コンドッティエーレ

影絵 企鵝

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シナリオID:1301

オープニング

●これまでのあらすじ
 リーンエス王国北方、ティロール子爵領。王国を守る忠誠篤い騎士家門フィーギル家に報いるため、また拡大志向を強める帝国への睨みを利かせるため、王が与えた所領だ。しかしその土地は本来グランツ伯の直轄領であり、これを不名誉と見做したグランツ伯は事あるごとに子爵領への締め付けを強め、フィーギル家はむしろ酷く困窮した。そうなる原因を作った当の王家は、足元で強まる王党派と貴族派の対立によって、もはや騎士の誇りも失くした小領主の窮地になど構っている暇はなかった。
 望むと望まざるとに関わらず、強かになることが領主のマティアスには求められていた。

●最も価値のあるもの
 ある日、マティアスは妹の婚約者であるフリードリヒ・ホーエンバッハを客人として迎え、慎ましい会食をしていた。
「……で、ミネルヴァはリブラネスタへ向かったと」
 ゆで卵の殻を手で剥きながら、マティアスはフリッツに尋ねる。フリッツはザワークラウトをパンに挟みながら頷いた。
「ええ。彼女の事です、早馬を飛ばして一週間後には到着しているでしょう。そこからは海路でシャルガネに向かう手筈です」
「シャルガネか……シノビにでもなって帰ってきそうだな」
「そのつもりのようですよ。シノビの技術を学んでどんな急場も凌げる女になるとか何とか言って。それだけなら良いですが、その技術を使って余計無茶苦茶やりそうで、どうにも気が休まりません」
 フリッツは大口開いてザワークラウトのサンドを頬張る。マティアスは僅かに頬を緩めた。
「それでも愛想を尽かさずにいてくれる男がいて、妹は幸せ者だよ」
 フリッツはバツが悪そうな顔をした。綺麗に剥いたゆで卵をスプーンで突き崩しながら、彼は尋ねる。
「……ともかく、私を呼んだのは何故です」
「君に助言を頼みたくてね」
 マティアスは溜め息をついた。
「この前の件で金は手に入ったが、いささか持て余している。この土地をどう開発したものか決めあぐねているのだ。君ならどうするかと思ってね」
 潰したゆで卵をザワークラウトに混ぜながら、フリッツはテラスの外の景色をじっと見つめる。
「ここは狭い土地ですからね。作れる限り畑を作っても、養える人口には限りがある。しかし南へ開けた丘陵なだけに、それなりに日当たりは良く、森からは良い材木が取れる。工房の一つや二つを拵えて労働力を招き入れるのがよろしいかと」
「しかし、あの森は我々だけのものではないのだが」
 マティアスが口ごもると、フリッツは眼差しを強めて彼をじっと見つめる。
「その辺りの取引はマティアス殿自身の手腕に期待するとして、しかしながら新規事業というものはどうしても成果が出るまでに時間がかかるものです。もう一つ、当面の収入を得るための方策が必要となるでしょう。……マティアス殿、この所領の中で誇れるものは何ですか」
「誇れるもの……」
 マティアスは一瞬皿の上のマッシュルームに目を向けたが、フリッツは一向に面白い顔をしなかった。マティアスは咳払いすると、フリッツに向き直った。
「我々はかつて一つの騎士団だった。今や完全に農民となってしまった者も多くなってしまったが、それでも皆に誇り高い戦士の血がまだ流れていると信じているよ」
 彼が答えると、フリッツは深々と頷いた。
「ならばそれを活かさぬ手はありません。貴方達の槍には立派な価値があります」
「……我々に傭兵をしろということか?」
「仰る通りです。今、帝国残党による国土回復の機運が高まり、戦線が拡大しています。冒険者ギルドが全面的に協力しているようですが、それでも兵力は多ければ多いほど良いという状況です。我々が援軍を売り込む機会は山ほどあるでしょう」
「うむ……しかし、国を失ったものに金を出せと言っても、出してもらえるものだろうか」
「ええ。亡国の徒に見返りを求めても、手に入るものは不名誉ばかりでしょう。しかし、彼らを支援しようとする商人や職人の護衛をすれば、それなりの収入になろうかと思います」
「なるほどな」
 フリッツはさらにザワークラウトを自分の皿に取り分けると、さらに話し続ける。
「それに、来るべき時のことを考えたら、今のうちに実戦で兵の練度を高めておくのも不可欠です。大義名分は立つでしょうが、それでもかの金満伯が黙ってはいないでしょうからね」
「そうだな。……では、手を打ってみるとしよう」
「私も協力しますよ」
 彼はザワークラウトを頬張り続ける。マティアスは苦笑した。
「……お前は本当にそれが好きだな」
「滋養に富んでいますからね」

●薔薇の稽古
 君達はフリードリヒの依頼を受け、ティロール領の訓練場に集まった。そこで彼らを待ち受けていたのは、青い軽装に身を包んだ兵士達である。その胸には、皆一様に赤い薔薇を付けていた。
「よく集まってくれました。感謝を申し上げます」
 トリコーンハットを目深に被り、裾長の軍服に身を包んだフリッツがやってくる。黒い指揮杖を手に、彼はぐるりと君達を見渡した。
「本日皆様に集まっていただいたのは、他でもない、我々の兵士との合同訓練のためです」
 軽装の兵士に交じって、黒いサーコートに身を包むマティアスもいた。己の身長ほどもある長弓を手に、君達を半ば威圧するようにじっと見つめる。
「ただ、この場にいるのは大半が授恵者ではありません。このまま貴方がたとぶつかりあったとて、圧倒されるだけ圧倒されて、得るものはほとんどありません。そのため、今回は一つルールを作らせていただきたく思います。まず一つは、気絶した時点で脱落。これは当然です。もう一つは、この胸に留めた薔薇。これを皆さんにも付けて頂き、その薔薇が落とされた時点で脱落と致します。貴方がたに刃を突き立てるのが難しくとも、薔薇を落とすくらいならばただの兵士にも出来ますからね」
 兵士の一人――ウォルトが駆け寄り、籠に積まれた薔薇を差し出す。本物の薔薇ではなく、それを象ったブローチだ。
「ほら、付けてくれ」
 薔薇のブローチを付けている間に、フリッツは指揮杖を軽く振る。彼の号令に合わせ、兵士達はバタバタと列を作った。
「ただ、それだけでは貴方達に一方的に譲歩させる形となるため、こちらも負けの条件を一つ作ります。指揮官である私が薔薇を落とされた時、全員が皆さんに降伏します」
 フリッツは列の背後に立つと、杖を高く振り上げた。先に埋め込まれた黒い宝玉が光り、周囲に細かい光の粒をばら撒いていく。
「とはいえ、簡単に負けるつもりはありません。私は生まれつきヒーラーの素養があると見做されながら、一向に癒しの力には目覚めなかった。その代わり、他者により強力な加護を与えることが出来る。癒して守るのではなく、導いて守る。それが私のヒーラーとしての特別な力です」
 隣に立ったマティアスが、弓を片手に半身となった。切り株に立ったカラスが、じっと君達を見守る。
「私のカラスが鳴いたら試合を始める」
 
「たかだか一兵卒と、舐めてかからぬようお願いしたい」

 カラスが天を仰ぎ、カアと鳴いた。

解説

メイン 兵士達に稽古をつける サブ  一人も脱落せず勝利する ENEMY ☆フリードリヒ・ホーエンバッハ  ヘーゼル伯の後継者。特殊な能力を持つヒーラー。本人の戦闘力はともかく、指揮能力は高い。 ・クラス  ヒーラーLv15 ・スキル(一部)…PL情報  戦術眼 天眼 ・特殊スキル…PL情報  インムニテート  (半径3HEX以内のO召喚を無効に出来る。無効回数が増えるほど失敗の可能性が上がる)  エスカッシャン  (隣接する3HEXの味方に堅甲の効果を与える。追加で近接攻撃を防御した時ノックバックさせる)  ウォークライ  (隣接する3HEXの味方に輝刃の効果を与える。追加で近接武器の射程+1)   ☆マティアス・フィーギル  ティロール子爵。指揮能力もさることながら、彼自身が優れたシューターである。 ・クラス  シューターLv15 ・スキル(一部)…PC情報  濃煙炸弾、捜波 ☆ティロール兵×30  ティロール家の下で働く兵士。半農半士、普段は畑を耕しつつ、農閑期に兵士として鍛錬している。 ・クラス  一般兵 ・使用武器  長槍×20、クロスボウ×10 ・スキル  なし ・戦法  横隊(横並びで守りを固める。ZOC判定を強化する)  散兵(間合いを取り合い、範囲攻撃のダメージを抑える) FIELD ・草原  村の外れに広がる草原。家畜の放牧に使われる。真っ平らで隠れるものは何もない。 ・配置  互いの勢力が向かい合う形で戦闘開始。 TIPS ・戦闘不能の心配は少ないが、薔薇を落とされてしまえば脱落となる。 ・指揮官二人はともかく、ティロール兵はまだ練度が低め。搦め手には弱い。

マスターより

影絵企鵝です。 今回ミーナはお休み(移動中)なので、代わりにフリッツが出てきました。 今回の結果次第では、彼らの活動範囲も広がってくるかもしれません。 戦闘不能の心配はないので、駆け出し冒険者の訓練に向いてるかもしれませんね。 では、よろしくお願いします。

リプレイ

●神威の射手
「構え!」
 フリッツは杖を突き出し叫ぶ。槍を構えた兵士が冒険者達の前に列を作っていく。バンビはその瞬発力を活かし、その列が整いきらないうちに仕掛けた。
「敵の先の先を行く。それがバンビ流兵法ですわ」
 黄の魔導書を開き、早速氷の嵐を巻き起こす。隊列の中央に陣取っていた兵士達は慌ててその場に屈み込み、どうにかそれを耐え忍ぶ。胸元の薔薇のブローチが揺れたが、剥がれ落ちまではしなかった。
「簡単に散ってしまってはそちらも張り合いがないでしょう」
 杖を短く握り、フリッツはバンビを一瞥する。
「それならば、何度でも試してやるだけですわ」
 バンビは魔導書を広げたまま走り、さらに隊列へ狙いを定める。隊列の背後に立っていたマティアスは、素早く矢を番えた。
「そう易々と行くものか」
 バンビの胸元へピタリと狙いを定める。それを見たセリオス・オーガストもまた弓を取る。
「それはこちらの台詞だ」
 彼が弓を引いた瞬間、エーテルがみるみる鏃へ集約されていく。狙うは彼の弓引く手。
「兄上殿」
 しかしフリッツはセリオスの動きを見逃さなかった。マティアスは咄嗟に腕を引いて矢を躱す。サーコートの肩口を矢が掠め、エーテルの光が後を引く。セリオスは弓を下ろすと、身を低くして走り出す。その頭上を、マティアスの放った矢が抜けた。
「奴を狙え!」
 マティアスの号令と同時に、クロスボウを構えた兵士達が五人、セリオスへ狙いを定めた。コルネリウス・アーラは咄嗟に身を乗り出すと、盾を構えて飛び交う矢を受け止める。フリッツはそんな彼女を見据え、淡々と語り掛けた。
「やはり一筋縄ではいきませんね。さすがは前線を張る勇士と言ったところですか」
「おだてても何も出ませんよ」
 突き出された槍を盾の腹で弾き返し、コルネもフリッツに応える。
「私もこう見えて重装兵の部隊を一つ率いる隊長です。我が身の事として精一杯稽古をさせて頂きます」
「私のような若輩から学ぶ事があればよいのですがね」
 フリッツが杖を振り上げようとした瞬間、光り輝くエーテルの球が膨れ上がり、前線の兵士達を纏めて包み込む。
「帝国との国境を守ってきた兵士が、帝国人に戦を習う気分はどうかしら?」
 アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは冗談めかしてちらりと歯を見せる。しかし、その翡翠の瞳は爛々としていた。帝国が滅んだとしても、王国兵に負けるつもりはなかった。
 彼女は杖を短く持つと、前線の脇へ回り込むように走り出す。彼女を横目に捉えたマティアスは、周囲の弓兵に叫ぶ。
「来るぞ」
 残りの五人が弩を水平に構え、アウレーリアへ狙いを定める。彼女は咄嗟に足を止め、目の前に鉄の壁を呼び出した。矢が弾け、甲高い音が立つ。マティアスは改めて弓を引き、鉄壁の陰から様子を窺う彼女を睨む。
 ルアンナ・ミュラーはそんなアウレーリア達の睨み合いを他所に、杖を突き出して強烈な水流を巻き起こす。側面を狙われた槍兵達は対応が間に合わず、直近の二人はエーテルの奔流をもろに浴びてひっくり返る。ルアンナはからから笑い、得意げにコートの裾を翻す。
「そんな風に固まってたら一網打尽にしちゃいますよ!」
 陽気に挑発するルアンナに、槍兵達はじりじりする。
「このままじゃいいようにやられちまいますよ」
「構え槍。揺さぶられないように」
 フリッツは冷然と指示を出す。兵士が慌ただしく槍を構えると、サイラスはそこへ光の破片を撒き散らした。頭に直撃を喰らった一人がその場に昏倒する。倒れた仲間を見下ろし、兵士は唖然とする。
「怯むな! 押し返せ!」
 しかし、ウォルトだけは怯まない。フリッツは杖を振るい、前線の兵士を赤い光で包み込んだ。槍の穂先からは光の刃が伸びていく。
「これでも喰らっとけ!」
 ウォルトは気合と共に、サイラスの首からぶら下げられた薔薇のブローチ目掛けて槍を突き出す。サイラスは籠手を振るい、その槍を脇へ弾いた。
「なるほどな。さしずめお前が兵卒のまとめ役ってところか」

 冒険者達と兵士達がぶつかりあう中、ザザ=ステルヴィナは一歩後ろに立って慎重に敵の様子を窺っていた。空から見下ろす天眼の視界も上々である。
「フリードリヒさんが槍衾を作って正面からのぶつかり合いを遠ざける間に、マティアスさんや他の弓兵達が遊撃してこちらの数を減らしに来る……というところかしらね」
 呟いている間に、マティアスが空高くへ弓を向けた。大きな弧を描いて飛んだ鏑矢は、いきなり鏃が膨れ上がって弾け、もうもうと立ち込める濃紫の煙がザザの視界を一気に塞ぐ。ザザは咄嗟に飛び退き、煙の外に出て杖を構える。
「うーん……マティアスさんの機動力と索敵能力は厄介ね。……どうにか早めに退場して頂きたい処だけれど」
 マティアスとフリッツは常につかず離れずの距離を保っている。互いにカバーしあえる距離だ。イズル・M・ヴォルゴールも、鉄の盾を構えて兵士達の繰り出す槍を受け止め、その奥に立つフリッツの顔を窺う。
(表情が読めないな……)
 フリッツは眉一つ動かさず、仮面のような無表情で前衛へ指示を送る。
「前進せよ」
 兵士達は光に包まれた槍を水平に構え、一斉に押し出してくる。言われるがままの単純な動き。だからこそ近寄る隙が無く、イズルは咄嗟に下がった。
(信頼……とは少し違う気がする)
 イズルの領地もまた半農半士の風土。戦いとなれば食い扶持を守るためと、肩を並べて戦う。そこには同胞としての信頼があった。しかし、フリッツはそうした感情的なつながりを努めて排除しようとしているようにも見える。
(自分もいつかは領主になるんだ。その時に備えて、少しでも学ばないと)
 戦槌を構え直すと、イズルは槍を振り払って槍衾へと切り込んでいった。

●授恵者の力
 冒険者達が次々に放つエーテルの光。フリッツの援護を受けながら耐え忍んできた兵士達も、大抵薔薇が散るよりも先に体力の限界を迎えていく。サイラスは矢を放ち、ウォルトの鳩尾を打って昏倒させる。
「うぐっ……」
「ウォルトの旦那!」
「一番出来そうな奴でもこの程度か。その程度で戦いに出るつもりか? わざわざ畑が荒れる危険を冒すより、大人しく畑をいじっておいた方がいいんじゃないか?」
 サイラスはその巨体と低い声で兵士に圧を加える。さっさと戦意を喪失させてやれという算段だ。
「この野郎!」
「舐めやがって!」
 だが、むしろ兵士は戦意を剥き出しにして、サイラスへと挑みかかろうとする。フリッツは杖を振るって守りを固め、静かに首を振った。
「かかってはなりません。その場で踏み止まりなさい」
 しかし、兵士達はいきり立って振り返った。
「将軍! 俺達だって戦士の血を引いてんだ! あんなこと言われたら我慢できねえ!」
「耐えなさい。我々が個々で立ち向かったとて向こうには勝てませんよ」
「将軍!」
 兵士達は歯を剥き出す。サイラスの居丈高な振る舞いに怒り心頭だ。フリッツは僅かに眉根を寄せる。彼の指示が鈍った隙に、コルネは前線に肉薄して叫ぶ。
「貴方は腰抜けです! 戦いの時間を徒に引き延ばすだけで、ほとんど攻めかかってこないではないですか!」
 エーテルを込めた渾身の挑発。初めの頃はさらりと流していたフリッツだったが、周りの兵士の視線がそれを許さない。フリッツは溜め息をつくと、杖を掲げて前線に攻勢の加護を与える。
「突撃せよ!」
「……やっとかかりましたね!」
 槍を構えて押し寄せてくる兵士の一撃を長剣で受け流し、コルネは剣を水平に振り抜く。放たれた衝撃波が、一気に三人の兵士の薔薇を砕いた。
 前線は隊列が乱れ、混戦の様相を呈する。マティアスは唸った。
「おい! フリッツ!」
 マティアスは弓を構え、フリッツの後を追おうとする。戦場の奥から様子を窺っていたルアンナが、そこへすかさず飛び出してきた。
「隙ありです!」
 ルアンナは杖を振るい、マティアスの目の前を差す。不意に鉄塊が目の前に現れ、彼は視界を塞がれた。
「よし! このまま……」
 マティアスが飛び出した瞬間、杖を構えて魔法の糸を放つ。だが、マティアスもまた目にも止まらぬ速さで弓を引き、ルアンナが胸に留める薔薇のブローチを撃ち抜いた。
「そんな!」
「神威の射手を舐めるな」
 かつての天才騎士の意地だったが、彼の抵抗もここまでだった。混戦となった前線を潜り抜けたザザが、マティアスの降り立つ隙に稲妻で彼を包み込む。
「ふふ。悪く思わないでね?」
「……ここまでか」
 身動きの取れないマティアスはただ項垂れる。ザザの放った魔弾が、マティアスのブローチを砕いた。周囲の弩兵は息を呑む。
「マティアス様!」
 その場で跪くマティアス。弓兵の足が竦む間に、セリオスがさらに踏み込んでいく。
「立ち止まっている暇はないぞ」
 猫の目を爛々と光らせ、セリオスは弓兵達を威嚇する。マティアスを失った兵士達は、簡単に怖気づいてしまう。慌てて身を寄せ合い、セリオス目掛けて矢を放とうとする。
「脆いな」
 セリオスは弓を引くと、固まる弓兵の中心に光の矢を一本撃ち込む。矢は一瞬にして砕け散り、光の礫となって襲い掛かる。薔薇を砕かれ、頭を打たれ、彼らは次々に倒れた。

 隊列を広げて押し寄せる兵士達。フリッツも兵士達の背後に潜むのを止め、自ら兵士の落とした槍を拾って突っ込んでくる。
「突貫せよ!」
 彼の勢いに導かれるように、他の兵士達も果敢に冒険者へと襲い掛かる。イズルは盾を光で包み込むと、フリッツが突き出した槍を受け流す。
「まさか自分まで突っ込んでくるなんて」
「規律が乱れた以上は仕方ありません。兵士の士気が萎えないうちに突貫します!」
 一人の兵士が脇から切り込み、イズルの腕を掴もうとする。イズルはそれを振り払ったが、その隙に踏み込んできたもう一人が槍を差し込み、イズルの胸に留まったブローチを叩き落とした。
「やられた……けど、これだけ集まってくれれば!」
 イズルはその身を後ろへ引く。ハイスピードキャスター、バンビがその陰から素早く飛び出し、魔導書を開いた。フリッツは顔をしかめ、辺りの兵士に指示を出す。
「散開!」
「もう遅いのですわ」
 あっという間にエーテルを掻き集めたバンビは、光の弾群をフリッツ達へ叩き込む。兵士達は薔薇のブローチを打たれた衝撃で次々地面に倒れ、それを何とか凌いだフリッツだけがその場に残される。槍を杖に持ち替えながら、フリッツは呻いた。
「……よもやこれまでか」
 敗北を悟った彼の目の前に、アウレーリアが立っていた。杖を優雅に振るい、その先に紅蓮の炎を灯す。
「帝国の人間として、王国の人間に負けるわけにはいかないってね」
 彼女が杖を突き出すと、その先に灯った炎が魔法の矢に変わり、一直線にフリッツの胸元のブローチへ突き刺さった。フリッツは天を仰ぎ、そのままその場に腰を落とす。アウレーリアは悠々と彼へ歩み寄る。
「ざっとこんなところね。オーデンヴァルト卿」
「ええ。ひとまず演習は終了です」
 フリッツは肩を竦めると、杖をつきながら立ち上がった。
「……さすがは冒険者と言ったところ、でしょうか」

●個の力、群の力
 一時間後。イズルの治療を受けて、昏倒した兵士達も気が付き始めた。それでもまだぼんやりしている彼らを見渡して、イズルは静かに頭を下げる。
「今日はありがとうございます。こちらにとっても色々勉強になりました」
「いやいや。やっぱりあんた達は強いなあ」
 そこへやってきたアウレーリアは、兵士達をぐるりと見渡す。
「……さて、皆起き上がったところで反省会としましょうか。今回の敗因は何なのかしらね」
「そう言われても、冒険者が八人も集まったら、俺達に勝ち目なんかねえでさあ」
 兵士の一人が不満げに訴える。彼女は腕組みした。
「かもしれないわね。けれど、少なくとも最後の乱戦は良くなかったわ。数がいくら多くても、一人一人が勝手な戦いをしていても押し潰されるだけよ。とにかく、命令された通りに連携を保てるようになさいな」
「うむむ……」
「ついでに、将が窮地に陥ったくらいで狼狽えていたら生き残れるものも生き残れないな。いきり立ったのも含めて、もっと精神的な粘り強さを身に付けるべきだ」
 セリオスはぶっきらぼうに言う。兵士達が顔を見合わせていると、たったかバンビが駆け寄ってきた。
「さあ、問題点がわかったところで、早速走り込みを始めますわよ」
「走り込み?」
「戦場において何より不可欠なのは機動力ですわ。相手に先んじて攻撃を仕掛けられれば、気持ちに余裕を持って立ち回れるのです」
「はあ……」
 バンビの勢いに気圧されがちな兵士達。バンビは一人を引っ張り立たせると、そのまま原っぱへと突き出した。
「さあ、まずはこの牧草地を一周しますわよ」

 バンビに引きずられるように、兵士達はひいひい走り出す。ウォルトだけは取り巻きから離れ、サイラスと共に彼らの様子を眺めていた。
「騎士の末裔という割には、血の気の多い奴が多いな」
「訓練されない勇気は蛮勇ってわけだ。畑を耕すのも、身体的な鍛錬にはなるんだがな」
 ウォルトは肩を水袋で冷やしながら溜め息をつく。
「今日みたいに無謀な突撃に出て、まとめてやられるようなことにならなきゃいいがな」
「そんな事にならないよう、俺が目を光らせておくとするよ」

 一方、コルネはマティアスやフリッツと共にいた。一軍を率いる者として、二人の話を聞いておこうというのである。
「今回そちらが敷いた陣形……私が率いているのは重装兵団ですが、後衛との連携をするうえで参考になりそうです」
「ただ、今回は面攻撃にかなり押されちゃってたわね。後半は皆へろへろだったわ」
 ザザが指摘すると、マティアスは静かに頷いた。
「確かに、この戦術は百人単位の戦場でこそ、より真価を発揮する。人数が少ないと爆炎や炸光矢が強いからな」
「後で思ったことを書簡にして送っておくわ。参考にしてくださる?」
「感謝する。一人の眼ではわからないことも多い」
 ザザとマティアスのやり取りを横で聞いていたルアンナは、おもむろにマティアスやフリッツの顔を覗き込んだ。
「お二人から見て、私達の戦いはどうでしたか? 何か気になる事はあります?」
「……確かに、皆さんの実力は流石です。ただ、欲を言えば、もっと意識的な連携を見せて頂きたかったところですね。そうすれば、こちらは手も足も出なかったでしょう」
 フリッツは眉根を寄せて応える。あれこれ言いつつ、今日の負けはそれなりに悔しかったらしい。
「次に機会があれば、私の領地の正規兵も連れてきます。もう少しそちらにとっても実のある稽古が出来るよう、こちらも尽力しますよ」
 彼の眼の奥には、鋭い光が揺らめいていた。


 おわり

マスターコメント

この度はご参加ありがとうございました。 今回のシナリオ結果は普通となりました。理由としてはリプレイにもありますが、相互の動きを把握して共闘できていれば、不意の事故も防げたかなという感じです。 ただ、こちらとしても横隊と散兵は並行して使うものだともう少しちゃんと示せていたら良かったかなと少し反省しております。すみませんでした。 また、MVPについてはコルネさんに差し上げています。執着に引っ掛けてフリッツが指揮に集中できないようにするのはかなり効果的でした。 またご縁があればよろしくお願いします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年08月28日 20時40分02秒 公開

普通

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー。 とりま絡め手使える人が使うか否かとか? 内容的にZOC展開しまくって不利作るとかいや俺できんが。 まあやるとして行けるなら弓使って中後衛したいが。

  2. バンビ

    ハイスピードキャスターのバンビですわ。 俺の教えは一つだけ。「敵よりも早く動け」ですわ。 定番のアーケインでZOCを作るのは定番ですが、フリードリヒ様の打ち消しが厄介ですわ。 たくさん用意して失敗確立をあげるのも手ですが、面倒ですわね。

  3. イズル・M・ヴォルゴール

    ヒーラーのイズル、よろしく。 半農半士の兵士に興味があるのと、その指揮官の出す指揮に興味があって参加した。 戦闘依頼もそこまで参加してないので、戦い方の大筋はみんなに任せたい。

  4. ザザ=ステルヴィナ

    キャスターのザザ=ステルヴィナよ。今回はヨロシクね。 フリードリヒさんのバフ系支援が厄介だから、 彼とティロール兵達は出来れば分断したい処だけれど…。 それと、マティアスさんは後方を移動しながらの捜波による索敵と、 濃煙炸弾による妨害&隙あらば射撃支援に徹しそうな感じね。 こちらも放っておくと面倒だし、対応策を考えておく必要があるわね。

  5. コルネリウス・アーラ

    顔出しが遅くなってしまい、すみません。 ウォーリアのコルネリウスです、よろしくお願いします。 >フリードリヒ インムニテートを連発させるのもひとつですが、効率が良くないのでO召喚をせずに対応していく方が良いかも知れませんね。 フリードリヒさんを分断できれば楽なのですけれど、近接の状態だと余りこちらに有利ではない分、マティアスさんの対応をしながら兵を減らしからフリードリヒさんを狙う行く方向を私は提案したいです。 >ティロール兵 兵団としての基本戦術というイメージですので、横隊と散兵の切り替えに応じて此方も動きを切り替えするのが良さそうですね。 横隊の状態では遠距離を中心にした範囲攻撃を行い、散兵の状態ではエスカッシャン・ウォークライの範囲外から順に倒す、などでしょうか。 >マティアス 濃煙に乗じて隠れても見つかってしまう、という認識でしょうか。 濃煙炸弾は煙を吹き飛ばしてしまうか、一旦下がるのも手かもしれませんね。

  6. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    キャスター、アウレーリアよ。宜しく。 やっぱりインムニテートが厄介ね。アーケインを攻勢的には使えない。 足止めが必要ならスタティックフィールドで代用するのと、効果範囲は半径3Hexだから、こちらの近場で使う分にはまだ何とかなりそうね。鉄壁で矢避けなど考えています。 強力な支援能力は勿論、フリッツの指揮次第ではティロール兵も十分厄介。 何とか先に将を落としたいのはその通りね。遠距離から何とか狙えないかしら。 正直に正面から撃ち合っても、陣形を維持されていると射線切りや散兵戦術で封殺される。 騎兵みたいに、陣形を崩しながら斬り込んで行く方法があると良いのだけれど。 最終手段として、キャスター4人での範囲攻撃ごり押しはあります。 ……正直、あんまりやりたくないけど。美しくないし稽古にもならないわ。

  7. ルアンナ・ミュラー

    キャスターのルアンナです、よろしくお願いします。 ハリケーンウォールで弓兵の攻撃を躱しまくって撹乱したり、ダイタルストリームや豪風で一気に兵士さんを巻き込みたいですね。

  8. コルネリウス・アーラ

    フリッツさんを落としてしまうと降伏されてしまいますので、直接狙うのでしたら兵を減らしてからになりますね。 ティロール兵と近接戦になった場合などに対応は出来るようにする予定ですが、サイラスさんも弓を持たれるのでしたら、私も序盤は遠距離攻撃を中心に行う予定でいます。

  9. セリオス・オーガスト

    ・・・・ん、遅くなったがシューターのセリオスだ、よろしく頼む 召喚系が封じられるからこちらも濃煙で視界を塞ぐというのは難しそうだな 横隊の時は防御が上がってかつ、陣形を乱すのも難しそうで、散兵の時は範囲攻撃に耐性がつくと。なかなか荷厄介だな。こちらは薔薇を落とされたら戦闘不能判定だから回避を優先しないと厳しそうだな。 とりあえずコルネリウスが言う通り横隊と散兵で対応を変えるで、いいと思う。 あとはまあ、難しいかもしれないが遠距離で指揮官のバラを狙って落とすぐらいか

  10. No.10

    前衛要るなら剣持って前でもええよー それなら花守りつつ陰湿なの仕掛けるだけだし

  11. アウレーリア・フォン・ネーベルベルク

    >フリッツ狙い そこは忖度しなくてもいいかと思うわ。だって向こうから設定してきた条件だもの。 戦術として将狙いは珍しくもないし、司令官を守るところまで含めて稽古の一環かと。 ……まぁ、あまりにも隙だらけだったら手加減するかも知れない。 「指揮官退場で生じる混乱への対応」という意味では、マティアスでも同じように出来るかしら。 どちらか狙いやすい方を選ぶことにしておきましょうか。

  12. バンビ

    足止めが利かないなら、広範囲で薙ぎ払うだけですわ。 後は、兵員の鼻先を引きずり回して嫌がらせしてやりますわよ。

  13. ザザ=ステルヴィナ

    >濃煙炸弾 持続時間は3ラウンドで、濃煙の範囲内の存在は命中が-10%&回避が+10%。 範囲内のヘクスにいる存在は自身が存在するヘクス以外には視線も射線も通らなくなるのが凄く厄介よね。 ただ範囲内のティロール兵達も同じ条件になるから、敵味方が入り乱れる乱戦時では使い勝手は悪いかも。 範囲外のヘクスにいる存在も、濃煙の範囲内を視認することができないけれど、 マティアスさんの場合は【捜波】で【マーク】した標的に対して(命中は落ちるにしても)射撃攻撃を仕掛けて来そう。 もし濃煙の範囲に取り込まれた時は、コルネリウスさんが仰ってるように一旦後退するのも手だと思うわ。 >指揮官狙い 敵指揮官狙いは私達も依頼で頻繁に使う戦術だし、 兵隊さん達にとっても良い経験の1つになると思うから、積極的に狙って行っても良いんじゃないかしら? >個人 私達の動きに対応して横兵と散兵を使い分けて来るだろうから、 横兵:メテオライト等の範囲魔法、散兵:魔弾やスキル無しの魔法で遠距離単体攻撃を仕掛ける予定よ。

  14. コルネリウス・アーラ

    >前衛 武器は弓でも剣でも、どちらをメインにしても大丈夫だと思っていますので、やりたいことを優先で良いかなと。 私は剣のままで、遠距離攻撃から後衛を守りつつ、こちらも遠距離攻撃を入れての兵の対応を中心にしていきます。 >指揮官狙い 確かにそうですね、実践では狙われやすい立場でもありますし、積極的に狙う方はいても良いかもしれません。 流石に即倒れたりはしない、と思いますし。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0