【暗輸】奪う者/誘う者【求和】

崎田航輝

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シナリオID:1488

オープニング

「……もぬけの殻、か」
 まるで煙のようだ、と。
 主の姿のない家の中を見回して、零れるのはそんな言葉だった。
 そこは確かに、街に最近やってきた富豪が住み始めた屋敷だった。数日前には本人の姿も街で見られていたのも間違いはない。
 なのに今は消息すら不明。
 まるで準備された夜逃げのようだった。

「モクトル会長」
 と、そこに自分を呼ぶ声が聞こえて――部屋内にいたモクトルは振り返る。
 視線の先に見えるのは部下でもある商館の人間だ。
「馬車の件か。どうだった?」
「美術品も盗まれていたという事で間違いないようです。現地の警備の方たちに確認してきました」
 金品を丸ごと盗まれていたので「関係性」は判りませんが、と。
 続く彼らの言葉に――モクトルはいや、と首を振っていた。
「きっと何かがある。不思議と商人としての勘が働くんだよ……それが本当であってほしくはないと、そう思うが」
 それは一つの街の商会長を務める人間としての、確信に満ちた言葉だ。
 何処かで汚れた金が流動している、と。

●明滅する影
 同盟の街エルムポート。
 そこは湾岸部に位置する商業都市だ。
 整った石畳にモダンな家並み。流行と商売が活気を呼び、道々に商人や町人達の明るい声が響き渡っている。
 存在感こそ、同盟で台頭している有名な街には及ばない。
 けれどいつかはそれらをも脅かす事になるかも知れない、成長株――目端の利く商売人にとっては、そんな場所であろうか。

 冒険者達が招かれたのは、その中の良い立地に建つ商館であった。
「ご足労いただいて、申し訳ありません」
 広い館内の一室に一行を通して言ったのは、商館の長モクトル・モハその人。
 整えた髭が特徴的な、人好きのする相貌……けれど商人らしい理知も窺わせる印象の彼は、冒険者達に「とある事件」の調査を頼みたいと言った。
「――美術品の盗難、及び盗賊による金品強奪……その裏にあると思われる事件です」

 始まりは、とある町人が持つ高価な調度品が盗まれた事だった。
「最初はこそ泥の仕業と思われていたようです」
 しかし、町人はなけなしの財をはたいて入手したそれを、どうしても取り返したかったらしい。
 必死の思いで盗まれた品の行方を追い始めたのだが――
「その調度品を、何故か離れた街の富豪が持っている事が判ったのです」
 当然、町人は富豪に対して調度品が自身のものだと主張した。
 だが――
「品が戻ってくる事はありませんでした。その富豪が、煙のように消えていなくなってしまったのです」
 富豪は逃げたのだろう、と推測されている。
 元々その富豪がこそ泥を雇い、気に入った調度を盗ませていたのかも知れないが――

「事はそれだけに終わりません。似た出来事がまた、エルムポートで起きたのです」
 モクトルは困り眉を見せている。
 だけでなく、そこには義憤も滲んでいた。
「一度ならまだしも、別の富豪が示し合わせたように同じような事をするのは、不自然です」
 同じ頃、輸送中の美術品が盗賊に強奪される事件も起きたという。
「それは金品が全て盗まれていたし、別の街に近い場所での事なので、関連性については私の勘でしかありませんが」
 それでもそれは、一連の組織犯罪ではないかとモクトルは語った。

●依頼
「おそらくは、盗品が特定の富豪の間でやり取りされている、という事だと思います」
 即ち“上客”に絞った闇市場や闇オークション。
 そういった類の何かが、どこかで開かれている可能性があるのだ、と。
「無論、法を犯した行いです」
 けれどそれだけじゃなく、とモクトルは声に力を込める。
「裏でこそこそ、汚れた金を動かしているのが気に入りません。商売人として……健全な市場を侵す行いを、私は何より許せない」
 だからそんな組織があるなら潰したいのだと。
「人が貯めた財で買った物を、ぬけぬけと盗むのも許しがたい。正当な取引もせず、金銭や良い品が手に入ると思ったら大間違いです」
 それを知らしめる為に、と。
「そして街の平和の為にも――力を貸して頂きたいのです」

 ただ、現状では犯罪組織そのものが推測上の存在でしかない。
「そこで……皆さんには敵を見つけ、足取りを追って頂きたいんです」
 組織があるとして、その所在は当然判っていない。
 勿論、闇雲に追う事も出来ない。
 だからとれる手段は――敵から来てもらう事だけだ、と。
「幸い、敵のターゲットはある程度明確です」
 闇市場や闇オークションが開かれているなら、金を持っている客が必要になる。過去起きた事件でも、盗まれた調度品が行き着いた先はそういった“成金”だった。
「なので皆さんには……“成金”として街で生活して頂けないでしょうか」
 後ろ暗い品でも構わず金を出すような、倫理にもとる金持ちがいたら――おそらく組織は闇市場への参加を誘いかけてくるかも知れない。
「あぶく銭を手に入れた商人になりすましても良いでしょう。すねに傷を持つ元貴族様などを演じても良いかも知れません」
 無論、組織がまだこの近郊で活動しているという前提での話。
 だから賭けとも言える――故にこそ、商会として出来る協力はしますとモクトルは言った。

「或いは、美術品を積んだ馬車を走らせて……盗賊をおびき寄せる方法もあるでしょう」
 盗賊に品を盗ませるか、或いは賊をその場で捕らえるなどして――敵の活動地を調べ出すという方法だ。
 こちらは多大な危険が伴うが、敵側に存在を察知されず拠点にたどり着ける可能性がある。
 成金になりすますメンバーと別働隊で動けば……内と外の両面から敵地について把握する事も出来るだろう。
「皆さんにどれだけ大きなリスクを背負わせているかは、判っているつもりです。それでも、これは街としての依頼でもあります」
 是非、力添えを願いしますとモクトルは皆へ言葉を伝えた。

解説

●目的  組織犯罪が行われている事実と、その場所を判明させる。 ●犯罪組織について  活動範囲は不明だが、現在は同盟近郊にて動いていると思われる。  闇市場や闇オークションのようなものをどこかで開き、街周辺の富豪がその客になっていた可能性があると考えられている。  また盗賊を使い、定期的に金品を調達していると推測される。 ●行う作戦  組織からの接触を待つ為に「成金になりすます」か、「盗賊を誘い出す」の二つの方法が提案されている。  どちらを選ぶかは自由。分担も可能。 ・成金になりすます  街にて一定期間、滞在する。  倫理観に疎く、あぶく銭を手にしている成金などが誘いをかけられやすいと思われる。  使っていない商館が一棟、或いは必要に応じて空き家が数件提供される。家や倉庫など、自由な名目で存在を周知させる事が可能。  商会と街の協力で、馬車や人気の商材(食料品や日用品)を自分の物として扱う事が可能。良い立地で、実際に商売を行う事も出来る。 ・盗賊を誘い出す  美術品を積んだ馬車を、過去被害のあった近隣で走らせる。  愛好家や富豪の間で知られる彫像や絵画など、数点を使用する事が出来る。最終的に戻ってくるならば盗まれる事は依頼者側も了承済み。  前もって近隣に何らかの周知を行っておく事も可能。  一日で上手くいかなくとも、数日間挑戦できる。 ●敵について  盗賊をおびき寄せる事に成功し、こちらが抵抗した場合戦闘が発生する。 ・『盗賊』×8  目以外の顔を隠した男達の集団。  殺しは最低限に収めるという理念で動いているようだが、必要と判断した場合はためらいなく相手を攻撃する。  短刀 【流血】を伴う近接単体攻撃。2回攻撃。  投刃 【スリップ】を伴う単体射撃。射程6hex。 ●犯罪組織の拠点について  それぞれの方法が上手く運んだ場合、共通した地点に辿り着ける。  今回は奥深くにまでは潜り込まず、最低限度の情報を入手して脱出する事が求められている。

マスターより

連作【暗輸】の第一話となります。 【求和】タグのシナリオ群と、内容が関連してゆく可能性があります。 美術品や高価な品を狙った組織犯罪について調査します。 開始段階では組織は存在も確かでないレベルで、今回はその所在を明らかにする事が目的となります。 取引の誘いを受ける成金は「盗品と判っていても買うような人物」だと推測されています。 そのように情報を流せると、成功確率は上がるでしょう。 また盗賊を誘い出す場合、戦闘を仕掛けるかどうかは自由です。 情報が正確に手に入るかどうかや、その後の行動などを踏まえて対処を考えると良さそうです。 二つの作戦それぞれで、上手く行くと同じ敵地にたどり着けます。 存在を確認できた時点で作戦は成功となるので、深入りをする必要はないでしょう。 皆様のプレイングを、心より楽しみにお待ちしております。

リプレイ

●成金
「実際、妙な話ですね」
 商館の一室にて、フリーダ=ブロムヴィストはそう声を返す。モクトルと改めて情報を整理している所だった。
 それから自身の神を感じるように瞳を閉じて。
「……啓示でも『どこぞの三世な大泥棒ではないです』との事ですし。単なる物取りではないのでしょうね」
「色々と悪巧みはありそーだな」
 ま、それならバッチリ尻尾を掴んでやるだけだぜ、と。
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングが快活に言えば、ララベル・サン・ディーベルも頷いて――地図をモクトルへ見せる。
「過去の被害があった場所を詳しく教えてくれる?」
「美術品も、ありがたく借り出させてもらいたいね」
 ルチル・プルメリア・グレイハーツも利用出来る美術品のリストを手に、選定したものを伝えた。
 モクトルはそれらに快く応じる。
「ならず者の根城が明らかになるのなら、お安いものです」
 その声音にあるのは、商売に仇なす敵への義憤。
 だから言葉を聞くオゴスは――少しだけ肩身が狭かった。
 授恵者となる前は、贋作師のボスがいて……オゴス自身“ゴールディらしい”環境に身を置いていたから。
 ただ、それ故に道徳に欠く人間像は良く知っている。
「……始めましょうか。俺は“成金”になりますよ」

 街の一角に建つ、大きな建物。
 使われぬ商館だったそこは今、とある人物の別荘兼倉庫として羽振りの良い雰囲気だ。
 街の人間がその存在に気づき出す頃――丁度、その建物から馬車が現れた。
 それは豪奢、というより“趣味の悪い”派手さ。後部に山程の荷を積んで、天蓋付きの席に腕を広げて座る主が――誰あろうオゴスだった。
「おう、今日は仕事の後どこに寄りたい」
「そうですね。新しい街の美酒を楽みたいです」
 と、傍らで応えるのはフリーダ。
 どこか踊り子を連想させるその衣装は、薄手で煽情的。
 肢体を露わに、オゴスに寄り添う様子はまさに“愛人”で。腰元に剣を差し、護衛役も兼ねており……物々しい印象を与える事にも成功していた。
 そのまま馬車が向かうのは市場の奥。高級品なども売られる一角で――この成金一行の商売場所だ。
 と、馬車から先んじて進み――他の商人に道を空けさせるのがキオルティス。
「御主人さま。用意は万端でございます」
 艶のある笑みをオゴスへ向ける、その見た目は執事服。
 事務仕事を一手に引き受ける役柄だが……何処か妖艶さを湛えているのは、その衣装を着崩しているからでもあろう。
 顔立ちの美しさも相まれば、それもまた成金たる主の“趣味”にも見える。印象を裏付けるようにしかとオゴスを導いて、場に案内した。
「後は任せるぞ」
「はっ」
 オゴスの声に応えて荷を下ろすのは、下男に扮したセリオス・オーガスト。運ぶそれは、数種類の商品だった。
 まずは美しい食器。数は少なくないが、芸術家の監修が入ったブランド品だ。
 それから葉巻や国外産の薬草。どれも街で人気の商材なのだが――そのガワだけを変えた、言わば転売品だった。
 値段は元の数倍。何も知らぬ一般人が買わぬように、という気遣いでもあるが……転売人としてのたちの悪さを一層、演出してもいる。
 それから仕事はセリオスやキオルティスに任せつつ、オゴスは後ろで物見。
 もちろん一人ではなく、フリーダと共に下女に扮した夕霧も傍にいた。
「ご主人、席に汚れが」
 言って埃を払う夕霧の姿は、使用人服ではあるがドレスのようなアレンジ。
 持ち前の色香を隠さず、オゴスにしなだれかかるその姿もまた――“成金に飼われる女”そのもので。目を引く容姿だからこそ、怪しまれる事もなく。
「今の所、不審な者はいないのじゃ」
 故にこそ、感覚を研ぎ澄ませて周囲を窺っては、オゴスに耳打ちをしても全く不自然ではなかった。
 それから皆も、夕霧と共に怪しい気配を探りつつ……仕事を継続。
 物品が売れぬと見ると一度撤収し――キオルティスが表に立って買付。そしてそれをまた転売に利用して……商人と協力して小さなトラブルなども演出しながら、充分に噂を広めた。
 そうしてこちらを窺う不審な影が見え隠れし始めた頃……一行は次の作戦へ移る。

 陽光も落ちる頃、向かったのは酒場だった。
「ま、こんなもんは高くもねえさ」
 オゴスは酒を片手に、ゴブリナ草を燻らせては宝飾を誇示して自慢話をする。相手もまた事情を知る街の者であり――アピールに協力してくれていた。
 話題は金儲けに関わる下世話な事柄ばかりだが……フリーダや夕霧はオゴスに寄りかかり、キオルティスも心酔したように相槌を打つ。
 倫理に欠いた集団だと印象づけるには充分すぎる程の構図。
 同時に、角の席でこちらの話を聞く影がいる事を確認した上で――オゴスは近くの席にいるルチルへ話しかけた。
「あんた美術商なんだろ。いい品でもねえか、聞かせてくれよ」
「――まあ、話だけなら」
 応えるルチルは、言葉通り商人の風情。商品リストの紙束を手に、席を移動してくる。
 と、オゴスは乱暴にそれを奪って目を通し、一点に目を留めた。
「ロゼ・シュタールの花瓶? いいもん扱ってんじゃねえか。丁度箔がつくような豪華な骨董が欲しかった所だ」
「……全く、自分勝手だな」
 ルチルはため息をついてリストを取り返す。
「すまないが、これは既に買い手が付いてるんだ」
「てことは、まだ売ってはねぇんだろ。金なら、出すぜ」
 オゴスは既に手に入る前提で話すが、ルチルはそれでも頷かない。
 するとキオルティスが驚いた様子を見せた。
「売らない、と?」
 オゴスを低く見られた事が、何より心外とでもいう表情で。
「まさか、御主人さまが出し渋りをするとでも思っていらっしゃる?」
 応えるように、オゴス自身も宝飾を外してフリーダと夕霧に握らせた。金に糸目をつけるつもりはない、というメッセージだ。
 『きゃあ!』と喜ぶように、フリーダと夕霧はそれを胸元へしまう。
 それからフリーダはオゴスにもたれかかった。
「その花瓶も是非、見てみたいです」
「というより、ご主人なら買えないもの、ないじゃろ?」
 夕霧も更に宝石をねだりつつ……オゴスの肩に頭をのせる。
 ルチルは呆れ半分に返した。
「駄目だ駄目だ。いくら金を積まれたって、こちらには信用があるんだよ。しつこいようならね、こっちにだって用心棒くらいはいるんだが?」
「……はっ、金で頷かねえなんて、商売下手だな」
 オゴスが言い捨てると、ルチルは緩く首を振る。そして「こんな街去った方がいいな。さっさと買い手の元に発とう」と零して酒場を出た。
「御主人さまの行為を無碍にするとは……」
 キオルティスが納得行かぬように呟いていると、フリーダも首を傾げている。
「何とも、人生を楽しんでいらっしゃらない方ですね」
「そうじゃなー」
 夕霧も脚を投げ出し、「つまんなーい」と零していた。
 無論それも演技。そして皆はそれが上手く運んだ事を理解した。
 様子を窺っていた男が、近くに座ってきたのだ。
 フードを被ったその男は静かに口を開く。
「ロゼ・シュタールの花瓶。手に入ると言ったら、どうしますか?」

●疾走
 酒場を後にしたルチルは夕刻、馬車の待機場へ向かった。
 するとそこに待つのはハヤト、ララベル、変装を解いたセリオスだ。
「よう、首尾は?」
「問題ないよ」
 ハヤトに応え、ルチルは馬車の覆いから中を見る。そこには件の美術品――ロゼ・シュタールの花瓶があった。
 テレパスによって、オゴス達が敵らしき存在と接触した事は判っていた。
 そして自分を尾行する存在がある事も。そちらの方は途中で気配がなくなったが――おそらく、この花瓶を狙う目的だろう。
 ならば、予定通り。花瓶の中には、栗鼠のラトの分身も潜ませてあるのだから。
「では、出立するか」
 そう言うセリオスは、周囲に監視の目がない事を確認してから――荷台の中に隠れ、武器を手にしたまま気配を抑えた。
「それじゃあ、後でね」
 言ったララベルは、馬車から離れる。
 完全に距離を置くわけではなく、常に視界に収めておく形。それを見送るハヤトは、護衛として馬車の直ぐ側について――皆で街から出発した。
 馬車が向かうのは被害に遭いやすいであろう一帯。そこに着くと――街の助力もあって、一般人が通る気配もない。
(好都合だな)
 敵がいても、こちらに気づかれず近づくのは困難だろう、と。セリオスは探知用エーテルを走らせて気配を探る。
 ハヤトも捜波を行使しつつ、嗅覚も研ぎ澄ませていた。
 すると長い時間も経たぬ頃。
 道の脇の木立の中に複数の影を察知する。
(――来やがったな)
 ハヤトはあくびをする事で仲間に合図し、警戒を促す。直後――がさりと音を立て、黒装束の男達が飛び出してきた。
 数は八人。手慣れているのだろう、すぐにこちらを取り囲む。
「死にたくなければ荷を置いていけ」
 その一人が言うと――ルチルは“間違いない”と判断。花瓶を守るように振る舞う。
 同時にハヤトが籠手を構えて立ちはだかった。
「強盗か? 悪いがここに護衛がいるぜ」
「……」
 すると男達は素早く視線を交わし――襲いかかってくる。
「うおっ!」
 ハヤトは剣撃を受け流し、反撃の拳を打った。
 ただ、そこに全力は込めない。脅威と捉えられぬ程度に打ち合いを演じ、あくまで不自然にならぬ事に重きを置いた。
 敵もこちらが強くないと見ると、必要以上に仕掛けてはこない。
 それ故に、セリオスもまた手を出さずに潜んだまま待機。
 敵が花瓶と、その他価値の高くない数点を奪うのを見届けると――彼らが走り去るのを確認して、荷台から飛び出した。
「行くぞ」

 ララベルは木に登り、装束の男達の動きを見張っていた。
 そうして彼らが木立に戻り、元々来た方向へと逃げ始めると……一定の距離を保って追跡を始める。
(さぁ、お前達の悪事の拠点に案内して貰うよ)
 花瓶を持つ一人を中心に、敵をしかとマークして。それを追って木々を縫ってゆく。
 敵は速いが、ララベルもまた慣れたもの。木を蹴り、岩を越え――軽やかに、風にように。決して離されなかった。
 ただ――
(分散するつもりだね)
 相手も尾行を警戒してはいるのだろう。二手に分かれ始めていた。
 ララベルは迷わず花瓶を持った方を追うと決める。
 ラトの本体が傍を並走しており、ルチルもこちらを追っている事が判る。故にララベルは木に印を付け、追わぬ方の敵をセリオス達に託す事にした。
「後は……逃さないよ」
 そうして真っ直ぐ前を見て、疾走してゆく。

 セリオスとハヤトは僅かな後方から、すぐにそれに気づいていた。
 ハヤトもまたエーテル波と嗅覚を頼りに敵の位置を把握している。故にララベルの意図を違わずに読み取り――
「俺達はあっちだな」
「ああ、急ごう」
 頷くセリオスも共に、花瓶を持たぬ敵の方を追い始めた。
 すると平坦な林が起伏の激しい地形に変わる。どうやら山岳地帯に入ったようだ。
「アジトは山の中か」
「身を隠すにはもってこいだな」
 ハヤトは応えつつ、激しい上り下りにも速度を落とさない。跳びながら岩場と坂道を駆け抜け、敵の位置を常に把握し続けた。
 と、嗅覚で何かを捉える。
「篝火の匂いだ」
「……確かに、光っている」
 セリオスも下方の明かりに気づくと、注意深く坂を下りた。
 すると見えるのは――山の一部が切り開かれたような空間だ。
 外とは厳重な門で隔てられており、内部は小さな村のようでもある。多くの者が行き交っているが、時に顔を隠し、時に護衛をつけ、馬車を引く者もいた。
「アジト、ってだけの場所じゃないな」
「或いは“市場”か」
 二人は空間の縁を迂回し、装束の集団の後を追う。すると彼らが花瓶を持った仲間と一度合流してから離れ――言葉を交わし始めるのが判った。

 崖を登り、急な坂も難なく滑り降り――ララベルもまたそこに辿り着いていた。
 ラトを追う形でルチルも合流してくると……ララベルは声をかける。
「あの建物に入ったみたい」
 装束の男達が向かったそこは、空間の奥に近い建物だ。
 ルチルは頷きながら、ラトの分身の聴覚に意識を集中。
 すると花瓶の傍で響く話し声が聞こえた。
『ライメル様、新しい商品を仕入れました。ロゼ・シュタールの花瓶と、他は雑多な物ですが。花瓶はすぐに高値で売れそうだと』
『即金か。……判った。花瓶の方は金にしておけ』
 そして花瓶と装束の男達がすぐ外に出てきた。
 ララベルは視線で追いつつ口を開く。
「盗品が売買されてるのは、本当みたいだね」
「ああ。ここはその牙城って所かね。市場でもあるみたいだ」
 ルチルが眺めるそこには多くの人の姿が見える。商人や、富豪らしき者もいた。
「賊もうろついてる。それを締めてるのがライメルって男か」
「組織的犯罪っていうのも、事実だね」
 組織の全容はまだ判らない。だがそこには現在進行系で悪行を続ける者達がいた。

 セリオスとハヤトもまた装束の男達の会話を窺っている。
『こっちには、価値あるものはなさそうだがな』
『命令は命令だ。オークションに出されるんだから、傷はつけるな』
 彼らはそう言って、奪った物品を建物へ運び込んでいた。
 二人は物陰で視線を交わす。
「オークション、か」
「ああ。盗んだもんで競売とは、大胆なこった」
 その建物が会場なのだろう。外に出てきた装束の男達は手ぶらになっており――後は各々が別の建物へ散っていった。
「あいつら、ここで寝食してるみてーだな」
「物品の仕入れ担当として常駐しているんだろう」
 セリオスは呟く。
 商品の用意も売買も、全て自分達で賄える組織という訳だ。
「非合法オークションも催される、闇市場か。ここだけで小さくないマーケットとして回っていそうだ」
 二人はひとまず、拠点の地理や構造を充分に把握。
 そしてその場から引き上げた。

 その後、ララベル達は花瓶と装束の男達を追跡。
 行く先がエルムポートの街だと確認すると、自身もまた街に戻った。
 そして――
「どうだった?」
「取引自体は問題なく進んだよ」
 商館にて、ララベルに応えるのはキオルティス。執事服から着替えてきており、妖艶さの代わりに綺羅びやかな印象が戻っている。
 その言葉通り、花瓶はオゴスに売られる形となっていた。一応は、傷つかず戻ってきた事になる。
「それに、オークションなどにも参加するようにと誘われたのじゃ」
 夕霧がそう言ってみせる。
 警戒させなかった事が功を奏したのだろう。客側として市場へ参加する事も出来そうだった。
 まあまあ上手くいったかの、と夕霧は笑う。普段着には戻ったけれど、内にある色香はそのままに。
 キオルティスは頷いた。
「色々と演じたかいがあったね」
「ええ」
 と、こちらも平素の装備に戻ったフリーダが応える。
「これで攻め込む準備も万全に出来そうです」
 既にあの市場の喉元まで迫ったと言えるだろう。故に――皆はようやく一息つくように、その戦果を喜ぶのだった。

マスターコメント

お疲れさまでした。 敵の拠点を明らかにし、盗品売買の事実を突き止める事が出来ました。拠点についての情報も多く手に入れる事が出来た為、次の作戦に滞りなく移る事が出来るでしょう。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:多い8 / 4〜8人

2021年10月21日 11時03分09秒 公開

成功

相談掲示板

  1. オゴス

    シーフのオゴスです。どうぞよろしくお願い致します。 美術品と犯罪……ですか。授恵者になる前はその手の悪事に関わってましたが、まあモクトルさんには黙っておきましょう。 今回の犯罪組織とも確実に無関係ですしね。 俺は成金になりすます作戦に興味があります。空き家などを借りられるのもありがたいですね。

  2. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 まずは成金に成りすますか、輸送で誘い出すかを決める必要がありますね。 前者であれば成金+使用人+αみたいな形で分担するのが良いと思いますし、 後者であれば護衛を隠して輸送する形で良いかと思います。 あるいは複合案として成金になりすました家から美術品を近隣に輸送する、 という形も良いかもしれません。 敵に関してはどちらも物理メイン、それも状態異常付与が中心になりそうですから、 そちらを中心に固めていけば良さそうな形ですね。

  3. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。 今回はどうぞ宜しくね。 個人的には成金になりすます方が楽な気がするけれど… そうだね、直接的に敵と当たるなら輸送を装う方が良いかもね。 人数も居るし、バラけるのも手だね。 フリーダさんの言うように両方の良いトコロを取るのも 面白い結果を生みそうだね。ただ今回は情報を多方面から 少しずつでも沢山集めることの方が大事な気もするすると バラバラに散るのも良いかな、と思ったりもする。 せめて成金班と輸送班の2班体制は取りたいかな…。

  4. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。よろしく。 人数は揃ってるから両方の作戦も実行できなくないね。 両方の作戦を組み合わせるなら、成金が興味を持った美術品に「これは既に買い手が付いてるから~」と強引な手段を使っても手に入れたい理由があるように仕立てるのはどうだろうか。 顧客候補には見張りを付けて様子見なんかさせそうだからね。そういった様子を伺うヤツらが付き始めた段階でアピールしておけば誘い込みやすくなりそうだ。 成金サイドの演技もできるが、両方実行するなら輸送を担当する商人のフリをしようかと。 盗ませる予定の美術品に栗鼠を忍ばせておく事ができそうだと考えた。 気づかれない程度に敢えて手を抜いて、逃げた所を別動隊が追いかける手も使えそうだ。 こちらの目的は誘き寄せた盗賊から情報を貰う事だ。無理に倒す必要もないと思ったよ。

  5. セリオス・オーガスト

    ・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む 両方やれるなら両方やったほうが効率はいいだろうな、最悪どちらかが成功すればいいわけだし とりあえずやるなら俺は馬車で輸送しておびき出す方に行くつもりだが

  6. オゴス

    では俺はゴールディから来たモラルの低そうな金満家でも演じます。 輸送班の方が動きやすいよう行動を詰めていきたいです。 ルチルさんの栗鼠が忍び込みやすそうな、そこそこの大きさの壺や彫像などの美術品に目をつけてみましょうか。

  7. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 俺も二手に分かれての作戦で良いと思えぜ! その場合は馬車輸送の方で賊を軽くあしらって後をつけてアジトやらを見つけるつもりでいるぜ!!

  8. ララベル・サン・ディーベル

    僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね! 二手に分かれて、各自得意な分野で動くのでいいんじゃないかな。 そうなると僕も、馬車輸送の方が動きやすいな。

  9. 夕霧

    夕霧である! 考えられる方法はどちらも抑えておくべきであるな…… 成金にはちょっとなれなさそうであるが、オゴス殿のサポートには回れる気がするのじゃ 目と耳の役割はわらわも担うのである

  10. オゴス

    夕霧さんがサポートしてくださるなら助かります。よろしくお願い致しますね。 成金としての行動の予定を記載しておきますね。 倉庫兼別荘の名目で商館を利用させてもらおうかと。 存在アピールの手段としては、街の人気商材に高額をつけて並べてあこぎな商売の真似事を。 街の酒場に行けるならそこでゴールディでの金儲けの自慢話を語りましょう。 限定品の買い占めと転売であぶく銭を手に入れた最低屑野郎、という設定で成金を演じてみます。 輸送班との連絡はどうします? 俺は手紙か証拠の残らないテレパスあたりを考えています。

  11. フリーダ=ブロムヴィスト

    それでは私は成金の用心棒的な感じで動こうかと思います。 成金なら用心棒の1人は雇っていないと不自然でしょうし、 仮に誘き寄せるとしたら倉庫で意図的なザル警備を行う事で、 盗賊を誘い出す事ができるかもしれません。

  12. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    了解だ。 栗鼠を隠すのに適当な美術品はこっちでもそれとなく目立つようにしておく。 オゴスの名演に期待するよ。 今の所、表明を纏めるとこんな具合か。 班の名前は暫定的なヤツだからセンスは問わないでくれ。 【成金側】 オゴス、夕霧、フリーダ 【馬車側】 ルチル、セリオス、ハヤト、ララベル >馬車側 土壇場で足並みが乱れないように確認なんだが、 全員馬車で迎撃に回るつもりかい? 敢えて美術品を盗ませたりはせずに撤退させた後の盗賊の足取りを追うつもりかね? 相手の強さ次第だが、今の馬車側の面子だと何も盗ませずに撤退に追い込む可能性も考えられるのでね。ハヤト以外具体的にどう動くかという方針が出ていなので気になった。 後、下手に叩きのめしてしまうとオークションの主催者側に警戒されてしまいそうだと思ったのもある。 今回の目的は何処で行われるかを突き止める事であり、恐らく今回で一網打尽と行くにはまだ早い。 だからこそ適当に手を抜いて美術品を盗ませて、盗賊達がノーマークの側から追跡するという案を出したのだが……まあ、全員馬車に付くならそれに応じてやり方は変えられる。 とりあえず、意見をすり合わせておきたいという気持ちが強いさね。

  13. キオルティス

    間が空いてごめんね。 では俺は成金側で執事か、オゴスさんの専用楽士の真似事でもしてみようかな。 あとはオゴスさんの家まで行ってどれだけの値打ちモノか、またその場に 美術品を出す必要性が有れば、行商人の振りをしても良いかもね。 ただ、足が欲しいなら馬車側に付くのも有りなんで、もし足が欲しいなら 言ってくれると嬉しい。とりあえずルチルさんが作った表明、上げとくね。 【成金側】 オゴス、夕霧、フリーダ、キオルティス 【馬車側】 ルチル、セリオス、ハヤト、ララベル >班間情報 そうだね…テレパスが有れば、使うのが一番良い選択かな、と俺は思う。 確実に連絡が取れて、距離が空いていても使用可能な情報ツールだしね。

  14. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    連絡手段について抜けてたので取り急ぎ。 テレパスの用意はできるよ。 栗鼠に手紙を括り付けて伝書役にさせる事もできるが、範囲内でやり取りができるなら極力テレパスの方がやりやすいか。

  15. オゴス

    ふふ。ルチルさんと栗鼠のコンビネーションにも期待しております。 テレパスの用意をありがとうございます。では俺もテレパスを持っていきますね。 同じ班での無言の連絡にも使えるので、他の方もテレパスを所持していて汎用スキルに余裕があれば用意するのも便利かもしれませんね。

  16. 夕霧

    くふ、わらわもテレパスは持っているので問題ないのじゃ 分担も異論はないので確認した、とだけ

  17. キオルティス

    今、フと思ったんだけれど…この一連の騒ぎ、時間帯に特徴は在るのかな。 もし夜間に追いかけっこをしなきゃいけないのなら、何らかの光源なり 視覚に変わる何かなり、暗視なり、持って行かなきゃ…だよね? …そこまで考える必要は無いのかもしれないけど、念の為、意見が訊きたいな、と思って。

  18. オゴス

    ふむ。時間帯と光源についてですね。 成金側については一般人を装った方が警戒されずに済みそうです。俺は授恵者ってことはひた隠します。 灯りを用意するとしてもエーテルを用いない普通のランタンが作戦上向いてますかねえ。 そしてこちらは馬車班の皆さんの動き次第ですが、なんとなく俺が思ったことを書いてみますね。 日中の輸送だけなら夜戦の備えはなくても平気そうです。 ただ「一日で上手くいかなくとも、数日間挑戦できる」とあるので、上手くいかない条件があるのかもしれません。 その条件が時間帯だった場合あえて夜に馬車を動かすのも手でしょうか。

  19. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    そうだね。 族からすると夜間の方がやりやすく思うだろう。時間帯で条件があるか試してみて、夜間に襲撃が来ても対応できるように暗視か灯りの準備もしておくよ。

  20. 夕霧

    オゴス殿がテレパスを持つということなので、わらわは超聴覚と暗視の組み合わせで身の回りの警護に専念しようと思っているのじゃ 授恵者ではないフリをしつつ、周囲の異変には気を配っていくのである なに、ぬしの傍付きとして近くにはいるようにするからの 怪しい奴がいたらすぐに伝えるから、テレパスはそちらに任せるのじゃ

  21. キオルティス

    光源について相談に乗ってくれた方々には感謝を。 とりあえず個人的には成金側だけれど、成金側で確り演技している時と その他の時との差を付けられればスキル使用もOKかな…と。 確かにオゴスさんは成金側筆頭なんで、終始エーテルの通ったモノは 使わなければ安牌な気もするだろうけれど。 個人的には今の所、成金側で執事。 有事には隠密裏に賊の後を追跡すること。 この2点で纏めてあるよ。 今なら何かして欲しいこと/やめた方が良いことが有れば是非。 因みに今の仮プレから行くとテレパスは持ちたいけど持てない…かな。

  22. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    なるほど、確かに賊の襲ってくる時間帯っていや暗くなってからのほうが可能性は高そうだしな。 俺は暗視と超嗅覚で追跡が出来るようにしておくぜ!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0