味しいー」
アルマがどちらの肉も食べてみて違和感がないことと、味のよいことを確認した。
「美味しくいただけそうだ。カツにしてみよう」
同じく刺身で鯨の味を確かめたセリオスが言った。
「ボクは甘辛く炊いてみるよー」
アルマは先ほどの醤油とともに甘露アリの蜜も持ち込んでいた。
水泳でエネルギーを消費した冒険者たちの胃に訴える匂いが満ちていく。
美味しいことがわかったので、保存の効かなそうな鮫の肉も欲しい人は持って帰ってよいことになった。
「ねぇ、あなたは私が鉄級記章にふさわしいと思う?」
ルフィナがブレイブに尋ねる。ブレイブはつい胸の谷間に目が行きそうなので必死で目線を逸らしていた。
「……そいつは難しい質問だな。だいたい、今でこそ上層ボスを倒したことのあるヤツに配布しているが、本来の意味合いは『そいつがリーダーとなってパーティーを編成したとき、中層でやっていけるか』なんだ」
ブレイブたち専業の探索者とルフィナのような冒険者とは物差しが違う。それに、ブレイブたちですら、認定の仕事を優先するあまり、中層の探索にまではろくに手が回っていないのだ。
その機会すらたいして与えられていないのに、冒険者の中に『コンスタントに中層の探索を行っている者』など、何人いるだろうか。
「リーダーをやれるかはわからんが、少なくとも、あんたならここより厳しい戦場でも通用するだろう」
今日の戦いでルフィナは周りを見て連携をとることを重視し、見事やってのけた。その点をブレイブは高く評価したようだ。
冒険者たちの毒味とその後の探索支援ギルドの調査により、巨大な海の恵みは、肉は食用に、脂は灯油や石鹸、軟膏に。それ以外の部位は肥料や道具の素材としての利用が見込めることがわかった。
数日後、大量の肉が陰干しされている景色がヴィントで見られた。
この裏には、ルフィナの祈りが通じたのか、サマエラのベーコンが非常によい出来であり、この鯨の肉が保存食に向くと早期に判明したという事情があった。
カチカチになるまで水分を抜けば干し肉となる。冬の間、何人もの命をつなぐことができるだろう。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年11月17日 18時31分55秒 公開
相談掲示板
ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しく。 水中戦だね。そろそろ寒そうだけど、俺も水着を着ていこうかな。 鯨は回避は低いけど、スキルは全部遠距離だし結界もあって殴り難そうだね。 小判鮫の引き摺り込む攻撃も相俟ってなかなか厄介そうだ。 小判鮫は移動しないなら水弾を2回撃てて高火力、移動するならサブで撃てるから高移動みたいな…………感じかなと思うので、とりあえず数は早めに減らしたい気がするね。 流血+スリップも結構痛い。 鯨なんかはスリップBS入れたりできると良さそうだね。俺は持ってないけど。 BS対策に全解除スキルを持っていくことはできる。回復スキルも何かは持っていきたい。
みんな、よろしくな。 急で悪いんだが、授恵者向け探索者認定等級の配布ルールが改訂された。 もし今回鉄記章の申請を考えてるやつがいたら注意してくれ。 どこが変わったかというと、推薦者指定なしの場合は名無しNPCが推薦したという扱いで、推薦無記名で付与されるようになった。 それと、推薦者と被推薦者の同意が確認できない場合も無記名で付与されるようになった。 〈プレイング冒頭の記述例〉 【鉄希望】 →無記名付与。誰かが無断で推薦した(かのように見える)場合も無記名付与。 【鉄希望】 (推薦者名) →推薦者プレイングに【(被推薦者)推薦同意】とあれば称号付与理由に記名される。 →推薦者プレイングに記載がない場合は無記名になる。
ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。よろしく頼む。 ブレイブは、連絡をありがとう。推薦の場合プレイング内での記載が必須、なのだな。了解だ。 状況はヨルに同意で、小判鮫は私も早めに減らしたいな。 もし深度2以降に移動させられては、通常の武器もまともに扱えない…… 浮上に行動を消費していると、一層戦闘が長引いてしまいそうだ。 数が数、単体の能力や生命はそこまででもない、と思いたいので、 可能そうなら、範囲攻撃でまとめて削っていくのも、良いだろうか。 ひとまず、多少深度を跨いでも攻撃や回復できるよう、 射程のあるスキルを優先して持とうか、と考え中だ。 役割は拘りないので、攻撃寄りでも、回復寄りでも、必要なところを埋めようと思う。
捕鯨と聞いて。 ヒーラーのアルマだよ、どーぞよろしくねー。 水中でも動きやすいようボクも水着でいく予定だけど 面倒そうな小判鮫から倒していきたいねー 長杖でタイダルとか魔弾とか攻撃寄りセットにしようかなと
遅くなっちゃってごめんなさいね。 ヒーラーのルフィナと言うわ。よろしくね。 ブレイブは鉄記章について教えてくれてありがとう。 欲しい時はあなたのお名前を出させてもらえばいいのね。 今回はヒーラーさんがたくさんね。 私はどちらかと言うと回復や支援寄りで動こうと思っているけれども、まだまだ経験不足だから他のヒーラーさんにも回復や支援で少しだけお手伝いしてもらえたらとても心強いわ。 小判鮫を先に減らしていく作戦ね、了解よ。 駆け出しの私は装備を水着にすると能力が落ちそうで心配だけれども、水中での行動に関するスキルを覚えられそうなら覚えていくのも検討してみるわね。
ブレイブ君はありがとう。ルール変わったんだね。 今回はいいかなと思ったけど、鉄記章の推薦は俺も一応できるので、もし必要があれば声をかけてね。 ヒーラーが多かった。ではBS解除と遠距離攻撃中心で持っていくことにしようかな。 水深0〜30メートルの水中らしいので、出来るだけ深度1で戦えるのが理想だよね。 執着付与とかの方が効果は高そうだけど、撒き餌とかで小判鮫を深度1に集めることができるかもしれないから、持って行ってみようかな。 あとそう、戦闘時は呼吸が10ターンまでしか続かないので、7ターンくらいから交代で息継ぎする様にしていたほうがいいかもしれない。 小判鮫の強制移動を考えると、分担しつつ余裕は持った方が良さそう。 万一窒息状態になった味方がいたら、最優先で引き上げるようにはしておく。
・・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む とりあえずコバンザメからで俺もいいと思う。BSも厄介だしな。船は3隻あるからNPCたち用をかんがえると3:3で分かれたほうがいいのだろうか
悠人・ラドルファス。よろしく。 コバンザメからっていうことだけど、その間のクジラってどうする? とりあえず誰もいなきゃ船1隻借りて俺がひきつけとくけど
完全にフリーにするのも怖いので、鯨にも牽制は必要かと思う。 引き付けを願えるならば、回復が届く距離を極力保って、立ち回りを支援しよう。 攻撃面は私も、杖を持って魔法中心でいこうか。 支援面はサイドヒールと……ブルーフレアを、なるだけ多くが範囲内にいる際、使おうかと。 ヒーラー中心の構成は珍しい気もするが、回復を分担していけるのは、ありがたいな。 あとは……水中には入るが、水中用スキルは今のところ持たない形なので、防具は通常のものを。 息継ぎもそうだな、余裕見つつ行っていきたい。 用意してもらえている救命具の他、一応ロープも持ち込んでおこう。 緊急連絡手段なども、あれば安心だが……水中となると、音か光か、 あるいは複数で持ち込めるなら、テレパスあたりか。
牽制はとても助かると思う。 範囲攻撃も範囲に入るなら、鮫と鯨両方に使ってしまっていいとも思うね。 流血とスリップを同時に解除するサルベーションオールは持っていくつもり。 テレパスも持っていけるので持っていくよ。
じゃ、鯨の相手してるよ。 皆が来るまでは何とかする。
ありがたい、よろしく頼む。 状況見つつ、悠人が息継ぎをする間などには、私も鯨の気を引くように動こう。 範囲攻撃もそうだな、これも巻き込み具合を見ながら、鯨込みで撃っていこうか。 ヨルは、テレパスもありがとう。 それではこちらでも所持して、ジェスチャーでは足りない場合に使用しようと思う。
出発ギリギリになってごめんねー 長期戦になったときのブルーフレアかけ直しとか 範囲攻撃に鯨も巻き込んでみたりとか入れてプレイングだしてきたよー
私も出発間際でごめんなさいね。 ヨルは鉄級探索者記章の推薦者の事でお心遣いをありがとう。 お返事が遅れてしまってごめんなさいね。 もっと早くお返事を出来たら良かったのだけれども、時間がなくなってしまったからお気持ちだけ受け取らせて頂くわ。 本当にありがとうね。 私もテレパスを持っていくわ。 あとは息継ぎの件も了解よ。 回復や治療のお手伝いをしてもらえてとても心強いわ。 スキルは回復とBS治療と強化のものを持っていくわね。 攻撃には参加出来ないけれども、回復や支援は任せて。