【大変動】のしかかる闇

革酎

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シナリオID:682

オープニング

●訪れた破壊
 サウゼル大樹海北方。ゴールディから程近い、とある密林の中。
 そこに、前線キャンプと呼ばれる施設が鎮座している。
 数々の未知を秘めた大樹海へと挑む探索者、或いは研究者達のベースキャンプとして機能している他、暇を持て余した富豪や王国の有閑貴族達が余興として訪問する観光施設という側面を持っている。
 各建屋は大樹海特有の蒸し暑い気候に適した構造となっており、最も大きい建築物は食堂や観光客向けの店舗を備えた本部棟であろう。その他には治療所、各種用途向けの小屋、倉等が建ち並び、広いグラウンドは様々な催しや行事等に使われる。
 周囲には時折魔獣の類が姿を見せることもあったが、基本的にはゴールディ最大のマフィアであるブラックデスの構成員達が厚い防備を構築しており、前線キャンプ自体が危険に晒されることは無かった。
 訪れる探索者や研究者、或いは観光客達にとっては、この前線キャンプこそが唯一の安全地帯だった。
 ところがその安全神話がある日、突如として破られた。
 大樹海の奥から雪崩の如き勢いで押し寄せてきた破壊の波が、前線キャンプをあっという間に飲み込んでしまったのである。
 この破壊の波を構成していたのは大樹海の原生生物の他、白蛇を引き連れた古ゴブリンと呼ばれる人語を解さない亜人種の大群だった。

 前線キャンプを襲った破壊の嵐の中に、複数の冒険者の姿があった。
 ヒューマンの中年戦士アーギス・マーレイは、自身が護衛していた富商エイディー・フランクス老を庇いながら、倉の一棟へと走り込んだ。倉の中には、保管されていた武器を取りに駆けつけてきた冒険者やブラックデスの構成員ゴブリンの姿もあった。
「ここの地下室は、確か頑丈に造られておったなッ!?」
 フランクス老に問われ、アーギスは渋い表情を浮かべた。確かに頑丈かも知れないが、追い詰められれば他に逃げ場所が無く、アーギス個人としては余りお勧め出来ない避難場所であった。
 だがアーギスが答えるよりも早く、フランクス老は地下室へと続く階段を駆け下りていってしまった。
「おいちょっと、爺さん……あんまり勝手な真似は……」
 そこまでいいかけた時、アーギスの視界が暗転した。大地を揺るがす程の衝撃が、彼らの居る倉を一瞬で押し潰したのである。
 アーギスと他の冒険者、ゴブリン達は悲鳴をあげる間も無く、崩れた床板もろとも地下室へと落下した。

●闇の牢獄
 誰かが紋具を使い、小さな灯りをともした。
 ずきずきと痛む右のこめかみの辺りを押さえながら、アーギスは淡い光の中で周囲を見渡した。
 決して広くない空間の中に、幾つかの人影が見えた。いずれも見覚えがある。倉の地上階に居た面々だ。他に気絶したフランクス老の姿もあったが、アーギスはそれらの人影以外に、異形の姿が紛れ込んでいることに気づいた。
 ゴブリンだった。
 だが、ブラックデスの構成員ではない。明らかに文明レベルの異なる、粗末で薄汚い衣服を身にまとった別種のゴブリンである。酷く傷つき、呼吸が荒い。もしかすると、危険な状態にあるのかも知れない。
「まさか……古ゴブリンか」
 ブラックデス構成員の若いゴブリンが喉の奥で呻いた。
 アーギスも、古ゴブリンという名は知っていた。ブラックデス首領ドン・ゴーフルと袂を分かち、サウゼル大樹海の中に残ったゴブリン達である。聞いた話によると、異なる言語体系を持っている為、ゴールディのゴブリンでさえも会話を成立させることは難しいのだという。
 これは大脱出後のゴブリン達が人類社会に適応していく中で、大陸共通語としての『人類語』を習得し、使う様になった為である。その一方で、代を重ねるにつれて古ゴブリン語を話せるゴブリンが少なくなり、今ではあのドン・ゴーフルでさえ、片言で話すのが精一杯だという話であった。
 言葉が通じない。それだけでも面倒な問題であるのに加え、ここを襲った時の様子から見ても、古ゴブリン達は他人種に対して攻撃的で、極めて危険で厄介な存在といえよう。
「おいおい、何でまたそんな面倒な奴が一緒に居るんだ?」
 ブラックデスの若いゴブリンによれば、ドン・ゴーフルは古ゴブリンを絶対に傷つけるなと声高に指示を出しているらしい。であれば、目の前で死の淵に追いやられているこの古ゴブリンを見捨てる訳にはいかない、ということか。
 だが、先程の衝撃で倉の地上階は完全に破壊されたらしく、地上へ通じる筈の階段も大量の土砂と瓦礫で完全に封じられてしまっていた。
「……何だか、息苦しいな」
 生活用紋具で蝋燭に火をともしたアーギスは、暗闇の中を這いずる様に歩き回った。そして、やや青ざめた顔を他の冒険者やゴブリン達に向ける。
「拙いぞ。空気の流れが無い……ここは完全に密閉されている」
 つまり、この人数で狭い地下空間に居座り続ければ、いずれ呼吸困難に陥るという訳である。
 健常な冒険者やゴブリンならば兎も角、フランクス老や傷ついた古ゴブリンにとって、短時間で呼吸可能な空気が失われる密閉空間は過酷な環境であった。下手をすれば命に関わる恐れもある。
「上の状況は分からねぇが、兎に角、脱出しねぇとな」
「けどさ、上手くやらないと土砂や瓦礫が崩れてくるかもよ。そうなったらあの爺さんや、致命傷で動けない古ゴブリンなんかは間違い無く、生き埋めになっちまうよ」
 苦り切った表情の若いゴブリンに、アーギスは仏頂面で頷き返す。
 確かに、素早い脱出が必要なのだが、拙速な脱出方法を取ればフランクス老と古ゴブリンの安全が担保出来ないというジレンマを抱える。
 果たして、どのような脱出策を取れば良いのか。
「……まぁ、何か考えるしかねぇな」
 いいながらアーギスは、巻き添えとなって一緒に地下へと落ちてしまった他の冒険者達に視線を向けた。
 その目が、協力してくれと語っていた。

解説

状況:  PCの皆様は、アーギス達と一緒に密閉された地下空間からの脱出を試みることになります。  依頼者は便宜上、気絶中の富商エイディー・フランクス老ということになります。報酬については後々アーギスがフランクス老と交渉してくれるので、ここでは気にする必要はございません。 地下室の現況:  地上へと繋がる階段は完全に崩れ落ちています。  地下室の床から天井までの高さは約3メートルですが、掘り抜いて構築された地下室の為、天井から上は厚い土砂の層となっています。  地下室自体は非常に頑丈で、壁は煉瓦で、そして天井は太い梁と幾重もの天板で補強されています。  問題はどこをどう崩して脱出するか、です。下手なところを崩せば大量の土砂が一気に地下室内へと流れ込んでくる為、非常に危険です。  かといって、余りのんびりしていては酸素が失われる為、時間的猶予もございません。  慎重、且つ迅速に脱出方法を考案し、フランクス老と古ゴブリンを地上へと連れ出さなければなりません。 NPC:  NPCはヒューマンの中年冒険者アーギス・マーレイ。他に気絶中の富商エイディー・フランクス老、ブラックデスの若いゴブリン二名、そして瀕死の重傷を負った古ゴブリンです。  ドン・ゴーフルは絶対に古ゴブリンを殺すなと厳命しています。逆をいえば、瀕死の古ゴブリンを見殺しにすることもご法度です。全力でこの傷ついた古ゴブリンを助けてあげて下さい。

マスターより

 皆様、こんにちは。  連動【大変動】でのシナリオをご提供致します。  今回は時間制限のある脱出物です。冒険者や若いゴブリンだけなら少々強引な方法でもこの危機を脱することが出来るでしょうが、何せ下手に崩すと非常にヤバい状況になる地下室、プラス老人と重傷ゴブリンというおまけつきです。  色々と知恵を絞って、誰ひとり欠けることなく無事に脱出することが出来る方策を考えてみて下さい。

リプレイ

●密閉空間の中の人間模様
 かび臭さの中に、土砂や瓦礫の埃っぽい臭いが複雑に混ざり合う、息苦しい地下空間。
 蝋燭を消した後でキーゼが灯した魔術の光が、決して広くない容積をほぼ隅々に至るまで、しっかりと照らし出していた。
 視界に入るのは崩れ落ちた階段口と、補強された天井や頑丈な煉瓦積みの壁、そして閉じ込められた数名の薄汚れた顔ばかりである。
「密室空間……集団の中で女性ひとり……当然、何も起きない筈もなく……」
 壁に向かってひとりぶつぶつと呟いているフリーダ=ブロムヴィストを尻目に、ナハティガル=ラーは土砂と瓦礫で完全に封じられた階段の上り口付近を丹念に調べ廻っていた。
 手には紙と羽根ペン。時折、土砂や天板に触れて何かを確認する様な仕草を見せては、眉間に皺を寄せながらしきりと何かを書き込んでいる。
 ブラックデスの若いゴブリンふたりも、通気口になりそうな穴は無いかと階段上り口周辺を手探りで調べていた。
 その時不意に、しゃがれた声が盛大に咳き込んだ。昏倒したまま意識を取り戻さない富商エイディー・フランクス老に、ギャメルが回復のエーテルを流し込んだのだ。
 ギャメルの介抱を受けてフランクス老はどうやら前後不覚の状態から脱したらしいが、彼の意識が戻ったところで事態が好転する訳でもない。
「いや~、しっかしすげぇ衝撃だったなぁ。超ヤバそうな状況みてぇだけど、何が起きたってんだ?」
「大樹海の奥から、色々面倒臭そうなのが飛び込んできたっぽいのは見えたんだがねぇ」
 訝しげに小首を傾げるギャメルに、アーギス・マーレイが神妙な顔つきでかぶりを振った。
 と、そこへキーゼがギャメルの傍らへと歩を寄せ、階段周辺を調べている若いゴブリンふたりにも、少し顔を貸せと手招きしてみせた。
「この古ゴブリンですが、暴れ出されたら厄介ですので、まず僕の術で動きを封じてから回復させましょう。出来れば余り空気を浪費したくないので、静かにさせて貰えれば助かるのですが」
 キーゼの提案を受け、ギャメルが任せろといわんばかりに胸を張った。
 方針が決まったならば、後は行動あるのみだ。若いゴブリンふたりが古ゴブリンの左右で身構えたところで、キーゼが光る縄を放ち、古ゴブリンの体躯を絡め捕った。
 当初は少しだけ回復させるという案もあったが、結局ギャメルが古ゴブリンも完全回復させることで話が落ち着いた。
 そのギャメルの施術ですっかり傷が癒えた古ゴブリンは目が覚めるや否や、キーゼの呪縛で身動きが出来ないことに対して、すぐさま獰猛な反応を見せ始めた。
 すかさずギャメルが必死に身振り手振りで状況を伝え、兎に角、今は落ち着けと言外に伝える。古ゴブリンも危機的な現況を把握したのか、渋々ながらも大人しく引き下がる格好を見せた。
「あら……意外と物分かりが良いんですね」
 ロープを携え、もしもの場合は力づくで縛り上げるか、或いは術を用いて眠らせてしまう構えを見せていたフリーダだったが、思いの外、素早く状況を把握して大人しくなった古ゴブリンに意外そうな視線を送る。
 その様を横目で盗み見ていたナハティガルは、古ゴブリンは単に言葉が通じないというだけに過ぎず、決して低能ではないのだろうと内心で頷いた。あのドン・ゴーフルが古き友、かつての同胞として敬意を払う理由が、何となく理解出来たような気がした。
(……古き友、か。ドンの厳命がある以上、絶対に死なせる訳にはいかない)
 尤も、ナハティガルには今ひとつ実感が湧かないのも事実であった。自分達ゴールディのゴブリンにとっては遠い昔に袂を分かった同志である筈なのだが、現実としては、今日この日が初対面なのだ。
 一方、古ゴブリンに対して何もやることが無くなったフリーダは、ナハティガルが調査と解析に人手を要していることを察し、ロープを片付けながら階段上り口近くへと位置を移した。
「さて……何すれば良いですか?」
「この階段の形状が、踊り場経由の折り返し型になっているかを確認したい。出来るか?」
 ナハティガルの予想としては、ここから掘削していけば比較的安全に地上へと出られる可能性が高い。だが彼の技術だけでは、決定的な裏付けが取れないという難点があった。そこで白羽の矢を立てたのが、フリーダである。
 フリーダは任せて下さいと不敵な笑みを返してから、土砂と瓦礫で埋まった上り口を凝視し始めた。完全に全てを見通すことは出来なかったものの、フリーダが駆使した透視は、ナハティガルが独自の調査で得た推測に相当な確信を与えた。
 ナハティガルとフリーダで完成させた階段の形状図面を、キーゼが後ろから覗き込んできた。建築技術に明るいキーゼの目から見ても、この階段形状でほぼ間違い無いだろうと太鼓判を押せる内容だった。
「となると、階段の上下を支える支柱が一本、ある筈ですね……その支柱沿いに真上へ穴を穿つのが空気取り入れ口を確保する最短距離でしょう」
 だが問題は、地上の状況である。このまま何の警戒も無く空気取り入れ口を穿つのはリスクが大きい。
 キーゼはギャメルに振り返った。ギャメルは体力温存の為にと古ゴブリンにブランケットをかけてやっていたが、キーゼの視線に気づくや、素早く身を翻して階段上り口付近に歩を寄せてきた。
「どうやら、オレの出番っぽいな。ちょいと疲れちまうが、ひょっこり顔出して、覗いてくっか」
 小鼻を人差し指で軽く擦りながら、ギャメルは魔法の光でぼんやりと照らし出される頑丈な天板を、漠然と眺めた。

●光を目指せ
 それから、数分後。
 自身の幽体を肉体から剥離させ、数メートルの地層という障害物を超えて地上を視察してきたギャメルは、他の面々が固唾を呑んで見守る中、物凄く嫌そうな表情を浮かべて瞼を開いた。
「かなり拙い物が上に居たようだな」
 ナハティガルの問いかけに、ギャメルは腕を組んでうぅむと低く唸った。
「拙いっつぅか、気持ち悪いっていった方が正しいかもな」
 曰く、巨大な肉食性の蜘蛛や百足が、この真上の地表部分にたむろしていたのだという。空気孔程度の狭い穴に侵入してくることは出来ないだろうが、全員で地上に脱出した際には、或いは獲物と察知して襲い掛かってくる可能性はあるだろう。
「ま、その時はその時でしょう。大樹海なんですから、それぐらいの蜘蛛や百足が居たって、別に不思議じゃあありませんし」
 農家育ちで幼少の頃から自然と接することが多かったフリーダは、実にあっけらかんとしたものだった。しかし彼女の台詞にも一理ある。兎にも角にも、地上に出ないことには何も始まらないのだ。
 キーゼとギャメルが掘削した土砂や瓦礫を地下室の最も奥まった位置に溜め込む為の準備を進める一方、フリーダとナハティガルのふたりでいよいよ掘り進める作業を開始した。
 力のフリーダ、小技のナハティガルといった具合に、フリーダは鞘に収めた大太刀の先端で瓦礫をがつがつと突き崩してゆき、一方でナハティガルは短剣の切っ先を器用に操り、スコップ代わりとして土砂を次々と後方に撥ね除けてゆく。
 ブラックデスの若いゴブリンふたりとギャメル、アーギスといった面々はバケツリレーの要領で、フリーダとナハティガルが排除した瓦礫や土砂を次々と地下室の奥へ積み上げていった。
「ほほぅ、マジカルポケットなるもんは、そういう使い方もあるのか」
 反対側の隅に座り込み、古ゴブリンと並んでバケツリレーの様子を眺めていたフランクス老が、ギャメルが土砂を運ぶ手法のひとつとして用いている技術に感心した様子で目を丸くしている。将来的に何かの事業にでも役立てるアイデアを練っているのかも知れない。
「おじいさん、具合は良さそうだな。観光か商売で来てたのかな? けど、こんな事故に巻き込まれるなんて災難だったな」
「ははは、その両方じゃよ。しかし災難ばかりとはいえんぞ。お前さん達のような優秀な冒険者と知己を得る機会が持てたのは僥倖じゃ」
 フランクス老は極限に近しい状況に置かれているというのに、何故か上機嫌であった。
 一方キーゼはというと、掘削組とバケツリレー組の様子を見ながら、手が必要だと判断した方に身を投じていた。その際、ひとが通れる程度の大きめの穴を穿つ際に必要となる補強材としての瓦礫も選別していた。
 そうして三十分程も掘り進めると、不意に手応えが無いままにフリーダの大太刀の先端が土砂の向こう側に突き抜けた。同時に、やや西に傾き始めたと思われる陽光の切れ端が、空気孔の狭い空間を通じて地下室内へと突き刺さった。
 ここで一同は、ぴたりと動きを止めた。
 もしも地上に敵が居た場合、下手に音を漏らすと厄介なことになる。地下室内に異様ともいえる静けさが充満した。何故か古ゴブリンまでが周囲の雰囲気に呑まれた様に、緊張した面持ちでじっと口をつぐんでいる。
 やがてナハティガルが、一同に対して大きく頷き返した。敵らしい気配は無いと判断したのである。
「よし、ここからは一気に進めるぞ。余りゆっくりもしてはいられんからな」
 空気孔が確保出来た以上、激しい呼吸を控える必要も無くなった。ナハティガル、フリーダ、キーゼの三人はそれぞれの技能を如何無く発揮して、盛大に土砂や瓦礫を地上方向へ弾き飛ばしてゆく。
「さぁさぁさぁいきますよ。多段攻撃も良いけど、単発火力こそが浪漫という啓示が降ってきました」
 フリーダが余人には理解し難い台詞を吐きながら、最大限の破壊力を発揮して次々と瓦礫を吹っ飛ばした。その際、左右の土砂が崩れ落ちそうになっていたが、キーゼが予め選別しておいた補強材としての瓦礫を積み上げることで、崩落を辛うじて防ぐことが出来た。
 もう少しで地上に出られるという段になって倉の屋根らしき巨大な構造物が現れたが、キーゼが指先から放った魔力の奔流が、轟音を響かせて邪魔な遮蔽物を一撃のもとに粉砕した。
 と、同時にナハティガルが地上へと飛び出し、得物を二刀流に構えた。ギャメルが幽体で目撃した巨大な肉食性の蜘蛛や百足が、本能のままに襲い掛かってくる。
 ナハティガルに続いて這い出してきたフリーダも、大太刀を鞘から引き抜いて迎撃態勢に入った。更にワンテンポ遅れてアーギスが両刃の戦斧を振りかざし、敵の襲来に備えた。

●残る疑念
 幸い、白蛇や他の古ゴブリン、或いは巨大な原生生物といった厄介な敵の姿は無かった。既に襲撃はひと段落したのか、それとも小休止なのか、それは誰にも分からない。
 だが今この瞬間こそが地上へ脱出する最大の好機である。ナハティガルとフリーダで群がり来る蜘蛛や百足を次々と薙ぎ払い、刺し殺し、叩き潰して、後続の脱出組の為の安全確保に努めた。アーギスは他の敵が現れた時の予備戦力として周囲の監視を怠らない。
 その間にフランクス老、そしてギャメルの順で続々と地上に顔を出した。
 地下室に最後まで残り、全員の脱出を見届ける腹積もりのキーゼは、古ゴブリンをふたりがかりで担ぎ上げている若いゴブリン達に待ったをかけた。光の縄を再度、仕掛け直す必要があったからだ。
 脱出と同時に自由になれると思い込んでいたのか、キーゼが再び光の縄を放つ様子を見て、古ゴブリンは獰猛に吠えかけてきた。が、キーゼは構わず術を施した。
 その間に、ナハティガルが地上からロープを垂らしてきた。若いゴブリンふたりが古ゴブリンをその先端に結び付けると、地上組が一気に引き上げてゆく。
 最後に若いゴブリンふたり、キーゼの順で地上へと這い出した。こうして全員が、無事に地下の密閉空間を脱することが出来た。
 陽は既に西へ大きく傾いている。思った以上に長い時間、地下に閉じ込められていたらしい。
「その古ゴブリンは、どうなるのですか?」
「ドンからの命令でね。俺達が責任持って保護するよ」
 若いゴブリンの一方が幾分疲れた表情でキーゼに答えた。地下からの脱出だけでも心身共に疲弊し切っていた筈だが、彼らは戒められたまま轟然と吠え続けている古ゴブリンをふたりで担ぎ上げ、ゴールディ方面に向けて走り去っていった。
「地下ではもっと暴れるかと思ってましたが、案外大人しかったですね」」
 もっと暴走するのではと危惧していたフリーダは、多少肩透かしを食った様な表情で古ゴブリンを見送った。他の古ゴブリンについては皆目分からないが、少なくともあの古ゴブリンは、状況を理解して己の身の処し方を的確に判断するだけの知性があるように思えた。
「他の古ゴブリンも、あいつと同じぐらいに物分かりが良かったら話も簡単で済みそうなんだけどな」
「いや……古ゴブリンどうこうではないな。ギャメルの心遣いが、彼の冷静さを呼び起こしたのだろう」
 だが結局のところ、あの古ゴブリンは最後まで獰猛で、敵愾心を捨てることは無かった。何が彼らをここまで煽りつけているのか。
 今の段階では誰にも分からない。
「おぉい……まったりしてられるのも、そろそろ終わりらしいぜ」
 アーギスが、南の方角を静かに指差した。
 見ると、巨大な原生生物の群れが雪崩を打って近づいてくる姿が、遠目に見えた。
 流石にあの奔流に呑み込まれる訳にはいかない。冒険者達はフランクス老を促し、ゴールディ目指して駆け出した。
「あの原生生物を退治したら、追加で報酬出ますか?」
「いや、そりゃ無理じゃ。わしがそもそも、そんな依頼を出す前に逃げる」
 フリーダの提案を、フランクス老は快活に笑って退けた。
 今は兎に角、逃げの一手であった。

 前線キャンプを離脱してゆく冒険者達とフランクス老を、樹海の奥から静かに眺める者の姿があった。
 余人が聞いてもよく分からない台詞をぶつぶつと呟いているが、その視線の中には明らかに、敵意と狂気が燃え盛っていた。

マスターコメント

 皆様の素晴らしいプランニングで誰ひとり犠牲が出ることも無く、無事に脱出を果たすことが出来ました。  役割分担から古ゴブリンに対するケアまで、実にきめ細かく考慮されていたと思います。  MVPは古ゴブリンとフランクス老の命を確実に救い、且つ脱出路の模索にも大きく貢献されたギャメルさんです。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準4 / 4〜5人

2021年03月25日 10時20分25秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ギャメル

    ヒーラーのギャメルだぜ。よろしくな。 汎用スキルの中に色々役に立ちそうなもんがあるな。 みんなで脱出するぞー!

  2. キーゼ

    さて、知った顔ばかりですね今のところ よろしくお願いいたします ひとまず必要なのは ○換気の確保 ○掘るあるいは脱出する方向性 ○掘削した際発生する土砂の処理 ○倒壊する危険の回避 ○古ゴブリンの容体安定と暴れた際の対策 この辺りですか。 ひとまず換気の問題があるので、蝋燭は消してもらいエンライトで代用。 ここは僕が持ちましょうか。 それと時間制限の主な要因である換気孔の施工ですかね ひとまず小さな穴でもいいので空気の流入があれば制限が緩和されるかと。ここで大まかな距離と必要な労力、地盤の状態も確認できるかと 人一人通れるほどの通路なのでそれなりに大きい孔が必要でしょうかね 土砂対策とすると、 地下室自体は非常に頑丈で、壁は煉瓦で、そして天井は太い梁と幾重もの天板で補強 とあるので。ここを極力崩さないようにですかね。 あと、どうしても発生する掘り出した土砂は、どうしましょうかね マジカルポケットでも限界はあるでしょうし

  3. フリーダ=ブロムヴィスト

    ウォーリアのフリーダです。よろしくお願いします。 崩すだけなら下からエイッと攻撃でもすればいけるでしょうが、 崩した際の影響考えるのが中々問題ではありますね。 そうなると崩れ落ちた階段から土砂を片付けつつ進むのが手堅いでしょうか? その場合でも時間を掛けるわけにも行かないですから、 最低限換気孔の確保を考えたいところです。

  4. ナハティガル=ラー

    シーフのナハティガル=ラーだ。宜しく頼む。 >換気孔の確保 『壁は煉瓦で、そして天井は太い梁と幾重もの天板で補強』とある為、 穴を穿つならば既に挙がっているように、地上と地下室を繋ぐ階段部分の掘削を試みるのが良いように思う。

  5. ギャメル

    >換気孔の確保 幽体離脱で土砂の崩れ具合を見ることってできるかな? 埋もれた階段の場所を感覚だけで掘るよりはスムーズにいけるかもしれねぇ。 使ったことのねぇスキルだから、使い勝手がいまいちよくわからねぇが……。 前線キャンプは襲撃を受けてるし崩れた原因が衝撃だし、完全に地上に抜け出す前に外が安全か調べてぇが、こっちは捜波の方が向いてそうだぜ。 >土砂の片付け マジカルポケットにまとめて後ろ側に出すって手段しか思い浮かばねぇぜ。 よりデリケートに作業すんなら、マジカルポケットの容量まんぱいになる前にこまめに放出するとか……? >古ゴブリン キャスター武器で使える光縛呪で縛ってから治療が無難か。 縛ってもバタバタ暴れたり大声を出されても困るから、ヒュプノシスで眠ってもらえりゃ楽なんだが、古ゴブリンに効くかは微妙だ。

  6. ナハティガル=ラー

    >幽体離脱 >ギャメル 外の状況を知るには効果的かと。 ただ使用時には様々な危険性もあるので要注意だ。 (使用後、使用者の生命値最大値が25%減少する等) >行動 俺は【捜波・改】【探波】で周囲の状況を調べる予定。 掘削時にスキル使用する場合は【衝撃刃2】を使おうかと考えている。 >土砂の片付け 俺もマジカルポケットに収納する以外に思い浮かばんな…。 人が1人通れる位の穴を貫通させる位ならば、掘削する場所によっては土砂は少なく済むかもしれんが。 >古ゴブリン 万が一に備える意味でも、光縛呪で拘束してからの治療が無難かと。

  7. ギャメル

    >幽体離脱 おう! 自分用のヒールも用意しとくぜー! エーテルを扱える地上の敵とかに見つかって攻撃されてもヤバイしな。 基本的に地中の様子見に使おうと思う。 地中は暗くて何も見えないってオチが怖いが、幽体は通常の肉体同様に周囲を知覚することができるらしいから触覚でいけるか。 >掘削 慎重さも大事だし、早さも要求される事態だもんな。 基本的には派手に崩れないよう武器をスコップ代わりにして普通の力で土砂をどかしていって、土が固くて歯が立たねぇけどここをぶち抜かないと脱出できねぇ! みたいな場所だけスキルをぶっ放すのはどうだ?

  8. キーゼ

    >幽体離脱 試せるのなら試してみるべき、ですかね >光縛呪 私が持っていきましょうか? その代わり、使おうと思っていた古ゴブリンに使おうと思っていたリヴァーオブバイタルが使えなくなりますが。 >掘削 必要があれば、タイダルストリーム使いますか? 直線範囲ですので、階段の方向に沿えばある程度は制御できるでしょうし。

  9. ナハティガル=ラー

    >掘削 ギャメルの言う様に基本的にはスキルなしで土砂を掘削して行き、 スキルなしでは掘削不可能な場所だけスキルを使用する方向で良いかと。 タイダルストリームもそのタイミングで使用して貰えると助かる。 >光縛呪 ロープは持って行くつもりなので、光縛呪が無理ならそれで拘束しよう。

  10. ギャメル

    ほい! それなら光縛呪はキーゼにお願いするぜ。 リヴァーオブヴァイタルはオレも用意できる。 幽体離脱時の知覚強化に別の汎用スキルを積みたいから、ヒュプノシスはオレの方では持っていかない。 人類の定義が微妙なんだよな。ゴールディのゴブリンなら効くけど古ゴブリンは人類社会にいなかったしよ……。

  11. キーゼ

    では、光縛呪とスキルタイミングについては合わせます。

  12. キーゼ

    さて、出発も翌朝ではありますが。 こちらで相談させていただいた通り、光縛呪による古ゴブリンの確保と治療 スキル使用時の攻撃スキル それと空気確保の為の灯り代替としてエンライトを持ち込みます 掘削が攻撃扱いなら、シーフの方の〇〇ファング系統は2回3回扱いなので、有用かもしれませんか。

  13. フリーダ=ブロムヴィスト

    >古ゴブリン それでしたらこちらでヒュプノシスを用意しておきますね。 これで相手に通れば良し、駄目なら駄目で光呪縛の効果中に治療を完了させつつロープで縛る形になるでしょうか。 >装備 とりあえず積めるだけの火力スキルは用意しました。 大穴を開けるのであれば一撃で一気に行けるかと。

  14. ギャメル

    >ヒュプノシス フリーダ、ありがとなー! >マジカルポケット そういや話題に出てたが、誰が用意するとかって宣言は特になかったか? 寝る前に特に宣言がなけりゃ、一応オレの方で用意できる。 >攻撃スキル オレは特に火力、回数、制御の面で優秀な技はないから、三人に任せることになりそうだ。 誰かがスキル使う時に命中支援の魔法をかけてみるなー!

  15. ギャメル

    オレのプレイングでマジカルポケット用意しといた。探索はナハティガルの捜波・改と探波があるからな。 もしも誰かがすでに用意してくれてたならごめんよー! それじゃみんな、おやすみ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0