【学乱】蛇と老人の騒乱

紀藤トキ

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シナリオID:1271

オープニング

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 ヘルベルト・リヴァマス老はマリステラによる洗脳を受けてはいるが、特に指示を貰っているわけではない。授恵者でもなく、特筆すべき異能がある訳でもない老人にできることなどないのだ。わざわざ洗脳したのも、塔から久しぶりに解き放たれたらばったり出くわしたので、位であろうか。現国王と個人的な交友があったという点は、政治的に頭の良い人間が知っていれば使いようもあったかもしれない。が、マリステラはここ数十年の貴族の交友に興味などなかった。セオドア前学園長ならばこの老人を有効な駒とできた可能性はある。が、マリステラはなんとなく支配しただけの老人の事をわざわざ伝えたりしなかった。学園を混乱に陥れる人々の報連相がなっていないお陰で、リヴァマス老はフリーだったのだ。

「……で、私の所に相談に来たわけか。ふむ、我が友ヘルベルトが私を頼ってくれるのは嬉しいが、あの女のせいというのは面白くないね」
「いや、面目ない。我輩もマリステラ様やセオドア学園長の為に何ができるか考えたのだが、無力な老人にできる事など思いつかんでなあ」

 ここは魔法使いの塔、の中でも『青の塔』と呼ばれている隔離施設だ。リヴァマス老と仲の良い死霊術師グレゴール・ディンドルフの住まいである。2人の外見年齢は似たようなものだが、リヴァマス老が塔にやってきた10代の頃からグレゴールは老人の成りをしていた。

「我輩としては、学園で何か問題を起こせばフォルトゥナ偽学園長の株が下がるので、セオドア学園長の復権に繋がるじゃろうと思ったのだよ」
「ふむ、そんな事になっているのか。女が学園長とは驚きではあるが……。しかし、邪魔なら殺せば良かろうに」

 死霊術師らしい倫理観の無さでそう助言をするグレゴールに、リヴァマス老は渋い顔で首を振る。

「いや、それはのう……。なるべく平和に話が済んで欲しいのじゃよ」

 もしもマリステラなりセオドアなりに「フォルトゥナを殺せ」と命じられていたならばそうしていただろう。が、命令を受けたわけではないのでリヴァマス老は自分で考えて自分で行動している。彼の倫理観基準では、あまり激しい策は使えそうになかった。グレゴールは

「ふむ。ゾンビ……は材料が無いが、その辺の人形なり面倒なら土くれなりを動かして暴れさせれば良いのではないかね?」
「そんな事をしては、君に疑いが掛かるじゃろう。我輩は数少ない友人に迷惑を掛けたくはない」
「私が日常的な事に死霊術を使う事まで制限はされておらんので問題はない」

 身の回りの世話をさせるフレッシュなゾンビや、勝手に動く掃除セット、勝手に開く扉などは『日常的な死霊術』であり、それが運悪く暴走したなら仕方がないではないか、というのがグレゴールの言い分である。多分それは怒られる奴だ。

「……何か、君ではなく我輩が事の中心だと思われるような手立てはないかのう」
「要らぬ世話だ、というのも宜しくなかろうな。これはあくまで君の計画だ。で、あれば君の持っているコレクションを使えばどうかな?」
「我輩の? ま、まさか」
「そのまさかだよ。思えば、こういう時に使うのにうってつけではないかね、あのジャイアントデンジャラスグレートスネークの剥製は」

 ちなみに、正式な学名ではない。グレゴールは『どこかの辺境に巨大で危険で歳を経た大蛇がいると聞いて出かけて行ったら普通の大蛇しかいなかった』というリヴァマス老の過去を揶揄っているだけである。まあこの辺に居ないサイズの大蛇ではあるので、それが動き出して暴れれば耳目は引くだろう。

「……むう……。し、しかしセオドア学園長の為ではあるのでやむを得ないか」
「そうだな。では善は急げだよ。はやく剥製の元へ案内してくれたまえ」

 絶対的なはずの洗脳に5秒ほど抗ってから、リヴァマス老は渋々頷いた。相談を聞いた当初とは打って変わった様子でグレゴールは楽し気に言う。大蛇の死骸に適当な魂を放り込んで操るのは気晴らしに良いだろうし、事が終わった後でこの友人ががっかりするのはきっと爽快だ。『だからあんな女の為に働くべきはないと言ったであろう?』、とドヤってやるのが今から待ち遠しい。

「君のいう事を聞くように作っておこう。まあ、魂が劣化するほど長くは活躍するまいから、特に注意事項はない」
「……む。そうか。では早速命令させてもらおう。蛇の身体はそっちに曲がるようにできておらん。中に骨が入って無いのは承知しておるが、原典への敬意を忘れては行かん」
『グォ……?』

 中に入ってるのはそこそこ知性のある魂らしく、『お前の指示は理解したが何を言っているのか分からない』という風情で大蛇の死体が戸惑っている。グレゴールは楽し気に笑っていた。

●
「と、いうわけで。我輩がうっかりして居ったのが原因なのじゃよ」

 冒険者ギルドにやってきたリヴァマス老は、馴染みの職員へ事態の説明をしている。興味本位で蛇の剥製を動かせるように友人に頼んだらそれが言う事を聞かずに暴れ出してしまった、とのことだ。

「フォルトゥナ女史には無論、事前に了解を得ておったのじゃ。この通り。それ故、学園の管理体制にも問題があったのじゃと思う。セオドア学園長時代にはこんな事故はなかったのじゃがなあ」

 これを主張しておくのが大事、とばかりに老人が持ち込んだ書面には、確かに『リヴァマス老のコレクションの展示の際に簡易な魔法で動かす事も認める』と書いて有った。死霊術で魂を入れるのが『簡易な魔法』であるのかは議論の余地がある気はする。とはいえ、放置しておいてよい話ではないのは確かだろう。現在は、模擬舞踏会等にも使われる施設に居座り、高価そうな備品を時々壊しているらしい。

「では、蛇のゴーレムの退治依頼として承りますね」
「う、うむ……。よろしく頼む」

 大事な蛇コレクションの一体が無残な姿になる未来を想像したのか、リヴァマス老はとても悲し気な表情で頷いた。

解説

魔法使いの塔のある一角から、大きな蛇が現れました。 正体はリヴァマス老の保持している大蛇の剥製、を素体とするゴーレムであるようです。 場所は舞踏会に使われるような立派な大ホールなので、あまり壊すと学園の予算がダメージを受ける事でしょう。 壇上に引っ張り出されているでっかい鍵盤楽器とか。 ●蛇ゴーレム 体長は10m程とかなりの大物で、生前は普通の(魔獣ですらない)動物だったのですが、現在は中の魂のせいでかなり強くなっています。 蛇らしくせよというリヴァマス老の指示を受けて噛みついたり締め付けたり薙ぎ払ったりといった攻撃手段を主に用います。 ……が、ピンチになったら毒ブレスを吐いたり鱗ミサイルを撃ったり好き放題しはじめます。 剥製に被害が及ぶことは避けられないでしょうが、多少なりと残ればお爺ちゃんは喜ぶ事でしょう。 ●グレゴール 彼の言っている事は一応正しく、死霊術を普通に(あまり迷惑を掛けずに)使ってる分には怒られないようです。 彼が魔法使いの塔送りになったのは、もうちょっとエグイ使い方を開発してしまったためですが、その内容は公表されていません。 正確な所はリヴァマス老は知りませんが、会話の節々から奪い合いになる方向の知識(疑似的な不老とかそういう方向の奴)なのだろうなあ、と思っています。 他所では『青い塔の主』と呼ばれる事が多いようで、年始位にヤコブが大量のゾンビを操っていたことを不審がっていたのはこいつです。 なお、【学乱】タグ付き依頼の例に漏れず、生徒会選挙に立候補できます。受付はお爺ちゃんがします。 ギリギリで立候補したくなった方は是非お爺ちゃんに教師らしい仕事をさせてやってください。 ※このシナリオでは生徒会役員への立候補を受け付けます。詳細は【学乱】連動特設ページをご覧ください。

マスターより

荒事には縁のないお爺ちゃんが精いっぱい悪事を考えてみました。 私の中の学乱はだいたいこんな感じ……。 お爺ちゃんは無自覚ですが、ちょっと悪さした程度ではこれ以上待遇が悪くならない状況(塔送り)に既になっています。 この上はもう死刑位しかないんですけど、一発で死刑になるのって大量殺人とか王族暗殺とかやらかさないと難しそう。 でも、あまり予算にダメージを与えちゃうと「半年外出禁止!」とかいう学園からのきつめのお達しが来るかもしれませんね。 皆様の……ええと、ただ倒す以外の方面に配慮したりしなかったりするプレイングをお待ちしております?

リプレイ

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「蛇型の魔獣やクリーパーじゃ無くって剥製なの? ……そんなのどうやって動かしてるんだろう」

 依頼の説明を受けたエルゼリオ・レイノーラは少しの間考え込み、こないだ死んだが短時日で忘れるには濃すぎるメドゥの指先(ヤコブ・ヴィリアン)の顔を思い出した。

「命のない者に命を吹き込んで操る――まさか死霊術!?」
「はー、なるほど死霊術。あれ面白いよねえ、ちょっと覚えたいんだよなー」

 軽く言葉をついだヨル・スレイマンは、(神のご意向的には今一つかもしれないけれど)と内心で呟いた。何かを生きているかのように動かす為には、一般的な倫理観さえ横に置いておくならば死者の魂を使う死霊術が手っ取り早い。

「大事なコレクションを倒さないといけないのは、心苦しいですね」
「へびをこわすことに、かなしいおかおをなさっていたそうですし、できるかぎり、そんがいをおさえたほうが、よいですわよね」

 少し背中をかがめながら言うハルハン・ツァガーンナルを、見上げるようにしたマレーネ・シェーンベルグが頷いた。それを聞きながら、トゥーリは少し困惑した顔をしている。

「――? やっても良いって許可を取ったのはいいんだけれど、そのやり方を間違えて事故が起こったのなら結局おじいちゃんが怒られるんじゃないのかな……?」

 間違いなくリヴァマス老は怒られるだろう。が、魔法使いの塔は学園の管理下にある。そこに隔離された困った住人達がうっかり何かをやらかさないようにするのは学園長の職務なので学園側もタダでは済まない。そんな自爆攻撃じみた理屈を聞けば、ララベル・サン・ディーベルは決然と立ち上がる。

(被害が大きくなりすぎて隊長先生が怒られたら大変だから、なんとしても止めなくちゃ!!)

 少年は最悪の予想として、学園追放や塔から出て来れなくなる監禁などを脳裏に描いていた。前者はともかく、後者はありえなくはない。まさに『禁忌』のマリステラが処されていた待遇だ。

「リヴァマスさん、カナンさん達と同じように洗脳されてるんですよね……?」
「リヴァマス老の罪を軽くできないでしょうか?」

 別件でその事を聞いた気がするトーラは周囲に確認するように問う。シャロン・ラ・モリエールは老人の罪を軽くできないか算段を立てていた。マリステラの禁忌の力の犠牲者か、とエルゼリオも表情を険しくする。

「学園長さんの評判を落としたいみたいですけど……、なんだか回りくどい変なやり方ですね。何ででしょう」

 洗脳によって頭も悪くなるのでは、とトーラは危惧したが、今回の面子で一番マリステラに詳しそうな気がするエルゼリオにだって、分からないことくらいある。

「この間お手伝いした蛇の牙の飾りも、フォルトゥナ学園長じゃなくセオドア前学園長に贈るつもりだったんでしょうか」

 どっちかといえば王党派よりのリヴァマスが突然そんな事をしたのなら洗脳の可能性大ですね! とシャロンが息巻いたが、さすがに誰に贈ったかまでは誰も知らない。

「しんしょくというものであればかいじゅでなおるとうかがいました。いわかんはみなさんあるようですし、じけんがおわったらおあいしにいきましょう」

 マレーネがそう告げ、仲間たちはそれぞれ頷く。蛇が立てこもっているらしいホールはもうそこだ。何やら学生が遠巻きにしているのを見て、シャロンが後で情状酌量を訴えようかな、と思う。まあ、いずれにせよ何かができるとしても、事態が解決しリヴァマスに報告して、真相が明らかになってからの事になるだろう。

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 おそらく普段であれば楽団がいるような演壇の柱の一つに尻尾を巻き付け、大蛇はやってきた冒険者を睥睨していた。ちろちろと舌を出し入れしたりしている辺り、本物の蛇そっくりな気もする。

「おお、さすがはGDGS(ジャイアントデンジャラスグレートスネーク)です」

 舌を噛みそうな名前を頑張って口にしたトーラだが、次に呼ぶときは間違いなく名前を間違えている予感がした。具体的にはジャイアントがスーパー辺りに。

「外まで誘導……は、難しそうです。ホールの中心におびき出すのが良いでしょうか?」
「王族貴族の持ち物、どれが貴重品かさっぱりわからん」

 ツァガーンナルの提案に、周囲を見回したヨルがため息交じりで首を振る。少し横に避けてある丸テーブルや椅子も、柱の飾りも自分たちの普段使っているものよりはだいぶ良さそうだ。

「生徒が座る側にあるのは、そこまで高級品じゃない……、と思うよ」
「多分、うん。僕もそう思うかな」

 上の方ではないとはいえ騎士の家の出のエルゼリオに、店を出しているララベルがそう言うと、そういう目に自信の無い面々はほっと息を吐いた。剣闘士上がりのヨルは言うまでもなく、村の子ツァガーンナルやトゥーリもお高い本物と模造品の違いに等は縁が無い。

「ちょっと、材質が違うきはしますけど……」
「なるほどそういうものでしたか」

 礼儀作法でなんとなく気が付いたシャロンの言葉に、マレーネはおっとりと首を傾げている。記憶が無いので自分でも分からないが、何かで知るような事があったのかどうか。とりあえずホールは少しばかり周りに被害が出ても大損害ではなさそうだと踏んで、作戦が予定通り開始される。まずは、事前準備の相談からだ。

「ボクの魔法でカチンコチンに硬くなるはずだよ! 効果切れたらまた掛け直すね」
「じゃあ、ワタシはあの高そうな演台を片付けようかな?」
「俺はツァガーンナル君に回復を切らさないようにしようか」

 今回の作戦は、ウォーリアのツァガーンナルが核となる。一同で最も高位の堅甲をエルゼリオが飛ばすと、トゥーリは舞台上にある高価そうな鍵盤楽器……、はマジカルポケットに入りきらないので、次点の演台を仕舞う事にした。ヨルは蛇の攻撃の矢面に立つだろうツァガーンナルの体力管理を買って出る。他の面々はある程度ちらばり、巻き込まれて壊れそうな物を庇う位置取りをしたりする予定だ。

「それじゃあ、レゾナンスオブヴァローを掛けますよ」

 大蛇(GDGS)は冒険者たちを見ているだけだが、壇上へ上がれば動き出すだろう。シャロンの言葉が開戦の合図となった。

「ボクはここです!」

 仲間の支援が飛び、各自が配置へとつく。がしゃがしゃダマスカス鋼の全身鎧を鳴らしながら壇上に駆け上がり、ハルハンはシーザーロアで蛇の注意を引いた。まずは巻き付いている尾を柱から離してもらわないと、ドラゴンチャリオットで吹き飛ばすにしても被害が出てしまう。大きな顎を開いて噛みついてくるのを、やはりダマスカス鋼の盾で受け止めた。

(口の中、がらんどうです!)

 頭蓋骨も入っていない剥製だったらしい。ものの見事に皮しかないのに動きだけは蛇その物。鋼越しに届いた衝撃は、ヨルが飛ばしたヒールですぐに癒えた。

「尻尾は?」
「離れたよ!」

 エーテルで姿をくらまし、さっきまで蛇が絡んでいた柱のすぐ近くに潜んでいたララベルがそう告げる。それだけではなく、背後から強烈な一刺しを食らわせていた。

『ギュオオオオオ!』
「蛇って、大きな声をあげるんですね!」

 そもそも蛇は他の動物のように声を出すのだろうか。北の生まれであるツァガーンナルは良く知らないが、気にすることなく盾で大蛇を押し込んだ。そのまま舞台からホールへと叩き出す。吹き飛ばした後を追いかける間に仲間たちが蛇へ追撃を叩きこんだ。

「どこか、じゃくてんなどないでしょうか?」

 とりあえずマレーネが胴体に魔矢を撃ち込んでみた感じ、ダメージはあるらしい。ツァガーンナルのサポートに回っていたヨルとエルゼリオ、演台の片づけを終えたトゥーリがホールへ降りて来た。

「頭はなるべく、狙いたくないですね」
「お爺ちゃん蛇好きだもんね。壊さないでおいてあげたいし……」

 シャロンがそう言うと、ヨルもこくりと頷く。綺麗にスパッと切れば直しやすいのでは、とエルゼリオは思うのだが片手にもったダマスカス鋼の祭刀の刀身と大蛇の直径を比べるに、縦に真っ二つというのは難しいかもしれない。

「蛇だから……? 剥製だからかな。温度の差は全然ないや」

 舞台上からサーマルアイで様子を見ていたララベルが首を振った。トゥーリやヨル、マレーネも注意していたが、怪しげに光っているとか、埋まった石があるだとか、わざとらしく庇っているとか、そういった見てわかる単純な弱点は少なくとも今はない。せめて手数を減らし、一撃を重くして傷の数を減らそう、とララベルが側面に回る。

「そう簡単にはいかないですか」

 大蛇がぐねぐね威嚇するように頭をもたげ、驚いたツァガーンナルが盾を構えた。直後、胴体の鱗が剥がれて飛んでくる。ほとんどはツァガーンナルの盾に阻まれたが、流れ弾が床や壁に突き刺さった。

「蛇らしくない動きをしてきますよ!?」

 びっくりしつつも、トーラは相手の動きや防御を崩さんと妨害行動に徹している。さすがに身を挺して、というのは軽装シーフの身では厳しい。

「というか場所が悪いんだよなあ! 外でやってくれたらよかったのに」

 ツァガーンナルをカバーできる位置にいたヨルやエルゼリオが体で受け止めるべく、左右に隊列を組んだ。鱗はそこまで強くないとはいえ、ヒーラーたちが自分の身体で受けて耐えるのはそれなりに痛い。でも癒し手が十分以上にいるので危なげは無いようだ。

「やっぱりおかしいよ、こいつ隊長先生の美学が感じられない」
「たしかに、ええ。そうですわね」

 ララベルがリヴァマスの代わりにぷんすか怒っている。マレーネも多少ならず違和感を感じているようだ。

「光縛封を使います!」
「ええ、わかりましたわ」

 彫刻の施された柱を守るようにシャロンとマレーネが光の柱を立てた。ツァガーンナルが被害が少なくなるよう、慎重に相手の狙いを誘導する。この際、丸テーブルに傷がつくのは仕方がない。状況を鑑みて、ヨルは内心で首を振った。

(さすがに、壊さないようにするのはもう無理かな?)

 可能な限り、配慮はしつつもそれほど時間を掛ける訳にも行かない。ツァガーンナルが引き付けている効果が切れてしまうと、面倒な事になる。幸いサイズの割に大蛇の耐久力は高いわけではなく、防御を弱体化されたのでダメージは素通しに近い。

「この辺かな? 違うかな」

 運を天に任せてえいやっとトゥーリが切り込んだ。

「これが説法って良く分かんないけど――とりゃ!」

 正面で頭部を引き付けている間にエルゼリオがざっくりと切り付ける。ララベルが攻撃を加え、ヨルの魔法攻撃が胴を貫いた所で剥製はぐたりと身を横たえた。

「うーん、なんか可哀そうではあるけど良く分からない事件だったね!」

 トゥーリが辺りを見まわして言う。大蛇の頭部は無事なのだが、胴体の鱗は3割くらい剥げてしまって無残な姿だ。しかし、対処をしっかりしたこともあってホールの被害はほとんどない。テーブルが幾つかと床に傷が増えた程度で、まあ普通にやんちゃな学生が使用しても出る程度の損傷に抑えられた。

●
 状況をホール外へ伝えると、リヴァマス老が見分に来るようなので一同はそのまま待つことにした。野次馬も大勢いる中、ボロボロの大蛇を持っていくのも大変だから仕方がない。演台を元の場所に戻したトゥーリも他の面々につきあって残っている。

「ええっ!? 一斉にやらないんですか!?」

 トーラが残念そうではあるが、ヒーラー全員が呪いを解く手段を持つわけでもない。

「きっと。よいぼうけんしゃとなるためには、あふたーけあも、ひつようなのですわ」

 マレーネはやる気満々の様子だった。そうこうするうちに、リヴァマス老をララベルが部屋へと連れてくる。

「気を付けたんだけど、だいぶ壊れちゃって……」
「いやいや。随分手間がかかったじゃろう。これは」

 蛇の目を潰したり顎をかちあげたりする方がきっと戦いやすい、程度の認識は老人にもあったようだ。頭部が綺麗なままの様子を見て頭を下げる。

「今回はちょっと壊れちゃったけど、修復に必要な素材があれば取りに行っていいし」

 などと声を掛けながらヨルが扉を閉めたところで、マレーネが正面から、エルゼリオが背後から解呪を試みた。

「む? むむ?」
「……どう? マリステラ様ばんざーい! ……って今でも思う?」

 エルゼリオに問われ、リヴァマスはゆるゆる首を振る。洗脳されている間の事もしっかり覚えている様子で、難し気な顔で唸りだした。

「我輩はマリステラ嬢の……。そうか、ううむ……。これは穏便には済むまいなあ」
「情状酌量をお願いできないでしょうか?」
「洗脳の件もあるし、軽めになるように俺達も手伝うよ?」

 シャロンとヨルの言葉に、老人はありがたそうにするも、すぐにそうではない、と言う。

「我輩はまあ、怒られる程度ですむじゃろう。だが、マリステラ嬢はどうなるものかのう。彼女自身は、そこまで悪い人間ではないと思うのじゃが」
「けれども、犯した罪は償わないといけない、ですよね」

 エルゼリオは暢気な老人の言葉に思わず口を挟んでしまう。人のことを考えるより、まず自分であろう。見れば、ツァガーンナルは戦いで散らかった場所を掃除している。トゥーリも何もしないと落ち着かなかったのか、一緒に手伝っているようだ。これはいかんと鱗拾いを始めつつ、リヴァマスは会話を続ける。

「罪を償うのは、うむ、当然じゃな。しかし、マリステラ嬢も巻き込まれたようなものだと思うのじゃよ」

 リヴァマスとしてみれば、学園の改革や変化に、世捨て人の集まりを巻き込まないで欲しい、という感じであろうか。実際にこの件で命のやり取りが行われている場に行った事もある冒険者達から見れば、随分生ぬるい感想だったかもしれない。

「そういえば、死霊術師のグレゴールさん? は大丈夫ですか?」
「む? ああ、彼は大丈夫じゃよ。我輩と違って、力がありすぎてあそこにおる側じゃからのう」

 話していた感じでは、マリステラの洗脳を脅威と感じている素振りは無かったらしい。どういう手段で対抗するのかはわからないらしいが。どちらかといえば彼は愉快犯で、今回の事件で手を貸したのも、大事な蛇の剥製を自分の手で台無しにしてしまうリヴァマス老を見てニヤニヤしたい程度の理由だろうという。

「彼も悪い人間ではないと思うのじゃが、まあ意地は悪いかもしれんのう」

 などというリヴァマス老の良い人の範疇はかなりガバガバのようだった。

「まあまあ。そういえばサウゼルの森にデカい蛇がいるらしいよ。新しい剥製もいいかも」
「うむう、気持ちはありがたいが、おそらくゴールディのゴブリンが許すまいなあ」

 慰めるように言ったヨルへ、リヴァマスが苦笑を返す。前回も見に行った白蛇の事だと思ったらしい。

「リヴァマスさんは探検隊の隊長さんなんですから、人に迷惑をかけちゃダメですよ?」

 またも頭を下げる老人を見上げつつ、トーラがめっ、と怒って見せた。

マスターコメント

皆様のおかげで、比較的無事に剥製は返還されました。 会場の破損状態は誤差の範囲だったので、お叱りもあまりきつくなく済みそうです。 まあ、ちょっとの間の謹慎くらいは仕方がない。 お爺ちゃん的には、ちょうど良い剥製の復元作業の時間になる事でしょう。 MVPは皆の支援を受けてしっかりタンク役をこなしたお嬢さんに。 ご参加ありがとうございました!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年08月18日 07時36分25秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. シャロン・ラ・モリエール

    シャロンです! シスターをしております。 おじいちゃんが……! 塔送りなんて……! どうしましょう。 リヴァマス老の罪を減じるように動くのが良いでしょうか、それとも罪は罪と、償っていただくのがいいのでしょうか。 洗脳が理由であると暴くことができれば、なんとかなるでしょうか……。 話し合うべきことは、このあたりでしょうか? する必要があるかどうか、する場合はどうするか……という感じ、でしょうか? ・リヴァマス老への配慮 ・グレゴール様への配慮 ・学園の備品や設備への被害の食い止め ・ヘビの剥製への被害 私は、「リヴァマス老が大事なヘビの剥製を傷めるようなことをするなんて怪しいです!」と疑って、洗脳されていることをなんとかPC情報にできないか挑戦してみようかな、とだけ、考えています。

  2. マレーネ・シェーンベルグ

    まれーねと、もうします。まれーね・しぇーんべるぐ、ですわ。 よろしくおねがいいたしますわね。 ■■■ >塔送り まあ。 おじいさまのお住まいが塔なのは、昔から……でしたわよ。 ええと、たしか、おじいさまのおにいさまが、帝国の「やんごとなきおかた」を害してしまったようで、その事件で一家まるっと断罪。当時幼かったおじいさまは、情状酌量の余地あり、ということで、塔送りで済んだ。……というような、経緯であったかと。 ですので、まあ、これ以上おじいさまの立場が悪くなることは、おそらくないかなと。 >蛇対応 それはそれとして、蛇のゴーレムさまはどうにかしないと、ですわよね。 とはいえ、わたくしは非力なヒーラー。……どういたしましょう? 例えば、おじいさまに毒のブレスが掠ってしまったなどした際に スキルで【全解除】をしてみる……のようなことぐらいしか、思いつきませんでしたわ。

  3. シャロン・ラ・モリエール

    マレーネ様……! はわ、そうだったのですか! トマス様との確執の経緯は知ってましたけど、それにくわえてさらに塔送り相当の別の罪状が起きているのかとてっきり……! 教えてくださってありがとうございます。 ん……と、グレゴール様に交渉して止めてもらうのは、直接戦闘の人数が減るのでよろしくないでしょうか。 水袋を持ち込んでエーテル流体弾で高価なものからヘビを退かせる、というアイデアも浮かびました。

  4. トーラ

    蛇は10mなので光縛封に閉じ込める事も出来ないんですね。 エーテル流体弾もいいですけど、シーザーロアで執着を与えて誘導するか、ドラゴンチャリオッツで弾き飛ばして高価なものがない所へ移動させるのはどうでしょう? 現状ツァガーンナルさんしかウォーリアが居ないのが心苦しいですけど…。 (リヴァマスさんに聞こえないよう小声で)ええと、洗脳を受けていることとその解除方法(BS解除スキルを使う)事は別の依頼のオープニングにあるので、そこまでは知っていていいと思います。 なので気付かれないよう近付いて洗脳を解けたらと思っています。 (元の声量に戻って) マレーネさんの全解除いいと思います! ただ、リヴァマスさんは依頼に同行はしないと思うので、剥製(の残骸)を届ける時に全解除したらどうでしょうか?(毒ブレスかすり様は無いけど勢いで押し通す構え)

  5. ハルハン・ツァガーンナル

    ウォーリア、ハルハン・ツァガーンナルです。 呼びづらければ、ナルと、呼んでもらえたら。よろしくおねがいします! 特性では、ドラゴンチャリオッツの他、シーザーロア、殺界も、足止めや誘導に使えるでしょうか。 剥製なら、中身は空っぽ、だと思うので。大きくても吹き飛ばしできそうです。 蛇の狙うものがボクたちなら、楽器とか、高そうなものから離れるように動きたいところですね なるべく、形は留めてあげたいですが。どこが残ってると嬉しいんでしょうか

  6. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラです。今回はヨロシクね! >蛇対応 トーラさんが言ってるみたいに、シーザーロアとかで執着付与して高価そうな備品の近くから引き離すのにボクも賛成。 もしツァガーンナルさんがシーザーロアで惹き付け担当してくれるなら、堅甲3を付与するよ! >リヴァマス老 Σお爺ちゃんにそんな壮絶な過去があったなんて…!(初耳)<一家まるっと断罪 ボクも隙を見計らって洗脳解除を試みてみるね。

  7. シャロン・ラ・モリエール

    >洗脳 おお……そーなのですねっ!? では解除を試みることも、やってみて大丈夫なのですね!? エルゼリオ様が試してくださる方向です? >ドラゴンチャリオッツ ナル様がやってくださるなら、そのほうが効果が高いので、ぜひともお願いしたいです! >高価なもの 光縛封でヘビちゃんを封じるのはトーラ様のおっしゃるように難しいでしょう。 しかし、ヘビちゃんを引き離したら、守りたいもののほうを光縛封に入れてしまうのは意味があると思います! 鱗ミサイルなんかから守るにはよろしいかと思うのです。 これは私がもっていきますかね。 >ヘビちゃん うーん、潰すと修復が難しいので、切れ味がいいもので切る? 体より頭のほうが構造が複雑で修復が大変そうですから、頭は叩かない、とか?

  8. ヨル・スレイマン

    ヒーラーのヨル・スレイマン。宜しく。 >洗脳 剥製届ける時が良いかもね。スキル使う時に話しかけて気を逸らすとか、そういうこともできるかもしれない。 >蛇対応 壊してはいけないものから引き離して戦えるのはとても良い。 そしたら、ツァガーンナル君のスキルが効いているうちに止められるのが最良だし、早期決戦が望ましいかな。 頭より胴体。範囲攻撃はせずに、あちこち傷つけるよりは一箇所を狙った方が修復は楽かもね。 魂を固定している場所みたいな、弱点的な部分がわかりやすくあれば良いんだろうけど⋯⋯。 >光縛封 大きなものは中に入れられないけど柱であることは変わりないので、障害物としてもそれなりに使いようはあると思うよ。シャロン君のいうように、高価なものの方を入れて守るのも使えそうだね。

  9. トゥーリ

    トゥーリだよ、よろしくね! とりあえず蛇退治の現場にはおじいちゃん来ないってことだろうし、最後に剥製を返す時に洗脳は解いてあげればいいかな? 剥製へのダメージは多少は避けられないとは思うけど、出来る限り傷は残さないようにしたいよね。とりあえずの鉄板はやっぱり頭への攻撃かな?でも、頭が潰れてたりしたら剥製としてはちょっと傷物っぽさは残っちゃうよね。 胴体狙いだと蛇ってあれ全部筋肉みたいなものだし、倒すまで時間が掛かりそう? いっそのこと大胆にどこか真っ二つにして倒しちゃってから、後で丁寧に縫い直すとか……(

  10. エルゼリオ・レイノーラ

    >洗脳解除 それじゃ、蛇を倒して剥製届ける時にチャレンジしてみるね! リヴァマス老が剥製に気を取られてる隙に背後から接近して、 【解呪3】を付与するカンジになるかな?

  11. マレーネ・シェーンベルグ

    時間が空いてしまいました。申し訳ございません。 >洗脳解除 ふふ、回数は多ければ多いほど成功率は上がりますし、 ここは、複数人で洗脳解除を試みる……というのもよいかな、と思いました。 それに、おじいさまは今回の現場にはいらっしゃらないのですね。 はい、剥製を届ける際に、で問題ありませんわ。 わたくしは、サルベーションを持っていきますわね。 >蛇 まあ、光縛符でしたら、わたくしも持って行けそうですわ。 高価そうなものに対して、光縛符で蛇から護るように展開、ですのよね。 ふふ、がんばりますわ。 ドラゴンチャリオッツや殺界、シーザーロアも、とても有用そうですわ。 ええ、もしよろしければ、ぜひお願いいたします。 >どこを狙うか 確か、蛇の……ゴーレムですのよね。どこかにコア?のようなものがあるのでしょうか。 コアがあるのであれば、そこを狙うことで蛇の損傷を軽減することができるのでは、と思いましたわ。

  12. トーラ

    ヒーラーの皆さんが5人がかりで解呪するのが浮かんでちょっと楽しくなりましたけど、洗脳したのは棟の引きこもりの凄い人らしいので、そのくらいしっかりやった方がいいかもしれませんね! ナルさんは誘導と足止め助かります。 わたしは回避低下や束縛付与で蛇の動きを鈍らせますね。

  13. シャロン・ラ・モリエール

    >解呪 や、私はしません、よ……? 洗脳されていたからであってリヴァマス老の意思でやったことではないことを学園に訴えて リヴァマス老の罪を軽くしたいだけ……( 丸投げしちゃうのは申し訳ないですが、他の人にお任せしますよ。 エルゼリオ様とマレーネ様がなさるならそれで十分だと思います。 ヨル様とトゥーリ様はちょっと相談卓ログからは立候補されてるのかわかんないんですが……。

  14. トーラ

    あ。すいません。 ヒーラーの方が5人も居るので全員で解除するのが浮かんだのがちょっと楽しくなって、そのイメージで発言してました…。

  15. トゥーリ

    解呪やサルベーションを持っていくことは出来るけど、基本的には誰かひとりが解呪補正の高いものを持っていけば大丈夫だと思うかな? システム面的な部分は一人で十分で、残りはプレイング次第かなと思うよ。 それよりは光縛封だったり、その他建物や楽器なんかの保護に役立つスキルを数多く持ち込んだ方が全体としては良いんじゃないかな。 特に索敵とかも必要なさそうだし、光縛封とマジカルポケットを持っていこうと思ってるよ~

  16. シャロン・ラ・モリエール

    5人よってたかって解呪…たしかに手厚すぎて面白いですね。 おじいちゃん、大人気です? モテ期です? しかし蛇は毒ブレスを持っているようなので、あればあるで使うところはあると思いますよ。

  17. ヨル・スレイマン

    はっ 俺も解呪は持っていかないかな。何も言ってなかったからね。トーラ君はどうか気に病まずにね。 誰かがかける時にちょっと気を逸らすくらいはしてみようかなと思っているよ。 とはいえ敵の毒攻撃もあるかもみたいだし、複数持って行ってもきっと腐らないとは思う思う。 >コア狙い あーーーーなるほどなあ。とても賢い……。 そしたらちょっと注意して戦ってみるし、それっぽいものがあったら共有するようにもしておくね。

  18. ハルハン・ツァガーンナル

    >コア なるほど。あるかどうかは分かりませんが、試してみる価値はありますね 蛇の身体にはないものを見つけたら、狙ってみます! 備品を守る方は、頼もしい感じですね ボクは、ドラゴンチャリオッツ、シーザーロアで、位置を変えたり、誘導できるようにしてみます! INIは低めなので、先手は打てませんが。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0