【毒杯】魔女の輝石は禍を招く
明乃そら
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シナリオID:1376
オープニング
「今夜は月が一段と綺麗ですわね、クリストフ」
「左様でございますな。ですが……月と言えども、ロレッタお嬢様の美しさには敵いませぬ」
ここはリーンエス王国。とある瀟洒な屋敷のテラスにて、月を眺めながら佇む一人の少女。
絹糸のような金色の髪が月明かりに映えて、少女に仕える老執事も、心の底から彼女の美貌を褒め称える。
高貴な身分と思わしき少女、ロレッタはメイドが運ぶ料理を優雅な所作で召し上がり、月夜の晩餐会を堪能していた。
「それにしても、お留守番は退屈ですわね。何か面白い事でも起きないかしら」
「そうですなあ。旦那様はお仕事での遠征でご不在の身。ですが、お戻りになればまた土産話の一つや二つ、持って来られる事でしょう」
どうかそれまでの辛抱ですぞと、宥める執事。片やご令嬢は、お父様に付いていけば良かったと、少し不機嫌気味に後悔しながら、出された料理を口に含んだ――その直後。
周辺に騒がしく響く獣の吠え声。見張りに配置していた番犬達が、不審な輩を見つけたようだ。
「あらあら、もしかして侵入者かしら? お父様の留守を狙うだなんて、不届き者ね」
などと不愉快そうな態度を取るロレッタだが、その表情はどことなく嬉しそうに微笑んでいる。
「もしもの事があっては危険です。早く屋敷の中に……と言っても、大人しく聞いてもらえませんか」
老執事は避難するよう促すが、彼女はこの状況を楽しむのだろうと、半ば諦めた様子で一緒に付き添う。
「よく分かっているじゃない。どうせなら、目の前で派手な捕り物劇を見てみたいわね」
賊の狙いが何であれ、結局最後は捕まるのだから。
あくまで彼女の願望でしかないが、そんな風に胸踊らせながら待っていると――。
「申し訳ありません、お嬢様。賊を取り逃してしまいました。どうにも素早い連中で……」
警備の衛兵が謝罪の言葉を口にしながら、報告する。
その報せに少女は残念そうに肩を落とすが、どうせまた現れるだろうと次の機会に期待した。
「それにしましてもここ最近、妙な輩が増えていますな。そう……旦那様とお嬢様が、前の旅先から戻って以来……」
彼らの日常は、その日を境に変わりつつある。
何か狙われる理由があるのだろうか。少し考え込む少女の胸元で、鮮やかな赤い宝石がキラリと輝く。
「……ねぇ、クリストフ。私、妙案を思いつきましたわ」
ふと閃いたのか、ロレッタは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、頭上の月を仰ぎ見る。
「頼みを聞いてくれそうなお友達がいますの。早速お願いしてみましょう」
●麗嬢からの誘い
冒険者ギルドに持ち込まれた一つの依頼。受付役のドミニク・ログナーは若干困惑した様子で、授恵者達に話し始める。
「今回は王国での仕事なんだけど、ある貴族からの頼み事なんだ」
ドミニクもまた王国貴族の生まれだが、話の内容から察するに彼の知人からの依頼らしい。
「依頼人の名前は、ロレッタ・アルベール。父親のアルベール伯爵と我がログナー家は、古くから親交があってね。彼女……ロレッタとも幼い頃からの旧知の仲なんだ」
そういう間柄だからこそ、ドミニクも照れ臭いのかと思いきや、実はそういう訳ではないらしい。
「伯爵もそうだったけど……彼女も父親譲りの道楽者で、よく言えば自由奔放なところがあってね」
要するに、勝手気ままで我が儘なお嬢様タイプのようである。
おそらく昔から色々振り回されてきたのだろう。そして今回も、諸般の事情で彼女の要求を引き受けたのだ。
そんな気紛れ令嬢からの依頼の内容は、最近幾度も屋敷を狙う賊を捕まえてほしいとの事。
しかもその方法は――パーティーを開いて油断させ、相手を誘き出すというものだ。
「昼間は庭園で薔薇を眺めながらのお茶会。夜は屋敷のホールで舞踏会を催す予定みたいだね」
ついでに警備も緩めるらしく、敢えて賊を侵入させる心算のようだ。
「そこで衛兵達の代わりにキミ達が賊を捕縛するんだ。彼女の相手をしながら、怪しい連中を警戒しつつ、もし発見したらそっちの方に注力する。キミ達だったらそれほど手こずる事もないと思うけど」
敵が普通の人間だったらね、と念の為、用心するのも忘れないようにと伝えるドミニク。
果たして連中の目的が何なのか、理由を知った上で、後の処罰は伯爵達に委ねられる。
「ああ、それと。狙われるのに思い当たる節がないか、彼女に一応訊ねてみたんだ」
その質問に返ってきたロレッタの答えは――。
『このペンダント、旅先でお父様に買ってもらったの。何でも曰くつきで、Le coeur de Sorciereって呼ばれてるみたい』
ソレは見る者の心を吸い取るような、燦爛たる赤い輝石。
話によれば、所有した者には大きな災いが降りかかると云う。全ては魔女の呪いだと――。
そのような胡散臭い代物を、どこで入手したのか不明だが。きっと真っ当な経路などではないだろう。
何はともあれ、お嬢様の戯れに少し付き合ってくれないか……とドミニクは授恵者達に頼むのだった。
●蠢く陰謀
――静寂に包まれた、深い夜。
物陰に隠れるように、アルベール邸を見据える影が一つ。
「成果は芳しくないですね。あの者達の力だけでは不十分、ならば私も協力しますか……構いませんよね、我がご主人様」
女性のシルエットらしきその人物は、銀色の長髪を撫でながら、再び闇の中へと消えていく。
そして彼女のいた場所から、一羽の蝙蝠が羽搏いて、夜空の彼方に飛び去った――。
解説
マスターより
リプレイ
人から人の手に渡り、多くの不幸を振り撒き続ける魔性の宝石。
偶然と必然が齎す奇蹟の産物、ソレはいつしか、魔女の呪いと囁かれるようになっていた――。
●企み事はお茶会で
「御機嫌よう、ドミニク。授恵者の皆様と過ごせるなんて、やはり貴方に頼んで正解でしたわ」
幼少時からよく知る友人、ドミニク・ログナーと顔を合わせると、今回の事件の依頼人、ロレッタ・アルベールは満面の笑みで授恵者一行を迎え入れる。
「貴女の達ての頼みですからね。さて……早速本題と参りましょうか」
ドミニクは苦笑気味に挨拶を交わし、出向いた授恵者達をロレッタに紹介する。
「この度は私達を素敵なパーティーにお招き頂き、心から感謝致します」
コルネリウス・アーラが恭しく一礼すると、彼女に倣って全員がロレッタにお辞儀する。
「ロレッタお嬢様、異種族のぼくまでご招待頂き、ありがとうございます」
エヴァン・ピオネロが頭を下げてお礼を述べる。今回の参加者は、彼以外にもエルフや半獣人など、人間以外の種族が大半だ。
王国貴族は人間の権威が絶対だ。そうした中でこの令嬢は、異種族にも寛大な心を持っているのだろう。
「礼には及びませんわ、私も色んな国を回ってますもの。それよりも早くお茶の時間を楽しみましょう」
ロレッタはそわそわしながら、授恵者達を庭園のテラスに案内する。テーブルの上には紅茶のポットにティーカップ、クッキーやケーキが乗ったティースタンドが用意されている。
「お……っと、お嬢様は趣味が良いね」
気品溢れる持て成しに、キオルティスも心の底から感嘆し、お茶会を楽しもうと腰掛ける。
それから全員が席に着いたところで、薔薇園の茶会が始まった。
「ロレッタさんはよく旅に出られたりするのでしょうか! 私もこれまで様々な冒険をして来たのですよ!」
活発なエルフの少女、エルナ・クルプファルツが目を輝かせながら令嬢に話し掛ける。
白銀世界の氷の果実、砂漠の花、大樹海に暗闇の迷宮!
今まで体験してきた冒険譚を語りつつ、エルナはロレッタの胸元に輝く赤い宝石に目を向ける。
「とっても綺麗なペンダントですけれど、禍々しいほど赤い――正に〝魔女の心臓〟という名がピッタリですわね。でも、どうしてお嬢様がそれを? 何か曰く付きとの事ですけれど……」
紅茶を飲みつつ、談笑しながら、ザザ=ステルヴィナがふと訊ねる。
今回の事件の本題でもある赤い宝石、その話題に触れると、ロレッタはクスッと笑って語り出す。
「こちらはとある場所で買いましたの。余りに綺麗でしたから、きっと運命の出会いなのですわ」
更にロレッタは付け加えて言う。世界には、表で取り扱えない物もあるのだと。
おそらくそれは裏の世界、所謂『闇マーケット』といったところだろうか。
「宝石自体の色や輝きなんかの美しさもそうだけど、それに纏わる物語があるともっと魅力的に見えるしね」
クレア・エクレールは宝石に興味津々。狐の尻尾をふわふわ振りつつ、曰くつきと云われる噂話に耳を傾ける。
(「所有者に大きな災いが降りかかると呼ばれている物を身に着けるとは、随分と酔狂な貴族も居るものですね」)
リコリス・アデュラリアは思った事を声には出さず、不穏な謂れのある宝石を、チラリと見ながら紅茶を啜る。
「……数年前にも、然る貴族の妾がお宝を持ち出し、行方を眩ますなんて話がありましたわ。そのような訳有りの物品が裏で流れているのでしょう。世の中は、綺麗事ばかりじゃありませんわよ」
ロレッタは悪気のない様子で、さらっと物騒な発言を口にする。
もしかしたら彼女が身に付けている宝石も――そう考えると、この令嬢は想像以上に強かだ。
「ところでロレッタ様、今夜の舞踏会の件ですが」
一通り宝石の出所を聞いたところで、キーゼが夜の舞踏会へと話題を変える。
キーゼはお茶会を楽しむ間も聞き耳を立てて警戒し、微かだが屋敷の外から何者かの息遣いを感じ取る。
賊が様子を窺っているのだろうか。今はまだ動く気配がない、となると夜に狙いを定めているのかもしれない。
「舞踏会では《魔女の心臓》もお着けになられるのでしょうか。華やかな宴の席に不吉な物は、お部屋に仕舞っておかれた方がよろしいかと思いますわ」
ザザが一つの提案をする。まるで誰かに聞かせるような強調した口振りに、ロレッタも意味を理解し、否定せず、暫し考え込む仕草を見せる。
「お嬢様はお美しいですから、宝石は不要だと思いますし……」
エヴァンがロレッタに見惚れたフリを装いながら、はにかむように彼女に告げると。
「勿論ですとも。どれ程この宝石が綺麗でも、私の美貌には敵いませんわ」
上機嫌で笑顔を返し、授恵者達の作戦に合わせるのであった。
「でも折角だから違う宝石を着けたらどう? あっ、クッキーもケーキも美味しいね! 『鼠』もお菓子を食べたいかな」
クレアがお菓子を頬張る傍らで、エルナがペットの栗鼠にお菓子を分け与えている。
しかしクレアの言葉が示しているのは、宝石を狙う賊の事。
ティースタンドを屋敷に見立て、お菓子や角砂糖を味方と敵に分けて並べて、数や配置を想定していた。
「私は、花鳥園を営んでいるんです。とても素敵なお庭なので、お花を見たいのですけれど、少し周ってもいいでしょうか?」
「それなら俺も同行しようか。ついでに立派なお屋敷の中も観てみたいしね」
庭を散策したいと言うコルネリウスに、キオルティスも追随する。目的は経路の把握と、不審者対応。
「では私めが案内致しましょう。さあ、此方へどうぞ」
二人の申し出に、執事のクリストフが案内役を担う。
じゃあぼくも、とエヴァンも手を挙げ、エルナのリスさんがエヴァンの肩にぴょんと乗り、三人と一匹は執事に促されながら施設を見回り、下調べする。
この後、お茶会は何も起こる事なく終了する。
退席し、屋敷の中に入る途中、暮れ泥む空を見上げるリコリスの目に、羽搏く蝙蝠の影が映るのだった――。
●招かれざる侵入者
暗澹とした夜の世界を、明るく照らす大きな満月。
宵の舞踏会に相応しく、空から射し込む光が華美なホールを鮮やかに彩る。
「今夜は月が一段と映えますわね。さあ皆さん、思う存分踊りましょう」
ロレッタが声を掛けると同時に、楽団が楽器を奏でて、ムード溢れる音色が屋敷内を包み込む。
「あの……良かったら、ぼくとどうですか?」
スーツに着替えたエヴァンが、照れ臭そうにロレッタを誘う。
大人っぽく振る舞おうとするも慣れない様子の少年に、令嬢は微笑みながら、差し出す彼の手を取った。
「では僕達も、一緒に踊って頂けますか」
キーゼはドレス姿のエルナに呼び掛け、他の授恵者達もペアを組み、曲に合わせてダンスを舞う。
「みんな素敵だねえ……。と、ここは任せて、ボクはお掃除してくるね」
一人だけメイドに扮したクレアが、箒を持ってホールを出ていく。
屋敷のメイドはホールに揃っているので、彼女達が襲われる心配はない。
後はお茶会で流した偽情報に、『鼠』が引っかかるのを待つだけだ。
「舞踏会たぁ、貴族ってのはいいご身分だぜ。だがそれで警備が緩くなってるなら、ありがてぇ」
闇に紛れて蠢く、不審な人影。宝石を狙う盗賊達が、宴で警備が届いていない屋敷の中を探し回る。
話によれば宝石は令嬢の私室に置かれている。それを奪ってさっさと逃げれば、この仕事は完結だ。
手間が省けて丁度いい、などと考えながら部屋の扉を開ける盗賊達。すると中には――。
「あっさり罠に掛かるだなんて、案外単純だね」
待ち構えていたクレアが、魔力の糸を伸ばして先頭の盗賊を捕縛する。
「なっ!? まさか俺達を嵌めやがったのか!」
盗賊達は予期せぬ奇襲に驚くが、相手は女が一人だけ。だったら力任せに奪えばいいと、束になってクレアに突撃する。
「随分セコい泥棒ですね! でももう逃がしませんよ!」
リスさんと五感を共有して盗賊の動向を探っていたエルナが、いち早く駆け付け、増援に加わる。
狙いを定めて放つ矢が、盗賊の足を射抜いて相手の動きを封じ込める。
「どうして宝石を狙うのか、理由を聞かせてもらいましょうか」
後から追い付いたコルネリウスが、剣にエーテル光を纏わせ巨大な刃を生成すると、盗賊達は恐怖に怯えて立ち竦む。
「ここから先は、一人たりとも逃す心算はありません」
リコリスが眼光鋭く盗賊達を一瞥し、掌を翳すと無数の小さな光の弾が発射され、盗賊達に撃ち込まれる。
手傷を負い、動けなくなった相手は光の縄で拘束し、手頃な空き室の中に放り込むのであった。
「何やら騒がしくなってきましたわね。私を更に楽しませてくれるのかしら」
授恵者達の行動から、賊の侵入を知って愉悦の笑みを浮かべるロレッタ。
彼女の胸元で、赤いペンダントが妖しく煌めき、揺らめいている。
「ではご希望に応えるよう、最善を尽くさせて貰うよ」
キオルティスがロレッタの前で傅きながら、彼女の手の甲に唇を添える真似をし、誓いを捧げる。
「さて、ここには何人くらいが辿り着けるかしら」
ザザが胸を躍らせながら黒いイブニングドレスを翻し、杖を握って戦闘に備える。
「何れにしても、襲ってくるなら仕留めるだけです」
キーゼはバルコニーに隠しておいた弓を持ち、迎撃の準備を整え、気を引き締める。
貴族を護衛するとは因果なものだと、過去の記憶に思いを巡らす。だが、今は為すべき事をするのみと、真剣な表情で黙って前を見据えるのであった。
●廻る剣戟の輪舞曲
やがてホールに駆け込んでくる盗賊達。ひどく慌てた様子で息を切らし、ここにも授恵者達がいると気付くと、狼狽えつつも決死の覚悟で向かってくる。
しかし力量は授恵者達に到底及ばず、成す術もなく片っ端から戦闘不能に陥ってしまう。
「何故宝石を盗もうとしたのか、目的を教えてもらいましょうか」
エヴァンが捕らえた盗賊達に問い質す。
彼らを手引きしたのは執事なのかと経験則から疑って、横目で確認するが反応は薄く、その繋がりはなさそうだ。
とにかくこれで片付いた。後は白状させるだけだと緊張感が緩んだ、僅かな刹那――。
「……まだだ。生憎と、俺の目は誤魔化せないよ」
キオルティスが突然、細身の剣をメイドの一人に突き付ける。
「……流石に一筋縄では参りませんね。油断していると思ったのですが、仕方ありません」
メイドの少女がくるっと回り、スカートの下に隠した太腿のホルスターから、二本の短剣を抜いて構える。
「成る程。メイドに化けて機を窺い、盗賊を捕らえて安心したところで令嬢を襲う。連中は撒き餌だった訳ですね」
キーゼが冷静に状況を分析し、推測を述べると、メイドの少女は小さく頷き、ご褒美とばかりに目的を語る。
「私は元の所有者から、盗まれた宝石を取り戻すように頼まれました。我が主の命令でなければ、あの男の為に働くなんて不本意ですが……。因みにその者達は、推察通り、捨て駒として雇っただけに過ぎません」
敵の狙いは宝石そのもの。しかも彼女はこの作戦を見透かした上で、賊を利用したという事か。
「上手く変装したみたいだけど無駄だったわね。それで、私達を倒せるとでも思って?」
ザザも薄々感じていたか。不敵に微笑み、杖から魔弾を発すると、敵の少女は高く跳躍して回避する。
「まだこれで終わりではありませんよ」
キーゼも追撃するが、少女は素早く身を躱し、流れるような動作でロレッタを狙って襲い掛かる。
「貴女の心臓も一緒に、奪ってあげる」
虚空に閃く二つの刃が、令嬢に迫る。
「お嬢様と宝石は、ぼくが必ず守ってみせます!」
そこへエヴァンが間に割り込み、勇敢に盾を突き出し、少女の斬撃を弾いて止めた。
「やらせはしないよ」
相手の攻撃直後の隙を衝き、キオルティスがすかさず疾走しながら斬りかかる。
振り抜く刃は頬を掠めて、薄ら流れる赤い血を、少女は指で拭ってペロリと舐める。
「みんなお待たせ! って……この女の子も盗賊なの?」
私室の盗賊達を無力化させたクレアが、ホールの仲間と合流するなり、今起きている状況に目を丸くする。
「いつの間に紛れ込んだのか……油断できない相手ですね」
普段は感情を表に出さないリコリスだが、表情は変わらずとも、目の前の少女に少なからず脅威を抱く。
おそらく只者ではない筈だ。リコリスは杖に魔力を集中し、凍てつく氷の矢を放つ。
「何者かは分かりませんが、敵である以上、私達のする事は変わりません」
例え相手が少女でも、抵抗するなら倒すだけ。コルネリウスは剣を持つ手に力を込めて、大きく振り被って叩き込む。
「悪い事をするのは大体メドゥの指先! 貴女もそうじゃないんですか!」
エルナも弓矢に風の魔力を纏わせ、援護射撃する。
そして彼女の一言に、敵の少女の顔が一瞬引き攣る。その些細な変化を、授恵者達は見逃さない。
「可愛らしい顔して相当な悪党だった訳ね。なら、全力で潰させてもらうわ」
相手がテロリストならば、容赦しない。ザザが冷徹な一面を覗かせて力を揮う。
クレアも手甲と一体化した刃から、視えない衝撃波を繰り出し、攻め立てる。
敵の少女は授恵者達の猛攻を二本の短剣で受け流し、徐々にバルコニーの方へと後退る。
「……貴方達の力は認めましょう。ですが、私も討たれる訳には参りませんので。その宝石は一旦預けておきます、せいぜい大事になさって下さい」
少女の艶やかな銀色の髪が風に靡き、鮮血の如き真紅の双眸が輝きを増す。
すると何処からともなく、蝙蝠の群れが少女に集い、行く手を遮るかのように授恵者達に飛び掛かる。
その直後、少女も蝙蝠の姿に変化して、群れと一緒に空の彼方に飛び去った――。
「あの女の子……吸血鬼だったのですね」
誰もいなくなり、静まり返ったバルコニーを眺めて呟くコルネリウス。
少女の姿はもう見当たらない。結局彼女だけは逃したが、盗賊達を全員捕らえる事に成功した。
「この連中はきっと詳しい事は聞いていない。ここに少しでも、彼女の思いが残っているといいですが」
リコリスが祈りを捧げるように、バルコニーに手を添え、精神を集中。
少女の思念と感応し、読み取る術を用いて少しでも過去の記憶を辿ろうと試みる。
エルフの乙女の心に伝わる、吸血鬼の少女が残した記憶の断片。
それはとある女性に抱く敬愛の念。甘やかで、恋愛にも似た感情で。
対照的に、別の男に向けられる、不快なまでの嫌悪感。そして――。
赤い宝石に対する強い想い……仄かな慈愛と、胸が張り裂けそうな程の悲哀。
果たしてそれらがどんな意味を持つのか、今の彼らにはまだ知る由はない。
謎は深まるばかりだが、いつかまた、彼女と巡り会う日が訪れるだろう。
空に煌々と耀く月を仰ぎ見ながら、授恵者達はこの一夜の出来事を胸に刻むのだった――。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:多い8 / 4〜8人
2021年09月16日 11時34分18秒 公開
相談掲示板
シーフのクレアだよー! お嬢様のペンダントの宝石が見たくて参加しましたっ! お客様はボク達だけってことだし、変に警戒されない為にもパッと見お茶会と舞踏会楽しむお客様を装えば良いのかな? あとは使用人を装うっていうのもありなのかなぁ、とか。 個人的にはまずお茶会でペンダントの話題を中心に色々お嬢様とお話しつつ、捜波で索敵する予定ー。 情報共有はテレパスでも良いけど、お茶会に同席している人には口頭で伝えるかも。 見つけ次第即捕まえるのか、それとも夜まで泳がせて一網打尽するかとか、そのあたりを皆と相談したいと思ったよー。
エルヴンシューターのエルナです!皆様宜しくお願いしますね! どこかに上手く誘い込んで一網打尽にするか、見つけ次第捉えるかという感じでしょうか! 10人程度いるという野盗さんはまとまって行動するのか、バラバラに来るのかも気になるところですね! >個人行動 今の所、私自身はお茶会や舞踏会に参加! リスさんに周辺の警戒に動いてもらおうと思っています! 特に昼間は庭園に人が集まる関係で、お屋敷の警戒は薄くなりがちな気がするので、こちらの監視をリスさんに重点してもらおうかなと思っています!
さて、宜しくお願いします。 ひとまず、昼と夜の二部構成ですか…… 敵の思惑は、状況的に見てペンダントが絡んでいる、と見てよさそうではありますかね。 情報を得る、という意味では、昼の間に目標を捕まえて吐かせたいところではありますが。 しかし、こちらの動きが相手にバレる、という欠点もある。 恐らく、OPの記述から敵は昼にも動いてきそうな気はしますからね。 活用方法としては、あえて情報を流せて躍らせる、というのはありかと。 敵も素人ではありませんからね。恐らく偵察はある筈。 その際、昼の茶会において”偵察役に聞こえるように””夜会における偽の情報を流す”というところでしょうか。 例えば、今夜の舞踏会のドレスに、この宝石が合わないからどこかに置いておく、といったような。 あと、PL情報の『???』にも警戒ですね。 盗賊を囮として利用して本懐を遂げようとする、という手も考えられます。
キャスターのリコリス・アデュラリアと申します。 ……よろしくお願いします。 昼に敢えて泳がせ、偽の情報を掴ませるのは良い案かと。 依頼人は「目の前で派手な捕り物劇を見てみたい」と言っていたようなので それが叶うような提案なら、彼女の性格的にも受け入れて貰いやすいでしょうね。 宝石を外す事に関しては、依頼人に予め別の首飾りを借りて それを昼に贈り物として渡せば夜の舞踏会はそちらを身に着ける流れに出来ますし 自然な形で囮にしやすくなるかもしれませんね。
キャスターのエヴァンです。よろしくおねがいします。 今出てる案ですと…昼が偵察、夜が本番って事でしょうか? 相談内容に特に異論はないのと、ぼくは索敵とかに向いたスキルは無いので ロレッタさんの近くでお話をしながら周囲の挙動を伺う事をしようと思います。 偽情報は「今夜の舞踏会のドレスに、この宝石が合わない」で良いと思いますし 他の形でも決めて頂ければ見合う様にお話をしますね。 盗賊を囮として利用には気を付けるのと、自分が奪う側なら 闇に紛れて陽動を起こしてとか考えそうなので、もしもに備えて暗視を持とうと思います。
ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 昼に泳がせる案について私も異論ありません。 キーゼさんの仰るように、夜に敵の動きをある程度誘導しやすくするのは良さそうですね。 夜の舞踏会にペンダントを付ける流れにするのも自然に出来ると思います。 盗賊も、PC情報としては何人いるのか対峙してみなければ不明な点もありますので、謎の女性を警戒する点も含め、盗賊の確保と同時に周囲の警戒も怠らないようにしたいですね。
キャスターのザザ=ステルヴィナよ。今回は宜しくね。 昼のお茶会で偽情報を流し、夜の舞踏会で盗賊達を罠に嵌めて捕縛する方向で異論はないわ。 PL情報の『???』は多分OP最後に出て来る女性の事よね? 恐らくは授恵者である可能性が高いと思うから注意しないと。 >個人 お茶会では招待客にも目を光らせつつ、 ロレッタお嬢様から〝魔女の心臓〟について詳しいお話をお聞きしたいわ。 舞踏会には正装して参加予定よ。
昼に偽情報で、夜誘き出された相手を一網打尽!良いと思います! 誘き出す場所は、書物庫や倉庫の様な出入り口が少なく捜索に人数が要りそうな所が良いのでしょうか! 暗視は良さそうですね!夜となれば明かりを消して闇に紛れて、はありそうな気がしています!
ヒーラーのドミニクだよ。今回は集まってくれてありがとう。 手伝えそうなことがあったら私も協力するから、何かあったらよろしくね。
昼と夜の流れは今出てる案でボクも賛成~。 ドミニクさん含め皆改めてよろしくね! お嬢のご意向を叶えるなら捕物はお嬢様の目の届くところで、なんだよねぇ。 嘘情報の件の宝石を保管してあるとする場所、エルナさんが挙げてくれたような場所に現れた奴らをダンスホールとかお嬢様が安全に観覧出来る場所まで追い立てるというか、誘導した上で捕縛する? 「???」は賊のこと信用してないみたいだし、なんとなく攪乱も通じなさそうな気がするんだよねぇ。本物の宝石をお嬢様が身につけてたら、ボク達が盗賊の相手してる間にお嬢様のところに来そうなのが怖いなぁって。
>護衛 令嬢の護衛は必須でしょうね そもそも客が僕たちだけ、というところでもあるので、不自然に人がいないのもおかしいですから····こちらが動きやすいところに誘い込む、というのも寛容かと。 それと、敵の狙いが宝石なのか、それとも宝石を手に入れたこの令嬢なのか、でも変わってきますからね
>護衛 ああ、確かに狙いが宝石だけとは限りませんか。 そうなると夜間は舞踏会参加者が護衛班に それ以外は宝石を安置した場所近くに待機兼盗賊追い込み班となるでしょうか。 >客 そういえば、王国貴族はヒューマン至上主義の者が少なくないようですが 一応、今回の客に他種族が多い適当な名目を考えておくか 種族特徴を隠すなりしておく必要があるかもしれませんね。
>捕縛体勢 偽情報をどうするか、ですね。 舞踏会会場に近く、こちらも動きやすい場所…となりますが。 あとは、恐らく普通に分けると、突入班、監視班、と向こうも分けてきそうな気はしますから。 こちらも、盗賊を抑える者、敵逃亡を阻止する者、令嬢護衛、で別れる必要があるでしょうね。 >ヒューマン以外の対策 「彼女も父親譲りの道楽者で、よく言えば自由奔放なところがあってね」 とありますからね。どうやら旅行も良くあるようですし。 その辺りは意外とどうにでもなりそうな。貴族の茶会だとヒューマンばかりなので、違う種族の話を聞きたい、等で意外とごまかせそうな気もしますね。
偽情報…例えば 「金具が壊れたので急遽、別のを身に着ける事に、修理までどこかに保管する」とかでしょうか? 保管する場所は戦闘に適した場が良いと思いますがパッと思いつかなくて申し訳ないです。 違う種族の話を聞きたいって良いと思いました。 それなら沢山お話ししてても不自然じゃないですね。 >盗賊を抑える者、敵逃亡を阻止する者、令嬢護衛 初めに考えたのは護衛ですが、別の動きも浮かんできてるので皆様に合せます。 でも決めた方が良いなら、第一希望は護衛でお願いします。
>ドミニクさん お初にお目に掛かります。 こちらこそ宜しくお願い致しますわ。 >偽情報 保管場所として考えるなら、衣裳部屋かお嬢様の私室が自然なんじゃないかしら? >担当 索敵や移動力には余り自信がないし、護衛を希望させて頂こうかしら?
書き洩らしました。 改めまして、ドミニクさんお世話に成ります。 それと、金具が壊れ云々の提案は、勘違いして読んだ結果です。 取り下げますね、ごめんなさい。
>保管場所 衣装部屋か私室なら私室の方かなぁ。 多分賊は現物しらないだろうし、同じ位の大きさの赤い宝石ないし硝子を高そうな宝石箱に入れておけば誤魔化せそうとは思った。 >役割 ボクは昼間はお茶会に参加しつつ索敵 夕は偽情報につられた賊を追い立てて捕縛するね。 時間帯的に舞踏会開催中が狙われそうだし、舞踏会の客はボク達だけなら追い立てる場所は舞踏会会場かなー。
間が空いてしまってすみません。 >偽情報 ロレッタさんの私室か…ダンスホールがあるなら、休憩をするような控えの部屋があれば、と思いますね。 >担当 いまのところは、敵の逃亡阻止に回ろうかと思います。
ギリギリの顔出しになってすまない。 シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。今回は宜しくね。 大体の当日の動きは把握。方向性も賛成だよ。 昼にはお茶会に出つつ、索敵とさり気無く屋敷の立地や逃走経路などの確認。 夜は踊って直接ご令嬢を護衛か、足を活かして賊の逃亡阻止か。 或いはホンモノの護衛か…迷うところだね。 余りにも舞踏会の参加者が少なくなるのも考え物、だよね。
>保管場所 では私室にしておきましょうか。 その辺りも、日中の会話で織り交ぜることが出来れば、ですね
>保管場所 お嬢様から予め借り受けた首飾りを誰かが贈り物として渡した時に、 「あら素敵♪今夜の舞踏会では《魔女の心臓》はお部屋に置いて、そちらを着けて参加されている所を拝見したいですわ」 ……って大きめの声で言ってみるわねん。 >護衛 【天眼】【看破】で周囲を索敵しつつ、賊が襲い掛かって来た時はアーケインテンペスト改を召喚後、周囲に被害を出さない様に【メテオライト3】で範囲魔法を放つ予定よ。
連投ゴメンなさいね。 >汎用スキル やっぱり【洞察】と【看破】に変更するわ。
>保管場所 私室ですね!了解です! 夜は私は舞踏会、リスさんを私室に潜伏として、盗賊さん達の侵入を確認次第みなさんにお伝えするようにしますね!
ああ、確かに令嬢の性格的に違う種族の話を聞きたくなった、という名目で充分そうですか。 それでは、私は逃亡阻止を主に動くとしましょう。