贖えぬ過去と、叛虐の罪

明乃そら

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シナリオID:556

オープニング

 とある小さな田舎町に住む、一人の女性と少年がいた。
 二人は親子で、父親は色々な事情で別れたが、女性は健気に明るく振る舞い、女手一つで我が子を育てた。
 仲睦まじく過ごす親子の姿は、とても微笑ましくさえ思えるものだが。
 町の者達は腫れ物扱いするかのように、深く関わろうとはしなかった。
 何故ならその少年は、『人(ヒューマン)』と『鬼(ゴブリン)』との混血種。
 人類社会において、ゴブリンは曾ての敵で忌み嫌われている存在だ。
 穢れし鬼の子供だと、蔑まれる事もしばしばあったが――。
 ただ一人、少年と似た年頃の女の子だけが、笑顔で優しく接してくれた。
 少年にとっては、少女が野良犬に襲われていたのを助けただけの話だが……妙に心がくすぐったくて、でも不思議と悪い気はしなかった。

(……この子と平穏に暮らせるなら、それだけで十分よ)
 母が願うのはほんのささやかな幸せだけなのだが……運命は実に過酷で、残酷だ。

 ――ある日、女性は重い病気を患い、床に臥してしまう。
 母の病を治してほしいと、少年は必死に助けを求めるが、その声を聞く者は誰もいない。
 結局、彼の悲痛な願いは届く事なく――女性は遂に、息絶えた。

 ――どうしてお母さんが死ななくっちゃいけなかったんだ!
 ――どうして誰も助けてくれず、お母さんを見殺しにしたんだ!

 無慈悲で理不尽な現実に、嘆きと怒りが混濁し、少年の心は暗い憎悪の闇に侵されていく。

(……ただゴブリンというだけで虐げるだけの連中を、俺は決して、赦しはしない)

 その日から、少年の姿が町から消えた――。

●そして現在
 ここはゴールディ。ゴブリン達が治める都市国家。
 裏の世界を統べる者達(マフィア)が全てを仕切るこの地には、何かとワケありのモノが流れつく。
 そんな歪な都市の片隅にある、裏通りの一画に居を構え、情報屋を営むシャルティナ・カッツェ。
 冒険者ギルドの仕事も請け負う彼女の許に、一人の女性が訪れた。
 まだ若い、二十歳そこそこの娘だろうか。鮮やかな銀色の髪が印象的で、整った顔立ちに清楚な身なりは、この薄汚れた街には不似合いで、それなりに立派な暮らしをしてきたものだと想像がつく。
 こっちの世界とは如何にも無縁なお嬢様が、わざわざ出向いて来たのは深い事情がありそうだ。
 シャルティナが単刀直入に内容を訊くと、女性は声を震わせながら、口を開く。
「……ある人物を、どうか探してほしいのです」

「……てなワケで、アンタらにお誂え向きの仕事があるんだが、良かったらどうだい?」
 依頼を求めてきた授恵者達に、シャルティナはそう言って話を切り出し、一人の女性を紹介する。
 彼女の名前は、エイミー・フロイデン。シルトラース帝国の医者の娘で、約半年前、両親と共にエラトゥーン都市同盟へ住まいを移す予定であった。
 だが仕事の都合で両親の準備が遅れてしまい、彼女一人だけが先に引っ越しをした。
 それから“あの”崩壊の大惨事が起きてしまい、両親は今尚、“行方不明”のままである。
 おそらくはもう……生死の分からぬ両親をずっと待ち続ける彼女の心は疲弊して、気を紛らせようと夜の酒場へ繰り出すが――帰り道に運悪く、賊に捕まり、拐われてしまう。

「こいつはなかなかの上玉じゃねぇか。闇マーケットに売り飛ばせば結構な金になりそうだ」
 下卑た笑い声を耳にしながら、恐怖に怯え、絶望に震えるエイミーを、舐めるような視線で賎しく見下す盗賊達。
 この世に救いの神などいないのか、そう観念し、心の糸が切れかかった時――薄暗闇の中から、突然『何か』が現れた。
 ――ソレは二本の角を生やした、長い漆黒の髪に褐色肌の偉丈夫。
 ゴブリンの青年らしき男は猛接近しながら巨大な太刀を一薙ぎし、瞬く間に賊の悉くを葬っていく。
 その力の差は歴然として、男の振るう刃は鬼神の如く、狂気に駆られるように全てを屠る。
 気が付けば、娘以外は一人も残らず、盗賊達は物言わぬ骸となって血の海の中に横たわっていた。
 ゴブリンの男は築いた屍の山を一瞥すると、獣のような獰猛な赤い眼で娘(エイミー)を睨み、無言でその場を後にする。
 拘束から解放された彼女は、急いで後を追おうとするが、既に男の姿は見当たらなかった――。

「それから彼女は、男を追ってここに足を運んだ、つー事なんだが……アタシも心当たりがちょっくらあってな」
 彼女の証言から目撃場所を推測すると、そこはエラトゥーンとゴールディを跨ぐ街道付近。
「あの辺りは夜になると特に物騒な連中が出てくるからな。ヤツらは縄張り意識が強いから、嬢ちゃんを拐った連中が殺されたのも、ソコに踏み込んでしまったからだと思う」
 もしそうであるなら尚の事、男はどうして獲物(エイミー)を放置したまま、去ってしまったのか。
 理由については分かり兼ねるが、知りたいならば、本人から直接聞くしかなさそうだ。
 そういえば――エイミーは男を探してどうしたいのか?
 授恵者達はふと浮かんだ疑問を尋ねるが、肝心の彼女は口を閉ざして答えない。
 さっきからこんな調子なモンだから、ひとまず必要な情報だけでも伝えておこうと、シャルティナが話を続ける。
「んで、男の方だが……ソイツは『バンデ』といって、誰とも連まず、たった一人だけで行動している盗賊だ」
 外見の特徴なども女性の証言と一致するので、ほぼ間違いないと言い切るシャルティナ。
 居場所に関しても凡その目星は付いている。
 街道へ向かう途中の外れた地域に、ゴブリン達が住む貧しい集落がある。そこがバンデの隠れ家だ。
 その一帯にはガラの悪いチンピラ連中も出入りしているから、詳しい場所はソイツらに訊けば教えてくれる事だろう。
「とにかくアイツと戦う時は用心しろよ。アタシも聞いた話でしか判断出来ねぇが、噂通りの強さなら……」

 ――おそらくヤツも、『授恵者』だ。

 相手はかなりの手練れのようだが、こちらも腕の立つ授恵者が多くいる。
 せいぜい油断だけはするなと念を押しながら、シャルティナは一枚の地図を手渡した。
 道案内だけはしてやるからと、授恵者達の傍に近寄り、依頼人(エイミー)には聞こえないよう小声でそっと耳打ちする。
「……二人は多分、知り合いだ。アタシが男(バンデ)の名前を口にした時、彼女の表情が一瞬険しくなったしな」
 どうやら深い事情がありそうだが、当人同士の問題でもある以上、余り踏み込むべきではないかもしれない。
 しかし解決の糸口に繋がるなら、ある程度の情報も得たいところだが……。
 何れにしても、引き受けた仕事は遂行するのが、授恵者としての役目である。そして相手が納得出来る幕引きに、導く事が出来れば最良だろう。

 様々な思いを抱きながら、授恵者達が外に出ようとする直前――シャルティナの励ます声が、彼らの背中を一押しする。
「アンタらは、自分が何をすべきかだけを考えればいい。後はしっかり任せたぜ」

解説

●目的 ・依頼人(エイミー)を『盗賊』バンデに会わせる事。  詳しい事情は、集落に向かう途中の道中で聞いたりすれば、内容次第で答えてくれるかもしれません。 ・バンデの撃退。  戦意を失わせれば十分ですので、命を奪う必要はありません。 ●敵情報 『バンデ』(ゴブリンのウォーリア)  ヒューマンの女性とゴブリンの男性の間に生まれた、混血種の青年ゴブリン。  黒い長髪に褐色の肌、精悍な体つきで、二本の角が生えている以外は、一般的な人間と変わらない外見です。  小さな集落に隠れ住み、ゴールディとエラトゥーン都市同盟の国境付近で盗賊行為を働いています。  病床の母の死に関する事で人間に恨みを抱いている為、まともに取り合ってはくれません。  授恵者として覚醒しており、大太刀を武器に肉弾戦を挑んできます。 『ゴロツキ連中』  マフィアになりたくてバンデを誘うのですが、いつも追い返されてしまっています。  特に強くもないので、適当にあしらっておけばいいでしょう。 ●NPCについて 『エイミー・フロイデン』  ヒューマンの一般人で、二十代前半。  今回の事件の依頼主。  医者の娘でしたが、両親は帝国の崩壊に巻き込ませて音信不通。  一人で夜に出歩いていたところを盗賊達に襲われましたが、逃げ延びた後、バンデを追ってゴールディまでやってきました。 『シャルティナ・カッツェ』(ハーフビーストのシーフ)  ゴールディの裏通りに住む情報屋。  道中の道案内くらいは手伝ってくれるみたいです。

マスターより

差別と迫害によって歪んだ人生。一度狂った歯車は、元に戻す事などできないのでしょうか。 今回はただ戦うのみでなく、心情的な部分も織り交ぜながら、より良い結末に導いて頂けたらと思います。 それでは、ご参加を心よりお待ちしています。

リプレイ

●逢いたい理由
 依頼人、エイミー・フロイデンは盗賊に拐われかけたところを救われた。
 助けた相手はゴブリンの青年。もしも記憶が違ってなければ、彼女は昔の彼を知っている。
 その確証を得る為にも、エイミーは冒険者ギルドに依頼を持ち掛け、男の住処である集落に向かうのだった。

「ふむふむ、何やら深い事情がありそうですね」
 現地へ赴く移動の途中――ヘレム・カースワーズは眼鏡の奥の金色の瞳を爛々と耀かせながら、心情を探るように依頼人(エイミー)の顔を覗き込む。
「人探しの理由……おおよその所は検討がつきますよ。ズバリ、“復讐”でしょう!」
 わざわざ探してほしいというからには、二人の間に何かがあったと推測出来る。
 ヘレムは適当な理由を挙げて反応を見るが、エイミーの表情は変わる事なく、俯いたままだ。
「よろしければ、何故会いたいのか、そこに至る理由を聞かせてくれないかい?」
 レイ=レーベンス=レックフォードは丁重に一礼した後、エイミーに訊ねる。
 依頼を引き受けた以上、そこに至る経緯と、青年に会ってどうしたいのか、その動機だけでも確認したい。
 理由が判れば、取れる対応も変わってくる。もし聞かせてくれるなら、彼女の望みに近付けるように務めるだけだ。
 ただし無理強いするつもりはない。それだけ伝え、彼女が自分から話してくれるのを、レイはじっと待つのであった。
 ――ピンと張り詰めた空気が周囲を包む。重い雰囲気が漂う中、ギャメルが不意に思った事を呟いた。
「ただ会いたいってのも妙な依頼だな。もしかして……“恋”か?」
 その何気無い一言を聞いた途端、エイミーの顔がみるみる赤く染まっていく。
 どうやら図星だろうか。彼女の思わぬ反応に、トゥーリが興味津々、二人がどういう関係なのかを聞いてみた。
 ここでエイミーは、深呼吸して落ち着いた後、漸く口を開いて、会いたい理由を話し始める。

 ――子供の頃、エイミーは町から外れた野原に遊びに行って、野良犬達に襲われた。
 そこへゴブリンの少年が駆けつけ、彼女を助け、以来、エイミーは少年に懐いて一緒に遊ぶようになっていた。
 種族がどうとか、彼女にとっては関係ない。何故なら彼は、大事な命の恩人だから――。

 それから10年くらいの年月が経ち、容姿もすっかり大人になったが……盗賊達から救ってくれたゴブリンの青年は、あの時の彼に間違いない。
 エイミーは真剣な眼差しで、授恵者達にそう語る。
「ふぅん……ならフロイデンさんは、二度も助けてもらった事になるんだね」
 成る程と、トゥーリが大きく頷く傍らで、ハリス・アル・ターミルは二人の関係性を尊重した上で、『何を望んでいるのか』を改めて問う。
 ……この人達なら、信頼出来る。
 エイミーは少し安心したのか表情を和らげ、過去に起こった出来事を打ち明けた。

 ――バンデの母親が重い病に罹った時、病気を診たのはエイミーの父だ。
 娘を助けてくれた事もあり、エイミーの父は、バンデを偏見の目で見るような真似はしなかった。
 バンデの母の病気も、医者として必死に治療に尽力したが――結局、命を救う事は叶わなかった。
 差別され、迫害を受け続けたゴブリンの少年には、母を見殺しにされたと思われても仕方がない。
 だからエイミーは、当時の事を、父に代わって謝りたい。その為に、バンデと会って話をしたい。
 ――以上が、今回の依頼の本当の理由だ。

「差別、暴力、迫害……ね」
 この世界では種族によって格差が生じ、ひどく扱われる事など日常だ。
 右目を眼帯で覆った半獣人のスヴァン=ウォルフ=ユーウェンは、外見の事で忌み嫌われていた自身の過去を思い出す。
 ――誰も何もしてはくれない。救けてなどくれない。だから力を欲し、力を振るい、力で全てを解決する。
 相手に同情するつもりはない。むしろ似た境遇だからこそ、危険な存在なのだと、より警戒心を強く抱く。
「まあ、なンでもいいけどよ。一人で出歩くなら剣の一本でも持ってきゃいいものを。なにはともあれ、ここからは一人で勝手な事をしないようにな」
 エイミーが盗賊に拐われそうになったのも、後先考えないで行動したのが原因だろう。
 アーテミシアは依頼を遂行するのに、そうした不安定要素は排除したいんで、と、ぶっきらぼうな口調で念を押す。
「心配しなくても大丈夫だぜ、っていうかオレたちで大丈夫にする!」
 ギャメルが励ますように祭刀を得意げに掲げてみせるが、重さにふらつき、転んでしまう。
 そんなギャメルに、怪我をしなかったか心配そうに診るエイミー。
 彼女の心の優しさに、魔法の力で文字通り触れたギャメルは、何があってもこの人(エイミー)を必ず守ると、胸に誓う。
「っと、お目当ての場所までもうすぐだぜ」
 案内役のシャルティナ・カッツェが、進路の先を指差しながら、授恵者達に伝達する。
 ここから先は、ゴロツキ共が屯(たむろ)している、治安の悪い無法地帯。
 立ち入るならば、相応の準備をしておく必要がありそうだ。そこでTalaraが、一つの案を思いつく。
「とりあえず、Talara、提案。エイミー、ロープ、捕縛する」
 如何にも危険な場所に、お嬢様が護衛をぞろぞろ連れて入っていけば、怪しまれてもおかしくない。
 それよりも、場所柄的にエイミーを商品として持ち込む形なら、絡む輩も少ないだろう。
 Talaraの意見に、授恵者達は異論無く。エイミー自身も納得し、同意を得た事で一行は作戦の実行に取り掛かる。
「無礼は承知の上です。どうか我々にお力添えを」
 ハリスがお詫びの言葉を口にしながら、エイミーの両手を縄で縛る。
 これから彼らを待ち受ける、未知の危険に注意を払い、鬼(ゴブリン)達の巣窟に足を踏み入れるのだった――。

●その男、羅刹の如く
 縄で縛った女性を連れた、種族も年齢も性別もバラバラな統一感のない一行に、住人達は奇異の目で見て、何事だろうかと騒めき出す。
 異様な空気が集落中に広がっていく中、剣呑な雰囲気を纏った集団が授恵者達の前に立つ。
「おうおう、こんな辺鄙な所に何の用事だ。おまけに女を縛って連れてくるたぁ……一体何者だ?」
「おっと、他にも女がいやがる。よく見りゃどれも別嬪じゃねぇか」
 ジロジロと品定めするかのように、授恵者達に視線を這わせるゴロツキ共。商品役のエイミーだけでなく、女性授恵者達も連中にとってはモノ扱いだ。
「私達は“手土産”を持ってきただけですよ。バンデさんはどこにいます?」
「バンデ、名前売れてる、一匹狼、贈り物。盗賊達、報復、恐れる。手出ししない、思う」
 粗暴な相手であっても、ヘレムは変わらず丁寧な口調で質問を返し、Talaraが理由を付け加えて言う。
「あァ? テメェらみたいなのがバンデさんに会いたいだと? ……いいぜ、じゃあ付いてきなよ」
 授恵者達を訝しげに眺めつつ、暫く考えた後、何を思ったかゴロツキ共は一行を案内する。
 随分素直に教えてくれるものだと、スヴァンが疑い深く連中の表情を観察すれば。卑しい含み笑いに、良からぬ事を企んでいると感じ取る。
 そして案内された場所は、人気のない開けた空き地。どうやら連中は、端から話を聞く気などなさそうだ。
「やっぱりそういう事かよ。まあ、オレはそっちの方がいいけどな」
 アーテミシアがゴロツキ共を一瞥し、艶やかな肢体を見せびらかすようにマントをふわりと翻す。
 ゴロツキ共の視線がそちらに向いた、僅かな瞬間――アーテミシアがすかさず蹴りを放って、見事に炸裂。
 まともに喰らったゴロツキの口から呻き声が漏れ、意識を失い、そのまま地面に倒れ込む。
 ――手頃なカモだと思った奴等が、実はとんでもない猛者達だった。
 想定外の状況に、何かの間違いだとゴロツキ共が焦り出し、襲い掛かるが、授恵者達は軽くあしらい、熨していく。
「相手が悪かったようですね。少しは話を聞く気になりましたか」
 ハリスが精悍な体躯とリザードマンの強面を活かして脅せば、先程まで粋がっていたゴロツキは腰を抜かして怖気づき、抵抗する気も失せていた。
 ゴロツキ共が大人しくなったところで、改めて話を聞こうとする授恵者達。だがその時――。

「やけに騒がしいから来てみりゃ……貴様ら、ヒトのシマで何を勝手な事をしてやがる」
 背後から、ドスの利いた低く凄みのある声が、背中に突き刺さるように静かに響く。
 はっと振り返って後ろを見れば、そこにいたのは、威圧感溢れる褐色肌のゴブリンの男。
「バ、バンデさん!? こ、これは、その……」
 ゴロツキは体を震わせながら、現れた男に対して弁明するが――男が睨み、クイッと顎を決(しゃく)って指示すると、ゴロツキは怯えて顔を引き攣らせ、慌てふためきながら走り去る。
「君がバンデか。丁度良い。彼女が君に会いたいと、話をしたいという事で連れて来た」
 わざわざ向こうからやって来るとは、何はともあれ探す手間を省けたのは僥倖だ。
 レイは頼まれてここに来たと、事情を説明。縄で繋いだ依頼人(エイミー)を見せるが、バンデは知った事ではないと睨めつける。
「あン時は邪魔な野良犬共を始末しただけだ。女なんざに興味はねぇ」
 話し合う余地など微塵もない。戦意と殺意を漲らせ、怒れる鬼人が太刀を抜き、授恵者達に牙を剥く。
「コイツはマジで危険だな! 斬り殺されちまう!」
 ギャメルが咄嗟に魔力(エーテル)を祭刀に集め、守護の力を宿した光の膜で仲間を覆う。
「バンデ、話さない、取り合わない。武力行使、叩き伏せる」
 交渉が決裂するのは織り込み済みだ。Talaraは槍にエーテル光を纏わせて、長く伸ばした光の刃で鬼の剣士を斬り払う。
「貴様らも“力”を扱えるってワケか。面白ぇ……だったらその力で俺を捻じ伏せてみろよ」
 Talaraの槍が頬を掠めて、薄っすら滲む血を指で拭い、バンデは愉しげに不敵な笑みを浮かべて身構える。
 彼を大人しくさせるには、戦いに勝って戦意を挫かせる以外に手段はない。
 ならば望むところと授恵者達も受けて立ち、力を持つ者同士の力と力が、ぶつかり合う――。

●家族の“絆”
「ちょっと危ないから、下がってて」
 トゥーリが祭刀でエイミーを縛る縄を切り、手を引っ張って一緒に後ろへ移動する。
「さて……本気で行かせてもらうぞ」
 豹の尻尾を揺らめかせ、スヴァンが加速しながら猛突進。
 勢いを載せて大剣を振るい、大きく横に薙ぎ払う。しかしバンデが素早く後ろに飛び退り、躱されたかと思った直後――スヴァンが握りを持ち替え、相手の動きを読んでいたのか、追い掛けるように剣を突き刺す。
 この一撃にバンデは反応して太刀で受けるが、授恵者達の追撃の手は止まらない。
「何があったか知らねえが、世界で自分が一番不幸、みたいなツラしやがって。……気に入らねえよ」
 アーテミシアが疾走しながら跳躍し、距離を一気に詰めて得物を構える。
「そのシケたツラと不景気な性根を、へし折ってやらあ」
 高々と斧を振り上げながら、着地と同時に渾身の一撃を叩き込む。
「立ち向かってこられるのなら、仕方ありません。逃しませんよ」
 ヘレムの杖の先端から冷気が溢れ、注いだ力を放つと氷の矢となり、バンデの足元を狙って撃ち込まれ――解き放たれた冷気がバンデの足に纏わりついて、捕縛する。
「くっ……小癪な真似を!」
 必死に氷の枷を振り払い、バンデは猛り狂ったように太刀を振り翳して斬り掛かる。
 だがここは、ハリスが盾で攻撃を防ぎ、衝撃で痺れる痛みを堪えつつ、エイミーを背にしながら荒ぶる鬼に呼び掛ける。
「彼女を救った事……それは未だ貴殿の心に光がある証左です」
 ハリスの言葉に、一瞬、バンデの心が揺れ動く。
 偶然とはいえ、邂逅を果たした時から、また巡り合う予感は密かにしていた。けれども、彼女にはこんな薄汚れた世界に来てほしくなかった。
 だったらあの時、自分はどうすれば良かったのか……鬼の心に迷いが生じ、逡巡する。
 ――差別、迫害の記憶、辛い過去の経験は、多くの場合人生を狂わせる程に根深いものだ。
 だからといって、そう簡単にどうにか出来るものでもない。自分にしてやれる事は、この手で痛みを分からせるのみ――スヴァンの闘志が武器に宿り、燃え盛るように煌めく剣に、思いの丈を込めて全力の一撃を見舞わせる。
「お腹空かせた犬、言う事聞かない。だから、バンデ、止める」
「言いたい事があるなら、後で存分に喚けばいいさ。まあ、オレの知ったこっちゃねえけどな」
 このまま一気に決めようと、Talaraとアーテミシアが息を合わせて畳み掛ける。
 バンデの太刀をアーテミシアが斧で弾き、流れるように返す刃で、鋭く一閃。
 血が飛沫き、バンデの身体がグラリと傾ぐ。そこへ間髪を入れず、Talaraが続けて槍で薙ぎ――防ぐ事すら間に合わず、負った苦痛に耐え切れず、バンデが遂に、膝を突く。

 どれだけ腕に覚えがあっても、一対八では分が悪過ぎる。
 幾つも傷を刻まれて疲弊しても尚、戦う事を止めないバンデに対し、レイが身を挺して狂気の刃を受け止める。
 彼の気持ちが判るなどとは、軽々しく言えない。でもせめて、その想いだけでも救える事が出来るなら……。
「愛した母親も人間(ヒューマン)だからこそ、許せないか……」
 相手の太刀を素手で掴み、血が流れ、痛みを感じる事も厭わず、レイがバンデの心に訴える。

 ――バンデの脳裏に浮かぶのは、在りし日の母親の顔。
 死の間際、病で苦しい筈なのに。彼女の最期の死に顔は――とても安らかで、優しい笑顔だった。

 心の底では、本当は分かっていた。母親は死期を悟っていたと。でもそれを認めたくはなかった。
 だから誰かのせいにして、誰かを憎む事で、死の哀しみから逃れようとした。

 ――太刀が手からスルリと離れ、バンデは力無くその場に崩れ落ち、赤い双眸からは熱い雫が溢れ出る。
 戦う意志を失くした鬼に、レイは軽く肩を叩いて振り向かせ、エイミーの方を指差した。
「君の現在を知って尚、彼女はこうして会いにきた。それに応えてやってもいいのではないかな」
「エイミーはゴブリンのオレにも親切だったぜ。二人なら上手くやれるんじゃねぇか?」
 ギャメルも重ねるように言葉を合わせ、後は当人同士の問題だからと、事の成り行きを見守るのだった。

 斯くして、二人は互いの過去に向き合いながら、時には思い出話に花を咲かせる。
 ふと、この後どうするのかと訊ねる男(バンデ)に、女(エイミー)は仄かに顔を赤らめながら、彼に告げる。
「……どうか、私と一緒に暮らしませんか?」
 今は親のいない者同士、協力しながら生きていけたら――それが彼女の願いであった。
 突然の申し出に、悩み考え込むバンデであったが。ハリスが穏やかな口調で、彼の背中を押すかのように、一言添える。
「心の奥底にある光……もう二度と、目を離してはなりません」
 これからの未来をどう歩むのか、後は二人に任せるだけだ。
 そして互いに理解し合える彼らであれば、きっとより良い結果に辿り着けるだろう――。

マスターコメント

選択を違え、誤った道を歩んでも、切欠があれば取り戻す事は不可能ではありません。 その事を気付かせてくれて、正しい道へ導いてくれた皆様に、心からの感謝を申し上げます。 MVPは、両者の想いに寄り添ってくれた貴方に。 この度は、ご参加下さいまして、まことに有難うございました。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:多い8 / 4〜8人

2021年02月17日 14時13分25秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. レイ=レーベンス=レックフォード

    私はレイ=レーベンス=レックフォードだ。 よろしく頼むよ。 事情はあるようだが拐われかけたところを見ても危なっかしいし依頼主についていようか。事情もそれとなく聞きたいところだしね。

  2. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    ウォーリアのスヴァンだ。 依頼主もあの状態では何を仕出かすかわからん。 監視……とまでは行かないにせよ、気に掛けておくべきだろうな。

  3. アーテミシア

    ウォリアーのアーテミシアだ。宜しくな なんかウダウダ言ってるが、敵対的なら殴り倒して叩き直してやりゃいいだけだ 依頼人も足手まといになるならふん縛って担いでいけばいいンじゃね。

  4. ギャメル

    ヒーラーのギャメルだ。よろしくな。 ゴブリンとして色々考えちまう依頼だぜ……。 光縛封を用意すりゃ、とっさにエイミーを守りたい時に役立つかな? エイミーがビックリしないよう、事前に危なくないものだって説明しとく。

  5. Talara

    ウォーリア、Talara。よろしく。 難しい問題。当人同士の問題。話し合える、用意する、Talara達の仕事。 皆言う、エイミー、暴走、怖い。 先に捕縛、商品のふり、させる? 手付かず、狙われる。お手付き、狙う、少なくなる。 前と同じよう、バンデ、釣れる、かもしれない。

  6. ハリス・アル・ターミル

    ハリスと申します。どうぞ宜しく。 状況を見るに、ただ倒せばいいという訳でもなさそうですね。 依頼人の目的も現時点では不明ですから、相互理解が肝要かと。 道すがら、詳しいお話を聞かせて頂こうと考えております。 >戦闘 火力はさほどでもありませんが、防ぎ耐えることなら得意です。 他にも実力あるウォーリアやヒーラーの方々が多数おられますね。 バンデなる盗賊は物理偏重型のようですから、ほぼこちらの勝ちは揺るがぬかと。 周囲のゴロツキを制して単純な正面戦闘に持ち込めれば問題ないでしょう。 ただ、先にあちらから不利を悟られれば全力で逃走する危険もありますね。 阻止の手筈としては、光縛封をバンデにかけるのも有効かもしれません。 むしろ依頼を成功に導くためには、Talara殿の言うように当人同士が話せる環境を 整える事こそが重要かと存じます。無論、我々からの戦闘以外の働き掛けも。

  7. トゥーリ

    トゥーリだよ! よろしくね! とりあえず疲れさせて戦う気が無くなってから、ゆっくり話をすればいいのかな?

  8. ヘレム・カースワーズ

    キャスターのヘレム・カースワーズです。 よろしくお願いします!

  9. シャルティナ・カッツェ

    案内役のシャルティナだ。集まってくれてアリガトな。ま、今回は一つよろしく頼んだぜ。

  10. ギャメル

    シャルティナ、道案内よろしくなー! >光縛封 バンデは物理系っぽいから有効そうだよな。 一回きりだから使うタイミングは吟味しとくぜ! >集落 まずはゴブリンの集落でバンデの詳しい居所を調べなくちゃな。 聞き込みの間、エイミーはどうする? 少人数で手分けして情報収集しつつ、あんまり危なそうな場所にはいかないでエイミーと待機する人もいた方がいいかな?

  11. アーテミシア

    チョロチョロ動き回るようならそれこそふン縛っておくしかねえだろうな。 一人か二人、付けておけばいいンじゃねえの? オレはそっちに行ってもいいぜ。

  12. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    聞き込みやら情報収集は任せる。 俺は.......依頼主を見張っておくとしようかな。

  13. トゥーリ

    >シャルティナさん 質問、ひとつしてもいいかな? バンデさんの所で「人間に恨みを抱いている」って情報があるけど、これは「広く一般的にプレイヤー種族として認められている種族」に対するもの? それとも、「ヒューマンという種族に限ったもの」になるのかな? 背景的には種族:ヒューマンとも、人類社会全体とも……どっちにも敵愾心を持っていてもおかしくないかなって! 事前に分かるなら教えてくれると嬉しいな……

  14. シャルティナ・カッツェ

    >トゥーリ バンデについては、ゴブリン以外の他の種族も、決して好意的には見ていないだろう。中でもヒューマンは、特に毛嫌いしているって認識でいいと思うぜ。

  15. トゥーリ

    シャルティナさんはお返事どうもありがとう! 全体的に嫌ってるけど、特にヒューマンはってことだね! 殺さないで撃退メインでいくなら、光縛封持ち込むのやめようかな…… 根競べで時間稼ぐだけなら回避特化の方がたぶん長持ちするんだよね ウォーリアさんが耐久してくれてる間にワタシがヒールする形に持ち込めば、それこそ魔法範囲とか持ってくる相手じゃなければ相当の間耐える事が出来るんじゃないかな

  16. アーテミシア

    とりあえずシーザーロアとチャージングは持っていくぜ。 依頼人が勝手にどっか行こうとしてもこれで止められるだろ。戦闘でも腐らねえしな。

  17. ヘレム・カースワーズ

    では私は移動デバフと物攻デバフを持っていって、戦闘となれば使ってみますね。

  18. ギャメル

    依頼人を見てくれる人もいるし、ほんじゃオレは集落での聞き込み側に回るな。 バンデにシーザーロアかけるって人がいりゃあ、堅甲2で応援するぜ。

  19. ハリス・アル・ターミル

    私はバンデ殿の攻撃を耐え凌ぐことを意識してみます。 カバリングと頑健を併用すれば余程の事故がなければ問題ないかと。 退路を塞がれ攻撃も無意味とあれば、過剰に傷つけず戦意を挫くこともできましょう。

  20. Talara

    んー、Talara、調査、苦手。依頼人、傍いる。 依頼人、予め捕縛。反対、なさそう? やるつもり。 戦闘、スリップ、行動、物防デバフ、嫌がらせ予定。ゴロツキ用、範囲持つ。

  21. スヴァン=ウォルフ=ユーウェン

    依頼主だが、予め捕縛しておいた方が懸念は少ないだろうとは思う。 調査やら防御、攻撃は他に任せるとして…… バンデにフェイントが通じるかはわからんが、試しにやってみようかな。

  22. ギャメル

    エイミーに商品のふりさせるって話だよな? Talaraの意図を説明してエイミーも納得した上で捕縛ってなりゃ穏便でいいと思う。 危険だから勝手に行動しないでって頼んでるのに聞き入れないなら、そんときゃ強引に捕縛するっきゃねぇか。 まぁ、エイミーは依頼人だし、優しい対応でなんとかなるなら、その方がいいとは思うがよ。

  23. Talara

    ん、説得、はする。メリット、デメリット、説明。 受け入れ、しない、そのまま護衛、つくつもり。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0