【呪輪】彼の聲は誰が為に

桃谷かな

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シナリオID:1230

オープニング

 森の聲、森の意思。
 彼の導きは我らが為に。
 深き森の代弁者(ハイアルヴ)はエルフと共に。

 目を閉じよ、耳を澄ませ。
 彼の聲は誰が為にある――。

●
 タルフネイリ。フィルエス大森林の南東、鬱蒼たる森に抱かれた同名(タルフネイリ)の氏族の里。外部との交わりは年に数えるほどと聞く、古きを守るエルフたちの土地だ。
 交易路を逸れて道なき道を行き、樹々の隙間の暗がりを抜け、冒険者たちはその里へと足を踏み入れる。シンと静寂に満ちた里を歩けば、樹々の間に建つ簡素な家屋から幾つもの視線が肌を刺し、粘りをもって纏わりついた。
「ここは、特に保守的な里で」
 同族のエルフでさえも容易には受け容れぬ里らしいと、案内役の冒険者ギルド職員が囁くように言う。
 やがて招き入れられた小屋の中には、座したまま険しい目付きで彼ら(冒険者)を見据えるエルフたちの姿があった。
 老若男女10名はいるだろうか。皆、判を捺したように同じ顔に見える。

「そなたらが冒険者か」

 中央に座した、長と思しき老エルフが問う。
「ご依頼の通り、冒険者を連れてきました。先日ギルド宛に頂いた依頼票では……護衛依頼、敵はオーク、とのことですが。具体的には?」
 至急と書かれたそれには、事の仔細が書かれていない。ギルド職員の問いに、長は険しいままの表情(余所者への不信感)を隠す様子も見せずに応じた。
「左様。森の異変についてはそなたらも知っておろう。枯れた森から流れたオークどもが我らの狩場に棲み着いた。奴らは、今宵この里を奪わんとしておる」
「なぜ、襲撃があるとわかるのですか」
「ハイアルヴ(森)の意思じゃ。巫女が声(お告げ)を聴いた」
 訝しげに問うギルド職員を制するかのように、長の声が低く響き渡る。
「奴らは今宵、里の北より攻めて来よう。奴らを殺せ。里に入れるな。それだけじゃ」
 タルフネイリに授恵者は居ない。里の危機に際して余所者を頼るのは、最古老の一人グレイオンスの助言を受けた苦渋の決断であったのか。長の――同じ顔のエルフらの視線は排他的感情で満ちていた。
「他にわかることはないのですか。敵の数や――」
「狩りの最中に見かけた限りですが、最低でも20。天然の洞窟とその周囲に簡素な集落を形成しています」
 後列に座した比較的若い男のエルフが口を開き、応じる。
「オークどもが棲み着いて以降、木の実や野草を採りに森へ入った女子供が行方知れずとなる事件が三度も起きました。既に5人が消えています。里の周囲では油が塗られた木々も見つかって……」
「オークが油を?」
 襲撃の下準備であろうか。事実であれば、たかがオークと侮るべきではない。ギルド職員は眉根を寄せ、冒険者たちと顔を見合わせた。
「それから、黒い――」
「イェオリ。もう良い」
 何かを言いかけた男を、長が制した。
「しかし……」
「あれは悪しき者ではない。この者らに話したとて、何になる」
 戒めを込めた長の言葉と、圧するような同胞たちの目。イェオリと呼ばれた男は、迷いの色を帯びた表情で冒険者たちへ視線を向ける。
「いえ。気になることがあれば聞かせてください。その情報が不要かどうかの判断は、こちらで」
「……」
 男は沈黙するエルフたちを恐る恐る見回し、自身を止める者が現れぬことを確認する。そして、再び口を開いた。
「オークが現れた頃から、黒く巨大な獣が里の周囲で見かけられるようになりました。山猫のような……。離れた場所から里や我々を眺めては、こちらが気付くと去って行きます。誰が襲われたこともないので、オークと関係があるとも思えませんが……皆は、森の精霊の化身だと」
「精霊……」
 精霊術師(エレメンタラー)が術の行使のために働きかけると言われるも、未だ存在を証明できぬもの。ハイアルヴとは異なり自然現象の運行を司る存在とされるが、実在すら疑われるそれが獣の姿で顕現しているのだと、彼らエルフは言う。

「森は我らと共にある。彼の者を害するは罷り成らぬ」

 同じ顔のエルフたちが、長の言葉に同調するかのように頷き合う。

「そなたらは、汚らわしき豚人どもを返り討ちにせよ。それ以上は望まぬ」
 肌の裏側までねめつけるような視線を余所者(冒険者)たちに浴びせながら、彼らはゆっくりと立ち上がった。
 これ以上の詮索は無用であると、警告するかのように。

解説

●依頼内容: ・フィルエス大森林南東部のエルフ集落(里)タルフネイリを、オークの襲撃から守ってください。 ・オークの襲撃による「里のエルフの死者がゼロ」「里の建物への被害が2割以下」であれば成功です。オークの襲撃によらない被害は成功度に関係しません。 ●状況: ・深い森に囲まれたタルフネイリ氏族の里(里の名前=氏族名)で、簡素な小屋のような住居が30軒ほど集まっています。森の見通しは悪く、里内にもまばらに木が生えていて死角が多いです。 ・森の中で戦闘する場合、近接攻撃に制限はありませんが、木々が邪魔で射撃攻撃の射線が通りにくくなります。6ヘクス以上離れた相手への攻撃には、命中判定時にマイナス補正が入ります。 ・里内および外周付近には、夕方から篝火を焚く予定です。不要なら焚かないこともできます。 ・オークたちは夕方以降に里の北側の森から攻めて来るそうです。現在は正午くらいです。 ・里のエルフたちはこの土地を先祖代々「聖域」と考え守り続けており、里外への避難には消極的です。 ・里内で情報収集などが可能ですが、特に保守的かつ排他的な氏族なのでコミュニケーションに難があります。若い世代は若干マシかもしれません。 ●敵: ・オーク × 20~ 身長2mほどのオークの群れ。棍棒や拾った剣、槍で武装しているようです。 フィルエス大森林の一部で起きている森の枯死現象の影響で、まだ被害を受けていないタルフネイリの近くに流れてきました。 勝手に森を切り開き、エルフの狩場で無遠慮に獲物を狩っています。エルフを見くびっているのか、里を襲撃して乗っ取るつもりのようです。

マスターより

こんにちは、桃谷です。 今回はフィルエス大森林の連動【呪輪】に参加させていただきました。 どうぞよろしくお願いいたします!

リプレイ

「ねえ、森の中にハンモック作っていい? あれすごく寝心地がいいんだよね……」
「……」
 同じ顔のエルフ達は、ヘレン・ワーグナーの眠たげな瞳をちらりと見、無言で小屋を後にする。そんな彼女の袖を引き、イズル・M・ヴォルゴールが囁いた。
「家に戻ったら近所に張って寝ればいいだろ」
「う~ん。森でお昼寝したいんだけどな……」
 外へ出た冒険者達の目の前で、民家の扉が次々に開いては閉ざされていく。

●
「なんだい、アレは。随分とご挨拶じゃないか。どうしてああもケンカ腰かね……?」
「ハッ、不味い面並べて出た結論が人頼みとは、大したご神託だぜ」
 森の中を進み、エリザ・A・ミシャールとアーテミシアが小声で言い合う。
「ギルドの依頼でなけりゃ、指一本あいつ等の為に動かしたくないね。逆にジジィの鼻面砕いてるところだわ」
 里では、彼女らとマリイ・パルティス(エルフの冒険者)までも異種族と同様に余所者として扱われた。判を捺したように同じ顔は、彼らが外界との交わりを避けて来た歴史を表しているのだろう。
 呆れ果てた顔のまま進むアーテミシアの嗅覚が、獣臭を捉える。2人は身を低くし、洞窟が見える位置まで静かに進んだ。
「……見えるだけでも8、いや10か。オーク以外の臭いはしねぇな」
「消えた女子供はここに居ないってことかい?」
 エリザが黙考する。誘拐ではなく森で遭遇した時点で殺されたのか。ならば、なぜ女子供だけが。遺体すら発見されない理由は――?
「枝と葉の住居。自作したような金属器もないね」
 見える範囲に特異個体らしきものはいない。彼らの暮らしぶりは、むしろオークという種族の中でも低い文明レベルにあるようだ。
「こいつ等に火攻めなんて発想があるか?」
 思わず首を傾げるアーテミシア。ともあれ、2人はリーダーと思しき個体の特徴を覚えると、来た時と同様に音もなくその場を立ち去った。


「森が枯れてるけど、水源には異常なしか……。けど、精霊の言い伝えは山ほどあるのに、黒い獣の話なんてない。怪しくない?」
 散っていくエルフ達の中からイェオリを見つけ出し、森の枯死現象や精霊について話を聞いたエルゼリオ・レイノーラ。歩きながら、マリイとイズルに顔を向ける。
「正体のわからないものを精霊と呼びたくなる気持ちはわかりますが……」
 今は害を為していないだけかもしれない。マリイの懸念は、概ね他の2人と共通していた。
「オークが来てからなら、オークが飼ってるペットとかかな?」
 ペット。イズルが発したその単語に、マリイの脳裏を一つの考えが過る。彼女の視線の先には、コルデラ(エーテルリンクされた狼)がいた。
「でもそれって、森の枯死が始まった時期とも被るって事だよね? だとしたら、無関係とは思えない」
 腕組みしていた両手を解き、エルゼリオはイェオリに教えられた民家の前に立った。扉をノックし、応答を待つ。
「……何か」
 僅かに開いた隙間から顔を見せたのは、若い男のエルフだった。彼は兄妹そろって腕利きの狩人であり、件の精霊を何度か目撃しているという。
 奥から覗く妹は、やや興味ありげな視線をこちらへ向けている。

 実際に精霊を見た彼らにも、何か思うところがあったのだろうか。別の話題を織り交ぜながらのイズルの問いに、しばらく考えてから応える姿勢を見せた。
「黒い獣がどこを見てたとか覚えてる?」
「森を歩く俺達を、茂みからじっと見つめていた。里のどこを見ていたかまでは……」
「見たのはどのあたり? あと、去っていく方角は?」
 エルゼリオが問う。兄妹の証言では、精霊は里の周囲どの方角にも現れているようだ。立ち去る時は非常に敏捷で、木々に紛れるように消えてしまうらしい。
「言いにくいんだけど、その獣に里が狙われてるってことは?」
 核心をつくようなイズルの言に、兄はしばらく、押し黙る。
「……わからない。精霊であれと、そう願ってはいる」
 善きものであれば良いと、願うのは無理もない。
「何か困ったことがあればいつでも申し付けください。私でよければ、いつでも力になります」
 マリイは丁寧に頭を下げ、礼を述べてからその家を後にした。


 音を鳴らしてしまわぬよう、慎重に。
 枝やガラクタを、木々の間に張った蔓へと括り付けていく。
 オークが来るであろう北側を中心に、キオルティスは鳴子と罠の設置を急いでいた。
「森の精霊か……気になるよね。何をしに出て来るんだろうか。そして本当は何者なのか」
 草の中に石を配し、足が嵌る程度の穴を掘る。
 キオルティスは、森で精霊の痕跡も探したいと思っていた。しかし、罠を張りながらいくら見て回っても、それらしきものがない。
「山猫に似てるんだよね。だとしたら、いくらでも痕跡が残りそうなものだけど」
 下生えを輪のように括りながら、ヘレンが言う。森で育ち、狩りの知識がある彼女も、何も見つからない状況に不可解なものを感じていた。
 糞尿、爪痕、食われた動物――この辺りに大型の捕食動物が生息しているならば、そういった痕跡を残すはずだ。仮に残していないのだとすれば、それはただの獣ではない。
「だいたい、できたかな?」
 ヘレンは、里や獣道、森の中の目印を簡単に書いた手製の地図を出し、罠の位置を書き込んでいく。万が一にも、味方が掛かることのないように。
 そこへ、森の中の偵察に出ていた海神・江流が姿を現した。
「北側で、オーク達が通りそうなルートはもう1つあるな。東寄りの道にも罠を置いたほうがいい」
 オークの集落付近から里へ向かう道は、エルフ達が狩猟の際に主として使う2本があるという。道と言っても「木々の間に延びる草のない部分」と表現した方が相応しいようなものであるのだが。
 他に通行が容易なルートが無いかどうかは、一旦戻ったエリザが確認中だ。
「ここにもあるか……」
 キオルティスとヘレンが森の中に消えた後、江流は油の臭いを感じてすぐ傍の樹に目を遣った。
 マリイ達が里で聞いた話によると、油が塗られた樹は里の全周で発見されている。冒険者達は今、それらの位置を確認しながら水をかけ、樹皮を削り、酷いものは切り倒すなどして対策にあたっていた。
「何も、起きなければいいな……」
 篝火については、焚かないよう里の者に伝えた。あとは、オークが持つ火種に注意すればいいはずだ。
 江流は枝葉の間から空を見る。夕暮れ(お告げの時間)が近づいていた。

●
「何か起きるなら、南東かもしれない」
 イズルが言う。油が塗られた樹は、確かに里の全周で発見された。しかし、植物共感を持つ彼は、目視では発見しにくい根元や幹の高い位置に塗られた油も見つけている。そういった樹は、なぜか南東でのみ発見されたのだ。
「コルデラ。お願い」
 マリイは白狼をぎゅっと抱きしめ、里の南東へ向かわせる。敵の別動隊への備えだ。
「油はできるだけ処理したけど……気になるね」
 白狼を見送りながら、エルゼリオは言いようのない胸騒ぎを覚えていた。


 里からやや離れた森の中、2つのルートのどちらへも行ける位置で、冒険者達はオークを待ち受ける。

「動いた!」

 背の高い木に上り、北の空を見ていたキオルティスが叫ぶ。
 オークの集落を監視していたエリザの焚いた狼煙が、闇夜を見通す彼の目にはしっかりと見えたのだ。
 次いで聞こえてきたのは、カラカラと乾いた鳴子の音。
「東側! こっちだ!」
 オークの侵攻ルートを特定した江流が走り、それに続く皆の足元をイズルのエンライトが照らす。アーテミシアの嗅覚は、こちらへと押し寄せてくる豚人達の獣臭を既に捉えていた。


 暗闇と静寂に包まれた森に、松明の灯りがちらつく。
 オーク達の群れは、最初に引っかかった鳴子の音に僅かながら怯み、しかし引き返すほどの知性もないまま里へと迫っていた。
――その時。

 道を塞ぐように張られた蔦が、先頭の数体の脛を捉えた。
 勢いのままに進んでいた彼らは前列から折り重なるように転倒し、進軍が止まる。
「さあ、掃除の時間だ」
 倒れた前方を確認しようとしたオーク。気付けば、その背中には横合いから飛び出した江流の大脇差が突き立っていた。
 オーク達が事態を正確に把握するより早く、再び闇の中へ溶けていく江流。瞬後、樹上からオーク達の群れの真ん中に飛び降りたキオルティスが、巨大な光塊ごと細剣を振り下ろす。その一撃は密集していた8体を纏めて打ち据え、敵を恐慌状態に陥らせた。
「ほら、こっちだぞ」
 群れの正面、里側に立ったイズルが自身をエンライトで照らし出す。光に気をとられた2体を、茂みから強襲したヘレンの斧が大きく薙ぎ払った。
「里には行かせないよ。燃やすのもだめ」
 ようやく事態を呑み込み、道を外れて散開しようと動き始めるオーク達。しかし、罠に足をとられ、頭上から流星雨のように降り注いだ無数の光弾に打たれ、次々と倒れ伏していく。
「松明を!」
 長杖を前に向けたまま、マリイが叫ぶ。オーク達が取り落とした松明は、火災を引き起こす前に、ヘレンやキオルティスら近くにいる者の手で処理されていった。
「あれだ! さっき言ってた腕に傷跡のオーク!」
 天眼で戦場を俯瞰し、群れの動きを見ていたエルゼリオが1体のオークを指し示す。パニックに陥った群れを立て直すべく大声で鳴くその個体は、アーテミシアが日中に見たリーダー格に間違いなかった。
「こっちを向けよ、豚野郎が!」
 チャージングで急接近したアーテミシアが、リーダーに殺気を叩きつける。指揮を放棄して向かい来たそれの一撃をガントレットで弾き、アーテミシアは斧を構えた。敵の背後にエルゼリオの姿を見て、ふっと笑む。
「まあ、なンだ。これも仕事なンでな……ご愁傷さまって奴だ」
 目の前で叩き込まれる、万能言語の一撃。ぐらりとよろめいたその横腹に、アーテミシアの斧がめり込んだ。反撃に振るわれた大剣も、虚しく空を薙ぐのみ。
 敵数はおよそ30。しかし、この時点で立っているものは半数にも満たない。
「悪いね。ずっと尾けさせてもらったのさ」
 早くも戦意を失い踵を返したオークの脳天に、魔弓から放たれた矢が突き立つ。崩れ落ちる仲間を押しのけるように走り、3体のオークが突破を目指してエリザに迫る。振り下ろされた棍棒をかわし、至近距離から矢を叩き込むエリザ。その隙を突こうと動いた後の2体は、風のように追撃してきたキオルティス、そして死角から現れた江流の手で屠られる。

 アーテミシアとエルゼリオの刃を受けて、ついにリーダーがその肥体を地に着けた。冷静な判断ができないオーク達の群れは、先ほどから周囲を漂う薄霧の存在にすら気づかない。
 イズルが笑み、暗き森に眩い雷光が荒れ狂った。
 全身を焼かれ悲鳴をあげるオーク達に、マリイの光弾が再び降り注ぐ。ヘレンの斧が唸りを上げ、エリザの矢が次々と豚頭を射貫いていった。

 冒険者達の作戦は完璧だった。数で勝れどオーク達に勝ち目はなく、もはや狩り尽くされる時を待つのみだ。

「――誰?」

 マリイの声とコルデラの遠吠えが、同時に響いた。

●
 灰色の外套を纏い、フードを被った女が樹皮を剥がれた幹を見ていた。
 里の方へ歩を進め、手のひらに生じさせた小さな炎をそっと、手近な枝へ近づける。

――ガルァッ!!

 その腕に食いつかんと飛来した白狼を、紙一重でかわす。
 距離をとり、遠吠えを繰り返すその狼を真っ直ぐに見据え、彼女は弓を引き絞った。
 疾る狼。矢をかわし、女目掛けて果敢に飛び掛かったその身体を、暗闇から現れた獣が大地へと叩き落とす。
 もんどり打つ狼に、鏃が向けられた。

「させないよ!」

 疾風の如く森を駆けたキオルティスが、女の弓手を浅く傷つける。大きく跳んで距離をとった女のフードがふわりと外れ、金糸のような髪がこぼれ落ちた。その視線の先には、マリイの光弾に追い立てられるように狼から離れる大山猫。
「やはり、授恵者のペットですね」
 長杖を構えたまま、傷ついた白狼を呼び戻すマリイ。追いついたイズルが、里を守れる位置で立ちはだかり、光球を生んで女を見据える。
「……冒険者。それじゃオークはやられたのね」
「お前、オークの襲撃を知ってるな。仲間なのか?」
「そんなわけないでしょう?」
 イズルの問いに、女は嗤った。オークを狩り終えた冒険者達が駆け付けてくる気配を感じてか、唸りをあげる山猫を盾にじりじりと後退していく。
「……森の意志(ハイアルヴ)も意地悪ね。冒険者が来るなんて聞いてなかったわ」
「どういう意味だい?」
 キオルティスの質問に、女は応えない。俯きがちだった顔を上げたかと思うと、一瞬のうちに山猫の背に飛び乗り、深い森へと消えていった。

●
 翌朝、江流は小屋に集まったエルフ達を前に堅い表情を浮かべていた。
「依頼通り、オークは倒した。だが、森に火を放つ素振りを見せたオークは一体もいない。そんな中で、放火しようとする女がオークとは別に現れたんだ。例の精霊と一緒にな。……心当たりは、あるんじゃないのか?」
「知らぬ」
 圧するような長の返答にも、江流は引かない。
「そうか。さっきも説明したが、仲間が見てるんだ。同じ(タルフネイリの)顔の、顔面に大きな傷跡のある女エルフをね」
 例の女の顔を見たマリイとキオルティス、イズルの視線が、江流の後ろからエルフ達に注がれる。
「同じ顔っていうことは、同じ氏族だよね。こんなに小さな里なのに、知らないなんてあるのかな?」
 半ば夢見心地のヘレンが、心底不思議そうな口調で核心を突く。それでも、里のエルフ達は黙したままだ。
「まったく、何が精霊だい? オークを倒したってのに、アンタらを信じてたら里が炎上しちまうところだったよ」
 後ろの方で成り行きを見守っていたエリザが、溜息まじりに呆れた声をもらす。エルゼリオは心配そうな表情を浮かべ、エルフ達を諭そうと進み出た。
「森の枯死と、その人が関係あるのかわからないけど……。少なくとも、オークの襲撃に乗じて里を燃やそうとした人だよ。次がないとも限らない。心当たりがあるなら――」
「もう良い」
 だが、彼の言葉すらも長は制した。短く、低く発せられたその声には、明確な拒絶が込められている。
「そなたらの働きには礼を言おう。報酬はギルドを介して受け取るが良い」
 そう言って議論を終えた長の目には、動揺の色が浮かんでいた。


 アーテミシアはひとり、オーク達の集落を調べていた。
「やっぱ、オークが生活してた跡しかねぇか」
 鋭い嗅覚をもってしても、いくら見て回っても、そこにオーク以外の痕跡はなかった。
 やはり、行方知れずの女子供はここに居ない。
 本当にオークの仕業か。昨夜、仲間達が見た不審な女は一体――?
「まあ、関係ねぇか。後は自分達で勝手にやってくれ」
 耳長は嫌いなんだ、と。ドワーフとして生きるエルフ(アーテミシア)のその呟きは、誰にも届くことなく静寂に溶けて消えていった。


 依頼は大成功。
 オーク達は殲滅され、氏族の暮らしは守られた。

 冒険者ギルドには、そう報告された。

マスターコメント

皆さま、この度はご参加ありがとうございました! 痒い所に手が届くようなプレイングが満載で、結果は大成功ですし、それ以外の部分でも今回用意していた全ての情報を出し切ることができました。 お疲れさまでした。 それでは、またの機会がありましたら、ロスガリア大陸のどこかでお会いしましょう!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年08月11日 23時29分28秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ヘレン・ワーグナー

    おーっすー……見知った顔も多いねー。そうじゃない方もこんにちはー……。 エルフさんに死者出さず、建物の被害も2割以下というのが大変だけどがんばろー。 死角が多いのは、こちらにとって有利だったり不利だったりするのかな。篝火を里内じゃなくて、外に複数焚いてみたらそこにオークが寄ってくれたりしないかな・・・? とにかく相手の方が数多いし、なるべく行動は制限したいよねー。

  2. 海神 江流

    シーフの海神江流だよ。 今回は宜しくね。 建物に被害がなければ評価が悪くなることはないなら、森で戦った方が無難なのかな? 森の中でやりあうとするなら、オークが木々に油塗ってるのが気にかかるなぁ。 あちらさんは森を守るなんて考えはないだろうから、火を放たれたりしたら厄介だね。篝火が使われたりしないかは気掛かりかも。 そのへんの事もあるし、俺は【暗視】用意していこうかな。 闇が使えるなら潜伏しやすいから、タナトスバイトも狙えそうだ。

  3. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお気軽に。宜しくね。 そうだね…オークが木々に油を塗ってるなら、火の扱いは要注意かも。 確かに篝火ですら使いたいとは思わないね。 それでもオーク自身らが火を持って来る可能性もあるしね。 被害を最小限にするためにも、俺もなるべく火は使わずに 暗視とかエンライトで対策するのを推すよ。 あとは油を塗っていた位置を特定出来るならそこを避けて オークを誘い出してみる、とかかな。 戦闘は1体ずつに掛ける時間を少なく、さくっと倒して行きたい所。 範囲攻撃や連続攻撃、もしくは敵の足並みや統率を乱したり 闇討ちするのが得策かな…。森の木々も利用したいね。

  4. マリイ・パルティス

    私も森で抑え込むのがよいかな、と思います。 火をつけるだけでなく、目印にしてる可能性もありますし、広がる前に阻止したいところですね。 とりあえず1キロ圏内であればペットを自由に移動させられますので、戦闘中も村や付近の見守りをさせたいとは思っています。 聞き込みも出来れば良いのですが。 森の様子は気になりますし、油に関しても他のことにもしても、直接調べてみてもよさそうでしょうか。 成功度がオークの襲撃しか関係ないというのもちょっと気になるところです、杞憂だといいのですが。

  5. マリイ・パルティス

    はっ。自己紹介が抜けてました。 シューターのマリイと申します!よろしくお願いしますー。

  6. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。宜しくな …あのジジィ一発殴って鼻砕いてやろうか。 木に油とか火付ける気満々じゃねーか。面倒くせえなあ。とりあえず暗視は持っていくぜ。 後は篝火は焚かせないのは勿論だけど水くらいは用意させとくか。油だから消えはしないけど無いよりはマシだろ。 これすらグダグダ言って渋るンなら後は知ったこっちゃねえな。 あっちがこっちを見くびってるなら油断してる間にさっさと奇襲してボコるっていう手もありそうだけどな。混乱させちまえば火を付けるのも遅らせられるだろうぜ。 初手である程度数を減らせればその後も対処しやすいだろ

  7. ヘレン・ワーグナー

    おー・・・篝火を使わない方向性りょーかーい・・・。怖いのは撃ち漏らしとかあることかな。視界がただでさえ6へクス先は見えないってあるから・・・。 森の蔦とか使ったり、木々の間にロープ張ったりして罠を仕掛けてみようかと思うよー。持っていくスキルに悩むけど、罠張るのに役立ちそうなのとか、持っていこうかな。 後は油塗っているなら嗅覚とか役立ちそう。

  8. イズル・M・ヴォルゴール

    ヒーラーのイズル。よろしく。 火を使わないのはわかった。 今の時点で明かりになりそうなものは、エンライトがあるので候補に入れておく。 ランタンも持ってるが、火を使うだろうから要検討だな。 暗視は持ってないし現状取れない。 戦い方は全く決まっていない。回復やバフを積む等、後方支援に特化してもいいと思っている。 油については、俺が超嗅覚を持ってるのと、他のスキルも併用して調べようと思ってる。 暗がりで行動するのに支障があるなら、建物の破壊を防ぐ意味でも村の近くから離れずに、 その間に、村で聞いた影含めて調べることに集中しても良いかもしれないな。

  9. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラです。今回はヨロシクね! >火 今回のオーク達は妙に知恵付いてるみたいだし、 篝火の有無に関係なく火矢とか放って来る可能性は高いかも? >視界確保 ボクは【暗視】を持って行く事にするね。 >森で抑え込む 具体的には、集落からある程度離れた(火矢が届かない位の距離?)森の中で哨戒しつつ、襲撃に備えるカンジになるのかな? あんまり集落から離れすぎるとオーク達に迂回されちゃうかもだし。 >個人 祭刀で近接攻撃しつつ、負傷者が出た時はヒール/ヒーリングオーラで回復するよ。 その他は考え中。 >情報収集 何か分からない事だらけだし、ボクも若い世代を中心に情報収集してみるつもり。

  10. 海神 江流

    オークが自分達で火を持ち出してくるなら、十分目立つだろうし、警戒するようにしておくよ。 基本的には攻撃を集めて各個撃破を進める感じかな? 暗視があっても銛の中で視界が通らないシーンもあるだろうし、適時声かけあって数の不利が顕著になる前に敵さんの勢いは削いでいけるといいのかな。 汎用スキルが暗視と戦術眼で埋まっちゃいそうだし、里での情報収集は他の方にお任せして、事前行動は戦場になりそうな森の地形把握するなり、ヘレンさんの罠作りを手伝うなりしてそのへんの情報共有に文字数割いておくとするかな。

  11. アーテミシア

    オレは暗視と…後は透視か超嗅覚か、そンなところだな。 情報収集はパスな。どいつもこいつも殴っちまいそうだ。 ある程度位置がわかればシーザーロアで引きつけて着火させないことも出来るだろうぜ。

  12. エリザ・A・ミシャール

    顔出しが遅くなって済まない、エルフのエリザだ。 発言したと思っていたが、勘違いだったらしい。 迎撃は集落の付近ではなく、森での対応を中心に考えている――でいいのかい? オークの総数が不明だからね 全員で集落を留守にすると別動隊などが居た時に面倒そうだ 汎用スキルは一つは超聴覚を予定している もうひとつは、誰かもう一人でもいればテレパス、そうでなければ暗視のつもりだよ

  13. キオルティス

    俺も情報収集よりも戦闘に関した策を…所謂罠類だね、を より良く機能させたい所、かな。 勿論、絶対に情報収集はしない…ってワケではないので 皆の配分を見てからになると思うけど…。 で、その際、前者なら暗視+マジカルポケットで行こうと思う。 後者なら暗視+テレパスもしくは暗視+カリスマ…かな。 色々やりたいことが膨らんで、絞らなきゃいけないのが もどかしいね…(苦笑 >火 油付きの火ならブランケットなんかで抑え込むのも良いかも。 勿論それに限らず、空気を遮断する何かだね。

  14. マリイ・パルティス

    間が開いてしまって申し訳ございません! では私は村での情報収集をちょこちょこしつつ、残った時間は木の様子を見に行こうと思います。 スキルは暗視嗅覚を持っていこうかなと思います。 戦闘も杖装備で範囲攻撃多めにしますね。 一応狼は里に置いておくので別動隊の警戒はできますので、万が一の場合はそちらの対応に回れるようにします!

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0