洞窟に煌めく咆哮

影絵 企鵝

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シナリオID:864

オープニング

●流浪のエルベティカ
 リーンエス王国北部、ティロール子爵領の深い森。そこはかつて遊牧民族であったエルベティカの暮らす終の土地であった。馬を地平線の彼方まで乗り回してきた彼らも、今や鹿に乗って山を駆け回るのがやっとだ。エルベティカを纏める若大将、キアランもまた大角の鹿に跨り、木々の狭間を駆け抜ける。つい一刻前、彼は冒険者達に敗北を喫した。長年獣ばかりを相手にしてきたキアラン達と、魔獣にクリーパーを相手取ってきた冒険者達とでは戦いにすらならない。もはやこれまでと悟った彼は、一目散に山の中の里へと逃げ帰ったのである。

「グウィン! ロイド!」

 鹿から飛び降りるなり、キアランは二人の名を叫ぶ。木の上の家から顔を突き出した若い男女は、そのまま軽やかな足取りで階段を駆け下り、大将の前に跪いた。

「首尾は」
「完敗だ。手練れの授恵者を送り込まれては敵わん」
「それでは……」

 銀の髪をひとまとめにした女――グウィンは呻く。キアランはその肩を叩いた。

「これも運命だ。だがここでみすみす滅んでは祖先に申し訳が立たぬ。出立の時だ」
「どこに行くのです。今やあの地は全て王国のものです」
「リーンエス以外にも土地はいくらでもある。北西へ向かえば、フィルエスの大森林がある。そこならこいつらも生きていける」

 キアランは鹿を見遣る。鹿は彼の側に寄り添い、その頭を掌に預けた。そんな彼を見上げ、頬に傷のついた男――ロイドは唸る。

「しかしかの地は遥か昔からエルフのものです。我々のような余所者が踏み込むことを善しとするか」
「善しとされないなら次はディズルへ向かう。かの地には余所者を受け容れる土壌がある」
「ディズルは強力なクリーパーの巣窟です。授恵者は貴方だけとあっては、あまりにも厳しい」

 渋るロイドを見下ろし、キアランは顔を険しくした。

「くどい。ここに留まっていてもいずれ怒った紅竜の火に焼かれるのみだ。険しくとも、生きるためには選ばねばならぬ」

 里の者達も次々に顔を出し、心配げに三人の様子を見守っている。その姿を見渡したグウィンは、小さく溜め息をついた。

「承知しました。……出立の準備を致します」

 グウィンは立ち上がると、早口で同胞達に指示を出しながら里の奥へと消える。ロイドも立ち上がると、浮かない顔のままキアランに尋ねた。

「それにしても、麓の里はどうなるでしょうか」
「紅竜の怒りに触れて耐えられるほど堅牢ではない。灰燼に帰すだろうな」
「何と哀れな……」
「ああ。彼らは土地に縛られている故、我らのようにはいかぬ」

 キアランは空を見つめる。手の内には、冒険者から受けた一撃を受け止めた時の衝撃がまだ残っていた。

「……俺も情けをかけられた身か」

 しばらく黙していた彼は、やがて顔を麓の方角へと向けた。

「少し出掛ける。お前達は準備を整えておけ」

●秘密の依頼
「今回依頼を持ち込んできたのは少々不思議な奴でね。まず頭巾を目深に被って、その正体を少しも明かそうとしないんだ」

 ギルドの集会場に集まった君達の前で、仲介人が話し始める。

「これから間もなくティロールの洞窟に人が入るから、急いでそれを追いかけて、出来る限り多くを救ってほしいそうだ。知っているならなぜ直接に警告しないのか、って聞いてみたけど、彼らは聞く耳を持たないって、最初から諦めていたね。どうしたもんやら」

 仲介人は溜め息を零す。

「とにかく、彼が言うには、ティロールの山には今、紅の竜が潜んでいるという。紅の竜といってもいくらでもいるんだけど……特徴を聞く限り、今回出くわしそうなのはルベウス種だ」

 そう言って、彼は木の板に一枚の羊皮紙を張り付ける。そこに描かれていたのは、深紅の鱗を持つワイバーンだ。

「ルベウス種は紅玉竜の綽名もあってね、それはそれは綺麗な竜さ。鱗の一枚一枚が透き通っていて、まさに紅玉のようだからね。ただの鱗一枚でも大金になるし、それを腕の立つ職人が加工すればもっと値が張る。だからそれを狙う狩人は多いんだけど、相手もそれをわかってるのか、非常に獰猛だ」

 仲介人はさらに羊皮紙を張り付ける。そこには炎の絵がでかでかと描かれている。

「その鱗は魔法を弾く。特に毒となって蝕む形の魔法はほとんど受け付けない。かといって不用意に近づけばその膂力をまともに受ける事になる。ならばと間合いを取ろうとすれば、岩さえ焦がす強烈な炎に狙われる。気付けば退路を断たれて、ずたずただ」

「洞窟の中でまともにやり合うのは避けた方がいい。逃げられるなら逃げた方がいいし、上手く竜に手傷を負わせても、そのまま仕留めようとするのはダメだ。死に物狂いで抵抗されて、落盤でみんな死んだはシャレにならないからね」

 そこまで言うと、羊皮紙を剥がしてくるくると丸め、君達に手渡す。

「今回の目的は、生き残りを少しでも救う事だ。終わったらお礼は出してくれるらしいよ」

●闇に煌めく黄金
 つるはしを担いだ鉱山掘り達が、揚々と洞窟の中へと足を踏み入れる。もとはリーンエスの各地から掻き集められた貧乏人達だ。金鉱脈を掘り当てればその分け前をくれてやると子爵が吹聴したから、皆こぞって集まってきた。貧乏人は貧乏人の使い方を知っているのである。

 暗闇の中に松明の火を当てて、揚々と険しい岩道を下っていく鉱山掘り。やがて彼らは、地下水の抜けた広い空間に突き当たる。長年水に削られ、つるつるになった岩肌が松明の火に煌々と照らされる。

「おいおい、広いな……」
「何だ、ここ……」

 口々に呟きながら首を傾げていると、やがて一人が素っ頓狂な声を上げた。

「おい! 見ろ! 金だ!」

 一斉に鉱山掘り達が目を向ける。そこには確かに黄金が輝いていた。しかし様子がおかしい。その黄金は、松明を揺らさなくても勝手に揺れるのである。ぎょろぎょろと動いて、やがてゆらりと浮かび上がった。透き通った紅の鱗が、橙の光を浴びて怪しく輝く。

「竜だ……」

 立ち上がった紅玉の竜は、両足の爪を岩に食い込ませ、絶叫する。その圧力に、鉱山掘り達は思わず尻餅をついた。竜は鋭い歯を打ち鳴らして火花を立てると、そのままその喉の奥から激しい焔を吐き始める。その焔は岩を焼き、赤々と燃え上がらせる。

「ひ、ひやあ」

 鉱山掘りは悲鳴を上げて散り散りになる。逃げ遅れた一人の背中に、熱線が突き刺さる。彼はあっという間に声さえ焦がされ、この世から消え去った。

 君達は洞窟に足を踏み入れ、その悲鳴を聞いたのである。

解説

●目標  鉱山掘りを5人以上救出する ●敵勢力 ☆ルベウス(紅玉竜)  深紅に輝く鱗を持つワイバーンの一種。吐き出す炎は常人を骨さえ残さず焼き尽くす。他のワイバーンとは違い、金銀の鉱脈を好んで食べる傾向があり、その手の資源が取れる地域は時折襲撃される。ティロールの洞窟に潜んでいたところに坑夫達がやってきたため、怒りのままに暴れ出した。  その鱗は貴族達に装飾品として珍重される。過去には大規模な狩猟の対象となり、その数を減らしてきた。 ・脅威度  中型クリーパー相当 ・特殊能力  紅の鎧(BSが解除されやすい)  焔球(指定した3マスを数ターン侵入不可にする) ●地勢 ☆洞窟  山の中腹にぽっかりと開いた穴。地下水が抜けて形成された洞窟は非常に広く、竜が動き回ることも可能。一方で幾つも開いている枝穴は人一人がようやく通れる程度の広さ。 →焦熱  紅竜があちこち炎を撒き散らした結果、洞窟内は高温となっている。手練れの冒険者も消耗は免れない。 ●NPC ☆鉱山掘り×10  洞窟の枝穴に隠れて何とか難を逃れた哀れな人々。しかしこのままでは煙に炎に燻されつくして死ぬだろう。早急に救出が必要だ。 ●PL情報  一定のダメージを受けるとルベウスは焔球でPC達の足を止めて離脱する。  ルベウスに食い荒らされているが、金鉱脈はまだ残っている。

マスターより

こんにちは、影絵企鵝です。 ということで今度は洞窟の中に引き籠っていた竜と対決です。といっても今回は前哨戦みたいなものです。目標はあくまで救出なのでお忘れなきように。 それではよろしくお願いします。

リプレイ

●融ける金屑
 冒険者達が飛び込むと、洞穴はすでに紅蓮へ染まっていた。紅玉竜は黄金の瞳で周囲を睥睨する。リディリディ・トゥラ・イェレミースは悪夢のような光景を前に溜め息を零す。耳を丸めて逃げ出したかった。

(はぁ……竜と戦うなんて危険な依頼を、どうして私は受けてしまったんでしょう)

 杖を構えた時、足元で軽石を潰したような音がする。焼かれた骨片が辺りに散らばっていた。既に犠牲者がいる。リディは唇を結ぶ。

(しかし、これ以上犠牲を出すわけにもいきませんよね……)

 竜は唸って地面を掻き、牙を剥いてリディへと突っ込む。彼女は杖を構えて祈る。すると雷が奔り、竜の脚を絡め捕った。竜は躓いたが、翼を広げて飛び上がり、天井近くから冒険者達を睨んで吼えた。岩が共鳴して震え、小石がぱらぱら降り注ぐ。見上げたゴルバルティアは、思わずぶるりと震えた。

「へ、へぇ……こいつが……なに、想像してたよりは小せえじゃねえか。怖くねえ……」

 小声で言い聞かせるが、背筋には汗が浮かぶ。辺りが熱いからだけではない。竜の姿は、十分すぎる脅威だった。エルゼリオ・レイノーラはずぶ濡れの身なりにエーテルの光を纏わせ、素早く剣を引き抜く。

「ゴルバルティアさん、背中は任せて貰って大丈夫だよ。安心して……」
「背中は大丈夫だ! 正面護ってくれ!」
「え?」

 エルゼリオは思わず目を丸くしてしまったが、その間にも竜はその牙を打ち鳴らす。激しく散った火花はあっという間に猛火へ変わり、二人へと襲い掛かった。

「まずいっ!」

 エルゼリオは咄嗟にエーテルを放ち、ゴルバルティアの身を包む。赤々とした炎の奔流が襲いかかり、二人は揃って突き飛ばされる。何とか受け身を取ったエルゼリオは、うつぶせに伏すゴルバルティアを見遣った。

「……大丈夫?」
「へんっ! どうってことねーよ! あいつの攻撃は……わ、私が受け止めてやる!」

 起き上がったゴルバルティアは長い尻尾を地面に叩きつけ、闘志を奮い立たせて叫ぶ。その声は洞穴の中で跳ね返り、竜にも劣らぬ咆哮へと変わる。竜は牙を剥くと、脚の爪を突き出し、宙から一気に降ってきた。

「来いよ!」

 彼女は固い鱗に覆われた尻尾を振り抜く。爪と鱗が擦れ合い、激しい火花が散った。その姿を見届けたエルゼリオは、静かに洞窟全体へと意識を張り巡らせていく。

「よし。……絶対にこの竜を足止めする。皆の事を護ってみせる……!」



 竜と取っ組み合いを始めた仲間達の陰で、ロゼットとコルネリウス・アーラは洞窟の壁際を伝うように走っていた。

「キアランさんがおっしゃっていたのは……この竜の事、ですか」

 竜は後退りしながら次々に炎の弾を吐き出す。炎は鉱脈に突き刺さり、どろどろに融かしながらなお勢いを保っている。その光に照らされた竜の鱗は、まさに紅玉の輝きを放っていた。ロゼットは小さく嘆息する。

「聞いた以上に綺麗な竜。……だけど、見惚れてる場合じゃないか」

 ロゼットは光の玉を浮かべ、盾と棍を手に竜の出方を窺う。竜の注意は今のところゴルバルティア達に向いていたが、吐き散らされる炎が、洞窟全体を熱し続けていた。神官として炎熱と隣り合わせに生きてきたロゼットならいざ知らず、ただの人には意識を保つのも厳しい環境だ。時間はない。

「冒険者ギルドよ! 隠れているなら返事をして!」

 しかし返事はない。ロゼットは顔を曇らせる。

「みんなやられちゃったわけじゃないわよね?」
「悲鳴が聞こえてからまだ間はありません。生き残りはいるはず……」

 コルネリウスはその眼を光らせ周囲を見渡す。炎に熱せられた洞窟はどこもかしこも真っ赤に染まって眩しいくらいだったが、枝穴はまだ青白く見える。そしてその中に点々と、生きた人の姿が浮かび上がっていた。

「そこにいます!」

 彼女は指差しながら走る。ロゼットも追いかけ、倒れたままの男に叫ぶ。

「ちょっと! 大丈夫?」

 男は身じろぎすると、息も絶え絶えにロゼットへと手を伸ばす。

「頼む、助けてくれ」

 ロゼットは男の傍に滑り込むと、水袋を突き出して口に含ませ、癒しの光を翳して男の火傷を治す。

「大丈夫? 動ける?」
「ああ……」

 男は何とか立ち上がった。コルネリウスはその肩へ励ますように手を沿える。

「脱出しますよ。私達の傍を離れないでくださいね」



 救助班が本格的に動き出し、竜も逃げる鉱山掘り達に気が付いた。竜は急に鎌首をもたげると、牙を剥き出し、翼を大きく広げて咆哮した。その剣幕に、思わず鉱山掘りは脚を止めてしまう。

「ひっ」

 そこへルアンナ・ミュラーが駆けこんだ。宿り木の杖を振り回し、水の奔流を放つ。奇襲を受けた竜は怯んだ。辺りの炎が消え去り、代わりに真っ白な蒸気がもうもうと立ち込める。

「さあ、こっちを見なさい! 貴方の好きにはさせないわよ!」

 立て続けにルアンナは冷気の嵐で竜を襲う。竜は怒りに任せて吼えると、ルアンナ目掛けて突進を始めた。竜の注意が再び逸れる。



 テュリン・ヴィングとララベル・サン・ディーベルは揃って火の影を洞窟の奥へと踏み込んだ。洞窟暮らしに慣れているドワーフでも、その焦熱は少々堪える。テュリンは溜め息をついた。

「さすがにこれは熱すぎるでしょ。辺り構わず炎吐きまくるなんて、いい迷惑ね」
「ティア達が引き付けてくれてるけど、油断は出来ないね。急がなきゃ」

 ベルはその足に風を纏わせると、軽やかな足取りで駆け抜けた。竜は一瞬その瞳をぎょろつかせたが、彼の姿を捉えることは出来ない。ベルはその隙に洞窟の枝穴へと飛び込み、中で蹲っていた鉱山掘りの肩を叩く。励ましの笑みも忘れない。

「助けに来たよ。大丈夫だから、慌てず落ち着いて」

 テュリンも穴の中へ滑り込むと、水を鉱山掘りに飲ませる。男は水を力なく口から溢れさせ、小さく呻いた。

「ぬるい……」
「仕方ないでしょ。それでも飲まないよりましよ」

 彼女は水袋を鉱山掘りの手に押し付けると、こそりと枝穴の先から竜の様子を窺う。竜はまだテュリン達の動きには気付いていない。彼女はこっそり魔導書を開くと、鉄の壁を目の前に展開し、物陰を創り出した。

「さあ、一人ずつ行くわよ。とにかく出口へ向かうことだけ考えてちょうだいね」

 テュリンは一人の手を引くと、壁を伝って走り出した。



●焦熱を抜けて
 応急手当を済ませた鉱山掘り達を連れて、コルネリウスは洞窟の出口を目指す。急ぎたかったが、弱った鉱山掘りの脚は覚束ない。彼女は辛抱強く呼びかけた。

「こっちです。急いで」

 背後で竜が牙を打ち鳴らす甲高い音が響き渡る。彼女は咄嗟に盾を構えた。竜は焔球を乱れ飛ばし、コルネリウス達の周囲を炎で包む。天井高くに飛び上がり、狙いをぴたりと定めていた。コルネリウスは咄嗟にその身をエーテルのベールで包み込むと、鋭く叫んだ。

「走ってください! 火の間を抜けて!」

 竜はコルネリウス目掛けて流星のように突っ込む。彼女は一歩も引かず、盾を構えて迎え撃った。

 全身に伝わる衝撃。脳が揺れる。しかし彼女は両足で踏ん張り、竜の爪を脇へと弾いた。歯を食いしばって、彼女は竜を睨む。

「この程度で……揺るぎはしません!」

 対峙する竜とコルネリウス。ルアンナはその隙にエーテルをじっくりと練り上げた。杖の先端を鋭く突き出し、炎の輝きを一点に掻き集める。

「後ろがお留守よ!」

 彼女の叫びに誘われ、竜が振り返る。刹那、放たれた魔法の弾が竜の横っ面に突き刺さった。鱗が数枚砕け、竜は大きく仰け反った。

「逃げて、早く!」

 ルアンナは叫ぶ。息を呑んだ男達は、散らばった鱗の欠片を掻き集め、脱兎の如く駆け出した。



 一方、テュリンもコルネリウス達とは別の方角から洞窟の外を目指していた。燃え盛る炎を避けながら走るのでは危険なうえにもたつくばかり。テュリンは魔導書を再び広げると、目の前に向かって氷の嵐を放った。目の前で燃え盛る炎が、あっという間に勢いを失っていく。

 しかし水気が沸く音もまた大きく響いてしまった。竜は天井を見上げて牙を鳴らすと、炎の弾をテュリン達目掛けて鋭く吐き出した。

「させるかよ!」

 そこへゴルバルティアがすかさず駆け込んだ。盾を背負った背中を丸め、竜の炎を受け止める。堅牢な鋼の盾は炎を弾き飛ばすが、反動でゴルバルティアも地面に突き倒される。

「うおっ」
「ティア!」
「大丈夫だ! 私が……いや、私達が絶対助けてやるんだ。だから、絶対ここは引き下がらねえぜ!」

 ゴルバルティアは頭から水を被ると、体を丸めて飛び上がる。エーテルを纏い、そのまま竜の顔面に向かって投石機の弾のように突っ込んだ。背を向けたままの突進に不意を突かれた竜は、破鎧砕の一撃をまともに受ける。竜は堪らずその場で飛び上がった。ベルは岩陰に身を屈め、そんな竜の姿を窺う。

「みんな、もう少しの辛抱だよ」

 鉱山掘りを励ましながら、ベルは出口を目指して走る。鉱山掘りも彼に何とかついていこうとするが、不意に足がもつれて転んでしまった。竜はその瞬間を見逃さず、真っ直ぐ彼へと突っ込んだ。ベルは踵を返し、慌てて彼に駆け寄る。

「まずいっ!」

 ベルが彼に覆いかぶさろうとしたまさにその時、融けた鉄がいきなり竜の目の前で練り上げられ、強固な障壁へと変わった。竜は止まり切れず、鉄の壁へと齧りつく形になった。竜は唸ると、その身を躍らせて振り返る。しかし、続けざまに氷の嵐が竜へと襲い掛かる。顔面に霜が付き、竜は呻きながら顔を地面に擦り付けた。地を這う金色の眼は、正面に立つリディの姿を捉えていた。

 竜は咆哮する。口の中に燃え盛る炎を宿らせながら、素早く飛び上がった。天井に翼を擦るようにしながらぐるりと飛び回り、冒険者達を威嚇する。エルゼリオは盾を正面に構えながら、竜の出方を窺う。

「……五秒先の未来を予測しながら行動するんだ」

 竜が次々に炎を吐く。突き刺さった火の球はそのまま燃え続け、冒険者達の行く手を塞ぐ。狙いはどこか。エルゼリオはその天眼で見極める。

「そこだ!」

 彼は駆け出す。竜は素早く舞い降り、そのまま尻尾を振り回した。割って入ったエルゼリオは、盾を斜めに構えて何とか弾く。

「この洞窟で、これ以上誰も死なせない!」

 エルゼリオは剣を天井に掲げる。剣先から放たれたオーラが、熱や降り注ぐ礫で傷ついた鉱山掘りや仲間たちの身体を癒す。

「さあ、急いで!」

 彼の声に押されるように、鉱山掘り達は走った。しかし一人が大きな石を蹴っ飛ばしてしまい、甲高い音を響かせる。

 竜はまたしても振り向き、逃がすまいとばかりに翼を大きく広げた。その激しい威嚇を見て、ロゼットは思わず息を呑む。

「やばっ、こっち見てる! みんな後ろに入って!」

 ロゼットは鉱山掘り達を背に庇い、棍を構える。祈りを捧げた瞬間光の柱が飛び出し、放たれた炎の塊を正面から受け止める。降りかかる火の粉を袖で払いながら、ロゼットは凛と叫んだ。

「早く逃げて!」

 鉱山掘り達は出口へ向かって慌ただしく走り抜ける。その背中を見送ったロゼットは、竜と組み合う仲間達に向かって叫ぶ。

「皆もう良いわ! 引き上げましょう! 生き残りは全員助けたわ!」
「よし。……じゃあこの辺りが潮時かな」

 エルゼリオは溜め息をつくと、竜へと剣先を向けたまま、静かに後退を始める。

「これ以上構っている意味はありませんね。早く帰りましょう」

 杖を下ろしたリディは、脱兎のごとく走り出す。竜は歯を打ち鳴らすと、幾つもの火の球を次々に吐き出した。背中で炎の爆ぜる音が轟くが、彼女は気にも留めない。

「ずらかれ!」

 ゴルバルティアも一緒になって洞窟を飛び出す。テュリンは仲間達が全員抜け出したのを見届けると、入り口を塞ぐように鉄の壁を創り出す。竜の怒りに満ちた咆哮が、くぐもって響いた。ベルはにっこり笑ってテュリンの手を叩く。

「ナイス、テュリン姉」
「とりあえず一時しのぎよ。出てこないうちに山から下りないと」



 かくして、冒険者は竜の脅威をいなしつつ、哀れな鉱山掘り達を救い出したのであった。

●貧しさという罪
 ギルドの集会場へ戻った冒険者達を出迎えたのは、狼のような風貌の青年だった。その顔を見るなり、エルゼリオは微笑む。

「やっぱり君だったんですね、キアラン」
「……何人を救えた?」

 キアランは腕組みをしたまま尋ねる。ロゼットが応えた。

「十人ね。残りはもう骨になってた」
「そうか。痛ましいが、その結果は上々であろう。ギルドに依頼したのは正解だった」

 三人がやり取りしている後ろで、ゴルバルティアは小さな円卓に突っ伏していた。すっかり彼女は疲れ切っている。

「なあベル、私生きてんだな」
「うん、生きてるよ。竜の目の前でずっと立ちはだかっててさ、さすがティアだよ」

 ベルはティアの肩を叩く。彼女は力無く笑った。テュリンはその隣で首を傾げる。

「それにしても、あの手の竜はドワーフの鉱山に姿を見せるものだと思っていたけれど……どうしてあんなところにいたのかしら」
「理由はわからん。……いずれにせよ、あの竜は機を窺って討伐せねばならん」
「紅玉竜を討伐ですか?」

 リディは耳を垂らす。厄介ごとを押し付けられやしまいかと警戒していた。

「ああ。貴重な生物故、穏便に済むならそうしたかったが……怒った竜は死ぬまで執拗に標的を狙い続ける。討つより外に無い」

 キアランはしかめっ面のまま、窓の外を見つめていた。

「……無茶をしたものだ」



 一方その頃、コルネリウスとルアンナはティロール子爵に対峙していた。今回の件は少々腹に据えかねていたのである。

「貧しい人を言葉巧みに誘って危険な洞窟に放り込むなんて、貴方のやり方はいくらなんでも無茶苦茶です。死人も出たのですよ」
「そうか」

 子爵は事も無げに応える。ルアンナはそんな彼の横顔を覗き込んだ。

「紅玉竜は金銀の鉱脈を食べると聞きました。いつからいるかはわかりませんが、もう鉱脈も食べ尽くされて残っていないと思います。これ以上の無茶はやめてください」
「それは違うな。これであの洞窟に金銀があることがはっきりした。竜のお墨付きだ」

 聞き分けの無い領主を前に、ルアンナは力任せに机を叩いた。鈍い音が響く。

「わざわざ依頼を出したキアランさんの思いを無下にする気? また犠牲を出したいの?」
「奴が?」

 子爵の眼が僅かに泳ぐ。しかし彼はすぐに物憂げな顔を取り戻した。

「私が掘るのを止めたところで、伯がいる。伯が私から土地を取り上げ、同じようにするだけだ」

 彼は立ち上がると、窓から外を見つめる。

「貧しいことは罪なのだな」

 コルネリウス達が覗き込むと、そこには、狭い畑を懸命に耕す農夫達の姿があった。子爵は嘆息する。

「誰の事も護れぬ。もがくほどに沼へ掻き伏すばかり」



「最早手はない。あの竜は怒りに任せてここを襲うだろう。……討たねば、終わりだ」



 つづく

マスターコメント

ご参加ありがとうございました。 何もケアが無ければMOBの二、三人殺してやろうと思ってましたが、そこはしっかりカバーされてましたね。ということで今回は成功と相成りました。 とりあえず次回が決着編という形になろうかと思います。 そのうち出しますのでお楽しみに。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 6〜8人

2021年05月10日 17時42分01秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ロゼット

    ヒーラーの神官戦士ロゼット、よろしくね。 紅玉竜の足止めと、鉱夫の救出の同時進行が必要かしら。 PL情報はあるけど、あまり時間をかけると鉱夫の体力が もたないかもしれないし、どうかな。 あと道具欄に空きがあるなら、照明道具と水袋があれば 自分や鉱夫の助けになるかなって。

  2. コルネリウス・アーラ

    ウォーリアのコルネリウスです。よろしくお願いします。 先日キアランさんが仰っていたのは、紅玉竜とその炎の事だったのですね。 紅の鎧でデバフでの足止めや引きつけがし辛いのですね。 【殺界】などのデバフとは異なる足止めスキルなら有用でしょうか。 高温への対処は私達は汎用スキルなどを使用しながら各自で、となりますね。 竜は一定ダメージで離脱はするようですが、洞窟の中でまともにやり合うのは避けた方がいい、とのことですから…足止めと耐久を行いながら鉱夫の救出を優先し、救助が終わり次第即時撤退とするか、などの方向性を決めたいですね。

  3. テュリン・ヴィング

    キャスターのテュリン・ヴィングよ。今回はよろしくね 救出の際にアイアンウォールを張って、出来るだけ鉱夫達への攻撃を向けさせない様にとかは考えてるかな。ただ、使える数がそんなに多くは無いから使うとするなら、どう張るかを考えないとだけどね。後は無事に救出を終えて撤退時に入り口を封鎖して、追撃を防ぐという手かしらね

  4. エルゼリオ・レイノーラ

    ヒーラーのエルゼリオ・レイノーラです。今回は宜しくね! 足止めと救出を同時進行して、 救出完了したら足止め担当も洞窟内から脱出する方向で良いと思う。 無傷の紅玉竜を相手に洞窟内で戦っても勝算は低いと思うし、 一般人の鉱夫さん達の体力は長く持たない可能性が高いかと。 ボクは足止め、救出、どちらに回っても大丈夫だよ。 >携帯品 照明道具(足止めを担当するなら暗視で代用)と水袋は持って行く事にするね! あとは焦熱対策として、水で濡らしたマントを纏って行こうかと思ってる。

  5. ララベル・サン・ディーベル

    僕はシーフのララベル・サン・ディーベル。 皆、よろしくね! うん、足止めと救出の同時進行がいいと僕も思うよ。 僕は素早いのを生かして、救出と避難誘導に回らせて貰おうかな。 探波で洞窟の地形を把握しつつ動いたら、救出もし易くなるかなって。

  6. No.6

    顔出しが遅れてしまって申し訳ありません・・・。 その・・・、キャスターのリディリディです・・・、よ、よろしくお願いします。 えっと、それでは私はアーケインでの足止めを担当します。 アーケインは召喚オブジェクトなので、BSとはならない足止め要素として使えるはずですし、味方と認識している者の移動を阻害することもありません。

  7. ゴルバルティア

    ウォーリアのゴルバルティアだ 勿論私は足止め担当だな ワイバーンを吹っ飛ばせりゃ楽なんだが…流石にきついか? とりあえず足には自信があるから鉱山掘り達が避難するときにカバーしにいくことも出来るとだけ

  8. ロゼット

    救出を終えたら撤退、に賛成するわ。 要救助者がいなくて、環境が普通(高温ダメージがない)なら、 撃退も考えるけど、ちょっと条件が悪いかなって。 私は救出誘導の方に入っておこうかな? クラスや人数を見て調整するつもりよ。 【殺界】は強行突破される場合があるから、【アーケイン】で 移動力を減らして突破もさせない、合わせ技とか良いかも。 >紅玉竜について イメージで考えて、攻撃手段は爪牙や身体での物理攻撃、 吐き出す炎は魔法攻撃…かしら?装備の参考に。 >現在の希望(検討中含む) ・紅玉竜の足止め コルネリウス リディリディ ゴルバルティア ・鉱夫の救出誘導 テュリン ララベル ロゼット ・保留 エルゼリオ

  9. コルネリウス・アーラ

    リディリディさんがアーケインを使用してくださるのはとても助かります! 出来たらロゼットさんの仰るように、協力しながら動きを止めていきたいですね。 そうですね、敵の攻撃方法をざっと見る限り、物魔両方かなという印象です。 炎は特に威力が強そうですので、直撃は避けたいですが、いざという時は魔防の高い私の方でガードしていけたらと思います。 あとは焔球はO召喚でしょうかね、移動可能なへクスが減るのは危険がありますので避難の際に注意していきたいですね。 ふと思ったのですが、このワイバーン、今回は1体という認識で良い…のですよね?

  10. ルアンナ・ミュラー

    顔出しが遅れてしまいましたね、キャスターのルアンナです。 私も紅玉竜の足止めに動こうと思っています。 攻撃が炎系で周りもかなりの高温とのことなので、氷系のスキルを使って少しでも温度を下げられないか試してみます。 ・紅玉竜の足止め コルネリウス リディリディ ゴルバルティア ルアンナ ・鉱夫の救出誘導 テュリン ララベル ロゼット ・保留 エルゼリオ

  11. エルゼリオ・レイノーラ

    人数偏っちゃうけど、紅玉竜の足止めにもヒーラーが居た方が良いと思うから、 ボクは足止めの方に回る事にするね。 もし、問題あれば移動もOKだよ。 ・紅玉竜の足止め コルネリウス リディリディ ゴルバルティア ルアンナ エルゼリオ ・鉱夫の救出誘導 テュリン ララベル ロゼット >紅玉竜について OP読む限りだと一体だけしか居ない様だったし、 解説にも特に言及されてないから一体だと思う。 >スキル 特性:リヴァーオブヴァイタル/ヒーリングオーラ アクション:ヒール2/堅甲2/重点硬化/残り1枠 耐久重視のセッティングで行く予定だよ。

  12. コルネリウス・アーラ

    足止め側にヒーラーは必要かと思いますので、エルゼリオさんが回って頂けるのは助かります。 同時に、救出誘導の方にも庇える方は居た方が良さそうですので、私はそちらに移動しますね。 殺界はカバリングに変更し、重点硬化、移動用のチャージングなどを中心にスキルは積む予定です。 ・紅玉竜の足止め リディリディ ゴルバルティア ルアンナ エルゼリオ ・鉱夫の救出誘導 テュリン ララベル ロゼット コルネリウス

  13. ロゼット

    >紅玉竜について 複数いるなら解説のとこに「×3」とか付いてそうだし、 読み直して複数らしい表現は無かったから1体で良いと思う。 >鉱夫の救出誘導 カバリングみたいに即座には出せないけど、防御結界用に 光縛封を用意していくわ。周囲の人間を全員囲えるのと、 吐き出す炎が魔法の範囲攻撃でも1回は守れるはず。 >救出後の撤収 足止め役の後退も大変そうだし、飛び道具の魔矢で牽制とか、 サイドヒールでの回復援護をするわ。 スキルは光縛封、サイドヒール。ヒール、魔矢、 重点硬化、エンライトをセットしておくつもりよ。

  14. No.14

    そうですね、恐らくワイバーン・・・、えっと紅玉竜は1匹だけなんだと思います。 中型クリーパー相当ということなので、力を合わせたら撃退も可能かもしれませんが、場所が場所ですもんね。まずは撤退しましょう。蒸し焼きになりたくはありません。 あと、個人的なことですが、盾は置いていきます。 これを着けていると移動力が落ちてしまうようで、撤退に支障が出そうですし・・・。 それから氷嵐の魔法は私も準備していこうと思っています。

  15. ゴルバルティア

    …………大丈夫かな? コルネリウスさんがそっち行くとメインの壁役になるの私って事だよな…?

  16. コルネリウス・アーラ

    そうなりますね… もし一般人が炎を受けてしまった場合、恐らく即死と見ているので、危険な時に庇う役割として救出誘導の方に回る意図があるのですけれど。 壁役はゴルバルティアさんがいらっしゃれば、足止めスキルを使用できる方は多いですし私は大丈夫と見ておりますけれども、不安があれば調整は致します。

  17. ロゼット

    >ゴルバルディア エルゼリオが全回復、防御(物防・魔防)アップまで 用意してるから、まず大丈夫だと思うわよ。 今回、紅玉竜の撃破は目的じゃないし「防御集中の宣言」を プレイングに入れておけば、防御力が更にあがるからお勧めよ。 私から助言できそうなのは、これくらいかな。

  18. エルゼリオ・レイノーラ

    >ゴルバルティアさん 壁役のゴルバルティアさんには優先的に堅甲2とヒール2で支援するよ~。 (堅甲2は戦闘開始直後に使用予定) 最悪の場合はリヴァーオブヴァイタルで回復するから、 安心して背中は預けて貰えると嬉しいな!

  19. ゴルバルティア

    そうか、…わかったぜ なら私が全力で壁役やるぜ!やってやるさ!!(尚足ガクガクブルブル()

  20. コルネリウス・アーラ

    時間が迫っていて申し訳ないのですが、避難誘導の際に救助者の方は数名に分かれて誘導する認識で良かったでしょうか? 全員を纏めて囲んで護るかで、少し動き方が変わりますのでこちらの認識だけすり合わせをしたいなと思いまして。

  21. ロゼット

    >避難誘導 数名に分かれて誘導かな。鉱夫の散らばり具合にもよるから 断言しにくいけど、集団になると竜の気も引きやすくなりそう。 足止め役の人数以下で動いた方が、標的にされにくいかな?って。 庇う準備はしているけど、庇わなくて済むなら何より。

  22. コルネリウス・アーラ

    ロゼットさんはありがとうございます。 纏っているところに攻撃されると救助者が一気にやられてしまいかねないですし、分かれる方向で承知しました。 孤立してしまう救助者が居ないようにフォローしていければと思います。

  23. ララベル・サン・ディーベル

    反応遅くてごめんね。 途中の遮蔽物の事や竜の目を引かない事なんかも考えると、全員一度に纏まって動くのは難しいかなと思うので、数名に分けて誘導して何回か往復する認識で居たよ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0