【暗都】リブラネスタ仮面舞踏会にて

赤坂

コメント 10

シナリオID:1045

オープニング

●
 ユニコーンがキャラバンを惨殺。ケルピーが交易船を粉砕。ヒポグリフが賭場を殺戮。ペガサスが旅行中の王国貴族を轢殺。
 ここ数週間のエラトゥーン都市同盟で発生した魔獣被害である。いずれも高額報酬の事後処理が冒険者ギルドに依頼され、冒険者達の活躍により恙(つつが)無く解決していた。
 しかし今、一連の事件は思わぬ反響を呼んでいる。エラトゥーン人らが事件について語る際、誰からともなく冒険者ギルドへの批判が囁かれるようになったのだ。
 無論、依頼そのものは解決している。仕事の内容も、見事と言う他ない手際であった。
 それでも民衆が口々に囁く批判の内容がどのようなものかは、とあるエスト・ポーラの商人の言を引用して説明しよう。
 “――かように、冒険者ギルドというものは受動的で頼りにならぬ。死体を作らぬ事の方がよほど価値があろうに、死体を持ち帰る事しか出来ぬときた。貴殿らにおかれては、言わねば動かぬ新入りに苛立ちを覚えた経験もあるだろう。冒険者ギルドもまた同じだ。彼らには迷い犬でも探して貰い、治安の維持などは我らがエスト・ポーラの聖真教にでも任せようではないか――”
 なんとも乱暴な言い草だが、元来エスト・ポーラにはリブラネスタを敵視する派閥が存在するため、不思議な光景ということはない。無論、全体で言えば批判の数はまだまだ少ないのだが……。
 さて、ここで批判を要約してみよう。つまる所、四つの事件は既に被害者が出てしまっていた事から、依頼がなければ動けない冒険者ギルドのビジネスモデルを指摘する内容に終始している。元より冒険者ギルドがそのような組織である以上、この批判は筋違いだ。しかしそれでも批判の声が上がった事自体は、不自然というわけでもない。
 四件の事故の被害者――大商人、交易船、賭場、王国貴族――は、いずれもエラトゥーンの経済に影響を与えるものであり、商人の国であるエラトゥーンに於いては殊更に衝撃を与えやすかったのだ。
 その感情の表れであるのか――はたまた、誰かの何らかの意図が作用しているのかは定かではない。

 結果として、エラトゥーンの中での冒険者ギルドの評判に一抹の影が落ち、それがリブラネスタのブランドイメージにも僅かに波及した。リブラネスタが冒険者ギルドを擁する事の政治的な価値は意図して放棄されているが、民衆にとってすれば熟練の授恵者が集う土地には魅力がある。その魅力が薄れているのが現状だ。
 一方で一部の人々が褒めそやす『聖真教』――こちらは冒険者ギルドと違い、自発的に魔獣退治などの活動をしている――を擁するエスト・ポーラの評判は高まり、土地の値も上昇。この流れにいち早く乗りかかったエスト・ポーラの古豪『コランダム商会』が勢力を急激に伸ばし、恐ろしい速度でリブラネスタまで事業の手を伸ばしてきていた。
 それと同時に、奇妙な噂が流れ始める。
 曰く、リブラネスタで特殊な魔法薬が流行り始めている……。

●
「――そういうワケで、ぶっちゃけコランダム商会が怪しいって話なのよ」
 大都市リブラネスタの一等地。エラトゥーン都市同盟の稼ぎ頭たる『セルッティ商会』の一室に案内された冒険者たちは、商会の主にしてリブラネスタの市長でもある大物、ヴィルジニア・テレーザ・セルッティから、とある依頼の経緯と内容を説明されていた。
「事の発端は魔獣被害だけど、そこからの展開が速すぎる。何者かの意図がなければ説明がつかないほどよ。そして、一連の流れで最も得をしているのは、コランダム商会に他ならない。
 だから、コランダム商会を調べて欲しいの」
 そして告げられる、彼女からのオーダー。それこそが今回の依頼の目的である。
「と言っても、ただ調べるのは簡単じゃないわ。相手は一流の商会。聞き込み調査なんかしたって結果はたかが知れてる。でも、“リブラネスタ仮面舞踏会”にコランダム商会の主、ダグザ・コランダムが現れるっていう情報が入ったのよ」
 仮面舞踏会。
 貴族の娯楽という印象が強いが、此処、リブラネスタで開催される事には理由がある。
 エラトゥーン都市同盟とリーンエス王国の結び付きは強い。それは両者の間で頻繁にビジネスが交わされている事に起因する。このため、エラトゥーンには親王国の風潮があり、王国の文化や催事に人々の関心が集まる事も多い。
 この仮面舞踏会も一例であった。要するに、王国貴族の真似事をして貴族気分に浸ろうという事である。
 そこに、コランダム商会の主人が参加するというのだ。
「本人に接近するまたとない機会だわ。逃す手はない。舞踏会には、既にあなたちの参加をねじ込んでおいた。会場では仮面を外せないから、本人確認のために仮面を事前に申請する決まりみたい。仮面も、こちらで用意して、既に申請を通してあるわよ」
 説明しながら、ヴィルジニアは麻袋を取り出してその中身を卓上に広げて見せる。そこには確かに、人数分の仮面が在る。ヒトも、道具も、状況も出揃い、リブラネスタと冒険者ギルドの未来を占う依頼が、今まさに開始されようとしていた。
 ゆえに。
「ほんのちょっとデザインに難がある感じだけど、値段が凄く安かったのよ。まあもう申請しちゃったし、兎に角お願いね」
 渡された仮面が信じられないほど安っぽくてダサいという問題は、ほんの些末事なのだ。

●
 笑われていた。
 それは、至極当然だ。高貴な身分の集まる場には、相応の身嗜みで臨むのが常識である。煌びやかな装飾、一流のドレス、最高級のクラシック。そのような場をダサすぎる仮面の集団が横切れば、えっ、何? あの子達……どうしたの? という空気にもなろうものだ。
 依頼の説明を受けたあの日、セルッティ商会から帰る際に、従業員から同情された。何でも、ヴィルジニアは頭に超が十回はつくほどの倹約家(ケチ)なので、度々こういう事があるらしい。
 さておき、仕事はせねばならぬと、冒険者達が行動を開始しようとした矢先。
「おい」
 背後より声を掛ける者があった。
「お前達。おい。報告しろ」
 振り返ると、そこには赤ら顔を仮面の下からを覗かせる、禿頭の男が立っていた。膨れ上がった腹が卸したてのスーツの下で窮屈そうにしている。その両脇には、護衛と思しい二人の女を引き連れていた。
 冒険者達は、すぐに気付く。
 ――ダグザ・コランダム本人だ。
「何だ? お前らぁ、おれの声が聞こえねぇってのか」
 呂律が怪しいため、酒が回っているのだろう事は分かった。しかし、冒険者達はダグザに面識がないため、何の“報告”を求められているのかが分からない。人違いではないですかと、冒険者の一人が告げようとした、その瞬間である。
 苛立ちを露わにしたダグザが、語調を強めて言い放った。
「何の為に、テメェらにその仮面を用意するよう指示したと思ってんだ。顔も知らねぇテメェらを区別するためだろうが。おら、さっさと仕事の報告をしやがれ!」
 果たしてそれは、神の悪戯だっただろうか。
 数学者が椅子から転げ落ちて気絶するほどの偶然が起きている事を、冒険者達は瞬時に察した。偶然を差し引いてもダグザの警戒心が薄いのは、酒の手伝いがあるだろう。他にも理由があるかも知れない。いずれにせよ、一つ確かに言える事実がある。
 これは、チャンスなのだ。

解説

●依頼目的 ・ダグザ・コランダムの調査 ●状況 >前提 時刻は夜。場所は屋内。 仮面舞踏会が開催されている。 会場に武器の持ち込みは不可。 (キャラシート上で外さなければならないという事はありません) また会場内にいる全ての人物が武装を解除している。 当然、荒事は厳禁。 会場は大まかに次のような構成。 ・大広間……沢山の人がいる。中央で男女が踊り、それを囲むように周囲にも人がいる。ボーイが雑事をこなしている。一区画で楽団が演奏している。 ・バルコニー……人気がない。外の風に当たりたい人が来る。 ・厨房……酒や料理の準備をしている。とても忙しそう。 ・お手洗い……男女別。一ヵ所のみ。 ・エントランス……受け付けと武装した授恵者がいる。 ・他……一般的に考えうる範囲のつくり。 >行動開始後 目の前に酔ったダグザ・コランダム。 全員同じ場所からスタート。 ダグザはPC達を「自分が仕事を依頼した者」だと勘違いしている。 ●登場人物 ・ダグザ・コランダム コランダム商会の主人。中年ヒューマン男。禿頭で肥満。授恵者ではない。 酒に酔ってはいるが一流の商人。馬鹿ではない。 妖艶なデザインの仮面を着けている。 開始直後は「警戒度」がある程度薄いため口を滑らせやすい。この「警戒度」はPC達の行動によって増減する。 警戒が高まれば口が堅くなり身元がバレる危険もある。 男女イケる口で、ストライクゾーンは広いらしい。 ・護衛×2 ダグザの護衛。非武装だが授恵者。手練れという程ではないが雑魚でもない。 ダグザの命令がない限り如何なる時もダグザについて回る。仕事熱心だがあくまで役割は物理的な危険の排除のみ。無口。 ・ダグザが仕事を依頼した相手(本物) とてつもなくダサい仮面を着けている。 一人だけ。PC達の行動開始後、ちょうどエントランスから大広間に入ってくる。 授恵者ではない。 ●アイテム ・ダサい仮面 兎に角ダサい。誰もこんな仮面つけて舞踏会に来ない。 目元だけ隠れる形。 会場内で外す事は出来ないルールになっている。 ・酒類 一般的に用意できる範囲で何でもそろっている。 ボーイに頼むと持ってきてくれる。

マスターより

ハチャメチャに情報量を詰め込みました。読むの大変かもしれませんごめんなさい。 ともあれ、【暗都】がスタートです。色々きな臭いですが、我正義の味方ぞ? という意気込みでやっていきましょう。 ひとまずは私個人の連作シナリオという事で進んで参りますが、この話は続くほどに広がっていきます。 それにしてもヴィルジニアお姉さん、えっちですね。

リプレイ

●
(あいつか)
 最初に動きを見せたのはヨル・スレイマンだった。彼が周囲を見渡すとエントランスから近付いてくる一人の男に目が留まる。男が着けている仮面が自分達のそれと同じデザインであったため、ダグザの本来の目当てがその男であるらしいと知れた。
 少し遅れて、他の冒険者も男の存在に気付く。同時に全員の脳裏を同じ思いが過ぎった。その男がダグザと接触すれば、折角のチャンスが水泡と化すかも知れない……。
「ひそひそばなしは」
 逡巡。それによって生じた僅かな沈黙を破ったのは、マレーネ・シェーンベルグである。
「ほんのちょっぴりのおともだちとかわすから、たのしいのですわ。ちがくて?」
「あ? 何を言ってる?」
 その言葉の意味が分からず訝しむダグザだが、マレーネの真意を理解したヨルは頷いて言葉を続ける。
「大人数は目立つ。俺は……俺と彼女は見張りにつこう」
「おい、何処へぇ行くぅ? ひぃっく……待ちやがれ、報告をだなぁ」
「まあ、まあ、旦那」
 言うが早いか背を向けたヨルとマレーネを咎めるダグザだったが、そこへナハシュが割って入った。
「一応纏まってきましたが、報告ならこの位の人数のが安泰でしょう。いかんせんセンスのいい仮面だ、あんまり目立つのもいけませんや」
「そうですよ。あと、報告の前に私も何か飲みたいんですけど」
 リディリディ・トゥラ・イェレミースもそのように続く。なるほどと頷きかけたダグザだったが、すぐにその顔に疑問を浮かべた。
「お前が酒を飲みたい話、今関係あるか?」
「え、あなたももっと飲みたいですって?」
「言っとらんぞ」
 リディリディがボーイからグラスを受け取りながら、ダグザと噛み合わない会話を交わす。冒険者達の全ての言動は、ダグザをこの場に留める為のもの(のはず)だ。
 “ダグザとエントランスの男を分断し、それぞれから情報を引き出す”
 つまるところ、彼らが瞬時に採った作戦はそのようなものであった。
「…………」
 そんな中、ただ一人会話に混じらず青ざめた顔をする者があった。
 ティトである。
(まずい。うん。これは大変、まずい……)
 マレーネとティトは今回の調査に際して、エーテルを介して言葉の交信を行うすべを習得していた。それは二手に完全に別れてしまったこの局面に於いて、互いの状況を伝え合う為の唯一無二の手段であった。
 その交信術を。
 オンに(装備)するのを忘れていたのである。
「はーい、かんぱーい」
 リディリディとダグザがグラスを傾け合い、ナハシュが周囲を警戒し、ティトは顔面に脂汗を滲ませる。
 状況は、早くも混沌とし始めていた。

●
 聞いてない。聞いてない聞いてない聞いてない!
 ただでさえヤバイ仕事だと思ってたが、相手がダグザ・コランダムとは。
 オマケにこんな仮面を着けさせやがって。さっさと報告を済ませて、次の指令を受けて、それでオサラバだ。俺がそんな事を考えながらホールに足を踏み入れると、横からヌッと出てきた大男と肩がぶつかった。
 いってえな、と文句をつけると、遥か頭上から声が返ってくる。「申し訳ない。少し目が悪くてね」。なるほどそいつは杖で前方をツカツカと叩きながら歩いている。俺は苛立ちをぶつけ切れず、舌打ちだけをその場に残して歩き出そうとした。
「まあ」
 続けざまに、大男の影からひょっこりと女が出て来て、俺の前に立った。咄嗟に邪魔だと言いかけて、やめた。理由は二つある。
 まず、女がとびきりの上玉だった。何つうか、俺みてえな薄暗いとこに生きてる奴には手の届かねえ空気を纏ってやがる。
 次に――こっちが重要だが――女と大男が、俺と同じ馬鹿みてえな仮面を着けていた。混乱したが、女の次の言葉で納得する。
「おそろい、ですわね?」
 女の言葉には、含みがあった。仮面の意味が分かっている事を直感させる含みだ。
「貴方は一人か。こんなに沢山依頼してるなんて、聞いてた?」
 大男(マジでデカい。話してると首が疲れそうだ。何食って育ったんだ?)の方は率直に聞いてくる。沢山、と言いながら大男が振り返ると、ダグザの周りに更に三人、同じ仮面を着けた連中が見えた。
 ダセェ仮面がこの場に六人? 笑えてくるが、笑えねえ。俺はそんな話聞いてねえんだ。
 俺がどう動くべきか悩んでると、女が俺の腕に絡みついて来た。
「ほうこくのおじゃまをしては、いけませんわ。おんなじどうし……たのしみながらまつのは、いかが?」
「飲みながら待っていろと言われたんだ。きっとあなたも同じ事を言われる。どうかな、あちらで一杯」
 少し考えたが……二人の提案に乗る事にした。妙な連中だが、ダグザと話す事と比べたら百人が百人、同じ選択をするだろう。

●
「機嫌がいい、ね。何かいい事でもあった……?」
 そのようにダグザに尋ねたのは、ティトだ。交信が叶わない以上、兎に角時間を稼ぐしかなかった。あちらへ向かったヨルは催眠術を行使できる……必ず本物の請負人を眠らせて、情報を持ち帰って来るはずだ。
「お、そいつは俺も気になってました。なんでも、近頃のコランダム商会は飛ぶ鳥を落とす勢いだとか?」
「フン、知れた事!」
 ナハシュの合いの手を受け、ダグザはグラスを乱暴に呷ったのちにほくそ笑む。
「我々コランダム商会の躍進も勿論だが……エスト・ポーラの隆盛こそおれの至上の喜びよ」
 煙にまかれた事を、ティトは直感した。酔いはあれども口外すべきでない事の区別はつくらしい。
 だが、嘘をついている訳でもないようだった。ダグザがエスト・ポーラという都市を愛している事は事実なのだろう。
 そのような事を考えていると、ダグザがリディリディに目配せをする。
「ま、酒の相手に中々の女がついている事も、理由に付け加えてよかろう。なあ、女?」
 うっ。
 その瞳に下衆な下心を感じて思わず後退りをしそうになるリディリディ。どうにか堪えて笑顔を返し、悪寒を流し込むように酒を呷った。
 ナハシュがさり気なくヨル達の方を伺うと、彼らが男を連れて移動する姿が見える。即座に逆方向のスペースに当たりをつけ、手を叩いて仕切り直した。
「まま、先ずはあちらにでも。ここらは耳も多そうですし、落ち着いて話すなら酒を片手に壁際と相場が決まっているもんでしょう」
 尤もな提案である。ナハシュとティトを先頭に壁際へ移動するが、舞踏会は盛況であるため誰もいない空間を見つける事は容易ではない。
「おう」
 だが、ダグザが一声かけると、周囲にいた参加者が軽い会釈と共に足早に去って行く。なるほどダグザはリブラネスタに於いても強い影響力を持つらしい。
「さて、世間話も良いが、そろそろ報告をしてもらおうか」
 人払いを済ませたダグザは、冒険者達を振り返ると改めて切り出した。
 当然の流れだろうが、生憎、ヨル達が帰るまで報告は不可能だ。ナハシュが努めて平静を装いながら問う。
「どの報告からが良いでしょう?」
「決まっているだろう。“アントマン”からだ」
 アントマン……。
 これには、冒険者達も困惑した。“ブツの捌け具合”だのといった、中身を想像出来る内容であれば最悪口八丁で乗り切れただろう。だが、“アントマン”という言葉に心当たりのある者はいなかった。
 どうする?
 また世間話で誤魔化すか?
 質問を重ねて先延ばしにするか?
 時間にして一秒にも満たぬ瞬間。冒険者達の間に思考と、緊張と、焦燥が走る。
 そんな中、挙手をする者があった。
「あの、その前にお酒をお代わりしたいんですけど」
 リディリディである。見れば、その手に握られたグラスはすっかり空になっていた。
 どう考えても酒をお代わりする流れではないが、強引にでも押し切って時間を稼ぐ他ないという彼女の判断である(あと本当にお代わりが欲しい)。
 果たしてダグザの反応は……。
「おお――おお、そうか。うむ。おれももう一杯いただこう」
 目尻を下げて笑いながら、即座にボーイを呼びつけるダグザ。どうやらリディリディを気に入っているらしく、やたら彼女には甘い顔をした。さり気なくリディリディの肩に触れるダグザ。
 焼っ。
 青ざめた顔で一瞬魔法を唱えかけるも、どうにか押し殺すリディリディである。同情するナハシュとティトだが、二人に出来る事はヨルとマレーネの一刻も早い帰りを祈る事のみだ。

●
 酒が進めば、自然と話も弾む。相手が同業なら尚の事だ。
 女と大男は随分と聞き上手だった。鬱憤の溜まっていた俺の口は酒の手伝いもありよく回った。
「それで、おしごとは、どうでしたの?」
 どうもこうもない。さっさと終わらせてえよ。――そうだ、聖真教だが、やっぱ断って来たぜ。あいつら、何考えてんのか分かんねえ。
「聖真教……ふむ?」
 最初は“仕事”を引き受けたらしいんだが、今回は教義がどうとか言ってさ……ま、あんな連中の事はどうでもいい。今は“アントマン”だ。
「あんとまん、さん、ですわね?」
 ああ。あんたら、悪い事は言わねえ。今すぐこのシマから手を引け。あいつら……やべえんだよ、どいつもこいつも! 目の奥にどす黒いもん飼ってやがる。オマケに、全員いつでも仕事を始められると来た。
「詳しいね。ダグザ殿に特に重宝されているのは貴方で間違いなさそうだ」
 よせよ、あんな奴から重宝されても寿命が縮まるだけだ。兎に角、忠告はしたからな。あんたらも、この業界に生きてんなら聞いた事ぐらいあんだろ、アントマン。
「ええ、ぞんじております」
「それはもう、うん」
 だよな。俺は降りるつもりだぜ。これじゃ、命がいくつあっても足りねえ。……な、なあ。ところで、さっきの約束だが。
「まあ……どのようなおやくそく、だったかしら?」
 とぼけるなよ。仕事について話したら、あんたが俺の望む事をしてくれるって……なあその、良かったらこの後、
「失敬。仮面の着け方が違うようだ」
 あぁ、仮面? ンなもんどうでもいいんだ、邪魔をしないでくれ。俺はこれから、この女と……
 俺さ、いい……店を……知って……
 い…………に…………
 …………
 ……

「きっと、きっと、ほんとうにすてきな、おみせなのでしょう」
 深い眠りに落ちた男の頭をひと撫ですると、マレーネは微笑みながら囁いた。
「どうぞ、ごたんのうなさって。とってもふわふわの、ゆめのなかで、ね?」
「一言いいかい?」
 催眠術で眠らせたばかりの男をボーイに受け渡すために抱えながら、ヨルが言う。首を傾げて応じたマレーネを愉快そうに見下ろして、たった一言。
「悪い女だ」

●
「羽振りが良さそうですけど、お金儲けのコツとか、あるんですか? ぐびぐび」
「三つあるぞぉ。まず、好機を逃さん事ぉ……」
「ふむふむ。あ、お代わりお願いします」
「次にぃ、敵は全力で叩き潰ぅす……」
「なるほどぐびぐび」
 リディリディは、恐ろしく酒に強かった。
 超特急でグラスを空けるリディリディのペースに呑まれ、ダグザも矢継ぎ早に酒を飲む。その結果、彼はすっかり酩酊状態に陥っていた。
「そして最後にぃ、狙ったものは逃さないことだ……君、名前はなんというのかね? ん?」
 赤ら顔でリディリディに近付くと、彼女のくびれに手を回すダグザ。
 殺っ。
 張り詰めた笑顔を表情筋の総動員によって維持しつつ、咄嗟に出そうになった必殺・授恵者パンチを抑えるリディリディである。
(どんだけ余裕なんだ……)
 ティトは、その光景を呆れた顔で見つめていた。秘匿性の高い仕事のやり取りをするつもりだろうに、ダグザは酒にうつつを抜かしている。それほど彼を取り巻く状況は優勢にあるという事だろうか?
 ともあれ、流石にリディリディが不憫である。ティトがナハシュに目配せをすると、ナハシュが割って入った。
「旦那、お楽しみのとこ悪いですが……そいつはお互いのためになりませんぜ」
 話術巧みなティトも後に続く。
「僕達は相手の顔も名前も知らないまま、ビジネスの契約を結んだ。その体裁を守るため、会談の場に仮面舞踏会(ここ)を選んだ……そうだよ、ね?」
 遠回しな物言いだが、名前を聞き出そうとする行為は、お互いのリスクに繋がる事を指摘したのだ。
 ダグザはと言えば、一瞬鬱陶しそうに顔を顰めたが、咳払いを一つすると大人しくリディリディから離れる。二人の言葉に理がある事を判断できぬほどの白痴ではないらしい。
 グラスをボーイに受け渡すと、赤ら顔ながら鋭い眼差しを冒険者達に向けるダグザ。
 もはや引き延ばしは困難であろう事が、その表情から伺えた。
「君達の言う通りだ。では……随分と勿体ぶられたが、そろそろ料理の皿を出して貰おうか」
「アントマンなら、いつでも仕事を始められるよ」
 その返答は、ダグザの背後から告げられたものである。
 果たしてダグザが振り返ると、そこに立っていたのはヨルとマレーネの二人であった。
「……貴様らは、見張りをしていたのだったか?」
「うん、でも、安全そうだからね」
 じろりと睨み付けるダグザ。姿を消していた者がいきなり報告に加わったのだ。不自然さは否めなかった。
 妙な探りを入れられる前にと、マレーネも言葉を続ける。
「それから、せいしんきょうのみなさまは、おしごとをおとこわりになりましたわ。りゆうは」
「教義かね」
 即座に言い当てて見せたダグザに、「まあ」と驚くマレーネ。ダグザは拳を震わせて怒りを滲ませながら、あの狂人ども、と一言だけ呟いたが……すぐに冷静な表情で冒険者達に向き直った。
「…………いいだろう。報告、ご苦労だった。今日はもう帰っていい」
 それだけを告げると、護衛を引き連れて早々にその場を立ち去ってしまう。
 あまりにもあっさりと会談が打ち切られたため、唖然と立ち尽くす冒険者達であるが、洞察に長けるナハシュとティトは状況を理解できていた。
(本来は次の仕事の指示か何かを言い渡す手筈だったんだろう。だが)
(流石に警戒されてしまった、ね……)
 冒険者ギルドの授恵者である事までは見抜かれてはいないだろう。だが、彼らが“テレパス”の活用を前提としていた以上、それが成らなかった時点で綻びは免れない。やむなしの結果と考えて良いだろう。
 ともあれ。
「アントマン、ですか。一体何なんでしょうね……ぐびぐび」
 今回の収穫と言えるだろう聞き慣れない名前を思いぼんやりと零れたリディリディの言葉を聞いて、四人はこのように思ったという。
 まだ、飲んでたんかい。

●
 照りつける強い日差しの下、蝶の死骸が動いていた。
 いや、死骸が動く筈などない。それはただ運ばれているだけだ。
 よく目を凝らせば、そこには死骸の下に群がり、支え、連れ去ってゆく数多の矮小なモノ達の姿が在る。
 その感情を映さぬ一対の眼球は、何処までも黒く、黒く、黒く……。

<了>

マスターコメント

プレイング以外の面でのミスは度々起きるものです。今回はたまさか影響が大きいものでしたが、仮にこのミスを排して考えた場合、成功度は「成功」に足るものでしたでしょう。内容そのものは、皆さま的確なものだったと受け取っております。 その上で、更なる成功度を目指す場合、「攻める」という事も時には必要かもしれません。今回は請負人から主に情報を手に入れましたが、ダグザの懐に潜り込んだうえで、彼相手だからこそ引き出せた情報があったとすれば、それはまさしくチャンスだったでしょう。 今後の参考になれば幸いです。 ご参加いただきありがとうございました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準5 / 4〜6人

2021年06月28日 08時21分25秒 公開

普通

参加者

相談掲示板

  1. No.1

    リディリディです・・・。 よ、よろしくお願いします。 私たちを身内の人間だと勘違いしてくれているのならば、それに乗らない手はありませんね。 私は話を聞くというのはあまり得意ではないのですが、コランダムさんにはお酒を勧めて警戒を下げられればと思っています。

  2. ヨル・スレイマン

    ヨル・スレイマンだ。どうぞ宜しく。 どうやらとても運がいいらしいね。これも神様の思し召しかナー。 お酒を追加して警戒心を下げるのはとてもいいと思う。 >ダグザが仕事を依頼した相手(本物) この人がダグザと接触すれば全てバレてしまうから、ノータッチというわけには行かなそうだね。 一番わかりやすいのはどこかへ遠ざけて排除することだけど。 ダグザ氏に話を聞くにあたって、この依頼者からも情報を聞き出して、こっそり共有するのはもしかしたらアリかもしれない⋯⋯とも思ったね。 「仕事の報告」をしろと言っているし、はぐらかすにしても嘘がバレないように、追加の情報はある方がいいかもしれない。 >話 報告をはぐらかしながら依頼について聞き出す、というあたりがベースになるかなぁ⋯⋯? この辺りはもうちょっと考えてみるね。

  3. ナハシュ

    ナハシュだ。よろしく。 いやー偶然ってなぁ恐ろしいな!クソダサ仮面も役に立つもんだ。 コランダムに酒やなんやで警戒度を上げねえように寸のも、本物の依頼人が接触しないよう対処するのも同意だな。大きくこの2手に分かれるって形でもいいんじゃねえの? >本物 こいつがもし依頼した連中の代表で来てんなら、同じ仮面の奴がコランダムの周囲に群がってたらそれだけで警戒しそうな気はするよな。はぐらかしつつ情報を聞き出すにしろ何にしろ、奴がコランダム+俺らを見つける前に接触し動きを止めちまいたいとはするね。 あとは対人スキルや非授恵者用のスキルがすげえ光りそうだな。ヒュプノシスとかあれば、それこそ適当な所で寝かせることも出来るかもしんねえよ。 >コランダム とりあえず馬鹿みてえに酔ってるなら、最初のうちは「どれからご報告しますか」みたいなとか質問形式でいける気はするよな。同じく正気にならねえよう程よく酒は追加していってやりてえとは思う。あんまモノを知らねえと警戒度は確かに上がりそうだから、その辺本物の追加情報とかがあると便利そうだなとは。

  4. ティト

    ティトです。よろしく、ね。 調べるのは簡単じゃないってわかってて、そんな目立つ仮面を用意した、の? でも、そのおかげでこの状況が生起したわけだし…物事は何が起こるかわからないものだ、ね。 コランダムの対処と、 依頼人(本物)の対処で、 二手に分かれる…ぼくもそれがいいと思う。 コランダムを落ち着いて報告ができる場所に誘導するという名目で移動させるとして、依頼人(本物)の方は授恵者ではない…から、如何様にでも、ね。 情報を共有するなら【テレパス】の用意は必須? 必要なら用意しておく、よ。 コランダムは依頼人の顔を知らないけど、依頼人にはコランダムの依頼だと伝えられているんだね。それなのに警戒心が薄い…。 わざわざこんな形を取ったってことは、その依頼は秘密にしなきゃいけない内容ということで… 知らない相手から秘密の報告を受けるのに、飲酒するほどの余裕…安心?はどこから出るんだろう…ね。 「機嫌がいいな。何かいい事でもあったのか?」 くらい聞いてもいいかも…?

  5. ヨル・スレイマン

    >コランダムを引き離す 『仕事の報告内容に実は問題がある。できるだけ内密に耳に入れたい』あたりが通れば移動もスムーズかもしれないね。ただまあ、内容が全く分からないところからなので、これ自体が通るかどうかは賭けになるが。最初は移動まで漕ぎ着けなくても、意識を逸らすところからでもいいとは思う。 >本物 ヒュプノシスは持っている。最悪これでスッと眠らせるのはありだね。酒のある場だし、酔い潰れてしまったことにすれば自然だ。 ついでにエンパシーも持ってる。初手で触れることができたら、彼が受けたらしい依頼の成否くらいは感情から掬えるかもしれないね。 ただテレパスを⋯⋯持ってない⋯⋯( なのでなんかこういい感じにジェスチャーとか暗号とか手紙の受け渡しでカバーできたらいいな。テレパス要員が双方にいれば問題ないかもだけど。

  6. No.6

    とりあえずこのまま4人となると・・・、半々とは言わないまでも、取引相手(本物)の相手を誰かがしないといけませんね。 私はうわばみもあるので、コランダムさんの側でお酒を勧めようかと思っています。 あ、それと私もテレパスは持っていませんね。 困りました・・・。

  7. マレーネ・シェーンベルグ

    おくれてのさんか、たいへんもうしわけございません。 まれーねと、もうします。 まれーね・しぇーんべるぐ、ですわ。 よろしく、おねがいいたしますわね。 ……ふだんは、このようにしかおはなしができないのですが、 さすがにふつごうが、ございますので。 ここからは、ふしぎなおちからを、おかりいたしますわね。 ◆ 故あって見守ってはいたのですが、思い切って参加してしまいました。 「テレパス」は取得済ですので、人数頭の足しになれば幸いですわ。 ……とはいえ、不思議な力はこの場限りのもので、わたくしの普段の喋り方でコランダムさまと接触をすると、怪しまれる可能性のほうが高いと思っておりますの。 ですので。可能であれば……ですが、本物の依頼相手の対応にまわれれば、と。 もちろん、こんなに遅れての参加ですので、みなさまの希望が優先かとは存じております。 本物の依頼相手のお相手をする際には、……そうですわね。【誘惑】なんかで色仕掛け、というのが、面白そうだと思っておりますわ。 またの名を、「メロメロ作戦」……なんて。うふふ。

  8. ナハシュ

    他二人と同じくテレパスは持ってねえし、修得できるSPもねえ。 ってなると、ティトとシェーンベルグが持ってんのか。テレパスで双方共有すんなら、その辺はいまんとこ二人に任せる事になるか? 現状5人なら本物の対処は2人も居りゃあ十分じゃねえかと思うから、俺はコランダム側に回ろうかね。話の他、エントランス側に立ってそっちの方なるべく見えねえようにしておこうと思う。 >コランダム 頭いいからな、ある程度聴いた後此処は人が多過ぎるのでとか言えばバルコニーとかまでついてきてくれる気はするよな。つっても酒とかで気を引きやすいのは大広間な気がするから、同じくやるなら後半でいいんじゃねえかとは。 何でそんな酔ってんのかは確かに聴いてみてえな。 >本物 コッチは素面なのもあって、どんだけ作戦が効くか分からねえところが怖いわな。向うからすれば、いるはずがない同じクソダサ仮面をつけた奴が先に中に居るんだ。俺らにとっては天恵だが、本物の動揺と警戒は凄そうな気がする。 ってのも踏まえると、聞き出すのも良いがいざという時さっと大人しくさせる手段は同時に確保しておくべきじゃねえかとは思うな。その点でヒュプノシスはいてくれるとありがたい。

  9. ヨル・スレイマン

    そうしたら俺は本物の方へ対応しよう。 両者の位置を引き離す場合、テレパスはあった方が絶対にいいと思うので、二人が手分けしてくれるならすごく助かる。 一緒に行くことになるなら、マレーネ君は宜しくね。 >本物 ナハシュの懸念は最もで、警戒があるからヒュプノシスが効かない可能性もあるんだな。 「俺達は君とは別口でコランダムに雇われた」「今は報告中だから少し待てと伝えてくれと言われている」⋯⋯⋯⋯というていで対応して警戒度を下げられないかな。仮面が同じことへの言い訳にもなる。 マレーネ君のメロメロ作戦も合わせてとても良いと思う。視線をこちらに引きつけるのも警戒を下げるのもできそうだ。 あとはできるだけ大広間から出て貰った方がいいかなあ。 警戒を下げる→ヒュプノシスで眠らせる までさっとできたら持ち物を漁ることもできると言えばできる。 報告の予定があるなら何か出る可能性もあるので、眠らせることができたらやっておきたい。

  10. ティト

    ごめんなさい、時間が開いちゃった… ひとまず、【テレパス】を持って行くのはわかったよ。まかせて、ね。 ぼくはマレーネさんと逆にコランダムの方に向かう、ね。 ひとまずここまで取り急ぎ…

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0