【学乱】それでも今は舞踏会の準備を
青猫格子
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シナリオID:1249
オープニング
●仮装舞踏会、トラブル発生
パンクリアース学園ではいよいよ生徒会総選挙の日が近づいてきていた。
かつて、この選挙がここまで話題になったことがあるだろうか。
今回の選挙は無記名で投票ができるとあって、これまでの予想が覆される結果が出る可能性もある。
選挙に合わせて、各生徒たちの間で関連した催しが計画され、学園はお祭り騒ぎになりつつあった。
2年生のアンネリー・ゼンゲルが主催した『仮装舞踏会』もそうしたイベントの一つだ。
派閥を超えた生徒たちが様々な仮装をして会場に集い、立候補者のアピールや各派閥への理解の場として役立ててもらうというのがイベントの目的である。
冒険者たちの協力により準備も進み、造花や色とりどりの布で飾られた会場、立食会の料理などが用意されていた。
あとは試着とリハーサルを行うというところまでは順調だったのだが……。
「ちょっと。どういうこと?」
「ああ、君に言っても舞踏会の開催は止めないだろうからね。強硬手段に出ることにした」
理解できないと言った顔でラルスを見つめるアンネリー。
婚約者の予想外の行動により、会場は使えなくなってしまった。
本番を会場で行えるかどうかは、冒険者たちが舞踏会の会場を取り戻せるかにかかっている。
それはそれとして、アンネリーたちは急遽別の場所で試着とリハーサルを行うことにすることにした。
●先の見通せないリハーサル
ラルスの行動はアンネリーの心を傷つけかねないものであったが、予想外に彼女は落ち着いていた。
「この教室はどうかしら?」
教師から聞いた空き教室の一つへやってきたアンネリーたち。
大人数が座って講義を聴く形式の教室だ。
机が階段状に配置されており、奥からでも教壇が見やすい作りになっている。
「うん、広さは十分だよ。あと机を左右に寄せようか」
イアン・ランボヴィルたちが手分けして机を動かし始めると、アンネリーも手伝うという。
「アンネリー様、ここは私たちに任せて休んでは?」
「いいえ、いま動きたい気分なの」
メイドの言葉にアンネリーは首を振り、近くにあった机を押し始める。
(……やっぱり、落ち込んでいるんじゃないかしら?)
アンネリーの友人たちが彼女に聞こえない小さな声で話し合う。
襲撃事件のときもそうだったが、どうも彼女は大変な時に自分の感情を押し殺してしまうようだ。
「ねえ、隣の部屋を更衣室に使えるように片付けて来てくれないかしら?」
「え、ええ、わかりましたわ」
彼女をこれ以上心配させないよう、友人たちは話を止めて更衣室へと向かう。
「イアン様、私は料理の材料を準備する手伝いに行ってきます」
「うん、でも……」
アンジェラの言葉に返答が詰まるイアン。料理は会場の規模や招待人数に合わせて作られる予定だった。
会場が取り戻せず別会場で舞踏会を行う事になった場合、どのくらいの料理が残ることになってしまうか予想がつかない。
「心配しないでください、今回は一人で料理を作るわけではありませんので」
そういう心配をしている訳ではないのだが、アンジェラはあえて冗談を言っているのかもしれない。
イアンは、ここは彼女に任せようと思うことにした。
しばらくして、衣装を持った参加者や冒険者たちも教室へと集まってきた。
急遽会場が変わったので遅れてくるものも若干いるようだが、いつまでも待つわけにも行かない。
段取りは変わってしまったが、リハーサルを始めることにした。
音楽係の生徒たちが楽器を演奏し始める。
「更衣室はこっちよ。会場では音楽に合わせて踊ってもいいし、衣装に問題ないか確認するだけでもいいわ。壇上で何かアピールの練習をしたいならどうぞ」
アンネリーは最初こそ元気よく参加者に説明していたが、力仕事と心労で疲れたのか衣装に着替えず、しばらくすると教室の椅子に座って外を眺めている。
本来なら、アンネリーが妖精の衣装、ラルスが狩人の衣装を着て参加者へ挨拶を行う予定であった。
だがその衣装も今となっては衣装ケースに仕舞われたままである。
はたして無事に舞踏会は開催できるのだろうか?
パンクリアース学園ではいよいよ生徒会総選挙の日が近づいてきていた。
かつて、この選挙がここまで話題になったことがあるだろうか。
今回の選挙は無記名で投票ができるとあって、これまでの予想が覆される結果が出る可能性もある。
選挙に合わせて、各生徒たちの間で関連した催しが計画され、学園はお祭り騒ぎになりつつあった。
2年生のアンネリー・ゼンゲルが主催した『仮装舞踏会』もそうしたイベントの一つだ。
派閥を超えた生徒たちが様々な仮装をして会場に集い、立候補者のアピールや各派閥への理解の場として役立ててもらうというのがイベントの目的である。
冒険者たちの協力により準備も進み、造花や色とりどりの布で飾られた会場、立食会の料理などが用意されていた。
あとは試着とリハーサルを行うというところまでは順調だったのだが……。
「ちょっと。どういうこと?」
「ああ、君に言っても舞踏会の開催は止めないだろうからね。強硬手段に出ることにした」
理解できないと言った顔でラルスを見つめるアンネリー。
婚約者の予想外の行動により、会場は使えなくなってしまった。
本番を会場で行えるかどうかは、冒険者たちが舞踏会の会場を取り戻せるかにかかっている。
それはそれとして、アンネリーたちは急遽別の場所で試着とリハーサルを行うことにすることにした。
●先の見通せないリハーサル
ラルスの行動はアンネリーの心を傷つけかねないものであったが、予想外に彼女は落ち着いていた。
「この教室はどうかしら?」
教師から聞いた空き教室の一つへやってきたアンネリーたち。
大人数が座って講義を聴く形式の教室だ。
机が階段状に配置されており、奥からでも教壇が見やすい作りになっている。
「うん、広さは十分だよ。あと机を左右に寄せようか」
イアン・ランボヴィルたちが手分けして机を動かし始めると、アンネリーも手伝うという。
「アンネリー様、ここは私たちに任せて休んでは?」
「いいえ、いま動きたい気分なの」
メイドの言葉にアンネリーは首を振り、近くにあった机を押し始める。
(……やっぱり、落ち込んでいるんじゃないかしら?)
アンネリーの友人たちが彼女に聞こえない小さな声で話し合う。
襲撃事件のときもそうだったが、どうも彼女は大変な時に自分の感情を押し殺してしまうようだ。
「ねえ、隣の部屋を更衣室に使えるように片付けて来てくれないかしら?」
「え、ええ、わかりましたわ」
彼女をこれ以上心配させないよう、友人たちは話を止めて更衣室へと向かう。
「イアン様、私は料理の材料を準備する手伝いに行ってきます」
「うん、でも……」
アンジェラの言葉に返答が詰まるイアン。料理は会場の規模や招待人数に合わせて作られる予定だった。
会場が取り戻せず別会場で舞踏会を行う事になった場合、どのくらいの料理が残ることになってしまうか予想がつかない。
「心配しないでください、今回は一人で料理を作るわけではありませんので」
そういう心配をしている訳ではないのだが、アンジェラはあえて冗談を言っているのかもしれない。
イアンは、ここは彼女に任せようと思うことにした。
しばらくして、衣装を持った参加者や冒険者たちも教室へと集まってきた。
急遽会場が変わったので遅れてくるものも若干いるようだが、いつまでも待つわけにも行かない。
段取りは変わってしまったが、リハーサルを始めることにした。
音楽係の生徒たちが楽器を演奏し始める。
「更衣室はこっちよ。会場では音楽に合わせて踊ってもいいし、衣装に問題ないか確認するだけでもいいわ。壇上で何かアピールの練習をしたいならどうぞ」
アンネリーは最初こそ元気よく参加者に説明していたが、力仕事と心労で疲れたのか衣装に着替えず、しばらくすると教室の椅子に座って外を眺めている。
本来なら、アンネリーが妖精の衣装、ラルスが狩人の衣装を着て参加者へ挨拶を行う予定であった。
だがその衣装も今となっては衣装ケースに仕舞われたままである。
はたして無事に舞踏会は開催できるのだろうか?
解説
※このシナリオでは生徒会役員への立候補を受け付けます。詳細は【学乱】連動特設ページをご覧ください。
生徒会総選挙関連イベント、仮装舞踏会のリハーサルをしましょう。
元々は実際の会場で行う予定でしたが、急遽空き教室での開催になりました。
講義用の教室の机を左右に避けただけの状態なので、雰囲気は本番の会場と結構違います。
参加者として衣装を着て踊ってもいいですし、作った衣装の最終確認をしたり、手直しをしたり、その他の企画の確認などを色々できます。ただし、本番の会場へ行って何かするということはできません。
アンジェラと一緒に舞踏会で出す料理の材料を準備することもできます。
料理自体は当日の午前中に料理人などが作るので、材料の買い出しや簡単な下ごしらえなどを行います。
また、アンネリーは少し落ち込んでいるようです。もし余裕があれば彼女を励ましてください。
マスターより
こんにちは。青猫格子です。
【学乱】もいよいよ佳境に入ってきました。トラブルが発生してしまいましたが、今は仮装舞踏会が開催できることを祈りつつ準備をしましょう。
関連シナリオ「【学乱】舞踏会会場占拠事件」は同時参加も可能ですが、1シナリオ中に両方の場所を行き来するプレイングはできないので注意してください。
それではご参加お待ちしております。
リプレイ
●買い出しの帰り
パンクリアース学園の廊下。
食堂へと向かうその道を大小二つの影が大荷物を持って歩いている。
小さい方がハリーヌ・ヨツユビ。そして大きい方がハリーヌのペットのゴリラだ。
双方両手に大量の食材を抱えてやや危なっかしそうに歩いている。
アンジェラたちの料理の手伝いをしようと材料の買い出しへ行ってきた帰りだ。
「お貴族様の口に入るものでございます。とにかく質重視で厳選しましたが、少し多くなってしまいましたね」
できるだけ新鮮かつ旬の食材を選んで買い込んだのだが、熱心に選んだためか数が多くなってしまった。
なんとかハリーヌとゴリラで分担して食堂へと運んでいる最中だ。
その時、途中の曲がり角から一人の女子が現れてハリーヌとぶつかりそうになる。
「おっとあぶない!」
ハリーヌは軽く避け、ゴリラも立ち止まるが驚いた女子は転びそうになってしまった。
「大丈夫でございますか? おや、アンネリー様ではないですか」
どうやらアンネリーも食堂へ行こうとしていた所、ハリーヌたちと鉢合わせてしまったらしい。
「ええ、大丈夫。それにしてもすごい荷物ね。私も運ぶわ」
「いえいえ、それには及びません。ワタクシもゴリラも余裕でございますので」
ハリーヌとゴリラが軽々しく荷物を上げる。アンネリーは頷くと一緒に食堂へ向かうことにした。
「それにしても、何やら学園内で、行動や言動がおかしくなった方がいらっしゃると聞いたでございます」
「そうみたいね……」
アンネリーがハリーヌの言葉で思い浮かべたのは、当然ラルスのことだった。
彼はあのまま元に戻らないのだろうか……。
「できるだけお一人にはならず、お気をつけくださいませ」
「わかったわ。ありがとう」
ハリーヌが気遣っていることを分かっていたのでアンネリーはやや無理に笑顔をつくった。
食堂の調理室ではアンジェラや他の使用人、そして冒険者たちが料理の準備をしていた。
「ありがとうございます。これだけあれば料理にはじゅうぶん足りますわ」
アンジェラが届いた材料を見て喜んだ後、少し申し訳無さそうにハリーヌとアンネリーに話しかける。
「実は、会食に出すお菓子を作りすぎてしまったんですが、よければ食べていただけないでしょうか?」
「なんともったいないお言葉。ですが、料理が余ってしまっては余計にもったいないことでございます。せっかくなのでいただきましょう。アンネリー様はどうなされますか?」
と言いつつハリーヌはアンネリーの顔を見る。
「そうね。私もいただきますわ」
アンジェラはさっそく食堂の一角にお菓子と紅茶を用意する。
王国風のケーキ、帝国風のクッキー……など様々なお菓子が少しずつ皿に載っており見た目も楽しい。
「さすが、高貴な方々のお口に入るお菓子は素晴らしいでございますね……もぐもぐ」
喜んで食べるハリーヌの姿を見て一緒に食べているアンネリーも先程より自然と笑顔になっていた。
しばしの休憩を楽しんだ後、ハリーヌは料理の手伝いをすることにし、アンネリーはリハーサルの様子を見に戻ることにした。
●早着替えは大変
アンネリーがいない間も、教室では舞踏会のリハーサルが進んでいた。
「ふーん、仮装しての舞踏会? 生徒会選挙? そういえばそんな話があったわね」
王国子爵の娘デイジー・ロックウェルは学園の生徒であるが、選挙にはそこまで関心がないようだ。
貴族派貴族の本家と父が距離をおいているのも一因かもしれない。
今回は、いろいろな偶然や縁が重なり、仮装舞踏会のリハーサルを手伝うことになった。
「手伝いって何をすればいいのかしら?」
「ちょうど良いわ。この衣装、特殊な仕掛けがあるからちゃんと動作するか確認したいの」
アンネリーの友人の一人、ミラが衣装を持ってくる。
花をモチーフにした妖精の衣装だ。膝丈のスカートがふんわりして花の蕾のようになっている。そして腰にはシャルガネ風の衣装のように帯が巻かれていた。
「可愛らしくて元気そうな感じの衣装ね。仕掛けって?」
「この帯を解くと、妖精のお姫様の衣装に変化するという仕掛けなの」
デイジーは彼女たちに手伝ってもらって衣装を身につける。
運動神経の良い彼女には、活発な雰囲気の妖精の衣装はとても似合っているように見えた。
「着た感じは問題なさそうね。ちょっと踊ってみてもいい?」
流れていた音楽に合わせてデイジーは踊り始める。相手はとりあえずミラがつとめることになった。
「動くとちょっときついかなと思ったけど、大丈夫ね。さっそく早着替えを試してみましょうか」
デイジーはミラに帯を引っ張ってもらうが、思ったより硬い。
「うーん、あれ? え、えいっ!」
「わぁっ!!?」
力任せに彼女が引っ張ると、帯は外れたが、その勢いでデイジーはくるくる回ってしまう。
コマのように教室の中を回ってしまったが、持ち前のバランスの良さでなんとか立ち止まることができた。
「大丈夫ですか!?」
驚いた周りの者たちがデイジーに声をかける。
「ええ、でも……あたし以外だったら危なかったかも」
本番で衣装を着た人がコマのように会場から飛んでいってしまったら大変だ。
さっそく帯を緩めに手直しすることにした。
「今度こそ問題ないはずよ」
治した衣装でもう一度踊りながら帯を引いてもらう。
上着が外れてスカートがふわり、と広がる。
活発なイメージの妖精の衣装から一転、上品な雰囲気の妖精の女王の姿に変化していた。
早着替えが成功したことで周囲から自然と拍手が起こる。
「あたしが作った衣装というわけでもないのに、なんだか恥ずかしいわね」
「そんなことありませんわ。デイジーさんが試着してくれたおかげで完成度を高めることができたのですから」
デイジーの言葉にミラたちが首を振る。
ゼロから衣装をつくることももちろん素晴らしいことだが、仮装舞踏会で披露できなければ意味がない。
それ思うと、アンネリーとラルスの衣装はせっかく用意したのにこのままでは意味がなくなってしまうのだろうか……。
デイジーや友人たちがそんな事を考えながらダンスを続ける。
華やかな音楽が教室に響くが、まだ心までは軽やかになれない。
●沸き立つ教室
(学園だの貴族だの、俺の知らない世界に坊ちゃんが関わっていくのは不安です)
オゴスは張り切って衣装の準備をしているギャメルを見てやや複雑な気分だった。
ギャメルは彼の亡き恩人の息子。彼のことはできるだけ助けたいと思っているが、貴族の世界のことなど自分にはわからない。
そんな彼の心情を知ってか知らずか、ギャメルはこの前の準備で用意したオウムをイメージしたスーツを身に着け、オゴスの元へやってきた。
「オゴス、手伝いに来てくれてありがとう! ああ、学園の雰囲気は苦手なのかな?」
渋い表情をしているオゴスを見てギャメルは心配そうにしている。
「いえいえ、俺は坊ちゃんの助けになれりゃ嬉しいんです。雰囲気も悪くはないです」
ここには沢山の綺麗なものがある。
華やかな衣装を身につけた貴族や冒険者たち、そして流れる上品な音楽。
密かに綺麗なものを好むオゴスにとっては興味の尽きない空間だった。
「そうか、よかったぜ。よし、さっそく衣装の確認に入ろう!」
ギャメルは音楽に合わせて軽く揺れるようなダンスをしていたが、なんだか物足りないらしい。
「もっと速めの音楽はないかな?」
「やってみるけど……こんな感じ?」
楽団が民族風の音楽を速めにしたアレンジの曲を演奏する。
ギャメルは楽しそうに音楽にのってダンスを始めた。
「いいね! オゴスも皆も、せっかくだから一緒に踊らねぇ?」
教室で踊っていた他の者たちは今までのダンスと違い戸惑っていたが、次第に音楽のノリに合わせて踊りに加わっていった。
ちょうどその時、教室に戻ってきたアンネリーは驚いた。
「ただいま……ってどうしたの!?」
教室が沸いている。テンポの早い音楽に合わせて皆が思い思いに踊っていた。
「これはゴールディ風のダンスというのか……舞踏会にふさわしくない雰囲気になってしまいすみません」
踊りに半ば無理やり巻き込まれていたオゴスがなんとか抜け出してきてアンネリーに説明する。
「ご、ごめんよ。新鮮で盛り上がるかなと思ったんだ」
ギャメルがアンネリーの様子を見て慌てて音楽を元に戻すよう指示する。
「確かに、最初は驚いてしまったわ。でも、皆が楽しそうだったから、悪くないかも……」
夜に夜煌石の飾りが輝く会場で踊ったら盛り上がるかもしれない。
なぜかは分からないが、彼女の頭の中にそのような光景が浮かんできた。
「だろ! これで本番も女子とばっちり踊れるな!」
ギャメルが嬉しそうに言うが、オゴスはどう答えたものか考えて返答に詰まる。
(ゴブリンと踊る変わり者はいるんでしょうかねえ)
派手な衣装で注目は集められるかもしれないが、一緒に踊ってもらえる相手がいるかどうかとなると話は変わる。
もし、残念な結果となってしまったときは、自分がギャメルを慰める事ができるようにしなければ……と考えるオゴスであった。
「どうしたんだ?」
長い間返事をしないオゴスを見てギャメルは不思議そうな顔をする。
「い、いえ。そうだ、坊ちゃん、女子と踊りたいなら王国の舞踏会にふさわしいゆったりとした踊りも練習しておくべきです」
丁度、教室の中では先程よりもスローテンポの曲が流れ、舞踏会らしいダンスの練習が始まっていた。
「それなら、私と踊りの練習をしましょうか」
ダンスの様子を見ていたアンネリーが提案する。
「よ、よろしくおねがいします……」
ギャメルはアンネリーに教わりながら音楽に合わせてステップを踏む。
若干身長差でぎこちないが、素直に練習しているため習得は早い。
(坊ちゃん、ゴブリンが王国にしゃしゃりだすなんてお勧めしません)
オゴスは熱心にダンスを練習するギャメルの姿を見て、ますます顔が険しくなる。
そこは綺麗な見た目の世界だが、生半可な者が闇の中に踏み込んでしまえば戻ってこられないかもしれない。
「ありがとうございました。オレなんかに……」
ダンスが終わってギャメルはアンネリーに礼を言う。
「いいえ、こちらこそ。踊って少し元気になった気がするわ」
やはり、彼女はまだラルスのことを心配しているのだ。
「えっと、冒険者としてオレがアンネリー様の助けになります! 頑張ります! だから、安心して舞踏会の準備に専念してください」
(坊ちゃん……)
オゴスはギャメルが彼女のことを心配している気持ちも当然分かっていた。
ただ、必要以上に深入りして欲しくないだけだ。
(どうかこれからも俺に坊ちゃんを助けさせてください)
何か起こる前に彼を助けなければ。たとえ彼の意志と対立することになっても。
●撤収
「皆さん、今日はありがとうございます。これできっと本番もうまくいきますわ」
一通り衣装の確認や踊りが終わった後、アンネリーが皆に呼びかける。
問題はその本番が無事開催されるかなのだが、アンネリーは今は不思議と落ち着いていた。
これだけの人々が開催に向けて協力してくれた。あとは運に任せるしかない。
ギャメルは会場を取り戻すために先に教室を去り、残った他の者たちは教室を片付ける。
オゴス、デイジーやアンネリーの友人たちが中心となって作業は手際よく進んだ。
あっという間に教室は元通りになる。
「お疲れ様でした! よかったらこのお菓子をどうぞ」
料理の準備を終えたアンジェラが皆に差し入れを持ってくる。
「おや、先程いただいたクッキーもありますね。これは絶品でございますよ」
ハリーヌの言葉でアンジェラのクッキー争奪戦が起きてしまう。
「みなさん、落ち着いて。これは差し入れ用に作ったもので数はありますから」
アンジェラは慌てて皆を落ち着かせようと呼びかける。
「それなら安心して食べられるわ……あっ、本当に美味しい!」
デイジーはクッキーを食べてその美味しさに驚く。
リハーサルを終えた皆がくつろぐ姿をアンネリーは微笑みながら見ていた。
(舞踏会は必ず成功するわ。いえ、きっと成功させる……!)
密かに心の中で決心する彼女。
彼女の視線の先には舞踏会の衣装が仕舞われていた箱がある。
あとで自分の衣装も試着しなければ、と思うアンネリーであった。
パンクリアース学園の廊下。
食堂へと向かうその道を大小二つの影が大荷物を持って歩いている。
小さい方がハリーヌ・ヨツユビ。そして大きい方がハリーヌのペットのゴリラだ。
双方両手に大量の食材を抱えてやや危なっかしそうに歩いている。
アンジェラたちの料理の手伝いをしようと材料の買い出しへ行ってきた帰りだ。
「お貴族様の口に入るものでございます。とにかく質重視で厳選しましたが、少し多くなってしまいましたね」
できるだけ新鮮かつ旬の食材を選んで買い込んだのだが、熱心に選んだためか数が多くなってしまった。
なんとかハリーヌとゴリラで分担して食堂へと運んでいる最中だ。
その時、途中の曲がり角から一人の女子が現れてハリーヌとぶつかりそうになる。
「おっとあぶない!」
ハリーヌは軽く避け、ゴリラも立ち止まるが驚いた女子は転びそうになってしまった。
「大丈夫でございますか? おや、アンネリー様ではないですか」
どうやらアンネリーも食堂へ行こうとしていた所、ハリーヌたちと鉢合わせてしまったらしい。
「ええ、大丈夫。それにしてもすごい荷物ね。私も運ぶわ」
「いえいえ、それには及びません。ワタクシもゴリラも余裕でございますので」
ハリーヌとゴリラが軽々しく荷物を上げる。アンネリーは頷くと一緒に食堂へ向かうことにした。
「それにしても、何やら学園内で、行動や言動がおかしくなった方がいらっしゃると聞いたでございます」
「そうみたいね……」
アンネリーがハリーヌの言葉で思い浮かべたのは、当然ラルスのことだった。
彼はあのまま元に戻らないのだろうか……。
「できるだけお一人にはならず、お気をつけくださいませ」
「わかったわ。ありがとう」
ハリーヌが気遣っていることを分かっていたのでアンネリーはやや無理に笑顔をつくった。
食堂の調理室ではアンジェラや他の使用人、そして冒険者たちが料理の準備をしていた。
「ありがとうございます。これだけあれば料理にはじゅうぶん足りますわ」
アンジェラが届いた材料を見て喜んだ後、少し申し訳無さそうにハリーヌとアンネリーに話しかける。
「実は、会食に出すお菓子を作りすぎてしまったんですが、よければ食べていただけないでしょうか?」
「なんともったいないお言葉。ですが、料理が余ってしまっては余計にもったいないことでございます。せっかくなのでいただきましょう。アンネリー様はどうなされますか?」
と言いつつハリーヌはアンネリーの顔を見る。
「そうね。私もいただきますわ」
アンジェラはさっそく食堂の一角にお菓子と紅茶を用意する。
王国風のケーキ、帝国風のクッキー……など様々なお菓子が少しずつ皿に載っており見た目も楽しい。
「さすが、高貴な方々のお口に入るお菓子は素晴らしいでございますね……もぐもぐ」
喜んで食べるハリーヌの姿を見て一緒に食べているアンネリーも先程より自然と笑顔になっていた。
しばしの休憩を楽しんだ後、ハリーヌは料理の手伝いをすることにし、アンネリーはリハーサルの様子を見に戻ることにした。
●早着替えは大変
アンネリーがいない間も、教室では舞踏会のリハーサルが進んでいた。
「ふーん、仮装しての舞踏会? 生徒会選挙? そういえばそんな話があったわね」
王国子爵の娘デイジー・ロックウェルは学園の生徒であるが、選挙にはそこまで関心がないようだ。
貴族派貴族の本家と父が距離をおいているのも一因かもしれない。
今回は、いろいろな偶然や縁が重なり、仮装舞踏会のリハーサルを手伝うことになった。
「手伝いって何をすればいいのかしら?」
「ちょうど良いわ。この衣装、特殊な仕掛けがあるからちゃんと動作するか確認したいの」
アンネリーの友人の一人、ミラが衣装を持ってくる。
花をモチーフにした妖精の衣装だ。膝丈のスカートがふんわりして花の蕾のようになっている。そして腰にはシャルガネ風の衣装のように帯が巻かれていた。
「可愛らしくて元気そうな感じの衣装ね。仕掛けって?」
「この帯を解くと、妖精のお姫様の衣装に変化するという仕掛けなの」
デイジーは彼女たちに手伝ってもらって衣装を身につける。
運動神経の良い彼女には、活発な雰囲気の妖精の衣装はとても似合っているように見えた。
「着た感じは問題なさそうね。ちょっと踊ってみてもいい?」
流れていた音楽に合わせてデイジーは踊り始める。相手はとりあえずミラがつとめることになった。
「動くとちょっときついかなと思ったけど、大丈夫ね。さっそく早着替えを試してみましょうか」
デイジーはミラに帯を引っ張ってもらうが、思ったより硬い。
「うーん、あれ? え、えいっ!」
「わぁっ!!?」
力任せに彼女が引っ張ると、帯は外れたが、その勢いでデイジーはくるくる回ってしまう。
コマのように教室の中を回ってしまったが、持ち前のバランスの良さでなんとか立ち止まることができた。
「大丈夫ですか!?」
驚いた周りの者たちがデイジーに声をかける。
「ええ、でも……あたし以外だったら危なかったかも」
本番で衣装を着た人がコマのように会場から飛んでいってしまったら大変だ。
さっそく帯を緩めに手直しすることにした。
「今度こそ問題ないはずよ」
治した衣装でもう一度踊りながら帯を引いてもらう。
上着が外れてスカートがふわり、と広がる。
活発なイメージの妖精の衣装から一転、上品な雰囲気の妖精の女王の姿に変化していた。
早着替えが成功したことで周囲から自然と拍手が起こる。
「あたしが作った衣装というわけでもないのに、なんだか恥ずかしいわね」
「そんなことありませんわ。デイジーさんが試着してくれたおかげで完成度を高めることができたのですから」
デイジーの言葉にミラたちが首を振る。
ゼロから衣装をつくることももちろん素晴らしいことだが、仮装舞踏会で披露できなければ意味がない。
それ思うと、アンネリーとラルスの衣装はせっかく用意したのにこのままでは意味がなくなってしまうのだろうか……。
デイジーや友人たちがそんな事を考えながらダンスを続ける。
華やかな音楽が教室に響くが、まだ心までは軽やかになれない。
●沸き立つ教室
(学園だの貴族だの、俺の知らない世界に坊ちゃんが関わっていくのは不安です)
オゴスは張り切って衣装の準備をしているギャメルを見てやや複雑な気分だった。
ギャメルは彼の亡き恩人の息子。彼のことはできるだけ助けたいと思っているが、貴族の世界のことなど自分にはわからない。
そんな彼の心情を知ってか知らずか、ギャメルはこの前の準備で用意したオウムをイメージしたスーツを身に着け、オゴスの元へやってきた。
「オゴス、手伝いに来てくれてありがとう! ああ、学園の雰囲気は苦手なのかな?」
渋い表情をしているオゴスを見てギャメルは心配そうにしている。
「いえいえ、俺は坊ちゃんの助けになれりゃ嬉しいんです。雰囲気も悪くはないです」
ここには沢山の綺麗なものがある。
華やかな衣装を身につけた貴族や冒険者たち、そして流れる上品な音楽。
密かに綺麗なものを好むオゴスにとっては興味の尽きない空間だった。
「そうか、よかったぜ。よし、さっそく衣装の確認に入ろう!」
ギャメルは音楽に合わせて軽く揺れるようなダンスをしていたが、なんだか物足りないらしい。
「もっと速めの音楽はないかな?」
「やってみるけど……こんな感じ?」
楽団が民族風の音楽を速めにしたアレンジの曲を演奏する。
ギャメルは楽しそうに音楽にのってダンスを始めた。
「いいね! オゴスも皆も、せっかくだから一緒に踊らねぇ?」
教室で踊っていた他の者たちは今までのダンスと違い戸惑っていたが、次第に音楽のノリに合わせて踊りに加わっていった。
ちょうどその時、教室に戻ってきたアンネリーは驚いた。
「ただいま……ってどうしたの!?」
教室が沸いている。テンポの早い音楽に合わせて皆が思い思いに踊っていた。
「これはゴールディ風のダンスというのか……舞踏会にふさわしくない雰囲気になってしまいすみません」
踊りに半ば無理やり巻き込まれていたオゴスがなんとか抜け出してきてアンネリーに説明する。
「ご、ごめんよ。新鮮で盛り上がるかなと思ったんだ」
ギャメルがアンネリーの様子を見て慌てて音楽を元に戻すよう指示する。
「確かに、最初は驚いてしまったわ。でも、皆が楽しそうだったから、悪くないかも……」
夜に夜煌石の飾りが輝く会場で踊ったら盛り上がるかもしれない。
なぜかは分からないが、彼女の頭の中にそのような光景が浮かんできた。
「だろ! これで本番も女子とばっちり踊れるな!」
ギャメルが嬉しそうに言うが、オゴスはどう答えたものか考えて返答に詰まる。
(ゴブリンと踊る変わり者はいるんでしょうかねえ)
派手な衣装で注目は集められるかもしれないが、一緒に踊ってもらえる相手がいるかどうかとなると話は変わる。
もし、残念な結果となってしまったときは、自分がギャメルを慰める事ができるようにしなければ……と考えるオゴスであった。
「どうしたんだ?」
長い間返事をしないオゴスを見てギャメルは不思議そうな顔をする。
「い、いえ。そうだ、坊ちゃん、女子と踊りたいなら王国の舞踏会にふさわしいゆったりとした踊りも練習しておくべきです」
丁度、教室の中では先程よりもスローテンポの曲が流れ、舞踏会らしいダンスの練習が始まっていた。
「それなら、私と踊りの練習をしましょうか」
ダンスの様子を見ていたアンネリーが提案する。
「よ、よろしくおねがいします……」
ギャメルはアンネリーに教わりながら音楽に合わせてステップを踏む。
若干身長差でぎこちないが、素直に練習しているため習得は早い。
(坊ちゃん、ゴブリンが王国にしゃしゃりだすなんてお勧めしません)
オゴスは熱心にダンスを練習するギャメルの姿を見て、ますます顔が険しくなる。
そこは綺麗な見た目の世界だが、生半可な者が闇の中に踏み込んでしまえば戻ってこられないかもしれない。
「ありがとうございました。オレなんかに……」
ダンスが終わってギャメルはアンネリーに礼を言う。
「いいえ、こちらこそ。踊って少し元気になった気がするわ」
やはり、彼女はまだラルスのことを心配しているのだ。
「えっと、冒険者としてオレがアンネリー様の助けになります! 頑張ります! だから、安心して舞踏会の準備に専念してください」
(坊ちゃん……)
オゴスはギャメルが彼女のことを心配している気持ちも当然分かっていた。
ただ、必要以上に深入りして欲しくないだけだ。
(どうかこれからも俺に坊ちゃんを助けさせてください)
何か起こる前に彼を助けなければ。たとえ彼の意志と対立することになっても。
●撤収
「皆さん、今日はありがとうございます。これできっと本番もうまくいきますわ」
一通り衣装の確認や踊りが終わった後、アンネリーが皆に呼びかける。
問題はその本番が無事開催されるかなのだが、アンネリーは今は不思議と落ち着いていた。
これだけの人々が開催に向けて協力してくれた。あとは運に任せるしかない。
ギャメルは会場を取り戻すために先に教室を去り、残った他の者たちは教室を片付ける。
オゴス、デイジーやアンネリーの友人たちが中心となって作業は手際よく進んだ。
あっという間に教室は元通りになる。
「お疲れ様でした! よかったらこのお菓子をどうぞ」
料理の準備を終えたアンジェラが皆に差し入れを持ってくる。
「おや、先程いただいたクッキーもありますね。これは絶品でございますよ」
ハリーヌの言葉でアンジェラのクッキー争奪戦が起きてしまう。
「みなさん、落ち着いて。これは差し入れ用に作ったもので数はありますから」
アンジェラは慌てて皆を落ち着かせようと呼びかける。
「それなら安心して食べられるわ……あっ、本当に美味しい!」
デイジーはクッキーを食べてその美味しさに驚く。
リハーサルを終えた皆がくつろぐ姿をアンネリーは微笑みながら見ていた。
(舞踏会は必ず成功するわ。いえ、きっと成功させる……!)
密かに心の中で決心する彼女。
彼女の視線の先には舞踏会の衣装が仕舞われていた箱がある。
あとで自分の衣装も試着しなければ、と思うアンネリーであった。
マスターコメント
お疲れ様でした。
こちらのリプレイの場面は「【学乱】舞踏会会場占拠事件」のリプレイの少し前の時間になっています。
アンネリーは冒険者たちの姿を見て自信を取り戻したようです。
ご参加ありがとうございました!
ショートシナリオ易しい 報酬:標準4 / 4〜8人
2021年08月19日 16時02分57秒 公開
成功
相談掲示板
ギャメルだ。出発までに人が集まるといいな! もう一つの「【学乱】舞踏会会場占拠事件」にも参加してるが、同時参加OKってことでこっちにも飛び込んだ!
通りすがりの学生…デイジーよ。 何だか手が足りなそうだから、手伝って上げるわ
ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 皆様、どうぞよろしくお願いいたしますよ! ワタクシ、ダンスなどは無理でございますから…お料理の下ごしらえや買い物をいたしましょう。
揃ったかしら? あたしは、衣装を着て踊ってみたり、衣装の手直しするわね
オゴスと申します。俺は坊ちゃん……ギャメルさんの衣装などをチェックしましょうかね。 デイジーさんとハリーヌさんも、どうぞよろしくお願いいたします。