【泳冥】暗闇の渦へ【求和】
崎田航輝
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シナリオID:1450
オープニング
小さな藁葺きの家で、目を覚ました農夫の男に妻は言った。
ああ、と男は頷いてうなだれる。
すまない、と。言った男は浅い息を零し、全身に汗をかいていた。
窓を見ると麗らかな陽が差していて……風も涼しい。外を見れば牛がのどかに鳴いていて、広い畑にも異常はなかった。
まったくもって平和な日。
なのに農夫の汗は暫く引く事はなかった。
――大丈夫、もうあんな事は終わったんだ。
そう自分に言い聞かせるように呟く。
自分はただ悪夢を見ていただけだ、と。
農夫だった自分が戦場に駆り出されて、兵士として動いたあの数日から、もう一週間は経つだろうか。
争いはすぐに始まり、そして長く続く事もなく終わった。
自分も命を失わずに帰ってくる事が出来た。
けれど、そこでは確かに人間同士の殺し合いが行われていた。仲間が人を殺すのを見た。仲間が殺されるのを見た。
あそこは確かに地獄だった。
今では紛争は収まったとされている。
実際に、穏やかな日々が流れている。
けれど人同士の争いの只中にいた経験が、今も男に悪夢を見せ続けていた。
国は、或いは外側の人間はこの出来事をどう思っているだろう。“田舎の小競り合い”か、“戦争になる前に鎮圧された小事”か?
「……殺し合いに、大きいも小さいもないよ」
願わくば、こんな争いが二度と起こらぬよう。
小さく呟いて――農夫はただ、日々の糧を得るために仕事へ向かう。
●額縁領主
王国西部。
荒野が続く環境の中でも、広大な敷地に緑を溢れさせる土地がある。
道は整備され、大きな街では家並みすら美しく……整然とした美しさを垣間見せる領地。
――ヒゼンベルク伯爵領レッドラント。
かつて荒れ地だった一帯が開拓され、治められ始めたのは数代前からの話。
“寄り子”の貴族が治める小領地を近隣に数多く並べ……広大な領地を管理下においている、そこは西部でも比較的名の知れた地方の一つだった。
自然、当代の主であるヒゼンベルクを頭にしたメルベ家は、この近郊では比類なき威光を持っていたのだが――
「迎えるのがこんな場所で、申し訳ない」
ヒゼンベルク・メルベが冒険者達を連れてきたのは、伯爵邸から離れた小さな屋敷だった。
その一室に皆を通す彼――レッドラント領主その人であるヒゼンベルクは、三十代もそこそこの、青年とも言える男だ。
貴族らしい身綺麗さはあるが、一方で伯爵らしい迫力は不足しているようにも見える。
それは彼自身、自覚しているところだと言った。
「今、僕は伯爵として自由に動きにくい立場にある。そこで、貴方達の力を借りたい」
「最近、一帯の情勢が不安定でね」
ヒゼンベルクは多数の寄り子を抱えている。
その領地同士で最近、散発的に争いが発生したのだという。
寄り子というのは即ち、ヒゼンベルクが庇護している貴族。実質的な服従関係である分、管理責任もヒゼンベルクが負う事になるのだが――
「僕はその争いを、解決する事が出来なかったんだ」
最初の紛争が起きた時、ヒゼンベルクは外遊中だった。その間に問題を鎮めたのは身内、つまりメルベ家の親兄弟だった。
「……僕が戻った時にはもう問題は収まっていたよ。伯爵として何も出来なかった訳だ」
それだけではない。
次の紛争でもヒゼンベルクは離れた領地にいて、解決に参加出来ず――また別の争いでは、連れた私兵に身を守ってもらう事で精一杯だった。
「結局メルベ家が解決したのだから、対外的にはまだ問題になってはいないが――」
それでもヒゼンベルクの当主としての格に疑問の目が向くのは当然だった。
「僕は既に、王国の貴族として相当数の失点をしてしまったという訳だ」
そういうヒゼンベルクの声は少し力がなかった。
元々、ヒゼンベルク・メルベは評判の上でも有能な貴族ではなかった。
「僕は若くして家督を継いだけれど……広大な土地を治めるのには不釣り合いだと、陰で言われていた事も知っている」
陰口の一つには、ヒゼンベルクはメルベ家のお飾り。
中身のない“額縁領主”なのだ、と。
「貴族の家柄にはよくある話……だなんて、自分で言うのは本当に情けないけれどね」
ヒゼンベルクはそう言って目を伏せていた。
「常に努力はしているつもり、ではあるけれど」
実際、これまで大きな問題が起きなかっただけ、最低限の仕事はこなせていたはずだ。
けれど最近ではそれも「身内の助けがあったからだ」と言われるばかり。
「この紛争でその風向きが一気に強くなったように思う。領主として不適格だと、公然と口にする者も出てきたんだ」
勿論、それは一面では正しい事だろう、とヒゼンベルクは認めた。
「紛争が起きたのも、僕の管理能力が不足していたのが原因だろう。ただでさえ動乱の時代に……民に目を配れなかったのは罪だ」
それでも、とヒゼンベルクは続けた。
「紛争については、それだけじゃないとも思っているんだ」
●依頼
これまで、寄り子の領地同士が争った事などなかったという。
「それが短い期間で何度も起きた。情勢不安を鑑みても、不穏に過ぎるという気がする」
それは感覚的なものでしかないが、と彼は呟いた。
「何かが起きているように思えるんだ」
だが、ヒゼンベルク自身はそれを調べられないという。
「調査資料はメルベ家が管理していて……今、僕はそれを見る事が出来ない」
ヒゼンベルクは紛争問題で大きく立場を落としつつある。故にもうタッチするな、というメルベ家の総意だ。
実際、ここでヒゼンベルクが動こうものなら「問題も解決できなかった無能領主が、今更出張ってくるのか」と周りに後ろ指を指されるのは事実。
ここから何かを失敗すれば、領主失格の烙印を押されるだろう。
「そうでなくとも僕は最近、色々な動きを制限されてしまってね。どうしても動けない」
一族の当主と言ってもこんなものだ、と言いながら。
「だから貴方達に頼みたい。……僕の悪あがきだと思ってくれても、構わない。力を貸してほしいんだ」
紛争は、個々の小さな争いという事で処理されている。
メルベ家としても身内の恥扱いで、公にされた情報は殆どない。
だけに、裏に何かがある気がするのだと。
「紛争地で何があったのか。何故争いが起きて、どんな戦いがあったのか」
それを調べてほしいと言った。
「一応、貴方達には出来る限りの権限を与える。王国貴族としてレッドラントを含めた近隣へ招聘する形だ」
旅行者やメルベ家の知己、別件での依頼を受けた冒険者など、必要に応じてもしもの時に身分を証明できるだろう。
「これである程度自由に動けるはず。無論、目的がばれればその限りじゃないが」
向かうのは、直近で争いのあった二つの領地――デナートとパスル。
一週間程前に武力闘争が鎮圧されたばかりで、情報があるとしたらそこだろうという。
「今、領地がどうなっているのかは、僕には殆ど分からない。だから可能であれば慎重に――情報収集に向かってくれ」
彼はそう言って、冒険者達へ頭を下げた。
解説
マスターより
リプレイ
冒険者達はその北方から三手に別れ、それぞれの目的地に向かう形をとる事にしていた。
「では皆、気をつけて」
言って仲間を見回すのはナタリア・フィッツジェラルド。頷く面々に別れを告げ、山へと視線を戻す。
「……」
歩み出しながら――脳裏に浮かべるのは、出立前の遣り取りだった。
『下衆の勘繰りになりますが』
と、ナタリアはヒゼンベルク伯爵へ蒼い瞳を向けていた。
『卿を貶めたい、点数を稼ぎたいが為に身内が仕組んだのではないかと思わざるを得ません』
起きた事態から導き出される、それはナタリアにとって当然の推理。
リディリディ・トゥラ・イェレミースもまた、そっと頷いていた。
『……状況を考えれば、領主を陥れる為に行ったもの、ですよね』
『メルベ家が、僕を蹴落とそうとしていると言うのか?』
伯爵はそう言って、信じ難い様子だった。
『メルベ家自身が傷つく可能性もあるのに――』
『少なくとも、内情に詳しい者が関わってるとは思うけどね』
そう述べたのは、ルチル・プルメリア・グレイハーツ。
無論、すぐに結論は出ない。
元より、仕事は領主への教導でなく情報収集なのだから――ルチルは被った頭蓋の奥から、瞳を向けて。
『とにかく、何の成果も得ずに紛争の早期終結は普通有り得ない。相応の理由があるはずだ』
それを知る為に動こうじゃないか、と。
その言葉にナタリアもまた頷いていた。
――動かぬ者に勝利無し、と。
『ピースの収集はお任せを』
或いは、敵は巨大かも知れないけれど。
それでもナタリアは迷わず進む。
皆もまた、心同じく――各々の目的地へと向かった。
●歪み
パスル領。
鉱山を中心に人が行き交うその景色を――ルチルと共に、同道するララベル・サン・ディーベルも見つめていた。
「確かに、怪我人も多いみたいだね」
道行く労働者は、或いは杖をつき、或いは包帯を巻いている。その数から、何らかの戦いに駆り出されていた事は明らかだった。
「これが故意に起こされたのだとしたら……」
許せない、とララベルは拳を握る。
だからこそ必要なのは情報だ。二人は魔獣退治帰りの冒険者として……夕刻、労働者が流れてゆく酒場に入った。
流石にそこは、賑やかだ。
日々に苦渋を感じるから、一層酒も進むのだろうか。ルチルはそんな間の空席に座る。
「やあ、一杯奢るよ」
「いいのか?」
「魔獣退治が上手く行ってね」
すると男達は酔いも回っているのか、喜んで酒を注文する。
ララベルも傍に座り、人懐こく話しかけた。
「ここの鉱山、すごいんだね!」
「数少ない働き口だよ。ま、金銀が出るわけじゃないが――」
彼の話を纏めると、小領地には有り難いが鉱山としては凡庸。紛争の種になりそうな場所とは思えなかった。
ララベルは頷いた上で話を続ける。
「最近大変だったみたいだね……」
「酷いもんさ。殺し合いなんてな」
そう応える労働者も、徴兵された一人だという。
ルチルは目を向けた。
「パスルに兵士はいないのかい?」
「見たことねえな。うちは田舎だし、平和だったからな」
「じゃあ、武器や報酬なんかは?」
「最低限は貰えたよ。領主様も必死だったんじゃないか」
聞く限りでは、領主も紛争に対応しようと精一杯ではあったようだ。
「『紛争の事を他所に話すな』って言うのは、気に入らねぇけどな」
彼のその言葉に視線を交わし――ルチルとララベルは酒場を出る。
後は、領主本人。ルチルは既に栗鼠のラトを発たせ、領主邸に忍び込ませていた。
その段階で判るのは……少ない私兵も使用人も、皆紛争で疲弊している事。そして殆ど情報はないが――唯一、メルベ家からの手紙があった事。
それを視覚で確認した後、ルチルは別件の冒険者として男爵を訪ねた。
紛争の話を聞いたが幾分不自然な点も多い。だが仕掛けたのはパスル側ではないと推測しており――『不利益を与えた相手の腹の内を明かそうか』と持ちかける形だ。
ただ、男爵は首を振った。
「確かに、手を出したのはデナートでうちは抵抗しただけ。ですが……紛争は“もう終わった事”ですから」
そうして交渉を拒否する。
が、それ自体、ルチルにとっては重要な情報だった。ラトが見た手紙には――『紛争については口外禁止』と言い含める文言があったのだから。
結果として、男爵は領民には真摯。だが不自然な態度も併せ持っていて――その部分はメルベ家の意向に由来しているらしかった。
その後、ララベルもヒゼンベルクの名は出さぬ形で、事後処理の情報集めとして男爵を訪問。
「変な部分はなかったけど……その分、時間とか詳しい情報は得られたよ」
これで浮かんでくる事実もあるだろう。
二人はその情報を手に――皆との合流へ向かった。
●不均衡
「しっかし、貴族ってなぁつくづく生きるのにも面倒臭ぇ身分なんだな……」
見えてきたデナート領を眺めつつ、ハヤト=ガラン=ヴォルファングは改めて呟く。
身を縛る不自由に、権力の重り。流浪の傭兵として自由な生き方を選んだハヤトには――伯爵の立場がゾッとするようなしがらみに思えていた。
故にこそ、力を貸そうという思いはある。
魔獣討伐に赴いた傭兵の身分で、早速村へ入って様子を窺うと――農民達の怪我人の多さが、すぐに見て取れた。
同道するロゼットは、その惨状に目を伏せる。
「これが自作自演で起きたものなら……領民が不憫でならないわ」
ならばこそ、必要なのは情報収集と彼らへの助け。
「怪我で仕事に支障のある人はいない?」
言って村を巡り、重傷者を魔法で治療。軽傷の者も一人一人手当を行った。
農夫は礼を述べる。
「貴女は、冒険者?」
「ええ、心配要らないわ。私達の事は仲間が領主様へ伝えてくれているから」
ロゼットは聖印を示し、神官としての無償の奉仕活動だと告げた。
安心する彼らに、ハヤトも手伝いつつ言葉を向ける。
「ここにも魔獣が出たのか?」
「……いえ。戦争ですよ」
人同士の、と。彼は吐露するように語った。
レティシア・レインフィールもまた、早期治療が必要な農民に処置を施し……その後、フォンド男爵を訪ねていた。
別件の名目を用意した上、レティシア自身貴族でもある。怪しまれる事なく案内されると――農民の治療の為の滞在許可を願った。
「既に、数名の同行者が治療を行っております」
「何と――」
挨拶後、告げた言葉に男爵は少々困り顔になった。
意味は判る。貴族として貸し借りを作りたくないのだろう。
レティシアはその機微を感じ取り、すぐに対価を求める形をとった。
「何故多くの怪我人が出てしまったのか、理由を教えて頂けないでしょうか」
「……、しかし」
「他言は致しません」
その言葉で男爵は、了承した。
そして武力闘争である事、当時の詳細、パスルからの攻撃が始まりである事を語った。
「鎮圧された方は?」
「メルベ家のハイドラ様――伯爵様の父君ですよ。ただ、メルベ家は多くの戦力を抱えているそうなので、他の方々もいたのかも知れません」
戦いが長引かず感謝しています、と彼は素直に言っていた。
レティシアは礼を述べ、辞する前に口を開く。
「伯爵様へご挨拶に窺おうと思っているのですが――」
「……お勧めはしません。鎮圧に来られた方々も、伯爵様には苦言を呈していたようですから」
男爵はそう返した。
ハヤトも聞き込みの後、男爵邸に潜入していた。
外套にフードを被り、隠密の様相。音を消しつつ壁を歩いて人を避け、家探しだ。
すると、男爵の私室で気になる書類を見つけた。
(こいつは……メルベ家からか)
それは紛争についてと、その後の寄り子の振る舞いについての手紙だ。
端的に言えば、『外部に余計な事を話すな』という伝達。内戦の事実で評判を落とさぬようにという、寄り子らへの箝口令のようだった。
それ自体、不自然さもあるが――
「少なくとも……デナートはメルベ家に従ってるだけか」
ロゼットは人々の治療を続けていた。
(……矢傷、切り傷。戦闘があったのは事実みたいね)
実感しながら、その農民へ尋ねる。
「パスルとの紛争と聞いたけど……普段から仲が悪いのかしら」
「いいえ」
どちらも寄り子の領地同士。その認識は農夫にもあるらしかった。
だから余計、ロゼットにとっては不自然で。
「……鎮圧の軍は離れた土地なのに、すぐに来てくれたのね」
「そうですね。伯爵様の弟君……クロックワード様も兵を率いていたようで、あっという間に鎮まりましたよ」
と、そこで彼は口を噤む。紛争については口止めされているのだろう。
ただ、情報としては有用。ロゼットはそれ以上は尋ねず辞して……紛争の記憶を引きずる農夫に、言葉をかけた。
「辛い体験は吐き出すことで気が楽になります」
「……ええ」
彼はそこで見た地獄を語る。死んだ仲間、死んだ敵。血に塗れた経験を。
ロゼットは頷き、静やかに言った。
「貴方の辛さは確かに、私がお預かりしました。今日はきっと悪夢は見ません。ゆっくりお休みください」
彼は頷き、涙を流す。その表情は前よりも、安らぎを得たようだった。
●渦
「そろそろ、近そうだ」
山岳を歩むセリオス・オーガストは、足元を見て呟く。
地面に残る、幾つもの足跡。その密度が増しているのに気づいていた。
それは多くの人間が行き交っていた証拠。比較的新しいと判るものも多く……争いの現場が遠くないのは確かだろう。
セリオスはマントに枝や葉を更に付着させて迷彩を濃くして――足跡を辿り始めてゆく。
同道するナタリアも、生態調査という名目も用意してあるけれど……周りには注意しつつ調べ始めた。
「しかし、深い森だな」
「こんなに入り組んだところで争って益があるのでしょうか……」
呟くのはリディリディ。
言葉通りかなりの悪環境で……ナタリアも地面や地層まで念入りに調べつつ、頷いている。
「実際、ただの山のようでもあるな」
戦場となったここにも、未発見の資源など、何らかの争いの種がある。ナタリアはそう推測もしていたが……見つかるのは足跡や血の跡ばかりだ。
資源が領地内部の鉱山や水資源だけなら、尚更ここで戦っていた事が引っかかる。領地の境目だから不自然という程ではないが……違和感はあった。
「それでも、争いの規模は概ね、情報通りみたいですね……」
リディリディは痕跡を観察して声を零す。
足跡から窺えるのは、東西方向からぶつかった数十人がいた、という事。それが実際に争った領民達だろう。
それから武装した者がつけたような鋭く深い足跡もある。
辿ると高度の低い位置に馬の蹄の跡もあって……おそらく、鎮圧に来たというメルベ家の兵のものだろう。
ここまでは、情報と齟齬はない。
ただ――
「これは……」
リディリディはそのどれにも似ていない足跡を見つけた。
セリオスも覗き込み、観察する。
「確かに、他と種類が違うように思えるな」
敢えて言うなら領民と兵隊の中間。少人数で、武装はしているけれど目立った動きはしていない――そんな足跡に見えた。
気になるのは、その跡が東西の他に、全く別の方向にも伸びていた事だ。
「少し、見てみよう」
ナタリアは位置を覚えて、尾根の高い部分から見下ろす。
すると不審な足跡が示すのは南西だと判った。それはメルベの兵が来たらしい道のりとも違う方角だ。
頷き合った三人は、そちらへ足を伸ばす事にした。
するとそこは深い獣道。だが、微かではあるが人が通ったらしき跡も見つかって……それを更に辿ると、狭い範囲で木々の切り開かれた空間があるのを見つける。
そこにあるのは――枝葉でカモフラージュされた小屋だ。
「……、気配は、ないか」
セリオスがまず窺って、人がいないらしいと把握すると……三人で調査を始める。
そこは、少人数が待機する為の場所らしかった。それが何者なのかは不明だが――セリオスは壁にふと、乾いた染みを発見する。
「血の跡だな」
何らかの武器を、立て掛けた際に付着したようだ。真新しい、とは言い切れなかったが……決して古いものではなさそうだった。
ナタリアは成程、と呟く。
「誰かを攻撃した人間が、ここに戻ってきたんだな。その者はパスルやデナートにも行っていた可能性がある、と」
「領民の方や、鎮圧軍の痕跡はありませんし。別の人間という事になりますね……」
リディリディが言うと、セリオスも頷いて小屋を出て。
「追えるだけ追うか」
そして可能な限り痕跡を追った。
地形が変わる辺りで、痕跡も消え失せてしまったが……三人は、その向こうに何があるか充分に判る場所まで到達していた。
「結論として、資源を巡っての争いじゃないな」
ハヤトはそう言って、情報を纏める。
伯爵の別邸に、皆は改めて合流していた。ただし――今回は誰にも話を聞かれぬよう、一層の警戒をした上で。
ルチルも頷く。
「どちらも抗戦しただけで、資源を狙う意図はなかった」
「うん。そして襲撃を受けた時間と領民の招集時刻……二つはそれぞれ、双方の間で殆ど同時と言っていいみたい」
ララベルはそう続けた。
「つまり両方とも、兵を動員する前に襲撃を受けていた」
「第三者がいた――って事だな」
ハヤトの言葉に、ヒゼンベルクは息を呑む。
「……馬鹿な。それでは――」
「ええ」
レティシアが頷く。
メルベ家が潔白なら、それが放っておかれるはずはないのだから。
「やはり、伯爵様のお身内が引き起こした可能性があります。新たな伯爵を擁立する為に……例えば、鎮圧などで活躍された方を」
「僕の家族、か。だが、僕を引きずり下ろす為にそこまでの動きを?」
ヒゼンベルクは信じられぬように訴える。
「明るみに出れば、メルベ家自体の危機なのだぞ」
「……それでも、今のあなたでは動けない。向こうはそう判断したのかと……」
リディリディは飾らぬ言葉で言った。
弱体化したヒゼンベルクは、敵ではない。だから大胆な動きを辞さぬのだとしたら、と。
「……だが、確かな証拠はないのだろう?」
「それも、調べれば判るかも知れない」
言ったのはセリオス。
地図に記された領地の分布の、一点を指していた。
そこは山岳で見た、不審な足跡が示した先の場所。
ナタリアも頷く。
「不審者はおそらく、紛争の初撃の実行犯。それがここに潜んでいる可能性があります」
「ここも……メルベ家が監督している領地なのね」
ロゼットが地図に視線を落として言った。
――レクト男爵領ラースンズ。
それは確かに、メルベ家の寄り子が治める領地。
「ここは、どういった場所?」
「……クロックワードだ」
ヒゼンベルクの口から出たのは、自身の弟だという人物の名だった。
「そこは、僕の力が弱まるのと同時期に……クロックワードの管轄になった場所だ」
冒険者達は、頷き合う。
渦巻くような陰謀の影の、その輪郭が確かに見え始めていた。
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準8 / 4〜8人
2021年10月17日 15時36分18秒 公開
参加者
相談掲示板
ヒーラーの神官戦士ロゼットよ。よろしくね。 とりあえずやることは、場所と対象を分担しての調査、 聞き込みになるのかしら。得手不得手、希望はあるとして、 できたら例に挙がってる場所と対象を埋めていきたいわね。
ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 調査活動は何事も足で稼ぐ。聞き込みにあたってはエンパシーも込みでやっておこう。 発動条件の都合上、何かと身体に触れねばならないから挙動不審感が否めないかもしれないが。 持っていくスキルはエンパシーと看破を考えているが、事と次第によっては残留思念反応も捨て難い。 注意すべきは、情報収集にしても目立ちすぎればヒゼンベルク卿が絡んでいる事が表沙汰になりかねず、彼の心象が悪くなる事か。 何せ一帯で不信感が芽生えもしているんだ。
ごきげんよう。 ヒーラーのレティシア・レインフィールと申します。 皆様、よろしくお願い致します。 調査候補対象は「山岳」と二領地の「兵士、領民」「領主」となりますけれど 「兵士、領民」「領主」は行動次第では両立も可能である事を踏まえますと 大まかに分担をされるのなら「山岳」「デナート領」「パスル領」となりますでしょうか?
調査対象の両立は可能だけど、現地への移動時間を省けば、 たぶん行動は1日とかだろうから、取捨選択も有効よね。 山岳は戦闘の痕跡調査はもちろんだけど、「公の情報では 兵士は居ない」だから、本当に誰も居ないとは限らないわね。 私は何処に行こうかな?野外活動よりは対人会話の方が 良さそうならデナートの兵士、領民あたり行こうかしら。 穴埋めの調整役も考えるから、希望を聞き取れたら。 >調査対象 【山岳】 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット? 【パスル領】(兵士、領民)(領主) >注意 ・ヒゼンベルクからの依頼だと表沙汰になると 依頼人の立場が悪くなる可能性がある
No.5
あの・・・、リディリディといいます。 よろしくお願いします・・・。 えっと、調査ですね。 私はあまりヒトに対しての調査は不向きだと自覚していますので、山岳の方に向かおうと思います。 ロゼットさんの仰るようにヒトが本当に居ないかどうかはわかりませんが。 山岳の方ならば、普通に冒険者ギルドからの見回りと言っても不自然ではないでしょうし、どなたかが居るとしても言い逃れはできそうです。 >調査対象 【山岳】 リディリディ 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット? 【パスル領】(兵士、領民)(領主) >注意 ・ヒゼンベルクからの依頼だと表沙汰になると 依頼人の立場が悪くなる可能性がある
取り急ぎ。リディリディが挙げた山岳での調査活動には私も加わろう。 学者という立場を使ってのフィールドワークという体で調査が出来る筈。 ただこれは勿論PL情報だが、それぞれの領主への聞き込み次第では「武力闘争の初手は向こう側にあり」と双方の主張が食い違っているな。 山岳での調査結果次第では、こいつは何か裏があるとでも言いたげじゃないか。 >調査対象 【山岳】 リディリディ、ナタリア 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット? 【パスル領】(兵士、領民)(領主) >注意 ・ヒゼンベルクからの依頼だと表沙汰になると 依頼人の立場が悪くなる可能性がある
私はデナート領のご領主様のお話をお伺いしようかと存じます。 現時点では冒険者兼貴族としての接触を予定しておりますが 場合によってはどちらかに絞るかもしれません。 >調査対象 【山岳】 リディリディ、ナタリア 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット?、レティシア 【パスル領】(兵士、領民)(領主) >注意 ・ヒゼンベルクからの依頼だと表沙汰になると 依頼人の立場が悪くなる可能性がある
情報屋のルチルだ。よろしく。 意図的な紛争の誘発によるマッチポンプ……のようだが依頼人の目的を悟られないようにする事、領民達は不利益になるような事には沈黙を選ぶ事。これらを考えると一筋縄ではいかない、といった具合か。 どちらの領地も近くで別件の依頼を受けたとか、建前を使えばうまく入り込めそうだな。 立場次第ではいきなり領主から聞き出すよりも、領民、兵士から繋げて行って当たった方が目的を悟られず自然に入り込めそうな気もするね。 野外の調査も可能だが、交渉スキルがあるんでパスル領に向かう事にするよ。 >調査対象 【山岳】 リディリディ、ナタリア 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット?、レティシア 【パスル領】(兵士、領民)(領主) ルチル >注意 ・ヒゼンベルクからの依頼だと表沙汰になると 依頼人の立場が悪くなる可能性がある
・・・ん、シューターのセリオスだ、よろしく頼む。 とりあえず俺も行くなら山岳地帯だろうか。 おれも隠密行動のほうがやりやすいからな。 >調査対象 【山岳】 リディリディ、ナタリア、セリオス 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット?、レティシア 【パスル領】(兵士、領民)(領主) >注意 ・ヒゼンベルクからの依頼だと表沙汰になると 依頼人の立場が悪くなる可能性がある
どう接触するか、いざ考えると難しいわね(悩) 「紛争地で何があったのか。何故争いが起きて、 どんな戦いがあったのか」基本はこの調査よね。 対象ごとに食い違う結果とか出てくれば、手がかりになるのかな。 >調査対象(仮) 【山岳】 リディリディ、ナタリア、セリオス 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット、レティシア 【パスル領】(兵士、領民)(領主) ルチル ルチルが抜けてたから、入れなおしたわ。
私もですが、ロゼット様も伯爵様のご依頼の事だけは伏せられて あとは殆どそのままで接触されてもよろしいかもしれませんね。 同じヒーラーですし、偶々別件の依頼からの帰還、怪我人が多い村を見掛けた為治療を行うのと ロゼット様が先行して治療をなさっている間に 私が治療の為の滞在を領主様に求めに行くという流れであれば ロゼット様は治療中に、私は領主様との接触時に、それぞれ情報を得やすくなるのではないかと。
おーっす! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! なんか、裏にありそうなきな臭ぇ依頼だな。 んじゃ、俺も《交渉》があるからルチルと分かれる形でデナート領に行ってみっかな。 もう1つの汎用スキルは《隠蔽》にする予定だからロゼットとレティシアが領主と直接話して情報収集すんなら《交渉》じゃなくて《看破》にして領主の屋敷に潜入して何かしら紛争の証拠やら情報が入手できねーか家探し&身を隠して聞き耳立てるってのもありだなと悩み中だ。 >調査対象(仮) 【山岳】 リディリディ、ナタリア、セリオス 【デナート領】(兵士、領民)(領主) ロゼット、レティシア、ハヤト 【パスル領】(兵士、領民)(領主) ルチル
ふむ。ララベルはあまり顔を出せない人らしいから、 今の希望で整理しておこうかな。。。 汎用スキルは洞察と医療技能で検討中よ。 >ルチル パスル領で単独になるかもしれないけど大丈夫? 主に行動の文字数とか。考えようによっては地域を自由に 担当できるのは、情報屋なら楽しそうでもあるかなって。 きつそうなら、明日までなら移動も考えるから。 >レティシア アドバイスありがとう。 そうね領民の怪我を診察しながら、話を聞いてみようかな。
私は現時点では汎用スキルは交渉と洞察を予定しておりますね。 このままロゼット様がデナート領で行動をされるのでしたら 領主様には同行者が既に治療を始めている事もお話させて頂きますね。
>ロゼット おっと、確かにパスル領行きはアタイ一人となってるね。 まあ、難しい戦闘は起きないという話だし単独での調査になっても字数等ではあまり困らないはずだ。 怪我人の治療という体で入りやすいのはデナート領の方だし、強いて調整してもらう必要はない…と思うね。
>ルチル 了解。確かに怪我人がいないと、ちょっと理由付けが 薄くなるから、デナート領に行かせてもらうわ。 レティシアも。予定の通りでお願いするわ。
かしこまりました。 それではロゼット様、改めてよろしくお願い致しますね。 他の皆様も、どうかご武運を。
締め切り前に今更気付いた話だが、デナートは農民を徴兵していた影響で傷ついた農民が多く、パスルは鉱山労働者を徴兵し紛争については緘口令が敷かれていたと。 「互いの資源を巡った争いであるが実際に資源の奪い合いなどには発展せず、早期に鎮圧された」というのが、卿が入手した限りの情報だそうだが果たしてそこに何があるのか。 持っていく汎用スキルは、地質学と看破にしておこう……地理的にも、何か隠し事があるなら、やりやすそうな環境でもあるだろう。 更に言えば、起きた紛争はいずれもヒゼンベルク卿が領地を離れていた間に起きて、解決してきたのが悉く身内ばかりとなると。 点数稼ぎだとか彼を蹴落としたいとされる身内の自作自演めいた事じゃないだろうね。
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね。 行き先はパスルにするね。
>デナート レティシアが交渉もってってくれるみてーまなら俺を基本、忍スタイルで家に侵入しての情報収集する方向でエリアサイレンス持ってくことにすんな!