【FF】路地裏に再び賑わいを
真柄 葉
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シナリオID:1527
オープニング
大地と海の恵みに感謝と祈願を込め人々は祭事を行う――のだが、近年は収穫にかかわる人々だけでなく、恵みを享受する人々も祭りを楽しむ。そう、この時期はロスガリア中がお祭り騒ぎとなるのだ。
そんな祭の足音がすぐそばまで近づいてきた10月中旬。
リブラネスタの路地裏にある小さなお店の中では、いつもと変わらぬ平和な時間が流れていた……?
「うっおっ!?」
突然崩れて来た紋具を間一髪支え、レドレスは思わず声を上げる。
「うん? あれ、レドレスじゃない。久しぶりー」
「久しぶりー、じゃないだろう! なんだこの店の現状は!?」
声は店の奥から。もう少し気付くのが遅れていたら頭を強打したであろう紋具をそっと棚の上に戻し、レドレスは声の主の元へと詰め寄った。
迎えたのは、カウンターの中で爪の手入れをしていた幼馴染の少女セイル。
セイルは現れた幼馴染に興味がないのか、爪の手入れから顔もあげない。
「おい、聞いてるのか! たった1か月間店に来ないだけでなんだよこの状況!?」
「この状況って……ああ、ちょっと散らかってるかな? あはは……」
「あはは……じゃないだろう!? ったく、いつからこんな状況なんだ」
「うーんと、一月くらい前から……?」
「俺が本業の仕事で出て行ってからすぐじゃないか!? この店はお前の店だろう! ちゃんと片付けぐらいしろ!」
レドレスはどんとカウンターに手を付きセイルに顔を寄せた。
「うーん、そうだけどさぁ。どうにもレドレス君がいないと、働く意欲が半減するっていうか。片付けても見てくれる人が居ないから、張り合いがないっていうか……で、結局こんな状況になっちゃうんだよね」
と、セイルは視線を上げ、チラチラとレドレスを見た。
「な、何を言っているんだ。店は俺のためにあるわけじゃなくてお客様の為に……そ、それほんと?」
「うん、ほんとほんと。レドレス君がいないと寂しいなー。お店やってても楽しくないなー。レドレス君が片付けたお店で商売したいなー。お掃除面倒臭いからレドレス君やってくれないかなー」
「……ふ、ふふふ。そうか、そこまで言うのなら仕方ないな! まぁ、この店は共同経営者である俺の店でもあるんだから、片付けをするのは当然だな!」
「そうそう、流石レドレス君。頼りになるー! ……ちょろ」
「はっはっはっ! そうだろうそうだろう、俺は頼りになる男だからな! ……なんか言ったか?」
「何にも言ってないよー! よっ! レドレス君、出来る男! お婿にしたい店員さんナンバー1は伊達じゃない!」
「お、お婿ってお前……いや、そうか。お前もようやくその気に――」
「じゃ、後よろしく! あたし、ちょっと出かけてくるね!」
「――なって……っておい!? どこ行くんだよ!」
「買い物!」
「買い物……?」
「もうすぐ収穫祭だからさ! 店も飾りつけしようと思ってたんだよね!」
「はぁ? このごちゃごちゃの店内をどうやって飾りつけするんだよ!」
「それは、レドレスが帰ってくる予感がしてたからさ。ほら、なんて言うのかな虫の知らせ的な?」
「虫の知らせって……はっ! それはもしかして心の中で俺の事を待ち望んで……」
「ま、そんなとこ! なので、片付けよろしくね! あたしとレドレスの共同作業だ!」
「共同作業……お、おう! 任せとけ! 見違えるほど綺麗にしといてやるからな!」
「おう、がんばれレドレス!」
「俺、がんばる!」
ぐっと拳を握り瞳に炎を燃やすレドレスを横目に、セイルはごちゃごちゃの店内をするりと抜けて外へ出た。
「はぁ、レドレス戻ってきてくれて助かったなぁ。これで収穫祭を満喫でき……じゃない、収穫祭に向けて準備が出来そう! さて、飾り付けはどうしようかな。やっぱり冒険者の皆にお願いするべきかな」
セイルはそんな事を呟きながら路地を歩く。
「聖霊節の時はすごかったもんね。お客さんもたくさん来てくれたし。……うん! やっぱり今回も冒険者の皆にお願いしてみよう!」
長い路地を抜ければそこはリブラネスタの大通り。
収穫祭に向けて賑わいを増しているようにも感じる通りへ、セイルは足取り軽く躍り出た。
解説
マスターより
リプレイ
「ようこそ、いらっしゃいませっ! ここが『魔法使いの空き瓶屋』よっ!」
店のドアの前に立つとくるりとスカートをなびかせ半回転。まるで我が店の様に紹介したのはアンネエルカだった。
「な、なんというか……趣がある店構えですね」
「あーの子ってばまたサボってるじゃないの!」
「何といいますか……もう少し自覚を持ってもらいたいですね」
と、せっかくゲルダ・クラインが言葉を選んで店を評したのに、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブとセツリの二人は顔を曇らせながらドアをくぐる。
「あ、え……?」
「ふーむ、この埃臭さとかび臭さ。中々に良い薫りをしておるのぉ」
早々に店へと入っていく二人に面食らうゲルダを他所に、空いたドアから漏れ出て来た薫りに鼻を動かしたク・サーヤ・クッセーワは、「これは楽しみじゃ」と店内へと入っていった。
「これは……結構大変そうかも」
と、サーヤに続きララベル・サン・ディーベルが入店し。
「なんだかすごく雰囲気が緩いが……こんな事で依頼は大丈夫なんだろうな」
「過去の報告書は確認してきたが、そこまで気を張る必要はないだろうな。ただ……」
「ただ?」
「やらねばならん事は並の依頼以上かもしれん」
話し込んでいたナハティガル=ラーとシグルド・オルセンもドアをくぐった。
「ゲルダさん、大丈夫?」
「……はっ。だ、大丈夫です!」
アンネエルカに声をかけられ、ゲルダはハッと我に返る。
「それならよかったわ。さぁ、皆待っているし入りましょう!」
アンネエルカはにこやかに右手を差し出すと、自らゲルダの手を取り店内へと誘った。
●
「せーいーるー? 聖霊節であーーんなに綺麗にしたのに、このお店の惨状はどういう事かなぁ?」
「い゛だい゛い゛だい゛!」
サフィラにムギューッとほっぺを引っ張られる店主セイル。
冒険者達が店に入った途端、棚からは古紋具が落っこちてくるわ、店は埃塗れだわ、そこら中に蜘蛛の巣張ってるわで、まるでお化け屋敷だ。
「これは予想以上ですね。セイル君、随分サボってましたね?」
「う゛っ……」
セツリに真顔で見つめられ、セイルは口籠る。
「まぁまぁ、よいではないか。これだけ散らかったのじゃから、わらわ等が呼ばれたのじゃろう?」
「まぁ、そうなんだけどさ。でも――」
「小言は後じゃ。まずは依頼を遂行せねばの?」
まだ物申したげなサフィラを遮り、サーヤが皆を見渡す。
「まずは掃除からじゃな。皆、早速始めるとしよう」
サーヤの号令に「おー!」と元気に手を上げた仲間達。
それぞれに清掃道具を手に持ち、片付けの準備を始める――。
「まずはこの大量にある品物を一旦外へ運び出しませんか?」
各々掃除を始めようと道具を手にした皆に、ゲルダが提案する。
「お、お掃除するにもこれだけ荷物があると、その、邪魔ですから……! いくら『計画』があるとは言っても、やっぱり埃塗れの汚らしいお店には入りたくないと思うんです!」
視線の集中を受け怯みそうになる心にグッと喝を入れ、ゲルダは理由を説明した。
「当然だろうな。掃除は基本だ。店だろうが生活だろうが、不潔に邪気は宿る。俺は賛成だ」
シグルドはゲルダの案に賛同すると、他の皆を見渡す。
「わらわも同感じゃ。それに足の踏み場もない状態では掃除もままならんしの」
と、サーヤが賛成すると、他の皆も頷いた。
こうして、一先ず店内の品を路地へと運び出す作業が始まる。
「路地が狭いから、片方にかためて通行できるようにだけはしておこうよ! 同じような種類は纏めて箱に詰めてわかりやすくしておいて!」
自ら経営する宿屋でこういう作業は慣れているのか、率先して指示をだすララベル。
「大型の物はどうするのじゃ? さすがに邪魔じゃが」
「えっと、そう言うのは出さずに、店の隅に置いておいて。掃除の時は少し位置をずらしてやってもらえるかな」
サーヤがドアから出すのもやっとな大型古紋具を担いで現れたが、ララベルは戻るように指示を出した。
「小物はどうするの? なんかその辺に置いてたら無くなりそうだけど」
「えっと、そう言うのはアンネエルカが纏めて管理してくれてるから、彼女の所へ持って行って!」
アクセサリーっぽい古紋具をこれでもかと身に着けたサフィラにも、ララベルは的確に返す。
「ここは任せて大丈夫そうだな。俺は別の場所を見てこよう」
「別の場所?」
そんなララベルの仕事ぶりに安心したのか、ナハティガルは路地の先を指さす。
「表だ」
それだけを言い残すと、さっさと路地を行ってしまった。
●
二階の倉庫にあった分も含め、殆どの商品を搬出し一斉清掃が始まった店内。
「埃は高い所から落とせというが……なんだこの量?」
「ほんと、埃というか、もう塊だね」
ハタキで叩くといくらでも落ちてくる埃に、シグルドは顔をしかめララベルは苦笑した。
「前に来た時もここまで大掃除はしませんでしたし、たぶんお爺さん時代から積もりに積もった埃でしょう」
「えっ。それじゃ、何十年も溜まり続けた由緒正しき埃っていう事ですか……?」
「由緒正しいかはわかりませんが、歴史ある埃かもしれませんね」
「歴史ある埃……これにはお店の想い出がいっぱい詰まっているんですね」
エプロン&三角巾スタイルのセツリとゲルダが箒を片手に、床に落ちた埃を見つつ何やら楽しそうにやっている。
「そんなに埃が珍しいもんかね」
「お店の誇りだからじゃないかな?」
「誰がうまい事いえって言った」
「あはは……」
そんな二人をシグルドとララベルが、呆れつつも微笑ましく見つめる。
「ここが終わったら二階もある。少し休憩して、上に上がるぞ」
と、シグルドが三人に声をかけた。
そんな頃、外では――。
「あー、やっぱり。随分剥がれてるなぁ」
山と積まれた古紋具達を前にサフィラが難しい顔をしていた。
「ふむ、値札か」
そんなサフィラにサーヤが声をかける。二人は店の外に出された商品の整理をしていた。
「そそ。聖霊節の時に全部貼ったんだけどね。結構剥がれちゃってる」
「ふむ……しかし、これは全部商品なのかの?」
「え? そうだと思うけど……なんで?」
サーヤの疑問にサフィラが首をひねる。
「うむ。これらの中にはどう見ても紋具ではないガラクタが混じっておるが、これも商品なのかと思っての」
「ガラクタ……あっ、ほんとだ。なにこれ」
「それは、どう見ても紋具ではないじゃろ」
と、サフィラが山の中から取り出したのは、薄汚れた革鎧だった。
「この店は紋具以外も買い取っておるのか?」
「えー……! ちょっとセイル呼んでくる!」
まさかと驚いたサフィラだったが、ここの店主ならあるいはと店へ飛び込んでいった。
「あはは……なんか困ってたからさ。買ってあげちゃった」
サフィラに引っ張り出されてきたセイルは、革鎧を見せられるなり苦笑い。
「いつから質屋にジョブチェンジしたの……」
そんなセイルに嘆息するサフィラは、改めて問いかけた。
「それで、どうするつもり? 買い戻しなんて期待してないんでしょ?」
「うっ……うん」
「やっぱし。どうするかなぁ、これ」
しょぼくれるセイルの肩をぽんぽんと叩き、サフィラは目の前のガラクタに改めて向き合う。
冒険者が要らなくなって持ち込んだ革鎧。取っ手の取れた鍋。片刃の鋏――等など。とても微妙な品々をよくぞここまでため込んだと感心する。
「まぁなんじゃ、店が物で溢れかえっておった理由が分かったの。じゃが、このまま戻すわけにもいかぬ――どれ」
サーヤはマントを捲り上げると、目の前のガラクタの山に手を突っ込んだ。
「売れる物は売りに出すのじゃ。売った資金は飾り付けに使えばいいじゃろう。サフィラ殿は引き続き値札係。セイル殿は紋具とガラクタの仕分け。わらわはガラクタを売りに出る。これでどうじゃ?」
二人を交互に見つつ提案するサーヤに、サフィラとセイルは互いの視線を合わせると、同時に頷いた。
●
「うん? あんた、冒険者か?」
店へと向かう為に路地へと差し掛かったレドレスが、看板の前でしゃがみ込んで作業をしていた男を見つけ声をかけた。
「俺はレドレス。あんたはセイルの雇った冒険者だろ?」
「その通りだ。なるほど、アンタが共同経営者の男か」
立ち上がったナハティガルは、そうだと頷くレドレスに改めて挨拶する。
「すまないな。あいつがもっとやる気を出してくれれば冒険者の手を借りなくてもいいんだが」
「仕事は仕事だ。報酬がある以上、どんなことでもやる。それをアンタが気にする必要はない……が」
ナハティガルはそう言って、レドレスをじっと見つめる。
「少し話せるか」
「……ここでいいなら」
と、ナハティガルの提案に、レドレスの目つきが変わった。
じっと、ナハティガルを見返すと建物の壁に背を預け、一定の距離を取る。
「随分と警戒されているな。俺は何もしていないぞ」
「何もしていない、か……あんた、こっちの人間だろ。いや、冒険者だから、だったが正しいか。悪いが、警戒させてもらう。話ならここで聞こうか」
「……ほう」
隙無くこちらを見つめる視線に、ナハティガルは思わず感嘆した。
「ただのお人好しかと思っていたが――いや、失礼した。では、一冒険者の空言として聞いてくれ――――あの店はいずれ潰れるぞ。不利な立地に加え、あれが主人では先が見えている。正直、なぜアンタほど眼がいい人間が共同経営者なんて引き受けたのか不思議で仕方ない。あれはただの穴の開いた財布だ」
「……だろうな」
「……肩入れする理由は色恋沙汰か」
「好きに勘ぐってくれ」
ナハティガルに問われ、レドレスは自嘲気味に笑った。
「今後、一体どうするつもりだ。彼女と所帯を持つにしても、あの店は邪魔でしかないだろう」
「流石、金貸しの世界を知っているだけあって、現実的だな」
と、レドレスはフッと小さく笑うと建物から背を離すと――。
「あの子は、あれでいいんだ。あのままいてくれれば、な」
そう言って、路地へと歩いていく。
「それが何一つ彼女の為にならんと知っていてもか」
「知っててもだ」
ナハティガルはレドレスの後をついて路地へと入った――。
●
「こんなもんか」
ドロドロになった雑巾を絞り終えたシグルドが、店内を見渡す。
品物がなくなり棚だけになった店内は、思いのほか広かった。
「これなら好きなようにレイアウトできそうだな」
と、シグルドは隣で目を輝かせているアンネエルカを見る。
「そうね。古いけれどとても味のあるお店……『魔法使いの空き瓶屋』っていう素敵な名前が、本当にピッタリね」
アンネエルカは年月を経てすっかり色の変わった木棚に手を触れた。
「セイル君のお爺さんが大切に守ってきたからでしょう」
「ええ、祖父から孫へ受け継がれた大切なお店。とても素敵だわ」
箒を片付け終えて戻ってきたセツリの言葉に、アンネエルカは深く頷いた。
「では、そろそろ『計画』を進めますか」
「そうね。それじゃ、外の人達に声をかけて――」
「おっと、ちょっと待ってくれ。古い建物だ、床が腐ったりひび割れているといけないからな。念のためだ――」
と、二人を待たせシグルドは床や壁を【透視】していく。
「……床下は大丈夫そうだな。壁も……大きな虫食いはなさそうだ。板や柱自体がダメになっている場合は分からないが……おそらく大丈夫だろう」
「それはよかった。床が抜けてお客様がはまりでもしたら目も当てられませんから」
【透視】を終えたシグルドが頷くのに合わせ、セツリも胸を撫で下ろした。
「二階の掃除終わったよ!」
と、丁度いいタイミングで二階の掃除を担当していたララベルとゲルダが降りてくる。
「倉庫スペースの区分けもばっちり! これで何がどこにあるか、ちょっとめんどくさがり屋さんでもわかりやすいかなって思うよ!」
ララベルは掃除しつつ、荷物を運び出して空になった二階倉庫スペースの区割りをしていた。セイルがいかに片付け下手であっても整理整頓ができるよう、わかりやすく区分けしてある。
「休憩スペースも綺麗になりました」
そして、共に降りてきたゲルダが小さな手をぎゅっと握り頷いた。
「二人共、ありがとうっ! これでいよいよ『計画』に移れるわっ!」
もう一度店内を見渡したアンネエルカは、これからが本番だと腕を捲った。
●
「よーし、こんな所かな! 半分くらいは残っててよかったよ」
剥がれていたり古くなっていた値札を張り終えたサフィラが、ふぅと一息ついた。
「つーかーれーたー」
隣では、ぶーぶー文句言いながらも最後までやりきったセイルがへばっている。
「これぐらいでへばらないの! でもやればできるじゃん。ちょっと見直したよ」
「へへ、任せてよ」
「おー、じゃ全部任せた。後よろしく」
「うあぁーー!! 待ってサフィラ、嘘嘘! ごめんって!!」
手をひらひらと振り路地を去って行こうとするサフィラに、セイルが必死でしがみ付く。
「うお、なんかすごい事になってるな!?」
と、路地の先から、驚く声が聞こえた。
端に積み上げられた品を見て、レドレスが驚きながら歩いてくる。
「あー、レドレスじゃん! 何処ほっつき歩いてたんだよ!」
「い゛だい゛い゛だい゛!!」
「大変だったんだからね! ってか、キミがいてこのざまはどういう事!?」
はちきれんばかりにレドレスの頬を引っ張るサフィラが、ぷぅと頬を膨らせ問い詰める。
「中は片付きました。そろそろ――――あ、あの、大丈夫ですか?」
「じゃれているだけだ、気にしてやるな」
ドアから顔をのぞかせたゲルダにナハティガルが声をかけると、そのまま店へと入っていった。
●
アンネエルカ監修の元、本格的な店のレイアウト変更がスタートした。
「ええ、シグルドさんそこに置いて! そうそう、もっと上! 乱雑で大丈夫よ、ごちゃごちゃ感を演出してねっ!」
「ああ、これでいいのか? なんか崩れてきそうだが……これも魅せ方か」
「目玉商品となるものを、あえて少し奥に配置しておきますね。これで探す楽しみが増すでしょうか」
「ええ、セツリさん、それでお願いっ! あまり出そうにない商品をあえて表に出して、お客様の眼に晒すことで、ついで買いも狙えるものっ!」
「あの……この大きな紋具はどうしましょう。お値段的にもあまり出そうにないですし、奥の方でいいですか?」
「ゲルダさんの考え通りで大丈夫っ! 明確に欲しいものがあって来店するお客様はあまり多くなさそうだから、こっそり隠れている宝箱的存在を演出してみてっ!」
「僕は予備の商品を二階に持って上がるね! ジャンルごとに分けてくれて助かったよ! ありがとう、サフィラ!」
「にゃはは、セイルもやればできるんだよね。あ、そうだ。あたしも二階行く! ちょっとやりたい事あるんだ、ベルっち待ってー!」
「ガラクタを売ってきたのじゃ。それなりの額になったが……どう使うのじゃ?」
「収穫祭用の飾りを調達する手筈になっている。必要なものはメモしたから、買いに出るぞ、サーヤ」
「む。息もつかせぬとはこの事じゃな。わかったのじゃ、買い物は分担でいいのじゃな? ナハティガル殿」
「……おー、流石の手際だね」
「お前も手伝えよ」
流れる様な連携を見て感嘆の声を上げたセイルに、レドレスはちくりと一言呟いた。
●
「できたわー!」
顔中埃塗れになりながらも満面の笑みを浮かべるアンネエルカが、両手を突き上げ叫んだ。
あれだけ乱雑だった店内は、理路整然と整理され――てはおらず、むしろ雑多感が増している様にさえ感じる。
そう、これこそがアンネエルカ考案の『魔法使いのお家化計画』なのだ。
「どうかしら、ワクワク感は詰まっている?」
アンネエルカは共に汗を流した仲間達に意見を求める。
「これは商品を探すために時間がかかりますね。欲しいものを探すのではなく、紋具との出会いを楽しむとでもいうのでしょうか。そんな、心躍る感じが出ているのではないでしょうか」
「そう! そうなの、セツリさん! まさに狙いはそこなのよ! 紋具との出会い……素敵な響きね」
客観的で冷静に評するセツリの手を取り、アンネエルカは価値観を共有できたことに喜ぶ。
「なるほど、この仕組み……これは、セイルの為でもあるのか」
と、シグルドは様変わりした店内に圧倒されていたセイルに視線を移した。
「どうも片付けが苦手そうなセイルが、適当に商品を置いても、それがまた店の変化につながる、と」
「シグルドさん! その通りなの! この不潔ではないけれど妙な散らかり具合。それこそが、セイルさんとこのお店が最高に噛み合う組み合わせだと思うのよ!」
ぐっと拳を握り、「ねっ、セイルさん!」と同意を求めるアンネエルカに、セイルは慌てて頷いた。
「おー、中々雰囲気が出ておるのじゃ」
と、そこにサーヤとナハティガルが帰ってきた。
「十分な量を揃えられたぞ」
ナハティガルが店の入り口を指さす。そこには収穫祭でおなじみのオレンジ色のカボチャが大量に積まれていた。
●
いよいよ収穫祭に向けての飾り付けが始まる。
店の外では、ララベルとナハティガルが外壁へ装飾を終え、看板の飾りつけをしていた。
「よし! どうかな?」
「ふむ、『あなたが探す何かが見つかる不思議なお店』か。悪くない」
その中で、ララベル渾身の一筆にナハティガルは大きく頷いた。
「えへへ、よかった。それじゃあとはこれだね」
と、照れ笑いするララベルがドア周りを見て腕を組む。
そこにはサフィラ謹製カボチャをくり抜いたランタンが並べられていた。
「路地も狭い。大きなものは通りの方へ持っていくべきだろうな」
「そうだね。じゃ、僕は通りの方に飾ってくるから、ここはお願い!」
「ああ、見栄えを考えるとしよう」
そう言って、ララベルは通りの方へ向かっていった。
「こういう如何にもな瓶は、確かに魔法使いを想起させますね」
店内に並べられていく大小さまざまな小瓶を見つめながらセツリが呟いた。
「そうなの! いかにもな魔法使いさんが怪しげな実験している感じというのを狙ってみたのだけど、セツリさんにそう思ってもらえてよかったわ!」
「それに、これも中に入っているものを探す楽しみを味わえます。セイル君も適当に放り込むだけでディスプレイになるのでしたら、きっとやりやすいでしょう」
と、アンネエルカとゲルダの意見に同意したセツリは、チラリとセイルに視線を向けた。
そんなセイルはというと――サフィラにカウンター奥に連れ込まれていた。
「セイル、もうごちゃごちゃ言わなくてもわかってると思うけど、ちょっとひどいよ?」
「うっ……」
凄味のある笑顔を向けられセイルは怯む。
「あたしたちもいつでも来られるわけじゃないし、レドレスばっかに頼らないで、自分で出来る事はしなきゃ」
「う、うん……」
「そうだな。親しい者に頼ること自体は間違っていない。だが、お前さんのは対等な関係じゃない。それは依存だ。共同経営者ならば、出来る事を分担しろ。それが共同というものだろう」
「は、はい……」
視線を落とすセイルに、シグルドが追撃した。
「お二人はセイル様の事を思って厳しい言葉をかけられているんです」
と、気落ちするセイルにゲルダがフォローしつつも話しかける。
「セイル様……レドレス様のお気持ちに気付いてらっしゃるんですよね?」
「えっと、それは……」
真剣な眼差しで見上げてくるゲルダに、セイルは思わず目を逸らした。
「言いづらいのはわかります。でも、どこかではっきりとさせないといけないのではないですか? お二人の関係を」
「……」
「初めてお会いしたわたしがこんな事を言うのはお門違いかもしれませんが、お二人を見ていると、不安になります。まるでガラスのような関係、です……」
「ガラス……」
真摯に向けられるゲルダの言葉に、いつの間にか顔を上げたセイル。後ろではサフィラもシグルドも深く頷いている。
「レドレス様のこと……どうか、ちゃんと考えてあげてください」
「……はい、ちゃんと考えます」
そして、セイルは自らに誓う様に小さく頷いた。
●
店内の装飾が終わった。
店の至る所に置かれた、魔女や怪物たちの人形。オレンジと紫のリボン。魔法使いの箒やカボチャのランタン、実験道具を模したガラス瓶の数々――。
まさに『魔法使いの空き瓶屋』の名にふさわしい収穫祭の装飾に、誰もが満足げに頷いている。
「よし、最後の仕上げじゃ」
そんな中、店の中央に立ったサーヤがおもむろにマントを翻した。
「反転した我が匂い、特と御覧じろ、なのじゃ!」
高らかに宣言したサーヤから、得も言われぬ香しき森の薫りが漂い始め、カビと埃臭かった店内を満たしていく。
「これで私達のお仕事はお終いです。あとは二人で頑張ってください」
サーヤの妙技に驚くセイルとレドレスに、セツリが声をかける。
「お二人ならきっとうまくいきます。力を合わせれば、なんだってできるんです」
隣でゲルダがにこりと微笑みかけ。
「二階のスペースもうまく使ってね。あと、あんまりいらない物は買わないようにね?」
ララベルが苦笑交じりに声をかけた。
「そうそう、飾りつけもばっちりだから、お客さんもゆっくりできると思うし……閉店後は二人で使ってみてよ」
二階カフェスペース担当のサフィラが、二人に試す様な視線を向ける。
「店もそうだが、関係を見直すいい機会になったと思いたいな。頑張れよ、二人共」
「また寄らせてもらおう。吐いた言葉を確かめにな」
シグルドがセイルの、ナハティガルがレドレスの肩を同時に軽く叩いた。
「それじゃ、私から最後にこれをプレゼントよ」
そう言ってアンネエルカが可愛らしく包装された包みを二人に手渡す。
「よかったら二人で食べてね。そして、これからも二人でこの素敵なお店を守ってねっ」
アンネエルカは驚く二人に穏やかな笑みを向けた。
こうして『魔法使いの空き瓶屋』はまた生まれ変わった。
収穫祭の為に訪れたはずの冒険者達は、二人にとても大きなプレゼントを残していくことになる。
この先、二人で乗り越えていける。そう思わせる雰囲気が二人に、そして店の中に漂っていた。
冒険者達はいつの間にか手を繋いでいた二人に別れを告げ、収穫祭で賑わうリブラネスタの街へと戻っていった――。
マスターコメント
ミドルシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人
2021年10月25日 10時56分02秒 公開
相談掲示板
久々に来たらこの有様…セイルったら懲りないんだから… あ!サフィラだよっ!よろしくね! ひとまず大掃除してから飾り付けだねっ!
セツリと言います、よろしくお願いします。 「困ったら誰かが掃除してくれる」でどんどんご自身で出来る範囲が狭まっている、ような。 面倒くさがりは仕方ないので、片づける手間を省くような工夫が必要かもしれませんね。
僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね! だね、まずは大掃除。 掃除なら任せてよ!!…楽々掃除術とかは、確かに大事そうだね。
ナハティガル=ラーだ。今回は宜しく頼む。 此処の依頼を請けるのは初めてだが―― 共同経営者とはいえ、レドレスはセイルに甘すぎるように思う。 レドレスに別の本業がある以上、セイルには店主としての自覚をもっと持って貰わん事には、 今回の俺達の作業もその場凌ぎにしかならないだろうな…。 ――まあ、その辺の事は取り敢えず置いておくとして。 俺は看板の修復等をしようかと。
サーヤである。 よろしくなのじゃよ。 今回は客寄せによいかおりを担当する予定である。うなれわらわの体臭
ゲルダです。よろしくお願いします。 そうですね、お片付けのお手伝いと……お二方のためにも、セイル様がご自身でお掃除ができるようにできたらいいな、と思います。 お掃除の方は……あまり使わないものを奥に、よく使うものを手前に、ぐらいのことしか思い浮かばなくて。セイル様とお話をしながら、現状の問題点と改善策について練れればいいな、と思います。 >過去依頼 わたしもこのお店のお手伝いは初めてで。 把握している限りにはなってしまいますが、参考のために過去の依頼を挙げておきますね。 ■刻々と移り行く時代の中で https://alpaca-connect.com/world/world0/scenario/116 ■【聖祭】路地の奥へと繋がる道 https://alpaca-connect.com/world/world0/scenario/323
シグルド・オルセンだ。よろしく頼む。 何はともあれ掃除だよなぁ。
アンネエルカよ、アンネって呼んでくれても大丈夫。 どうぞよろしくね! 散らかり具合が『味』になるようなディスプレイを考えるのはどうかしら。 お店の名前が『魔法使いの空き瓶屋』でしょう? きっちりかっちり商品が並べられたお店ってより、 魔法使いさんのお家に迷い込んでしまったようなワクワク感が演出できたらって思ったの。 具体的には……そうね。 同じ色の紋具を固めて置くだけなら簡単かつ綺麗な見た目になるし、 大き目の空き瓶や箱に細かいものを詰め込んでしまうのも 実験道具とか宝箱とかを彷彿とさせてオシャレなんじゃないかと思ったわ!
>散らかり具合が味になるような 確かに……正直、片付けにどれだけ大雑把・簡単なルールを決めても、「ルールがある」時点で面倒くさがられるような気がしますので、「綺麗には片付かない」前提でいる方が良い、気がしますね。 ただ、店の体だけは残さないといけないので、「ここにだけは物を置いてはいけない」スペースぐらいは決めたいですが……
>ゲルダ 過去依頼の記載に感謝する。 ざっと確認させて貰ったが―― レドレスという男は信じられない位にお人好しな金貸しだな…。 よく分からんが、これも惚れた弱み…という奴なのだろうか? (俺が暗黒街で借金の取り立てをしていた頃とは雲泥の差だな、と思いつつ) >店主としての自覚 最初の依頼の時点では、片付けや掃除は苦手ながらも全くやっていない訳ではない様に見える。 ……が、レドレスが共同経営者になってからは彼に頼ってばかりいるようだな。 自室の掃除は出来ている所を見ると、掃除が出来ない訳ではないらしいが…。 ――色々と思う処がある為、 作業の目途が立った頃を見計らい、俺は少しレドレスと話をする予定だ。
>散らかりぐらいが味になるような とっても素敵だと思います! 魔法使いさんでしたら収穫祭のイメージにもぴったりですし、想像するだけでわくわくします……! >店主としての自覚 セイル様にお片付けについてのお話をしようと思ったのですが、お二人の関係についての言及だけで字数が埋まってしまいました……! ……その、セイル様に対して「このままではよくないと思う」という旨をお伝えしようかな、と。 現状の関係のまま、ずっとレドレス様に頼りっぱなし……というのは、ダメだと思うので。
>散らかり具合が味になるような あ!それいいかも! 色々ごっちゃに積まれれてわくわくする感じは『魔法使いの空き瓶』って名前にぴったりだよね! その上で、在庫の管理や2階のスペースに空きが出るように整理出来たらいいなぁ… >店主としての自覚 これはあたしがちょっとお説教しよっかな? っていってもお小言くらいにおさめるけどっ