水没林の底にて旬を探す
真柄 葉
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シナリオID:1218
オープニング
一族の者達は皆、勇壮に船を操る歴戦の船乗りで、ディズル大湿地帯の各所に荷を届ける水運の要を担っていた。
そんな、勇壮な一族にあっても例外はいるもので――。
「おーい、ナシール」
集落の外れにあるあばら家にリザードマンの青年『タッタラ・シン=カホール』が訪れる。
あばら家にしてはやたら頑丈なドアをノックし、返事を待った。
「……いないのかー?」
しかし、待てど暮らせど返事はない。
「うーん、またやってんのか……しゃーない」
と、タッタラは大きく息を吸い込むと――。
「今日の差し入れはキノコの特製スー……」
――バタンっ!
「今キノコって言いました!?」
タッタラが言い終わるよりも早く、分厚いドアが勢いよく開かれる。
中からはほとんど全裸に近い眼鏡をかけたリザードマンの青年が出てきた。
「居るんなら返事ぐらいしろよな」
「うん? おやおやおやおや? 誰かと思えば君は……誰でしたっけ?」
「お前な……」
「まぁ、そんな些細な事はどうでもいいのです。先ほどキノコと聞こえましたが、どこにキノコがあるのです?」
呆れるタッタラを無視し、出てきたリザードマンの青年『ナシール・ダダ=カホール』はきょろきょろとタッタラの周りを探す。
「ほらよ。って、お前また痩せたんじゃねぇのか? ちゃんと食ってるんだろうな」
「ええ、もちろんですよ。この時期はいいですね。湿気のおかげでキノコたちの成長もとても速い。今年も実に豊作ですよ。……えっと、誰でしたっけ?」
「タッタラだよ!」
「おお、貴方が噂の……? なんだ、タッタラじゃないですか。何の用ですか?」
「お前はとりあえず、人の話を聞け!」
ゴチンとクリティカルな音を響かせ、ナシールの頭にげんこつが落ちた。
●
「おぉ、これはジジェダケのスープ! いいですよね、ジジェダケ。このフォルムが溜まりません……」
ぷっくりと頭頂部を腫らしたナシールが、タッタラから受け取ったスープに口を付ける。
「んんん! んまい! 流石ですジジェダケ! 泥沼の貴婦人の名は伊達じゃない!」
ナシールは口に広がるキノコのうま味に感激しつつ、次々と口へと運んでいく。
「しっかし、相変わらずすげぇ部屋だな……」
うまうまとスープを貪るナシールから視線を移したタッタラ。
ナシールの住まうあばら家には、至る所にキノコが生えまくっていた。
「おっと、下手に触らない方がいいですよ。中には触れるだけで大やけどを負う『灼熱ダケ』や、指を近づけると食いちぎる『フィンガーイーター』とか生えてますから」
「おまっ……なんてもん育ててるんだよ!?」
「はは、研究対象としてはとても面白いですよ」
ビビッて入口まで後ずさったタッタラに、ナシールはご馳走さまでしたと手を合わせた。
「さて、用が無いようでしたら僕は研究に戻りたいのですが」
「ああ、そうだな。それじゃ、まぁ頑張れよ。もうすぐ雨期も開けるから、たまには外にも出ろよな」
――ぴくっ。
「それじゃな」
社交辞令な言葉をかけたタッタラは、ナシールに別れを告げると重厚なドアを押す。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
「うおっ!? な、なんだよ、いきなり大きな声出しやがって」
「今何と言いましたか!? 雨期が開ける? そんな馬鹿な、つい先日雨期に入ったばかりじゃないですか!?」
「いや、雨期に入ったの3カ月前だけどな……」
「な……」
驚愕の事実を語ってるくせになぜか呆れているタッタラの言葉に、ナシールは絶句する。
「と、という事は……辺りは既に」
「ああ、水没してる。おかげで本業は大忙しだ」
愕然とするナシールに、タッタラは肩を竦め重厚なドアを開けた。
「ほら見てみろ。村もすっかり水没中だ」
そこから見えた景色にナシールは更に絶句した。
見える景色は全てが水面。完全に水没している。
「馬鹿なっ!? 雨期が終われば『水キノコ』の採集が困難になってしまうじゃないですか!?」
そんな景色を見ながらナシールは思わず絶叫した。
「は? なんだそれ」
「ふふ、いいでしょう。説明しましょう。そもそも水キノコとは地中に生える――」
「あー、聞いてもわからんから、それはいいわ」
「む、そうですか。仕方ありません。説明はまた後日――って、そんな場合ではないんですよ!?」
説明は必要ないと手を振るタッタラに、ナシールが胸ぐらをつかむ勢いで詰め寄った。
「水が引けば『水キノコ』が採れなくなってしまう! 急いで『フッテア水没林』に向かわなくては!」
「お、おう。頑張れよ?」
「何を言うんですか、親友のタッタラ君! 君にも手伝ってもらわねばならないんですよ!」
「さっきまで忘れてたくせに調子いい奴だな……だが、悪いけど本業が忙しすぎてお前の手伝いをしてる暇はねぇよ」
「なっ……!? 親友の誘いを断るですと……?」
「いや、親友になった覚えもねぇし、手伝う義理もねぇからな?」
「……そ、そんな」
あっさり誘いを断られたナシールは絶望に膝をついた。
「大戦とかあって集落の人間は誰も暇してないだろうから、人手がいるなら冒険者にでも頼むんだな」
「はっ! 冒険者! その手がありましたか!!」
それでもアドバイスをくれる心優しい隣人の言葉に感謝する事も忘れ、ナシールは立ち上がる。
そして、せっかく優しくしてくれた隣人をほったらかしにして、集落近くにあるギルド出張所へとあばら家を飛び出していった。
「……はぁ、相変わらず変人極まってんな」
残されたタッタラが大きな溜息と共に吐き出した言葉は、もちろんナシールに届くことはなかったのだが――。
解説
マスターより
リプレイ
冒険者とナシールを乗せた船は、キラキラと太陽を反射させ輝く水面をゆっくりと進んでいた。
「こうやって船を漕ぐのも、なんだか久しぶりだな」
船の漕ぎ手を買って出た海神・江流がゆっくりとオールを漕ぐ。
「それに凄く透明な水だ。まるで空に浮いてるみたいだ」
「随分とロマンティックな言い方ですね? まぁ、水の透明度は確かに凄いと思いますけど」
「だろ? こんな所で泳げるなんて、ちょっとワクワクするね」
「遊びに来たのではありませんよ?」
「わかってるって。依頼はちゃんとこなすからさ」
共に漕ぎ手を請け負うエルファリアに、江流はにこやかに笑う。
「さて、このままのんびりと遊覧船の旅も悪くありませんが、そろそろ水没林のようですよ」
と、エルファリアが前方に見える水没林を指さした。
その頃、船首の方では――。
「――ですから菌類には興味はありません。あくまで医療品として利用可能か聞いているのです」
カホールの植物学者であるナシールに、エイル・アーティライトが詰め寄っていた。
「ああ、もちろんあるとも。効能自体は証明されていないが菌類には滋養強壮の効果のあるものが多いんだ。特に――」
返すナシールはそんなエイルに対し、お構いなしに持論を展開する。
「ふむ……なるほど……それは興味深いな」
そして、二人の話を横で聞くサマエラ=フォリウム。新しいキノコの名前が出るたびに、「ほう」だの「なんと」だの、反応しているが、本当にわかっているのかどうかは怪しい。
「――シャルガネには菌類を乾燥させ湯に溶かして飲む風習もあると聞きます。そのように、特殊な加工を施すと、薬として利用可能なものもあるのではないのですか?」
「ああ、キノコ紅茶の事かな。あれは確かに飲用としては悪くない。でもあれは厳密に言えばキノコではないのだよ。あれは――」
先ほどからこのように、微妙に噛み合っているのか噛み合っていないのか判別に苦しむ会話が繰り広げられている。
「一つ質問をいいか」
そんな菌類トークに花を咲かせる(?)二人の隙をつき、サマエラが声を上げた。
「今回の納品物である水キノコ。これは――食えるのか?」
「ああ、それは私も気になるところです。一体何の用途があって採取を行うのですか? まさか、ただ珍しいから採るだなんて言いませんよね?」
二人はナシールにどうなんだと迫る。
「水キノコは食用もできるキノコだ。大きさはクルミ程かな。もっと大きなものもあるけどね。地中で育つキノコで、高級食材のトリュフの仲間でもある」
「ほう……という事は美味いんだな?」
「いや、まずい!」
「なに……まずいのか」
口の中でその味を思い出しているのか、渋い顔するナシールにサマエラは困惑した。
「という事は良薬口に苦し。何かしらの効能があるのですね?」
「いや、特には」
「……帰っていいですか?」
あまりに残念な答えに下船準備にかかりそうになるエイルだが、もちろんここは水没林の真っただ中なのでそれもかなわない。
「ただ、火にくべるととてもいい香りがするぞ」
ナシールは落胆する二人にそう説明した。
「ふむ」
「ほう」
二人はナシールの言葉に俄然興味がわいたのか、更に質問を続けていく。
一方、船尾では――。
「……サーヤ、何やってるの?」
「見てわからんか?」
「……えっと、ごめん全然わからない」
船尾から頭を乗り出すララベル・サン・ディーベルは困惑していた。
原因は覗き込んでいる水面にある。
「なぜわからん。わらわが沢に来たのじゃぞ? その恩恵に与らぬでどうするか」
そんなララベルを水面から見上げるク・サーヤ・クッセーワは、船尾から延びたロープを掴みつつ、仰向けに曳航されていた。
「恩恵……?」
「そうじゃ、これで我が臭いに寄ってくる魚どもを一網打尽じゃ」
「えっと……魚?」
「なんじゃ、魚も知らんのか? よいか、この水没林にはかくも珍しき――」
「いやいや、魚くらい知ってるけど!? そうじゃなくて、今回の依頼はキノコ採りだよ……?」
「うむ、勝手に採ればよい。わらわは自ら餌となって邪魔な水生生物を引き付けておく」
「う、うん……?」
二人はさっきからこんなやり取りを船上と水面で繰り広げている。
そんな和やかな(?)船旅を経て、ついに船は目的のワの木が茂る場所へと到達した。
●
「ああ、あった。あの木がワの木だ」
ナシールが前方に枝の先だけ顔を出す木を指さした。
ワの木と呼ばれた樹は、葉が特徴的で十字を描いている。
船は水面に顔を覗かせるワの木に近づくと、枝を折り葉を採取した。
「なるほど、特徴的な形で目印としては申し分ないですね」
と、エルファリアは漕ぐ手を止めて、手に持った葉と水面を見比べる。
水没林というだけあって様々な植物が水面から頭を覗かせているが、手に持った葉と同じ植物は、意外と多くみられた。
「ただ、見た感じ結構数があるね。木の根元全部にキノコがあるわけじゃないだろうし、意外と苦労しそうだ。とはいっても、依頼だしがんばって探さないとね。それじゃ、水に入る人は――」
と、江流が仲間達を見る。
既にワイルドさが磯部に振り切っている水着で水に浸かっているサーヤを除くと――。
青暗色でシンプルなチューブトップビキニを身に着け、下半身にはパレオを巻くエルファリア。
半透明なシルクのケープを纏いながらもその下には意外と大胆な青のビキニを身に着けるエイル。
シンプルながらも着る者を選ぶ白のビキニと褐色の肌とのコントラストが美しいサマエラ。
爽やかなセーラースタイルの上下を着こなすララベル。
シンプルな紺のパンツでありながらも、そのシルエットに選んだ者のセンスを感じさせる自分。
皆が水の中にある獲物を狙う為に、水着を身にまとっていた。
「さて、目印の気泡は……この辺りにはなさそうだけど、どうする?」
丁度水没林の中央あたりに船を固定した江流は、準備運動を始めた仲間達に問いかける。
「これだけ広いんだ、手分けして探す方が効率的だろう」
準備運動を終えたサマエラが提案しつつ、皆の意見を求めた。
「それでいいと思うよ。水中で使えるスキルはいっぱい用意してきたから、じゃんじゃん取ってくるよ!」
真っ先にララベルが頷くと、他の皆も同意する。
「それでは、各々手分けして探しましょうか――」
と、エルファリアが船縁から足を下した、その時だった。
「む!」
――ツン。
「むむむ!」
――ツツツーーン!
「きたのじゃ!!」
突然、船尾で浮かんでいたサーヤが声を上げた。
「ふっふっふっ、わらわの臭いに釣られ、まんまとやってこようとは所詮は魚介類。程度が知れておるわ」
と、相変わらず空を見上げながら浮かんでいるサーヤが腕を組み勝ち誇る。
水面下では、サーヤの発する独特な香りにおびき寄せられた――訳ではなく、サーヤの持つスキル【撒き餌】の効果によって、水没林の魚達が集まってきていた。
「さぁ、キノコを採りに行ってくるがいいのじゃ。わらわはここで邪魔者を引き付けておく!」
そう豪語するサーヤに5人は呆れつつも、各々水の中へと入っていった。
●
「この辺りはちょっと木が密集してるかな」
ララベルは波を立てないようにゆっくりと泳ぎながら、ワの木を巡っていた。
辿り着いたのはワの木が密集しているエリア。ここであればあのスキルが活きる。
ララベルは木の密集しているエリアに【捜波・改】を放つ。
「うわっ!?」
そして、見えた反応の多さに思わず声を上げた。
多様な生物の宝庫と化した水没林である。捜波に映った影は下手をすれば100を超えた。
「これは……地道に探すしかないかぁ」
思惑が外れたララベルは大きくため息をつくと、よし! と気合を入れ直し水中へと潜っていった。
●
『……』
両手で耳を押さえた江流は、水底に胡坐をかき佇んでいた。辺りは静寂に包まれる――と思いきや、水中には様々な音が鳴り響いている。
超越した聴覚を持つ江流は、水中の些細な音を聞き分け、気泡のありかを探る。
(うーん、水の中も意外と雑音が多いんだな)
耳に届く音は、地上同様多種多様。気泡らしい音も聞こえるが、判別が難しい。
(もっと注意深く聞かないと)
江流は集中し、気泡以外の雑音を意識の中から消していく。
●
エルファリアは一本のワの木に目を付けた。
それは完全に水没している低い木。水面から余分なものが出ていないおかげで、気泡に揺れる水面をじっくりと観察できた。
「出ましたね」
そんな木をいくつか回り、エルファリアはついに気泡を見つけた。
「後は、潜るだけですが……あまり水を揺らせませんね」
しかし、水を揺らせば気泡は散ってしまい、どこが発生源かわからなくなってしまう。
エルファリアは慎重に潜ると、木を伝い根元を目指す。そして、辿り着いた根元の土をゆっくりと手でかいていたら――。
(……これは困りましたね)
いつの間にか足元から忍び寄ったのか、見慣れぬ色のタコが足元に絡みついている。
エルファリアはここで慌ててはせっかく見つけた気泡を見失うと、タコを一先ず意識の外に置き、土をかく。そして、ついに目的の水キノコを見つけた。
(急いで上がりましょう)
エルファリアはどんどんと体を登ってくるタコをそのままに、船へと急いで戻る。
●
水没林の中央に浮かぶ船上では――。
「おぉ、それはなんじゃ?」
水に入らなかったエイルが釣りあげた細長い蛇のような魚を見て、相変わらず水に浮かんでいるサーヤが問いかける。
「ディズルうなぎ……とでもいうのでしょうか? ナシール、これは食用に耐えうるものですか?」
答えたエイルもそれが何かわからないのか、そのままナシールに投げると、返ってきた答えは「美味い」だった。
「なるほど、ウナギは一部地域で滋養強壮の為に焼いて食べる事もあると聞きます。これも何らかの効能があるかもしれませんね」
「そんなもの、全部発酵させてしまえばいいのじゃ。発酵は全てを解決する」
「確かに発酵食品は身体への良い影響を与えますが……これがそれに該当するかどうかは調べてみないとわかりませんよ」
「ならば、わらわが持って帰って――」
「いえ、これは私が研究対象に――」
と、二人は先ほどから魚が釣れるたびに、このような議論を繰り広げていた。
「ぷはぁ! ふぅ……」
そんな船上に最初に戻ってきたのはサマエラだった。
「見つけたぞ。これでいいのか?」
サマエラはエイルの助けを借り船上にあがると、ナシールに水袋を開いて見せる。
「おぉ、これですこれです! よかった、何とか間に合った!」
ナシールは水袋の中を見るや嬉しそうに飛び跳ねた。
「おおぃ、跳ねたら落ちるぞ。ここは船上――」
――ザパーン!
「……言わんこっちゃない。ほら、手をだして」
サマエラは呆れながらも、水に落ちたナシールに手を伸ばすが。
「……うん? どこに行った?」
水面のどこにもその姿はなかった。
「見事に沈んでおるな。金づちじゃったか」
と、船尾からサーヤの声が聞こえる。
「ふむ、それはまずいな」
「水運の民が金づちとは……」
船上の二人が顔を見合わせ溜息をつくと、一斉に湖へと飛び込んだ。
●
「ただいま! ってあれ、ナシールはどうしたの……?」
次に帰ってきたのはララベルだった。
ララベルは船に上がると、仰向けで口から噴水しているナシールを見つけた。
「なんという事は無い、ただ溺れただけじゃ」
と、ようやく船に上がったサーヤがララベルに説明する。
「そ、そうなんだ。大丈夫なの?」
「生きておるから問題ないじゃろう」
「そっか……あ、これ取ってきたんだけど、あってるか見て……見れる?」
と、ララベルが採ってきた水キノコを取り出した。
「間違いない、それが水キノコだ」
「ほっ……間違ったらどうしようって思った」
ララベルの採ってきたモノをサマエラが確認し、間違いないと太鼓判を押す。
「この調子じゃと、わらわたちは潜る必要はなさそうじゃな」
「ええ、十分な数が採れそうですね。これだけあるのなら、いくつか分けていただきましょうか」
サーヤとエイルはとれたて水キノコを眺めながら頷いた。
「……江流とエルファリア、遅いな」
と、サマエラが湖面に視線を移すと――。
「おーい! ちょっとこっち来てくれ――!!」
遠くから呼ぶ江流の声が聞こえた。
何やらただ事でない江流の感じに、船上に居た者達は急いで船を漕ぎだす。
「ここだ、ここ!」
船が到着すると、江流が水面下を指さしていた。
「エルファリアさんが、タコに捕まった!」
真剣に訴える江流なのだが、その字面に船上の4人は怪訝な表情を向ける。
「捕まっている? 授恵者がタコにですか?」
エイルが疑いつつも船縁から水面を覗き込むと、そこには確かに――。
「ほう……これは随分と好かれておるの。わらわの匂いよりも良いのか」
無数のタコに絡められたエルファリアが困った顔で沈んでいた。
「急いで助けなきゃ!」
「ダメだ! こいつら刺激したら仲間を呼ぶ!」
ララベルが再び水に飛びこもうとするが、江流に止められた。
すでに江流も試したのだろう。エルファリアに纏わりつくタコは10匹近く見える。
「かと言って吹き飛ばすわけにもいかんしのぉ」
サーヤが腕を組んで首を捻った。タコはエルファリアの身体に無数に絡みついている。スキルでも発動しようものならエルファリアも傷つけてしまう。
「ならば、私の出番だな」
と、皆が困っている中、サマエラが水に飛び込んだ。
「何をするんだ。刺激したら――」
「刺激しなければいいのだろう?」
心配する江流を他所に、サマエラは水底に足を着くと腰に手を当て――。
「ぼがっ、ぼこぼあぼこ!
ぼこぼこと口から空気漏らしつつ、水の王者の威厳を見せつけた。
●
「ふぅ、一時はどうなるかと思いました」
身体中に吸盤の跡が痛々しいエルファリアを、サマエラがヒールする。
「無事でよかった。ごめんな、力になれなくて」
「いえ、見つけていただけただけで助かりました。ありがとうございます」
申し訳なさそうに頭を下げる江流に、エルファリアは大丈夫だと首を振った。
「ともかく、これで依頼達成かな?」
「うむ、大漁じゃ」
「大漁? 大量じゃなくて……?」
「大漁に大量じゃ。このキノコで香り付けをしてみるのも悪くないの」
皆を見渡すララベルに、サーヤが満足げに頷いた。
「なかなか有意義な時間だった。色々知識も増えた感じがするぞ」
「私も家に帰って詳しく調べるのが楽しみです」
サマエラとエイルが得られたものに各々満足する。
こうして無事に大量の水キノコをゲットした冒険者達は、ようやく復活したナシールと共に帰路に着く。土産として手に入れた水産物とキノコ詰め合わせにほくほくとなりながら、無事依頼は達成されたのだった。
マスターコメント
ショートシナリオR普通 報酬:標準6 / 4〜6人
2021年08月04日 20時28分43秒 公開
相談掲示板
シーフの海神江流だよ。 今回は宜しくね。 水深1.5mって事は足はつくか。 足元気をつけてれば溺れる事はなさそうで一安心。 うっかりナシールを落としても大丈夫そうかな( 水は空気より音を伝えやすいって言うから、超聴覚でも用意しておこうかなとか考えてるよ。
エルファリアと言います、よろしく。 キノコの捜索に関しては正直依頼人が一番鋭そうな気がしますが……まあこの深さなら、位置さえ教えてもらえばどうとでもできそうですね。 護衛兼ねるといっても、大きな武器はいらない感じかなぁ……
ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。 よろしく頼む。 水は、透明度が高いのもありがたいな。 泥なりに潜り込んでいる生物以外は、先に気付いて警戒しておけるだろうか。 スキルなどはまだ決め兼ねているが、 変な毒でも持った生物がいないとも限らないので、とりあえず解呪は持とうかなと。
キャスター、エイル・アーティライト。 よろしくお願いします。 水キノコの用途が気になるところですが、それは現地で聞けばいいですか。 泳げないカホールが水に落ちれば深さに関わらず一時パニックを起こし暴れると思われます。 採取対象の水キノコは非常に小さいとの事で砂や泥が舞い上がるのは避けたいかと。 落とすなら目的を果たした後で。 魔法を使う程の敵が出るとは思えませんが、出ても周囲への影響が気になるので使うのはスタティックフィールドくらいになります。
まあ水そのものは危険でなくとも、変な生き物もいるかもって話ですしねぇ。 とりあえず魔獣でもないなら、追い払えれば十分かなという気もしますが。 そういえば移動手段の小舟は私達が全力で漕ぐ前提みたいですし、水上までちょっかいかけられる相手だと船漕ぎ中にアタック受けたりはあるかも?
水中用スキル満載で行く予定のサーヤじゃよ。変な成分が溶け出してもご愛嬌という事で。