【帝国】あの日の土を踏んで

棟方ろか

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シナリオID:962

オープニング

「急ぎヴィント周辺へ戦闘斥候隊を派遣する運びになったぞ」
 ギルドの青年は、種々の想いで集った冒険者たちへ、そう話し出す。
「何もヴィントへ突入しろってわけじゃあない。ヴィント周辺で、クリーパーを調べてきてほしい」
 ヴィント、クリーパー。これらの響きに、冒険者たちも思い思いの表情を浮かべる。
 クリーパーによるヴィント近郊の蹂躙は、今なお続いていた。まるで最初からヴィントがかれらの縄張りであったかのように。帝国崩壊時から手入れされていない土地は荒れ、空気は淀み――否、ある種、ヒトのいなくなった都市部は不気味なほど澄んでいるとも言える。
 春を迎え、暖まった空気が押し寄せるであろうこの時期、人々にとって、特に帝国人にとっては、南部地方も凍えるぐらいの寒さを感じずにいられないだろう。いざ目の当たりにすれば自ずと知るはずだ。跳梁跋扈するクリーパーの園がいかに冷たく、死に近い処なのか。
 だからこそ、クリーパーを調べてくるという今回の依頼は重要だ。
「情報が勝敗を決する要素なのは、想像つくだろ? 欲しいのはクリーパーの戦闘情報だよ」
「で、敵(クリーパー)の詳細は?」
 冒険者から放たれた問いに、青年は咳ばらいをひとつ。そして。
「不気味な話をしていいか?」
「どうぞ」
 軽く促した冒険者へ、青年は眉根を寄せて話し出した。
「ヴィントの周りにいる奴ら、同士討ちらしい行動が殆ど見られないんだと」
 帝国軍の斥候による報告だが、冒険者がよく顔を合わせるクリーパーとは妙な部分が違っているようだ。だが、同士討ちらしい行いが見受けられなかったからこそ、かれらの『戦い方』が全く読めない。斥候部隊も頭を悩ませていた点らしい。
 しかも青年は、それだけじゃあない、と肩を竦めて。
「仲間を呼んだような雰囲気があったそうだ。急ぎ撤退したから、詳細は掴めてない」
 何をきっかけに呼集したのか、わからない。どう呼びかけたのかも、わからない。気付いた時には、隊員の視界外にいたクリーパーが数体、部隊が観察対象としたクリーパーの元へ距離を縮めてきていたそう。万が一、合図や伝令と思しき仕種などがあるなら、早いうちに判明させておきたい。そのためには、かれらに『気付かれる』または『怪しまれる』必要があるわけで、つまり。
 思わぬ数の仲間が集結する可能性もある中、クリーパーを調べてこい、と青年は云うのだ。
「詳細は無いに等しいということか……」
「だからこそ冒険者にお声がかかったってわけさ」
 冒険者のひとりが息を吐けば、青年は声色を変えずに話を続ける。
「ここでヴィント周辺のクリーパーについてガッツリ解(わか)りゃ、次以降が楽になる」
 次以降――。
 帝国が陥落してから、時間が経った。経ちすぎた。
 あの日を生き延びた人の多くは、過ぎ去りし日常を痛感しながら過ごし、また刻一刻と迫る脅威に怯えて暮らしている。身を寄せ合う帝国難民キャンプの民にも、祖国奪還に燃える者もあれば、戦いやクリーパーへの恐怖が拭えぬ者まで様々だ。
 そうした様々な人が確かな未来へ向かうために、『次』へ繋げる情報が肝要となる。
「……無茶言ってるのは分かってるよ。でも、なんとかここで頑張ってほしい」
 ヴィントから逃げおおせた民は、大勢いただろう。しかし街の外で命を奪われた者も、たくさんいたはず。
 あのとき夥しい量の血と悲鳴を吸った土も、今は色や臭いが流され、消えてしまっているかもしれない。あるいは、まだ流れずに残っているかもしれない。いずれにせよ惨劇(あのひ)の残滓が濃い地域での仕事だ。油断は命取りになると、ギルドの青年は念を押して。
「一番の問題は、引き際を見誤らないことだと思う……ってのは冒険者には要らない心配か?」
 青年は口端をどうにか持ち上げて、気をつけてな、と冒険者たちを笑顔で見送った。

解説

●成功条件  ヴィント周辺に蔓延るクリーパーの情報収集 ●状況  大地が抉れた箇所、色褪せた倒木、一人ぐらいならなんとか隠れられる岩が点在。  また、散乱した荷車・荷物の殆どは半壊もしくは全壊しています。 ●敵 ・白クリーパー×??匹  小型。先端が針のようになった細長い尾が、複数ある。 ・赤クリーパー×??匹  小型。謎の液体が全身から垂れている。赤と茶より細身。 ・茶クリーパー×??匹  小型。土塊や石を寄せ集めたような、ゴツゴツした見た目。  それでは、ご武運を。

マスターより

 お世話になっております。棟方ろかです。  相談日数がやや短めですので、ご注意ください。  実際に戦い、クリーパーの情報を持ち帰って頂きたく存じます。  ご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。

リプレイ

 命の流れが堰(せ)き止められた世界を、アーシェル・G・クラインの二色の眼(まなこ)が映し出す。色を失った倒木、人の手を忘れた荷車の残骸。それらを認めたおかげで、今も閉ざされた地なのだと痛感してしまった。
(ここで何人、死んだんだろうな)
 眦がひくつき、吐いた息は異様に冷たい。この地で滞った嘆きが、耳に絶えなく流れ込んでくるかのようだ。
 そして陰が暗くかかった淀みで想い馳せるのは、彼だけではなかった。
「この先にヴィントが……」
 遠すぎた景色が、そこにある。
 一度考え出したら胸を掻きむしられる心地がして、トーラは思わず瞼を落とす。
「そして天霧りに消ゆる幽界樹が、いるんですね……」
 いつぞや願った佳景へ手が届きそうだ。過(よ)ぎる心はしかし彼女に別の情も齎(もたら)す。純粋に「見てみたかっただけ」でいられた時期が、遠い過去のように感じられた。レイウェストたち帝国の人々と触れ合う中でトーラに芽生え、トーラが涵養してきたものは、彼女自身が思うよりもずっと大きい。
 そんなトーラが走らせた力(エーテル)の波動は、帝国を崩壊させたかの生物を捉える。
「いよいよ、ですよね」
 こくりと喉が鳴ったトーラの近くで、目印を道へ刻んでいたリサ・ベイカーが頷く。
「参りましょうか。次へと繋げるために、無茶はせず全員で」
 無茶をしない範囲で頑張る。これは此度の冒険者たちが共通して抱く目標だ。
(みなさんベテランですし、きっと……!)
 大丈夫。予感は自信にはならなくとも、リサの焦点を確かなものにさせた。
 アーシェルは、次へ繋げるという彼女の言に静かに首肯する。
「ああ。……もう二度と、繰り返さない為にな」
 言いながら遠くから敵陣を望むも、無情なる軍勢(クリーパーら)の様子を詳らかには知れない。捕捉した姿をしかと数えつつ、アーシェルは耳を傾ける。
「いっそ光るか鳴いてくれれば判りやすいんだが」
 彼の口振りから発光や声には期待できないと、仲間たちも共有する。
 するとここで、ふうむと唸っていたシニング・W・テュパラが首を傾ぐ。
「仲間を呼ぶ群れなら、ボスがいんだろうけど……いや、いねえのか?」
 中心となっている個体を探すため、彼女は岩から様子を窺う。
「そうですね……少なくとも現状、擬態や錯覚を利用する素振りは、ないようです」
 視覚で温度を確かめていたヴィルヘルミナが、近くの荷車からそう発した。彼女は続けて、思念を送ろうと考える。だが巡回しているらしく行き来を繰り返す二体が、先に動いた。違和感を察したのか、かれらは蛇がそうするかのように頭を上げる。
 普段の敵(かれら)を知らぬとはいえ、奇妙な動きがあれば気づけるだろう。しかし別の岩から二体を覗き見ても、テュパラは特別なものを感じなかった。二体には指令を出す気配も、報告し合う素振りもない。ただ、じっと首を伸ばしただけ。
(何もしないって可能性があるな、これ)
 常日頃より交わすようなやりとりが、そもそも無いのかもしれない。
 テュパラが予感を覚える一方でトーラは、くんと鼻先を動かしていた。
(種が違うのに、共食いもしないなんて……)
 フェロモンや匂いでのコミュニケーション手段を疑っていたが、あるのは、かつての惨劇を連想させる朽ちた大地の匂いばかりで。
(なんか、嫌)
 こんなにも静かで穏やかそうな場所が、限りなく死に近い。
 現実を突きつけられたみたいだと、トーラは顔をしかめる。
 警戒の一歩手前なのか動かず去らずの巡回者らに、朽ちた馬車の陰からリサが石ころを転がしてみる。石や枝に反応するなら、陽動が叶いやすい。けれど二体は互いに音の源を確かめようともしなかった。確かめない代わりに、再びのしのしと歩き出す。
(あの二体、なかなか単独行動はしないみたいね……それなら)
 リサは群れと思しき影からやや離れているのを確かめ、ヴィルヘルミナたちへ首肯で機を伝えた。
 直後ヴィルヘルミナの瞳で、紫雲がたなびく。眼差しの向こう、未だ捉え切れぬ存在を追うように彼女は自身の輪郭を惜し気もなくさらけ出した。ここは生きる者は冒険者とクリーパーのみが立つ、惨たらしい残滓が鏤められた場所。だから彼女は過去を見ず、ただクリーパーだけを見つめる。
 現れた姿に白い方がぴたりと止まる。慌てた振りをしてヴィルヘルミナが岩の後ろへ回るも、純白な尾を振り翳(かざ)した相手は追走してこない。冷たい岩肌へ寄り添い、ヴィルヘルミナは得物を構えた。
(これは……)
 咆哮はない。威嚇もしない。ただ留まって複数の尾を拡げた怪物(クリーパー)の一挙一動を、彼女は記憶に刻んだ。
 ――果たして、兆候はそこにあったのだろうか。
 来る、とアーシェルの長い睫毛が震えた。
 緊迫の糸が張り巡らされる中、リサのジャマーが戦場のあらゆる精神を乱す。感応速度に支障が出れば挙動も変わろう。だが白の尾は相も変わらず拡げられたまま、傍の赤い個体が真っ先にヴィルヘルミナを目指した。
 音もなく枯れた大地を蹴って、テュパラが二振りの短剣を抜き放つ。ハイディングにより急に距離を縮められれば、敵も隙を生む。そう考えての赤への接近。テュパラの総身を包(くる)んだエーテルは、認識を歪ませてくれるもの――だが。
「は!?」
 思わず声が出た。テュパラの三連斬でクリーパーから血が花びらのように飛び散る。同時に、後ずさろうとした赤い敵から撥ねた液体が、少女の腕を焼く。体液が触れたところに焼け付く激痛が走る。痛みに苛まれながらも、まるで接近に気付いたかのような動きだったと、テュパラは一瞬で理解した。エーテルそのものに反応したのか、あるいは敵の看破が勝ったか。
 いずれにせよこの辺りのクリーパーは、侵入者の発見に特化しているのかもしれない。
 滴る液体も攻撃手段だと予測していたリサが、すかさず祭刀を掲げテュパラの治療に入った。
「これが、未知のクリーパー……」
 野の美を映すはずのリサの双眸が、知られざる脅威に揺れる。

●
 あの日の地を踏んで、冒険者たちは戦う。
 戦いは、敵を知ることが肝要。それを念頭にヴィルヘルミナが映すのは、今。
 彼女は裂帛の気を乗せた一撃で鋭く、悪しき白を制す。銀の煌めきに次いで、クリーパーの傷口から血か体液かも分からぬものが噴き出した。だが一撃で屠れはせず、ヴィルヘルミナが呼吸のリズムに合わせて体勢を整える間に、手負いの相手が向かってくる。
「小型クリーパーながら、厄介ですね」
 ヴィルヘルミナの呟きに、戦力を懸念していたトーラも口を開く。
「あれだと、一般兵は複数であたらないと対処が難しそうで……!」
 混戦状態でも多くの兵が生き延びるには、やはり敵の強さを知っておくのが大事だ。だからこそトーラは目もあやな赤髪を踊らせて、光弾をお見舞いした。閃光が世を照らす間も、派手さの無かった巡回クリーパーの白い尾が揺れる。獲物に飛びつく前の猫を思わせる仕種だ。
 騒ぎに気付いたのか、そこへクリーパー数体が集い始めた。
 リサは澱んだ空気にひりついた喉をどうにか開く。
「っ、アーシェルさん!」
「任せろ」
 彼女の呼び声だけで肯ったアーシェルが前方へ踊り出て、群れを一手に引き受ける。
 硬い装甲を凶器に隆々とした土色の身(クリーパー)が突撃してきても、アーシェルは避けない。リサの元へ届かせまいと足裏へ力を込め、骨が軋もうとも耐える。そんな彼に敵一行は容赦なく、留まるところを知らず体を押し付けた。守りの盾と化した彼の身を、破砕するかのように。
「くっ、の……!」
 けれどアーシェルは突進を受け切った。勇を鼓して土塊を阻んでいると、視界の脇から白の尾と赤の体液が飛び込んでくる。前線で耐えたアーシェルの姿は、クリーパーたちから見ても目立ったのだろう。
 だから彼は痛手を負おうと俯かずに、唇へ意を刷く。
「ああそうだ来やがれ! てめぇらには俺の刃の他は何ひとつくれてやらねぇ」
 怖かっただろう亡者のために。無念だったはずの死者のために。生きたかったであろう、かれらのために。
 そんなアーシェルへリサが転化した生命力を招き、防陣を確かなものにする。
「白から集中撃破!」
 端的な指示をリサが飛ばし、承知の声を重ねてテュパラがフードを目深に被り直す。
(一体ずつ倒したいとこでも、贅沢は言えねぇな。なら……)
 戦闘斥候隊(じぶんたち)の人数で成せることには、限りがあった。
 だからテュパラは口端でニッと笑い、余喘を保つ敵へと跳ぶ。
「惜しみ無くぶっぱなすぜ!」
 混じり気なき三連襲牙(トリプルファング)で、多くの命を吸ったであろう土塊をテュパラが破壊した。ばらばらと砕けた個体とは別の方角で、同じ土塊のクリーパーがぶるりと震えた。
「茶色、何か来るわ!」
 兆しを逃さずリサが叫ぶ。しかし言の葉が行き渡るよりも一瞬早く、泥とも土とも判断つかぬ濁った塊がテュパラを襲う。一見柔らかそうだが勢いは凄まじく、防いだものの飛散した破片を礫の如く浴びて。
「思ったんだけどよ」
 汚れを払い落としながらテュパラは茶クリーパーを睨む。
「群れじゃなくて全体で一つの個体とかだったら、ボスはいねぇよな。厄介だぜ」
 司令塔が存在しているのか否か、冒険者たちはまだ確定できていない。要素だけなら覚えていても。

●
 銀月が、舞う。
 優美な弧を描いたそれは、凄まじい勢いでヴィルヘルミナが振り下ろし、大地を震撼させる。頑強な刃で圧し斬られた白が割れる。目とも鼻とも言い切れぬ頭部の球体を突き出していた、白のクリーパーが。
 そこへ駆けつけた増援は、明らかに赤の元へ向かっていた。
 ヴィルヘルミナは瞠目する。白が合図を送る存在なのかと思ったが、これは。
(特定の種がとる行動、というわけでは……ないのかもしれませんね)
 彼女が考えを巡らす一方、幾つもの攻撃を受けてきたアーシェルが、振るったばかりの剣を握り直す。痺れるほどの手応えが刀身から柄へ伝い、彼の腕をも占拠していく。だからわかった――こいつらには、物理もしっかり効くのだと。知り得た感覚が彼をますます奮い立たせる。通用するなら、やるべきことはひとつだ。
 尚もアーシェルが群れを押し返す隙に、常に声を張り上げ指示を送っていたリサめがけ、群れの後ろから赤き影が翔ける。
「なっ……」
 吐き出したばかりのアーシェルの呼気が消えるよりも速く、赤が体当たりし――リサの円盾を叩いた。咄嗟に構えた盾は衝撃で弾かれ、防御に徹しようと力んだリサがその拍子にたたらを踏む。赤クリーパーの飛沫からは免れなかったものの、リサは確信した。
 かれらは連携できるし、共闘もすると。ただ。
(連携にしては、ぎこちない気がするなぁ)
 言うなれば稚拙。
 そう眼を細めていたリサ同様、アーシェルも怪訝しげにクリーパーを見据えて。
(回復役だから狙った雰囲気じゃなかった。……声に反応したのか?)
 指示を担う彼女(リサ)の声が気を惹いた可能性は高いと、アーシェルは思惟する。他の地域はともかくここのクリーパーは、治療手を優先する程の知性からは遠そうだ。
 同じころ傍ではトーラが、クリーパーの放った土と石の雨に晒されつつ、足裏へ熱と意欲を集中させて踏ん張っていた。防御力が高い茶色の個体は、赤が特攻するというのに援護もせずトーラに夢中なままだ。
(それにしても……敵が多いっ!)
 続々と駆けつけた応援は、彼女の輝く隕石(メテオライト)で乱れる。散開しながらも冒険者へ牙を剥く様は削がれず、かれらは怒涛の勢いで迫った。
「なんでしょう、不思議ですね」
 一体ずつ捌いていたヴィルヘルミナの眼差しが、微かに細まる。硬い前衛(茶クリーパー)が役目を全うするわけでもなく、後衛と思しき赤は特攻。かれらの築いた流れは、お世辞にも見事な連携とは言えない。
「連携を含め、戦術面においてはレベルが低いのですね。きっと」
「なるほどな」
 ヴィルヘルミナの所感にテュパラも納得した、そのとき。
 五感を総動員していたテュパラが眉根を寄せる。
「回り込まれるぞ!」
 獣が獲物を追い込むように、クリーパーが右へ左へ途切れなく疾駆した。
(って、回り込むにしてもバラついてて隙間だらけじゃねぇか!)
 噛んだ苦みを飲みこむ前に、テュパラが跳ねる。連携はするが統率は取れていないとみて、遠慮なく攻め立てる。
 ぞろぞろと湧いた増援があまりに拙い布陣を敷くものだから、アーシェルもまた呆れを含む溜息をついた。
(部隊ごとに動く知恵はなさそうだ。とはいえ今は……)
 彼の思考にヴィルヘルミナが続く。
「ここで粘るのは……よろしくありませんね」
 彼女と同じくリサは状況を察するや、眉に迫る敵意を祭刀で遮り、ありったけの声を振り絞る。
「総員撤収! 帰還します!」
 朧げな影が瞬く間に増え、粗野な足音が次第に大きくなっていった。
 四囲を支配される前にヴィルヘルミナが瞬間加速(チャージング)で場を脱し、敵を逸早く薙いでアーシェルが渇いた喉を開く。
「突破するぜ、遅れるなよ!」
 言葉を発しながら傾けた大剣の上を、煌めきが滑る。ブゥンと風が重たく斬られれば、血路も開いた。
「わたしが時間を稼ぎますのでっ」
 短杖を掲げたトーラが喚んだのは、タイダルストリーム。
「その間に走って下さい!」
 彼女の声すら掻き消す轟音が、波打つ光と共に直線を描いて迸った。衝撃波に呑まれた敵は多かったが、足並み揃わぬ群れゆえ、逃れたものも少なくない。そこへ降り注いだ土塊と真っ赤な水が、トーラの両足を痛め付けた。
「おい!」
 トーラの耳朶を打ったのは、少女(テュパラ)の声。溌剌とした響きはトーラの意識を掴み、引き上げる。最初だけ目線こそ定まらなかったもののトーラはすぐに、ありがとう、と笑ってみせた。
「大丈夫、ちゃんと走れますから」
 明瞭なトーラの声をテュパラが聞いた瞬間、咆哮もなしに二人へ飛び掛からんとした敵の影があり。
「上等だぜ、穢れた影(クリーパー)ども」
 引き返してきたアーシェルが、影ごとクリーパーを斬り捨てる。ぽっかりあいた空虚な胸を埋めるかのように、己と振り回した武器とで重くした一撃により断ち切られ、敵は喘ぐ間もなく絶命した。すると。
「……なんだ、この奇妙なのは」
 朽ちた命から、果実とも木の実とも言い難い形状の『何か』がちらりと覗く。
「さっき倒したクリーパーにも、あった気が……」
 トーラが連ねたところへテュパラが「引き上げようぜ」と呼び掛け、三人は退路を確保したリサとヴィルヘルミナを追う。
 誰も残してはいかない。無茶はしない。
 はじめに交わした冒険者たちの意志が、足を動かしていた。だから余力の続く限り彼らは走る。
 また次にこの地を踏む、その日のために。

マスターコメント

お疲れ様でした! 皆様により得られた情報は、これからの帝国南部奪還へ向けて頼もしいものとなりましょう。 ご参加いただき、誠にありがとうございました。 またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準5 / 4〜5人

2021年06月09日 06時58分29秒 公開

成功

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。 帝国奪還のために少しでも情報を集めましょう! とりあえず、クリーパーが共食いせず仲間を呼ぶというのが気になりますね。どこかに指揮をする個体がいたりするんでしょうか? それと、敵の数も不明ですし、撤退について条件とかを考えておいた方が良いでしょうか。

  2. アーシェル・G・クライン

    ウォーリアのアーシェルだ。 よろしく頼む。 おう、がっつり戦って有益な情報を持ち帰ろうぜ。 でかい親玉クリーパーから分裂してる奴等がたくさんいて、テレパシーや超音波みたいな特殊な交信手段を持ってるのかもしれねぇな。 体の何処かが光るとか、超聴覚がないと聴き取れねぇような小さい音を出してるとか、奴等を観察してみると何かわかる気がするぜ。 撤退はこちらの消耗度合いで決めるか? 包囲されて全滅は避けてぇから、敵の数で決めるのも有りだと思う。 どんな攻撃が有効そうか、反対にあまり効いてなかったり無効な攻撃はあるか。 特殊攻撃の有無とその効果。 どいつが手強いか。 調べたい事が山程あるな。

  3. リサ・ベイカー

    ヒーラーのリサ・ベイカーです。よろしくお願いします! 同士討ちしない、というのはいわゆる動物並の理性や知性がある可能性もあるのかな? ■調べる事 習性てきな特徴もですけど、 アーシェルさんの仰る有効な攻撃という意味で 物理、魔法のどちらが有効そうかは見てみたいですね。 撤退については、まず常に退路は意識しつつ。 消耗具合は、普段よりも余裕のあるうちに撤退したいですね。

  4. ヴィルヘルミナ

    ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いしますね。 どれだけの連携をしてくるのかも見ておきたいですね。虫くらいか、動物くらいか、それとも人くらいか。 クリーパーも個体によって特色が違うでしょうし、どのような能力を持っていてどんな戦法を行ってくるのか行動パターンもつかんでおけば色々楽そうです。 命令の伝達方法は分かっていませんのでいろいろ試せるなら試した方がいいかもしれませんね。 大元がいるとすれば、その命令を伝達する指揮個体を中継点にして多数を…とか推測だけなら考える事はできますが。 撤退はどうしましょうか、撤退ラインをきっちり決めるか。ある程度ざっくりと決めるか。 敵の増援のペースにもよりますしね。ゆるければギリギリまで戦えそうですが、ゾロゾロ出てくると圧殺される前に退きたい所ですし。

  5. トーラ

    親というと天霧りに消ゆる幽界樹でしょうか。 テレパシーや超音波で意思疎通をしているなら、ジャマーやサウンドボムでそれを途切れさせれるかも? 撤退条件は情報を多く持ち帰りたいですけど、無理をして帰れなくなるわけにもいけないから悩ましいですね…。 3色のクリーパーどれだけ情報を集めたら撤退する…というのもありかもです。

  6. シニング・W・テュパラ

    アタシはシーフのテュパラだ。よろしくな? 撤退基準は情報より損害状況に合わせた方が良いだろ 全然わかんなくても情報持ち帰ったの方が大事だからな 連携に関しては司令塔がいるか、役割が決まっているか、かなぁ 仲間を呼んでるらしいし声でも発してんのかな、もしくはテレパス? まぁ、何らかの形でつながってんだろうけどな 動物でも同士討ちしないってのはずっと強い何かがいればそいつに従うだろうからな やっぱりボスがいんのかな

  7. トーラ

    確かに情報集めにこだわりすぎて帰れなくなるのはまずいですね。 消耗となるとスキルが残り3~4割くらいでしょうか? とりあえず、今回はキャスターの人がいないので杖を持って魔法攻撃スキルを用意していこうと思います。 魔法攻撃がリサさんの物理攻撃に近くなったので、同じ相手を攻撃すればどちらが有効かも分かりやすいですし。 あとはヒールと疾風足、捜波など索敵や保険になるスキルを持っていきますね。

  8. リサ・ベイカー

    そうですね、消耗としては、トーラさんの仰る スキル3割 あとは、同時に相手する敵の数が3体を超えて増えるなら 撤退というか一度逃げて仕切り直す方が良いかなと。 具体的には、ウォーリア2人がそれぞれ1体づつ相手して、そこをシーフ2人が援護とかウォーリアと連携で倒す。 ヒーラーの私は回復支援で双方を見る。 が安全圏で、そこを超えてくると、敵の能力次第ですけど、 危険かなあと。 理想は、3種それぞれ、単独でいる所を奇襲で撃破出来れば良いのですけどね。 なんとなく、毒とか持ってそうな姿とか、 物理防御強そうとかあるので、その辺見極めたい気もします。 とはいえ、現場の状況次第では、どれか1種だけの情報とかになる可能性も考慮ですね。

  9. ヴィルヘルミナ

    こちらは近接戦が得意なクラスが多いので、少し被害が出やすいかもしれませんね。 戦闘時は必然的に敵との距離が近くなりますし。遠隔攻撃を行うクリーパーがいたら厄介そうです。 現場は大地が抉れた箇所、色褪せた倒木があるようですし足を取られないようにしたいものです。 一人ぐらいならなんとか隠れられる岩が点在との事なので、こちらもうまく使えればいいですが。 情報にあったクリーパーはみな小型なのですがヴィント周辺でこれですし、もっと内側には上位個体に中型とかもいてもおかしくはないのでしょうね。 今回はお目にかかる事はなさそうですけれども。

  10. アーシェル・G・クライン

    天霧りに消ゆる幽界樹か……。 人類に仇なすと言われてるやつだな。 >トーラ 攻撃手段を魔法攻撃にしてくれてありがとな。 これで物理と魔法のどちらが効きやすいかを試せる。 >交信の妨害 ジャマーやサウンドボムも有効そうだ。 クリーパーにテレパスに似た能力があるとしたら、こちらがテレパスで呼びかけたら動揺を誘えないだろうか。 >撤退条件 残りスキルが3割でだな、了解した。 リサの言うように相手にする敵が3体を超えたら一度撤退して仕切り直しにも賛成だ。 その時には殿を務めるし、範囲攻撃の薙ぎ払いで敵を牽制しとくな。 >交信手段 色々と仮説を立てて、奴等を注意深く観察すれば何かしらの情報が得られそうだな。 >戦い方 ウォーリアとシーフがペアになって連携。 リサは後方から回復と戦況の見極めをする。 ……で合ってるか? ヴィルヘルミナが言うように岩に身を隠して様子を窺ったり、奇襲を仕掛けるのも良い案だと思う。 クリーパーが視覚以外(温度や匂い等)でこちらを察知する能力があるかもわかりそうだしな。 >スキル 敵の接近の察知に『超視覚』と『超聴覚』 範囲攻撃の『薙ぎ払い』 単体攻撃の『強打』 行動阻害を狙える『破脚砕』 遠距離攻撃の『衝撃刃』 防御系の『グロリアスアーマー』 を持ってく予定だ。

  11. リサ・ベイカー

    〉戦い方 そうですね、ウォーリア+シーフのペアが一番バランス良いと思いますけど、状況次第かな?というのはあるので。 それを基本に、場合によっては、片方はウォーリア一人で耐えて貰って、もう一方を集中攻撃とか、敵が多ければ、シーフのお二人にも抱えて貰うとか… 敵が多い場合はこちらもある程度まとまって戦う方が良いのかも?とか悩みますね。 敵が4体だとして、前衛4人が  1対1✕4 よりも、4対4+わたしの方が、範囲攻撃とか効果的に使えますし。もっとも、それは敵もですけどね。 やっぱり、敵の能力が分からないうちは、敵増援も考えると同時3体を目安に、増援気配あれば仕切り直す。くらいが無難ですね。 比較的簡単に倒せるようなら別ですけど。 その辺り、わたしの方で色々書いてみようと思います。

  12. シニング・W・テュパラ

    >戦い方 ペアを組むんだったらその組み合わせがいいだろうな 離れるかまとまるかは微妙だがあんまり離れすぎると回復もしにくいしまとまり気味のがいいかもな? 見た目だけならそこまで強そうじゃなくても数はいるし未知だからな >交信手段など 結局一当りするのは変わんねぇけどそれはそれとして物陰に隠れて観察する時間も入れるか? 隠れる物はそれなりにあるようだし、仲間を呼ぶっつーことは普段から簡単なやり取りをクリーパー間でしてるかもしんねぇだろ 平常時でもなんかやっててくれて、それをいくつかの手段のうち一つ引っ掛かれば設けもんだろうし わかんねぇ、やってねぇなら普段は別段つながってないって事だから、対処法として一体ずつ手早くっていう段取りが有用ってことになる、かもしれねぇしな

  13. リサ・ベイカー

    出来れば、様子をうかがって数が少ない時を狙いたいですね。 1体でいてくれるのが理想ですが。。。 ジャマー、持っていこうかなって思ってます。

  14. ヴィルヘルミナ

    今夜出発ですね。少し間が空いてしまいましたか。 では、私がテレパスを試してみましょう。 戦闘中だとメインアクションを使用してしまうので、戦闘態勢に入る前に試してみる事にします。 私自身は攻撃寄りなので、クリーパーの耐久力の確認をしてみます。 見た目からだと茶色が少し硬そうに見えますが、実際にどうなのかは試してみないとわかりませんし。 こちらから仕掛けられれば良いですが、距離などの関係上難しい場合もありますし。 無理な場合はこちらが囮になっておびき寄せる事も考えておきますか。必ずしも主導権を握れる訳でもありませんし。

  15. トーラ

    ペア了解です。 とりあえず、捜波で策敵して、孤立している個体かグループの観察と、誘い出せれば個別に退治していくように行動を出そうと思います。

  16. リサ・ベイカー

    ヴィルヘルミナさんの攻撃力、頼りにしてますね。 アーシェルさんが耐久力が高いので、敵が複数の場合、アーシェルさんに敵を複数抱えて貰って、その間にヴィルヘルミナさん、トーラさん、シニングさんで1体づつ倒して貰う感じかなと。 わたしはアーシェルさんに付いて、リヴァーオブバイタルや1体くらい受けたりで対処なイメージです

  17. アーシェル・G・クライン

    >スキル ジャマーやテレパスを持っていってくれて助かる。 視覚や聴覚を使った索敵は任せてくれ。 >戦い方 俺は壁役だな、了解。 リサがついててくれるなら心強い。 攻撃スキルを減らして防御スキルを入れられないか調節してみるな。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0