たぶん夢にまでみる編入試験対策講座
弓月 蒼
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シナリオID:621
オープニング
『白銀の薔薇』――――とは。
王国社交界に於いて、とある家系の貴族令嬢を呼ぶ際に用いられる呼称の1つだ。
同時にその名は、賞銘に等しい。多くに望まれる勝利と栄光の象徴だ。
つまりかくの如く用いられる。どこの貴族が、『白銀の薔薇』を射止めるのか……などと。
とはいえそれもある程度仕方がない話ではある。戦が無ければ戦功を上げる機会も無く。
新たな領地が開拓されることも無ければ、貴族の階級は今現在の時点で頭打ちと言って良い。
例外は、結婚・縁組による家格の引き上げくらいと言っても過言とは言い切れない。
それが王国貴族にとっての現実であり。そういう事情を鑑みた時、件の人物は天上の大華と言えた。
王国に於ける王党派筆頭。法の守護者、白薔薇の公爵家に連なる血統。
その分家である白銀侯爵家の長女にして、同家唯一の女児でもある。
野心を持つ貴族の子息であれば、同格以上の家格を持つでもない限りこれ以上望むべくもなく。
であればこそ。未だ成人に至らず、社交界に現れる前からこう名が売れることもそうそうあるまい。
何より。クラティアス家の徹底した秘密主義により、その素性がまるで知れない……という点も。
暇を持て余す王国貴族達の興を、如何にも不必要に刺激した。秘すれば華とは良く言う物である。
夜会毎に密かに語られるその令嬢は、まるで際限の無い美化に美化を重ねられ。
既に何だか良く分からないレベルの絶世の美姫として語られるに至る。と、そんな次第である。
勿論まさかそんなことになっているとは、『白銀の薔薇』当人は知る由も無いわけではあるが。
●侯爵令嬢は冒険したい
「絶対、いや」
オルファレナ・アルヴァ・クラティアスは憤慨していた。
彼女は『白薔薇』公爵家の末端に位置する貴族令嬢である。今も様々な貴族の柵に囚われている。
生家に帰るや否や告げられた、『パンクリアース学園へ編入するように』と言う課題も、そう。
入学が叶うまでは危険だから極力家から外に出ない様に。と言う無理難題も、そう。
おまけに下へ5歳離れた弟は未だ幼く、しかも病弱で将来的に家督を継げるかは相当怪しい。
上に5歳離れた義理の兄は家を出奔したきり戻らず、血筋の不確かさから家督継承権を持たない。
つまり、彼女の夫は最低でも、かなり高い確率で侯爵家を継ぐ羽目になる訳で。
あまつさえ現『白薔薇』公にも直系の子息が居ない。これはもう大変由々しき問題である。
――――なんて、彼女とはまるで関係の無いはずの祖父祖母世代の諸々に至っても、そう。
そんなこんなで色々と納得がいかない話に雁字搦めにされていた、訳、だが。
「しかしですねお嬢様」
「しかしも何も無いわエドワーズ。良いかしら、そういうのを不正と言うのよ!」
馴染みの家令長に指先を突きつけたお嬢様は憤慨していた。
いや、そんな結婚がああとか継承権がこうとか、そんな今のところどうでも良い話ではない。
問題は木目が浮かぶ豪奢な一枚樫の机に広げられた複数の書物――――参考書である。
その内容は王国の歴史から政治、経済、文学、帝王学、紋章学や錬金術に至るまで多岐に渡る。
勿論、貴族令嬢として確かな研鑽を積んできたお嬢様に隙は無い。
一般教養レベルは優に超える上流階級知識でこれらを読み解き、概ね理解するに至っていた。
……にも、関わらず。
「そもそもパンクリアース学園の編入試験は、真っ当に通る様には出来ておりません」
――――実際に、編入試験の過去出題問題に挑戦したらめためただった。
微に入り細を穿つ嫌らしい引っ掛け問題。一般教書にまず載っていない難問奇問の多種多彩。
どう考えても魔法使いの塔の所属者にでも聞け、と言わんばかりの複雑怪奇な魔法理論。
おかしな料理ばかり創る奇怪料理人のやたら長いフルネームなど誰が憶えていると言うのか。
って言うかこんな知識! 王国の、それも入学前の子供にいる!? いらなくない!?!?
明らかに出題者の悪ふざけが過ぎる。こんなの突破出来るのは難題愛好家か知識欲の権化か。
少なくとも、割と自信が有ったお嬢様が手も足も出ず轟沈するレベルの壁が聳え立っていた。
「当家の威光さえあれば編入試験など受けずとも……」
しかして問題は、ここだ。そも。パンクリアース学園は貴族の特権の温床だ。
試験など受けずともコネか血統と家格か、お金を積めば編入など余裕で果たせる。例外無く。
それが『白薔薇』に連なる侯爵家の姫ならば障害など有って無きが如し。無試験パスで満点合格。
始業式の主席挨拶すら決して不可能な話ではない――――け・れ・ど・だ!
「私は断固編入試験を突破してみせます。あまり冒険者を甘く見ないことね!」
「……左様で、ございますか」
今は冒険者関係無くはないですか……? と言う葛藤をまるで表に出さない様に呑み込むのも。
熟練の家令長には、必要とされる技術なのである。
●冒険者たちによる編入試験対策講座
王国首都―――王都『グランスパーダ』。
その表通りに居を構えるのは、王国で最も巨大と名高い冒険者ギルドの支部である。
王国の首都となれば冒険者を要する事件も多い。必然駆け出し冒険者の数も事件数に比例する。
そんなギルドの一角を、愛用の青いローブに身を包んだ長い銀色髪の少女が訪れていた。
「やっぱり土地柄ってあるのね……じゃなかった。早く依頼票を提出しないと」
ご丁寧に『依頼票提出窓口』とあるカウンター最後尾に並ぶと、少女はそわりと辺りを見回す。
学術都市『ヴェルクリエ』と比べると、全てが理路整然で四角四面。まるで執政府のようだ。
「お次の方」
呼ばれてカウンターへ向かうと、貴族の子女と言っても違和感がない確りした係員と面と向かう。
どうも提出して適当に張り出してはくれないらしい。と、国家間の違いに怪訝の色を浮かべるも。
幾らかの質問と注意事項を促され、けれど依頼は順当に受理の運びと相成ることとなった。
ヴェルクリエとはやはり異なる物の、妙なチェック体制の緩さにお嬢様の困惑が止まらない。
しかして最後に。と、報酬について問われたお嬢様は、あっけらかんとこう返す。
「え、ここでは言い値で払うではいけないの?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【依頼票】パンクリアース学園の編入試験に一緒に挑んでくれる方募集!
募集要項:政治関係以外の学問に精通しているか、人生経験豊富な方。
希望の場合、受験手続きは代行致します。
拘束時間:開館から閉館まで
集合場所:王立大図書館一階玄関口前
成果報酬:時価(諸経費は適宜負担致します)
依頼人 :冒険者のオーロラ(キャスター:Lv8)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――勿論。
結果として、王都冒険者ギルドの受付員が大いに困惑したことは言うまでも無い。
解説
マスターより
リプレイ
「ロゼット!? わあ、王都でも逢えるなんて! 嬉しい誤算だわ!」
駆け寄ってきた勢いのまま、『祈りの神官』ロゼットにオーロラが跳びついた。
王立大図書館玄関前――――は、利用者の少なさからか。清閑なると称するのが相応しい物。
「お久しぶり。冒険者のオーロラが健在なようで嬉しいわ」
しがみつかれて平然と返すロゼットもまた、流石に三度となれば慣れたものか。
まるで良く懐いた犬じみてぱたぱた駆けるオーロラを笑って宥める様も堂に入ったもので。
「極北峠の件以来でしょうか、お元気そうで何よりですね」
「ヴィルヘルミナも、また来てくれたのね! 感謝してもしきれないわ!
今日は、うん……前のように冒険ではないのが、少しだけ残念だけど」
既知の冒険者である『太刀一閃』ヴィルヘルミナにもぎゅうっと抱きついていく。
恐らくは彼女なりの親愛の情なのだとは分かっている物の、その距離感は貴族とは到底思えない。
……とは、言えだ。流石に身分社会と縁遠いドワーフと言っても。
王都の中枢に位置する大図書館を、冒険者を連れてパス出来る人間がそうそう居ない事は分かる。
生まれながらの特権階級層。それも――――
(恐らく、相当高位の)
『導くカノープス』リサ・ベイカーはその青と銀で彩られた少女の仕草を眺め感心すらしていた。
邪気がない、と言うより正真正銘の箱入り。余程深窓に秘されなければこうはならない。
『冒険者のオーロラ』の所作は些細な一つを取っても基本から積み上げた作法に則っている。
「エスト・ポーラ出身、リサです。よろしくお願いします」
そう声を上げるだけで、視線から、踏み込む一歩。躊躇なく手を握る挙動まで。
少女は自分が拒まれることを考えてすらいないように見える。いっそ信じられない程に。
「リサね、今日は宜しく! ……あ、ごめんなさい、慣れ慣れしかったかしら?」
けれどもどうして。彼女は自分が見られていることを、確かに意識してはいるのだ。
これで貴族で無かったらその方が有り得なくて――――ああ。けれどそれは、きっと違う。
「いえ、わたしも試験に挑戦してみたいと思いますので一緒に頑張りましょう」
例えばこんな。何でも無い。追従と大差ないような言葉で。
オーロラはまるで自分が受け入れて貰えた様に、喜色満面で笑うのだから。
「貴重な資料を閲覧できる良い機会なのだ」
「そう、それ! ……ではなく。いえ、まるで特権階級以外は入学させない、なんて試験。
そういうの気に入りません! 目にもの見せてやりましょう!」
『叡智の探究者』ストレガ・L・リベルガストラは至極自分の知的欲求に忠実だ。
書とは叡智の結晶であり、先人の研鑽の結実。それが隔離されているとなれば尚更に。
試験そのものには興味がなくとも、試験素材には十分以上関心がある。
それは、『霧払い』レイヤ・ダライ=カホールも同様の様ではあったが……
「良いこと言ったわレイヤ! ええ、ええ、だってあんな試験明らかにおかしいものね!」
心情的に共感出来る部分が少なからずあったようで。
強く強く拳を握ったお嬢様が、まさに我が意を得たり。と、こくこく頷いていた。
一方で、何故か試験対策と聞いて謎の情熱を燃やす層も居るようだ。
「過去30年の問題と資料集を用意してきた」
ロイ・ベイロードは学園卒業生である。自分でも良く入学出来たな……等と思ってはいるが。
貴族に生まれ貴族に育つ。それだけで、入学の障害は大きく減ずるのだ。
それは同時に、学園中枢が未だに貴族が専横する場であることを意味もしているが。
しかし、そう言って差し出した紙の束はどう足掻いてもオーロラが抱えられる量ではない。
学園の試験問題は多岐に渡り、量も多い。それが実に30組+α。
「……え。それ全部やる……の?」
お嬢様の声が震えていた。すぐさま家令長が執事団を率いて駆けつけたが。
30年分となると精査するだけでも大変だ。その熱意は果たして何処から湧いてきたのか。
「月光草と榛の種を煎じた物に蜂蜜を混ぜ、荒れた肌に塗ると数日で治りました。原因は」
「月光草と榛……植物によるかぶれ?」
「暗闇苔と陽炎水草の群生条件における3つの共通項は」
「24時間日光が射さない。澱が乱れている。それと、水場から5m以内」
『猫、飼い始めました。名前はノア。』ガレシアス=エルムート。
愛猫の紹介に余念が無いガレシアスの問に、オーロラが瞬きながらもてきぱき答える。
医学と薬学、錬金術と魔法学。敢えて複数の学問を跨いだものを投げたにも関わらずだ。
「オーロラ。そう……あなたはとても優秀ですね」
「ふふ、ありがと。これでもお勉強は割と真面目にしてたのよ?
がれし……あす? あら。義兄様と名前が一文字違い。何だか親近感ね!」
年頃を。そして唯人の短命さを考慮すれば。
その知識の広さは瞠目に値する。思わず、"是非とも弟子に"と言い出しそうになる程に。
(……何とも、惜しい)
或いは、魔法使いとして大成する道すら有るだろうに。
そんな歪な学び舎で、この芽が果たしてどう育つかを考えると。痛切の念を禁じえない。
「あら、これで全員かしら?」
「いや待て待て。我輩! 我輩が居る! 何だちっさいから見えないとか言ったら泣くぞ!」
ぴょんぴょんと跳び上がりながら手を掲げるアドニスである。
当人曰く"貴族を目指す偉大なるゴブリン"なのだが、その見た目は子供にしか見えない。
「あ、あ、ごめん! ごめんね。別に見えなかった訳じゃないのよ?
ちょっと人混みに紛れちゃってただけで……」
「高貴さが有るじゃろ! こう、隠しても隠しきれない高貴さが!!」
「う、ん。そう……かな」
「曖昧に濁されたーっ!」
かくて、8人の冒険者達が難攻不落、絶対不可侵の王立大図書館に挑む。
果たして、沈黙に包まれた古書の居城から飛び出すのは鬼か蛇か。或いは魑魅魍魎の坩堝か。
――――いや、勿論これから死ぬ気で試験勉強である。
●Lv2.寝無くば立てず
Before
「貴族しか入学させたくないなら、庶民の目が到底届かない禁帯出庫が怪しいです!
え? 中が見たいだけ? そんなことは――――よく分かりましたねっ!」
After
「ふ、ふぉぉぉぉ――――っ! こっ! こんな貴重な論文がっ!!
エーテル原理!? 魔法大系の構造論理!!? 境界の破綻分布予想!?!? こ、こ、こ」
こ。しか言えなくなったレイヤが本の束に視線を落としたまま秒で陥落していた。
「大森林深部の魔獣伝承……こんな物、集めるまでに何度命を張る必要が有るのだ?
それが、その成果がこんな場所に秘蔵されているなど……なんてことなのだ」
『大脱出』に関連する書物を調べて行き当たった稀書の類に、ストレガが大きく嘆息する。
「おお~! 何だか凄そうな本がざっくざくじゃの。これなんか幾らするんじゃろ。
いや、我輩勿論知っておるぞ。本は高価じゃからな。丁重に扱わねば……あっ」
市場で捌けば家が立つ。という書の価値に気付くことなくアドニスが感嘆(?)の声を上げ。
「おかしい。歴史書の類が多過ぎる。これほどの冊数はどう考えても必要ないはず……
おまけに……年代によって、記載内容が微妙に食い違う……これは、一体」
唯一。オーロラの参考になるように、と本を探っていたガレシアスは。
王国の闇の一端に危うく触れそうになりつつも、あくまで試験対策優先。と間一髪すり抜ける。
他方、一階の実習室では過去問題分析班と、試験勉強対策班が共同作業に勤しんでいた。
「私は、地質学と。ドワーフ王国関連なら多少は」
「あ、それなら過去の外交取引についてもう少し掘り下げておきたいわ」
「が、がいこうとりひき……!? いえ、それは少しハードルが……」
「えっ、王国の、それも貴族の経済観ってこんなにスカスカなんですか……!?」
「うん、王国貴族って実はお金の勘定あんまり得意じゃないの。
ほら、そういうのってお抱えの商人とかに委託しちゃう家が殆どだから」
「ああ、だから同盟の商人が度々王国に流れるんですねー……そっか……」
ヴィルヘルミナ、オーロラ、リサの受験組3名は互いに編入試験の過去問を広げながら。
互いの知識交換に勤しむものの。こちらはこちらで国家間の意識格差に戦慄を余儀なくされ。
「"ためにならない王国の豆知識100選"って本が有ったから持ってきたぞ」
「何それ!? 製本だってお金が掛かるのに何でわざわざそんな……
あ、私も宗教と神話の参考書を幾つか持ってきたけど。こんな問題本当に出るの……?」
「うん、出るの。4年前だけど、何でか古代神話で一設問全部埋まってる年が……
え。ためにならない豆知識!? なにそれ面白そ」
「はいそこまで。とりあえず過去問を埋めましょ。まずはそれからよ」
「「「はーい」」」
ロイが持ってきた不可解な書物にオーロラが興味を引かれた所で。
ロゼットが制止を掛ける。30年分の過去問は流石に膨大であり遅々と進まないが……
「今気付いたんですけど、この過去問。同じ問って1つでも有りました?」
「ん……あ。本当、少なくとも私は見つけられてないですね」
「私も見てない。え、あれ。もしかして同じ問って絶対に出ない……!?」
教える側の目線で過去問題を眺めていたからか。ふと気付いたヴィルヘルミナの一言で。
状況は大きく変動する。何せ、同じ問題が出ないと仮定するなら過去問題は宝の山だ。
「と、なると……過去に出た設問部分を全て省いて勉強すれば」
「おお、何か一気に行けそうな気がして来たの。我輩も受ければ良かったか」
歴史書を出来るだけ簡単に。と頭の中で纏めていたガレシアスがその閃きを汲むと。
ストレガに探して貰ったゴールディ大脱出の冒険譚に没入していたアドニスが顔を上げた。
些細な切っ掛けでも、状況打破の取っ掛かりを見つけられたのは大きな一歩だ。
しかしそうこうしている間に昼の鐘だ。時はかくも必要な時に限って早馬の様に過ぎていく。
●Lv3.貴族でも出来る丸暗記
「素晴らしい。パンと言うのはこれほどまでに種類があるものなのだな!」
「凄い、良くこれだけの品揃え……嘘、実芭蕉!? あんな貴重な物サンドイッチに!?」
売店を覗き込んだストレガから歓声が。見学に来たリサから悲鳴が上がった。
貴族お抱えの商人が仕入れ担当だからか。大図書館の売店の品揃えは凄まじいの一言だ。
庶民のパン屋でも創意工夫によって様々な商品が生み出されてはいるが。
使える食材と調味料の数が十倍も違えば、これはもう競争の始点にすら立てはしない。
「どれも綺麗に丁寧に可愛く作ってあるわね……お値段は可愛くないけれど」
時節を反映してか。チョコレートで飾られた丸パンをトングで掴み。
その値段を見て眉を寄せるロゼット。貴族の市場はチョコレートほどは甘くない。
「後半戦は、範囲を絞った方が良いでしょうね」
「そうじゃの。すぴぃどらぁにんぐせにゃ」
「うぅ、詰め込みすぎて頭ぐるぐるするぅ……」
ガレシアスが淹れた紅茶に口を付けるアドニスとオーロラに。
そこへ戻って来たリサが持ってきた包みを開く。淡いバターの香りに集まる視線。
特に、一緒に戻って来たストレガの食いつきが激しい。
「クッキー良く焼けているのだ。お茶と一緒に頂くのだ」
「あはは、どうぞ。手作りですけど良かったら」
「手作り!? わあ、凄い……手作りのお菓子かあ。リサは器用ね」
遠慮無くぽりぽり口に運ぶストレガに対し、恐る恐る摘むオーロラ。
その様は恐らく、人から受け取った物を食べてはいけないという教育の賜物だ。
(これは、探りをいれるのは野暮でしょうね)
ここまで来ればガレシアスでなくとも分かる。その仕草は貴族の。
それも――――平時より命を狙われ得る水準以上の、貴族の物だと。
それに気付いて尚、敢えて口にしないのは。恐らく彼ら。彼女らの優しさなのだろう。
「――――我輩も貴族になりたかったなあ。ぐすん」
――――きっと。
後半戦は、延々虫食い潰しという極めて地道な作業に徹する羽目になった。
「えーと…おかしな料理ばかり創る奇怪料理人のフルネーム……? これは、パスね!」
「凄いな。過去問なんか真面目に読んだことなかったが、問にキワモノしかないぞ」
「……"ためにならない王国の豆知識100選"からの出題、あったのだ」
「え、あったんですか!?」
「あったのだ。こことここ。あとここも。結構出題されてるのだ」
「ためにならないのに……」
「ここまでくると悪意しか感じませんね……」
ロゼットが遠い目をし、ロイの表情が引き攣る。
ストレガの驚くべき発見にリサが、オーロラが、ヴィルヘルミナが困惑する一方で。
禁帯出庫は禁帯出庫で、これまた色々不味いことになっていた。
「あぁ……ああ、つまり生命とは、エーテルとは、ケーキとは。そして万物とは。
そうか、そうだったんですね……この世界は、つまり、ケーキと同じ……」
「おおーい、レイヤ氏、だ、大丈夫か?! 何か凄い顔しておるのじゃが」
「そうか……つまり牛乳と砂糖と卵を混ぜたあと、元の形状に戻すような……それが、真理」
「誰かーっ! レイヤ氏が! レイヤ氏がぁー!」
尚。何とかギリギリで追い出される憂き目に合うことは避けられたのだという。
これも多分、大貴族の威光という奴である。
とは言え時は有限。"対策"を練った後の"詰め込み"は各人其々の役割だ。
一通りの学習を終え、オーロラがヴィルヘルミナの膝に倒れ込んだ。
「も、無理……続きは、また明日……」
何も言わずぽんぽんとあやすように手を置くドワーフの娘の心情は気取れずとも。
確かな手応えと共に試験対策は一次解散と相成る。
「何か困ったことがあれば連絡して下さい」
「オーロラ、試験頑張ってね。知識神の加護がありますように」
ガレシアスが連絡先を交換したり。ロゼットが祈りを捧げたりと。
その最後は思いの外慌しかったものの。けれど、きっと。
最後に大きく手を振ったお嬢様は。とてもとても嬉しそうに笑っていたのだから。
例えどんな結末になったにせよ。その過程は、成功と呼べる物に違いなかったろう。
●LvEX.結果発表の日
2月の末日。一つの書簡がクラティアスの家へ郵送されて来た。
同日。ギルドを経由してリサ・ベイカーとヴィルヘルミナの元へも同じ書簡が辿り着く。
そこに記された文面は、けれどもいずれも同じくたったの2文字。
割と予期せぬ事態に、ちょっとした混乱が起きただろうことは言うまでもない。
――――けれどそれが、彼女達が力を合わせて勝ち取った一つの未来であることを。
今、この時はまだ。誰一人として知る由も無いのだった。
マスターコメント
ショートシナリオ普通 報酬:多い8 / 8〜8人
2021年03月03日 04時14分16秒 公開
相談掲示板
えっと、リサです! 得意科目は経済とか会計とか?計算もそこそこ… よろしくお願いしますねっ ところで、もし一緒に受けて受かったら、やっぱり学費とかは自分持ちでしょうかね? あと、学年ってどうなるんでしょう?
ベイロード騎士団団長ロイ・ベイロードだ。 よろしくおねがいする。 まぁ、今回、何を教えるかだな。パンクリアースは、オレも行ってたところだから、知りうる情報は教えようかなと思う。
No.3
我輩のことはアドニスとでも呼んでくれ。 この学園はかつて我輩も目指していた場所なんじゃが。 まあ…その、如何せん先立つものや根深いものが云々ゆえ叶わず……否、今が好機と見た。 我輩も学園に入れて~~~って正直何を勉強したらよいのか皆目検討もつかん。
失礼します、キャスター、ガレシアスです。 パンクリアース…噂に聞く名門校ですか。皆さんそれぞれ関わりがあるのですね。 私が教えられる分野は、歴史と医学・薬学ですね。出題傾向をこの短時間でどうカバーするか…はまだ思いつきませんが…
ストレガなのだ。よろしくなのだ 料理関係とかなら教えられるのだ 或いは調べものしてるかもなのだ
うーん、出題傾向を過去問題からみて、方向を決める感じでしょうか? 基本的には王国関係のものなんでしょうか?経済も王国周辺とか、王国の歴史に絡んで…とか。 あ、あと、お勉強は、勉強だけでなく、息抜きのティータイムもあった方がいいですよねっ
ヴィルヘルミナです。今回はよろしくお願いしますね。 私は地質とかになるでしょうか。鍛冶とか彫金は出るか分かりませんし。 出題傾向からして難解なものばかりですし、一般的な部分はあまり教えなくてもいい気はしますね。 教える以外にも自分の調べものしてもいいし学園生を目指してもよいとの事でしたが、私自身は教える事中心になると思います。
ヒーラーの神官戦士、ロゼットよ。皆よろしくね。 あまり大きな声は出せないみたいだし、学校の授業というより、 皆でテーブルを囲んでの勉強会って雰囲気かな? >出題傾向 「過去出題問題」はあるみたいだし、ひとまずその解答を全て 埋めるのを目標に、調べ物・勉強って順で良いんじゃない? お嬢様も基礎学力は私たちよりありそうだし、意地の悪い問題や 専門的な問題をフォローしていけば、合格点には近づくかなって。 >一緒に受けて受かったら 学年は入学した年度別らしいから、何歳でも1年生からね。 在学期間は6年(留年がなければ)、学費は公開されていないけど 授恵者なら特待生として、何らかの補助や免除制度はありそうね。
> 「過去出題問題」はあるみたいだし、ひとまずその解答を全て埋めるのを目標に、調べ物・勉強 なるほど、堅実なやり方です。 調べ物をされたい方も一緒についていくことができますし…それでいきましょうか。 >ティータイム 拘束時間は開館から閉館までということなので、昼休憩などに…そうですね、お弁当なども良いかもしれませんね。頭を使うでしょうから、ティータイムには甘いお菓子を。 いずれにせよ食事は館内ではなくテラスでということになりますが…移動も含めてよい息抜きになると思います。
レイヤ・ダライ=カホールです。よろしくお願いしますね。 わたしは魔法知識はそれなりにあるので、その方面をオーロラさんにご教示できればいいなって思います。 >出題傾向 編入試験は試験である以上、試験の目的があるはずです。 そういう方向から見るとこの試験はずいぶん細かなところをついてきて、基本はどこかにおいてきたかのよう。 意地悪でめちゃくちゃですね。 これは落とすための試験。入学させる気がない奴です。間違いありません。 そうですね…こんな意地悪な入試問題を用意するとなると。 持ち出し禁止の棚、ここが怪しいですね。 莫大な入館料と一時金が掛かる図書館…。ここの持ち出し禁止の棚は庶民は基本目にすることはない。 わたしがそういう意図で出題するならここから出します。 そう、ここの文書を読んでいけば、冒険者としても魔法の扱い方によい気づきが得られるに違いありません…! これはためになりますよ…! さあ、見に行きましょう。話によれば魔法使いの塔の研究論文とかもあるとか…!(自分が読みたいだけともいう)
単に出題問題自体が難解だけでなく、引っ掛けもあるのが厄介ですね。読み間違いがないように読解力も試される訳ですし。 まともに合格させる気がないのは同意ですけど、お嬢様はどうにも正面突破したいようですので。 今回の目的を考えると教導辺りのスキルは無難ですけど資料検索のスキルもあると便利かもしれませんね。 教えるにあたって適切な資料を用意できるかも重要な要素ですし。 汎用スキル枠は二枠しかないので、うまく取捨選択したい所ですけど。
ああ…資料検索。それは確かに必要ですね。ふむ… 【資料検索班】班と、【教導班】で分かれますか?
私は、一応「資料検索」は習得しているわ。 知識系は習得していないのだけど、礼儀作法や神学・宗教学が 問題にあるなら、そっちはお手伝いできるかな。 お嬢様、オーロラには勉強に集中してもらうのは賛成だけど、 私たちは役割兼任で良いんじゃないかな。完全に分けてしまうと 教えられる範囲が狭くなってしまって、かえって良くなさそう。 ただ教えるのをメインに頑張りたい人のために、資料検索を 手伝うのは構わないわ。私は資料検索を多めにってことで。 あと、自分も試験を受けてみたいから勉強したいって人は 応援したいし、レイヤみたいに趣味に突っ走る人も面白いから 応援したいわ。マスターからも、それも良し、ってあるしね。 >お昼休憩・ティータイム 諸経費を負担してもらえるなら、売店を覗いてみようかしら…。 ちょっと普段は見なさそうな、凝ったお弁当とか売ってそう。
それもそうですね…。 自分は教導と医療・薬学で埋めてしまうので…資料検索をどなたか余裕のある方に手伝っていただきたく。 オーロラ嬢には真正面から突破して欲しいですね。そのためにも頑張りませんと。 ティータイム用に店の茶葉を持ち寄ろうかと思ったのですが、中庭の売店の方がいいものが揃いそうですね…
禁帯出庫か… このあたりにヒントがありそうだ。
No.16
スキル……手持ちが無くてな~んも取れんかったわ。かなしい。 あれじゃろ、引っ掛け問題とか出してきそうなタイプじゃこういうのは。 我輩もてぃーたいむしたいのう。
資料検索、あるのだ。言えば資料探してくるのだ
わたしは、オーロラさんと一緒に勉強して、せっかくなので試験にチャレンジしてみようかなと。 経済学は教える感じですが、政治はオーロラさんに教えて貰おうかな… 皆さんの指導も、オーロラさんと一緒に受けたいと思います。
依頼期間が何日あるか分かりませんが、最後の日はいままでの勉強のおさらいにでもしようかなと。 最後まで詰め込んでも入るかわかりませんし。主題範囲が広範すぎて完全な対策は難しいでしょうから。 試験自体は私も受けてみようかと。どれだけ無茶苦茶なのか正直興味深いですし。 絶対に入学したいという訳ではないので、面白半分なのかいわれると否定できませんけど。
>ガレシアス お茶、淹れてもらえるなら嬉しいわ。 売店はどっちかというと、お弁当とかが目当てだから。 なんというか、盛り付けお洒落なのとか売ってそうかなって。 >受験希望者 私は受けないから、オーロラと受験希望者の勉強を手伝うわ。 ストレガも居るし、資料検索の方もまわるでしょう。 >アドニス 汎用スキルは補強であって、出来る・出来ないじゃないし、 キャスターなら魔法の知識なんかは強いと思うわ。 世界知識とかで、ゴールディの問題だってあるかもだしね。
No.21
>ロゼット ん~~~む、確かにそうじゃな。 ……ゴールディはどうじゃろ。ま、一応教えておくとするかの。
>ロゼット わかりました。持ち寄りましょう。茶器などはデータのないものなので最終的な判断はMS任せですが… 貴族や富裕階層がメインターゲットでしょうからね。おしゃれなものも多そうです。 というわけで明日の夜に出発ですね(りまいんだー 皆様、どうぞよろしくお願いします。
明日出発ですね、楽しみです。あ、もちろんお役目も果たしますよ!? 【一点集中】で速読して、試験に重要そうなところを書き出したりしてみるつもりです。 …“全てを知ってしまった猫”のような顔で呆けてることもあるかもしれませんが。 ちなみにわたしは試験は受けません。 わたしの探求心が学舎などに収まるなどと思わないことです…! でも、学園の大図書館。いいなぁ。