【初夢】最果ての地、願いが叶う神殿
青葉桂都
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シナリオID:451
オープニング
●願いが叶う神殿
北の果て、一年を通じて雪が降り積もる極寒の地に、雲まで届くほどの高さを持つ山があった――。
山の上には、願いが叶う神殿があるという。
神殿には門があるが、扉もなければ塀もないそうだ。緋色をした2本の柱が並んでいるだけ。上部には、柱をつなぐように2本の板が渡され、飾りがついているらしい。
鳥居と呼ばれる門であることを知る者は、おそらく誰もいないだろう。
木すらも生えていない高い山の上に建っているにもかかわらず、神殿は木でできているそうだ。
荘厳な神殿の戸口の前には、木箱が置いてあり、鈴が吊り下げられている。
箱に神への供物を捧げ、鈴を鳴らしてそのことを神に知らせるのだ。
――もっとも、その神が何者なのかは誰も知らないのだが。
神威が一番高まる新年の朝、朝日の中で供物を捧げて願いを伝えたなら、いかなる願いもかなうという。
ただし……神殿に、たどり着くことができれば。
そもそも雲まで届く雪山を登ること自体が容易ではない。
さらに、問題はもう1つある。
獣すら棲まない山の上には、神の従者が潜んでいるというのだ。従者は特定の形を持たず、神殿を目指す者にとって親しい人物や、恐れている物に姿を変える。
襲いかかってくる従者を撃退せねば、神殿にはたどり着けないのだ。
それでも、冒険者たちは神殿を目指す。かなえたい願いがある限り……。
北の果て、一年を通じて雪が降り積もる極寒の地に、雲まで届くほどの高さを持つ山があった――。
山の上には、願いが叶う神殿があるという。
神殿には門があるが、扉もなければ塀もないそうだ。緋色をした2本の柱が並んでいるだけ。上部には、柱をつなぐように2本の板が渡され、飾りがついているらしい。
鳥居と呼ばれる門であることを知る者は、おそらく誰もいないだろう。
木すらも生えていない高い山の上に建っているにもかかわらず、神殿は木でできているそうだ。
荘厳な神殿の戸口の前には、木箱が置いてあり、鈴が吊り下げられている。
箱に神への供物を捧げ、鈴を鳴らしてそのことを神に知らせるのだ。
――もっとも、その神が何者なのかは誰も知らないのだが。
神威が一番高まる新年の朝、朝日の中で供物を捧げて願いを伝えたなら、いかなる願いもかなうという。
ただし……神殿に、たどり着くことができれば。
そもそも雲まで届く雪山を登ること自体が容易ではない。
さらに、問題はもう1つある。
獣すら棲まない山の上には、神の従者が潜んでいるというのだ。従者は特定の形を持たず、神殿を目指す者にとって親しい人物や、恐れている物に姿を変える。
襲いかかってくる従者を撃退せねば、神殿にはたどり着けないのだ。
それでも、冒険者たちは神殿を目指す。かなえたい願いがある限り……。
解説
※このシナリオは「夢オチシナリオ」です。シナリオ内容は架空のものであり、アニエピカの世界観に一切影響を与えません。報酬は冒険者ギルドからのお年玉です。
●願いが叶う神殿
新年の朝、礼拝に行くと本当に願いが叶う神殿です。外観は日本の神社に似ています。参加された方の夢の中にしか存在しません。(神殿がある山そのものが夢の中だけの存在と考えてください)
もちろん願いが叶うのは夢の中限定となります。ですので、すぐに叶ったことがわかる願いでないと、リプレイ中で描写できない可能性があります。
神殿は高い山の上にあります。プレイングにもよりますが、リプレイは前半が山登りで後半が願いを叶える展開になる予定です。
●神の従者
神殿に近づくものを獲物にする怪物です。決まった形を持たず、見た者にとって親しい者か、恐れている物の姿になって襲ってきます。
どんな姿がいいか希望があれば、突破方法と共にプレイングにお書きくださいませ。書いていなければ、マスターがなにに襲われるかを決めます。
マスターより
あけましておめでとうございます、青葉桂都(あおば・けいと)です。
叶えたい願いはありますか? 良い願いも悪い願いも、夢の中でなら叶います。初夢の中で、願いをかなえてみませんか。
(ただし、公序良俗に反する願いだと、いくらかボカして書くことになるかもしれないのでご了承ください)
もしもご参加いただけましたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
リプレイ
●果てなき山嶺へ
消えることがない高山の雪に、足跡が刻まれている。
雪山へと真っ先に足を踏み入れたのはアルマン・アルスターだった。
「それにしても……雪山ってキツい! 思ってた以上に、雪山ってキツい!!!」
自分に雪山なんて登れるはずがない。
だから、彼は誰よりも早く……普通の人(女性)の3倍かかることを見越して登りはじめたのだ。
「このヘロヘロしたままの俺が、神の従者の隙をついてこの場を突破する……なんてことができるだろうか、いやできない」
アルマンはまた自信満々に自信のなさを吐露する。
「やっぱり戦わないといけないと思う。勝てる気もしないけども!?」
覚悟を決めて戦おうと――そう、決意したとき、『神の従者』が現れた。
「あっ、そうくる? そう来るうううう!?」
子供のころから苦手だった姉の姿を目にして、アルマンは情けない声を上げていた。
虐められて泣かされた記憶は数知れず。口で勝てる気だってもちろんしない。
「アルマン! さっさとパン買ってきなさいよ!」
無視して進む彼に姉が様々な――ネガティブな言葉を浴びせてくる。
「何か言われても、あー聞こえない聞こえない!!」
削られ続ける精神力を必死で呼び起こしながらアルマンは進んでいった。
他の授恵者たちも厳しい雪嶺へと挑んでいる。
「さ、寒いよー。なんとか我慢できそうな程度ではあるけど……。この夢、叶える為、叶えて貰う為、頑張るのよアステルっ!!」
アステルは、寒波を身に浴びて震えながら歩いていく。
「やはり雪山は甘い場所ではありませんね。以前別の依頼で北の難所に行った時もずいぶん大変でしたし……」
後ろから近付いてきたのはヴィルヘルミナ。
しっかりと備えをしている彼女も、ずいぶん寒そうだ。
獣道すら見えない雪山を、進んでいく。
「殺気……っ!?」
先に、近づく存在に気づいたのはアステルだ。
振り向いた彼女が身を震わせる。
「お、お兄ちゃん……?」
年の離れた兄はアステルにとって唯一の肉親で、大好きな人。
さらに、ヴィルヘルミナが振り向いたとき、もう1人の人物が増えていた。
「長老様がどうしてここに……と、考えても解決はしないのでしょうね」
故郷の部族の長老がたたずんでいる。
散々しごかれた記憶がよみがえる。枯れ木のような体なのに、誰よりも強かった。
「無理! お兄ちゃんと戦うなんてできないよ! 逃げるが勝ちっー!!!!」
駆けだしたアステルを、兄が追っていく。
ヴィルヘルミナは追うわけにはいかない……長老から目が離せない。
「今なら勝てるのでしょうか。手を抜いてどうにかなる訳でもありませんし。全力を振り絞り無心の果てならもしくは……?」
口の中で呟きながら、ヴィルヘルミナは意識を集中して武器を構える。
「きゃあー!!!! ぞ、ゾンビ! ゾンビだ!! こっち来ないでっーー!!」
アステルが逃げていった方向から、悲鳴が聞こえていた。
●変幻自在の『神の従者』
授恵者たちはそれぞれ雪山を登っていく。どこかで必ず神の従者が姿を現す。
従者は不定形。人の姿を取るだけとは限らない。
テテリカと対峙した敵は魔獣の姿をしていた。
「俺がもっとも恐れていて――ある意味、慣れ親しんでいる相手でもあるな」
つがえた矢を敵に向け、テテリカは静かに呟いた。
サウゼル大樹海に生きる野生の魔獣。
雪の大地へどっしりと構えた四足は、いつでも地を蹴って彼に飛びかかることができる。
弓で牽制しているから、まだ魔獣は動かない。
エーテル光を矢に集中させ、弦から指を離す。
「追い払えるならいいが……そうでなければ倒すしかないか」
次の矢を取り出しながら呟く。戦いが始まろうとしていた。
人に応じて姿を変える従者――故に、奇妙な姿を取ることもある。
「うっ、うう……ぐふっ!」
のたうち回り、激しくせき込んでいるのはティラミス・ノーレッジ。硬いパンをのどにつまらせて、苦しんでいた。
「貴方、大丈夫? なにがあったの?」
ロゼットに背を叩かれて、ティラミスはのどに詰まっていたものを吐き出した。
「あのパンだ……くそっ、口の中に無理やり飛び込んできてのどに詰まってきやがる。……ん、増えてる?」
指した先にあったのは、パンだけではなかった。
「……そう。現れたのね」
ロゼットが表情をこわばらせる。
「なんて恐ろしい姿……見たことないのに美味しいと一目で分かるわ」
手足が生えた、おそらく食べ物であろう存在が近づいてくる。
『蕎麦』『餅』『伊勢海老』『伊達巻』『栗金団』『焼き芋』に『蜜柑』……。
麦や焼き芋から立ちのぼる湯気が、餅の奇麗な焼き色が、御節料理の鮮やかなコントラストが――ロゼットへと迫ってくる。
硬いパンも再びティラミスへ飛びかかってきた。
「くそっ、こんなもんは、しっかりと噛んで水と一緒に飲み込めばいいんだ!」
彼は水筒を手に身構える。
「こんな誘惑になんて……私は絶対に屈したりはしない!」
シスターも戦鎚を構えて先祖代々伝わる万能言語を食べ物へ叩き込んだ。
雪を踏みしめ、アルフレッド・ラ・ギは空を見上げる。
「私が願っていることは、本当に願っていることだろうか」
それは答えの出ない問い。
幼馴染の彼女がいた日々――自分は悪態をつきながらも従者として彼女に尽くし――彼女は意地の悪い笑みを浮かべてアルフレッドをからかってくる。
二度とは戻らない日々を、本当に願っているのか。
冷たい風が吹き、少し酒を口に含む。
落ち着いたところで、道中出会った少女へ視線を向けた。
「体力は大丈夫か? つらいなら杖を貸そう。いつでも言いたまえ」
「……大丈夫」
琥珀色をした瞳で青年を見上げ、コハクは首を横に振った。
「そうか。無理はしないでくれたまえよ」
補助しながら、アルフレッドは雪の平地を歩いていく。
やがて授恵者たちは彼方に神殿を目にする。
そして、彼らもまた出会った。
「ああ、私にとっての親しい者、恐ろしい者、どちらも君だろうと思っていたよ」
今はいない『彼女』の姿を見て、アルフレッドは言う。
一方で、コハクと対峙しているのは今より少し成長した姿の彼女だ。長い間闘争に明け暮れたであろう姿……。
(あれも、私が望む姿の1つなのだろう。だが……)
絶望をたたえ、幽鬼のようにたたずむ姿は、もっとも恐れる自分の未来。
「お前は此処で私が殺すよ。力に溺れた哀れな【私】を、救済しよう」
滑らかな動きで、少女は自分へと接近する――。
その横でアルフレッドは『彼女』へと語りかける。
「君と私が逢った時、どうなるか、ずっと考えていた。二度と会えない君に逢ってしまうことがずっと恐ろしかった」
杖を握る。
「それは、私が君を過去にしてしまった事を肯定してしまうことだから。君が、私の後悔だと認めてしまうことだから」
祈るように静かに、厳かに。
ほとんど同時、コハクの姿をした敵の首が舞い上がり、落ちてきた雷が『彼女』を焼いた。
――アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、1人雪山を登っていた。
(ああ、ここはどこなのだろう。どうして登っているのだろう)
答えはわからない。けれど登らなければ死んでしまう予感があった。
形の見えないなにかが心へ忍び込んできた気がする。
咳き込む。
空気が薄いからか。考えが頭に浮かんだのは一瞬で、すぐ思考に靄がかかる。頭が痛い。耳も痛い。
(声が聞こえる)
『――お前のせいだ』
『お前のせいで死んだ。父さまも、母さまも、兄さまも。お前を助ける為に、お前を逃がす為に、お前を庇って皆死んだ』
死ななくていいはずの人がたくさん死んだ。アウレーリアのせいで。
『家族を、メイド達を、村人を見捨てて一人で逃げ出した薄情者、卑怯者。皆焼けたぞ。煙に巻かれて、炎に焙られて、恨んで苦しんで黒焦げになったぞ』
『何故生きている、のうのうと恥ずかしげもなく生きている』
気づくと、目の前には断崖があった。
『お前さえいなければ生きられた、お前だけが死んでいれば良かったのに』
声が背を押してくる。
人でも、魔獣でも、食べ物でも……形あるものならば、避けられるし、戦える。だが、心に忍び込んだ姿なき『従者』にはいかにして対抗すればいいのだろう?
「――お前(わたし)は、あの時死ぬべきだったんだ!」
叫んだのは、いったい誰だったのか。
●願いが叶う神殿
「や、やっとたどり着いた……」
アルマンは、息も絶え絶えになりながら神殿にたどり着いた。
供物を捧げる箱の前にどうにか近づく。
「今年こそ! 今年こそ、運命の人との素敵な出会いを……!」
そして、残った力のすべてを振り絞って、彼は願いを叫ぶ。
力尽きたアルマンがゆっくりと倒れこもうとする……。
「危ない!」
――その時、後方から女性の声が聞こえてきた。願いが叶ったためか、単なる偶然かはわからない。
ただ、赤毛の少女の姿は彼の視界に残る。
アステルは力尽きて倒れたアルマンを、神殿の前に寝かせた。
「無茶する人もいるのね。人のことは言えないけど」
ボロボロになったまま、アステルは木造の神殿を見上げる。
供物を捧げ、鈴を鳴らす。
「少しお洒落して、大好きなお兄ちゃんと釣り合う様にして、一緒に歩く!」
それから彼女は小さな声で呟く。
「……でも、居る訳ないけど……お兄ちゃん位素敵な、か、彼氏さんとか欲しい……な……」
その瞬間――アステルの姿が、変化した。薄汚れた姿がお洒落な服装へと変わる。
かたわらには、優しく微笑む1人の男性が彼女に手を差し伸べてくる。
(お兄ちゃん? あれ、違う人?)
わからない。わからないけれど、彼女は差し出された手を握った。
歩き出すと、出店の列がその先に現れる。
「さあ、行こうか」
「うん!」
手を握ると、頬が少し熱くなる。2人はそのままゆっくりと歩いていく。
2人を見送り、次いでヴィルヘルミナが神殿の前に立った。
「伝説と言われる希少な鉱物が欲しいです。こればかりは、冒険者として活動していても手に入るものではありませんから」
鈴を鳴らす。一塊もある、輝く鉱石が彼女の前に現れる。
「おお……素晴らしいですね。これを十全に扱いきれれば私の目標にも大きく近づくのでしょう」
素材が良ければ出来が良くなるというものではないが、ヴィルヘルミナの想像力は広がっていく。
これを使えばどんな品が作れるだろう。
授恵者たちは次々に神殿へとたどり着いて、己が望みを神へと告げる。名も知らぬ神はその願いを次々に叶えていく。
「やっと……たどり、着いたわ……」
満身創痍でたどり着いたロゼットが願うのは、彼女が恐れているものと表裏一体だった。
「最果ての神よ……どうかちょっと不摂生してしまった私をお救いください……。具体的には……」
具体的に減らして欲しい体重を告げる声がずいぶん小さいのは、恥じらいのためだろう。
鈴が鳴り、輝きの中から数字のついた四角い奇妙な道具が現れる。
それが、体の重さを量る秤だと、なぜか理解できた。恐る恐る足を乗せる。
「減ってる……!」
歓喜の表情を浮かべる彼女は、それが異教の神の加護だと信じていた。単に山を登って戦闘をしたせいで減ったのではないかという神の言葉は、届かなかった。
悠々自適のモフモフ生活を堪能しているのはテテリカだ。
ふわふわもこもこの毛皮をまとった巨大な動物たちの体に彼は寝転がっている。
「まさに夢のような状況だな」
表情はあまり変わらないが、しかしテテリカの声を聞けば満足げだとわかるだろう。
オカメインコが木の実のパンと粟入りのサラダを用意してくれる。
愛らしい猫と犬がケンカをしているのは、どちらがテテリカの遊び相手になるかを争っているからだ。
「おいおい、ケガはしないようにしろよ?」
コーヒーに手を伸ばそうとしたテテリカは、運んできたのがジャコウネコだと気づいたのでやめておいた。
授恵者たちが願いを叶える様子を、ティラミスは見ていた。
「やっぱり、平和が一番だな。とはいえ生きてる以上争いは無くならないだろうし、つまらない」
少し考えてから、彼は鈴を鳴らす。
「……少し早い春の陽気でも願うかな」
雪山の頂上に暖かな日が射し、優しい風が、授恵者たちの間を吹き抜けていく――。
●会いたかった人
皆が願いを叶えている場へ、アルフレッドやコハクもたどりついた。
そして、わずかな時間の後で、2人は会いたかった人たちと出会っていた。
アルフレッドの前にいるのは先ほど対決した『彼女』だ。
「突然死んでしまった君に、謝りたかった。何故置いていったと、憤りたかった」
「うん……」
「夢であっても、本当の君ではないとしても。また逢いたかった」
「……うん」
彼女がうつむく。語るべき言葉を見つけられないのかもしれない。
「そして、さようならを告げたかった」
別れを告げても、区切りはつけられないだろうが――。
「私は生きるよ、君をずっと忘れずに」
泣きながら微笑む彼女を、アルフレッドは見つめる。その姿を目に焼き付けるために――。
コハクの前にいたのは、コハクと同じ顔をした少女だ。
「やっと会えたね」
「バカを言え、これは現実じゃねーよ」
勝気な口調で、コハクとは違う赤い瞳で彼女は見つめてくる。
「わかってる。……それでも私は嬉しい」
「……チッ、甘ちゃんが」
白い髪を揺らして近づいてくる彼女へと、コハクは片手を掲げる。
「待っててね私(姉さん)すぐに迎えに行くから」
「待ってるよ私(妹)無茶して死ぬなよ?」
音高く手を打ち合わす。勝気な笑みと、静かな笑みが交わった。
――陽光が差し込む頂に、少女は立っていた。
タナトスから逃れるために必要だったものは生きる意志。
後悔と自責の念、罪悪感から逃れてアウレーリアは神殿の前に立っていた。
眩いほどの朝日と、この高山でもかすかに聞こえる生のざわめき。
(あぁ、ただそれだけが私の願いなのです)
暖かな風が吹き抜ける中で、アウレーリアは春の柔らかな陽光を見つめていた。
●目覚めの時
テテリカのもふもふ生活は夜まで続いていた。
カピバラや猿と共に、適温の湯につかっている。
「ふー、暖かいなあ。ブチハイエナも、いい食べっぷりじゃないか」
自分に似たお気に入りの動物が、野性的に骨付き肉にかぶりつく様を楽しくながめる。同じものをさっき自分でも食べたが、非常に美味だった。
ハムスターたちに毛づくろいされて、ヒヨコと共にニワトリに温められながら眠る、至福の時――。
そして授恵者たちは目覚めた。
「夢……ですか、新年早々こんな夢を見るとは私もどこか焦りがあったのでしょうか。今年も一層気を引き締めませんと」
寝床の中でヴィルヘルミナが呟く。
自らを戒める者、幸せな夢に頬を緩める者、反応は様々だ。
ただ、きっと誰もが、今年もよい年になることを願っていた……。
消えることがない高山の雪に、足跡が刻まれている。
雪山へと真っ先に足を踏み入れたのはアルマン・アルスターだった。
「それにしても……雪山ってキツい! 思ってた以上に、雪山ってキツい!!!」
自分に雪山なんて登れるはずがない。
だから、彼は誰よりも早く……普通の人(女性)の3倍かかることを見越して登りはじめたのだ。
「このヘロヘロしたままの俺が、神の従者の隙をついてこの場を突破する……なんてことができるだろうか、いやできない」
アルマンはまた自信満々に自信のなさを吐露する。
「やっぱり戦わないといけないと思う。勝てる気もしないけども!?」
覚悟を決めて戦おうと――そう、決意したとき、『神の従者』が現れた。
「あっ、そうくる? そう来るうううう!?」
子供のころから苦手だった姉の姿を目にして、アルマンは情けない声を上げていた。
虐められて泣かされた記憶は数知れず。口で勝てる気だってもちろんしない。
「アルマン! さっさとパン買ってきなさいよ!」
無視して進む彼に姉が様々な――ネガティブな言葉を浴びせてくる。
「何か言われても、あー聞こえない聞こえない!!」
削られ続ける精神力を必死で呼び起こしながらアルマンは進んでいった。
他の授恵者たちも厳しい雪嶺へと挑んでいる。
「さ、寒いよー。なんとか我慢できそうな程度ではあるけど……。この夢、叶える為、叶えて貰う為、頑張るのよアステルっ!!」
アステルは、寒波を身に浴びて震えながら歩いていく。
「やはり雪山は甘い場所ではありませんね。以前別の依頼で北の難所に行った時もずいぶん大変でしたし……」
後ろから近付いてきたのはヴィルヘルミナ。
しっかりと備えをしている彼女も、ずいぶん寒そうだ。
獣道すら見えない雪山を、進んでいく。
「殺気……っ!?」
先に、近づく存在に気づいたのはアステルだ。
振り向いた彼女が身を震わせる。
「お、お兄ちゃん……?」
年の離れた兄はアステルにとって唯一の肉親で、大好きな人。
さらに、ヴィルヘルミナが振り向いたとき、もう1人の人物が増えていた。
「長老様がどうしてここに……と、考えても解決はしないのでしょうね」
故郷の部族の長老がたたずんでいる。
散々しごかれた記憶がよみがえる。枯れ木のような体なのに、誰よりも強かった。
「無理! お兄ちゃんと戦うなんてできないよ! 逃げるが勝ちっー!!!!」
駆けだしたアステルを、兄が追っていく。
ヴィルヘルミナは追うわけにはいかない……長老から目が離せない。
「今なら勝てるのでしょうか。手を抜いてどうにかなる訳でもありませんし。全力を振り絞り無心の果てならもしくは……?」
口の中で呟きながら、ヴィルヘルミナは意識を集中して武器を構える。
「きゃあー!!!! ぞ、ゾンビ! ゾンビだ!! こっち来ないでっーー!!」
アステルが逃げていった方向から、悲鳴が聞こえていた。
●変幻自在の『神の従者』
授恵者たちはそれぞれ雪山を登っていく。どこかで必ず神の従者が姿を現す。
従者は不定形。人の姿を取るだけとは限らない。
テテリカと対峙した敵は魔獣の姿をしていた。
「俺がもっとも恐れていて――ある意味、慣れ親しんでいる相手でもあるな」
つがえた矢を敵に向け、テテリカは静かに呟いた。
サウゼル大樹海に生きる野生の魔獣。
雪の大地へどっしりと構えた四足は、いつでも地を蹴って彼に飛びかかることができる。
弓で牽制しているから、まだ魔獣は動かない。
エーテル光を矢に集中させ、弦から指を離す。
「追い払えるならいいが……そうでなければ倒すしかないか」
次の矢を取り出しながら呟く。戦いが始まろうとしていた。
人に応じて姿を変える従者――故に、奇妙な姿を取ることもある。
「うっ、うう……ぐふっ!」
のたうち回り、激しくせき込んでいるのはティラミス・ノーレッジ。硬いパンをのどにつまらせて、苦しんでいた。
「貴方、大丈夫? なにがあったの?」
ロゼットに背を叩かれて、ティラミスはのどに詰まっていたものを吐き出した。
「あのパンだ……くそっ、口の中に無理やり飛び込んできてのどに詰まってきやがる。……ん、増えてる?」
指した先にあったのは、パンだけではなかった。
「……そう。現れたのね」
ロゼットが表情をこわばらせる。
「なんて恐ろしい姿……見たことないのに美味しいと一目で分かるわ」
手足が生えた、おそらく食べ物であろう存在が近づいてくる。
『蕎麦』『餅』『伊勢海老』『伊達巻』『栗金団』『焼き芋』に『蜜柑』……。
麦や焼き芋から立ちのぼる湯気が、餅の奇麗な焼き色が、御節料理の鮮やかなコントラストが――ロゼットへと迫ってくる。
硬いパンも再びティラミスへ飛びかかってきた。
「くそっ、こんなもんは、しっかりと噛んで水と一緒に飲み込めばいいんだ!」
彼は水筒を手に身構える。
「こんな誘惑になんて……私は絶対に屈したりはしない!」
シスターも戦鎚を構えて先祖代々伝わる万能言語を食べ物へ叩き込んだ。
雪を踏みしめ、アルフレッド・ラ・ギは空を見上げる。
「私が願っていることは、本当に願っていることだろうか」
それは答えの出ない問い。
幼馴染の彼女がいた日々――自分は悪態をつきながらも従者として彼女に尽くし――彼女は意地の悪い笑みを浮かべてアルフレッドをからかってくる。
二度とは戻らない日々を、本当に願っているのか。
冷たい風が吹き、少し酒を口に含む。
落ち着いたところで、道中出会った少女へ視線を向けた。
「体力は大丈夫か? つらいなら杖を貸そう。いつでも言いたまえ」
「……大丈夫」
琥珀色をした瞳で青年を見上げ、コハクは首を横に振った。
「そうか。無理はしないでくれたまえよ」
補助しながら、アルフレッドは雪の平地を歩いていく。
やがて授恵者たちは彼方に神殿を目にする。
そして、彼らもまた出会った。
「ああ、私にとっての親しい者、恐ろしい者、どちらも君だろうと思っていたよ」
今はいない『彼女』の姿を見て、アルフレッドは言う。
一方で、コハクと対峙しているのは今より少し成長した姿の彼女だ。長い間闘争に明け暮れたであろう姿……。
(あれも、私が望む姿の1つなのだろう。だが……)
絶望をたたえ、幽鬼のようにたたずむ姿は、もっとも恐れる自分の未来。
「お前は此処で私が殺すよ。力に溺れた哀れな【私】を、救済しよう」
滑らかな動きで、少女は自分へと接近する――。
その横でアルフレッドは『彼女』へと語りかける。
「君と私が逢った時、どうなるか、ずっと考えていた。二度と会えない君に逢ってしまうことがずっと恐ろしかった」
杖を握る。
「それは、私が君を過去にしてしまった事を肯定してしまうことだから。君が、私の後悔だと認めてしまうことだから」
祈るように静かに、厳かに。
ほとんど同時、コハクの姿をした敵の首が舞い上がり、落ちてきた雷が『彼女』を焼いた。
――アウレーリア・フォン・ネーベルベルクは、1人雪山を登っていた。
(ああ、ここはどこなのだろう。どうして登っているのだろう)
答えはわからない。けれど登らなければ死んでしまう予感があった。
形の見えないなにかが心へ忍び込んできた気がする。
咳き込む。
空気が薄いからか。考えが頭に浮かんだのは一瞬で、すぐ思考に靄がかかる。頭が痛い。耳も痛い。
(声が聞こえる)
『――お前のせいだ』
『お前のせいで死んだ。父さまも、母さまも、兄さまも。お前を助ける為に、お前を逃がす為に、お前を庇って皆死んだ』
死ななくていいはずの人がたくさん死んだ。アウレーリアのせいで。
『家族を、メイド達を、村人を見捨てて一人で逃げ出した薄情者、卑怯者。皆焼けたぞ。煙に巻かれて、炎に焙られて、恨んで苦しんで黒焦げになったぞ』
『何故生きている、のうのうと恥ずかしげもなく生きている』
気づくと、目の前には断崖があった。
『お前さえいなければ生きられた、お前だけが死んでいれば良かったのに』
声が背を押してくる。
人でも、魔獣でも、食べ物でも……形あるものならば、避けられるし、戦える。だが、心に忍び込んだ姿なき『従者』にはいかにして対抗すればいいのだろう?
「――お前(わたし)は、あの時死ぬべきだったんだ!」
叫んだのは、いったい誰だったのか。
●願いが叶う神殿
「や、やっとたどり着いた……」
アルマンは、息も絶え絶えになりながら神殿にたどり着いた。
供物を捧げる箱の前にどうにか近づく。
「今年こそ! 今年こそ、運命の人との素敵な出会いを……!」
そして、残った力のすべてを振り絞って、彼は願いを叫ぶ。
力尽きたアルマンがゆっくりと倒れこもうとする……。
「危ない!」
――その時、後方から女性の声が聞こえてきた。願いが叶ったためか、単なる偶然かはわからない。
ただ、赤毛の少女の姿は彼の視界に残る。
アステルは力尽きて倒れたアルマンを、神殿の前に寝かせた。
「無茶する人もいるのね。人のことは言えないけど」
ボロボロになったまま、アステルは木造の神殿を見上げる。
供物を捧げ、鈴を鳴らす。
「少しお洒落して、大好きなお兄ちゃんと釣り合う様にして、一緒に歩く!」
それから彼女は小さな声で呟く。
「……でも、居る訳ないけど……お兄ちゃん位素敵な、か、彼氏さんとか欲しい……な……」
その瞬間――アステルの姿が、変化した。薄汚れた姿がお洒落な服装へと変わる。
かたわらには、優しく微笑む1人の男性が彼女に手を差し伸べてくる。
(お兄ちゃん? あれ、違う人?)
わからない。わからないけれど、彼女は差し出された手を握った。
歩き出すと、出店の列がその先に現れる。
「さあ、行こうか」
「うん!」
手を握ると、頬が少し熱くなる。2人はそのままゆっくりと歩いていく。
2人を見送り、次いでヴィルヘルミナが神殿の前に立った。
「伝説と言われる希少な鉱物が欲しいです。こればかりは、冒険者として活動していても手に入るものではありませんから」
鈴を鳴らす。一塊もある、輝く鉱石が彼女の前に現れる。
「おお……素晴らしいですね。これを十全に扱いきれれば私の目標にも大きく近づくのでしょう」
素材が良ければ出来が良くなるというものではないが、ヴィルヘルミナの想像力は広がっていく。
これを使えばどんな品が作れるだろう。
授恵者たちは次々に神殿へとたどり着いて、己が望みを神へと告げる。名も知らぬ神はその願いを次々に叶えていく。
「やっと……たどり、着いたわ……」
満身創痍でたどり着いたロゼットが願うのは、彼女が恐れているものと表裏一体だった。
「最果ての神よ……どうかちょっと不摂生してしまった私をお救いください……。具体的には……」
具体的に減らして欲しい体重を告げる声がずいぶん小さいのは、恥じらいのためだろう。
鈴が鳴り、輝きの中から数字のついた四角い奇妙な道具が現れる。
それが、体の重さを量る秤だと、なぜか理解できた。恐る恐る足を乗せる。
「減ってる……!」
歓喜の表情を浮かべる彼女は、それが異教の神の加護だと信じていた。単に山を登って戦闘をしたせいで減ったのではないかという神の言葉は、届かなかった。
悠々自適のモフモフ生活を堪能しているのはテテリカだ。
ふわふわもこもこの毛皮をまとった巨大な動物たちの体に彼は寝転がっている。
「まさに夢のような状況だな」
表情はあまり変わらないが、しかしテテリカの声を聞けば満足げだとわかるだろう。
オカメインコが木の実のパンと粟入りのサラダを用意してくれる。
愛らしい猫と犬がケンカをしているのは、どちらがテテリカの遊び相手になるかを争っているからだ。
「おいおい、ケガはしないようにしろよ?」
コーヒーに手を伸ばそうとしたテテリカは、運んできたのがジャコウネコだと気づいたのでやめておいた。
授恵者たちが願いを叶える様子を、ティラミスは見ていた。
「やっぱり、平和が一番だな。とはいえ生きてる以上争いは無くならないだろうし、つまらない」
少し考えてから、彼は鈴を鳴らす。
「……少し早い春の陽気でも願うかな」
雪山の頂上に暖かな日が射し、優しい風が、授恵者たちの間を吹き抜けていく――。
●会いたかった人
皆が願いを叶えている場へ、アルフレッドやコハクもたどりついた。
そして、わずかな時間の後で、2人は会いたかった人たちと出会っていた。
アルフレッドの前にいるのは先ほど対決した『彼女』だ。
「突然死んでしまった君に、謝りたかった。何故置いていったと、憤りたかった」
「うん……」
「夢であっても、本当の君ではないとしても。また逢いたかった」
「……うん」
彼女がうつむく。語るべき言葉を見つけられないのかもしれない。
「そして、さようならを告げたかった」
別れを告げても、区切りはつけられないだろうが――。
「私は生きるよ、君をずっと忘れずに」
泣きながら微笑む彼女を、アルフレッドは見つめる。その姿を目に焼き付けるために――。
コハクの前にいたのは、コハクと同じ顔をした少女だ。
「やっと会えたね」
「バカを言え、これは現実じゃねーよ」
勝気な口調で、コハクとは違う赤い瞳で彼女は見つめてくる。
「わかってる。……それでも私は嬉しい」
「……チッ、甘ちゃんが」
白い髪を揺らして近づいてくる彼女へと、コハクは片手を掲げる。
「待っててね私(姉さん)すぐに迎えに行くから」
「待ってるよ私(妹)無茶して死ぬなよ?」
音高く手を打ち合わす。勝気な笑みと、静かな笑みが交わった。
――陽光が差し込む頂に、少女は立っていた。
タナトスから逃れるために必要だったものは生きる意志。
後悔と自責の念、罪悪感から逃れてアウレーリアは神殿の前に立っていた。
眩いほどの朝日と、この高山でもかすかに聞こえる生のざわめき。
(あぁ、ただそれだけが私の願いなのです)
暖かな風が吹き抜ける中で、アウレーリアは春の柔らかな陽光を見つめていた。
●目覚めの時
テテリカのもふもふ生活は夜まで続いていた。
カピバラや猿と共に、適温の湯につかっている。
「ふー、暖かいなあ。ブチハイエナも、いい食べっぷりじゃないか」
自分に似たお気に入りの動物が、野性的に骨付き肉にかぶりつく様を楽しくながめる。同じものをさっき自分でも食べたが、非常に美味だった。
ハムスターたちに毛づくろいされて、ヒヨコと共にニワトリに温められながら眠る、至福の時――。
そして授恵者たちは目覚めた。
「夢……ですか、新年早々こんな夢を見るとは私もどこか焦りがあったのでしょうか。今年も一層気を引き締めませんと」
寝床の中でヴィルヘルミナが呟く。
自らを戒める者、幸せな夢に頬を緩める者、反応は様々だ。
ただ、きっと誰もが、今年もよい年になることを願っていた……。
マスターコメント
ご参加ありがとうございます。
リプレイの内容は、オープニングに書いた通りすべて夢です。
とはいえ、心の中には残っているかもしれません。
楽しい夢を見た方も、悲しい夢を見た方も、この1年がよりよいものとなることを祈っております。
ショートシナリオ普通 報酬:標準9 / 4〜10人
2021年01月18日 14時52分51秒 公開
成功
参加者
相談掲示板
ロゼットよ。新年あけましておめでとう。 皆好きにやるんだろうけど、よろしくね。
アウレーリアよ。 知っている人も初めて会う人も、今年もよろしく。
ヴィルヘルミナです。あけましておめでとうございます。 今年も宜しくお願いします。
テテリカだ。皆よろしく。 晴れやかな一年となると良いな。
良き一年になるよう祈るか。 ティラミスだ、宜しく頼む。
アルフレッドだ、知己の皆には昨年世話になった 本年もよろしく頼む
No.7
アルマン・アルスターだ。 みんなの1年が良い年になるように、俺も祈っておくなー!