グランスパーダ自警団と『辻斬り』

岩岡志摩

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シナリオID:1422

オープニング

●発端
 3人組の男が1人の老人に暴力を振るっていた。
「いいな、期限は10日後だ」
 殴られて顔を青黒く腫らした老人が、家の壁に寄りかかって倒れている。
 3人組の男の中で一番小柄な男が、倒れた老人に唾を吐いた。
「10日経っても借金を返済できねえなら、手下を連れて中にいるてめえらごと、このボロ家を壊してやるよ」
 そう言い残して3人の男達は家から出ていった。
 辛うじて家の中に残っていたものを、「これじゃ利子にもならねえ」とかすめ取りながら。
 倒れた老人に、それまで奥に隠されていた子供2人が飛び出し、すがりついて号泣する。
「泣くな。じいちゃんなら大丈夫だ」
 老人は2人の孫の頭を抱え込む。
「おじいちゃん、ごめん、ごめん」
「ぼく弱くて、何もできなかったよ」
 泣きじゃくり、謝罪を繰り返す子供達に老人は優しく諭す。
「お前らはまだ何もしなくていいんだよ。大人になった時、ああいう連中に心を折られない男になればいいんだ」
 子供達の母親の父にあたる老人は覚束ない手足で立ち上がろうとし、その場に倒れこんだ。
 慌てて子供達は力を振り絞り、老人の体をどうにか引っ張って、奥の寝床へと運んでいく。
 子供達の母親は、今の時間帯は複数の仕事を掛け持ちしていて家にいない。
 その母親は必死になって働き、稼いだ金で借金を返している。
 その借金は、子供達の父親にあたる男が勝手に重ねたものだ。
 先程この家で暴力を振るった男達は、男に金を貸した側になる。
 ただしまともな金貸しとは言い難く、法外な利息をとることでそれなりに知られた存在だった。
 やがて夜遅くになってから、疲労困憊の状態で母親――メアリが家に帰ってくる。
 薄暗い灯りの中で、子供達はメアリにしがみついて泣きじゃくりながら、昼に起きたことを打ち明けると、メアリもまた涙を流して子供達を抱きかかえ、何度も「ごめんなさい」と謝り続ける。
 いくら借金を返しても、子供達の父親にあたる男――ジョンはまた別の借金を抱え、押し付けてくる。
 払うのを拒めば、男は子供達やその母親、さらには子供達の祖父へ暴力を振るう。
「いいか? お前らは俺に尽くすために生かしてやってるんだ」
 ジョンは暴力で借金を押し付ける。
「次の支払いもよろしくな? 嫌ならガキどもとお前の家族を売り飛ばしてやってもいいんだぜ?」
 そういう趣味の人間達が自分の周囲にいることを匂わせ、ジョンは子供達を庇うメアリを脅す。
 自分の血を引く子供を犠牲にすることを、ジョンは躊躇しない。
 ひとしきり暴れ、メアリがその日必死に稼いできたお金を奪い取ると、メアリと子供達のすすり泣きを背に、ジョンは再び姿を消す。
 ――新たな借金を押し付けて。
 もう限界だった。
 このとき借金を作り続けるジョンが改心し。
 あくどい取り立てを行う金貸し達が、メアリの中に眠る素質に気づいていたら。
 『事件』は起きなかったかもしれない。

●辻斬り頻発
 ここはリーンエス王国の王都グランスパーダ。
 王国の都には、様々な人が住んでいる。
 亜人と呼ばれる種族の人々への風当たりはそれなりに強いものの、この都には王侯貴族といった上流階級の人々の他にも、平民や貧民といった下級に属する人々が暮らす区域も存在している。
 その一つとして、グランスパーダ平民街の名があげられる。
 この平民街では本来治安維持を担う衛兵たちの連携が取れておらず、お互いの情報共有がうまくいっていないなど様々な事情もあってか、スリなどの軽犯罪は対処を後回しにされる等、あまり良い反応をしないこともあった。
 そのためこの平民街の人々の間では、「上はあまり当てにならない」と考え、グランスパーダ自警団が結成される。
 そしてこの自警団は平民街の中で独自の捜査を始め、冒険者を雇い入れて『対処』をするようになった。
 現在グランスパーダ自警団は、近頃連続で発生した辻斬りの捜査にあたっている。
 被害者は、今のところ全部で8人。
 いずれもこの平民街で活動している金貸しや、その手下の男達。
 ただこれまでの捜査で、被害者達には2つの共通点があることが判明している。
 1つ目は、その金貸し達は金を借りて逃げ回っている男を追っていた。
 2つ目は、その逃げた男の家族がいる家に押し入っては返済を迫り、家族に対し暴力を振るった。
 そして被害者となった金貸し達より借金をして逃げたのは、ジョンという同一人物。
 よって金貸し達が押し入り、暴力を振るった相手も同じジョンの家族になる。
 そうなると動機があるのは、その金貸し達より借金をしては逃げ回るジョンか、暴力を受けたメアリの可能性が高い。
 そして事態は、リザードマンの護衛を受けた2人の子供が自警団へと助けを求めてきたことで動き出す。
 子供達は涙ながらに「おかあさんをたすけて」と訴えるも、それ以上の言葉は泣き声でよく聞き取れない。
 ここで子供達に同行していたリザードマンはディノと名乗ると、子供達から聞いた話を「あくまでも自分の解釈ですが」とまとめた上で、自警団に説明する。
 子供達やその祖父は金貸しからの連日の取り立てで、心身ともに追い詰められていた。
 しかも金を借りているジョンは悪びれもせずに、妻にあたるメアリや子供、その家族に借金を押し付け続ける。
 メアリが断ればジョンは子供達に危害を加えると脅し、暴力を振るって言うことをきかせ、奪った金は賭け事と豪遊で散財し、また借金を増やす。
 ――てめえらは金になるんだよ。俺が使ってやる。ありがたく思え。
 ジョンはそう言い放ったという。
「くさってるな、そいつ」
 自警団の1人がそう吐き捨てるも、ディノの説明は続く。
 そうした日々の中、メアリは必死にやりくりをしていたが、せっかく稼いだ金もジョンに奪われた。
 そうやって限界まで追い詰められたメアリは先日家を飛び出し、姿を消した。
 その間にも金貸しの取り立ては続いていたが、家に押し入った金貸しが再び現れることはなかった。
 ――その日のうちに押し入った金貸しとその手下は、辻斬りに遭っていたから。
 今のところ死者は出ていないが、被害者達は犯人について「体形のわからない服と覆面で外見を隠していた」と自警団に証言している。
「子供達はその犯人が母親ではないかと考え、皆さんに助けを求めたかったそうです」
 だが子供達が自由にできるお金はなく、祖父も金貸し達の暴力で身動きできない。
 切羽詰まった子供達はスリを行う決意を固め、その対象として所用で偶然王都の平民街に立ち寄った、ディノというリザードマンを狙い、失敗する。
 ただ狙われたディノは子供達を叱ることなく、根気強く事情を聞くと一緒に自警団へと足を運び、今に至る。
「報酬は僕がお支払いします。それで冒険者に依頼を出してくれませんか」
 今のところ辻斬りはこの平民街の中におさまっているが、放置するのは危険だ。
 先述の通り、本来なら辻斬りは衛兵達が捜査にあたるはずだが、別の案件に忙殺されているためか動きが鈍い。
 その結果、今はグランスパーダ自警団が事件の捜査を行っている。
 仮に犯人が1人の場合、今までの被害状況から鑑みると犯人は授恵者である可能性が高い。
 このためグランスパーダ自警団は子供達やディノからの要望に応じ、冒険者ギルドへ依頼を出すことを決めた。
 ――どうか事件を解決し子供達の願いを叶えてほしい、と。

解説

●目標  グランスパーダ平民街内で発生している辻斬り事件の解決  失敗条件:新たな犠牲者が出る  登場  グランスパーダ自警団  今回の正式な依頼人。メアリとジョンの居場所はある程度把握しつつある。  次の犯行場所が判明次第、現場一帯にいる人々への避難誘導および周囲の封鎖、負傷者の搬送には応じるがそれ以上の要請には応じられない。  メアリ  容疑者その1。夫が作った借金を返すため必死に働き続けていたが、度重なる暴力と取り立てに耐え切れず、姿を消した。  PL情報:追い詰められ授恵者へと覚醒した。武器は襲った金貸しから奪った鉄の剣。使用スキルは殺界、強打。動機は「暴力と借金から家族を守りたい」。  ジョン  容疑者その2。上記メアリの夫にあたる。賭け事と豪遊で借金を重ね、メアリに「断れば家族に危害を加える」と脅し、メアリや子供達に暴力を振るう。  自警団曰く「こいつの話を聞いてると耳が腐る」ほどのクズ。  辻斬りの被害者にあたる金貸し達から借金を重ね、逃げ回っていた。  PL情報:皆様が自警団と共に居場所を探せば、ある酒場で豪遊している姿を発見できる。  子供達  メアリとジョンの子供達。ジョンから受けた暴力の痕跡が体に残っているが、現在は負傷した祖父ともども自警団に保護されている。  金貸し  被害者達。正規の金貸しではなく法外な利息で金を貸し、取り立ても厳しいが、手下と共に辻斬りに遭い、身の危険を感じて自警団に保護を訴えてきた。  身の安全を保障してくれるなら、冒険者達の指示には従う。  ディノ  リザードマンの少年。一応授恵者でクラスはシーフ。  過去【蠱毒】絡みの事件で冒険者に救われ、冒険者達を尊敬している。  今回は王都に所用があり、たまたま平民街へ立ち寄った結果、上記の子供達を保護した。皆様の指示には従う。  状況  リーンエス王国の王都グランスパーダ内、グランスパーダ平民街のとある一角。  辻斬りの被害者がまっとうでない金貸しとその手下ばかりのためか、現地の人々は比較的落ち着いている。  本来なら治安維持を担う衛兵達が辻斬りに対処するはずだが、別の案件で多忙な模様。  このためグランスパーダ自警団が、犯人の捕縛と事件解決のため冒険者ギルドに依頼を出した。  自警団の捜査では、次に犯人が現れる場所もほぼ推測している。  皆様が犯人捕縛を行う時刻は夜で快晴。周囲は自警団が灯りを用意するため、捕縛時の視界はクリア。

マスターより

 こちらはPC様からリクエストされたシナリオになります。  本来治安維持を担う衛兵達は、現在別件で忙殺されており、そちらが片付けばこの辻斬り事件への捜査を本格的に始めるものと思われます。  皆様が自警団と共に捜査をすれば、犯人はメアリで、彼女が次に狙うのはジョンだと判明します。  メアリは授恵者として覚醒したばかりのため、駆け出しの冒険者でも捕縛は可能です。  しかし事件の根源を解決する場合は実行犯を捕まえる以外にも、ジョンの身柄を確保する必要もあるでしょう。  確保時にジョンが抵抗したら数発殴っても問題ありません。  ご不明な点がございましたら、出発36時間前まででしたらディノかアルヒが答えられる範囲は答えます。  以下次の犯行現場(酒場内)の簡易見取り図。1マスあたり5×5m程度。   ABCDEFGHI   口口口口口口口口口  1扉 卓 卓 卓 扉  2口       口  3口板板 卓 卓 口  4口厨板     口  5口房板 卓 卓 扉  6口板板     口  7口●  卓   口  8口口口口口口口口口  卓:テーブル。椅子とセット。  口:店の壁  板:カウンター。ここから料理や酒が出てくる。  ●:ジョン

リプレイ

●開始
 王都平民街で発生した辻斬り事件を解決すべく、冒険者達は行動を開始する。
「久しぶり! この街も相変わらず、かな」
 アリオン・リューは冒険者になる前に籍を置いていたというグランスパーダ自警団の詰所に顔を出し、挨拶する。
 アリオンは自警団と他の冒険者達が円滑に行動できるよう、調整役を務めるつもりだ。
「僕も力を尽くすよ。他の皆も、信用して大丈夫だからね」
 自警団の人々に向け、アリオンは冒険者達の腕が確かだと確約する。
「今回はほとんど男所帯だし、若いやつらもいるがアルヒみたいな女性がいると子供も安心するだろ。付いてきてくれるとありがたい」
 シグルド・オルセンは、今回の『依頼主』にあたる子供達と話をするため、アルヒ・ラスカスに同行を求める。
 アルヒは要請に応じ、シグルドに同行して共に子供達と面会する。
 シグルドは片膝をついて子供達との視線の高さを同じにして挨拶し、詳しい話を聞いていく。
「まぁとにかく、金貸し共には釘を刺しておこうか。今回は被害者として保護されているが、子供達の証言もあるし」
 シグルドは子供達から、今回の被害者でもある金貸し達が子供達の暮らす家に押し入り、時には暴力を振るっていたことを聞き出していた。
 パヴェル・A・サムルガチェフは金貸しとその手下たちから、情報収集を行っていた。
「お前さん達が金を貸していたジョンという人間について、聞きたいことがあるんだよねぇ」
 パヴェルが金貸し達から聞き出したいのは、ジョンの好みや普段の行動について。
「ギャンブル好きであちこちで金を借りては散財し、たまに大金が手に入れば豪遊するのが好き……と」
 パヴェルが収集できたジョンに関する情報はひどいものが多いが、その行方や行動を追うヒントになるものも含まれていた。
「はは。今回は災難でしたね」
 オゴスもまた、金貸し達と話をしながら必要な情報を集めていく。
 オゴスは金貸し達に対し、辻斬りの犯人がジョンもしくはメアリである可能性を匂わせる。
「もしメアリさんが授恵者なら金の回収は難しいですよ。俺ならジョンさんに全ての清算をお願いしますけどね」
 こっそりと金貸し達の耳元で囁いたオゴスは、授恵者から自分達を守ってくれるよう懇願する金貸し達へこう提案する。
「街中で暴れるってのは気を使うんですよ。損害が発生したら、自警団を通して補填しちゃあくれませんかねえ。無理にとは言いません」
 それ以上の判断は金貸し達に委ねると、オゴスは自警団のもとへ戻り、依頼主である子供達の名前を確認していく。
「屑な奴もいるもんだな」
 ケン・Z・ブラッドリーは自分の家族を苦しめ、暴力で従わせるジョンの性根を切って捨てる。
 自警団の捜査では、ジョンが出没しやすい場所として近隣の酒場を候補にあげている。
「辻斬り騒ぎに気が付いていないのか、酒場で豪遊か。ま、こういった屑なんだからそういうとこにいるだろうな」
 ケンは自警団の方針に賛意を示し、自警団と共にジョンの捜索に向かう。
「オレの父親も頼りないロクでなしだったが、ジョンのクズっぷりには劣るぜ」
 ギャメルは被害者や周辺で暮らす住民達から、容疑者の1人ジョンについての情報を得ていた。
 情報が示すジョンのクズっぷりに、ギャメルはどうしても自分の父親を思い出してしまう。
 ――アイツは働かずに色んな女の人のところでフラフラしていたけど、暴力や暴言はなかった。
「ま、目クソ鼻クソか」
 ギャメルはそれ以上自分の父親について考えることを止めると、子供達に話を聞きに行く。
 今回の辻斬り事件は死者こそ出ていないが、被害が拡大する前に解決することで、冒険者達と自警団は意見が一致していた。

●発見。そして
 ギャメルは捜査に入る前に、ヒーリングオーラを駆使してメアリの家族が負った怪我の治療を試みている。
「ハンカチとかメアリの私物を貸してもらえるかな?」
 ギャメルは子供達にそんな頼みごとをしたところ、子供達はメアリのものと思しき布をおずおずと差し出す。
「心配ないよ、お母さんのことは任せてね」
 ギャメルはメアリを救うことを子供達に請け負うと、借り受けたメアリの私物から超嗅覚を駆使してメアリのものと思しき匂いを覚え、仲間や自警団と共にメアリの足取りを追い始める。
「メアリが潜伏できそうな場所と、ジョンがいそうな場所だけど、このあたりだよね?」
 アリオンはこれまで自警団が得た情報と自身の土地勘を照らし合わせ、メアリやジョンがいると思しき場所を絞り込んでいく。
「出来れば次の襲撃が起きる前に発見して、様子を窺えるようにしたいところだけど……」
 これまでの被害の状況などから、アリオンはメアリが辻斬りの犯人で、次に狙われるのはジョンだと推測している。
 そして冒険者達と自警団は探索の結果、とある酒場で辻斬り事件の容疑者の1人、ジョンを発見する。
 ギャンブルで金をせしめたのか、ジョンは取り巻きと思しき男女と一緒に酒場の一角を占拠し大騒ぎしていた。
「俺はメアリ捜索ではなく、ジョンについておこう」
 シグルドは発見したジョンを逃がさぬよう、メアリ探索に向かった仲間や自警団が合流するまでの間、客に扮して若干離れた場所からジョンの監視を行っている。
「人となりを調べるのは基本だが……」
 ジョンが周囲に『武勇伝』を自慢げに話しているのを見ながら、ため息をつく。
「……いやはや、豪遊か。これが自分の金でやってるなら良かったが、人から借りた金か。想像以上に屑だな」
 そして最近ジョンがギャンブルに使った金は、妻であるメアリが必死になって稼いだものを強奪して得たものだということも、冒険者の調査で明らかになっている。
 なおシグルドが自警団や金貸し達に「ジョンがやった可能性があるか」と尋ねたところ、「その可能性はある」とそれぞれ答えている。
 そうなるとジョンが授恵者になった可能性も否定できない。
 なお既にジョンの周囲では、大金の匂いに周囲から寄ってきた客に扮したパヴェルやケンが、ジョンとの間で話を弾ませている。
「おぅ、兄弟。飲んでるか?」
 ケンは酒精の強い酒を勧め、気分を良くさせながらも捕縛時に酔いが回って逃げ足が鈍るよう工作を行っていた。
「奢ってくれた礼だ。気前のいいお前さんに、とっておきの儲け話があるんだぜ」
 パヴェルは商談と称してジョンにとって耳障りのいい言葉を並べ、周囲への注意を散漫なものにさせていく。
 なおパヴェルは自警団から衣装を借りて商人に偽装する等、手が込んでいる。
 その一方でパヴェルは看破スキルを駆使して、酒場内にいる客の選別を行っていた。
 今のところパヴェルはジョンの近くにいる男女以外の客は、ジョンとは無関係とみなしている。
「だよな。家族なんだから、相手の為に尽くすの当たり前だよな」
 話術スキルを駆使してケンは追従し、酒と言葉でジョンをいい気分にさせていくが、ケンの視線は冷たさを帯びていく。
(まぁ、それは互いに尽くしてこそだけどな)
 ケンがパヴェルと共にジョンの周囲を固める中、オゴスも客に扮して酒場に入ってきた。
 オゴスは酒場の店主に頭を下げると密かに自分達の身分と目的を明かし、周囲に残る客を退去させるよう説得を始める。
「無関係な客にはご退席願いたい」
 オゴスの要請に店主は従い、オゴスと共に密かに周囲の客へ退席を促していく。
 その結果、今ジョンの取り巻きと化している客や冒険者を除き、他の客達は料金を払って店から消えた。
(オゴス。メアリだが間もなく酒場に到着する。今の進路なら北西側の扉から入るつもりだ)
 ここでギャメルからテレパスによる連絡を受けたオゴスが咳払いをして、仲間に合図を送る。
 そしてオゴスはテレパスを介し、パヴェルに報せる。
(メアリさんが間もなく酒場に到達すると、坊ちゃんより連絡がありました) 
(了解だ。犯行が行われるまでジョンを足止めして時間を稼ぐつもりだぜ)
 パヴェルもテレパスを介して応じると、密かにケンやシグルドにもメアリ到着の件を報せる。
 そして酒場の中が冒険者やジョンとその取り巻き以外いなくなったところで。
 布や外套で顔や全身を隠した人物が、酒場内へ踏み込んできた。

●捕縛
 唯一あらわにしている双眸に異様な光を宿らせ、その人物は外套に隠した鉄の剣を抜き放つと、ジョンの周囲に残っていた取り巻き達が悲鳴をあげ、我先に逃げ出していく。
「貴女のお子さんが今どこにいるか御存知ですか」
 まずオゴスが剣を抜いた人物――メアリの前に立ち、声を掛ける。
 オゴスの狙いは、自分にメアリの注意を引きつけることにある。
「こちらで保護しておりますよ。武器を捨てて大人しくしてください」
 それを「子供達の身柄を預かった」と誤解したのか、不審人物――メアリはオゴスに斬りかかってきた。
「我が子を思う親心……なんてすばらしい」
 あえて誤解させる物言いでメアリが攻撃をしかけるよう仕向けたオゴスは、感動を覚えながらも軽く右半身を退き、攻撃を躱す。
 その間にメアリを追っていたアリオンやギャメルも、酒場の周囲を自警団に固めてもらい、酒場内に飛び込んでくる。
 取り巻きに逃げられたジョンは自分も逃げようとしたが、寸前でケンに阻止される。
「どうしたんだよ兄弟。なんか狙われる心当たりでもあるのか?」
 ケンの問いに、ジョンはメアリを指さしながら何かを喚き散らし、ケンを突き飛ばして逃げようと試みる。
 しかしジョンが逃げた先には、既にシグルドが回り込んでいた。
 シグルドはメアリの確保を仲間達に託し、自身はジョンの身柄を確保するつもりでいる。
「逃げる真似は止めておけ。自分がやってきたことのツケが回ってきただけだ」
 いざというときはカバリングでジョンを守る姿勢を見せながらも、シグルドは逃走や抵抗を止めるようジョンに訴える。
「お前さんに同情はできん。彼女は家族にやられたことをやり返しに来ただけだ」
 シグルドがジョンの注意を引きつける中、ジョンの背後からケンが嫌悪感をにじませた声を投げかける。
「あ? 何逃げようとしてんだこの屑」
 ケンは足払いをかけてジョンを転倒させると、その身柄を押さえ込む。
 床に押し付けられたジョンの体から骨の折れる音が響き、ジョンは悲鳴をあげ、メアリがその声を耳にしたのか、オゴスからジョンへと剣先を向ける。
 そこへアリオンがメアリの前に割り込む。
「すみません。あなたの手でジョンを討たせるわけにはいかないんです」
 アリオンは目上の人に対する口調を心掛け、制止を試みると共にシーザーロアを行使。
 アリオンの言葉と共にエーテルがメアリへと叩きつけられ、怒りの感情を刺激されたメアリはアリオンへと剣を向けて襲いかかる。
 アリオンは剣士の手甲を盾代わりに使い、メアリの攻撃を防ぐ。
「ジョンのほうは大丈夫そうだねぇ。それじゃ、このままメアリを抑えるとしようか」
 パヴェルはケン達がジョンを確保したのを見て、メアリに向け魔蝕2を行使。
 筋力を低下させるエーテルが撃ち放たれ、メアリに命中すると、メアリの攻撃力が低下する。
「このまま抑えるのはいいけど、やり過ぎには注意だぜ」
 パヴェルは周囲の仲間達に向け、眼前のメアリが授恵者としては非常に弱いと注意を促すのと前後して、メアリの周囲に光り輝く六角形の柱が顕現し、メアリを包む。
「悪いようにはしねぇ、降参しな」
 光縛封を行使したギャメルが、光越しにメアリへ投降を促す。
「授恵者になったばかりの時は力加減に苦労すんだよな。オレもいきなり授恵者になった時はたまげたぜ」
 ギャメルはメアリが制御に失敗して偶発的に人を傷つけたことにしようとしていた。
「身を守ろうと抵抗しただけで相手を吹っ飛ばしちゃった、ってこともあるわけだ。そういう事故が起きたんだろうよ」
「なるべく誰も傷つけずに事態を収拾したいのです。どうか僕達の話を受け入れて下さい」
 アリオンも説得に加わり、メアリは光る六角形の柱の中で剣をとり落とし、力なく床に座り込んだ。

●解決
 オゴスはメアリに子供達の名を使ったことを謝罪すると、ジョンの方を見ることなく酒場から出ていく。
 それを見たギャメルも後を追い、酒場の外に設けられたテラス席の一角でオゴスに追いついた。
「街を歩き回ってくたびれたぜ。ちょっともたれさせろや」
 座り込んだオゴスの返事を待たず、ギャメルはオゴスに寄りかかる。
(依頼遂行中は抑えていましたが感情が乱れているようです)
 オゴスは内心の言葉をテレパスでギャメルに伝える。
(俺は坊ちゃんを守る立場にいたいので弱いところは見せたくなかったのですが……)
 そんなオゴスに対し、ギャメルはその手をポンポンと軽く叩き、同じくテレパスで応じる。
 ――大丈夫だよ、と。
「皆ありがとうなぁ。頼もしい限りだな」
 変装を解いたパヴェルは、捕縛されたジョンに種明かしをする。
「俺は商人じゃなくて冒険者だぜ。本当に儲かる話なら他人には言わないよねぇ」
 ここでアリオンが仲間達や自警団に話を持ちかける。
「本来捜査や逮捕を担う衛兵達が動いていない現状は、ある意味では事件にすらなっていないと言えます」
 アリオンは関係者全員が口裏を合わせ、事態を穏便に済ませるやり方を提示する。
「被害者となった人達の身の安全を引き換えにすれば、なんとかなると思います」
 アリオンの提案に対し、シグルドとケンは『犯人』を衛兵に突き出すことを主張する。
 シグルドはジョンにこう告げた。
「とりあえずジョン、お前さんは投獄だ」
 シグルドの言葉にジョンが抗議の声をあげるが、ケンがジョンの手にメアリが持ち込んだ剣を握らせる。
「言ったよな。相手の為に尽くすのが家族なんだろう? 家族の為に罪を償って来いよ」
 自分が口にしたことを言い返され、絶句するジョンの耳元でケンが囁く。
「もちろん否定して逃げてもいいんだぜ。てめぇの面は覚えたし、逃げたら……屑に遠慮はないぜ」
 ケンは首を掻き切る仕草をジョンにだけ見せ、黙らせる。
 その後自警団より連絡を受けた衛兵達が、酒場に到着した。
 『犯人』は冒険者に足を折られたと訴えたが、衛兵達は冒険者達が逃走防止のため行った適切な処置とみなし、訴えを退ける。
 衛兵達が犯人を連行した後、シグルドは被害者でもある金貸し達のもとに向かう。
「やり返されただけだ。命までは取らなかったが、家族を痛めつけたことは十分罪になる。お前さん達が犯人を咎めることはできんぞ」
 シグルドは金貸し達に対し、今までのメアリの家族に対する暴行は罪になると告げ、再び子供達やその家族を襲わないよう約束させた。
 その後平民街では、辻斬り捕縛の情報が広められ、普段の活気を取り戻す。
 その中で母親を救いたいと冒険者達に願った子供達も、暴力に怯えることのない日常を取り戻し、家族と共に笑っていた。

マスターコメント

 今回ですが『犯人』を捕縛できたこと、依頼主である子供達が再び理不尽な暴力で脅かされることがないよう様々な予防策を講じたことなど、PC様がそれぞれの形で目標達成に貢献されたことから、大成功と判定しました。  また機会がございましたらよろしくお願いいたします。  改めまして今回はご参加下さりありがとうございました。
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:標準6 / 4〜8人

2021年10月08日 11時12分47秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ギャメル

    ヒーラーのギャメルだ。よろしくな。 シナリオをリクエストしてくれた人はありがとっ! PL情報でメアリが犯人なのはわかってるが、ジョンも捕まえといた方がよさげか。 夜の酒場にオレが客として入るのは目立つかもな。 ゴブリンは10歳で成人すんだけど、他種族の街だと20歳未満には酒を出さないって店も多いから……。 ってことで、メアリを探す方を希望しとくな。

  2. アリオン・リュー

    僕はウォーリアのアリオン。よろしくね。 なんというか……王都も相変わらずって感じなのかな。 とにかく子ども達にとってより良い決着になると良いんだけど。

  3. パヴェル・A・サムルガチェフ

    キャスターのパヴェルだ。改めてよろしく頼むぜ。 ちょいと事前報告(オープニング)を踏まえて確認しておきてぇ。 今迄の被害者は存命してんのかい?(>ディノ、アルヒ) 話を聞ければ結構手間が省けるもんでさ。 ・調査による次の犯行の経路と手段の把握 ・犯行を阻止する為の対策 を押さえておきてぇとは考えてる。

  4. ディノ

    ディノと言います。今回はよろしくお願いいたします。 Q1:今迄の被害者は存命してんのかい? A1:はい。全員命には別条ありません。話を聞くことも可能だと自警団の方より聞いてます。

  5. シグルド・オルセン

    ウォーリア、シグルド・オルセンだ。よろしく頼む。 金貸し共は命あっての物種ってことで保護されたっていうことは自警団に拘束されてるってことかな。犯人についての心当たりとかは金貸し共に聞いておきたいな。…とは言え、恨みはそこかしこで買ってるだろうからアテにはできんだろうが。 ジョンは酒場の隅っこにいるみたいだし、まずは事情聴取か?

  6. ギャメル

    シグルド、よろしくなー! うん、PC目線ではジョンも充分怪しいし、じじょーちょーしゅ……話をききにいくのは自然な流れだと思う。 おっと。辻斬りの被害者は生きてんのか。 オレ、てっきり死んでるかと思ってたからパヴェルが確認してくれて助かったぜ。 まだメアリが人の命を奪ってねぇんなら、罪を軽くしたりってのもやりやすいな。 シグルドがいうように、被害者に話をきくこともできるだろうし。 パヴェルは質問、ディノは回答ありがとうな! 覆面の人物がメアリだって特定するのに、子供達からメアリのハンカチとかを借りて超嗅覚で確認ってのを考えてるぜ。

  7. ケン・Z・ブラッドリー

    ウォーリアのケンだ   ゴミ掃除の依頼があるって聴いたんで掃除に来たぜ 被害者がまだ生きているのは吉報だな 死者が出てたら色々と面倒毎になってたし、助けた後に彼女が苦しむ要因になってたからな ジャンに関しては、メアリに見つかる前に拘束しておきたいよな こういった奴は、真正面から正直に接触しても逆切れして暴れることになるだろうから、酒でも飲まして気持ちよく奴にしゃべらせるように仕向けるのがいいと思う それを最初から否定しないでうまくよいしょすれば奴の警戒心も下げれるだろう こんかいの戦闘の相手は狩るわけにはいけねぇし、俺は最初からジョンと接触して奴に酒飲ませて色々と聞き出すと同時に緊急時に即座に奴を黙らせるように動こうかと思う

  8. ギャメル

    流れとしては、こんな感じか? 認識が違ってたらツッコミいれてくれよな! 2は冒険者が班に分かれて行動してるイメージだ。 1・情報収集。辻斬り被害者や子供たちと話をする 2A・酒場に行ってジョンから話を聴く。確保 2B・平民街で辻斬り犯(メアリ)を探す。本人を見つけても戦闘は避ける 3・酒場で合流。メアリとの戦闘

  9. オゴス

    シーフのオゴスと申します。どうぞよろしくお願い致します。 メアリさんの殺界の射程内にジョンさんが入ってしまうと、犠牲者が出てしまいそうですね。 移動系スキルを用意し、俺がジョンさんを担いで距離をとりましょうか? 壁歩きならテーブルやカウンターも無視できますし。 ウォーリアの方も数名いらっしゃるので、かえってカバーリングで守りづらいなど連携に問題が出てしまうようでしたら止めておきます。

  10. シグルド・オルセン

    おーぅ、見事に男所帯だな。 よろしく頼む。 とりあえず簡単な流れはギャメルの言う感じで良いと思うぞ。 婦女子を探してどうするか。接触するのか監視に留めるか、どっちにするつもりだ?接触するなら言葉選びは難しいだろうが、上手く行けば襲撃そのものを食い止めることはできるかと思うが。 一応アルヒかディノに聞いておきたいが、捜査開始はどの時間帯から可能なのだろうか?襲撃日の昼間からでも行けるとギャメルの流れでも良いが、そうでないなら全部分担せねばなるまい。

  11. ギャメル

    質問期限の出発36時間前はオーバーしちまったか。 捜査開始の時間はわかんねぇけど、どういう状況でもある程度対応できるようなプレイングだといいのかな? メアリ探しは隠密状態で監視の予定でいたぜ。 メアリがそっちに近づいてるって酒場にいる仲間に合図できればと思ってよ。 ドアが複数あるし、どこからメアリが来るかわかるといいのかなって。 楽器とか声だとメアリにも気づかれちまうから、出来ればテレパスがあると便利そうだ。 酒場の中じゃなくて、外でメアリを待ち構えてもいいかもしれねぇな。少なくとも、酒場の店主は喜んでくれそうだ。 んー、でも外で戦うとなると、犯行現場の見取り図が活用できなくなる、とかのデメリットもあるのか。

  12. シグルド・オルセン

    おっと、質問できる時間の方を確認できてなかった。すまない。 まぁその辺りは織り込もう。

  13. アルヒ・ラスカス

    皆、今回はよろしく頼む。 これが最後の回答となる。 Q2:捜査開始はどの時間帯から可能なのだろうか? 襲撃日の昼間からでも行けるとギャメルの流れでも良いが、そうでないなら全部分担せねばなるまい。 A2:  捜査開始はどの時間帯からでも問題ない。だからギャメル殿の言う流れでも大丈夫だ。

  14. シグルド・オルセン

    お、答えてくれたか。 すまんな、アルヒ。助かる。 当日の朝とか昼間から活動できるならギャメルの手順で問題なさそうだな。 とりあえず俺は酒場でジョンの確保に動くつもりだ。とは言え、メアリが来る前に確保してしまってもよろしくないと思う。メアリを先に見つけられたんならともかく、もし見つけられんかった時に確保した状態で襲撃に来るとは考えにくい。だからまぁ、最初は接触せずに近くで飲んでようかな、と。

  15. ギャメル

    シグルドとアルヒは質問と回答ありがとよっ! オレの行動はこんな感じ! ・メアリの家族のとこへ ケガを治して、超嗅覚用にメアリの私物を借りる ・外見を隠した不審者がいたら、メアリかどうか匂いで判別 酒場に入る前に酒場側の味方にテレパスで連絡 基本的にバレないようにしたいが、もしもバレたら依頼を受けた冒険者だって事情を明かす ・ジョンを襲おうとしたら、光縛封をメアリに ・メアリの罪が軽くなるよう言い訳とか考える

  16. オゴス

    俺が酒場でテレパスを受け取ることにしましょう。接近の報せがあれば咳払いで店内の皆様に合図します。 ジョンさんの近くにケンさんとシグルドさんがいてくださるなら、俺は離れた場所からメアリさんの7B接近を妨害してみます。

  17. アリオン・リュー

    ギャメルの案、とても分かりやすいね。 僕は自警団の皆とメアリさんを探すことにするよ。 酒場で襲撃が行われたらシーザーロアを使ってみるね。上手く引き付けられると良いんだけど。

  18. パヴェル・A・サムルガチェフ

    皆ありがとうなぁ。顔なじみのがいるし、頼もしい限りだな。 テレパス持ってジョンの野郎に偽の旨い話で釣って時間を稼いで見るぜ。縛ってから種明かしで構わねぇからさ。 んなら7Eでアイツと向かい合わせに座る感じになるだろうな。

  19. パヴェル・A・サムルガチェフ

    すまん、カウンターに野郎が座っているならよ、7Cだな。真横に座って密談する形になる。

  20. ケン・Z・ブラッドリー

    基本的は方針はギャメルの案で問題ないだろう ただ・・・・店の隅にいる男のところに俺とパヴェルが二人して寄ってくのはさすがに奴に警戒心持たせそうな気がしてしまうんだが・・・・・あと、単純に席がないというな 店のつくりを見ると扉が2つあるようだしオゴスがジョンに近いの扉側にいてくれるなら、あと、一人が遠いほうの扉の近くにいてくれればどっちから突っ込んできても対応できるかな 彼女が持ってるのは殺界と強打だから射程にさえジョンを入れなければ一応安心だな あと光縛封をかけるならジョンを中心にかければ身も守れるし逃走も防げるだろう

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0