【獗烙】狂怒の山賊

広大野人

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シナリオID:1378

オープニング

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 王国騎士エナハルト・ティルムは、証拠として押収された『神実の香り』を調査・研究した経過報告書を読み終わった。
 爽やかな笑顔が似合うイケメンの若き王国騎士であるが、深刻な表情を浮かべて、一連の報告書を丁寧に机の上に戻す。
「分からないですね……」
 その呟きが意味する事は『神実の香り』の事ではない。
 報告書によると『神実の香り』が王国内に存在する植物ではなく、外部から持ち込まれた事であったと記してあった。
 国外で生産していれば、国内で捜査対象にはなりにくい。それなのに、なぜ、発見されるリスクを冒してまで、国内で栽培したのか……。
「何かしらの理由があると考えています」
「だからこそ、エナハルト様はウシタ領内へ向かうつもりなのですね」
 受付男子イシアの言葉に頷いて答える。
 冒険者達が、偶然にも組織(ソーン・クリエ)と再び接触したという。場所は富裕層向けのビーチとの事だが、行けば何か分かるかもしれないと思ったのだ。
「それと、周辺のバルバロイの観察も兼ねて、さ。最近、活発だと噂で聞いた」
「道中の供を冒険者に依頼しております。ただ、港町到着後は、向こうの冒険者ギルドの職員に担当が変わってしまいますが……」
「残念ではあるが、仕方ない事だ。今まで、ありがとう」
 爽やかな笑みを浮かべて王国騎士は受付男子に握手を求める。
「こちらこそ。エナハルト様の武運長久をお祈りいたします」
 受付男子はそれにしっかりと応える。
 この王国騎士は暫くは王都に戻って来ないだろう……いや、場合によっては二度と帰る事もないかもしれない。それが、王国騎士というものだ……。

●

 港町に向かう街道の一つに、奥深い山林を抜ける所がある。
 そこは、昔から山賊が出没している地域であった。その昔反乱を起こし敗れた貴族が逃げ込んだ地とも噂される。
 ただ、噂は噂。商隊を率いる男は、襲い掛かってくる連中が、そんな上品なお方では無い事をすぐに理解した。
「どあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぐだぁぁぁぁぁぁぁ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 奇声と共に森の中から現れた山賊が数人。
 作戦も何も無い。ただ目の前の獲物を奪わんと突撃してくるのだ。
「ひぃぃぃ! せんせい! せんせい、お願いします!」
 商人が慌てて馬車の中に駆け込む。
 そこには3人ばかりの自称腕利きが控えていた。
 長髪の傭兵、短髪の傭兵、禿げの傭兵。商人は分かりやすさを第一に護衛として雇った。腕の程は知らないが、少なくとも、長髪の傭兵は正規の訓練を受けていると言った。
「この俺に任せなさい。世間を知らぬ山賊に一泡吹かせますよ」
 身軽な動作で馬車から飛び降りながら、剣を抜く。なるほど、動作だけなら手慣れた様子だ。
 短髪と禿げの二人が同じように続いた。
 山賊を迎え撃つように、それぞれを剣を構える。
「さぁ! どこからでも掛かってくるがいい! 俺は王都一の剣術つか――」
「どぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「口上も待てないとは、愚かな」
 振り下ろした剣は確実に山賊の左肩に食い込んだ。
 致命傷ではないが、一般人程度であれば痛みと衝撃で十分、戦意喪失するレベルだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
「な、なんだ、と?」
 肩に食い込んだ刃そのままに、勢い衰える事なく突撃、もつれるように二人は地面に転がった。
 だが、組み合いなら、長髪の傭兵は自信があった。寝技は鍛えているつもりだから。
「なんだ……う、うそだ……こんな怪力……」
 必死の形相で山賊は傭兵を押さえつける。
 その隙に、別の山賊が鋭い槍を持って迫って来たのが見えた。
「お、おい! たすけ……っ!?」
 顔を上げて仲間に助けを求めたが、長髪の傭兵が見たのは、信じられない光景だった。
 素早さ自慢の短髪の傭兵は追い駆けられた山賊によって背中から剣で斬られ、力自慢の禿げの傭兵は、山賊が振り下ろした大斧を受け止めようとして、剣ごと、真っ二つにされていたからだ。
「……ほんとう、か、よ……」
 信じられない光景に、それが幻なのか現実なのか判断する間もなく、次の瞬間、長髪の傭兵は槍で喉元を貫かれるのであった。

●

 村の少年、ロッショは祖母の為に山菜や茸を取りに山に入っていた。
 熊や猪と遭遇すると危険な為、なるべく街道近くを進んでいた事が少年にとって幸いする。
「…………」
 木々と地面の窪みの中で発見した茸を取ろうとした時、ちょうど、商隊が襲われる所だった。
 一部始終を怯えながらも盗み見る……商隊の護衛はあっという間に倒され、山賊共が荷馬車を破壊していた。
 やがて、別の山賊がやってくるが、破壊を続ける山賊の動きは止まらない。
 静止を試みた一人が派手に殴られて吹き飛んだ。
「ダメだな。こりゃ……」
「いつかは覚めるだろう」
 後から来た山賊達は諦めた様子でそんな事を言うと、乱雑に散らばった商品のうち、目ぼしい物を選んで拾っていく。
 そうこうしているうちに、別の方向から明らかに山賊とは違う人物が姿を現した。
「うぅーん。ちょっと強すぎたかしら……面倒ね。このまま捨てていきましょう」
 青い髪と白衣、大きい眼鏡が特徴の大人の女性だった。
 女性の台詞に山賊の一人が訊ねる。
「大丈夫なのか?」
「一過性だし、万が一捕まっても、何も出ないし。おまけに何も知らないでしょ?」
「なら、それでいいか。こいつ等、元々、俺らとは違う連中だったしな」
 会話していた女性と山賊達は、立ち去っていく。
 残ったのは、奇声を発しながら、破壊行為を続けている山賊数名であった。
 馬車を完全に破壊すると、今度は周囲の木々に対象を変えた……少年は恐ろしくなり、窪みの中にしっかりと身体を沈める。

 どうか……見つかりませんようにと、祈りながら。

●

 護衛を伴った商隊が壊滅した連絡を受けて、すぐに街道が封鎖された。
 遠く、迂回するしかない行商人達は、増えてしまう旅費に青くなる。こういう保証はされないものだ。
「申し訳ありませんが、この街道は現在、封鎖中です」
「王国騎士だ。バルバロイについて調査している。通らせてもらいたい」
「領主様からは、如何なる者であっても通すなと……」
 この辺り、力関係は微妙なものだ。領主もまさか、王国騎士が偶然にも通るとは思っていなかっただろう。
 困ったと思案する間もなく、近くの村人が走って向かってきた。
「た、た、大変だ! 村の子が一人、今朝から山に入って戻ってきてないって」
「なんだって!」
 衛兵が驚きの声をあげた。この衛兵、恐らく普段は村の警備を行っているのだろう。
 しかし、衛兵には領主からの特命がある故、ここは動けない。
「緊急事態だ。我々が探しに行くのは構わないだろう?」
 エナハルトの申し出に衛兵は頷く。
「……そうですね。街道を抜けてしまわなければ『通った』事にはなりませんし……王国騎士様、冒険者の皆様、よろしくお願いします!」
「婆さん想いの良い子なんです。機転の利く子だから、異常があれば隠れているかもしれません」
 村人の助言に、エナハルトは爽やかな笑顔を作って応える。
 万が一でも山賊に見つかってしまっては、誘拐されてしまうだろう。
 身代金を要求されればマシの方……奴隷にされてしまえば、もう村に帰ってくる事も難しいはずだ。
 エナハルトは冒険者達に振り返った。
「皆さん、当初の依頼内容とは異なりますが、ご協力の程、よろしくお願い致します」
 断るような冒険者は、ここには存在しないだろうけれど。

解説

冒険者の皆様、おはようございます。依頼の受付窓口を担当する、イシアと申します。 依頼内容の補足がありますので、私から説明致します。 当依頼の目的は『王国騎士エナハルト・ティルムの護衛』となります。 道中、バルバロイが出没する可能性がある街道を通りますので、何かあった場合は、エナハルト様の指示に従って下さい。 特に危険と思われるのは山深い山林の街道です。 街道は一応、馬車が通れるほどの幅があります。 両側面は雑木林が生い茂っています。片側は山に続いている斜面。反対側も沢に向かっての斜面となっていますので、街道以外は足場が悪いと思います。 なお、万が一、バルバロイに襲われる事があっても、その制圧にバルバロイ達の生死は問いません。 捕縛しても、辿る結末は同じですので……ウシタ領を治めるフラビオ・クナッターラ伯爵はバルバロイに容赦ありません。 捕らえたバルバロイを拷問に掛けてから、広場で観衆の前で斬首している……という噂もありますし。 それでは、説明は以上です。よろしくお願い致します。 =====追記===== ・冒険者達は山林へ続く街道入口から出発する事になります。 ・道中、村の子供を探しながらの移動となりますので、各自、一般判定による【探索】を3回行います。 ・判定に失敗すると、探索に時間を要する事になり、全員の失敗回数が、パーティーの総判定回数の半分に達した時点で、冒険者達の到着が遅れ、少年はバルバロイである山賊に殺害されてしまう上に、現地に到着した際、山賊の奇襲を受けます。 ・失敗回数が条件に達しない場合、冒険者達が先に山賊達を発見する事になります。山賊達は冒険者達の姿を発見すると襲い掛かってきます。 ・少年が生き残っていれば、オープニングで少年が見た内容を冒険者達に話してくれます。 ・なお、商隊の護衛は既に全員死亡しております。 ・山賊の数は、依頼に参加する冒険者数+1となります。山賊の状況はオープニングにある通りです。 ・ちなみにエナハルトは、探索には参加しませんが、戦闘では、かなり強いです。

マスターより

 おはようございます。当依頼にて、めでたく20作目となった広大野人です。  タグ【獗烙】は【けつらく】と読みます。主に王国内における政争や事件を追う長期ストーリーラインです。  連作ではありますが、毎回決まった人しか依頼に入れないという形ではありません(追い駆けて頂けるのであれば幸いですが)。  さて、新しい舞台で、新しい物語が始まり、一つひとつ、手掛かりを集めていく事が、きっとこの先の出来事に影響してくると思いますので、ぜひとも、少年を無事に保護して欲しいと思います!  なお、・ジードが紐付けされていますが、質問など受け付けておりませんのでご注意下さい(紐付けされている理由は存在しております)。

リプレイ

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 山林に続く街道の入口に立ち、ケン・Z・ブラッドリーが首狩刀の柄に触れて具合を確かめながら山の方を見つめていた。
「バルバロイの調査が一転、子供の救助か……」
 思った以上に山深く、木々も乱立している。
 斜面も厳しいので、探すのも大変だろう。バルバロイも出没する可能性が高い事も、懸案事項だ。
「ま、危険な連中がいることは確かだ。気を引き締めていこう」
 その呼び掛けに、フェルゼンは頷いて応えた。
 彼は『静』という場が乱される事を好ましく思っていない。人に害を成して世間を騒がす事が多い山賊のような野蛮な人間は特に苦手だ。
「僕達の邪魔をしなければ兎も角、そういうわけにもいかないでしょうね」
 己の力量を弁える分別があるのなら、襲い掛かってこないだろうが、山賊にそれを求めるのは無理な話だ。
「……光よ」
 スッと杖を軽く振って光源魔法(エンライト)を行使する。
 山は木々が生い茂っており、暗いので、灯りは探索に有効なはずだ。
 突如として発生した光の玉に身体を縮こませたのは、ラティア・ミゼリアだった。
 光源は便利だが、山賊からも発見される可能性があるし、光があたって目立ちたくないという気分なのかもしれない。
(普通の護衛のお仕事のはずが、なんだかおかしなことになってきて……)
 依頼主である王国騎士の意向でもあるが、これも冒険者としての務め。
(村の子供、無事に見つかるといいんですけど……)
 自身の両肩を行ったり来たりする栗鼠にラティアは頼もしそうな視線を向けるのであった。

「アンタが王都を離れることが、組織(ソーン・クリエ)の目的だったりしないかい?」
 エリザ・A・ミシャールは、出発の準備を続ける王国騎士エナハルト・ティルムに声を掛けた。
 エナハルトは僅かに首を傾げたので、エリザは話を続ける。
「王都にいれば色々と情報が手に入る。だが、ここだと、不便だろう?」
 組織(ソーン・クリエ)を警戒すればする程、ジードの手中にあるように感じられるのだ。
「でしょうね……不可解な物資の流れもあったのですが、今はこちらが重要と判断したので」
 結局は、その時点で最善と判断した事を成していくしかないのだろう。
 二人の会話を聞いていたルベア・ベルニが真剣な表情で呟く。
「組織(ソーン・クリエ)の連中が言っていることは、いまいち抽象的なのよ……」
 やれ『欠けて』いるだの『満たす』など、具体的な事が見えてこない。
 だからといって、放置する訳にもいかない。『神実の香り』は殲滅させたが、次の事件や陰謀は既に始まっているかもしれないのだから。
「……それより今は、子供の捜索ね。バルバロイに見つかる前に、早く安全を確保してあげないと……!」
 グッと拳を握って言ったルベアに同意するベルク・オスマット。
「人質にされると、厄介だ」
 ベルクの獣耳がピクピクっと生き物のように跳ねながら、周囲の音を求めている。
 まずは、少年を速やかに発見しなければならない。
「街道を探しながら進んでいくしかないようだ」
 探索した結果、少年の痕跡を発見できなければ、次の場所を探していけばいい。
 後は時間との勝負。要は山賊よりも早く、少年を保護すれば、山賊如きに後れを取る面々ではないのだから。

●

 栗鼠から得られる沢側の様子を脳裏に描きながら、ラティアは山側の斜面を捜索していた。
 分かった事は、ここまで少年の痕跡は見つけられなかった事と、もう一つ。思った以上に斜面の勾配がキツい事だ。
「痕跡もですが山菜も茸も無いようです」
 ラティアの何気ない台詞に、ケンが目元を抑えながら応えた。
「そうか……子供は、それらを獲りに行っていたな……」
 山の幸を獲っていれば、その近辺では、踏まれたり掴ったり、あるいは足跡のようなものが残っていても不思議ではない。
 だから、冒険者の面々は、目を凝らして確認しながら探していた訳だ。
「山菜が無い所には踏み入らない。不自然な跡がない限り、滑り落ちた可能性も無いなら……」
「そのエリアには、そもそも居ないって事だ」
 足元の根子と頭上の枝葉に気をつけて斜面を進むラティアの台詞の後を、ケンが続けた。
 手応えはある。ここまで見落としはないだから、子供はこれから先に居るに違いない。
 先行している冒険者からの情報を思念送受(テレパス)で受け取ったエリザが、仲間に伝える。
「……この先、街道傍の湧水近くで子供の足跡があったようだ」
 その情報に、フェルゼンが光源魔法(エンライト)を唱え直しつつ、答える。
「僕個人の推測ですが、少年はこちらの目が届きにくいような山奥へは行ってないはずです」
「どう見立てましたか?」
 王国騎士の問い掛けに、街道のラインをなぞるようにロッドの先を向けて答えた。
「山というものは平時でも危険が伴う場所ですからね。きっと、街道に近い所にいると思われます」
「水を汲んだ可能性があるのも、普段から山の怖さを知っているからか……出来の良いガキだ」
 口元をニヤリは緩めるエリザ。
 よく知った山でも油断は出来ない。利発な子だと村人は言っていたので、無理をしないで街道に近い所にいる可能性は十分あるだろう。
 改めて探索エリアを絞りながら、一同は街道を進むのであった。

 一方、先行しているベルクとルベアの二人は山側の斜面で不自然な痕跡を見つけていた。
「掘った跡……山芋の類だろうか?」
「少年が獲ったの?」
 周囲の警戒をベルクに任せ、ルベアは掘られた跡を確認する。
 この地方特有の芋があるかもしれない。そういえば、此処の領地内にあるビーチで食した料理の中に、混ぜてあったと思う。
 小麦粉と混ぜて練って焼いていたような――と途中まで思い出した事を、振り払う。
「斜面がある中で、山菜を獲るって、結構危ないよね」
「そうだな。沢側の斜面で滑ったら下まで落ちるはずだ」
「だとしたら、万が一滑っても街道で止まる可能性がある山側の斜面で山菜を獲るのが安全よね」
 だいぶと絞れてきたと思う。探索するなら、『街道近く』『山側斜面』を重点的に見るべきだろうか。
 その時だった。風が木々を揺らす音に交じって、不快な破壊音が微かに聞こえてきた。ベルクとルベアは揃って獣耳をピクつかせる。
「破壊音が響いているが、どこの馬鹿だ。木々をやたらめったら砕く阿呆は……というか賊は賊でも山賊ではなく魔獣の類か?」
 二人は頷き合うと音が響く方に向かって慎重に進むのであった。

●

 後衛職であるフェルゼンとラティアを後列に控えさせ、中列にエナハルトとエリザが並ぶ。
 最前線に立たせたのはエリザのペットだった。一見するとゴリラと冒険者の異様な隊列に普通の人は警戒するだろうが、破壊行為を繰り返す山賊共が雄叫びを発しながら突撃してきた。
 魔法を発動させるためにフェルゼンはエーテルを集中させる。
「あの様子だと、おそらく、穏便な解決にならないですよね」
 振りかざした杖の先端からエーテルの波動が迸り、山賊の一体に纏わりついた。
 防御力を低下させる魔法は、問題なく効果を発揮したようだった。
 山賊が魔法に驚く素振りは見せない。猛々しい叫びのまま、突っ込んでくるだけだ。
 その勢いに、ラティアがぽそっと呟く。
「私なんかが前の方に出たら、殴られてあっという間に昇天します……」
 そう言いつつ、エーテルを込めて放った矢は、狙い違わず山賊の一体に直撃した。
 継続的にダメージを与えるはずの力が宿られた矢なのだが――やはり、敵の勢いは変わらない。
 山賊がいよいよ迫ったその時、山側の斜面から三人の冒険者達が駆け降りるようにそれぞれ、飛び出した。
「情報は取れそうにはないか」
 ベルクが二つの短剣を構えて距離を一気に詰める。
 側面からの突然の奇襲に山賊は全く気が付かなかったようだ。意識が向いた時には既に手遅れだった。
 覆い被さるような跳躍と共に繰り出した短剣が、無防備な山賊の首筋を深く斬りつけると、ベルクは躰を捻りながら逆手に持った短剣で脇腹を抉り、低い姿勢に入れ替わりつつ、股横から突き上げるように刺した。
「他愛もない」
 威勢だけは人の何倍もあるようだが、耐久面は一般人と変わらないようだ。
 それは、ルベアが目標と定めた山賊も同様だった。
 木陰に隠れてから獣の如く低い姿勢で山賊に迫ると、強力なエーテルを纏わせた鋭い一撃を叩き込む。
 避ける事どころか気が付く間もなく、横腹に短剣を突き立てられ、それだけであっけなく倒れる。
「これでまず一人……と、もたもたはしてられないけど」
 顔を上げるとその横をケンが刀を構えて突撃していく。
 山側の斜面を駆け降りつつ、エーテルを発した勢い。これに彼の全体重が乗せられた刀先は、圧倒的な重みがあっただろう。
「んじゃ……一狩りいきますか」
 首下を貫いた刀の勢いは山賊の首を派手に吹き飛ばした。
 だが、奇襲を受けたにも関わらず残った山賊共は士気が崩壊する様子もない。
 一体がゴリラに組み付き――その様子をエリザは冷静に観察する。
「見た目よりアタシのシアは手強いはずなのだが……尋常じゃない力のようだ。本当に人間か?」
 怪力で知られるゴリラに力負けしていない。
 相手が授恵者(レシーバー)であれば、あり得ない話ではないが、敵はただの山賊だ。
「ケン!」
 番えた矢を放ちつつ、仲間の名を叫ぶエリザ。
 他の山賊がゴリラの横を抜けようとしたので、太腿に一矢入れる。
 苦痛……というよりかは、移動の邪魔をされたようで怒り狂う山賊は棍棒を近づいてくるケンに向かって振り払った。
 咄嗟に刀で受け流そうと構えるが、その威力は想像以上の重量だ。
「普通のバルバロイじゃねぇな、こいつらは! だからといって、俺のやる事は変わらないけどな!」
 力で押されて揺れる手元をしっかりとコントロール。棍棒を見事に受け流す。
 同時に首狩刀にエーテルを纏わせ、強大な殺気(シーザーロア)を叩きつけた。
「狩らせてもらおうぜ……てめぇらの首をよ!!」
「どあぁぁぁぁ!」
「があぁぁぁぁ!」
 怒号で返してきた山賊だったが、そこまでだった。
 味方を巻き込まない絶秒な位置に撃ったラティアの炸光矢が山賊二人に降り注ぎ、続けて、ケンが首狩刀で薙ぎ払う。
 その間に、もう一人、フェルゼンが放った魔法を受けた山賊が、ベルクの素早い攻撃に圧倒されていた。
 最後の一人となっても山賊は怯む様子が全くない。怒号と共に唾を巻き散らしながら突貫してくる山賊を、ルベアは落ち着いて身を翻して避けると、街道に散らかっていた木片を山賊の足元へと蹴った。
「ぬあぁぁぁぁぁ!」
 あっけなく木片に足を取られる山賊。
 なんとかバランスを保とうとしたが、突貫した勢いが仇となって、無様に転がった。
「「あっ」」
 冒険者達の声が重なる。
 哀れな山賊はそのまま、沢の斜面を滑落していったのだ。
 枝葉の折れる音を残しながら、山賊は消えていく様をルベアは見届ける。きっと、沢の一番下に落ちたはずだ。
「……この斜面だと、上がって来るのはまず無理よね」
「それに無事ではすまないでしょう」
 エナハルトも斜面の下を覗き込む。かなりの高さがあるようだ。

 その後、冒険者と山賊の戦いを見ていたのだろうか、少年が山側の斜面から降りてきた。
「ロッショか?」
 ケンの呼び掛けに、少年は頷くと、小走りに駆け寄ってくる。
 どこも怪我をしていないようで、元気そうだ。
「皆さん、ありがとうございます」
 言われていた通り、利発な子で深く頭を下げた。
 王国騎士も一緒なので、山賊の討伐隊とでも思っているのかもしれない。
 無事を確かめるように少年の頭を撫でるケン。
「よく頑張ったな。なにか変わった事あったりしなかったか?」
「えと……あっ! 他にも山賊がいるんです!」
 思い出したように周囲を見渡す少年。
 既に周りを警戒していたルベアが頷きながら告げる。
「一先ず、ここを離れた方が良いわ」
 他の山賊の行方も気になるが、少年の保護が優先なのだから。

●

 少年から一部始終の話を聞きながら村に戻る一行。
「甘いのは大丈夫でしょうか?」
 ラティアがいつも以上に身を屈めて少年にチョコレートを渡しながら訊ねる。
 怖い思いをしただろうから、少しでも気休めになればいいな……と思っての事だ。
 少年はチョコレートなるものを初めて目にしたようで渡された菓子に興味津々だ。
「甘いの大好き! お姉さん、ありがとう!」
 にっこりと笑うとチョコレートの角を齧る少年は、それで懐いてしまったのか、ラティアの横をしっかりと並んで歩く。
 その時、少年はラティアの肩に栗鼠が乗っている事に今更気が付いた。
「あ……栗鼠っ!?」
「私のペットね……」
「触ってもいい?」
 目をキラキラとさせる少年の勢いを受けながら、ラティアはより腰を落とした。
 栗鼠に触ろうと背を伸ばそうとしたロッショから、背負い籠を持ち上げるケン。
「背負ったままじゃ重いだろう」
 籠の中には山菜や茸でいっぱいだった。
 これを普段から背負って山を歩いているのだから大したものだ。
「ありがとうございます」
「普段から山に入っているのか?」
 ケンの質問に少年は頷いて応えると、ふわふわの栗鼠に手を伸ばすのであった。

 冒険者と少年の微笑ましい様子を眺めつつ、エリザはエナハルトに声を掛けた。
「……少年が言っていた白衣の女。組織(ソーン・クリエ)の一員かもしれないな」
「特徴が一致していますからね。ルベアさんはどう思いますか?」
 突然、話しを振られて、ルベアは思い出すように記憶の糸を辿る。けれど、思い出せるのは、たこ焼き擬きを焼いていたジード。それに、フォーゲンとリロの二人。
「実際に見てみないとよね……山賊からも情報が得られれば……」
 もっとも、話しが通じるような状況には無かったので、討伐はやむを得なかっただろう。
 頷いて同意するフェルゼンが静かな口調で山賊の事を振り返った。
「あの山賊達は……尋常な様子には見えなかったですよね」
「恐怖を感じないだけじゃない。注意も無いようだ」
 鋭い視線を保ちながらベルクが応える。
 致命的なまでに注意力が無く、その様子は――
「まるで、我を忘れて怒り狂った人間のような、だ」
 ベルクの言葉に、エナハルトが納得したような表情を浮かべる。
「狂怒というべき状態でしょうか」
 エリザは力強く拳を握った。
「白衣の女が、狂怒の山賊と関わりがあるという事か」
 もし、その女が組織(ソーン・クリエ)と繋がっているのなら、この事件が……奴らの舞台とも言える。目的はどこにあるのか、何をしようとしているのか……。
 沢の斜面を覗き込みつつ、ルベアが何気なく呟く。
「一人ぐらい確保しておくべきだったわ」
 あの状態では現実的ではないが……今、情報を得られないのは確かに残念な事だ。
 ルベアは背中を引っ張られるような気がして、ふと、足を止める。
(……この高さって普通、生きているとも思えないけど……)
 もし、生きているのなら……その人物はこれからどうするのだろうか?
 どこかで『偶然』にも巡り会うのだろうか――。

マスターコメント

 お疲れ様でした&ご依頼にご参加いただき、ありがとうございました。  探索しつつ……からの山賊との戦闘。リプレイ内では探索の最善手についても表現させていただきましたが……判定上は特に不足はありませんでした。お見事です。  戦闘でも相手の力量や状況を把握しようとする動きや、相手の状態に応じた奇襲など、皆様、それぞれがよく動けていたと思います。  また、情報を得られる方法として――結果的に次に繋がった行動もあったかなと思います。元々、そうした意図があったかどうかは、私からでは分かりませんが、これもPBWの醍醐味という事で!  それでは、改めて、依頼へのご参加、ありがとうございました。また機会があれば冒険者の方々のご参加の程、お待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年09月18日 10時24分29秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ラティア・ミゼリア

    え、ええと……だいたいの人は初めましてかと思います、シューターのラティア・ミゼリアです……よろしくお願いします。 子供の捜索、エーテルリンクして栗鼠にも探してもらおうかと思ったんですけど…… リンクするのに1時間もかかってしまうので、ロスを考えたらやめた方がいいですよね、おそらく……

  2. フェルゼン

    はじめまして。キャスターのフェルゼンと申します。皆様宜しくお願いします。 山に入ってしまったとはいえ、相手は子供。人間が通れないような山奥へは向かわないと推測します。もっとも、既にバルバロイに追いかけられているなどの非常事態ではその限りではないでしょうが。 となると、やはり街道からそこまで離れていないところに留まっている可能性が高いように思えます。道沿いには一層注意を払ったほうがよさそうですね。 >エーテルリンク 他の人の意見を待ってからになりそうですが、1時間は少々長いようにも感じられますね。猶予のある依頼ならともかく、今回は緊急性が高いように見受けられますし。 ただ、発動さえしてしまえば今回の捜索においてかなり頼もしいと思われますので、一概に否定できるものでもなさそうです。

  3. エリザ・A・ミシャール

    エリザだ。よろしく頼むよ。 >エーテルリンク もともとエナハルトの護衛名目って話だし、出立の朝からリンクしていたでも通る話だとは思うがね。 どちらかと言えば、動き方(孤高かどうか)やペットの選択(リスかどうか)で決めればいい気がするね。 メタな話だが、レベルに制限もない普通依頼である以上は想定できる汎用スキルを装備してプレイングが書けていればある程度は成功できる難易度の判定だと思うからね。 >山賊 特に前情報なしか。神実の香りをキメてやたら強化されているらしい、以上のことは分からないね。 戦術は使わない気がするが、単純に強い…と。 何となくとイメージだが抵抗は低い気がするね。ハーツベインショットでも持っていくかね…

  4. ベルク・オスマット

    シーフのベルクだ、よろしく頼む。 双波を持って行って捜波による探索を行おうと思う。 超聴覚も持っていくので音でも探せればいいなと思っている。 >山賊 会ったらとりあえず斬り捨てればいいのだろうか…PL情報でしかないがどう考えても情報は得られなさそうだ。

  5. ケン・Z・ブラッドリー

    うーっす ウォーリアのケンだ よろしく頼むぜ 今回の依頼の目的として優先順位的には エナハルトの護衛>少年の捜索>山賊(バルバロイ)の排除 って感じか? まぁ・・・エナハルトに関して言えばかなりの実力らしいから不安は少ないかと思う だったら少年の捜索に力を入れていく感じがいいんじゃないか? 幸いなことにエーテルリンクが可能なシューターが二人に、探索スキルがあるシーフがいることだしな 山賊らがこっちの言葉がわからないならあえて大声で呼びかけるのも手ではあるがそこはだいぶ賭けになっちまうな どうやら聡い子らしいからこちらがわざとらしく騒いで山賊の気を引けば察しておとなしくしていてくれるといいんだがな 山賊に関しては、かなりの力があるようだが・・・まぁそれならそれで見つけ次第狩っていく感じでいいだろう 戦闘になれば向こうもこちらに注意が向く分少年の安全につながるだろうからな とりあえず俺は山賊の相手に力を入れていこうかと思っている

  6. エリザ・A・ミシャール

    >戦闘 ここはとにかく各自で最善を尽くすしかないね。 可能な限りヒールは積んでいくが、それでも不安が残るのは確かだ。 防御・回避が心もとないというのであれば事前に申告しておいてもらいたいね。 アタシも意識して回復やフォローに回るようにするよ。 >優先順位 (エナハルトの護衛>)少年の捜索>山賊(バルバロイ)の排除 ケンが言っているのに概ね同意だ。 とはいえ、依頼主自身が山に入って少年を探すと言っている訳だしね。 少年を探すつもりで動きつつ、エナハルトからは離れ過ぎないようにする。 それでいいんじゃないか? >捜索 誰かテレパスを持ち込めるヤツはいるかい? 山林の街道は見通しが悪そうだ。 エナハルト付近の護衛とは別に、先行偵察できるならば備えが合った方が良い。 その連絡にテレパスは有用だと思う。 アタシが持ち込めるから、もう一人いれば最低限は機能するんじゃないかと思うんだが。

  7. ルベア・ベルニ

    シーフのルベアよ。 連作何度目かの人も、初めての人も宜しく。 >優先順位 私も同意ね。 >戦闘 抵抗も低そうだけど、頭が回ってなくて気配を気にする(自分たちの気配を殺すことも含め)とか足場を気にするとか出来なさそうなのよね。 雑木林を利用して隠蔽宣言してタナトスバイト……とかもやれそうな気はするけど、シーフがこぞってそれをやると頭数が足りなくなっちゃうかしらね。 何にせよ、反応強化とか見切りとかも持っていって回避は十分に気をつけるつもり。 >テレパス 持ってる。 最初は看破と天眼を持っていこうと思っていたんだけど、山林の情報からすると「認識できない」場所が多くて天眼の効果が薄そうだし、超視覚も同様なのよね。 ベルクさん同様双波は持っていくけど、シューターもいてエーテルリンクのおかげで捜索の手自体は足りてそうだから、問題なかったら私がテレパスも持っていくわ。

  8. ラティア・ミゼリア

    ええと……それでは、エーテルリンクは持っていくことにしますね。ありがとうございます。 私自身の方も、一応看破は持って行きます……動物頼りもよくないので…… >優先順位 そうですね。そもそもの依頼内容が護衛ですので……護衛最優先で異論ありません。 >戦闘 山賊の数は冒険者数+1……ということは、こちらもエナハルトさんを加えて数は同等、ということですね。 私が0.5人分の戦力でしかない……とかいうオチが付かないよう、頑張ります…… 後ろの方からこそこそ、攪乱射撃やハーツベインショットで支援でもしていることになるかと思います……防御面に関してはどうせ私はひ弱なので、反応強化で当たらないことを目指す方針ですね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0