【豆採】迷宮の恋忍者
九蓮宝燈
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シナリオID:544
オープニング
『迷宮都市エドゥノーグのダンジョンから、突如大量のカカオ豆が得られるようになった』
その驚きのニュースは、エドゥノーグの商人達の広報の甲斐あって、瞬く間に大陸中を駆け巡った。
カカオ豆とチョコレート。
その存在は大陸広くで知られているものの、一般的に流通しているとは言い難い。カカオの栽培に適した土地は総じて治安が悪く、輸出にたえうるほどの大規模なカカオ農園が作れないためだ。カカオ豆の安定した供給元がなく、ダンジョン産のものに頼らざるを得ないため、チョコレートは上流階級や富裕層で愛好されるに留まっていた。
そんなカカオ豆が『突如』『大量に』、おまけに商人達が販促にと担ぎ出した古い童話に乗っかって、『チョコレートは愛と平和を育むお菓子♪』なんて触れ込みと共に市場へ流れ込んだものだから、さあ大変。
しかし何にせよ、おいしいチョコレートが庶民の口に入るようになるのは良いことだ。おいしいは正義。冒険者達もカカオ豆求めダンジョンへ、あるいはチョコレートの普及を目指し大陸各地へ飛ぶのだった。
●ピンクの迷宮
カカオフィーバーの真っ只中。
この新しく出現した枝場は入り組んでいてとても広大だということで、多くの冒険者が投入されていた。
「まったく……あんたが無策で突っ込むから大変だったじゃないの!」
「そっちこそ! なんであそこで対象無差別スキルを撃つんだ!」
この男女の一名ずつのコンビは険悪な雰囲気で攻略を進めていた。
この二人は幼馴染。帝国崩壊に前後して、たまたま揃って授恵者になったので、流れで固定パーティを組んでいた。
しかし最近どうにも喧嘩が絶えない。
(もう潮時かしら)
ふぅ、とため息をつく女の子。
彼はウォーリアで自分はキャスター。どう考えても火力過剰でバランスが悪い。
もっと他のクラスのメンバーがいるならまだしも、彼がなぜか新しいメンバーを入れるのを拒否するのだ。
ほどなくして迷路のような場所に出た。
内装は貴族の館のような、高級感のある住宅といった雰囲気で、壁にはピンク色の光を放つ照明が等間隔に設置されている。
男の子が前に出て女の子が斜め後ろにつく陣形で進んでいく。
申しあわせたわけではないが、なんとなく彼らはいつもそのポジションになるのだ。
『きゃはっ!』
突然、紫色の煙と共に、ピンク色の髪のお人形のような人型の何かが出現した。
顔を面頬で覆った露出の激しいぴっちりした衣装に、小さな翼と尻尾。
人のような姿をしているが、それが他の冒険者でないことは明白だ。
『?※◎※▽~♪』
ピンク色の光がほとばしり、ハート形の魔法陣が出現。突然の敵襲に二人は防御姿勢を取ることしかできない。
二人そろって魔法陣から飛翔した矢を受ける。
その後、反撃した二人はそう苦労することもなく敵を撃破。
小人のような敵は、出現したときと似た紫色の煙とともに消え去り、あとにはカカオ豆がごろりと転がり出た。
「ほら、傷見せろ」
(あ、あれ……?)
そのとき、女の子は気づいてしまったのだ。
男の子が自分の胸元の傷から恥ずかし気に顔を背けていることに。
ガサツで乱暴なくせに、壊れ物を扱うように手当をしてくれていることに。
(そういえば、いつも前に出て歩いてくれてるよね。もしかしてずっと私を守ってくれてた
……の……?)
どぎまぎしながら進んでいくと小部屋のようなところに到着。
ちょっとした個室といった感じで、ソファやローテーブルのような家具や洗面台、トイレなどがある。
迷宮内なので警戒を解くことはできないが、腰を下ろすにはちょうどよい。罠がないことを確認したあと、荷物の整理がてら休憩していくことに。
「ねぇ……なんでパーティメンバー増やさないの?」
女の子が前から気になっていたことをきいてみた。ただ頑固なだけではなく、何か理由があるのかも……? その可能性に思い至ったのだ。
「だ、だって……、そんなことしたら、おま……、お前と二人っきりに……! あっ」
男の子は真っ赤になった。
後日。
それまで仲が悪そうだった二人が、手を繋いでダンジョンに入っていくのを、迷宮都市の住人が目にしたのだとか……。
解説
マスターより
リプレイ
エドゥノーグ迷宮のカカオフィーバー。
それに便乗した商人ギルドのチョコレート販促。
曰く、『チョコレートは美味しい上に愛を育むお菓子』であるらしい。
なんでも、古い童話――敵国同士であるバレン国の王子とタイン国の王女がチョコレートを贈りあって恋を成就させ、平和をもたらしたというような――にあやかったという。
そんな浮かれた風潮の中で現れた、新しい枝場。
広大なので、調査のために多めに人手が欲しいと募集がかかったのだが……。
象牙色を基調とした壁。赤い絨毯の床。
そして等間隔に並ぶピンク色のランタン。
豪華だがどこか淫靡な内装は、悪趣味な貴族の館のようにも娼館の類いにも見える。
●枝場入口 とある夫婦のケース
ガルレイド・S・グリディッカーとエリザ・A・ミシャールの冒険者夫妻は、他の冒険者に遅れ、最後尾で枝場に入った。
妻・エリザは探索支援ギルドで聞いた、この枝場に出現する魔獣に好奇心をくすぐられ、夫・ガルレイドを誘ったのだ。
「それじゃ、アンタ。決めた通りにね」
「ああ、手筈通りに」
入口付近で短く言いあった後、エリザは奥へ、ガルレイドはその場に居残り。
(しかし某が好む衣装とは何であろうか)
魔獣・サキュバスニンジャ。通称<淫魔忍>。
この迷宮状の枝場の中で一人でいるときに出会うと、『お色気の術』というスキルを発動。好みの衣装を着た異性(性的嗜好が同性であれば同性)に変身するという。
しかしガルレイドは異性の服には興味がない。
自分の好みを読み取って変身した場合、果たしてどんな衣装で現れることになるのか。
しばらくして天井から淫魔忍が出現。
ヒール、エーテルバリアを駆使して応戦しつつ、お色気の術が発動するのを待つ。
ぼむん!
突如、淫魔忍がピンク色の煙に包まれた。
煙の中から現れたのは、お人形サイズの淫魔忍ではなく。
身長一七ニセンチ。エルフ耳に褐色の肌。まさしく妻・エリザそのもの。
ただし身に纏う布面積は限りなく零。
ガルレイドにとって人を測る物差しは『強さ』のみ。
強者が纏うもの。すなわち筋肉こそ至上の装束也。
――裸はユニフォーム。それが解であった。
肌がすっかり日焼けするほどの屋外活動と鍛錬で引き締められた美しい肉体。
『手弱女』とはほど遠けれど、男の肉とはまるで違うしなやかさ。
か弱さや可憐さとは別の方向性であるが、それもまた女性美の極みであった。
愛しく美しい妻の理想的な姿にガルレイドは一瞬心を奪われた。
しかし佇まいは外見だけなぞった淫魔忍に再現しきれるものではなく。
妙に媚びたような振る舞いはいつものエリザとは別物。
(いかん。誰かに見られる前に退治してしまおう)
それはエリザではないことを思い出したガルレイドはさくっと淫魔忍に魔矢を撃ち込む。
淫魔忍はお目々をバッテンにして紫の煙に包まれた。
(弱い。これはエリザの姿だったが、やはりエリザには程遠いな)
しかしエリザの魅力は強さという美だけではない。
エルフとして生まれたものが背負う宿命、『長寿』。
別の種族と番えば、寿命の差からたびたび愛する者との死別の非業を味あわねばならない。
だが同族のエリザであれば、共に命尽きるまで寄り添うことができる。
ガルレイドにとって、エリザこそが最高のパートナーなのだ。
(へぇ……ふ~ん?)
それを曲がり角から見ていたエリザ。
普段あまり嗜好を口に出して表現しない相方の好みを知りたい。それがエリザが夫・ガルレイドをここに誘った動機であったのだが……。
(そっか、そういうのが好きなのね)
淫魔忍が自分に変身することは確信していたが、あのような大胆な衣装(?)になることは予見していなかった。
エリザもまた一体の淫魔忍を誘引して戻って来ていた。
エリザの好みを投影した淫魔忍もまた、ガルレイドにそっくりな姿。
脚の形にぴったり沿う細身のパンツ。
袖や襟がない上衣からはむき出しの腕や鎖骨、首の筋や肩の筋肉が覗く。
上衣の布地のある部分でさえも、その内にある雄々しき胸板を抑えきれず、伸びきって圧しあげられている。
(さ、触っちゃだめかね……?)
パンツと上衣の隙間。少しめくれば腹筋の割れ目に臍が見つかるだろう。
エリザはお腹の正中線をすーっとなぞりたい欲望と葛藤していた。
●通路 仕立て屋さんと白狼のケース
マリイ・パルティスは一人で攻略中、自身でも気づいていなかった性癖を見せつけられていた。
ピンクの煙と共に変化した淫魔忍の姿は、二足歩行の白い狼。
ケモ度の高いハーフビーストなら、現実にそっくりな人物はいるだろう。
しかし問題はその衣装だ。
赤い大きなリボンがついた、可愛らしいかぼちゃパンツ。それだけ。つまり狼はパンイチだった。
「は、はれんちなのはいけないと思います!」
真っ赤になって目を白黒させるマリイ。
この狼は、一点をのぞいて、別になんにもおかしいことはないのである。
恋愛への憧れ。そして、異性への苦手意識。
相反する感情ではあるが、女性なら――特に清純な性格なら、誰でも多かれ少なかれ持っている心だ。
すなわち、男は狼なのよといったところか。
そして、もふもふに癒しを求める心。
なにかとストレスの多い大陸情勢だ。かわいい動物につい溺れたくなる気持ちは広く共感されるものであろう。
なにもおかしなことはない。
ただ――パンイチなだけだ。
マリイのパートナー・大きなリボンの狼のコルデラが、眉間に力が入ったような何とも言えぬ微妙な顔で「クゥーン」と鳴く。
そしてなにか恐怖を感じたのか、走り去ってしまう。
「違うよコルデラ! 私コルデラを邪な目で見たことなんて一度もないから!! 待って! 逃げないで! 一緒に戦って! コルちゃんがいないと私戦えないから!!」
涙目でコルデラを追うマリイ。
なぜパンイチなのか。
マリイは仕立屋なので男性の服にも詳しそうなものだが、女性向けのドレス専門だからか。
はたまた、淫魔忍の性的な欲望を強調する性質のせいか。
それは誰にもわからない。
マリイはコルデラを追いながら、コルデラを襲う敵優先で魔矢を撃ち込んでいく。
●通路・小部屋 とある友人同士のケース
ララベル・サン・ディーベルとアリエッタは友人同士ということでコンビを組んで攻略中。
ここの枝場は難しくないため、二人で冒険すればいい思い出になるだろう、そう考えてのこと。
「カッカオ♪ カッカオ♪」
上機嫌に鼻歌を歌うアリエッタと、愛らしい彼女を見てにっこりするララベル。
『きゃは♪』
紫色の煙とともに、淫魔忍とローパーがそれぞれ一体ずつ出現。
「やるよアリエッタ!!」
「オッケー! いっくよー!!」
二人のシーフによる、トリプルファング六連撃。
切り刻まれた触手が宙に舞う。
滑らかな断面。むき出しになった触手の中心を通る管。
そこから、触手の内部に溜まっていた『都合よく服だけを溶かす粘液』が弧を描いて飛び散る。
べちゃりと地に落ちる触手の切れ端。湯気を立てるアリエッタの胸部。
「きゃああっ!」
アリエッタは思わず控えめなふくらみを腕で隠し座り込んでしまう。
その隙を見逃さなかった淫魔忍はハート形の魔法陣を展開。ピンク色のエーテルがその中心に収束していく。
「あぶないっ!」
淫魔忍とアリエッタの間に咄嗟にララベルが割り込む。
ララベルの女の子のような華奢な体をピンクの矢が貫く。
矢はハート形の飛沫となって分解し、空中に飛散。
アリエッタはララベルに駆け寄る。
「ララベル、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込むアリエッタに、ララベルは気丈に微笑みかける。
「アリエッタ、君は僕が護るから」
その誓いの通り、アリエッタを守った。
女の子のような外見でもララベルは最高にかっこいい男の子だ。
多少の被弾はありつつも、敵の撃破でその局面を脱した二人。
小部屋に出たので、ララベルはソファで傷の手当。アリエッタは洗面所で破れた服の応急処置をすることに。
(それにしてもアリエッタの……綺麗だったな)
淫魔忍の毒により、紳士らしからぬ思考がララベルの頭を埋めていく。
いつぞやの、友達同士五人で温泉に行った日。
みんなで洗いっこしたときに見た、アリエッタのタオルも巻いていない姿……。
(もっと仲良くなれたらいいんだけど)
あの時は怒らせてしまったけれど。
ララベルの後方、天井から紫の煙。
異状を察知したララベルが振り返ると、そこにはエプロン姿のアリエッタが。
「そんな服あったの?」
問いかけるララベルを無視してアリエッタがララベルに抱きつく。
ララベルはソファの上に押し倒される格好に。
そしてララベルから見えてしまう。前かがみになったアリエッタの、エプロンの胸布と胴体の隙間!
(え? え? 下、着てな……)
「きゃああああ!!」
アリエッタの悲鳴で我に返るララベル。
洗面所の前には、補修されたいつも通りの服装のアリエッタが。
「あれ? あれ? 分身?」
「違う! 変身!」
エプロンのアリエッタは淫魔忍の『お色気の術』。
それに気づいたララベルは両脚で体の上のアリエッタを蹴り、距離を取った。
●通路 とある神官騎士のケース
サマエラ=フォリウムは単独での探索。
探索支援ギルドから頼まれたとおり、簡単にでもマッピングをしていく。
宝箱に扮した魔獣がいるらしいと聞いていたため、宝箱を見かけたら念のため魔矢を撃ち込んでいく。
現状、宝箱の真贋は半々と言ったところか。
サマエラのローパーへの備えは万全だった。
今度は床から淫魔忍が出現。
ところで、淫魔忍の衣装には個体差があるが、以下のような傾向があることにサマエラは気づいていた。
一つ。ベースの素材は極限まで薄く、場合によっては透けるほど。それは筋肉の微細な動きまで阻害しないようにピッタリと体に沿っている。
二つ。ところどころ皮革のような厚い生地、あるいは金属のプレートでの補強がなされている。
部位としては鎖骨、心臓、肺、肝臓といった、負傷すれば致命傷に繋がる重要な部分であることが共通している。
また、股間部も補強されていることが多いが、これもまた理にかなっている。
淫魔忍は女性型であるが、所謂金的が女性に効かないわけではない。体幹を支える骨盤は恥骨への攻撃に弱く、骨折しやすい。それに会陰部が人体急所であることに男女差はなく、蹴り上げられれば場合によっては致命傷になるほどの、甚大なダメージを受けるのだ。
(くっ……あの外套、動き易さは重視しながら、……致命傷避けにも特化させたか……!)
敵の戦装束に感嘆しながらダマスカス鋼の祭刀を握りしめる。
(……やはり私には、お前が馴染む)
エーテルへの親和性が高い貴重なダマスカス鋼を使った、二つの属性両方に高い能力を発揮する武器。
物理と魔法、物魔撃という三つの属性を使い分けるサマエラにとって、これほど適した武器はないだろう。
(鋭く、芯があり、されども力だけでない……。お前が、一番なんだ……大事にする、約束だ)
心の中で愛刀に語りかけるサマエラ。
淫魔忍は何故精神汚染攻撃が通じていないのか首を傾げたまま、星のエフェクトを出して消えた。
●通路 とある喫茶店の腐れ縁のケース
こちらは、青年と中年のはざまに差し掛かる年齢の男性と獣耳少女のコンビ。
少女――コハクは二本の尾を持つが、れっきとした狼獣人である。
コハクを前衛、青年――キーゼを後衛として攻略を進める。
依頼は成功を第一として自身すら駒とすることを辞さない男と、恋愛より戦いと食事というスタンスの少女。
この枝場の甘酸っぱい仕掛けを楽しむものも多い中、コハクがジャマーを切らさないようにして精神汚染攻撃を弱体化させつつ淡々と進む。
やや離れたところに出現した淫魔忍にコハクが疾風足で肉薄。
キーゼが魔矢で援護を……と、二人が離れた隙。
横道に出現したローパーがキーゼを襲う。
ここが常の戦場であれば、キーゼは横道に身を晒して立ち止まるようなミスは犯さなかっただろう。
この迷宮の退廃的な特性とキーゼの自暴自棄が合わさった結果、無意識的な破滅願望が現れたのかもしれない。
コハクはキーゼの援護が途絶えたことから、何かあったのを察する。
その一瞬振り返ったのを淫魔忍は見逃さない。
コハクのこめかみに尻尾の一閃。コハクの白い額に一本の赤い筋が走る。
傷口が疼いてコハクの気を逸らそうとする。が、攻撃を受けたことでむしろコハクは燃え上がる。
「好きだからこそ、存分に殺し合おうじゃないか――」
殺し愛。それこそがコハクの性癖。
両手の剣を上段と中断に構え、金の狼は強く踏み込む。
一方ローパーに絡めとられたキーゼは金髪の美女の誘惑を受けていた。
服装は機能的なパンツスタイル。
美女はいたずらに脱ぐこともしなければベタベタ体を寄せることもしない。
キーゼの労をねぎらうかのように優しく微笑むだけ。
(やはり無駄な露出よりは、素材を生かす方向の方がありですよね)
キーゼが抵抗を示さないためか、美女は白い手を伸ばす。袖口から覗く手首やその奥に、日に焼けることのない柔肌が見える。
キーゼの頬を撫で、一房の三つ編みに楕円形の爪が触れた瞬間。
美女の頭にダマスカス鋼の剣がめりこんだ。
ぼむん! と紫色の煙が発生。
視界が晴れると、そこにはコハクの姿。
コハクは淡々と触手を切断し、キーゼを引っ張って立ち上がらせる。
「キーゼ、回収」
「助かりました。まったく……これではどちらが保護者だか」
キーゼは自嘲するように言い、黒い外套の埃を払い、床に転がった二つのカカオを回収。
二人のバックパックには、もうかなりの数のカカオが入っている。
「地上でなんか食べさせてくれたらいい」
コハクの執着は強くなることと食べること。
淫魔忍にとってはこれほど相性の悪い敵もいまい。
この後も二人は順調にカカオを集めていく。
●通路 赤狐さんのケース
商魂たくましい狐獣人エルシー・サリバンはしっかりカカオを集めていた。
しかし、きちんと仕事をすることと精神が揺さぶられないことは同義ではなく……。
「ぇーなんでだよっ……でもでも……ぁ――んっ」
自分の心がまるで自分のものではないかのよう。
エルシーは先日、親友に告白されたのである。
しかも、その親友はずっと同性だと思い込んでいて、実は男だった……と知ったショックから立ち直れないうちのこと。
まさに青天の霹靂だったのだ。
彼は本当に素敵な人。
優しく、頭がよく、先のヴァイセントラフ砦の大戦でも功績を上げた人。
スペックを考えれば、恋人にするならこれ以上ない『優良物件』だろう。
(もし彼が他の人と付き合ったら? ……素直にお祝いする自分が見える)
そう思っていた。
さっきまでは。
淫魔忍が変身した姿が彼だった。
それだけでもものすごく動揺してしまったのに、さらにピンクの矢に射られてしまった。
淫魔忍は人のような姿をしているがただの知性のない魔獣。
エルシーに自分たちの術が効きすぎていることなどわからない。
「苦しいよ……もぉぉぉ……乙女心を弄ぶお前達が悪いんだよ――っ」
ぽこん! お目々をバッテンにする『彼』
淫魔忍が、ローパーが、エルシーの乱射する矢に次々と撃たれて紫の煙と化していく。
全然気づいていなかった。
一緒にいると楽しいのは友情だと思っていた。
…………でも、それが好きってことだったの……?
エルシーはフラフラとした足取りで迷宮を進んでいく。
担いだ麻袋はしっかりぎっしり、確かな重みが詰まっている。
●入口付近 とあるエルフの少年のケース
明るい茶髪に濃い青の瞳の少年・エヴァン・ピオネロは、軽くなったバックパックを背負って再びこの枝場に来ていた。
深くは潜らず、そのかわりバックパックが一杯になり次第地上に戻って一旦カカオを納品するという作戦だ。
「カカオは今が……旬ですね! 沢山……集めますよ……!」
エヴァンは十五歳というお年頃。
しかし細身で実年齢より幼い外見と同じく、内面もまだまだ青い果実。
恋愛ムードにはまだ興味がそそられない様子。
だが、お祭り騒ぎの楽しい雰囲気は魅力的に思っていた。
エヴァンの前方に紫の煙。
くるくると回転しながら淫魔忍が出現。
「いきます……よ……!」
エヴァンの杖からエーテルの塊が発射される。
撃たれた淫魔忍は被弾箇所から星型のエフェクトをとばす。エーテルの塊は蜘蛛の巣状に拡がる。淫魔忍は『きゅう』と鳴き声をあげる。蜘蛛の巣状のエーテルは、お目々を渦巻きにしている淫魔忍の体にまとわりつく。
「もっと……見たいです」
エヴァンはエフェクトが可愛くて萌えただけなのだが、思考がピンクな淫魔忍は加虐趣味と勘違い。痛いのは勘弁とばかりに床をごろごろ転がって追撃を回避。
ピンクの煙を出してお色気の術を発動。
しかし、まだ恋に目覚めぬ少年に性癖はない。術は失敗し、淫魔忍はもふもふの子猫(真っ白・生後二か月)に変身してしまう。
「にゃんこです……!」
細い尻尾をピンと水平にして子猫は逃走。可愛いものが好きなエヴァンはその後を追う。
道中、ローパーに絡めとられ、ねこちゃんのちっちゃいパーのお手々で引っかかれる等のハプニングがあったりなかったり。
「……ここ、楽しいです!」
エヴァン少年はしっかり仕事をこなしつつも迷宮の仕掛けを堪能。
「あっちにも……可愛い……です」
そしてまた次の可愛いものを発見。足取りも軽く走っていく。
●通路 わんこ達のケース
エヴァンが見つけた可愛いもの。それはシャルガネ風白黒わんこの大福だった。
「えばんなのだー」
大福は捜波で警戒していたので、誰かと交戦中の敵がいることに気づいていた。
挨拶されたことで、エヴァンは目の前の可愛いわんこが淫魔忍の変身ではなく、友人の大福本人であることに気づいた。
「い、いけません……お邪魔……してしまいます」
名残惜しいけれど、お互い仕事中なので一旦お別れ。
「かっかお~♪ かっかお~♪ (まめっ)どっさり採ろうカカオ豆~♪ なのだ~」
「ウォッフウォオオオぉ~」
大福が歌うと、パートナーの粽が合いの手。
「シャルガネでも『ちょこ』を流行らせるのだ!」
大福の実家は万屋。今回のカカオフィーバーのような商機には敏感だ。
複数のローパーが生えている箇所に大福が炸光矢を発射。
光の破片に紛れて粽が追撃。
見事なパートナーシップで順調にカカオを集めていく。
しかし激しい戦闘があだとなったのか、複数の淫魔忍が大福達に接近。
天井にさかさまに立つ幾人かの少女達が一斉にハート形の魔法陣を展開。
大福と粽はピンクの矢の挟撃を受ける!
射られ、地に伏せる大福と粽。
まず確かめるのはお互いの安否。
……。
…………。
………………。
見つめ合う二人。
迷宮の仕掛けか、なんとなく背景はピンクと白のほわほわグラデーションにきらきらエフェクトに。
「もっふもふのふぁっさふぁさでとぅるとぅるなのだ! 粽は世界一の狼なのだ!」
「アオ――――ン!」
しゃきん! うなる大福の動物のお世話セット。
うふふ。あはは。
一梳きごとに輝きを増す粽の毛並み。
大福達が術中にはまったのをみてほくそ笑む淫魔忍達。
あとは屠るのみとばかりに、鞭のように尻尾がしなり、大福の頭をペシーン!
一瞬にして現実に戻る背景。
凍り付く空気。
ギリリ、ときしむ大福の魔弓。
「天誅ぅぅう――――!」
淫魔忍がやってはいけないことをやってしまったと悟ったときにはもう遅く。
床にいくつものカカオを転がすこととなった。
●通路・小部屋 ハリネズミさんとゴリラのケース
こちらは億万長者を目指すハリーヌ・ヨツユビ。相棒ゴリラとの参加だ。
大福と同じく、今回のカカオフィーバーを商機と見て、一枚噛もうとしているところ。
尖ったお鼻をひくひくさせて周囲を警戒。
何やら変わった敵が出るようだが、全部見敵必殺するつもりだ。
宝箱はたまにローパーが詰まっていると聞いていたのでスルー。
見えない敵よりも見えている敵のほうがわかりやすいため、淫魔忍狙い。
ソロ参加だが、ゴリラが背中を守ってくれているためリスクは低い。
恋愛に疎いハリーヌの性癖を読み取れず、ねこちゃんに変身した淫魔忍を、ハリーヌが精密射撃。
ダメージを受けたことを示す星型エフェクトはユーモラスではあるが、猫を叩くこと自体猫飼いのハリーヌには苦痛。
肩に受けた矢の痛みもあってイラつきを覚えたハリーヌ。ついついボソリと、ふしだらな女性を罵るスラングが出てしまう。
気分を立て直すために小部屋にて休憩。
小柄なハリーヌを抱きかかえてソファにのせてくれるゴリラ。
(お店で一番強そうだったから選んだゴリラですが)
文句ひとつ言わず、優しく忠実なパートナー。
思えば、ハリーヌはいつも調子よく振る舞ってはいるが人に心を開いてはいない。
人をおだて、ゴマをするのは、他人を都合よく動かそうという打算ゆえの行動だ。
エーテルリンクによって読み取れる、ゴリラの自分に向けた感情はとても穏やかだ。
そしてしばしの安息の後、また迷宮へ。
●通路 とある即席バディのケース
「……なんというか、妙な雰囲気のダンジョンですね」
ガレシアス=エルムートは杖の先でランタンを小突く。
右目にかけたモノクルがピンクの光を反射する。
「ローパーはともかく、サキュバスニンジャ……?」
スヴァン=ウォルフ=ユーウェンは探索支援ギルドで聞いた敵情報に怪訝な顔をしている。
「かなり入り組んでいるようですので、地図を作成しながら進みましょう、スヴァン殿」
ガレシアスの神経質な表情には無言の「守って♪」の圧。
二人は初対面である。ガレシアスはまだギルドの仕事の経験が少ないため、現地で急遽スヴァンと組むことにしたのだ。
スヴァンがそれを受け入れたのは、傭兵という職業故か、人の好い性格故か。
「その宝箱には近づくな。変な音がする」
超聴覚で警戒していたスヴァンが制止。
間合いを取って大剣を振るい、衝撃波で宝箱を破壊すると、箱の残骸の中からローパーの触手がじゅるじゅると這い出してきた。
ローパーはスヴァンに襲い掛かる。
「おい、尻尾は触るな!」
生ぬるく湿った触手がスヴァンの尻尾をぬるりと撫でる。後方のガレシアスへの射線を通すわけにはいかないため、避けずに大剣で追い払う。
ガレシアスも魔矢で後方から応戦。ローパーはすぐに沈黙。
だが、ガレシアスの背後に忍び寄る淫魔忍。
アイサツ前のアンブッシュ! ガレシアスをピンクの矢が襲う。
ガレシアスの気難しい表情が一瞬崩れる。
(いや、私たちは師弟であって決して不純な関係では)
ガレシアスの動揺を察知して、彼を庇うように前に出るスヴァン。
淫魔忍はすかさずスヴァンにも矢を放つ。
「……ニンジャ死すべし慈悲はない」
『あいえええ!』
おおゴウランガ! 憐れ淫魔忍は強打の一撃のもとに紫の煙となって霧散。
ゴロリと床にカカオが転がる。
「生憎と俺は恋愛に縁はないし興味もない。チョコレートが恋人のようなものだ」
キン、と大剣を鞘に納める。
スヴァンの好物はチョコレート。チョコレートへの好意を自覚させたら、カカオをドロップする敵への殺意が増幅するのは自明の理だった。
いそいそとカカオを麻袋に詰める。
悶えるガレシアスの肩をとんとんと叩く誰か。
「……コハクさん?」
目の前には金色の狼少女。こてり、と首をかしげて尋ねる。
「連れがどっかいった。知らない?」
●冒険者ギルド
十四名の冒険者達により集められ、山と積まれたカカオ。
何名かが製作した地図は探索支援ギルドより買い取りの申し出があった。
依頼は無事成功と相成った。
マスターコメント
イベントシナリオ普通 報酬:標準14 / 4〜25人
2021年02月28日 00時25分20秒 公開
参加者
相談掲示板
カカオ採りのお仕事はコチラでございますか? ワタクシはハリーヌ。しがないヨツユビハリネズミでございます。 何やら変わった魔獣が出るとか… 気をつけて参るでございますよ!
かかお~!(挨拶) シューターの大福なのだ。こっちは相棒の粽(ちまき)カッコイイ狼なのだ! よろしくお願いしますなのだ~ んん~。粽と2人で行くか強い先輩に着いて行くか迷うのだ~。 なんかソワソワするのだ。へんなの~なのだ
キャスターのガレシアスです。よろしくお願いします。 ふむ…自分はあまり戦闘が得意ではないのでどなたがご一緒してくださると心強いですが…もっと早めにくるべきでした… もし同行しても良いという方がいらっしゃいましたら、お知らせください。
カカオ……カカオはどこ……ここ…………? ウォーリアのスヴァン。よろしく頼む。 倒しにくいのか倒しやすいのか判断しにくい敵だな…… 場合によっては普通に便利そうじゃないか、アレ…?
カカオはここ。【ガレシアスが仲間になった!】
ガレシアス> カカオはそこだったか。助かる。 (仲間が増えたよやったね)
カカオ狩りコハクである、どうぞよろしく。 取りあえずよくわからない生命体潰せばカカオ入ると聞いたので。 申し訳程度にジャマ―積んではいくよ。 あ、それとフリーなんで一緒に回りたい方いたら声かけてくれると嬉しいでーす。
コハク氏、では一緒に回りますか?
あーい
キャスターのエヴァン・ピオネロです。 気付いたら…入っちゃってました。 カカオって恐ろしい…食べ物です。 何をするかは今から考えますね…よろしくお願いします(頭深々と下げ)