南海の交易航路
望月誠司
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シナリオID:1433
オープニング
季節は既に秋だったが、真夏のように空は青く深く澄み渡り、太陽はギラギラと輝いている。
右手側に広がる海の彼方には岸が見える。ロスガリア大陸だ。
「うん、良い風です。順調順調」
鎧下服にショース姿の金髪碧眼のエルフ娘が、船首に立って彼方を見やり笑顔を浮かべた。
彼女の名はマリーナ・セーラー、リーンエス王国南部に位置する港湾都市ルジアダスを拠点とする海洋交易商人である。
現在、貴方達は南海を航海する交易船の護衛及び臨時航海士として働く依頼を引き受け、マリーナが所有するこの帆船に乗り込んでいた。
見張り台の上に水夫が立って彼方を見据え、船尾では総舵手が舵輪を操り、傍らに船長が立っている。
甲板では水夫達がロープを引いてマストを操り、また数名がブラシをかけて掃除をしていた。
鼠対策に乗せられているらしき猫が日当たりの良い位置で丸くなっている。
「ずっとこの調子で行ければ予定通りにコッコ島へと着けそうですね!」
コッコ島は港湾都市ルジアダスより岸沿いに数日航行し、そこからさらに南へと少し行った所にある小さな島だ。
真珠や珊瑚細工、魚油などの生産が盛んであるらしい。島でそれらを購入して船に積み、ルジアダスへと持ち帰れれば結構な額の儲けになるのだそうだ。
行きの現在、この船には、島で作られていない種類の酒や食料、嗜好品や少量だが宝飾類などが積まれている。島の富裕層は交易により富んでいる為、コッコ島では良い値がつくらしい。
しかし――遠洋航海に比べればマシとはいえ海を航行する事は危険が大きい。
浅瀬による座礁や暴風雨といった自然の脅威に加え、魔獣やクリーパー、亜人や海賊による襲撃なども良く発生しているらしい。
その為、海をゆく交易船が沈む事は珍しく無いのだという。(だからこそ、舶来品は港で高値で取引されているらしいが。それを裏付けるように貴方達に対する依頼報酬もまた、平均相場よりも高く設定されていた)
この決して大型とはいえない帆船、風神号は、果たして無事に航海を終える事が出来るのだろうか――
解説
マスターより
リプレイ
「力仕事なら、まかせてくださいっ」
とても小柄なハーフリングの少女が自己アピールした。
ゲルダ・クライン、パワーとスタミナに自信ありである。
体格的に普通は疑いの眼差しが向けられる所だったが、マリーナからは特に疑われる事もなく、ちょっとしたテストの後、
「OK、採用です!」
とあっさりと臨時雇用が決定された。
風神号には授恵者の航海士も多いらしく、ゲルダのように見た目とかけ離れたパワーの持ち主の事も知っているらしい。
「有難うございます!」
航海士として船に乗るのは初体験である。
ドキドキ半分ワクワク半分の気持ちに金髪緑瞳の少女は胸を高鳴らせるのだった。
「――船っておっきい! カフさん、カフさん! 早く!」
港にて、停泊している帆船を指差し白金髪の少年が紫瞳を輝かせている。
彼はセオ・ウルジオ、かつて滅した国の復興を誓いそしてそれも無くした隻腕義手の戦士カルフ・オルヴォを師と仰ぐ、若き冒険者である。
「船ね……」
エメラルドブルーに煌く海と桟橋に浮かぶ大船、そしてカルフを振り返り手を振っている少年――生き残ったのは、この光景を見る為なのだとしたら、齢152を数えるエルフの戦士は何を思うのか。
「そう急かすなセオ。今行く」
187cmの精悍な体躯を持つ隻腕義手の戦士がゆっくりと、しかし大股で歩いてゆく。
他方、
(霊船で釣りを嗜むようになってからというもの、水上での活動にも慣れて来たが……)
歴戦の冒険者ナハティガル=ラーをしても、数日間に渡る航海というのは初めての経験だった。
どうなるものかな、と思いつつ黒ずくめの銀鬼が港湾都市ルジアダスの城門を潜ってゆく。
アスティン・ヴェルライン、短めの黒髪と、温和そうな眼つきのやや小柄な青年が、のんびりとした歩調で港湾都市の道を歩いている。
今回の依頼、アスティンとしても海の上にはあまり出たことがないので多少楽しむ気持ちがあった。
だが仕事が優先なので職務はきっちり行おうと思っている。
「まぁ、あまり気負って船酔いとかしないように気を付けよう……」
そんな事を呟きつつ港へと向かう。
(コッコ島……どんなところなのでしょうか!)
金髪碧眼のエルフ少女が、荷下ろしを行っている水夫達の間を縫って、軽い足取りで船へと向かい歩いている。都会派エルフのエルナ・クルプファルツである。
未だ見ぬ南海の島には珍しいものが沢山ある。きっと楽しい筈だと、少女は期待に胸を膨らませていた。
(――行った事のない島への航海、凄くワクワクする!)
やや小柄で整った顔立ちをしている赤髪の少年ララベル・サン・ディーベルもまた未知への冒険に緑瞳を輝かせている。
(南の海ではどんな景色が見れるんだろう?)
ロマンチストな所もある少年は、長い髪を靡かせつつ桟橋へと軽快に駆け込んでいったのだった。
●
停泊している風神号の一室。
「短期だからそこまで心配要らないとは思うけれどね」
年の頃十六歳程度に見える、どこか不審で、どこか胡散臭い、緑髪のエルフ少年が椅子に腰かけていた。
名はシェオル。
確かな腕前の持ち主だが、禁忌の植物を売り捌き氏族内より追放されたと噂の薬師である。
見るからに悪党っぽい少年は、対面の椅子に座った少女に対し「それじゃ口を開いて」と妖しく促した。
「あの……提督?」
ショートの黒髪に小さく丸い獣耳を生やし濡羽色の鱗を持つ少女は戸惑った。
センザンコウの特徴を持つ半獣人レイヤ・ダライ=カホールである。
そのくりっとした黒瞳に今は不審が宿って、傍らに立つ金髪碧眼のエルフ娘を見つめていた。
レイヤの瞳が問いかけている、
「この人、ホントに大丈夫ですか?」
と。
依頼人である提督はにっこりと微笑んで、
「大丈夫ですよ。信頼できる薬師さんですから」
「はぁ……」
正面へと視線を向けるとシェオルが闇色の瞳を細めフフッと妖しく笑った。
どう見ても不審だが、海の上では提督の言う事は絶対である(今はまだ港内ではあるが)
水運を生業とする部族『カホール』の生まれたるレイヤは、
「航海。つまり水運ですね! カホールとしてしっかりこなしてみせます!」
と意気込んでいて、一族の名にかけて上手くやりたい所だったから、ちょっとイヤンな感じはぐぐっと堪えて口を開いた。
「うんうん……血は、出てないねぇ……歯並び良好、壊血病、歯肉炎、共に疑い無し、と……はい、オッケーだよ」
怪しいエルフ少年は器具を使ってレイヤの口内を検分した後、意外とマトモに聞こえる事を呟きつつ羽ペンを手元の紙に走らせ、
「これからもしっかり歯磨きしてね」
などと述べ完了を告げた。
レイヤは狐につままれたような心地で席を立ち室外へと出る。
そんな調子で乗船者達は船医達より簡単な健康チェックを受け、問題無しの太鼓判と共に出航したのだった。
●
エメラルドブルーに輝く南の海だ。
純白の帆を張った一艘の船が海面を滑るように進んでいる。
「風が気持ちいいですねぇ。浜辺にいるのとはまた違う魅力がありますー」
吹き抜けてゆく潮風に銀色の前髪を揺らしつつ、細身のエルフの少女が金色の瞳を柔らかく細めた。マリイ・パルティスである。
「ですよね! 海の上は浜とは一味違いますよ」
鎧下服にショース姿のエルフ娘が微笑する。
「それに立派な船……船ってこんな遠くまで行けるものなのですね。知りませんでしたよ」
マリイが感心して言う。
「有難うございます。うちの風神号はそんな大型船という訳でもないのですけどね。ただ、もっと遠くへでも船は割と出てますよ」
「そうなのですか?」
「結構良く沈みますけどね!」
金髪エルフ娘がケラケラと笑う。
銀髪エルフ娘は顔をひきつらせた。洒落にならないと知っている。
「それは一度体験した事があります」
先日、乗船が暴風雨と謎の巨影によって沈没・漂流し、無人島でおよそ一週間のサバイバル生活をしてきたマリイである。
海を行く船は良く沈むもの、というのは大いに実感が湧く所であった。無人島のイノシシとカニは美味かった。
「おや、実は体験済みでしたか。まぁ今回の航海は基本的には岸が見える領域を航行しますし、岸が見えないくらい離れる時も少しの間だけですから、沈没するような危険はそんなにありませんよ。心配はいりません、たぶん」
基本的に楽天的な冒険野郎なのかマリーナは軽い調子でニコニコと言う。
今回は沈没しないと良いなぁ、とマリイは切に願うのだった。
●
帆船、というのは帆に風を受け進む。
船を速く進ませる為には、風に対して向ける帆の最適な角度というのがある。
順風の時、逆風の時、あるいはその中間の時等々、それぞれ最速を出す為の角度があり、そして風向きは時間帯や気象、場所等によってコロコロと変わる。
さらに言うなら船の向き自体も障害物や目的地への進路など諸々の事情によって微妙にアレコレと変わる。
その為、帆は頻繁に向きが操作され、そして帆は人の力で引くロープによって操作されたから、海に風が吹く限り、帆の操作員は大抵の場合、忙しいのであった。
「面舵!!」
「面舵!!」
船長の声を受けて操舵手が舵輪を回し、海面を航行する船が回転してゆく。
「ヨーソロー!」
「ヨーソロー!」
やがて望む角度になったのか、船は再び直進へと戻る。
船の向きが変わり、航海士長から帆の操作員達へと帆を操作する為の号令が飛んだ。
「引き方始め! 二番、六番、引け!!」
髪を結んで動きやすいシーフ鎧姿になっているゲルダ、エルナ、ナハティガルは一本のロープを三人で列になってしっかりと握り、号令を復唱した。復唱は掛け声としての役割も併せ持つ。
「「「二番、六番、引け!!」」」
声に力を入れるタイミングを合わせ、波に揺れる甲板の上、身体を大きく傾斜させて両足を踏ん張り一斉に引く。
ゲルダ127cm、エルナ150cm、ナハティガル185cmが順に並んでいるのでなかなか規則正しい光景だった。
エルナは元気一杯に高い声で掛け声を出しつつ、小柄な身体を目一杯に使ってロープを引いている。
曰く、
「シューターですから! 引くのは得意なのですよ!!」
との事。
張られている帆の骨組みとなっている木がロープに引かれ回転し、角度を変えてゆく。
帆が風を受けて大きく膨らんでゆく。
基本的に真後ろから風を受けるのでなく、斜め後方から受ける形が最速のようだった。真後ろからだと後部の帆が前方に並ぶ帆への風を遮ってしまうからだ。
エルナよりもさらに小柄なゲルダは、しかし自己申告に違わぬ強烈なパワーを発揮しつつ、他の操帆員達とタイミングを合わせロープを引いてゆく。
「とぅ・しっくす・ひーぶっ!」
少女は目一杯にロープを引きつつ笑顔を浮かべていた。
(えへへ、……ちょっとだけ、楽しいです)
不慣れながらも、皆で一丸になっている感じが少し嬉しいらしい。
最後尾のナハティガルは前方にて小さな身体で頑張っているゲルダとエルナの様子を気にかけていたが、今の所問題なさそうだ。二人とも並の男達よりも遥かにパワーがある。
帆を引く力加減はとりあえず全開で良いとの事だったので気合を入れ二人とタイミングを合わせ、身体を傾け全力で引いてゆく。
やがて、
「ビレイ!」
(……ビレイ)
聞きなれない号令が響き渡り、一瞬困惑したナハティガルだったが、
「……あぁ、引いて余ったロープを留め木に巻きつけ締めれば良いんだったな?」
と操帆作業に入る前に航海士長から受けた説明を思い出す。
「ですね! どうやらこの帆はこの角度で一旦固定のようですっ!」
「それじゃ留めちゃいましょう!」
エルナとゲルダが言って、三人は綱止め栓に引いて余った分のロープを巻きつけ締めてゆく。
帆が多数の航海士達によって操作される中、それよりも高い場所に設けられている見張り台に黒髪ショートの少女が登っていた。
鱗甲目の半獣人レイヤである。
精神を集中させて、黒いくりっとした瞳を瞠り、何も見逃しはすまいとじーっと海を見つめている。
そんな彼女の視界に、明緑色の海面を割って、灰色の細長い物体が、白い水飛沫を煌かせながら、次々に跳ね上がってゆくのが映った。
緩く弧を描くそれは、一つ、二つ、三つと複数が固まって動いている。
「おぉ……3時方向にイルカさんです!」
レイヤが声をあげると共に見張り台に立っているカルフも右方向へと視線を走らせ、
「イルカか……まぁ連中にこの船を沈める能力も気も無さそうだが」
普段陸に居る人間としては珍しくはあったが、そちらに注意を取られて本命を見逃す訳にもいかない。
ほわわあー! と瞳を輝かせて感動している少女の隣で、右腕に義手をはめたエルフの大男は周囲への警戒を続けてゆく。
一方、カルフの相棒であるセオは船内の厨房にてエプロンをつけ、朝食後の皿洗いをこなしていた。何が出来るか聞かれた時、例にあげられた役職はさっぱり想像がつかなかったが(やはり本読んでるだけでは分からない事は多いと痛感した)皿洗いなら間違いなく出来ると踏んだ為である。
この日の為に磨いたバランス感覚で平衡を保ちつつ、海水が汲まれた樽の中で木皿を洗い、空いている樽へと放り込んでゆく。洗いきったら乾いた布で木皿を拭くようにとの事だった。
その傍ら、
「調理と食材のやりくりは少しは自信がある」
コックとして採用されたアスティンは、床に腰を降ろして包丁を持ちジャガイモの皮を剥いていた。昼食に向けての下ごしらえである。
小さな樽の上で薄く、しかし素早く皮を剥いて皮を落としてゆき、剥き終わった芋を別の小樽の中へと入れてゆく。
小樽が一杯になったら中身をそれぞれゴミ用と芋用の樽に移す。
ペットの大鼬には見張りと、そしてネズミ討伐の為に船内を回らせていた。
船乗りの天敵たる鼠を追いかけ、大鼬が船内を駆けてゆく。
「おはようございますー。あれ、ヴェルラインさんホントに早いですね」
やがてマリイが厨房へとやってきて、驚いたように金瞳を見開いた。昼食の準備開始まではまだ時間がある。
「おはようパルティスさん。人数がそれなりだからね、早めにしっかりとやっといた方が良いと思って」
「なるほど。それじゃ私もお手伝いしますね。こう見えて大人数の量を作るのは慣れっこなんですよー。作れるのは主に家庭料理やおつまみ系ですけどね」
「それは頼もしい。それじゃこっちの皮むきお願いします」
「はい。ウルジオさんもおはようございますー」
「あっ、おはようございます!」
とマリイもまたエプロンをつけて包丁を手に持って床に座りジャガイモの皮を剥き始める。
バランス感覚は二人も養っていたのだが、やはり不意に大きな揺れが起こったりもするので、刃物を使う場合は出来るだけ座って行う事になっていた。
やがてマリイとアスティンは剥いたジャガイモで樽を一杯にすると竈に火を入れ、大鍋で魚介と根菜類のスープの作成を開始する。
マリイは作った事が無い料理だったがアスティンに教わりつつ調理する。
その傍らマリイは「船に酔ってしまう方もいらっしゃると思うので」と『しょうがのはちみつ漬け』を作るべく、生姜を洗い乾かしておいた。
一方、ギラギラと輝く太陽照りつける甲板では、
「少しでもみんなが快適に航海できるよう頑張らなくちゃ」
とララベルが普段は宿屋をやっている経験を活かしモップを手に掃除を開始していた。
シェオルや他の水夫達も一緒にデッキにモップをかけている。
船首から船尾まで一通りかけ終わると船内に入り、
「やっぱり船の中は汚れの質とか場所も違うなぁ」
透視と暗視を使って気づきにくい所の汚れも一生懸命ピカピカに磨き上げてゆく。結構な重労働で、なかなか大変だった。
赤髪の少年は額に滲んで来た汗を手の甲でぬぐい、ふぅ、と息を吐いたのだった。
やがて昼時となると休憩となり、冒険者達はアスティンとマリイが調理した船内食とは思えない程に美味な料理に舌鼓を打ったのだった。
●
港湾都市より出港して数日、エルナが船員よりロープワークを習っていた頃、
「あ、5時方向、鳥の群れ、魚群でしょうか?」
見張り台のレイヤがいつもの調子で報告を上げている。
その傍ら、
「――良い眺めだな。風も心地良い……」
本日はナハティガルがマストを登り見張り台へと上がっていた。長い銀髪を海の風に靡かせながら彼方を見つめる。
高所にある見張り台には、暴風と呼んでもおかしくない程、勢いの良い風が昨日までは吹いていたのだが、今日はかなり穏やかだった。波も大人しい。
日差しを受け煌めく穏やかなエメラルドブルーの海を眺めながら、銀の鬼人は故郷――ゴールディの暗黒街の事を思い出していた。
それとは程遠い、眼前の煌く光景に世界の広さを実感する。
しかしである。
「っと、ついでに4時方向に船影を発見しました。三段櫂船ですね」
レイヤが今までには無かった種類の報告をあげた。
見やれば、大陸から突き出た岬の影から、ぬっと一艘の櫂船が出現してきていた。
今日は風の弱い穏やかな日だったが、櫂を主な推進力とする三段櫂船はスイスイと進んで来る。
光あればまた影もあるのが世界の法則というものらしい。
「あの船……航路が同じ、というよりは、真っ直ぐにこちらを目指して来ています。警戒した方が良いかもしれません、敵性の存在かも」
レイヤの警告の通り、それは海賊であるとすぐに知れ、穏やかな時間は終わりを告げたのだった。
●
「ゴールドと積み荷を置いていきな! 命が惜しけりゃなァッ!!」
接舷し、板を渡し、円形盾を構え剣を振り翳し屈強な男達が怒涛の勢いで風神号へと乗り込んでくる。
「うわぁ、なんかいっぱいきた……!」
その数、五十ではくだるまい。
シェオルが呻き、カルフが言う。
「予約無しのご来客だ、歓待準備は良いか?」
「無論です!」
マリーナが答え叫ぶ。
「皆さん! やっちゃってください!!」
どっかの劇の悪役みたいな事を言ってエルフ娘は冒険者達に交戦を依頼してきた。
「まったく……海の上にも悪党は湧いて出るのだな。文字通り、海の藻屑にでもなりに来たのか?」
黒い影が宙を舞った。
エーテルを爆発的に噴出、宙を滑るように機動した銀の鬼が、右の剣と左の短剣を嵐の如く閃かせた。
先頭を駆けていた大男の側面上方より飛来した刃は、防御に翳された盾を掻い潜って男を一瞬で滅多斬りにする。
鮮やかな赤色を首から噴出しながら大男が倒れてゆく。
「た、隊長ぉおおお?!」
賊達に驚愕が走る中、黒い影は風の如く後退してゆく。
「ひっ、怯むなっ! 弔い合戦だッ!!」
「ウォオオオオオオオッ!!」
いきなり斬り込み隊長が討たれ挫けそうになった海賊達だったが、めげずに突撃する。
その眼前に光球が出現し、次いで稲妻のような光が荒れ狂った。
レイヤが見張り台の上から短杖を向けていた。
彼女はさらに無数の小光球を出現させると海賊達の頭上へと流星雨の如く降り注がせてゆく。
「まずは、敵の数を減らさないと……ですね!」
光の嵐群に悲鳴と怒号とが響き渡る中、ゲルダが爆発的に加速しながら突撃した。
金髪緑瞳の小柄な少女は、自身の身の丈を優に超える長さの槍を軽々と操ると、風車の如くに旋回させ、群がる屈強な大男達を次々に薙ぎ倒してゆく。
セオが守護の力を秘めた光を周辺に放ち味方の授恵者達を光輝かせ、モップから細剣に持ち替えた赤髪の少年が疾風の如く突撃してゆく。
「船員にも積み荷にも、指一本触れさせないよ」
弧を描いて一閃された刃が、鮮やかに海賊の喉を掻っ捌いた。
激しく揺れている甲板上でもララベルは巧みな足さばきで軽やかに機動し、
「波斬烈風三連撃だっ!」
左右の細剣を縦横無尽に閃かせ、駆け抜けながら次々に海賊達を斬り倒してゆく。
「数は多いみたいだけど、この船はやらせないよ」
アスティンは展開した敵の横隊の横手へと回り込みつつ、長弓に矢を番え撃ち放った。真っ直ぐに飛んだ矢は、海賊の射手の胴に命中すると炸裂し、指向性を持った猛烈な衝撃を巻き起こしてゆく。
貫通する衝撃波が解き放たれ、その奥に並んでいた射手達までも次々に薙ぎ倒される。
金髪エルフが杖を翳して光弾を放ち、海賊が盾を翳して受け止めた。
マリーナの傍についているマリイは、呪印が刻まれた矢を素早く魔弓に番えると、月が満ちるが如く目一杯に引き絞り、鋭い弦音と共に撃ち放った。
旋転しながら飛び出した呪矢は、唸りを上げて迫り、盾の隙間を掻い潜って海賊の喉に突き立つと、錐のように回転しながら呪力を解放、骨肉を貫いてその奥までをブチ抜いた。
喉から矢を生やした海賊が仰向けに倒れてゆく。
「人相手は気が進みませんが、力の使い方を間違えた授恵者ならば話は別です……容赦しませんよ!」
マリイはマリーナを守り連携しつつ次々に海賊を射抜いていく。
その傍ら、
「定員オーバーだから早く降りてね」
同じくマリーナの守りについているシェオルは、呪矢を魔弓に番え、素早く機動しつつ標的への射線を通すと、はっしと放つ。
旋転する矢が鋭く飛んで海賊の眉間を撃ち抜いた。
海賊が倒れ、反撃に飛来した矢をシェオルは素早く横に一回転しながらかわす。その勢いのまま立ち上がり、またマリーナの傍へと戻って来て次の矢を番える。
「どっかーん!」
メテオライトを乱射していたエルナが、突撃して来た海賊の剣を、杖を八双に振り上げつつひらりとかわし、その顔面へと身を捻りざまアッパー気味にフルスイングした。杖先が命中すると同時に閃光が解き放たれ、放物線を描きながら海賊が吹き飛んでゆく。
「杖だから近づけば平気だと思いましたか? ふっふっふ! 杖式零距離殺撃術に死角無し! ですよ!」
金髪エルフ娘がニコニコと、迂闊にも近づいてしまった海賊達を撲殺して回りながら叫んでいる。
「そーらっ、皆様お帰りだ」
カルフが光を全身に纏い加速突撃して盾を叩きつけ海賊達を吹き飛ばし、空いた道へと他の授恵者船員達と赤髪の少年が風の如くに斬り込んでゆく。
「そこまでだ!! さぁ、海の藻屑になりたくなければ退散しろ」
ララベルは護衛らしき付近の海賊を斬り倒しつつ踏み込んで、特に豪奢な鎧兜に身を包んだ男の喉元へと細剣の切っ先を突きつける。
男は大変口惜しそうだったが、どうみても劣勢なのは明らかであったので、
「退けっ! 退けーーーっ!!」
とララベルを睨みつつも撤退の号令を飛ばし、退却していったのだった。
●
かくて海賊の襲撃を退けた一行だったが、一難去ってまた一難とは言ったもので、コッコ島へと向かうべく岸から離れて一日程度経った頃、
「船長! 7時方向、黒雲の群れです! こっちにきそう……!!」
レイヤの報告を受けた船長は、自らの眼で確認し、逃げきれぬと察知すると、マリーナから許可を得、急ぎ嵐への対策を指示した。
船員達が甲板の上を急ぎ駆け回ってゆく。
早くも雨が降り始め、風が勢いを増して来ていた。
「はわわわわっ、とぅ・しっくす・ひーぶっ!」
ゲルダが青い顔をして慌てつつも、エルナ、ナハティガルと共に指示に従いロープを引き始める。
ハーフリングの少女は風雨そのものは恐れはしなかった。揺れが強くなってきている甲板でもしっかりと立っている。
「船の上の嵐ってこんなことになるんだな……まだ序の口か? とにかく、手伝わないと!」
アスティンは船内の火元と浸水を大鼬に警戒させつつ、甲板にてララベルと共にロープを引くのを手伝い、操帆員達は一部を残し大半の帆を畳んでゆく。
そうこうするうちに黒雲は見る見るうちに空から青を喰らい尽くして、昼であるのにまるで夜のように周囲を暗くしてしまった。
雨が滝のように降り注ぎ、風と波とが荒れ狂い始める。
「ああああ、折角掃除したのに!」
船べりを乗り越えて来た高波をかぶり、濡れ汚れゆく甲板の姿に、連日のモップがけで皆とピカピカに磨き上げていたララベルが涙する。諸行無常である。
「横波を受けると不味いぞ!」
ナハティガルが凄まじく勢いを増して来ている風雨と波に対し叫び、船長が叫び返した。
「むむむ、仕方あるまい! 海錨を放ちたまえ!」
「了解!」
エルナ達は備えられていた海錨を持ち上げると船尾より海へと向かい投擲した。
抵抗を効かせる事により、航行速度は落ちるが、船を波に対し縦に向けさせ安定させる事が出来る代物である。横波による転覆を防ぐ。
「ふふっ、荒天! 波乱! 困難も冒険のスパイスです!」
ブロンドの都会派エルフが暴風に髪を暴れさせつつも勇ましく叫んでいる。
他方、
「うぅ、この揺れはー……酔うねー……」
船内、医務室で待機中のシェオルもまた顔色を悪くしていた。
さすがにこの状況で平衡感覚を保つのは難しい。
体の中がふわふわしてきて気持ちが悪かった。
「酔い止め飲んどこ……」
船酔いに効果がある薬を取り出して飲む。
人心地ついた所で二人の水夫が一人の水夫を抱え医務室に入って来た。
「ドクター! こいつ揺れた拍子に頭打っちまって!」
「んんっ、なるほど、とりあえず見せてねー」
緑髪のエルフ少年は激しく揺れる船室内で、四苦八苦しつつ患者の容態を見ると、ヒールを使っての治療を開始したのだった。
●
甲板上や船内も地獄の揺れだったが高所にある見張り台は最早形容にし難いまでの凄まじい状況になっていた。
「ひゃああああああああああ?!」
ぐわんぐわんと振り回され、ともすれば見張り台から放り出され海面に激突するか、甲板に墜落しそうになっているセオが盛大に悲鳴をあげつつ、カルフにしがみつく事でなんとか堪えている。
「レイヤこいつを使え! セオは頭を低く、じっとしてろ!」
激しく揺れる、目もくらむ高さの見張り台の上、エルフの大男はロープを一本レイヤに渡すと、自身ももう一本のロープを取り出しマストと己の腰とをもやい結びで素早く結びつけた。見張り台の手摺を握り、叩きつけて来るような暗黒の雨と風の中、目を凝らす。
外套を纏った黒髪ショートの半獣人娘は、受け取ったロープで己の腰とマストとを結び付け、やはり同様に嵐の中に目を凝らす。
「揺れっ?! やばいやばいやばいやばい!! こっ、怖い!! ここここんな状態でも見張るんですかっ?!」
セオが膝をついて姿勢低くしつつカルフに必死にしがみついて叫ぶ。
「こんな状態だから見張るんだ! 気付くと直前に岩礁が……! なんてのが一番やべぇ!!」
暗黒の海を睨みつつカルフが怒鳴るように叫び返す。
「あと、さすがに海賊はないでしょうけれど、クラーケンとかマーマンとかが出てきても厄介ですし!!」
カルフとは逆の方向を見張りつつ声を張り上げレイヤ。
雷光が暗黒の世界を縦に切り裂いて、少女の姿を闇の中に浮かび上がらせる。間髪入れず世界でも砕けたかの如き盛大な雷鳴が轟く。
セオは顔面蒼白で悲鳴をあげていたが、カルフは不敵に笑った。
「ふ、強い奴ほど抗い甲斐があるってもんだ……!」
男は激しく揺れる見張り台の手摺にしがみ付きながら、荒れ狂う暗黒の海を睨む。
風神号はうねる黒波に木の葉のように揺られながらも、しかし、沈むことなく浮き続けた。
●
その後、しばらくして嵐は収まった。
「良かった、今回は遭難しなかった……!」
甲板にて白狼と抱き合ったマリイである。
風神号は暴風雨をどうにか耐えきり、船員達にも負傷者は出たが、手当が早かった事もあって大事は無かった。
「酔いと疲労に効きますよ」
マリイは先日に作成しておいた生姜の蜂蜜漬けを船員達に配って回った。
「……あぁ~、すっきりするね」
「甘い、ですね!」
シェオルがフフと笑い、ゲルダがほわっと笑った。
甘みと僅かな辛みの混じった味は嵐の後でクタクタになっていた一同の身に染みた。
嵐を抜けた後、セオはぐったりとしていたが蜂蜜漬けを食べて夜になれば元気を取り戻した。
見張り台の見張り達に百合茶を淹れてふるまい、レイヤがパウンドケーキも提供し、蜂蜜漬けとケーキを茶請けに見張り台の上の面子で雑談が弾んでゆく。
しかしやがてセオはケーキを平らげ茶を飲んだら安心したのか、カルフにもたれ掛って寝てしまった。
「この高さで寝ちまうとは、こいつは大物になるな」
生姜を齧りつつ茶を啜っていたエルフの大男は、弟子の穏やかな寝顔に微笑を向けた。
嵐を抜けた平穏な時間に感謝を捧げる。
雲一つ無くなった空には満天の星々と大きな月が輝いていて、穏やかな紺碧の海は月光を浴び煌いていた。
「それだけ信頼されてるって事じゃないですか?」
レイヤがケーキに齧りつきつつ茶を飲んで笑い、カルフは「ま、起きたら説教だな」と肩を竦めたのだった。
●
「すっかり晴れていい天気ですね!」
金髪碧眼のエルフ娘が輝く太陽と青い空に向かい笑顔を浮かべる。
夜が明け太陽が登って翌日、船はコッコ島へと到着した。
極めて透明度が高いエメラルドブルーの海に、白い砂浜を持つ緑豊かな島が浮いている。
そして、
「うわぁぁぁぁ、凄い!」
「あっ、あれがサンゴ礁というものでしょうか?! 初めてみましたっ!!」
赤毛の少年と都会派エルフが、船縁より身を乗り出し、透き通った水の中に見えている、島の周囲に広がる巨大な珊瑚礁に目を輝かせている。
エルナは生まれも育ちもリブラネスタだったので、南海から来る船は見たことがあったが、本物の南の海を見るのはこれが初めてだった。
入港すると交易品の積み下ろしが行われゲルダはそれを手伝い、その後一日コッコ島で休暇という事になった。
「これは見事な珊瑚細工だねぇ!」
シェオルが島の土産物屋で並んでいる細工品を眺めフフフフと怪しい笑みを浮かべている。
なんぞ悪だくみでも? と店主や周囲の人々が警戒していたが、本人は、
(海って感じがしていいよねぇ~)
と思っているだけで他意は無かった。
そんな傍ら、
「これは大陸東部ドワーフ王国産の蒸留酒で――」
レイヤが持ち込んだ蒸留酒を売り込み珊瑚と物々交換していた。なかなか双方にとって良い取引だったようだ。
その後、街を散策してさる老人に大湿地帯の話をするのと引き換えにコッコ島の伝承を教えて貰った。
祭祀の少女が女神の宝を盗んだが為に封印されていた闇が解き放たれ、島を包み込んだが、あれやこれやして無事解決したという伝承歌だった。
「揺れに慣れると固い大地ってのが逆に変だろう……まっすぐ歩けるか?」
「変な感じですが……なんとか」
カルフとセオの二人は島内の料理屋に入って地元料理に舌鼓を打った。
その後、白浜に出ると、煌く海に沈みゆく美しく雄大な夕陽を眺めつつ、セオは三味線を爪弾いた。
「なかなか怖い船旅でしたが……でもここの景色は、来てよかったなぁって思います」
「そうか……随分、慣れたんだな?」
「えへへ、はい、だいぶ上手くなったでしょ?」
少年は得意気に笑うと。
まだまだな僕だけど、もっともっと色々出来るようになってみせますよ、と言った。
曰く、さしあたってはまず皿洗いのプロになるのだと。
「まぁ……何でも極めるのは良い事だ」
カルフは微笑し、
「こいつを覚えれば、帰りはもう少し楽になるぞ」
と嵐の海に投げ出されぬよう、ロープワークを数種類教えたのだった。
休日明けの朝、
「さらばですコッコ島! また来る日まで~!」
島を観光しまくってむしろ到着前より疲れてそうなエルナが、名残惜し気に涙しつつ船尾にて、遠ざかってゆく珊瑚礁に囲まれた南海の島を見つめながら叫んだ。
風神号は再び出港し、大陸を目指した。
帰りの航路は順調に進んでゆき、一行はやがて無事に港湾都市へと辿り着いて、かくてマリーナからの依頼を完遂したのだった。
マスターコメント
ショートEX普通 報酬:多い10 / 4〜10人
2021年09月30日 14時02分46秒 公開
相談掲示板
ウォーリアのカルフ・オルヴォだ。 打合せは不要そうだが、挨拶はしとこうと思ってな、ヨロシクだ。
レイヤ・ダライ=カホールです。よろしくお願いしますね! 航海。つまり水運ですね!カホールとしてしっかりこなしてみせます! わたしは見張に立とうと思ってます。空も海も、しっかり見張りますよ! いい航海になるといいですね!楽しみです!
ウォーリアの、ゲルダです。よろしくお願いします。 コッコ島というところには初めて行くので、とっても楽しみです……! 道中は、主に力仕事方面でお役に立てたらいいなと思うので、ロープを引っ張ったり、ロープを引っ張ったり、ロープを引っ張ったりして頑張りますね! 途中で襲ってくる海賊の方々は……乱戦になる、とのことなので、作戦とかはあまり詰めない感じでしょうか。 見張り台などの高台から狙撃する方がいらっしゃるなら、その下で海賊の方々が登ってこないようにする、みたいな動きも考えました、が。 そこらへんも含めてよしなにという感じですかね。
シューターのアスティン。よろしく。 道中は料理人か見張りの交代要員をやる予定。 道中の海賊はよほどおかしな動きをしなければ、 とあるから最低限のポジション取りができてれば行けるのかな、と思うけど。 とりあえず俺は弓だから射線に気を付けるって感じかな…。
僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、宜しくね!! さて、どう動こうかなぁ?
シーフのナハティガル=ラーだ。今回は宜しく頼む。 航海中は一番人手が必要そうな帆の操作員でもしようかと。 それ以外に出来そうなのは、見張りの交代要員だろうか? >海賊 【壁歩き】や【トリプルファング】等で船全体を足場にして迎撃する予定だ。
エルフのシーフ、シェオル。どうぞよろしくね。 何でもOKだったら、僕は船医の仕事かその手伝いをやりたいな! 戦闘は僕も弓主体で戦いつつ、 捜波で不意討ち狙いの敵がいないかとか、調べていけたらと思っているよ。
こんにちは! セオ・ウルジオ、ヒーラーです 長い船旅になりそうですね 皆さんよろしくお願いします! カフさん(カルフ)と一緒に来たんですが カフさんは暗視を付けて、夜番を考えていると言ってました 僕ができること…できること?うーん 皿洗い頑張ります! あとは夜番に僕も立とうかな?
顔出し遅くなりました! エルヴンシューターのエルナです!皆様よろしくお願いしますね! いざ、船旅へ出発です!ヨーソロー! 見張りの人数は十分みたいですし、帆の操作員を担当しようかなと思っています!とりあえずヨーソロー!みたいな掛け声言いたいです! 戦闘は杖で魔法を撃つ、と見せかけて接近戦したりとかしようかなと思っています!
私も遅くなってすみませんー。マリイと申します。よろしくお願いしますね。 では私もお料理のお手伝いをしようと思います。ダンジョンでもよくしてますし。 戦闘はどうしましょうねぇ。普通に弓でちまちまするかなと思います。 見張り台……。とてもとても惹かれますが………狼ちゃんがいるので大人しく下に降りましょう(うごごごご
清掃する人は今のところ居なそうだったから、僕は周囲の警戒しつつ甲板掃除したり、航海を快適に出来る様船内の掃除をするね。 戦闘時は、揺れる船の不安定な足場を逆に生かして戦えたらって。