砂漠でお絵かき

桃谷かな

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シナリオID:546

オープニング

 リーンエス王国東部に横たわる乾いた大地――イグノ砂漠。
 エラトゥーン都市同盟やゴブリンたちの都市国家ゴールディとも接する広大な砂漠であり、バルバロイと呼ばれる蛮族、クリーパー、凶悪な原生生物たちが跋扈する危険地帯だ。

 そんな砂の大地を、今日は少し変わった一団が訪れていた。

●
 イグノ砂漠の北東端あたりにある、小さなオアシス。青く澄んだ泉のまわりを取り囲むように緑の草が生え、大小のヤシ科の木々が影を落としている。
「うわぁ~~! オアシスって本当にあったのね。素敵!」
「暑っちぃけどイイとこじゃん! ほらローズ、木陰に入っとけよ」
「あううぁーー!」
 砂漠の民や隊商(キャラバン)の休息所として使われているそのオアシスに今日降り立ったのは、少年少女のような見た目のとあるハーフリング夫婦。そして、間もなく生後10ヶ月になる女の子だった。
「ラクダは水を飲ませた後、木に繋いでおけば大丈夫だそうです。その後は、皆さんゆっくり過ごしてくださいね」
 彼女らと前後して、護衛の冒険者たちが乗ったラクダ数頭もオアシスに到着。交代で周囲を警戒しつつ、ラクダの世話や休息場所の整備を進めていく。

「おーい、じゃあ俺はローズをそのへんで遊ばせとくから~」
「ええ。お願いね、あなた」

 草地を高速ハイハイで突き進んでいく娘のローズ、そしてそれを追いかける夫のシスルを見送った妻――プラムは、木陰に敷いた布の上にすとんと座り、冒険者から受け取った荷物をあさる。
 小型のイーゼルやキャンバス、画材を取り出して準備を終えた頃にはもう、彼女は母から画家へと表情を変えていた。

 プラムの職業は風景画家。クライアントの依頼を受けて様々な場所に出向き、発注イメージに合う風景をキャンバスに収めるのが仕事だ。
 今回の依頼は『小さなオアシス越しに見た広大な砂漠の風景』。拠点にしているローレラウラ近郊で見られる風景ではないため、護衛を雇って一家総出でイグノ砂漠までやってきたというわけだ。

 砂漠の夜は気温が下がる。陽が傾く前にオアシスの風景をスケッチし終えて近隣集落まで戻らなければ、寒さに震えながらの野営を余儀なくされてしまうだろう。

「まだお昼前だから……うん、間に合うわね!」

 砂漠の太陽を見上げながらそう呟き、プラムが木炭を手に取った――その時だった。

「――サバクトカゲだ!!!」

 背後から響いた冒険者の声。続いて聞こえてきた獰猛な咆哮を聞き、プラムは素早く立ち上がった。
「魔獣!? あなた、ローズをこっちへ!」
 同じく魔獣の襲撃に気づいたシスルが、ローズを抱えて駆けてくる。
「ふえっ……うえ……」
「ローズ! 大丈夫、大丈夫だ!」
「ウエエエェェエエエエェェェェェーーーーーーーーーッッッ!!!」
 遊びを中断させられたローズが、状況も理解できないまま大号泣に突入。オアシスの外に目を向ければ、少し遠くの砂丘を猛スピードで下ってくる大トカゲたちの影がいくつか見えた。

「冒険者の皆さん! どうかよろしくお願いします!」

 冒険者たちはそれぞれに武器を構え、オアシスの外縁部でトカゲを待ち受ける。
 灼熱の太陽が照りつける中、画家一家を護る戦いが始まろうとしていた――。

解説

●依頼内容:  皆さんは、画家一家の護衛としてイグノ砂漠の小さなオアシスにやってきました。到着早々に襲撃してきた魔獣を撃退または殲滅してください。  なお、オアシスの風景を絵に描く必要がありますので、景観を大きく破壊しないよう気を付けてください。 ●成功条件:  魔獣の撃退 or 殲滅 ●失敗条件:  画家一家の誰かが死亡 or 重傷  オアシスの景観の破壊(中規模~) ●オアシス詳細:  サッカーコート一面分ほどの小さなオアシス。中央にオアシスの面積の半分を占める楕円形の泉があり、それを取り囲むように背の低い草地が広がっています。大小のヤシ科の樹がまばらに生えている環境。  周囲はすべて広大な砂漠です。 ●状況:  皆さんはオアシスの北側に位置し、草地の外縁部で警戒中に敵を発見しました。  敵との距離は約100m、接近中です。  プラムたち一家は皆さんから見て背後、泉のほとりの木陰に隠れています。草地の外縁部から泉までの距離は10mほどしかありません。  プラムが描くのは、オアシスの北側から泉の方角。つまり敵が接近してきているのとは逆の南方向です。オアシスの北側は多少荒れても構いませんが、泉そのものや南側の風景に被害が出ると、思うような絵が描けなくなってしまいます。  天気は晴れ。この季節でも日向の気温は40度近くなります。  戦闘が終わったらオアシスでしばらく過ごし、午後4時ごろには出発の予定です。 ●敵: ・サバクトカゲ×5:  全長2.5mの大型トカゲ。コモドオオトカゲっぽい見た目の肉食系魔獣です。  体表は褐色の鱗に覆われ、物理・魔法防御ともに高め。移動力5。  毒爪による引っ掻き、毒牙による噛みつき、突進攻撃、尻尾による薙ぎ払い、めっちゃ臭い唾による遠隔攻撃(無害)が得意です。 ●ハーフリング画家一家 ・プラム(妻):  皆さんの依頼主。ママさん風景画家です。 ・シスル(夫):  子守役。プラムのクライアントから「護衛をつけるので家族旅行も兼ねて……」と気前よく経費をもらったため、ホイホイついてきました。 ・ローズ(娘):  もうすぐ生後10ヶ月。  現在は大号泣しており、全力で泣いている間は半径20m以内のオオトカゲに【シーザーロア】と同様の効果を発揮します。  伝い歩きはじめました。

マスターより

ハーフリング一家のお絵かき旅、はじめました。 何かありましたら【質問】タグをつけて、出発48時間前までにお尋ねください。 プラムがわかる範囲でお答えします。

リプレイ

(一家の様子見がてらで依頼を受けたが……流石に様子見だけじゃ終わらんな)
 じりじりと照りつける砂漠の太陽。バーネット・フォーサイスは翠眼を細め、遠く砂丘を下るトカゲ達を見据えた。
「ちびちゃんの泣き声でトカゲがわらわら来てる!?」
 砂漠に映える褐色肌。到着早々の襲撃と号泣赤ちゃんの存在感に動揺しつつも、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブは双の短剣を抜き放つ。

「勇ましき戦の神よ! 戦士達に勇気の力を与え給え!」
 初手は神官ロゼットのレゾナンス・オブ・ヴァロー。オアシス外縁に立つ8人の冒険者達を包み込むように、淡い光がふわりと舞う。

「冒険者の皆さん! どうかよろしくお願いします!」

「任されました! 絶対にお守りします!」
「我々が食い止めます。隠れていて下さい!」
 魔弓を構えたマリイ・パルティスが白狼(コルデラ)に目配せし、リザードマンのハリス・アル・ターミルが戦術眼と地質学を駆使して最適な迎撃地点を探る。
「予想より足が速い……! 移動先を予測し経路を塞ぎましょう!」
「そうですね! 近付かれるとローズちゃんの鳴き声に反応されます。先行して止めましょう!」
 天の眼で砂上を観察していたトーラは、ハリスの助言も受けて迎撃地点を即座に決定。同じくシーフのサフィラ、ナハシュとともにオアシスから飛び出して行く。
 そして、
「――暑い! とにかく暑いな……!? 暑いのは苦手なんだ……」
 この環境が本当につらい色白ゴブリンシーフ、ナハティガル=ラーもまた、彼らに遅れることなく駆け出していた。

●
「よう白狼、イイ動きじゃねぇか」
 1体のトカゲを翻弄しながら威嚇の唸りをあげる白狼を見やり、ナハシュは白い歯を見せて笑った。
「こっちこっちー!」
 トーラが大声をあげ、無数の光弾をトカゲ達の群れに叩き込む。視界に尾を引く光を追い、ナハシュが一陣の風となって敵の1体に肉薄した。
「ほら、こっちだぜ?」
 赤光の糸に絡めとられたトカゲが振り返った時には、もう遅い。ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべる褐色肌のゴブリンは、牙の届かぬ位置から片手をひらつかせている。
「……暑いな」
 額に汗を浮かべ、ナハシュとは逆方向から群れに迫るナハティガル。威嚇の唾弾をかわした次の瞬間には、1体の首筋に暗針を突き立てていた。
「死の祝福を突き穿たん。――デスブリンガー」
 鱗に護られたトカゲの身体を、不可視のエーテルが蝕んでゆく。唾の異臭が漂う中でナハティガルは飛び退り、別の1体の側面へと回り込んだ。
「長時間の戦闘は俺達にとって不利。――迅速に終わらせるぞ」
「もっちろん! ……あー! もう! そっち行っちゃダメーっ!!」
 後方に抜けようとした1体を押しとどめるように、サフィラが短剣を振り下ろす。赤い光糸に縛られたそれは悲鳴を響かせながら彼女を振り返り、爪が届かぬと知るや怒りの唾弾で反撃を仕掛けてきた。
「うわっ、臭い! ばっちい!」
 全力で回避するも、あまりの臭さに顔をしかめるサフィラ。一言で表現するなら、牛乳を拭いて3日ほど放置した雑巾を下水に落としたような感じだ。
「――迅速に終わらせるぞ」
 大事な事なので、ナハティガルがもう一度言う。なんでかな。かわしたと思ったけど、はためくマントがちょっと臭い気がする。

「この暑い中でも元気だな、あいつらは……」
 額の汗を拭いつつ、動き回るトカゲ達を目で追うバーネット。宿り木の杖からエーテルを迸らせ、トカゲ3体の中心に光り輝く球体を生む。光糸や見えないエーテルに絡みつかれながらも元気いっぱい(バーネット視点)だったトカゲ達も、ウネウネ動く光に足を取られて流石にしょんぼり顔だ。
「うわぁ……あれ大丈夫なんですかね……」
 相棒のコルデラが唾を避けたような、微妙に掠ったようなシーンを目撃しながら、バーネットの隣で魔弓を手に標的を探すマリイ。トーラに迫るトカゲを見つけるや、その脚を狙って光の矢を叩き込む。
「見た目にそぐわず足が速い……ですが、ここは通しません」
 前衛が食い止めているおかげで、今のところローズの大号泣に気を取られているトカゲは居ない。冒険者達は、三段構えの配置でトカゲ達の進路を妨害し続ける。

「あの唾を避けられるだけでも、神様に感謝してもらって良さそう……」
 初手のレゾナンス・オブ・ヴァローが効いたのか、ギリギリ唾の直撃だけは避けられているシーフ達。その光景と異臭に苦笑いを浮かべつつ、ロゼットは頻繁に唾を吐くトカゲ達へ強い警戒心を向けていた。
 アツアツの砂漠に着弾した唾が速攻で気化して、戦場全体がなんか臭い。
「ここから先へ進ませはしません!」
 機敏に動き回るシーフ達を捉えられないと悟ったか、ハリスへと突進を仕掛ける1体のトカゲ。低く構えたハリスの盾が重い音を響かせ、踏みしめた両者の足が砂に沈んだ。
「残念だったわね、2対1じゃ抜けられないわよ!」
 その隙を逃さず駆け寄るロゼット。彼女の祭刀が眩い光を放ち、痛烈な一打でトカゲの鱗を砕き飛ばした直後、ハリスの槍がトカゲの腹へと襲い掛かる。
「ギャギャッ――!?」
 凄まじい威力で突き込まれた穂先は、トカゲの鱗を砕き内臓まで抉っていた。
 ローズの泣き声が、ハリスの鼓膜を刺激する。彼は一瞬だけオアシスに顔を向け、木陰から垣間見える真っ赤な顔の女児へと声を張った。
「ローズ殿! 必ずやお守りします、少しの辛抱を……!」
 屈強なウォーリアが展開した殺界に囚われ、逡巡するかのように動きを止めるトカゲ。だが次の瞬間、風を纏って飛来した矢に左目を貫かれ、甲高い悲鳴を上げて砂上に倒れた。
「今です!」
 魔弾の女射手(マリイ)の声を背中に受け、ロゼットの祭刀が砂上でもがくトカゲめがけて振り下ろされる。直後、ハリスの槍が唸りをあげてその胴を串刺しにした。

 ヒットアンドアウェイを徹底するシーフ達を前に、機動力の下がったトカゲ達は唾攻撃を多めに放つことで対抗しようとしていた。一応、爪や牙や尻尾での攻撃も繰り出してはいるものの、「あっ、こいつら唾キライだな?」と気づいてしまったのかもしれない。
「あっ!? あああぁぁぁーーーーッ!!」
 無拍子で素早く敵の顔面を抉ったサフィラが、叫び声をあげつつ後ろに退がる。別のトカゲを引き付けていたナハシュが反射的にそちらを向くと、服の一部分を返り血ではない何かで濡らしたサフィラが、ワナワナと震える手で短剣を握りなおしていた。
 顔面殴ったらヨダレが飛んだ。たぶんそういう悲劇が起きたのだとナハシュは理解する。
「うわ臭ぇ!? やべーぞコイツら! 早く殺せ!」
 ふわりと漂うアルティメットな雑巾臭。唾やヨダレが放出されるたび、戦場の環境は劣悪化していった。
「おいおい、ここまで臭って来てるぞ……」
 早めに頼む……と呟きながら、半眼のバーネットが杖をかざして魔錆を飛ばす。鱗の強度を殺がれたトカゲがサフィラ怒りの毒撃をその身に受け、潰れたような悲鳴を響かせた。
「ぜったい許さないからねーーーっ!!」
 二刀を閃かせ、ヨダレ野郎の息の根を止めにかかるサフィラ。これは勝てんと逃げ出すそのトカゲの背中に、トーラの放った眩い光の群れが次々と撃ち込まれていく。
「行かせませんよ! ――っと、わわっ!」
 光弾を受けながらも反撃の姿勢に移ったもう1体が、咽を膨らませてトーラの方を見た。
(あっ……これは――!)

 来る。

 だが、トーラはこれを回避する術(すべ)に長けている。いける。
 とはいえ……いいのか? 臭いだけの唾にそれを使ってしまっても――?

「あああぁぁぁーーーーっ!!!」
 ほんの一瞬。心の中に生まれた迷いが彼女の動きを鈍らせた。直撃は避けたものの、ふんわり舞ったマントが優しく汚物(唾)を受け止める。
「このマントお気に入りだったのに……!」
 凹むトーラのすぐ横を、マリイの矢とロゼットの魔矢が通過。「やったぜ」みたいな顔で勝ち誇っていたトカゲをそれらが撃ち抜き、二度と狼藉を働けぬ骸に変えた。
「背中を見せるか。――随分と舐められたものだな……!」
 うねる光に妨げられながらも逃げ出そうとしたトカゲの背中を、ナハティガルの放った衝撃刃が大きく切り裂く。万が一オアシスに直撃したら事なので、面倒くさいけどちゃんと飛距離も計算済みだ。
「コルデラ!」
 1体の周囲を駆けていた白狼が、マリイの意志に反応して進路を変える。一撃を受けながらもトカゲを連れ、ある一点で大きく飛び退った。
「助かります、マリイ殿!」
 槍を構えたハリスとトカゲの間には今、遮るものが何もない。穂先から飛んだ不可視の刃が、後方から飛来したバーネットの魔弾とともに鱗を抉る。光が消えた時にはもう、トカゲは胴に大穴を穿たれ首を落とされた姿で砂上に転がっていた。

「そろそろ終わりにしようぜ。俺とお前は仲良くなれねぇ運命なんだ」
 1体を確実に相手取るよう立ち回っていたナハシュだが、このトカゲともお別れの時間が来たようだ。縛糸刃に加えて死齎刃を食らうわ、目に砂をぶつけられるわと短時間で散々な目に遭ったトカゲだったが、残念ながらナハシュには唾の飛沫すら付けられていない。
「皮膚は硬えだろうが、内側はどうよ」
 いつも、トカゲが気づくのは横合いから針を突き込まれた後で、バッと向き直った先にナハシュはいないのだ。同じ傷を何度も抉られた後脚では、もはや追いすがることすらできない。
「じゃあな」
 視界の端に光弾の群れを見ながら、ナハシュは疾る。黒い鱗に覆われた背中に深く針を突き入れ、かき回すように内臓を裂いた。
 バーネットとトーラの生んだ無数の光が、サフィラとナハシュの身体を避けながら2体の敵へと降り注ぐ。
 それはまるで白昼の流星雨のように煌めき、もはや動くこともできぬトカゲ達を穿っていった。

●
「やっぱり唾ついてた……」
「ニオイ、きっと落ちますよね……?」
 臭すぎる戦場に砂を撒いたり、トカゲの死骸を埋めたりといった事後清掃を終えた冒険者達だったが、唾を食らった者達の心の傷は深い。
 泉の片隅で問題の服とマントをしゃこしゃこ手洗いしながら、サフィラとトーラは何とか前向きな気持ちを取り戻そうとしていた。
 近くの草地には、既に洗濯されたらしいナハティガルのマントも広げられている。本人はサッサと木陰で涼しい顔をしているが、その処理速度にはトーラ達も目を見張るものがあった。
 ゴールディの暗黒街で泥水を啜りながら生き抜いて来た男であっても、絶対に我慢できないものはあるのだ。
「私たちも少し休みましょ。……って、ナハシュ?」
 負傷者にヒールをかけ終えたロゼットが泉に近づくと、そこには今にも飛び込みそうな雰囲気のナハシュがいた。半裸なのは元々だが。
「砂がへばりついて気持ち悪ぃんだって。……景観? んなモン、崩れない位置に居りゃあいいんだろぉ」
「もう、あまり遠くに行かないでね」
 冷たい泉にザブザブ入ったかと思うと、バッシャバッシャ楽しげに泳いでいくナハシュ。その背中を見送ったロゼットは、荷物から出した手ぬぐいを何本か、泉の水で濡らし始めた。

「お怪我はありませんか? 気分が悪くなったりはしてませんか?」
「ありがとうございます。この通り、皆さんのお陰で無事ですよ!」
 マリイが差し出した水を受け取り、プラムはにっこりと笑って礼を述べる。隣では、早々に身体を拭いたハリスがローズをあやして泣き止ませていた。マリイの鼻先を、乳児特有の優しい香りがふわりと過る。
「それにしても赤ちゃんって……可愛いの次元を超えてますよね」
「うふふ、そう……ですね? あの?」
「すごく柔らかそうだし、すべすべしてそう。あとさっき、めっちゃ良い匂いしましたよ。やば」
「あの……?」
「――ハッ!?」
 ふと我に返った時、マリイは木陰から赤子を見守る怪しい存在になっていた。触る勇気はない……ゆえに、この距離が精一杯なのだ。
「プラム殿。ローズ殿は動物がお好きなのですか?」
「ええ。近所のワンちゃんとよく遊んでるんですよ」
 ハリスの腕でつかまり立ちをしながら、ローズは傍らに座る白狼に興味津々な様子。ちなみに毛並みはちゃんと拭いたので臭くはないはずだ。
「う? う? キャッ、キャーーッ!」
 ふんふんと鼻を鳴らして近づく白狼に、笑顔を見せるローズ。伝い歩きで白い毛皮に達し、大喜びで抱きついている。
 なお、コルデラと視覚を共有しているマリイも今、悶絶している最中だ。
「それにしても、赤ちゃんの成長は早いですねぇ。この前、ずり這いを始めたところだったのに」
「いやはや、その通りですな。健やかに成長しているようで何よりです」
 洗濯を終えたトーラに抱き上げられて「あば、ばーっ」と喃語を話すローズの姿に、目を細めて微笑むハリス。トカゲ嫌いになったらどうしようかと心配していたが、幸い、杞憂に終わったようだ。
「はい、プラムさん。熱の不調は後で来るから、これを首にまくなり気をつけてくださいね」
「ありがとうございます、ロゼットさん。では、私はそろそろ仕事を再開しますね!」
 ロゼットが差し出した濡れ手ぬぐいを自分と娘の首に巻き、再び画材を整え始めるプラム。そこへ、自前の画材を手にしたサフィラが駆けてきた。
「あたしも一緒に描いていいかな?」
「もちろんです。私の画材も使っていいですよ」
 ローズの世話をトーラとハリス、ロゼットに任せ、プラムはサフィラと並んで絵を描き始める。

 一方、シスルに話しかけたのはバーネットだった。
「そういや、最近どうよ。うまくいってるみたいじゃねぇか」
「うーん、まあ、そうだな……」
「……港の仕事が上手くいってないのか?」
 言い淀むシスルの悩みを、ズバリと言い当てるバーネット。同じハーフリングの男として、直感的にわかることもあるのだ。
「やっぱり、俺には力仕事は向いてねぇのかなって気がしてさ……」
 シスルの話に、バーネットがふぅんと頷く。
「まあ、仕事ってのは人生を左右するモンだ。一回、嫁さんに話してみたらどうだ?」
 男のお悩み相談室は、そのまま昼を超えても続くのだった――。

●
 午後4時前。
「そろそろ帰らねぇとな」
「スケッチは無事に終えたのか?」
 昼寝から覚めたナハシュとマントを纏い直したナハティガルが、プラムとサフィラの手元を覗き込む。
「はい! バッチリですよ!」
「あたしも!」
 抜けるような空に、砂の海。風に揺れるヤシの木。2人の手元には、そんな美しい風景が個性豊かに描き写されていた。
(そーいえば、ご先祖さまに砂漠出身の人がいるって……おかーさん言ってたっけ?)
 帰り支度を整えながら、周囲をぐるりと見回してみるサフィラ。この場所に感じる懐かしさは、彼女の中に流れる血の記憶なのだろうか。

 それからラクダに乗って、ゆっくり、ゆっくりと。
 ハーフリング一家と冒険者達は、無事にオアシスを後にしたのだった。

マスターコメント

皆さま、ご参加ありがとうございました! ちょっと臭めの戦場にはなりましたが、無事にトカゲ達は天に召され、プラムの仕事も捗りました。 ハーフリング一家のお話は、まだ始まったばかりです。 またの機会に、ロスガリア大陸のどこかでお会いしましょう!
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年02月18日 23時09分23秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. トーラ

    シーフのトーラです。よろしくお願いします! ローズちゃんに近付けると鳴き声で蜥蜴を寄せてしまいますし、できるだけ離れたところで対処した方がいいと思うんですけど、今回半数がシーフなので、先手を取って前に出て足止めをするのはどうでしょう?

  2. ハリス・アル・ターミル

    ウォーリアが私だけとは珍しいですね。 見知った方が多いですが改めて、ハリスと申します。どうぞ宜しく。 今回は小旅行ですか。ご夫妻とはなかなかにご縁がありますな、ははは( >作戦 トーラ殿の言うように、クラスの配分から防御重視で戦線を構築し迎え撃つよりは シーフの方々の機動力を活かした撹乱戦が有効かと思われます。 この場合、私の役目はすり抜けてきた蜥蜴に対応する夫妻の護衛役でしょうか。 殺界を使用すれば少なくとも1tは時間を稼げるはずです。

  3. ロゼット

    ヒーラーの神官戦士、ロゼットよ。よろしくね。 私たちとサバクトカゲの距離は約100m(20ヘクス)、 砂地で、移動1で1ヘクス進めるのか分からないけど 生息してるサバクトカゲの方が移動は上手そうね。 トーラの言うように、シーフが先に前に出てトカゲを足止め、 他の皆で個別に撃破や、抜けてくるのを叩くのが無難かしら? >皆に質問 ヒーラーの「レゾナンス・オブ・ヴァロー」で周囲全員に 命中&回避&抵抗上昇を10ラウンド付けられるけど、いる? トカゲは毒も持ってるから、メリットはあると思うわ。 デメリットは私の行動順まで、待ってもらわきゃいけないこと。 装備替えでINIは21までは上げられるから、シーフも 許容できる早さにはなるんじゃないかと思うんだけど。 待ってられねえ!ってことなら、使うのは止めるわ。

  4. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    にゃ!シーフのサフィラだよっ! よろしくねっ! むむむ、メンバー的にすばやくズバーン!と叩く感じになるのかなっ? クラス的にハリス、ロゼット、マリィが後ろを固めてくれると動きやすいかなっ >ロゼット にゃ!支援があると助かるー! 出遅れた分は疾風足でカバー出来ると思うよっ!

  5. バーネット・フォーサイス

    キャスターのバーネット・フォーサイスだ。 まぁ、よろしく頼むわ。 >方針 基本的には前に出て足止めしながら戦う感じになりそうだな。 外縁部から3ヘクス以上先なら、敵がローズの声に引き寄せられたりしないし。 足の速い前衛が敵に接触したら撹乱し、他の面子が追い付いたら本格的に足止め。  そのまま撃破を試みるって感じか? 俺自身はアーケインなりスタティックフィールドなりで足止めは得意だから、 動きを止めた所で範囲攻撃って所だな。

  6. ナハシュ

    シーフのナハシュだ。よろしく。 流れは現状上がってる感じで異論ない。抜けられた際の抑えもいるなら万全だ。 支援も貰えんなら普通に助かるな!

  7. トーラ

    シーフが前に出るので大丈夫みたいですね。 ロゼットさんの支援とハリスさんの護衛も助かります。 前に出るとして、どのくらいの距離を前線にしましょう? 蜥蜴の移動+ローズちゃんの泣き声の範囲を考えると最低でも45m(9ヘクス)は空けたいと思うんですけど、少し余裕を見て50mくらいでどうでしょうか?

  8. ロゼット

    >初ターン「レゾナンス・オブ・ヴァロー」 今のところ実行予定ね。1回しか使えないから、命中回避抵抗の 強化を希望する人は初ターン、私のスキル発動までは待ってね。 >迎撃予定地点 開始位置から前方45~50m(9~10ヘクス)ぐらい、かな? 私は特に異論なし、シーフの都合が大きいでしょうから任せるわ。

  9. マリイ・パルティス

    シューターのマリイと申します。よろしくお願いしますね。 方針は私も異論なしです。敵の足も速いですし、シーフさんが多いのは安心です。 一応ペットの狼も機動力がありますので、手すきの敵がいればかく乱のお手伝いをしようかなと思います。殴り合いは難しいですので本当におまけ程度ですが。 あとの個人行動はサフィラさんの仰る感じになりそうです。後ろを固めつつ弓でちくちく攻撃します! ロゼットさんの支援は助かりますね。私もぜひお願いしたく。

  10. ナハティガル=ラー

    ナハティガル=ラー。 不意討ち暗殺何でもござれのシーフだ。 初見の者も、そうではない者も宜しく頼む。 俺もシーフが前に出て足止めする方針に異論なしだ。 初ターンにレゾナンス・オブ・ヴァローを付与して貰えるのなら有り難い。 迎撃予定地点はトーラやロゼットの言う様に、開始位置から前方45~50m(9~10ヘクス)前後で良いかと。

  11. バーネット・フォーサイス

    >迎撃 距離についてはトーラの案で問題ない。 万が一抜かれた時に備えて、ある程度の余裕は欲しいしな。

  12. ナハシュ

    >距離 9~10ヘクスで賛成だな。そんだけありゃあ仮に抜けられたとしてもフォローも効くだろうさ。 蜥蜴共が先手を取り1T全力で移動したとしても丁度そんくらいの位置になるだろうから、初手でその辺にいれるようにはしておくぜ。

  13. ハリス・アル・ターミル

    >距離 それで問題ないかと。ご提案感謝致します。 >ヴァロー 元々回避に優れたシーフの方々がこれを受ければ、まさに疾風迅雷。 抵抗や防御力も上がるとあれば、不測の事態への備えとしても盤石かと。 やはり魔法というのは便利なものですね……。 >行動 私は突破してきた蜥蜴が少数であればそのまま移動妨害をかけつつ交戦。 多数が来るようなら殺界を用いて足止めと削りを入れようと思います。 敵は防御力が高いようですから、私の火力だけで倒すのは難しいでしょう。 ただ私も抵抗と生命力はそれなりですから、そう易々とは抜かせません。 それと、殺界の範囲内に蜥蜴を追い込んで頂ければ纏めて足止めできます。 ご協力頂けるのであれば合わせられるよう尽力致します。 ただ戦域が広く拡散しているため、あくまで可能なら行う程度に考えて頂ければ。

  14. サフィラ・アズラク・ヴォルファング

    距離はトーラの案でいいと思うよー! オアシスの風景も護衛対象だから余裕もっていきたいよねっ! そっかー、後衛の負担考えておくとある程度は削っておいた方がいいよねっ 毒撃もっていこうかなっ?(かくり)

  15. トーラ

    それでは9~10ヘクスで行動を出しますね。 皆さんありがとうございます! ロゼットさんの支援をもらったら、砂に足を取られないようエアーライド込みの疾風足で前に出てメテオライトを使って蜥蜴の気を引きますね。 弓ほどではないですけど射程があるので後ろに抜けた蜥蜴をハリさんの方へ誘導もやってみます。

  16. ナハティガル=ラー

    >迎撃 俺はフェザーステップ+疾風足+エアーライドで移動しながら回避盾としてトカゲを攪乱し、 トリプルファングと死齎刃で攻撃予定だ。

  17. ロゼット

    初ターン、周囲の希望者に「レゾナンス・オブ・ヴァロー」使用。 以降はシーフ達の後ろから魔矢で援護射撃、抜けてくるトカゲが いたら後ろを固める仲間と一緒に集中して倒すわ。 トカゲの毒は抵抗強化で半減できると思うから、BS治療より 普通の回復スキルを使って、負傷者をカバーするようにしておくわ。 回避強化もしてるから、トカゲの唾は頑張って避けましょう…! もし受けちゃったら、幸いオアシスがあるから洗濯ねっ。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0