無才の女魔術師

京乃ゆらさ

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シナリオID:673

オープニング

 君には才能がない。
 淡々とそう宣告した男は、なるほど確かに実直で、しがらみなど物ともしない有能な魔術師(キャスター)だったのだろう。言われた方はたまったものではないけれど。
 私は長杖を構えて光弾(メテオライト)の準備をしながら、じりじりと後退る。
 眼前には獣とすら思えない3体の悍ましきもの(小型クリーパー)。脳裏には男魔術師の無慈悲すぎる言葉が何度も浮かんでは消えてを繰り返している。
 君には才能がない。
 君には、才能が、ない。
 キミニハ、サイノウガ――――。
「ッ……るさい……」遣り所のない感情を魔法に乗せて長杖を振るう。「うるさい!! 馬鹿野郎ぉっ!!」
 いくつもの光弾が入り乱れるように木々の合間を抜け、敵の周囲に降り注ぐ。
 朦々と土煙が舞い上がり敵の姿を覆い隠す。私は己の魔法の結果を見届ける間もなく、すぐさま後ろへ駆け出した。何しろ結果など見なくとも分かっている。無才と断じられた自分が敵を簡単に倒せるはずなどない。
「……ッ」
 じくじくと胸を苛む思いに蓋をして、私は足を動かし続ける。もう少し走れば森の外に出られるはずだ。
 と、そこまで考えた時、ふと自分が長杖しか持っていないことに気付いた。先生に渡されて持ってきたはずの採集用の籠が、ない。
(最悪……)
 おそらく学園の備品ではなく、先生の私物。であればきっと弁償しても許してはくれまい。成績というか評価も下がる。
 あぁ。自分のできなさに反吐が出る。
 森を抜けて足を止め、仰いだ空は忌々しいほどに青天。無性に腹が立ち、長杖を大地に叩き付けたくなったけれど、直後に聞こえてきた足音によって私は辛うじて自制することに成功した。
「何かございましたか?」
「…………、いいえ、慣れない採集に少し疲れてしまいまして、一旦帰ろうかと思っていたところです」
「そうでしたか。では近くの町までお送りしましょう」
「ありがとう存じます。けれど大丈夫です。学園の生徒として騎士様のお手を煩わせるわけにはまいりませんから」
「そうですか、残念です。送迎にかこつけて美しいお嬢さんを食事にお誘いしようかと考えていたのですが」
「まあ、口がお上手なのですね」
「ははは。それでは」
「えぇ、ごきげんよう」
 心にもないやり取りを互いにこなし、私は付近に停めてもらっていた我が家の馬車に向かった。華美ではないけれど作りのしっかりした箱馬車はメルシャート家の健全な財政を物語っているかのよう。
(帰ったら誰かにお願いして籠を取りに来て……はぁ、どうしよ……やだな……)
 一つ息を吐き、私は御者に声をかけた。

●パンクリアース学園の森
「皆さまには私(わたくし)の護衛をしていただきたいと思っています」
 リーンエス王国王都より数日、パンクリアース学園が保有している森を前にして、ウィストラータ・メルシャート子爵令嬢が冒険者たちに言った。
 長杖にローブという、分かりやすく魔術師(キャスター)の装束を身に纏った彼女は、いかにも恥ずかしそうに視線を落として続ける。
「目的地は森に少し入った所にある露待草(ツユマチグサ)の群生地です。先日、先生の指示で採集に来たのですけれど、その際に這者(クリーパー)に遭遇し、籠を落としてしまったのです」
「それを探したい、と」
 短く問うた冒険者にウィストラータが返す。
「はい」
「どうしても同行するのか?」
「申し訳ございません」
 謝りながらも意見は翻さない。冒険者が首を振って嘆息する。
「……這者が持ち去っている可能性は?」
「もしそのような知性があるとするならば、逆に籠を放置して私をおびき寄せるでしょう。そして知性がなければ、持ち去るよりは意味もなく破壊するかと。つまりどちらにしろ籠、あるいはその残骸があると考えています」
「なるほど。ではどんな姿だった? 依頼書には泥のような枯れ葉の集合体とあったが」
 子爵令嬢は困ったように苦笑を浮かべ、僅かに身体を震わせた。
「そうとしか言いようがありません。そのようなモノが、全体としてはヒューマンらしき姿を形作っていました」
「では仮に落葉呪とでも名付けておきますか」
 冒険者の一人が単純明快な名付けをする。ウィストラータは微笑して同意すると、では行きましょうと声をかけた。

 学園の森はそれなりの野外活動には最適という様相であった。
 木々や下生えが生い茂り鬱蒼としている――というほどではなく、また何の準備もなく楽しくピクニックができるほどでもない。時折差す木漏れ日で太陽の位置を確認することはできるが、人間が通る為に小道が整備されているわけではない。
 地面に積み重なった落ち葉は湿った土と混じり、所々ぬかるんだ天然の罠のようになっている。木々の脇から突き出すように伸びた灌木は走り抜けるには邪魔で、払いのけなければならない場所もある。
 学園で戦闘について少々学んだ富裕層(甘ったれども)が採集に来るにはちょうどいい。そんな森だった。――少なくとも、ウィストラータが入り込んだ場所は。

「中心の方は危険だとも言われておりますから、もしかすると様子が異なるかもしれませんね」
 ふふ、と口元を隠して笑うウィストラータは余裕そうに見える。
 一度逃げ帰った場所に再び赴くというのに、なかなかどうして胆力がある――のか?
「ところで貴女は何故冒険者に依頼を? 家の者を使えばいいのでは?」
 訊けば、子爵令嬢は「お気を悪くするかもしれませんけれど」と眉根を寄せて答える。
「社会勉強の一環なのです」
「高貴なる者の戯れみたいなものか」
「そう捉えられても仕方がありません」
 悲しげに言った直後、ご令嬢がにっこりと表情を変える。
「けれど何もない時に雇うよりは、依頼するに足る事情がある時の方がよいでしょう?」
「……良い性格をしているのは分かった」
「まあ、歴戦の授恵者さまにそのようにお褒めいただけるなんて」
「…………」
「そうそう、歴戦といえば、皆さまの勇姿はしかとこの目に焼き付けさせていただきますね」
 ウィストラータはいかにも憧れの騎士に期待しているかのような高く跳ねた声色を、小声で出すという妙技を見せる。
 肩を竦めて警戒に集中した冒険者は、前方、大樹とやや開けた空間を発見した。遠目に判然としないが、大樹の根元には草花とは違う何かがあるように見える。
 子爵令嬢にもそれは分かったはずだが、彼女は遮二無二走り出すことはなかった。その冷静さに少しだけ評価を上方修正しつつ、冒険者たちが周囲を探る。
「大樹の根元に生えているのが露待草(ツユマチグサ)です。学園のプロワイセ先生が使いますので、できれば荒らさないで」
 唐突に面倒な追加条件を出してきた令嬢に、冒険者の一人が舌を打つ。
 一行が慎重に近付いた、次の瞬間。大地に同化していたが如き落葉呪が、ざわざわと耳障りな音を立て隆起した――――!

解説

▼目的 籠を持ち帰る ウィストラータ・メルシャートを無事に連れ帰る ▼状況 パンクリアース学園保有の森。この場はそこそこ明るく、そこそこ視界が開けている。 PCの初期位置から大樹の根元までは約40m。初期位置から20mほどは木々や灌木や下生え等があるが、大樹周辺には少ない。初期位置より背後はそれらが多く、行動しづらい。 大樹周辺は落葉が積み重なっており、足捌きに多少の影響が出るだろう。また所々に落葉の底の方が腐りかけてぬかるんだ場所がある。 落葉呪の多くはPCと大樹の間に位置しているが、左右両翼にも多少おり、一応半包囲の形になっている。知性ある作戦ではなく、罠にかけて狩るものの本能のようなものだと思われる。 大樹の根元には露待草の群生地がある。 慎重に歩く場合は問題ないが、激しく戦闘をしながら踏み入れば使い物にならなくなるだろう。 プロワイセなる学園の教師が授業に使っており、群生地を潰せばウィストラータの成績が下がる。 PCは戦闘開始時はウィストラータの授恵者としての実力のほどをまだその目で見てはいない。 が、所作等から何かしら推測できる者はいるかもしれないし、いないかもしれない。 ウィストラータは何も言われなければ、適度に位置を変えながら時々メテオライトで攻撃する。 PCがよく索敵していた場合、OPの描写より若干戦闘態勢が整った状態で戦闘開始できるだろう。 ▼味方戦力 ウィストラータ・メルシャート  ヒューマン。キャスター。16歳女性。パンクリアース学園生。  使用する魔法はメテオライト。  授恵者だが才能がない(PL情報)。 ▼敵戦力 落葉呪  小型クリーパー。「泥のような枯れ葉の集合体」がヒューマン的な形状を成している。  落葉と泥を用いた近~遠距離攻撃が主体だが物理攻撃とは限らない。  姿を現していないものが存在するかは不明。現在8体がPCを半包囲している。 ▼その他 依頼成功度は籠とウィストラータと露待草の状況による。 リプレイはプレによるが、戦闘と、その後の森を抜けるまでになるかも。 敵と真摯に向き合い戦うのが重要になるかと思われる。

マスターより

どうもです。京乃です。 随分お久しぶりになってしまいましたが、ぼちぼちやっていく予定です。 依頼の方は簡単に言えば敵退治と拾い物です。ついでに子爵令嬢なんてものを加えてみましたので、何やかや接触してみるのもよいやもしれません。 元々はこんな性格ではなかったはずなんですが、書いたら何故か捻くれてました。パンクリアース学園では彼女を登場させていきたいと思っています。 ちなみに作中の露待草というのは多分実在しませんので、現実で言わないようにしてくださいね。もし実在したらご一報ください。 それではよろしくお願いします。

リプレイ

●ウィータ(ウィストラータ)は憂う
 ウィータの傍には今2人の魔術師(キャスター)がいる。共に森人(エルフ)。1人はいかにもデキそうで、1人は妙におどおどしているが、森人なら熟練者に違いない。
 その後者――リディリディ・トゥラ・イェレミースがそっと木々に触れ、何事かを感じようとしている。
「……生育環境に異常はない、ようですね」
「残念ねぇ。異常があればそれを辿って楽に索敵できたかもしれないのに」
「それでは戦闘に苦労しそうですが。そこらを軽く当たっただけで異常を感知できる程、数がいる可能性が出てきますから」
 エミリア・シバが残念がる様子もなく言えば、キーゼが淡々とツッこむ。それもそうねぇ、と反論もなく笑うエミリアは何とも自然体で、普段ウィータの接する層とは全く違う層だと感じる。
 そういう意味では、
「なるほど、君の先生(プロワイセ女史)は露待草に宿る澱(エーテル)を調べていると」
「えぇ。先生の研究は万物に宿る澱についてですから」
「地味だね。そして果てがない。が、意義のある研究だ」
 先程から話し相手になっているナタリア・フィッツジェラルドはこの中で最も接しやすい層だった。
「しかしそんな地味な先生と君は繋がりがある。さて……」
 双眸を細めたナタリアにウィータは小首を傾げて微笑む。
 彼女が首を振り、学園の話に変えようとしたその時、先頭を歩いていたララベル・サン・ディーベルが腕を上げて制止してきた。
「捜波にかかったよ。音は聴こえないけど。前方、数は……7? 探知が難しい、もっといるかも」
「私も何も聴こえません。が、潜伏していると想定した方がいいですね」
 リコリス・アデュラリアが言えば一瞬で空気が張り詰めた。内包する魔力(エーテル)が溢れ出しているかのよう。
 冒険者らしい切替だとウィータは思う。そしてその大いなる魔力が、どうしようもなく心を焦がす。
 ウィータが遅れて杖を構えると、振り向いたララベルが微笑して胸を張る。
「責任感強いんだね……任せて、僕達がしっかり守るから! 籠もできるだけ早く確保するよ!」
「頼りにしています」
 笑顔で返し(淑やかに武装し)、ウィータは慎重に歩を進める。
 前方、木々の合間から大樹が見えてくる。木漏れ日溢れる小広場。落葉の絨毯の先に草の群生地と、籠らしき物。
 敵影は、まだない。
「正面に3、左右に2ずつ。籠は――」
 ララベルが姿勢低く駆け出した。リディリディの周囲に魔力が集まる。体内魔力を増幅するリコリス。ナタリアの輝刃がララベルを包んだ直後、彼は言葉を置き去りに突撃した。
「――僕が回収するね!」

●混戦
 先陣を切ったララベルが敵感知圏内らしき範囲に入った直後、大地を埋める落葉の絨毯が隆起した。威嚇音か何なのか、耳障りな音を立て人間大の形を成す敵はしかし、ララベルを奇襲せんとした瞬間に圧倒的な魔力を叩き付けられる。
 超魔法と閃く爆光、異なる術を以て増幅された森人2人(リディリディとリコリス)の魔法は数多の光弾となって敵へ降り注ぐ。
 木々を抜け弧を描いて正面の4体を貫いた光弾だが敵を倒すには至らない。特にララベルが感知し損ねた1体への認識が甘くなった。
 砂塵舞う空間にララベルが突っ込む。咄嗟に彼の進路外ギリギリへ迸る光球(スタティックフィールド)を発現するリコリス。移動は阻害したものの、ほぼ無傷の敵が周囲に積み重なっていた枯葉を跳ね上げた。
「ッ!?」
 大量の落葉に包まれたララベルの視界が歪んだ。脚がもつれる。目が霞む。幻惑されている。ララベルが己の陥った状況を悟った。突破――できない。
 ララベルの速度が鈍った直後、後方(キーゼ)から指示が飛ぶ。
「一旦戻って下さい」
(でも籠を……!)
 ただ真摯に困っている人を思う。だからこその初手突撃(迅速な回収)。
 早く安心させてあげたかった。ララベルが奥歯を噛み締め再突撃せんとした時、大樹の傍に光柱が立った。
「これで少しは安心だろう? まぁ、文字通り少ししか保たないがね」
 射程限界で発動したナタリアの光縛封が、籠の周囲を守護している。
 ならばやる事は1つ。光柱が消える前に敵を大樹(露待草群生地)から離し、撃破する。
 両手の細剣を地に擦らせるようにして踏み込むや、ララベルは3連撃を無傷の敵へ叩き込んだ。
「じゃあ絶対に、すぐ終らせるから!」

 ララベルを敵の撃破へと向けさせた光縛封はしかし、応急的な籠の保護と引き換えに1つの影響を敵に及ぼした。
 大樹の脇に光(エーテル)が迸っている。大樹に何の興味もなかった敵の1体が、光柱に気を引かれてしまった。
 1体が大樹側へ動き出す――その素振りを察知した男(キーゼ)が瞬時に魔力を放つ!
「合せて下さい、メルシャート氏」
「っ!? はい!」
 2人(キーゼとウィータ)の光弾が森の中を飛翔する。命中、確認する間もなくキーゼは盾を押し出し前進した。
「一時肉薄、敵意を集めた後に群生地から引き剥がします。援護は任せます」
 戦士(ウォーリア)のいないこの場に執着を与えられる(ヘイトを容易に集められる)者はいない。一手一手少しずつ敵を制御していかねばならない地道な戦いに、キーゼはその身を投じた。

 正面が混戦になり騒がしくなったが、敵を感知した際に打ち合せた本来の策は側面の敵を優先して倒す事だった。故にそれに従い右方へ攻勢をかけたのが、エミリアとララベルだ。
 舞うように両の細剣を振るうエミリア。右を斬り上げてくるり、左脚を軸に回転し、左右同時に斬り下す。
 敵の枯葉交じりの泥が鋭利な刃となって体を刻むも、エミリアの体捌きは止まらない。ひらりひらりと舞うように――もといそれはまさしく舞だった。幼少期から続く朱の螺旋。エミリアの剣舞が敵を裂き、落葉呪が多彩な小技で応戦する。
 血潮が咲き泥が散る中、しかしエミリアは同時に嗅覚を働かせていた。
(果実が腐ったような臭い……この状況じゃ辺り一面に蔓延してるけれど……)
 索敵に利用できそうだ。
 そう算段しつつエミリアは眼前に集中する。
 3連撃。敵の反撃。躱し、刺突を繰り出すも刺した感触がおかしい。いや先程からそう。粘性生物の如き感触と言おうか。剣(物理攻撃)の効果が薄いのかもしれない。
 斬りつけながら交錯、距離を取ったエミリアが魔法支援を要請せんとした――その矢先だった。
 目を灼くような光弾の嵐(リディリディとリコリスの魔法)が、周囲を駆け抜けたのは。
(流石。支援が早いわねぇ)
 光の残滓舞う中、エミリアは追撃すべく踏み込んだ。

「回復する! キーゼは攻めを」
「了解」
 ナタリアの範囲回復(ヒーリングオーラ)がウィータを含む5人を癒し、キーゼとウィータの光弾が6体の敵へ雨霰と降り注ぐ。返ってくるのは敵6体――いや霧散した1体を除く5体による枯刃嵐とでも呼ぶべき暴風だ。
 正面と左方、2方向から浴びせられる旋風は物理的にキーゼだけでは防げない。幸い魔法による攻撃(魔術師が防ぎやすい類)だった為に損耗は抑えられているが、この場この瞬間において劣勢なのは間違いない。
 ――この瞬間においては、だ。
 キーゼが耐える。ウィータが痛みに声を漏らし、しかしキーゼに合せて光弾を撃ち続ける。範囲回復しながらナタリアが左方前衛に立った。敵猛攻が5人を削る。固定砲台と化したリディリディの魔力が迸る。続くリコリス。無才(ウィータ)のそれとはまるで異なる光の暴力が右翼へ降り注ぐ。
 左方2体が肉薄してくる。体を張るナタリア。キーゼが退けば、敵は狩れるとでも思ったか、嵩にかかって前に出てくる。それを見て取ったキーゼは盾の裏で微かに眉を動かした。
「……終局ですね」
 大樹(露待草群生地)から充分に離れた――離れてしまった敵の背後を、疾風(ララベル)が駆ける……!

●終局
 魔力を練り上げる傍ら、リディリディは籠を守る光縛封が解ける瞬間を見た。約15秒(3ラウンド)。目まぐるしく変る戦闘でそれは刹那のようにも永遠のようにも感じられる。
 残る敵は左方が合流した正面4体。同胞(リコリス)と共に火力を叩き込んでいる割に敵損耗が少ない。加えて剣(物理)も効きづらそうだ。
(防御……反撃特化?)
 ともあれ右方を殲滅した元気な人(ララベル)が敵背後に回り舞う人(エミリア)がこちらに来た今なら問題ないだろう。
 リディリディは同胞の傍を離れる事なく魔法を放つ。静かな人(キーゼ)と治癒の人(ナタリア)の間を抜いて敵を穿てば、静かな人が輝く杖(エーテルブロー)で追撃する。
 霧散する敵。リコリスが精緻な光弾を放ち続ける。元気な人が敵を猛烈にこちらへ押し込んだ直後、中空から飛び掛かった舞う人の横撃が敵に止めを差した。
 残りは2。精緻な同胞の真似をして頑張って術を組み立ててみたものの制御が難しい。制御半ばで(えいやっと)魔矢を射出すれば瞬く間に治癒の人の傍を抜け、敵を貫いた。敵が仰け反った隙に治癒の人が一撃し、退いてくる。交代に静かな人が敵に肉薄するや治癒師(ヒーラー)と思えない脚捌きで杖をぶん回し敵を滅した。
 残り1――いや、最後の敵が元気な人と舞う人によって消滅したところだった。
 這者(クリーパー)の霧散する残滓を見ながら、リディリディは息を吐いてリコリスに寄る。貴族の人(ウィストラータ)をちらと窺うと、彼女は胸に手を当て動悸を抑えているようだった。
(パンクリアース……王国の貴族の学園でしたっけ。貴族……偉い人がこんな所に1人で来る、んですね……)
 よく解らないけれどとりあえず近付かないでおこう。同胞(リコリス)にさらに近付いた――瞬間。
 前方、虚ろな澱が膨れ上がった。

 最後の敵を倒した後、ララベルはすぐさま踵を返して籠の所へ向かっていた。
 苦渋の決断に耐え敵の討伐を優先したが、依頼人の事を第一に考えていた。故にララベルは見落してしまった。善良であるが故、眼前の戦闘に集中した(戦闘中に捜波をしなかった)。その結果が、ララベルに襲い掛かる。
「ッ!?」
「ララベル……!」
 誰か(リコリス)の声。膨れ上がる攻撃の気配。正面、違う。左右、違う。足下――隆起しながら、最短距離で貫いてくる泥と落葉の刃。咄嗟に跳び退りながら腰を捻る。横腹を裂かれる感触。中空で細剣を払わんとした――直後、横合いから強烈な風が吹き抜けた。

「おかしいと思ったのよねぇ、大樹の方から漂う臭いが全然薄まらないから」

 嗅覚による索敵を戦闘しながらずっと意識していたエミリアが、流れるような3連撃で敵を縫い止める!
 遅れてごめんなさいね、と微笑みながら剣を振るう彼女に礼を述べ、ララベルが一呼吸。気息を整えるや、裂帛の気合と共に深く踏み込んだ。
「今度こそ終りだ――疾風三連突ッ!!」
 確かな手応えを感じ、ララベルとエミリアは敵の消滅を間近で見届ける。
「…………、もういないか、索敵(捜波)してもらっていいですか」
 リコリスの要請に従い7人は周囲を隈なく警戒する。辺りには涼風に揺れる枝葉と落葉の音だけが響いている。
 暫くして敵の全滅を確信したララベルは、改めて籠の回収に向かったのだった……。

●採集
「今度はなくさないようにね」
 敵の奇襲を受けてなお、何の含みもなく満面の笑みで籠を渡せるララベルは大物かもしれない。
 その経験から人間(ヒューマン)に対する好悪の情が揺れ動くリディリディをして良い人なのかなと思わしめる程、ララベルの笑顔には陰りがなかった。
 ウィータ(ウィストラータ)が僅かに目を伏せ、頭を下げる。
「ありがとう存じます。他の皆さまにも格別の感謝を」
「冒険者として仕事を果たしたまでです」
 リコリスが淡々と返せば、そんな事より、とナタリアが声を高く遮った。
「敵は消えた。籠も戻った。では採集の時間だ。だろう? さて……全く仕方がないな、私も付き合おう」
 自分がやりたいだけだという感情を隠そうともせずのたまう彼女に、ウィータは苦笑で応じた。

「……この露待草、露を待つと言うくらいだから葉に溜まる露も特殊な変質をする可能性があるのでは?」
「どうでしょう。朝露などというものは不可思議なお話が世にはありますし、あり得なくはないかと」
「……そこで物は相談だが、メルシャート。君の依頼で一晩ここに留まる事はでき……」
「やーよ、おねえさん早く帰ってお酒飲みたいわぁ」
 採集しながら盛り上がるナタリア達に待ったをかけるエミリアである。
 が、そもそも無駄に期間を延ばすのはウィータの金銭的にも組合(ギルド)的にもあまりよろしくない。おねえさんが科(しな)を作ってウィータを促すまでもない事だ。
 爽やかなララベルの笑みに少し癒されかけていたリディリディが、エミリアのやり方にびくと後退って大樹に触れる。
(はぁ……落ち着く……)
 植物と繋がっているだけで穏やかになれる。リディリディの消極性は絶好調のようだ。
 と、植物と共感して(大いなる大自然に抱き締められて)いたところ、露待草の状態を感じ取り、おずおずと口を出した。
「その辺で採集は……やめた方が良いかと……。一定量群生していないと徐々に枯れていくみたい……ですから」
「そうなのですか? ご忠告に感謝します」
 目を丸くしてウィータが返し、腰を上げる。
 彼女が革袋の水で手を軽く洗う間に6人は護衛態勢を整え、群生地を見やった。草花は大樹の根元で平穏に風に揺れている。
 それ自体は良かった――が。
「ウィストラータ、今後も依頼を頼むのであれば要望は全て事前に伝える事を勧めます」
(……まあ、今回は私達の力を試したかったのかもしれませんが)
 リコリスはちくりと釘を刺しつつ、依頼人の意図を推し量る。
 生真面目な森人(リコリス)の視線を受け、ウィータは眉尻を下げて苦い笑みを浮かべた。
「申し訳ございません。以後気を付けます」
 その仕草はどこか信用できないものを感じさせるが、気を付けるとまで言質を与えたのは彼女(貴族)なりの誠意なのかもしれなかった。
(やっぱり貴族は苦手……)
 ただしそんな誠意は、言葉や物事の裏で何事か画策する事自体が面倒、もとい忌避感のあるリディリディのような者には通じないのだけれども。
 そんな森人(エルフ)を慰めるように大樹の枝葉が風にざわめく。
 振り仰げば、白雲に薄く隠された青空が丸く切り取られて見えた。

<了>

 帰路、警戒をララベルらに任せたキーゼは何の気もなく淡々と依頼人(ウィータ)に告げた。
「魔力(エーテル)を扱うのが得意ではない、と見えましたが」
 言葉を切り様子を窺うも彼女の歩みは変らない。キーゼが続ける。
「良い眼をお持ちですね」
「……眼、ですか?」
 思いがけない事を言われたように僅かに首を傾げた彼女に、キーゼは思う。
 攻撃されながらも最後まで光弾の射出を自分に合せ続けた意志と、敵を捉え続けた眼は、有能だと。故に余計なお世話と思いつつも、つい口をついて出てしまっていた。
「魔力を扱うには素養が必要な側面が大いにありますが、扱うのと活かすのは別の話です。活かすのに必要なのは――」
 努力と経験と、頭だ。そして大事なのは、自分を活かす事。
 それはあるいは、キーゼが奥深くに沈めた何かから表出した持論だったのかもしれない。己にすら言い聞かせるかの如き言に、ウィータは沈黙で返した。

 ウィータ(無才)の属する学園は、この春、これまでよりさらに大幅な聴講生(優秀者)の受け入れを予定している、と在校生の間で噂されている。
 綺羅星の如き才ある授恵者達の受け入れを。
 無才の女魔術師は優秀な魔術師(リディリディとリコリス)をちらと見やり、眩いばかりの彼女らの姿に目を細めた。胸を焦がす感情に蓋をしても煮え滾るそれは消えてくれない。
 それでも微笑で全てを覆ってキーゼに礼を述べ、ナタリアとの会話に逃げる(何で私は貴女達みたいになれないの? 何で私は光弾しか使えないの?)。
 涼風が落葉を浚い、ざらざらとウィータの足下を吹き抜けていった……。

マスターコメント

皆さま、こんばんは。京乃です。 この度はご参加いただき、ありがとうございました。 今回の敵は落葉の絨毯という地形により、隠蔽を含めステータス全体にバフ効果がかかっている戦場設定でしたので、意外と善戦したと思います(敵目線)。 それはそれとして、集った皆さまのクラスがシーフ2、キャスター2、ヒーラー2だったのには驚きました。これにより少し難易度が上がったかなと判定しながら感じました。 そして敵の追加を読まれていた方は流石でございました。 ウィストラータは捻くれた子になってしまいましたが、おかげで今後の展開の幅が広がったような気がします。この子会話に地雷が多い……。 ただ、ウィストラータという名前は長いなと自分の失敗を悟りました。地の文はウィータと4文字にできますが、PCの性格によってはプレイングで本名呼びしかしない方もいそうですし、そこが本当に申し訳なくて……! ……以上です。 それでは、またのご参加をお待ちしております。
ショートシナリオ

ショートシナリオ難しい 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年03月17日 14時03分50秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. ララベル・サン・ディーベル

    僕は、シーフのララベル・サン・ディーベル。 みんな、よろしくね!

  2. キーゼ

    さて、宜しくお願い致します 単純な護衛依頼‥というわけではなさそうですかね。 ひとまず、多少たりとも有利とするための道中の索敵の実施は必須ですか あとは、オーダー通りに通すなら、激しい動きや範囲攻撃…特に未識別や爆関係は避けたほうが無難ですか。 シーフの方々は、足運びの際に落葉やぬかるみに足を取られぬようご注意ください 僕は、どうしますかね…依頼人の護衛を優先するか、それともウォーリア仕様にして前に立つか…

  3. ナタリア・フィッツジェラルド

    ヒーラーのナタリア・フィッツジェラルドだ。宜しく。 敵の奇襲を少しはマシなものにするという意味でも、持っていく一般スキルは習得済みのでいえば採集、看破、バランス感覚、天眼……4つのうち2つを、どれにしたものか。 あとキーゼがウォーリア仕様を考慮しているなら、回復や護衛はこちらで担おうか? 盾も持っていても胴装備の更新には気が回らなかったのもある。

  4. No.4

    あの・・・、キャスターのリディリディです。 よろしくお願いします・・・。 キーゼさんの仰るように爆付きの範囲攻撃はやめておいた方が良さそうですね。 半包囲ということですので、私は対象識別が付いたメテオライトを使っておきます。 メテオライト以外となると、BS系統のスキルも習得していますが、付与が低いので私はフリーズボルトなどの単体用攻撃魔法の方が良さそうですね。 ・・・、魔弓を使うのも手ですが。

  5. リコリス・アデュラリア

    キャスターのリコリス・アデュラリアと申します。 ……よろしくお願いします。 敵の数の方が多い事を考えると、先ずは敵の数を減らすか動きを止める必要がありますね。 例えば範囲攻撃で牽制しつつ、単体攻撃での集中攻撃で確実に数を減らしていく形でしょうか。 とりあえず私も範囲攻撃でメテオライトを、単体攻撃は魔矢を用意する予定です。

  6. キーゼ

    >初期配置から 正面の抑えもですが、側面にいられるのも厄介ですからね リコリス氏のあげる方針も有効ですし、まずは側面の少ないところを撃破して状況の優位性を作るところからでしょうか >立ち位置 シーフのお二人は恐らく前に出て殴りに行くでしょうから。 僕が前に出る理由は一応のタンクというか射線妨害メインですね。シーザーロアや殺界と言った有効スキルはないので。 ただ、ナタリア氏にお願いできるなら、二重で抑えは効きますので有り難くはあります。 生憎火力はない身ですので。攻撃は他の皆さん頼りです

  7. リコリス・アデュラリア

    >初期配置から それなら、初手では側面は他の方に任せ 私は正面の敵に対し、メテオライト+スタティックフィールド(移動阻害3)を使用しましょうか。 遠距離攻撃は防げませんが、接近されるまでに側面の敵を撃破 あるいは減らす事は出来るでしょうし。 その後の私の動きに関しては、側面への攻撃に参加しても良いですし 引き続き正面の敵に対するメテオライトでの牽制も可能です。 >ウィストラータ 直接の護衛をナタリアに任せられるのであれば有難く。 私も配置的には後衛となりますから、気に掛けるようにしましょう。

  8. エミリア・シバ

    ごめんなさい、遅れたわ。 お姉さんは、シーフのエミリアっていうわねよろしく。 うーんお姉さんは、ただ、回避が主体なので射線を封じるとかそういうのはできないわね。 攻撃は前というか近接攻撃で斬りに行くとは思うけれど、正面よりは、側面から片づけたいわねーと思ってるわ。 半包囲の状態のままっていうのが嫌だしね。 持っていく汎用はどうしようかしらねぇ…… 現状だと露待草を少しでも踏まなくてもいいように天眼。 あとは超聴覚か超嗅覚のどっちか持っていこうと思っているのだけれども。 足元の注意は壁歩きの応用でどうにかできないかやってみる予定ね、汎用の枠がもう少し欲しいわねぇ。

  9. キーゼ

    では、まずは側面からですかね 正面に関しては足止めしても有射程の場合攻撃が届く可能性がありますので···· 可能な限り前は抑えますから、ともかく少ないところから潰していただければ

  10. キーゼ

    ああ、あと足が速い方に頼めるなら、前方の敵がこちらに注意を向けているときに、隙を見て籠の確保をお願いできれば 目的は敵の討伐ではなく籠の確保ですからね。戦闘中にこれが壊れるのが一番まずい

  11. リコリス・アデュラリア

    それでは、初手の正面の敵へのメテオライト+スタティックフィールド以降は 側面の撃破可能そうな敵を狙う事にします。 単体攻撃か範囲攻撃かは敵の数や負傷具合で使い分ける予定です。 籠については私は確保は難しいと思いますが 破壊しそうな敵が居た場合、間に合えば攻撃で妨害を行いましょう。 汎用スキルに関しては看破と超聴覚を用意しているので 索敵と増援への警戒への使用を考えております。

  12. ナタリア・フィッツジェラルド

    アデュラリアが看破を請け負ってくれるのは助かる。 正直汎用スキルはどれを持っていくべきか考えさせられる所があってね……改めて持っていくのはバランス感覚と採集にしておく。 後者は戦闘終了後にしか発揮できないだろうが、依頼主の意向を考慮してな。 それでは、敵の数によりけりだが攻撃は範囲でも単体でも、少しでも削れるよう輝刃で。 射線妨害に当たっては堅甲で損耗を抑え、各種ヒールで即座の立て直しを試みよう。 あとは籠を発見次第、光縛封で確保して物理的な衝撃にでも備えておくか?魔法攻撃には無力だが。

  13. ララベル・サン・ディーベル

    じゃあ僕、捜波・改を持って行って、戦闘前に索敵してから戦いに入れるようにしておいてみるね。 あと、万が一大樹の側に寄らなければいけない時は、エアーライドで浮く様にして、露待草を荒らさない様気を付けるから。 籠の回収も試してみるよ…回収出来たら一度下がって、預ける感じでいいかな?

  14. エミリア・シバ

    ごめんなさい、シーフなのに素で捜波の存在を忘れてたわ、籠も含めララベルちゃんお願いね。 そういえば、おねえさんもエアーライドは持っていくけれど、「エーテルを爆発的に噴出」っていうのが、ちょっぴり怖いのよねぇ。おねえさんは一応地面の草に影響がなければって入れて置いたのだけれど。気にしすぎかしらね

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0