【蠱毒】湿地を照らす妖凶の月

そうすけ

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シナリオID:543

オープニング

●
 男たちが子供たちだけを連れ去ってすぐ、ラズリーは小屋を飛び出した。誘拐者たちを追って走り始める。だが、すぐに何処にも行き場がないことに気づいた。
 枯れた木、露や霜の水分をたっぷり含んだ草の茎と地面。どの方角に目を向けても暗い湿地しか目に入らない。
 あたりにはだだっ広い湿地が広がっているだけだ。生き物はいても、湿った土の下に潜り込んでいるか、濡れた草の間で息を押し殺していかのどちらかだろう。気配すら感じられなかった。
 月だけがぽつんと小さく空に浮かんでいる。
「あかん。ここ、どこや……」
 殺されなかったのは、ラズリーがついていたからでも、男たちが気まぐれに慈悲を示したわけでもなかった。
 恐らく、ゴブリナ一人なら、人里離れた場所に置き去りにしておけば、湿地に巣くうクリーパに襲われて死ぬだろう、とでも思ったのだろう。
「悪事をあばいて子供たちも助けるつもりが、なんのこっちゃ。トホホなことになってもうた」
 意外な展開に混乱し、必死の走りはいつの間にか途方にくれたよろめきに変わっていた。
 足の下の切るように冷たい泥濘(ぬかるみ)を意識しながら、ラズリーは状況を把握しようと試みた。長く歩き続けることはできない……少なくとも、このままでは無理だ。
 雪こそ降ってはいないが、ディズル大湿地帯の気温はかなり低くなっている。防寒着が必要だ。それに霧が出はじめている。
 自分が直面している事態を認識し、ラズリーは計画を考慮する必要があると感じた。やむを得ず踵(きびす)を返し、質素な小屋に向かって戻り始める。
 ふと、ラズリーは、扉の前で立ち止まった。寒さに震えながら、調査のために小屋の裏側に回る。
「……どのみち追いつくのは無理やったな」
 はるか彼方に通じる、微かな車輪と蹄(ひづめ)の跡が残されていた。子供たちは荷車に乗せられて運ばれたに違いない。
 ラズリーは霧の向こうに目を凝らした。
 銀の月の下で、霧の湿地は蒼白の光を帯びて仄(ほの)かに輝いていた。別の状況だったら、美しいと感じていただろう。
 けれども、今は自分の犯したミスを悔やむばかりだ。
(あんときは他に選択肢がなかったんや。……BDの話がホンマかどうか調べるためには、うちが子供らと一緒に誘拐されるしかなかったんや)
 ここで言い訳を並べていてもしかたがない。
 しばらく考えを巡らせたあと、ラズリーは誘拐犯たちが戻ってくるのをじっと小屋で待つよりも、湿地を行く方がまだましだと判断した。
 男たちは攫(さら)ったリザードマンの子供たちをどうするつもりなのか、考えたくもない。ただ、楽しいことではないのは確かだ。
 車輪と蹄(ひづめ)の跡が近くの集落に通じていることは推測できるが、それを辿れば誘拐犯たちと遭遇する恐れも高くなる。
 だからラズリーは轍とは正反対の方角を選んで歩きだした。早い時点で、湿地を行き来するリザードマンたちの通行路に行きつくことを祈るしかない。危険は承知の上だ。

 一時間後、ラズリーは運よく授恵者たちの一団と行き当たった。

●
 時は数日前にさかのぼる。

 情報屋ラズリーは、ゴブリンの街ゴールディ最大のマフィア組織であるBD――ブラックデスから呼び出しを受けて、BDの本部に出向いた。
 革の椅子にふんぞり返ってラズリーを待っていたのは、ドン・ゴーフルその人ではなく、幹部の一人だった。名前はタ・ロウ。確かそんな名前だったはずだ。
 タ・ロウは前置きなしで用件を切りだした。
「最近、リザードマンの集落で子供の誘拐事件が多発している。ここだけの話、レッドブーツの連中が誘拐に関与しているという噂があってな……。本当かどうか確かめて来い」
「はぁ? なんでうちが調べなあかんの? 自分らで調べたらええやん。敵対組織潰すチャンスやろ。ていうか、それが人にものを頼む態度か」
 レッドブーツというは、BDに次いで二番、三番手を争っているゴールディのマフィア組織だ。単純な暴力だけでいまの規模にのし上がった。構成員は例外なく赤いブーツ(くそダサい)を履いているのですぐ解る。
 砂時計の砂が全部下に落ちるまで睨みあった。
 先に折れたのはタ・ロウで、くっ、と口の端だけで笑う。
「金なら払う」
「当たり前や。うちは慈善事業者やないで。で、なんで自分らで調べへんの?」
 タ・ロウは組んだ足を解くと、テーブルの上に身を乗り出した。葉巻を挟んだまま、手の小指を立てて額を掻く。
「……間もなくドンの肝いりの計画が動きだす。だから、これからBDはメチャクチャ忙しくなるんだよ」
「知らんわ。ドンの計画とレッドブーツの連中がリザードマンの子供を攫(さら)っていることと何の関係があるん」
「いまから必死になって、BDが全世界に向けてゴブリン全種族の評判を爆上げしていこうってときに、真逆の事をされちゃ迷惑なんだよ! オメーもゴブリンなら協力しろ」
 協力しろと凄んだ割には、ドン・ゴーフルの計画とやらは聞かせてもらえなかった。全世界に向けてゴブリン全種族の評判を爆上げ? めちゃくちゃ胡散臭い。
 ただ、前払金はたっぷりもらえたし、噂が本当でレッドブーツの連中を捕まえたなら、さらに金を出してもらえるということで、ラズリーは依頼を引き受けたのだった。
 
●
「――ちゅうワケやねん」
 運よく出くわした授恵者たち(一つのグループではなく、たまたま道中で行きあわせた者同士が連れ立って歩いていたようだ)に事の経緯を説明した後、ラズリーは改めて誘拐犯の捕縛を依頼した。
「小屋から轍のあとを辿っていけば、誘拐犯のアジトにたどり着くはずや。たぶん、そこで買い手がつくまで子供たちを監禁してる。助けに行ったって」
 授恵者の一人が誘拐犯たちの詳細を求めた。
「リザードマンの子供に見えるよう、目深にフードを降ろしてマントの中で縮こまってたさかい、あんまりよう分らへんねん」
 その時、ラズリーとともに攫(さら)われたリザードマンの子供は二人。誘拐犯は八人だったという。
「あ、うん。確かにレッドブーツ履いとったわ。ゴブリン種が二人、ホブゴブリン種が五人。一人だけリザードマンが混じっとった。鱗の生えた尻尾が見えたから間違いない。……おかしいのは、そのリザードマンがボスちゅーか、偉そうに命令しとったことや。レッドブーツの連中は金に目がくらんで手伝ってるただの雑魚っぽい」
 だからと言う訳ではないが、レッドブーツの連中は殺さず捕まえて欲しいとラズリーはいう。
「なんでかしらんけど、ドン・ゴーフルが絶対に同胞を『殺し』たらあかん、言うてるねんて。そんなこんなで、できればレッドブーツのアホどもが誘拐に関わっていること自体、内緒にしておきたいねん。頼むわ」
 誘拐犯不殺の是非はともかく、攫(さら)われた子供たちのことは心配だ。
 授恵者たちはラズリーとともに小屋に戻ると、車輪と蹄(ひづめ)の跡を追って誘拐犯のアジトへ向かった。

解説

解説 攫われたリザードマンの子供たちを助け出し、誘拐犯を捕まえてください。 誘拐犯のアジトに押し込むところからスタートです。 ●場所と時間 ディズル大湿地帯のどこかにある誘拐犯のアジト。 大岩と大岩が重なりあった隙間を利用して作られた、半地下のアジト。 子供たちは、一番奥の大部屋に作られた檻の中に入れられています。 真夜中。 外は月が出ています。 室内はところどころランプが灯されていますが、全体的に薄暗いです。 大部屋の大きさはテニスコートぐらい。岩の天井は2メートルほどで低いです。 出入口は2か所。 授恵者たちが入ってくる通路と、反対側、檻の横から細い通路が伸びているようです。 入って左側に、どこからか拾ってきたソファーとローテーブルが置かれています。 ●誘拐犯 ラズリーの証言では8名。 ボス各のリザードマンはキャスター。杖所持。 レッドブーツのゴブリン2人はシーフ。ナイフ所持 レッドブーツのボブゴブリン5人はファイター。バトルハンマー所持。 他にもアジトで誘拐犯たちの帰りを待っていたリザードマンが3人いるようです。 この3人に関しては情報がありません。フード付きのマントを着て顔を隠しています。 謎の3人は、授恵者たちが入ってきた時は、檻の前にいて中の子供たちを吟味しています。 積極的に攻撃には参加しませんが、情勢が不利とみればすぐに逃げ出します。 ●誘拐された子供たち 男の子ばかり。ひどく怯えています。 寝床から連れ出されたので、薄着です。 檻の隅で2人、縮こまっています。 ●檻 繰りぬいた岩肌に鉄棒の格子がつけられたもの。 扉には鍵がかかっています。メチャクチャ頑丈です。 鍵はボス格のリザードマンが持っているようです。 ●注意事項 依頼主たっての願いです。 レッドブーツのゴブリンたちは殺さず捕まえてください。 ボス格のリザードマンとそのほかの3人は生死不問ですが、生かして捕まえると多発する誘拐事件について、何か有益な情報が得られるかもしれません。 ●NPC ※この依頼は、NPCのラズリー(キャスター)が同行します。

マスターより

ご参加お待ちしております。

リプレイ

●
 冒険者たちが車輪と蹄(ひづめ)の跡を辿り行きついたのは、廃墟と化した集落のはずれだった。辺りは異様な悪臭にみちていた。
 ハヤト=ガラン=ヴォルファングはあからさまに嫌そうな顔をした。
「……たく、なんの臭いだ?」
 鼻をつまんでいるために、声が微妙にくぐもっている。
 この臭いをどのように表現していいのかわからないが、強いて言うなら、真夏に生ごみをしばらく放置していた時の悪臭を百倍にしたといった感じだろうか。
 ちょっと前に、股を手で押さえて小走りに出ていったゴブリン(小便か?)が、原因ではないことは確かだ。悪臭は大岩が見える前から、冒険者たちを不快な気分にさせていたのだから。
 アヴェラ・ウッチェロは、大岩の出入口をもっとよく見ようと、冒険者たちの姿を隠す背の高い草むらに手を差し込み、そっと割った。
 アヴェラの目はすでに暗殺者のそれだ。
 金をもらって請け負う限りは、依頼主の『殺し不可』のオーダーには従う。だが、不測の事態が起こった場合は仲間の安全を優先させてもらうつもりだ。
 そっと息を吐いて、出入口に注意を戻す。
「何の臭いかしらね。もしかしたら、人や野生動物を避けるためにここを選んだのかも」
 たしかに。ここならクリーパーはともかく、まともな嗅覚を持つもはよほどのことがない限り近づかないだろう。さらってきた子供たちの監禁場所にうってつけだ。留守の間、泣き騒がれても大丈夫。安心して狩りができる。
「なるほど、理に適ってやがる」
 ハヤトが喉の奥で唸った。
 悪党どもの悪知恵に感心しての事なのか、この悪臭にうんざりしての事なのか。たぶん、どちらも半分ずつ含んでいるのだろう。
 もしかしたら、早くもレッドブーツのアホどもにうんざりしているのかもしれない。ゴールディのファミリーであるヴァイオレットレオンの一人として、連中の脳筋度は熟知している。
 二人の後ろで動きがあった。気配を感じて振り返る。
 シスル・ノーティラスだった。
「ハヤト、もう少しの辛抱だ。始まっちまえば臭いなんて気にならなくなる」
 そう言ったシスル自身は、手で鼻や口を覆っていない。これから悪党をぶちのめせる期待に高揚し、沸き立った血が悪臭を遮断しているのかもしれない。はやくもアドレナリンが全身を駆けめぐっているようだ。
 ところで、とシスルは間接的依頼者であるラズリーを振り返る。
「あんた、ちゃんとあたしたちをバックアップしてくれるんだろな」
「もちろんや。アシスタント的なことしかできんけど、せいぜい頑張らせてもらうから」
「なら、範囲攻撃中心にレッドブーツの連中をやってもらいてーな。あ、識別なしの魔法は一声かけろよ!」
 ラズリーは、わかった、といって、ななめに掛けたポシェットから、紙で包んだ飴を取りだした。月下でも包装紙のカラフルな色が分かる。
「匂い消しの効果があるかどうかわからんけど、ミントの葉を潰して砂糖と水で煮固めたアメちゃんや。ないよりマシやろ」
 そういって、険しい表情を張りつけているベルク・オスマットに、包みを一つ差し出した。
 ベルクは礼をいい、飴を受け取った。
 静まり返った大岩の出入口へ一瞬だけ目をやり(さっき出ていったゴブリンはまだ戻ってこない)、包みを解いた飴を口に含む。
「ふん。誘拐行為とはただの賊と変わらんな」
 殺したらあかんで、金にならへん、とおそるおそるいったゴブリナの情報屋を、怒気に満ちた目で射抜く。
「皆殺しだ」
「ひっ」
「……と言いたいところだが、誘拐なんて基本末端だろうから文字通りのトカゲのしっぽにしかならん。実行犯程度を皆殺しにしても意味が薄すぎる」
 単純明快なる意思表示。下っ端の実行者(ゴブリン)たちは殺さない。誘拐の首謀者は殺す。そこにいればの話だが。
「Talara、欲しい。渡す、アメ。配る」
 すっと差し出された褐色の腕は、いたる所にペインティングがなされている。Talaraは芸術を愛し、生きるゴブリナなのだ。
 手のひらで飴を受けると、「わたくし、しがない神官なので、こういう隠れた行動って、あまり得意じゃないのですよ」、とぼやくダルタニアとアステルに一つずつ渡した。
 別の出入口を確認しに行ったヘレム・カースワーズ以外の仲間たちにも飴を配ると、素足の指をもじもじさせながら自分も一つ、口に入れる。
「スッとする。ひんやり。爽やかな甘さ」
「おいしいな、これ。でも、これ逆効果じゃないか?」、とアステル。
 隣のダルタニアの表情も微妙だ。
「確かに。ミントに消臭効果はありますが、鼻のとおりが良くなる分……あ、戻ってきましたよ」
 レッドブーツを履いたゴブリンが、手をブラブラ振りながら大岩に戻ってきた。出入口で一旦立ち止まり、ズボンの尻で手をぬぐい、きょろきょろと辺りを見回してから中に入った。
 すぐに木の板で出入口が塞がれる。
 そこにヘレムが、とんがり帽子の上の麦わら人形をひょこり、ひょこりと揺らしながら戻ってきた。帽子の蝋燭(ロウソク)は消えている。誘拐犯たちに気づかれないように自分で消したのだろう。
「ただいまもどりました。奥に細い通路があるようですね。別の出入口を見つけましたよ。そちらから逃げられるとまずいですけど、内側から鍵がかかっていて外からは入れませんでした。なので……私が部屋の隅を走っていき、もう一つの出入口を封鎖します」
「頼んだ、ヘレム! 子どもたちをゆーかいだなんて許せない! 子どもたちの近くにいる奴らはオレに任せてくれ!」
 アステルは草むらをかき分けて出ると、大岩に向かった。アヴェラとベルクが足音を忍ばせながら続く。
「ダルタニア、置いていくぞ!」
「お先にどうぞアステルさん、わたくしは一番後ろからみなさんを支援いたしますので」
 神狼(カムラウ)を信仰する神官は空に浮かぶ月を仰いだ。
 いま大岩の中にいるのは、レッドブーツのゴブリンが二人とボブゴブリンが五人、ボスらしきリザードマンが一人。それにさらわれたリザードマンの子供二人。
 ほんとうにそれだけか……。
 月は赤みを帯び、不吉に輝いていた。

●
 仲間たちを大岩の入り口の左右に残し、Talaraは木の戸を乱暴に外し投げると、火を灯したランプを持って中へ駆けこんだ。
「COOOCK-a-DOOODLE-DOOOOOO!!」
 室内に満ちていた幼いすすり泣きがピタリと止まる。
 なぜニワトリなのか?
 だが、そんなことはいまどうでもいい。まんまと注目を集めることに成功したのだから。
 レッドブーツのゴブリンたちは、口をぽかんとあけたままフリーズしている。揃いも揃って、鼻の穴にミントの葉をパンパンに詰め込んでいたので、Talaraはあやうく吹きだしそうになった。とっさに膝に手をついて体を折り、誤魔化す。
 ドスを効かせた声で誰何したのは、やはりというか、誘拐犯のボスであるリザードマンだった。ちなみに彼は鼻の穴にミントの葉を押し込んでいない。
「はぁ、はぁ……レッドブーツ、急いで来た。沼地、ぬかるみ、靴取られた。仲間として、恥ずかしい。恥を忍んで、知らせ、良い知らせ、持ってきた」
「おい、お前たち。レッドブーツには女のガキがいるのか?」
 ガキはいるけどこんなに可愛いゴブリナいたっけ? いたような、いないような……。レッドブーツたちは、互いに顔を見合わせて首をひねる。
 ハヤトは岩影から見ていて恥ずかしくなった。
(「やっぱり、こいつら馬鹿だ。ゴールディの全マフィアの恥だ。仲間の顔と名前ぐらい把握しておけってんだ」)
 だが、いまなら一気に片づけられる。リザードマンには手こずりそうだが、レッドブーツさえ倒してしまえば多勢に無勢、そう時間はかからない。
 檻の横には別の通路口が見えているが、そっち側の出入口はヘレムが押さえてくれる。逃げられる心配はないだろう。
「速攻で終わらせる」
 仲間たちに合図して、ハヤトは岩陰から飛びだした。
 次の瞬間、リザードマンの後ろにフードを被った別のリザードマンが三人もいることに気づいて戻る。まずいことに、新手の三人は子供たちが閉じ込められている檻のすぐ前にいた。三人とも死人のように気配がまったくない。
 通路の反対側にいて飛び出したシスルも、たたらを踏んで立ち止まった。が、体に纏わせたエーテルが迷彩効果を発揮しているので岩陰には戻らず、そのままそろりそろりと、広い岩部屋に入っていく。
 Talaraはもちろん、とっくにフードを被ったリザードマンたちの存在に気づいていた。シスルと、そのあとに続いて壁際を移動するヘレムの存在に気づかれないよう、ゴブリナ草を一服して時間を稼ぐ。
 誘拐犯のリザードマンは短く舌を打ちつけると、何のようだ、と不機嫌に言った。
「急ぎの知らせ。新しい、買い手。後一時間、来る。定価の倍、払う言った。前に買ってった、上客。これ、手土産」
「神との契約を破る気か!」
 七色チョコレートを取りだそうとしたTalaraの手が止まる。レッドブーツたちが姿勢を正して直立する。
 声を荒げたのは、檻の前にいるフードのうちの一人だった。
「この子らは我らが神より大いなる試練を与えられることが決まっているのだ。ドラクよ、鍵を渡してもらおう。二人だけでいい、連れ帰る」
 大岩の入り口近くで悪党たちの会話を聞いていたダルタニアが、怒りで体を震わせる。
(神?! 試練?)
 聞くだけでも、許しがたい悪の仕業だというのに、こともあろうに神の為とは!
 何の神だかは知らぬが、悪神の類であろう。
(どこで何をしようとしているのか、捕まえて聞きださなければなりません)
「金が先だ」
 ドラクと呼ばれた誘拐犯のリザードマンが、体を檻に向けて左腕を伸ばす。反対側の手には鍵束が握られていた。
 フードの一人が革袋を投げる、と同時にドラクも鍵束を投げた。
 ハヤトが飛び出した。
「うるぁ! ブレイブファング傭兵団のハヤト様が相手になってやんぜ!!」
 疾風のごとき動きでドラクに迫ると、相手が武器を構える暇を与えず、ナイフと剣をクロスに振るって腕と足を切りつける。一撃、二撃、三撃!
「嘘吐きTalara、逃がさない」
 小さなアーティストは、槍の先にエーテルを纏わせると、入口に駆け戻って通せんぼした。
「逃げる、駄目。赤い靴、傷つける」
 同時にアヴェラとベルクも動いた。
 流れるような動きでドラクの脇をすり抜け、フードの男が伸ばす手の先で檻の鍵を奪い取る。
 体を一回転させて、もう一人のフードの男が逆手にした短剣を左の鉤爪で払いのけた。
「抵抗しても無駄」
 被せるように右の鉤爪を男の腕に振り下し、短剣を落とさせる。
 フードの奥で黄色い目が残虐な光を放った。憎悪を爆発させて、アヴェラの左わき腹に猛毒の刃を突き立てる。隠し刃を持っていたのだ。
 不意を突かれたアヴェラは鍵を床に落とした。
「皆、私の影に」
 とっさに鍵を檻の中へ蹴り入れ、子供たちをかばいながら防御姿勢をとった。
 ベルクは体を低くして、ようやく動き出したレッドブーツのゴブリンのふくらはぎを切りつけた。ぎゃっ、と悲鳴をあげたゴブリンには構わず、次の得物へ体を向かせて刃を振るう。まずば逃走防止だ。
 ボブゴブリンがベルクの背骨を叩き折ろうと、バトルハンマーを振り上げる。
「どこ見てやがる、ノロマ」
「ほへ?」
 華麗なステップで近づいたシスルが、細身の剣をひるがえしてボブゴブリンの腕を斬る。重い音をたててバトルハンマーが床に落ちた。
「ピーピー泣くな、鬱陶しい。こっからが本番だ。殺す気はねーけど、殺されるかもって気分を味あわせてやるぜ。覚悟しとけよ」
 脅し文句が効いたのか、途端にレッドブーツたちの動きが早まった。
 すかさずラズリーがゴブリンたちの真ん中に火球を落として炎を広げて、足に軽い火傷をおわせる。
 冒険者たちは次々とレッドブーツたちの手足を攻撃し、無効化していった。
 傷を庇って壁に体を押しつけたアヴェラに、フードの男たちが襲いかかった。
 一人が杖を掲げ、魔法陣を空に展開する。
「さすがに、これはまずいですね」
 ダルタニアは危険を承知で混乱の場へ身を投じた。襲い掛かってくるゴブリンのナイフをかわし、体から輝くエーテルを放出して傷を癒す。
「俺の目の前でやらせてたまるか!」
 アステルは一足飛びに檻の前へ出ると、暗針をタクトのように振るい、杖を掲げたフードの男の体に魔力の集中を乱す光印を刻んだ。
 駆けこんだ勢いで男に体当たりを食らわせて、檻にぶつける。
 子供たちが怯えた声をあげた。
「大丈夫か? 助けに来たからな、もう安心だ!」
 アステルは子供たちに笑いかけつつ、驚いて振り返った短刀の男のみぞおちに肘を打ち込んだ。
 二人の仲間がアステルたちに取り押さえられたのを見て、無傷で残っていたフードが踵を返した。
 気づいたへレムが声をあげる。
「あ、待ちなさい。観念してお縄についてください!」
 へレムは足を切られて動けなくゴブリンに、泣きながら足首を掴まれて動けなくなっていた。とにかく逃走を阻止しなくては。
 えい、と大樹の杖の頭を逃げだしたフードに向けて、魔矢を飛ばす。一瞬、フードが怯んだすきに出入り口付近に巨大なエーテルの光球を発生させた。
 光球の内部に捕らわれたフードが、ガクリと体を揺らして止まった。被っていたフードが後ろへ落ちて長く艶やかな髪が露わになる。女だ。
「逃げろエリス!」
 抑え込まれていたフードの男が、体の下から杖を伸ばす。
 とたん、エリスと呼ばれた女が動きだした。細い通路へ身を滑り込ませると、あっという間に闇に消えた。
「くそ。こいつ、ヒーラーだったのかよ。あ、おい?!」
「あ、駄目!」
 アステルとアヴェラが声をあげたのは同時だった。
 二人が取り押さえていたフードのリザードマンが舌を噛み切ったのだ。
 ダルタニアがすぐにヒールをかけたが、手当てもむなしく二人は絶命した。
「逃がすかよ!」
「待て、貴様!」
 シスルとベルクが、逃げたエリスの後を追う。
 だが、二人はすぐに肩を落として戻ってきた。
「逃げられてしまいましたか」
 ダルタニアは床に転がされたレッドブーツとドラクを見まわす。
「彼らが何か知っているといいのですが」

●
 檻の中の鍵を子供たちに取ってもらい、扉を開けた。冒険者たちは持っていたブランケットを子供たちにかけてやり、お菓子を食べさせて落ち着かせた。
「おい、レッドブーツがなんの為にこんな事してやがったんだ? 目的を話しやがれ!」
 手足を拘束したレッドブーツをハヤトが尋問したが、シノギ――金のためとしか答えない。ドラクに至ってはだんまりを貫いている。
 こうなったら、事の真相はBD(ブラックデス)の追跡調査結果を待つしかなさそうだ。
「ほな、うちはこのアホどもを連れてゴールディに戻るわ。あ、これ、報酬。みんなで分けて」
「おう、ありがたく頂いておくぜ。子供たちは俺たちが責任をもって村へ連れて行く」
 こうして冒険者たちは、悪臭のする湿地を後にした。

マスターコメント

お疲れさまでした。 みなさんのおかげでさらわれたリザードマンの子供たちは無事、村に戻ることができました。 逃げたエリスはどこに消えたのか……BDの幹部、タ・ロウから追跡調査を請け負ったラズリ―が、近々結果を出し、冒険者ギルドに討伐依頼を出すことでしょう。 子供たちを信徒にさらわせた神とは果たして。 それではまた。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準8 / 4〜8人

2021年02月28日 20時18分48秒 公開

成功

相談掲示板

  1. ヘレム・カースワーズ

    子供を誘拐するなんて許せませんね! キャスターのヘレム・カースワーズです。よろしくお願いします!

  2. アステル

    早く助けなきゃな! シーフのアステル、みんなよろしくなー!

  3. Talara

    子は宝、稲穂の苗、大切なもの。 ウォーリア、Talara。よろしく。

  4. アヴェラ・ウッチェロ

    シーフのアヴェラよ。よろしくお願いするわ。 子供達、助けてあげないとね。 大体三つの役割に分かれるイメージかしら ・子供達を救出し、戦闘域から脱出させる ・出入口を塞ぎ、逃げられないようにする ・誘拐犯をメインで倒す もちろん、「子供達を脱出させた後誘拐犯と戦う」「逃げようとした誘拐犯と戦う」というのもあるから、あくまで最初から攻撃メインか、他の役割をこなすかの差ね。

  5. シスル・ノーティラス

    シスル・ノーティラス。シーフだ。 ちなみに今回、8人中5人がシーフだな。すごい偏りだけど、それはそれでやれることがありそうに思ってるぜ。 めちゃくちゃ裏がありそうな依頼だな……リーダー格のリザードマンもだが、正体不明の3人のリザードマンが不気味すぎるぜ。 不殺を頼まれてるのはゴブリンだけだけど、リザードマンも生かして捕らえて裏を吐かせてーな。 役割分担は大まかにはアヴェラの言ってる感じでいいんじゃねーか。 初っ端で状況決まりそうだから、突入の手順はよく考えときてえなー。うまく子供たちと敵を分断できたら。

  6. ダルタニア

    わたくしは、ダルタニア。ヒーラーを努めております。 よろしくお願いします。 ゴールディのゴブリンのマフィア「レッドブーツ」と、リザードマンの誘拐犯のつながりがどういったものかが、気になりますが、多分、ビジネス何じゃないかと思いますが。 只、誘拐して奴隷市場に売ろうとか考えている連中は、止めなくてはいけないですね。

  7. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    よぉ!ゴブリンのシーフ、ブレイブファング傭兵団のハヤト=ヴォルファングだ。 みんなよろしくな!! 「レッドブーツ」と言やぁゴールディでも武闘派で知られるファミリーだな。 ホブゴブリンが多そうだし生け捕りにしなきゃなんねーってのがちと面倒だな。 シスルの言うようにどうせなら全員生け捕りにして企みを洗いざらい吐かせるのがベストだよーな。 誘拐犯以外のフードの三人てのは客かなんかなのかもしれねぇがこいつらも逃がさず捕らえてぇな。

  8. アステル

    んー子供たちを誘導するにも、シーフだと回避になるだろうから身を盾にして、とかは厳しそうだなー。 誰かが気を引いてる隙にハイディングで子どもたちに接近するとか?

  9. ヘレム・カースワーズ

    出入口は二つですか……。 私は細い通路の方の封鎖に回りたいですね。 通路から逃げようとする相手がいればアーケインテンペストと移動デバフで妨害してみるつもりです。 あるいは子供達は事が終わるまで檻の中にいてもらった方が安全ではないでしょうか。 鍵を開けられるのも遠距離攻撃を持っているのもボスのキャスターだけのようですし、そちらさえ押さえれば、他の敵は檻の中には手出しできないはずです。 檻を開けるにはボスから鍵を奪う必要があるけれど、ボスを無力化すれば檻の中の方がむしろ安全、ということですね。どなたか鍵開けスキルを持っているなら鍵を奪わなくても檻を開けれるかも知れませんが。

  10. Talara

    んー、アヴェラの案、出入口、Talara塞ぐ。殺界、エーテルブレード、ある程度、大丈夫。 アジト、薄暗い。忍び足、気配消す、侵入出来る、思う。 ある程度、先駆け侵入。Talara、入り口で声上げ、呼び掛ける。 Talara、ゴブリナ、仲間装う。バレるまで、引き付け。バレる後、通せんぼ。出来る。 檻の横道、子供逃がせる。道の先、未確定、不安要素。

  11. ダルタニア

    今回はシーフメインが多いので、回避力を上げるスキルを入れようかと思ってます。

  12. ベルク・オスマット

    すまん、遅くなった。 シーフのベルクだ。 アヴェラ殿の案に基本賛成だが。 ヘレム殿の言う通り子供は戦闘が終わるまで檻にいてもらうべきだと思う。 PC情報の段階ですら敵と我らは同数なのだ。そこに3人加わるなら多数の子供たちを戦闘中に逃がすのは厳しいと思われる。 ただし人質に取られるのを防ぐために早急に檻の前に守備役を送り込む必要はあるだろうが。

  13. シスル・ノーティラス

    悪い、間開いちまった。 あー、うーん、そうだな。ヘレムの言う通りかも。 子供たちはすぐ逃がすんじゃなくて、敵と分断した上で檻の前に誰か入ったほうが安全そうだ。 反対側の出口はできるだけ早く塞ぎたいよな。どこ繋がってるかわかんねー……んだよな? コレ。 なんかしら逃走手段とか用意してるかもだし。 そしたらあたしは先行して裏口潰しか、子供たちの檻の前に回るか、だな。 Talaraが敵の気を引いてくれるってことだし、その隙にハイディング使えば気づかれないうちに奥まで行ける気がするぜ。

  14. アステル

    オレもハイディングあるからどっちの道は防げるぞ! まずは逃走用?の通路と子どもたちがいる通路をハイディングして塞いだら、みんなで総攻撃ってイメージかな?

  15. アヴェラ・ウッチェロ

    わたしも間が空いてしまったわね。ごめんなさい >子供達を檻から出すか否か キャスターの範囲攻撃に巻き込まれるのが怖い、というのがわたしの意見ね。 なりふり構わなくなった場合と、脅しに使う場合、どちらでも完全にふさぐのが難しいからね。 ヘレムさんのいう「ボスを無力化すれば」という条件が重要ね。 メインで誘拐犯と戦ってくれる人が、そこを優先してくれるなら、檻から出さずでもいいと思うわ。 >個人としての動き で、上記の通り逃がさないパターンであれば、わたしは子供達を吟味している3人を強襲して、そのまま檻の護衛につくわ。 逃がすパターンでも同様に護衛に回るわ。

  16. アステル

    ん、それならオレも3人のうちの一人強襲してみようかな! 檻の護衛が十分そうならレッドブーツの戦闘に向かう形で!足りなそうだったらオレも護衛につくぞ!

  17. シスル・ノーティラス

    今んところの宣言に基づくと、奥の通路封鎖がヘレム。 檻の前の3人を抑えるのがアヴェラ、アステル。 Taralaが敵の釣り出しからの手前側入り口封鎖。って感じかね。 それじゃ、あたしはメインの戦闘、特にキャスター潰しを目指すか。 ハイディングで忍び寄ってから一気に距離を詰めて有利を取りたいぜ。

  18. アステル

    締め切りも近いし、オレは前書いた感じでプレイング送るけど大丈夫かな? シスルの行動に関してもりょーかい!

  19. ハヤト=ガラン=ヴォルファング

    間があいちまってすまねぇな。 んじゃ、俺はボス格のキャスターリザードマンに仕事をさせねぇ様に集中攻撃に回ることにすんぜ!

  20. シスル・ノーティラス

    おっと、確認に来てよかったぜ。 前の発言でキャスターって言ってたのはキャスターリザードマンのつもりだった。 出発までに皆がどこまで調整できるかわかんねーし、ハヤトがそっち行くなら、あたしはレッドブーツのゴブリンの抑えに回る。確かにただもんじゃなさそーだけど、2人も3人もつけるもんでもねーだろ。 ウォーリア相手は面倒くせーけど、ラズリーの助けも借りる感じにしとこーかなと。

  21. ヘレム・カースワーズ

    プレイング提出してきました。 以前述べたように奥の通路からの逃走を妨害するように動いてみます。 具体的には【アーケインテンペスト】で通路を塞ぎ、【スタティックフィールド】での移動デバフを試んでみます。可能ならば通路まで移動してそこから攻撃魔法を使っていきますね。

  22. アステル

    オレもプレイング提出しておいたぞ。 檻の近くにいる奴らを【ハイディング】使ってアヴェラと一緒に強襲、捕縛。檻の護衛で立ち回るけど、問題なさそうだったらでレッドブーツのゴブリンとの戦闘、捕縛していくぞ! 隙があればリザードマンに『魔乱印』でバッドステ付与させようかと思ってる!

  23. Talara

    プレイング、提出、Talaraも。 引き付け役、時間稼ぎ。【演技】付けた。赤靴、履いてない、理由付け、大丈夫。 戦闘、逃走防止、入口通せんぼ、主体。ボス格リザードマン、あまり力なれない、申し訳ない。

  24. ベルク・オスマット

    プレイングは出した。 我はゴブリンの抑えに回る。 とりあえずシーフゴブリンを優先的に潰すようにした。

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0