【帝国】兵器工廠親方の妄執

韮瀬隈則

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シナリオID:985

オープニング

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 強引に2台続きに連結された馬車に積まれていたのは、極端なトップヘビーの投石機だ。
 その前にたつ男達が複数人。
 うちひとり。元は壮健であっただろう親方風の男の形相は、何かに憑りつかれたかのように荒んで、冒険者と対峙している。
 のこる十数名の男達。
 帝国奪還作戦のためだろう。レイウェストが手配したドワーフ職人集団、その一部。

「師匠、良く見てくれ! これが、これが試作型砲撃チャリオット、その21式なんだ。走行しながら投石ができれば、もう砲撃手が敵に狙われて死ぬことはない!」
 21式チャリオットだと親方に指された車両。それが冒頭の投石機が詰まれた異形の馬車である。21式、とは試作回数か開発した年号か。ドワーフ集団に向かい、認めてもらおうとこれまでに弁をつくした親方の、説得の矛先は次に冒険者と受付嬢へと向かう。
「ああ。いま師匠にも説明した通りだ」
 手渡される仕様書は厚く。けれど、その内容を見るまでもない。
 今までドワーフ達に語られた設計理論は切実で、しかし実現性に乏しい。なによりそびえ立つ現物は、素人目にも運用可能とは思えないシロモノなのだ。
「決行は明日だ。明日、ヴィント郊外の砲塔を撃つ。塔のてっぺんの弩砲のかわりに、今は忌々しい蟻どもが巣食っているが、攻略理論は同じだ。蛇行しながらの砲撃さえ可能なら、敵から攻撃位置は把握されないからな」
 試運転は頼んだぞ! と言いおいて、親方は足早に去ってゆく。
 彼なりに明日の準備があるのだろう。

●
「攻撃目標、ヴィント郊外にあった砲塔の件ね」
 受付嬢が地図を拡げる。
 赤土に低木が散見される旧街道、そこからの侵入を監視する物見塔の表記。
「王国からの侵入監視用ね。小規模で、脅威は監視塔屋上の大型弩砲(バリスタ)くらい。それでも、以前に死人が占拠してた折には攻略は困難だったって……」
 現状への質問に、受付嬢は「……蟻」と答える。
「いまは駐屯施設は失われ監視塔のみが残っているわ。けれど、蟻が数匹出入りしているのを目撃されている」
 おかげで使える街道がない。と、受付嬢が肩をすくめる。
「あ、誤解しないでね? 街道の安全確保が目的じゃないから。軍もギルドも関知してない、純粋に依頼人である親方のご希望よ。なにかあるのかしらね?」

「……どうする? 断ることも一応できるけど?」
 受付嬢がため息交じりに冒険者を伺う。失敗が分かっている試運転に突き合わせられるほど、この方面(ヴィント奪還)に割ける人員は余っていない。
「いや、お嬢さん。儂らからも依頼を出そう」
 師匠と呼ばれたドワーフが、残る一団の頷きとともに依頼書へ受付不可に印を押しかけた受付嬢を遮って。
「あいつを……儂の不肖の弟子を、走行型投石機(試作型砲撃チャリオット)への妄執から解き放ってくれ」

●
「あいつは昔、ヴィントに複数あった兵器工廠のうち、一等小さい工廠の親方でな……」
 師匠がため息混じりに言う。
「奴は親方業を息子に譲り、郊外にある工房で隠居。息子は工廠を継いで、孫は軍属で兵器の整備や組み立てを。有事には輜重兵みたいなこともしていた」
 くだんの親方の兄弟子と名乗るドワーフらが続ける。「それが……」と先を言うまでもない。
 帝国崩壊――。
 息子家族はヴィントを覆う悪夢に喰われた。
 孫は死人相手に砲撃戦を試みた部隊に従軍し、組み立て型の固定式投石機を運用中に、敵の迎撃にあって部隊ごと壊滅した。
「郊外にいた奴だけが生き残り自分を責めた。自分が固定式投石機を納入し、それに付きっきりだった孫が死んだ、と。以来、奴の工房は改良型移動式投石機の設計図とその試作品で埋まっている」
 気持ちはわかる。と兄弟子たちの誰かがいった。だが……。と誰かが継いだ。
「暫く前から、我々に助言を求める手紙の傾向が変わった」
 兄弟子たちの視線は、やりどころに困って馬車上に置かれた仕様書に向けられる。
「冷静になれば不可能だとわかる走行型への拘泥っぷりは異常だった。帝国皇子殿下(レイウェスト)の招聘に乗じて工房を覗いてみればこのありさまだ。そこで、だ……」

 兄弟子の一人が大きく手を振る。
 振り向けば、くだんの21式(試作型砲撃チャリオット)とは別の投石機を積載した台車をビヒモーが曳く。
 上部の投石機は21式より一回りほど小さいとはいえ、それでも大型の部類だろう。通常ならば現地組み立てで運用するサイズだ。それが回転機に固定され、回転機は異様な形状の台車に固定されている。
 その台車。一見すれば、6輪の強化台車である。
 しかし回転機と投石機が乗る中央車輪部分以外の車輪は――。
「前後とも水平に大きく開脚するようになっている。X字型に展開するこの機構のおかげで、据え置く理由のひとつの踏ん張りが効く」
「もちろん走行しながらの投石なぞ無理だ。だが、ジャッキで台車を固定し、脚を展開するだけで、通常なら熟練工でも半日がかりの砲台設営と撤収が数分で済む。砲撃位置を知られ反撃される前に逃げるなら、これで充分ではないか」
「……四つ脚だが、俺たちは『蜘蛛』と呼んでいる」
 これはお師匠さん達の持込なのか?
 受付嬢が問う。
「元の設計は奴なんだ。儂らは、途中でうち捨てられた試作品を、使い物になるよう再設計し調整しただけだ」
 また嘆息。
 正常な判断を捨ててまで、親方は何故?

「運用の仕方は今から教える。なんなら明日、儂らを運用にコキつかってくれていい」
 だから……と続けたのはひとりだけではない。

「奴の『21式(走行型投石機)』と、かつての奴と儂らの『蜘蛛(牽引式投石機)』。実際に撃ち比べてみなければ納得はすまい」
「どうか、どうかだ。無理なのを納得させてやってくれ。現実的な移動砲台を、その運用によって提案してやってくれ」

解説

●目的  ヴィント奪還に先立ち、2種の試作型投石機を試験運用し、有効性を実証せよ  なお、片方の投石機は実用不可のシロモノであるが、開発者の拘泥を不安視する友人らが追加依頼を出し、結果として2種併用となった経緯がある ●試験運用地 ・ヴィント郊外の砲塔  元は侵入監視用の物見塔とその付帯施設群  付帯施設は倒壊、高さ15m10m四方のハーフティンバー造の監視塔が健在  監視塔屋上に、大型弩砲(バリスタ)が配置されていた  現在、砲塔は死人による占拠を経て、ヴィントを徘徊する蟻に侵食されている  砲撃による反撃は無いが監視塔機能は健在であり、攻撃位置を把握されればその約10分後には蟻の反撃部隊が到達予測される  監視塔損壊または蟻の漸減はヴィント攻略を有利に運ぶ、と、開発者は考えているが、ギルドも軍部もこの場所の攻略は計画外  2種の投石機展開場所は、砲塔を臨む距離300mの旧街道跡と周辺の低木の生えた平地  整備はされていないが、馬車などの通行に支障はない  低木は投石機隠蔽に利用可能だが、稼働してしまえば位置割り出しは容易だろう ●敵情報 ・兵隊蟻 × 4体  サイズ1.5m  LV5相当の近接特化型  人類側の攻撃後、10分後に発射地点へ到達 ●投石機  いずれもドワーフ集団を運用可能 ・走行型投石機『21式』  開発コンセプトは試作型砲撃チャリオット  蛇行走行により敵射撃を回避しながらの投石を可能にすべく開発された  最低運用人数は、御者1名、砲撃手2名(うち1名は開発者)、砲撃助手2名  錘はバスケットに石がセット済  強化型荷馬車を2台連結し、その上に大型投石機(トレビュシェット型)が固定されている  砲撃は前方、または後方に向けて行われる  静止状態でも2度の投石で擱座が予測される ・牽引式投石機『蜘蛛』  開発コンセプトは牽引による移動、台車構造による展開撤収と強度との両立  現地組み立て運用が前提の大型投石機を、数分で運用可能とすべく開発された  最低運用人数は、御者1名、砲撃手2名、砲撃助手4名  錘は鉄板ウェイト取付式  固定用ジャッキ付き強化型台車の前後に、開脚用台車が連結されている  強化型台車上に回転台、その上に大型投石機(トレビュシェット型)が固定されている  砲撃は牽引を切り離して展開後、後方に向け90°の方向調整が可能  X型に展開する脚部により非常に安定した投石が可能

マスターより

 そうかえんの録画を観たんじゃよ。韮瀬です。 「先生……! スラローム射撃がしたいです……」 「諦めなくても試合終了です」  そんなやりとりがあったとかなかったとか。  『21型』は『10式戦車』を、『蜘蛛』は『FH-70』を、それぞれイメージしています。  『21型』:走行射撃はスラロームじゃなくても無茶なので、イッパツで擱座します。  『蜘蛛』:砲撃台車の展開・撤収はドワーフ達を助手とすれば5分強で可能ですが、あくまで今回限りの特殊事例です。砲撃位置移動の有効性が実証されても、世界への影響には間に合いません。  間に合うのは、何故か憑りつかれたかのように振舞う親方のケア。  しかしそれこそが、依頼の目標です。敵の討伐は不要。試験運用の成否すらも材料でしかありません。

リプレイ

●
「おい! そのガラクタは師匠が持ち込んだのか?」
 試験運用地である旧街道跡の平地。
 砲塔は依然として、彼らの300m前方に佇んでいる。

 低木の陰に隠されていた異様な六輪の台車。ビヒモーが曳くそれ――『蜘蛛』(牽引式投石機)を、親方と冒険者たちが設置した『21式』(走行型投石機)と並べられ、最初唖然とした親方は次に抗議の声をあげた。
(困惑と不満の気持ちはわかるけれどもね?)
 なにしろ牽引人員に冒険者が含まれているのだ。
「改めまして今回はよろしく頼むのですわ。もう一方の投石機については、バンビが試作結果の比較をやりたいのです。……失礼。親方のご親族におかれましては謹んでのお悔やみを。技術進歩の動機と実験の成功という目標は同じですわ」
 恭しく。バンビこと、小さな黒頭巾の少女が一礼をする。
 自分も研究の徒であるとの表明だろう。魔導書に添えられた波紋学派の印を指し示す。
「親方もご実感されておられる力学の及ばぬ先、の学問。と考えていただければ」
 まずは話題のとりかかりを掴む。親方の親近感のため、やや雑な魔法原理論波紋学派への誘導。
 その横に一礼する娘がもうひとり。紙束を挟んだ画版に携帯筆記具を小脇に挟み、礼の仕草は帝国軍式。
「従軍の立場を離れた身といえ、奪還の助けとなりえる兵器運用には興味深く。より多くのデータをとりたく同席をお願いしたい」
 同じ帝国軍ゆかりの立場だ。ナタリア・フィッツジェラルドは親方の情念に賭けてみる。従軍中も冒険者となってからも、生還者の罪悪(サバイバーズギルト)で苦悩し身を墜としてゆく者は何人も見ている。
「今後の開発と後進のために、是非ともに」
 心的外傷反応は厄介だ。当人(親方)を診て確信する。妄執の記録と照らし合わせるまでもない。彼は――病んでいる。

「ルプス。砦方向を哨戒頼む。無理せず異変があればすぐ帰れ」
 ロイ・アウレアに小さく唸って、黒狼(ルプス)が低木の合間に消えた。事前偵察では近接特化の兵隊蟻が4匹。この時間は塔に籠っている筈だが念の為だ。
 自身はドワーフの師匠らと『蜘蛛』の設営にかかる。『蜘蛛』の安定性を『21式』への逆輸入を狙い、親方との書簡内容の変遷やボツ設計図との検証が目的だ。
「辛い目標だな……」
 子を孫を亡くし原因が己の職業となれば、何かに没頭せずにはいられまい。しかし、手紙と設計図の変遷が示すものは――。
「わかっただろう? そいつでは設置型のデメリットを解消できない。『21式』の運用を先行とすべきだ」
「だからこそ、まず先に『蜘蛛』の試射で『21式』用の砲撃諸元(データ)を作り、『蜘蛛』撤収を『21式』で護衛し、走行砲撃を確実に行う必要があるんだろう? 砲撃手の安全こそが、あんたが開発している投石機の命題じゃないか」
 親方の苛立ちに、ケン・Z・ブラッドリーが更に被せた。
 なんのための投石機開発か?
 手伝っていた『蜘蛛』のジャッキ上げに力を込めて、親方よこちら側(安全志向)に帰れと、強い言葉を使う。手動ジャッキはやはりきつい。「要改善だ」とナタリアに告げれば、バンビも難しい顔で頷く。

「砲撃諸元(データ)なぞ作る必要はない。あるさ。既に! 固定砲台用だけじゃない。走行中も当てられる準備は出来てるんだ! 『21式』が真っ先に、敵に向かって打って出るんだ」
 そして、対する親方の反論の不自然さ……。

●
 『21式』を曳く馬が不安げに嘶いた。
「親方。それ(データ)はどこで手に入れた? この場所を選んだ理由に関係してるんだな? この場所か? クリーパーの包囲と死人の襲撃の中、投石を続けて全滅した部隊の配置は……」
 馬を無理やり塔へ向かせようとする親方を問いつめ、『21式』の構造解析担当のサイラスが、手綱を親方から取りあげる。不満げな声に「御者が居なければ走れんよ?」とくぎを刺す。
 全く! 『21式』の構造の欠点から、制空権(オウム戦術)に繋がる何かをひらめく寸前だったものを!
「孫がなすすべもなく死んだ。これが隠蔽された克明な資料だ。俺が使ってやらなくて誰が使う!」
 軍と冒険者ギルドの従軍記録、ではないのだろう。親方の振り回すその書類は。

「撃ちたがる理由はそれなのか」
 勢いで散った数枚の書類を拾い、ナハティガル=ラーが残りも閲覧したいと、興奮状態の親方に促す。
「…ほう。『21式』はなかなか凄い代物だと思えば、これ(書類)で納得がいった」
 『蜘蛛』用にと砲撃諸元(データ)を有難く抜粋し、『蜘蛛』の展開を済ませたドワーフ集団と担当の冒険者達(ナタリア、ケン、バンビ、ロイ)に渡す。
 肯定意見とみたのだろう。少し落ち着いた親方に、「無駄撃ちが減った」と一礼をして、ナハティガルはサイラスに合図をして『21式』の馬を撤退方向へ向けて言う。
「『蜘蛛』撤退を並走支援する芸当は『21式』にしか出来ない。合理的な設計と運用の差を視認できるだろう?」
 魅力的な提案は説得を超える。
「よし、馬も落ち着いたな」
 サイラスが馬の鼻面を撫で、塔と投石機に挟まれては馬が怯える、と意見を後押しして漸く、親方は『21式』の砲撃手配置につく。
 ――ひらり。
 書類がまた数枚舞って地に落ちた。
「夢を見ることは否定しない。だが――夢を見るにも作法はあるだろう」
 拾った親方の書類を比べ診て、シハーブはため息をつく。ロイとナタリア(『蜘蛛』組)から回ってきた資料と、ケンと自身の観測付きのバンビの所見と併せ見ての独り言。
(途中までの基礎研究がなぜ捨てられて、地に足のつかぬ開発に舵を切ったのか)
 詳しい構造学と力学はバンビに譲るが……と、中間点となる素材研究と開発を想う。親方が完成を急ぎ安全な試験運用を重ねず、ぶっつけ本番で塔の攻撃に向かう理由。
 シハーブの思考に『蜘蛛』の砲撃音が重なる。
「砲撃から凡そ10分で敵反撃が到達。これの根拠が軍とギルドの報告書以外にあったとは。だがこの欺瞞に満ちた書類は……」
 書類を懐にしまい、『21式』と『蜘蛛』双方の護衛位置についてシハーブは呟く。
(情報に踊り復讐に憑かれて現実から乖離する夢は、むしろ悪夢だ。帝国崩壊が内部誘導だなど。わざと兵を見捨てたなど。ヴィント攻略前に塔を攻め落とし、皇子の売国の証拠を掴むべしなど……欺瞞資料に誘導された悪夢だ)

●
「砲撃開始より5分経過。運用時間限界です」
 ナタリアがドワーフ師匠たちに撤収予告。
 提供の砲撃諸元(データ)の成果か。塔上方部分は既に半壊、大型弩砲(バリスタ)は反撃なく屋上から滑落して果てた。
「ルプス(狼)が兵隊蟻の出城を確認した。砲撃位置は把握されているだろう。……ルプスは即離脱、ダメージを貰うな!」
 塔出入口の影を視認して、ロイとナタリアは役割を砲撃補助から『蜘蛛』撤収中の防衛に切り替える。
「『蜘蛛』の波動は組立式運用に近い。が、想像より撤収の必要練度要求は高い」
 X字型脚部構造とジャッキの為かと、バンビは忙しく考察を重ねる。ボツ原因のひとつだろう。
 ケンが退避させていたビヒモーを台車牽引部に繋ぐ。
「俺も速攻で敵殲滅にかかるが、牽引部分の接続も要改良だ。……だから『21式(あっち)』は馬車直結なのだろうが、安定性とのバーターにもなっていまいよ」
「防衛戦突破時点で光縛封展開します。長くは保ちません。現地到達前の殲滅、悪くとも敵半減を」
 ナタリアの防衛要綱の宣言は『21式』への支援射撃要請でもある。
 支援射撃――。そう、当初の親方の計画通りの吶喊などさせるつもりは無い!

 投石機の長大なアームが風を切る。
 馬は軋んだ馬車に怯え、馬具の締め付けに悲鳴を上げる。
「入口を潰してやったぞ、吸血鬼。出てきても砲撃諸元(データ)と移動砲台である『21式』で、貴様らの射程外(アウトレンジ)から攻撃可能だ!」
 はははっ!
 揺らぐ馬車上で砲撃手の親方は笑う。
 着弾地点の土煙が治まれば、そこに揺らぐは4つの影。
「石礫を盾で防いだか。軽傷でも友軍退避の時間稼ぎは上出来。兵士の生存率も……親方っ!」
 次の『21式』の砲撃は散弾か石塊か? 耐久性と戦術的要素から次弾で打ち止めと算段していた装填担当のナハティガルが、口調を荒げて親方に掴みかかる。
「親方! やるべきは退避支援だ! クッ……馬が」
「攻撃が最大の支援だ。そのための『21式』だ。さあっ奔れ!」
 しかし、吶喊を思いとどまったはずの親方は強引に――。

 怯える馬に鞭打ち、手綱をサイラスから奪い、親方は塔方向に馬車を仕向けて旋回する。
「次弾装填、撃て! あの先頭の蟻が仇の手先だ!」
 親方の睨む先には、帝国軍の武装を奪った兵隊蟻のリーダー。
 馬車の制動に必死なサイラスを尻目に、不安定な馬車の上でナハティガル(砲撃助手)から投石機制御を奪いかけ……

「飛び降りろ。出来ない奴は馬車本体にしがみつけ!」
 投石機の振り子と無理な旋回でトップヘビーの馬車が大きく揺らぐ。馬が泡を吹き浮いた蹄が空を切る。
 シハーブがよろけたドワーフ達(砲撃助手)を抱え、擱座途中の『21式』の馬車上から飛び降りて退避確保と叫ぶ。『21式』の制御は、不格好に接続された連結を砕き、投石機部分倒壊が全体へ及ぶのを防ぐのがやっとだった。
(危機の時に時の進みが遅く感じるのは、脳が古い記憶と得た叡智を活性化させているから、らしい……)
 シハーブの目に映る光景――。
 御者席のサイラスから竜花琴(強弓)が無数の光破片(炸光矢)に輝きひしゃげたアームを吹き飛ばす。
 ナハティガルは転ぶ親方を抱きかかえ馬車上から脱出、着地と同時にダマスカス鋼の剣が錘(バスケット)の重石を薙ぎ払う。
 捻じれた材木が宙を舞い落ち、石礫が低木を撃ち抜いて、漸く。シハーブは『21式』運用員の無事と、一連の顛末がほんの数秒の出来事だと実感した。

●
「この阿呆が! この大馬鹿者が!」
 抗議の声を上げる親方を殴るドワーフがひとり、またひとり。
(冒険者が殴らなくてもいいように、酷い言葉を言わずにすむように)
(親方の人生をともに背負うのは自分たちだから、と)
 全員が気付いている。おそらく殴られている親方ですらも。

「『21式』と『蜘蛛』。どちらも固定砲台を移動する利点を追及していた。優劣でも成否でもなく、それは時代に対して早いか遅いかの違いでしかない。先見性は本物だ」
 倒壊した『21式』に残る傷を調べていたバンビが、ここ、ここも……と破断箇所(波動の歪み)に指をさす。
「しかし。問題解消に技術革新でも起きない限り『21式』は完成しない。そして技術革新は地道な現行技術の積み重ねでしか生まれはしない」
 親方自身のスケッチの山の中から、素材加工への言及部分を抜き出し示す。認識はしていたのだ、親方も。

「なるほど。材料工学の点でも強靭さと軽量を併せ持つ素材に心当たりが無く、牽引する馬は優れた血を交配し続けても安定に欠ける」
 どうどう……と漸く落ち着きを取り戻した馬の鼻面を撫で、人馬の治療完了を告げながらナタリアは筆記していた資料をスケッチに重ねる。
「堅実な支援兵器ではなく、耐久を捨てた捨て身の設計に切り替えたのはそれが理由ですか? 己が執念の産物を己の手で完成させ、己自身で運用し殉じねばならぬと」
 理解してはもらえぬと、自嘲する親方にナタリアは続ける。
「親方を見限るには惜しい、と、駆け付けた仲間に託せなかったのですか?」

「厳しいことを言う」
 ケンがどさり、と兵隊蟻の死骸を親方の前に積み上げた。
 実際の戦場であれば4匹以上の数が相手だ。擱座する兵器など無能な味方以下だ。
「投石機の要は安定性だ。安定するからこそ弾道は定まり、砲撃手は攻撃に専念できる。それが移動しながらではどうだ? 不安定な土台に変更される諸元。砲撃手が集中できたとしても命中精度を維持できるわけがない」
 提供元があってもだ、と親方の書類を嗤う。
「次に耐久。初回の投石の衝撃にすら耐えるがやっと。安全性の確保、という観点は無いのか? なるほど敵の射程からは外れるだろう。さきほど実演した自壊によってだ」
 あえてケンが一息おく。怒気を含んだ息を鎮める。
「使用者の命をかける特攻兵器そのものだ。他人の命を軽視した兵器開発の原因になってしまったら、あんたの息子も孫も浮かばれないよ」
 転じた口調の豪快さにやさしさが混ざっていた。

 研究資料分を除く『21式』の破壊を済ませたナハティガルが、資料を梱包しながら破壊許可を貰えた礼を言う。
「鹵獲の危険があったからな、親方には悪いが協力感謝だ」
 『21式』を組み込んだ撤退作戦は番狂わせに終わったが、砲撃助手の観点で得た事がある。
「親方。アンタの運用思想自体は悪くないと思う。『砲撃位置を捕捉される前に移動が出来れば良い』事は運用試験で『蜘蛛』が証明できた。展開と撤収も支援があればより、運用する兵士は安全になるだろう」
 あれは師匠の作だと首を横に振る親方に、設計図を見せ「親方の設計だ」と示す。
「死を無駄にしない事なら親方は出来るはずだ」

「辛い目標でしたね」
 それに……、とロイが続ける。
「気付いていたのでしょう? 投石機の『移動性』と『走行性』の違いには。支援もない固定砲台で、押し寄せる敵に飲まれながら投石を続ける状況を変えたい、その思いで」
 親方を歪めた書類に拳を握りしめる。
「貴方の技術を別の形で生かして貰えれば結果、多くの息子と呼ばれる者の命が助かる。例えば『蜘蛛』の課題を解消し『21式』を撤収支援に切り替えて」
 ボツ案である弩砲(バリスタ)戦車設計図に、左右に張り出す補助輪(アウトリガー)のスケッチを描き足す。

 これも。これもだ。
 様子を見守っていたシハーブが、ロイに続けてボツ案スケッチを重ね、続けて師匠らの返信書簡も加えてゆく。
「この一枚一枚が基礎研究という羽毛だ。空を飛びたいと形だけの翼を背に着けて崖から跳んでも堕ちて死ぬだけだ。真実の翼のため理論を積み重ねろ。研究を怠るな。小さな変化をおざなりにしなければ、身近で些細なことで死人は減る」
 シハーブは、俺にも見果てぬ夢がある。リザードマンが自分の世代で叶わない夢を見るのだ、と呟く。
「親方がやりたいことは世代を超えていずれ叶う」

「おれは自分の世代で夢は叶えたい(竜になりたい)。だから随時、自己研鑽し今も色々考えているよ」
 サイラスは設計図の山を覗き込み、『21式』の残骸と並ぶ『蜘蛛』を覗き込み、親方を覗き込む。
「『21式』の運用は厳しい。素材問題が解消しても煩雑過ぎる。特攻爆弾運用? それは兵器カテゴリが違う。では!? 移動式と固定式の半端な合体より、投石機は固定か半固定式で簡略化と強化に徹し、支援し補完し相乗効果を生む兵器複数との攻城打撃群を編成するのはどうか? 例えば起爆式の破城槌、自動装填式大型弩、それを載せる装甲馬車……」
 矢継ぎ早に繰り出して、親方の毒気を抜く。
「つまり……親方も研究に忙しくなるということだ」

●
 後日、冒険者たちによる運用データ。親方の設計図と師匠との書簡。そして親方を苦しめた虚偽の書類がギルドに提出された。
 最初は気乗りしなげだった受付嬢が一転、一連の報告を上にあげたのは、また別の話となる。

マスターコメント

 リプレイが遅れまして申し訳ございません。  事前情報の通り、今のロスガリア大陸の戦術を劇的に改革するには、より現実的な開発プランでも間に合いません。しかし、妄執に囚われテロ集団に狙われたひとりの技術者、家族を亡くしたひとりの男を救うことはできました。  親方はレイウェストに招聘されたドワーフ達とともに、今後は基礎研究ならびに兵器の安全性に生涯を投じていくはずです。これも、皆様の意見と説得がすべて建設的であった成果です。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:多い7 / 4〜8人

2021年06月20日 17時37分12秒 公開

成功

相談掲示板

  1. No.1

    サイラスだ、よろしくなー さて成立したけどどうしよっか? あんまり相談すること無いよなぁと。 ぶっちゃけ今の人数なら用心護衛必須だから最悪装置捨てる?とか破壊する?とか? 取られて使われても邪魔になるし。 ぶっちゃけ説得の方はそれぞれの考えとタイミングだろうからあんまりねぇ。 とりあえず御者と砲撃手誰がやるのかとか?説得は砲撃手が一番近そうだけど撃つ時は余計なこと話すなとか言われそう

  2. シハーブ

    ヒーラーのシハーブだ。よろしく頼むぜ。 試験運用はドワーフでやってくれるみたいだし 最低限としては護衛の手筈だけ整えたら良さそうだな。 説得は誰が何をいつ言うかの擦り合わせぐらいは必要そうだな。 試験に参加した上での発言か、護衛としての発言か。 あるいは同じ物作りをする者として発言するのか。あるいは軍人、あるいは工兵。 傍観する第三者でもいいが、同じことを何度も言われては意固地になる場合もある。 この手合いには正論だけの言葉も毒だろう。 優しさは必須でないにせよ、言葉のかけ方には気を使いたいところだな。

  3. ナハティガル=ラー

    シーフのナハティガル=ラーだ。今回は宜しく頼む。 >担当 取り敢えず、俺は『21式』の砲撃助手に手を挙げておこうか。 兵隊蟻が遣って来た時は護衛に専念しよう。 >装置破壊 『蜘蛛』の方は兎も角、『21式』は1~2発で擱座だからな…。 敵に鹵獲されて魔改造される可能性が無いとは言えない為、 擱座して動かなくなった時はその場で破壊する事も視野に入れた方が良いかもしれないな。

  4. No.4

    騎乗持ちだから御者しようか? それならとりあえず話し合いは終わった以降のタイミングでもらおうかなと 運搬→稼働→撤収の間位置調整とかもあるしね。発言内容は物作り関係か第三者で。

  5. バンビ

    夢しかない攻城兵器ですが、親方が夢想した通りに運用してみたいですわ。 「21式」の担当者がすでにいらっしゃるようなので、俺は「蜘蛛」を担当しますわね。

  6. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。 身も蓋も無い話をすれば、有用性の有無がはっきりすれば失敗しようが問題ないといえばそうなるのだろう。 願わくばこの手の浪漫は成就したい所だが、失敗したなら失敗したで、口で言っても分からないのであれば彼らの目だとか五感を以って、全力で頑張ってみたけどダメだったというほうが少しは納得出来て頭も冷えるといえよう。 私にとっては、成功すればガッツポーズものだが( 惜しむらくは弾道学的なスキルが無い事か。 ならば私も蜘蛛を担当しよう。光縛封とか祈雷で蜘蛛の組み立ての時間を稼いでみようか。

  7. No.7

    およ?同時に実験すんのん? いや人数増えたしそもドワーフ借りればいけるだろけど。 まあほぼ同時にやるならとりあえず21式の方の御者するけども。時間かかる方に回ってフォローしと感と

  8. シハーブ

    うっかり失敗を成功体験と誤認したら話がややこしくなりそうだが。 俺はどっちを動かすにせよ護衛に回ろう。 製造の技術には興味はあるが、運用はちょっとな。

  9. ロイ・アウレア

    シューターのロイ・アウレアです。よろしくお願いします。 運用は工房の皆様にお任せし、心行くまで打って貰おうと思う(イッパツで擱座) 人手の少ない側の設置と解体・引き上げの手伝いをし、後は親方のケア…かな? 具体的な内容が浮かんでないので、出発まで悩みます。

  10. ケン・Z・ブラッドリー

    ウォーリアーのケンだ まぁロマンを求めるのは男の性だけどそれの固執して周りが見えなくなっちゃいかんだろう 特に今回の代物は多くの人がかかわってくるようなものだからな とりあえず人員的にも同時試験は厳しいんじゃないか? それにしっかり比較したいなら別々に見たほうがいいと思う あぁ・・・でも、一応敵が出てくること考えると同時にやらないと危険性が出てくるのか? そこは俺らが敵を排除すればいいのか もし順番にやるんだったら蜘蛛型→21型ってやれば兵隊蟻が到達する前に蜘蛛型の撤収ができた上で、敵が迫る中21型の試射を行えば開発者がいうように「砲撃手が安全」という主張があってるか確認できると思うんだが・・・・・ んー俺はいざというときに兵隊蟻を迎え撃つほうで動くよ

  11. ロイ・アウレア

    運用は工房の皆様にお任せすると話しましたが 使い方を教えてくれるようなので、手の足りない方の手伝いさせて頂きます。 同時試験は流れに合せる事にしました まぁ…結果を見せる方が親方を説得は出来るとは思ってます。 ……ただ話せば話すほど明後日を向いてる気が; 撃ち終わった後は兵隊蟻の足止め・殲滅に加わりますね。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0