【CP】BASIC~老兵たちの帝国旗
韮瀬隈則
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シナリオID:1078
オープニング
机上に置かれたのは4枚の暗号文。
半月ほど前、ヴァイセントラフ砦から派遣された帝国軍人の依頼により、冒険者が一夜城に運んだ作戦変更書類だ。
「状況は……と纏めるまでもねぇか。俺たち老いぼれ工兵20名と、片手の数で足りる冒険者しか居ねぇ。敵状は窓板の隙間から覗けばアホでもわかる」
で、もちろんそんなアホは居ないよな? と、老兵のリーダー格が肩をすくめる。
当初は焼け落ちた廃砦であったこの一夜城は、突貫補修工事を終え、更に目の前を通る古街道と周囲の崖を抱き込む拡張まで完了していた。
その規模。当初の関所機能を超える、およそ駐屯人数50人規模。
一次的な滞在可能数を含めればそれ以上、100人超を余裕で賄える。
よくぞ、よくぞ!
――しかし。
「敵はおよそ400ってところか?」
「あの防衛戦を思い出すねぇ。30年前の……いや28年前だったかのう」
「ボケるのはくたばってからにしろ爺ィ」
「2つしか違わんじゃろうが!」
むしろ陽気な掛け合いは、刺激的すぎるこの戦況下だからだろう。
奥行約50m×幅120mの石壁と馬防柵に囲まれ、土塁で強固に補強されたこの一夜城敷地。その両側を崖に挟まれた街道を封鎖した一方側を、およそ400のコボルトが埋め尽くしていた。
「フン! 犬ッコロ共の破壊槌で破れるほど、ヤワな城門は造っとらんワ」
大きく響く槌の音に、負けじと老兵のひとりが鼻を鳴らす。
「持つのはどれくらいだ?」
「厭ぁな音がしはじめたから、あと10分くらいかねぇ……」
「崖を迂回するやつはどのくらい出そうだ?」
「身軽そうなのが取り付いてるが数匹。まぁ数には入るまい……が、だ」
「奴か?」
「奴だ。リーダー臭いひときわデカい棍棒持ちの奴だ。初手に城門へ瘴気の塊を飛ばしやがったから、てっきり魔法職だと思ったんだがな?」
重要事項だ。老兵は言葉をためて冒険者の注意を引く。
「四つん這いになって棍棒を盾みてぇに咥えて突撃し、城門の外閂に体当たりしやがったのよ。おい、冒険者さんよ。クラス二つを併せ持つなんて敵に心当たりはあるか? またはペットに似た挙動の技ってあるかねぇ?」
答えを待たずに理由を付け加える。
「四つ足での速度が狼並だ。二本足のコボルトと思わず気をつけろ」
●
リーダーが眺める空に鷹が舞う。
向こうは難民キャンプへと続く街道、その両脇にそびえる急峻な崖の上だ。
この一夜城が落ちれば、街道の主導権は大きく難民キャンプ近くの関所まで後退する。死守せねばなるまい一夜城から動けぬ老兵たちと冒険者に、大空を旋回し、高度を上げてまた旋回を繰り返す鷹は、自由への象徴にも見えて――。
「それでどうする?」
馬は無い。あったとしても騎兵として使用できる馬でもない。
「撃って出ろ、というなら本懐だが?」
老兵にあるのは工具と弓。
リーダーは笑う。笑って机上の暗号文を指す。
「皇子殿下不在での指令はこうだ。一夜城を死守し、暗躍するメドゥの指先配下のコボルトを一部でも惹きつけ、殿下の回復時間を稼ぎ……そしてその後は――」
眼光鋭くサブリーダーに目くばせをし、サブリーダーは急ぎ物見櫓屋上に向かって走る。
愉快そうに。本当に愉快そうにリーダーが笑って叫ぶ。
「一目散にとんずらこくのに決まってるじゃねぇか!」
●
「判じ物もとい、誇り高き我が帝国国旗、櫓屋上から回収したぜ」
「ああ。犬ッコロに渡せねぇからな。おーおー良く見えたとみえて周りが騒がしいやなぁ」
崖に挟まれた狭隘な旧街道を老兵らが走る。
「しゃべると息があがるぞぃ」
「鍛えとる筈なんじゃ」
最低限の武器を懐に、回収した帝国国旗を掲げて。
「1km先に吊り橋がある。そこまで走って橋を落とせば逃げ切れる」
両側を高さ10~30m以上の山肌に挟まれ、幅5mから10m幅の旧街道は吊り橋まで1km程続く。森林に覆われてはいても、もとは岩石で構成された山だ。崖上の伐採跡を観れば落石必須の岩には事欠くまい。
そのような山路だ。馬車を通すために最低限の整地がなされているが、なんといっても老兵ばかりが20名。
鍛えてようやく、一般難民の子女が走るほどの速度。
走る背後で雄叫びが上がる。振り返れば城門が土塁ごと破られたとみられる土埃。振り返り振り返り、老人たちは物見櫓に犬ッコロが登り歓声をあげる様を見る。
「馬鹿と煙は……だの」
「だが遁走したンはバレたのう」
飛ぶように走れぬ老いた脚と、悠々と吊り橋上空を舞う鷹の翼を比べて、無いものねだりと諦め走る。
「先陣が来よったようだ。音と土煙からして。あの四つ足が先頭だろうな……」
侵入感知用の鳴子がやかましいと愚痴り、まだまだ途上の逃走路の先を睨む。
――前途はまだ半ば。
「いいか。余計な色気は出すな。犬ッコロは引き摺ったままで構わん。暗号の指示は『生存』にして『戦力維持』だ! 必ず! 全員生きて! 吊り橋まで走り抜け!」
解説
マスターより
リプレイ
劫ッ――!!
必死に走る背後から、大量の質量と質量がぶつかりあう轟音が追ってきた。
「おおぉ!? 崩れたかの。無事! 崩れたかの?」
うっひょい!
物騒な音とは正反対の、浮かれた老人の歓声が上がる。
「待て待てぃ! まだまだ、これからが本番なんじゃて!」
「来たぞ来たぞ来たぞォ。この這うような地響きが、現場から離れたこのへんまで轟いてくるとな。崩壊が確実なんじゃよォォ!」
ずぅ……と、低音の山の歯ぎしり。
そして劫――と。続いてまた、劫――と。
振り返れば、背後に遠い一夜城が崩れ、また崩れ。
しかしその姿は一夜城自身が放つ膨大な土煙で覆い隠されてゆく。
「いいカンジに決まったのう」
痩せた歯茎を剥き出しにして笑う老人たちを、今度は場違いに幼い声が叱咤する。
「なにアホこいて喜んどるんじゃ。この若造が!」
振り向き崩壊する一夜城を確認して走る老兵たちの速度は、案の定、鈍っている。
並走するク・サーヤ・クッセーワが、自らの体臭を態と扇ぎたてて老兵たちの尻を叩く。
「お姐ちゃん。大人のお色気じゃのう!」
「すはぁ! すはぁ! 息上がってたのが生き返るのう」
「阿呆! 阿呆! 阿呆! 元気余っとるじゃろうが。先行くぞサーヤは」
ふひひ、と返すエロ爺どもに、ならば確りついてこい、とサーヤは先行偵察のため更にその駆ける速度を増す。
身軽にまとめたシーフの疾風速だ。
老兵が付いてこれるわけもない。
ひらひらと。これを目印に追ってこいとばかりに、羽織った外套を香らせはためかせ、サーヤは一路、先行しルート上の目的地――吊り橋を目指す。
●
「……。爺さんたちよォ。アレって俺らの提案より前に仕込んでたよなぁ?」
吊り橋までの山路の、その法面。
山肌に猿のように張り付いて、ナハシュは呆れ顔で土煙に沈む一夜城を睨む。
「巻き込んだのは100とちょっと。ってトコか」
もうチョイ逝けると思ったンだが、敵もそう都合よく消えてはくれないものだな、と。災禍を逃れたコボルト集団の雑感を、大声で仲間と老兵たちに報告すると、ナハシュは山肌の高所からまた次の目標に向かって疾風脚を駆る。
一夜城をでてすぐに、街道を挟む山肌を登りカーブを描く1kmの退却路を一望した。
ナハシュにはもとより3度は通った道だ。
「途中の瓦礫置き場がロープ一本の切断で崩れるようになってた時点で、あンの爺さんの仕込みに頭かかえたけどさぁ!?」
どうよ? これ……
崖の上に整然と並べられた木材の山。
崖の上に木枠で組まれた岩の山。
……一夜城の補強材料。なのだろう。表向きは。
「工事現場ふうの偽装、お疲れさまです大先輩。どうみても落石工作完了ですありがとうございます……ってンだチクショーめ」
もうやだ、あの爺さん集団。
さらに厭なことに、ナハシュとコンビを組んで退路の後方安全確保に回ったハヤト=ガラン=ヴォルファングが、キラキラ期待した目でナハシュとアイコンタクトを取ってくる。
道幅が極端な狭さから広く拡がり振れている箇所めがけ、タイダルストリームを山肌に添わせて放つ。反対側の山肌に張り付いたハヤトとタイミングを合わせたそれは、続く落石と倒木を巻き込んで、街道に瓦礫の山を積み上げ塞ぐ。
素晴らしい笑顔でサムズアップし、次の妨害ポイントげ向かうハヤトに合図を返す。
(……いくら常連でもコレ全部把握してたわけじゃねぇんだよ、ハヤトよぉ)
――数十分前のことだ。
「爺さん。ココの手前にあった瓦礫置き場。あそこに詰んであるガラクタは崩しちまって構わないんだよな?」
ナハシュにとっては通いなれた山路である。
廃砦が一夜城となるまで、いや、一夜城がまた廃砦となる数十分後の未来まで。特に件の吊り橋と一夜城をむすぶ道筋は、何度も警戒と攻略を重ねた箇所だ。
「どうせ落ちるんだ。敵に利用される前にコッチが利用しちまうのは、爺さん……いや、帝国軍的には問題ねぇよな?」
言外に、爺さんの信奉する皇子殿下に義理立てのあまり「城を枕に討ち死に上等、とか抜かしたら殿下の代わりにブン殴る……!」と、拳を握って確定事項だからな、と、におわせる。
「……ほぅ?」
老兵たちの目が細くなる。
「ナハシュ君。ついでにこの一夜城本体と、街道自体の損壊許可も貰ってしまってよ。引き込んで潰そうよ。足止めして大渋滞させようよ」
ヨル・スレイマンが被る頭蓋骨の隙間から、酒の席であるかのようにウインクしてくる。
「俺は補強用足場の破壊してぇからソレも一緒に頼む」
「ならばわらわは吊り橋粉砕担当よの!」
「自分で言えよ、ヨル。てか言っちまってるよ、ヨル。ハヤトもサーヤも便乗してンじゃねぇよ」
喰えない友人たちだ。
それ以上に喰えないのが、ゲラゲラ笑って自分を工兵にスカウトしようとする老兵たちだ。爺さんたち、絶対、廃砦の復旧工事計画時点から、自壊工作を仕込んでいやがった!
「見どころがあるのう! 破壊許可の申請箇所がまんま、我らの仕込んだ箇所じゃったぞい!」
「もうチョイ遠慮なしでも構わんのだがのぅ」
そして現在――。
「うん、高評価有難うね。ナハシュ君達には伝えておくから足速めて欲しいかな。吊り橋までもう少しだよ?」
ヨルが老兵たちの尻を叩く。
(一夜城ごと沈んだのがやっと100。残り300が落石や倒木で勢いを削がれてはいるものの、大幅減は見込めず。そして……)
ヨルは吊り橋までの道筋を思い出す。
カーブ毎にすれ違い退避用の拡張が設けられていたはずだから、残りの拡張はあと2つ……。
「……! ヨル! 犬型突破!」
崖上からの落石。続く土砂。
合間に響くナハシュが放ったタイダルストリームと爆炎の発する轟音の合間に、ハヤトの大声がヨルの耳に届く。
「ナハシュはこのまま妨害と雑魚排除だ。俺は犬野郎と抜けてくる雑魚との連携を削ぐ。万一……ヤバくなったら、呼べ!」
爆音と敵の雄叫びに埒があかぬ、と、ハヤトが山肌から駆け降りヨルに囁くと、またすぐ反対斜面を駆け上る。
「撤退戦だぜ。撤退戦っ! 細工は流々、仕掛けは上々、後は仕上げを御覧じろってか?」
ハヤトの行く先には確か、吊り橋前では最大の資材置き場こと落石ポイントがあったはずだ。
「爺さんたち。後ろ観ないでラストスパート。サーヤが露払い済だから」
ブツリ。と仕込んだ資材ロープをハヤトが切断する音がヨルの耳まで届いた気がした。
「走れ爺ィ!!」
崖上からハヤトの怒鳴り声が降り注ぐ。次いで、木材が絡み合いながら落ちてゆく。
犬型との接敵予測地点の手前100m付近――。
そこから先の拡張は塞がれ、老兵たちがへっぴり腰で走る道はあと残り200mと少し。
ヨルはすぅ……と深呼吸をして――街道中央に立ちふさがる。
切り札は一回切り。他の手札は全て切ってしまったから、ヨルに残るのは己自身だ。
「悪いが通さないよ。殴り合いなら少し心得もないわけじゃない」
●
「一つひとよりいい匂い、二つ不埒な悪臭三昧、みっつ魅せるぞ最臭奥義……」
上機嫌でサーヤは走る。
わざと香らせた悪臭は捜波・改のカモフラージュだ。どうせ素性がバレるなら、逆に駆り立てて始末する。どうせ忍んでいる輩にロクな奴は居はしない。
両脇の山肌が切れ、サーヤの放つ香りを払って立ち上る水の匂い。――吊り橋だ。
背負った矢筒に手を伸ばす。
「四かけて五かけて橋を架け、崖の向こうを眺めれば、不審なおっさんどこ逝くの……かの?」
吊り橋前の作業小屋。
上空を鷹が舞っている。
「当たらぬは承知のうえ、はなから狙いはそちよ!」
鷹にめがけて放った矢の行方なぞ追わず、サーヤは半壊した小屋の陰に潜む小男を引きずり出し、その首筋に暗殺針を突きつける。
「鷹を飛ばし、ここでなにをしておった? 次は毒で薙ぎ払うだけでは済まぬ。わが最臭奥義、臭覇衝拳を喰らって果てたいかや?」
なるほど一夜城から見えた鷹はこいつが飼い主か。
何かしらの企みがあるらしい風情を老兵どもが醸しておったが、さて企みとはなんぞや?
小男に密着して締め上げて、漸く、サーヤは悪臭に息も出来ず目を白黒させる彼が帝国軍の将兵だということに気が付いた。
「……。もしかして味方、かや?」
●
『グルゥ……』
相次ぐ落石による土煙を縫って、高速で駆けてきた大型犬が杖を加えたまま忌々し気に唸る。
突出した速さは脅威であり、圧倒的有利であり。しかし孤立無援となりかねない危うさでもある。
「待っていたよ。かわいそうに取り巻きは置き去りなんだ?」
まぁ、俺も背水の陣みたいなことになっているけれどね、と。
犬型に相対するヨルの背後は狭隘な街道をさらに狭め瓦礫に満ちている。今まで瓦礫と仲間の死体を飛び越え駆け抜けてきたであろう犬型を、そのまま楽な道で通すつもりはヨルにもナハシュやハヤトにもあるはずもなかった。
淡く輝くヨルの防具に、更に祭刀の輝きが加わった。
「通りたいなら俺を倒してからにしてくれないかな?」
ヒーラー詐欺と友人達が評する元剣闘士の太刀筋が、犬型コボルトの脚を薙ぐ。
(外すのは想定内……)
次撃に備え構えをとる。犬型が立ち上がり杖を構えたのをほくそ笑むが、その表情は頭蓋骨の仮面の下だ。敵の放った瘴気がヨルの肺を焼くが、知ったことか!
「効かないね。たったひとり斃せないって、君、存外ショボいんだな」
嘘だ。
(歴戦の魔法職が似た術を使っていたな……)
ほくそ笑むのと苦痛に歪むのと、ヨルの表情は頭蓋骨の下で忙しい。
再度――!
醜悪な貌を更に歪ませて犬型特異体が放つ電撃に、今度ばかりは躰が揺らぐ。
「ヨルッ! 死体の山踏ンづけて7匹抜けた……ハヤト頼む!」
頭上から聞こえるのはナハシュの声か?
「いいや。抜けるのは0匹だ。そこの犬ッ……いい気に御託唱えてンじゃねぇぞ」
頼まれたぜぇぇぇ!
途中で雄叫びが混ざれば、回復と引き換えにヨルの懐に到達したはずの犬型特異体は、ハヤトの飛び蹴りを真横上方から受けてその身を路面に擦り付けていた。
「戦の華はこうでなくちゃな! 腕が鳴るぜ、蹴ったのは足だけど」
はははっ。
ハヤトは挑発的な仕草で犬型を煽り、しかし、追ってこいよとまた山肌を駆け上る。
起き上がった犬型に雑魚コボルトが合流する……と、思われたその時――!
「実力が乖離する連携を調整なしにやると、それ自体がリスクになるって畜生にはわからねぇのかなぁ? わかんねぇんだろうなぁ」
一瞬。犬型が増援を前提に詠唱を変えた。
一瞬。雑魚7匹が数を頼みに犬型の攻撃に追従する態勢をとった。
「ダメだよ、彼ら言葉はわからないっぽいから。たった4人の授恵者に梃子摺ってるくらいだから、頭の出来は今一つ以下のようだよ」
更に加えて。
祭刀の鞘を杖に立ち、ヨルが呆れた仕草で挑発を乗せたから。
ギャイン! と、ハヤト渾身の忍刀の薙ぎ払いに、雑魚コボルト半数の悲鳴が上がる。残り半数は断末魔の叫びすらなく絶命して地に果てる。
「雑魚残りを片してからナハシュと追う。光縛封で道を完全に塞いでも、ヨル抱えて崖は登れるがどうする?」
一閃。また一閃。
直接攻撃をヨル宛に撃ち尽くした犬型特異体を、今度は行動阻害攻撃を無駄撃ちさせながらハヤトがヨルに問う。的は出来るだけ自身に。今度はハヤトが引き受ける。
しつこくしつこく。跳び、駆け、電光石火の戦闘スタイルで翻弄するハヤトを律儀に追って放たれる瘴気。わざと半死半生で残した1匹と挟撃が狙える位置にハヤトが立つからだと、挑発に血が上った犬型特異体は気付かない。
「回復完了――。ハヤト、大丈夫だ。アイツは次で終わらせる」
ゆらり。
ヨルが横一文字に祭刀を構え立つ。
心得た、と挑発し自身に犬型を引き付けたハヤトが、地を蹴り一気に崖上に跳び去れば――残弾をすべて撃ち尽くし、四つ足となって体当たりを仕掛ける敵1匹だけが荒れた街道上をヨルめがけて駆けて、散った。
●
「ほら、走れ走れ! 子供らが気張っておるのだから、年の功をみせんでどうする!」
サーヤが吊り橋前から街道に戻り、老兵たちを叱咤激励して回る。
「おぶってくれても良いのじゃが?」
「……色気付くな若造が!」
不届き者は思いっきりケツを蹴り上げて走らせてやった。
「……なぁ」
「結局、橋は落とすのかの? 落とさんのかの?」
「橋のたもとにいる若いのは何と言っておった?」
老兵と並走しながらサーヤは次々と問いかけられる。
「うっせぇわぃ……オヌシら友軍の存在を知っておったのやろがい!?」
気張って威力偵察と伏撃排除にでたわらわがアホみたいであろうが!
フンッと鼻を鳴らし、サーヤは老兵最後の一人を吊り橋のむこうに追いやった。
「ご協力感謝します。先輩方には対岸で防御態勢で待機。我らは敵残党狩りとともに、背後で暗躍中の裏切者の探索を継続します」
小男の敬礼を受けるがムカつくに変わりはない。
「わらわは老兵の護衛につく。ヨルもすぐ合流するじゃろう。そっちはナハシュとハヤトが雑魚の足止めに回っている以上、狩る残党が残っているかはあやしいがの」
小男と軍属らしい授恵者2名が一夜城方面に向かって消える。
(ハヤトとナハシュに思いっきり怒られてしまえ。ヨルもあれで結構キツいから、後で説教喰らうとよいわ!)
サーヤの見送る一夜城方面に、また、ハヤトとナハシュによって落石が放つ土煙と轟音。重なる幾多の断末魔があった。
●
難民キャンプのギルド出張所の片隅のテーブルに、一夜城から持ち出された帝国国旗が拡げられた。
「この旗は皇子殿下にご返却致します」
国旗に一礼して老兵たちは待機の姿勢をとる。
小男はため息をつき、国旗を畳んで懐に入れて問う。
「このまま帝国軍に復帰される意志はございませんか?」
怒っているのだろうか?
レイウェストの依頼を引き継いで構築した一夜城は、暗躍するメドゥの指先配下の囮に使われ、あげくに壊滅させられた。そこに本来のレイウェストの意思は無く、ただ場当たり的に弄ばれたと思われて仕方ない。勿論――それが戦場なのではあるが。
「坊ちゃんは生きているのだろう?」
「無事、回復の一途を辿っております」
ヴィント奪還は成され、ひと先ずの悲願は叶った。
「なら良きかな! 我らは姫様の御心のまま何時でもまた勝手に集うわい!」
呵々! と一際好々爺めく老兵が笑う。
我も我も、と次々に、今度はいつ修復作業に集おうかと相談が始まった。
出張所を去ろうとする小男を、廊下で屈伸運動に勤しんでいたハヤトが呼び止めた。
「連絡兵のおっさん。コレ残党狩りの時に見つけた犬笛な」
ポトリと掌に小さな飾り紐つきの笛。
「礼はヨルとナハシュに言ってくれ。以前の襲撃の時にも使われてたからと、死体見分したんだ」
敬礼のちに去る背中を見送りハヤトは思いをはせる。
(メドゥの指先に魅入られた皇子殿下、か……)
マスターコメント
ショートシナリオ難しい 報酬:標準4 / 4〜4人
2021年07月11日 20時57分19秒 公開
相談掲示板
ヒーラー、ヨル・スレイマンだ。宜しく。 老兵ら20名と逃走中、後ろから特殊個体を戦闘にコボルトが400体。 特殊個体には吊り橋から200m地点で追いつかれる予定、という状況かな。 吊り橋付近で何か仕掛けてきそうな感じもあるが、まずは逃げるところからか。 考えることはいっぱいありそうだけど、とりあえずこの速度差は如何ともし難いね。 落石をわざと起こして相手の移動力を軽減したり、なんなら建物壊して道を塞いでしまったり、400体のうち少しでも減らしていく感じで逃げられると良い⋯⋯のかな。 最も速い特殊個体の足止めもしなければならないだろうけれど、こちらは流石に戦闘手段になりそうだ。
すっかり遅くなった!シーフのナハシュだ、よろしく。 後ろの400体については、道中落石や施設破壊で道を塞いでいく形で異論ない。 密集してる雑魚共が特異体の後ろにインのがまだ救いかね‥それでそこそこ時間が枷げりゃいいんだがな。 問題は壁歩きは持って行けるから落石なんかは出来るとして、施設の破壊ってなると結構派手な範囲攻撃が必要か?必要ならメテオライトとかを持って行く形になるか。 得意固体に関しても突撃による落石破壊で脚を止められんなら、道中に落としていくのはありな気がするな。なるべく追いつかれるまでの距離は稼ぎたいところではある。 キャスター技能で射程があることも考えると、最低でもじじい共に追いつかれる100mかそこら前には戦闘による足止めに移行しても良い気はするがどうだろうね。あとは本体を直で封じ込めるにしろ5m幅のヶ所にしろ、光縛封による封じ込めも1~2Tは効くんじゃねえかな。 吊り橋に関しては、渡ってる最中に落とされんのが一番こえぇきがすんな。
足止めで、400体が一丸で来るのでなくバラけてくれるだけでもありがたいよね。 落石は確実に物はあるはずだし、故意に落とせるのはありがたいな。 路面状態が良くないみたいだから、施設破壊まで行かなくても街道を破壊することで足場を悪くもできそうではある。 メテオライトは余裕があったら持っていくと役に立ちそうだけど、キャスター武器必要だから無理は禁物かな⋯⋯少なくとも俺はちょっと悩ましくはある。範囲攻撃はあって損はないと思うけど! 特異個体への落石破壊での足止めもありだと思うね。 追いつかれる100m前で戦闘に移行で俺もいいと思う。 >吊り橋 『落城する一夜城から、老兵ら20名を護衛し1km先の吊り橋まで逃げのびよ』なので、今回は吊り橋まででいいんだと思ってたね。渡る前か後、どっちにも取れちゃうんだけども。吊り橋に何かあるような前提な気はしている。小屋もあるんだよね。敵が隠れたりも容易なんだ。 >光縛封 光縛封も850くらいの耐久値にはなるから1発くらいは保ってほしいな⋯⋯。これは特異個体を中に入れちゃう形で使うのがいいかなとは思う。そしたら持っていっておくよ。 >連絡 1人くらいは老兵の前方についた方がいいかもだけど、こちらも人数が少ないのでこれはどっちでもいいと思ってる。 老兵の前方で何かあった場合一旦止まり、こちらに知らせてくれるくらいは、老兵達と相談しておくべきかもしれない。
相談に来れなくてまことにあいすまん。 シーフのサーヤである。よろしく。 先行偵察してつり橋を見ておけばよいのではないかな。 何もなければよし、すでに敵兵の先兵が取り付いているようなら排除に当たりたい。 ついでにわたり切った後に橋を落とすことはかんがえんでよいのかの?
>吊り橋 渡り終える前か後かはどうなんだろうな!どちらにしろ先行偵察はありな気がするな。吊り橋につくまでの道中何かあった場合にも即対応できそうだ。此方が渡り切った後落としちまうのも俺は賛成だな。 >個人 とりあえず現状、落石や足場、施設破壊系の妨害中心で動こうかとは思っている。 路面の破壊についてもどの道派手な範囲攻撃が必要だと思うから杖と破壊出来そうな魔法を持って行くつもりでいるが、そうすっとそれだけでほぼ手一杯になっちまうんだよな。特異固体との戦闘面は頭数になれる程度だ。 特異固体を優先した方がいいなら、魔法による地形破壊を辞めて落石のみの妨害、追いつかれる100m前になったら程よく戦闘での足止めに加わるような感じにしようかとも思う。
>吊り橋 先行で見に行ってくれるのは安心感あるね。何があるか全く読めないから怖さはある。 渡った後落としてしまうのも賛成だ。 >個人の動き 杖を持つのが結構辛いんだよね。やってくれるなら特異個体の相手メインに振っておこうかと思う。 とはいえ移動力の阻害など直接的な手段は無いので、前方でへクスを占有する・攻撃を絶やさないことでできるだけキャスター型を取らせる・足などを集中狙いしてみる⋯⋯くらいかな。 できそうなことはやっておいてみるよ。回復系も何かは持っていくので、必要があれば射程内にいてくれれば。
ギリギリになっちまってすまえねぇ! ブレイブファング傭兵団のハヤトだ、よろしくな!! みんな顔見知りだから連携もやりやすそうだな♪ ナハシュが仕掛ける落石やらの妨害に合わせて反対側から俺も落石を仕掛けてみんぜ! 避けたと思ったら反対側からも岩が降ってきたみてぇにタイミング合わせるつもりだ! その後は特異個体に突っ込んでぶっ斃すつもりで仕掛けてみんぜ! こいつをやっちまえば退避もだいぶ楽になんだろ。 ま、何にしても撤退戦は戦の華だならな♪ 血が滾ってくんぜ!!