再起せよ、不忍の里!

真柄 葉

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シナリオID:757

オープニング


「キサキ殿、そこを何とか!!」

「フジサキ様、どうか顔を上げてください」
 旅館『巴屋』の玄関先で、地面に額を擦り付ける壮年の男『フジサキ・タスケ』。
 一方、困ったようにタスケを見下ろすのは旅館の女将『キサキ・アカネ』だった。
「申し訳ありませんが、私は観光地の経営に関して門外漢ですので、お役に立てる事はほとんどないと思うのです」
「もちろんそれは承知の上! 承知の上でお願いに上がったんです!」
「うーん、困りましたね……」
 一向に顔を上げないタスケに、アカネはしばらく考え込む。
「しかし、どうして私なのですか? 私はしがない旅館の女将ですよ? 特に集客効果のある案をご提案できるとは思えないのですが」
 戸惑うタスケに向け、アカネは問いかける。
「な、何を仰います! 古旅館『巴屋』を居住区でも名の知れた高級旅館へと育て上げたその手腕! 貴女程の経営者はこのシャルガネ居住区広しと言えど他におりません!」
 タスケはグッと拳を握り力説した。
「それは私の力ではなく、古くから頑張ってくれていた従業員の皆様の努力の賜物です。私は少し背中を押したにすぎませんよ」
「そんな事はありません! たかが背を押したくらいでこのボロ旅――いや、巴屋をここまでの繁盛店に出来るはずがありません!」
「買いかぶり過ぎですよ」
 猛烈にアピールしてくるタスケに、アカネは困ったように笑う。
「私がお伺いして何か変わるとは思いませんが……同じシャルガネ居住区に居を置く者同士、助け合いは必要ですものね」
「で、でしたら!」
 アカネの言葉にバッと顔を上げたタスケの表情が見る見る緩んでいく。
「本当にお役に立てるかわかりませんよ?」
「おぉ!! ありがとうございます、ありがとうございます!!」
 勢いよく立ち上がったタスケは、喜びのあまりアカネに詰め寄り、体の前で組まれていた手を取ろうとするが――。
「あ、あれ?」
 そこにあったはずのアカネの手は、いつの間にか口元へと移っていた。
「ともかく、一度『不忍(しのばず)の里』を拝見させていただけますか」
「も、もちろんです! 是非に、是非にお越しください!!」
 そんなアカネに、助けは再び深く頭を下げた。

●
 まるで城の城門ほどもある大きな門をくぐると、そこは緑に囲まれた小さな集落の様だった。
 アカネはタスケに案内されるままに集落の奥へと進んでいく。
「先代がこの観光地を開いた時には、それはもう大陸中から観光客が押し寄せたそうです」
「はい、お噂はかねがね。しかし、それがどうしてこのような有様に?」
 アカネは施設を見渡し疑問に思う。施設・設備の老朽化は仕方ないにしても、あまりにも手入れが行き届いてなさすぎる。
「お恥ずかしながら、創業当初は物珍しさからか、沢山の集客を誇っていた様なのですが、それも最初だけ。代わり映えのしない施設に客足は次第に遠のいていきました」
 どこか遠くを見つめる様に語るタスケ。
「そこで何か対策は打たなかったのですか?」
「はい、色々とやりはしました。土産物を充実させたり、シノビ犬を飼ってみたり……しかし、どれもお客を呼べるようなものにはなりませんでした」
 悲しそうにそう言うタスケ。
「わかりました。その辺りも踏まえた上で拝見しますね」
 そんなタスケに案内され、アカネは施設を巡っていった。

 施設を一周し、おおよその現状を把握した二人は、従業員が使う建物に戻ってきた。
「なるほど、これは想像以上ですね」
「面目次第もございません……」
 出されたお茶をすすりながら、アカネは溜息をつく。
「今日は営業されているのですよね? あまりに人気が少なかったですが……」
「はい、絶賛営業中です」
「そうなのですね……」
 茶碗から口を離し熱い吐息を吐いたアカネは、タスケをキッと睨み付ける。
「フジサキ様、このままでは近いうちにこちらの施設は閉鎖を余儀なくされるでしょう」
「うっ……。で、ですよね……」
「それをふまえた上で、現状の打破を望むのであれば、抜本的な改善が必要です」
「は、はい」
 先ほどまでの柔和な笑みは消え失せ、そこにあるのは敏腕経営者の顔。
「まずは財務状況の健全化と、従業員育成を並行して行います」
「な、なるほど……?」
「幸い『葉佩衆』は門下の多い派閥。一先ずの従業員には、修行の一環とし門下生を使うが賢明でしょう」
「よ、よくご存じで……」
「もちろん、従業員に対する待遇も改善しなくてはなりません」
「ふ、ふむ……」
「そして財務の健全化は急務です。無駄をそぎ落とし必要な所へ資金を回しましょう」
「た、確かに……」
「――ですが、私の出来るのはそこまでです。遊戯施設などの実働部分は私では助言ができません」
「そ、そんな!」
「そもそも門外漢だと申し上げたはずです」
「そ、それはそうですが……」
 がくりと落ち込むタスケに、アカネは表情を緩ませ話しかけた。
「ですので、そちらの部分は冒険者の皆様にお話をしてみるのはいかがでしょう」
「え、冒険者ですか?」
「はい、冒険者には様々な才能が集まっています。中には商人や貴族を親に持つ者も少なくないと聞きます。様々な知見、人脈を持つ彼らに助言を受けるのは非常に有効な手段と思います」
 言って再び茶碗を傾けたアカネ。
「お詳しいのですね……」
「噂で聞き知った程度の知識です」
 あまりの饒舌に呆気にとられたタスケに、アカネはニコリと微笑んだのだった。

解説

●目的 閑古鳥が鳴く観光地を盛り上げる為、アドバイスをお願いします。 ●場所 シャルガネ居住区の一角にある「シノビ」をモチーフにした観光地『不忍の里』。 世に広がる「シノビ」のイメージを拡大解釈したアトラクションの数々が目玉の遊戯施設で、敷地面積だけは無駄に広いです。 シャルガネ居住区の中でも山間の方にあり、交通の便はやや悪いです。 ●施設 ・シノビ屋敷:純シャルガネ様式の屋敷に様々なギミックを施したからくり屋敷です。迷路のようになっており、ゴールを目指します。ぼろいです。 ・シノビ体験:シノビが使うとされる武器や道具を実際に体験できたりするアトラクションです。「シュリケン」とか「ミズグモ」とか体験できます。しょぼいです。 ・シノビショー:正義のシノビが巨悪を倒す。そんな夢と希望にあふれる勧善懲悪モノのショーです。お遊戯レベル。 ・シノビ犬ふれあい広場:成犬から子犬までシノビ犬(予定)が沢山います。直接、犬と触れ合って遊べる広場です。飼育崩壊気味。 ・土産物屋:シノビをモチーフにした様々なお土産が売ってます。シノビ饅頭とかシノビ人形とかシノビ木刀とか。クオリティーはお察し。 ●人物 フジサキ・タスケ 観光地『不忍の里』の責任者。古いシノビの流派『葉佩衆』を継ぐ13代目当主なのだが、当人は元より流派は廃れに廃れ、シノビの技はパフォーマンスレベルにまで落ちてしまっている。アトラクションなどで見世物として披露するのが関の山な感じのレベルです。 キサキ・アカネ シャルガネ居住区にある旅館『巴屋』の出不明な敏腕美人女将さん。 ●補足 観光地は杜撰な施設管理により、かなり荒れ果てています。 不忍の里は『葉佩衆』の衆人が運営に携わっていますが、皆素人なので経営もガタガタです。 従業員教育はアカネが担当します。もちろん、サポートしていただいても構いません。 お客様は一般人を対象にしていますが、授恵者専用コースとか新設しても面白そうですね。 巴屋とのコラボレーションなんかも、ありかもしれません。

マスターより

OPをご覧くださりありがとうございます。 本シナリオを担当させていただきます、真柄 葉(まがら よう)と申します。 今回のシナリオは、観光地活性化! 皆様のアイデアでさびれにさびれた観光地に元気を取り戻してあげてください! 今回、運営様より公式NPCの一人『キサキ・アカネ』をお借りしています。リプレイの中での登場も可能ですので、これを機にお近づきになりたい方はお話してみてはいかがでしょう。 あ、彼女はただの旅館女将ですよ(棒 なお、不明な点がありましたら、ギルド職員であるNPCホリーが回答させていただきます。相談掲示板へ「Q:」から始まる形で発言してくださると助かります。 それでは、シナリオ内容をお気に召していただけましたら、ぜひご参加ご検討ください! ロスガリアの大地で皆様にお会いできることを楽しみにしております。

リプレイ

「こりゃ、見事なボロ屋敷だな」
「どれだけ維持管理をサボっていたかよくわかる、ます」
 廃屋一歩手前のシノビ屋敷を前に、アーシェル・G・クラインと蒋・璃龍が溜息をついた。
「それじゃ、早速作業に取り掛かる、ます」
「だな。まずは掃除と修繕だ」
 腕まくりする璃龍に、「よっしゃ!」とアーシェルも倣う。
「ちょっと、待つ、です。予算も限られる中で、これを丸々改修するのは現実的じゃない、です。だから、そのまま使う、ます」
 と、意気込むアーシェルを璃龍が制した。
「そのまま使うって……これじゃほとんどお化け屋敷だぞ?」
「それ、です。お化け屋敷にしてしまう、です」
 そう言うと、璃龍は静かに瞳を閉じ――。

『かつて影としてとある主君に仕えたシノビ達が居た。彼らは主君の命で、様々な汚れ仕事に手を染め続け……裏切られた。信頼していると思っていた主君は、彼等を道具としてしか見ていなかった。不要となり、捨てられ、口封じの為に殺された彼等は、深い恨みを抱いたまま怨霊となり、今でもここで主君への復讐の機会を狙っている――』

「なんて、筋書きはどうだ、です」
「うへぇ……変な汗かいたぜ」
 妙におどろおどろしい解説(ナレーション)をする璃龍に、アーシェルはたじろいだ。
「でも、面白そうだな。怨霊となったシノビに代わり、悪の主君を討つって筋書か?」
「うん、シノビ屋敷のからくりを使いつつ迷路のように進んでいって、最後は主君役の配役(エキストラ)に一太刀浴びせてクリア、です」
「いいじゃねぇか。復讐劇の主人公になるわけだな。それなら、貸衣装とかも必要か」
「貸衣装、です?」
「その方が雰囲気出るだろ? やるなら徹底的にだ」
 見上げてくる璃龍に、アーシェルがニッと口元を歪めた。

●

「はい、ちゅうもーく!」

 里の詰め所ではタスケ達、運営者に向けサフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブが自作の画布(フリップ)を取りだした。
「この里を盛り上げる為には、モノ(施設)の改善はもちろんだけど、思い出(非日常)を提供することが大切だと思うんだよね!」
「うむ、それは開業当初から心がけているぞ」
 と、サフィラの言葉にタスケがうんうんと頷いた。

「あまーーーい!!」

 しかし、サフィラはタスケにビシッと指を指す。
「ちょろいぜあまいぜちょろあまだぜ、フジやん!」
「フ、フジやん?」
「その心がけの結果がこれ! 隠れすぎる里! 廃墟!」
 驚くフジやんを気にもせず、サフィラは壁に掛けられた里の全景図をどんと叩いた。
「ただでさえ交通の便が悪いこの場所を、もっと特別なものにしないといけないのだよ、フジやん!」
「ふ、ふむ」
「ってなわけであたしが提案する案(プラン)はこちら!」
 自前の画布(フリップ)を一枚捲り、出てきた絵(イラスト)に皆が注目する。
「一つ! シャルガネ居住区の繁華街(メインストリート)まで、シノビさん達がお出迎え! 『殿(姫)! お迎えに参上しました!(シュタ!)』。なんて演出でお出迎えするんだよ! どう、熱い展開だと思わない!?」
 いつの間に用意したのか、サフィラは自前のハリセンで机をバンバンした。
「しかも、プラン2では途中の林道で葉佩衆の門下生が、悪のシノビを装って襲撃してくる演出(サプライズ)付き! 『殿(姫)! ここは我らが押さえます、早く里へ!』なんて、超燃えるよ!」
「神出鬼没のシノビショー、すごく面白そうですね!」
「はい、出迎える所から既におもてなしが始まっているなんて、とても心躍る体験ですね」
 話を聞いていたトーラとセツリもサフィラの案に納得の表情。
「ですが、そこまで大掛かりなおもてなしですと、やはり予算――特に人件費が心配になりますね」
 一転、セツリはその裏でかかる費用について懸念を示した。
「そうですね。人を雇うとなるとお給金も必要でしょうし……」
「はい、設備や施設を使わない良い案だと思うのですが――」
 と、二人が内情の心配をしていると。
「門下生にやらせればいいだろう?」
 フジやんが声を上げた。
「大丈夫なの、フジやん?」
「ああ、敵味方に分かれるのなら実戦形式の修行にもなる。相手が同じシノビなら遠慮はいらんし、迫力ある方が客受けもいいのだろう?」
「それはそうですが……本当に人件費は度外視でいいのですか?」
「それだけ儲けさせてくれるんなら先行投資だ」
「ふむ、ご理解いただけるのは非常にありがたいですね」
 頭の中でそろばんを弾くセツリに、フジやんはどんと胸を叩いた。
「人を使っていいのなら、他にもやりたいことがあるんですけど、いいですか?」
 と、今度はトーラが問いかける。
「うん?」
「宣伝です!」
 グッと拳を握り力説するトーラ。
「せっかく改修(リニューアル)をするんですから、これを宣伝しない手はありません! シャルガネの街はもちろんですけど、もっと外に目を向けるべきです! 近くだとエドゥノーグとか! 冒険者達が今たくさん来てますし、なんだったらギルドにチラシなんかを置いてもらうっていう手もあると思うんです!」
 そう言うとトーラは懐から一枚の紙を取り出した。
「あまり遠隔地は距離的に難しいでしょうけど、辺境都市のギルドでこれを目にすれば、きっと足を延ばしてくれる人もいます!」
 サフィラ以上の熱い言葉でチラシの有用性を語るトーラに、フジやんも驚きつつ何度も首を振った。
「でしたら、そちらの予算も確保しないといけませんね」
 それを了承と取ったのか、セツリの眼鏡がギラリと光る。
「うんうん、中は他の子達がすごいものに改造してくれそうだし、あたし達はどれだけ人を呼べるかだね!」
「ですね! せっかくいいもの作っても、人が来ない事には始まりません!」
 熱い大志を抱く者同士、拳を重ね合うトーラとサフィラ。
「まだ話はこれからですよ。次は施設に使う予算についてです――」
 そしてスイッチが入ってしまったセツリが、次の話題へと話を進めた。

●
「よぉ見てみぃ、この惨状を! これがあんたらの今や!」
 額に巻いたお日様マークの鉢巻きをなびかせ、竹刀を肩に担ぐロウランが、葉佩衆の若いもんを正座させ、右へ行ったり左へ行ったり。
「なんや、あんたら商売舐めとんのか! こんな汚らしいとこに、誰が好き好んで足運ぶねん!」
 バシンと竹刀を地面に打ち付け、ロウランが耳をいきり立たせた。
「なんやその顔は! ヘラヘラしくさって! それでも葉佩の名を名乗るシノビか! 天下の葉佩衆が聞いて呆れんで!!」
「ええか! あんたらの気合いが足りんから、アカネの姉御が出張る羽目になったんや! 反省しぃ反省!」
「あんたらみたいな愚図に姉御のお言葉はもったいないんやけど、しゃーない。聞かせたるわ! 耳の穴かっぽじってよぉー聴くんやで!!」
 怒涛のしゃべくりで葉佩衆の若いもんたちに叱咤するロウランが、すすすっと脇に避ける。
「姉御! このどーしようもない愚図どもに、バシッと言ったって下さい! バシッと!」
 脇に避けたロウランは両手を腰の後ろで組み、直立不動でお言葉を待つ。
「なんだかすごく喋りにくいのだけど……」
 代わってアカネが苦笑しながら現れた。
「皆さん、どうか楽にして聞いてください」
 にこやかに話しかけるアカネの声にほっとしたのか、足を崩そうとした若いもんたちは隣で睨みを利かせるロウランに再び背筋を伸ばす。
「もぉ、ロウランさん、これでは貴方の事が怖くて話を聞くこともできませんよ?」
「姉御が優しすぎるんですよ! この腑抜けたシノビ達に、姉御からシノビとしての心がま――」
「ロウランさん?」
「ハヒィ!」
 振り返ったアカネの笑顔に、ロウランは背筋と共に尻尾も直立不動。
「お待たせしました。それでは、皆さんのこれからのご予定をお話します」
 再び若いもんの方へと向き直ったアカネは、これから彼等に行う教育内容を懇切丁寧に説明し始めた。

●
「この林道ももう少し整備した方がいいね。雰囲気は悪くないですけど、道が悪すぎるや」
 里へ続く林道を、街へと向かいながらサフィラは呟いた。
「ですね。安全第一です! という訳で、皆さん、林道の整備と清掃を行いましょう!」
 トーラはくるりと振り向く。そこには、アカネとロウランの教育をみっちり受けた葉佩衆の若いもん達が続いていた。
「ちょっと難しいけど、綺麗にし過ぎないでね! 折角の雰囲気だからうまく活かしたいんだ!」
 サフィラも後ろに続く葉佩衆に目をやる。若いもん達の目つきは、到着した時とはまるで違っている。
「こんなにすぐに変わるもんかな……?」
 そんな様子に、サフィラはこそっとトーラに耳打ちする。
「わたしも驚いてます。でも、これが本来のシノビの姿だったり?」
「本来の姿?」
「はい、影となりて人知れず任務を遂行する。何かの本で読んだことがあります」
「ほほぉ。それじゃこの子達は任務を受けてるモードに入ってるのかぁ」
「ああ、なるほど、そうかもですね」
 二人してこそこそと話していたら、いつの間にか林道を抜けた。
「っと。それじゃ、迎えとハプニングの方法を検討しましょうか」
「そうだね。まず初めに街のどこを使っていいか、役場……だっけ? そこに確認しに行ってみよう!」
 二人は若いもん達に林道整備を託し、街へと向かっていった。

●
「こんなもん誰も買わねぇだろう……」
 土産店へ足を運んだアーシェルが呆れながら店内を見回る。
 それなりに品ぞろえはあるのだが、どれもこれも埃をかぶっていた。
「いくら焼き菓子だからって、こんなもん食ったら腹壊すぞ……」
 菓子箱を一つ取り上げ、アーシェルは顔をしかめる。
「あれ、アーシェルやん。なにしとるん?」
 と、そんなアーシェルを店の外を通りかかったロウランが見つけ声をかけた。
「ああ、ロウランか。こんな所でどうした……って、すげぇ荷物だな。手伝うか?」
「お、助かるわぁ。女の細腕にはきつかってん」
 ドスンと地面に荷物と下したロウランは、コキコキと肩を鳴らしながら回す。
「結構でかいな。何が入ってんだ?」
「売店の食材やで。新作メニュー取り揃えて新装開店でお客様をご歓迎や!」
 そう言うとロウランは地面に置いた荷物を叩いた。
「へぇ、新作ねぇ……うん? これは」
「なんや、興味引くもんでもはいっとったか?」
「ああ、いいこと思いついた。その売店とやら、俺にも手伝わせろ」
 きょとんと見上げるロウランに、アーシェルは悪戯な笑みを向けた。

●
「――はい、そこです。そこで観客席を巻き込む様に」
 シノビショーが行われる舞台の脇で、セツリが演目に目を光らせる。
「本来の身体能力を発揮すれば、もっと見栄えのいいものになります。一般の方にはできないアクロバティックな演技を心がけてください」
「セツリさん、お疲れ様、です」
 と、演技指導に熱が入るセツリの元に、子犬をかかえた璃龍が訪れた。
「璃龍君、お疲れ様です。その子は?」
「先日生まれたシノビ犬の子犬、です」
 璃龍は子犬を愛おしそうに抱えながら答える。
「それで、相談がある、ます」
「はい、なんでしょう?」
「この子達も、ショーに加えて欲しい、です」
 と、璃龍は後ろに続くシノビ犬たちに手招きする。
「皆、とても賢い子たちばかり、です。きっといい役者になる、ます」
「しかし、この子達はふれあい広場のシノビ犬では?」
「広場は閉鎖した、ます」
 と、璃龍はそんなセツリに経緯を語る。飼育崩壊気味だった広場を思い切って封鎖し、ショーと一体化させようと考えたのだ。もちろん、あぶれた犬達は里親に出す。くさってもシノビ犬。そこらの犬よりは数倍も賢い。きっと貰い手も沢山来るだろう。
「なるほど、わかりました。そういう事でしたら――」
 セツリは璃龍の話を聞き、練習に汗を流すメンバーを呼び集める。
「少し筋書を変えてみましょう。この子達も交えれば子供達の受けもいいでしょう」
 集められたメンバーを交え、皆はショーの構成について熱く議論していった。

●
「苦無型チョコレートに、シノビ飯。兵糧丸風チョコレートに毒入り団子風団子、それからシノビ犬型チョコレートっと」
「チョコ多いな!」
 次々に出来上がってくるロウランの新作に、アーシェルが思わずツッコみを入れた。
「え、ええやろ別に! それより、そっちのは何なん?」
 一方、アーシェルの方はというと……。
「これか? これは『鉄球肉塊』だ!」
「いや、ネーミングセンス。めっちゃ堅そうやん……」
 あまりに無骨すぎる肉の塊に、ロウランは呆れる様に言った。
「見た目はこんなだけどな、切ってみると――」
 そんなロウランにニヤリと笑ったアーシェルは、巨大な肉塊に包丁を入れる。瞬間、あふれ出す肉汁と食欲を刺激する香り。
「中はレアなんや……これ、美味そうやん」
「だろ? 見た目のインパクトといい、最高の肉だぜ!」
 言いつつ、アーシェルは味見だと口の中に一切れ放り込んだ。

●
 アカネの当初の読み通り、冒険者達はその知識と経験をいかんなく発揮した。
 シノビ屋敷は、そのからくりを生かしつつ、ストーリー仕立ての幽霊屋敷へ。
 シノビ体験は二極化。子供への受けがいいようカラフルなアイテムを用意し、授恵者用には、里の裏山全体を利用した高難易度のコースを用意。死すら覚悟するほどの障害が待っているとか。
 シノビ犬ふれあい広場は閉鎖。シノビショーと合併することで、より楽しめるショーへと昇華させた。
 土産物店は閉鎖し、『シノビ工房』体験型工芸品店へと姿を変える。自らが体験しつつ作り上げたシャルガネ風のアイテムは、きっと最高の土産ものとなるだろう。
 更に里の軽食の取れる売店を置いた。シノビにまつわる様々なメニューを取り揃え、施設だけでなく、舌でも里を味わってもらう狙いだ。
 そして、不忍の里へと向かう道にも様々な仕掛けがある。
 お出迎えシノビ制度。敵シノビ襲撃イベント。お忍び姫拉致イベント等々。潤沢な人員を利用した、派手な歓迎イベントで客の期待を最大限まで煽る。

「ギルドへのアピール完了です! これできっと冒険者にも来てもらえるはずです!」
「街の許可もばっちり! シャルガネ全土を巻き込んで、ど派手にやってやるぜい!」
 里の外を担当していたトーラとサフィラがハイタッチ。
「ショーの方も準備万端です。予算もなんとか行けそうです」
「シノビ犬達の貰い手も見つかった、です」
 セツリと璃龍は見てのお楽しみと二人で微笑み合った。
「売店も工房も準備万端だぜ! それにしてもシノビってのは優秀な奴ばっかだな」
「そらそうや。あのアカネの姉御が仕込んだんやで。そんじょそこらのシノビと一緒に――」
「ロウランさん?」
「ハヒィ!」
 アカネにいい笑顔を向けられビシッと背筋と尻尾を伸ばすロウランが、皆の笑いを誘った。

 こうして再生に向けた不忍の里リニューアル計画は、冒険者達の様々なアイデアをもりこみ完成したのだった。

マスターコメント

この度はシナリオへのご参加、誠にありがとうございました! 不忍の里の改善計画に、思っていた以上に様々な案を頂き、「これ絶対面白いアトラクションやん……行きたい」と書きながら一人でぶつぶつ呟いてました(怪しい人物 まだオープンはしていませんが、以前のような活気あふれる遊戯施設へと生まれわかった不忍の里。次は貸し切りで『逃●中』とかしたいですね!
ショートシナリオR

ショートシナリオR普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年04月10日 08時20分49秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. トーラ

    トーラです。よろしくお願いします! 遊興施設の再建ということですけど、問題はいろいろあるみたいですね。 わたしが気になったのは、タスケさん含む従業員の方々の意識でしょうか。 施設の説明の最後にあるように、すぐ分かる問題点があるのに改善する様子がないみたいなんですよね。 お客さんが来なくてやる気が出ないのかもしれないですけど、それで質が落ちてお客さんが来なくなる悪循環になってるかもです。

  2. セツリ

    ヒーラーのセツリです、よろしくお願いします。 財政について「無駄を削ぎ落し」といった話もありましたが、どこまでできるのでしょう。人を集めるならアトラクション自体は減らせない気がしますが……

  3. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! うーん、建物のガタつきもそうだけど 従業員の人たちがモチベーション上がるようなしくみ作っていかないとあたしたちが離れた後が心配だよねっ アトラクションもできる範囲で改良できたらいいねー(うーん)

  4. 蒋・璃龍

    ウォーリアの蒋・璃龍、です。よろしくお願いする、ます。 シャルガネ居住区は地元なので、頑張りたい、です 全体的に、まずは見た目をキレイに、従業員の動きもレベルアップしないと、が基本になると思う、ます コストカットするのであれば、生き物の飼育が一番お金がかかる部分だと思うので、忍び犬を里親に出して数を減らして、ふれあい広場ではなく、ショーの一環にして見るとか、面白そうだと思う、です(イルカショーならぬドッグショー そのうえで、各アトラクションを改善していくための案を話せればと思う、です

  5. No.5

    うちはシノb……ヒーラーのロウラン、よろしゅー。 トーシロでも経営できるもんなんやな。それがこの結果っちゅうわけ…… お客さん楽しませたい、活気が欲しいんならまずは従業員の意識改革が先やとうちも思うで。

  6. アーシェル・G・クライン

    アーシェルだ。 よろしく頼む。 ボロかったりしょぼかったり散々たる有様だな……。 ここまでくると逆に腕が鳴るぜ。 力仕事や修繕関係は任せてくれ。 個人的には土産もどうにかしたいな。 従業員の意識を変える、か……。 いきなりダメ出しするのは良くねぇよな。 まずは俺達が魅せる動きを披露して、こんな風に立ち回ってみたいって憧れの気持ちを持ってもらうのはどうだ? ロウランはシノビらしいし、魅力的な華揃いだから男女問わず魅了出来そうだな(しっかりと聞いていたらしい( 気持ちを前向きにした所で一人一人の動きを見て改善点を指摘しつつ、良い所はしっかり褒める。 ……なんて思いついた。 従業員の意欲向上にショーの役によって給料を上げる方法を考えついたが、人間関係がギスギスする危険もあるよな。 アトラクションはしょぼさを改善しつつ、子供も楽しめるように簡単にクリア出来るコースも用意してみるか? 子供(初級)コース・中級コース・上級コース……3つ用意するのは敷地的に厳しいだろうか。 忍び犬達を里親に出してドッグショーにするのもいいな。 いっそ不忍の里で里親募集をしてみるか?

  7. セツリ

    >意識改革 結局、頑張って盛り上げないと従業員の皆様の待遇も落ちるばかりですしね……駄目だしばかりではいけないのはそうですが、ある程度短期間で上向きにするなら危機感もいるでしょうか。 困る度に誰かに頼み込んでも、毎回助けが得られるとも限りませんし。 >アトラクション ぼろ……こほん、あまり豪華ではないのは、直せるに越したことはないですがただでさえ経営難のところに先立つものが必要なのが難しいところ。 いっそ、当面はそれ自体を雰囲気に取り込めないでしょうか。「表向きは質素、しかしてその実態は」みたいな。

  8. 蒋・璃龍

    >従業員の教育 こちらはアカネさんが対応してくれるみたいなので、手伝いたい場合を除けば、アトラクションの方に集中しても良さそう、です >アトラクション いくつか案が浮かんだので、ちょっとずつ箇条書きで書いていく、です。前に出した案も、含んでる、です ・シノビ屋敷 ぼろさを逆に利用したおばけ屋敷化 「かつて影として、主に仕えた忍びたちも今は昔、時の権力者によって裏切られ、不要と切って捨てられた彼らは、死してなお、恨み妬みをもつ怨霊としてこの世に留まっている……」 のようなアナウンスでスタートし、各チェックポイントを巡らせつつ、忍らしい回転壁、天井から逆さ吊り、移動する壁で迷わせるなど、ホラー体験 ・シノビ体験/お土産屋 道具で遊ぶよりは、持ち帰れるお土産づくり、工芸品製造体験みたいなことを提案 何が作れるか次第だが、手拭染め、草履作り、扇子の紙染&骨へ貼り付けなどを習得してもらう 習熟して良いデザインを作れるようになったら、それはお土産としても販売するように ・シノビショー/シノビ犬ふれあい広場 前に書いたとおり、ふれあい広場は無くしドッグショー化 ショーのあとはふれあいタイムで、抽選での記念写真撮影などで集客効果を ・可能なら飲食店の併設 お昼ご飯を外部で取るより、園内で完結させるため >アトラクション改造に向けて お化け屋敷、工芸品作り、動物のショーとかは、それこそ、似たようなことをやっている場所があると思う、です 従業員で各アトラクションのリーダーを決めて、そういったところを巡って良い点、独自要素を出せる点を勉強してくると良さそうだと思う、ます

  9. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    >従業員教育 アカネっちにちょこっと要望して全面的におまかせしたほうがよさそうだねっ >アトラクション お化け屋敷良さそうかもっ! 施設のボロさを逆手に取ったいいアイディアだねっ! あ、そうだ!不忍の里までの交通の便の悪さを利用して葉佩衆のお出迎え&敵対するシノビ(葉佩衆のエキストラ)の襲撃イベントとかやるとお客さんも盛り上がると思うんだけどどうかなっ?

  10. トーラ

    わたしはリピーターが増えるよう、季節ごとのイベントや忍者らしく神出鬼没のショーを提案してみようと思ってます。 来るたびに新しい体験が出来ればまた足を運ぼうという気になって貰えると思うので。

  11. セツリ

    >シノビ屋敷・お化け屋敷 それは良さそうですね。 シノビの方々が怨霊、というだけだとシノビテーマのアトラクションなのに悪者のような印象もありますし、最後は志を失っていないシノビが助けに入る、とか……? ショーのアトラクションと被る部分があるかもしれませんが、逆にショーの導入のような位置に出来ないかな、と。

  12. No.12

    うちはアカネの姉御と一緒に従業員教育のサポートに行こか思っとるで。 >シノビ屋敷・お化け屋敷 そらええやんなぁごっつええ感じやわ。でもせやなぁ……怨霊、敵がシノビっちゅうのは…… 誰がどう見ても悪!っちゅうもんにせにゃアレかもわからん。他の案浮かばんけど。 >飲食店の併設 特徴的な料理とかデザートなんかも提案して作ってこれがうまいこと流行れば…… ぎょうさん収益も見込めそやな。

  13. アーシェル・G・クライン

    出ているどの案も魅力的だな。 反対意見は一切無いぜ。 >シノビ屋敷 ボロさを逆に活かすんだな、了解。 コストを抑えつつ壊れそうで危ない所だけ修理しとく。 >取りかかるもの 力仕事や修理に回るな。 後は手先には自信があるから、工芸品体験で作る物を里の奴等に教えたいと思ってる。

  14. 蒋・璃龍

    >お化け屋敷 むむむ……確かに、お化け屋敷で忍者が悪者ばかりになるのも、ちょっと心苦しい、ですので黒幕は実は裏切った主が忍者を操っていた、みたいなエンディングを追加してみる、ます >プレイング 忍屋敷とお土産屋の方針についてと、ドッグショーの概要については載せた、ですけれど、文字数の関係で飲食店関係とか、修理や募集、教育関連はほとんどかけてない、ですので、かける方にお願いする、ます

  15. アーシェル・G・クライン

    >飲食店 俺で良ければ書いておく。 特徴的な料理って言うと兵糧丸か? デザート系も好まれそうだな。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0