【CP】二人の少年~ボレアスとソル

棟方ろか

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シナリオID:497

オープニング

「親父、オレ文字が読めるようになりたい」
 意を決した少年の一言は、父親の眉間にしわを一本追加させた。
「バカなこと言うな。いいから手ェ動かせ」
「冗談で言ってるんじゃない。本気だよ親父」
 いつになく低い声で言うものだから、さすがの父親も伸びた顎ひげを撫で付けずにいられない。切断した木材から目を放して、改めて息子の顔を確かめる。木こりという点だけではなく、十を数えたばかりの少年の面差しはやはり幼い。
「テメェなんかが文字読んでどうなるっつうんだ? あ? 学者先生にでもなるつもりか?」
「こんなことばっかじゃなく、文字を読んで街で対等に金勘定して……ちゃんとした商売がしたいんだ」
 いかにも自分の仕事を軽蔑するように、少年は言った。少なくとも父親にはそう聞こえた。
 僅かに震えた少年の主張はしかし、父親の怒鳴り声で跡形もなく塵と化す。
「木材売りはちゃんとしてねェってか!? 木こり(ウチ)の仕事が出来てから言え!」
「ッ、そんなんだからいつまで経っても難民のまま……弱いまんまなんだ!」
 反感は治まるところを知らない。だから走り出してしまった少年の足も止まらなかった。
 父の罵声を背に浴びようとも、人でごった返す難民キャンプの中を駆け抜けていき、そして――。

●依頼
「ソルくんのご友人からお願いされたのです。急いで連れ戻して頂けませんか?」
 テタール伯の末娘リュシエンヌ・テタールは、居合わせた冒険者たちへそう声をかけた。
「先行きのことで親子喧嘩になって飛び出したらしく……以降、ソルくんの行方が知れないのです」
 先行きという響きが冒険者たちも引っ掛かったのか、リュシエンヌへ視線で問う。
「ソルくん、文字を覚えたい、勉強がしたいと近頃ご友人に話していたそうです」
 諸問題の前進や井戸を設けたこともあり、子どもたちへの負担は減ったかに思えた。しかし水汲みなどに時間を取られなくなった分、他で『働き手』として動かざるを得ないのが難民キャンプの現状だ。
「聞いて回ったところ、キャンプ地の外を走る様子を目撃した子がいて……」
 話しながらリュシエンヌの顔色が曇る。目撃者によれば、難民たちが伐採に向かう近場の森へと走っていったらしいのだが――何度か訪れたことのある森だが、深く足を踏み入れてこなかったため、全容は知れない。
 だがエルフとの邂逅により、あの辺りにはエルフたちがいるという情報が難民キャンプにも広がりつつあった。だからこそ、やむなくキャンプ地から伐採へ向かう際も、かれらの勢力圏外での活動を心に留めてきた。
 もしもソルが、そうと分からぬままエルフの住み処へ迷い込んでしまったら、どうなるか。想像は容易い。
「ですのでエルフさんたちを刺激しないよう、ソルくんを探してきてくださいねっ」
 お願いします、とリュシエンヌは冒険者たちへ勢いよく頭を下げた。

●出会い
 ずんずん暮れゆく陽が、得体の知れぬ不安となって景色を鼠色へ変化させる。がむしゃらに走って、気がついたら森の中を彷徨っていた。どうやって此処へ来たのか、ソルにはもうわからない。ただ鳥の囀りに導かれるように、風に押されるように歩を進めるばかりで。
「親父の分からず屋! 頑固親父! オレは、オレは……っ」
 声に出さずにいられなかった。不安も苛立ちも溶け合ってソルの喉を嗄す。
「兄貴の分からず屋! 頭でっかち! 篭りっぱなしの一生なんてクソくらえだッ」
 まるで山びこのように返ってきたのは、自分(ソル)と大して違わない声音。けれど確実にソルのものではなく。
 えっ、と二つの驚きが重なり、間もなく視線も重なった。向かい合った少年二人はぽかんと立ち尽くす。
「ヒューマン……?」
「エルフ……?」
 まったく同じ調子で尋ねあったに近い二人は、同じぐらい目を真ん丸くする。
 だがいつの時代、どんな状況でも空気を読まない存在というものはあるわけで。キィキィと耳障りな鳴き声が一帯に響き渡るや、数匹の猿が太い枝を揺らして木の実の雨を降らせ、別の猿がソルたちへ飛び掛かろうとする。
「「うわぁあああ猿だああぁぁああっ!!?」」
 二人の少年は同じ悲鳴を挙げ、二人並んで逃げ出した。

解説

●成功条件  ソルを無事に連れ帰る(多少の怪我はOK) ●状況  到着が遅れそうな行動を取らない限り、オープニングラストの少し後にソルたちを発見できます。  ただし生い茂った森の中、日暮れ時なのでやや視界不良。 ●敵 いたずら猿×10体  木の実や石を投げつけたり、爪で引っ掻いたり、蹴飛ばしたりしてきます。  冒険者が苦戦する相手ではありませんが、すばしっこいので厄介。  殲滅してもいいですし、追い払うだけでもいいです。 ●NPC ソル  難民キャンプに身を寄せている帝国人の少年。十歳。木こりの息子。戦えません。 ボレアス  エルフの少年。年齢不詳。外見は十代前半。  弓矢を持っていますが、現時点ではソルと二人してパニックに陥り、逃げ回っています。 ※依頼人のリュシエンヌは同行いたしませんので、ご了承くださいませ。

マスターより

 お年頃な少年たちをよろしくお願いいたします。

リプレイ

 逃げ惑う少年二人の視界を、瞬く間に影が過ぎった。
 地上を覆わんばかりの森の天蓋とも、迫る猿の手足とも違う。太い枝を蹴った蒋・璃龍が、地へ降り立つ時に出来た影だ。少年たちと猿の間へ飛び込んだ璃龍は、冷たい風が襟首に入るのも構わず、大振りな仕種で猿の気を引く。
「破ァ!」
 突き出した構えと大音声に、いたずら好きな獣たちがたじろぐ。
 その隙にキオルティスが、渾身の一球を騒がしい群れへ投げつける。彼が投げたのは干し肉だ。乾燥させた物とはいえ、香辛料がたっぷり染み込んだ肉の匂いは、猿たちの鼻をくすぐる。
 肉へ群がる様を遠目に、釣られなかった猿へ迫るのはアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。目映い得物の軌跡が尾のようになびき、森では見られぬ光景に猿が驚いて跳ねた。そんな猿へアルベルトが披露する新たな一驚こそ、修練を積んだ戦士にしか繰り出せない、研ぎ澄まされた一撃。
 目まぐるしい状況の変化に、猿どころか少年たちも事態を把握できなかった。だから紫電一閃で猿を転がしたばかりのアルベルトが、振り向きざまに少年二人を確認する。
「よし、無事だな?」
 暗がりでもわかるアルベルトの面差しを、ソルとボレアスは頼もしげな目線で見上げた。助けに来てくれたのだと身体で感じれば、強張ってばかりの少年たちの顔も僅かに緩む。
 帽子を目深に被り直したイェリナ=アーンスタインが、そこへ駆けつける。
「迎えにきましたわ、ソルくん。……あら、エルフ?」
 ソルへ話しかけながらもボレアスの輪郭を認め、イェリナはこてんと首を傾ぐ。森と共に生きる種族とはいえ、子どもが一人で居て良い時間帯ではない。肩を上下させて上手く話せずにいるボレアスへ、樹上から下りたキオルティスがブランケットを手渡す。
「はい、寒いからとりあえずこれを」
 口端を上げた彼は、再び暗きへ紛れゆく。木々の合間を容易く動く猿を捉えるのも、キオルティスにとって難しくはない。猿を翻弄しに向かう彼に倣い、イェリナも持参した毛布を広げたところで気付く。必死に逃げたためか、ソルもボレアスも擦り傷だらけだ。
「枝や葉で擦ったみたいですわね、手当致しますわ」
「い、いいよこんぐらい……舐めときゃ治るし」
 気恥ずかしさに遠慮するソルだが、イェリナはこうした患者の相手も慣れている。
「いけませんわ。きちんと処置をしないと酷く痛みますもの」
 言いながら癒しの波動を展開すると、ソルだけでなく一部始終を眺めていたボレアスも、わあと声を上げた。すごいすごいと沸き立つ二人を前に、イズレンディル・パラリムは目許を緩める。
「安心してください、皆さん頼もしい冒険者ですから」
「ぼう、けんしゃ?」
 初めて聞いたかのようにボレアスがぱしぱしと瞬く。反対にソルは息を呑んだ。
「もしかしてキャンプから……?」
「はい。ですからこちらへ。安全なところまで案内します」
 イズレンディルはランタンを灯し、二人へ水を差し出しながら、戦場から遠ざかっていく。
 見渡せば、葉末にまで伝う緊迫の色と音がよく分かる。
(森よ、どうか安心を)
 だからイズレンディルは、胸中で祈った。
 一方、目立たぬよう努めていたサマエラ=フォリウムは、少年たちが退避し始めたのを視認して、祭刀を掲げる。猿へ仕掛けるのは魔矢だ。陽射しの過ぎた森に光が走れば、猿たちも困惑せずにいられない。光を避け、または追って、猿たちが散っていく。
 戦いの気がぶつかり合う余韻が、ひりひりと森を伝う。大丈夫、大丈夫ですよ、とイズレンディルが絶えなくソルとボレアスへ声をかけ続けた。響く戦の音を遮るように。

●
 飛び移ろうとした枝を不可視の衝撃で折られ、成す術(すべ)なく地へ落ちた猿へ、璃龍が告げる。
「逃げないなら、やるしかない、です」
 堂々たる素振りに、これまで臆せずにいた猿も流石に後ずさる。
「どうする、です?」
 念を押すような璃龍の一言を最後に、猿は悲鳴に似た鳴き声を轟かせながら森の奥へ消えていく。
 しかし、まだ戦場に残る猿もいた。
(まだ退かぬか、ならば……)
 サマエラが喚んだのは神霊の光。彼女が標的を示すのに沿って、光もうねり、生き物を思わせる動きで猿へ向かう。まもなく光の腕で猿の呼吸を阻めば、降参とばかりに猿は一目散に逃げてしまう。森の更に深みへと。振り返りもせず。
 同じ頃、別の一匹へとアルベルトが狙いを定めていた。
(俺が猿ならどう動くか……そこだ!)
 アルベルトの戦術眼は、茂みに潜って進む猿を捉える。
 風が起こすものとは違う葉の揺らめき目掛けて、鋭い一撃を見舞った。
「見逃すと思ったか? 甘いぜ」
 ふ、と吐息で笑う間に、茂みで様子を窺っていた猿は、彼の目の届かぬ場所まで逃げおおせた。
 幹を蹴ったキオルティスの落とした影は、別の猿を驚かせる。ヒトは地べたを走り回る生き物という認識が、猿にはあった。だが此度の出会いで思い知る――樹上を跳び、空を味方につけて舞うヒトもあるのだと。
 思うや猿とキオルティスの目が合う。彩られた眦を和らげ、彼は猿の居た枝を切り落とす。おかげで猿は総毛立ち、怯えた金切り声を響かせて潰走した。キオルティスが逃走する余地を残しておいた、反対側へ。
「威しが効いたね」
 逆上を防ぐべく、猿は殺さずに追い払う――冒険者たちの目的が見事に果たし終えた瞬間だった。

●
「イタズラ猿軍団を、あんなさくっと追い払えるのか!」
 まじまじと冒険者を見つめるボレアスの瞳に、好奇心が休まず燈る。
「すごいなヒューマンって! いやボウケンシャーってやつがすごいのか!?」
 故郷で見ることのない姿や服装、所持品もボレアスの興味を沸かせる一方だ。興奮する彼にイズレンディルたちが対応している間、沈んで黙していたソルへと、サマエラが膝を折って目線を揃える。難民キャンプから冒険者が助けに来てくれた意味を、ソルは先ほどからじっと噛み締めてばかりだ。
「これを使って、汚れを洗い流すといい」
 サマエラは土や草まみれな彼の頬や手足を目で示し、水袋を差し出す。
「汚れたまま戻れば、友人が心配する」
 きっと、友とはそういうものなのだろうと、今まで目にしてきた光景を頼りにサマエラが告げる。うん、と消え入りそうな返事が聞こえて、そろりとソルの手は水袋を握った。まだ、ぎこちなく指を震わせながら。
 付着した汚れを水で流していく少年へ、璃龍が話しかける。
「木材売りの父親の仕事を、商売で手伝う、助けたいから、文字が読みたい、です?」
 確認してみれば、ソルは迷わず首を縦に振った。
「う、ん……そう。文字が書けて計算もできれば、商売相手に強く交渉だってできるかなって」
 ソルの口振りに、冒険者たちは顔を見合わせる。
 もしかしたら市場の相場よりも遥かに低い値で、彼らの商材が売却されているのかもしれない。商売相手から下に見られていると、ソルが感じていたのかもしれない。もちろん彼が勘違いしている可能性もあるのだが、いずれにせよ今大事なのは。
「なら、もう一度、しっかり伝える大事、です」
 璃龍に促されて、ソルの眉尻が下がる。どこか自信なさそうな様子だ。
 ソルくん、と優しくイェリナが呼びかける。
「あなたさえよければ、私の診療所のお手伝いをするのはどうかしら」
「診療所?」
 青紫色の双眸を細めてイェリナが提案すれば、ソルがきょとんとする。
「働きながら読み書き計算を学べる環境ですわ。多くの患者さんと接することも出来ますし」
 途端にソルの頬は希望で上気した。けれどすぐに現実を思い起こし、したいけどムリだ、と俯く。
「オレ、難民キャンプからまだ離れられない。あそこにはオレよりチビなのもいっぱいいるし」
 難民キャンプの現状を、ソルも理解している。この冬を無事に越すため、皆が懸命に働いていることも。もどかしさで喉が渇ききったソルに気付き、ほれ、とアルベルトが水袋を差し出した。
「ゆっくり飲んでから喋るのがいいぜ。むせると止まらなくなるからな」
 アルベルトからの助言に、ソルは小さく頷いて水袋を呷る。
(教育を受ける機会、か)
 難民に限らず、教育の場を提供するのは大事だと、アルベルトは顎を撫でて唸る。環境と人材が整えば、ソルに限らず勉強を望む子らの礎を築けるだろう。
(どうにか上手い方法を編み出して、行動に移せれば良いけどな)
 難民キャンプの現状をアルベルトも知っているがゆえに、悩みの種は尽きそうにない。
 やがてソルの喉が潤うのを待っていたイェリナが、にっこりと微笑む。
「もちろんすぐにとは言いませんわ。お父様とお話して、いつかお手伝いにいらっしゃいな」
 いつか――未来を連想させる言葉は、少年の眼(まなこ)を大きく開かせる。
 こくんと肯った璃龍も、後押しするように言葉を繋げて。
「話、父親、聞くよう、ワタシも言う、ます」
「ああ。俺が基本的な勉強を教えてもいいぜ、って話すのも有りかもしれないな」
 心強い味方を得て――何よりも、自分の気持ちを理解してくれる存在がいると分かって、ソルは込み上げる情が溢れてしまわぬよう、飲み込むのに必死だった。ありがとう、と囁く少年の声は、嗚咽に似た調子で冒険者たちの耳朶へ届く。
「頑張ってみませんか? お父さんの説得も出来ないと、商談なんてもっと出来ませんから」
 イズレンディルが顔を出したことで、ソルと対話していた冒険者たちが振り向く。
 そしてサマエラも彼の言葉に続ける。
「放り投げては、進まない。もう一度、話し合いから始めるべき、だろうか」
「はい。話し合いからですね。ソルさんも、ボレアスさんも」
 微笑を湛えたイズレンディルが応じると、彼の後ろでボレアスが複雑そうに唇を尖らせた。
 まもなく、ボレアスの事情を聞いてきたイズレンディルから、仲間たちへ詳細が伝わる。閉鎖的な大人ばかりの集落で育ったボレアスは、昔から何度も外へ行きたがっていたという。その度にニンゲンは恐ろしいものだ、森を焼き大自然の恵みを荒らす不届き者だと再三聞かされたが――ボレアスには、それが事実なのか判らない。
 だから自分の目で確かめたかったらしい。兄と喧嘩しても尚。
「そう話したらイズ兄がさ、兄貴もおれを心配してアレコレ言ったはずだって」
 イズ兄と呼ばれたイズレンディルへ、ボレアスが一瞥する。
「森を出るとなると、こういう問題はつきものですから」
 イズレンディルが静かに紡ぐ。親に反対された経緯もあって、彼はボレアスに共感を示しやすい立場にあった。経験談ゆえに、ボレアスやその兄の心境も理解できる。
「外の世界、今も気になり、ます?」
 璃龍からのまっすぐな言葉と眼差しは、ボレアスの身体を跳ねさせた。
「アンタらと会って、もっともっと気になった。やっぱ外の世界が見たいよ、おれ」
「……偉いなぁ、二人共」
 口を出さずにいたキオルティスが、ぽそりと感嘆を零す。
「俺がキミたちくらいの頃なんて、何も考えずに楽器を弾いてばかりだったよ」
 将来のこと、自分の在り方などに考えが至った少年たちを褒めてみれば、明らかに少年二人の双眸で輝きがちらつく。
「お陰で今が有るのかもしれないけれど、ね」
 肩を竦めたキオルティスに続けて、話に耳を傾け続けていたサマエラが口を開く。
「……そうだな。勉強は只ではできず、しかし相応の価値がある。そして」
 ソルからボレアスへと、彼女は目線を移して。
「外界は危険も数多く、しかし知見を得られる」
「だよな!」
 同意を得られたと喜んだのか、ボレアスが鼻息荒く答える。子どもらしい反応を前にしても、サマエラの顔色は落ち着いたままだ。元から有る選択肢に従うのも、選択肢を広げるために動くのも、間違いではないと彼女は思う。
 だが、好奇心と勢いだけで生きていける世でないことも、よく知っている。
「何れにせよ、身一つでどうにかなる話ではあるまい」
 連ねたサマエラの言葉で、少年二人の肩はすとんと落ちる。
「そうですね、まずは経験を積むのが大切です」
 イズレンディルはボレアスへ改めてそう話す。するとボレアスは、使われぬままだった弓を握りしめて。
「……強くなったら、兄貴も認めてくれるかな」
「ええ、きっと。心配されないぐらいに強くなってあげましょう」
 間髪入れずにイズレンディルが応えたのもあり、ボレアスは鼻を膨らませて唇を引き結んだ。
「もし叶うなら、だが……」
 揺れ動く少年たちの言動を前に、ふとサマエラが呟く。話し合おうとする二人が――エルフの子たるボレアスと、ヒトの子たるソルが、敷かれていた道を突き進むのではなく、変革を望むのであれば。もしかしたら。
「互いの説得を手伝うというのも、何か切っ掛けになるかもしれないな……」
 サマエラの話を耳にして、なるほど、とアルベルトが唸る。
「似た立場だからこそ、できるかもしれないな」
「まずはエルフ側の理解が要るね。ヒューマン嫌いさんが多いなら、迂闊に近づくと危ないよ」
 交流なき集落を懸念したキオルティスに、そーだよ、とボレアスが眉間にしわを作る。
「私になら可能かもしれませんね」
 住み処こそ違えど、同じエルフであるイズレンディルが片手をひらりと振った。
 するとボレアスは頭を右へ左へ傾けて。
「他の集落とも交流ないからなあ、どうだろ」
「難民キャンプとのいざこざ、解決できたら、交流しやすい思う、ます」
 璃龍の話に、ボレアスが唇を震わせる。
「なあ、そのナンミンキャンプって何? 森の近くにテント張ってるのか?」
 どうやら彼は、集落と難民たちの間に生じた軋轢を知らないらしい。冒険者たちが難民キャンプの成り立ちを簡単に説明するも、ボレアスの反応は「ふーん?」と微妙なものだ。
 話したいことは山ほどあれど時間も時間。性急に進めるのは危ぶまれるため、璃龍は顎へ手を添えて。
「また会う約束、できる、ますか?」
 次手への布石を投じた璃龍に、ボレアスは苦そうに口をもごもごさせる。
「約束はできない、と思う。でもおれ、アンタたちにまた会いたい!」
 言い終えると同時、彼は森の出口とは違う方角を振り向く。
 そして夜気に沈む森で冒険者の傍を離れずにいるソルを瞥見して。
「がんばれよ、おれも兄貴とがんばって話すから!」
「わ、わかった」
 互いに拳を掲げあった直後、ボレアスは森の奥に塗りたくられた闇へと飛び込んでいった。終わらない木々のお喋りは、ボレアスの足音すら、冒険者たちに見送らせてくれない。
「さあ、皆さんで帰れば夜の森も怖くありませんわね」
 ぱん、と手を叩いてイェリナが仲間たちを促し、皆一様に歩き出す。
「夜は物語の宝庫だからね、歌いながら帰ろう」
 そう言ってキオルティスが口ずさむのは、未開の森で出会った若者たちの冒険譚。
 まるでこれからの冒険者たちを、二人の少年の道行きを語るかのように、森の入口までキオルティスの歌声が流れていった。

マスターコメント

 お疲れ様でした! 少年二人、無事帰還が叶いました。  皆様からソルやボレアスへのお言葉など、今後に繋がりそうなものばかりで棟方は奮えております。彼らの明日が、今日より一歩でも先へ進みますように。  ご参加いただき、誠にありがとうございました!  またご縁がつながりましたら、よろしくお願いいたします。
ショートシナリオ

ショートシナリオ普通 報酬:標準6 / 4〜6人

2021年02月03日 01時32分24秒 公開

大成功

相談掲示板

  1. No.1

    どきどき…依頼にはまだ慣れていないので、先輩の皆様に教導していただきたいですわね。 イェリナ=アーンスタイン、ヒーラーですわ。駆け出しなので使えるスキルは多くありませんが…できる限りお役に立てるよう、頑張りますわね。

  2. アルベルト・V・シュタールシュヴェーアト

    ウォーリアのアルベルト=V=シュタールシュヴェーアトだ。 よろしくな。 さっさと猿を追い払ってソル君を助けようぜ。

  3. イズレンディル・パラリム

    エルフのキャスター、イズレンディル・パラリムと申します。 宜しくお願い致します。 状況としては「いたずら猿への対処」「ソルさんボレアスさんを保護しパニックを落ち着かせること」の2点が必要になる状況でしょうか。 アルベルトさんの仰る通り手早く猿を追い払って助けたいですね。 ひとまず私個人の希望としてはソルさんボレアスさんの保護に周りたいと思っております。エルフとしての立場も活かせるかと思いまして。 もしも希望が偏るようならご調整させて下さい。 イェリナさん、宜しくお願い致します。ご不明点等あれば何なりご質問ください。 とはいえ私もまだ冒険者となって半年足らずではありますから、様々学ばせて下さい。

  4. キオルティス

    シーフのキオルティス。キオでもルティスでもお好きなように。 今回は宜しくね! さて…と、状況はイズレンディルが纏めてくれた感じで良いと思う。 更に言うならパニックを落ち着かせた事後処理も含めるかどうか…かな。 猿は下手に手を出すよりも追っ払った方が良い気もするね。 1体手を下すと逆上して全部を相手取らなきゃいけなくなりそうな気もする。 勿論、全部を討伐する道もあるけれど。 ソルさんとボレアスさんについては…早期発見/避難をさせるなら 俺も手を挙げようかな、と。 猿の注意を惹けるならこれに限ったことじゃないけどね。 あとは…時間帯的に暗視を持って行こうかな、と言った所。 >イェリナさん 俺も出来る限りのことは応えたいと思うから、何か有ったら手伝わせてね。 レディの役に立てるなら喜んで手伝うよ(微笑

  5. キオルティス

    連投ゴメン。イズレンディルさんに敬称が抜けてた、ね…失礼。

  6. No.7

    なるほどなるほど…お三方、ご丁寧にありがとうございますわ。そうですわね…ソルさんとボレアスさん、お二人がお怪我をするようなことがあれば私をお使いくださいませ。 暗所での行動が出来る方が多くで頼もしい限りですわ。私は…そうですわね、こちらから見えていてもお二人が見えるとは限りませんから、ランタンをつけて近づこうと思います。小さな火でもあると頼もしいものですから。

  7. 蒋・璃龍

    ウォーリアの蒋・璃龍、です。よろしくお願いする、ます。 動きは、イズレンディルさんのまとめた通りで、良いと思う、ます ソルさん、ボレアスさんを無事に、保護するのに、猿は追い払うのがいいと思う、ます あんまり、喋るのが得意ではないので、猿の追い払いをやるつもり、です

  8. サマエラ=フォリウム

    遅参、済まない……ゴブリン、ヒーラー。サマエラだ。 イェリナは、これが初依頼となるのか。 では、良き結果となるように、尚のこと尽力するとしよう。皆、よろしく頼む。 猿は、殲滅まで行くと、些か後味悪そうなのもあるか。 追い払うまでで、私も賛成だ。 捕捉するにあたり、視界以外も活用できればと思うので、 ひとまず、超聴覚も所持してみる。 ソルとボレアスに、ついては…… ゴブリンの血も有り、私はパニック下で会って対応するには、向かないだろうか。 良ければ、猿の側へ注力する予定としよう。 もし緊急の保護でも必要ならば、光縛封で囲うくらいならば、できそうだ。

  9. イズレンディル・パラリム

    皆さんご確認ありがとうございます。 灯りがある方がソルさんとボレアスさんも安心できますよね。私もランタンは持参しておきます。 灯り以外ではサーマルアイでの視認も行う予定です。 >ソルとボレアス まずは早期発見と避難で私も良いと思います。 事後処理も可能な限り行いたいですね。 エルフの森の状況のご説明もですが、事情を改めて伺った上でお二人の関係や家の事情も良い形になるようにしたいですね。ソルさんには家業も勉学も両方大事にして頂きたいですし、ボレアスさんの事情は…私も似たようなことをしましたのでまずは共感から入って話を伺いたいと思います。 >いたずら猿 対応は追い払うまで、ですね。承知いたしました。 私は直接の対処は皆さんにお任せしてソルさんとボレアスさんの避難と護衛に努めたいと思います。

  10. No.11

    はい、初依頼なので緊張しますわ… でも皆様となら上手くやれそうです。 まとめてくださってありがとうございます。お猿さんはお任せしますが、お怪我をなさったらお申し付けくださいね。 ええ、二人分のランタンがあれば、投石で割れても心配ありませんわね。備えあれば憂いなし…ああ、そうですわ、毛布を持っていきましょう。冷えるでしょうから。 お二人の今後については私も気がかりですわ…ボレアスさんは同族のイズレンディルさんがきっとお話ししやすいと思うので、私はソルさんのケアに努めますわ。私の診療所は難民の方も多くいらっしゃるので、何かお役に立てるかも… 私の方からはこのくらいでしょうか…皆様、よろしくお願いしますね。

  11. イズレンディル・パラリム

    わかります、始めては緊張しますよね。 大丈夫そうで良かったです。私も皆さん頼もしい方ばかりで安心しています。 わかりました、それでは私はボレアスさんを中心に対応致しますね。 それにしてもソルさんの文字を覚えたいという動機は素晴らしいものですね。個人的には応援したいところです。お父さんも木こりを馬鹿にされたと感じたことに怒っているだけのようですし、もう一度ちゃんと相談してみるようには促してはみたいですね……。 お父さんの説得も出来ないと商談なんてもっと出来ない、と話せば頑張って頂けるでしょうか。

  12. キオルティス

    それじゃあ、ソルさんとボレアスさんの発見/避難はイズレンディルさんと イェリナさんが担当する感じ、かな? もし至急での現場からの避難が必要であれば手を貸すので言ってやってね。 これでもシーフなんで、機動力はあると思う。 猿に当たる場合は逆に機動力を生かして、ソルさんやボレアスさんとは 反対方向にしか逃げ場がないよう立ち回るつもりだよ。 毛布は良いアイデアだね!この時期だし、ホッと出来るかも。 あとは落ち着ける環境にするために、暖かい飲み物でも有ればいいかな?

  13. イズレンディル・パラリム

    そうですね、そのような担当になると思います。 避難の支援もありがとうございます。もしも必要そうな場合はキオルティスさんに避難の支援を依頼するようプレイングにも記載させて頂きますね。 もう今夜の出発ですね。改めてとなりますが、よろしくお願い致します!

  14. 蒋・璃龍

    猿の追い払いについては、私のほうでも書いた、です 一緒に追い払いをする人は、よろしくお願いする、ます ソルとボレアスの事情の確認と、アドバイスについても、私のほうでも少し書いた、です ソルのほうは、たぶん、父親を商売で助けたかったんじゃないかと、それをちゃんと父親に聞いてもらえるように動く、ます ボレアスのほうは、PL情報になってしまうのと、事情がはっきりと分かってない、ですが、多分、外の世界を見たいとかで兄弟喧嘩になったんじゃないかと思う、ので、ちょっとだけ、今後の交流に繋げられたら、みたいなことを書いた感じ、です

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0