ホーリーマーケット・授恵者オンリー!
椿油
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シナリオID:742
オープニング
●サークル番号は東神殿ア32ab
「やったぁぁ!! 受かった!」
「皆! 原稿落としちゃ駄目よ!」
「マズい、まだ白紙だわ……!」
ここはドワーフ王国の冒険者ギルド内にある小さな合同サークル。構成員は全員、ギルド受付嬢達である。
「おめでとうございます! ところでそんなに焦って何をするんですか?」
無知な受付嬢も、勿論いる。無視して作業をカリカリと進める他の受付嬢達。
「授恵者オンリーよ、リル」
問いかけてきた受付嬢リル=ウェンシーに、一人のサークルメンバーが答える。
「授恵者……オンリー?」
まだ頭の中が『???』な、リル。
「我々ドゥジン信徒は今まで英雄達の赤裸々な面を後世に残してきた……でもそれだけじゃつまらない! 飽きた! そんな人の為のオンリーが授恵者オンリーよッ!!」
「は、はぁ」
やや引いているリルをよそに語り続ける、サークルメンバー代表のガンマ・オータック。
「折角だからリル、貴方もドゥジンの信徒になってみなさい。きっと良さが分かるわ。さぁおいでこっちの沼に……」
「と、とりあえず依頼書の整理してきまーす!」
リルはそそくさとその場を立ち去った。
●案の定、数日後
「はぁ!? ニメアが病気で床に伏せて原稿が描けない!?」
サークルメンバーの一人、ニメアが熱を出したというのだ。リルはその会話を聞いていた。
「ページ数どうするのよ!! ニメアの部分だけ空白だし、そもそも彼女内容まだ決めてな……あっ」
リルは嫌な予感がした。そして、すぐにガンマに肩を掴まれた。
「ねぇリル? 1からやり方教えてあげるから、ドゥジンの信徒にならない?」
「やっぱり私ですか!? 私、絵そんな上手くないですよ!?」
「その方が味が出るってものよ。前に見たけど、リルの絵は結構上手い方よ、素人にしては」
「は、はぁ」
何だか、もう逃げられない気がする――。そう思ったリルだった。
「お願い! 内容何でもいいから! 絵でもコマ割っても文字1行でもいいから!」
「そ、そこまで言われたら文字1行より絵を描きますよ! 折角お金出しているんですし!」
リルは文字1行だけ参加して、みんなの負担を増やすのは流石にシャクだった。
「……ありがとう! 終わったら打ち上げしましょう、リル」
「あっ」
参加宣言してしまった事に、今気づいたのだった。
「やったぁぁ!! 受かった!」
「皆! 原稿落としちゃ駄目よ!」
「マズい、まだ白紙だわ……!」
ここはドワーフ王国の冒険者ギルド内にある小さな合同サークル。構成員は全員、ギルド受付嬢達である。
「おめでとうございます! ところでそんなに焦って何をするんですか?」
無知な受付嬢も、勿論いる。無視して作業をカリカリと進める他の受付嬢達。
「授恵者オンリーよ、リル」
問いかけてきた受付嬢リル=ウェンシーに、一人のサークルメンバーが答える。
「授恵者……オンリー?」
まだ頭の中が『???』な、リル。
「我々ドゥジン信徒は今まで英雄達の赤裸々な面を後世に残してきた……でもそれだけじゃつまらない! 飽きた! そんな人の為のオンリーが授恵者オンリーよッ!!」
「は、はぁ」
やや引いているリルをよそに語り続ける、サークルメンバー代表のガンマ・オータック。
「折角だからリル、貴方もドゥジンの信徒になってみなさい。きっと良さが分かるわ。さぁおいでこっちの沼に……」
「と、とりあえず依頼書の整理してきまーす!」
リルはそそくさとその場を立ち去った。
●案の定、数日後
「はぁ!? ニメアが病気で床に伏せて原稿が描けない!?」
サークルメンバーの一人、ニメアが熱を出したというのだ。リルはその会話を聞いていた。
「ページ数どうするのよ!! ニメアの部分だけ空白だし、そもそも彼女内容まだ決めてな……あっ」
リルは嫌な予感がした。そして、すぐにガンマに肩を掴まれた。
「ねぇリル? 1からやり方教えてあげるから、ドゥジンの信徒にならない?」
「やっぱり私ですか!? 私、絵そんな上手くないですよ!?」
「その方が味が出るってものよ。前に見たけど、リルの絵は結構上手い方よ、素人にしては」
「は、はぁ」
何だか、もう逃げられない気がする――。そう思ったリルだった。
「お願い! 内容何でもいいから! 絵でもコマ割っても文字1行でもいいから!」
「そ、そこまで言われたら文字1行より絵を描きますよ! 折角お金出しているんですし!」
リルは文字1行だけ参加して、みんなの負担を増やすのは流石にシャクだった。
「……ありがとう! 終わったら打ち上げしましょう、リル」
「あっ」
参加宣言してしまった事に、今気づいたのだった。
解説
絵を描く事になったリルが描く内容を、みんなで推薦しあって決めよう! というドゥジン的日常シナリオです。依頼参加の皆さんは、その場(ギルド)に偶然居合わせて話を全て聞いていたという体になります。ガンマさんは声が大きいので。
【目的】
リルが合同ドゥジンシ(アンソロジー)に描く内容を決めてあげる。カップルでもよし、一人でもよし、群像劇でもよし。アドバイス等あるとより成功度が高くなります。
【アンソロジー内容】
タイトル「授恵者は尊い!~種族と職業てんこもり~」
直球なタイトルですが、笑える内容だったり授恵者が恋愛してたりする、何でもありな合同誌です。
同性愛もサークル内で幾人か描いてます。全50枚+オマケイラスト付き。
【イベント概要】
イベント開催地:辺境都市群、ヴェルクリエ近郊
イベント名:ホーリーマーケット220
オンリー名:授恵者オンリー「れし★ふぇす」
名の通り授恵者だけを扱った礼拝イベントなので、描かれる絵は種族やクラスに関わる物のみとなります。ヒューマンのウォーリアいいよね!とか、ハーフリングのキャスター素敵よ!とか、そんな感じです。
ヒュマエル(ヒューマン×エルフ)や、リンビス(ハーフリング×ハーフビースト)等の種族愛を貫くもよし。
キャスヒラ(キャスター×ヒーラー)や、ウォーリア総受け等のクラス愛もよし。
リルは一応装備や装飾も描けます。ドゥジン適性が高い子です。
【NPC】
◆リル=ウェンシー
今回の被害者もとい挑戦者。これをきっかけにドゥジンの信徒になるかもしれない。地雷は無いそうです。
◆ガンマ・オータック
サークル代表。声が大きいのでこのギルドの受付嬢の活動内容が良く分かる。同担拒否で推し種族はヒュマビス(ヒューマン×ハーフビースト)だそうです。
◆セーユ、コスプ、ニメア、その他モブ数名
サークルメンバー達。ニメアは熱を出していて来られないが、一応メンバーなので記載。
マスターより
春ホリの季節がやってきました。椿油です。
今回は絵画の神ドゥジンの信徒達の起こすドタバタ劇と一人の悩める受付嬢の相談事をテーマにお送りします。(ドゥジンはワールドガイドに載っています)
これを機にリルを沼に沈めてやるのもまた一興かもしれません。ただ、NPCの皆さんは出ないオンリーイベントなので、ウィリアム素敵よ描いて! とかアナンディーンが最推しだ! とかは出来ないです。NPCナマモノ派の皆さんごめんなさい。
現役授恵者の皆様の推しな種族・クラスへの愛を語ったプレイング、お待ちしております。
リプレイ
焦っているリルの所に駆け寄ってくれた、四人の授恵者達。そう、このオンリーの要の彼ら。
「皆さん、すみません……! お力添えをお願いします!」
リルはペンは握ってはいるものの、描く内容が出て来ない。これからドゥジン沼に沈むであろう彼女の為、サークルリーダーのガンマも大声で鼓舞している。
そして、最初にストレガ・L・リベルガストラから頂いた一声は。
「ドゥジンシて恋愛モノばかりじゃないのだ。そういうのも出していいと思うのだ」
そう言いつつ、お茶を用意してくれたストレガ。
「あっ……ありがとうございます!」
「リラックスすると想像力も働くのだ。で、好きなものを出したらいいと思うのだが、ネタがないと」
「はい、そういう事なんです。描ける事は描けるんですけど、引き出し? っていうんですかね、想像力に乏しいものですから」
「ここはギルドなのだ、資料室はネタの宝庫なのでは?」
リルの頭の上にビックリマークが浮かんだ。
「……でっ、ですよね!? そういえばここドゥジンサークルじゃなくてメインはギルドですし!」
「セイユ、コスプ! 資料室からエモーショナルで尊い資料持ってきて!!」
ガンマがサークル部員の受付嬢達に指示を出す。沼に沈める為なら手段は問わない。問うもんか。
「あとは、吟遊詩人からヒントを得るのもいいと思うのだ」
冒険譚を歌にする彼らの中には、ドゥジン信徒も少なからずいるだろう。発想の転換である。
そして追加情報でストレガから念写が送られて来た。『日常もの』のアイデアが次々とリルの脳裏に入る。美味しそうなテロ級の食事、魔獣を倒すパーティ、そしてダンジョンで食べる飯。
「はわ~! 凄く面白そうです……! ありがとうございます!」
「まあ、最初に言ったよう得手とするものを描くといいのだ。本人が楽しくなくては」
「ですね! 今のを参考に、得意な物書き出してみます!」
紙の端っこに、自分が描ける物をリストアップしていくリル。マグカップに入った飲み物、美味しいお菓子、結構流行ってきているチョコ。これ位なら描けそうか。
そして、ヴィノニスも提案をしてくれた。
「ヒーラー×ウォーリアとかどうかしら」
「そんな組み合わせあるんですか?」
リルは世の中の広さを知らない。マイナーな組み合わせだって無い事は無い。
「普段は支援役になることが多いヒーラーが、ウォーリアを逆に攻めるの。加護の力で感覚を部分的に鋭敏にさせたり、逆にマヒさせてじっくりと弄ったり……」
「わお」
何故かリルが赤くなっている。マヒプレイは新しいと感じたのだろうか。
「で、それを受けるのは鍛え上げた身体を持つウォーリアだから、ヒーラーの愛情たっぷりの攻めにもどこまでも付き合えるのよ。他のクラスには真似できないはず!」
「いいですね! ふむふむ、強靭なら耐えられる……」
どこをメモしているのか。
「合同ドゥジンシ……?」
そして、ドゥジンの事を良くは知らないが、ハリーヌ・ヨツユビはそれを一大ビジネスチャンスと捉えた。
「愛を綴った本を描くのでございますね? して、最近の流行りネタなどはあるのでございますか?」
それについてはガンマが答えてくれる。
「最近はチョコ攻めとかダンジョンネタとかも多いわね。え、チョコ攻めって何かって?……チョコパックみたいなものよ! 対象年齢上がる物もあるし描くのはちょっと難しいケド」
ドゥジン界隈も流行りに乗っているらしい。チョコ攻め=チョコパックというのは、恐らくパックという名の隠語だろう。チョコまみれの方が正しいかもしれない。
「ワタクシもそうでございますが、最近は授恵者の冒険者が急増しておりますでしょう」
「そうね」
ガンマがコンマ1秒で答える。需要に関しては彼女含めサークルメンバー全員が受付嬢兼務だし、よーく知っている。
「となれば、やはり冒険者ネタで攻めたいでございますね。高貴なご身分のヒューマンの方や、ウォーリアのご令嬢が斧等を振るわれる姿……想像してみて下さい、とても素敵でございますよ」
「う~ん、ダンジョンでご飯食べるご令嬢ですか~」
よだれを垂らしながら、リルは色々ミックスさせて考えている。引き出しが広がって来たのなら幸いだが。
「そして御身分の低いキャスターの男性……時には差別されてしまうような、我々のようなハーフビーストやゴブリンなどの種族の方とパーティを組むうちに恋に落ちて……! など、いかがでしょうか?」
ガンマは全然アリと言いたそうに頷いている。
「身分差ですか~、という事はエルフとドワーフの禁断の愛とかもいけそうですね!」
「その調子でございます、他には女性同士でも華やかになるとか」
「女エルフ×女ドワーフですね! ……一見年齢が分からなそうですね、その組み合わせ」
「だからいいのよ!」
ガンマは年齢が分からなそうな組み合わせもご馳走らしい。
そしてマタリキー・T・ヒーロー。彼は姉がドゥジン信徒らしい。
「うちは姉ちゃんがドゥジンの信徒だったんすけど、そういうのんでもいいんすかね」
ガンマはオッケーのハンドサインを出した。
「いいんすね。……わかりました。姉ちゃんの名誉にかけて、俺もがんばるす」
リルは今までに出たネタをメモにまとめつつ、マタリキーの声を必死で効くスタンスだ。そしてマタリキー曰く。
「性別の壁を超えろ、というのが姉ちゃんの持論でした」
「超えられるんですね……!」
リルはてっきり今までドゥジンシの内容は異性同士の交流をする物ばかりだと思っていた。先ほども出たが、女×女もただの交流話として受け取っていた。そもそも、リルは『×』の意味を理解していたのだろうか?
「要点としてはこうす」
ある日の男Aと男B。なにか悲しい出来事や事件、つらいこと、などの導入のあとに不意に男Aが男Bの魅力に気づき意識する。もしかしたら元々意識していたかもしれない。でも二人は同性であるという葛藤。そしてどちらかの行動により葛藤が打ち破られ、いい感じの仲になる。といったものだ。
「やっぱり最後はチューくらいで締めるといいんじゃないすかね。いい感じらしいすから」
「ビフって奴ね」
「ビーフですか? 美味しいですよね」
ガンマの放った言葉を違う意味で美味しいと受け取ったリルだった。それはお肉だ。
「授恵者らしさっていうなら……リザ♂×ヒューマン♂すかね」
片や護衛騎士、片や皇族。落ちぶれた二人、皇族を支える護衛騎士……追い詰められ、傷だらけになった二人。
『最後の夜になろう』と、心残りを晴らすため、二人は思い出語りをしながら、どちらともなく道ならぬ想いを打ち明けて……チュッ。
「はわぁ~~!!」
赤くなっているリル。そうだ、その調子で沼に沈むといい。
「こういうのすかね。いや、架空の設定なんすけど…参考になるすかね。姉ちゃんはこういうの大好きなんで、きっと買いに来ると思うすよ」
「なるほどですっ! えーっと、今までに出たのをまとめると……食事! 麻痺! 身分差! 同性愛! こうですかガンマさん!?」
リルがギルド中に響く大声でガンマに確認を取る。
「全部入れなくてもいいから、入れたい部分だけ入れましょうね!?」
「はい! 頑張って描きます!」
リルがやる気満々になった所で、テーマをようやく決めるらしい。
「おぉ~……なんか身体が熱くなってきましたよ……。これが、『目覚める』興奮ですか……!」
リルが書いたテーマ文はこうだ。
『ダンジョンで食事を作る事にした高貴なヒューマンの女性と騎士のハーフビーストの女性。しかし騎士が調達してきた材料には状態異常を引き起こす物が入っていて、騎士は責任を持って解毒の為にキスを交わす』
「………」
ガンマは文章を無言で読む。
「ど、どうですか……? 変ですか?」
「良いッ!! 尊い!! リル、ドゥジン信徒なりたての貴方がここまでテーマを細かく決められるなんて思ってなかったわ!! 正直『ダンジョンで料理して、男女のキスでおしまい』レベルだと思ってたわ!」
「ガンマさん、何だと思ってるんですか私の文章力を!?」
ともかく、制作にとりかかる為に授恵者の設定を練る。
「高貴なヒューマンの女性は、何となく金髪縦ロールがいいんですよ」
「それっぽいのだ」
ストレガがそれらしさにうんうんと頷く。
「で、騎士のハーフビーストの女性は一人称が私で『だろう』とか言う堅物系なんですよ」
「わかるわ」
ヴィノニスも頷く。
「で、実はヒーラーがハーフビーストの女性の方なんですけど、うっかりヒーラースキルを全部忘れてきてしまったんですよ。ギルドの資料に稀にそういう事があると書いてありました」
「仕方なくチューで治療するんすね」
マタリキーもシチュエーションが思い浮かぶ程度にはわかる。
「そして気づいたらハーフビーストの女性が倒れているではありませんか。近づく魔物……助けてもらった恩義を今ここで返しますわ! って、高貴なヒューマンの女性が武器を振るう! そこでお話はおしまいです!」
「あえてオチないのでございますね! 既に高等テクニックでございますよ!」
ハリーヌも拍手している。
「それじゃあ、描きにかかります!」
ペンを振るい始めるリル。
「うっ……ついさっきまで『描けばいいんでしょう!?』って言ってた貴方が、ここまで立派になるなんて……!」
ガンマは感無量であった。
そして出来上がった原稿のラフがこちら――。
「カトレア様、今日はこの辺りで食事に致しましょう」
「ええそうねミモザ、お腹が空いて仕方がないわ! 早くして頂戴!」
しかしその時二人は気づかなかった――このキノコに、麻痺の成分が含まれている事に!
「カトレア様! カトレア様!?」
「ミモザ――わたくしを、置いて、先に、逃げなさい……」
(いや――貴方を置いて逃げる事は出来ない。私の責任は、私の手で)
チュッ。
「ミモザ、どうして――」
カトレアは気が付いた。すぐ傍に魔物が来ている事に。カトレアは斧を取り出す。そしてその前に、ミモザの頬にキスをした。
「すぐに片づけますわ、ミモザ」
ガンマはそれを読んで涙を流した。
「んんーーーッッ!!!」
あまりの尊さ故なのか、それともリルがここまで描けた事への嬉しさからなのか。ラフながらも伝わって来るリルのドゥジンへ入信したいという溢れ出る思い。いや、それはガンマの考えすぎかもしれない。
「これを仕上げれば丁度ページ数も間に合いますよね!」
「ええ、ありがとうリル! 打ち上げは貴方の好きな料理にしてあげるわ!」
「じゃあステーキでお願いします!!」
なお、最初のページの端に、急病で原稿を描けなくなったニメアへの文章が綴られていた。
『親愛なるNへ このような機会をくれてありがとうございます』
それと、もう一つ――。
『冒険者の皆様のご協力もあって完成できました! 誠にありがとうございました』
その後リルは、春のホーリーマーケットに礼拝しに行ったという。粗削りながらも続きが気になるその表現力は、ドゥジン信徒の間で期待の新人として評価されたという――。
「皆さん、すみません……! お力添えをお願いします!」
リルはペンは握ってはいるものの、描く内容が出て来ない。これからドゥジン沼に沈むであろう彼女の為、サークルリーダーのガンマも大声で鼓舞している。
そして、最初にストレガ・L・リベルガストラから頂いた一声は。
「ドゥジンシて恋愛モノばかりじゃないのだ。そういうのも出していいと思うのだ」
そう言いつつ、お茶を用意してくれたストレガ。
「あっ……ありがとうございます!」
「リラックスすると想像力も働くのだ。で、好きなものを出したらいいと思うのだが、ネタがないと」
「はい、そういう事なんです。描ける事は描けるんですけど、引き出し? っていうんですかね、想像力に乏しいものですから」
「ここはギルドなのだ、資料室はネタの宝庫なのでは?」
リルの頭の上にビックリマークが浮かんだ。
「……でっ、ですよね!? そういえばここドゥジンサークルじゃなくてメインはギルドですし!」
「セイユ、コスプ! 資料室からエモーショナルで尊い資料持ってきて!!」
ガンマがサークル部員の受付嬢達に指示を出す。沼に沈める為なら手段は問わない。問うもんか。
「あとは、吟遊詩人からヒントを得るのもいいと思うのだ」
冒険譚を歌にする彼らの中には、ドゥジン信徒も少なからずいるだろう。発想の転換である。
そして追加情報でストレガから念写が送られて来た。『日常もの』のアイデアが次々とリルの脳裏に入る。美味しそうなテロ級の食事、魔獣を倒すパーティ、そしてダンジョンで食べる飯。
「はわ~! 凄く面白そうです……! ありがとうございます!」
「まあ、最初に言ったよう得手とするものを描くといいのだ。本人が楽しくなくては」
「ですね! 今のを参考に、得意な物書き出してみます!」
紙の端っこに、自分が描ける物をリストアップしていくリル。マグカップに入った飲み物、美味しいお菓子、結構流行ってきているチョコ。これ位なら描けそうか。
そして、ヴィノニスも提案をしてくれた。
「ヒーラー×ウォーリアとかどうかしら」
「そんな組み合わせあるんですか?」
リルは世の中の広さを知らない。マイナーな組み合わせだって無い事は無い。
「普段は支援役になることが多いヒーラーが、ウォーリアを逆に攻めるの。加護の力で感覚を部分的に鋭敏にさせたり、逆にマヒさせてじっくりと弄ったり……」
「わお」
何故かリルが赤くなっている。マヒプレイは新しいと感じたのだろうか。
「で、それを受けるのは鍛え上げた身体を持つウォーリアだから、ヒーラーの愛情たっぷりの攻めにもどこまでも付き合えるのよ。他のクラスには真似できないはず!」
「いいですね! ふむふむ、強靭なら耐えられる……」
どこをメモしているのか。
「合同ドゥジンシ……?」
そして、ドゥジンの事を良くは知らないが、ハリーヌ・ヨツユビはそれを一大ビジネスチャンスと捉えた。
「愛を綴った本を描くのでございますね? して、最近の流行りネタなどはあるのでございますか?」
それについてはガンマが答えてくれる。
「最近はチョコ攻めとかダンジョンネタとかも多いわね。え、チョコ攻めって何かって?……チョコパックみたいなものよ! 対象年齢上がる物もあるし描くのはちょっと難しいケド」
ドゥジン界隈も流行りに乗っているらしい。チョコ攻め=チョコパックというのは、恐らくパックという名の隠語だろう。チョコまみれの方が正しいかもしれない。
「ワタクシもそうでございますが、最近は授恵者の冒険者が急増しておりますでしょう」
「そうね」
ガンマがコンマ1秒で答える。需要に関しては彼女含めサークルメンバー全員が受付嬢兼務だし、よーく知っている。
「となれば、やはり冒険者ネタで攻めたいでございますね。高貴なご身分のヒューマンの方や、ウォーリアのご令嬢が斧等を振るわれる姿……想像してみて下さい、とても素敵でございますよ」
「う~ん、ダンジョンでご飯食べるご令嬢ですか~」
よだれを垂らしながら、リルは色々ミックスさせて考えている。引き出しが広がって来たのなら幸いだが。
「そして御身分の低いキャスターの男性……時には差別されてしまうような、我々のようなハーフビーストやゴブリンなどの種族の方とパーティを組むうちに恋に落ちて……! など、いかがでしょうか?」
ガンマは全然アリと言いたそうに頷いている。
「身分差ですか~、という事はエルフとドワーフの禁断の愛とかもいけそうですね!」
「その調子でございます、他には女性同士でも華やかになるとか」
「女エルフ×女ドワーフですね! ……一見年齢が分からなそうですね、その組み合わせ」
「だからいいのよ!」
ガンマは年齢が分からなそうな組み合わせもご馳走らしい。
そしてマタリキー・T・ヒーロー。彼は姉がドゥジン信徒らしい。
「うちは姉ちゃんがドゥジンの信徒だったんすけど、そういうのんでもいいんすかね」
ガンマはオッケーのハンドサインを出した。
「いいんすね。……わかりました。姉ちゃんの名誉にかけて、俺もがんばるす」
リルは今までに出たネタをメモにまとめつつ、マタリキーの声を必死で効くスタンスだ。そしてマタリキー曰く。
「性別の壁を超えろ、というのが姉ちゃんの持論でした」
「超えられるんですね……!」
リルはてっきり今までドゥジンシの内容は異性同士の交流をする物ばかりだと思っていた。先ほども出たが、女×女もただの交流話として受け取っていた。そもそも、リルは『×』の意味を理解していたのだろうか?
「要点としてはこうす」
ある日の男Aと男B。なにか悲しい出来事や事件、つらいこと、などの導入のあとに不意に男Aが男Bの魅力に気づき意識する。もしかしたら元々意識していたかもしれない。でも二人は同性であるという葛藤。そしてどちらかの行動により葛藤が打ち破られ、いい感じの仲になる。といったものだ。
「やっぱり最後はチューくらいで締めるといいんじゃないすかね。いい感じらしいすから」
「ビフって奴ね」
「ビーフですか? 美味しいですよね」
ガンマの放った言葉を違う意味で美味しいと受け取ったリルだった。それはお肉だ。
「授恵者らしさっていうなら……リザ♂×ヒューマン♂すかね」
片や護衛騎士、片や皇族。落ちぶれた二人、皇族を支える護衛騎士……追い詰められ、傷だらけになった二人。
『最後の夜になろう』と、心残りを晴らすため、二人は思い出語りをしながら、どちらともなく道ならぬ想いを打ち明けて……チュッ。
「はわぁ~~!!」
赤くなっているリル。そうだ、その調子で沼に沈むといい。
「こういうのすかね。いや、架空の設定なんすけど…参考になるすかね。姉ちゃんはこういうの大好きなんで、きっと買いに来ると思うすよ」
「なるほどですっ! えーっと、今までに出たのをまとめると……食事! 麻痺! 身分差! 同性愛! こうですかガンマさん!?」
リルがギルド中に響く大声でガンマに確認を取る。
「全部入れなくてもいいから、入れたい部分だけ入れましょうね!?」
「はい! 頑張って描きます!」
リルがやる気満々になった所で、テーマをようやく決めるらしい。
「おぉ~……なんか身体が熱くなってきましたよ……。これが、『目覚める』興奮ですか……!」
リルが書いたテーマ文はこうだ。
『ダンジョンで食事を作る事にした高貴なヒューマンの女性と騎士のハーフビーストの女性。しかし騎士が調達してきた材料には状態異常を引き起こす物が入っていて、騎士は責任を持って解毒の為にキスを交わす』
「………」
ガンマは文章を無言で読む。
「ど、どうですか……? 変ですか?」
「良いッ!! 尊い!! リル、ドゥジン信徒なりたての貴方がここまでテーマを細かく決められるなんて思ってなかったわ!! 正直『ダンジョンで料理して、男女のキスでおしまい』レベルだと思ってたわ!」
「ガンマさん、何だと思ってるんですか私の文章力を!?」
ともかく、制作にとりかかる為に授恵者の設定を練る。
「高貴なヒューマンの女性は、何となく金髪縦ロールがいいんですよ」
「それっぽいのだ」
ストレガがそれらしさにうんうんと頷く。
「で、騎士のハーフビーストの女性は一人称が私で『だろう』とか言う堅物系なんですよ」
「わかるわ」
ヴィノニスも頷く。
「で、実はヒーラーがハーフビーストの女性の方なんですけど、うっかりヒーラースキルを全部忘れてきてしまったんですよ。ギルドの資料に稀にそういう事があると書いてありました」
「仕方なくチューで治療するんすね」
マタリキーもシチュエーションが思い浮かぶ程度にはわかる。
「そして気づいたらハーフビーストの女性が倒れているではありませんか。近づく魔物……助けてもらった恩義を今ここで返しますわ! って、高貴なヒューマンの女性が武器を振るう! そこでお話はおしまいです!」
「あえてオチないのでございますね! 既に高等テクニックでございますよ!」
ハリーヌも拍手している。
「それじゃあ、描きにかかります!」
ペンを振るい始めるリル。
「うっ……ついさっきまで『描けばいいんでしょう!?』って言ってた貴方が、ここまで立派になるなんて……!」
ガンマは感無量であった。
そして出来上がった原稿のラフがこちら――。
「カトレア様、今日はこの辺りで食事に致しましょう」
「ええそうねミモザ、お腹が空いて仕方がないわ! 早くして頂戴!」
しかしその時二人は気づかなかった――このキノコに、麻痺の成分が含まれている事に!
「カトレア様! カトレア様!?」
「ミモザ――わたくしを、置いて、先に、逃げなさい……」
(いや――貴方を置いて逃げる事は出来ない。私の責任は、私の手で)
チュッ。
「ミモザ、どうして――」
カトレアは気が付いた。すぐ傍に魔物が来ている事に。カトレアは斧を取り出す。そしてその前に、ミモザの頬にキスをした。
「すぐに片づけますわ、ミモザ」
ガンマはそれを読んで涙を流した。
「んんーーーッッ!!!」
あまりの尊さ故なのか、それともリルがここまで描けた事への嬉しさからなのか。ラフながらも伝わって来るリルのドゥジンへ入信したいという溢れ出る思い。いや、それはガンマの考えすぎかもしれない。
「これを仕上げれば丁度ページ数も間に合いますよね!」
「ええ、ありがとうリル! 打ち上げは貴方の好きな料理にしてあげるわ!」
「じゃあステーキでお願いします!!」
なお、最初のページの端に、急病で原稿を描けなくなったニメアへの文章が綴られていた。
『親愛なるNへ このような機会をくれてありがとうございます』
それと、もう一つ――。
『冒険者の皆様のご協力もあって完成できました! 誠にありがとうございました』
その後リルは、春のホーリーマーケットに礼拝しに行ったという。粗削りながらも続きが気になるその表現力は、ドゥジン信徒の間で期待の新人として評価されたという――。
マスターコメント
リルは無事ドゥジン信徒になりました! 皆様、ご協力ありがとうございました。
皆様の提案でリルの引き出しが広がった事間違いなしです。ちなみに、打ち上げは微腐だけにビーフステーキだったようです。
ショートシナリオ易しい 報酬:標準4 / 4〜8人
2021年03月31日 17時50分52秒 公開
大成功
相談掲示板
こんにちは。マタリキーす。 ドゥジンさまを特に信仰しているとかじゃあないんすけど、姉が結構そういうの好きだったんで、そのへんの話ができる気がするっす。 ただ、俺の経験値は姉のドゥジン活動だけなんで、まあ、ちょっと(♂)寄りに偏ってるすけど……こんな俺でも、力になれたりするすかね……
ん、ストレガなのだ。よろしくなのだ ドゥジンて恋愛モノだけじゃないから好きに描けばいいんじゃないとかは思ってるのだ まあ、職業指定だしキャスターものでも語ろうかと
これはこれは皆さま、よろしくお願いしますでございますよ。 ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 ドゥジン神はどこかで聞いた覚えがございますね。 新しいビジネスチャンスかもしれないでございます。勉強を兼ねて、がんばるでございますよ!