【CP】ハリアウムからの刺客

革酎

コメント 11

シナリオID:849

オープニング

●謎の疫病
 リーンエス王国との国境から僅かにシルトラース帝国領内側へと入ったところのとある場所に、トームルフヴィレッジと呼ばれる難民キャンプがあった。帝国の商人トームルフが中心となって形成した為に、この様な呼び名で通っているらしい。
 小高い丘の麓に位置し、北以外の三方が森に囲まれているが、近くには河川が無い為、手掘りの急造井戸が唯一の水源となっている。
 他には乳牛や羊等も飼われており、牛乳と羊乳は比較的豊富に産出されるという一風変わった特徴のある難民キャンプだった。
 そしてこのトームルフヴィレッジ、決して人数は多くないが、大半が成人の健常者ということもあり、ヴァイセントラフ砦からは有望な志願兵を集めることが出来そうだと幾らか期待を寄せられていた。

 春の暖かい某日、ヴァイセントラフ砦からトームルフヴィレッジを訪れた平凡な歩兵長アヴィン・コルハンは志願兵達に配る書類を作成中、鋭く差し込む様な腹痛に襲われ、昼間から寝込んでしまった。更にその夜には高熱を発し、何度も嘔吐を繰り返す破目に陥った。
 この急激な症状を伴う体調不良は、アヴィン歩兵長だけに留まらなかった。実にトームルフヴィレッジの難民のおよそ九割、そしてアヴィン歩兵長の部下である帝国兵達も軒並み倒れ、この難民キャンプは一夜にして疫病の村と化してしまった。
 体調不良を免れた残りの難民達も、いつ自分達が同様の症状に襲われるのかと心配で、気が気ではなかった。そこで近くの町の冒険者ギルドへと駆け込み、疫病対策に知見のありそうな冒険者を雇い入れようという話になった。
 兎に角、原因が分からない。そしてこの病がいつ癒えるのかも、皆目不明であった。

●八武衆の嘲笑
 トームルフヴィレッジを、丘の上の樹々の間から眺める影がふたつ。
 いずれもコボルトであった。それも通常のコボルトよりも遥かに背が高く、体格も頑健である。所謂、特異個体と呼ばれる存在であった。
「よぉ、フォロドにパレグイラ。八武衆のふたりがここで何やってんだ?」
 不意に後方から、陽気に語りかけてくる者があった。二体のコボルトが振り向くと、そこには白銀虎の半獣人――『青の中指』ジルベルがのんびりと歩を寄せて来る姿が見えた。
 コボルトは人語を解さない。二体が振り向いたのも、穏やかに声をかけられたから、ただ無造作に反応しただけに過ぎない。
 ここからジルベルは、手話の様な手信号を使い始めた。
 すると、フォロドと呼ばれた方のコボルトが、パレグイラの血をトームルフヴィレッジに仕込んできたという意味の手信号を返した。
(お、凄ぇな。シャハロウの奴、ちゃあんと教育出来てるじゃんよ。まぁあんまり細けぇ会話は無理なんだろうけどな)
 内心で感心しつつ、ジルベルは薄く笑った。
 一方、パレグイラと呼ばれたコボルトは獰猛な笑みを浮かべた。この特異個体は、人間に対してのみ強力な毒性を発揮する病原菌のキャリアーであった。パレグイラの血液や体液が人間の肉体にほんの僅かでも取り入れられた場合、下痢や嘔吐、発熱等の症状が襲い掛かる。その威力はちょっとした疫病と呼んでも差し支えない。
 パレグイラの血で生じた疫病が蔓延すれば、更に帝国兵が調査や治療の為に人数を集めて来るだろう。そこにフォロドと共に奇襲を仕掛ける作戦を立てているらしい。
 ここでジルベルは、冒険者が介入してくる可能性について警告を与えた。
 だがこの警鐘は、二体の特異個体にとっては然程の脅威とは受け取られなかった。喉の奥から絞り出す不快な笑い声を並べて、肩を大きく揺する。
 冒険者如きが何するものぞ、というのがこの特異個体達の認識なのであろう。
 その時、樹々の間から顔面を青と黄の奇妙なペイントで塗りたくった三十体前後のコボルトが、わらわらと姿を現した。この一帯で最大の勢力を誇るコボルト部族ハリアウムの戦士達であった。いずれも小剣や棍棒等で武装を固めている。
「成程ね……ま、お手並み拝見だな」
 ジルベルは手近の岩に腰を下ろし、腰から吊るした酒瓶の中身をぐいっと呷る。フォロドとパレグイラは、高みの見物を決め込んだジルベルを無視して、トームルフヴィレッジへの侵攻準備へと入った。

解説

状況:  PCの皆様は冒険者ギルドでの依頼を受け、トームルフヴィレッジに辿り着いた直後、コボルト接近の報が舞い込んできたところからスタートします。  現時点では疫病の発生源や感染経路は何ひとつ分かっておらず、治療法も不明です。罹患しているのは難民のみならず、募兵の為に訪れた帝国兵達にも疫病が広がっています。下手をすれば冒険者の皆さんも罹患してしまうので、細心の注意が必要です。  また、既にヴァイセントラフ砦から治療や手当、調査の為に追加の帝国兵が十数名到着していますが、彼らは経験の無い疫病ということで右往左往しています。 シナリオ目標:  コボルト部隊(特異個体を含む)を撃退し、同時に疫病への対処も実施して下さい。  疫病は症状の観察や患者からの聞き取り調査を進めれば感染源は分かるかも知れませんが、治療法は今のところ何も分かっていません。 敵:  およそ三十体のコボルトと、特異個体が二体です。  一体は片刃剣の二刀流と強烈な蹴り技の使い手、そしてもう一体は謎の病原菌を操りますが、その実力や戦闘方法は不明です。 NPC:  主なNPCはヴァイセントラフ砦所属の平凡な歩兵長アヴィン・コルハンです。  モブNPCとしてヴァイセントラフ砦の帝国兵やトームルフヴィレッジで生活する難民達です。  場合によってはメドゥの指先『青の中指』ジルベルも首を突っ込んできます。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動【CP】でのシナリオをご提供致します。  帝国と王国の国境付近に縄張りを持つ最大のコボルト部族ハリアウムの特異個体の中でも、謎の病原菌を駆使する特殊な敵が登場します。疫病に苦しむ難民キャンプを救い、襲い来るコボルト部隊を撃退して下さい。

リプレイ

●感染源を探れ
 ヴァイセントラフ砦から、一夜にして疫病が蔓延したトームルフヴィレッジまでの道中には、幾つもの難民キャンプが点在している。
 トームルフヴィレッジを目指す道中、クー=ウィッシュとセロンガード・シュタインドルフ、バーネット・フォーサイスの三人はそれら難民キャンプに都度立ち寄り、難民達の生活に支障をきたさない程度の余剰食料と水を譲り受け、そこそこの量を確保することが出来た。
 陽が中天に差し掛かった頃合い。ヴァイセントラフ砦から借用した輸送用の荷馬車を、ケン・Z・ブラッドリーがトームルフヴィレッジの中央広場まで乗り入れさせた。罹患者達が隔離されている方々のテントからは、苦しげな呻き声が何重奏にもなって響き渡ってくる。
「原因不明だけど似た症状の患者が同じ地域で出てるってのは……厄介だな」
 御者台から降り立ち、荷台へと歩を進めながらケンは渋い表情を浮かべた。まずは原因の特定、そして感染者と非感染者の隔離から手を付けなければならない。
「何? コボルトだって?」
 同じく御者台から降りようとしていたハヤト=ガラン=ヴォルファングが、周辺を巡回していた帝国兵からの思わぬ報告に、ケン以上の渋い顔を見せた。そして罹患者達への対応に当たろうとしているルチル・プルメリア・グレイハーツに振り向き、コボルトが接近してくるという南側の丘方向を指差した。
「ちょいと様子を見て来る……セロンガード、一緒に来てくれ」
「はい、ご一緒しましょう」
 走り去るハヤトとセロンガードを見送ってから、頭蓋面の奥で鼻先に皺を寄せるルチル。
「数が多い……まぁ、適切に処置すれば助かるさ。でもコボルト退治と並行ってのは面倒だね」
 そのルチルの言葉を受け、清水の入った樽を荷台から降ろしているバーネットが小さく溜息を漏らした。
「全く、こんな時に襲って来るんじゃねぇっての……いや、待て。だからこそ狙ってきたのか?」
 はっとした表情で南の丘へと視線を走らせるバーネット。同じく食料を荷台から降ろしていたケンも一瞬、手を止めた。
「まるで狙ったかの様に出て来たな……いや、狙っていたのか」
 余りにも出来過ぎた話だと、バーネットとケンは互いの顔を見合わせた。
 だがクーだけは冷静に、さもありなんと静かに頷いている。道中、この不自然な疫病蔓延について様々な思考を巡らせていたクーは、疫病蔓延の際には発生する筈の幾つかの段階が虫食い状に欠如していることから、これは何者かによる攻撃だと推測を重ねていた。
 そして難民キャンプ全体が弱ったところで、次は物理的な攻撃を仕掛けてくる。戦術という観点から見ればセオリーに則っているといって良い。
「で、読み通り攻めてきた訳だ。敵がコボルトだっていうことまでは流石に分からなかったが」
 そのコボルトだが、報告によれば特異個体と思しき大柄な奴が二体、およそ30匹程の通常サイズの取り巻きコボルトを率いて接近中であるとの由。だが敵は、こちらに冒険者が複数名居ることを考慮してか、警戒して散開しながら徐々に距離を詰めてきている模様である。到達するまでには今少し、時間がかかるだろう。
「その間に出来る限りの処置は取っておこうかね」
 ルチルが、自身の能力であらかじめ造り出しておいた清水を数本の水筒に分けて、罹患者が寝込んでいるテントに配って回る。その際、比較的症状の軽い者から情報収集を進めることも忘れない。
 バーネットとケン、クーの三人も同様に水と食料を配りながら、非感染者の難民や帝国兵達から情報を掻き集める。
 そこで、感染源として注目すべきポイントが見えてきた。井戸である。

●分水嶺となったのは
 ルチルは即座に栗鼠のラトを走らせ、井戸からキャンプ周辺に侵入者の形跡が無いかを探らせた。同時にハヤトとセロンガードの元へは分身体を遣わせ、接近しつつあるコボルトの監視を交代させる。
 程無くして、ハヤトだけが駆け戻ってきた。セロンガードはキャンプ外に留まり、狙撃に適切なポイントを探しているのだという。
「罹患者からは毒物の臭いは感じられなかった」
 戻ってきてから、ひとつのテントに立ち寄って罹患者の肉体から何か不自然な臭いが嗅ぎ取れないかと試してみたハヤトだったが、不発に終わったらしい。
 毒物が原因であれば何かしらの臭いがあっても不思議は無かっただろうが、何の臭いも嗅ぎ取れなかったということは、毒物ではなく何らかの疫病原因であろう。だがそんなものが本当にあるのだろうか。
「この井戸水に、何か異常は感じられないか?」
 木製バケツに汲み上げた井戸水をクーが差し出す。ハヤトは鼻先を近づけた。その表情が一瞬で険しい色へと変じた。
「こいつぁ、血の臭いだ」
 しかも恐ろしく獣臭いと、ハヤトは顔をしかめた。
 するとルチルが合点がいった様子で頷く。彼女がここで聞き集めた情報によると、夜中に何かが井戸周辺を徘徊していたらしいが、獣の様な息遣いだった為、難民達は野犬だろうと思い込み、誰も井戸の様子を確認しなかったのだという。
「でもね、足跡は野犬なんかじゃなかったよ」
 ラトに辿らせた足跡は、獣の様な形の二足歩行者のものだった。つまり、亜人と見て良い。接近中のコボルトの足跡と極めて似通っていることから、井戸に血を垂らしたのはそれらのうちの一体だろう。
「通常の特異個体にはそんな芸当は出来ねぇ……ってこたぁ、犯人はハリアウム八武衆のパレグイラか」
 ロモズ歩兵団に所属するケンは、国境付近最大のコボルト部族ハリアウムと、その精鋭たる8匹の特異個体について諸々の情報を聞きかじっている。それはルチルも同様で、接近中の特異個体がフォロドとパレグイラであることは、すぐに察しが付いた。
「それともうひとつ、非感染者が何故罹患しなかったのかが分かった」
 バーネットは非感染者達が日頃から井戸水ではなく、牛乳や羊乳で水分補給する習慣があることを突き止めていた。感染しなかった帝国兵達も、持参した水筒や酒で喉を潤すことがあっても、井戸水には手を出さなかったのだという。
「ここが乳牛やら羊やらを多く飼ってたことを考慮に入れなかったのは、連中のミスだな」
 苦笑しながら、バーネットは道中の馬車内で作成した薬草リストと調合手順メモを取り出した。ルチルも同様のメモを作成しており、それらを非感染者の帝国兵に手渡す。
「下痢や嘔吐の症状に効く処方箋だ。すぐに調剤に取り掛かってくれ」
「後は十分な水と消化し易い食事だね。飲み食いを速めて毒素を体内から追い出す様に努めて欲しい。重症者は特に手厚く頼むよ」
 バーネットとルチルの指示を受けて、帝国兵達は足早に四方へ散っていった。
 残るは、対コボルト戦である。
「では、行こうか」
 大剣を抜き放ったクーを先頭に、冒険者達は南の丘へと連なる斜面に向かった。

●迎撃戦
 セロンガードは丘の斜面を覆う樹々の中でも、特に背の高い一本を選んだ。低い位置にはほとんど枝が無く、専門の技量が無ければしがみつくのも難しい。が、セロンガードは易々と登り切り、枝葉で身を隠せるギリギリの高さで弓を構えた。
 最前列ではなく、最後尾に位置している取り巻きコボルトに狙いをつけ、弦にかけた指を離す。放たれた矢が数体のコボルトを巻き込む光の炸裂弾と化して、一気に叩き伏せた。
 コボルト共は恐慌に襲われた。敵はトームルフヴィレッジ方面、即ち前から来るものとばかり思い込んでいたのだろう。にも関わらず、最後尾の隊列が奇襲された。コボルト共は敵である冒険者の位置が掴めず、混乱に陥っていた。
 直後、クーの雄叫びが鋭く響いた。大剣を振りかざし、二刀流の特異個体フォロドへと挑みかかる。
「先にパレグイラを仕留めるッ! フォロドの足止めは頼んだぞッ!」
「了解ッ!」
 ケンの叫びに応じ、クーはフォロドと対峙した。そのフォロドの周辺には稲妻の如き光の帯が迸る。クーの壁役としての戦闘能力に加え、バーネットが足止めを仕掛けたのだ。
 一方でケンとハヤトがパレグイラに接近戦を仕掛ける。勿論、パレグイラの能力は既に理解した上での話だ。当然ながら、敵が振り撒く血液や体液には最大限の警戒を払っていた。
「プンプン臭って来やがるぜ……やっぱてめぇが、この疫病の黒幕かッ!」
「気をつけろよハヤト。こういう嫌な手を使ってくるってこたぁ、メドゥの指先が絡んでるかも知れねぇ」
 ケンが放つ警告を頭の片隅に残しつつ、ハヤトは超人的な身体能力を発揮してパレグイラを翻弄し始めた。その様子を、ケンはじっと凝視する。パレグイラが己の血液や体液をどのタイミングで振り撒くのかを見極める為だ。
 ハヤトの機動力ならばパレグイラの攻撃は容易に躱せるだろうが、ケンにとっては一瞬が命取りだ。警戒には警戒を重ね、慎重に敵の動きを見切らなければならない。
 一方、取り巻きのコボルト共は樹上のセロンガードが次々に討ち斃してゆく。他の冒険者達が特異個体に集中出来るのは、セロンガードが仕掛ける掃討戦が極めて有効的に機能しているお陰であった。
 そのセロンガードの攻撃で半数近くの取り巻きコボルトが斃れた時、ケンはパレグイラの動きにパターンがあることを発見した。
「……成程、踏み込んでの横薙ぎでばら撒くって訳か。なら、対処はひとつ」
 ハヤトを退かせ、ケンは一気に踏み込んだ。パレグイラは盾を押し立てて突撃して来るケンを迎撃しようと試みたが、上段への攻撃だと見誤った。ケンが狙ったのはパレグイラの両足首であった。
 大太刀が一閃し、無防備となっていたパレグイラの両足首を薙ぎ払う。パレグイラは獰猛な雄叫びをあげながらもその場に膝から崩れ落ちた。
 パレグイラの回避能力が失われたところで、ルチルの放った鏃が次々と上体に撃ち込まれる。動きが鈍ったパレグイラの首が、ケンの刃で刎ね落とされた。
「こいつの血で解毒薬でも出来れば良いんだがな」
「それは後だ。次はあいつを始末するぞッ!」
 パレグイラの骸を見下ろすケンを尻目に、ハヤトは次なる敵へと標的を切り替えていた。

●撃破
 クーにとってフォロドは初めて戦う相手ではあったが、彼女の鉄壁ともいえる防御能力の前では、次々と繰り出されてくる疾風の如き双刃も、異常な破壊力を誇る蹴り技も、痛撃を与えるには至っていない。
 勿論、全く衝撃を受けない訳でもなかったが、想定していた程の威力は感じなかったのが正直なところであろう。
(パレグイラへの救援に焦っているのだな)
 フォロドが僅かに滲ませている焦燥の念が、クーには手に取る様に分かった。バーネットが足止めの魔術を仕掛け続けているのが更に輪をかけてフォロドの判断力を鈍らせているといって良い。
 いよいよフォロドの苛立ちが頂点に達しようかという時、ルチルの放つ鏃がフォロドに狙いを定めてきた。
(どうやらパレグイラは片付いたか)
 クーは表情を引き締めた。敵が相棒の死を悟ったならば、今度こそクーに対する攻勢に集中して来るだろう。今以上に防御を固める必要があった。
 左手前方に、取り巻きコボルトの残党が得物を構えて接近してくるのが見えたが、バーネットの放った光弾とセロンガードの矢が次々と討ち斃してゆく。
 ルチルの鏃もフォロドと他のコボルトを交互に狙い始めた。ここが勝負どころだと踏んだのだろう。
「てめぇの相手はこの俺だッ!」
 ハヤトが後方からフォロドとの間合いを詰めて来る。更にその後ろにはケンの姿もあった。フォロドは流石に狼狽の色を見せた。配下のコボルト達が次々と斃され続け、パレグイラまでもが討ち取られたとあっては、最早劣勢は覆せない。
 この時、ケンは不意に後方へ盾を向けた。飛来する大型ブーメランの存在にいち早く気づいたのだ。握柄以外は全てが鋭い刃として作られた大型ブーメランをケンは盾で叩き落とす。
 ハヤトやルチルからその存在を聞き知っていた――『青の中指』が得意とする遠隔攻撃であった。
「やっぱり居やがったな……好きにはさせねぇぞ」
 喉の奥で唸ったケン。しかし、敵は姿を見せようとはしない。或いは、こちらの力量を計る為に大型ブーメランを放ってきたのか。
 その間もフォロドはクーの分厚い守りによるプレッシャーを受け続け、ルチルやハヤトからの攻撃に少しずつその生命力が削られてゆく。フォロドは目に見えて動きが鈍り始めていた。
「今だ……勝負をつけるぞッ!」
 クーが盾を構えたままフォロドとの間合いを詰めた。フォロドの渾身の双刃はクーの盾と鎧に弾かれ、態勢を崩した。その一瞬を見逃す冒険者達ではない。
 ハヤトの三連撃が炸裂し、ルチルの鏃が急所を射貫く。
 仕上げとばかりに、セロンガードの矢とバーネットの魔弾がほとんど同時にフォロドの眉間を叩き割った。
 フォロドは両眼を見開いたまま膝から崩れ、倒れ伏した。他のコボルト共も、既にセロンガードとバーネットが全滅させている。
 但し、大型ブーメランを放ったもうひとりの敵は、既に気配を消していた。

 コボルトは特異個体も取り巻きも全て斃した。
 残る問題はトームルフヴィレッジに蔓延する疫病だったが、バーネットとルチルが処方した煎じ薬で、大半の者が快方に向かいつつあった。
「いやぁ、助かりました」
 ヴァイセントラフ砦から派遣されていた歩兵長アヴィン・コルハンが、げっそりとした顔に苦しげな笑みを浮かべた。完全回復にはまだ多少の時間がかかるだろうが、命に別状は無い。
「お陰様で、何とか志願兵達を上手く集めることが出来そうです」
「流石にまだ早過ぎるんじゃないか?」
 バーネットが苦笑を返す。コボルト共の撃退は完了したが、難民達に生水、生食を避けて火を通す習慣を教え込む為の作業が残っている。募兵云々は、その後だ。
 一方でルチルは井戸水を数本の水筒に流し込み、厳重に封をする作業を終えた。
「しかし、結局は特異個体が仕掛けた毒素だったって訳か。情報屋としては良い収穫かも知れないがね」
「まさか、持ち帰る気ですか?」
 セロンガードが驚いた様子で、頭蓋面の奥の瞳を覗き込む。ルチルには亜人の血液や体液を分析する技術は無いが、どの程度の時間まで毒素が残っているのかは研究に値する。
「後で臭いを嗅いでくれるかい? あんたの嗅覚だけが頼りだ」
 ルチルの笑みに、ハヤトは頬を引きつらせた。
 尤も、ヴァイセントラフ砦に帰り着いた時には、井戸水からはパレグイラの血の臭いがほとんど消え失せていた。恐らく、その汚染効果は長くは続かないのであろう。
 パレグイラの生死が汚染効果の延伸に直結するかどうかまでは、流石に分からなかったが。

マスターコメント

 疫病への対応とコボルト撃退を如何にして並行させるかという、いささか面倒な任務ではありましたが、皆様の素晴らしい連携で完璧に遂行することが出来ました。  特異個体もどちらか一体は生き残るかと思いましたが、足止めと攻撃がしっかり役割分担されており、完全に斃し切ることが出来たのも大きなポイントです。  尚、パレグイラの持つ病原菌は完全に死滅しましたので、今後何かに使うということは出来ません。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年05月04日 20時42分12秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. クー=ウィッシュ

    クー=ウィッシュ、だ。 タンカー系のウォーリアだな。 依頼は、久々受けた。よろしく。

  2. セロンガード・シュタインドルフ

    こんばんは。 シューターのセロンガードです。 今回はよろしくお願いいたします。 感染経路については恐らく井戸の水ではないかと思われますが、残り1割の症状なしである人々が、未感染なのか無症状保菌者なのかで本当にそうなのかどうかわかるかと思われます。 既にヴァイセントラフ砦から治療や手当、調査の為に追加の帝国兵が十数名到着しているそうなので、感染経路と感染源を見つけ、特異個体のコボルトを倒してその死体を解析し、原因菌を探知した後に抗菌薬を作成するところまでがゴールかと思われます。 問題は、現段階ではコボルトの存在を察知できていない事でしょうか? 聞き込みを行ってコボルトの目撃情報を探る必要もありそうですね。 …ところで、魔法で疫病をどうにかできないのでしょうか?

  3. クー=ウィッシュ

    うん、状況的に井戸の汚染だな。 真っ先に行うべきは 井戸の水の即刻使用禁止と 飲み水の確保の準備(近隣の村から水を持ってくる、等)で病気の拡散阻止だと思う。 手順的には治療関連より症状の拡散防止の方を若干優先させた方が良さそうかな。 汚染されてない水の確保はかなり重要。何をするにも真っ先に必要になる。 クーはマジカルポケットに水の入った樽を準備して行こうと思ってる。

  4. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 >戦闘 戦闘はまぁ、特異個体を抑えつつ、多数いる通常コボルトを削って数の不利を無くし、 改めて特異個体を袋叩きにするって流れがベターな所か? >調査 疫病に関しては、まったくわかっていない所から推測する必要があるから、 まずは罹患者の行動を把握して、そこから共通点を見つける必要があるな。 まぁ、十中八九原因は井戸だろうが、その辺は道筋立てて確定させた方が良いだろう。 あとは余裕が有れば、ギルドに駆け込んんだ難民にも聴取をして、 感染しなかった理由の裏付けもしたいな。 >対策 そもそも世界観的な話ではあるが、病原菌って概念を俺達は認識していないと思われる。 根本的な原因の追究は難しいだろうから、症状に対する対処と、原因箇所(推定井戸)の 隔離あたりが、俺らで打てる手じゃないか? あと、魔法だと消毒的な事が出来そうな物は無いな。

  5. セロンガード・シュタインドルフ

    >戦闘 そうですね、フォーサイスさんのおっしゃる通りまずは取り巻きから処理致しましょう。 その際、特異個体の攻撃には注意したい所ですね。 >調査 全員の共通点を探れば、唯一の水源である井戸には早々に辿り着きそうですね。 聞き込みを行って手堅く行きましょうか。 >対策 感染源が井戸だと判明してからの対処はクーさんの案が良さそうですね。 ふむ…いわれてみれば病原菌って?となるのが必然ですか…となると、隔離と症状の治療が、我々の取れる行動どういう事ですね。 魔法が無いのはとても残念です。 尚更、状況の深刻さが増しますね…。

  6. ルチル・プルメリア・グレイハーツ

    情報屋のルチルだ。クラスはシューター。 残り時間が少なくなってからの参加だがよろしく。 >調査 アタイも感染源は井戸って見解で合ってると思うよ。 感染者たちの行動を洗えば共通点が見つかるだろうし、井戸の水源や付近で不審な存在の目撃情報を聞き出せばコボルトに行きつくのも難しくなさそうだね。 >戦闘 そっちもセオリー通りでいいだろう。 注意する所があるなら、特異個体を逃がさないように仕留める事と病原菌を操るヤツは迂闊に攻撃を受けるのは危険だってとこかね。 今は油断してくれてるようだが、知性のある個体だし不利を悟れば逃げ出す可能性も十分にあるだろう。 >対策 現時点で思いつくのは隔離策だね。 一般的に病原体に対する認知度がどの程度かは判断つかないが…未知の毒物と見れば特効薬などはすぐになさそうだ。 すぐに死ぬような毒性ではなく、十分な栄養補給と安静にさえしておけば自然回復できるような症状なのがまだ手の打ちようがある所だね。 薬草やヒールを使えば回復力を上げる事はできそうだが効力については保証しかねないね。 特異個体を倒したら完全に毒性が消えると限らないしな。 水を持ち込むならマジカルポケットの他にピュアウォーターも選択肢に上がるね。

  7. バーネット・フォーサイス

    >方針 とりあえず、大まかな取り組みを纏めると、 ・キャンプ内の物の利用を避けるため、食料や水等は事前に用意して持ち込み ・罹患者、非罹患者問わず、キャンプでの行動を聴取し罹患者のみの共通点が無いか確認 ・キャンプの特徴と罹患者の共通点から、疫病の原因を推測 ・原因を隔離して疫病の拡大と重症化を防ぎつつ、罹患者には症状に対する対処療法 ・不足物資が有れば外部からの調達、又は代替の供給手段を手配する 凡そこんな所か? >病原菌 一応Q&Aの医療水準のところに、 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 2.感染症ほか疾患について 『エーテル』によるものの場合は、上述のヒーラーが対応することが多いですが、現実世界にみられるような一般的な疾患についてはまだまだ未発達な状況です。外傷に対する対応が遅い場合なども含め、感染症による死亡は非常に多く、有効な治療は確立されていません。 こちらについても医療の主体としては上述の神殿、診療所などとなりますが、薬草学をおさめているものであれば薬師として(あるいはコミュニティにおける知恵袋的立ち位置として)、症候に即した薬草の類を調剤することも可能です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ってあるから、やはり汚染箇所からの隔離と、症状への対処療法が主になりそうだな。

  8. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    おーっす! 挨拶がギリギリになっちまってすまねぇ! ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ、よろしくな!! 疫病に関しちゃ俺は人伝に聞いた事があるくれぇで知識もさっぱりなんで役に立たねぇな… 聴き込みや状況捜査くらいの手伝いは出来ると思うが、メインはコボルト共の撃退だな! 特異個体を引き付けるのを中心に立ち回るつもりだが、パレグイラとやらの病気持ちは掠ったり触れるだけでも危険度が高そうだから回避を目一杯上げて触れさせずに斃すつもりで迎撃すんぜ! もう片方のフォロドとかいう奴は二刀流に蹴りってジルベルの戦闘スタイルにも似てそうだな。 ま、俺も二刀流と蹴り主体だから同じスタイルだがパレグイラを片付けたら援護に入らせて貰うぜ!

  9. セロンガード・シュタインドルフ

    申し訳ありません、 誤って送信してしまいました。 それならば 私は水や食料の他に隔離に必要なあれそれを取り揃えておくことにいたします。 トームルフヴィレッジに辿り着いた直後、コボルト接近の報が舞い込んできたところからスタートとのことですので、私はそのまま偵察に出てくることに致します。 戦闘は特異個体にbsを与えつつ取り巻きのモブコボルトを撃破することになりそうですね。

  10. バーネット・フォーサイス

    >個人行動 そういえば、俺が具体的に何やるとか言ってなかったな。 戦闘では基本的にアーケインでの足止めと範囲攻撃。 外見的特徴から特異個体が判ればその周辺を狙い、可能な限り逃がさない様にする。 疫病関連で言えば、医学・薬学で症状への対処法や処方薬の準備なんかをやろうと思ってる。 あとは、マジカルポケットで必要物資の運搬もするが、薬の材料とかが足りなければ、 森の中に探しに行くのも選択肢だな。

  11. ケン・Z・ブラッドリー

    顔出しがギリギリですまん ウォーリアーのケンだ どうやら厄介な敵なようだな これ以上被害が出る前にさっさと排除したいところだが・・・・・色々大変そうだな 聞いてる症状的には高熱・嘔吐・下痢となると飲水と食料が怪しいかな ここに来てから摂取したものとかの聞き込みと井戸の水の調査をしようかと思っているが、敵が出てきたらそっちを優先するつもりだ

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0