Dress Kleid Vestito
伊治
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シナリオID:1041
オープニング
「ふふふ……ふふふふふふふふふ!!!!!」
「ディア、ご機嫌だね。僕もだけど」
完成させたドレスを前に笑いが止まらない妻は服飾職人。
そのドレスを彩る装飾を布で生み出す夫は装飾職人。
更に――
「ディア、私の半身!! 聞いてくださいな!」
「お邪魔するよ」
「サリア、義兄さんも……いやですわ、私達が2人の工房に飛び込もうと思ってましたのに!」
工房に飛び込んできたのは、2人にそっくりな夫婦。
この2組の夫婦、幼馴染で結婚していたりする。妻同士が双子、夫同士が双子。
そして、服飾職人の妻と装飾職人の夫という、ヴェルクリエ的にもちょっと珍しい職人夫婦だった。
「私ね、ユカタを見て思いつきましたの。ドレスとの融合を!」
「素晴らしいわ、サリア! 私はね、婚礼衣装について考えていましたの!」
「まあ、ディア! 何か心躍る発想ですわね!」
婚礼は一生に一度の大事なもの――自分達の大切な日は今もこの原動力になっている。
その婚礼の日のドレス、工夫があっても良いのではないだろうか!
雨が上がった後の爽やかな青い空や心地よい風、綺麗な虹を見てそう思ったそうだ。
で、幾つか試作し、思った。ドレスを卸してくれる商会や他の職人に布教して、そこから高め合っていくとか面白くないだろうか。
「素晴らしいですわ! ティンと来る発想ですわね!」
「サリア、何を仰いますの。ユカタとドレスの融合……素敵な発想ですわよ。そも、結婚に至るまで、至った後も両者仲良く過ごす為に特別な日に普段とは異なるドレスを着て想い出を重ねられますわ!」
燃え上がる情熱そのままに喋り倒す双子。
もう一方の双子はと言うと――
「婚礼衣装の装飾なら、布だけでも世界が広がる! 花言葉に準えてもいいが、世界に存在しない創造の花、月に星に太陽……モチーフは世界全てと想像力と本気の戦闘だな!」
「それを言うならユカタだってそうだよ。文化の融合だ、腕が問われる。普段から背伸びした節目の特別感……最大のモチーフが思い出……表現力の限界と全力戦闘だ!」
……似たような夫婦だった。
こうして、話を持ち掛けられた商会により、商会と懇意の職人の何人かがそのアイディアに乗っかりたいと名乗り出た。
その過程で、単なる布教活動ではつまらない、種族に富むだけでなく、大陸の各所を見て回る冒険者に試作品を着てもらい、お披露目会をすることで、そのアイディアを軌道に乗せてはどうかという案が出た。
商会も発案者である職人夫婦達も面白そうだと乗った。
ある意味、ヴェルクリエ的流れで、冒険者ギルドに依頼が掲示された。
『ドレスのお披露目会、モデル募集!』
解説
マスターより
リプレイ
「あれ、浩之」
カッシアは、鵜鬱鷹 浩之の姿を見つけて声を掛けた。
実は同じシェアハウスに暮らしている2人、知らぬ存ぜぬの間柄ではない。
「浩之もモデルに?」
「いいえ、ワタシは裏方側です」
浩之は昔の経験が役に立ち、裏方を手伝う。
カッシアも裏方を希望していたが、経験のなさに泣いた。
「浩之は経験が豊富だよな」
「多くの職業で働けば働く程自身の経験値として蓄積され、その経験が役立つ……労働とはすばらしいものです」
浩之の社畜っぷりに気づかないカッシアは、その言葉で切り替えた。
(そうだ。これは仕事だ。最後までやるさ)
とは言え、共通の知己たる人たらしに知られたくない――カッシアが浩之へ口外しないことを依頼している傍ら、エル=バ=ノイアンも同じ理由で裏方却下となっていた。
「仕方ありませんわよ、ノイアンナ様」
「ノイアンだ」
ネーヴェ・グラヌローザの励ましは、ノイアンを切ない気持ちにさせた。
そもそも品評役と思っていたらカッシアと浩之の会話の流れで違うと気づき、裏方をと願ったけど、ドレスを取り扱った経験がないことから却下……当たり前といえば当たり前だが。
(いや、それよりも俺は)
ドレスを選んでほしいというあの言葉を思い出したからとは言え、依頼の概要を読まずに受けたというのは、失態以外何者でもない。潜入調査だったら致命的だった。
「ドレスのモデルだなんてとっても素敵ですもの、楽しみですわ」
ノイアンは声を弾ませるネーヴェを他所に小さく息をついた。
「アンネはどちらのモデルになるの?」
「つい最近結婚式のお手伝いをしてきたし、ウェディングドレスの方よ!」
ドレスを選び終えたクレア・エクレールは、アンネエルカに声を掛けると、彼女はワクワクした笑みを彼女に向けた。
ウェディングドレスは一度きりの大切な日を彩るし、ユカタドレスは新しい風を吹き込む文化の融合とどちらも魅力的だし、とても迷ったけど。
「アンネなら白や淡い色、ふわふわひらひらの可愛いデザインも似合いそう!」
「クレアも華やかなデザインが似合うと思うわ!」
「毛色に負けない奴がいいな!」
そうして2人はまた後でとそれぞれの更衣室へ消えていった。
●
ドレスを選んだノイアンは更衣室へ向かう。
更衣室は全員個室だそうで、採寸室や応接室といった部屋へ案内されるらしい。
ノイアンに宛がわれたのは応接室で、カッシアと隣だった。
(そういえば、フードずっと被っているな)
「ウェディングドレス着るのか?」
「いや、ユカタドレスだ」
冒険者には色々な事情が集まっているし、顔を見られたくないならそうなのかとノイアンが話を振ってみると、カッシアはユカタドレスを着、舞台では特に顔を隠さないという。
「装飾品は従業員が選ぶという話だし、俺も2人仲良く過ごす特別な日に普段とは異なるドレスに合う装飾はよく判らないから」
カッシアの言葉には大いに同意したい。
ドレス以前にそういった特別の日というものがよく判らない。
「……そうだな」
ノイアンはカッシアと別れ、更衣室の中へ入った。
インナーは各自で着るという説明を聞いて安心したカッシアは、説明された通りに着用し、衝立の向こうに控えている従業員を呼んだ。
(この先は俺では無理だから)
本当は自分で着付けたいけど、自信ない。
すると、中年の従業員が顔を出した。
カッシアをじっと見ると、持ち場を間違えた旨を謝罪し、引っ込む。暫くして、年を重ねた従業員が数人姿を現した。全員秘匿している性と同じ性の従業員だ。
(当然と言えば当然か)
インナーだけでは気づくなというのもおかしい。
「口外しないでくれ」
「かしこまりました」
カッシアの性に気づき、熟練した商売人としての経験で口が固い者を選抜してくれた配慮に感謝し、カッシアは素直に着付けられる。
(俺は今自分がどうなっているかよく判らない……)
ノイアンは身長等々もあり、メイクが熟練の域に達している中年女性従業員によって磨かれていた。
出会ったことのないノリに対しての困惑が強い。あと会話のテンポが早い。
「目元どうにかなった?」
「なった」
「髪の精油どうする?」
「さっぱり系。ユカタドレスに合わせるべき」
素人が口を出してもいいのかどうか躊躇っている間にテンポの良い会話がガンガン交わされる。
「あ、あの」
ノイアンは髪の毛も整い、後は装飾という段階でやっと会話を遮れた。
「す、少し提案が」
あると言おうとして、声を徐々に小さくしていく。
ノイアンは戦場とは異なる緊張感をもってその提案をした。
●
ネーヴェはクレアが同じユカタドレスと知って声を掛けてみた。
「どのようなドレスを着る予定なんですの?」
「ボクはミニなんだけどね――」
クレアから教えてもらったユカタドレスは、なるほど、ドレスに比重があるのだろう。
ユカタに比重があるドレスとはどのような感じなのか、ユカタとはどのような違うのかと依頼書の概要を見た時点で気になっていたし、従業員に確認もした。その話を基に考えれば、別物と言って良いレベルで違う。
「ネーヴェさんはどんなドレス着るの?」
「私はユカタ比重のユカタドレスを着るのですが――」
クレアもネーヴェと同じことを思ったのか「同じユカタドレスなのにボクとはイメージ違うね」と目を丸くする。
「アンネがヴェルクリエはキラキラに溢れて仕方ないものを原動力に盛り上がっていける、それがヴェルクリエだって言ってたけど、ホントそう。ドレスひとつとっても違うね」
「ええ、本当に」
折角だから楽しもう。
2人はまた後でとそれぞれの更衣室へ入っていった。
「あら、楽しそうですわね」
「うん」
クレアは着付けてくれている女性に笑って返した。
「ボク、実はこういう可愛いドレスは似合わないって思ってたことがあって」
おしとやかさとは無縁だし、揶揄われることだってあったし。
でも、今はちょっと違う。
「冒険者の仕事を通じて、になるのかな、純粋に自分が好きなもの着たりお洒落するの楽しいなって思うようになってきたんだ。この前は、友達、アンネの家のドレスを――」
「その話詳しく!」
クレアがやけに食いつきのいい女性達へその日の話をする。
尚、彼女達が発端の職人姉妹と知るのは、お披露目会終わってからだ。
「まぁ、こんな合わせ方もあるんですのね。勉強になりますわ」
服飾にも造詣を持つネーヴェは従業員の手際に興味津々だった。
自身が飾り立てられていくのは楽しいだけでなく、勉強にもなる。
「皆様がどのような装いになるのかも楽しみですわね」
クレアからはざっと聞いているが、具体的に聞けたのは彼女だけだ。
着付けに時間がかかるアンネエルカはネーヴェが選んでいる間に更衣室へ向かったし、カッシアとノイアンは採寸室の自分とは異なり応接室、エリアが違う為案内された方向が違った。
「裏方にも興味があったのですが、これは着ないと判らないですわね」
「でしょう?」
若い女性従業員達がにっこり笑い、ネーヴェへ最後の仕上げを行った。
●
「見ているだけでも最高だけど、やっぱりドレスは着てこそだと思うの」
気合十分と言ったアンネエルカは、従業員達と声を弾ませていた。
流石に両親の店のことは従業員達は知っていたからで、アンネエルカが知らない所で両親の店にもお披露目会の情報は流れていた。
来るかもしれないというのは、ちょっぴり緊張してしまうけど。
「重要な仕事、しっかりやらないと!」
胸を張って着こなして。
そうして、パパとママだけでなく、誰かの素敵なお仕事に繋げたい。
「それにしても、こんなドレスがあるなってビックリ!」
こんなドレスがキラキラと生まれるヴェルクリエ、やっぱり大好きよ。
特設ステージの飾りつけや観客席の設置を手伝っていた浩之は、会頭に呼ばれた。
「ここはもう大丈夫。というより、折角なので、仕上げを手伝ってください」
「それは是非」
日々の糧としている方に敵わないと思いますがと前置きはしたものの、申し出ていて良かった。
ステージ、観客席の最終確認は従業員に任せ、浩之は会頭に案内され、更衣室へ向かう。
既にメイクが終わっていれば装飾品選びを手伝い、メイクがまだの場合はメイクも手伝う。部屋固定の従業員と違い、浩之は部屋を渡り歩く。
「よく働きますね」
「労働こそ至高にして至福ですから」
ギルド職員と違い、ヴェルクリエに生きているだけのことはある従業員は同意してくれた。
今この瞬間すら自らの経験として技術として蓄積されていくって素晴らしい。
浩之が最後に訪れたのはアンネエルカの部屋だった。
アンネエルカのメイクは終わっていたが、装飾品はまだだ。
「こういったものはどうでしょう?」
浩之が選んだのは白いレース編みのリボンと淡いピンクの造花だ。
アンネエルカに断ってから、星空模様の角へリボンを彩り、角の根元へ造花を飾る。
「こうすると、星空が浮かび上がる形になるかと」
「わぁ……!」
鏡で見せてもらい、アンネエルカは思わず声を上げた。
角もコーディネートに含めたいと言う前に素敵に仕上げてくれた!
「花弁にある小粒のビーズが星のかけらのように見えますし」
浩之の何気ない一言で、アンネエルカは造花の花弁の淡い青のビーズと聖夜にクレアと選んだ友人へのプレゼントのものと重なった。
それに、淡いピンクは誕生日に花飾りを贈ってくれた友人も思い出す。
(クレアと一緒に今日のこと沢山話そう!)
アンネエルカは浩之に礼を言い、更に気合を入れた。
●
カッシアは改めて自分の姿を見た。
(……似ているな)
メイクされているからか、まるで従姉のようだと思う。
顔立ち以外は正反対だったけど、顔立ちは本当によく似ていたから、従姉の仕事を肩代わりしたことだってある――カッシアは当時を思い出し、思い出の中にいる従姉のように微笑んでみる。
商人・職人の目当てが中身にないとしても、ドレスのモデルなど憂鬱でしかなかった、が。
この白いユカタドレスは、小ぶり蓮華がリースの円環を描いた柄のものを使用している。
着物の合わせと袖にはレースが踊り、手を動かして見るとピンクのビースがきらりと光った。ピンクのビーズは髪を彩る蓮華と蝶の髪飾りにも使用されていて、同じように煌めく、
裾部分はドレープを作り、フロントラインを大きく開いていた。スカート部分は色の違う白とピンクのアシンメトリーレースを重ね合わせていて蓮華の花を思わせる。
ウエスト部分は帯に見立てた蓮華と同じ色のリボンで、白糸で刺繍された蝶が舞っており、ドレスとは異なる世界がそこにあった。
(後ろがどうなっているかは判らないが)
飾り結びをしたと聞いているが、カッシアはそれを確認できていない。
(このドレス、あの人はきっと好きだ)
カッシアはドレスの裾を摘まんだ。
ベルラインドレスらしいが、カッシアにはよく判らない。けれど、従姉はきっと好きだろう。
(今日は、彼女の代わりに立とう)
俺達は、もう自由だ。
●
「ノイアンナ様、再臨ですわね」
ネーヴェから声を掛けられたノイアンは、力なく彼女を見た。
力なく、というのは、彼の主観によるもので、実際表情の変化は一切ない。
仕事として女装しているからと言ってノイアンの女装呼びをされたいかというと、そういう訳ではない。
「この柄は……初めて見ますわね。いえ、染めて作ってらっしゃる?」
「天の川モチーフの絞り染め、らしい」
ネーヴェがノイアンのユカタドレスをじっと見た。
天の川モチーフの絞り染めは明るい青、深い青、青緑、紫を使用しており、濃淡の加減もあって明るい印象だ。白で表現された天の川綺麗だと現実逃避したくなるレベルで見事な染め物だ。
帯は生成の白だが、当然飾り結びされているし、青い帯飾りまでしっかりついている。
曰く、飾り結びの花と帯飾りの花は同じ花とか。
このドレスは、ユカタに重きを置いたドレスだ。
裾は広がり少なく、スレンダーな縦ラインを描いているのみで、カッシアのようにドレープがあったり、フロントラインが開いたりしている訳ではない。
絞り染めの絶妙さを活かす為にユカタ側に重きを置いているのだろう。
「涼やかで良いと思いますわよ?」
ノイアンは「職人の技術とはすごいものだな」と見たままの感想を言う。
染の技術で模様を狙った作るというのは、確かな技術がなければできないだろう。
(通った提案でこれが出てくるとは思わなかったが)
観客と距離があるだろうし、ドレスがメインだが、装飾に何か顔を隠せるものはないか。
記念日に相手と絆を深めるドレスであるとは思うので、それ以外を連想させるようなものは難しいだろうか。
そこへ、浩之がちょうどこの部屋を訪れた。
彼から追加で提案を受け、レースのヴェールと手袋のセットの装飾となったのだ。
このヴェールも手袋も星を連想させるように作られており、絞り染めと色を合わせたレースのヴェールには星のようなビーズが輝き、手袋には星を連想させるような刺繍が施されてある。
(このレースのヴェールと手袋破かないようにしないとな)
職人の執念を感じる作品だ、大切にしないと。
「ネーヴェは、青ではないんだな」
話題を変えたいノイアンは、ネーヴェのドレスを見た。
ネーヴェのユカタドレスは青ではない。淡いピンクだ。
赤い芍薬と白の空木の花が大きく咲き誇る為ピンクの印象はそこまでではないが、赤が印象強かったとしても、普段のネーヴェの印象は青だろう。
帯も芍薬の赤でバックは芍薬の花飾りで彩られてあった。
裾はドレスらしく、脚から膝まで絞るようなラインは膝から踝まで豊かに広がりを見せる。
歩くのすら難しそうに見えるが、舞の名手たるネーヴェが苦にしている様子はない。
「ええ。とても素敵でしょう?」
ネーヴェが笑みを深めてその場でターンしてみせると、夜会巻きにした髪を彩る芍薬と空木の花の髪飾りにある白のビーズが煌めく。この髪飾りは浩之の提案によるもので、特別な日の装いというコンセプトをより艶やかなものとしていた。
「後は出番を待つだけですわね」
「順に呼ばれるという話だったな」
そうして2人は出番を待つ。
●
クレアは、アンネエルカのドレス姿を見て目を輝かせた。
「アンネ、綺麗! すーっごく綺麗! 可愛い! 最高!」
「クレアも素敵よ。キラキラしてて綺麗で可愛い!」
アンネエルカの目も同じ位輝いていた。
アンネエルカのウェディングドレスは、1つの色で構成されていない。
ストレートのビスチェの色こそ白だが、ドレスと同色の薔薇が咲き誇り華やかな印象を与える。
ドレスは所謂レインボードレスだが、後ろはバッスルライン、フロントミディはミニと個性的だ。虹を作るレースを長さや濃淡まで計算して重ね合わせているからこそ作れるラインとも言える。
そのレースもフロントミディ部分に使用されているものは白糸で刺繍が施されてあり、濃淡考慮されたレースの重ね合わせによって刺繍が浮かび上がっているようにさえ見えた。
「角のリボンとチョーカーの刺繍同じなんだね。それに髪も」
アンネエルカは最終的に角のリボンと同じリボンを使って編み込みアップもしてもらっている。
ドレスに負けたりしない可愛らしい華やかさがそこにはあった。
「そうなの! とても綺麗で今とてもドキドキしてるわ!」
クレアが目敏く気づくと、アンネエルカの目の輝きは増した。
「お花の色とビーズも私好きよ!」
「だよね! ボク、後で2人に自慢しよっと」
アンネエルカの笑顔に気づいたクレアは、ここにいない友人達を思う。
残念がるだろうけど、今日はボクが彼らの分まで堪能しよう!
「クレアも同じなんだから、私も自慢しないとね?」
アンネエルカが嬉しそうにクレアの姿を見た。
クレアのユカタドレスは、カッシアと同じようにドレスの色が濃い。
が、カッシアと同じ印象にならないのは、クレアのユカタドレスはミニ丈だからだろう。
夜空色の布地に描かれているのは、ヤグルマギクだ。青、紫、白、ピンク……色とりどりのヤグルマギクは袖や裾程花の量が多く、地に咲いているように描かれる。肩から腕にかけては舞うように描かれていた。
その裾はユカタ部分の丈をやや短くし、白と二色の青のレースを重ねたティアードスカートとなっている。レースがアシンメントリーなのも華やかさに一役買っているだろう。
ミニではあるが下品さはなく、華やかな品があった。
そして、アンネエルカが同じと表現したのは、クレアの装飾のことだ。
クレアの帯を彩る帯飾りはヤグルマギクを意識しているものだが、あの日見つけた色だ。このビーズは耳付近を彩る髪飾りにも使用されていて、友人との想い出が飴のように溶け込みアンネエルカとクレアにとって大切な一部になっていると確信できた。
そしてクレアの尻尾を彩っているのは、あの日の贈り物と同じアクセサリーだ。ヤグルマギクモチーフだから花こそ違うが、アンネエルカとクレアは揃って、あの日の友人の慣れない手つきを思い出して笑い合った。
「偶然だけど、凄いよね」
「ええ!」
もうそろそろ時間だ。行こう!
●
ノイアンは浩之に先導されて舞台袖までやってきた。
裾捌きがなれないこともあり、浩之の的確なサポートがなかったら、転倒せず舞台袖まで来られたか判らない。
「転んで破くなどあってはならないからな」
「そうですね。ワタシの目から見ても良い仕事です」
浩之はノイアンの絞り染めの見事さを見る。
曰く、恐らく季節によっては星空の色合いも変えるだろうとのこと。
「凄い発想だな」
「星空だけでなく、春の花や秋の紅葉なども表現できる手法ですね」
確かに青以外の色を使えば別のものも表現できる。
それ以外にも白地に複数の色で雪の華を描く柄もあるのだと教わった。
(この街では、こういうものも自然に根付いているものなのか?)
ヴェルクリエ出身のアンネエルカに後で聞いてみよう
舞台袖で浩之から裾捌きに関するコツを聞き、ノイアンは意を決して舞台へと出た。
設けられた席では一目で商人、職人と判る身なりの者が結構な人数でいるのが判る。少なくともここに商人、職人に全くかすらない生活をしている者はいないだろう。
(無理に表情は作らなくて良いと言われた)
作れと言われても作れる自信などなかった。ヴェールである程度隠れているからと言ってもレースだからこそ完全に隠れている訳でもない。
が、杞憂に終わった。
彼らはユカタドレスと絞り染めの組み合わせに目がいっていた。浩之が言っていたように季節に合わせた配色、柄に話が及んでるのが聞こえてくる。
作法通りに舞台中央に歩き、舞台の中央でドレスの後ろを見せるようにターンする。
「帯の結びでも変化をつければ印象が変わりそうだ。椅子に座るシチュエーションの時はシンプルにまとめるとか」
「立食パーティーの時は逆に華やかな結び目にするといいわね」
ノイアンは仕事をやり切ったと安堵して舞台を去った。
一方、ノイアンを先導した浩之は、ノイアンの晴れ姿を見ることなく次の仕事に移っている。
舞台の上はノイアンの仕事であるから、自分は自分の仕事をするだけと手も足も休めない。
(メイクやアクセサリー選びだけでなく、イベント進行の経験まで積ませてくださるなんて本当に素晴らしい)
浩之の肌、何もしてないのにつやつやしていた。
●
ノイアンが化粧を落としてもらっている頃、カッシアは浩之の先導で舞台袖にいた。
「カッシア様のドレスはロングなのですわね」
「ああ」
カッシアの次の晩であるネーヴェも舞台袖にいる。
ネーヴェのドレスの丈もロングだが、ユカタに比重が置かれているから印象が全く違う。
「レースの重ね合わせで蓮華を作る……素敵な発想ですわよね」
「可愛いものが好きな人にはいいドレスだろうな」
ネーヴェがカッシアのドレスで特に魅力に感じた点を口にすると、カッシアはそう口にした。すると、ネーヴェが嬉しそうに笑う。
「ええ。そうですわよね。可愛いものが似合うのが大事なのではなく、可愛いものが好きで着たいと思うことが大事ですもの」
「俺は好きなものを着るのが大事だと思うよ」
あの従姉だってそうだ。
もう、いいんだ。
カッシアは、舞台へ歩き出す。
もし、従姉だったらどう振舞っているだろう。
そう思いつつ、従姉のつもりで微笑む。
と言っても、彼らの話題はドレスが主体だ。ドレスカラーが強いドレスの登場で興奮押さえられない様子で会話が飛び交っている。
舞台中央でゆっくりターンすると、リボンが翻り、刺繍の蝶が舞っているように見えた。
(俺がこのドレスを着たかった訳ではないが、従姉ならきっと似合うよ)
だから、どうか、無事でいて。
カッシアが向こうの舞台袖に去っていくのを見送ったネーヴェは、従業員に促されて舞台へと出た。
裾捌きを苦にすることもなく歩くネーヴェの姿勢は良く、堂々としたものだ。
(こんな衣装で踊れたら素敵ですけれど……)
歩いたり単純なターンであれば問題ないが、ダンスのステップを踏むならばもう少し足捌きを練習する必要があるだろう。
(……もし、あの方がこの場にいらっしゃったなら)
ネーヴェはふと、手紙の約束の人を頭に過らせた。
御伽話の妖精のようだと言ってくれたあの方は、綺麗だと、そう、仰って下さるかしら。
あなたが私のことを大切に想って下さるのなら――どこかへ旅に出ている記憶の帰還など関係なく、誰かに渡さないで下さらない?
(あの瞬間は、特別でしたわね)
ネーヴェは己の想いごと華麗なターンでそのドレスを堂々と魅せた。
●
舞台袖で順番を待つクレアは、ドレスに興味津々の彼らを見ていた。
(ドレスが一番とは言え、全部コーディネートしてこそだよね!)
クレアは笑顔もまた、特別な日のドレスを映えさせるものと唇の両端を指でつい、と上げてみた。
恥ずかしがらずに、堂々と!
従業員に促され、颯爽と舞台へ歩き出した。
やっぱり、ドレスの話題が第一だ。お披露目会の趣旨を理解した商人・職人なら当たり前と言えば当たり前とクレアは思う。
(あ)
クレアは、席にその顔を見つけた。演技ではなく、満面の笑顔となる。
(まだお嫁に行く予定がないからこのドレスを着たんだけど――今日のボク、最高に可愛い、でしょ?)
アンネのお父さん、お母さん、後で出てくるアンネもすっごく可愛いからね。
演技などない満面の笑顔がドレスをより引き立てるのか、商人達が「特別な日なら着ている者が笑顔になるドレスがいいな」と言葉を交わしているのが聞こえる。
笑顔のクレアはターンした後ウインクして、指をぴんと立ててポーズ。
ステージを降りた後、従業員にあることを提案した。
アンネエルカはウェディングドレスのモデルが少数だったこともあり、最後の登場だ。
「次です」
浩之に声を掛けられ、アンネエルカは小さく頷く。
「アンネ!」
クレアに声を掛けられ、アンネエルカは振り返った。
差し出されたのは、ガーデニアのラウンドブーケだ。
「造花でもブーケがあった方がイメージ掴みやすいと思って提案したんだ」
アンネエルカは舞台を見ていなかったが他のモデルも造花のブーケを手にしたという。
クレアはアンネエルカのものだけは自分で渡したく、着替える時間も少し延ばしてもらっていた。
「ありがとう、クレア! いってきます!」
(今はまだ恋もわからなくて、遠い夢のように思えてしまうけど)
いつか着る時があったら、こんな風にクレアからブーケを渡されたら嬉しい。
そんな日が来るのか――
(あ)
アンネエルカは、その席にいるのを見た。
大切なパパとママも、創る人――私が発端のご夫婦にちょっぴりシンパシーを感じたのは、パパとママがいたから。
(嬉しい)
素敵なものを広める笑顔を贈ってくれてありがとう。
●
お披露目会は盛況の内に終わり、モデルも全員着替え終わった。
商会の厚意もあり、モデルも務めた冒険者達も打ち上げの席に着く。
そこには発端となる職人夫婦の姿もあり、カッシアが声を掛けた。
「素敵なドレスをありがとう」
「いえ、こちらこそモデルありがとうございます」
ふふふと笑った職人が、次の瞬間テンション急上昇した。
「やはり私達の目に狂いはなかったですわ。皆様最の高です!」
「皆様のドレス、装飾品があってのことですわ」
カッシアが言葉を失っている内にネーヴェが声を掛ける。
当然テンションますます上がった。しかも、この単品ではない。夫婦そろってそうだし、更に二組揃ってそう。
「私、ヴェルクリエのこんなパワーが大好き」
カッシアはアンネエルカが凄いと思った。
「ノイアンさんのユカタドレスは、髪の毛と合わせて夜のお空だったなんて素敵ね」
「そこまで考えてドレスって凄いよね」
「アクセサリーは浩之の提案だ。破かなくて良かった」
アンネエルカとクレアに応じるノイアンは手袋を脱ぐのが一番緊張したと話す。ノイアンの横にいたネーヴェもアクセサリーを選んでくれた浩之へ声を掛けた。
「今日は裏方お疲れ様です。どの方も素敵でした。浩之様に選んでいただいたアクセサリーもドレスに良く合っていて感謝しておりますわ」
「ボクもアクセサリー選んでくれてありがとう! ラリエットが特に良かった!」
「そう仰っていただけたなら、ワタシも選んだ甲斐がございます」
ネーヴェの会話に加わったクレアも浩之へお礼の言葉。
アンネエルカもそこに続き、社畜はその仕事ぶりで大変報われた。……実は、浩之、会頭に申し出て残業許可貰ってるので仕事終わってないのだけど。
「アンネエルカ様の虹のドレス……職人の方は本当に柔軟ですわよね」
「私も驚いたのだけど、雨上がりの虹を見て思いついたって聞いたわ」
「発端の職人達にとっては世界全てがドレスの構想、らしい」
カッシアが着付けの間に聞いた話をすると、虹のドレスが生まれた理由が何となく判る気がした。
世界のキラキラを自分が生み出せる形で表現したい――そんな思いが伝わってくるとアンネエルカは笑う。
「雨上がりの虹を表現したい気持ちは俺にも判る」
「カッシアさん吟遊詩人だもんね」
クレアに言われたカッシアは、ふっと笑った。
己の商売道具はここにある。
「一曲どう?」
打ち上げとなった席にカッシアが奏でる音色が流れていく。
●
打ち上げも終わり、浩之以外の冒険者が帰っていく。
「ワタシも今日は勉強になりました」
中庭の掃き掃除を手伝いながら、浩之は率先して雑用する会頭と言葉を交わす。
会頭は陣頭指揮を執ることが多いが、上に立ったから雑用などしないという発想ではないそうで、こうした雑用をすることで気分転換をするのだと教えてもらった。
「ワタシ自身着飾ることに興味はないのですが、今までの経験で誰かを着飾ることには気が利くと思っていたので、その経験が役に立ちました」
「こちらも大変助かりました」
本当は打ち上げの席などに出ず、労働をしたかったのだが、ギルドの冒険者を休ませず働かせたとあっては商会の沽券に関わると言われてしまい、先ほど休暇という仕事をしたのだが、やはり身体を動かしている方がいい。
「他の商人や職人も興味を持ったので、今後ますます切磋琢磨して盛り上がっていくと思います」
秘密としているような技術なども存在するが、商人同士、職人同士シェアできるものはシェアした方がいいという考えらしい。
別の発想が自分の発想を刺激し、より高みを創るという考えで、そうして生まれたものを売った方が良い。
浩之にはよく判らないが、上に立つ者として先を見通しているのだろう。
この間も浩之は手際よく掃除を終え、掃除用具の片付けへ移っている。
自分よりも相手を優先し、できる限り力を尽くしてこその社畜、浩之の仕事は今日の仕事がなくなるまで終わらない。
そうして仕事がなくなるまで仕事をした浩之は会頭と従業員に見送られ、帰路へ着いた。
「明日の依頼、残っているといいのですが」
明日には明日の仕事がある――浩之は、毎日社畜道を貫きたい。
●
浩之が残業に勤しんでいる頃、カッシアは帰路に着いていた。
(真の創り手とはああなのだろうな)
自分には真似できない。
けれど、好きに生きることはできる。
それこそが、俺達の希望だろう。
「今日は楽しかったですわね」
「……俺は緊張した」
ネーヴェは楽しそうに笑うが、ノイアンは緊張の方が勝ったらしい。
「着慣れている訳ではないからな」
「普段からドレスって私達だとあまり着ませんものね」
冒険者として活動するには、あのドレスは動きにくい。
あくまで特別な日のドレスだ。
「軌道に乗るといいですわよね」
「それには同意する」
ネーヴェにはネーヴェの、ノイアンにはノイアンの特別な日の時、このドレス達が軌道に乗っているかもしれない。
そんな想像もまた、ひとつの余韻。
アンネエルカとクレアはその道を急いでいた。
お互い仕事なのだと思い、アンネエルカもクレアも声を掛けに行かなかったけど。
仕事は終わったから、今日は家で沢山お話ししたい。
「ドレスって凄いよね。綺麗で、可愛くて、大切な節目を笑顔にしてくれる」
「ええ! 綺麗で可愛いは、素敵な笑顔を沢山くれるのよ!」
満面の笑顔を浮かべた2人がドアを開け――素敵なドレスを全力で広めた話が溢れるのは、この後すぐ。
彩のドレスのお披露目会は無事終了。
いつか、きっと、このドレス達は誰かの記念日を彩ってくれるだろう。
そして――素敵な笑顔を齎してくれる。
彼らの手は、魔法の手。
生み出す世界で、笑顔だって創ってみせる。
当然でしょう?
だって、ここはヴェルクリエなのだから。
マスターコメント
ショートEX易しい 報酬:少ない6 / 6〜6人
2021年06月24日 21時34分28秒 公開
相談掲示板
ノイアンだ。 友人と浴衣や着物の話をしていて…どんなものだろうかと見るつもりがいつの間にかモデルになっていた 何を言っているのか分からないと思うがとある島国には187cmの美少女がいるそうなのでまあいけるでしょなる託宣(ハンドアウト)があり、うっかり女装(2回目)することになる そんなことってある? ともあれよろしく頼む…
クレアだよー! こういう機会でもないとなかなかドレス着る機会ってないからさー、モデルとして参加予定♪ どのドレスにするかは悩み中ー。 そんなわけで皆よろしくね! ノイアンさんはユカタドレスに挑戦する感じ? 2度あることは3度あるって言うし、第三、第四の託宣がおりないとも限らないから……えーと、とにかくファイト!! きっと凄い美少女が爆誕すると思うから!!
ネーヴェ・グラヌローザと申します。どうぞ宜しくお願い致します。 お手伝いにも興味が御座いましたもので悩みましたが、折角ですから今回はユカタドレスなるものを着用してみたく思っております。(全てダイスで決めました) 皆様方のドレス姿も楽しみにしておりますわね。 クレア様でしたら特に華やかな装いが似合う気が致しますわ。ドレスはミニ丈の方が雰囲気に合いそうですけれど、意表を突いてロング丈というのもきっと素敵でしょうね。 ノイアンさんはノイアンナ再び、で御座いますね。今回は最初から立って歩かれると思いますから、艶姿を期待したいところですわ、ふふふ。
カッシアだ。お見知りおきを。 手伝いとしての参加のつもりが気付いたらモデルとして参加することになっていた……そんなこともある、んだなぁ(ノイアンを横目に見ながら) 189cmの美少女の爆誕を楽しみにしているよ。 クレアとネーヴェもモデルとしての参加なんだね。二人ならどんなドレスでも似合いそうだ。 当日はどうぞよろしくね。
>クレア 背後はまだどれを着させるか悩んでいるようだ… 大惨事ダイスなどにならないことを祈る >ネーヴェ ノイアンナ ドウシテ… そう、立って歩かないといけないんだ…189cmが… >カッシア あんたくらいの背格好なら何も不自然はないだろうにな…(遠い目 衣裳をゆっくりみるつもりだったんだが…まあこういうこともあるだろう(ないよ 成功すると良いな
はい!!ヴェルクリエの素敵なお話に飛びつかずにはいられなかった アンネエルカよ!アンネって呼んでくれても大丈夫。 もう全力も全力で盛り上げたいわ、どーぞよろしくね! 身長が高いのだって、きっと素敵なスパイスになるから大丈夫よ! 素敵なお洋服って、誰だって魔法にかけてしまうものだと私は思うわ。 それにほら! ノイアンさんがバシッと、綺麗に華麗に着こなせたら、 高身長がコンプレックス気味な人の憧れになれるかもしれないし! ピンチはチャンスというか、きっと素敵な面だってあるはずよ。応援してるわ! 皆のドレス姿も私、とっても楽しみだわ。 私もどうしようかしら…絶対にどっちのドレスも素敵なんだもの。 後悔のないように、悩みまくる予定よ。
>アンネエルカ なるほど、高身長で着る物を思うように選べない人たちのため… そう思えばやる気も…うん…?中身が男であることはいいのか…??(ぐるぐる目 あんたもモデル役か。他の者にしても、何を着ても似合うとは思うが… こういう機会はあまりないだろうからな。リプレイを楽しみにしている。
挨拶が遅くなりました。 鵜鬱鷹 浩之と申します。 今回は裏方で頑張らせて頂こうと思います。 昔録った杵柄ではありますが、美容に関しましては少し技術がありますので皆様のお力になれればと思います。