夏の思い出屋さん~需要と供給~
望月誠司
コメント 6
シナリオID:1374
オープニング
冬を越えて、春が過ぎ、夏が今終わり行く。
ああ、夏が終わってゆく。
ああ、夏が終わってゆく。
「今年の夏も、な~んにも無かった……」
とある海辺の町に現れたクリーパーへと杖の先端を向け火球を飛ばし、燃やし尽くしながらハーフリングの魔法使いは死んだ魚のような眼差しで呟いた。
明るい金髪と澄んだサファイア色の瞳(今は濁っているが)を持つ彼の名はマリオン、授恵者であり冒険者である。
ダボダボの緑色ローブに包む身の丈は120cm、ハーフリング特有の小柄な体躯と童顔により少年のように見えるが齢は既に十八、彼の故郷では立派な成人男子である。
彼は……モテなかった!
故郷にいた頃はそうでもなかったのだが、ハーフリングの種族的特徴に反逆するかの如く、彼はつるんぺたんすとーんな同種族の女の子よりも他種族のボンッキュッボンッなおねーさまの方が好みであった。
その為、冒険者となってからは機会あらばちょくちょくナンパに繰り出してダーイナマイツ! なおねーさま達に声をかけているのだが「子供はお呼びじゃないのよ」とか「背が高い人が好みなの」とか「犯罪はいけないと思います。え、それで成人してる? 嘘でしょお?」とか言われてことごとく断られていた。おねーさま方はヤクザな商売をしている低身長者に厳しい。あるいはマリオンに対してだけかもしれなかったが。
「ちきしょー! てやんでバロッちくしょい! てやんでバロッちくしょい! 青い海のバッキャロ~!!」
マリオン青年は海に向かい叫んだのであった。
「ヘッヘッヘッ、お兄さん、荒れてますなぁ」
黒い色付き眼鏡をかけ、派手な柄のシャツを着たヒューマンの中年男が現れた。
「んんっ? 誰だアンタ?」
「ふふっ、私はこういうものです」
言って男は小さい長方形の妙な紙切れを渡してきた、そこには、
「思い出屋・サンドマン。貴方の思い出の隙間をお埋めします……?」
なんのこっちゃ? とマリオンが小首を傾げると、
「折角の夏なのに何の思い出も作れなかった……貴方、ソウイウヒトですね?」
「ギギギギギクッ!! な、何故それを?!」
「この商売長いですので、見れば解ります。ただ、そんなのはどうでも良い事です。肝心なのは貴方がひと夏の思い出を作り人生を華やかに彩る事……そうではありませんか? 人生は長いようで短い。今が駄目でも来年がある……そんな事を思っていればあっという間に歳を取って棺桶です。思い出を作るならば今! 今なのです……!」
「んーなのアンタに言われなくてもわぁーってらーな。でも思い出作ろうとしても作れねーんだよチクショー! クリーパー退治ばっかりやってる血と涙の灰色の記憶しかないぜっ!! うぅっ!」
「はい! そんな貴方に是非ともご提供したいのがこの『思い出屋』にございます!」
ヘッヘッヘ、と胡散臭いグラサン中年が揉み手する。
「この『思い出屋』をご利用いただければですね、なんと貴方の理想の異性とキャッキャウフフなひと夏の海辺での思い出を作る事が出来るのです……!! 青春なのです……!!」
「なっ、なんだと?!」
ズガガガガーンとマリオン青年は衝撃を受けた。
「それは……この、おれでもかっ?!」
「勿論ですとも。思い出屋は人を選ばない。どなたでもウェルカムです」
スッと両手を左右に広げてグラサン中年がニカリと笑う。
「ではお客様、こちらの姿絵の中から、思い出を一緒に作ってみたい人を選んでいただいてですね――」
●
「――とまぁ『思い出屋』とは彼のような憐れなる男性、あるいは女性をお救いする為の商売です。いわば人助けですね、人助け」
黒い色付き眼鏡をかけ、派手な柄のシャツを着た中年男が、木造テーブルで茶をしばきつつニカリと笑った。
クリーパー騒ぎで休業となっている海の店の若き女店主は「はぁ」と呟いた。
彼女の名はダフネ、ヒューマンだ。少し小柄でボーイッシュながらボンキュッボンな赤毛のお姉さまである。
「思い出って具体的に何をさせようっていうんだ? まさか――」
「いえいえ、あくまでKENZENな浜辺での青春ですよ、KENZENな。そうでないと法と正義の神パカーリンによって裁かれてしまいますからね」
「パカーリンねぇ……」
「法典に則り、ミドルティーンな少年少女達のように青い空と海、白い砂浜で綺麗にキャッキャウフフしていただければ良いのです。顧客はそれでご満足してくだされます。あくまで提供するのはひと夏の楽しく美しい思い出ですからね。思い出というのは美しくなければならないのです」
「そんなので良いの? ……いや、逆に、そんなのだとアタシ、きつくないか? 歳的に……」
「いやいや何をおっしゃる、貴方はまだまだ十分にお若くお美しいですとも。大丈夫です、ちょっと無理してるくらいのがイイというお客さまもいらっしゃいますから需要はあります」
「……素直に喜べないなぁ……」
「そこをなんとか! 報酬は弾みますから! これくらいでどうですか?」
提示された報酬額を前にしてダフネはむむむむぅと唸った。
ちょっとしたアルバイトでこれだけの金額を貰えるのは確かに魅力的だったからである。クリーパーによる休業の影響によって、生活費すら危ない状況だ。口に糊する為にこの際、多少の無理ならばやってみるか……? と彼女は決意を固めた。
自分と遊んで救われる人がいるのならそれはそれで悪い事ではないのかもしれない、とちょっぴり思いつつ。
――そして、この『思い出屋』の宣伝とバイト求人は近隣の冒険者ギルドにも張り出されていたのだった。
ああ、夏が終わってゆく。
ああ、夏が終わってゆく。
「今年の夏も、な~んにも無かった……」
とある海辺の町に現れたクリーパーへと杖の先端を向け火球を飛ばし、燃やし尽くしながらハーフリングの魔法使いは死んだ魚のような眼差しで呟いた。
明るい金髪と澄んだサファイア色の瞳(今は濁っているが)を持つ彼の名はマリオン、授恵者であり冒険者である。
ダボダボの緑色ローブに包む身の丈は120cm、ハーフリング特有の小柄な体躯と童顔により少年のように見えるが齢は既に十八、彼の故郷では立派な成人男子である。
彼は……モテなかった!
故郷にいた頃はそうでもなかったのだが、ハーフリングの種族的特徴に反逆するかの如く、彼はつるんぺたんすとーんな同種族の女の子よりも他種族のボンッキュッボンッなおねーさまの方が好みであった。
その為、冒険者となってからは機会あらばちょくちょくナンパに繰り出してダーイナマイツ! なおねーさま達に声をかけているのだが「子供はお呼びじゃないのよ」とか「背が高い人が好みなの」とか「犯罪はいけないと思います。え、それで成人してる? 嘘でしょお?」とか言われてことごとく断られていた。おねーさま方はヤクザな商売をしている低身長者に厳しい。あるいはマリオンに対してだけかもしれなかったが。
「ちきしょー! てやんでバロッちくしょい! てやんでバロッちくしょい! 青い海のバッキャロ~!!」
マリオン青年は海に向かい叫んだのであった。
「ヘッヘッヘッ、お兄さん、荒れてますなぁ」
黒い色付き眼鏡をかけ、派手な柄のシャツを着たヒューマンの中年男が現れた。
「んんっ? 誰だアンタ?」
「ふふっ、私はこういうものです」
言って男は小さい長方形の妙な紙切れを渡してきた、そこには、
「思い出屋・サンドマン。貴方の思い出の隙間をお埋めします……?」
なんのこっちゃ? とマリオンが小首を傾げると、
「折角の夏なのに何の思い出も作れなかった……貴方、ソウイウヒトですね?」
「ギギギギギクッ!! な、何故それを?!」
「この商売長いですので、見れば解ります。ただ、そんなのはどうでも良い事です。肝心なのは貴方がひと夏の思い出を作り人生を華やかに彩る事……そうではありませんか? 人生は長いようで短い。今が駄目でも来年がある……そんな事を思っていればあっという間に歳を取って棺桶です。思い出を作るならば今! 今なのです……!」
「んーなのアンタに言われなくてもわぁーってらーな。でも思い出作ろうとしても作れねーんだよチクショー! クリーパー退治ばっかりやってる血と涙の灰色の記憶しかないぜっ!! うぅっ!」
「はい! そんな貴方に是非ともご提供したいのがこの『思い出屋』にございます!」
ヘッヘッヘ、と胡散臭いグラサン中年が揉み手する。
「この『思い出屋』をご利用いただければですね、なんと貴方の理想の異性とキャッキャウフフなひと夏の海辺での思い出を作る事が出来るのです……!! 青春なのです……!!」
「なっ、なんだと?!」
ズガガガガーンとマリオン青年は衝撃を受けた。
「それは……この、おれでもかっ?!」
「勿論ですとも。思い出屋は人を選ばない。どなたでもウェルカムです」
スッと両手を左右に広げてグラサン中年がニカリと笑う。
「ではお客様、こちらの姿絵の中から、思い出を一緒に作ってみたい人を選んでいただいてですね――」
●
「――とまぁ『思い出屋』とは彼のような憐れなる男性、あるいは女性をお救いする為の商売です。いわば人助けですね、人助け」
黒い色付き眼鏡をかけ、派手な柄のシャツを着た中年男が、木造テーブルで茶をしばきつつニカリと笑った。
クリーパー騒ぎで休業となっている海の店の若き女店主は「はぁ」と呟いた。
彼女の名はダフネ、ヒューマンだ。少し小柄でボーイッシュながらボンキュッボンな赤毛のお姉さまである。
「思い出って具体的に何をさせようっていうんだ? まさか――」
「いえいえ、あくまでKENZENな浜辺での青春ですよ、KENZENな。そうでないと法と正義の神パカーリンによって裁かれてしまいますからね」
「パカーリンねぇ……」
「法典に則り、ミドルティーンな少年少女達のように青い空と海、白い砂浜で綺麗にキャッキャウフフしていただければ良いのです。顧客はそれでご満足してくだされます。あくまで提供するのはひと夏の楽しく美しい思い出ですからね。思い出というのは美しくなければならないのです」
「そんなので良いの? ……いや、逆に、そんなのだとアタシ、きつくないか? 歳的に……」
「いやいや何をおっしゃる、貴方はまだまだ十分にお若くお美しいですとも。大丈夫です、ちょっと無理してるくらいのがイイというお客さまもいらっしゃいますから需要はあります」
「……素直に喜べないなぁ……」
「そこをなんとか! 報酬は弾みますから! これくらいでどうですか?」
提示された報酬額を前にしてダフネはむむむむぅと唸った。
ちょっとしたアルバイトでこれだけの金額を貰えるのは確かに魅力的だったからである。クリーパーによる休業の影響によって、生活費すら危ない状況だ。口に糊する為にこの際、多少の無理ならばやってみるか……? と彼女は決意を固めた。
自分と遊んで救われる人がいるのならそれはそれで悪い事ではないのかもしれない、とちょっぴり思いつつ。
――そして、この『思い出屋』の宣伝とバイト求人は近隣の冒険者ギルドにも張り出されていたのだった。
解説
■ご参加のPCの立ち位置と目的
基本的にはサービスする側となります。
姿絵を見てPCを指名してきたお客のモブNPC一人を相手に、海辺で一緒に遊んで良いカンジな思い出を提供出来ればアルバイト成功です。
どのようにして遊ぶかなどをプレイングに記してください。
貴方のPCの魅力をフル活用してNPCをメロメロに魅了しましょう。
どんなモブNPCがやってくるのかは希望があれば指定可能です。
指定無い場合はPCの性別とは異なる性別でかつランダムな特徴のNPCになりますが、PCの容姿に魅力を感じている点は共通です。
なお希望すればお客さん側で参加する事も出来ます。
(その際はプレイングの冒頭に 客 と一文字書いてください)
●お相手
基本一対一ですが希望があれば、PC複数人対NPC一、PC一人対NPC複数などのシチュエーションにする事も可能です。
PC同士でサービス側とお客側に分かれペアを組む事も可能です。
その場合「お前……こんな所でなにやってんだ?!」「そっちこそ!」のようなバッタリ会った系でもOKですし、予めお互いに思い出屋を利用する事を知っていてもOKです。
なおPC同士で絡む場合は、PC同士の打ち合わせが取れていなさそうですとペアとしての描写は不可となりますので、お相手の名前をプレイングに明記しておいてください。
(万一ご了解取らずにPCを相手に指定した場合はモブNPCがお相手になります)
●選択可能なネームドNPC
モブNPC以外にも一応オープニングに出て来た二人もそれぞれの立場の時は指定できます。
マリオン(PCがサービス側の時可能)
ダフネ(PCがお客側の時可能)
万一、同じNPCへ一対一指定が複数あった場合、それぞれ別の日扱いになります。
●出来る事
快晴のとても暑い日に、海辺の町の白い砂浜や透明度の高いエメラルドブルーの海で遊ぶ事になります。
時刻は基本昼ですが、プレイングで指定すれば夕方や夜も可能。
水着やボールや食材や調理器具等の他、あんまりにも高価なものでなければ、海辺の町で手に入る大体のものは『思い出屋』の方でレンタルや提供が可能です。
・出来る事の例
海で泳ぐ(何事もなく楽しく泳げもしますが、プレイングで指定すれば離岸流などが発生してピンチになる事も可能です)
波打ち際でキャッキャする(プレ指定すれば小型クリーパーを出現させて以下略)
砂浜で西瓜割り、バーベキュー、日光浴しつつ談笑、etc
マスターより
ひと夏の思い出の岸辺へようこそ、望月誠司です。
思い出って作るものじゃなくて自然と出来るものでは? という疑問もありますが、そこはそれ、ロスガリアもまたなんでも商売のタネになる世の中のようです。
ちなみに接客業故、難易度は結構高めです。
PCさんの魅力を全開に出来るような気合入ったプレイングでNPC達・あるいはお相手のPCさんを魅了していただけましたら幸いです。
ご参加お待ちしております。
リプレイ
●エルゼリオ・レイノーラの場合
お客様に一夏の素敵な想い出を作って貰おう!
とエルゼリオは『思い出屋』の趣旨に忠実に張り切っていた。
が、
「……でもコレ。大丈夫な仕事なんだよ、ね?」
「はて、大丈夫、とは?」
ド派手な柄シャツの中年男サンドマンが首をカクリと横に傾げる。
エルゼリオはじっと覗うように男を睨み、
「その……イカガワシイサービスとかじゃ、ないよね……!?」
するとグラサン男はニカリと笑った。
白い歯をキラランと胡散臭い程に爽やかに輝かせ両手を広げ、
「だいじょーぶでぇーす。当店は法と正義の神パカーリンのご加護厚きKENZENなお店ですから、何も問題ありませんとも…………KENZENです、ええ!」
(う、うさんくさいぃぃ……っ!)
煌く淡桃金髪の青年は顔を引きつらせる。
(――うーん。この依頼の事が父上にバレたら、何て言われるだろう……)
エルゼリオの父は【黒騎士】と呼ばれ恐れられている騎士家の当主である。
しかし彼には他にも二つ名が色々とあり……ホント、何を言うんだろうか?
そんな疑問を抱きつつ待機しているとご指名が入ったので仕事場へと向かう。
「……ところで。ボクを指名してくれるお客様って女の子だよね?」
●
洒落た水着にパーカーを羽織って出ると、麦藁帽子をかぶった黒髪の、素朴な感じの、じみ~な少女が砂浜に立っていた。
「初めまして! ボクはエルゼリオ・レイノーラって言います! 今日は一日ヨロシクね♪」
「は、初めまして……私はオリヴィアって言います」
中性的な美貌の青年が碧眼を向け微笑めば、黒髪少女は頬を赤らめさせて俯きがちに名乗った。
(……シャイな子なのかな?)
高い洞察力で相手の性格にあたりをつけたエルゼリオは、安心させるよう穏やかに話しかけた。
「オリヴィアさんか、良い名前だね。キミみたいなとても可愛い子が指名してくれて吃驚したよ。こういうお店は初めて?」
「はい……一回、海というもので遊んでみたくて……」
「海来た事ないんだ? それじゃ、まずは泳いでみる?」
「はいっ! あっ、あの、でも、私泳いだ事なくて……」
「大丈夫、ボクが教える。すぐ泳げるようになるよ」
という訳でエルゼリオは大人しめな水着に着替えた少女(本人としては頑張ってるようだったが)の手を引きエメラルドブルーに輝く海へと入った。
意外と運動神経は良かったのか少女はすぐにある程度には泳げるようになった。
「凄いね!」
「エルゼリオさんの教え方が上手なんですよ」
褒めると少女は顔を上気させ嬉しそうに笑った。
その後、二人は銛を使い海老等を獲ってみようという事になった。
(折角だし、高級食材をGETだ……!)
エルゼリオはすいすいと海底まで潜り、海老やサザエを次々に獲ってゆく。
そんな中不意に背後からモガッ?! という少女の声が水中に響いた。
振り向くと、彼方から大きなサメが一匹、身をくねらせ、鋭い牙並ぶ口を開きながら猛然とオリヴィアへ向かい泳ぎ来ているではないか。
(――不味い)
思った瞬間にはエルゼリオは前方へと飛び出していた。
蒼い炎の光を纏い少女とサメ型這者との間に人魚の如き泳ぎで割って入る。眩い光輝を銛に宿して閃光の如くに繰り出しサメの頭部を一発でぶち抜く。
這者を仕留めた青年は窒息しているらしき少女の手を引くと、急ぎ海面に浮上する。
少女が身を震わせながらエルゼリオに強くしがみついて来た。
「げほっ! げほっ! ご、ごがわがっ、だ……!」
「もう大丈夫、安心して。何が現れても、キミの事はボクが絶対に護ってみせるから……」
エルゼリオは安心させるように囁いて、少女が落ち着くまで抱き締めたのだった。
●
砂浜へと上がると、獲った海老やサザエをレンタルしたBBQセットを使用し焼いた。
「美味しいっ! ぷりっぷりっしてる!」
「獲れたてだからね」
オリヴィアが驚きに目を瞠り、エルゼリオは笑った。
海の幸を平らげると、二人は砂浜に寝転がって日光浴をした。
緊張気味だった表情もすっかり柔らかくなったオリヴィアは、口数も多くなって、どうして思い出屋を利用したのか教えてくれた。
彼女は今までその見た目通り真面目一筋に生きて来たのだが、近々家同士の取り決めで結婚する事が決まったらしい。
相手は二回り以上年上の中年男だそうだ。
なので、嫁ぐ前に一度くらいは青春したかったと。
「この時間が永遠に続けば良いのに……」
エルゼリオは傾いてゆく陽を眺めながら呟いた。
別れの時間が近付くにつれ、本当に寂しさが募ってくる。
「……今日がキミにとって楽しい想い出となりますように」
「……今日は本当、楽しかったですっ! 一日だけでしたけど、とっても良い思い出ができました!」
少し寂しそうな、けれどもオリヴィアは笑顔をエルゼリオへと向けた。
有難うございました、と深々と頭を下げて少女は青年へと別れを告げると、赤い夕陽に照らされながら、彼女の日常へと帰って行った。
●ギャメルの場合
「世の中、色んな商売があるんだな」
ま、金になるなら文句はない。
――でも、オレの需要ってどんなだ?
疑問を抱きつつ指名を受け彼が白い砂浜へと出ると、そこにはゆったりとした長衣に身を包み、白い羽飾りのついた帽子をかぶった、上品そうな老婦人が立っていた。
●
「ワタシはギャメルと申します、貴婦人様」
身長120cm、幼く見える赤眼のゴブリンは精一杯に礼儀正しくお辞儀した。
すると老婦人は微笑み、
「まぁまぁこれはご丁寧に、私はエリザベートと言うの。貴婦人なんて大層なものじゃない、ただの年寄りだから、無理に敬語を使わなくて良いわよ」
「…………じゃ、普段通りに喋らせて貰うけどよ、こんなんで良いかいエリザベート」
「ええ」
老婦人は微笑んだまま頷いた。
「……エリザベートは何をして遊びたい? ちなみにオレは砂遊びしてみたいぜ。砂でお城を作ってみたい。とびっきりのガチなやつ」
「あぁ、お城、良いわねぇ、懐かしい……」
婦人は灰色の瞳を細めた。
「私も昔、作った事があるわ。砂ではなくて、雪と氷だったけれど。良いわねぇお城、私も、作ってみたい気分になったわ」
「お、それじゃ、砂遊びで良いかっ?」
ギャメルが破顔して喜ぶと、老婦人は「ええ」と頷いた。
二人は砂浜にパラソルを立てシートを敷いた。
その付近で城づくりを開始する。
ギャメルはバケツの中に砂を詰めた。婦人がもう一つのバケツに海水を汲み取ってきて、ギャメルのバケツの中に海水を少しづつ注ぎ水分を含ませていった。
良く叩いて固めてから、砂バケツをひっくり返す。
バケツの裏を叩いて出すと、台形の砂柱はしっかりと固まっていた。
「これを土台にするんだぜ」
「なるほどね」
上に小さな器で砂を重ねてゆく。
モコモコと城壁や塔が生えてゆく。
ギャメルは砂の表面を細い棒の先で削った。窓にしてゆく。
「ちょっと休憩にするかい」
「まだ大丈夫だけれど」
城壁の細工を刻んでいたエリザベートが棒の先をシュシュッと振るって言う。
「浜じゃ早め早めに休んだ方がいいぜ」
「う~ん、それはそうねぇ……それじゃ、一休みしようかしら」
ギャメル達はパラソルの下へと移動した。日陰で少し気持ちが良い。
マジカルポケットから冷たい飲み物を二人分取り出し、並んで海を眺めつつ飲む。
休憩を終えると、ギャメル達は砂浜で貝殻を捜し集めた。そのうち最も美しいものをギャメルはこっそりと取っておいた。
砂城の細工を仕上げると、ギャメル達は集めた貝殻で城を飾る。
穏やかな表情を浮かべて城を飾っている老婦人の姿にギャメルはふと思う。
目の前の彼女はギャメルよりもずっと多くの夏を送ってきたのだろう。
(エリザベートにもオレくらいの歳の頃があったんだよなぁ……どんな子だったんだろう)
不思議な気持ちがした。
赤眼の妖鬼がじっと老婦人の灰色の瞳を見つめていると、
「あら……どうしたの?」
「アンタ、子供の頃はどんなヤツだったんだ?」
「とっても美人だったわ」
ギャメルがなんとも言えぬ顔をすると老婆はクスクスと笑い、
「まぁ、結構、お転婆だったわねぇ。貴方くらいの歳の頃は男の子に混じって槍を振り回してたわ」
「意外だな」
「歳月は何もかもを変えていくわ。三つ子の魂百までも、とも言うけれどね」
やがて城が完成する。
しっかりとした土台を持ち、窓や城壁らの細工が刻まれ、貝殻で彩られたそれは、なかなかの力作だった。
だが、建てた位置が少し悪かった。
時の経過と共に潮が満ちてきて、徐々に波が砂浜の奥の方へと届くようになってきていた。
やがて白波はギャメル達が建てた砂の城まで押し寄せてきて、あっという間に崩してしまった。
「……無常ねぇ」
エリザベートは残念そうに、しかし何処か達観した様で呟いた。
崩れ落ちた砂の城を目にして、ギャメルの胸の裡に漠然とした不安がせり上がって来た。
「……なぁ」
「なぁに?」
「手、繋いでも良いか?」
「良いわよ」
特に理由を聞くでもなく、老婦人は伸ばしたギャメルの手を取ってくれた。
すると不安が白波のように引いていった。
シワシワの手の存在感がなんだか今はとても落ち着いた。
やがて別れる時となり、
――たくさんの夏の中で、今日が色あせない思い出の夏になったらいいな。
ギャメルはそう思い、最も美しかった貝殻を老婦人へと渡した。
「あら、有難う」
彼女は微笑んで貝殻を受け取ると、帽子についていた羽飾りを引き抜き、ギャメルへと差し出してきた。
「お礼と言ってはなんだけれど、こちら、貰ってくださる? 幸運を呼ぶという鳥の羽なの」
「えっ、良いのかよ?」
「ええ、今日はとても楽しかったから。共に築城したギャメル、私達の城は消えてしまったけれど、その記憶は胸に残っているわ。どうか貴方に幸運がありますよう」
ギャメルが羽飾りを受け取ると、老婦人はそう微笑んで、一礼して去っていった。
●マリイ・パルティスの場合
「夏の海の思い出ですか。この夏はダンジョンとか、ダンジョンとか……ダンジョンに行きましたね」
ふっと遠い目をするのは地底系女子マリイ・パルティスである。
「ええ、冒険者になりしばらくたちますが、あまりにも出会いがないのでむしゃくしゃして参加しました!」
「……マリイさんアナタ、お客様側では……」
「ええ、はい、お客様でもよかったのですが! 選ばれたという自信がほしいので、サービス提供側になりますっ! さぁこい!! こいーーーっ!!!!」
「は、はいっ! ただいまっ!! 少々お待ちをーーーっ!!!!」
気迫に珍しく砂男が押されたように叫んで、店の外へと飛び出していった。
きっと営業にいったのだろう。
女王マリイは今は閉店している海の家の椅子に腰かけると、冷たいティーをむすーっとした顔で啜ったのだった。
●
そんなマリイさんだが、黙っていれば可憐な美人さんである。
いや普段は喋っていても普通に可憐で朗らかな(抜け目無い部分もあるが)美人さんである。
ちょっと今は地底し過ぎたせいで精神面にバステがかかってるだけである、多分、きっと、そうであるに違いない。アァ、帝国が崩壊さえしなければ……
とまれ、そんな訳で割と普通に迅速にご指名が入った。
「選ばれた……!」
マリイは両腕を軽く曲げると天へと向かい突きあげた。勝利のポーズである。
「あの~、よろしく頼みますねマリイ姐さん。一応商売なんで」
「わかってますよ。大船に乗った気でいてください」
笑顔でエルフ娘は茶を飲み干すと、気合を入れて表に出たのだった。
●
青い空で燦々と太陽が輝いている。
煌く波が押し寄せる白い砂浜を青年は一人の女性と共に歩いていた。
長い銀髪と神秘的な金瞳を持つ少女だ。
背丈は150cm程、小柄で細身ながらしかし出る所は豊かに出ている肢体を、襞飾りがあしらわれた夜空の色の水着に包んでいる。
彼女はマリイ、森の妖精である。
「ではご趣味は……」
「はい、服飾を少々……」
控えめな言葉と共にしずしずと歩くマリイは大変奥ゆかしい。
チラリと窺うように金色の瞳を向けられると心臓が早鐘を打つ。
「トールさんはご趣味は……?」
鈴を転がしたような声が響く。
「け、剣術ですね。一に剣術、二に剣術、三四五も剣術です!」
既に心奪われ始めている青年。
その後、マリイと共にエメラルドブルーに輝く海へと入ってゆく。
細身ながら豊かなプロポーションを持つエルフ娘が、白い手で水面を掻くように救いあげると、キラキラと透明な飛沫が煌きながら飛んで来る。
同じように水をかけ返せば少女は片目を瞑って「きゃっ」と小さく悲鳴をあげ、それからまた笑った。
ひとしきり水をかけあった後は、砂浜をちょこちょこと歩いているカニを共に観察したり、沖の方へと泳いでいったりもした。
可憐な彼女はすいすいと人魚のように華麗に泳いでいった。意外と体力がある。
太陽が大分高くなった所でバーベキューを開始する。
「ふふふ、こうみえて私お料理好きなんですよー」
可愛い上に料理も出来るとか素晴らしい。
「トールさん、こちら、お願いできますか?」
マリイは水着姿で包丁片手に肉や野菜をテキパキと斬って調味料等で味付けしていたが、そのうちに火の管理を男へと頼んできた。
「ええ! 任せてください!」
可愛い子から頼られれば悪い気はしない。トールは張り切って火を起こし火力を調節した。
さらに頼まれたので、串に肉や野菜やらの食材を刺す等の簡単な作業も行ってゆく。
やがて二人で料理を焼き上げると、
「はい、あーん」
マリイが笑顔で口元へと串を差し出してきた。トールは照れつつも肉に齧りつき咀嚼した。口の中で溶けてゆくような肉は脂が乗っていて大変美味だった。
「ここが天国か……」
思わず呟けばマリイは可笑しそうに笑った。
やがて陽が落ちてゆき、別れとなるとエルフ少女は小さな手でぎゅっと手を握って来た。
「楽しいと時間が過ぎるのあっという間ですね……」
寂しそうに伏せられた金色の瞳が夕陽を受けて紅に煌いている。
「名残惜しいですがもう帰らないとママに怒られちゃいます」
どうやら妖精さんは母親と共に暮らしているらしい。
まぁそうだろう、マリイのように可憐な娘が一人でモリモリパワフルに自活してるとか無いだろう。きっと日々、穏やかに暮らしているに違いない。
今日は本当にありがとうございました、と礼を述べた少女へこちらこそ、と返し別れた後も、男は未だ夢心地な気分のままでふらふらと帰っていったのだった。
●
「どんなもんですか!」
「お見事です」
パチパチと砂男が拍手しえへんとマリイは胸を張ったのだった。
●スー・ルーの場合
スー・ルーは接客の経験は無かった。
(ようは、楽しませりゃ良いんだろ?)
なら、本人に何がしたいのが聞くのが一番手っ取り早いのではないかと思った。
●
「――で、何かやりてぇことがあるから俺を選んだんだろ?」
スー・ルーは身長220cmを誇る筋肉質な偉丈夫である。
グレー髪に緑色の瞳を持つ猫科のハーフビースト。顔立ちは野性味溢れるが、とても整っている。
「やりたい事があるなら全力で乗るぜ、あんたが楽しけりゃ俺も楽しいからな」
ニッと野性的に猫科の半獣人の男が笑う。
すると女は少し考えているようだった。
ワイルド味溢れている半獣人を指名した女の年頃は十代前半程度だろうか、とても小柄で痩せた身をしている少女だった。
エメラルドブルーに輝くこの海のような、明るい緑髪を腿にかかる程に長く伸ばしている。
「やりたい事があるわけじゃないってんなら、一緒に考えるが」
なかなか返事が返って来ないので言ってみる。
といっても、スー・ルーは海に一回しか来たことが無かったのだったが。
「……潜って魚でも取りに行くか? でも、あんたの髪綺麗だから濡らすと勿体ねぇな」
「有難うお兄さん……これね、手入れが大変なのよね」
砂とか入ると最悪なのだとどこかぼんやりした調子で少女は言う。
「帽子とか、かぶった方がイイんじゃねぇか?」
海は日差しが強い。強い日差しは髪だけでなく肌にも悪いと聞いた事がある。
若い――というか幼いとさえ言えそうな少女は太陽に対し酷く無防備だった。
まだ考えている様子の少女に対し、ちょっと待ってろ、と言い置くと、大柄な男は思い出屋の所へと行って帽子を調達してきた。
白色の鍔の広い洒落た女物の帽子だ。
「これかぶっとけよ」
スー・ルーは言って緑髪の少女の頭に帽子を被せてやった。
「嫌なら、日陰の方に行くのでもいいけど」
少女は帽子を抑えつつふるふると首を左右に振った。
それから少女はじっとスー・ルーを見上げ、
「……貴方のお話を聞かせて?」
澄んだ緑瞳を向けて来た。
●
スー・ルーの本名はスールという。
「どうして冒険者としてのお名前が違うの? 偽名?」
「そういう訳じゃねぇ」
白波が押し寄せる海岸線を、少女と共に歩きながら男は言う。
「代筆頼んだ時に間違って書かれちまったんだ」
「あら、まぁ、訂正はしないの?」
「特に不便はねぇしな。面倒だから、そのままさ。こうして話の種にもなるから、むしろ便利なくらいだぜ」
男が豪快に笑うと、少女もまたくすと可笑しそうに微笑した。
スー・ルー、ことスールは過酷な自然の多い場所で生まれ育った。
その環境が彼の人格を形成した。
細かい事はあまり気にしないし人見知りもしない。至って快活で物怖じしない性格である。
「魔法は良い」
砂浜で行商をしていた砂男から甘い瓜を購入する。マジカルポケットから出て来たそれは、それぞれ手頃なサイズに切り分けられ、スールと少女へと手渡された。
赤い色の果肉を持つ果物は実に良く冷えていた。
魔法の力は偉大だ。
「魔法は不思議だ」
海岸線の大岩の上に少女と共に並んで腰かけ、エメラドブルーの海を眺めつつ、潮風に吹かれながら瓜を食べる。
甘くてなかなか美味だった。
「不思議なものは頭がいい。頭がいいものはかっこいい。かっこいいものは強い。つまり魔法は強い」
「力isパワーだって知り合いは言っていたけれど、確かに魔法も強いわね」
モゴモゴと瓜を咀嚼しつつ少女が頷く。
「ああ、特に火とかすっごい燃えるし熱い。雷もすごいビリビリして痛い。魔法ってのは強いぜ。すごく強い」
「大きいものこそ強いってまた別の知り合いが言っていたけれど……大きくて魔法も使える貴方は、きっととても強いのでしょうね。貴方はもしかして、実はとても賢いのかしら?」
緑髪少女が真顔で言ったのでスールは笑った。
「そうなのかもしれねぇな。俺は強いぜ」
強い、というのは過酷な環境を生き抜いてきたこの男を現すのに、間違いが無い言葉だった。
燃えるような巨大な赤い陽が、水平線へと落ちてゆく。
別れ際、ふと気になってスールは問いかけた。
「なんで俺を選んだ?」
小柄な少女は帽子を返しつつ、
「貴方、おっきいじゃない」
曰く、おっきいものは強いのだそうだ。
その目の高さからはどんな風に世界は見えているのかと知りたかったと言う。
「色々参考になったわ。やっぱり強い人は豪快に生きてるのね」
「そりゃ良かった。楽しかったか?」
「ええ、とても楽しめたわ。貴方は?」
「俺も楽しかった」
「それは良かったわ」
少女は嬉しそうに微笑んだ。
そうして何処か不思議な感じのする少女は潮風に緑髪を靡かせながら去っていった。
あの少女もきっとたぶん強いのだろう。
何かが不思議だから。
そんな事を、スールは思った。
●セツリの場合
「……世の中には、色んな仕事があるのですね」
主旨は理解した。
しかし銀狐の半獣人にはとても不思議だと感じられる仕事だった。
遊びの相手をするだけでお金が貰えるというのは。
セツリ自身が『海ですること』と考えると『釣り』『潮干狩り』『貝や海藻採り』等になるだろうか。
しかしそれらは『思い出屋』の主旨を聞く限り『何かが違う』
求められているのは食料確保ではなさそうだった。
故に、眼鏡をかけた紫瞳の娘は、水に入ることも想定、それに相応しい装いを整える事にした。
身長178cm、19歳の瑞々しくも柔らかい起伏に富んだ身を、純白に眩しい、ぴっちりとしたワンピースタイプの水着の中へと滑り込ませる。
溢れ出そうになった上下の裾部分の喰い込みを白い指先を入れて直し整える。
ワンピースの後ろはモフモフとした狐尻尾を出す為に大胆に開けた。
ここにマリオン青年が居たならばこの神聖にして偉大なる神々の丘の威光を前にし「ダーイナマイッ!」と叫び倒れ伏したに違いない。
狐耳を備えた若き娘はそれほどの爆破力であった。
あっという間に指名を受けたセツリは青空の下、眩しい陽の光を浴びつつ、煌く神々の丘を揺らしながら、白い砂浜へと降り立ったのだった。
●
「ひょ――!」
男はセツリが本当に目の前に現れて喉から変な音を鳴らした。
「どうかなされましたか?」
ミステリアスな雰囲気の、水着姿の狐耳娘が、その透明なグラスの奥から紫水晶の如く煌く瞳を男へと向け、小首を傾げてみせた。
「い、いや……ほ、本当に君が俺と遊んでくれるの?」
「はい。ただ、私は海での遊び方、というのが良くわからなくて……教えていただけたら、と」
「そ、そうなの? それじゃ、まずはボールででも遊んでみる?」
「はい。よろしくお願いします」
狐娘は男へと礼儀正しくお辞儀をして見せた。白い胸元が酷く眩しかった。
●
二人だし、と男がセツリに教えてくれたのは、手を使わず、砂浜にボールが落ちないよう蹴り続ける遊びだった。手以外なら身体の何処を使っても良いらしい。
「一人が連続して触るのは三回。四回以上でも二回以下でも駄目」
三回目で相手の方へとボールを飛ばして、相手側も飛んで来たボール同じように蹴り、三度目で相手側へと返す。
これを交互に繰り返す遊びらしい。
二人で協力してどれだけボールを落とさず長く続けられるかを競うようだった。
男は見本としてボールを真上に放り投げると落下してきたボールを胸を反らし受け軽く弾ませた。僅かな浮遊の後、やがて重力に従い再び落下したボールを腿で真上に蹴り上げ、さらに今度は頭を振ってボールを跳ね上げる。
「こんな感じ。で、最後は真上じゃなく相手の方へと飛ばす」
「なるほど……」
「やってみる?」
セツリは頷き、ボールを受け取った。
●
眩しい太陽が輝く青空へとボールが高々と放り投げられた。
白い水着姿のキツネ娘が落下点に入って、後ろに背を反らしながら胸元で受け止める。
――揺れる。
――神々の丘が揺れる。
伝承歌の中に在る、古代の街を灰の底に沈めた火山大噴火の際に巻き起こった大地震が如き激震が神々の双丘を襲い、下々の男達の視覚を爆発的に殴りつける。
狐の女神は白く眩しい太腿を高々と跳ね上げボールをさらに打ち上げ、再度落下してきたボールへと愛らしい狐耳を備えた頭部を振ってボールを男の方へと飛ばして来る。
放物線を描く軌道はほぼほぼ理想的だったが、男はしかし一歩も動けなかった。神に魂を奪われていたからである。
「こんな感じでしょうか……合っていますか?」
ヘディングの衝撃で少しずり落ちた眼鏡をかけ直しつつセツリが問うたが、
「神だ……」
「上?」
かみあっていない。
狐娘は不思議そうに小首を傾げた。
「なにか変だったら矯正をお願いします」
「きょ、矯正……? んっ、んんっ、そ、そうだな」
男は咳払いしつつ、足をちょっと上げ過ぎかな、と言う。
「先程はこれくらいでしたが……上げ過ぎ、ですか? どのくらいが良いのですか? ご指導願います」
セツリが太腿を上げて見せたので、男は手を伸ばし位置を水平に調整しながら声を震わせた。
「こ……こにょくらいにょたかしゃかな」
狐娘の太腿のすべすべさとやわらかさ加減は、男の知能指数を酷く溶かしていた。
「お顔が真っ赤ですが……陽にあたり過ぎましたか? 少し休まれて水分補給された方が良いのでは――」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから続けようッ!!」
ハッと正気を取り戻した男は再び距離を取ると、ボールを青空へと向かい放り上げた――
三度目、男が蹴り上げる方向を大きくミスしてしまった時、それでもボールを拾おうとセツリが突っ込んできて激突した。
(う、うぉおおおおおおおおっ?!)
もつれあった二人が砂上に倒れた時、男の顔面へと圧倒的な質量と柔らかさを兼ね備えた神々の白い双丘が迫ってきた。
――彼はその時、神に出会った。
神の神秘的な深さと甘い香りの前に男は意識を手放した。
その後、目を覚ましたが、
「先程はすみません。お客様に思い出を作る、というお仕事ですが、私の方が教えてもらったりで……ありがとう、ございます」
とセツリが普段は作らない可憐な笑顔を作って見せ、男は再び意識を失いかけたのだった。
●シェオルの場合
アイラが夜、思い出屋を訪ねるといつもとは違う部屋に通された。蝋燭の火に照らされている、薄暗く狭い部屋だ。
「――君が僕と遊んでくれるの?」
声と共に室内に入って来たのは緑髪黒瞳の森の妖精だった。
歳の頃は十六歳程度に見えるだろうか。身の丈は中背、152cmのアイラより頭一つ以上大きい。すらっとした細身である。
危険は無いと解っていても狭い部屋に夜、同年代の異性と二人きりになると少し怖さがある。
アイラは流行りの髪型にセットしてきた赤毛の先を手で弄びつつ、ツンと顎先を持ち上げた。
「えぇ、そうよ、私ではご不満?」
「いやまさか。もちろん選んで貰えて光栄だよ、嬉しいな」
森妖精の少年は尖ったアイラの物言いに対しても、人の良さそうなにこやかな笑みを浮かべている。
少年はその笑みのまま言う。
「ふふ……楽しい夜にしようね」
妖精の声には背筋を指先でそっと撫でて来るような、ゾクリとする響きがあった。
「……ええ、そうね」
アイラが怯えを表情に出さぬよう眉を吊り上げ言うとエルフ少年は瞳を細め、蝋燭にそっと息を吹きかけて、唯一の光源たる炎を掻き消した――
●
蒼白い月が煌々と輝いている夜の海。
風が昼とは逆に吹いている。
上下が大胆に別れている水着に着替えたアイラは、月明りに照らされる白い砂浜へと降り立った。
「月を映した海、夜の帳に浮かぶ砂浜の白……綺麗だね」
同じく水着に着替えたエルフ少年が流麗に声を響かせる。
彼の名はシェオルというらしい。
「詩人ね」
アイラが言うとシェオルは微笑して、
「有難う。アイラ君、素敵な景色を眺めながら少し散歩でも、どうかな?」
と闇の奥を指差し誘ってきた。
「まるで魔物でも出てきそうな夜ね」
「大丈夫、危険は何も無いよ。何もね。それとも、怖い?」
「怖くなんてないわよ。良いわよ。行きましょう」
「それではお嬢様、お手を拝借」
妖精少年が手を差し出してきたので、赤毛の少女はその手を取った。
月光の下、闇に浮かぶ白い砂浜を歩き出す。
大きな月が海面に映し出されて揺れている。
二人が踏みしめてゆく砂の音と寄せては退いてゆく潮騒が響いている。
「静か……波の音が良く聞こえて、心地好い……ね、アイラ君は静かなところって、好き?」
不意に、耳元で囁くように隣を歩く妖精少年が言った。
「…………まぁ嫌いではないわね」
アイラの心臓は緊張からドクドクと強く脈打っていたが平気なフリをして答える。
シェオルは言った。
「僕は好きなんだ……何をしても、されても――誰にも気付かれずに済むような、そんな感じがするよね……」
少女の心臓が跳ね上がった。
「ど……どういう意味よ……っ?」
堪えきれず少し声を震わせてしまったアイラへと妖精少年は笑顔を向け言う。
「いっぱい遊んでも大丈夫だね、って事さ……!」
その物言いに十六歳の少女アイラは震えた。
(お、思い出屋さんは安全なお店じゃなかったの?!)
遊んでいるような風体をしているアイラだったが、その実は恰好だけであったりする。今時経験無いなんて恰好悪いから、とこなれている女なフリをしているがホンモノの経験は無いのだ。
「……そうだ」
月下の妖精が笑う。
「せっかくだから、足元くらいは海の中に入れて涼もっか?」
エルフは方向を転じ、夜の海へと向かい歩き出す。
手を握られているアイラも腕を引かれ、暗い海へと引かれてゆく。
アイラは思わず抵抗し立ち止まった。
「ん、どうしたの……? おいでよ……?」
シェオルが少女を振り返る。
既に足元には白波が寄せてきていて、アイラの指先と足裏から震えるような冷たさを伝えて来ていた。
「暗いから……怖いのかな? 大丈夫、深いところまで行かなければ平気だよ……」
囁くようにエルフが言う。
「それにもし、君が波に攫われても……僕が攫い返してあげるから……ね?」
妖しい瞳の輝きに射られて、ドクドクと血流を体内へと送り込んで、少女は半ばパニックになっている脳を働かせて、思った。
――それも良いかもしれない。
と。
そうして赤毛の少女は、妖精の少年に手を引かれ、月光を浴びながら、暗い海へと入っていった。
ひとしきり海を堪能した後、シェオルは再びアイラの手を引いて砂浜へと上がった。
「ああ、気持ち良かった……もう、すっかり遅くなっちゃったね。名残惜しいけれど、今日はここまでかな」
「そ、そうね……」
シェオルは少女の手を握る力を少し強めて、
「……ねぇ、また、一緒に過ごしてくれる?」
と問いかけた。
――またのお越しをお待ちしてるよ!
の意である。
実は最初に蝋燭消したのは単に節約だし、他の諸々も他意はなかったりする。
「え、えぇ……そうね、また、今度、一緒に……」
しかしそうとは知らず、意味深な言動に頬を赤く染めている少女は、どこか夢心地のような表情でそう頷いたのだった。
お客様に一夏の素敵な想い出を作って貰おう!
とエルゼリオは『思い出屋』の趣旨に忠実に張り切っていた。
が、
「……でもコレ。大丈夫な仕事なんだよ、ね?」
「はて、大丈夫、とは?」
ド派手な柄シャツの中年男サンドマンが首をカクリと横に傾げる。
エルゼリオはじっと覗うように男を睨み、
「その……イカガワシイサービスとかじゃ、ないよね……!?」
するとグラサン男はニカリと笑った。
白い歯をキラランと胡散臭い程に爽やかに輝かせ両手を広げ、
「だいじょーぶでぇーす。当店は法と正義の神パカーリンのご加護厚きKENZENなお店ですから、何も問題ありませんとも…………KENZENです、ええ!」
(う、うさんくさいぃぃ……っ!)
煌く淡桃金髪の青年は顔を引きつらせる。
(――うーん。この依頼の事が父上にバレたら、何て言われるだろう……)
エルゼリオの父は【黒騎士】と呼ばれ恐れられている騎士家の当主である。
しかし彼には他にも二つ名が色々とあり……ホント、何を言うんだろうか?
そんな疑問を抱きつつ待機しているとご指名が入ったので仕事場へと向かう。
「……ところで。ボクを指名してくれるお客様って女の子だよね?」
●
洒落た水着にパーカーを羽織って出ると、麦藁帽子をかぶった黒髪の、素朴な感じの、じみ~な少女が砂浜に立っていた。
「初めまして! ボクはエルゼリオ・レイノーラって言います! 今日は一日ヨロシクね♪」
「は、初めまして……私はオリヴィアって言います」
中性的な美貌の青年が碧眼を向け微笑めば、黒髪少女は頬を赤らめさせて俯きがちに名乗った。
(……シャイな子なのかな?)
高い洞察力で相手の性格にあたりをつけたエルゼリオは、安心させるよう穏やかに話しかけた。
「オリヴィアさんか、良い名前だね。キミみたいなとても可愛い子が指名してくれて吃驚したよ。こういうお店は初めて?」
「はい……一回、海というもので遊んでみたくて……」
「海来た事ないんだ? それじゃ、まずは泳いでみる?」
「はいっ! あっ、あの、でも、私泳いだ事なくて……」
「大丈夫、ボクが教える。すぐ泳げるようになるよ」
という訳でエルゼリオは大人しめな水着に着替えた少女(本人としては頑張ってるようだったが)の手を引きエメラルドブルーに輝く海へと入った。
意外と運動神経は良かったのか少女はすぐにある程度には泳げるようになった。
「凄いね!」
「エルゼリオさんの教え方が上手なんですよ」
褒めると少女は顔を上気させ嬉しそうに笑った。
その後、二人は銛を使い海老等を獲ってみようという事になった。
(折角だし、高級食材をGETだ……!)
エルゼリオはすいすいと海底まで潜り、海老やサザエを次々に獲ってゆく。
そんな中不意に背後からモガッ?! という少女の声が水中に響いた。
振り向くと、彼方から大きなサメが一匹、身をくねらせ、鋭い牙並ぶ口を開きながら猛然とオリヴィアへ向かい泳ぎ来ているではないか。
(――不味い)
思った瞬間にはエルゼリオは前方へと飛び出していた。
蒼い炎の光を纏い少女とサメ型這者との間に人魚の如き泳ぎで割って入る。眩い光輝を銛に宿して閃光の如くに繰り出しサメの頭部を一発でぶち抜く。
這者を仕留めた青年は窒息しているらしき少女の手を引くと、急ぎ海面に浮上する。
少女が身を震わせながらエルゼリオに強くしがみついて来た。
「げほっ! げほっ! ご、ごがわがっ、だ……!」
「もう大丈夫、安心して。何が現れても、キミの事はボクが絶対に護ってみせるから……」
エルゼリオは安心させるように囁いて、少女が落ち着くまで抱き締めたのだった。
●
砂浜へと上がると、獲った海老やサザエをレンタルしたBBQセットを使用し焼いた。
「美味しいっ! ぷりっぷりっしてる!」
「獲れたてだからね」
オリヴィアが驚きに目を瞠り、エルゼリオは笑った。
海の幸を平らげると、二人は砂浜に寝転がって日光浴をした。
緊張気味だった表情もすっかり柔らかくなったオリヴィアは、口数も多くなって、どうして思い出屋を利用したのか教えてくれた。
彼女は今までその見た目通り真面目一筋に生きて来たのだが、近々家同士の取り決めで結婚する事が決まったらしい。
相手は二回り以上年上の中年男だそうだ。
なので、嫁ぐ前に一度くらいは青春したかったと。
「この時間が永遠に続けば良いのに……」
エルゼリオは傾いてゆく陽を眺めながら呟いた。
別れの時間が近付くにつれ、本当に寂しさが募ってくる。
「……今日がキミにとって楽しい想い出となりますように」
「……今日は本当、楽しかったですっ! 一日だけでしたけど、とっても良い思い出ができました!」
少し寂しそうな、けれどもオリヴィアは笑顔をエルゼリオへと向けた。
有難うございました、と深々と頭を下げて少女は青年へと別れを告げると、赤い夕陽に照らされながら、彼女の日常へと帰って行った。
●ギャメルの場合
「世の中、色んな商売があるんだな」
ま、金になるなら文句はない。
――でも、オレの需要ってどんなだ?
疑問を抱きつつ指名を受け彼が白い砂浜へと出ると、そこにはゆったりとした長衣に身を包み、白い羽飾りのついた帽子をかぶった、上品そうな老婦人が立っていた。
●
「ワタシはギャメルと申します、貴婦人様」
身長120cm、幼く見える赤眼のゴブリンは精一杯に礼儀正しくお辞儀した。
すると老婦人は微笑み、
「まぁまぁこれはご丁寧に、私はエリザベートと言うの。貴婦人なんて大層なものじゃない、ただの年寄りだから、無理に敬語を使わなくて良いわよ」
「…………じゃ、普段通りに喋らせて貰うけどよ、こんなんで良いかいエリザベート」
「ええ」
老婦人は微笑んだまま頷いた。
「……エリザベートは何をして遊びたい? ちなみにオレは砂遊びしてみたいぜ。砂でお城を作ってみたい。とびっきりのガチなやつ」
「あぁ、お城、良いわねぇ、懐かしい……」
婦人は灰色の瞳を細めた。
「私も昔、作った事があるわ。砂ではなくて、雪と氷だったけれど。良いわねぇお城、私も、作ってみたい気分になったわ」
「お、それじゃ、砂遊びで良いかっ?」
ギャメルが破顔して喜ぶと、老婦人は「ええ」と頷いた。
二人は砂浜にパラソルを立てシートを敷いた。
その付近で城づくりを開始する。
ギャメルはバケツの中に砂を詰めた。婦人がもう一つのバケツに海水を汲み取ってきて、ギャメルのバケツの中に海水を少しづつ注ぎ水分を含ませていった。
良く叩いて固めてから、砂バケツをひっくり返す。
バケツの裏を叩いて出すと、台形の砂柱はしっかりと固まっていた。
「これを土台にするんだぜ」
「なるほどね」
上に小さな器で砂を重ねてゆく。
モコモコと城壁や塔が生えてゆく。
ギャメルは砂の表面を細い棒の先で削った。窓にしてゆく。
「ちょっと休憩にするかい」
「まだ大丈夫だけれど」
城壁の細工を刻んでいたエリザベートが棒の先をシュシュッと振るって言う。
「浜じゃ早め早めに休んだ方がいいぜ」
「う~ん、それはそうねぇ……それじゃ、一休みしようかしら」
ギャメル達はパラソルの下へと移動した。日陰で少し気持ちが良い。
マジカルポケットから冷たい飲み物を二人分取り出し、並んで海を眺めつつ飲む。
休憩を終えると、ギャメル達は砂浜で貝殻を捜し集めた。そのうち最も美しいものをギャメルはこっそりと取っておいた。
砂城の細工を仕上げると、ギャメル達は集めた貝殻で城を飾る。
穏やかな表情を浮かべて城を飾っている老婦人の姿にギャメルはふと思う。
目の前の彼女はギャメルよりもずっと多くの夏を送ってきたのだろう。
(エリザベートにもオレくらいの歳の頃があったんだよなぁ……どんな子だったんだろう)
不思議な気持ちがした。
赤眼の妖鬼がじっと老婦人の灰色の瞳を見つめていると、
「あら……どうしたの?」
「アンタ、子供の頃はどんなヤツだったんだ?」
「とっても美人だったわ」
ギャメルがなんとも言えぬ顔をすると老婆はクスクスと笑い、
「まぁ、結構、お転婆だったわねぇ。貴方くらいの歳の頃は男の子に混じって槍を振り回してたわ」
「意外だな」
「歳月は何もかもを変えていくわ。三つ子の魂百までも、とも言うけれどね」
やがて城が完成する。
しっかりとした土台を持ち、窓や城壁らの細工が刻まれ、貝殻で彩られたそれは、なかなかの力作だった。
だが、建てた位置が少し悪かった。
時の経過と共に潮が満ちてきて、徐々に波が砂浜の奥の方へと届くようになってきていた。
やがて白波はギャメル達が建てた砂の城まで押し寄せてきて、あっという間に崩してしまった。
「……無常ねぇ」
エリザベートは残念そうに、しかし何処か達観した様で呟いた。
崩れ落ちた砂の城を目にして、ギャメルの胸の裡に漠然とした不安がせり上がって来た。
「……なぁ」
「なぁに?」
「手、繋いでも良いか?」
「良いわよ」
特に理由を聞くでもなく、老婦人は伸ばしたギャメルの手を取ってくれた。
すると不安が白波のように引いていった。
シワシワの手の存在感がなんだか今はとても落ち着いた。
やがて別れる時となり、
――たくさんの夏の中で、今日が色あせない思い出の夏になったらいいな。
ギャメルはそう思い、最も美しかった貝殻を老婦人へと渡した。
「あら、有難う」
彼女は微笑んで貝殻を受け取ると、帽子についていた羽飾りを引き抜き、ギャメルへと差し出してきた。
「お礼と言ってはなんだけれど、こちら、貰ってくださる? 幸運を呼ぶという鳥の羽なの」
「えっ、良いのかよ?」
「ええ、今日はとても楽しかったから。共に築城したギャメル、私達の城は消えてしまったけれど、その記憶は胸に残っているわ。どうか貴方に幸運がありますよう」
ギャメルが羽飾りを受け取ると、老婦人はそう微笑んで、一礼して去っていった。
●マリイ・パルティスの場合
「夏の海の思い出ですか。この夏はダンジョンとか、ダンジョンとか……ダンジョンに行きましたね」
ふっと遠い目をするのは地底系女子マリイ・パルティスである。
「ええ、冒険者になりしばらくたちますが、あまりにも出会いがないのでむしゃくしゃして参加しました!」
「……マリイさんアナタ、お客様側では……」
「ええ、はい、お客様でもよかったのですが! 選ばれたという自信がほしいので、サービス提供側になりますっ! さぁこい!! こいーーーっ!!!!」
「は、はいっ! ただいまっ!! 少々お待ちをーーーっ!!!!」
気迫に珍しく砂男が押されたように叫んで、店の外へと飛び出していった。
きっと営業にいったのだろう。
女王マリイは今は閉店している海の家の椅子に腰かけると、冷たいティーをむすーっとした顔で啜ったのだった。
●
そんなマリイさんだが、黙っていれば可憐な美人さんである。
いや普段は喋っていても普通に可憐で朗らかな(抜け目無い部分もあるが)美人さんである。
ちょっと今は地底し過ぎたせいで精神面にバステがかかってるだけである、多分、きっと、そうであるに違いない。アァ、帝国が崩壊さえしなければ……
とまれ、そんな訳で割と普通に迅速にご指名が入った。
「選ばれた……!」
マリイは両腕を軽く曲げると天へと向かい突きあげた。勝利のポーズである。
「あの~、よろしく頼みますねマリイ姐さん。一応商売なんで」
「わかってますよ。大船に乗った気でいてください」
笑顔でエルフ娘は茶を飲み干すと、気合を入れて表に出たのだった。
●
青い空で燦々と太陽が輝いている。
煌く波が押し寄せる白い砂浜を青年は一人の女性と共に歩いていた。
長い銀髪と神秘的な金瞳を持つ少女だ。
背丈は150cm程、小柄で細身ながらしかし出る所は豊かに出ている肢体を、襞飾りがあしらわれた夜空の色の水着に包んでいる。
彼女はマリイ、森の妖精である。
「ではご趣味は……」
「はい、服飾を少々……」
控えめな言葉と共にしずしずと歩くマリイは大変奥ゆかしい。
チラリと窺うように金色の瞳を向けられると心臓が早鐘を打つ。
「トールさんはご趣味は……?」
鈴を転がしたような声が響く。
「け、剣術ですね。一に剣術、二に剣術、三四五も剣術です!」
既に心奪われ始めている青年。
その後、マリイと共にエメラルドブルーに輝く海へと入ってゆく。
細身ながら豊かなプロポーションを持つエルフ娘が、白い手で水面を掻くように救いあげると、キラキラと透明な飛沫が煌きながら飛んで来る。
同じように水をかけ返せば少女は片目を瞑って「きゃっ」と小さく悲鳴をあげ、それからまた笑った。
ひとしきり水をかけあった後は、砂浜をちょこちょこと歩いているカニを共に観察したり、沖の方へと泳いでいったりもした。
可憐な彼女はすいすいと人魚のように華麗に泳いでいった。意外と体力がある。
太陽が大分高くなった所でバーベキューを開始する。
「ふふふ、こうみえて私お料理好きなんですよー」
可愛い上に料理も出来るとか素晴らしい。
「トールさん、こちら、お願いできますか?」
マリイは水着姿で包丁片手に肉や野菜をテキパキと斬って調味料等で味付けしていたが、そのうちに火の管理を男へと頼んできた。
「ええ! 任せてください!」
可愛い子から頼られれば悪い気はしない。トールは張り切って火を起こし火力を調節した。
さらに頼まれたので、串に肉や野菜やらの食材を刺す等の簡単な作業も行ってゆく。
やがて二人で料理を焼き上げると、
「はい、あーん」
マリイが笑顔で口元へと串を差し出してきた。トールは照れつつも肉に齧りつき咀嚼した。口の中で溶けてゆくような肉は脂が乗っていて大変美味だった。
「ここが天国か……」
思わず呟けばマリイは可笑しそうに笑った。
やがて陽が落ちてゆき、別れとなるとエルフ少女は小さな手でぎゅっと手を握って来た。
「楽しいと時間が過ぎるのあっという間ですね……」
寂しそうに伏せられた金色の瞳が夕陽を受けて紅に煌いている。
「名残惜しいですがもう帰らないとママに怒られちゃいます」
どうやら妖精さんは母親と共に暮らしているらしい。
まぁそうだろう、マリイのように可憐な娘が一人でモリモリパワフルに自活してるとか無いだろう。きっと日々、穏やかに暮らしているに違いない。
今日は本当にありがとうございました、と礼を述べた少女へこちらこそ、と返し別れた後も、男は未だ夢心地な気分のままでふらふらと帰っていったのだった。
●
「どんなもんですか!」
「お見事です」
パチパチと砂男が拍手しえへんとマリイは胸を張ったのだった。
●スー・ルーの場合
スー・ルーは接客の経験は無かった。
(ようは、楽しませりゃ良いんだろ?)
なら、本人に何がしたいのが聞くのが一番手っ取り早いのではないかと思った。
●
「――で、何かやりてぇことがあるから俺を選んだんだろ?」
スー・ルーは身長220cmを誇る筋肉質な偉丈夫である。
グレー髪に緑色の瞳を持つ猫科のハーフビースト。顔立ちは野性味溢れるが、とても整っている。
「やりたい事があるなら全力で乗るぜ、あんたが楽しけりゃ俺も楽しいからな」
ニッと野性的に猫科の半獣人の男が笑う。
すると女は少し考えているようだった。
ワイルド味溢れている半獣人を指名した女の年頃は十代前半程度だろうか、とても小柄で痩せた身をしている少女だった。
エメラルドブルーに輝くこの海のような、明るい緑髪を腿にかかる程に長く伸ばしている。
「やりたい事があるわけじゃないってんなら、一緒に考えるが」
なかなか返事が返って来ないので言ってみる。
といっても、スー・ルーは海に一回しか来たことが無かったのだったが。
「……潜って魚でも取りに行くか? でも、あんたの髪綺麗だから濡らすと勿体ねぇな」
「有難うお兄さん……これね、手入れが大変なのよね」
砂とか入ると最悪なのだとどこかぼんやりした調子で少女は言う。
「帽子とか、かぶった方がイイんじゃねぇか?」
海は日差しが強い。強い日差しは髪だけでなく肌にも悪いと聞いた事がある。
若い――というか幼いとさえ言えそうな少女は太陽に対し酷く無防備だった。
まだ考えている様子の少女に対し、ちょっと待ってろ、と言い置くと、大柄な男は思い出屋の所へと行って帽子を調達してきた。
白色の鍔の広い洒落た女物の帽子だ。
「これかぶっとけよ」
スー・ルーは言って緑髪の少女の頭に帽子を被せてやった。
「嫌なら、日陰の方に行くのでもいいけど」
少女は帽子を抑えつつふるふると首を左右に振った。
それから少女はじっとスー・ルーを見上げ、
「……貴方のお話を聞かせて?」
澄んだ緑瞳を向けて来た。
●
スー・ルーの本名はスールという。
「どうして冒険者としてのお名前が違うの? 偽名?」
「そういう訳じゃねぇ」
白波が押し寄せる海岸線を、少女と共に歩きながら男は言う。
「代筆頼んだ時に間違って書かれちまったんだ」
「あら、まぁ、訂正はしないの?」
「特に不便はねぇしな。面倒だから、そのままさ。こうして話の種にもなるから、むしろ便利なくらいだぜ」
男が豪快に笑うと、少女もまたくすと可笑しそうに微笑した。
スー・ルー、ことスールは過酷な自然の多い場所で生まれ育った。
その環境が彼の人格を形成した。
細かい事はあまり気にしないし人見知りもしない。至って快活で物怖じしない性格である。
「魔法は良い」
砂浜で行商をしていた砂男から甘い瓜を購入する。マジカルポケットから出て来たそれは、それぞれ手頃なサイズに切り分けられ、スールと少女へと手渡された。
赤い色の果肉を持つ果物は実に良く冷えていた。
魔法の力は偉大だ。
「魔法は不思議だ」
海岸線の大岩の上に少女と共に並んで腰かけ、エメラドブルーの海を眺めつつ、潮風に吹かれながら瓜を食べる。
甘くてなかなか美味だった。
「不思議なものは頭がいい。頭がいいものはかっこいい。かっこいいものは強い。つまり魔法は強い」
「力isパワーだって知り合いは言っていたけれど、確かに魔法も強いわね」
モゴモゴと瓜を咀嚼しつつ少女が頷く。
「ああ、特に火とかすっごい燃えるし熱い。雷もすごいビリビリして痛い。魔法ってのは強いぜ。すごく強い」
「大きいものこそ強いってまた別の知り合いが言っていたけれど……大きくて魔法も使える貴方は、きっととても強いのでしょうね。貴方はもしかして、実はとても賢いのかしら?」
緑髪少女が真顔で言ったのでスールは笑った。
「そうなのかもしれねぇな。俺は強いぜ」
強い、というのは過酷な環境を生き抜いてきたこの男を現すのに、間違いが無い言葉だった。
燃えるような巨大な赤い陽が、水平線へと落ちてゆく。
別れ際、ふと気になってスールは問いかけた。
「なんで俺を選んだ?」
小柄な少女は帽子を返しつつ、
「貴方、おっきいじゃない」
曰く、おっきいものは強いのだそうだ。
その目の高さからはどんな風に世界は見えているのかと知りたかったと言う。
「色々参考になったわ。やっぱり強い人は豪快に生きてるのね」
「そりゃ良かった。楽しかったか?」
「ええ、とても楽しめたわ。貴方は?」
「俺も楽しかった」
「それは良かったわ」
少女は嬉しそうに微笑んだ。
そうして何処か不思議な感じのする少女は潮風に緑髪を靡かせながら去っていった。
あの少女もきっとたぶん強いのだろう。
何かが不思議だから。
そんな事を、スールは思った。
●セツリの場合
「……世の中には、色んな仕事があるのですね」
主旨は理解した。
しかし銀狐の半獣人にはとても不思議だと感じられる仕事だった。
遊びの相手をするだけでお金が貰えるというのは。
セツリ自身が『海ですること』と考えると『釣り』『潮干狩り』『貝や海藻採り』等になるだろうか。
しかしそれらは『思い出屋』の主旨を聞く限り『何かが違う』
求められているのは食料確保ではなさそうだった。
故に、眼鏡をかけた紫瞳の娘は、水に入ることも想定、それに相応しい装いを整える事にした。
身長178cm、19歳の瑞々しくも柔らかい起伏に富んだ身を、純白に眩しい、ぴっちりとしたワンピースタイプの水着の中へと滑り込ませる。
溢れ出そうになった上下の裾部分の喰い込みを白い指先を入れて直し整える。
ワンピースの後ろはモフモフとした狐尻尾を出す為に大胆に開けた。
ここにマリオン青年が居たならばこの神聖にして偉大なる神々の丘の威光を前にし「ダーイナマイッ!」と叫び倒れ伏したに違いない。
狐耳を備えた若き娘はそれほどの爆破力であった。
あっという間に指名を受けたセツリは青空の下、眩しい陽の光を浴びつつ、煌く神々の丘を揺らしながら、白い砂浜へと降り立ったのだった。
●
「ひょ――!」
男はセツリが本当に目の前に現れて喉から変な音を鳴らした。
「どうかなされましたか?」
ミステリアスな雰囲気の、水着姿の狐耳娘が、その透明なグラスの奥から紫水晶の如く煌く瞳を男へと向け、小首を傾げてみせた。
「い、いや……ほ、本当に君が俺と遊んでくれるの?」
「はい。ただ、私は海での遊び方、というのが良くわからなくて……教えていただけたら、と」
「そ、そうなの? それじゃ、まずはボールででも遊んでみる?」
「はい。よろしくお願いします」
狐娘は男へと礼儀正しくお辞儀をして見せた。白い胸元が酷く眩しかった。
●
二人だし、と男がセツリに教えてくれたのは、手を使わず、砂浜にボールが落ちないよう蹴り続ける遊びだった。手以外なら身体の何処を使っても良いらしい。
「一人が連続して触るのは三回。四回以上でも二回以下でも駄目」
三回目で相手の方へとボールを飛ばして、相手側も飛んで来たボール同じように蹴り、三度目で相手側へと返す。
これを交互に繰り返す遊びらしい。
二人で協力してどれだけボールを落とさず長く続けられるかを競うようだった。
男は見本としてボールを真上に放り投げると落下してきたボールを胸を反らし受け軽く弾ませた。僅かな浮遊の後、やがて重力に従い再び落下したボールを腿で真上に蹴り上げ、さらに今度は頭を振ってボールを跳ね上げる。
「こんな感じ。で、最後は真上じゃなく相手の方へと飛ばす」
「なるほど……」
「やってみる?」
セツリは頷き、ボールを受け取った。
●
眩しい太陽が輝く青空へとボールが高々と放り投げられた。
白い水着姿のキツネ娘が落下点に入って、後ろに背を反らしながら胸元で受け止める。
――揺れる。
――神々の丘が揺れる。
伝承歌の中に在る、古代の街を灰の底に沈めた火山大噴火の際に巻き起こった大地震が如き激震が神々の双丘を襲い、下々の男達の視覚を爆発的に殴りつける。
狐の女神は白く眩しい太腿を高々と跳ね上げボールをさらに打ち上げ、再度落下してきたボールへと愛らしい狐耳を備えた頭部を振ってボールを男の方へと飛ばして来る。
放物線を描く軌道はほぼほぼ理想的だったが、男はしかし一歩も動けなかった。神に魂を奪われていたからである。
「こんな感じでしょうか……合っていますか?」
ヘディングの衝撃で少しずり落ちた眼鏡をかけ直しつつセツリが問うたが、
「神だ……」
「上?」
かみあっていない。
狐娘は不思議そうに小首を傾げた。
「なにか変だったら矯正をお願いします」
「きょ、矯正……? んっ、んんっ、そ、そうだな」
男は咳払いしつつ、足をちょっと上げ過ぎかな、と言う。
「先程はこれくらいでしたが……上げ過ぎ、ですか? どのくらいが良いのですか? ご指導願います」
セツリが太腿を上げて見せたので、男は手を伸ばし位置を水平に調整しながら声を震わせた。
「こ……こにょくらいにょたかしゃかな」
狐娘の太腿のすべすべさとやわらかさ加減は、男の知能指数を酷く溶かしていた。
「お顔が真っ赤ですが……陽にあたり過ぎましたか? 少し休まれて水分補給された方が良いのでは――」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから続けようッ!!」
ハッと正気を取り戻した男は再び距離を取ると、ボールを青空へと向かい放り上げた――
三度目、男が蹴り上げる方向を大きくミスしてしまった時、それでもボールを拾おうとセツリが突っ込んできて激突した。
(う、うぉおおおおおおおおっ?!)
もつれあった二人が砂上に倒れた時、男の顔面へと圧倒的な質量と柔らかさを兼ね備えた神々の白い双丘が迫ってきた。
――彼はその時、神に出会った。
神の神秘的な深さと甘い香りの前に男は意識を手放した。
その後、目を覚ましたが、
「先程はすみません。お客様に思い出を作る、というお仕事ですが、私の方が教えてもらったりで……ありがとう、ございます」
とセツリが普段は作らない可憐な笑顔を作って見せ、男は再び意識を失いかけたのだった。
●シェオルの場合
アイラが夜、思い出屋を訪ねるといつもとは違う部屋に通された。蝋燭の火に照らされている、薄暗く狭い部屋だ。
「――君が僕と遊んでくれるの?」
声と共に室内に入って来たのは緑髪黒瞳の森の妖精だった。
歳の頃は十六歳程度に見えるだろうか。身の丈は中背、152cmのアイラより頭一つ以上大きい。すらっとした細身である。
危険は無いと解っていても狭い部屋に夜、同年代の異性と二人きりになると少し怖さがある。
アイラは流行りの髪型にセットしてきた赤毛の先を手で弄びつつ、ツンと顎先を持ち上げた。
「えぇ、そうよ、私ではご不満?」
「いやまさか。もちろん選んで貰えて光栄だよ、嬉しいな」
森妖精の少年は尖ったアイラの物言いに対しても、人の良さそうなにこやかな笑みを浮かべている。
少年はその笑みのまま言う。
「ふふ……楽しい夜にしようね」
妖精の声には背筋を指先でそっと撫でて来るような、ゾクリとする響きがあった。
「……ええ、そうね」
アイラが怯えを表情に出さぬよう眉を吊り上げ言うとエルフ少年は瞳を細め、蝋燭にそっと息を吹きかけて、唯一の光源たる炎を掻き消した――
●
蒼白い月が煌々と輝いている夜の海。
風が昼とは逆に吹いている。
上下が大胆に別れている水着に着替えたアイラは、月明りに照らされる白い砂浜へと降り立った。
「月を映した海、夜の帳に浮かぶ砂浜の白……綺麗だね」
同じく水着に着替えたエルフ少年が流麗に声を響かせる。
彼の名はシェオルというらしい。
「詩人ね」
アイラが言うとシェオルは微笑して、
「有難う。アイラ君、素敵な景色を眺めながら少し散歩でも、どうかな?」
と闇の奥を指差し誘ってきた。
「まるで魔物でも出てきそうな夜ね」
「大丈夫、危険は何も無いよ。何もね。それとも、怖い?」
「怖くなんてないわよ。良いわよ。行きましょう」
「それではお嬢様、お手を拝借」
妖精少年が手を差し出してきたので、赤毛の少女はその手を取った。
月光の下、闇に浮かぶ白い砂浜を歩き出す。
大きな月が海面に映し出されて揺れている。
二人が踏みしめてゆく砂の音と寄せては退いてゆく潮騒が響いている。
「静か……波の音が良く聞こえて、心地好い……ね、アイラ君は静かなところって、好き?」
不意に、耳元で囁くように隣を歩く妖精少年が言った。
「…………まぁ嫌いではないわね」
アイラの心臓は緊張からドクドクと強く脈打っていたが平気なフリをして答える。
シェオルは言った。
「僕は好きなんだ……何をしても、されても――誰にも気付かれずに済むような、そんな感じがするよね……」
少女の心臓が跳ね上がった。
「ど……どういう意味よ……っ?」
堪えきれず少し声を震わせてしまったアイラへと妖精少年は笑顔を向け言う。
「いっぱい遊んでも大丈夫だね、って事さ……!」
その物言いに十六歳の少女アイラは震えた。
(お、思い出屋さんは安全なお店じゃなかったの?!)
遊んでいるような風体をしているアイラだったが、その実は恰好だけであったりする。今時経験無いなんて恰好悪いから、とこなれている女なフリをしているがホンモノの経験は無いのだ。
「……そうだ」
月下の妖精が笑う。
「せっかくだから、足元くらいは海の中に入れて涼もっか?」
エルフは方向を転じ、夜の海へと向かい歩き出す。
手を握られているアイラも腕を引かれ、暗い海へと引かれてゆく。
アイラは思わず抵抗し立ち止まった。
「ん、どうしたの……? おいでよ……?」
シェオルが少女を振り返る。
既に足元には白波が寄せてきていて、アイラの指先と足裏から震えるような冷たさを伝えて来ていた。
「暗いから……怖いのかな? 大丈夫、深いところまで行かなければ平気だよ……」
囁くようにエルフが言う。
「それにもし、君が波に攫われても……僕が攫い返してあげるから……ね?」
妖しい瞳の輝きに射られて、ドクドクと血流を体内へと送り込んで、少女は半ばパニックになっている脳を働かせて、思った。
――それも良いかもしれない。
と。
そうして赤毛の少女は、妖精の少年に手を引かれ、月光を浴びながら、暗い海へと入っていった。
ひとしきり海を堪能した後、シェオルは再びアイラの手を引いて砂浜へと上がった。
「ああ、気持ち良かった……もう、すっかり遅くなっちゃったね。名残惜しいけれど、今日はここまでかな」
「そ、そうね……」
シェオルは少女の手を握る力を少し強めて、
「……ねぇ、また、一緒に過ごしてくれる?」
と問いかけた。
――またのお越しをお待ちしてるよ!
の意である。
実は最初に蝋燭消したのは単に節約だし、他の諸々も他意はなかったりする。
「え、えぇ……そうね、また、今度、一緒に……」
しかしそうとは知らず、意味深な言動に頬を赤く染めている少女は、どこか夢心地のような表情でそう頷いたのだった。
マスターコメント
この度はご参加とプレイング、誠に有難うございました。
素敵な夏の思い出が沢山生まれましたね。有難うございます。
MVPはその中でも特に「青春なのです」をしてたかな~という具合の方をまず選出させていただきました。
こちらの方のプレイング、今回のシナリオ的にとても適合していました。
字数が足りなくて、折角良いプレイングいただいたのに最大限には活かし切れなかったと感じるくらいで。
6人EXでもタリナイヨ……
二番手争いはまた例によって非常に迷ったのですが、自PCの魅力をガンガンに押し出すプレイングを書かれていた方を選ばさせていただきました。
今回のシナリオの主な判定点は「いかに自PCの魅力を発揮するか?」でありましたので、ゴリゴリと自PCの魅力を万世に遍く轟かすプレゼンするような具合であるのが良く、そういう趣旨からすると、こちらの方かな~と。
ご自身の武器をわかりやすく積極活用なされていたのではないかと思い、こういう判定となりました。
ご満足いただけるリプレイになっていれば幸いです。
ショートEX難しい 報酬:多い6 / 4〜6人
2021年09月09日 23時14分19秒 公開
成功
参加者
相談掲示板
ヒーラーのセツリです。 『思い出屋』の提供側で参加しようかと……遊ぶだけでお金をもらう、というのがすごく不思議な感じですが。
ギャメルだぜ。各自で行動する依頼だけど、みんなよろしくなー! オレはモブNPCと海で遊ぶ予定!
エルゼリオ・レイノーラです。今回はヨロシクね! ボクもサービス側でモブNPCと海水浴したり、日光浴したりして遊ぶ予定だよ~。
エルフのシーフ、シェオル。どうぞよろしくね。 ほんと、不思議な仕事だなぁ……色々レンタルもできるみたいだし、楽しく過ごせそうだね。 僕もサービス提供側で参加する予定だよ。
No.5
スールだ。仕事中は会わねぇかもしれねぇが同じ仕事だ、よろしくな。 提供側で参加するぜ、客は誰でも構わねぇから……モブNPCってやつだな。
はっ。ぎりぎりですがマリイと申します! 私もおまかせでNPCさん相手にお仕事しようと思います!